説明

オイルフィルタ

【課題】樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用した樹脂組成物で成形され、少なくとも耐エンジンオイルに優れたオイルフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタエレメント2と、フィルタエレメント2を収容するケース本体3とを備えるオイルフィルタ1において、ケース本体3を、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で含むとともに無機充填材を含む樹脂組成物で構成し、この樹脂組成物として、1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後の引張強度保持率が80%以上のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるオイルフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オイル周り部品を、ポリアミド樹脂と無機充填材とを含む樹脂組成物にて成形することが記載されている。この特許文献1の実施例1〜3の樹脂組成物は、樹脂成分がポリアミド66(PA66)とポリフェニレンスルファイド(PPS)を混合したものである。
【0003】
このように樹脂成分としてPA66にPPSを混ぜたものを用いることで、耐エンジンオイル性および耐塩化カルシウム性に優れたオイル周り部品を提供できることが特許文献1に記載されている。
【0004】
一方、特許文献1の比較例1、2の樹脂組成物は、樹脂成分がPPSを含まずPA66等のポリアミド樹脂のみであり、樹脂成分としてポリアミド樹脂のみを用いた場合では、エンジンオイル処理後の引張強度保持率が73%というように耐エンジンオイル性が低いことが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−285176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的にオイルフィルタは、フィルタエレメントと、フィルタエレメントを収容するケース本体と、ケース本体の開口部を塞ぐキャップとを備えている。
【0007】
そこで、オイルフィルタのケース本体を、特許文献1に記載のように、ポリアミド樹脂とPPSと無機充填材とを含む樹脂組成物にて成形することが考えられる。
【0008】
しかし、樹脂成分としてポリアミド樹脂にPPSを混ぜたものを用いた場合、ポリアミド樹脂のみを用いた場合と比較して、成形体が脆くなってしまうため、オイルフィルタが温度変化する環境下に曝されると、ケース本体を車体に固定するための金属部品との熱膨張係数差により、ケース本体が破損してしまうという問題が生じる。
【0009】
このため、オイルフィルタのケース本体を、ポリアミド樹脂と無機充填材とを含む樹脂組成物にて成形する際に、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用しても、耐エンジンオイル性および耐塩化カルシウム性に優れたオイルフィルタを提供できることが望まれる。
【0010】
本発明は上記点に鑑みて、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用した樹脂組成物で成形され、少なくとも耐エンジンオイルに優れたオイルフィルタを提供することを目的とし、また、耐エンジンオイル性に加えて耐塩化カルシウム性に優れたオイルフィルタを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
フィルタエレメント(2)と、フィルタエレメント(2)を収容するケース本体(3)とを備えるオイルフィルタ(1)において、
ケース本体(3)は、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用するとともに無機充填材を含む樹脂組成物で構成され、
樹脂組成物は、1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後の引張強度保持率が80%以上であることを特徴としている。
【0012】
本発明におけるケース本体を構成する樹脂組成物は、エンジンオイル処理後の引張強度保持率が80%以上という耐エンジンオイル性が高いものである。よって、本発明によれば、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用した樹脂組成物で成形され、少なくとも耐エンジンオイルに優れたオイルフィルタを提供できる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、ポリアミド樹脂として、常温で水中に浸漬して飽和吸水率に達するまでの時間が100時間以上のものを用いたことを特徴とするものである。
【0014】
ここで、後述する実施例と比較例とを比較してわかるように、飽和吸水率に達するまでの時間が少なくとも比較例1の90時間を超えていれば、耐塩化カルシウム性が高いと考えられる。
【0015】
したがって、本発明におけるケース本体を構成する樹脂組成物は、エンジンオイル処理後の引張強度保持率が80%以上という耐エンジンオイル性が高いものであり、樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂は、飽和吸水率に達するまでの時間が100時間以上という耐塩化カルシウム性が高いものである。
【0016】
よって、本発明によれば、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用した樹脂組成物で成形され、耐エンジンオイルおよび耐塩化カルシウム性に優れたオイルフィルタを提供できる。
【0017】
ポリアミド樹脂としては、例えば、請求項3に記載のように、芳香族環を有するとともに、ガラス転移点が100℃以上のものを用いることが好ましい。このようなポリアミド樹脂としては、例えば、請求項4に記載のように、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を有するものが挙げられる。
【0018】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態におけるオイルフィルタの断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明の一実施形態におけるオイルフィルタ1の概略構成を示す。
【0021】
図1に示すように、オイルフィルタ1は、オイルを濾過するフィルタエレメント2と、フィルタエレメント2を収容するケース本体3と、ケース本体3の開口部を塞ぐキャップ4とを備えている。ケース本体3には、オイルフィルタ1をエンジンに固定するための金属製のブラケット5が取り付けられる。
【0022】
ケース本体3は、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用するとともに無機充填材を含む樹脂組成物で成形されたものである。
【0023】
この樹脂組成物として、成形後において、1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後の引張強度保持率が80%以上という耐エンジンオイル性が高いものを用いる。なお、引張強度保持率が100%以上となることはないので、引張強度保持率の上限は100%未満である。
【0024】
また、この樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂として、常温で水中に浸漬して飽和吸水率に達するまでの時間が100時間以上という耐塩化カルシウム性が高いものを用いる。ここで、後述する実施例1、2と比較例1とを比較してわかるように、飽和吸水率に達するまでの時間が長い方が、耐塩化カルシウム性が高いと言える。また、比較例1では飽和吸水率に達するまでの時間が90時間である比較例1では耐塩化カルシウム性が低かったことから、耐塩化カルシウム性を高くするためには、少なくとも90時間を超える必要があると考えられる。このため、飽和吸水率に達するまでの時間が100時間以上のポリアミド樹脂を用いることが必要となる。
【0025】
このようなポリアミド樹脂としては、芳香族環を有する芳香族ポリアミドが挙げられる。一般的な芳香族ポリアミドであれば、飽和吸水率に達するまでの時間は100時間以上となる。なお、後述の実施例で用いた芳香族ポリアミドは300時間である。
【0026】
さらに、芳香族ポリアミドとしては、ガラス転移点が100℃以上のものを用いることが好ましい。これは、実車環境では油温が100℃を越える場合があるからである。なお、ガラス転移点が高いものほど、エンジンオイル浸漬後の引張強度が高くなる。
【0027】
このような芳香族ポリアミドの具体例としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(PA6T)、ポリノメチレンテレフタルアミド(PA9T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(PA6I)等やこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、PA6Tに代表されるヘキサメチレンテレフタルアミド単位を有する重合体が特に好ましい。なお、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を有する重合体には、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位とそれ以外の単量体とを有する共重合体も含まれる。
【0028】
また、本発明のポリアミド樹脂としては、水分を含んだエンジンオイルへの耐性と耐塩化カルシウム性が高ければ、芳香族ポリアミド以外のものを採用することも可能である。また、これらのポリアミド樹脂中に公知の添加剤、例えば耐熱性を高めるための銅化合物や、着色するためのカーボンブラック等を添加することは何等差し支えない。
【0029】
無機充填材としては、特に限定されるものではなく、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができるが、強度やコストの面から繊維状の充填材が好ましく用いられる。繊維状の充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ステンレスやアルミニウム等の金属繊維、全芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維等が挙げられ、ガラス繊維および炭素繊維が好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填材はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理すればより好適に用いることができる。
【0030】
また、無機充填材の添加割合は、成形容易性を確保しつつ、樹脂の強度向上を図るという観点より、一般的な繊維強化樹脂組成物と同様に、樹脂組成物全体に対して20〜40wt%であることが好ましい。
【0031】
ところで、樹脂組成物の製造方法については一般的な方法を採用でき、ケース本体3の成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形等の一般的な方法を採用できる。
【0032】
オイルフィルタ1のキャップ4は、ケース本体3と同様の樹脂組成物に成形されるが、他の樹脂組成物等で構成されていても良く、オイルフィルタ1のうち少なくともケース本体3が上述の樹脂組成物で成形されていれば良い。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
ガラス転移点が140℃、飽和吸水率に達するまでの時間が300時間であるDuPont製芳香族ポリアミド(ガラス繊維強化PA6T、商品名:ザイテルHTN51G35HSL)を2軸押出機に供給し、シリンダー温度320℃、金型温度180℃の条件で射出成形することにより、試験片およびオイルフィルタのケース本体およびキャップを作製した。その後、得られた試験片およびオイルフィルタを用いて、各種評価を行った。
(実施例2)
金型温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様に試験片およびオイルフィルタのケース本体およびキャップを作製し、各種評価を行った。
(比較例1)
ガラス転移点が60℃、飽和吸水率に達するまでの時間が90時間である東レ製ナイロン(ガラス繊維強化PA66、商品名:アミランCM3006G30)を用い、実施例1と同様にオイルフィルタのケース本体およびキャップを作製し、各種評価を行った。
(比較例2)
ガラス転移点が46℃、飽和吸水率に達するまでの時間が50時間であるDuPont製ナイロン(ガラス繊維強化PA610、商品名:Zytel RS30G30HSL BK038A)を用い、実施例1と同様にオイルフィルタのケース本体およびキャップを作製し、各種評価を行った。
【0034】
表1に、実施例1、2および比較例1、2における樹脂組成物の組成、成形時の金型温度、各種評価結果を示す。表1中の樹脂組成物は、樹脂成分(a)とガラス繊維(b)とを含むものであり、樹脂成分(a)とガラス繊維(b)の数値は樹脂組成物全体に対する重量割合を示している。
【0035】
【表1】

(表1の各種評価方法について)
(1)ポリアミド樹脂の飽和吸水率に達するまでの時間
厚さ3mmの板状の試験片を常温で水中に浸漬し、飽和吸水率に達するまでの時間を算出した。
【0036】
(2)ポリアミド樹脂のガラス転移点
セイコー電子工業(株)製 SSC/5200 DSC220を用いて、DSC法により測定した。
【0037】
(3)引張強度および破断伸び
ASTM D638に準じ、厚さ3.2mmの試験片を引張試験して測定した。なお、WELD試験片はサイド2点ゲートにて作製した。
【0038】
(4)エンジンオイル浸漬後の引張強度保持率(%)
1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後の試験片の引張強度を測定し、次の式にて算出した。
(1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後の引張強度)/(初期引張強度)×100
なお、使用したエンジンオイルは、トヨタ純正キャッスルモータオイルSM(5W−30)である。
【0039】
(5)耐圧性(2MPa負荷後の外観評価)
作製したオイルフィルタを1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後、オイルフィルタに2MPaのオイルを負荷し、外観を観察した。そして、割れ無しを◎、割れありを×、クラックの発生ありを△とした。なお、使用したエンジンオイルは、トヨタ純正キャッスルモータオイルSM(5W−30)である。
【0040】
(6)冷熱サイクル試験
オイルフィルタに金属カラーを圧入し、SUS製のブラケットに組み付け、車両に搭載されるときの状態を再現し、オイルフィルタを−40℃で2時間保持後、140℃で2時間保持するサイクルを200回および500回繰り返し、外観を確認した。そして、500回で割れ無しを◎、200回で割れ無しを○、200回で割れありを×とした。
【0041】
(7)耐塩化カルシウム性評価試験
作製したオイルフィルタを(a)50℃で95%RHの環境に24時間放置後、(b)塩化カルシウム飽和水溶液を塗布し、(c)130℃で2時間放置し、(d)常温で5時間放置する(a)〜(d)のサイクルを30回繰り返した後、1.5MPaのオイルを負荷し、外観を観察した。そして、クラックの発生無しを◎、クラックの発生ありを×とした。
(表1の各種評価結果について)
表1に示すように、実施例1は、得られた試験片のオイル浸漬後の引張強度保持率が85%と良好であった。また、WELDの引張破断伸びも1.1%と良好であったため、冷熱サイクル試験200回後、500回後の外観にも割れは認められず、オイル処理および2MPa負荷後の外観においても割れは認められなかった。また、用いた芳香族ポリアミドは飽和吸水率に達するまでの時間が300時間と長かったため、耐塩化カルシウム性評価試験後の外観にクラックの発生は認められなかった。よって、実施例1のオイルフィルタは、耐エンジンオイル性、耐熱衝撃性および耐塩化カルシウム性に優れていると言える。
【0042】
実施例2は、得られた試験片のオイル浸漬後の引張強度保持率が80%と良好であった。また、オイル処理および2MPa負荷後の外観に割れは認められず、耐塩化カルシウム性評価試験後の外観にクラックの発生は認められなかった。また、冷熱サイクル試験200回後の外観に割れが認められなかった。よって、実施例2のオイルフィルタも、耐エンジンオイル性、耐熱衝撃性および耐塩化カルシウム性に優れていると言える。ただし、WELDの破断伸びは0.8%であり、冷熱サイクル試験500回後に小さなクラックが認められたことから、耐熱衝撃性は、実施例2よりも実施例1の方がより優れていると言える。
【0043】
一方、PA66を用いた比較例1は、得られた試験片のオイル浸漬後の引張強度保持率が50%であり、2MPa負荷後の外観に割れが発生したことから、耐エンジンオイル性に劣っていた。また、PA66は飽和吸水率に達するまでの時間が90時間と短いため、耐塩化カルシウム性評価試験後の外観にクラックが発生し、耐塩化カルシウム性に劣っていた。
【0044】
また、PA610を用いた比較例2は、得られた試験片のオイル浸漬後の引張強度保持率が78%であり、2MPa負荷後の外観にクラックが発生したことから、耐エンジンオイル性に劣っていた。なお、PA610の飽和吸水率に達するまでの時間が50時間と短かったが、飽和吸水量が少ないため、耐塩化カルシウム性評価試験後の外観にクラックの発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0045】
1 オイルフィルタ
2 フィルタエレメント
3 ケース本体
4 キャップ
5 ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタエレメント(2)と、前記フィルタエレメント(2)を収容するケース本体(3)とを備えるオイルフィルタ(1)において、
前記ケース本体(3)は、樹脂成分としてポリアミド樹脂を単独で使用するとともに無機充填材を含む樹脂組成物で構成され、
前記樹脂組成物は、1wt%の水分を添加した130℃のエンジンオイル中に2000時間浸漬後の引張強度保持率が80%以上であることを特徴とするオイルフィルタ。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂は、常温で水中に浸漬して飽和吸水率に達するまでの時間が100時間以上のものであることを特徴とする請求項1に記載のオイルフィルタ。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂は、芳香族環を有するとともに、ガラス転移点が100℃以上のものであることを特徴とする請求項1または2に記載のオイルフィルタ。
【請求項4】
ポリアミド樹脂は、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を有するものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のオイルフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53242(P2013−53242A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192560(P2011−192560)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】