説明

オフセット輪転印刷用塗工紙

【課題】高速輪転オフセット印刷機、特に印刷速度が1200rpm以上と高速の輪転オフセット印刷機を用いて印刷をしても、ブリスター及び紙ムケの発生が抑制され、印刷して得られる印刷物の見栄えが良くなり優れた仕上がりとなる印刷用塗工紙を提供すること。
【解決手段】基紙、及び、前記基紙上に、顔料と接着剤を含有する塗工層を二層以上有する塗工紙において、前記塗工層のうち、前記基紙に接する下塗り塗工層の接着剤として、ゲル含有量70〜90質量%のラテックス、及び、ヒドロキシエチル澱粉(HES)を含有することを特徴とする、オフセット輪転印刷用塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオフセット輪転印刷用塗工紙に関する。さらに詳しくは、オフセット輪転印刷時に発生するブリスター欠陥を低減し、かつ表面強度が高いため紙ムケが少なく、ストリークの発生が抑制され、見栄えが良い印刷物が得られる、オフセット輪転印刷用の塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オフセット輪転印刷機の高速化に伴い、印刷後の加熱乾燥時に、紙中の水分が急激に蒸発して火ぶくれ状となる、ブリスター欠陥が発生し易くなっている。従来のオフセット輪転印刷機は印刷速度(ブランケット胴の回転速度)が600〜800rpm、乾燥時の紙面温度が105〜110℃前後であったが、近年の高速輪転オフセット印刷機は、印刷速度が1200rpm以上に向上し、より短時間で乾燥させる必要があるため紙面温度が120〜130℃と高くなる場合があり、ブリスターが発生しやすい状態になっている。
ブリスターの原因である水分は、印刷時に紙に吸収された湿し水に起因する場合と、印刷前から紙に含まれている水分に起因する場合がある。高速オフセット輪転印刷機においては、従来の印刷速度600〜800rpmのオフセット輪転印刷に比べて、紙が湿し水に接触する時間が短くなっているため、ブリスターが発生する主原因は、紙に含まれる水分であると考えられる。
【0003】
ブリスターを防止するには、紙中の水分率を低下させる方法が最も効果的であり、水分及び平衡水分を規定する方法(特許文献1を参照)が開示されているが、平衡水分率(約4〜5%)程度にまで乾燥させると、紙が大気中の水分を吸収して紙が伸び、しわやカールが発生する問題がある。他の方法としては、低ゲル含量のラテックスを使用する方法(特許文献2を参照)があるが、低ゲル含量のラテックスを使用すると、表面強度が低下しやすく、後述する紙ムケトラブルが発生するため好ましくない。加えて熱安定性が悪いため塗工時にカラー粕が発生しストリークが発生しやすい問題がある。他にも針状又は柱状の炭酸カルシウムと、特定のラテックス及び澱粉を使用する方法(特許文献3を参照)が開示されているが、いずれも、印刷速度が1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷機において発生するブリスターを充分に抑制できていない。
【0004】
加えて、印刷速度の高速化に伴い、塗工紙表面の塗工層がインキと共に取られて剥離する紙ムケトラブルも発生しやすい状態になっている。紙ムケは主に、塗工層内部や塗工層と基紙との間、基紙内部において、塗工層の一部が塗工紙から剥離することで発生する。印刷機のブランケット胴から紙へインキが転写した後に、紙がブランケット胴から急激に剥離されることにより塗工層の一部がインキと共にブランケット胴側に取られて発生するため、印刷速度の高速化に伴い、紙ムケ欠陥が発生しやすい状態となっている。
【0005】
紙ムケを防止する技術としては、例えば、顔料としてカオリンを用い、接着剤であるラテックスの粒子径を規定する技術(特許文献4を参照)や、原紙に特定形状の炭酸カルシウムと、上塗り及び下塗り塗工層に特定性状のラテックスを含有させる技術(特許文献5を参照)、上塗り塗工層のラテックスに特徴を持たせた技術(特許文献6を参照)、が提案されているが、いずれも印刷速度1200rpm以上の高速輪転オフセット印刷においては、充分な紙ムケ防止効果が得られていない。
上述のとおり、ブリスター及び紙ムケを充分に防止した、高速オフセット輪転印刷用の塗工紙は、未だ得られていない。
【特許文献1】特開平09−291496公報
【特許文献2】特開2002−069894公報
【特許文献3】特開平11−286896公報
【特許文献4】特開平10−140498公報
【特許文献5】特開平11−279992公報
【特許文献6】特開2000−265396公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高速輪転オフセット印刷機、特に印刷速度が1200rpm以上と高速の輪転オフセット印刷機を用いて印刷をしても、ブリスター及び紙ムケの発生が抑制され、ストリークが少なく、見栄えが良い印刷物が得られる、オフセット輪転印刷用塗工紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基紙、及び、前記基紙上に、顔料と接着剤とを含有する塗工層を2層有する塗工紙であって、前記塗工層のうち、前記基紙に接する下塗り塗工層の接着剤として、ゲル含有量70〜90質量%のラテックス、及び、ヒドロキシエチル澱粉(HES)を含有することを特徴とする、オフセット輪転印刷用塗工紙に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗工紙は、高速輪転オフセット印刷機、特に印刷速度が1200rpm以上と高速の輪転オフセット印刷機を用いて印刷をしても、ブリスター及び紙ムケの発生が抑制され、ストリークが少なく、見栄えが良い印刷物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、基紙、及び、前記基紙上に、顔料及び接着剤を含有する塗工層を少なくとも2層有する塗工紙であって、前記塗工層のうち、前記基紙に接する下塗り塗工層の接着剤として、ゲル含有量70〜90質量%のラテックス、及び、ヒドロキシエチル澱粉(HES)を含有することを特徴とする、オフセット輪転印刷用塗工紙である。
【0010】
<抄紙>
まず、本実施形態に係る塗工紙を構成する基紙について説明する。
基紙は、通常の原料パルプを抄紙して得られるものであればよい。該原料パルプにも特に限定がなく、例えば未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ;雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等の古紙パルプ等があげられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択し、その割合を調整して用いることができる。
【0011】
上記原料パルプに、内添の填料として従来製紙用途で用られている填料を添加することができる。填料としては、例えば軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレンラテックス、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。填料の配合量は特に限定されないが、紙中灰分で8質量%以下となるよう添加することが好ましく、6質量%以下がより好ましい。紙中灰分が8質量%を超過すると、パルプ同士の水素結合が阻害され易いため内部強度の無い紙となり、印刷時の紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。内添の灰分を低下させると、内部強度は向上する傾向にあるが、塗工紙の不透明性が低下するため、印画部が裏抜けする可能性があり、見栄えの悪い塗工紙となる可能性がある。尚、本発明の灰分とは、JISP8251「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に準じて測定した値とする。
【0012】
本実施形態においては、該原料パルプに、例えばサイズ剤、紙力向上剤、紙厚向上剤、歩留向上剤(各種合成高分子や澱粉類等の水溶性高分子)、及びこれらの定着剤等の、通常塗工紙の基紙に配合される種々の添加剤を、その種類及び配合量を適宜調整して内添することができる。
【0013】
前記のごとき抄紙原料をワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して基紙を製造することができ、次いでコーターパートにて後述する塗工液を基紙上に塗工した後、アフタードライヤーパート、カレンダーパート、リールパート、ワインダーパート等に供して目的とする塗工紙を得ることができる。
【0014】
尚、後述する上塗り塗工層においてクレーを含有する塗工液を上塗り塗工した場合、高白色度の塗工紙が得られにくい。そのため、目的とする塗工紙の白色度をより向上させるには、基紙の白色度は、カラーアナライザー(型番:カラーi5、マクベスグレタグ社製)にて測定して70%以上、さらには75%以上であることが好ましい。このような基紙から印刷用塗工紙を製造した場合、後述するように、白色度を例えば80%以上とすることが可能になる。そして、このような白色度が80%以上の印刷用塗工紙を用いると、白色度が80%未満の印刷用塗工紙と比べて、例えばより高精彩で、コントラストの高い高級印刷物が得られる。
【0015】
基紙の坪量に特に限定はないが、後述するように、塗工量が上塗り及び下塗りの合計で20〜40g/mであり、目的とする塗工紙の坪量が好ましくは40〜100g/mであることを考慮して、該基紙の坪量は、通常60g/m以下となるように調整することが好ましい。
【0016】
<下塗り塗工>
基紙には、後述する上塗り塗工層を設ける前に、顔料及び接着剤を主成分とする下塗り塗工層を設ける。
(顔料)
下塗り塗工層に用いられる顔料は、通常一般的に使用されている顔料であれば足り、例えば炭酸カルシウム、カオリンクレー、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられ、必要に応じて1種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
この中でも、炭酸カルシウムを使用した場合、クレーと比べて水蒸気が透過しやすく、高い耐ブリスター性が得られるため好ましい。後述する上塗り塗工層においては、塗工紙の平坦性を付与するためにクレーを含有することが好ましいが、下塗り塗工層の顔料の種類は印刷適性に与える影響が少ないため、好ましくは炭酸カルシウムを90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が炭酸カルシウムであることが好ましい。炭酸カルシウムとしては、例えば白色結晶質石灰石を乾式粉砕又は湿式粉砕した、5μm程度以下の面積平均粒子径を有するものが挙げられる。
【0018】
下塗り塗工層の顔料として、炭酸カルシウムを使用し、好ましくはプレカレンダーで平坦化処理することで、後述するとおり下塗り塗工層表面の平滑性を向上することができる。これにより、上塗り塗工層の塗工ムラを低減し、均一な耐ブリスター性や表面強度を得ることができるため好ましい。
【0019】
(接着剤)
下塗り塗工層の接着剤としては、ゲル含有量が70〜90質量%のラテックス及びヒドロキシエチル澱粉を含有する。
【0020】
ラテックスの構成成分は、一般に塗工用途に使用されているものを使用することができ、例えば、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックスもしくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
【0021】
上記ラテックスの中でも特にスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが、塗工層の内部強度を向上させやすく熱安定性にも優れるため好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスは、少なくともスチレンとブタジエンを共重合して得られるラテックスであり、スチレンとブタジエンに加えて、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルを共重合して得られるスチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体ラテックスを用いると、印刷インキの着肉性や印刷光沢が出やすいため好ましい。特に、ラテックス中のスチレン成分が30〜60質量%、ブタジエン成分が25〜55質量%であると、塗工層の内部強度が高く、熱安定性が良好なため好ましい。特に1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷機では、乾燥時の紙面温度が120℃前後まで高くなるため、熱安定性の良いスチレンを多く配合して下塗り塗工層の熱安定性を向上させることで、耐ブリスター性を向上することができる。加えて下塗り塗工層は、上塗り塗工層と比べて、原紙から発生した水蒸気の蒸気圧を抑えてブリスター発生を抑制するために、塗工層の内部強度を高くできるラテックスを用いること、つまり、スチレン成分が30〜60質量%、ブタジエン成分が25〜55質量%のラテックスを用いることが重要となる。スチレン成分が30質量%を下回ると塗工層の内部強度が弱くなり充分な耐ブリスター性が得られず、60質量%を超過すると、顔料との接着性が低下しやすく、顔料を充分に固定できず紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。接着性はブタジエン成分を増加させることで得られる。ブタジエン成分が25質量%を下回ると紙ムケを防止しにくくなり、55質量%を超過すると、塗工層が柔らかくなり過ぎて耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0022】
下塗り塗工層に用いるラテックスのゲル含有量は70〜90質量%であり、80〜90質量%が好ましい。ゲル含有量が70〜90質量%と高いラテックスは耐ブリスター性が低いため、一般に下塗り塗工層に用いられるラテックスは、ゲル含有量を40〜50質量%と低くすることで、耐ブリスター性を向上させているが、他方で表面強度が低く、機械安定性も悪いためストリークが発生し易くなる問題がある。このため発明者らは鋭意研究した結果、ゲル含有量が70〜90質量%であれば、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても、後述するヒドロキシエチル澱粉を併用することで、耐ブリスター性を悪化させずに、表面強度の向上とストリークの低減が達成できることを見出した。ゲル含有量が70質量%を下回ると、表面強度低下とストリークが発生しやすく、紙ムケも防止しにくいため好ましくない。90質量%を上回ると、耐ブリスター性を充分に防止できなくなるため好ましくない。
【0023】
尚、ラテックスのゲル含有量は次のとおり求めた。ラテックス約0.3gをスライドグラス上に薄く広げ、50℃の乾燥機でフィルムとなるまで乾燥する。ラテックスフィルムを約50mlのトルエン中に一昼夜浸せきし、ガラスフィルターでろ過後、ろ液を105℃の乾燥機で乾燥して、トルエン可溶分の重量を測定する。ここで得られたトルエン可溶分の重量から、次式によりゲル含有量を算出する。
ゲル含有量(%)=(乾燥フィルム重量−トルエン可溶分重量)×100/乾燥フィルム重量
【0024】
ラテックスの重量平均粒子径は150〜250nmが好ましく、180〜220nmが更に好ましい。粒子径が150nmを下回ると、顔料及びラテックスが密に結合しやすく、水蒸気が透過しにくくなるため耐ブリスター性が低下するため好ましくない。250nmを超過すると、顔料の接着性が低下し、表面強度が低下するだけでなく、顔料の脱落により下塗り塗工層及び上塗り塗工層の表面平坦性が悪化し、白紙光沢度が低下しやすいため好ましくない。
尚、ラテックスの重量平均粒子径は次のとおり求めた。0.05〜0.2%濃度に希釈した試料を調製し、波長525nmの吸光度を測定し、あらかじめ作成した検量線により求めた。
【0025】
また、ラテックスのガラス転移温度は−10〜+5℃であることが好ましく、−7〜+2℃であることが更に好ましい。−10℃を下回ると塗工層が柔らかくなりすぎ、水蒸気が発生した際の水蒸気圧に負けてブリスターが発生し易くなるため好ましくない。+5℃を超過すると顔料を固定する作用が低く、塗工紙の表面強度が低下しやすいため好ましくない。
尚、ガラス転移温度は次のとおり求めた。ラテックスを100℃で20時間真空乾燥を行い、フィルムを作成した。上記乾燥フィルムを示差走査熱量計(デュポン社製)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
【0026】
ラテックスの配合量は、下塗り塗工層の顔料100質量部に対して、4〜8質量部が好ましく、5〜7質量部がより好ましい。4質量部を下回ると充分に顔料を固定できず、紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。8質量部を超過すると、HESを併用しても耐ブリスター性が悪化しやすくなるため好ましくないだけでなく、ストリークが発生し易くなるため好ましくない。上述のとおり下塗り塗工層においては、ゲル含有量が70〜90質量%と高いラテックスを使用し、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷を行っても、基紙からの水蒸気圧により発生するブリスターを低減するために、ラテックスの成分、粒径、ガラス転移温度を規定することが好ましい。
【0027】
上記ラテックス以外に、本発明ではHESを含有する必要がある。接着剤として用いる澱粉類としては、酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等が挙げられるが、本発明においては、下塗り塗工層にゲル含有量が70〜90質量%と高いラテックスを使用することで耐ブリスター性が低下しやすいため、下塗り塗工層には高い表面強度及び塗工層内部強度が求められる。発明者らは鋭意研究した結果、ゲル含有量が70〜90質量%と高いラテックスを下塗り塗工層に用いた場合、上記澱粉類の中でもHESを併用することで特に高い表面強度及び耐ブリスター性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。更に表面強度向上及び塗工層内部の強度を向上させ、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても充分な耐ブリスター性を得るには、ヒドロキシエチル澱粉の中でも、特定範囲の分子量及び置換度を有するものが好ましい。分子量は30万〜70万が好ましく、40万〜60万がより好ましい。置換度は0.1〜2.5が好ましく、0.3〜2.0がより好ましい。分子量が30万を下回ったり、置換度が0.1を下回ると、充分な表面強度向上の効果が得られず、紙ムケが発生し易くなるだけでなく、層内強度も低下しやすいため耐ブリスター性が低下しやすい。分子量が70万を超過したり、置換度が2.5を超過すると、水蒸気が透過しにくくなるため耐ブリスター性が低下するだけでなく、塗料の流動性が悪化して均一な塗工層表面が得られにくくなり、白紙光沢度が低下しやすいため好ましくない。
尚、分子量は、GPC(昭和電工(株)製)により、多糖類を標品とする重量平均分子量として測定した。また、置換度とは、澱粉誘導体における反応性水酸基(3個:2,3,6(又は4)位)の、グルコース残基1個当たりの置換水酸基の数(平均値)を意味し、DS=3のとき反応性水酸基の置換割合は100%となる。
【0028】
HESの含有量は、下塗り塗工層の顔料100質量部に対し、6〜10質量部であることが好ましく、7〜9質量部であることが更に好ましい。6質量部を下回ると、表面強度の向上効果が充分に得られず、耐ブリスター性の低下と、紙ムケの発生が多くなるため好ましくない。10質量部を上回ると、塗工層内部の接着剤成分が増加して通気性が悪化し、耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0029】
下塗り塗工液における顔料と接着剤との配合割合は、下塗り塗工層の顔料100質量部に対して、ゲル含有量が70質量%以上のラテックス、HES及びその他の接着剤の合計で10〜18質量部であることが好ましく、さらには12〜16質量部がより好ましい。接着剤の配合量が10質量部未満では、顔料を固定することができず、塗工層の内部強度が低下しやすく、紙ムケが発生しやすいため好ましくない。接着剤の配合量が18質量部を超過すると、塗工層の通気性が低下し、耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0030】
上記以外にも、本発明の耐ブリスター性を低下させない範囲、つまり10〜18質量部の範囲内で、一般的に製紙用途で使用できる接着剤を併用することができる。例えばカゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常塗工紙に用いられる接着剤が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
【0031】
上述のとおり、表面強度を向上させるために下塗り塗工層にゲル含有量が70〜90質量%のラテックスを含有する際は、耐ブリスター性を低下させないよう、より高い表面強度及び塗工層内部強度が得られるHESを併用する必要があり、好ましくはラテックス及びHESの合計配合量を10〜18質量部とする必要がある。加えて、ラテックス中のスチレン成分は30〜60質量%、ブタジエン成分は25〜55質量%であることが好ましく、ラテックスの重量平均粒子径は150〜250nmが好ましく、180〜220nmが更に好ましく、ラテックスのガラス転移温度は−10〜+5℃が好ましく、−7〜+2℃がより好ましく、これらの相乗効果により、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても、耐ブリスター性を低下させることなく紙ムケを防止する作用が得られるため好ましい。HESは分子量が30万〜70万、置換度が0.1〜2.5であると、更に耐ブリスター性の低下と紙ムケを防止できるため好ましい。
【0032】
下塗り塗工液は、抄紙工程中のサイズプレス工程で公知の種々の方式により塗工されることができるが、特にフィルム転写方式により塗工されることが好ましい。フィルム転写方式は、塗工塗料をロールに塗工した後に、塗料を紙に転写する方式のため、基紙表面に均一な塗工層を形成できることから、印刷後乾燥時に基紙中の水分が水蒸気となって均一に抜けやすく、ブリスターの発生を低減しやすいため好ましい。例えばツーロールサイズプレスのように塗工液の液溜りを形成し塗工する方式では、ゲル含有量が70質量%以上のラテックスやHESが基紙内部にまで浸透し、充分な表面強度が得られないだけでなく、基紙中の水分が塗工層表面から抜けにくいため耐ブリスター性が低下する問題がある。
【0033】
下塗り塗工液の濃度は特に限定されず、塗工量が好ましくは片面あたり4〜10g/m、より好ましくは5〜8g/mの範囲となるように、適宜調整すれば良い。例えば、濃度が60〜70質量%であれば良く、62〜68質量%であれば、上記塗工量範囲で、より均一な塗工ができるため好ましい。濃度が60質量%を下回ると、基紙に塗工液中の水分が吸液されやすく、ゲル含有量70質量%以上のラテックス及びHESが基紙内部にまで浸透しやすくなり、表面強度及び耐ブリスター性が低下するため好ましくない。濃度が70質量%を超過すると、均一な塗工層が得られないため、通気性にムラが発生し、印刷乾燥後に水蒸気が抜けにくい場所においてブリスターが発生し易くなるため好ましくない。
【0034】
下塗り塗工層は、塗工量が、固形分付着量で片面あたり、好ましくは4〜10g/m、より好ましくは5〜8g/mとなるように塗工される。固形分付着量が4g/m未満であると均一な塗工性や十分な被覆性が得られにくく、上塗り塗工を行っても印刷適性が低く、印刷用紙として充分満足できる印刷物が得られない可能性がある。仮に下塗り塗工量を10g/m未満として上塗り塗工量を増加させ、均一な塗工性や充分な被覆性を得ようとすると、上塗り塗工層の塗工量を過大に増加する必要があり、上塗り塗工層の内部強度が低下しやすく、紙ムケが発生しやすくなるため好ましくない。これは、下塗り塗工量が10g/mを超えても同様である。
【0035】
<プレカレンダー>
下塗り塗工後の塗工原紙は、上塗り塗工(顔料塗工)を行う前に、プレカレンダーによる平坦化処理を行うと、均一な上塗り塗工層が得られ、耐ブリスター性が向上しやすくなるため好ましい。プレカレンダーは、金属ロールと弾性ロールを組み合わせたソフトカレンダーが、塗工紙表面の平坦化効果が高いため好ましい。プレカレンダーは、1段又は必要に応じ2段以上の組合せで行うこともできる。プレカレンダーの線圧は、好ましくは10〜80kN/mであり、より好ましくは10〜50kN/mである。10kN/m未満であると、充分な平坦化効果が得られず、上塗り塗工後の耐ブリスター性が低下する可能性があるため好ましくない。80kN/mを超過すると、必要以上に下塗り塗工紙を圧迫するため、下塗り塗工層内部の層間強度が低下し易く、層間剥離が発生し易く、紙ムケ防止の効果に劣るため好ましくない。
【0036】
上述のとおり、下塗り塗工層にゲル含有量が70〜90質量%のラテックスを使用した場合、耐ブリスター性が低下しやすいためHESを併用するが、より好ましくは、塗工量を4〜10g/mとした後、10〜80kN/mの線圧でプレカレンダー処理することで、塗工層密度を向上させることなく、塗工紙表面を平坦化できるため、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても、更に耐ブリスター性及び紙ムケを防止する効果が高いため好ましい。
【0037】
<上塗り塗工>
下塗り塗工を行い、好ましくはプレカレンダーで平坦化を行なった基紙上に、顔料及び接着剤を主成分とする上塗り塗工層を設ける。上塗り塗工層を設けることで、耐ブリスター性及び表面強度を向上させることができるため好ましい。本発明のごとく、高い白紙光沢度及び印刷適性を得るためには、片面あたり10〜20g/mの塗工量が必要となるが、これを単層の塗工層で設けた場合、塗工層内部の強度が低下しやすくなる。上塗り塗工層及び下塗り塗工層からなる少なくとも2層の塗工層に分けて塗工量10〜20g/mを設けた場合、単層で設ける場合に比べて、表面強度及び耐ブリスター性に優れた塗工紙を得ることができる。加えて、より塗工紙表面の平坦性を向上させることができるため、白紙光沢が向上する効果も得られるため好ましい。
【0038】
(顔料)
上塗り塗工層における顔料は特に限定されず、一般に製紙用途に使用できるものを使用することができる。具体的には、上述した下塗り塗工層の顔料を、適宜使用することができる。
【0039】
顔料の中でも板状顔料であるカオリンクレーを用いると、印刷適性が向上しやすく、上塗り塗工後に実施するカレンダー条件を緩やかにでき、より嵩高な上塗り塗工層が得られるため、印刷後乾燥時に水蒸気が抜けやすく、耐ブリスター性が向上するため好ましい。特に本発明の好適な態様の如く、下塗り塗工層に水蒸気透過性の良い炭酸カルシウムを用いた場合は、上塗り塗工液にカオリンクレーを配合することで、更に耐ブリスター性が向上しやすくなる。
【0040】
カオリンクレーは、従来一般に製紙用途で使用するものを使用できる。例えば大粒径クレー、微粒クレー、焼成クレー、高白色クレー等が挙げられる。この中でも面積粒子径0.5〜2.0μmの粒子が全体の80〜100質量%、より好ましくは85〜95質量%を占めるカオリンクレーを用いると、上塗り塗工層のカバーリングが良いため、低塗工量とすることができ、通気性が良好であり耐ブリスター性が高く、かつ紙ムケを抑制しやすいため好ましい。0.5μm未満の粒子が多く、0.5〜2.0μmの粒子が全体の80質量%以下となると、塗工層が密になりやすく、水蒸気が抜けにくくなり耐ブリスター性が低下しやすくなる可能性があるため好ましくない。2.0μmを超過する粒子が多く、0.5〜2.0μmの粒子が全体の80質量%以下となると、上塗り塗工層表面の平坦性が低下するため、良好な印刷適性が得られ難くなる。
上塗り塗工層におけるカオリンクレーの配合量は、上塗り塗工層に配合される顔料の全量に対して5〜40質量%とすることが好ましい。5質量%を下回ると、印刷適性が向上しにくくなるだけでなく、必要な印刷適性を得るために平坦化条件を厳しくする必要があり、塗工層の密度が向上し、透気度が低下しやすく、耐ブリスター性が低下しやすくなること、及び、充分な白紙光沢度が得られにくいため好ましくない。40質量%を上回ると、上塗り塗工層の通気性が低下しやすく、耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0041】
上述のごとく、クレーの配合量を全顔料のうち5〜40質量%とすることで、十分な印刷適性と耐ブリスター性、表面強度を得ることができる。加えて、後述の通りマルチニップカレンダーで平坦化処理することにより、光沢が容易に向上しやすく、例えば白紙光沢度が70%以上と高光沢の塗工紙が得られるため好ましい。
【0042】
上塗り塗工層における顔料として、カオリンクレーとともに、白色度が高い炭酸カルシウムを用いると、より白色度の高い塗工紙を得ることができるため好ましい。炭酸カルシウムとしては、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が全体の80〜100質量%、好ましくは85〜95質量%を占めるものを用いる。0.2μm未満の粒子が多く、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が全顔料の80質量%を下回ると、上塗り塗工層が密になり、耐ブリスター性が低下するため好ましくない。1.0μm以上の粒子が多く、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が全顔料の80質量%を下回ると、上塗り塗工層表面の平坦性が著しく低下するため、良好な印刷適性を得ることができない。
【0043】
炭酸カルシウムは白色度が高く、得られる塗工紙の白色度を向上させ易いが、塗工後の表面性が低下し、印刷適性に劣るため、カオリンクレーと併用して用いることが好ましい。この場合、炭酸カルシウムの配合量としては、上塗り塗工層に配合される顔料の全量に対して60〜95質量%と、クレーの配合量を補完するよう使用することが好ましい。
塗工紙の白色度は、その用途に応じて多少異なるが、印刷物、記録物として充分に満足な美観を得るという観点から、カラーアナライザー(型番:i5、マクベスグレタグ社製)にて測定して83%以上、さらには85%以上であることが好ましい。炭酸カルシウムの配合量を上記のとおり60〜95質量%とすることで、白紙光沢度及び白色度が良好でありながら、耐ブリスター性及び紙ムケの発生を抑制した塗工紙が得られるため好ましい。
【0044】
(接着剤)
上塗り塗工層に用いる接着剤としては、下塗り塗工層と同じ物を用いることができるが、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを用いることが好ましく、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体ラテックスを用いることがより好ましい。
【0045】
ラテックスの構造は、粒子内部と表面部で構成成分やガラス転移温度が同じの単一型よりも、粒子内部と表面部で構成成分やガラス転移温度が異なるコア−シェル型や、粒子の内部から外部への組成が連続的に変化している傾斜型を使用することが好ましい。特に傾斜型は、顔料を固定する効果が高く、配合量を最小限に抑えることができ、例えば顔料100質量部に対してラテックス8.0質量部以下であっても、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷において、充分に紙ムケを抑制できる一方、ラテックスに起因する耐ブリスター性の低下を最小限に抑えることができるため好ましい。傾斜型の中でも、表面強度とネッパリのバランスを考慮して、粒子内部のTgは−30〜−10℃のものが好ましく、粒子外部のTgは10〜30℃のものが好ましく、その差は20〜60℃が好ましい。内部Tgが−30℃未満又は−10℃を超過すると、充分な柔軟性が得られず表面強度が低下する可能性があり、表層Tgが10℃未満ではネッパリが発生し、ラテックスが異物欠陥となりやすく、見栄えに劣る可能性があり、表層Tgが30℃を超過すると、充分な表面強度が得られない可能性があるため好ましくない。
【0046】
さらに好ましくは、上塗り塗工層に用いるラテックスは、ゲル含有量が90質量%以上と高いことが好ましい。ゲル含有量が90質量%以上と高いラテックスを使用することで、表面強度が高く、紙ムケを防止した塗工紙を得ることができる。ゲル含有量が90質量%を下回ると、表面強度に劣り、紙ムケを防止しにくいため好ましくない。
ゲル含有量が高くなると、耐ブリスター性が低下し易くなため、上塗り塗工層中のラテックスの配合量は、顔料100質量部に対して6.5〜9.0質量部が好ましく、6.5〜8.0質量部がより好ましい。6.5質量部を下回ると、顔料を充分に固定できないため、印刷時に紙ムケトラブルが発生し易くなるため好ましくない。9.0質量部を超過すると、塗工層の通気性が低下し耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0047】
ラテックスの重量平均粒子径は85〜100nmが好ましく、90〜95nmが更に好ましい。粒子径が85nmを下回ると、顔料及びラテックスが密に結合しやすく、水蒸気が透過しにくくなり耐ブリスター性が低下するため好ましくない。100nmを超過すると、顔料の接着性が低下し、表面強度が低下するだけでなく、顔料の脱落により下塗り塗工層及び上塗り塗工層の表面平坦性が悪化し、白紙光沢度が低下しやすいため好ましくない。
【0048】
また、ラテックス以外にも、本発明の耐ブリスター性を低下させない範囲で、一般的に製紙用途で使用できる接着剤を併用することができる。例えばカゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常塗工紙に用いられる接着剤が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
これらラテックス以外の接着剤を使用しても、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても十分な耐ブリスター性を得るためには、接着剤の合計配合量を、顔料100質量部に対して9.0質量部以下に抑える必要がある。つまり、ラテックス以外の接着剤は、0〜2.5質量部程度に抑える必要がある。好ましくは1質量部以下であり、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0049】
下塗り塗工層では、ゲル含有量が70〜90質量%のラテックスを用いて表面強度を向上させるが、耐ブリスター性を維持するため、ラテックスの配合量を最小限に抑え、より高強度が得られるHESを6〜10質量部と高配合した。上塗り塗工層においては、HESに比べて高強度が得られる、ゲル含有量が90質量%以上のラテックスを用いるため、下塗り塗工層とは反対に、ラテックスの配合部数を多くし、HESの配合部数を最小限に、より好ましくは無配合とすることで、耐ブリスター性の低下を最小限に抑えることができる。ラテックス以外に用いる接着剤はHESに限らず、最小限にすることが好ましい。
上述のとおり、上塗り塗工層でゲル含有量が90質量%以上のラテックスを用いる場合は、配合量を6.5〜9.0質量部、好ましくは6.5〜8.0質量部とし、好ましくは傾斜型のラテックスを用い、HES等の、ラテックス以外の接着剤を配合しないことで、更に印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても耐ブリスター性の低下を防止することができるため好ましい。
【0050】
本実施形態にて用いる上塗り塗工液には、顔料及び接着剤以外にも、例えば、ダスト防止剤、蛍光染料、蛍光染料増白剤、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等、製紙用途で一般に用いられる各種助剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0051】
上塗り塗工液を調製する方法には特に限定がなく、顔料、接着剤、ダスト防止剤や、必要に応じて各種助剤等の配合割合を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合すればよい。また上塗り塗工液の固形分濃度は特に限定されるものではなく、塗工装置や塗工量に応じて、例えば60〜75質量%程度に調整することが好ましい。
【0052】
上塗り塗工層は、固形分付着量で基紙片面あたり6〜10g/mの塗工量で基紙の両面に塗工することが好ましく、更には7〜9g/mであることがより好ましい。塗工量が片面あたり6g/m未満では、塗工層が充分に平坦化されず、印刷適性が低下しやすく、また、塗工ムラに起因する紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。10g/mを超過すると塗工層の内部強度が低下するため、紙ムケの発生を充分に抑制し難くなるだけでなく、通気性が悪化しやすく、耐ブリスター性に劣るため好ましくない。
【0053】
前記のごとく形成された上塗り塗工層には、印刷適性をさらに向上させる目的で、スーパーカレンダーやソフトカレンダー等、弾性ロールと金属ロールとを組み合わせた平坦化設備にて平坦化処理を施すことができる。このような平坦化設備は、従来のマシンカレンダーとは異なり、用紙表面を幅広の面で、高温で処理することで、基紙の密度や塗工層の密度を過度に高めることなく平坦化が可能であり、オフセット輪転印刷において好適な印刷面を形成させることができる。中でも、マルチニップカレンダー、より望ましくは6段、8段、10段のマルチニップカレンダーが、ニップ圧を調整しやいため好ましい。特に本発明のごとく、高ゲル含有量のラテックスを含有する塗工紙においては、塗工層密度の向上により通気性が低下し、印刷後乾燥時に水蒸気が抜けにくく、ブリスターが発生しやすいため、より低線圧でありながら塗工層表面の平滑性を向上できるマルチニップカレンダーを用いることが好ましい。
【0054】
また、カレンダーの設置場所としては、抄紙機及び塗工機と一体になったオンマシンタイプが好ましい。オンマシンタイプでは、塗工後すぐ、紙面温度が高い状態で平坦化処理できるため、紙に余計な圧力をかけず、高密度化することなく白紙光沢度や平滑性を向上させやすく、耐ブリスター性の低下を最小限に抑えることができるため好ましい。
各種カレンダー設備を用いた平坦化処理の線圧や温度、速度は特に限定されないが、処理後の塗工層の平滑性を充分に向上させつつ、耐ブリスター性の低下を最小限に抑えるには、例えば線圧は100〜300kN/m、金属ロール温度は100〜200℃、速度は1,000〜2,000m/分となるように調整することが好ましい。
【0055】
上述のとおり、顔料としてカオリンクレーを5〜40質量%配合し、マルチニップカレンダーを用いて平坦化処理した場合は、塗工層密度を必要以上に向上させることなく、塗工紙表面を平坦化できるため、耐ブリスター性の低下を最小限にでき、かつ、塗工層表面が平坦であり印刷適性に優れるため、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても紙ムケが発生しにくい塗工紙が得られるため好ましい。
【0056】
かくして得られる塗工紙の坪量は、耐ブリスター性の向上と、紙ムケの低減という点から、JISP8124「坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定して、40〜100g/mであることが好ましく、さらには50g/m〜80g/mであることが好ましい。坪量が40g/m未満の場合、基紙が薄くなるため耐ブリスター性は向上するが、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷機に使用した場合、断紙が発生しやすいため好ましくない。坪量が100g/mを超える場合には、基紙中の水分が多く、印刷後乾燥時に発生する水蒸気が多くなり、耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0057】
本発明のごとく、基紙に接する下塗り塗工層と、当該下塗り塗工層上に形成された上塗り塗工層とから構成された2層からなる塗工紙において、下塗り塗工層にゲル含有量70質量%以上のラテックスを使用する際は、その配合量を4〜8質量部とすることが好ましく、かつ下塗り塗工層にHESを含有させることが必要となる。好ましくは、ラテックスの重量平均粒子径が150〜250nmであり、ガラス転移温度が−10〜+5℃であると、塗工層の内部強度が高いため耐ブリスター性に優れるだけでなく、顔料を充分に固定できるため表面強度が高く、紙ムケが発生しにくくなるため好ましい。更に、HESの配合量を6〜10質量部とすることで、塗工層強度を向上させつつ、耐ブリスター性の低下を最小限に抑えることで、印刷速度1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷においてもブリスターの発生が抑制できるため好ましい。
【0058】
また、下塗り塗工層の上に設ける上塗り塗工層は、顔料としてカオリンクレーを全顔料のうち5〜40質量%含有させることが好ましく、上塗り塗工層に用いるラテックスはゲル含有量が90質量%以上の高ゲル含有量のラテックスを用いると、耐ブリスター性が高く、紙ムケを防止しやすいため好ましい。加えて、ラテックスの配合量を6.5〜9.0質量部とし、かつ、ラテックス以外の接着剤は配合せず、マルチニップカレンダーを用いて塗工層を必要以上に高密度化しないことで、耐ブリスター性の低下が最小限に抑えられるため好ましい。
上記の2層塗工の塗工紙とすることで、高ゲル含有量のラテックスを用いながら、耐ブリスター性を低下することなく、表面強度に優れた塗工紙を得ることができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の塗工紙を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
実施例及び比較例
表1及び2に示す種類及び割合で各薬品を混合して下塗り及び上塗りの各塗工液を調製し、下塗り塗工及び上塗り塗工を行い、塗工紙を得た。用いた顔料、原料および薬品は以下のとおりである。
(1)下塗り塗工
(顔料)
・炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ75、オミヤコーリア社製)
・カオリンクレー(品番:カオファイン90、イメリス社製)
(接着剤)
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(品番:PA8234、日本A&L社製、単一型)
・HES(ヒドロキシエチル澱粉、品番:K96F、三晶社製)
・酸化澱粉(品番:マーメイド M−200、三晶社製)
・リン酸澱粉(リン酸エステル化澱粉、品番:スターコート#16、日本食品化社製)
(実施例3〜15は、実施例1に用いたラテックスを、表に記載のとおりに成分、ゲル含有量、粒子径、ガラス転移温度を変更して用いた)
(実施例19〜26は、実施例1に用いたHESを、表に記載のとおりに分子量、置換度を変更して用いた)
【0061】
(2)上塗り塗工
(顔料)
・炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、品番:ハイドロカーブ90、オミヤコーリア社製)
・カオリンクレー(品番:カオファイン90、イメリス社製)
(接着剤)
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス:(品番:PA8200、日本A&L社製、傾斜型)
(実施例35〜41は、実施例1に用いたラテックスを、表に記載のとおりに種類、ゲル含有量、粒子径を変更して用いた)
・HES、酸化澱粉、リン酸澱粉は、下塗り塗工と同じものを用いた。
【0062】
(製造手順)
原料パルプとしてLBKPとNBKPを80:20の質量割合で配合し、このパルプ(絶乾量)に対して、各々固形分で、内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量%を添加してパルプスラリーを得た。
次に、ワイヤーパート、プレスパート、プレドライヤーパート、アンダーコーターパート、プレカレンダーパート、アフタードライヤーパート、トップコーターパート、スキャッフドライヤーパート、カレンダーパート、リールパートを含む製紙システムを用いワインダーパートにて製品に仕上げた。
【0063】
まず、パルプスラリーをワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して、坪量36g/mの基紙を製造し、次いでアンダーコーターパートにて、表に記載の顔料及び、顔料100質量部に対して表に記載の割合でラテックス及びスターチを混合し、濃度65%に調製した下塗り塗工液を、片面あたり6g/mとなるよう、フィルム転写方式(シムサイザー)で両面を下塗り塗工し、アフタードライヤーパートで乾燥した。その後、プレカレンダー(線圧50kN/m)にて平坦化処理した。
次いで、トップコーターパートにて、表に記載の顔料及び、顔料100質量部に対して表に記載の割合でラテックス及びスターチを混合し、濃度65質量%に調製した上塗り塗工液を、片面あたり8g/mとなるよう、両面を上塗り塗工し、坪量64g/mの印刷用塗工紙を製造した。
【0064】
次に、カレンダーパートにて、線圧200kN/m、速度1,000m/分で平坦化処理を施し、ワインダーパートに供して印刷用塗工紙を得た。
なお、ワイヤーパートではギャップフォーマーを用いて抄紙し、アンダーコーターパートではロッドメタリングサイズプレスコーターを用い、トップコーターパートではブレードコーターを用いた。またカレンダーパートでは、スーパーカレンダーを用いた。
但し、比較例5は上塗り塗工を行わず、坪量52g/mの基紙に、片面あたり6g/mの下塗り塗工を行い、坪量64g/mの塗工紙とした以外は、実施例1と同様にした。
【0065】
得られた塗工紙について、ストリーク、白紙光沢度、輪転印刷時に発生する紙ムケ及び耐ブリスター性を以下の方法にて調べた。その結果を表に示す。
【0066】
(a)ストリーク
塗工紙の表面に発生したストリークを、次の評価基準に基づき、目視評価した。
◎:ストリークの発生がない。
○:ストリークが僅かに発生したが、実使用可能。
×:ストリークが多く発生し、実使用不可能。
【0067】
(b)白紙光沢度
塗工紙について、JISP8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準じて光沢度を測定した。尚、白紙光沢度は75%以上であれば実使用に問題なく、80%以上であれば見栄えに優れた塗工紙となる。
【0068】
・印刷サンプルの調製
オフセット印刷機(型番:LITHOPIA MAX BT2−1000、三菱重工業(株)製)を使用し、カラーインク(品番:ADVAN、大日本インキ化学工業(株)製)にて、B4折のカラー4色印刷を、速度1,200rpmで5000部印刷した。紙面温度は115℃に設定した。
【0069】
(c)紙ムケ
印刷サンプルでの紙ムケの発生程度を以下の基準で目視評価した。
◎:紙ムケの発生がなく、実使用可能。
○:紙ムケが若干発生し、見栄えが若干劣るが、実使用可能。
×:紙ムケが発生し、見栄えが劣り、実使用不可能。
【0070】
(d)耐ブリスター性
印刷用塗工紙の試験サンプル(流れ方向2cm、幅方向10cm)を23℃、50%RH条件下で24時間調湿したのち、一定温度に調整したオイルバス(シリコンオイル)に4秒間浸けた。この試験を3回行い、ブリスターが発生した温度のうち、最も低い温度をブリスター発生温度とした。なお、オイルバスの温度は、160℃から10℃刻みで昇温させ、その温度においてブリスターが発生した場合に、ブリスター発生温度とした。尚、ブリスター発生温度が170℃以上であれば実使用に耐えられ、180℃以上であればよりブリスターが発生しにくく良好となり、190℃以上であれば耐ブリスター性に特に優れた塗工紙となる。
【0071】
【表1】


【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の塗工紙は、オフセット輪転印刷で使用される印刷用塗工紙として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙、及び、前記基紙上に、顔料と接着剤を含有する塗工層を二層以上有する塗工紙において、前記塗工層のうち、前記基紙に接する下塗り塗工層の接着剤として、ゲル含有量70〜90質量%のラテックス、及び、ヒドロキシエチル澱粉(HES)を含有することを特徴とする、オフセット輪転印刷用塗工紙。
【請求項2】
前記下塗り塗工層の前記ラテックスの重量平均粒子径が150〜250nm、ガラス転移温度が−10〜+5℃であることを特徴とする、請求項1に記載のオフセット輪転印刷用塗工紙。
【請求項3】
前記下塗り塗工層は、顔料100質量部に対し前記ラテックスを4〜8質量部、HESを6〜10質量部含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のオフセット輪転印刷用塗工紙。
【請求項4】
前期下塗り塗工層の上に設けられた上塗り塗工層の接着剤として、ゲル含有量90質量%以上、重量平均粒子径85〜100nmのラテックスを、上塗り塗工層の顔料100質量部に対して6.5〜9質量部含有することを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載のオフセット輪転印刷用塗工紙。
【請求項5】
前記上塗り塗工層の顔料のうち、カオリンクレーが5〜40質量%であり、前記上塗り塗工層の接着剤のうち、前記ゲル含有量90質量%以上のラテックス以外の接着剤が、1質量部以下であり、塗工紙の白紙光沢度が70%以上であることを特徴とする、請求項4に記載のオフセット輪転印刷用塗工紙。

【公開番号】特開2010−150683(P2010−150683A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328063(P2008−328063)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】