説明

オメガ型エネルギーフィルタ

【課題】本発明はオメガ型エネルギーフィルタに関し、n個の磁極に対して(n−1)個の電子線検出器を用意し、それらが電子線の軌道の邪魔にならないように配置することができるオメガ型エネルギーフィルタを提供することを目的としている。
【解決手段】複数の扇形磁極32より構成され、それぞれの磁極により電子線の軌道が曲げられ、オメガ型の軌道を形成するようにしたオメガ型エネルギーフィルタにおいて、各磁極32の軌道の接線方向に設けられた電子線を検出する電子線検出器33と、電子線が理想的な軌道をとった時のみ該電子線を通過させる絞り穴25と、を含み、該絞り穴25を通過した電子線が前記電子線検出器33に到達するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオメガ型エネルギーフィルタに関し、更に詳しくは荷電粒子線装置のうち電子の軌道を曲げるめたの扇形磁極を有する電子顕微鏡のオメガ型エネルギーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
オメガ型エネルギーフィルタは、透過電子顕微鏡等に組み込まれ、所定エネルギーの試料透過電子ビームを取り出すために用いられる。図3はオメガ型エネルギーフィルタの概念図である。31は電子線である。32は該電子線31の軌道を曲げるための扇形磁極であり、ここでは、磁極としてA〜Dの磁極が用いられている場合を示す。
【0003】
33は電子線1の軌道が磁極Aにより曲げられた時に磁極Aの軌道の接線方向に設けられた電子線31を検出する電子線検出器である。該電子線検出器33としては、例えば金属板が用いられる。
【0004】
このように構成されたオメガ型エネルギーフィルタにおいて、先ず磁極AとDのみを励磁して電子線検出器33にて電子線が検出されるように調整する。次に、磁極AとDの励磁はそのままで、磁極BとCを励磁して鏡筒下部の蛍光板或いはCCDカメラ等で電子線が確認できるように調整する。
【0005】
従来のこの種の装置としては、目的は異なるが、X線漏洩防止装置として、電子線の理想軌道でない場所に電子線検出器を設け、電子線検出器が信号を検出したら電子線の出力をとめるようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−307042号公報(段落0008〜0010、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術では、複数個(n個)の磁極が独立に制御可能なコイルに対しては対応できなかった。n個の磁極を制御する必要がある場合においては、最低(n−1)個の検出器が必要となる。また、オメガ型エネルギーフィルタにおいては、磁極を励磁して電子線を曲げる場合と、電子線を直進させる2種類の使用用途がある。
【0007】
図4はオメガ軌道と直進軌道の説明図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、35はオメガ型エネルギーフィルタ、11はオメガ型エネルギーフィルタ35が配置される真空チャンバである。電子線31がオメガ型エネルギーフィルタ35により曲げられると、オメガ軌道Qは図に示すようにΩ形に曲げられる。一方、オメガ型エネルギーフィルタ35をオフにすると、電子線31は直進し、直進軌道Pをとる。
【0008】
前述したように、オメガ型エネルギーフィルタには、電子線31を曲げる場合と直進させる場合の2種類の用途がある。よって、電子線31の検出器は、それぞれの電子線31の軌道の邪魔にならないように配置する必要がある。従来の技術では、電子線検出器を固定して用いるため、軌道の邪魔になるところには装着できなかった。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、n個の磁極に対して(n−1)個の電子線検出器を用意し、それらが電子線の軌道の邪魔にならないように配置することができるオメガ型エネルギーフィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)請求項1記載の発明は、複数の扇形磁極より構成され、それぞれの磁極により電子線の軌道が曲げられ、オメガ型の軌道を形成するようにしたオメガ型エネルギーフィルタにおいて、各磁極の軌道の接線方向に設けられた電子線を検出する電子線検出器と、電子線が理想的な軌道をとった時のみ該電子線を通過させる絞り穴と、を含み、該絞り穴を通過した電子線が前記電子線検出器に到達するように構成されたことを特徴とする。
(2)請求項2記載の発明は、前記電子線検出器は励磁コイル調整時以外は邪魔にならない場所に移動させる移動機構を設けたことを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記電子線検出器として金属板を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)請求項1記載の発明によれば、理想軌道を通過した電子線のみ検出するようにして、電子線を理想位置で曲げることができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、電子線を検出する金属板に移動機構を設けたので、通常使用時に電子線検出器が邪魔になる軌道上に電子線検出器を配置することが可能になる。
(3)請求項3記載の発明によれば、電子線検出器として金属板を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態例を示す構成図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、11は真空チャンバ、35は該真空チャンバ11内に配置されるオメガ型エネルギーフィルタである。真空チャンバ11の大気側には、オメガ型エネルギーフィルタの位置調整を行なうための機械調整軸(押しねじ:図示せず)である。
【0013】
31は電子線である。32は扇形磁極であり、図ではA〜Dまでの4個設けられた場合を示すが、本発明はこれに限るものではなく、任意の数の扇形磁極を用いることができる。これら4個の扇形磁極32は、4個の磁極により電子線を折り曲げ、その電子線の軌道がΩ形となるように構成されている。
【0014】
33は扇形磁極32で折れ曲がった電子線の接線方向の電子線を検出する電子線検出器としての金属板である。金属板33は扇形磁極A〜C用に3個設けられており、扇形磁極A〜Cまでの理想の電子線軌道接線方向に設けられている。これら金属板を扇形磁極A〜Cに対応させて金属板A〜Cと呼ぶことにする。6は金属板33をオメガ型エネルギーフィルタ35から電気的に浮かせるための絶縁スペーサである。7は各金属板33からの検出信号を取り出すための同軸ケーブル信号線であり、各金属板A〜C毎に設けられている。8はこれら信号線と接続される真空チャンバ11に取り付けられた同軸コネクタである。9はこれら同軸コネクタ8と接続され、金属板33による電子線検出信号を取り出す大気用同軸ケーブル信号線である。
【0015】
(a)は全体の構成図である。この全体の構成図のうち、Pの部分を拡大したものが(b)であり、P部分の詳細図を示している。このPの詳細図のうち、図のQ部の断面を示したものが、(c)のQ断面図である。(b)に示すP詳細図において、40は扇形磁極Aにより曲げられた電子線の理想的な励磁による軌道である。25はこの軌道40の電子線を通過させる絞り穴であり、磁路形成部22に穿たれている。41は扇形磁極Bにより曲げられた軌道である。
【0016】
(c)のQ断面図において、21は扇形磁極32を励磁する励磁コイル、22はその内部に励磁コイル21により電子線31の軌道が形成される磁路形成部である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0017】
オメガ型エネルギーフィルタは、扇形磁極Aを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極Aの励磁コイル21にのみ励磁電流を流す。そして、電流値を操作して適当な励磁になったところで電子線31は絞り穴25を通過し金属板Aに到達する。次に、扇形磁極Bを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極Aの励磁はそのままで、扇形磁極Bの励磁コイル21(図示せず)に電流を流す。
【0018】
電流値を操作して適当な励磁になったところで、電子線31は扇形磁極Bの絞り穴25(図示せず)を通過し、金属板Bに到達する。更に扇形磁極Cを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極A,Bの励磁はそのままで、扇形磁極Cの励磁コイル21(図示せず)に電流を流す。電流値の操作により適当な励磁になったところで、電子線31は扇形磁極Cの絞り穴25(図示せず)を通過し、金属板Cに到達する。
【0019】
最後に、扇形磁極Dを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極A〜Cの励磁はそのままで扇形磁極Dの励磁コイル21(図示せず)に電流を流す。電流値を操作して適当な励磁になったところで電子線31は鏡筒上部から直進する電子線と同じ軌道をとる。理想的な軌道をとった電子線は鏡筒下部の蛍光板やCCDカメラにて確認される。
【0020】
ここで、各金属板33に衝突した電子が同軸ケーブル信号線7に流れ込むと電流が流れる。よって、電流検出器をモニタリングすることにより信号が到達したことを認識することができる。大気用同軸ケーブル信号線9からの電子線検出信号は、処理装置(図示せず)に入力され、各金属板33が電子線を検出しているかどうかが検出される。なお、金属板33は、コイルの調整時にのみ使用するので、通常の装置使用状態では金属板33に電荷がたまらないように大気用同軸ケーブル信号線9を接地してアースに落としておく。
【0021】
このように、この実施の形態例によれば、理想軌道を通過した電子線のみ検出するようにして、電子線を理想位置で曲げることができる。
図2は本発明の第2の実施の形態例を示す構成図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、40は移動機構(図示せず)付き金属板C(可動式金属板)であり、電子線31が直進して通過する軌道上に設けられている。この金属板Cは、その移動機構により電子顕微鏡の通常使用中では、電子線の照射領域から電子線の影響を受けない場所に移動することができるようになっている。その他の構成は、図1と同じであるので、説明は省略する。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0022】
オメガ型エネルギーフィルタ35は、扇形磁極Aを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極Aの励磁コイル21のみ励磁電流を流す。電流値を操作して適当な励磁になったところで、扇形磁極Aにより曲げられた電子線31は扇形磁極A用の絞り穴25を通過し、金属板Aに到達する。
【0023】
次に、扇形磁極Bを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極Aの励磁はそのままで扇形磁極Bの励磁コイル21(図示せず)に励磁電流を流す。電流値を操作して適当な励磁になったところで、扇形磁極B用の絞り穴25(図示せず)を通過し、金属板Bに到達する。
【0024】
更に、扇形磁極Cを励磁して電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極A,Bの励磁はそのままで扇形磁極Cの励磁コイル21(図示せず)に励磁電流を流す。電流値を操作して適当な励磁になったところで、電子線は扇形磁極C用の絞り穴25(図示せず)を通過し、可動式金属板40(金属板C)に到達する。
【0025】
可動式金属板40のみ真空チャンバ11に固定されていないので、電子線31と扇形磁極Cの絞り穴25(図示せず)との相対位置が変化する。そのため、可動式金属板40は、他の金属板33に比べて面積が広くオメガ型エネルギーフィルタ35の可動量に比べて十分である必要がある。
【0026】
電子線31の理想位置は扇形磁極の絞り穴25(図示せず)にて規制されるため、電子線31と可動式金属板40の相対位置が変化しても理想的な軌道を通過した時のみ電子が検出される。最後に扇形磁極Dを励磁しての電子軌道を理想位置に調整するために、扇形磁極A〜Cの励磁はそのままで、扇形磁極Dの励磁コイル21(図示せず)に励磁電流を流す。
【0027】
電流値を操作して適当な励磁となったところで、電子線31は鏡筒上部から直進する電子線と同じ軌道をとる。理想的な軌道をとった電子線は鏡筒下部の蛍光板やCCDカメラにて確認される。各金属板A,B、可動式金属板Cに衝突した電子が同軸ケーブル信号線7に流れ込むと電流が流れる。よって、金属板A〜Cをモニタリングすることにより、信号が到達したことを認識することができる。
【0028】
このように調整された装置で、実際の使用時においては、可動式金属板40は、電子線31の軌道上に配置されるので、移動機構を用いて電子線の照射に邪魔にならない場所に移動させられる。また、金属板A,B,可動式金属板Cは、通常の使用状態では、これら金属板に電荷が溜まらないように大気用同軸ケーブル信号線9をアースに落としておく。
【0029】
このように、この実施の形態例によれば、電子線を検出する金属板に移動機構を設けたので、通常使用時に電子線検出器が邪魔になる軌道上に電子線検出器を配置することが可能になる。
【0030】
上述の実施の形態例では、電子線検出器として金属板を用いた場合を例にとったが、本発明はこれに限るものではなく、電子線を検出することができるものであれば、どのような検出器を用いてもよい。
【0031】
以上、説明した本発明の効果を列挙すれば、以下の通りである。
1)オメガ型エネルギーフィルタに電子線検出器を直接装着できないところについては、真空チャンバ側に電子線検出器を設けることができる。機械軸調整時に電子線と電子線検出器の相対位置が変化するが、その変化を吸収する面積の大きさの検出器を設けることにより電子線を検出することが可能となった。
2)電子線検出器に移動機構を設けることにより、通常使用時に電子線検出器が邪魔になる場所、例えば電子線が直進する軌道上に電子線検出器を配置することが可能となった。
3)絞り穴を設けることにより、電子線と電子線検出器の相対位置に関係なく、理想軌道を通過した電子線のみを検出することが可能となった。
4)独立したn個の磁極に対して(n−1)個以下の上記1)〜3)を満たす金属板を設けることにより、各磁極の励磁を確実に確認しながら電子線を理想位置で曲げることが可能となった。
【0032】
このように、本発明によれば、n個の磁極に対して(n−1)個の電子線検出器を用意し、それらが電子線の軌道の邪魔にならないように配置することができるオメガ型エネルギーフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態例を示す構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態例を示す構成図である。
【図3】オメガ型エネルギーフィルタの概念図である。
【図4】オメガ軌道と直進軌道の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
6 絶縁スペーサ
7 同軸ケーブル信号線
8 同軸コネクタ
9 大気用同軸ケーブル信号線
11 真空チャンバ
21 励磁コイル
22 磁路形成部
25 絞り穴
31 電子線
32 扇形磁極
33 金属板
35 オメガ型エネルギーフィルタ
40 扇形磁極Aの理想的励磁による軌道
41 扇形磁極Bにより曲げられた軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の扇形磁極より構成され、それぞれの磁極により電子線の軌道が曲げられ、オメガ型の軌道を形成するようにしたオメガ型エネルギーフィルタにおいて、
各磁極の軌道の接線方向に設けられた電子線を検出する電子線検出器と、
電子線が理想的な軌道をとった時のみ該電子線を通過させる絞り穴と、
を含み、
該絞り穴を通過した電子線が前記電子線検出器に到達するように構成されたことを特徴とするオメガ型エネルギーフィルタ。
【請求項2】
前記電子線検出器は励磁コイル調整時以外は邪魔にならない場所に移動させる移動機構を設けたことを特徴とする請求項1記載のオメガ型エネルギーフィルタ。
【請求項3】
前記電子線検出器として金属板を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のオメガ型エネルギーフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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