説明

オイルろ過用ろ過材

【課題】オイルフィルタの分野における既知のろ過材は、特に低温下での使用時、低・中程度の異物捕集容量において考慮すべき圧力損失が生じる。また、既知のろ過用織布も、低い異物捕集容量しか有せず、その上、高いろ過効率を達成することはできない。特に吸込フィルタの分野(最大1barまで減圧可能)において、有効且つ長寿命のろ過効果を妨げている。前述の欠点を克服し、特に吸込フィルタの分野での使用に適したろ過材を提供する。
【解決手段】特に変速機構及び内燃機関のオイル循環におけるオイルろ過のためのろ過材。このろ過材は、第1及び第2のろ過層を含んで構成され、第1のろ過層は、粗ろ過材1を含んで構成されると共に、密ろ過材3を含んで構成される第2のろ過層上に形成される。第1及び第2のろ過層の間には中間室が形成され、第1及び第2のろ過層が、ろ過の方向に中間室の領域を挟んで相互に離隔して配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に変速機構及び内燃機関のオイル循環におけるオイルろ過のためのろ過材に関する。このろ過材は、第1及び第2のろ過層を含んで構成され、第1のろ過層は、粗ろ過材を含んで構成されると共に、密ろ過材を含んで構成される第2のろ過層上に形成される。さらに、本発明は、この種のろ過材を用いた吸込フィルタに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
オイルフィルタの分野における既知のろ過材は、一方で、有効なろ過材の、特に低温下での使用時、低・中程度の異物捕集容量において考慮すべき圧力損失が生じるという欠点を有している。低効率のろ過材も、高い異物捕集容量を有するときには、圧力損失は許容すべきものとなるが、高いろ過効率を有しない。また、既知のろ過用織布も、低い異物捕集容量しか有せず、その上、高いろ過効率を達成することはできない。特に吸込フィルタの分野(最大1barまで減圧可能)において、前述の問題が、有効且つ長寿命のろ過効果を妨げている。
【0003】
したがって、本発明の目的は、前述の欠点を克服し、且つ、特に吸込フィルタの分野での使用に適したろ過材を開示することにある。
【0004】
その目的は、請求項1によるろ過材によって達せられ、その有利な発展例は、従属請求項に開示されている。また、吸込フィルタにおいて本発明のろ過材が使用されると、特に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、前述の目的を達成するために、中間室が第1のろ過層と第2のろ過層との間に形成され、第1及び第2のろ過層は、中間室の領域を挟んでろ過方向に相互に離隔して配置される。本発明の基本的発想は、ろ過材をサンドイッチ状構造にすることにあり、第1のろ過層は、作動中にオイルで充填される中間スペースを介して、第2のろ過層から離隔して配置される。この点に関して、中間スペースが、第1のろ過層及び第2のろ過層の一方を、他方の上に漫然と位置させて得られるものというよりは、2つのろ過層が、ろ過方向での作動性を維持するように、相互に所定の間隔をおいて関連するということが重要である。第1のろ過層は、この場合、粗ろ過材を含んで構成され、第2のろ過層は、密ろ過材を含んで構成される。したがって、第2のろ過層は、第1のろ過層よりも密なろ過材から構成される。
【0006】
中間室を構成するために、ろ過材は、第1及び第2のろ過層の間に形成されるフレーム要素を有することが望ましい。この場合には、フレーム要素の寸法は、例えば、ろ過材が起こり得るいかなる拡張をしたときでも、ろ過材の作動中に、第1及び第2のろ過層が、他方のろ過層に接触することがないように設計される。逆に言えば、相互に関連する2つのろ過層の間隔は、作動中においても維持される。もちろん、フレーム要素は、この場合、1つの部分又は複数の部分から形成されてもよい。
【0007】
複数の中間室を形成するフレーム要素の使用は、信頼性及び効率に関して極めて有効である。この場合に、ろ過材は、その表面が互いに隣接して位置する複数の中間室を含んで構成される。これにより、とりわけ、本発明のろ過材の使用により得られる様々な外形を有する、特に大型のフィルタ表面の形成が可能になる。
【0008】
好ましくは、各中間室に対して、それぞれ貫通穴が、密ろ過材を含んで構成される第2のろ過層に形成される。この貫通孔の形成により、当該技術分野で周知の原理に属することではあるが、例えば低温時における場合のように、特に、高粘性である場合、オイルが第2の密なろ過層を通して完全にはろ過されないような、広い粘度範囲におけるろ過材の使用が可能となる。
【0009】
本発明によるろ過材は、前述の請求項の1つによるろ過材を有する吸込フィルタに使用されるときに、その有利な効果をとりわけ強く示す。
【発明の効果】
【0010】
要約すれば、本発明による特徴的な構成により、結果として以下の利点がもたらされる。
1.低流速且つ高粘性でも小さい圧力損失(例えば−30℃)
2.低粘性(<0.01Pa)且つ比較的高い貫通流速でも高効率
3.粗ろ過材の不均一な充填と密ろ過材の均一な充填
4.同一の又はさらに向上した性能レベルで、オイルフィルタの分野における従来の多層ろ過材と比較して約100%〜300%、約2mm〜3mmまで全高を縮減することが可能である。
5.ろ過材の正確な作用は、(顧客により要求されるような)特別の仕様に対して最適化されるように、個々に設計可能である。この目的のためには、様々なろ過材、孔径及びグリッドスペーサ並びにそれらの比率を適切に選択することが必要であり、且つ可能である。貫通孔を有するろ過層とこれに対応するグリッドスペーサとを更に用いることにより、捕集容量及びろ過効率をさらに最適化することが可能である。
6.サンドイッチ状構造は、フィルタ中の空気の除去、及び、それに起因するポンプの好ましくないキャビテーション効果の除去を著しく促進する。具体的には、第1のろ過層を介した空気除去に要求される流速を確保する駆動流により、各域において除去される。この空気除去は、第1のろ過層とグリッドスペーサとを接続することにより、更に最適化することができる。この接続により、個々の中間室間のクロスフローを制限され、第1のろ過層の下で、空気の滞留が起こらないようになる。この接続は、ろ過に何ら影響を与えない。
7.小型構造により、平面状製品として製造することが可能となる。
8.小型構造により、ポケットフィルタのようなフィルタの構成が可能となる。
9.小型構造により、ひだ付フィルタのような構成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ろ過材の仮想模式的側面斜視図
【図2】図1のろ過材のグリッドスペーサ及び第1のろ過層の模式的平面図
【図3】図1のろ過材の模式的断面図
【図4】粒子径に対する粒子減少率を示した模式図
【図5】貫通流の圧力降下を示した模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、図面に図示される典型的な実施形態に基づいて詳述する。
図1によれば、ろ過材4は、粗ろ過材から形成される第1のろ過層1と、ろ過材4の表面に中間室5を形成するグリッドスペーサ2と、密ろ過材から形成される第2のろ過層3と、を含んで構成され、第2のろ過層3には、各中間室について貫通孔6が形成されている。第1のろ過層1、中間室5を形成するグリッドスペーサ2、及び、第2のろ過層3は、互いにサンドイッチ状に配設され、グリッドスペーサは、2つのろ過層1及び3の間に配置されると共に、前記ろ過層を相互に離隔して配置させている。
【0013】
このサンドイッチ構造は、特に、図3から明確に把握することができる。2つのろ過層1及び3の間にグリッドスペーサ2を配置することにより、ろ過材4を貫流するオイルが一方のろ過層から他方のろ過層へと通過する、中間室5が形成される。特定の代表的実施例においては、オイルは、図1及び3に示されるように、第2のろ過層から導入された後、ろ過材4を貫流する。したがって、オイルは、最初に密なろ過材を通過した後、中間室5を通過し、最後には第1のろ過層を介してろ過材4から排出される。しかしながら、原理的には、ろ過材へ上記の反対方向からオイルを流すことも可能である。
【0014】
図2は、グリッドスペーサ4の実施形態を図示している。グリッドスペーサは、正方形の中間室5を共に形成する縦方向及び横方向の支柱から構成される。さらに、図2は、中間室5に対応する貫通孔6の位置を示している。各中間室5に関して、いずれの場合にも中間室5に対して中央に形成される貫通孔6が、第2のろ過層3に与えられる。
【0015】
図4は、標準的な吸込ろ過材(“V−Pore98”)に対して、本発明によるろ過材(“スマートメディア”)の優れた粒子低減率を図示している。これは、特に、5〜40μm(c)の特定の小さい粒子径の範囲において、著しく向上した粒子低減効果が得られることを、明確に示している。
【0016】
最後に、図5は、貫通流に関する圧力降下の点について、本発明によるろ過材の有利な特性を図示しており、標準的な吸込ろ過材(“V−Pore98”)との比較を24℃及び−26℃の両温度で行っている。
【0017】
以下、本発明によるろ過材の作動の物理的モードについて詳述する。
【0018】
A)状態:低オイル粘性、高流速(温オイル)
圧力は、ほとんど損失を伴わず、粗ろ過材(第1のろ過層1)を介して中間室に直接伝達される(ダルシーの法則を参照)。中間室5における圧力は、第2のろ過層に形成される貫通孔から生じる動圧の推進ジェット、貫通孔(パイプを通過する流れ)における圧力損失及び中間室5(“2つのろ過層間の流れ”)における圧力損失によって決定される。この状態において、動圧が、中間室5における減圧を支配的に決定する。貫通孔の径が小さくなるにつれ、動圧が大きくなると共に、中間室5における減圧が大きくなる。中間室5におけるこの減圧は、適切な配分で密ろ過材(第2のろ過層3)を通過する流れを確保する(“ダルシーの法則”)。したがって、貫通孔の径(動圧)は密ろ過材(第2のろ過層3)を流れる配分を決定する。この関係は、直線的ではなく、二次関数的である。
【0019】
B)状態:高オイル粘性、低流速(冷たいオイル)
圧力は、少しの損失を伴って、粗ろ過材(第1のろ過層1)を介して中間室5に伝達される。中間室5における圧力は、貫通孔から生じる動圧の推進ジェット、貫通孔(パイプを通過する流れ)における圧力損失及び中間室5(2つのろ過層間の流れ)における圧力損失によって決定される。この状態において、貫通孔の径及び中間室の高さが中間室の減圧を支配的に決定する。貫通孔の径が小さくなるにつれ、また中間室の厚みが小さくなるにつれ、ろ過材の総圧力損失は、より大きくなる。また、この状態において、密ろ過材(3)は、略完全にバイパスされる(ダルシーの法則)。したがって、貫通孔の径、貫通孔の長さ及び中間室の高さが、ろ過材全体としての総圧力損失を決定する。
【0020】
表面部分が基本的に中間室5の部分に対応する第1のろ過層の1領域は、吸込フィルタとして用いられるときには、10mm×10mmの大きさを有することが望ましい。圧力ろ過に関しては、7mm×7mmの大きさが選択されるべきである。その領域は、正方形であることが望ましいが、長方形といった他の形状も想定することができる。これらの好適な領域の大きさに対し、グリッドスペーサ2は、1.5mmから2.5mmの高さのグリッドを有することが望ましい。グリッド高さが小さすぎると、流れの圧力損失が増加するという結果を招くことになる。
【0021】
さらに、貫通孔の径は、1mmから3mmまでであれば、吸込フィルタの全範囲を十分に満たすことになる。圧力ろ過に関しては、孔径は0.1mmから3mmまでの間が望ましい。
【0022】
原則として、あらゆる材料が微細なろ過材として考慮に入れられるが、β5で1000より大ないしβ35で1000より大となるベータ値を有するろ過材が用いられることが望ましい。また、粗いろ過材に関しては、広範囲の材料がある。この点に関しては、重要な粒子サイズと同様に、保護されるべき部品が決定的な要素となる。
【0023】
流体の粘性は、0.001から30Paまでの範囲にあることが望ましい。これにより、0から100mm/s以上の流速が観察されている。
【0024】
本発明によるろ過材の適用範囲には、粘性の大きな変動や多数の浸透が頻繁に起こる環境、例えば、バルブを有するギア(バルブ、ポンプ、軸受け及び自動変速機保護用)、大型ギア(風力発電所)、ディファレンシャルギア、パワーステアリング又はエンジン部分におけるろ過、航空機産業及び航空宇宙産業がある。水溶液のろ過の場合については、粘性の変動がむしろ小さいとしても、想定され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のろ過層を含んで構成され、前記第1のろ過層は、粗ろ過材を含んで構成されると共に、密ろ過材を含んで構成される前記第2のろ過層上に形成される、特に変速機構及び内燃機関のオイル循環におけるオイルろ過用ろ過材であって、
前記第1及び前記第2のろ過層の間に中間室が形成され、前記第1及び前記第2のろ過層が、ろ過の方向に前記中間室の領域を挟んで相互に離隔して配置されることを特徴とするオイルろ過用ろ過材。
【請求項2】
前記中間室が前記第1及び前記第2のろ過層の間に配置されるフレーム要素によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルろ過用ろ過材。
【請求項3】
前記フレーム要素が複数の前記中間室を形成することを特徴とする請求項2に記載のオイルろ過用ろ過材。
【請求項4】
前記密ろ過材を含んで構成される前記第2のろ過層に、前記各中間室に対してそれぞれ貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のオイルろ過用ろ過材。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の少なくとも1つに記載のオイルろ過用ろ過材を有する吸込フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−17706(P2010−17706A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−138955(P2009−138955)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(503375784)イーベーエスフィルトランクンストシュトッフメタルエルツォイクニッセ ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】IBS Filtran Kunststoff Metallerzeugnisse GmbH
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 19, 51597 Morsbach, GERMANY
【Fターム(参考)】