説明

オフセット印刷用インキ組成物の製造方法及び該製造方法から得られるオフセット印刷用インキ組成物

【課題】中性カーボンブラックを利用しながら、従来の製造方法と比較して生産性を大幅に向上させることができるとともに、製造コストの高騰を抑制し、さらに印刷して得られる印刷物が、酸性カーボンブラックを利用したインキ組成物とほぼ同等の印刷品質を有するオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】中性カーボンブラック及び濃度が0.3mol/L以上のオキソ酸水溶液の混合物を25℃以上の温度下で攪拌し、上記中性カーボンブラックを酸性処理して、酸性処理カーボンブラックを調製する工程と、酸性処理後の上記混合物に、油性樹脂ワニスを加えて攪拌し、上記酸性処理カーボンブラックを水相から油性樹脂ワニス相に移行させ、オフセット印刷用インキのベース組成物を調製する工程と、上記オフセット印刷用インキのベース組成物を水で洗浄してオキソ酸を除去した後、脱水する工程とを含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法及び該製造方法から得られるオフセット印刷用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックを用いてなるオフセット印刷用インキ組成物を製造するには、カーボンブラックをオフセット印刷用インキ組成物の油性樹脂ワニス中に充分に分散させることにより発色効果を高める必要がある。
通常、オフセット印刷用インキ組成物で使用されるカーボンブラックは、表面をオゾン又は化学薬品等で酸化処理した酸性のカーボンブラックである。
この酸性のカーボンブラックの分散は、乾燥状態のまま油性樹脂ワニス中で練肉するというような極めて簡単な方法で行われており、オフセット印刷用インキ組成物としたときのカーボンブラックの経時安定性が優れ、また、当該オフセット印刷用インキ組成物の印刷物は、光沢、漆黒性等の印刷品質が良好である。
【0003】
しかし、近年、酸性のカーボンブラックより低価格である中性カーボンブラックをオフセット印刷用インキ組成物に用いることが検討されている。
中性カーボンブラックは、特別な処理を行わないことから安価で製造できる代わりに、油性樹脂ワニスに分散させるための基本的特性である、油性樹脂ワニスに対する濡れ性が劣る。
従って、従来の分散方法で中性カーボンブラックを油性樹脂ワニス中に分散させた場合は、未分散のままの中性カーボンブラックが残留して、さらに粒径分布もブロードとなる。その結果、このオフセット印刷用インキ組成物を印刷して得られる印刷物は、酸性のカーボンブラックを用いたものより印刷品質が低くなるという問題を有していた。
【0004】
この問題を解決するために、予め、中性カーボンブラックと、印刷インキで用いる常温で固体の樹脂とを混練し、乾式粉砕した後、油性樹脂ワニス中に混合、分散させたオフセット印刷用墨インキ組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、そのような組成物を得るためには、新たに乾式粉砕のための設備(乾式のアトライタ、ボールミル、振動ミル等)が必要で、且つ、最適な粉砕条件を定めることが困難という問題があり、さらに製造工程が多くなって、時間やコストの増加は免れないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−327143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様に、せっかく安価な中性カーボンブラックを利用しても、従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では余分な設備と製造コストとを要し、さらにそのインキ組成物を印刷した場合に得られる印刷物は、酸性のカーボンブラックを用いた場合と比較して印刷品質が低下するなどの欠点を有し、中性カーボンブラックの利点を生かすことができなかった。
そこで、本発明の目的は、中性カーボンブラックを利用しながら、従来の製造方法と比較して生産性を大幅に向上させることができるとともに、製造コストの高騰を抑制し、さらに印刷して得られる印刷物が、酸性カーボンブラックを利用したインキ組成物とほぼ同等の印刷品質を有するオフセット印刷用インキ組成物の製造方法、及び、その製造方法から得られるオフセット印刷用インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、中性カーボンブラックを、所定の濃度のオキソ酸で酸性処理して酸性処理カーボンブラックを調製後、該酸性処理カーボンブラックをオフセット印刷用インキ組成物で用いられる油性樹脂ワニス相中に移行させることにより、上記課題を全て解決し得ることを見いだし、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、中性カーボンブラック及び濃度が0.3mol/L以上のオキソ酸水溶液の混合物を25℃以上の温度下で攪拌し、上記中性カーボンブラックを酸性処理して、酸性処理カーボンブラックを調製する工程と、酸性処理後の上記混合物に、油性樹脂ワニスを加えて攪拌し、上記酸性処理カーボンブラックを水相から油性樹脂ワニス相に移行させ、オフセット印刷用インキのベース組成物を調製する工程と、上記オフセット印刷用インキのベース組成物を水で洗浄してオキソ酸を除去した後、脱水する工程とを含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記脱水する工程の後に、さらにロールミル又はビーズミルで練肉する工程を有することが好ましい。
また、本発明は、上記オキソ酸は、硝酸、硫酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、本発明は、上記中性カーボンブラックは、平均一次粒子径が15〜70nmの中性カーボンブラックであることが好ましい。
また、本発明は、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法で得られることを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物に関する。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0010】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、中性カーボンブラック及び濃度が0.3mol/L以上のオキソ酸水溶液の混合物を25℃以上の温度下で撹拌し、上記中性カーボンブラックを酸性処理して、酸性処理カーボンブラックを調製する工程を有する。
【0011】
上記中性カーボンブラックとしては、例えば、酸性処理される前のpH値が6.0〜8.0のカーボンブラックが挙げられる。
上記中性カーボンブラックとしては、なかでも平均一次粒子径が15〜70nmの中性カーボンブラックがより有効である。上記平均一次粒子径の中性カーボンブラックを用いることで、漆黒性、着色力が良好となる。上記中性カーボンブラックの平均一次粒子径が15nm未満であると、色相が赤みとなり漆黒性不足となることがある。一方、上記平均一次粒子径が70nmを超えると、本発明により得られるオフセット印刷用インキ組成物の着色力不足となり、また、濃度不足、漆黒性不足となることがある。
上記中性カーボンブラックの平均一次粒子径のより好ましい下限は20nm、より好ましい上限は50nmである。
なお、本明細書において、上記平均一次粒子径は、電子顕微鏡観察による算術平均径の値である。
【0012】
上記中性カーボンブラックのなかでも、カラー用ビード中性カーボンブラック及びゴム用ビード中性カーボンブラックは、従来用いられていた中性カーボンブラックに比べて粉塵が起こりにくく、安価であること、また、従来技術では難分散性であることも、簡単に分散できる方法を提供する本発明の目的から特に有効である。
【0013】
上記オキソ酸としては、上記中性カーボンブラックの表面を酸性化する能力を有する酸であれば特に制限なく使用することができる。具体的には、無機化合物のオキソ酸の例としては、例えば、硝酸、硫酸等が挙げられ、有機化合物のオキソ酸としては、例えば、酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。
本発明では、上記オキソ酸の水溶液として使用する。上記オキソ酸水溶液のオキソ酸の濃度は、反応性、作業性等の点から0.3mol/L以上である。0.3mol/L未満であると、上記中性カーボンブラックの表面を充分に酸性化することができず、本発明のオフセット印刷用インキ組成物を使用して得られる印刷物の印刷品質の向上を図ることができなくなる。
上記オキソ酸の濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、さらに、上記オキソ酸の中性カーボンブラックの表面を酸性化する能力の強弱に応じて、該オキソ酸の濃度を調整することが好ましい。
【0014】
本工程において、上記酸性処理カーボンブラックは、中性カーボンブラックとオキソ酸水溶液との混合物を25℃以上の温度下で撹拌することで調製される。
上記混合物の撹拌時の温度が25℃未満であると、上記中性カーボンブラックの表面を充分に酸性化することができず、本発明により製造されたオフセット印刷用インキ組成物を使用して得られる印刷物の印刷品質の向上を図ることができなくなる。
上記混合物の撹拌時の温度の好ましい下限は30℃、好ましい上限は使用するオキソ酸水溶液の沸点(又は100℃)である。
【0015】
上記中性カーボンブラックとオキソ酸水溶液との混合物を攪拌する装置としては特に限定されず、例えば、ディスパー等の攪拌装置を備えたタンク又は専用のフラッシャー(ニーダー)などが例示でき、さらに脱溶媒する機構を有する装置を用いるのが好ましい。
また、一般的に、上記酸性処理をより高温で行う方が、カーボンブラック表面の酸性化が進みやすいという点から、必要により加温・加熱装置を利用することもできる。
【0016】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、酸性処理後の上記混合物に、油性樹脂ワニスを加えて攪拌し、上記酸性処理カーボンブラックを水相から油性樹脂ワニス相に移行させ、オフセット印刷用インキのベース組成物を調製する工程を有する。
【0017】
上記油性樹脂ワニスとは、バインダー樹脂を油状液体中に溶解または分散させた状態のものであり、通常、顔料の分散やインキ組成物の粘度の調整などで利用される。
上記バインダー樹脂としては特に限定されず、例えば、オフセット印刷用インキに一般的に使用されている樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェノールを含有しないポリエステル樹脂等が挙げられる。また、必要に応じてアルキッド樹脂、石油樹脂等を併用することもできる。
【0018】
上記油性樹脂ワニスに含まれるバインダー樹脂は、製造するオフセット印刷用インキ組成物中、10〜60質量%の範囲で含有されることが好ましい。10質量%未満であると、光沢不足、耐摩擦性不足の懸念がある。60質量%を超えると、製造するオフセット印刷用インキ組成物のオフセット印刷に適した物性値(タック、流動性等)を維持することが困難になる。
上記バインダー樹脂の含有量のより好ましい下限は15質量%、より好ましい上限は40質量%である。
【0019】
また、本工程では、必要に応じて、ゲル化剤の適量(バインダー樹脂100質量部に対して15質量部以下程度)を使用し、上記バインダー樹脂を架橋させたゲルワニスも使用することができる。
このような場合に使用するゲル化剤としては、アルミニウムアルコラート類、アルミニウムキレート化合物等が挙げられ、好ましい具体例としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリ−sec−ブチトキシド、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートなどが例示できる。
【0020】
上記油状液体としては、植物油成分、鉱物油成分等が使用できる。
上記植物油成分としては、例えば、植物油や植物油由来の脂肪酸エステル化合物が挙げられる。
【0021】
上記植物油としては、例えば、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等のオフセット印刷に適した乾性油または半乾性油が例示できる。これらは単独で、または2種以上を併用できる。
【0022】
上記植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、例えば、上記の乾性油または半乾性油由来の脂肪酸モノアルキルエステル化合物が挙げられる。
かかる脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が例示できる。
上記脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成するアルコール由来のアルキル基は、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等のアルキル基が例示できる。
これら脂肪酸モノアルキルエステル化合物は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
上記鉱物油成分としては、水と相溶しない、沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上のものを挙げることができる。
具体的には、従来からオフセット印刷用インキ溶剤として使用されている、n−パラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、ナフテン系溶剤、芳香族系溶剤、α−オレフィン系等の石油系溶剤、軽油、スピンドル油、マシン油、シリンダー油、テレピン油、ミネラルスピリット等が例示できる。
【0024】
上記油性樹脂ワニスにおいて、植物油成分と鉱物油成分は、植物油成分を単独で用いてもよく、脂肪酸エステル化合物、鉱物油をそれぞれ単独で用いてもよく、植物油成分と鉱物油成分とを併用してもよい。
上記油状液体の量は特に限定されないが、油性樹脂ワニス全体の20〜70質量%の範囲となるように用いるのが好ましい。
【0025】
さらに、本工程では、必要に応じて、体質顔料、ドライヤー、乾燥遅延剤、酸化防止剤、整面助剤、耐摩擦性向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤等の添加剤等を適宜使用することができる。
【0026】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、上記オフセット印刷用インキのベース組成物を水で洗浄してオキソ酸を除去した後、脱水する工程を有する。
上記オフセット印刷用インキのベース組成物を水で洗浄してオキソ酸を除去する方法としては、具体的には、上述したオフセット印刷用インキのベース組成物を調製する工程にて分離させたオキソ酸水溶液を廃出し、次いで、得られたオフセット印刷用インキのベース組成物に水を加えて攪拌することにより洗浄(水洗)し、系中に残存するオキソ酸を除去する。
【0027】
上記脱水する方法としては特に限定されず、例えば、従来公知の脱溶媒する機構を有する装置を用いる方法が挙げられる。
このような装置としては、例えば、脱溶媒する機構を有し、ディスパー等の攪拌装置を備えたタンク、又は専用のフラッシャー(ニーダー)等が挙げられる。
【0028】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、上記脱水する工程の後に、さらにロールミル又はビーズミルで練肉する工程を有することが好ましい。
本工程を有することで、さらに顔料の微細分散が可能となり、本発明により製造されたオフセット印刷用インキ組成物を用いて得られる印画物の印刷品質が向上する。
【0029】
また、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、上記練肉する工程で得られた練肉物(この段階の組成物をオフセット印刷用ベースインキ組成物と呼ぶこともある)に、残余の材料を加えて所定の物性に調整する工程を経て、最終的なオフセット印刷用インキ組成物を製造してもよい。
【0030】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、中性カーボンブラックを所定の濃度のオキソ酸で酸性処理した酸性処理カーボンブラックをオフセット印刷用インキ組成物に用いられる油性樹脂ワニス相中に移行させるものであるため、生産性を大幅に向上させることができるとともに、製造コストの高騰を抑制し、さらに印刷して得られる印刷物が、酸性カーボンブラックを利用したインキ組成物とほぼ同等の印刷品質を有するオフセット印刷用インキ組成物を製造することができる。
このような本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法により得られるオフセット印刷用インキ組成物もまた、本発明の1つである。
【0031】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物は、上述した本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法により製造されてなるため、未分散の中性カーボンブラックの残存に起因して粒度分布がブロードとなることを好適に防止できる。このため、本発明のオフセット印刷用インキ組成物を用いてなる印刷物は、酸性のカーボンブラックを用いたオフセット印刷用インキ組成物と比較して遜色のない印刷品質を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法により、中性カーボンブラックを利用しながら、オフセット印刷用インキ組成物の生産性を大幅に向上させることができるとともに、製造コストの高騰を抑制することができる。さらに得られたオフセット印刷用インキ組成物は、酸性のカーボンブラックを利用したものと比較しても遜色のない性能を有し、かつ本発明のオフセット印刷用インキ組成物を用いた印刷物は濃度、光沢、漆黒性等の印刷品質が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものとする。なお、以下の実施例、比較例及び参照例において、上述の通り、平均一次粒子径については電子顕微鏡観察による算術平均径の値である。
【0034】
<実施例1>
表1の配合に従い、pH8.0、平均一次粒子径24nmのカラー用中性カーボンブラック(#45、三菱化学社製)と0.48mol/Lの硝酸水溶液とからなる混合物を、卓上フラッシャー(井上機械社製)内で60℃にて加熱攪拌を行い、中性カーボンブラックを酸性処理して酸性処理カーボンブラックを調製した。
次いで、酸性処理後の混合物にロジン変性フェノール樹脂(重量平均分子量10万)/大豆油/AFソルベント6号(商品名、鉱物油成分、印刷インキ用溶剤、新日本石油化学株式会社製)/ALCH(エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド)の質量比が40/30/29/1であるゲルワニス(油性樹脂ワニス)の一部を添加し、攪拌により、酸性処理カーボンブラックを水相から油性樹脂ワニス相に移行させてオフセット印刷用インキのベース組成物を調製した。
その後、卓上フラッシャー本体を傾けて分離したオキソ酸水溶液を除去し、得られたオフセット印刷用インキのベース組成物に水を添加して水洗を行った。
さらに、減圧下でベース組成物中の水を除去した後、残りのゲルワニスを添加し、45℃の3本ロールミル(井上機械社製)を用いて、グラインドゲージによる粒子径測定で7.5μm以下となるまで練肉分散を行い、オフセット印刷用ベースインキ組成物1を得た。
【0035】
次に、表2の配合に従い、このオフセット印刷用ベースインキ組成物1にゲルワニス、ワックス(ポリエチレンワックス、シャムロック社製)、ドライヤー(マンガンドライヤー、OMG社製)、AFソルベント6号を加えオフセット印刷用インキ組成物1を得た。
【0036】
<実施例2>
硝酸の濃度を0.48mol/Lから0.79mol/L、加熱温度を60℃から30℃に変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物2、およびオフセット印刷用インキ組成物2を得た。
【0037】
<実施例3>
硝酸の濃度を0.48mol/Lから0.79mol/Lに変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物3、およびオフセット印刷用インキ組成物3を得た。
【0038】
<実施例4>
硝酸の濃度を0.48mol/Lから0.79mol/L、加熱温度を60℃から80℃に変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物4、およびオフセット印刷用インキ組成物4を得た。
【0039】
<実施例5>
硝酸の濃度を0.48mol/Lから1.59mol/Lに変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物5、およびオフセット印刷用インキ組成物5を得た。
【0040】
<実施例6>
0.48mol/Lの硝酸水溶液から0.83mol/Lの酢酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物6、およびオフセット印刷用インキ組成物6を得た。
【0041】
<実施例7>
0.48mol/Lの硝酸水溶液から0.51mol/Lの硫酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物7、およびオフセット印刷用インキ組成物7を得た。
【0042】
<比較例1>
硝酸の濃度を0.48mol/Lから0.16mol/Lに変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物8、およびオフセット印刷用インキ組成物8を得た。
【0043】
<比較例2>
硝酸の濃度を0.48mol/Lから0.79mol/L、加熱温度を60℃から20℃に変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物9、およびオフセット印刷用インキ組成物9を得た。
【0044】
<比較例3>
0.48mol/Lの硝酸水溶液から1.37mol/Lの塩酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物10、およびオフセット印刷用インキ組成物10を得た。
【0045】
<比較例4>
0.48mol/Lの硝酸水溶液を配合しなかった以外は実施例1と同様の材料、製造方法により、オフセット印刷用ベースインキ組成物11、およびオフセット印刷用インキ組成物11を得た。
【0046】
<参照例1>
参照例1としてカーボンブラックを#45から酸性カーボンブラック(MA−7、三菱化学社製)に変更し、表1の配合に従って、卓上フラッシャー(井上機械社製)内で所定の材料を攪拌し、45℃の3本ロールミル(井上機械社製)を用いて、グラインドゲージによる粒子径測定で7.5μm以下となるまで練肉分散を行い、オフセット印刷用ベースインキ組成物12、およびオフセット印刷用インキ組成物12を得た。
【0047】
<評価>
実施例1〜7、比較例1〜4及び参照例1のオフセット印刷用インキ組成物の流動性、光沢、漆黒性を下記の方法で評価した。その結果を表1に示す。
なお表1には上記オフセット印刷用ベースインキ組成物1〜12の配合を、表2には上記オフセット印刷用インキ組成物1〜12の配合を示した。
【0048】
(1)流動性
JIS K5101に従って、各オフセット印刷用インキ組成物の25℃での流動性を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:スロープが7.6以上
○:スロープが6.1〜7.5
△:スロープが6以下
【0049】
(2)光沢・漆黒性評価
各オフセット印刷用インキ組成物をRIテスター(株式会社明製作所製)により、コート紙(O.Kトップコート73K)に展色した。その展色物を室温で1日放置後、60°、−60°反射率を光沢計(日本電飾工業株式会社製)を用いて光沢値を測定した。光沢値が50以上を実用レベルと評価した。
また、漆黒性は目視にて評価を行い、実用レベルに至らないものを△、実用レベルにあるものを○、特に優れるものを◎とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
以上、具体的に実施例、比較例及び参照例を挙げて評価した結果により、本発明のオフセット印刷用インキ組成物に該当する実施例1〜7は、流動性・光沢・漆黒性の全てにおいて、少なくとも実用上、問題のないレベルを有していることが分かる。さらに硝酸の0.79mol/L水溶液を用いて、60℃以上の温度下で処理した実施例3、4、硝酸の1.59mol/L水溶液を用いた実施例5、硫酸の0.51mol/L水溶液を用いた実施例7では、参照例1の、酸性カーボンブラックを用いたオフセット印刷用インキ組成物と比較しても、流動性・光沢・漆黒性の全てにおいて同等以上の性能を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、安価な中性カーボンブラックを利用した場合でも、従来の製造方法よりも生産性を大幅に向上させることができ、且つ、分散性が良好となり、印刷品質に優れたオフセット印刷用インキ組成物を提供することができる。
本発明の製造方法により得られるオフセット印刷用インキ組成物は、枚葉印刷用インキ、オフセット輪転印刷用インキ(ヒートセット型、ノンヒートセット型)、新聞印刷用インキ等で使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性カーボンブラック及び濃度が0.3mol/L以上のオキソ酸水溶液の混合物を25℃以上の温度下で攪拌し、前記中性カーボンブラックを酸性処理して、酸性処理カーボンブラックを調製する工程と、
酸性処理後の前記混合物に、油性樹脂ワニスを加えて攪拌し、前記酸性処理カーボンブラックを水相から油性樹脂ワニス相に移行させ、オフセット印刷用インキのベース組成物を調製する工程と、
前記オフセット印刷用インキのベース組成物を水で洗浄してオキソ酸を除去した後、脱水する工程とを含む
ことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
脱水する工程の後に、さらにロールミル又はビーズミルで練肉する工程を有する請求項1記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項3】
オキソ酸は、硝酸、硫酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項4】
中性カーボンブラックは、平均一次粒子径が15〜70nmの中性カーボンブラックである請求項1〜3のいずれか記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法で得られることを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物。

【公開番号】特開2012−41434(P2012−41434A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183400(P2010−183400)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】