説明

オピオイドおよびオピオイド拮抗薬を含む微粒子医薬組成物

本発明は、第1の粒子および第2の粒子を含む医薬組成物に関し、前記第1の粒子は少なくとも1種類のオピオイドまたはそれらの薬学的に許容される塩を含み、前記第2の粒子は少なくとも1種類のオピオイド拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩を含み、ここで、前記第1および第2の粒子は視覚的に検出可能な性質および/または物理的な性質によって互いに識別することができず、オピオイド拮抗薬の放出は経口投与後30分間〜8時間にわたり継続的に生じ、製剤は経口投与用にそれを含む。加えて、本発明は、オピオイドおよび上述の放出特性を有するオピオイド拮抗薬を含む粒子を含む医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オピオイド、好ましくはモルヒネと、オピオイド拮抗薬、好ましくはナロキソンとを含む医薬組成物に関する。特に、本発明は、経口投与後に30分から8時間にわたり、明確に継続的に消化器系の特定部位においてオピオイド拮抗薬を制御放出するための医薬組成物に関する。加えて、本発明は、オピオイドを含む第1の粒子およびオピオイド拮抗薬を含む第2の粒子を含む、医薬組成物に関し、ここで、前記第1および第2の粒子は互いに識別することができない。
【背景技術】
【0002】
オピオイド(「アヘン(opium)に似ている」)群は、モルヒネに類似した特性を有する、天然および合成物質の化学的に不均一な群であり、オピオイド受容体に作用する。オピオイドは、ストレス反応に関して痛みを抑制する役割をする、身体自体の(内因性の)オピオイドと、治療または乱用として用いられる(外因性の)オピオイドとに分類される。「アヘン剤(opiates)」とは、化学用語におけるアルカロイドであり、モルヒネを含む、アヘン中に天然に存在するオピオイドについて用いられる用語である。
【0003】
オピオイドの強力な痛みを和らげる効果(鎮痛)は、非常に治療的意義がある。非オピオイド鎮痛剤とは対照的に、 オピオイドは主に中枢神経系(CNS)において鎮痛剤の作用を発現させる。オピオイドに最も一般に見られる望ましくない副作用としては、吐き気、嘔吐、目まいが挙げられ、特に長期使用の場合には(けいれん性の)便秘も挙げられる。オピオイドの過剰摂取は、窒息に至ることがある、危険な呼吸抑制を生じうる。
【0004】
オピオイドが長期間にわたって定期的に用いられる場合、耐性の発現(習慣作用)が生じうる。その結果、所望の効果を達成するために、さらに多くの用量が必要になる。これは、主に細胞内のアデニル酸シクラーゼの酵素活性が増大することによる、薬力学的耐性である。
【0005】
ベンゾジアゼピンと同様、オピオイドは、強力な薬物依存状態を引き起こしうる物質の仲間である。本明細書では、精神的依存状態と肉体的依存状態とを区別する必要がある。依存状態の精神的要素は、とりわけ、オピオイドの抗不安作用および陶酔作用に起因する。肉体的依存状態は、主に、オピオイドの適用が中断された場合に、ノルアドレナリンの放出の増大の結果として、離脱症状が生じうるという事実によるものである。典型的な離脱症状としては、情動不安、原因不明の痛み、抑鬱、嘔吐および胃けいれんの感覚、下痢、極度の疲労およびインフルエンザ様疾患が挙げられる。
【0006】
オピオイドからの離脱には、極めて長い時間がかかる。通常、肉体的離脱はすぐに克服できるが、以前に定期的に大量摂取していた場合には、1年後でも、睡眠障害または悪夢などが生じることがある。精神的禁断症状とは、再発が頻繁に生じることを意味する。
【0007】
治療の目的で一般に用いられるオピオイドは、チリジン、トラマドールおよびモルヒネである。非常に激しい痛みの症例では、例えばチリジンでは十分でないことが頻繁にあり、モルヒネまたはモルヒネ様の物質が用いられる。通俗的にモルフィウムとも称される、モルヒネ、すなわち(5R,6S,9R,13S,14R)−4,5−エポキシ−N−メチルモルヒネ−7−エン−3,6−ジオール)は、ポピーの種子のさやから得られ、次の構造式:
【化1】

【0008】
を有する、非常に有効な鎮痛剤である。
【0009】
オピオイドの中で最も強力な鎮痛効果を有するのは、スフェンタニル、レミフェンタニルおよびフェンタニルである。ドイツでは投与が禁止されているヘロイン(ジアセチルモルヒネ)には治療的意義がない。ヘロインの補充療法では、主にオピオイド・メタドンが用いられる。
【0010】
オピオイドは、特にその精神作用効果のため、不適切に使用(乱用)される危険がある。乱用の1つの形態は、意図された投与経路を経て送達されない場合である。薬物作用が急激に発現(「キック(kick)」)することから、例えば静脈内投与(注射)、あるいは鼻(吸引)または肺(喫煙)の経路が経口摂取よりも好まれる。この目的ため、調剤を溶融または溶解して静脈内に注入するか、またはアルミ箔の上で炙り、煙を吸い込む(スズ箔上で喫煙)。
【0011】
オピオイドの乱用を制限するため(乱用に対する防御)、医薬品にオピオイド拮抗薬を混合することができる。この種の標準的な市販の製剤は、チリジンとナロキソンを組合せて含有するValoron(登録商標)Nである。ナロキソン、すなわち(5R,9R,13S,14S)−17−アリル-3,14−ジヒドロキシ−4,5−エポキシモルヒナン−6−オン)は、次の構造式を有するオピオイド拮抗薬である:
【化2】

【0012】
ナロキソンは、ナルトレキソンと並んで、すべてのオピオイド受容体において競合的拮抗薬として作用する、純粋なオピオイド拮抗薬の1つである。一方、ブプレノルフィンは、μ−受容体における作動薬/拮抗薬の混合剤として作用する。拮抗作用は、オピオイド、すなわち作動薬の効果を相殺する。この特徴は、例えば、ナロキソンがオピオイドを過剰摂取したときの解毒剤として治療的に用いられる場合に、利用される。
【0013】
経口投与の場合、ナロキソンは、初回通過効果が高い、すなわち、作用部位に到達する前に肝臓において実質的に不活化する傾向にある。一方、静脈内投与の場合には、ナロキソンの大部分が効果を持続する。オピオイド拮抗薬としてのナロキソンは、オピオイドの効果を相殺することから、静脈内へのオピオイドとオピオイド拮抗薬の同時投与は、離脱症候群の誘因となる。経肺、経鼻、経皮または直腸投与の場合にも、ナロキソンは拮抗作用を発現しうる。
【0014】
ナロキソンが乱用に対する防御としての機能を発揮するための前提条件の1つは、オピオイド拮抗薬がオピオイドから容易に分離しないことである。例えば、オピオイドとオピオイド拮抗薬を異なる錠剤で投与する場合には、分離が生じるであろう。多層構造をした製剤の場合には、例えば、水またはエタノールなどの溶媒に個々の層を溶解させて、得られた溶液を蒸発させることによって、オピオイドを回収することができる。モルヒネにナルトレキソンのコアを包含させた製剤が知られている。製剤を水中に20分間入れることによって、モルヒネとナルトレキソンを分離することができる。その後、モルヒネは溶解し、ナルトレキソンのコアを濾すことによって回収することができる。例えば製剤の外被を削り取るか、またはこじ開けることによる、手作業による分離も可能である。
【0015】
特許文献1には、オピオイドおよびオピオイドが粉末または顆粒の混合物として存在する製剤が開示されている。その混合物において、オピオイドを含有する粒子とオピオイド拮抗薬を含む粒子とは、互いに視覚的に区別することはできない。加えて、オピオイドおよび/またはオピオイド拮抗薬が遅延方式で放出されうることも開示されている。
【0016】
ナロキソンは、基本的に、経口投与でない場合には所望のマイナスの作用が生じるが、経口摂取であっても副作用がないわけではない。活性化ナロキソンが、オピオイドの長期使用の結果として便秘を発症した患者の結腸に達すると、激しい下痢を生じうるが、それは最長で4週間も続く場合がある。離脱症状が直接的に生じうるという危険性から、例えば、すでにアヘン剤(opiates)の中毒がある場合に「Valoron」Nを摂取することは、禁忌である。
【0017】
加えて、経口投与の場合でも、ナロキソンが吸収されて、初回通過効果を回避することが可能である。研究は、ナロキソンが口内で容易に吸収されることを示している。舌の粘膜を通じて(経舌的に)および頬の内表面を通じてなど、口腔内の粘膜を通じて吸収される場合、活性薬剤は、静脈血を通じて、口腔粘膜から直接、上大静脈内へと通過する。この原理は、たとえば舌下用の製剤の場合に用いられる。直腸での吸収もまた、初回通過効果を少なくともある程度回避することから、坐剤による薬物投与の場合に利用される。
【0018】
オピオイド依存性の患者には副作用を生じることから、痛みの治療または補充療法として用いる場合には、ナロキソンをモルヒネに混ぜることは、非常に問題である。極端な場合には、治療を中断しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第2007/082935号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の課題の1つは、オピオイドおよびオピオイド拮抗薬を含む、さらに容易に許容される医薬組成物を提供することである。特に、オピオイド依存症またはオピオイド耐性の場合にも適用可能なオピオイド組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の課題は、第1の粒子および第2の粒子を含む医薬組成物によって解決され、ここで、
前記第1の粒子は、少なくとも1種類のオピオイドまたはそれらの薬学的に許容される塩を含み、
前記第2の粒子は、少なくとも1種類のオピオイド拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩を含み、
前記第1および第2の粒子は視覚的に検出可能な性質および/または物理的な性質によって互いに識別することができず、
前記オピオイド拮抗薬の放出が、経口投与後30分〜8時間にわたり継続的に生じることを特徴とする。
【0022】
本発明の問題は、さらに、少なくとも1種類のオピオイドまたはそれらの薬学的に許容される塩、ならびに、少なくとも1種類のオピオイド拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩を含む医薬組成物によって解決され、ここで、
前記オピオイド拮抗薬の放出が、経口投与後30分〜8時間にわたり継続的に生じることを特徴とする。
【0023】
本発明の医薬組成物の1つの実施の形態では、前記オピオイド拮抗薬の放出は、経口投与後、30分から6時間、好ましくは45分から4.5時間にわたり継続的に生じる。
【0024】
1つの実施の形態では、オピオイドは完全作動薬であり、好ましくはモルヒネである。
【0025】
1つの実施の形態では、オピオイド拮抗薬は、5%未満のバイオアベイラビリティを発現し、好ましくはナロキソンである。
【0026】
1つの実施の形態では、前記オピオイドの放出は、経口投与後、0〜少なくとも12時間、好ましくは0〜24時間にわたり、生じる。
【0027】
1つの実施の形態では、第1および第2の粒子の両方がペレットであるか、あるいは、一方の粒子がペレットの形態をしている。
【0028】
1つの実施の形態では、ペレットは、薬物を制御放出するためのコアおよび層コーティングを含む。
【0029】
1つの実施の形態では、活性薬剤を放出するための層コーティングは、少なくとも1種類のポリアクリレート/ポリメタクリレート・ポリマー、特に、少なくとも1種類のEudragit(登録商標)を含む。
【0030】
本発明の課題はさらに、1日3回の投与、好ましくは2回、特に好ましくは1日1回の投与に用いられる本発明の医薬組成物の1つを含む、経口投与のための製剤によって解決される。
【0031】
1つの実施の形態では、製剤は、カプセル、好ましくは硬ゼラチンカプセル、または小袋である。
【0032】
1つの実施の形態では、製剤におけるオピオイド拮抗薬のオピオイドに対する比は1:10未満であり、好ましくは1:250から1:10未満の範囲であり、特に好ましくは1:100からである。
【0033】
本発明の課題は、さらに、オピオイド依存状態の治療用途の本発明の医薬組成物によって解決される。
【0034】
本組成物の1つの実施の形態では、製剤におけるオピオイドの用量は200mgである。よって、拮抗薬の用量は2mgが好ましい。
【0035】
本発明の課題は、さらに、オピオイド依存性または非オピオイド依存性の患者における疼痛治療用途の本発明の医薬組成物によって解決される。
【0036】
本組成物の1つの実施の形態では、製剤におけるオピオイドの用量は、30または60mgである。よって、拮抗薬の用量は0.3または0.6mgが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】経時におけるナロキソンの放出データを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
オピオイド、好ましくはモルヒネは、塩酸塩、水和物、硫酸塩または塩素酸塩などの生理学的に許容される塩、または第4級塩として存在しうる。モルヒネの好ましい塩は、塩酸モルヒネ、硫酸モルヒネ5水和物、塩素酸モルヒネ、モルヒネ・メトブロミド、または、モルヒネおよびモルヒネN−オキシドの他の第4級塩である。硫酸モルヒネ5水和物が特に好ましい。
【0039】
オピオイド拮抗薬、好ましくはナロキソンは、塩酸塩または塩酸塩二水和物などの生理学的に許容される塩として存在しうる。塩酸ナロキソン二水和物が特に好ましい。
【0040】
本発明は、オピオイドおよびオピオイド拮抗薬を含む、さらに容易に許容される医薬組成物であって、離脱症状の発症が回避されるものを提供する。この利点は、オピオイドおよびオピオイド拮抗薬の特定の放出特性、および、これら2種類の薬物の互いに対する比によって達成される。放出特性の効果は、これまでに一般に用いられた概念とは異なる、すなわち「完全離脱」の回避という事実からなり、消化管における「局部的な部分離脱」もまた回避される。
【0041】
医薬組成物は、オピオイドが有利な効果を発現するように製剤化される一方で、経口投与の場合には、オピオイド拮抗薬の効果は大幅に低減されるか、または相殺される。この医薬組成物の特徴である、より良好な許容性は、オピオイド拮抗薬の制御放出、すなわち、消化器系の特異的領域におけるオピオイド拮抗薬の放出によって達成される。同時に、オピオイドの放出も遅延される(遅延放出型、持続放出型の製剤)。オピオイド拮抗薬の口腔における吸収の場合には初回通過効果が回避されることから、消化器系のこの部位における吸収は有利である。これは、本発明に従って、医薬組成物の経口投与後(または生理食塩水の存在下)最初の30分に、事実上、オピオイド拮抗薬の放出が生じないことを確実にすることにより達成される。
【0042】
加えて、直腸におけるオピオイド拮抗薬の吸収を抑えることも有利である。これは、本発明に従って、医薬組成物の経口投与(または生理食塩水の存在下)の8時間後、好ましくは6時間後には、オピオイド拮抗薬が事実上、完全に放出されること、すなわち、医薬組成物が直腸に到達するときには、すでに放出されてしまっていることを確実にすることにより達成される。
【0043】
横行結腸以降、具体的には下行結腸以降では、オピオイド拮抗薬の吸収は不可能であるか、わずかにすぎない。これは、液体が存在しないことにより、オピオイド拮抗薬がもはや溶解しえず、初回通過効果の影響を受けるためである。吸収は、この場合も、直腸に至るまで生じない。したがって、医薬組成物が横行結腸の終端または下行結腸の発端に達する時には、オピオイド拮抗薬がすでに放出されてしまっていることは利点である。これは、本発明に従って、医薬組成物の経口投与(または生理食塩水の存在下)の8時間後、好ましくは6時間後には、オピオイド拮抗薬が事実上完全に放出されること、すなわち、約10時間後、医薬組成物が消化器系のこの部位に達するときには、すでに放出されてしまっているということを確実にすることにより達成される。拮抗薬が直腸で放出される場合には、十分な効果を発現し、初回通過効果が妨げられて、全般的および局部的な離脱を生じる。
【0044】
オピオイド拮抗薬は、オピオイド依存性の患者の結腸における激しい下痢を誘発しうることから、消化管のこの部位における放出を可能な限り防止することもまた有利である。これは、本発明に従って、医薬組成物の経口投与(または生理食塩水の存在下)の8時間後、好ましくは6時間後には、オピオイド拮抗薬が事実上完全に放出されること、すなわち、約6時間後、医薬組成物が結腸に到達する時には、すでに放出されてしまっていることを確実にすることにより達成される。
【0045】
本発明の重要な特徴は、ナロキソンの放出が継続的に生じること、すなわち、おおよそ一次速度則と一致して持続放出され、事実上、放出ピークが生じないことである。
【0046】
当技術分野の技術水準において、オピオイドまたはオピオイド拮抗薬の特別な放出特性を達成するための種々の可能性が知られている。現在の好適な溶液は、放出が特定の持続放出コーティングによって調節されるものであるが、他の可能性も考えられ、当業者が技術水準から導くことができることから、次の実施例において提案される持続放出コーティングは単に例証を意図するものである。持続放出コーティングの代案として、オピオイドまたはオピオイド拮抗薬を放出する適切な持続放出マトリクスを選択することもできる。
【0047】
オピオイドまたはオピオイド拮抗薬を含む第1および第2の粒子を含む実施の形態では、前記粒子同士は、色、形状、または大きさなどの視覚的に検出可能な性質、もしくは、重量または密度などの物理的に測定可能な性質によっては区別することができず、2つの物質の容易な分離可能性を妨げる。粒子の大きさが非常に類似している場合には、篩による分離を防ぐ。重量または密度が非常に類似している場合には、浮遊特性の差異による分離(スキミング)を妨げる。
【0048】
オピオイドおよびオピオイド拮抗薬の両方を含有する、1種類の粒子のみを含む実施の形態では、同様に、2種類の物質の容易な分離が妨げられる。
【0049】
最近、オピオイド依存性の患者は、非依存性の患者と比較して、オピオイドおよびオピオイド拮抗薬の吸収が大きいことが見出された(Halbsguth U., Rentsch K. M., Eich-Hoechli D., Diterich I., Fattinger K. Br. J. Clin. Pharmacol. 66: 781-91, 2008)。これらの患者では、オピオイド拮抗のオピオイドに対する比が1:10を超えると、離脱症状を誘発する。したがって、オピオイド拮抗薬のオピオイドに対する比は、1:10未満であることが有利である。
【0050】
これまでは、乱用に対する防御を得るためには、オピオイドに対してオピオイド拮抗薬の比が高いことが有利または必要であるとみなされてきた。「Valoron」N溶液は、例えば、0.72ml中に4mgのナロキソンと50mgのチリジン、すなわち、ナロキソンとチリジンを1:12.5の比で含む。Suboxone(登録商標)は、2mgのナロキソンと8mgのブプレノルフィン、すなわちナロキソンとブプレノルフィンを1:4の比で含む。しかしながら、非オピオイド依存性の患者の症例では、200mgのモルヒネを静脈内投与する場合における0.4mgのナロキソン、すなわち、ナロキソンのモルヒネに対する比が1:500の場合に、離散的な離脱症状を誘発するのに十分な量だったことがあった。1:100の比が理想的であると考えられる。すなわち、生命を脅かす状態を生じることなく、離脱症状が静脈内投与によって誘発される。さらには、驚くべきことに、ナロキソンとモルヒネの半減期が、これまで想定されていたよりも類似していることが分かった。
【0051】
本発明に従った医薬組成物または製剤の上述の有利な特性および効果に加えて、最近行われたある研究により、ナロキソンの事例で、超低用量の拮抗薬についてのこれまで知られていなかった、別の好ましい効果が見出されたが、これは、本発明においても可能である。
【0052】
超低用量のオピエート拮抗薬が、オピエート耐性および依存状態の発現において好ましい効果を有し、抗侵害受容作用を促進し、オピエートを節約する効果を有し、アルコール依存症における効果を発現することは、文献から知られている。
【0053】
上述の研究において、本発明の組成物または製剤を用いると、驚くべき、追加の好ましい効果が生じることが明らかとなった。すなわち、特に吐き気および掻痒などモルヒネの典型的な副作用の軽減、便秘の軽減または防止、オピエートの禁断症状の軽減、認知の改善(人間の認知技能として、例えば、注意力、記憶力、学習能力、創造力、計画力、適応力、想像力、論証力、内省力、意志力、信頼性などがある。)および感情的反応性(情緒的反応性とも称される。感情的反応性は、気分の調節に対する適切な能力を発現する。これは、関係者または監視者が知覚できる感情が、会話の主題および接触状態に適切に適応すること、および、感情の標準的全範囲が知覚可能に表現できることを意味する。部外者による評価では、感情的反応性は表情および身振りおよび対話的接触の間の声の適応に照らして判断される。)、食欲および空腹感の改善、むくみ感の軽減、および、日夜のリズムまたは睡眠パターンの正常化などを生じることが示されている。本発明の組成物または製剤を用いることによる、アルコール依存症でもある患者におけるアルコールの離脱、またはアルコールの禁断症状の影響の軽減は、明らかである。
【実施例】
【0054】
医薬組成物の調製(2種類の粒子を使用)
医薬組成物はモルヒネおよびナロキソンのペレットの混合物を含む。各ペレットは、薬物、すなわちモルヒネまたはナロキソンのいずれかが施用されたコア、および前記薬物の放出を制御するための層コーティングを含む。
【0055】
モルヒネ・ペレット
まず最初に、球状ペレットのコア(球状糖)に、精製水中、硫酸モルヒネ、ポビドン(コリドンK25)および二酸化チタンの懸濁液を使用してフィルムコーティングする。次に、モルヒネが負荷されたペレットに、精製水中、コロイド状の無水シリカ(Aerosil200)の分散液を噴霧する。
【0056】
その後、放出を遅延させる第1の層が施用される。この目的で、精製水中、滑石およびEudragit FS 30 Dを含むEudragitコーティング懸濁液Iを用いてペレットをフィルムコーティングする。
【0057】
その後、放出を遅延させる第2の層が施用される。この目的で、ヒプロメロースを精製水中に分散させ、ポリソルベート80を添加する。この溶液に滑石および二酸化チタンの分散液を加える。次いで、Eudragit NE 30 DおよびEudragit FS 30 Dを加える。このEudragitコーティング懸濁液IIを用いて、ペレットをフィルムコーティングする。コロイド状無水シリカの分散液をこの層上に噴霧する。
【0058】
ナロキソン・ペレット
まず最初に、精製水中、ナロキソン塩酸塩・二水和物、ポビドン(コリドンK25)および二酸化チタンを含む懸濁液を用いて、球状ペレットのコア(球状糖)をフィルムコーティングする。次に、ナロキソンを負荷したこれらのペレットにコロイド状無水シリカの分散液(Aerosil200)を噴霧する。
【0059】
その後、放出を遅延する層が施用される。この目的で、ヒプロメロースを精製水中に分散させ、ポリソルベート80を添加する。この溶液に滑石および二酸化チタンの分散液を加える。次いで、Eudragit NE 30 DおよびEudragit FS 30 Dを加える。このEudragitコーティング懸濁液を用いて、ペレットをフィルムコーティングする。コロイド状無水シリカの分散液をペレットのこの層上に噴霧する。層コーティングの成分の比は、所望の放出プロファイルが得られるように調整される。
【0060】
モルヒネおよびナロキソンのペレットの比較
表1は、モルヒネおよびナロキソンのペレットが、例えば、大きさ(半径)、密度および重量に関して非常に類似した特性を有することを示している。
【0061】
表2および図1は、さまざまな保存条件の後の360分間にわたるナロキソンの放出の経過を示している。
【0062】
ナロキソンの放出は30〜60分後に開始し、約270〜300分間(4.5〜5時間)後に実質的に完了する。これは、ピークを生じることなく、全期間にわたり継続的に生じる(図1)。
【0063】
表3は、経時におけるナロキソンおよびモルヒネの放出の経過を示している。ペレットは、1.2〜2.1mg/2gの量のナロキソン(塩酸塩二水和物)または120〜210mgのモルヒネ/2gの量のモルヒネ(硫酸塩五水和物)を含んでいた。
【0064】
6時間後のナロキソンの放出が90%以上であるのに対し、モルヒネは8時間後でも約30〜70%しか放出されておらず、90%以上のモルヒネの放出は、20時間後に達成される。
【0065】
上記説明、特許請求の範囲および図面に開示される本発明の特徴は、個別および任意の組合せの両方において、そのさまざまな実施形態における本発明の実施にとって必要不可欠でありうる。
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の粒子および第2の粒子を含む医薬組成物であって、
前記第1の粒子が少なくとも1種類のオピオイドまたはそれらの薬学的に許容される塩を含み、
前記第2の粒子が少なくとも1種類のオピオイド拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩を含み、
前記第1および第2の粒子が視覚的に検出可能な性質および/または物理的な性質によって互いに識別することができず、
前記オピオイド拮抗薬の放出が、経口投与後30分から8時間にわたり継続的に生じることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記オピオイド拮抗薬の放出が、経口投与後30分から6時間、好ましくは45分から4.5時間にわたり継続的に生じることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記オピオイドが完全作動薬であることを特徴とする、請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記オピオイドがモルヒネであることを特徴とする、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記オピオイド拮抗薬が、5%未満の経口バイオアベイラビリティを有するオピオイド拮抗薬であることを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記オピオイド拮抗薬がナロキソンであることを特徴とする、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記オピオイドの放出が、 経口投与後、0時間から少なくとも12時間、好ましくは0から24時間、生じることを特徴とする、請求項1〜6いずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記第1および第2の粒子がペレットであることを特徴とする、請求項1〜7いずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ペレットが、前記薬物を制御放出するためのコアおよび層コーティングを含むことを特徴とする、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記活性薬剤を制御放出するための層コーティングが、少なくとも、ポリアクリレート/ポリメタクリレート・ポリマーを含むことを特徴とする、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記活性薬剤を制御放出するための層コーティングが、少なくとも1つのEudragit(登録商標)を含むことを特徴とする、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
1日2回、好ましくは1日1回投与するための請求項1〜11いずれか1項記載の医薬組成物を含む、経口投与用の製剤。
【請求項13】
前記製剤が、カプセル、好ましくは硬ゼラチンカプセル、または小袋であることを特徴とする、請求項12記載の製剤。
【請求項14】
オピオイド拮抗薬のオピオイドに対する比が1:10未満、好ましくは1:250〜1:10未満の範囲、特に好ましくは1:100の範囲であることを特徴とする請求項12または13記載の製剤。
【請求項15】
オピオイドの用量が、30、60または200mgであることを特徴とする請求項12〜14いずれか1項記載の製剤。
【請求項16】
オピオイド依存状態の治療に使用するための請求項1〜11いずれか1項記載の医薬組成物または請求項12〜15いずれか1項記載の製剤。
【請求項17】
オピオイドの用量が200mgであることを特徴とする請求項16記載の医薬組成物または製剤。
【請求項18】
オピオイド依存性または非オピオイド依存性の患者における疼痛治療に使用するための請求項1〜11いずれか1項記載の医薬組成物または請求項12〜15いずれか1項記載の製剤。
【請求項19】
オピオイドの用量が30または60mgであることを特徴とする請求項18記載の医薬組成物または製剤。

【図1】
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【公表番号】特表2012−524732(P2012−524732A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506335(P2012−506335)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/DE2010/000453
【国際公開番号】WO2010/121600
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(512103468)フェーメ ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】Phoeme GmbH
【Fターム(参考)】