説明

オフセット印刷用新聞用紙

【課題】 ネッパリ現象を十分抑制し、ベッセルピック、ブランケットパイリングのいずれもが抑制され、しかもインキ着肉性が顕著に改善されたオフセット印刷用新聞用紙を提供する。
【解決手段】 重量平均分子量が50000〜80000の酸化澱粉にスチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入してなるポリマー導入酸化澱粉を主成分とする表面処理剤を原紙の両面に、塗布、乾燥して得たオフセット印刷用新聞用紙。前記表面処理剤には、スチレン系表面サイズ剤及びオレフィン系表面サイズ剤から選ばれる少なくとも1種、顔料等を含有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用新聞紙に関し、より詳しくは、良好な印刷作業性およびカラー印刷品質を有するオフセット印刷用新聞用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
新聞用紙の印刷を含め、近年の商業印刷方式は、オフセット印刷が主流となっている。オフセット印刷は通常PS版と呼ばれる刷版を作成し、刷版に湿し水とインキを供給して印刷する方式である。刷版は平版であり、刷版においては、画線部は親油性の表面となるように処理され、非画線部は親水性の表面になるように処理されている。この刷版に湿し水とインキを供給すると、画線部にはインキが、非画線部には水が付着した状態となり、この刷版よりブランケットを介して紙にインキを転移させて印刷する。
【0003】
このオフセット印刷では、比較的タックの強いインキを使用するため、用紙には表面強度が強いことが要求される。また、湿し水で用紙表面を処理するために、表面強度が弱い、あるいは耐水性の弱い表面を持つ用紙を使用すると、紙粉がブランケットに堆積する現象(以下「ブランケットパイリング」という)が生じたり、インキに混入することにより、印刷面に所謂カスレを生じる場合がある。さらに、近年、新聞用紙へのDIP(脱墨古紙パルプ)の使用比率が増加してきているが、DIPには広葉樹パルプ由来のベッセル(導管)が多く含まれており、湿し水によりこのベッセルが新聞用紙表面から印刷機のブランケットの画線部分に取られ、ベッセル部分にインキが乗らずに白い斑点状の印刷欠点(所謂白抜け)が発生するといったトラブルが起こる。この印刷欠点(白抜け)は、「ベッセルピック」とも呼ばれている。
【0004】
また、近年、新聞用紙には軽量化が求められており、これに伴い、印刷後も高い不透明度を維持しうる用紙の要求が強まっており、紙の不透明度を高めるために、ホワイトカーボン、酸化チタンあるいはタルク等の無機顔料が抄紙時の填料として多く使われるようになった。これらの無機顔料は、オフセット印刷時の湿し水によって容易に紙層内から浸み出し、ブランケットにパイリングする紙粉の主な成分の一つとなる。
【0005】
このようなブランケットパイリング、印面カスレや白抜けのようなオフセット印刷時の表面強度低下に関する問題に対応する方法として、従来から新聞用紙の表面に澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド系樹脂等の接着剤を主成分とする表面処理剤をゲートロールコーターなどを用いて塗布することが一般に行なわれている。しかしながら、表面処理剤の使用量が増大すると、コスト高となるだけでなく、印刷時に紙表面が湿し水で湿った状態で起こる紙表面の粘着性(通称「ネッパリ性」と呼ばれる)が増大する傾向がある。しかもこのネッパリ性が大きくなると、特に非画線部におけるブランケットパイリングを一層増大させたり、また、印刷時に紙面がブランケットに貼り付き、結果的にシワや断紙といった走行性などの別の不具合をも誘発してしまう。
【0006】
一方、ロジンエマルジョンサイズ剤等の内添サイズ剤を使用し、紙表面のサイズ度を高めてオフセット印刷時の湿し水の紙層内部への浸透を抑制することにより、紙粉の発生を抑え、また、所謂、水切れ断紙を防ぐことが従来から行われてきた。ここで、「水切れ断紙」とは、湿し水の過剰な吸収を原因とする紙力低下による断紙、より詳しくは、新聞印刷機の版上で余った湿し水が紙面に一度に付着したときに、瞬間的に紙中に吸収されることでウェブが破断することをいう。しかし、これらの内添サイズ剤の使用は、新聞用紙抄紙機のような高速抄紙機では、白水を移送又は貯蔵するための配管、タンク等で泡立ちによるトラブルを誘発し易い。また、内添サイズ剤とともに歩留り向上剤が併用される場合には、抄紙系内のピッチ等も紙中に取り込み、新聞用紙の白色度を低下させるといった難点を抱えている。
【0007】
上記の如き難点を改善するために種々の提案がなされており、例えば、高粘度澱粉と低粘度澱粉をブレンドした紙塗工用澱粉組成物を表面処理剤として用いることにより、表面強度や紙力を向上させ、且つ水に対して溶出性の少ない皮膜を形成すると共に、填料との親和性を向上させる方法(特許文献1参照)が提案されている。しかし、提案されている方法では、ブランケットパイリングの抑制効果が十分ではなく、また水切れ断紙を防止する効果も殆どなく、印刷作業性に問題がある。
【0008】
また、アミロペクチンの含有量が95重量%以上である高アミロペクチン澱粉と耐水化剤からなる印刷紙用表面サイズ剤液組成物を使用することにより、表面強度と湿し水溶液に対する溶出率を抑制する方法(特許文献2参照)が提案されている。しかし、この組成物では湿し水溶液の基材中への浸透を十分に抑えることが出来ないために水切れ断紙を防止する効果が殆どない。また、アミロペクチンの溶出は抑制できるものの、ネッパリ現象の主要因であるアミロペクチン成分のわずかな膨潤までは抑えることができないためにネッパリ現象の改善効果は不十分である。さらに、上記いずれの方法でも、新聞用紙表面の疎水性が低いため、インキ成分の付着性(インキ着肉性)が劣り、高い紙面インキ濃度が得難い欠点がある。
【0009】
一方、置換コハク酸を有効成分とする再湿粘着防止剤を表面処理剤として用いることにより、ネッパリを低減する方法(特許文献3参照)も提案されている。しかしながら、この方法では紙表面の動摩擦係数の低下を招き、紙流れ等のトラブルが発生し、印刷作業性を低下する虞がある。なお、「紙流れ」とは、新聞オフセット輪転印刷機において、印刷部から折り部にいたる間に走行紙が蛇行したり偏ったりするトラブルを言う。
【0010】
また、表面サイズ剤と水溶性高分子接着剤を表面処理剤として塗工することにより、紙表面の接触角を90度以上に高め、ブランケットパイリングを改善する方法(特許文献4参照)が提案されている。この提案の方法によれば、ブランケットパイリング等の改善効果が認められ、さらに、インキ濃度向上効果も認められる。しかしながら、ネッパリ性の解消の点では、更なる改善が求められている。
【0011】
また、表面処理剤中に樹脂酸および/または樹脂酸誘導体を含有させる方法(特許文献5参照)も提案されているが、樹脂酸誘導体と水溶性高分子を併用した場合、湿し水による水溶性高分子の膨潤に伴い、水溶性高分子や、繊維表面にイオン的に結合している樹脂酸誘導体が遊離してしまう。このため、サイズ性や表面接触角の著しい低下が起こり、湿し水が容易に基材に浸透し、オフセット印刷機上で皺や紙流れなどが発生する虞がある。
【0012】
さらに、表面処理剤として特定の加工澱粉を用い、表面処理剤の粘度と表面処理剤の塗布量との積を一定の範囲とし、表面強度と表面粘着性をバランスさせようとする方法(特許文献6参照)が提案されている。この方法でも、表面サイズ剤を併用しない場合には、湿し水の基材中への浸透を抑えることが出来ず、ブランケットパイリングの抑制効果が十分ではなく、また水切れ断紙の防止効果がほとんどない。同文献には、サイズ剤の併用も提案されているが、サイズ剤の種類によってはネッパリ性が増大し、また、アミロペクチンの多い加工澱粉を使用した場合には、表面強度は強くなるが、それにつれてネッパリ性も増大し、オフセット印刷機での断紙等のトラブルが発生しやすくなってしまう。さらに同文献には、スチレン系サイズ剤とオレフィン系サイズ剤を併用する方法も開示されているが、これらのサイズ剤はイオン的に繊維上に定着しているに過ぎないため、湿し水により容易に遊離し、サイズ性を失ってしまう。従って、通常の酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等とサイズ剤を併用した場合には、サイズ性や表面接触角の著しい低下が起こるため、湿し水が容易に基材に浸透し、オフセット印刷機上で皺や紙流れなどが発生する虞がある。
【0013】
一方、n−アルケニルコハク酸無水物とカチオン化澱粉を反応させた、n−アルケニルサクシニル基置換カチオン化澱粉の使用も提案されている(特許文献7参照)。この澱粉を用いることで、インクジェット印刷で使用されるアニオン性水系インキの定着性が改善されるため、インクジェット方式の印刷においてはにじみ防止等に効果を発揮する。しかしながら、新聞用紙のオフセット印刷では、アニオン性水系インキは使用されないため、インクジェット印刷で得られるようなカチオン化澱粉によるインキ濃度向上効果は得られない。また、n−アルケニルサクシニル基は紙表面の摩擦係数を低下しやすく、オフセット印刷機において紙流れ等のトラブルが発生する虞がある。さらに、新聞用紙の外部サイジングにおいては、ゲートロールやツーロールサイズプレスなどのサイズプレス方式が通常用いられるが、これらの装置においては、塗布液を循環して用いるため、紙表面の繊維や内添顔料などのアニオン成分が循環系に混ざりやすく、これらのアニオン成分がカチオン系の塗布液と反応して、塗料粕が発生する懸念もある。
【0014】
また、炭素数8〜24のアルキルメタクリレート基を有するスチレンアクリル系ポリマーと酸化澱粉の混合液を塗布した表面サイズプレス紙が提案されている(特許文献8参照)。この混合液においては、長鎖アルキルメタクリレート基の作用により澱粉糊液の老化性が著しく低減されるため、表面強度向上効果が得られる。特許文献8のように酸化澱粉にスチレン・アクリル系ポリマーを配合した場合には、ネッパリ性抑制、乾燥表面強度、湿潤表面強度、白抜け防止、インキ着肉性の点である程度の向上は認められるが、これら性質の更なる向上が望まれている。
【特許文献1】特開平5−195489号公報
【特許文献2】特開平9−78495号公報
【特許文献3】特開平6−192995号公報
【特許文献4】特開2000−234290号公報
【特許文献5】特開2003−286680号公報
【特許文献6】特開2003−113592号公報
【特許文献7】特開平7−197397号公報
【特許文献8】特開2005−054346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、ネッパリ現象を十分抑制し、ベッセルピック、ブランケットパイリングのいずれもが抑制され、しかもインキ着肉性が顕著に改善されたオフセット印刷用新聞用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、オフセット印刷において、新聞用紙の表面接触角がインキ着肉性、およびネッパリ、ベッセルピック、ブランケットパイリング等の印刷作業性に与える影響について鋭意検討した。その結果、新聞用紙の表面接触角を高める目的で、通常使用されている澱粉に表面サイズ剤を併用する方法では、ネッパリやベッセルピックなどの印刷作業性の改善には限界があることが判明した。
【0017】
本発明者らは、更に検討を重ねた結果、重量平均分子量が50000〜80000である酸化澱粉に、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入してなるポリマー導入酸化澱粉を表面処理剤の主成分として使用することにより、ネッパリ、ベッセルピック、ブランケットパイリングなどの印刷作業性、インキ着肉性の顕著な向上が達成できることを見出した。
【0018】
本発明は、かかる知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであって、次のオフセット印刷用新聞用紙を提供するものである。
【0019】
[項1] 原紙及び該原紙の両面に形成された表面処理剤層を備えており、該表面処理剤が、重量平均分子量50000〜80000の酸化澱粉にスチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入してなるポリマー導入酸化澱粉を含有することを特徴とするオフセット印刷用新聞用紙。
【0020】
[項2] ポリマー導入酸化澱粉のカルボキシ基置換度が0.017以上である項1に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0021】
[項3] 前記スチレン・メタクリレート系共重合体を構成するメタクリレートモノマーが、メタクリル酸C8〜C24アルキルエステルである項1に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0022】
[項4] 前記ポリマー導入酸化澱粉が、酸化澱粉に、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を、酸化澱粉に対して6〜10質量%の割合で、導入してなる項1または2に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0023】
[項5] 前記表面処理剤が、さらに、顔料を含有する項1〜4のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0024】
[項6] 前記表面処理剤が、さらに、オレフィン系表面サイズ剤及びスチレン系表面サイズ剤からなる群から選ばれる表面サイズ剤の少なくとも1種を含有する項1〜5のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0025】
[項7] 前記ポリマー導入酸化澱粉の乾燥塗布量が、片面当り0.05〜1.0g/m2である項1〜6のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0026】
[項8] 前記顔料の乾燥塗布量が、片面当り0.1〜2.0g/m2である項5に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0027】
[項9] 前記表面サイズ剤の乾燥塗布量が、片面当り0.005〜0.15g/m2である項6に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【0028】
[項10] 前記原紙が、内添サイズ剤を、パルプに対して0.05質量%未満の割合で含有する原紙である項1〜9のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るオフセット印刷用新聞用紙は、オフセット印刷時のインキ着肉性が顕著に改善され、ネッパリ現象、ベッセルピック、ブランケットパイリング、および水切れ断紙等のトラブルを効果的に抑制でき、良好な印刷作業性およびカラー印刷品質を有するという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
上記のように、本発明に係るオフセット印刷用新聞用紙は、原紙の両面に、上記ポリマー導入酸化澱粉を主成分とする表面処理剤が塗布、乾燥されてなる層を備えていることを特徴とする。上記ポリマー導入酸化澱粉は、特定範囲の分子量を有する酸化澱粉を原料とし、これにスチレン・メタクリレート系共重合体を導入してなるものである。
【0031】
酸化澱粉
本発明で原料として使用する酸化澱粉は、各種の澱粉から常法に従い製造することができる。酸化澱粉の原料となる澱粉としては、特に制限はなく、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉などの地上澱粉や馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉などの地下澱粉のいずれでも良いが、好ましくは、産地や気候などによる粘度のばらつきが少ない地上澱粉、なかでもトウモロコシ澱粉が用いられる。また、トウモロコシ澱粉は再湿潤時の粘着性が比較的低く、ネッパリ現象が発生しにくいため原料澱粉として好適である。
【0032】
かかる澱粉から酸化澱粉を製造するには、公知の方法が使用できるが、典型的には、次亜塩素酸を用いて原料澱粉を酸化させる方法が挙げられる。この酸化澱粉製造法は、公知文献(例えば、二國二郎監修、中村道徳、鈴木繁男編集 「澱粉科学ハンドブック」朝倉書店 昭和52年7月20日発行、第501〜503頁)に記載の方法に従って、酸化剤として例えば次亜塩素酸ナトリウムを用い、コーンスターチを原料とするアルカリ性澱粉懸濁液中で不均一系反応を行う方法である。
【0033】
より具体的には、澱粉を水に分散させ濃度30〜50質量%程度の澱粉スラリーを調製し、このスラリーにアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム)等の塩基の水溶液を添加してpHを9〜11に調整する。液温度を30〜50℃に保持し、澱粉分散液を攪拌しながら、有効塩素8〜13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下する。同時に、澱粉分散液pHが9〜10に維持されるように前述の水酸化ナトリウム等の塩基の水溶液を滴下する。所定量の次亜塩素酸水溶液を滴下させて酸化反応を行い、酸化反応終了後直ちに亜硫酸ナトリウムを添加して酸化澱粉スラリーを還元処理し、次いで、酸で分散液pHを中性付近、特に6.5〜7.5程度に戻した後、濾過、水洗、加熱乾燥して、酸化澱粉を得る。
【0034】
本発明で使用する酸化澱粉の重量平均分子量は、50000〜80000の範囲にあるのが重要であり、特に60000〜70000、更に60000〜65000であることが好ましい。重量平均分子量が50000未満の酸化澱粉を原料として使用すると、澱粉糊液を紙表面に塗布しても充分な表面強度向上効果が得がたく、また老化速度も比較的速いため、充分な表面強度が得られない虞がある。一方、重量平均分子量が80000を超える酸化澱粉を原料として使用すると、得られる表面処理剤の粘度が高くなり、ベッセルと繊維の間に充分な結合強度が発生せず、ベッセルピックが起こりやすくなる。
【0035】
本明細書及び請求の範囲において、上記重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフで、プルランを用いて検量線を作成し、試料のリテンション時間から、対プルランの相対分子量を求めることにより測定した値である。
【0036】
前記酸化澱粉は常法により次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤で原料澱粉を酸化処理する等の方法で得られるが、該酸化処理によりカルボキシ基が形成される。本発明において、酸化澱粉のカルボキシ基置換度は、0.017以上であることが望ましく、0.020以上であることがさらに望ましい。カルボキシ基置換度の上限は特に限定されないが、一般には上限は0.025程度、特に0.023程度であるのが好ましい。カルボキシ基置換度は、澱粉糊化液の老化性に影響しており、カルボキシ基置換度が0.017未満であると、澱粉糊化液の老化が進みやすく、経時で、強度に寄与しない澱粉老化物量が多くなる傾向が生じることがある。なお、カルボキシ基置換度は、澱粉糊化液の中和滴定よりカルボキシ基量を求め、その全量が、グルコース残基の6位の−CH2OH基が酸化されて生じたカルボキシ基に由来するものと仮定して置換度を計算することができる。
【0037】
スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩
本発明では、上記特定の酸化澱粉に、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入してなるポリマー導入酸化澱粉を使用する。
【0038】
かかる導入に使用するスチレン・メタクリレート系共重合体としては、種々のものが使用できるが、典型的には、メタクリル酸エステルモノマー(A)、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸モノマー(B)、およびスチレン型モノマー(C)の共重合体が例示できる。
【0039】
前記メタクリル酸エステルモノマー(A)としては、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸テトラデシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ヘキサデシル、メタクリル酸ヘプタデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ノナデシル、メタクリル酸エイコシル等のメタクリル酸アルキルエステルが例示される。該エステルを構成しているアルキル基の炭素数は8〜24であることが好ましく、アルキル基の炭素数が8未満であると充分な疎水性が得られず、また24を超えると糊液が不安定となり、澱粉糊化液塗工時の操業性に問題が発生しやすくなる。これらの中でも、メタクリル酸の炭素数8〜20のアルキルエステルがより好ましい。
【0040】
前記エチレン性不飽和カルボン酸モノマー(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が例示される。
【0041】
前記スチレン型モノマー(C)としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレンなどが例示される。
【0042】
前記スチレン・メタクリレート系共重合体は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、有機アミンとの塩等の形態でもよい。前記塩を形成するアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム等、有機アミンとしては、アルカノールアミン(エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等)、アルキルアミン(メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン等)等が例示される。
【0043】
前記スチレン・メタクリレート系共重合体におけるメタクリル酸エステルモノマー(A)、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸モノマー(B)、およびスチレン型モノマー(C)の割合は特に限定されないが、好ましくはモノマー(A)が10〜50質量%、特に10〜30質量%、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸モノマー(B)が20〜70質量%、特に30〜60質量%、スチレン型モノマー(C)が20〜70質量%、特に30〜60質量%である。
【0044】
前記スチレン・メタクリレート系ポリマーの数平均分子量は特に制限されるものではないが、3000〜30000が好ましく、5000〜15000がさらに好ましい。
【0045】
ここで、上記数平均分子量は、THFを溶離液として、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算して求められる。
【0046】
前記スチレン・メタクリレート系共重合体及びその塩は、それ自体公知であるか、又は公知方法により容易に製造できる。
【0047】
ポリマー導入酸化澱粉
本発明のポリマー導入酸化澱粉は、前記酸化澱粉に前記スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入したものである。
【0048】
上記本発明のポリマー導入酸化澱粉は、各種の方法で製造できるが、例えば、次亜塩素酸を用いて原料澱粉を酸化させて酸化澱粉を製造する公知の工程において、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を反応系に添加して得られるポリマー導入酸化澱粉が好ましい。より詳しくは、例えば、下記の工程(1)及び工程(2)を備えた製造法を例示できる。
【0049】
(1)まず、澱粉を水に分散させ濃度30〜50質量%程度の澱粉スラリーを調製し、このスラリーにアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム)等の塩基の水溶液を添加してpHを9〜11に調整する。液温度を30〜50℃に保持し、澱粉分散液を攪拌しながら、有効塩素8〜13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下する。同時に、澱粉分散液pHが9〜10に維持されるように前述の水酸化ナトリウム等の塩基の水溶液を滴下する。所定量の次亜塩素酸水溶液を滴下させて酸化反応を行い、酸化反応終了後直ちに亜硫酸ナトリウムを添加して酸化澱粉スラリーを還元処理し、次いで、酸で分散液pHを中性付近、特に6.5〜7.5程度に戻すことにより、酸化澱粉スラリーを得る。
【0050】
(2)得られる酸化澱粉スラリーを濾過、水洗、脱水し、これにスチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩の水溶液(溶液濃度:10〜50質量%程度)を添加・混合した後、通常の酸化澱粉製造工程に従って加熱乾燥処理することで、最終生成物であるスチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入してなるポリマー導入酸化澱粉粉体が得られる。
【0051】
上記製造法の工程(2)において、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩の添加率は、酸化澱粉に対して、6〜10質量%の範囲が好ましく、6〜8質量%の範囲がより好ましい。即ち、前記ポリマー導入酸化澱粉は、酸化澱粉に、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を、酸化澱粉に対して6〜10質量%の割合で、導入してなるものである。
【0052】
添加率が6〜10質量%であると、充分なサイズ性が得られ、添加量に応じたサイズ性の向上が見られ、同一塗布量において、澱粉量の実質減少が少ないため、乾燥表面強度に悪影響を及ぼす虞がない。また、充分なサイズ性が得られることから、インキ着肉性を一層向上させることができる。
【0053】
更に、本発明のポリマー導入酸化澱粉は、次のような利点を有している。即ち、本発明のポリマー導入酸化澱粉においては、疎水基(即ち、スチレン・メタクリレート系共重合体)が導入されているため、酸化澱粉フィルム自体の膨潤が抑制され、また、水との接触による該疎水基の遊離を生じないためか、サイズ性の低下がほとんどみられない。このような理由により、本発明では、オフセット印刷における湿し水の浸透が抑制されるため、皺、水切れ断紙等のトラブルを抑制できるものと推測される。
【0054】
また、通常使用される澱粉に表面サイズ剤を添加して得た表面処理剤を使用して得られた表面処理剤層は、澱粉のみからなる表面処理剤を使用して得られた表面処理剤層に比べて、乾燥表面強度の低下を招くと同時に、膨潤した澱粉の粘着性を高めることがあるため、パイリングトラブルやネッパリ現象が発生しやすくなる。しかし、本発明で使用するポリマー導入酸化澱粉においては、膨潤抑制効果が高いためか、ネッパリ現象も発生しにくい。
【0055】
本発明において、ポリマー導入酸化澱粉のカルボキシ基置換度は、0.017以上であることが望ましく、0.020以上であることがさらに望ましい。カルボキシ基置換度の上限は特に限定されないが、一般には上限は0.025程度、特に0.023程度であるのが好ましい。カルボキシ基置換度は、澱粉糊化液の老化性に影響しており、カルボキシ基置換度が0.017未満であると、澱粉糊化液の老化が進みやすく、経時で、強度に寄与しない澱粉老化物量が多くなってしまう。なお、カルボキシ基置換度は、澱粉糊化液の中和滴定よりカルボキシ基量を求め、その全量が、グルコース残基の6位の−CH2OH基が酸化されて生じたカルボキシ基に由来するものと仮定して置換度を計算することができる。
【0056】
表面処理剤
本発明で使用する表面処理剤は、上記ポリマー導入酸化澱粉を含む。該表面処理剤は、基本的には、上記ポリマー導入酸化澱粉の水分散液を加熱して糊化することにより調製されるポリマー導入酸化澱粉糊化液である。
【0057】
例えば、前記ポリマー導入酸化澱粉の製法の工程(2)で得られるポリマー導入酸化澱粉粉体を水に懸濁させて、水性スラリーを調製し、撹拌下、加熱して、糊化させることにより、スチレン・メタクリレート系共重合体で変性してなる本発明のポリマー導入酸化澱粉糊液を得ることができる。
【0058】
糊化する方法は、特に限定されないが、撹拌下、通常90〜100℃、特に92〜98℃で完全糊化するまで加熱すればよい。攪拌時間は攪拌槽や攪拌機にもよるが、通常90℃以上で30分〜1時間保持することで完全糊化できる。
【0059】
該糊化液のポリマー導入酸化澱粉濃度(固形分濃度)は、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、3〜30質量%程度、特に10〜30質量%程度とするのが好ましい。
【0060】
<接着剤成分>
なお、必要であれば、本発明においては、本発明の効果を損ねない範囲で、表面処理剤の副成分として、接着剤成分を使用してもよい。
【0061】
このように接着剤成分を使用する場合、その使用量は、本発明のポリマー導入酸化澱粉
100質量部に対して、100質量部程度以下、特に10〜30質量部程度とするのが好ましい。
【0062】
かかる接着剤成分としては、生澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースなどの水溶性セルロース類、アルギン酸、グアーガム、キサンタンガム、プルラン等の天然水溶性高分子誘導体類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の合成水溶性高分子類、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の合成ラテックス類を例示することができる。
【0063】
<顔料等>
また、本発明の表面処理剤には、必要に応じて、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルク、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、サチンホワイト、水和珪酸、硫酸バリウム、コロイダルシリカ、アルミノシリケート、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ゼオライト、バインダーピグメントやプラスチックピグメントなどの有機顔料等の顔料、消泡剤類、スライムコントロール剤類、染料類などを適宜配合しても差し支えない。
【0064】
顔料を使用する場合、その使用量は、広い範囲から適宜選択することができるが、一般には、上記ポリマー導入酸化澱粉100質量部に対して(上記ポリマー導入酸化澱粉と上記接着剤成分とを併用する場合は、両者の合計100質量部に対して)、10〜500質量部程度、特に100〜300質量部程度とするのが好ましい。
【0065】
<表面サイズ剤>
更に、本発明の表面処理剤には、前記特定のポリマー導入酸化澱粉糊化液(及び必要に応じて使用される顔料、接着剤成分等)に加えて、表面サイズ剤を配合することもできる。かかる表面サイズ剤としては、疎水性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマー若しくはその塩を主構成要素とする共重合体が例示でき、特に、(ア)オレフィン系不飽和モノマーを共重合体の構成要素の一つとするサイズ剤(所謂、オレフィン系表面サイズ剤)及び(イ)スチレン系不飽和モノマーを共重合体の構成要素の一つとするサイズ剤(所謂、スチレン系表面サイズ剤)からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用するのが好ましい。
【0066】
いずれのサイズ剤もサイズ効果が高いため好ましく使用されるが、両者を比較した場合、スチレン系表面サイズ剤はネッパリに悪影響を与える場合があるため、より好ましくはオレフィン系表面サイズ剤が使用される。
【0067】
通常使用される酸化澱粉、エステル化澱粉あるいはエーテル化澱粉等を表面処理剤として使用した場合には、表面サイズ剤の添加により、ネッパリとベッセルピックが発生しやすくなるが、本発明においては、ポリマー導入酸化澱粉を主成分とするため、ネッパリとベッセルピックの程度を最小限に抑制することが出来、ベッセルピックやネッパリを抑制しつつ、表面サイズ剤に由来する表面接触角の向上効果を得ることができる。
【0068】
本発明で使用する(ア)オレフィン系不飽和モノマーを共重合体の構成要素の一つとするサイズ剤としては、具体的には、疎水性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマー若しくはその塩を主構成要素とする共重合体であって、かかる疎水性不飽和モノマーの主体がオレフィン系不飽和モノマーで構成されているものである。
【0069】
かかるオレフィン系不飽和モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、イソオクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数2〜20程度の直鎖、環状または分岐状のオレフィン系不飽和モノマーが挙げられる。
【0070】
上記オレフィン系不飽和モノマーを共重合体の構成要素の一つとするサイズ剤のうちでも、疎水性不飽和モノマーに占めるオレフィン系不飽和モノマーの割合が60〜100モル%、好ましくは90〜100モル%の範囲にある表面サイズ剤は、澱粉分子間の結合を阻害する程度が極めて低く、澱粉フィルムの耐水性をほとんど低下させず、ネッパリ現象を生じないため、より好適である。
【0071】
また、本発明で使用する(イ)スチレン系不飽和モノマーを共重合体の構成要素の一つとするサイズ剤とは、具体的には、疎水性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマー若しくはその塩を主構成要素とする共重合体であって、疎水性不飽和モノマーの主体がスチレン系不飽和モノマーで構成されているものである。
【0072】
かかるスチレン系不飽和モノマーとしては、例えば、スチレンや、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのアルキル基置換スチレン、モノクロロスチレン、モノブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレン、さらにはシアノスチレン等が挙げられる。
【0073】
上記スチレン系不飽和モノマーを共重合体の構成要素の一つとするサイズ剤のうちでも、疎水性不飽和モノマーに占めるスチレン系不飽和モノマーの割合が50〜100モル%、好ましくは80〜100モル%の範囲にある表面サイズ剤は、表面接触角を向上する効果が高く、オフセット印刷におけるインキ着肉性が良好であるため好ましい。
【0074】
また、上記オレフィン系不飽和モノマーまたはスチレン系不飽和モノマーと共重合されるカルボキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、シトラコン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0075】
本発明で使用するサイズ剤において、疎水性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマーとのモル比については特に限定されないが、疎水性不飽和モノマー1モルに対して0.5〜3モル、好ましくは0.5〜2モルの範囲でカルボキシ基含有不飽和モノマーを共重合するのが望ましい。
【0076】
ちなみに、カルボキシ基含有不飽和モノマーの割合が0.5モル以上であると、疎水性不飽和モノマーの割合が適当量となり、ネッパリ現象を抑制でき、カルボキシ基含有不飽和モノマーの割合が3モル以下であると充分なサイズ効果が得られ、水切れ断紙等の発生を防止でき、印刷作業性の悪化を防止できる。
【0077】
なお、本発明の表面サイズ剤では、上記疎水性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマーの他に、ジメチルアミノメタクリレート等の第三モノマー成分を少量含んでいても良い。
【0078】
かかる共重合体は、上記モノマー成分と重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤等を混合し、常法に従って溶液重合または乳化重合される。溶液重合の溶媒としては、エチルアルコールやプロピルアルコール等のアルコール類、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン等の低級ケトン類、酢酸エチル等が単独または混合して使用される。また、水溶性溶剤であれば、水と混合して使用することも出来る。
【0079】
重合反応終了後、常法に従って有機溶媒を除去し、必要に応じてアンモニア水溶液や水酸化ナトリウム水溶液等を添加して水溶性共重合のサイズ剤が製造される。
【0080】
上記表面サイズ剤の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、スチレン系表面サイズ剤については10000〜50000の範囲、オレフィン系表面サイズ剤については1000〜10000の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは、スチレン系表面サイズ剤については20000〜30000の範囲、オレフィン系表面サイズ剤については5000〜7000の範囲のものが用いられる。
【0081】
表面サイズ剤の重量平均分子量が前記範囲内であると、ネッパリ現象が抑制でき、また、充分なサイズ性が得られるため、印刷時の湿し水によりブランケットパイリング、印面カスレ、さらには水切れ断紙などのトラブルを防止できる。
【0082】
なお、表面サイズ剤の重量平均分子量は、THFを溶離液として、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算して求めた値である。
【0083】
本発明で使用する表面サイズ剤を、より具体的な共重合体として例示するならば、スチレン系表面サイズ剤としては、スチレン/アクリル酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体などが挙げられ、また、オレフィン系表面サイズ剤としては、エチレン/アクリル酸共重合体、イソブチレン/アクリル酸共重合体、n-ブチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、プロピレン/マレイン酸共重合体、エチレン/マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0084】
本発明で使用する表面サイズ剤としては、スチレン系表面サイズ剤に比べてオレフィン系表面サイズ剤は、ネッパリとサイズ性のバランスが良好なため好ましく用いられるが、オレフィン系表面サイズ剤のうちでも、特に、疎水性不飽和モノマーに占めるオレフィン系不飽和モノマーの割合が90〜100モル%の範囲、特に100モル%であって、重量平均分子量が5000〜7000の範囲にあるサイズ剤は、最もネッパリ抑制効果が高く、かつ高いサイズ効果も得られるため、最適である。
【0085】
上記表面サイズ剤を使用する場合、その使用量は、広い範囲から適宜選択できるが、一般にはポリマー導入酸化澱粉100質量部に対して、2〜30質量部程度、特に5〜10質量部程度の範囲で使用するのが好ましい。
【0086】
原紙
本発明で用いるオフセット印刷用新聞用紙の原紙としては、原料パルプとして化学パルプ(NBKP、LBKP等)、機械パルプ(GP、CGP、RGP、PGW、TMP等)、脱墨古紙パルプ(DIP等)等を単独または任意の比率で混合して使用される。また、ホワイトカーボン、クレー、無定形シリカ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの製紙用填料が抄紙時に添加される。
【0087】
また、必要に応じて、内添サイズ剤、定着剤、紙力増強剤、歩留り向上剤、耐水化剤、紫外線吸収剤等の公知公用の抄紙用薬品が適宜添加され、公知公用の抄紙機にて抄紙される。原紙の抄造条件についても、特に限定はない。抄紙機としては、例えば、長網式抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄紙機等の商業規模の抄紙機が、目的に応じて適宜選択して使用できる。
【0088】
本発明のオフセット印刷用新聞用紙に使用する原紙は、特に限定されるものではないが、一般的には、坪量が30〜70g/m2程度、特に35〜60g/m2程度の範囲にある原紙が、目的に応じて適宜選択して使用される。この新聞用紙原紙の物性は、オフセット印刷機で印刷可能である必要があり、通常の新聞用紙程度の引張り強度、引裂き強度、伸びなどの物性を有するものであれば良い。
【0089】
本発明で使用する原紙には、上記のように、内添サイズ剤を含有させることもできるが、その際の含有率は、パルプに対して0.5質量%以下、好ましくは0.05質量%未満であることが望ましい。
【0090】
通常、新聞用紙には所望のサイズ性に応じて、ロジン、強化ロジン等の酸性サイズ剤や、中性ロジン、AKD(アルキルケテンダイマー)、ASA(無水アルケニルコハク酸)等の中性サイズ剤が、パルプに対して0.05〜2.0質量%程度含有せしめられている。
【0091】
しかしながら、内添サイズ剤の含有量の増加に伴ってインキ着肉性は向上するものの、新聞用紙表面に存在する微細繊維やベッセルと他の繊維との結合力が低下し、ブランケットパイリングやベッセルピックが発生しやすくなる。また、新聞用紙表面に塗工される表面処理剤溶液の浸透を抑制するため、通常使用される澱粉を主成分とする表面処理剤を使用した場合にはネッパリが発生しやすくなる。
【0092】
これに対して、本発明においては、ポリマー導入酸化澱粉を主成分とする表面処理剤を使用するため、パルプに対して0.5質量%以下、とりわけ0.05質量%未満の少量の内添サイズ剤含有量でも、湿し水の浸透を適度に抑制することができ、ネッパリやベッセルピックの発生を抑制しつつ、印刷作業性やインキ着肉性を向上することができる。
【0093】
なお、新聞用紙中のロジンサイズ剤等の内添サイズ剤の量は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、ロジンと強化ロジンのピーク面積和を標準試料で取った検量線と比較して求めることが出来る。また、AKDやASAの含有率も同様に熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて定量することが出来る。
【0094】
本発明において、原紙の抄紙方式としては、酸性抄紙、中性抄紙、弱アルカリ性抄紙等のいずれの方式でも良いが、特に中性抄紙によって得られる、紙面pHが6.0以上、特に6.0〜7.0の原紙がオフセット印刷用新聞用紙として好適である。中性抄紙においては、通常、中性ロジンサイズなどの中性サイズ剤が内添サイズとして用いられるが、酸性抄紙法と比較して、抄紙pHを高めるために硫酸バンドの使用量が制限される。内添ロジンサイズ剤や表面サイズ剤は、強カチオンである硫酸バンドとの相互作用により、そのサイズ性を発現するが、中性抄紙法によって、紙面pHが6.0以上になると、カチオン量が極端に少なくなり、内添ロジンサイズ剤や表面サイズ剤に由来するサイズ性が発現し難くなる。しかし、本発明においては、ポリマー導入酸化澱粉を用いるため、紙面あるいは紙層内のpHが6.0以上の新聞用紙においても、ポリマー導入酸化澱粉に由来する疎水性が変化しないため所望のサイズ性を容易に得ることが出来、ブランケットパイリング、ネッパリ、水切れ断紙等のトラブルを抑制しながら、インキ着肉性を向上させることができる。
【0095】
なお、紙面または紙層内pHは紙面測定用pH計(型式MPC、共立理化学研究所製)などで測定することが出来る。具体的には、紙面測定用pH計に付属の、pH測定範囲が2.4〜4.4であるTBPB溶液での発色、pH測定範囲が3.4〜5.4であるBCG溶液での発色、pH測定範囲が4.6〜6.8であるBCP溶液での発色、またはpH測定範囲が6.0〜8.0であるBTB溶液での発色を、標準板と対比させて紙面PHを測定する。また、紙層内pHは粘着テープなどで剥離させた新聞用紙の剥離面を上記の紙面測定用pH計で測定することが出来る。
【0096】
オフセット印刷用新聞用紙
本発明のオフセット印刷用新聞用紙は、前記表面処理剤を前記原紙の両面に塗布乾燥して表面処理剤層を形成することにより得られる。
【0097】
本発明において、前記ポリマー導入酸化澱粉の塗布量については、片面当りの乾燥塗布量が0.05〜1.0g/m2の範囲となるように、原紙の両面に塗布、乾燥するのが好ましく、0.1〜0.5g/m2の範囲とするのがさらに好ましい。ポリマー導入酸化澱粉の塗布量が0.05g/m2未満では、充分な表面強度が得られず、他方、1.0g/m2を越えるとネッパリ現象が発生しやすくなる。
【0098】
顔料を使用する場合、その乾燥塗布量としては0.1〜2.0g/mが好ましく、0.5〜1.0g/mが特に好ましい。顔料の乾燥塗布量がこの範囲であると、顔料塗布に由来する不透明度の更なる向上が認められ、顔料がブランケットの非画線部に取られて蓄積する顔料パイリングの発生、インキセット性の悪化等も防止できる。
【0099】
また、表面サイズ剤を使用する場合、その塗布量についても特に限定するものではないが、通常、固形分換算で両面の塗布量の合計が0.01〜0.3g/m2、好ましくは0.03〜0.1g/m2の範囲で塗布される(片面当たり0.005〜0.15g/m2、好ましくは0.015〜0.05g/m2)。表面サイズ剤の塗布量がこの範囲であると、サイズ剤の使用に起因するインキ着肉性のさらなる向上が認められ、ピッキング等のトラブルも防止できる。
【0100】
表面処理剤を、新聞用紙原紙へ塗布するための塗工装置としては、特に限定されるものではないが、例えばインクラインまたはバーティカルツーロールサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレスなどのサイズプレスコーター、ゲートロールコーターなどのロールコーター、トレーリング、フレキシブル、ロールアプリケーション、ファウンテンアプリケーション、ショートドゥエル等のベベルタイプやベントタイプのブレードコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、グラビアコーターなどの公知公用の装置が適宜使用される。
【0101】
表面処理剤を塗布後の湿潤塗被層を乾燥する方法としては、例えば、蒸気乾燥、ガスヒーター乾燥、電気ヒーター乾燥、赤外線ヒーター乾燥等の各種方式が採用できる。
【0102】
本発明のオフセット印刷用新聞用紙の製造に際しては、表面処理剤の塗被層の形成後に、各種キャレンダー装置にて平滑化処理が施されるが、かかるキャレンダー装置としては、スーパーキャレンダー、ソフトキャレンダー、グロスキャレンダー、コンパクトキャレンダー、マットスーパーキャレンダー、マットキャレンダー等の一般に使用されているキャレンダー装置が適宜使用できる。キャレンダー仕上げ条件としては、剛性ロールの温度、キャレンダー圧力、ニップ数、ロール速度、キャレンダー前の紙水分等が、要求される品質に応じて適宜選択される。さらに、キャレンダー装置は、コーターと別であるオフタイプとコーターと一体となっているオンタイプがあるが、どちらも使用できる。キャレンダー装置のロールは、剛性ロールでは、金属ロール、金属ロールの表面に硬質クロムメッキ等で鏡面処理したロール、金属ロールの表面に粗面化処理を施したロールなどが適宜使用される。また、弾性ロールはウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリレート樹脂等の樹脂ロール、コットン、ナイロン、アスベスト、アラミド繊維等を成型したロールが適宜使用される。なお、キャレンダーによる仕上げ後の新聞用紙を調湿したり、水塗り装置、静電加湿装置、蒸気加湿装置等を使用して加湿することも勿論可能である。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。また、例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ固形分質量部および固形分質量%を示す。
【0104】
実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙及びその製造に使用した材料について、下記の物性を測定し、その結果を表1〜3に示した。
【0105】
新聞用紙原紙の紙面pH
各実施例および比較例で使用したオフセット印刷用新聞用紙製造用の原紙(後述の新聞用紙原紙A〜C)の紙面pHを、紙面測定用pH計(型式MPC、共立理化学研究所製)にて測定した。
【0106】
ネッパリ
各実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙について、非画線部のみのアルミ版とブランケット(DAYインターナショナル製、DAYブランケット8891)をセットしたオフセット印刷機(三菱リソピア、L−BT3−1100)を用いて、インキをのせずに1〜4胴すべてで水刷りを行い、200部印刷を行った後、水供給を停止し、新聞用紙のブランケットへの貼りつき度合いを目視にて判定した。評価は次の5段階評価で行った。
【0107】
尚、下記の評価基準において「繊維の取られ」とは、ブランケット上に紙表面からの繊維が付着している状態をいう。繊維付着が進行した場合、紙表面がブランケットに貼り付き、紙層破壊や断紙に至ることがある。
〈評価基準〉
5:繊維の取られが全く発生しない。
4:ごくわずかに繊維の取られが発生。
3:繊維の取られは発生するが、実用上問題のないレベル。
2:一部で紙層破壊発生。
1:全面で紙層破壊発生。
【0108】
なお、評価が3未満のものは、実用上問題がある。
【0109】
ベッセルピック
各実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙について、前記オフセット印刷機を使用し、4胴目において連続2000部の墨単色印刷を行った後、印刷面の白抜けの程度を目視にて判定した。評価は次の5段階評価で行った。
【0110】
5:全く白抜けが発生しなかった
4:ごくわずかに白抜けが発生した。白抜け個数は、墨ベタ印刷面300cm当たり1〜2個。
3:白抜けの発生がやや認められるが、実用上問題のないレベル。白抜け個数は、墨ベタ印刷面300cm当たり10個未満。
2:白抜けの発生が明確に認められた。白抜け個数は、墨ベタ印刷面300cm当たり10個以上〜100個未満。
1:白抜けが著しく多数発生した。白抜け個数は、墨ベタ印刷面300cm当たり100個以上。
【0111】
なお、評価が3未満のものは、実用上問題がある。
【0112】
ブランケットパイリング
各実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙について、上記オフセット印刷機を使用して、カラー4色刷りを行い、5000部印刷を行った後、ブランケット非画線部への紙粉の堆積度合いを目視にて判定した。評価は次の5段階評価で行った。
〈評価基準〉
5:紙粉の発生がほとんど認められない。
4:紙粉の発生がわずかに認められる。
3:紙粉の発生がやや認められるが、実用上問題のないレベル。
2:紙粉の発生が明確に認められる。
1:ブランケット上に紙粉が多く堆積している。
【0113】
なお、評価が3未満のものは、実用上問題がある。
【0114】
乾燥表面強度
各実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙から巾2cmの試料ストリップを切り取り、これをサンプル台紙(OK特アートポスト 256g/m2)に貼りつけ、RI印刷試験機(明製作所製)にて、印刷インキ(紙試験 SD50紅B、T&K TOKA株式会社製)を0.4cc使用して印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視評価した。評価は次の5段階評価で行った。
〈評価基準〉
5:繊維の取られが全くみられず、白抜けが発生しない。
4:ごくわずかに繊維の取られが発生し、白抜け部がわずかに(1〜5個所程度)みられる。
3:一部で繊維の取られが発生するが、実用上問題のないレベル。白抜け部は6〜20個所程度。
2:全面で繊維の取られがみられ、白抜け部面積率が5%未満。
1:全面で繊維の取られがみられ、白抜け部面積率が5%以上。
【0115】
なお、評価が3未満のものは、実用上問題がある。
【0116】
湿潤表面強度
上記と同様にして各実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙を貼り付けたサンプル台紙を作成し、RI印刷試験機にて、湿らせたガーゼで水を付けたゴムロールで新聞用紙面に水を付けた後、直ちに印刷インキ(紙試験 SD50紅B)を0.5cc使用して印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視評価した。評価は次の5段階評価で行った。
〈評価基準〉
5:繊維の取られが全くみられず、白抜けが発生しない。
4:ごくわずかに繊維の取られが発生し、白抜け部がわずかに(1〜5個所程度)みられる。
3:一部で繊維の取られが発生するが、実用上問題のないレベル。白抜け部は6〜20個所程度。
2:全面で繊維の取られがみられ、白抜け部面積率が5%未満。
1:全面で繊維の取られがみられ、白抜け部面積率が5%以上。
【0117】
なお、評価が3未満のものは、実用上問題がある。
【0118】
インキ着肉性
上記と同様にして各実施例および比較例で得たオフセット印刷用新聞用紙を貼り付けたサンプル台紙を作成し、RI印刷試験機にて、墨インキ(News Webmaster 墨、サカタインクス株式会社製)を0.4cc展開させ、ゴムロールと練りロール間をキスタッチにして、その間に水を0.2cc滴下後、印刷を行い、墨ベタ印刷面の黒色濃度をカラー反射濃度計(X−RITE404G、X RITE Inc.製)にて測定した。
【0119】
<新聞用紙原紙の作成>
(A)新聞用紙原紙Aの作成
針葉樹クラフトパルプ10部、サーモメカニカルパルプ40部、脱墨古紙パルプ50部の割合で混合して離解し、レファイナーでフリーネス120mlC.S.F.(カナダ標準フリーネス)に調製したパルプスラリーに、対絶乾パルプ当りカチオン化澱粉(P3Y、PIRAAB STARCH Co., Ltd.製)を0.5%、填料としてホワイトカーボンを2%添加し、硫酸バンドで抄紙pHを4.5に調整後、得られた紙料をオントップツインワイヤー抄紙機で抄紙し、米坪42g/m2の新聞用紙原紙Aを得た。なお、この新聞用紙原紙は、脱墨古紙パルプに由来する酸性ロジンサイズ剤を含有しており、その含有率を熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて測定した結果、絶乾パルプに対して0.02%であった。
【0120】
(B)新聞用紙原紙Bの作成
針葉樹クラフトパルプ10部、サーモメカニカルパルプ40部、脱墨古紙パルプ50部の割合で混合して離解し、レファイナーでフリーネス120mlC.S.F.(カナダ標準フリーネス)に調製したパルプスラリーに、対絶乾パルプ当りカチオン化澱粉(P3Y、PIRAAB STARCH Co., Ltd.製)を0.5%、填料としてホワイトカーボンを2%、酸性ロジンサイズ剤(SPGK、荒川化学工業株式会社製)を0.6%添加し、硫酸バンドで抄紙pHを4.5に調整後、得られた紙料をオントップツインワイヤー抄紙機で抄紙し、米坪42g/m2、酸性ロジンサイズ剤含有率が絶乾パルプに対して0.4%である新聞用紙原紙Bを得た。
【0121】
(C)新聞用紙原紙Cの作成
針葉樹クラフトパルプ10部、サーモメカニカルパルプ40部、脱墨古紙パルプ50部の割合で混合して離解し、レファイナーでフリーネス120mlC.S.F.(カナダ標準フリーネス)に調製したパルプスラリーに、対絶乾パルプ当りカチオン化澱粉(P3Y、PIRAAB STARCH Co., Ltd.製)を0.5%、中性ロジンサイズ剤(N815、荒川化学工業株式会社製)を0.8%、填料としてホワイトカーボンを2%添加し、硫酸バンドで抄紙pHを6.5に調整後、得られた紙料をオントップツインワイヤー抄紙機で抄紙し、米坪42g/m2、中性ロジンサイズ剤含有率が絶乾パルプに対して0.4%である新聞用紙原紙Cを得た。
【0122】
スチレン・メタクリレート系共重合体を導入した酸化澱粉糊液の調製
生トウモロコシ澱粉(商品名;コーンスターチ、王子コーンスターチ株式会社製)を水に分散させ濃度40%の生澱粉スラリーを調製した。このスラリーに3%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。液温度を30℃に保持し、生澱粉分散液を攪拌しながら有効塩素10%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下した。同時に、分散液pHが9〜10に維持されるよう前述の水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。所定量の次亜塩素酸水溶液の滴下が終了後、さらに30分間攪拌した。酸化反応終了後直ちに亜硫酸ナトリウムを添加し酸化澱粉スラリーを還元処理した。次いで、5%硫酸で分散液pHを7に戻し、重量平均分子量が62000、カルボキシ基置換度が0.02の酸化澱粉スラリーを得た。
【0123】
上記酸化澱粉スラリーを濾過、水洗、脱水してなる濃縮物に、数平均分子量が10000、スチレン/メタクリル酸オクタデシル/アクリル酸ナトリウム=40/20/40(質量%)のモノマー組成をもつスチレンアクリルポリマー溶液を固形分換算で7%添加・混合した後、通常の酸化澱粉製造工程に従って加熱乾燥処理することにより、最終生成物であるスチレン・メタクリレート系共重合体を導入した酸化澱粉(本発明で用いるポリマー導入酸化澱粉)の粉体を得た。得られたポリマー導入酸化澱粉のカルボキシ基置換度は0.02であった。
【0124】
さらに、この粉体100部に水900部を加えてスラリーを調製し、95℃で30分間、攪拌しながら糊化し、スチレン・メタクリレート系共重合体を導入した酸化澱粉糊液(以下、「ポリマー導入酸化澱粉糊液S」という)を得た。
【0125】
実施例1
(a) 表面処理剤組成物の塗液として、前述のポリマー導入酸化澱粉糊液Sを固形分濃度8%となるまで水で希釈し、30℃、24時間保存して、本発明の表面処理剤を調製した。
【0126】
(b) こうして得られた表面処理剤を、上記の新聞用紙原紙Aの両面に、ゲートロールコーターを使用して、乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥後、樹脂ロール/金属ロールよりなるソフトカレンダー仕上げを行い、実量42.6g/m2のオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0127】
実施例2
前述のポリマー導入酸化澱粉糊液Sを用いて、ポリマー導入酸化澱粉100部(固形分)、オレフィン系表面サイズ剤(商品名;OT−25、荒川化学工業株式会社製、エチレン-ジイソブチレン-マレイン酸共重合体(モノマー組成モル比=75/25/25);疎水性モノマーに占めるオレフィン系不飽和モノマーの割合100モル%、重量平均分子量6000)5部(固形分)からなる混合物を得、得られた混合物を水で希釈して調製した固形分濃度8.8%の表面処理剤を得た。
【0128】
得られた表面処理剤を表面処理剤組成物の塗液として使用し、ポリマー導入酸化澱粉の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0129】
実施例3
前述のポリマー導入酸化澱粉糊液Sを用いて、ポリマー導入酸化澱粉100部、スチレン系表面サイズ剤(商品名;SS2904、星光PMC株式会社製、スチレン-マレイン酸共重合体(モノマー組成モル比=1/1);疎水性モノマーに占めるスチレン系不飽和モノマーの割合100モル%)、重量平均分子量30000)5部からなる混合物を得、得られた混合物を水で希釈して調製した固形分濃度8.8%の表面処理剤を得た。
【0130】
得られた表面処理剤を表面処理剤組成物の塗液として使用し、ポリマー導入酸化澱粉の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0131】
実施例4
前述のポリマー導入酸化澱粉糊液を用いて、ポリマー導入酸化澱粉100部、スチレン系サイズ剤(商品名;SS2904、星光PMC株式会社製)2.5部、オレフィン系サイズ剤(商品名;OT−25、荒川化学工業株式会社製)2.5部からなる混合物を得、得られた混合物を水で希釈して調製した固形分濃度8.8%の表面処理剤を得た。
【0132】
得られた表面処理剤を表面処理剤組成物の塗液として使用し、ポリマー導入酸化澱粉の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0133】
実施例5
(a)軽質炭酸カルシウムスラリー(商品名;TP123CS、奥多摩工業株式会社製)と前述のポリマー導入酸化澱粉糊液Sを混合し、軽質炭酸カルシウム125部(固形分)、ポリマー導入酸化澱粉100部(固形分)からなる混合物を得、該混合物を水で希釈して固形分濃度20%の表面処理剤を調製した。
【0134】
(b) 得られた表面処理剤を、上記の新聞用紙原紙Aの両面に、ゲートロールコーターを使用して、乾燥後の塗布量が片面あたり0.9g/m2となるように両面に塗布、乾燥後、樹脂ロール/金属ロールよりなるソフトカレンダー仕上げを行い、実量43.8g/m2のオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0135】
実施例6
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は、実施例1と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0136】
実施例7
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は、実施例2と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0137】
実施例8
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は、実施例3と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0138】
実施例9
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は、実施例4と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0139】
実施例10
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は、実施例5と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0140】
実施例11
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Cを使用した以外は、実施例1と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0141】
実施例12
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Cを使用した以外は、実施例2と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0142】
実施例13
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Cを使用した以外は、実施例5と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0143】
比較例1
アルキルメタクリレート系共重合体を配合した酸化澱粉(即ち、酸化澱粉(商品名;王子エースA、王子コーンスターチ株式会社製、重量平均分子量91000)にメタクリル酸オクタデシル/スチレン/アクリル酸ナトリウム=20/40/40質量%のモノマー比率で共重合されたスチレンアクリル系ポリマーを5.0質量%配合した酸化澱粉、該酸化澱粉のカルボキシ基置換度0.014)100部に水900部を加え、スラリーを撹拌しながら95℃、30分加熱糊化した。得られた糊液の25℃におけるpHは7.0であった。得られた糊液を、8%(固形分含量)まで水で希釈し、30℃、24時間保存して、比較表面処理剤1を調製した。
【0144】
得られた比較表面処理剤1を使用し、比較表面処理剤の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1(b)と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0145】
比較例2
(a)生トウモロコシ澱粉(商品名;コーンスターチ、王子コーンスターチ株式会社製)を水に分散させ濃度40%の生澱粉スラリーを調製した。このスラリーに3%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。液温度を30℃に保持し、生澱粉分散液を攪拌しながら有効塩素10%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下した。同時に、分散液pHが9〜10に維持されるよう前述の水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。所定量の次亜塩素酸水溶液の滴下が終了後、さらに30分間攪拌した。酸化反応終了後直ちに亜硫酸ナトリウムを添加し酸化澱粉スラリーを還元処理した。次いで、5%硫酸で分散液pHを7に戻し、重量平均分子量が62000、カルボキシ基置換度が0.02の酸化澱粉スラリーを得た。得られた酸化澱粉スラリーを濾過、水洗、脱水してなる濃縮物を水で希釈して濃度を10%とし、95℃で30分間、攪拌しながら糊化し、酸化澱粉糊液を得た。
【0146】
前記酸化澱粉糊液(温度:30℃)に、数平均分子量が10000、スチレン/メタクリル酸オクタデシル/アクリル酸ナトリウム=40/20/40(質量%)のモノマー組成をもつスチレンアクリルポリマー溶液を、酸化澱粉固形分に対して固形分換算で7%となるように添加し、均一となるまで混合した後、固形分濃度が8%となるように水で希釈した。こうして、比較表面処理剤2を得た。
【0147】
(b)上記比較表面処理剤2を用い、比較表面処理剤の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は実施例1(b)と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0148】
比較例3
(a)酸化澱粉(商品名;王子エースA、王子コーンスターチ株式会社製、重量平均分子量91000)100部に水900部を加え、スラリーを撹拌しながら95℃、30分加熱糊化した。得られた糊液を、8%(固形分含量)まで水で希釈し、比較表面処理剤3を調製した。
【0149】
(b) 得られた比較表面処理剤3を使用し、酸化澱粉の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1(b)と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0150】
比較例4
(a)比較例3と同様にして得た酸化澱粉糊液を用いて、酸化澱粉100部(固形分)、オレフィン系表面サイズ剤(商品名;OT−25、荒川化学工業株式会社製)5部(固形分)からなる混合物を得、得られた混合物を水で希釈して調製した固形分濃度8.8%の比較表面処理剤4を得た。
【0151】
(b)得られた比較表面処理剤4を使用し、酸化澱粉の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1(b)と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0152】
比較例5
(a)比較例3同様にして得た酸化澱粉糊液を用いて、酸化澱粉100部(固形分)、スチレン系表面サイズ剤(商品名;SS2904、星光PMC株式会社製)5部(固形分)からなる混合物を得、得られた混合物を水で希釈して調製した固形分濃度8.8%の比較表面処理剤5を得た。
【0153】
(b)得られた比較表面処理剤5を使用し、酸化澱粉の乾燥後の塗布量が片面あたり0.3g/m2となるように両面に塗布、乾燥した以外は、実施例1(b)と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0154】
比較例6
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は比較例1と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0155】
比較例7
新聞用紙原紙Aの代りに、上記の新聞用紙原紙Bを使用した以外は比較例2と同様にしてオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0156】
上記実施例及び比較例で得られたオフセット印刷用新聞用紙について、性能評価を行い、その結果を表1、表2及び表3に示す。なお、表1〜3において、表面処理剤の顔料、表面サイズ剤以外の成分は、ポリマー導入酸化澱粉、酸化澱粉等の澱粉由来の成分であるので、「澱粉成分」と総称的に記載する。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】

【0159】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0160】
原紙の両面に、本発明のポリマー導入酸化澱粉を主成分とする表面処理剤組成物を塗布、乾燥して得たオフセット印刷用新聞用紙は、ネッパリ現象、ベッセルピック、ブランケットパイリング、および水切れ断紙等のトラブルを発生することがなく、しかもオフセット印刷時のインキ着肉性が顕著に改善されているため、良好な印刷作業性およびカラー印刷品質を要求されるオフセット印刷用新聞用紙として適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙及び該原紙の両面に形成された表面処理剤層を備えており、該表面処理剤が、重量平均分子量50000〜80000の酸化澱粉にスチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を導入してなるポリマー導入酸化澱粉を含有することを特徴とするオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項2】
ポリマー導入酸化澱粉のカルボキシ基置換度が0.017以上である請求項1に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項3】
前記スチレン・メタクリレート系共重合体を構成するメタクリレートモノマーが、メタクリル酸C8〜C24アルキルエステルである請求項1に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項4】
前記ポリマー導入酸化澱粉が、酸化澱粉に、スチレン・メタクリレート系共重合体又はその塩を、酸化澱粉に対して6〜10質量%の割合で、導入してなる請求項1または2に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項5】
前記表面処理剤が、さらに、顔料を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項6】
前記表面処理剤が、さらに、オレフィン系表面サイズ剤及びスチレン系表面サイズ剤からなる群から選ばれる表面サイズ剤の少なくとも1種を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項7】
前記ポリマー導入酸化澱粉の乾燥塗布量が、片面当り0.05〜1.0g/m2である請求項1〜6のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項8】
前記顔料の乾燥塗布量が、片面当り0.1〜2.0g/m2である請求項5に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項9】
前記表面サイズ剤の乾燥塗布量が、片面当り0.005〜0.15g/m2である請求項6に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項10】
前記原紙が、内添サイズ剤を、パルプに対して0.05質量%未満の割合で含有する原紙である請求項1〜9のいずれかに記載のオフセット印刷用新聞用紙。




【公開番号】特開2007−46213(P2007−46213A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234996(P2005−234996)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000122243)王子コーンスターチ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】