説明

オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法、同定方法及びキット

【課題】オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法、同定方法及びキットを提供する。
【解決手段】感染菌サンプル中の、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58のタンパク質の存在を検出する検出ステップと、上記のいずれか1つ以上のタンパク質が検出された場合に、感染菌サンプル中にオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌が存在すると判定する、判定ステップとを含む、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法及び上記検出ステップにおいて、上記の各タンパク質の発現の有無に基づいて感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定する、同定ステップとを含む、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の同定方法並びにキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法、同定方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌による感染症の予防や治療のためにβ−ラクタム系抗菌薬をはじめ数多くの抗菌薬が開発され、実用化されてきた。一方、臨床における抗菌薬の使用量の増加に伴い、これら抗菌薬に対する耐性菌の出現が顕著になり、感染症治療における重大な問題となっている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
グラム陰性菌にはβ−ラクタマーゼを産生して薬剤耐性を獲得しているものが多い。β−ラクタマーゼは、β−ラクタム系抗菌薬の分子内β−ラクタム環を加水分解する一群の酵素であり、酵素タンパクのアミノ酸配列の相同性に基づいてA〜Dの4つのクラスに分類されている(例えば、特許文献1を参照)。ここで、クラスA、B、Cに属するβ−ラクタマーゼに対しては、特異的な検出法が存在する。例えば、クラスBに属するβ−ラクタマーゼはEDTAで阻害されることから判定可能である。また、クラスAに属するβ−ラクタマーゼはクラブラン酸で阻害されることから判定可能である。しかしながら、クラスDに属するβ−ラクタマーゼに対しては特異的な検出方法が存在しないのが現状である。
【0004】
クラスDに属するβ−ラクタマーゼは、β−ラクタム系抗生物質の1種である、オキサシリンを良く分解することから、オキサ型β−ラクタマーゼ又はオキサシリナーゼとも呼ばれている。日本では、未だオキサ型β−ラクタマーゼを産生する感染菌による感染症は問題になっていない。しかしながら、イタリア、イギリス、中国、韓国などで重大な感染症が起きていることから、いつ日本で重大な感染症が起こってもおかしくない状況である。感染症が起きた場合、正確な治療方針を定めるためには感染菌を検出する必要があり、また、感染経路を特定して対策を講じるためには、感染菌又は感染菌のタイプを同定する必要がある。そこで、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又は同定する方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−166694号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】International Journal of Antimicrobial Agents 29、306−310、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感染菌が産生するオキサ型β−ラクタマーゼは、約100種類報告されており、その数はさらに増えると考えられる。これら全てのオキサ型β−ラクタマーゼについて、臨床検査を行うことは非常に困難である。臨床検査で使用可能な方法は、手間やコストなどにより限られており、ラテックスビーズなどの担体の凝集を検出する方法(以下、凝集アッセイという。)や、イムノクロマト法であれば臨床検査で使用可能である。しかしながら、PCR法やウエスタンブロット法は、臨床検査での使用が難しい。
【0008】
本発明は、臨床検査においても使用することができる、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定方法を提供することを目的とする。本発明のもう1つの目的は、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定のためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の5種類、又はOXA−23、OXA−40、OXA−51及びOXA−58の4種類のオキサ型β−ラクタマーゼの産生菌を検出又は同定することにより、現在までに知られている約100種類のオキサ型β−ラクタマーゼ全てについて検出又は同定しなくても、感染症の原因菌として問題を起こす可能性が高い感染菌を、ほぼ全て検出又は同定可能であることを見出した。
【0010】
感染菌サンプルとしては、例えば、感染症患者検体から分離された、細菌の培養物や破砕物などを用いることができる。感染症患者検体から分離された細菌は、例えば平板培地上でのコロニー形成によりクローニングされていることが好ましい。
【0011】
1つの態様において、本発明は、感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(e)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;の存在を検出する、検出ステップと、検出ステップにおいて、上記の(a)〜(e)のタンパク質のうち、いずれか1つ以上のタンパク質が検出された場合に、前記感染菌サンプル中にオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌が存在すると判定する、判定ステップとを含む、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法を提供する。
【0012】
ここで、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出とは、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の存在又は不在を判定することを意味し、いずれのオキサ型β−ラクタマーゼを産生する感染菌であるか(オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプ)を特定することは要しない。
【0013】
上記の配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質はOXA−23であり、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質はOXA−40であり、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質はOXA−51であり、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質はOXA−54であり、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質はOXA−58である。
【0014】
感染菌サンプル中の、これら5種類のオキサ型β−ラクタマーゼを検出することによって、現在知られている約100種類のオキサ型β−ラクタマーゼを全て検出することなく、感染症の原因菌として問題を起こす可能性が高い感染菌をほぼ全て検出することが可能である。このため、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出又は同定に要する手間やコストが大幅に軽減される。
【0015】
別の態様において、本発明は、感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(e)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;の存在を検出する、検出ステップと、検出ステップにおいて、上記の(a)〜(e)の各タンパク質の発現の有無に基づいて前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定する、同定ステップとを含む、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定方法を提供する。
【0016】
ここで、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプとは、いずれのオキサ型β−ラクタマーゼを産生する感染菌であるかを指標とした、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の分類を意味する。また、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定(場合により、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の同定という。)とは、いずれのオキサ型β−ラクタマーゼを産生する感染菌であるかを特定することを意味する。
【0017】
感染菌サンプル中の、これら5種類のオキサ型β−ラクタマーゼそれぞれの発現の有無を検出することによって、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定することが可能である。これにより、現在知られている約100種類のオキサ型β−ラクタマーゼを全て検出することなく、感染症が起きた場合に正確な治療方針を定めたり、感染経路の特定に有用な情報を得ることができる。
【0018】
上記の検出ステップは、以下の(a)〜(e)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;に対する抗体の抗原抗体反応により行われることが好ましい。臨床検査において、遺伝子レベルでの検査を行うことは困難な場合があるが、抗体を用いた検査であれば、臨床検査で行うことが可能である。
【0019】
別の態様において、本発明は、上記の方法によって、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定するためのキットであって、以下の(a)〜(e)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;に対する抗体を含む、キットを提供する。
【0020】
上記のキットは凝集アッセイ用であってもよいし、イムノクロマト用であってもよい。このような形態のキットであれば、検査が簡便であるため、臨床検査においても使用することが可能である。
【0021】
別の態様において、本発明は、感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(d)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;の存在を検出する、検出ステップと、検出ステップにおいて、前記(a)〜(d)のタンパク質のうち、いずれか1つ以上のタンパク質が検出された場合に、前記感染菌サンプル中にオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌が存在すると判定する、判定ステップとを含む、前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法を提供する。
【0022】
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質であるOXA−54を産生する感染菌は、現在大きな問題となっていない。そこで、OXA−54を除いた、OXA−23(配列番号1)、OXA−40(配列番号2)、OXA−51(配列番号3)及びOXA−58(配列番号5)の4種類のオキサ型β−ラクタマーゼの産生菌を検出することによって、現在知られている約100種類のオキサ型β−ラクタマーゼを全て検出することなく、感染症の原因菌として問題を起こす可能性が高い感染菌をほぼ全て検出することが可能である。このため、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出又は同定に要する手間やコストを更に軽減することができる。
【0023】
別の態様において、本発明は、感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(d)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;の存在を検出する、検出ステップと、検出ステップにおいて、前記(a)〜(d)の各タンパク質の発現の有無に基づいて前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定する、同定ステップとを含む、前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定方法を提供する。
【0024】
感染菌サンプル中の、これら4種類のオキサ型β−ラクタマーゼそれぞれの発現の有無を検出することによって、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定することが可能である。これにより、現在知られている約100種類のオキサ型β−ラクタマーゼを全て検出することなく、感染症が起きた場合に正確な治療方針を定めたり、感染経路の特定に有用な情報を得ることができる。
【0025】
上記の検出ステップは、以下の(a)〜(d)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;に対する抗体の抗原抗体反応により行われることが好ましい。臨床検査において、遺伝子レベルでの検査を行うことは困難な場合があるが、抗体を用いた検査であれば、臨床検査で行うことが可能である。
【0026】
別の態様において、本発明は、上記の方法によって、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定するためのキットであって、以下の(a)〜(d)のタンパク質:(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;に対する抗体を含む、キットを提供する。
【0027】
上記のキットは凝集アッセイ用であってもよいし、イムノクロマト用であってもよい。このような形態のキットであれば、検査が簡便であるため、臨床検査においても使用することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、臨床検査においても使用することができる、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定方法及びこれらの方法のためのキットが提供される。これにより、現在知られている約100種類のオキサ型β−ラクタマーゼを全て検出することなく、わずか5種類又は4種類のオキサ型β−ラクタマーゼを検出することによって、感染症の原因菌として問題を起こす可能性が高い感染菌をほぼ全て検出することが可能である。したがって、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌による感染症が起こった場合にも、その原因菌を検出又はその原因菌のタイプを同定し、適切に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】凝集アッセイ用キットの1実施形態を示す図である。
【図2】凝集アッセイ用キットの1実施形態を示す図である。
【図3】イムノクロマト用キットの1実施形態を示す図である。
【図4】イムノクロマト用キットの1実施形態を示す図である。
【図5】マルチプレックスPCRの結果を示す写真である。M:分子量マーカー。
【図6】ISAba/オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子のPCRの結果を示す写真である。M:分子量マーカー。
【図7】ウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【図8】イムノクロマト法による検出の結果を示す写真である。数字はサンプルに用いたOXA−23の濃度(ng/mL)を示し、矢印は、検出領域の位置を示す。
【図9】オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又は同定するためのイムノクロマト法によるキットの写真である。(a)は金コロイドで標識された抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体であり、(b)はイムノクロマト用テストプレート(イムノクロマト用ストリップ)であり、(c)は懸濁用希釈液である。
【図10】オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のイムノクロマト法による検出の結果を示す写真である。(a)はOXA−23又はOXA−40の産生菌を検出した結果を示し、(b)はOXA−51の産生菌を検出した結果を示し、(c)はOXA−58の産生菌を検出した結果を示す。
【図11】PCR法による検出の結果を示す写真である。M:マーカー。
【発明を実施するための形態】
【0030】
オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の分野において、臨床研究の研究者は、オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子の塩基配列決定までを行うことが技術常識であった。そのため、これまでオキサ型β−ラクタマーゼに対する抗体は作製されなかった。また、基礎研究の研究者は、オキサ型β−ラクタマーゼのカイネティックパラメーターを解析することが技術常識であった。そのため、これまでオキサ型β−ラクタマーゼに対する抗体は作製されなかった。さらに、オキサ型β−ラクタマーゼは、精製が困難なタンパクであるため、これまで抗体が作製されなかった。実際、本発明者らは、OXA−23についてはHisタグを付けずにタンパクを精製することに成功したが、これ以外のオキサ型β−ラクタマーゼについてはHisタグを付けることによって、初めて、タンパクを精製することに成功した。しかしながら、Hisタグなどのタグを付けてタンパクを発現させると、本来のタンパクの立体構造と大きく異なる立体構造を持ったタンパクになる場合があり、抗体作製などの点で好ましくない場合がある。
【0031】
感染菌サンプル中の、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の5種類、又はOXA−23、OXA−40、OXA−51及びOXA−58の4種類のオキサ型β−ラクタマーゼを検出又は同定すれば、感染症の原因菌として問題を起こす可能性が高いオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌をほぼ全て検出又は同定可能である。ここで、「ほぼ全て」とは、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌による感染症の患者由来の感染菌サンプルを用いて検査したときに、80%以上、好ましくは90%以上の場合において、感染症の原因であるオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又は同定可能であることを意味する。
【0032】
本明細書において、「90%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、2つのアミノ酸配列を、可能な限り多数のアミノ酸が相互に一致するように並列させて比較した場合に、90%以上のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列を意味する。ここで、アミノ酸配列を並列させる際には、最大の相同性を与えるようにギャップを含んでもよい。
【0033】
オキサ型β−ラクタマーゼを検出又は同定する方法としては、PCRなどを利用した遺伝子レベルでの方法や、抗体やアプタマーなどを用いたタンパクレベルでの方法が使用できるが、臨床検査においても使用可能である点で、抗体の抗原抗体反応による方法が好ましい。感染菌サンプルとしては、例えば、感染症患者検体から分離された、細菌の培養物や破砕物などを用いることができる。感染症患者検体から分離された細菌は、例えば平板培地上でのコロニー形成によりクローニングされていることが好ましい。
【0034】
オキサ型β−ラクタマーゼであるOXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58に対する抗体は、これらのタンパク全長を抗原として作製してもよいし、タンパクの一部分を抗原として作製してもよい。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよく、さらに抗体断片であってもよい。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、scFvなどが挙げられる。抗体作製において、免疫動物としては、ウサギ、ニワトリ、ヤギ、ロバ、マウス、ラットなどが使用できる。また、免疫動物を使わずに、ファージ・ディスプレイ・ライブラリから抗体をスクリーニングしてもよい。
【0035】
抗体の精製が必要とされる場合は、プロテインAやプロテインGを使用するアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの方法を適宜選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0036】
上記のようにして得られた抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の抗原抗体反応により、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼを検出又は同定することが可能である。オキサ型β−ラクタマーゼの検出又は同定は、イムノブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫測定法(RIA)、凝集アッセイ、イムノクロマト法などの当業者に知られたいずれの方法によっても行うことが可能であるが、臨床検査においても使用可能である点で、凝集アッセイ又はイムノクロマト法によって行うことが、より好ましい。
【0037】
凝集アッセイでは、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体を結合させた担体を用いてオキサ型β−ラクタマーゼを検出することができる。担体としては、例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球、金コロイド粒子、セレニウムコロイド粒子などを使用することができる。
【0038】
抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体を担体に結合させる方法は、特に限定されない。例えば抗体を担体に物理吸着させてもよいし、化学的に結合させてもよい。例えば、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体と担体とを混和した後、30〜37℃で1〜2時間振とうすることにより、担体に物理吸着させることができる。担体に結合させる抗体の量は、使用する担体の粒径などに応じて適宜設定することができる。抗体を担体に結合させた後、担体表面上の抗体が結合していない部分を、スキムミルクやウシ血清アルブミンなどを含んだブロッキング溶液を用いてブロッキングすることが好ましい。このように調製した抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体結合担体を、感染菌サンプルと反応させ、凝集の有無や凝集の程度を目視で観察し、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼを検出することができる。
【0039】
イムノクロマト法では、感染菌サンプル中にオキサ型β−ラクタマーゼが存在した場合に、メンブレンの一端に滴下した感染菌サンプル溶液が、毛細管現象により他端に向かって移動する際に、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼと、金コロイドなどの色素で標識した抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体と、メンブレン上の特定領域に固定した抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の3者により抗原抗体反応複合体が形成されることにより、色素標識抗体の色素を目視で確認することができる。
【0040】
酵素免疫測定法(ELISA)においては、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体又は抗体断片を、マイクロプレート、樹脂ビーズ、磁性化ビーズなどの担体に物理吸着や化学結合により固相化する。固相化量は特に限定されないが、担体がマイクロプレートの場合、1ウェル当たり数ngから数十μgが好ましい。固相化は固相化すべき抗体を適切なバッファーに溶解し、担体と接触させて行うことができる。例えば、マイクロタイタープレートを用いる場合、抗体溶液をマイクロタイタープレートのウェルに分注し、一定時間静置することにより固相化することができる。抗体を固相化した後は、アッセイ中の非特異的結合を防ぐために、スキムミルクやウシ血清アルブミン等を含んだブロッキング溶液を用いてブロッキングを行うことが好ましい。続いて、固相化担体と感染菌サンプルを反応させ、洗浄後、標識した抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体を反応させる。あるいは、標識した2次抗体を更に反応させてもよい。抗体の標識は、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼなどの酵素を用いて行うことができる。続いて、標識した酵素に応じた基質を用いて発色、発光、蛍光などを発生させて検出する。
【0041】
感染菌サンプル中の、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58のいずれかのオキサ型β−ラクタマーゼの検出を目的とする場合においては、これらのオキサ型β−ラクタマーゼに対する抗体を混合して調製した抗体混合物を用いて上記の方法を行うことができる。これにより、感染菌サンプル中にいずれかのオキサ型β−ラクタマーゼが存在すれば、1度の反応で検出することが可能となる。検出感度の低下などの問題により、1度に混合可能な抗体の数が限られる場合においても、抗体を混合することによって、オキサ型β−ラクタマーゼの検出に要する反応の数を減らすことが可能である。
【0042】
抗体混合物の抗原抗体反応によりオキサ型β−ラクタマーゼの検出を行った結果、感染菌サンプル中にいずれかのオキサ型β−ラクタマーゼが存在することが明らかとなった場合、その抗体混合物を構成する1種類づつの抗体を用いて個別の反応を行うことにより、感染菌サンプル中に、いずれのオキサ型β−ラクタマーゼが存在するかを特定することができる。ここで、1種類の抗体とは、1種類の抗原に対する抗体であることを意味し、モノクローナル抗体である場合もあればポリクローナル抗体である場合もある。
【0043】
本発明の1つの態様において、感染菌サンプル中の、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定を可能にするキットが提供される。このキットは凝集アッセイ用であってもよいし、イムノクロマト用であってもよい。
【0044】
以下、図面を参照しながら、好適なキットの実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致しない。また、以下に説明するキットの態様は単なる例示であり、当業者には、様々な変形例が明らかである。本発明に係るキットは、以下に説明する態様に限定されるものではなく、各種の変形例も包含する。
【0045】
本発明に係るキットは、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の5種類のタンパク質を抗原とする、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の組み合わせ、又はOXA−23、OXA−40、OXA−51及びOXA−58の4種類のタンパク質を抗原とする、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の組み合わせを含む。凝集アッセイ用のキットにおいては、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。ここで、キットがオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌検出用である場合、図1に例示するように、複数の抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の混合物が担体に結合していてもよいし、図2に例示するように、それぞれ単独の抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体が結合した担体が、複数種類混合されていてもよい。図1において、担体1の表面には、抗体11、抗体12及び抗体13の3種類の抗体からなる抗体混合物が結合され、抗体結合担体100を形成している。そして、抗体結合担体100は、オキサ型β−ラクタマーゼを検出するための凝集アッセイに使用される。図2(a)において、担体1の表面には、抗体11が結合され、抗体結合担体200を形成している。図2(b)において、担体1の表面には、抗体12が結合され、抗体結合担体300を形成している。図2(c)において、担体1の表面には、抗体13が結合され、抗体結合担体400を形成している。そして、抗体結合担体200、300及び400は混合されて、オキサ型β−ラクタマーゼを検出するための凝集アッセイに使用される。
【0046】
凝集アッセイによる、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定用のキットには、図2(a)、(b)及び(c)に例示するように、それぞれ単独の抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体が結合した担体が含まれる。この場合には、抗体結合担体200、300及び400は混合されず、それぞれ個別に、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定するための凝集アッセイに使用され、感染菌サンプル中の各オキサ型β−ラクタマーゼの存在又は不在が検査される。
【0047】
イムノクロマト用のキットも、凝集アッセイ用のキットと同様に、少なくともOXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の5種類のタンパク質を抗原とする、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の組み合わせ、又はOXA−23、OXA−40、OXA−51及びOXA−58の4種類のタンパク質を抗原とする、抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の組み合わせを含む。オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌検出用のキットには、図3に例示するように、複数の抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の混合物が、メンブレン20上の検出領域23に固定されていてもよい。図3において、イムノクロマト用ストリップ500は、メンブレン20上に形成された、感染菌サンプル滴下領域21と、色素標識抗体搭載領域22と、検出領域23と、コントロール領域24とを持つ。ここで、複数の抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体の混合物が、メンブレン上の検出領域23に固定されている。また、検出領域23に固定された抗体混合物と同じ抗原を認識する、色素標識抗体の混合物が、色素標識抗体搭載領域22に搭載されている。さらに、色素標識抗体を認識する抗体が、コントロール領域24に固定されている。感染菌サンプル滴下領域21に滴下された感染菌サンプルは、毛細管現象によって、メンブレン20の他端に向かって移動する。この過程で、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼが、色素標識抗体搭載領域22に搭載された色素標識抗体と結合し、複合体を形成する。この複合体はさらに移動し、検出領域23に固定された抗体混合物と更に結合して複合体を形成する。ここで、色素標識抗体の色素が検出領域23に集中してバンドを形成することにより、目視で識別が可能となる。感染菌サンプルはさらに移動し、サンプル中に含まれていた、未反応の色素標識抗体が、コントロール領域24に固定された色素標識抗体を認識する抗体と結合する。コントロール領域24に現れるバンドは、検査が正しく行われたことを示す陽性コントロールである。
【0048】
イムノクロマト法による、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定用のキットにおいては、上記の検出用のキットにおける抗体混合物の代わりに、1種類の抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体が、図3におけるメンブレン20上の検出領域23に固定されている。そして、検出領域23に固定された抗体と同じ抗原を認識する、1種類の色素標識抗体が、色素標識抗体搭載領域22に搭載されている。この態様のイムノクロマト用ストリップ500を用いて検査を行うことにより、1つのイムノクロマト用ストリップ500で1種類のオキサ型β−ラクタマーゼの存在又は不在を検出することができる。
【0049】
イムノクロマト法による、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定用のキットの別の態様を図4に例示する。図4において、イムノクロマト用ストリップ600は、図3のイムノクロマト用ストリップ500における検出領域23の代わりに、複数の検出領域31、32、33、34及び35を持つ。ここで、各検出領域31〜35には、それぞれ1種類ずつの抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体が固定されている。また、色素標識抗体搭載領域22には、検出領域31〜35に固定された各抗体と同じ抗原を認識する、色素標識抗体の混合物が搭載されている。感染菌サンプル滴下領域21に滴下された感染菌サンプルは、毛細管現象によって、メンブレン20の他端に向かって移動する。この過程で、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼが、色素標識抗体搭載領域22に搭載された色素標識抗体と結合し、複合体を形成する。この複合体はさらに移動し、検出領域31〜35に固定された各抗体と更に結合して複合体を形成する。色素標識抗体の色素が検出領域31〜35のいずれかに集中してバンドを形成することにより、目視で識別が可能となる。ここで、感染菌サンプル中に含まれていたオキサ型β−ラクタマーゼを認識する抗体が、固定されていた領域に、バンドが形成される。出現したバンドの位置により、感染菌サンプル中の各オキサ型β−ラクタマーゼの存在又は不在が判定できる。感染菌サンプルはさらに移動し、サンプル中に含まれていた、未反応の色素標識抗体が、コントロール領域24に固定された色素標識抗体を認識する抗体と結合する。コントロール領域24に現れるバンドは、検査が正しく行われたことを示す陽性コントロールである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0051】
(マルチプレックスPCR)
抗原に用いるOXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58タンパクの入手は困難であった。まず、発明者らが所有していたアシネトバクター菌株及び世界中の研究者に分与を依頼して入手したアシネトバクター菌株の中から、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の遺伝子をゲノム中に持つアシネトバクター菌株を探索した。
【0052】
表1に示すように、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58をコードする塩基配列の一部を増幅する、センス方向及びアンチセンス方向のプライマーを作製した。
【0053】
【表1】

【0054】
表2に示す割合で試薬を混合し、マルチプレックスPCRを行い、アシネトバクター菌株のゲノム上にOXA−23、OXA−40、OXA−51及びOXA−58が存在するか否かを検討した。鋳型としては、アシネトバクター菌株などの懸濁液を100℃で5分熱処理し、10000rpmにて5分間遠心分離して得られた上清液を用いた。水としては、ミリQ水(ミリポア社の超純水装置で精製された水)を用いた。Taqポリメラーゼとしては、ExTaq(登録商標)(タカラバイオ株式会社)を用い、バッファーはExTaq(登録商標)に添付のものを用いた。PCRのプログラムは、94℃5分を1サイクル;94℃25秒、52℃40秒、72℃50秒を30サイクル;72℃6分を1サイクル;4℃で保温であった。PCR後、サンプルをアガロースゲル電気泳動により解析した。
【0055】
【表2】

【0056】
典型的な結果を図5に示す。図5(a)において、353bpの増幅バンドが検出されたサンプルは、そのゲノム上にOXA−51をコードする遺伝子を持つことを示す。同様に、501bpの増幅バンドが検出されたサンプルは、そのゲノム上にOXA−23をコードする遺伝子を持つことを示す。図5(b)において、599bpの増幅バンドが検出されたサンプルは、そのゲノム上にOXA−58をコードする遺伝子を持つことを示す。図5(a)のレーン7及び8に見られるように、複数のオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子をゲノム上に持つ菌株も検出された。OXA−54遺伝子を持つアシネトバクター菌株についても、上記と同様の手法によって探索した。
【0057】
(ISAba/オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子のPCR)
アシネトバクターのゲノム上にオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子が存在するだけでは、オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子は発現しない。そして、オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子が発現するためには、遺伝子組換えによりオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子の上流にISAba配列が隣接する必要があることが明らかにされている(FEMS Microbiol. Lett.258:72−77,2006)。そこで、マルチプレックスPCRによってオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子の存在が確認された菌株について、ISAba配列とオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子が隣接しているか否かをPCRによって検討した。
【0058】
表3に示すように、ISAba配列を増幅する、センス方向及びアンチセンス方向のプライマーを作製した。
【0059】
【表3】

【0060】
表4に示す割合で試薬を混合してPCRを行い、アシネトバクター菌株のゲノム上において、ISAba配列とOXA遺伝子が隣接しているか否かを検討した。PCR反応のプログラムは、94℃5分を1サイクル;94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を30サイクル;72℃7分を1サイクル;4℃で保温であった。PCR反応後、サンプルをアガロースゲル電気泳動により解析した。
【0061】
【表4】

【0062】
表4に示す、プライマー1及びプライマー2の組み合わせは表5の通りであった。
【0063】
【表5】

【0064】
典型的な結果を図6(a)〜(c)に示す。ゲノム上に、ISAba配列と隣接したオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子を持つ、アシネトバクター菌株を鋳型としたサンプルから、PCR増幅バンドが検出された。これらのアシネトバクター菌株は、オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子を発現すると考えられる。図中の数字は各アシネトバクター菌株の識別番号を示す。
【0065】
(OXA遺伝子発現ベクターの構築)
ISAba配列と隣接したオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子を持つアシネトバクター菌株から、オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子をクローニングし、発現ベクターを構築した。
【0066】
表6に示すように、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の発現ベクター構築用の、センス方向及びアンチセンス方向のプライマーを作製した。これらのプライマーを用いたPCRにより、シグナルペプチドを含まない形でオキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子を増幅することができる。
【0067】
【表6】

【0068】
表7に示す割合で試薬を混合してPCRを行い、OXA−23、OXA−40、OXA−51、OXA−54及びOXA−58遺伝子断片を増幅した。鋳型には、各OXA遺伝子をISAba配列と隣接した状態で持つアシネトバクター菌株の培養液を用いた。Taqポリメラーゼとしては、インビトロジェン社のPlatinum Taq(商品名)を用い、MgCl溶液は、Platinum Taq(商品名)に付属のものを用いた。PCR反応のプログラムは、94℃5分を1サイクル;94℃60秒、55℃60秒、72℃60秒を30サイクル;72℃10分を1サイクル;4℃で保温であった。
【0069】
【表7】

【0070】
表7に示す、プライマー3及びプライマー4の組み合わせは表8の通りであった。
【0071】
【表8】

【0072】
PCR増幅したDNA断片を、pCR2.1ベクター(商品名、インビトロジェン社)にクローニングし、塩基配列を確認した。配列番号35にOXA−23遺伝子、配列番号36にOXA−40遺伝子、配列番号37にOXA−51遺伝子、配列番号38にOXA−54遺伝子、配列番号39にOXA−58遺伝子の確認した塩基配列をそれぞれ示す。続いて、pCR2.1ベクターから、オキサ型β−ラクタマーゼ遺伝子断片を、制限酵素を用いて切り出し、発現ベクターにクローニングした。
【0073】
OXA−23、OXA−40及びOXA−54遺伝子断片は、発現ベクターpET28(ノバジェン社)にクローニングした。クローニングには、制限酵素NdeI及びBamHIを用いた。このクローニングにより、C末端側にHisタグが付加された。OXA−51及びOXA−58遺伝子断片は、pET28ではうまく発現しなかったため、pCold1ベクター(タカラバイオ株式会社)にクローニングした。クローニングには制限酵素NdeI及びBamHIを用いた。このクローニングにより、N末端側にHisタグが付加された。OXA−48遺伝子についても、上記と同様の手法によって発現ベクターにクローニングすることが可能である。
【0074】
(タンパク発現、精製及び抗体の作製)
構築した発現ベクターを大腸菌株BL21DE3(タカラバイオ社)に導入して発現させた。具体的には、培養液のOD600が0.4〜0.5に到達するまで培養を行った後、pET28を用いた場合は終濃度0.5mMのIPTGを培養液に添加し、pCold1ベクターを用いた場合は培養温度を15度にシフトして、さらに約18時間培養した。培養液を8000gで遠心し、大腸菌ペレットを回収した。続いて大腸菌ペレットをOXA−40の場合は0.05Mリン酸バッファー(pH 7.0)、OXA−23、OXA−51、OXA−54及びOXA−58の場合は0.02Mトリス塩酸バッファー(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕した後、40000gで遠心して上清を回収した。超音波破砕装置にはSonifier150(Branson社、米国)を使用した。続いて回収した上清を0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)中で透析し、AKTAシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて、発現させたオキサ型β−ラクタマーゼタンパクを精製した。
【0075】
精製した各オキサ型β−ラクタマーゼタンパクを用いてウサギを免疫し、ポリクローナル抗体を作製した。
【0076】
(ウエスタンブロッティング)
各アシネトバクター菌株1コロニーを、LB培地4mLに釣菌し、一晩培養した。続いて培養液をエッペンドルフチューブに移し、室温にて6500gで15分遠心した後、上清を捨て、ペレットをリン酸バッファー(20mM、pH7.4)に懸濁した。続いて菌液を30秒で5回の処理で超音波破砕し、4℃にて40000gで30分遠心した後、上清を回収し、これを電気泳動用のサンプルとした。各サンプル10μLにSDSサンプルバッファーを10μLずつ加え、100℃にて5分間加熱後、10μLずつウェルにアプライし、30mAで80分電気泳動した。分子量マーカー(New England Biolabs社)及びコントロールサンプルも同時に電気泳動した。コントロールサンプルとしては、大腸菌で発現させて精製したOXA−23及びOXA−40タンパクを用いた。ポリアクリルアミドゲルにはe・パジェル(登録商標)(アトー株式会社、E−R10L)を用いた。
【0077】
電気泳動後、ブロッティング装置(アトー株式会社、BE300)を用いて2mA/cmで90分通電し、PVDF膜(ミリポア社、GVHP304F0)にブロッティングした。
【0078】
ブロッティング後のPVDF膜を、ブロッキングバッファー(1%スキムミルク、BD社、0032−17−3)中で振とうし、90分ブロッキングした。続いて、ブロッキングバッファーで1000倍希釈した抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体と、1時間反応させた。続いて、PVDF膜をブロッキングバッファーで洗浄し、ブロッキングバッファーで1000倍希釈した2次抗体(ヤギ抗ウサギIgG(H+L)−HRP標識抗体、バイオラッド社、172−1019)と1時間反応させた。続いて、PVDF膜をブロッキングバッファーで洗浄し、基質液(3,3’−5,5’テトラメチルベンジジン、和光純薬株式会社)を加えて発色させた。図7に結果を示す。図7(a)はポリアクリルアミドゲル電気泳動後、ゲルをCBB染色した結果である。図7(b)は(a)のゲルをPVDF膜にブロッティングし、抗OXA−23抗体を反応させて発色させた結果である。図7(c)及び(d)はそれぞれ抗OXA−23抗体及び抗OXA−40抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果である。
【0079】
(イムノクロマト法を用いたOXA−23産生菌の検出)
OXA−23を産生するアシネトバクター菌株を、平板培地上で培養した。続いて、培地表面の菌体を掻き取り、1mLの懸濁用希釈液に懸濁した。菌体が均一に分散するようにボルテックスミキサーで撹拌し、エッペンドルフチューブに100μL分取し、感染菌サンプルとした。懸濁用希釈液には0.01容量%の界面活性剤が含有されており、菌体内のOXA−23が抽出された。なお、この界面活性剤は、抗体によるオキサ型β−ラクタマーゼの検出に悪影響を与えないことが分かっている。この感染菌サンプルに、金コロイドで標識した、抗OXA−23抗体及び抗OXA−40抗体の抗体混合物10μLを添加してよく混合した。この溶液をイムノクロマト用テストプレートの感染菌サンプル滴下領域に全量滴下し、20分間静置した。この過程で、滴下した金コロイド標識抗体混合物と感染菌サンプル中のOXA−23が複合体を形成し、毛細管現象によりテストプレートの他端に向かって移動し、テストプレートの途中に位置する検出領域に固定された抗OXA−23抗体及び抗OXA−40抗体の抗体混合物に結合し、目視で識別が可能なバンドを形成した。
【0080】
(精製したOXA−23のイムノクロマト法による検出)
0、10、20、50及び500ng/mL濃度の精製したOXA−23溶液各100μLに、金コロイドで標識した、抗OXA−23抗体及び抗OXA−40抗体の抗体混合物10μLを添加してよく混合した。この溶液をイムノクロマト用テストプレートの感染菌サンプル滴下領域に全量滴下し、20分間静置した。結果を図8に示す。10、20、50及び500ng/mL濃度のOXA−23溶液を滴下したテストプレートの検出領域に目視で識別が可能なバンドが形成された。
【0081】
(オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又は同定するためのキット)
感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定するためのイムノクロマト法によるキットを作製した。図9にキットの写真を示す。図9において、(a)は金コロイドで標識された抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体であり、(b)はイムノクロマト用テストプレート(イムノクロマト用ストリップ)であり、(c)は懸濁用希釈液である。金コロイドで標識された抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体としては、抗OXA−23抗体、抗OXA−40抗体、抗OXA−51抗体及びOXA−58抗体の4種類を使用した。また、検出感度の観点から、抗OXA−23抗体及び抗OXA−40抗体は、混合して抗OXA−23/40抗体として使用した。抗OXA−51抗体及び抗OXA−58抗体は、それぞれ単独で使用した。なお、OXA−54の産生菌は、臨床検査において、現在のところ大きな問題となっていないため、本実施例においては、抗OXA−54抗体は使用しなかった。
【0082】
(オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のイムノクロマト法による検出)
上述のキットを用いてオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出した。まず、感染菌サンプル(被検菌株)を静置培養法により培養した。続いて、培地表面の菌体を掻き取り、1mLの懸濁用希釈液に懸濁し、菌体懸濁液を調製した。続いて、菌体懸濁液を100μL分取し、金コロイドで標識された抗オキサ型β−ラクタマーゼ抗体10μLと混合し、抗体反応液を調製した。続いて、抗体反応液の全量をテストプレートの感染菌サンプル滴下領域に滴下した。続いて、30分間静置後、検出領域におけるバンドの有無を目視により判定した。
【0083】
図10に、抗OXA−23/40抗体、抗OXA−51抗体及び抗OXA−58抗体を用いて、それぞれOXA−23又はOXA−40の産生菌(a)、OXA−51の産生菌(b)及びOXA−58の産生菌(c)を検出した代表的な結果を示す。このキットを用いて、OXA−23又はOXA−40の産生菌、OXA−51の産生菌及びOXA−58の産生菌を簡便に検出することができた。
【0084】
(PCR法及びイムノクロマト法によるオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出)
日本全国の医療施設において、PCR法によりオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出した。その結果、OXA−23の産生菌6株、OXA−40の産生菌1株、OXA−51の産生菌15株及びOXA−58の産生菌5株の合計27株のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌が検出された。結果を表9に示す。OXA−23陽性株はいずれもOXA−51陽性であった。
【0085】
続いて、PCR法による検出でOXA−23、OXA−40、OXA−51又はOXA−58の産生菌と判断された27株の菌株をサンプルとして、上述のイムノクロマト法によるキットを用いたオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出を行った。結果を表9に示す。PCR法による検出においては、OXA−23、OXA−40、OXA−51又はOXA−58の産生菌を別々に検出したが、上述のように、イムノクロマト法においては、OXA−23及びOXA−24の産生菌は、混合した抗体を用いて同時に検出した。PCR法とイムノクロマト法による検出結果は非常によく一致し、PCR法によりOXA−23、OXA−40、OXA−51又はOXA−58の産生菌と判断された27株の菌株のうち、26株がイムノクロマト法によりOXA−23、OXA−40、OXA−51又はOXA−58の産生菌として検出された。PCR法でOXA−58の産生菌と判断された菌株のうち1株のみについて、イムノクロマト法で陰性と判断された。PCR法とイムノクロマト法による検出結果の一致率は、下記計算式(1)から96.3%と計算された。
26サンプル/27サンプル×100=96.3(%)・・・(1)
以上の結果は、検査が簡便で、臨床検査においても使用することが可能なイムノクロマト法による検査により、より正確なPCR法による検出結果と非常によく一致した検出結果が得られることを示す。
【0086】
【表9】

【0087】
(イムノクロマト法で検出されたオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の抗菌薬感受性)
上記のイムノクロマト法によるキットを用いた検査により、入院中の患者由来の感染菌サンプルからオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出した。この結果、OXA−23及びOXA−51の両方を産生する産生菌が3株検出された。
【0088】
これらの3株のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌について、表10に示す抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。具体的には、段階希釈した抗菌薬を含む培地をマイクロプレート上に調製し、これに上記のOXA−23及びOXA−51の両方を産生する産生菌を接種して一夜培養後、培地の濁度あるいは沈殿の目視によって、菌株の発育が阻止される抗菌薬の最小濃度を求めた。
【0089】
代表的な結果を表10に示す。3株とも同様な結果を示した。この結果は、例えばこの菌株の培養液に、抗菌薬としてアンピシリンを添加した場合、32μg/mLの濃度のアンピシリンを添加しても菌体の発育を阻止できないことを示す。この結果から明らかなように、これらの菌株に有効な抗菌薬はミノサイクリンのみであり、その他の抗菌薬には耐性を有していた。この結果は、多くの抗菌薬に対する耐性を有し、感染症治療において重大な問題となりうるオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を、上記のイムノクロマト法によるキットで検出することが可能であることを示す。
【0090】
【表10】

【0091】
(イムノクロマト法及びPCR法による、オキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出結果の比較)
続いて、イムノクロマト法によるキットにより検出された、上述のOXA−23及びOXA−51の両方を産生する3株の産生菌それぞれをサンプルとして、PCR法により、OXA−23及びOXA−51の産生菌であるか否かを検討した。
【0092】
図11にPCR増幅した各サンプルのアガロースゲル電気泳動の結果を示す。図11において、レーン1〜4、5〜8及び9〜12は、それぞれ別の菌株サンプルのPCR増幅の結果を示し、Mは分子量マーカーを示す。PCR反応の鋳型として、各菌株の懸濁液を100℃で5分間熱処理後、10000rpmにて5分間遠心分離して得られた上清液を用いた。図11において、レーン1、5及び9は、菌株のゲノム上のOXA−23遺伝子の存在を検出したものである。また、レーン2、6及び10は、遺伝子組換えによりOXA−23遺伝子の上流にISAba配列が隣接し、OXA−23が発現可能な状態になっているか否かを検出したものである。また、レーン3、7及び11は、菌株のゲノム上のOXA−51遺伝子の存在を検出したものである。また、レーン4、8及び12は、遺伝子組換えによりOXA−51遺伝子の上流にISAba配列が隣接し、OXA−51が発現可能な状態になっているか否かを検出したものである。レーン1、5及び9におけるサンプルのPCR反応には、プライマーOXA23Fw(配列番号6)及びOXA23Rv(配列番号7)を用いた。レーン2、6及び10におけるサンプルのPCR反応には、プライマーIsaba1Fw(配列番号16)及びOXA23Rv(配列番号7)を用いた。レーン3、7及び11におけるサンプルのPCR反応には、プライマーOXA51Fw(配列番号10)及びOXA51Rv(配列番号11)を用いた。レーン4、8及び12におけるサンプルのPCR反応には、プライマーIsaba1Fw(配列番号16)及びOXA51Rv(配列番号11)を用いた。
【0093】
その結果、レーン1〜12の全てに増幅バンドが検出された。この結果は、これらの3株の菌株が、いずれもOXA−23遺伝子をゲノム上に持っており、このOXA−23遺伝子は発現可能な状態であり、さらに、OXA−51遺伝子をゲノム上に持っており、このOXA−51遺伝子は発現可能な状態であることを示す。
【0094】
以上の結果はまた、イムノクロマト法によるオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出結果とPCR法によるオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出結果が良好に一致したことを示す。
【符号の説明】
【0095】
1…担体、11,12,13…抗体、20…メンブレン、21…感染菌サンプル滴下領域、22…色素標識抗体搭載領域、23,31,32,33,34,35…検出領域、24…コントロール領域、100,200,300,400…抗体結合担体、500,600…イムノクロマト用ストリップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(e)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
の存在を検出する、検出ステップと、
検出ステップにおいて、前記(a)〜(e)のタンパク質のうち、いずれか1つ以上のタンパク質が検出された場合に、前記感染菌サンプル中にオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌が存在すると判定する、判定ステップと
を含む、前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法。
【請求項2】
感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(e)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
の存在を検出する、検出ステップと、
検出ステップにおいて、前記(a)〜(e)の各タンパク質の発現の有無に基づいて前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定する、同定ステップと
を含む、前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定方法。
【請求項3】
前記検出ステップが、以下の(a)〜(e)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
に対する抗体の抗原抗体反応により行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法によって、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定するためのキットであって、以下の(a)〜(e)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
に対する抗体を含む、キット。
【請求項5】
感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(d)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
の存在を検出する、検出ステップと、
検出ステップにおいて、前記(a)〜(d)のタンパク質のうち、いずれか1つ以上のタンパク質が検出された場合に、前記感染菌サンプル中にオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌が存在すると判定する、判定ステップと
を含む、前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌の検出方法。
【請求項6】
感染菌サンプル中の、以下の(a)〜(d)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
の存在を検出する、検出ステップと、
検出ステップにおいて、前記(a)〜(d)の各タンパク質の発現の有無に基づいて前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定する、同定ステップと
を含む、前記感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプの同定方法。
【請求項7】
前記検出ステップが、以下の(a)〜(d)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
に対する抗体の抗原抗体反応により行われる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の方法によって、感染菌サンプル中のオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌を検出又はオキサ型β−ラクタマーゼ産生菌のタイプを同定するためのキットであって、以下の(a)〜(d)のタンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;及び
(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりオキサシリナーゼ活性を有するタンパク質;
に対する抗体を含む、キット。
【請求項9】
凝集アッセイ用である、請求項4又は8に記載のキット。
【請求項10】
イムノクロマト用である、請求項4又は8に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−187665(P2010−187665A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13090(P2010−13090)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(508227927)
【出願人】(508228175)
【出願人】(508227938)
【Fターム(参考)】