説明

オキシメーター

【課題】小型の測定モジュールが得られるようにして、これにより測定スペクトルの迅速な記録ならびにヘモグロビン誘導体以外の他のアナライトの測定が可能とするオキシメーターを提供する。
【解決手段】サンプル中のヘモグロビン誘導体の分光光度的定量のためのオキシメーターであって、測定光源は、ヘモグロビン誘導体の定量のために、ヘモグロビン誘導体が有意な吸光度を示すスペクトル領域Bの少なくとも1つの中で測定用放射線を発し、また少なくとも1種の他のアナライトの定量のために、少なくとも1種の他のアナライトが有意な吸光度を示す他のスペクトル領域Aの少なくとも1つの中で測定用放射線を発する多色LEDである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル(好ましくは溶血サンプル)中のヘモグロビン誘導体および少なくとも1種の他のアナライトの分光光度的in vitro測定(または検出もしくは定量)のためのオキシメーターであって、該オキシメーターが、測定用放射線を発する単一の測定光源、サンプルチャンバー(例えばサンプルを入れる測定キュベット)、サンプルとの相互作用の後に測定用放射線のスペクトルを記録する検出装置、また該検出装置によって得られたスペクトルからヘモグロビン誘導体および少なくとも1種の他のアナライトを測定する該検出装置の後続の評価ユニットを含む、上記オキシメーターに関する。
【背景技術】
【0002】
現在入手可能なオキシメーターは、測定光源として主に白熱灯を用いる。"Technical Aspects of Bilirubin Determination in Whole Blood";HALLEMANNら;Point of Care Volume 4, Number 1, March 2005には、血液ガス分析装置(OMNI血液ガス分析装置)のオキシメーターモジュールが記載されており、このオキシメーターモジュール中で、ビリルビンは、ヘモグロビン誘導体以外の他のアナライトとして分光学的に測定される。測定光源として、広いスペクトル範囲を有するハロゲンランプが使用される。
【0003】
JP 2004-108781から分光器が公知であり、この分光器においては、サンプル中のアナライトを測定するために、例えば、サンプルへの照射の前に、白色光LEDから発せられた光が、2つの回折格子によってそのスペクトル成分に分けられ、その後投射スリットを通してサンプルへと放射される。透過幾何学に基づく変形例ならびに反射幾何学に基づく変形例が記載されており、ここでは透過光または反射光の強度は、各波長について時系列で測定される。この公知の分光器の不利点は、測定光をそのスペクトル成分に分ける2つの回折格子を用いたスペクトルの記録に時間がかかる点である。
【0004】
U.S. Pat. No. 2005/0154277 A1から、小型「in vivo」分光器が公知であり、この分光器は、例えば存在するヘモグロビン誘導体の分光分析を用いて胃腸管内の出血を検出するために、体内で用いることができる。LEDを光源として用いることができる。
【0005】
さらに、U.S. Pat. No. 2005/0267346から、非侵襲的オキシメーターの使用が公知であり、ここでは、指先または耳たぶの血液で満たされた組織に光が放射され、透過光法または反射光法を用いて、血中の光吸収から血液組成(酸素飽和度)が推測される。光源として白色光LEDを使用することができるが、組織への照射のための規定された波長を選択するため、照射の前にフィルタまたは回折格子を使用しなければならない。
【0006】
U.S. Pat. No. 6,262,798 B1から、溶血していない血液を測定するためのオキシメーター法が公知である。この測定法は、複数の規定された単色の波長をサンプルに連続的に照射するものであるが、可変色LED(varicoloured LED)または従来の白色光ランプのアレイを使用し、モノクロメータを用いてこのアレイから規定の波長をフィルタし、その後この波長をサンプルに照射する。
【0007】
"Blood gases and oximetry:calibration-free new dry-chemistry and optical technology for near-patient testing"; Boalthら;Clinica Chimica Acta 307 (2001) 225-233には、光源として白色光LEDを利用するin vitro酸素測定のための分光光度系が記載されている。上記の系は、ヘモグロビン誘導体の定量のため、128チャネル-リニアCCDアレイを用いて470〜670 nmの波長帯を記録して評価に使用する。この波長範囲は、従来ヘモグロビン誘導体の定量のために従来使用されていた波長範囲を超えており、これにより妨害物質としてのビリルビン(その光吸収範囲の一部がヘモグロビンの光吸収範囲と重なっている)について、ヘモグロビン誘導体の値を修正する可能性を提供する。上記の拡張された波長範囲は、定量対象のヘモグロビン誘導体の値を修正するためにのみ用いられ、他のアナライトとしてのビリルビンを定量するためには使用されない。
【0008】
LEDを用いて多色光を生じさせるために、1種以上の一次発光波長を有する発光変換LEDを使用することが公知となっており、この波長は、結果的に広帯域の多色光が放射されるように発光変換層で変えられる。このような光源は、例えばU.S. Pat. No. 2005/0127385 A1に記載されている。この場合、放射された多色光は、一次エミッタとしてのLEDチップから発せられる一次発光波長の短波スペクトル領域と、二次エミッタとしてのLEDの一次発光によって励起された色素層から放射されるより長波スペクトル領域とで構成される。
【0009】
U. S. Pat. No. 6,809,347 B2には、青色光またはUV光を発するLEDと、このLEDから発せられた青色光またはUV光の一部を吸収し、その後長波スペクトル領域中で光を発して重畳により白色光を生じさせる重畳した発光団層とを含む白色光LEDが記載されており、この白色光のスペクトル特性は発光団層の変化によって規定することができる。
【0010】
最後に、EP 1 473 771 A1には、個々の放出波長帯が放射方向に重畳して結果的に白色光が発せられるように互いに積層した、複数の、少なくとも一部が透明な、様々な発光波長の発光LED層からなる白色光LEDの別の設計が記載されている。
【特許文献1】JP 2004-108781
【特許文献2】U.S. Pat. No. 2005/0154277 A1
【特許文献3】U.S. Pat. No. 2005/0267346
【特許文献4】U.S. Pat. No. 6,262.798 B1
【特許文献5】U.S. Pat. No. 2005/0127385 A1
【特許文献6】U. S. Pat. No. 6,809,347 B2
【特許文献7】EP 1 473 771 A1
【非特許文献1】"Technical Aspects of Bilirubin Determination in Whole Blood";HALLEMANNら;Point of Care Volume 4, Number 1, March 2005
【非特許文献2】"Blood gases and oximetry:calibration-free new dry-chemistry and optical technology for near-patient testing"; Boalthら;Clinica Chimica Acta 307 (2001) 225-233
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、好ましくは医学的サンプル中のヘモグロビン誘導体を分光光度的にin vitro測定するためのオキシメーターを、小型の測定モジュールが得られるようにさらに発展させることであり、これにより測定スペクトルの迅速な記録ならびにヘモグロビン誘導体以外の他のアナライトの測定が可能となる。さらに、光源の十分な安定性(少ないドリフト)および長い有効寿命が確保されなければならない。オキシメーターは、より使い易く、光源の有効寿命が長いことによりメンテナンスが少なく、また測定結果の高精度を示すものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、測定光源を、ヘモグロビン誘導体を測定するためにヘモグロビン誘導体が有意な吸光度を示す少なくとも1つのスペクトル領域Bで測定用放射線を発し、また少なくとも1種の他のアナライトを定量するために少なくとも1種の他のアナライトが有意な吸光度を示す少なくとも1つの他のスペクトル領域Aで測定用放射線を発する多色LEDとすることを提案することによって、上記の目的を達成する。測定用放射線の有意な吸光度は、例えば、多成分分析において、ヘモグロビン誘導体および他のアナライトの吸光度値が十分に識別可能となるようなものでなければならない。好適なスペクトル領域は、例えば、ヘモグロビン誘導体の測定については520〜670 nmであり、ビリルビンの測定については450〜500 nmである。
【0013】
「多色LED」という用語は、例えば、上記のU.S. Pat. No. 2005/0127385 A1、U.S. Pat. No. 6,809,347 B2またはEP 1 473 771 A1に記載のとおり、基本的には白色光LEDを指し、その発光波長領域および強度曲線は測定対象のヘモグロビン誘導体の吸光特性に適合され、必要に応じて、他のアナライトの測定のために拡張される。
【0014】
本発明の第1の変形例によれば、測定光源は、少なくとも1つの一次エミッタおよび少なくとも1つの二次エミッタを含む発光変換LEDであってよく、この一次エミッタはスペクトル領域A内で発光し、二次エミッタはスペクトル領域B内で発光する。
【0015】
発光変換LEDに基づく特に好適な変形例において、スペクトル曲線(波長の関数としての光強度)は、利用する蛍光体の種類、数および量の選択によって、また励起波長の好適な選択(一次エミッタの種類と数)によって規定され、サンプル中の測定対象のアナライトに対して最適に調整される。このような測定光源の設計は、従来の光源に対して、放出された光が、測定に利用する光源の出力表面部の全体にわたって、または測定に利用する光源の出力放射線の角度範囲の全体で本質的に均一なスペクトルを有するというさらなる利点を有する。このような発光特性は、オキシメーターの測定系の光学部品の位置決めに関して、公差感受性を低減させるための重要な要素である。特に、本発明のLEDの放射範囲の大きさは、オキシメーターの光学系のアラインメント誤差に対する高い許容度を達成し得るように、従来のハロゲンランプの放射範囲の大きさと比べて有利である。
【0016】
本発明の第2の変形例によれば、測定光源は、異なる発光スペクトルを有する複数の発光層を含み、ここで発光層の少なくとも1つはスペクトル領域A内で測定用放射線を発し、且つ少なくとも1つの他の発光層はスペクトル領域Bの中で測定用放射線を発し、またこの発光層は、測定光源内で、測定用放射線が、測定に利用する光源の出力表面部の全体にわたって、または測定に利用する光源の出力放射線の角度範囲の全体で本質的に均一なスペクトルを有するように互いに関連して位置している。
【0017】
この変形例によれば、測定に用いる測定用放射線が測定光源の出力表面部の全体にわたって本質的に均一なスペクトルを有するように互いに十分に接近して配置されることを条件として、測定用放射線の生成のために個々の発光層または単一エミッタ(SMDまたは従来のLED)を使用することも可能となる。スペクトル曲線は、個々の発光層または単一エミッタの種類および数ならびに動作パラメータによって規定することができる。「十分に接近して」という表現は、光源がサンプルを通して検出器ユニットに向けて放射する際に、光学部品の位置決めが幾何公差の影響を受けないようになされると理解される。このように、検出される光の強度ならびにスペクトルは、関連光学部品の理想的な位置決め(すなわち、光軸に沿った光学部品のアラインメント)からの偏向が生じたとしても、大きくは変化しない。このことは、ずれに対して極めてより強く、且つずれる傾向の少ない系を有利にもたらすだろう。
【0018】
このように、本発明による解決法は、ヘモグロビン誘導体の全て及び少なくとも1種の他の物質の分光測定のための多色LEDの使用にある。このような他の物質はヘモグロビン誘導体の吸収領域外の光吸収を示し、このことは、これらの物質の分光測定に利用することができる。
【0019】
このようなアナライトの例としてはビリルビンがあり、ビリルビンは、例えば、450〜500 nmの波長範囲(測定用放射線のスペクトル領域Aに対応)内のその吸収によって測定(または検出もしくは定量)することができる。
【0020】
ヘモグロビン誘導体の測定のために特に好適なスペクトル領域は、520〜670 nmの波長領域(測定用放射線のスペクトル領域Bに対応)である。
【0021】
本発明の変形例によれば、測定光源は、異なる発光スペクトルを有する複数の発光層を含み、この層は少なくとも一部が透明であり、且つ、個々の層から発せられた放射線の重畳によって、発光方向に結果として得られた放射線が生じ、この放射線が、測定光源の出力表面部の全体にわたって本質的に均一なスペクトル分布を有するように積層して配置されている。
【0022】
他の変形例において、本発明の測定光源は、複数の発光領域または様々な発光スペクトルを有する単一エミッタを含むことが可能であり、これらは、個々の領域または単一エミッタから発せられた放射線の重畳によって、発光方向に結果として得られた放射線が生じ、この放射線が、測定光源の出力表面部の全体にわたって本質的に均一なスペクトル分布を有するように互いに接近して配置される。
【0023】
このような測定光源の発光スペクトルは合計スペクトルであり、発光層の個々の発光スペクトルから加法的に構成され、ここで、個々の発光層の位置および/または測定光源内の光減衰層の存在に応じて、個々の発光層の発光スペクトルは、放射された光が測定光源から出る前に変えるすることができる。
【0024】
測定光源から発せられる光は、測定に利用する測定光源の出力表面の全体にわたって、または測定に利用する測定光源の出力放射線の角度全体で本質的に均一なスペクトルを有していなければならない。測定に利用する測定光源の出力表面または測定に利用する測定光源の出力放射線の角度は、オキシメーターの光学系によってサンプルに照射され、最終的に検出装置上にマップされる、測定光源の出力表面の領域として理解されたい。発せられた測定用放射線のスペクトル分布は、特にこの領域全体にわたって、可能な限り均一でなければならない。この例において、領域全体にわたって均一なスペクトル分布とは、この領域の全ての点から光が発せられ、その光のスペクトル分布が、各発光点について同一(発光波長範囲が同一、且つ特定の波長における放射線の強度が同一)であることを意味する。
【0025】
測定光源から発せられた光は、分析対象のサンプルを入れたサンプルチャンバーに照射される。そこで、照射された光は、サンプル中に含まれる物質と、これらの物質(特に分析対象の物質)の種類および濃度に応じて、測定光源から発せられた光のスペクトル組成が変化するように相互作用する。このことは、本質的には、測定光源から特定の波長帯で発せられる光の、物質特異的な吸収によるものである。サンプルによって変更された測定光のスペクトルは、好適な検出装置を用いて記録される。本発明では、透過光法または反射光法のいずれも用いることができる。どちらの方法でも、検出装置が、場合により後続の評価ユニットと共に、サンプルとの相互作用によって特異的に変更された測定光源の光のスペクトルを1回の測定ステップで記録するのが好都合であり、これによりヘモグロビン誘導体と少なくとも1種の他のアナライトを測定することができる。スペクトルの記録は、検出器アレイを用いて同時に、優先的に行われるが、逐次法によってスペクトルを記録することもできる。いずれの場合も、検出ステップの結果は、評価可能な単一のスペクトルである。
【0026】
検出装置によって記録されるスペクトルは、評価ユニットにおいて、ヘモグロビン誘導体と少なくとも1種の他のアナライトを測定することができるように処理される。この目的のため、当業者には様々な方法(例えば多成分法)が知られている。
【0027】
測定光源の幾何学的発光特性は、放射された測定光を均一化するための光散乱ディフューザ層の提供によって、さらに好都合に改変することができる。このようなディフューザ素子は、一体型部品として測定光源内に位置していてもよいし、あるいは、個別の光学素子として光源の外の光路中に位置していてもよい。
【0028】
本発明による測定光源の設計は、有利なことに、アナライトの吸収を考慮に入れた、全スペクトル範囲に及ぶシグナル/ノイズ比の最適化、および一次エミッタおよび二次エミッタの種類、数および量の好適な選択による、検出装置中の波長依存性の迷光の最適化に関して、測定用放射線のスペクトル適合の要件を満たす。
【0029】
本発明のオキシメーターは、測定光源からサンプルチャンバーへ、および/またはサンプルチャンバーから検出装置へと測定用放射線を案内し、伝達するための他の光学部品(例えば、フィルタ、光ガイド、レンズ、ビームスプリッター、ディフューザ素子等)も含み得る。
【0030】
検出装置がポリクロメーターおよび後続の多チャンネル検出器ユニット(例えば全ての測定波長を同時に記録する検出器アレイ)を含むことを特に提案する。このことは、最初に引用したJP 2004-108781に記載される逐次測定と比較すると、とりわけ測定時間が極めて短く、機械的に動く部品(回折格子等)が省かれる点で非常に有利である。
【0031】
スペクトルのさらなる適合のため、測定光源とサンプルチャンバーの間および/またはサンプルチャンバーと検出装置の間で、フィルタまたは他の光学的吸収媒体を使用することができる。検出装置中の迷光を回避し、またサンプルおよび/またはオキシメーターの光学系の加熱を最小化するため、測定光源から発せられた光の、分析との関連が低い特定の波長帯は、例えば、少なくとも一部をフィルタで除去することができる。これらの付加的な要素は、測定光源の一体部品として設計してもよいし、あるいは、測定光源に続く個別の光学素子として設計してもよい。
【0032】
ヘモグロビンと少なくとも1種の他のアナライトを測定するために使用する測定用放射線のスペクトル帯が、より低い強度の領域によって隔てられている場合、特にこの領域内に分析に関連する情報がほんの少ししか含まれていない場合には有利である。
【0033】
本明細書において用いられる「オキシメーター」という用語は、一般に、少なくとも異なった測定対象のヘモグロビン誘導体(特に、オキシヘモグロビン(O2Hb)、デオキシヘモグロビン(HHb)、カルボキシヘモグロビン(COHb)及びメトヘモグロビン(MetHb)などのヘモグロビン誘導体)の、異なる吸光特性による識別を可能とする分光計を意味する。
【0034】
従来の白熱灯に対する、本発明による多色LEDの利点を以下の表にまとめて示す。
【0035】
・ 安定性が高められている(ドリフトが少ない);
・ 外形寸法が小さい;
・ 廃熱が少ない;
・ 赤外線(IR)強度がない(赤外線(IR)フィルタを要しない);
・ 有効寿命は約100,000時間(ハロゲンランプでは通常は5000時間);
・ 白熱灯より高効率;
・ 高視感度;
・ 有効寿命が長いため、連続動作が可能;
・ 電流を変えることにより、広範囲にわたって強度が可変;
・ 光源の機械的調整が不要;
・ チップ温度による強度制御(温度センサーまたは赤外線(IR)センサーによる無接触センサー);
・ 動作電流と放射角度によるスペクトル適合化
・ 用途特異的スペクトルが可能。
【0036】
従来のLED(すなわちレーザーダイオード)に対する、本発明による多色LEDの利点は以下のとおりである:
・ 白熱灯と同様に、多色LEDも、出力表面全体にわたって均一なスペクトルを有する光源と見なされ:このため簡素で低価格の結像光学素子が可能となる;
・ 公差感受性が小さい;
・ スペクトル適合性の改良が可能;
・ より簡単で緻密な温度管理;
・ 他のアナライト、例えばビリルビンを、ヘモグロビンパラメータと一緒に同時測定することが可能。
【0037】
本発明のオキシメーターは、とりわけ、血液成分および場合により他のアナライト、例えばビリルビンを含有する医学的サンプルに好適である。これは、とりわけ血液サンプル、特に溶血した全血を意味する。
【0038】
測定光源に関する本発明の設計の変形例も、互いに自由に組み合わせることができる。例えば、個々の発光層の発光スペクトルを、単独で、または個々の発光層の一次発光スペクトルをより長波長領域へと拡張することができる好適な発光団の層と共に重層することができる。さらに、放射された光のスペクトル帯を拡張し、これによりさらなるアナライトの測定を可能とするために、発光変換LED、他の発光層または単一エミッタを加えてもよい。
【0039】
以下、本発明を添付の図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【0040】
図1は、本発明によるオキシメーターの、典型的な設計の略図を示す。このオキシメーターでは、測定光源としての多色LED1は、他の光源2と共に、ビームスプリッター3およびレンズ系4を介してサンプルチャンバー5(例えば、分析対象の血液サンプルを含んだ測定キュベット)に直接結びつけることができる。本実施例では、他の光源2は、オキシメーターの波長較正のために用いる。
【0041】
スペクトル帯450〜670 nmの広帯域の測定用放射線をサンプルチャンバー5に放射する多色LED1は、ペルティエ(Peltier)素子とNTC温度センサを用いて恒温化される。この多色LEDは、光ダイオード6を有する制御ループにより強度制御される。この光学系は、測定光源の大きな出力表面およびこの出力表面全体にわたる本質的に均一なスペクトルによって、光軸に対する多色LED1の調整がもはや厳密には必要とされないように設計される。場合により、測定光源1またはビームスプリッター3と、サンプルチャンバー5との間にフィルタ7を挿入して、測定用放射線を、選択されたスペクトル領域に適合させることができる。光ガイド8を介して測定キュベット5に接続された検出装置は、ポリクロメーター9(例えば、回折格子分光計)と後続の多チャンネル検出器ユニット10(例えば、全ての測定波長を同時に記録する検出器アレイ)とで構成される。図1に明示されていないのは、この検出装置に続く評価ユニットであり、この評価ユニットは、検出装置によって記録されたスペクトルから、ヘモグロビン誘導体および少なくとも1種の他のアナライトを測定する。
【0042】
本願においては、測定光源1が満たさなければならないスペクトル要件は、測定対象の各々のアナライト(ヘモグロビン誘導体および少なくとも1種の他のアナライト)により、分光計によって決定される。ヘモグロビン誘導体と、例となる他のアナライトとしてのビリルビンの定量は、図2に示す吸光係数に基づく。アナライトの分光測定のために、これらの波長帯において好適な強度値を示す測定光源1が必要とされる。このため、測定光源1のスペクトルは以下の特性を有していなければならない:
・ 検出器中の望ましくない迷光を低減させるための、長波領域における下向きの傾き、
・ ヘモグロビン誘導体の吸収極大(520〜670 nm)のスペクトル領域Bにおける強度ピーク、
・ ビリルビン定量のための、短波スペクトル領域A(450〜500 nm)における強度ピークまたは少なくとも測定に十分な強度。
【0043】
・ スペクトル領域Aとスペクトル領域Bの間の、強度の低い領域。
【実施例】
【0044】
下記の実施例は、図1に示すオキシメーターに基づく。1.5 nmの波長分解能と、512ピクセルの線形センサ10を有する回折格子分光計9を用いた。測定キュベット5は、幅1.0 mm、層厚さ100 μmの流体チャネルを形成する。多色LED1のスペクトル測定は、空気で満たした測定キュベットを用いて行った。このLEDの測定用放射線は、レンズ7(倍率1.6)を介して測定キュベット5に、次に光ガイド8に結びつけられる。光ガイド8は、測定キュベットと分光計の間の曲率半径を小さくすることを可能とするためのファイバー束として提供される。入射点では、光ガイドの作動直径は0.7 mmである。出射端においては、上記のファイバー束の単一のファイバーは直線的に配置され、分光計の入力スリットを形成している。光ダイオード6は、LED1の強度を制御するために用いる。この例では、2種類の光(測定用放射線と較正用放射線)の転換を可能とするため、LED1は、ビームスプリッター3によって別の光源2(ネオン灯)と組み合わされている。場合により、上記のとおり、測定光源1のさらなるスペクトル調整のために、さらなるフィルタエレメント7を使用することができる。
【0045】
実施例1
上記の測定系では、Seoul Semiconductorから販売されている、市販の白色光LED(型:N32180 400mA 3.5V)を使用した。広帯域のスペクトル(図3参照)は、ヘモグロビン誘導体とビリルビンの定量を可能とする。励起強度と発光強度との比、ならびに600 nm以上の強度の減衰は、この用途に好適である。
【0046】
実施例2
本実施例では、Luxeonの白色光LED(型:LXHL 1 Watt)を使用した(図4中のスペクトル参照)。このLEDは、ヘモグロビン誘導体とビリルビンの定量も可能とするが、分光計中の迷光を低減させるために、長波帯において付加的なフィルタの使用を必要とする。図4には、フィルタを用いない場合のスペクトルと、フィルタ(Schott BG38, 2mm)を用いた場合のスペクトルを示す。この光源は、特に上記の種類のフィルタと組み合わせて、この用途に好適である。
【0047】
実施例3
好適な変形例として、2種類の蛍光体と4000°Kの色温度を有する多色LEDを使用する。必要なスペクトルは、主波長460〜462.5 nmを有するLEDチップを、2種類の発光団(蛍光体1:緑、CIE座標:x=0.195 +/-0.004, y=0.651 +/-0.004;蛍光体2:オレンジ、CIE座標:x=0.450 +/- 0.002, y=0.537 +/-0.002)と組み合わせて用いることによって得られる。このLEDは、350 mAの動作電流を有する。本実施例では、動作電流は100 mAである。得られたスペクトルは、アナライトの吸光係数と共に図5に示す。この光源は、測定光源(1)に課せられた全ての要件を満たす。スペクトルのさらなる調整は不要である。
【0048】
図6は、2種類の発光団(510 nmと590 nm)を二次エミッタとして、および460 nmで発光する一次エミッタを用いた実施例に基づく、この種類の発光変換LEDの結果として得られたスペクトルを示す。本発明では、青またはUVを発するLEDチップを発光色素と組み合わせる。これらの色素は、LEDチップ上に塗布したペーストに含まれる。より高いエネルギーを有する短波の青色光は、色素を励起して発光させ、その後、より低いエネルギーの長波光が発せられる。全ての青色光が変換されるとは限らないため、結果として得られたスペクトル色の加法混色(図中の、マークのない線)は、スペクトル領域A内の最大スペクトルが460 nmの第1の狭帯域、およびスペクトル領域B内の最大スペクトルが510〜590 nmの第2の広帯域を有する多色光を生じる。この2つの領域AとBは、約485 nmの最小スペクトルによって分けられる。本発明では、一次エミッタの狭帯域の発光放射線によって、ビリルビン定量のための短波の測定波長領域が、460 nmにおけるビリルビンの吸収ピークを介して得られること、また二次エミッタの広帯域の発光放射線によって、全ての定量対象のヘモグロビン誘導体が著しく吸光しまた最大吸光度を示す広い長波領域が確立されることは、特に有利である。
【0049】
従って、本発明によれば、このような多色発光変換LEDのスペクトルは、他のアナライトの定量のため、一次エミッタ(スペクトル領域Aにおいて発光するLEDチップ)の選択により、また多様な発光団(スペクトル領域Bにおいて発光する二次エミッタ)の選択および組み合わせによって特異的に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるオキシメーターの概略図。
【図2】波長(nm)の関数としての、ヘモグロビン誘導体であるオキシヘモグロビン(O2Hb)、デオキシヘモグロビン(HHb)、カルボキシヘモグロビン(COHb)及びメトヘモグロビン(MetHb)、並びにビリルビンの吸光係数。
【図3】多種多色LEDの発光スペクトル。
【図4】多種多色LEDの発光スペクトル。
【図5】多種多色LEDの発光スペクトル。
【図6】多種多色LEDの発光スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のヘモグロビン誘導体および少なくとも1種の他のアナライトの分光光度的in vitro測定のためのオキシメーターであって、該オキシメーターは、測定用放射線を放出する単一の測定光源、サンプルチャンバー、サンプルとの相互作用の後の測定用放射線のスペクトルを記録する検出装置、さらに該検出装置が記録したスペクトルからヘモグロビン誘導体および少なくとも1種の他のアナライトを測定する該検出装置の後続の評価ユニットを有し、ここで該測定光源は、ヘモグロビン誘導体を測定するためにヘモグロビン誘導体が有意な吸光度を示す少なくとも1つのスペクトル領域Bで測定用放射線を放出し、また少なくとも1種の他のアナライトを測定するために少なくとも1種の他のアナライトが有意な吸光度を示す少なくとも1つの他のスペクトル領域Aで測定用放射線を放出する多色LEDである、上記オキシメーター。
【請求項2】
測定光源が、少なくとも1つの一次エミッタおよび少なくとも1つの二次エミッタを含む発光変換LEDであり、一次エミッタはスペクトル領域A内で測定用放射線を放出し、二次エミッタはスペクトル領域B内で測定用放射線を放出する、請求項1に記載のオキシメーター。
【請求項3】
測定光源が、異なる発光スペクトルを有する複数の発光層を含み、ここで該発光層の少なくとも1つはスペクトル領域A内で測定用放射線を放出し、且つ少なくとも1つの他の発光層はスペクトル領域B内で測定用放射線を放出し、該発光層は、測定光源内で、測定用放射線が、測定に利用する測定光源の出力表面部の全体にわたって、また測定に利用する測定光源の出力放射線の角度範囲の全体のそれぞれで本質的に均一なスペクトルを有するように配置されている、請求項1に記載のオキシメーター。
【請求項4】
測定光源が、異なる発光スペクトルを有する複数の発光層を含み、この発光層は、少なくとも一部が透明であり且つ互いに積み重なっている、請求項3に記載のオキシメーター。
【請求項5】
他のアナライトがビリルビンであり、且つ測定用放射線のスペクトル領域Aが450〜500 nmの範囲にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載のオキシメーター。
【請求項6】
測定用放射線のスペクトル領域Bが520〜670 nmの範囲にある、請求項1〜5のいずれか1項に記載のオキシメーター。
【請求項7】
測定用放射線のスペクトル領域Aとスペクトル領域Bが、より強度の低い領域によって分離されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のオキシメーター。
【請求項8】
測定光源とサンプルチャンバーの間および/またはサンプルチャンバーと検出装置の間の測定用放射線の伝達のための他の光学部品が備えられている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のオキシメーター。
【請求項9】
測定光源とサンプルチャンバーの間および/またはサンプルチャンバーと検出装置の間に、測定用放射線のさらなるスペクトルの適合のためのフィルタエレメントが備えられている、請求項1〜8のいずれか1項に記載のオキシメーター。
【請求項10】
検出装置が、ポリクロメーター、および全ての測定波長を同時に記録する検出器アレイなどの後続の多チャンネル検出器ユニットを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のオキシメーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−275625(P2008−275625A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−120610(P2008−120610)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】