説明

オキシムの製造方法

【課題】ケトンとアンモニアとの反応により得られる副生成物の生成を低減し、ケトン、有機過酸化物及びアンモニアからオキシムを良好な収率で製造すること。
【解決手段】ケトン、有機過酸化物及びアンモニアからオキシムを製造する方法であって、隔膜の一方の側にアンモニアを存在させ、隔膜の他方の側で、隔膜を透過したアンモニアと、有機過酸化物と、ケトンとを触媒の存在下に反応させることを特徴とする。触媒は、隔膜の他方の側の隔膜表面に担持されてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトン、有機過酸化物及びアンモニアからオキシムを製造する方法に関するものである。オキシムは、アミドやラクタムの原料等として有用である。
【背景技術】
【0002】
ケトン、有機過酸化物及びアンモニアからオキシムを製造する方法として、特許文献1及び2には、反応器内で、触媒の存在下に、ケトン、有機過酸化物及びアンモニアを混合してオキシムを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−24144号公報
【特許文献2】特開2011−21006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、目的物であるオキシムのほかに、ケトンとアンモニアとの反応により得られる副生成物の生成量が増加してしまうことがあり、オキシムの品質や収率の点で必ずしも満足のいくものではなかった。そこで、本発明の目的は、ケトンとアンモニアとの反応により得られる副生成物の生成を低減し、ケトン、有機過酸化物及びアンモニアからオキシムを良好な収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記目的を達成しうる本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、隔膜の一方の側にアンモニアを存在させ、隔膜の他方の側で、隔膜を透過したアンモニアと、有機過酸化物と、ケトンとを触媒の存在下に反応させることを特徴とするオキシムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ケトンとアンモニアとの反応により得られる副生成物の生成を低減し、ケトン、有機過酸化物及びアンモニアからオキシムを良好な収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るオキシムの製造方法の一実施形態を模式的に示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、隔膜の一方の側にアンモニアを存在させ、隔膜の他方の側で、隔膜を透過したアンモニアと、有機過酸化物と、ケトンとを触媒の存在下に反応させる。原料のケトンは、脂肪族ケトンであってもよいし、脂環式ケトンであってもよいし、芳香族ケトンであってもよく、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。ケトンの具体例としては、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトンのようなジアルキルケトン;メシチルオキシドのようなアルキルアルケニルケトン;アセトフェノンのようなアルキルアリールケトン;ベンゾフェノンのようなジアリールケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、シクロドデカノンのようなシクロアルカノン;シクロペンテノン、シクロヘキセノンのようなシクロアルケノン等が挙げられる。中でもシクロアルカノンが本発明の好適な対象となる。
【0010】
原料のケトンは、例えば、アルカンの酸化により得られたものであってもよいし、2級アルコールの酸化(脱水素)により得られたものであってもよいし、アルケンの水和及び酸化(脱水素)により得られたものであってもよい。
【0011】
アンモニアは、ガス状のものを用いてもよいし、液状のものを用いてもよく、また有機溶媒の溶液として用いてもよい。ガス状のアンモニアを使用する場合は、必要に応じて不活性ガスで希釈される。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。アンモニアの使用量は、有機過酸化物及びケトンとの反応後に、反応混合物の液相におけるアンモニア濃度が0.01重量%以上となるように調整されるのが好ましい。このように該液相中のアンモニア濃度を所定値以上とすることにより、ケトンの転化率と目的物のオキシムの選択率を高めることができ、その結果、目的物のオキシムの収率も高めることができる。このアンモニア濃度は、好ましくは0.1重量%以上であり、また、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。なお、アンモニア使用量の目安は、ケトン1モルに対して、通常0.1モル以上、さらには0.5モル以上であり、有機過酸化物1モルに対して、通常0.1モル以上、さらには0.5モル以上である。
【0012】
有機過酸化物としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシド;t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−ヘキシルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α’−ジ(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3のようなジアルキルペルオキシド;クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、t−ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルペルオキシバレート、t−ブチルペルオキシピバレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシベンゾエートのようなペルオキシエステル;ジイソブチリルペルオキシド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジサクシニックアシドペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシドのようなジアシルペルオキシド;ジイソプロピルペルオキシジカルボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカルボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカルボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカルボネートのようなペルオキシジカルボネート等が挙げられる。中でも、ヒドロペルオキシドが好ましい。
【0013】
有機過酸化物の使用量は、ケトン1モルに対して、通常0.05〜20モルであり、好ましくは0.1〜15モルである。
【0014】
本発明において、有機過酸化物は、反応後にアルコールやカルボン酸へと変換されるが、これらは蒸留、抽出等により回収可能であるため、コスト面で有利となる。例えば、有機過酸化物としてクメンヒドロペルオキシドを使用した場合、反応後に得られる2−フェニル−2−プロパノールは、水添、酸化することによりクメンヒドロペルオキシドとして回収、再使用することができる。
【0015】
本発明における触媒としては、遷移金属及び酸化物を含む触媒が好ましい。遷移金属としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等が挙げられ、これらは1種または2種以上が含まれてもよい。中でも、チタンが好ましい。酸化物としては、例えば、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物等が挙げられ、これらは1種または2種以上が含まれてもよく、2種以上が含まれる場合は、これらの複合酸化物でもよい。中でも、ケイ素酸化物が好ましい。遷移金属及び酸化物を含む触媒としては、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒が好ましい。
【0016】
チタン及びケイ素酸化物を含む触媒としては、例えば、チタンを含有するシリケート、チタンを含有するシリカ等が挙げられる。
【0017】
チタンを含有するシリケートとしては、例えば、チタンを含有するメソポーラスシリケート、チタンを含有する結晶性シリケート等が挙げられる。メソポーラスシリケートとしては、例えば、MCM−41、MCM−48、HMS、SBA−15、FSM−16、MSU−H、MSU−F等が挙げられる。結晶性シリケートとしては、例えば、シリカライト−1(MFI型)、シリカライト−2(MEL型)、ITQ−1(MWW型)、YNU−2(MSE型)等が挙げられる。チタンを含有するシリケートの中でも、チタンを含有するメソポーラスシリケートが好ましく、チタンを含有するMCM−41、チタンを含有するHMSがより好ましい(以下、チタンを含有するMCM−41、チタンを含有するHMSをそれぞれ、Ti−MCM−41、Ti−HMSと称することがある。)。尚、メソポーラスシリケートとは、2〜50nm程度の細孔径を有するメソ多孔性のシリケートを意味するものである。メソポーラス構造の有無は、銅Kα線によるXRD(X線回折)測定における2θ=0.2〜4.0°のピークの有無で確認することができる。チタンを含有するシリケートにおけるチタンは、シリケート骨格中に組み込まれていてもよく、細孔中に組み込まれていてもよく、シリケート骨格表面に担持されていてもよい。前記のチタンを含有するシリケート、チタンを含有するメソポーラスシリケート、チタンを含有する結晶性シリケート、チタンを含有するMCM−41、チタンを含有するHMSにおいては、それぞれ、シリケート骨格中にチタンを含有するものが好ましい。
【0018】
チタンを含有するシリカとしては、シリカ担体にチタンが担持されてなるものや、チタニア−シリカ複合酸化物等が挙げられる。
【0019】
チタン及びケイ素酸化物を含む触媒に含まれうる、チタン、ケイ素及び酸素以外の元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等が挙げられる。該触媒がチタンを含有するシリケートの場合、チタン、ケイ素及び酸素以外に含まれうる元素は、シリケート骨格中に組み込まれていてもよく、細孔中に組み込まれていてもよく、シリケート骨格表面に担持されていてもよい。該触媒がシリケート骨格中にチタンを含有するシリケート(チタノシリケート)の場合、該シリケートは、骨格を構成する元素として、チタン、ケイ素及び酸素を含むものであり、実質的にチタン、ケイ素及び酸素のみから骨格が構成されるものであってもよいし、骨格を形成する元素としてさらにホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等、チタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含むものであってもよい。該触媒がチタンを含有するシリカの場合、チタン、ケイ素及び酸素以外に含まれうる元素は、シリカ骨格中に組み込まれていてもよく、シリカ表面に担持されていてもよい。
【0020】
上記チタン及びケイ素酸化物を含む触媒におけるチタンの含有量は、ケイ素に対する原子比(Ti/Si)で表して、通常0.0001以上、好ましくは0.005以上であり、また、通常1.0以下、好ましくは0.5以下である。なお、このチタン及びケイ素酸化物を含む触媒がチタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含む場合、該元素の含有量は、ケイ素に対する原子比で表して、通常1.0以下、好ましくは0.5以下である。また酸素は、酸素以外の各元素の含有量及び酸化数に対応して存在しうる。かかるチタン及びケイ素酸化物を含む触媒の典型的な組成は、ケイ素を基準(=1)として、次の式で示すことができる。
【0021】
SiO2・xTiO2・yMnn/2
【0022】
(式中、Mはケイ素、チタン及び酸素以外の少なくとも1種の元素を表し、nは該元素の酸化数であり、xは0.0001〜1.0であり、yは0〜1.0である。)
【0023】
なお、上記式中、Mはチタン、ケイ素及び酸素以外の元素であり、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等が挙げられる。
【0024】
上記チタン及びケイ素酸化物を含む触媒は、水熱合成法、ゾルゲル法などにより調製される。例えば、チタンを含有するメソポーラスシリケートの場合、酸性化合物又は塩基性化合物の存在下、水性溶媒中、原料チタン化合物、原料ケイ素化合物及び構造規定剤(テンプレート)を混合した後、一定の温度及び圧力の条件下、又は後述の温度及び圧力の範囲内で温度及び/又は圧力を変動させる条件下にて熟成して、構造規定剤が組み込まれたチタン含有シリケートを得、このチタン含有シリケートから構造規定剤を除去することにより、チタンを含有するメソポーラスシリケートが調製される。チタニア−シリカ複合酸化物の場合、酸性化合物又は塩基性化合物の存在下、水性溶媒中、原料チタン化合物及び原料ケイ素化合物を混合した後、一定の温度及び圧力の条件下、又は後述の温度及び圧力の範囲内で温度及び/又は圧力を変動させる条件下にて熟成することにより調製される。
【0025】
チタンを含有するメソポーラスシリケートの構造は、使用する構造規定剤の種類や量等により調整することができ、例えば、Ti−MCM−41を調製する場合には、臭化セチルトリメチルアンモニウム塩の如き第四級アンモニウム塩等が用いられ、Ti−HMSを調製する場合には、n−ドデシルアミンの如き一級アミン等が用いられる。一方、上記原料チタン化合物としては、テトラ−n−ブチルオルソチタネートの如きテトラアルキルオルソチタネートや、ペルオキシチタン酸テトラ−n−ブチルアンモニウムの如きペルオキシチタン酸塩、ハロゲン化チタン等が挙げられ、上記原料ケイ素化合物としては、テトラエチルオルソシリケートの如きテトラアルキルオルソシリケートや、シリカ等が挙げられる。また、上記酸性化合物としては、塩化水素の如き無機酸や酢酸の如き有機酸が挙げられ、上記塩基性化合物としては、水酸化アルカリやアンモニアの如き無機塩基やピリジンの如き有機塩基が挙げられる。さらに、上記水性溶媒としては、水や、メタノール、エタノール、プロパノ−ル、2−プロパノ−ル等の水溶性の有機溶媒、または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。
【0026】
チタンを含有するメソポーラスシリケート又はチタニア−シリカ複合酸化物の調製時の熟成における温度は、通常−20〜200℃、好ましくは20〜170℃であり、圧力は、通常、絶対圧で0.1〜1.0MPa、好ましくは0.1〜0.8MPaである。上記熟成の時間は、通常0.5〜170時間、好ましくは4〜72時間である。
【0027】
チタンを含有するメソポーラスシリケートを調製する場合、上記熟成により、構造規定剤が組み込まれているチタン含有シリケートが得られ、次いで、このチタン含有シリケートから構造規定剤を除去する。かかる除去方法としては、メタノール、アセトン、トルエン等の有機溶媒により洗浄する方法、塩酸(塩化水素の水溶液)、硫酸水溶液、硝酸水溶液等により洗浄する方法、200〜800℃で熱処理する方法等が挙げられる。上記除去方法は、いずれか一つを採用してもよく、二つ以上を組み合わせて採用してもよい。
【0028】
なお、Ti−MCM−41は、例えば、マイクロポーラス・アンド・メソポーラス・マテリアルズ、2007年、P312−321に記載の方法に準拠して調製することができ、Ti−HMSは、例えば、ネイチャー、1994年、P321−323に記載の方法に準拠して調製することができる。
【0029】
上記チタン及びケイ素酸化物を含む触媒は、ケイ素化合物で接触処理されていてもよい。かかるケイ素化合物としては、有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物が挙げられ、中でも、有機ケイ素化合物が好ましい。有機ケイ素化合物としては、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒と反応してその表面に結合可能なものであるのが好ましく、中でも、アルコキシシラン化合物、有機ジシラザン化合物、ハロゲン化有機シラン化合物が好ましく、アルコキシシラン化合物、有機ジシラザン化合物がより好ましい。アルコキシシラン化合物、有機ジシラザン化合物、ハロゲン化有機シラン化合物は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン等が挙げられ、中でも、トリアルキルアルコキシシランが好ましい。テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトラプロピルオルソシリケート、テトラブチルオルソシリケート等が挙げられ、アルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、ジアルキルジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられ、トリアルキルアルコキシシランとしては、例えば、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。有機ジシラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンやジ-n-ブチルテトラメチルジシラザンの如きヘキサアルキルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザン、テトラフェニルジメチルジシラザン等が挙げられ、中でも、ヘキサアルキルジシラザンが好ましい。ハロゲン化有機シラン化合物としては、例えば、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、クロロブロモジメチルシラン、ヨードジメチルブチルシラン等が挙げられる。触媒表面の水酸基をトリアルキルシリル基に変換できるという点で、有機ケイ素化合物として、トリアルキルアルコキシシラン及びヘキサアルキルジシラザンからなる群から選ばれる少なくとも一種を使用するのが好ましい。
【0030】
無機ケイ素化合物としては、例えば、珪酸、シリカゲル、フュ−ムドシリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。
【0031】
ケイ素化合物による接触処理方法としては、例えば、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒をケイ素化合物を含む液体又はスラリーに浸漬する方法や、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒にケイ素化合物を含む気体を接触させる方法等が挙げられる。前記接触処理は、酸や塩基を適宜添加して、酸性条件下、塩基性条件下又は中性条件下で行うことができ、接触処理の途中で酸性、塩基性又は中性の条件を変更しながら行ってもよい。前記浸漬は、攪拌しながら行うことが好ましい。前記浸漬においては、浸漬後、例えば、浸漬後の混合物をそのまま乾燥することにより、あるいは、浸漬後の混合物から、得られたチタン及びケイ素酸化物を含む触媒を濾過やデカンテーション等により分離した後、必要に応じて洗浄し、乾燥することにより、ケイ素化合物で接触処理されてなるチタン及びケイ素酸化物を含む触媒が得られる。前記乾燥は、常圧下、減圧下のいずれでも行うことができ、乾燥温度は、20〜150℃が好ましく、乾燥時間は、0.5〜100時間が好ましい。
【0032】
ケイ素化合物の使用量は、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒100重量部に対し、通常1〜10000重量部、好ましくは5〜2000重量部、さらに好ましくは10〜1500重量部である。尚、上述のとおり、ケイ素化合物としてアルコキシシラン化合物、有機ジシラザン化合物及びハロゲン化有機シラン化合物の内、2種以上を併用する場合、合計使用量が上記範囲となるようにすればよい。また、上述のとおり、ケイ素化合物としてトリアルキルアルコキシシラン及びヘキサアルキルジシラザンを使用する場合、合計使用量が上記範囲となるようにすればよい。
【0033】
ケイ素化合物による接触処理の温度は、液体又はスラリーに浸漬する場合、好ましくは0〜200℃、より好ましくは30〜100℃であり、気体を接触させる場合、好ましくは0〜800℃、より好ましくは100〜500℃である。該接触処理の時間は、液体又はスラリーに浸漬する場合、好ましくは0.5〜50時間、より好ましくは1〜20時間であり、気体を接触させる場合、0.5〜100時間、好ましくは1〜50時間である。
【0034】
ケイ素化合物を含む液体又はスラリーの調製には、ケイ素化合物を安定に存在させるために溶媒を使用してもよい。また、ケイ素化合物及び溶媒を含む液体を気化させて、ケイ素化合物を含む気体として使用してもよい。溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、アセト二トリル、トルエン、キシレン、クメン、テトラヒドロフラン、四塩化炭素、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。上記溶媒は、いずれか一つを採用してもよく、二つ以上を採用してもよい。
【0035】
上記チタン及びケイ素酸化物を含む触媒にケイ素化合物を含む気体を接触させる処理は、ケイ素化合物を含む気体とともに不活性ガスを存在させて行ってもよい。前記不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0036】
なお、本発明の製造方法に用いられる触媒は、粒状やペレット状等の形状に、必要に応じてバインダーを用いて、成形してから使用してもよいし、隔膜とは異なる担体に担持して使用してもよいし、隔膜に担持して使用してもよいし、それ自体を成膜して隔膜として使用してもよいが、隔膜に担持して使用するのが好ましい。
【0037】
隔膜(但し、触媒を成膜して得られる隔膜は除く)の材質としては、例えば、酸化物、焼結金属等の多孔体が挙げられ、中でも、酸化物の多孔体が好ましい。酸化物としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア等が挙げられ、それらの2種以上の混合物や、それらの2種以上の複合酸化物や、酸化物を主成分とするセラミックスや、ガラス等を使用してもよいが、中でも、アルミナが好ましい。
【0038】
隔膜の形状は、平膜状、チューブ状、モノリス状、ハニカム状等が挙げられる。
【0039】
触媒を隔膜に担持して使用する場合において、その担持方法としては、(A)触媒原料を隔膜とともに水熱合成に付し、隔膜上に触媒層を形成させる方法、(B)隔膜に触媒を含む溶液又はスラリーを含浸させる方法、(C)触媒を含む溶液又はスラリーに隔膜を浸漬させる方法、(D)隔膜を回転させながら、隔膜上に触媒を含む溶液又はスラリーを滴下する方法、(E)触媒を含む溶液又はスラリーから隔膜を介して溶媒を除去し、隔膜上に触媒層を形成させる方法等が挙げられるが、前記(E)の方法が好ましい。隔膜に担持される触媒の担持量は、原料に対する触媒の使用量等により適宜設定されるが、隔膜100重量部に対して、0.1〜10重量部である。
【0040】
本発明の製造方法においては、溶媒を使用するのが好ましい。溶媒の例としては、ブタン、ペンタン、へキサン、シクロへキサン、ベンゼン、クメン、トルエン、キシレンのような炭化水素や、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、トリメチルアセトニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリルのようなニトリルや、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、t−アミルアルコールのようなアルコールなどが挙げられる。中でも炭化水素やニトリルが好適である。また、必要に応じそれらの2種以上を用いることもできる。
【0041】
溶媒を使用する場合、その量は、ケトン1重量部に対して、通常1〜500重量部、好ましくは2〜300重量部であり、有機過酸化物1重量部に対して、通常1〜500重量部、好ましくは2〜300重量部である。
【0042】
次に、本発明にかかるオキシムの製造方法における反応形式について説明する。本発明では、まず、前記隔膜の一方の側に、温度、圧力等の反応条件を適宜調整し、アンモニアを存在させる(但し、前記隔膜の一方の側には、有機過酸化物及びケトンは存在させないものとする)。アンモニアは隔膜を透過し、隔膜の他方の側に移動するので、移動したアンモニアを、隔膜の他方の側で触媒の存在下に、温度、圧力等の反応条件を適宜調整して、有機過酸化物及びケトンと反応させることにより、ケトンのオキシム化反応が起こり、目的物であるオキシムが生成する。尚、移動したアンモニアを、触媒の存在下に、有機過酸化物と反応させた後、得られたヒドロキシルアミンを含む反応物をケトンと接触させることにより、ケトンのオキシム化反応を行ってもよい。本反応形式を採用することにより、供給したアンモニアが、触媒と有機過酸化物から形成される触媒活性種と接触し易くなるため、触媒活性種とアンモニアとの反応から生成するヒドロキシルアミンとケトンとを効率よく反応させることができ、その結果、未反応のアンモニアとケトンが接触することによる副生成物の生成量を低減させて良好な収率でオキシムを製造することができる。前記隔膜の他方の側に存在する触媒は、隔膜とは別に触媒充填層として存在させてもよいし、反応系に添加して存在させてもよいし、隔膜表面に担持して存在させてもよいが、隔膜表面に担持して存在させるのが好ましい。また、前記隔膜の一方の側にも触媒を存在させてもよい。溶媒を使用する場合は、前記隔膜の一方の側に溶媒を存在させて、隔膜を透過させることにより隔膜の他方の側にも溶媒を存在させてもよいし、前記隔膜の他方の側のみに溶媒を存在させてもよい。
【0043】
本発明にかかるオキシムの製造方法において、用いられる反応器の具体例としては、前記隔膜で隔離された2つの室を有する反応器、いわゆるメンブレンリアクターが挙げられる。メンブレンリアクターとしては、隔膜に触媒活性を付与した触媒膜型反応器や、隔膜とは別に触媒を充填層として有する充填層型膜型反応器が挙げられるが、触媒膜型反応器が好ましい。尚、反応器は、有機過酸化物の分解を防ぐ観点から、グラスライニングされたものやステンレススチール製のものが好ましい。
【0044】
オキシム化反応の反応温度は、通常50〜200℃、好ましくは80〜150℃である。また、反応圧力は、通常、絶対圧で0.1〜1.0MPa、好ましくは0.2〜0.9MPaである。反応混合物の液相にアンモニアが溶解し易くするために、加圧下に反応を行うのが好ましく、この場合、窒素やヘリウム等の不活性ガスを用いて、圧力を調整してもよい。
【0045】
得られたオキシム化反応後の反応混合物の後処理操作については、適宜選択されるが、例えば、オキシム化反応後の混合物を蒸留に付すことにより、オキシムを分離することができる。オキシム化反応後の混合物が固体触媒を含むスラリーである場合には、例えば、固体触媒を濾過やデカンテーション等により分離した後、液相を蒸留に付すことにより、オキシムを分離することができる。分離した触媒は、必要に応じて洗浄、焼成、ケイ素化合物による再接触等の処理が施された後、再使用することができる。また、オキシム化反応後の混合物中に溶媒や未反応原料が含まれる場合、前記液相の蒸留により回収された溶媒や未反応原料は再使用することができる。得られたオキシムは、例えば、ベックマン転位反応により、対応するラクタム等のアミド化合物を製造するための原料として好適に使用される。
【0046】
次に、図1を参照して、本発明にかかるオキシムの製造方法の一実施形態について説明する。なお、図1は、本実施形態のオキシムの製造方法を実施するために使用されるメンブレンリアクターの内部構造を示す概略図である。
【0047】
図1において、メンブレンリアクター10は、有機過酸化物及びケトンを供給するための有機過酸化物及びケトンの供給口1と、オキシム化反応後の混合物を導出するための反応混合物出口2と、アンモニアを供給するためのアンモニア供給口3と、ガス出口4と、隔膜5と、オキシム化反応部6と、アンモニア滞留部7と、内筒8と、外筒9とを備えている。内筒8と外筒9との間の空間が、第一室としてアンモニア滞留部7を形成する。内筒8は、隔膜5と、オキシム化反応部6とから構成されており、第二室としてオキシム化反応部6が形成されている。触媒は、少なくとも第二室側に存在させる。
【0048】
隔膜5は、隔膜の表面積を広くし、接触効率を高めて反応効率を高くするという観点から、モノリス状やハニカム状のものが好ましく、その外形が円筒状のものが好ましい。また、オキシム化反応後に得られる反応混合物に触媒が混入することなく、後処理操作が容易となる点で、触媒活性が付与されたものが好ましい。触媒活性が付与された隔膜としては、触媒が担持された隔膜や、触媒自体を成膜した隔膜が挙げられるが、機械的強度の点で、触媒が担持された隔膜が好ましい。触媒が担持された隔膜を使用する場合は、少なくとも第二室側の隔膜表面に触媒が担持されたものを使用する。
【0049】
アンモニアは、アンモニア供給口3から、隔膜5の外側に形成されているアンモニア滞留部7に供給され、アンモニアは隔膜5を透過する。この際、アンモニア滞留部7は、所定の反応圧力、反応温度に調整される。隔膜5を透過したアンモニアは、オキシム化反応部6の中で、隔膜5の内側に存在する触媒と、有機過酸化物及びケトンの供給口1より供給された有機過酸化物とから形成される触媒活性種と接触し、さらに有機過酸化物及びケトンの供給口1より供給されたケトンと接触することによりオキシム化反応が起こり、目的とするオキシムが生成する。この際、オキシム化反応部6は、所定の反応圧力、反応温度に調整される。ガス出口4は、閉止されていてもよいし、窒素シールされていてもよいが、閉止されているのが好ましい。窒素シールされている場合は、未反応のアンモニアがガスとして窒素と同伴してガス出口4から排出される。生成したオキシムを含む反応混合物は、反応混合物出口2から導出される。また、アンモニアの供給、有機過酸化物及びケトンの供給、並びに反応混合物の導出は、生産性及び操作性の観点から、連続的に行うのが好ましい。尚、反応は、加圧条件下で行うのが好ましい。
【0050】
有機過酸化物及びケトンの供給は、それぞれ単独で供給(いわゆる共フィード)してもよいし、これらの混合物を供給してもよい。
【0051】
連続式の反応における、アンモニアの供給量は、ケトン1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、より好ましくは0.5モル以上であり、有機過酸化物1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、より好ましくは0.5モル以上である。連続式の反応における、有機過酸化物の供給量は、ケトン1モルに対して、0.05〜20モルが好ましく、より好ましくは0.1〜15モルである。
【0052】
また、反応に溶媒を使用する場合、溶媒は、アンモニアとともに供給してもよいし、有機過酸化物及びケトンとともに供給してもよいし、アンモニアとともに供給し、かつ有機過酸化物及びケトンとともに供給してもよいし、別の供給口を設けて供給してもよい。
【0053】
メンブレンリアクター10としては、隔膜の表面積を広くし、反応効率を高めるという観点から、隔膜5と、オキシム化反応部6とから構成された内筒8が、外筒9内に複数設置された多管状の隔膜5を有するものが好ましい。
【0054】
原料であるケトン、有機過酸化物及びアンモニアの供給は、有機過酸化物及びケトンを第一室に供給し、アンモニアを第二室に供給することにより行ってもよい。この場合、触媒は、少なくとも第一室側に存在させる。
【0055】
本発明の製造方法で用いることのできる反応装置はこれらに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、任意に設計変更することは可能である。また、図1における図示は省略しているが、通常用いられる加熱装置、冷却装置、温度計、圧力計、圧力調整弁等が適宜設置されうる。
【符号の説明】
【0056】
10:メンブレンリアクター、1:有機過酸化物及びケトンの供給口、2:反応混合物出口、3:アンモニア供給口、4:ガス出口、5:隔膜、6:オキシム化反応部、7:アンモニア滞留部、8:内筒、9:外筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜の一方の側にアンモニアを存在させ、隔膜の他方の側で、隔膜を透過したアンモニアと、有機過酸化物と、ケトンとを触媒の存在下に反応させることを特徴とするオキシムの製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、前記隔膜の他方の側の隔膜表面に担持されてなる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機過酸化物が、ヒドロペルオキシドである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒が、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、チタンを含有するシリケート又はチタンを含有するシリカである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記シリケートが、メソポーラスシリケートである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記触媒が、ケイ素化合物で接触処理されている請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ケイ素化合物が、アルコキシシラン化合物、有機ジシラザン化合物及びハロゲン化有機シラン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ケトンが、シクロアルカノンである請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201627(P2012−201627A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67577(P2011−67577)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】