説明

エン酸レダクターゼを用いるシンナムアルデヒド誘導体の還元方法

本発明は、特定の有機共溶媒を含む水性反応媒体中で不斉芳香族アルデヒドを製造するための、酵素によって触媒される新規方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の有機共溶媒を含む水性反応媒体中の不斉芳香族アルデヒドの製造のための、酵素によって触媒される新規方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドは、その揮発性および嗅覚的特性のために、香料および香味の用途において重要な活性成分を構成する (a) C. Chapuis, D. Jacoby, Appl. Catal. A: Gen. 2001, 221, 93-117; (b) D. Pybus, C. Sell, The chemistry of fragrances, RSC Paperbacks, Royal Society of Chemistry, Cambridge, 1999)。αおよびβ置換アルデヒドのエナンチオマーは、においがかなり異なることがよくあるので (a) A. Abate, E. Brenna, C. Fuganti, F. G. Gatti, S. Serra, Chem. Biodivers. 2004, 1, 1888-1898; (b) L. Doszczak, P. Kraft, H.-P. Weber, R. Bertermann, A. Triller, H. Hatt, R. Tacke, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 3367-3371; (c) E. Brenna, C. Fuganti, S. Serra, Tetrahedron: Asymmetry 2003, 14, 1-42)、その非ラセミ体の利用がしばしば必要とされる。β置換アルデヒドはキラル安定性があるが、α置換アナログはラセミ化する傾向があり、その製造には、洗練された方法を必要とする。とりわけ、不斉水素化による共役エナールの非対称化は一般に選択される方法である(L. A. Saudan, Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1309-1319)。不斉修飾均一系(遷移金属)含有触媒を使用する多数のプロトコールが報告されているが(例えば(a) S. Akutagawa, Appl. Catal. A: Gen. 1995, 128, 171-207; (b) S. Bovo, A. Scrivanti, M. Bertoldini, V. Beghetto, O. Matteoli, Synthesis 2008, 2547-2550; (c) W. S. Knowles, R. Noyori, Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1238-1239; (d) A. J. Minnaard, B. L. Feringa, L. Lefort, J. G. de Vries, Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1267-1277を参照のこと)、ニコチンアミド模倣物(「ハンチエステル」)を水素化物供給源として消費するエナールの還元のための金属非依存性有機触媒がつい最近開発された (a) J. W. Yang, M. T. H. Fonseca, N. Vignola, B. List, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 108-110; (b) H. Adolfsson, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 3340-3342; (c) S. G. Ouellet, A. M. Walji, D. W. C. MacMillan, Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1327-1339; (d) K. Akagawa, H. Akabane, S. Sakamoto, K. Kudo, Tetrahedron: Asymmetry 2009, 20, 461-466)。今日まで、キラル表面修飾不均一系触媒は競合しない (a) D. J. Watson, R. J. B. R. J. Jesudason, S. K. Beaumont, G. Kyriakou, J. W. Burton, R. M. Lambert, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14584-14589; (b) A. Tungler, E. Sipos, V. Hada, Curr. Org. Chem. 2006, 10, 1569-1583)。多様な化学触媒法の代替法として、種々のタイプの酸化還元酵素を使用することによる生体還元が構想されている(S. Serra, C. Fuganti, E. Brenna, Trends Biotechnol. 2005, 23, 193-198)。冗長なタンパク質精製および外部補助因子再利用を回避するために、微生物全細胞−最も有名なパン酵母−をエナールの還元に用いた。競合エン-およびカルボニル-レダクターゼの存在のせいで、エナールの化学および立体選択的生体還元は不可能であった。望ましくないカルボニル還元が常に所望のC=C結合還元を封じ込め、その結果、対応するアリルおよび/または飽和アルコールの形成による基質および生成物の枯渇が生じたためである (a) M. Majeric, A. Avdagic, Z. Hamersak, V. Sunjic, Biotechnol. Lett. 1995, 17, 1189-1194; (b) C. Fuganti, S. Serra, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 2000, 3758-3764; (c) P. D'Arrigo, C. Fuganti, G. Pedrocchi-Fantoni, S. Servi, Tetrahedron 1998, 54, 15017-15026; (d) G. Fronza, C. Fuganti, P. Grasselli, L. Majori, G. Pedrocchi-Fantoni, F. Spreafico, J. Org. Chem. 1982, 47, 3289-3296; (e) G. Fronza, C. Fuganti, M. Pinciroli, S. Serra, Tetrahedron: Asymmetry 2004, 15, 3073-3077; (f) V. Sunjic, M. Majeric, Z. Hamersak, Croat. Chem. Acta 1996, 69, 643-660)。
【0003】
旧黄色酵素ファミリー由来の酸素安定エンレダクターゼが十分な量で利用可能になったのはごく最近になってからであった。それは、C=O部分に影響しないままでのエノンおよびエナールの活性化C=C結合の化学および立体選択的生体還元を可能にした(レビューとして: (a) R. Stuermer, B. Hauer, M. Hall, K. Faber, Curr. Opin. Chem. Biol. 2007, 11, 203-213; (b) S. K. Padhi, D. J. Bougioukou, J. D. Stewart, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 3271-3280; (c) J. F. Chaparro-Riggers, T. A. Rogers, E. Vazquez-Figueroa, K. M. Polizzi, A. S. Bommarius, Adv. Synth. Catal. 2007, 349, 1521-1531; (d) M. Kataoka, A. Kotaka, R. Thiwthong, M. Wada, S. Nakamori, S. Shimizu, J. Biotechnol. 2004, 114, 1-9を参照のこと。α-メチルシンナムアルデヒドの立体選択的生体還元に関して: A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29を参照のこと)。本発明者らの最近の結果 (a) M. Hall, C. Stueckler, W. Kroutil, P. Macheroux, K. Faber, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 3934-3937; (b) M. Hall, C. Stueckler, H. Ehammer, E. Pointner, G. Oberdorfer, K. Gruber, B. Hauer, R. Stuermer, W. Kroutil, P. Macheroux, K. Faber, Adv. Synth. Catal. 2008, 350, 411-418; (c) M. Hall, C. Stueckler, B. Hauer, R. Stuermer
, T. Friedrich, M. Breuer, W. Kroutil, K. Faber, Eur. J. Org. Chem. 2008, 1511-1516)に促され、本発明者らは、香料用途で使用される非ラセミα-メチルジヒドロシンナムアルデヒド誘導体の製造のための、前記酵素の適用を研究した(α-メチルシンナムアルデヒドの立体選択的生体還元に関して: A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29を参照のこと)。
【0004】
α-置換芳香族アルデヒドの鏡像異性体の製造についての、改良された酵素的方法が依然として必要である。
【発明の概要】
【0005】
驚くべきことに、この問題は、特許請求の範囲で規定される、酵素的に触媒される方法を提供することによって解決された。
【0006】
特に、非ラセミアリール置換アルデヒド、例えば香料(Lilial(商標), Helional(商標))のにおい成分(olfactory principles)として用いられるα-メチルジヒドロシンナムアルデヒド誘導体を、本発明に基づいて、種々のクローニングおよび過剰発現エンレダクターゼを使用して、対応する前駆体(すなわちシンナムアルデヒド前駆体)の酵素的還元によって得た。YqjMおよびアイソザイムOPR1を使用して(R)-エナンチオマーを得たが(e.e.max 53%)、OPR3、NCRおよびOYE 1-3では共溶媒のt-ブチルメチルエーテルの存在下の最適反応条件下で97% e.e.までの(S)-アルデヒドが得られた。NCRおよびOYE1-3を使用するα-メチルシンナムアルデヒドの還元の立体化学的結果[(R)として以前に報告されている]は、明らかに、(S)であると訂正された。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】OYE3を使用する1aの還元での有機共溶媒(t-BuOMe, v:v)の割合に対する反応率および立体選択性の依存を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1. 特定の実施形態
本発明は、特に、以下の実施形態に関する。
【0009】
1. 第1の実施形態では、本発明は、一般式I:
【化1】

【0010】
[式中、
R1およびR2は、互いに独立して、直鎖または分岐の、場合により置換されているアルキル、例えばC1-C8もしくはC1-C6アルキル; アルケニル、例えばC2-C8もしくはC2-C6アルケニル; アルキニル(alkinyl)、例えばC2-C8もしくはC2-C6アルキニル; アルコキシ、例えばC1-C8もしくはC1-C6アルコキシ; アルケニルオキシ、例えばC2-C8もしくはC2-C6アルケニルオキシ; -H、-OH、-SH、-ハロゲン、例えばF、ClもしくはBr; -NH2、または-NO2を表し;
特に、Hまたは直鎖もしくは分岐アルキル、例えばC1-C6もしくはC1-C4アルキル; アルケニル、例えばC2-C6アルケニル; アルキニル、例えばC2-C6アルキニル; アルコキシ、例えばC1-C6もしくはC1-C4アルコキシ; アルケニルオキシ、例えばC2-C6アルケニルオキシ; または、さらに具体的に、Hまたは分岐C3-C6アルキルまたはC3-C6アルケニルを表し;
あるいはR1およびR2は一緒になって式-O-R4-O-の基を表し、式中、R4は、場合により置換されているアルキレン(alkylen)、例えばC1-C4アルキレンまたはアルケニレン(alkenylen)、例えばC2-C6またはC3-C6アルケニレンを表し;そして
R3は、H、アルキル、例えばC1-C6アルキル; またはアルコキシ、例えばC1-C6アルコキシ、特にC1-C4アルキルを表し;
ここに、該化合物は、第2位に不斉炭素原子を含む場合、(R)または(S)立体配置である。]
のアルデヒド化合物の製造、特に不斉合成のための、生体触媒的、特に酵素的触媒方法であって、以下のステップ:
(a) (特にE立体配置の)式II:
【化2】

【0011】
[式中、R1、R2およびR3は上で規定される通りである。]
の化合物を、
式III:
R5-O-R6 (III)
[式中、R5およびR6は互いに独立して直鎖または分岐アルキル基を表す。]
の少なくとも1種のエーテル化合物を共溶媒として含み;
かつ、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元または水素化可能な、該還元ステップを触媒する少なくとも1種のレダクターゼおよび該レダクターゼの少なくとも1種の補助因子(還元等価体(reduction equivalent))をさらに含む水性反応媒体中で(分子酸素の存在または不存在下、すなわち好気的または嫌気的に)酵素によって還元するステップ;
および
(b) 実質的に純粋な立体異性体の形態で、または立体異性体の混合物として、式Iの化合物を場合により単離するステップ
を含む方法を提供する。
【0012】
2. 共溶媒が、R5およびR6が異なり、特に異なるC1-C8アルキル基である式IVの非対称エーテル化合物から選択される、実施形態1の方法。
【0013】
3. 共溶媒が、残基R5およびR6の一方または双方が分岐アルキル基、特に分岐C3-C8アルキル(すなわち、少なくとも1 (例えば1または2)個の第二級または第三級炭素原子を含む)基である式IVの非対称エーテル化合物から選択される、実施形態2の方法。
【0014】
4. 共溶媒が、t-ブチルアルキルエーテル、特にt-ブチルC1-C4アルキルエーテル、例えばt-ブチルメチルエーテルである、実施形態3の方法。
【0015】
5. 共溶媒が、反応媒体中に0.1〜80、例えば1〜50、5〜40または10〜30体積%の割合で存在する、先行する実施形態の1つの方法。
【0016】
6. レダクターゼが以下からなる群から選択される、先行する実施形態の1つの方法:
(a) 配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、OYE1;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、OYE2;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、OYE3;
(d) 配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、OPR1;
(e) 配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号5と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、OPR3;
(f) 配列番号7のアミノ酸配列、または配列番号7と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、NCR; または
(g) 配列番号6のアミノ酸配列、または配列番号6と少なくとも50%同一の配列、例えば少なくとも60、70、80、85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を含み、かつ意図される酵素活性(または機能)を依然として保持し、すなわちレダクターゼとして適用でき、特に式IIの化合物をC2/C3位で還元、すなわち水素化(し、かつ場合により式Iの化合物をC2/C3位で酸化、すなわち脱水素化することも)可能なレダクターゼとして適用できる、YqjM。
【0017】
該各酵素はエノラートレダクターゼのクラスに属する(EC 1.3.1.X)。
【0018】
特に前記酵素は以下の起源の酵素である:
OPR1: ソラヌム・リコペルシコン(Solanum lycopersicon)
OPR3: ソラヌム・リコペルシコン
YqjM: バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)NamA
OYE1: サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)
OYE2およびOYE3: サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
NCR: ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)。
【0019】
7. 還元等価体または補助因子であるNADHまたはNADPHの存在下で反応(またはNAD+もしくはNADP+の存在下での対応する逆反応)を実施する、先行する実施形態の1つの方法。
【0020】
8. 還元反応を補助因子再利用反応、特に酵素的補助因子再利用反応と共役させる、先行する実施形態の1つの方法。
【0021】
9. 酸化された補助因子NAD+を、グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.47)によって触媒されるグルコースの酸化と共役させて、グルコノラクトンを形成させ、かつNADHを再生することによって再利用する、実施形態8の方法。
【0022】
10. 関係する酵素が反応媒体中に溶解、分散または固定された形態で存在する、先行する実施形態の1つの方法。
【0023】
11. 反応媒体を6.5〜8.5、例えば7.0〜8.0の範囲のpHに緩衝化する、先行する実施形態の1つの方法。
【0024】
12. 反応温度が5〜60℃、10〜50℃、または特に20〜40℃の範囲である、先行する実施形態の1つの方法。
【0025】
本発明はまた、実施形態1〜12で規定される変換の対応する逆反応、すなわち式Iの化合物から式IIの化合物への、生体触媒的酸化(脱水素化)を包含する。
【0026】
2. 具体的な用語の説明
特に指定しない限り、以下の意味を適用するものとする。
【0027】
用語「生体触媒的」または「酵素的触媒」方法とは、本明細書中で規定される酵素の触媒活性の存在下、すなわち単離された純粋な酵素もしくは粗製の酵素またはそのような酵素活性を含むかもしくは発現する微生物全細胞の存在下で実施される任意の方法を表す。
【0028】
用語「立体特異的」とは、いくつかの立体異性体またはエナンチオマーのうちの1つが、少なくとも90%ee、好ましくは少なくとも95%ee、特に少なくとも98%ee、または少なくとも99%eeの高い鏡像体過剰率または純度で酵素によって形成されることを意味する。ee%値は以下の式にしたがって算出される。
【0029】
ee% = [XA-XB]/[XA+XB]*100
[式中、XAおよびXBは、それぞれエナンチオマーAまたはBのモル分率を表す。]
「立体異性体」の例は、E-およびZ-異性体、または特にR-およびS-エナンチオマーである。
【0030】
用語「実質的に純粋な」とは、当業者によって使用される1種以上の純度または均質性の特性によって均質である分子を説明するものとする。
【0031】
「実質的に純粋な」タンパク質または酵素とは、ポリアクリルアミド-ドデシル硫酸ナトリウムゲル電気泳動(SDS-PAGE)後の単一バンドによって立証されるように、所望の精製タンパク質が混入細胞成分を本質的に含まないことを意味する。「実質的に純粋な」酵素またはタンパク質は、以下のパラメータ: 分子量、クロマトグラフィー移動度、アミノ酸組成、アミノ酸配列、ブロックされているかまたはブロックされていないN末端、HPLC溶出プロファイル、生物学的活性、および他のそのようなパラメータなどのパラメータに関して、実験的標準偏差の範囲内の一定でかつ再現性のある特性を示す。例えば、「実質的に純粋な」タンパク質または酵素とは、ポリアクリルアミド-ドデシル硫酸ナトリウムゲル電気泳動(SDS-PAGE)後の単一バンドによって立証されるように、所望の精製タンパク質が混入細胞成分を本質的に含まないことを意味する。しかし、該用語は、該酵素またはタンパク質と他の化合物との人工または合成混合物を除外しないものとする。さらに、該用語は、組み換え宿主から場合により単離されている融合タンパク質を除外しないものとする。
【0032】
式I、IIおよびIIIの化学物質内では、以下の意味を適用するものとする。
【0033】
アルキルならびにそれから派生する残基、例えばアルコキシのアルキルフラグメントは、1〜4、1〜6、1〜8、または1〜10個の炭素原子を有する飽和の、直鎖または分岐炭化水素鎖を表し、例えば
C1-C6-アルキルは、例えばメチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチル-プロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、ヘキシル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチル-1-メチルプロピルおよび1-エチル-2-メチルプロピルを表す。
【0034】
C1-C6-アルコキシは、例えばC1-C4-アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、1-メチルエトキシ、ブトキシ、1-メチルプロポキシ、2-メチルプロポキシまたは1,1-ジメチルエトキシ;ならびに例えばペントキシ、1-メチルブトキシ、2-メチルブトキシ、3-メチルブトキシ、1,1-ジメチルプロポキシ、1,2-ジメチルプロポキシ、2,2-ジメチルプロポキシ、1-エチルプロポキシ、ヘキソキシ、1-メチルペントキシ、2-メチルペントキシ、3-メチルペントキシ、4-メチルペントキシ、1,1-ジメチルブトキシ、1,2-ジメチルブトキシ、1,3-ジメチルブトキシ、2,2-ジメチルブトキシ、2,3-ジメチルブトキシ、3,3-ジメチルブトキシ、1-エチルブトキシ、2-エチルブトキシ、1,1,2-トリメチルプロポキシ、1,2,2-トリメチルプロポキシ、1-エチル-1-メチルプロポキシまたは1-エチル-2-メチルプロポキシを表す。
【0035】
アルケニル:2〜4、2〜6、2〜8、または2〜10個の炭素原子および任意の位置の二重結合を有する、単一(one-fold)または複数(multipe)の、特に単一の不飽和、直鎖または分岐炭化水素基、例えばC2-C6-アルケニル、例えばエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-メチルエテニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-メチル-1-ブテニル、2-メチル-1-ブテニル、3-メチル-1-ブテニル、1-メチル-2-ブテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-メチル-3-ブテニル、2-メチル-3-ブテニル、3-メチル-3-ブテニル、1,1-ジメチル-2-プロペニル、1,2-ジメチル-1-プロペニル、1,2-ジメチル-2-プロペニル、1-エチル-1プロペニル、1-エチル-2-プロペニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-メチル-1-ペンテニル、2-メチル-1-ペンテニル、3-メチル-1-ペンテニル、4-メチル-1-ペンテニル、1-メチル-2-ペンテニル、2-メチル-2-ペンテニル、3-メチル-2-ペンテニル、4-メチル-2-ペンテニル、1-メチル-3-ペンテニル、2-メチル-3-ペンテニル、3-メチル-3-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-メチル-4-ペンテニル、2-メチル-4-ペンテニル、3-メチル-4-ペンテニル、4-メチル-4-ペンテニル、1,1-ジメチル-2-ブテニル、1,1-ジメチル-3-ブテニル、1,2-ジメチル-1-ブテニル、1,2-ジメチル-2-ブテニル、1,2-ジメチル-3-ブテニル、1,3-ジメチル-1-ブテニル、1,3-ジメチル-2-ブテニル、1,3-ジメチル-3-ブテニル、2,2-ジメチル-3-ブテニル、2,3-ジメチル-1-ブテニル、2,3-ジメチル-2-ブテニル、2,3-ジメチル-3-ブテニル、3,3-ジメチル-1-ブテニル、3,3-ジメチル-2-ブテニル、1-エチル-1-ブテニル、1-エチル-2-ブテニル、1-エチル-3-ブテニル、2-エチル-1-ブテニル、2-エチル-2-ブテニル、2-エチル-3-ブテニル、1,1,2-トリメチル-2-プロペニル、1-エチル-1-メチル-2-プロペニル、1-エチル-2-メチル-1-プロペニルおよび1-エチル-2-メチル-2-プロペニルである。
【0036】
アルケニルオキシ:上記アルケニル基の酸素結合アナログ、例えば対応するC2-C6-アルケニルオキシ基である。
【0037】
アルキニル:炭素-炭素二重結合が三重結合に置き換えられている上記アルケニル基のアナログである。
【0038】
アルキレン:7個までの炭素原子を有する直鎖または分岐炭化水素架橋、例えばC1-C7-アルキレン基、例えば-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-CH2-CH(CH3)-CH2-、(CH2)4-、-(CH2)5-、-(CH2)6、-(CH2)7-、-CH(CH3)-CH2-CH2-CH(CH3)-または-CH(CH3)-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-または、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-CH2-CH(CH3)-CH2から選択されるC1-C4-アルキレン基である。
【0039】
アルケニレン:2〜8個の炭素原子を有する上記アルキレン基の単一または複数(multiply)の、特に単一の不飽和アナログ、特にC2-C7-アルケニレンまたはC2-C4-アルケニレン、例えば-CH=CH-、-CH=CH-CH2-、- CH2-CH=CH-、-CH=CH-CH2-CH2-、-CH2-CH=CH-CH2-、-CH2-CH2-CH=CH-、-CH(CH3)-CH=CH-、-CH2-C(CH3)=CH-を表す。
【0040】
オプションの置換基は、-COOH、-COO-アルキル、-OH、-SH、-CN、アミノ、-NO2、アルキル、またはアルケニルから選択され、アルキルまたはアルケニルは上で規定される通りである。
【0041】
3. 本発明のさらなる実施形態
3.1 本発明のタンパク質
本発明は、具体的に記載される酵素/タンパク質に限定されず、その機能的等価物にもおよぶ。
【0042】
具体的に開示される酵素の「機能的等価物」または「アナログ」または「機能的突然変異」は、本発明の範囲内で、その種々のポリペプチドであり、それは所望の生物学的機能または活性、例えば酵素活性をさらに有する。
【0043】
例えば、「機能的等価物」は、酵素活性に関して使用される試験において、少なくとも1〜10%、または少なくとも20%、または少なくとも50%、または少なくとも75%、または少なくとも90%より高いか、またはより低い、本明細書中で規定される酵素活性を示す酵素を意味する。
【0044】
本発明の「機能的等価物」はまた、特に、上記アミノ酸配列の少なくとも1個の配列位置で、具体的に記載されたアミノ酸と異なるアミノ酸を有するが、それにもかかわらず上記生物学的活性の1つを有する突然変異体を意味する。ゆえに「機能的等価物」は、1以上の、例えば1〜20、1〜15、1〜10または1〜5のアミノ酸の付加、置換、欠失および/または逆位(inversions)によって得られる突然変異体を含み、ここに、上記変化は、本発明に記載の特性のプロファイルを有する突然変異体を生じさせる限り、任意の配列位置に存在してよい。また、特に、突然変異体と不変ポリペプチドとの間で反応性パターンが質的に一致する場合、すなわち例えば同一基質が異なる率で変換される場合に、機能的等価性が提供される。好適なアミノ酸置換の例を以下の表に示す。
【表1】

【0045】
上記意味での「機能的等価物」はまた、上記ポリペプチドの「前駆体」であり、ならびに該ポリペプチドの「機能的誘導体」および「塩」である。
【0046】
その場合、「前駆体」は、所望の生物学的活性を伴うかまたは伴わない、ポリペプチドの天然または合成前駆体である。
【0047】
表現「塩」とは、本発明のタンパク質分子のカルボキシル基の塩ならびにアミノ基の酸付加塩を意味する。カルボキシル基の塩は公知の方法で製造することができ、無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄および亜鉛塩、および有機塩基、例えばアミン、例えばトリエタノールアミン、アルギニン、リシン、ピペリジンなどとの塩を含む。酸付加塩、例えば無機酸、例えば塩酸または硫酸との塩、および有機酸、例えば酢酸およびシュウ酸との塩もまた、本発明に包含される。
【0048】
本発明のポリペプチドの「機能的誘導体」は、公知技術を使用して機能的アミノ酸側基上でまたはそのN末端もしくはC末端で製造することもできる。そのような誘導体は、例えば、カルボン酸基の脂肪族エステル、アンモニアまたは一級もしくは二級アミンとの反応によって得られるカルボン酸基のアミド; アシル基との反応によって得られる遊離アミノ基のN-アシル誘導体; またはアシル基との反応によって得られる遊離ヒドロキシ基のO-アシル誘導体を含む。
【0049】
「機能的等価物」はまた、当然、他の生物から得られるポリペプチド、ならびに天然に存在する変異体を含む。例えば、相同配列領域を配列比較によって確立することができ、本発明の具体的パラメータに基づいて等価な酵素を決定することができる。
【0050】
「機能的等価物」はまた、例えば所望の生物学的機能を示す、本発明のポリペプチドのフラグメント、好ましくは個別のドメインまたは配列モチーフを含む。
【0051】
「機能的等価物」はさらに、上記ポリペプチド配列の1つまたはそれから派生する機能的等価物、および機能的N末端またはC末端結合した(すなわち融合タンパク質部分の実質的な相互の機能的障害を伴わない)少なくとも1つの追加の、機能上異なる異種配列を有する融合タンパク質である。前記異種配列の非限定的な例は、例えば、シグナルペプチド、ヒスチジンアンカーまたは酵素である。
【0052】
本発明にしたがってやはり包含される「機能的等価物」は、具体的に開示されるタンパク質のホモログである。これらは上記の同一性パーセント値を有する。該値は、具体的に開示されるアミノ酸配列との同一性を表し、PearsonおよびLipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムにしたがって算出することができる。
【0053】
同一性パーセント値は、BLASTアライメント、アルゴリズムblastp (タンパク質-タンパク質BLAST)から算出するか、または下記のClustal設定を適用することによって算出してもよい。典型的な同一性パーセント値は、例えば、50%以上の範囲であり、例えば少なくとも60、70、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%である。
【0054】
本発明の相同ポリペプチドの同一性パーセンテージは、特に本明細書中に具体的に記載されるアミノ酸配列の1つの全長と比較したアミノ酸残基の同一性パーセンテージを意味する。
【0055】
タンパク質グリコシル化が可能である場合、本発明の「機能的等価物」は、脱グリコシルまたはグリコシル化型ならびに、グリコシル化パターンを変化させることによって得られる改変型の、上で指定されるタイプのタンパク質を含む。
【0056】
本発明のタンパク質またはポリペプチドのそのような機能的等価物またはホモログは、突然変異誘発、例えば点突然変異、タンパク質の延長または短縮によって製造することができる。
【0057】
本発明のタンパク質のそのような機能的等価物またはホモログは、突然変異体、例えば短縮突然変異体のコンビナトリアルデータベースをスクリーニングすることによって特定することができる。例えば、核酸レベルでのコンビナトリアル突然変異誘発によって、例えば合成オリゴヌクレオチド混合物の酵素的ライゲーションによって、タンパク質変異体の変化に富むデータベース(variegated database)を作製することができる。変性(degenerated)オリゴヌクレオチド配列からのホモログ候補のデータベースの作製に使用できる非常に多数の方法が存在する。変性遺伝子配列の化学合成は自動DNAシンセサイゼーで行うことができ、次いで合成遺伝子を好適な発現ベクター中でライゲートすることができる。変性ゲノムの使用は、所望のタンパク質配列候補セットをコードするすべての配列を混合物で供給することを可能にする。変性オリゴヌクレオチドの合成方法は当業者に公知である(例えば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura等、(1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakura等、(1984) Science 198:1056; Ike等、(1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0058】
先行技術では、点突然変異または短縮によって作製されたコンビナトリアルデータベースの遺伝子産物のスクリーニングのため、および選択された特性を有する遺伝子産物についてのcDNAライブラリーのスクリーニングのためのいくつかの技術が公知である。前記技術は、本発明のホモログのコンビナトリアル突然変異誘発によって作製された遺伝子バンクの迅速スクリーニングに適合させることができる。ハイスループット分析に基づく、大きい遺伝子バンクのスクリーニングに最も頻繁に使用される技術は、複製可能な発現ベクターでの遺伝子バンクのクローニング、得られたベクターデータベースでの好適な細胞の形質転換、および、所望の活性の検出が、産物が検出された対象遺伝子をコードするベクターの単離を容易にする条件でのコンビナトリアル遺伝子の発現を含む。ホモログを特定するために、データベース中の機能的突然変異体の頻度を増加させる技術である再帰的アンサンブル突然変異誘発(Recursive Ensemble Mutagenesis)(REM)をスクリーニング試験と組み合わせて使用することができる(ArkinおよびYourvan (1992) PNAS 89:7811-7815; Delgrave等、(1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0059】
3.2 コード核酸配列
本発明はまた、本明細書中で規定される酵素/タンパク質をコードする核酸配列に関する。
【0060】
本発明はまた、本明細書中で具体的に開示される配列に対して一定程度の「同一性」を有する核酸に関する。2つの核酸間の「同一性」とは、各事例での核酸の全長にわたるヌクレオチドの同一性を意味する。
【0061】
例えば、Clustal法(Higgins DG, Sharp PM. Fast and sensitive multiple sequence alignments on a microcomputer. Comput Appl. Biosci. 1989 Apr; 5(2):151-1)を以下の設定で用いるInformax社(USA)のVector NTI Suite 7.1プログラムを用いて同一性を算出することができる。
【0062】

【0063】
あるいは、Chenna, Ramu, Sugawara, Hideaki, Koike,Tadashi, Lopez, Rodrigo, Gibson, Toby J, Higgins, Desmond G, Thompson, Julie D. Multiple sequence alignment with the Clustal series of programs. (2003) Nucleic Acids Res 31 (13):3497-500, ウェブページ: http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/index.html#および以下の設定にしたがって同一性を決定することができる。
【0064】

【0065】
本明細書中に記載のすべての核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)は、ヌクレオチドビルディングブロックからの化学合成によって、例えば二重らせんの個別のオーバーラップする相補的核酸ビルディングブロックのフラグメント縮合によって公知の方法で製造することができる。オリゴヌクレオチドの化学合成は、例えば、ホスホアミダイト法(Voet, Voet, 第2版, Wiley Press, New York, 第896-897頁)によって公知の方法で実施することができる。DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントおよびライゲーション反応ならびに一般的クローニング技術を用いる合成オリゴヌクレオチドの蓄積およびギャップの穴埋め(filling)は、Sambrook等、(1989)(下記参照)に記載されている。
【0066】
本発明はまた、例えば人工ヌクレオチドアナログを使用して得られる、上記ポリペプチドおよびその機能的等価物の1つをコードする核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)に関する。
【0067】
本発明は、本発明のポリペプチドもしくはタンパク質またはその生物活性セグメントをコードする単離された核酸分子、および例えばハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして本発明のコード核酸の同定または増幅に使用できる核酸フラグメントの双方に関する。
【0068】
本発明の核酸分子は、さらに、コード遺伝子領域の3'および/または5'末端由来の非翻訳配列を含むことができる。
【0069】
本発明はさらに、具体的に記載されているヌクレオチド配列またはそのセグメントに相補的な核酸分子に関する。
【0070】
本発明のヌクレオチド配列は、他の細胞タイプおよび生物中の相同配列の同定および/またはクローニングに使用できるプローブおよびプライマーの製造を可能にする。そのようなプローブまたはプライマーは、一般に、本発明の核酸配列のセンス鎖または対応するアンチセンス鎖の少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、例えば約40、50または75個の連続するヌクレオチドに対して、「ストリンジェントな」条件下(下記参照)でハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0071】
「単離された」核酸分子は、該核酸の天然供給源中に存在する他の核酸分子から分離され、その上、組み換え技術によって製造される場合、他の細胞物質または培養培地を実質的に含ませないか、または化学合成される場合、化学的前駆体または他の化学物質を含ませないことができる。
【0072】
本発明の核酸分子は、分子生物学の標準的技術および本発明によって提供される配列情報を用いて単離することができる。例えば、cDNAは、具体的に開示される完全配列の1つまたはそのセグメントをハイブリダイゼーションプローブとして使用し、かつ(例えばSambrook, J., Fritsch, E.F.およびManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載される)標準的ハイブリダイゼーション技術を使用して、好適なcDNAライブラリーから単離することができる。さらに、開示される配列の1つまたはそのセグメントを含む核酸分子を、この配列に基づいて構築されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができる。この方法で増幅された核酸を好適なベクター中にクローニングすることができ、かつDNA配列決定によって特徴づけることができる。本発明のオリゴヌクレオチドは標準的な合成方法によって、例えば自動DNAシンセサイザーを使用して製造することもできる。
【0073】
本発明の核酸配列またはその誘導体、前記配列のホモログまたは部分は、例えばゲノムまたはcDNAライブラリー経由で他の細菌から通常のハイブリダイゼーション技術またはPCR技術によって単離することができる。これらのDNA配列は本発明の配列と標準条件でハイブリダイズする。
【0074】
「ハイブリダイズ」とは、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドがほぼ相補的な配列に標準条件で結合する能力を意味し、前記条件において非相補的パートナー間の非特異的結合は生じない。これに関して、配列は90〜100%相補的でありうる。互いに特異的に結合できる相補的配列の特性は、例えばノーザンブロッティングもしくはサザンブロッティングにおいて、またはPCRもしくはRT-PCRでのプライマー結合において利用される。
【0075】
保存領域の短いオリゴヌクレオチドはハイブリダイゼーションに好都合に使用される。しかし、本発明の核酸のより長いフラグメントまたは完全配列をハイブリダイゼーションに使用することも可能である。前記標準条件は、使用される核酸(オリゴヌクレオチド、より長いフラグメントまたは完全配列)に応じて、またはハイブリダイゼーションに使用される核酸のタイプ- DNAまたはRNA -に応じて変わる。例えば、DNA:DNAハイブリッドの融解温度は同じ長さのDNA:RNAハイブリッドの融解温度より約10℃低い。
【0076】
例えば、具体的な核酸に応じて、標準条件とは、0.1〜5 x SSC (1 X SSC = 0.15 M NaCl, 15 mMクエン酸ナトリウム, pH 7.2)の範囲の濃度を有する水性緩衝液中で、またはさらに50%ホルムアミドの存在下での、42〜58℃の範囲の温度を意味し、例えば5 x SSC中42℃、50%ホルムアミドである。好都合には、DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は0.1 x SSCおよび約20℃〜45℃の範囲、好ましくは約30℃〜45℃の範囲の温度である。DNA:RNAハイブリッドでは、ハイブリダイゼーション条件は、好都合には、0.1 x SSCおよび約30℃〜55℃の範囲、好ましくは約45℃〜55℃の範囲の温度である。前記ハイブリダイゼーション温度は、ホルムアミドの不存在下で長さが約100ヌクレオチドでかつG + C含量が50%である核酸の算出融解温度値の例である。DNAハイブリダイゼーションの実験条件は、関連する遺伝学の教科書、例えばSambrook等, 1989に記載され、例えば核酸の長さ、ハイブリッドのタイプまたはG + C含量に応じて当業者に公知の式を使用して算出することができる。当業者は以下の教科書からハイブリダイゼーションに関するさらなる情報を得ることができる: Ausubel等(編), 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York; HamesおよびHiggins(編), 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press, Oxford University Press, Oxford; Brown(編), 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press, Oxford University Press, Oxford。
【0077】
「ハイブリダイゼーション」は特にストリンジェントな条件下で行うことができる。そのようなハイブリダイゼーション条件は、例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F., Maniatis, T., Molecular Cloning (A Laboratory Manual), 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, 第9.31-9.57頁またはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
【0078】
「ストリンジェントな」ハイブリダイゼーション条件とは、特に: 50%ホルムアミド、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mMクエン酸三ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5xデンハート液、10%硫酸デキストランおよび20 g/ml変性剪断サケ精子DNAからなる溶液中で42℃で一晩のインキュベーションおよびその後の65℃で0.1x SSCでのフィルターの洗浄を意味する。
【0079】
本発明はまた、具体的に開示される核酸配列または誘導可能な核酸配列の誘導体に関する。
【0080】
ゆえに、本発明のさらなる核酸配列は、本明細書中で具体的に開示される配列から誘導することができ、個別または数個のヌクレオチドの付加、置換、挿入または欠失によってそれと異なってよく、かつさらに所望の特性プロファイルを有するポリペプチドをコードする。
【0081】
本発明はまた、特有の元の生物または宿主生物のコドン使用にしたがって、具体的に記載される配列と比較して、いわゆるサイレント突然変異を含むかまたは改変されている核酸配列、ならびにその天然に存在する変異体、例えばスプライシング変異体または対立遺伝子変異体を包含する。
【0082】
本発明はまた、保存的ヌクレオチド置換(すなわち目的のアミノ酸が、同一の電荷、サイズ、極性および/または溶解性のアミノ酸によって置換される)によって得られる配列に関する。
【0083】
本発明はまた、具体的に開示される核酸から配列多型によって得られる分子に関する。前記遺伝子多型は天然変異のために集団内の個体間で存在しうる。前記天然変異は、通常、遺伝子のヌクレオチド配列の1〜5%の分散を生じさせる。
【0084】
本発明の核酸配列の誘導体とは、全配列範囲にわたって、得られるアミノ酸のレベルで少なくとも60%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、特に好ましくは少なくとも90%の相同性を有する、例えば対立遺伝子変異体を意味する(アミノ酸レベルでの相同性に関しては、ポリペプチドに関する上記詳細を参照すべきである)。好都合には、相同性は配列の部分領域でより高くなりうる。
【0085】
さらに、誘導体はまた、本発明の核酸配列のホモログであると理解することができ、例えば動物、植物、真菌または細菌のホモログ、短縮配列、コードおよび非コードDNA配列の一本鎖DNAまたはRNAである。例えば、ホモログはDNAレベルで、本明細書中で具体的に開示される配列中に記載の全DNA領域にわたって、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、かなり特に好ましくは少なくとも80%の相同性を有する。
【0086】
さらに、誘導体は、例えばプロモーターとの融合物であると理解することができる。上記ヌクレオチド配列に付加されるプロモーターは、プロモーターの機能性または効力を損なうことなく、少なくとも1つのヌクレオチド交換、少なくとも1つの挿入、逆位および/または欠失によって改変することができる。さらに、プロモーターの効力は、その配列を改変することによって高めることができるか、または異なる属の生物の、より有効なプロモーターとさえ完全に交換することができる。
【0087】
3.3 機能的突然変異体の製造
当業者はまた、機能的突然変異体の作製方法を承知している。
【0088】
適用される技術に基づいて、当業者は、遺伝子または非コード核酸領域(例えば遺伝子発現の制御に重要であるかもしれない非コード核酸領域)の任意の突然変異または定方向突然変異を生じさせることができ、その後、好適な遺伝子ライブラリーを作製することができる。それに必要とされる分子生物学的方法はすべて、当技術分野で周知であり、例えば、SambrookおよびRussell, Molecular Cloning. 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001に記載されている。
【0089】
遺伝子を改変しかつ結果的にコードされるタンパク質を改変する方法は当業者に周知であり、例えば以下の方法である。
【0090】
- 遺伝子の単一または複数ヌクレオチドを特異的に置換する部位特異的突然変異誘発(Trower MK(編) 1996; In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey),
- 遺伝子の任意の位置で任意のアミノ酸のコドンを交換するかまたは付加することができる飽和突然変異誘発(Kegler-Ebo DM, Docktor CM, DiMaio D (1994) Nucleic Acids Res 22:1593; Barettino D, Feigenbutz M, Valcarel R, Stunnenberg HG (1994) Nucleic Acids Res 22:541; Barik S (1995) Mol Biotechnol 3:1),
- 間違って機能するDNAポリメラーゼの作用によってヌクレオチド配列を突然変異させる変異性ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Eckert KA, Kunkel TA (1990) Nucleic Acids Res 18:3739);
- 好ましい置換がポリメラーゼによって回避されるSeSaM法(配列飽和法(Sequence Saturation Method))(Schenk等, Biospektrum, Vol. 3, 2006, 277-279),
- 例えば欠損DNA修復機構のせいでヌクレオチド配列の突然変異の高い出現を示す突然変異誘発株での遺伝子の通過(Passaging)(Greener A, Callahan M, Jerpseth B (1996) An efficient random mutagenesis technique using an E.coli mutator strain. Trower MK (Hrsg.) In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey), または
- 密接に関連する遺伝子のプールを形成させて消化し、フラグメントをPCR反応の鋳型として使用し、完全長モザイク遺伝子を形成させるDNAシャフリング(Stemmer WPC (1994) Nature 370:389; Stemmer WPC (1994) Proc Natl Acad Sci USA 91:10747)。
【0091】
いわゆる定方向進化技術(例えばReetz MTおよびJaeger K-E (1999), Topics Curr Chem 200:31; Zhao H, Moore JC, Volkov AA, Arnold FH (1999), Methods for optimizing industrial enzymes by directed evolution, Demain AL, Davies JE (Hrsg.) Manual of industrial microbiology and biotechnology. American Society for Microbiologyを参照)を適用することによって、当業者は大量の機能的突然変異体を特異的に製造することができる。第1ステップでは、例えば上記方法のいずれかを適用することによって、特定のタンパク質のライブラリーを作製する。その後、例えば細菌またはファージディスプレイシステムを適用することによって、該ライブラリーを発現させる。
【0092】
所望の特徴プロファイルを示す機能的突然変異体を発現する遺伝子を選択し、さらなる突然変異に付すことができる。突然変異および選択またはスクリーニングのステップを、得られる突然変異体の1つが所望の特徴プロファイルを示すまで、繰り返し行うことができる。
【0093】
反復的アプローチによって、限られた数の突然変異、例えば1〜5個の突然変異を実施することができ、目的の酵素の特徴に対するその影響を評価し、さらに改良された突然変異体を段階的に選択することができる。次いで該選択突然変異体を実質的に同じ方法でさらなる突然変異に付すことができる。この方法で、評価対象の単一突然変異体の数を大きく減らすことができる。
【0094】
本発明の教示内容は、目的の酵素/タンパク質の構造および配列に関する重要な情報を提供し、それに基づいて、所望の改変された特徴プロファイルを有するさらなる酵素/タンパク質を作製することが可能である。特に、酵素/タンパク質の所望の特徴を改変するかまたは生じさせるためのさらなる突然変異に潜在的に適する、いわゆるホットスポット、すなわち配列領域を規定することができる。
【0095】
3.4 本発明にしたがって使用される構築物
本発明はまた、本発明のポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸配列を調節核酸配列の遺伝子コントロール下に含む発現構築物; ならびに該発現構築物の少なくとも1つを含むベクターに関する。
【0096】
本発明の「発現単位」とは、本明細書中で規定されるプロモーターを含み、かつ、発現対象の核酸または遺伝子との機能的な結合後にこの核酸またはこの遺伝子の発現、すなわち転写および翻訳を制御する、発現活性を有する核酸を意味する。したがって、この文脈で、それは「調節核酸配列」とも称される。プロモーターに加えて、他の調節要素、例えばエンハンサーが存在してよい。
【0097】
本発明の「発現カセット」または「発現構築物」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子と機能的に関連(結合)している発現単位を意味する。ゆえに、発現単位とは対照的に、発現カセットは転写および翻訳を制御する核酸配列だけでなく、転写および翻訳の結果、タンパク質として発現される核酸配列も含む。
【0098】
本発明の文脈で用語「発現」または「過剰発現」とは、対応するDNAによってコードされる1種以上の酵素の微生物での生産または細胞内活性の増加を説明する。このために、例えば生物に遺伝子を導入し、既存の遺伝子を別の遺伝子によって置換し、遺伝子または遺伝子群のコピー数を増加させ、強力なプロモーターを使用するかまたは高い活性を有する対応する酵素をコードする遺伝子を使用することが可能であり、場合により前記手段を組み合わせることができる。
【0099】
好ましくは本発明のそのような構築物は、各コード配列の5'上流のプロモーター、および3'下流のターミネーター配列、および場合によりさらなる通常の調節要素を含み、それらはいずれもコード配列と機能的に関連している。
【0100】
本発明の「プロモーター」、「プロモーター活性を有する核酸」または「プロモーター配列」とは、転写対象の核酸と機能的に関連し、この核酸の転写を制御する核酸を意味する。
【0101】
この文脈で「機能的」または「作動可能」な関連(結合)とは、例えば、プロモーター活性を有する核酸の1つおよび転写対象の核酸配列、および場合によりさらなる調節要素、例えば核酸の転写を可能にする核酸配列、および例えばターミネーターの、各調節要素が核酸配列の転写においてその機能を果たすことができるような連続的配置を意味する。これは、化学的意味での直接結合を必ずしも必要としない。遺伝子制御配列、例えばエンハンサー配列は、より遠い位置から、または他のDNA分子からさえも、標的配列に対してその機能を発揮することもできる。転写対象の核酸配列がプロモーター配列の後ろ(すなわち3'末端)に位置し、2つの配列が共有結合によって互いに結合している配置が好ましい。プロモーター配列と遺伝子組み換えによって発現される対象の核酸配列との間の距離は、200 bp (塩基対)未満、または100 bp未満または50 bp未満であってよい。
【0102】
プロモーターおよびターミネーター以外に、挙げることができる他の調節要素の例は、ターゲティング配列、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などである。好適な調節配列は、例えばGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0103】
本発明の核酸構築物は、特に、本明細書中に具体的に記載される配列から選択される配列、またはその誘導体およびホモログ、ならびに本明細書中に具体的に記載されるアミノ酸配列から誘導することができる核酸配列を含み、これらは、好都合には遺伝子発現を調節、例えば増加させる1種以上の調節シグナルと作動可能にまたは機能的に関連している。
【0104】
前記調節配列に加えて、前記配列の天然の調節が実際の構造遺伝子の前に依然として存在してもよく、場合により、天然の調節のスイッチをオフにして該遺伝子の発現が増加するように遺伝子改変しておくことができる。核酸構築物はより単純な設計のものであってもよく、すなわちコード配列の前にいかなる追加の調節シグナルも挿入されず、かつその制御をする天然のプロモーターが除去されていなくてもよい。その代わりに、天然の調節配列をサイレンシングして、調節がもはや生じずに遺伝子発現が増加するようにする。
【0105】
好ましい核酸構築物はまた、好都合には、プロモーターと機能的に結び付いている1種以上の上記エンハンサー配列を含み、それは核酸配列の発現増加を可能にする。追加の有利な配列、例えば他の調節要素またはターミネーターをDNA配列の3'末端に挿入することもできる。1以上のコピーの本発明の核酸を構築物に含ませることができる。構築物は、場合により構築物の選択のための他のマーカー、例えば抗生物質耐性または栄養要求性補完遺伝子を含むこともできる。
【0106】
好適な調節配列の例は、プロモーター、例えばcos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、rhaP (rhaPBAD)SP6-、λ-PR-またはλ-PLプロモーターに含まれ、それはグラム陰性菌において好都合に利用される。他の有益な調節配列は、例えばグラム陽性プロモーターace、amyおよびSPO2、酵母または真菌プロモーターADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADHに含まれる。人工プロモーターを調節のために使用することもできる。
【0107】
発現のために、核酸構築物を、好都合には、宿主での遺伝子の最適な発現を可能にするベクター、例えばプラスミドまたはファージ中で宿主生物に導入する。プラスミドおよびファージに加えて、ベクターは、当業者に公知のすべての他のベクター、例えばウイルス、例えばSV40、CMV、バキュロウイルスおよびアデノウイルス、トランスポゾン、IS要素、ファスミド、コスミド、および線状または環状DNAを意味すると理解すべきである。前記ベクターは宿主生物中で自律的に複製することができるか、または染色体上で複製することができる。これらのベクターは本発明のさらなる実施形態である。
【0108】
好適なプラスミドは、例えばE. coliでは、pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11またはpBdCI; ノカルジフォルム・アクチノマイセテス(nocardioform actinomycetes)では、pJAM2; ストレプトマイセス(Streptomyces)では、pIJ101、pIJ364、pIJ702またはpIJ361; バシラスでは、pUB110、pC194またはpBD214; コリネバクテリウム(Corynebacterium)では、pSA77またはpAJ667; 真菌では、pALS1、pIL2またはpBB116; 酵母では、2αM、pAG-1、YEp6、YEp13またはpEMBLYe23、または植物では、pLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004またはpDH51である。上記プラスミドは可能なプラスミドの一部である。他のプラスミドは当業者に周知であり、例えば書籍Cloning Vectors (Pouwels P.H.等編, Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985, ISBN 0 444 904018)に見出せる。さらなる好適なプラスミドを実験部分でさらに記載する。
【0109】
ベクターのさらなる実施形態では、本発明の核酸構築物または本発明の核酸を含むベクターを、好都合には線状DNAの形態で微生物に導入し、異種または相同組換え(heterologous or homologous recombination)によって宿主生物のゲノムに組み込ませることができる。この線状DNAは線状化ベクター、例えばプラスミドを含むか、または単に本発明の核酸構築物または核酸のみを含むことができる。
【0110】
生物での異種遺伝子の最適な発現のために、該生物で用いられる特有のコドン使用にしたがって核酸配列を変化させることは有益である。コドン使用は、目的の生物の他の公知遺伝子についてのコンピュータでの評価に基づいて容易に決定することができる。
【0111】
本発明の発現カセットの製造は、好適なプロモーターと好適なコードヌクレオチド配列およびターミネーターシグナルまたはポリアデニル化シグナルとの融合に基づく。これには一般的な組み換えおよびクローニング技術が使用され、該技術は、例えばT. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)ならびにT.J. Silhavy, M.L. BermanおよびL.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)およびAusubel, F.M.等, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987)に記載されている。
【0112】
組み換え核酸構築物または遺伝子構築物は、好適な宿主生物での発現のための宿主特異的ベクター中に好都合に挿入され、宿主での遺伝子の最適な発現が可能になる。ベクターは当業者に周知であり、例えば「Cloning Vectors」(Pouwels P.H.等, Publ. Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)に見出せる。
【0113】
3.5 本発明にしたがって使用できる宿主
文脈に応じて、用語「微生物」とは、出発微生物(野生型)または本発明の遺伝子改変微生物、または両者を意味する。
【0114】
本発明の用語「野生型」とは、対応する出発微生物を意味し、天然に存在する生物に必ずしも一致する必要はない。
【0115】
本発明のベクターを用いて、例えば本発明の少なくとも1つのベクターで形質転換されている組み換え微生物を製造することができ、本発明に基づく発酵的生産に使用することができる。
【0116】
好都合には、上記本発明の組み換え構築物を好適な宿主系に導入して発現させる。好ましくは、当業者によく知られている一般的なクローニングおよびトランスフェクション法、例えば共沈殿、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどを使用して、それぞれの発現系での上記核酸の発現を確保する。好適な系は、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology, F. Ausubel等, Publ. Wiley Interscience, New York 1997、またはSambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0117】
本発明の宿主生物または宿主生物群は、好ましくは、上記規定に基づく酵素活性をコードする、本発明に記載の少なくとも1つの核酸配列、核酸構築物またはベクターを含む。
【0118】
3.6 本発明の生成物の酵素的製造
少なくとも1種のレダクターゼ酵素のアリコートを、溶解または分散、例えば固定形態で、生体内変換を実施するために適切なタンパク質濃度で、例えば10〜300または75〜125μg/mlの範囲のタンパク質濃度で提供する。反応は、典型的に、好適な濃度(約0.1〜100 mM)の基質および(適切な濃度範囲、例えば0.1〜100 mMの)補助因子(NADH)を含む好適なバッファー、例えばTris-HClバッファー(例えば0.01〜0,1 M)を含む緩衝化された反応媒体中で実施する。有機共溶媒を0.1〜80 vol.-%の好適な比率で加えてよい。場合により、基質を有機共溶媒にあらかじめ溶解してから、水性媒体に加えてよい。反応混合物を、10〜50℃、例えば25〜30℃の範囲の好適な温度で好適な時間、好適な強度で攪拌または振とうしてよい。十分な反応時間、例えば1〜120時間または10〜24時間後、生成物を例えばEtOAcで抽出してよい。他の好適な抽出剤は当業者に周知である。
【0119】
補助因子の再利用のために、必要な酵素であるグルコースデヒドロゲナーゼのアリコートを、溶解、分散、例えば固定形態で、かつ(例えば1〜50または5〜15または10 U/mlの範囲の)好適な比率で、やはり適切な濃度(例えば0.1〜100 mM)の共基質(例えばグルコース)とともに反応混合物に加えて、再利用反応を駆動してもよい。該反応を好ましくは主要なレダクターゼ反応と合わせる。
【0120】
3.7 本発明の生成物の発酵的製造
本発明はまた、式(I)の化合物の発酵的製造のための方法に関する。
【0121】
本発明にしたがって使用される組み換え微生物は、バッチ操作でまたはフェドバッチもしくは反復フェドバッチ操作で連続または不連続で培養することができる。公知の培養方法のレビューはChmielの教科書 (Bioprozesstechnik 1. Einfuehrung in die Bioverfahrenstechnik (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))またはStorhasの教科書 (Bioreaktoren und periphere Einrichtungen (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に見出せる。
【0122】
使用する培養培地は、適切な様式で具体的菌株の要求を満たす必要がある。種々の微生物のための培養培地の説明はthe American Society for Bacteriologyのハンドブック"Manual of Methods for General Bacteriology" (Washington D. C., USA, 1981)に記載されている。
【0123】
本発明にしたがって使用できる前記培地は、一般に、1種以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミンおよび/または微量元素を含む。
【0124】
好ましい炭素源は糖、例えば単糖、二糖または多糖である。非常に良好な炭素源は、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デンプンまたはセルロースである。複合化合物、例えば糖蜜、または糖精製から得られる他の副産物によって培地に糖を加えることもできる。種々の炭素源の混合物を加えることもまた有益である。他の可能な炭素源は、油および脂肪、例えばダイズ油、ヒマワリ油、ピーナッツ油およびヤシ油、脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸またはリノール酸、アルコール、例えばグリセロール、メタノールまたはエタノールおよび有機酸、例えば酢酸または乳酸である。
【0125】
窒素源は、通常、有機もしくは無機窒素化合物または前記化合物を含む材料である。窒素源の例には、アンモニアガスまたはアンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは硝酸アンモニウム、硝酸化合物、尿素、アミノ酸または複合窒素源、例えばコーンスティープリカー、ダイズ粉、ダイズタンパク質、酵母抽出物、肉エキスなどが含まれる。窒素源は別々にまたは混合物として使用することができる。
【0126】
培地中に存在してよい無機塩化合物は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅および鉄の塩化物、リン酸または硫酸塩を含む。
【0127】
無機含硫化合物、例えば硫酸化合物、亜硫酸化合物、亜ジチオン酸化合物、四チオン酸化合物、チオ硫酸化合物、硫化物、およびさらに有機硫黄化合物、例えばメルカプタンおよびチオールを硫黄源として使用することができる。
【0128】
リン酸、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは対応するナトリウム含有塩をリン源として使用することができる。
【0129】
キレート剤を培地に加えて、金属イオンを溶液状態のままにすることができる。特に好適なキレート剤は、ジヒドロキシフェノール、例えばカテコールまたはプロトカテキュ酸化合物、または有機酸、例えばクエン酸を含む。
【0130】
本発明にしたがって使用される発酵培地は、他の成長因子、例えばビタミンまたは成長促進物質を含んでもよく、それには、例えばビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸化合物およびピリドキシンが含まれる。成長因子および塩は、培地の複合成分、例えば酵母抽出物、糖蜜、コーンスティープリカーなどに由来することがよくある。さらに、好適な前駆体を培養培地に加えることができる。培地中の化合物の厳密な組成は具体的な実験に強く依存し、具体的な各事例で個別に決定する必要がある。培地の最適化に関する情報は教科書「Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach」(Publ. P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) p. 53-73, ISBN 0 19 963577 3)に見出せる。培養培地は市販の供給元から得ることもでき、例えばStandard 1 (Merck)またはBHI (Brain heart infusion, DIFCO)などである。
【0131】
培地のすべての成分を加熱(2.0 barおよび121℃で20分)または滅菌ろ過によって滅菌する。成分を一緒に、または必要であれば別々に滅菌することができる。培地のすべての成分を培養の出発時点で存在させるか、または場合により、連続的にまたはバッチ供給によって加えることができる。
【0132】
培養温度は、通常、15℃〜45℃、好ましくは25℃〜40℃の範囲であり、一定に維持するか、または実験期間中に変化させることができる。培地のpH値は、5〜8.5の範囲、好ましくは約7.0であるべきである。培養のためのpH値は、塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアもしくはアンモニア水、または酸化合物、例えばリン酸もしくは硫酸を加えることによって培養中にコントロールすることができる。消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを使用して泡立ちを抑制することができる。プラスミドの安定性を維持するために、選択作用を有する好適な物質、例えば抗生物質を培地に加えることができる。酸素または酸素含有ガス混合物、例えば周囲空気を培養物に送り込み、好気条件を維持する。培養温度は、通常、20℃〜45℃である。最大量の所望の生成物が形成するまで培養を継続する。これは、通常、10時間〜160時間以内に達成される。
【0133】
場合により、高周波超音波によって、高圧によって、例えばフレンチプレッシャーセル中で、浸透圧溶解(osmolysis)によって、界面活性剤、溶解酵素もしくは有機溶媒の作用によって、ホモジナイザーを用いて、または列挙される方法のいくつかの組み合わせによって、細胞を破壊することができる。
【0134】
3.8 酵素固定化
本発明にしたがって追求される酵素を固定化する場合、それを不活性担体に結合させる。好適な担体材料は当技術分野で公知であり、例えば、EP-A-1149849号、EP-A-1 069 183号およびDE-OS 100193773号ならびにこれら文献で引用されている参考文献(これらすべては担体材料に関して本明細書に組み込まれる)で開示されている。好適な担体材料の例は、粘土、粘土鉱物、例えばカオリナイト、珪藻土、パーライト、シリカ、アルミナ、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロース粉末、アニオン交換体材料、合成ポリマー、例えばポリスチレン、アクリル樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタンおよびポリオレフィン、例えばポリエチレンおよびポリプロピレンである。担体結合酵素の製造では、通常、微粉末の形態の担体材料を使用し、多孔性形態が好ましい。担体材料の粒径は、通常、5 mmを超えず、特に2 mmを超えない。全細胞調製物中に少なくとも1種の酵素が存在する場合、該全細胞調製物は遊離または固定された形態で存在させてよい。好適な担体材料は例えばCa-アルギナートまたはカラゲナン(Carrageenan)である。酵素ならびに細胞をグルタルアルデヒドによって直接連結してよい。多様な固定化方法が当技術分野で公知である(例えばJ. LalondeおよびA. Margolin "Immobilization of Enzymes" K. DrauzおよびH. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol.III, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheim)。
【0135】
3.9 生成物の単離
本発明の方法は、さらに、本発明にしたがって製造された化合物を回収(recovering)するステップを含むことができる。用語「回収」には、培養または反応培地からの化合物の抽出、回収(harvesting)、単離または精製が含まれる。化合物の回収は、当技術分野で公知の任意の慣用の単離または精製方法にしたがって実施することができ、該方法には、非限定的に、慣用の樹脂(例えばアニオンまたはカチオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂など)での処理、慣用の吸着剤(例えば活性炭、ケイ酸、シリカゲル、セルロース、アルミナなど)での処理、pHの変更、溶媒抽出(例えば慣用の溶媒、例えばアルコール、酢酸エチル、ヘキサンなどでの抽出)、蒸留、透析、ろ過、濃縮、結晶化、再結晶、pH調節、凍結乾燥などが含まれる。
【0136】
実験
特に指定しない限り、遺伝子操作、微生物の培養による化学物質の発酵的製造および生成物の分析および単離において使用される標準的設備、方法、化学物質、および生化学物質を適用することによって以下の実験を実施した。本明細書中で引用されるSambrook等、およびChmiel等も参照のこと。
【0137】
材料および方法
(a) 一般的方法
TLCはシリカゲルMerck 60 (F254)で実施し、化合物はMo試薬[(NH4)6Mo7O24・4H2O (100 g/L), Ce(SO4)2・4H2O (4 g/L)、H2SO4 (10%)中]をスプレーするかまたはUV (254 nm)によって可視化した。
【0138】
変換率および鏡像体過剰率は、GCまたはHPLC分析によってそれぞれ測定した。
【0139】
GC分析は、FID検出器を備えたVarian 3800ガスクロマトグラフで、担体ガスとしてH2 (14.5 psi)を使用し、アキラル固定相[変換率の測定の場合(Varian CP-1301, 6%シアノプロピル-フェニル相キャピラリーカラム, 30 m, 0.25 mm, 0.25μm), カラムA]またはキラル固定相[鏡像体過剰率の測定の場合(Hydrodex-β-6TBDM, 改変β-シクロデキストリンキャピラリーカラム, 25 m x 0.25 mm), カラムB]を使用して行った。注入器および検出器の温度は、それぞれ、180および250℃であり、20:1の分割比を使用した。
【0140】
鏡像体過剰率の測定のためのキラルHPLC分析は、Chiralcel OD-Hカラム(カラムC, 0.46 x 25 cm)またはChiralcel OJカラム(カラムD, 0.46 x 25 cm)を備えたShimadzuのシステムで行った。
【0141】
NMRスペクトルは、Bruker AMX分光計を使用して360 (1H)および90 (13C) MHzでCDCl3中で測定した。TMS ( 0.00)と比較して化学シフトを報告し、結合定数(J)をHzで記載する。旋光度([α]D20)は、Perkin-Elmer旋光計341で1 dmキュベット中で589 nm (Na線)で測定した。それを[(deg x mL)/(g x dm)]の単位で記載する。
【0142】
タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準として用いるBio-Radマイクロアッセイを使用して測定した。SDS-PAGEはMini Protein装置(Bio-Rad, Heidelberg, Germany)で行った。タンパク質をクマシーブリリアントブルー(Serva, Heidelberg, Germany)で染色した。
【0143】
(b) 材料
NADHおよびNAD+はBiocatalytix/Codexisから購入し、グルコースはFlukaから入手し、グルコースデヒドロゲナーゼはJuelich Chiral Solutionsから入手した。
【0144】
(E)-3-(4-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロペナール(1a)、(E)-3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-メチルプロペナール(2a)および(E)-α-メチルシンナムアルデヒド(3a)はBASF (Ludwigshafen)によって供給された。
【0145】
(E)-3-(4-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロペナール(1a): 1H (360 MHz, CDCl3) δ= 1.37 (s, 9H), 2.11 (s, 3H), 7.27 (s, 1H) 7.48-7.53 (m, 4H), 9.59 (s, CHO); 13C (90 MHz, CDCl3) δ= 10.96, 31.15, 34.89, 125.72, 130.07, 149.96, 195.70。
【0146】
(E)-3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-メチルプロペナール(2a): 1H (360 MHz, CDCl3) δ= 2.07 (s, 3H), 6.05 (s, 2H), 6.9-7.08 (m, 3H), 7.16 (s, 1H), 9.53 (s, 1H); 13C (90 MHz, CDCl3) δ= 10.95, 101.62, 108.65, 109.62, 125.81, 129.44, 136.58, 148.09, 148.88, 149.75, 195.40。
【0147】
(E)-α-メチルシンナムアルデヒド(3a): 1H (360 MHz, CDCl3) δ= 2.10 (s, 3H), 7.28 (s, 1H), 7.39-7.56 (m, 5H), 9.61 (s, CHO); 13C (90 MHz, CDCl3) δ= 10.94, 128.72, 129.57, 130.03, 135.16, 138.39, 149.80, 195.55。
【0148】
(c) 遺伝子のクローニング
DNAの通常の操作、PCRおよび組み換えプラスミドの構築は、(Sambrook J & Russell DW (2001) Molecular Cloning: a Laboratory Manual, 第3版. Cold Spring. Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)に記載されるように実施した。
【0149】
リコペルシコン・エスクレンツム(Lycopersicon esculentum)OPR1のオープンリーディングフレームをpET-21aにクローニングし、E. coli BL21細胞でC末端ヘキサヒスチジンタグ付きタンパク質として過剰発現させた(C. Breithaupt, J. Strassner, U. Breitinger, R. Huber, P. Macheroux, A. Schaller, T. Clausen, Structure, 2001, 9, 419-429)。Ni-NTAアフィニティーカラム(Invitrogen)で製造元のプロトコールにしたがって過剰発現組み換えタンパク質を精製した。リコペルシコン・エスクレンツムOPR3およびバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来のYqjMは、最近報告されたように過剰発現させて精製した(C. Breithaupt, R. Kurzbauer, H. Lilie, A. Schaller, J. Strassner, R. Huber, P. Macheroux, T. Clausen, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006, 103, 14337-14342; K. Kitzing, T. B. Fitzpatrick, C. Wilken, J. Sawa, G. P. Bourenkov, P. Macheroux, T. Clausen, J. Biol. Chem. 2005, 280, 27904-27913)。
【0150】
酵母由来の旧黄色イソ酵素(サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)由来のOYE1、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のOYE2およびOYE3)およびザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)レダクターゼ(NCR)のクローニング、精製および特徴づけは文献にしたがって実施した(A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29; K. Saito, D. J. Thiele, M. Davio, O. Lockridge, V. Massey, J. Biol. Chem. 1991, 266, 20720-20724; K. Stott, K. Saito, D. J. Thiele, V. Massey, J. Biol. Chem. 1993, 268, 6097-6106; Y. S. Niino, S. Chakraborty, B. J. Brown, V. Massey, J. Biol Chem. 1995, 270, 1983-1991)。
【0151】
NEMレダクターゼ(E. coli由来)、PETNレダクターゼ(エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)由来)およびモルフィノンレダクターゼ(シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida) M10由来)は、N. C. Bruce (Department of Biology, University of York, York, UK) (a) C. E. French, S. Nicklin, N. C. Bruce, J. Bacteriol. 1996, 178, 6623-6627; (b) K. Miura, Y. Tomioka, H. Suzuki, M. Yonezawa, T. Hishinuma, M. Mizugaki, Biol. Pharm. Bull. 1997, 20, 110-112; (c) C. E. French, N. C. Bruce, Biochem. J. 1994, 301, 97-103によって提供された。
【実施例1】
【0152】
触媒的水素化による標準物質の合成
(E)-アルケン(1a-3a, 0.5 mmol)をTHF (10 mL)に溶解し、Pd/C (10%, 5 mg)を触媒として用いて大気圧でかつ室温でH2下で水素化した。混合物を室温で一晩攪拌した後、反応混合物をセライト(Celite)に通してろ過し、濃縮して、ラセミ標準物質(rac-1b-3b)を99%変換で得た。以下の化合物が得られた:
rac-3-(4-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール(Lysmeral(商標), Lilial(商標), rac-1b): 1H (360 MHz, CDCl3) δ= 1.11-1.12 (d, 3H, J = 6.8Hz), 1.33 (s, 9H), 2.59-2.63 (m, 2H), 3.05-3.09 (m, 1H), 7.11-7.13 (d, 2H, J = 8.2), 7.32-7.35 (d, 2H, J = 8.2), 9.74-9.75 (d, CHO, J = 1.4); 13C (90 MHz, CDCl3) δ= 13.30, 31.37, 34.39, 36.16, 48.02, 125.41, 128.67, 204.62。
【0153】
rac-3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-メチルプロパナール(Tropional(商標), Helional(商標), rac-2b): 1H (360 MHz, CDCl3) δ= 1.09-1.11 (d, 3H, J = 6.8), 2.52-2.66 (m, 2H), 2.99-3.04 (m, 1H), 5.95 (s, 2H), 6.62-6.76 (m, 3H), 9.72 (s, CHO); 13C (90 MHz, CDCl3) δ= 13.18, 36.40, 48.22, 100.91, 108.25, 109.30, 121.94, 132.50, 146.11, 147.73, 204.41。
【0154】
rac-2-メチル-3-フェニルプロパナール(rac-3b): 1H (360 MHz, CDCl3) δ= 1.10-1,12 (d, 3H, J = 6.8Hz), 2.59-2.73 (m, 2H), 3.09-3.14 (m, 1H), 7.18-7.34 (m, 5H), 9.74-9.75 (d, CHO, J = 1.3Hz); 13C (90 MHz, CDCl3) δ= 13.21, 36.65, 48.04, 126.42, 128.53, 129.02, 138.83, 204.39。
【実施例2】
【0155】
種々のシンナムアルデヒドを用いる生体還元実験
スキーム1. α-メチルシンナムアルデヒド誘導体1a - 3aの不斉生体還元
【化3】

【0156】
2.1 製造実験
(1) 標準条件下での酵素的生体還元の一般的手順
酵素(OPR1、OPR3、YqjM、OYE1-3、NCR、NEMレダクターゼ、生体内変換でのタンパク質濃度: 75 -125μg/mL)のアリコートを、基質(10 mM)および補助因子NADH (10 mM)を含むTris-HCl緩衝液(0.8 mL、50 mM、pH 7.5)に加えた。混合物を30℃でかつ120 rpmで振とうした。24時間後、生成物をEtOAcで抽出(2 x 0.5 mL)した。有機相をまとめ、Na2SO4で乾燥し、アキラルGCで分析して変換を決定し、キラルGCまたはHPLCでそれぞれ分析して鏡像体過剰率を決定した。
【0157】
(2) 補助因子再利用の一般的手順
酵素(上記参照)のアリコートを、基質(10 mM)、酸化型の補助因子(NAD+、100μM)、共基質(グルコース、20 mM)および再利用酵素(グルコースデヒドロゲナーゼ、10 U)を含むTris-HCl緩衝液(0.8 mL、50 mM、pH 7.5)に加えた。混合物を30℃でかつ120 rpmで24時間振とうし、上記のように手順を進めた。
【0158】
(3) 有機共溶媒を使用する酵素的生体還元の一般的手順
有機共溶媒(EtOH、i-Pr2O、tert-BuOMe、酢酸エチルおよびn-ヘキサン)を20% (v:v)の割合で用いた。基質(10 mM)を有機溶媒(200μL、共溶媒濃度研究では50 - 250μLのt-BuOMe)に溶解し、補助因子NADH (10 mM)または補助因子再利用系(上記参照)を含むTris-HCl緩衝液(0.75 - 0.95 mL、50 mM、pH 7.5)に加えた後、酵素(上記参照)のアリコートを加えた。混合物を30℃でかつ120 rpmで24時間振とうし、上記のように手順を進めた。
【0159】
2.2 分析実験
(1) 絶対配置の決定。
旋光度([α]D20)を文献データと比較することによって生成物1b-3bの絶対配置を決定した。絶対配置は、(OYE2を使用する3aの生体還元によって得られた) 3bのNaBH4を使用する化学的還元によって得られた3c (2-メチル-3-フェニルプロパン-1-オール)の旋光度の比較によって、3bの独立して二重にチェックした。
【0160】
表2. 生成物の旋光度
【表2】

【0161】
a 濃度[g/100 mL]; b OYE2を使用して得られた; c 2-メチル-3-フェニル1-プロパノール。
(1) D. Enders, H. Dyker, Liebigs Ann. Chem. 1990, 1107-1110。
(2) D. Enders, M. Backes, Tetrahedron: Asymmetry 2004, 15, 1813-1817。
(3) A. Baeza, C. Najera, J. M. Sansano, Eur. J. Org. Chem. 2007, 7, 1101-1112。
(4) M. V. Rangaishenvi, B. Singaram, H. C. Brown, J. Org. Chem. 1991, 56, 3286-3294。
(5) S. D. Bull, S. G. Davies, R. L. Nicholson, H. J. Sanganee, A. D. Smith, Org. Biomol. Chem. 2003, 1, 2886-2899。
【0162】
(2) 変換率および鏡像体過剰率の測定。
変換率および鏡像体過剰率を、GCまたはHPLC分析によってそれぞれ測定した。
【0163】
表3. アキラルGC分析による変換率の測定。
【表3】

【0164】
a カラム: A = Varian CP-1301, 6%シアノプロピル-フェニル相キャピラリーカラム;
b 条件: E = 14.5 psi H2, 180℃, 11分保持。
(f) A. Scrivanti, M. Bertoldini, V. Beghetto, U. Matteoli, Tetrahedron 2008, 64, 543-548。
【0165】
表4. キラルGCおよびHPLC分析による鏡像体過剰率の測定。
【表4】

【0166】
a カラム: B = Chiralcel OJカラム(HPLC); C = Hydrodex-β-6TBDM, 改変β-シクロデキストリンキャピラリーカラム(GC); D = Chiralcel OD-Hカラム(HPLC); b 条件: F = n-ヘプタン/i-プロパノール99:1 (定組成), 18℃, 流速1 mL/分, ε= 190 nm, 205 nm, 215 nm; G = 14.5 psi H2, 130℃, 0分保持, 165℃まで加熱速度1℃/分, 180℃まで加熱速度20℃/分, 7分保持; H = n-ヘプタン/i-プロパノール98:2 (定組成), 18℃, 0-15分: 流速1 mL/分, 15-20分: 流速1.5 mL/分, ε= 205 nm, 235 nm, 285 nm。
【0167】
2.3 結果および考察
p-tert-ブチルシンナムアルデヒド(1b)の還元生成物はスズランのにおい成分であり(Brenna, C. Fuganti, S. Serra, Tetrahedron: Asymmetry 2003, 14, 1-42; A. Scrivanti, M. Bertoldini, V. Beghetto, U. Matteoli, Tetrahedron 2008, 64, 543-548)、Lilial(商標)またはLysmeral(商標)の商品名で市販されており、一方、m,p-メチレンジオキシアルデヒド2bは種々の香料の活性成分であり、Helional(商標)またはTropional(商標)として市販されている(D. Enders, M. Backes, Tetrahedron: Asymmetry 2004, 15, 1813-1817. C. Chapuis, D. Jacoby, Appl. Catal. A: Gen. 2001, 221, 93-117; D. Pybus, C. Sell, The chemistry of fragrances, RSC Paperbacks, Royal Society of Chemistry, Cambridge, 1999)。
【0168】
pH 7.5の適切な水性バッファー中の標準条件下での1aの生体還元は、種々のエンレダクターゼを使用して、ひどく遅いことがわかった(データは示していない)。しかし、少量のジイソプロピルエーテル(5%, v:v)を加えることによって親油性基質の溶解度を高めると、反応率が顕著に上昇した(表5、エントリー1-7)。すべての酵素のうち、YqjMおよびアイソザイムOPR1は、低い鏡像体過剰率(e.e.max 21%)ではあるが、(R)-1bを生じさせた。対照的に、OPR3、NCRおよびOYE 1-3は、わずかに向上した立体選択性で(S)-1bを生成したが、合成目的では依然として不十分であった(e.e.max 64%)。共溶媒は反応率に強い影響を有すると思われたため、本発明者らは、エンレダクターゼの立体選択性にも影響を有するかもしれないと予測した。ジイソプロピルエーテル(20%, v:v)を増加させると、立体選択性を大きく変化させることなく、反応率が低下し、i-Pr2Oの代わりに酢酸エチルまたはn-ヘキサン(20%, v:v)を用いた場合にも同様の影響(率の低下および立体選択性のわずかな低下)が観察された(データは示していない)。水混和性共溶媒エタノール(20%, v:v)に切り換えると、立体選択性の低下(e.e.max 51%, エントリー8-12)とともに、OPR1、NCRおよびOYE 1-3の場合に反応率が向上した(cmax 80%)。YqjMおよびOPR3はわずかに活性があった(データは示していない)。最後に、t-ブチルメチルエーテルに切り換えると、理想的な解決が得られた: OYE 1-3を用いて優れた立体選択性が得られ、反応率は小幅にしか低下しなかった(e.e.max >95%, エントリー13-19)。
【0169】
系を調整するために、t-ブチルメチルエーテルの比率を増加させて、OYE3を使用して1aを還元した。図1から推測されるように、共溶媒の量を増加させると、反応率と立体選択性との間に明らかな逆相関(e.e.対変換率としてプロットされる)が観察された。結局、20%(v:v)の割合のt-BuOMeは活性の低下と立体選択性の上昇との間の良好な妥協点であるようであった。その結果、その後のすべての研究をこの共溶媒比で実施した。
【0170】
最適化された条件下で、2aはすべてのエンレダクターゼによって受容された(エントリー20-26)。以前の観察と一致して、YqjMおよびOPR1は(R)-2bを生成する低い優先傾向を示した。優れた立体選択性(e.e.max 96%)および率(完全変換まで)は、(S)-2bに関してNCRおよびOYE 1-3を用いて得られた。興味深いことに、構造的および機構的に密接に関連しているOYEホモログであるN-エチルマレイミド-(NEM)レダクターゼ、モルフィノンレダクターゼおよび四硝酸ペンタエリスリトール(PETN)レダクターゼは不十分な立体選択性または活性しか示さず、NEMレダクターゼのみがそれぞれe.e.max 57%および18%で(S)-1bおよび(S)-2bを生成した(PETNレダクターゼはe.e.max 14%で(R)-3bを生じさせた)。
【0171】
表5. 生体還元生成物1b-3bの変換率および鏡像体過剰率
【表5】

【0172】
a YqjM = バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の旧黄色酵素ホモログ(a) C. E. French, S. Nicklin, N. C. Bruce, J. Bacteriol. 1996, 178, 6623-6627; (b) K. Miura, Y. Tomioka, H. Suzuki, M. Yonezawa, T. Hishinuma, M. Mizugaki, Biol. Pharm. Bull. 1997, 20, 110-112; (c) C. E. French, N. C. Bruce, Biochem. J. 1994, 301, 97-103);OPR1およびOPR3 = リコペルシコン・エスクルテンツム(Lycopersicon escultentum)(トマト)由来の12-オキソフィトジエン酸レダクターゼアイソザイム(D. Enders, H. Dyker, Liebigs Ann. Chem. 1990, 1107-1110.); NCR = ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)由来のニコチンアミド依存性シクロヘキサノンレダクターゼ(α-メチルシンナムアルデヒドの立体選択的生体還元に関しては: A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29を参照のこと。); OYE = サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)由来(OYE1)およびS.セレビシエ(S. cerevisiae)由来(OYE2, OYE3)の旧黄色酵素(D. Enders, M. Backes, Tetrahedron: Asymmetry 2004, 15, 1813-1817)。
【0173】
生成物1bおよび2bの絶対配置を、OYE2を使用して得られた1bおよび2bの旋光度を文献データと比較することによって推定し(詳細に関しては実験部分を参照のこと)、両基質に関して(S)であることがわかった。しかし、NCRおよびOYE 1-3が(S)-1bおよび(S)-2bを生じさせる明らかな立体化学的優先傾向は、B. Rosche等 (A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29)]によって報告された、密接なホモログである -メチルジヒドロシンナムアルデヒド(3a)に対するこれらの酵素の(R)-優先傾向と矛盾する。この報告によれば、3aの生体還元により、それぞれNCRおよびOYE 1-3を使用して50%および約75%e.e.で(R)-3bが得られた。この矛盾を明らかにするために、本発明者らはすべてのエンレダクターゼを使用して基質3aを再調査した(エントリー27-33)。再度、OYE2を使用することによって得られる3bの絶対配置を文献データとの旋光度の比較によって推定し、(S)であることがわかった。この結果を、NaBH4を使用する生体還元によって得られたアルデヒド(S)-3bの化学的還元により、二重にチェックしたところ、2-メチル-3-フェニル-1-プロパノール(3c)が得られ、その旋光に基づいて(S)-立体配置であることがわかった。結局、3aの還元の立体化学的結果は、基質1a-3aが構造的に相同な系列であることから予測されるように、本発明者らの以前の結果と良好に適合した: YqjMおよびOPR1が低めの立体選択性(OPR1を使用してe.e.max 53%)で(R)-3bを生成する一方、OPR3、NCRおよびOYE1-3は96% e.e.までで(S)-3bを主に生じさせた。これらの結果を考慮すると、(R)であると報告された3bの立体化学的指定(α-メチルシンナムアルデヒドの立体選択的生体還元に関しては: A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29を参照のこと)は(S)であると訂正する必要がある。その結果、2-メチルペンタ-2-エナールと3aとの間のOYE1-3およびNCRの立体化学的「切り換え」を説明するための結合的考察は無効である。
【0174】
2.4 結論
クローニングおよび過剰発現されたエンレダクターゼによって触媒されるα-メチルジヒドロシンナムアルデヒド誘導体1aおよび2aの不斉生体還元によって、香料アルデヒドLilial(商標) (1b)およびHelional(商標) (2b)の好都合な化学-酵素合成が開発された。t-ブチルメチルエーテル(20%, v:v)を含む水性-有機二相系で反応を行うと、(R)-1bおよび(R)-2bは、YqjMおよびOPR1を使用して低めのe.e.で形成されたが、NCRおよびOYE 1-3は(S)-対応物(antipodes)を96% e.e.までで生じさせた。以前に(R)であると報告された(α-メチルシンナムアルデヒドの立体選択的生体還元に関しては: A. Mueller, B. Hauer, B. Rosche, Biotechnol. Bioeng. 2007, 98, 22-29を参照のこと) NCRおよびOYE1-3を使用するα-メチルシンナムアルデヒド3aの還元の立体化学的結果は、明らかに(S)であると訂正された。
【0175】
本明細書中で引用される文献はすべて参照により組み込まれる。
【0176】
表6: 配列番号のリスト
【表6】

【0177】
AS アミノ酸配列
NS 核酸配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

[式中、
R1およびR2は、互いに独立して、直鎖または分岐の、場合により置換されているアルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アルケニルオキシ; -H、-OH、-SH、-ハロゲン、-NH2、または-NO2を表すか; またはR1およびR2は一緒になって式-O-R4-O-(式中、R4は場合により置換されているアルキレンまたはアルケニレン基を表す)の基を表し;そして
R3は、H、アルキルまたはアルコキシを表す。]
のアルデヒド化合物の製造のための酵素的触媒方法であって、以下のステップ:
(a) 式II:
【化2】

[式中、R1、R2およびR3は上で規定される通りである。]
の化合物を、
式III:
R5-O-R6 (III)
[式中、R5およびR6は互いに独立して直鎖または分岐アルキル基を表す。]
の少なくとも1種のエーテル化合物を共溶媒として含み、かつさらに少なくとも1種のレダクターゼ酵素および少なくとも1種の補助因子を含む水性反応媒体中で酵素的に還元するステップ;
および
(b) 実質的に純粋な立体異性体の形態で、または立体異性体の混合物として、式Iの化合物を場合により単離するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
共溶媒が、R5およびR6が異なる式IVの非対称エーテル化合物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
共溶媒が、残基R5およびR6の一方または双方が分岐アルキル基である式IVの非対称エーテル化合物から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
共溶媒がt-ブチルアルキルエーテル、特にt-ブチルメチルエーテルである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
共溶媒が、反応媒体中に、0.1〜80、例えば1〜50、5〜40または10〜30体積%の割合で存在する、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
レダクターゼが以下からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法:
(a) 配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも50%同一の配列を含むOYE1;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも50%同一の配列を含むOYE2;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3と少なくとも50%同一の配列を含むOYE3;
(d) 配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4と少なくとも50%同一の配列を含むOPR1;
(e) 配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号5と少なくとも50%同一の配列を含むOPR3;
(f) 配列番号7のアミノ酸配列、または配列番号7と少なくとも50%同一の配列を含むNCR; または
(g) 配列番号6のアミノ酸配列、または配列番号6と少なくとも50%同一の配列を含むYqjM。
【請求項7】
補助因子であるNADHまたはNADPHの存在下で反応を実施する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
還元反応を補助因子再利用反応、特に酵素的補助因子再利用反応と共役させる、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
酸化された補助因子NADを、グルコースデヒドロゲナーゼによって触媒されるグルコノラクトンを形成させ、かつNADHを再生するグルコースの酸化と共役させることによって再利用する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
関係する酵素が反応媒体中に溶解、分散または固定された形態で存在する、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
反応媒体を6.5〜8.5の範囲のpHに緩衝化する、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
反応温度が10〜50℃、特に20〜40℃の範囲である、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−517786(P2013−517786A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550476(P2012−550476)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051406
【国際公開番号】WO2011/092345
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】