説明

オリゴグリコサミノグリカンの製造方法、並びに還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、及びこれを含む医薬組成物

グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体を還元末端に持つ、糖供与体を、グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基が保護されているN−アシルガラクトサミン誘導体を還元末端に有する糖受容体と、特定のプロモーターの存在下でグリコシル化反応させる工程とする。
4以上の構成糖からなる意図する鎖長のオリゴグリコサミノグルカンを、高立体選択的に、高収率、高純度で製造する方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4個以上、特に5個以上の構成糖からなるオリゴグリコサミノグリカンを効率的に製造する化学的な製造方法に関する。また本発明は、CD44分子の関与により誘発する症状若しくは疾患の改善、治療及び予防に有用な、5糖以上の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型コンドロイチン硫酸オリゴ糖及びこれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカンは、ウロン酸若しくはガラクトースまたはそれらの誘導体とヘキソサミンまたはその誘導体とからなる基本2糖単位の繰り返し構造を持つ多糖である。グリコサミノグリカンは、生体内では、基本2糖単位の約40から100回の繰り返しにより形成される非常に長い糖鎖として存在し、その多くはプロテオグリカン中のコア蛋白に共有結合している。
【0003】
グリコサミノグリカンとしては、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、へパラン硫酸、へパリン、ケラタン硫酸などが知られている。コンドロイチン硫酸では、グルクロン酸若しくはその誘導体とN−アシルガラクトサミン若しくはその誘導体とが基本2糖単位を構成する。デルマタン硫酸では、イズロン酸若しくはその誘導体とN−アシルガラクトサミン若しくはその誘導体とが基本2糖単位を構成する。ケタラン硫酸では、ガラクトース若しくはその誘導体とN−アシルガラクトサミン若しくはその誘導体とが基本2糖単位を構成する。
【0004】
近年、これらグリコサミノグリカンの細胞認識機能に高い関心が寄せられており、各種細胞において発現しているグリコサミノグリカンを含む糖鎖が細胞外成分との相互作用を介して種々の生理的機能に関与することが明らかにされている。
【0005】
例えば、JP特表2003−512807号では、イズロン酸と硫酸化アセチルガラクトサミンを有する2糖の繰り返し単位で構成される16〜100糖単位のデルマタン硫酸が、トロンビン生成及び補体活性化の阻害剤として有用であることが開示されている。また、ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol.42,No.4,1999,pp.659−668では、マウスの関節リュウマチモデルにおいて、生体中に存在するヒアルロン酸が、様々な細胞機能に関与することが知られているCD44抗原と相互作用すること、並びに特定の抗体によりヒアルロン酸のCD44への結合を阻害すると、関節リュウマチの症状が軽減されることが開示されている。
【0006】
更に、最近の研究では、生体から採取した長鎖のグリコサミノグリカンを切断して得ることができる、オリゴグリコサミノグリカン(以下、本明細書で「オリゴ」とは、2〜20個の構成糖からなることを意味する。)であっても、細胞外成分と相互作用して、生理的機能に関与することが示唆若しくは指摘されている。
【0007】
例えば、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol.277,No.15,pp.12921−12930,2002には、4の構成糖からなるコンドロイチン硫酸Eは、L−セクレチン及びP−セクレチンと相互作用することが開示されている。但し、同文献では、硫酸化が一部若しくは全くなされていない対応コンドロイチンファミリーでは、L−セクレチン及びP−セクレチンと相互作用しないこともまた述べられている。さらに、同文献は、2個の構成糖からなるグリコサミノグリカンがCD44と相互作用することも開示しており、より具体的には、2個の構成糖からなるコンドロイチン、デルマタン及びヒアルロン酸が、その硫酸化若しくは非硫酸化とは無関係にCD44と相互作用すること、即ち、糖鎖上の硫酸基がCD44との相互作用に寄与しないことを指摘している。
【0008】
同文献は、プラズモン共鳴アッセイにより各オリゴグリコサミノグリカンとCD44との相互作用を分析したことを記載するものであり、実際の生理的機能については実証していない。
【0009】
この点、WO96/16973には、硫酸化アセチルグルコサミンを還元末端に有する2〜5の構成糖からなるオリゴケラタン硫酸が、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調整剤、細胞の分化誘導剤、及びアポトーシス誘導剤として有用であることが開示されている。
【0010】
また、JP特開平5−178876号には、D−ガラクトサミン誘導体及びD−グルクロン酸誘導体からなる基本2糖単位を有する2〜8個の構成糖からなるオリゴコンドロイチンが、抗アレルギー作用、抗炎症作用及びヒアルロニダーゼ阻害作用を有することが記載されている。
【0011】
但し、この特許文献では、単糖からなる糖供与体を逐次グリコシル結合させる開示の製造工程から明らかなように、実際に4個以上の糖からなるオリゴ糖が製造されたとの記載はない。当然に、この文献においては、2個の構成糖からなるコンドロイチンのみについて、薬理学的活性が実証されている。
【0012】
また、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol.278,No.34,pp.32259−32265,2003では、6〜14個の構成糖からなる異なる鎖長のオリゴヒアルロン酸を含むオリゴマー混合物が、CD44の分解を誘発し、その一方で、1000個以上の構成糖からなるヒアルロン酸、並びに2個の構成糖からなるヒアルロン酸では、CD44分解を誘発しないことが指摘されている。
【0013】
ところで、オリゴグリコサミノグリカンの機能に対する関心が高まるにつれ、特定の鎖長、特定の位置に硫酸化等により特定の基を付加することにより形成される修飾基、及び特定の立体構造を有するオリゴグリコサミノグリカンを選択的に製造する方法に対する要求が強まってきている。
【0014】
従来、オリゴグリコサミノグリカンを得る方法の1つとして、生体から採取した長鎖のグリコサミノグリカンを、分解酵素を用いて切断する方法が知られている(WO96/16973及びJP特開平5−058716号)。
【0015】
しかし、この酵素法による製造方法では、医薬製造へ適用する際に、他の生体成分の混入による副作用が問題と成り易い。また、この酵素による方法では、意図する鎖長のグリコサミノグリカンを得ることができず、実際に得られるものは殆ど2個の構成糖からなるものであった。また、修飾基、及び立体構造は、基本的に生体内から採取されるグリコサミノグリカンによって決定されるという制限もあった。
【0016】
他方、不純物の混入がなく、意図する鎖長、意図する位置にある修飾基、及び/又は意図する立体構造を有するグリコサミノグリカンを得る方法として、化学的な合成方法が注目されている。
【0017】
例えば、前記JP特開平5−178876号には、D−ガラクトサミン誘導体とD−グルクロン酸誘導体とをグリコシル結合を介して相互に逐次結合して、これら基本2糖単位の繰り返しからなる2〜8個のオリゴ糖を製造する方法が開示されている。
しかし、この方法は、単糖を逐次結合させる度に保護基による保護及びその離脱の工程を要するにも拘らず、4個以上の構成糖からなるグリコサミノグリカンを高収率で得るための配慮は何らなされていない。実際、同文献には、4個以上の構成糖からなるグリコサミノグリカンの製造を実証する例は何ら記載されていない。また、この文献には、特定の位置の水酸基を選択的に硫酸化する方法についても何ら開示されていない。
【0018】
これに対して、本発明者らは、アジド化した2個の構成糖からなる糖供与体を、同じくアジド化した2個の構成糖からなる糖受容体と、ルイス酸であるBF・OEtの存在下で反応させることで、還元末端グルクロン酸型4糖コンドロイチン硫酸を得る方法を報告している(Carbohydrate Research 305(1998)43−63及びBioorganic & Medicinal Chemistry Letters,Vol.5、No.13,pp.1351−1354,1995)。
【0019】
この方法は、上記特許公報に開示の方法における問題を解決し、還元末端グルクロン酸型4糖コンドロイチン硫酸を50%の収率で得られるものである。
【0020】
もっとも、これら文献に記載の製造方法では、5個以上の構成糖からなるアセチルガラクトサミンを合成する場合、アジド基をアセトアミド基に変換できず、5以上の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型コンドロイチン硫酸を合成することが困難であった。
【0021】
また、Carbohydrate Research 326(2000)88−97には、グリコサミノグリカンの意図する水酸基を選択的に硫酸化する方法が開示されている。しかし、同文献の方法は、N−アシルガラクトサミンをその4位又は6位の何れかで硫酸化する方法であり、4位及び6位の両方を選択的に硫酸化できるものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上述の従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、4個以上、特に5個以上の構成糖からなる意図する鎖長及び構造のオリゴグリコサミノグリカンを、高収率、高純度で、高い立体選択性をもって製造できる方法を提供することを目的とする。また本発明は、この本発明の製造方法により初めて得られる、5以上の意図する数の構成糖からなる高純度の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸及びこれを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記Carbohydrate Research 305(1998)43−63に記載の製造方法について検討した。それで、本発明者らはアセトアミド化した構成糖からなる糖供与体及び糖受容体を用い、更に、プロモーターとして、当該糖供与体及び糖受容体に対するカウンターイオンとなるルイス酸、例えばトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル又はその類似化合物を用いることで、4以上の構成糖からなる意図する鎖長のオリゴグリコサミノグリカンを、高収率、高純度で製造し得ることを見出した。かくして、この知見により本発明を完成するに到った。
【0024】
すなわち、本発明は、(A)グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付加され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、還元末端にグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体を持つ糖供与体を、グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基が保護されている、非還元末端にN−アシルガラクトサミン誘導体を持つ糖受容体と、プロモーターとして、当該糖供与体に対するカウンターイオンとして存在するルイス酸、例えば後記一般式(1):
【化1】


によって表される化合物の存在下、グリコシル化反応に供する工程を含むことを特徴とする、オリゴグリコサミノグリカンまたはその特有のグリコシル化反応工程中に得られる特徴的な中間体の製造方法を提供するものである。
【0025】
本発明はまた、好適な一実施形態において、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付加され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体、或いはグリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体(通常2から10の構成糖からなる)を含有する糖供与体を;グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている非還元末端のグルクロン酸若しくはイズロン酸の誘導体、或いはグリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸若しくはイズロン酸の誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体からなる糖受容体と;前記プロモーターの存在下でグリコシル化反応に供する工程(A)を含むことを特徴とする、オリゴグリコサミノグリカン又はその中間体の製造方法を提供する。
【0026】
本発明の製造方法は、好適な一実施形態において、上記(A)工程に加え、前記(A)の工程で得られたオリゴ糖誘導体の非還元末端における1個の保護基を脱離する工程(B)と、当該1個の保護基を脱離したオリゴ糖誘導体を、前記プロモーターの存在下、前記糖供与体、好ましくは1又は2個の構成糖からなる前記糖供与体と、グリコシル化反応に供する工程(C)とを含む。また、当該(B)及び(C)の工程を、1から8回の所定の回数繰り返すことで、5以上の構成糖からなる意図する鎖長のオリゴグリコサミノグリカンを製造することができる。高収率化の点では、当該(B)及び(C)の工程を1〜5回繰り返すことで、意図する鎖長のオリゴグリコサミノグリカンを製造することが好ましい。
本発明の製造方法では、目的とするオリゴグリコサミノグリカンに応じて前記糖供与体及び糖受容体を選択すればよい。例えば、還元末端グルクロン酸型オリゴグリコサミノグリカン若しくはその誘導体を製造する場合には、糖供与体として、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体、或いは全水酸基が保護されているN−アシルガラクトサミン誘導体と、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体(通常、2から10の構成糖からなる)を用いることができる。
【0027】
より具体的には、オリゴコンドロイチン又はその誘導体を製造する場合には、下記一般式(2)又は(2’):
【化2】


で表される1又は2の構成糖からなる糖供与体を用いることができる。
【0028】
同様に、還元末端グルクロン酸型オリゴグリコサミノグリカン又はその誘導体を製造する場合には、糖受容体として、グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体、或いはグリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているN−アシルガラクトサミン誘導体と、全水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体(通常、2から10の構成糖からなる)を用いることができる。
【0029】
より具体的には、オリゴコンドロイチン又はその誘導体を製造する好適な実施の形態においては、下記一般式(3):
【化3】


で表される2個の構成糖からなる糖供与体を用いることができる。
【0030】
また、本発明で用いられるプロモーターは、前記一般式(1)中、R、R及びRが、同一又はそれぞれ独立して、水素原子であるか、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である前記一般式(1)によって表される化合物が好ましい。例えばトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)等、当該アルキル基の炭素数が5以下の化合物が特に好ましい。
【0031】
本発明の製造方法は、通常、前記(A)又は(C)工程で得られたオリゴ糖の全保護基を脱離させる工程を含む。また、目的に応じて、前記(A)又は(C)工程で得られたオリゴ糖の全保護基を脱離させる工程とともに、4位及び/又は6位で各N−アセチルグルコサミンを選択的に硫酸化する工程を含ませることもできる。言うまでもないが、これらの保護基脱離工程及び/又は硫酸化工程は、前記(A)又は(C)工程と切り離して、異なる者が行い得る。
【0032】
好適な一実施形態において、本発明は、前記(A)又は(C)工程で得られたオリゴ糖誘導体の各N−アシルガラクトサミンにおける4位及び6位の水酸基をベンジリデン、アルコキシベンジリデン及び/又はシクロヘキシリデンで保護し、オリゴ糖非還元末端の構成糖における4位及び6位以外の位置にある水酸基をピバロイル基で保護し、4位及び6位の水酸基を保護させたベンジリデン、アルコキシベンジリデン及び/又はシクロヘキシリデンを脱離し、その後、脱保護された4位及び6位の水酸基を硫酸化することにより、各N−アシルガラクトサミンにおける4位及び6位を選択的に硫酸化する工程を含むことができる。
【0033】
本発明はまた、本発明の製造方法の工程中に生じる特徴的な構造を有する、下記一般式(4’):
【化4】


によって表されるオリゴグリコサミノグリカンの中間体をも包含するものである。
【0034】
本発明はさらに、上記本発明の製造方法により得られる、新規の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン、還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、還元末端イズロン酸型オリゴコンドロイチン又は還元末端イズロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、或いはそれらの塩又は誘導体(以下、「還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等」と略記することがある)を提供する。
【0035】
具体的には、本発明は、下記一般式(4):
【化5】


で表わされる、還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等を提供する。
【0036】
本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等においては、CD44に対するシェディング誘導能の点で、後記一般式(4)中、少なくともR14及びR15の何れか1つが任意にナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、アンモニウム、バリウム及びリチウムからなる群から選択される何れか1つで置換されている硫酸基である一般式(4)によって表される化合物が好ましく、R14及びR15のいずれも任意にナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、アンモニウム、バリウム及びリチウムからなる群から選択される何れか1つで置換されている硫酸基である一般式(4)によって表される化合物が特に好ましい。また、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等は、効率的な生産及びCD44に対するシェディング誘導能の点で、上記一般式(4)中、nが3〜6である一般式(4)によって表される化合物が好ましい。
【0037】
また、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等は、他の生体成分である脂質、蛋白等の不純物は全く含有していない。
【0038】
本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等は、CD44に対するシェディング誘導能に関し高い活性を有するため、CD44分子によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防するための活性成分として使用することができる。
【0039】
かくして、本発明は、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等と、製剤上許容される担体とを含有する、CD44分子によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防するための、医薬組成物も提供するものである。
【0040】
また、本発明によれば、CD44分子の作用によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防する医薬組成物の製造のための、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)の使用も提供される。
【0041】
更に、本発明によれば、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等を対象に投与する、CD44分子の作用によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の製造方法は、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体を末端に持つ糖供与体を、グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基が保護されているN−アシルガラクトサミン誘導体を末端に持つ糖受容体と、特定のルイス酸型のプロモーターの存在下、グリコシル化反応に供する工程(A)を含むものである。
【0043】
また、本発明の製造方法は、その好適な一実施形態において、更に前記(A)の工程で得られたオリゴ糖誘導体の非還元末端における保護基を脱離する工程(B)と、非還元末端にフリーの水酸基を持つ当該オリゴ糖誘導体を、前記プロモーターの存在下、前記糖受容体とグリコシル化反応させる工程(C)とを含み、この工程(B)及び(C)を1から8回の意図する回数を繰り返すものである。
【0044】
以下、本発明の一実施形態における反応スキームを示す図1〜5並びに図11を参照しながら、各工程について具体的に説明する。図1〜5並びに図11は、代表的な例として、後述する5又は6の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型コンドロイチン硫酸を得るための反応スキームを示すものである。従って、本発明は、これらの図面によって何ら制限されるものではない。他のオリゴグリコサミノグリカンを製造する場合には、目的とするオリゴグリコサミノグリカンに応じて、適宜、対応する糖供与体、糖受容体及び保護基が選択されるものと理解されるべきである。
【0045】
以下で述べる本発明においては、「アルキル」、「アルケニル」、「アラルキル」、「アルコキシ」、「アリール」、「アルキリデン」、「アシル」及び「エーテル」の基は、それぞれ、通常、以下に記載する数の炭素原子を有する:
アルキル基:通常1から10、好ましくは1から7、より好ましくは1から5;
アルケニル基:通常2から10、好ましくは1から7、より好ましくは1から5;
アラルキル基:通常6から30、好ましくは7から20、より好ましくは6から15;
アルコキシ基:通常1から10、好ましくは1から7、より好ましくは1から5;
アリール基:通常5から20、好ましくは6から15、より好ましくは6から13;
アルキリデン基:通常1から10、好ましくは1から7、より好ましくは1から5;
アシル基:通常1から20、好ましくは1から10、より好ましくは2から7;及び
エーテル基:通常2から20、好ましくは2から10、より好ましくは2から7。
【0046】
(A)アセトアミド化した糖供与体と糖受容体とのグリコシル化
(A−1)糖供与体
図1及び図11に示すように、本発明で用いられる糖供与体は、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基(図1及び図11中、Imで示す)が付加され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護(図1及び図11中、P2−P6及びP6’で示す)されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体を還元末端に有するものであればよい。また、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基(図11中、Imで示す)が付加され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護(図11中、P2−P5’で示す)されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体、或いはグリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基(図1中、Imで示す)が付加され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護(図1中、P2−P6及びP6’で示す)されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体(通常、2から10の構成糖からなる)が好ましい。
【0047】
このようなアセトアミド化した構成糖からなる糖供与体を用いることで、4糖以上に伸長させた時にアセトアミド化することから生じる低収率の問題を回避することができる。
【0048】
本発明で用いられる糖供与体は、その他の点では特に制限はなく、目的とするオリゴグリコサミノグリカンの種類に応じて選択すればよい。
【0049】
例えば、オリゴコンドロイチン硫酸を製造する場合には、糖供与体は、還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がイミデート化されており、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸誘導体、或いは還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がイミデート化されており、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体を含んでよい。
【0050】
同様に、デルマタン硫酸を製造する場合には、糖供与体は、非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がイミデート化されており、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているイズロン酸誘導体、或いは非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がイミデート化されており、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とイズロン酸誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体等を含んでよい。また、ケタラン硫酸を製造する場合には、非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がイミデート化されており、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているガラクトース誘導体、或いは非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がイミデート化されており、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とガラクトース誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体を含んでよい。
【0051】
これら糖供与体の保護基としては、例えば、メチル及びエチル等のアルキル基、ベンジル及びメチルベンジル等のアラルキル基、p−メトキシベンジル等のアルコキシベンジル基、トリフェニルメチル等のトリフェニルアルキル基、アリル等のアルケニル基、ハロゲン、チオメチル基等のチオアルキル基、イソプロピリデン等のアルキリデン基、ベンジリデン及びアルコキシベンジリデン(例えば、p−メトキシベンジリデン)等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたベンジリデン基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシクロヘキシリデン、ベンゾイル、アセチル及びモノクロロアセチル等のハロゲンで任意に置換されたアシル基、スルホニル基、又はアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル若しくはシリルエーテル基等を含むことができる。
【0052】
本発明においては、グリコシル化反応による伸長、及び選択的な硫酸基の付加等により、所望の構造の化合物が得られるように、その目的化合物に応じて、適当に、保護基、置換基を設計することが望ましい。
【0053】
例えば、後の追加の糖供与体とのグリコシル化反応に付する位置の保護基(例えば、図1のP5)は、グリコシル化に先立って所望の位置の保護基のみを脱離できるように、ハロゲンで任意に置換されたアセチル基、アリル等のアルケニル基、アシル基、アラルキル基、又はトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基が好ましく、特にモノクロロアセチル、p−メトキシベンジル又はレブリノイルが好ましい。
【0054】
また、安定なカルボカチオンオルトエステル構造を有する反応中間体を経由させて所望の最終生産物を高収率で得るためには、糖供与体の2位の水酸基を電位供与置換基、例えばアシル基で保護することが好ましく、特にオルトエステルカルボカチオンの共役系が長く、安定なカチオン構造を取り易い、アルキル基又はアルコキシ基で任意に置換されたベンゾイル基で保護することが好ましい(図1及び11中、2位の保護基をP2で示す)。
【0055】
そのような任意に置換されているベンゾイル系の置換基としては、ベンゾイル、メチルベンゾイル、エチルベンゾイル、プロピルベンゾイル、ジメチルベンゾイル、メトキシベンゾイル、エトキシベンゾイル及びジメトキシベンゾイル等があり、中でもメトキシベンゾイルが好ましい。
【0056】
さらに、各N−アシルガラクトサミンの4位及び6位(図1中、4位及び6位の保護基をP6及びP6'で示す)で選択的に硫酸化を行なわせるためには、これらの位置をベンジリデン、p−メトキシベンジリデン等のアルコキシベンジリデン、又はシクロヘキシリデンで保護しておくことが好ましい。
【0057】
また、製造工程全般に亘って、特定の位置を保護する場合には、メチル等のアルキル基、ベンジル及びメチルベンジル等のアラルキル基、トリフェニルメチル等のアルキル芳香族基、p−メトキシベンジル基等のアルコキシベンジル基、アリル等のアルケニル基、又はベンゾイル、アセチル及びモノクロロアセチル等のハロゲンで任意に置換されているアシル基を保護基として使用することが好ましい。これら保護基は、当業者に周知の方法により形成することができる。
【0058】
本発明で用いられる糖供与体の好適な例として、後述する還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸を製造するために用いられる糖供与体を下記一般式(2)及び(2’)に示す。
【化6】

【0059】
一般式(2)および(2’)中、R及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、任意にハロゲンで置換されたアセチル基、アルキル基、アリル等のアルケニル基、任意にハロゲンで置換されたアシル基及びフタロイル基からなる群より選択され、好ましくはアセチル、ハロアセチル、ベンゾイル及びフタロイルからなる群より選択される。
【0060】
Imは、任意にハロゲンで置換されたイミドイル基であり、好ましくはトリクロロアセトイミドイル、トリフルオロアセトイミドイル及びアセトイミドイルからなる群から選択される脱離基である。
【0061】
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、好ましくはベンジル、アルキルベンジル、トリフェニルアルキル及びシリルからなる群から選択される。
【0062】
は、アルキル基、アリル等のアルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、好ましくはベンジル、アルキルベンジル及びハロアルキルからなる群から選択される。
【0063】
及びP5’は、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたベンジル基、アリル等のアルケニル基、任意にハロゲンで置換されたアセチル等の任意にハロゲンで置換されたアシル基、アラルキル基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、好ましくはモノクロロアセチル、p−メトキシベンジル及びレブリノイルからなる群から選択される。
【0064】
また、P及びP6’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され、好ましくはベンジル、ベンジリデン及びシリルからなる群から選択される。
【0065】
上記糖供与体の具体的な例としては、メチル(2−アセトアミド−4,6−O−ベンジリデン−2−デオキシ−3−O−レブリノイル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1−>4)−2,3−ジ−O−(4−メチルベンゾイル)−1−O−トリクロロアセトイミドイル−α−D−グルコピラヌロネート並びにメチル2,3−ジ−O−(4−メチルベンゾイル)−1−O−トリクロロアセトイミドイル−α−D−グルコピラヌロネート等がある。
【0066】
このような糖供与体は、従来知られている方法で得ることができ、例えば、参照により本明細書に組み込まれるCarbohydrate Research 305(1998)43−63に記載の方法で得ることができる。
【0067】
(A−2)糖受容体
図1および図11に示すように、本発明において用いられる糖受容体は、グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基が保護されているN−アシルガラクトサミン誘導体(1個の構成糖からなる場合には、グルクロン酸又はイズロン酸の誘導体)を末端に有するものであればよい。そのような糖受容体は、非還元末端の構成糖におけるグリコシル化に付する水酸基がフリーであり(図1中、N−アシルガラクトサミン誘導体の3位の水酸基がこれに相当する)、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護(図1及び11中、保護基をP7−P11及びP11’で示す)されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体との基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体(通常は、2から10の構成糖からなる)、或いは非還元末端のグリコシル化に付する水酸基がフリーであり(図示せず)、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体が好ましい。
【0068】
糖供与体と同様に、アセトアミド化した構成糖からなる糖受容体を用いることで、4糖以上に伸長させた時にアセトアミド化することより生じる低収率の問題を回避することができる。
【0069】
糖受容体も、その他の点では特に制限はなく、目的とするオリゴグリコサミノグリカンの種類に応じて選択すればよい。
【0070】
例えば、オリゴコンドロイチン硫酸を製造する場合に、糖受容体としては、非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸誘導体、或いは非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体等がある。
【0071】
同様に、デルマタン硫酸を製造する場合に、糖受容体としては、非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているイズロン酸誘導体、或いは非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とイズロン酸誘導体との基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体等がある。また、ケタラン硫酸を製造する場合に、糖受容体としては、非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているガラクトース誘導体、或いは非還元末端の構成糖においてグリコシル化に付するための水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とガラクトース誘導体との基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体等がある。
【0072】
これら糖受容体の保護基としては、例えば、メチル及びエチル等のアルキル基、ベンジル等のアラルキル基、トリフェニルメチル等のトリフェニルアルキル基、アリル等のアルケニル基、ハロゲン、チオメチル等のチオアルキル基、イソプロピリデン等のアルキリデン基、p−メトキシベンジリデン等のアルコキシベンジリデン基及びベンジリデンなどのアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたベンジリデン基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシクロヘキシリデン基、アセチル及びモノクロロアセチル等のハロゲンで任意に置換されたベンゾイル又はアセチルなどのハロゲンで任意に置換されたアシル基、スルホニル基、シリルエーテル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基又はアルケニル基等がある。
【0073】
本発明においては、糖供与体と同様に、その目的化合物に応じて、適当に糖受容体の保護基及び置換基を設計しておくことが望ましい。
【0074】
例えば、還元末端の構成糖におけるアノマー性炭素の位置の水酸基(図1及び11中、そのような水酸基のための保護基はP7で示す)は、p−メトキシフェニル等のアルコキシ芳香族基で保護することが好ましい。
【0075】
同様に、例えば、各N−アシルガラクトサミンの4位及び6位(図1及び11中、4位及び6位の保護基をP11及びP11’で示す)に、選択的に硫酸化を行なわせるためには、これらの位置をベンジリデン;p−メトキシベンジリデン等のアルコキシベンジリデン、又はシクロヘキシリデンで保護することが好ましい。
【0076】
また、製造工程全般に亘って、特定の位置を保護する場合には、メチル等のアルキル基、ベンジル及びメチルベンジル等のアラルキル基、トリフェニルメチル等のアルキル芳香族基、p−メトキシベンジル等のアルコキシベンジル基、アリル等のアルケニル基、例えば、アセチル又はモノクロロアセチル等のハロゲンで任意に置換されたベンゾイル及びアセチルなどのハロゲンで任意に置換されたアシル基を保護基として使用することが好ましい。これら保護基の形成は、当業者に周知の方法により行なうことができる。
【0077】
ここで、本発明で用いられる糖受容体の好適な一実施形態として、後述する還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸を製造するために使用する糖受容体の一例を下記一般式(3)に示す。
【化7】

【0078】
一般式(3)中、R及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、ハロゲンで任意に置換されたアセチル等のハロゲンで任意に置換されたアシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、好ましくはアセチル、ハロアセチル、ベンゾイル及びフタロイルからなる群から選択される。
【0079】
また、Pは、アルキル基、アラルキル基、アリル等のアルケニル基及びアリール基からなる群から選択され、好ましくはフェニル、アルキルフェニル、アルコキシフェニル、ベンジル、アルキルベンジル、アルコキシベンジル、ナフチル及びトリフェニルアルキルからなる群から選択される。
【0080】
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、好ましくはベンジル、アルキルベンジル、トリフェニルアルキル及びシリルからなる群から選択される。
【0081】
また、P10は、ハロゲンで任意に置換されたアルキル基、アリル等のアルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、好ましくはベンジル、アルキルベンジル及びハロアルキルからなる群から選択される。
【0082】
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基、アルケニル基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され、好ましくはベンジル、ベンジリデン及びシリルからなる群から選択され、両者間を架橋するものを含む。
【0083】
上記糖受容体の具体的な例としては、メチル(2−アセトアミド−4,6−O−ベンジリデン−2−デオキシ−β−D−ガラクトピラノシル)−(1−>4)−[4−メトキシフェニル−2,3−ジ−O−(4−メチルベンゾイル)−α−D−グルコピラノシド]ウロナートがある。
【0084】
このような糖受容体は、従来より知られている方法で得ることができ、例えば、参照により本明細書に組み込まれる前記Carbohydrate Research 305(1998)43−63又はBioorganic & Medicinal Chemistry Letters,Vol.5、No.13,pp.1351−1354,1995に記載の方法により得ることができる。
【0085】
(A−3)プロモーター
図1および図11に示すように、本発明においては、上記糖供与体を、上記糖受容体と、これら糖供与体及び糖受容体に作用し得るプロモーターとして使用される、カウンターイオンを有するルイス酸によりグリコシル化反応させる。
【0086】
本発明においては、特に下記一般式(1)で示す化合物をプロモーターとして用いることが好ましい。
【化8】


上記一般式(1)中、R、R及びRは、同一又はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、或いは置換されていないか少なくとも一部の水素原子が置換されている、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基または芳香族基を示し、Tfは、トリフルオロメタンスルフォニル基を示す。
【0087】
上記プロモーターを用いることで、驚くべきことに、従来の方法、すなわちBF・OEtを用いる方法に比べ、20%以上収率を向上させることができる。
【0088】
また本発明の方法は、従来の方法では合成することができなかった、5個以上の構成糖からなるコンドロイチン型糖鎖(アセトアミド型の糖鎖)或いは当該糖鎖に変換可能な糖鎖を合成することができる。
【0089】
上記プロモーターとしては、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸トリエチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸トリプロピルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸ジメチルエチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸トリベンジルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸トリナフチルシリル又はトリフルオロメタンスルホン酸トリベンジルメチルシリルがある。
【0090】
本発明においては、収率の点で、上記一般式(1)中、R、R及びRが、水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である一般式(1)によって表されるプロモーターが特に好ましい。通常、入手が容易であることから、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)を用いる。
【0091】
本発明における当該グリコシル化反応は、通常−40℃〜40℃の温度で、12〜48時間行なう。また、モレキュラーシーブ等の捕捉体により、系内の水及びハロゲン化水素酸等を除去しておくことが好ましい。
【0092】
(B)糖鎖還元末端の構成糖におけるグリコシル化に付する位置の保護基の脱離
本発明の製造方法において更に糖鎖を伸長させる場合、(C)の項で述べる伸長反応に先立って、図2に示すように、上記(A)の工程で得られたオリゴ糖について、グリコシル化に付する位置に存する保護基(例えば図1中のP5)を脱離する工程を行なう。
【0093】
当該脱離工程は、グリコシル化に付する位置の保護基(P5)及びその他の保護基(P2−P4及びP6−P11’)に応じて、好適な脱離反応を選択することにより行えばよい。
【0094】
例えば、グリコシル化に供する位置の保護基(P5)として、レブリノイル、モノクロロアセチル等を用いる場合には、(A)の工程で得られたオリゴ糖を、エタノール/トルエン混合液等の有機溶媒に溶解後、例えばヒドラジン酢酸等と反応させることにより、目的の保護基を脱離することができる。
【0095】
当該脱離反応は、通常0〜60℃で0.5〜5時間行なう。また、通常、保護基を脱離した目的のオリゴ糖を、高収率、高純度で単離するために、反応後、溶媒を留去し、残さをゲル濾過等で精製する。
【0096】
(C)伸長反応
図3に示すように、本発明の一実施形態においては、上記(B)工程によりグリコシル化に供する位置にある保護基(P5)を脱離したオリゴ糖を、更に、(A)工程と同様のプロモーターの存在下、(A)工程と同様の糖供与体とグリコシル化させることにより、5個以上の構成糖を有するオリゴグリコサミノグリカンを製造することができる。
【0097】
本発明においては、この工程においても(A)工程と同様のプロモーター、及び糖供与体を用いるため、構成糖が5個以上の意図する鎖長を有するオリゴグリコサミノグリカンを、高い収率で化学合成することができる。
【0098】
この工程の各種条件は、前記(A)の工程で述べたものと基本的に同様である。
【0099】
本発明の一実施形態においては、前記保護基脱離工程(B)とこの伸長工程(C)を、1から8回の意図する回数繰り返すことで、5個以上の構成糖からなる意図する鎖長のオリゴグリコサミノグリカンを製造することができる。本発明においては、単にこの反応サイクルの回数を決定するだけで目的のオリゴグリコサミノグリカンの鎖長を制御する。従って、停止反応は不要である。また、所望の鎖長を有するオリゴグリコサミノグリカンのみを簡易に得ることができる。もっとも、高い収率を維持して、所望のオリゴグリコサミノグリカンを効率的に製造するためには、保護基脱離工程(B)及び伸長工程(C)を1〜6回繰り返すことが好ましく、1〜5回繰り返すことがより好ましく、1〜4回繰り返すことが特に好ましい。
【0100】
(D)全保護基の脱離、並びに選択的硫酸化
本発明の製造方法は、前記(A)又は(C)工程の後、更に、図4に示すような、これらの工程で得られたオリゴ糖の全保護基(例えば図1中のP2−P11’)を脱離させる工程、或いは前記(A)又は(C)工程で得られたオリゴ糖の全保護基(例えば図1中のP2−P11’)を脱離させる工程と、各構成糖を特定の位置で選択的に硫酸化する工程(例えば、図5及び図11では、4位及び6位の水酸基に結合している硫酸Naを表している)を含ませることができる。
【0101】
前記(A)又は(C)工程で得られたオリゴ糖の保護基の脱離は、従来の方法を利用して行えばよく、前記の保護基の種類に応じて、適切な反応手順により、保護基を脱離することが好ましい。
【0102】
例えば、保護基が、レブリノイルの場合には、(A)又は(C)の工程で得られたオリゴ糖を、エタノール/トルエン混合液等の有機溶媒に溶解後、例えばヒドラジン酢酸等と反応させることにより、目的の保護基を脱離することができる。また、保護基がベンジリデン、アルコキシベンジリデン又はシクロヘキシリデンの場合には、CHCl/メタノール混合液等に、(A)又は(C)の工程で得られたオリゴ糖或いは追加の他の保護基脱離工程に付したオリゴ糖を溶解し、次いで、カンファースルホン酸、酢酸、塩酸等の酸で加水分解することにより、保護基を脱離することができる。
【0103】
また、アセチル、ベンゾイル等のアシル基は、水性テトラヒドロフラン等の溶媒中で、水酸化リチウム及び水酸化ナトリウム等のアルカリを用いた加水分解により除去することができる。
【0104】
(A)又は(B)の工程で得られたオリゴ糖の全保護基を脱離させるとともに、各構成糖における特定位置の水酸基を選択的に硫酸化するには、その他の水酸基を保護しながら硫酸化する位置の保護基のみを選択的に脱離させることにより、硫酸化を行なうことが望ましい。
【0105】
具体的には、例えば、各N−アシルガラクトサミンの4位及び6位で選択的に硫酸化するためには、各N−アシルガラクトサミンの4位及び6位を、ベンジリデン、アルコキシベンジリデン及びシクロヘキシリデンの少なくとも1つで保護し、各グルクロン酸誘導体の総ての水酸基及びカルボキシル基を、アルキル基又はアシル基で保護した糖供与体及び糖受容体を用いて、前記(A)又は(A)〜(C)の工程からなるプロセスを行なう。
【0106】
次いで、(A)又は(C)の工程で得られたオリゴ糖の非還元末端にある構成糖がN−アシルガラクトサミンの場合には、その4位及び6位以外の水酸基をピバロイル基で置換する。
【0107】
例えば、レブリノイル等の保護基をピバロイル基で置換する場合には、レブリノイル基等の保護基を持つオリゴ糖を、エタノール/トルエン混合液等の有機溶媒に溶解後、ヒドラジン酢酸と反応させて、レブリノイル等の保護基を脱離させ、次いで、得られた化合物を、例えばピリジン等に溶解後、塩化ピバロイルと、N,Nジメチルアミノピリジン等の触媒の存在下で、反応させればよい。
【0108】
次いで、ピバロイル化されたオリゴ糖のベンジリデン、アルコキシベンジリデン及び/又はシクロヘキシリデンを脱離させ、N−アシルガラクトサミンの4位及び6位を選択的に脱保護する。
【0109】
例えば、ベンジリデンの脱離は、ジクロロメタン/メタノール混合液等に、硫酸化の対象であるオリゴ糖を溶解し、次いでカンファースルフォン酸、酢酸及び塩酸等の酸で加水分解することにより、実施できる。
【0110】
硫酸化は、例えばN−アシルガラクトサミン構成糖の所望の位置、例えば、上記のように4位及び6位の位置で脱保護された対象オリゴ糖を、ジメチルホルムアルデヒド等の溶媒に溶解し、次いでこのオリゴ糖を例えば三酸化硫黄トリメチルアミン錯体等と反応させて行なえばよい。この反応中の反応温度は、通常0〜100℃であり、反応時間は、通常12〜72時間である。
【0111】
保護基脱離工程の他の事項は、前記した通りである。また、目的のオリゴ糖を、高収率、高純度で単離するために、各工程終了後、溶媒を留去し、残さを例えばゲル濾過等で精製することが好ましい。
【0112】
(E)中間体
次に、以上のような方法により得られる、オリゴグリコサミノグリカンの特徴的中間体について説明する。
【0113】
本発明の中間体の一実施形態は、下記一般式(4’)で表されるものである:
【化9】


[上記一般式(4’)中、
は、アルキル基、アルケニル基、アラリキル基及びアリール基からなる群より選択され、好ましくはフェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ジメチルフェニル、メトキシルフェニル、エトキシルフェニル及びジメトキシルフェニルからなる群から選択され;
は、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され;
は、アルキル基、アリル等のアルケニル基、及びアラルキル基からなる群から選択され;
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され(これらのうち2つの基が架橋して1つになったものも含む);
は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリル等のアルケニル基、アリール基、及び下記一般式(4−1):
【化10】


{式(4−1中、
mは、0から4の整数であり、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
10は、アルキル基、アリル等のアルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され(これらの2つの基が架橋して1つになったものも含む)、
1’は、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、及び下記一般式(4−1’)によって表される化合物からなる群から選択される}
【化11】


(式(4−1’)中、
は、アルキル基、アラルキル基、アリル等のアルケニル基及びアリール基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
10は、アルキル基、アリル等のアルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択される)
によって表される化合物からなる群から選択され;
は、水素原子、アリル等のアルケニル基、アシル基、アラルキル基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及び下記一般式(4−2)によって表される化合物:
【化12】


{式(4−2)中、
λは、0から4の整数であり、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
は、アルキル基、アリル等のアルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
及びP6’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され、
2’は、水素原子、アリル等のアルケニル基、アシル基、アラルキル基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、および下記一般式(4−2’)によって表される化合物からなる群から選択される}
【化13】


(式(4−2’)中、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
は、アリル等のアルケニル基、アシル基、アラルキル基、及びトリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
及びP6’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、トリメチルシリル等のアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択される)
からなる群から選択される]。
【0114】
この中間体は、ルイス酸のカウンターイオンによって安定化されているオルトエステル型中間体及び当該オルトエステル型中間体が更に他の供与体又は受容体のアセトアミド基における酸素原子に結合している中間体である。
【0115】
これらの中間体は、その安定化されたオルトエステル構造により、所望のオリゴグリコサミノグリカン及びその類似体を、高い立体選択性をもって高い収率及び高い純度で得ることを可能にしている。
【0116】
(E)新規オリゴグリコサミノグリカン
次に、上記の化学的合成方法により得られる、本発明の新規オリゴグリコサミノグリカンについて説明する。
【0117】
本発明の新規オリゴグリコサミノグリカンは、還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等に関するものであり、下記一般式(4)で表されるものである。
【化14】


[上記一般式(4)中、
nは、2〜10の整数であり;
は、水素原子または保護基を示し;
〜R11は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子又は保護基を示し;
12及びR13は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリル等のアルケニル基、任意にハロゲンで置換されたアシル基、及びフタロイル基からなる群より選択され、好ましくはそれぞれアセチル、ハロアセチル、ベンゾイル及びフタロイルからなる群より選択され;
14及びR15は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、或いは任意にナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、アンモニウム、バリウム及びリチウムからなる群から選択される1つでその水素原子が置換されている硫酸基又はリン酸基を示し;
16は、水素原子、保護基、又は下記一般式(5)によって表されるグルクロン酸誘導体若しくはイズロン酸誘導体を示す。]
【化15】


{上記一般式(5)中、R17、R18及びR19は、前記一般式(4)のR〜R11と同じであり、R20は、前記一般式(4)のRと同じである}
【0118】
本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等においては、上記式(4)中のR、R〜R11及びR16が示す保護基について特に制限はないが、例えばメトキシフェニル基がある。
また、次に述べるCD44に対するシェディング誘導能の点で、上記一般式(4)中のR14及びR15の少なくとも1つが硫酸基であるものが好ましく、R14及びR15が硫酸基であるものが特に好ましい。
【0119】
また、一般式(4)に表される還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン若しくは還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸またはそれらの誘導体の塩としては、それらの金属塩が好ましく、特にそれらのカリウム及びナトリウム塩が好ましい。
【0120】
本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等は、上記の如く、還元末端は常にグルクロン酸若しくはその誘導体であり、酵素分解による方法では得られない構造を有する。しかも、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等は、生体の他の成分である脂質や蛋白等の混入は全くない。更には、特定の1つの鎖長を有するもののみからなる点でも酵素分解による方法で得られるものとは異なる。
【0121】
更に、前記本発明の製造方法による結果、従来の化学合成法では得られない5個以上の構成糖からなるオリゴコンドロイチン又はその硫酸化物を初めて提供できるものである。この新規のオリゴコンドロイチン又はその硫酸化物は、この分野の研究に大きく寄与するであろう。
【0122】
次に、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等の医薬的応用について説明する。
【0123】
本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等は、CD44分子に対するシェディング誘導能に関し、高い生理活性を有するものである。
【0124】
従って、CD44分子によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防するための、活性成分として用いることができる。
【0125】
具体的には、本発明の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等を、そのまま、CD44分子の関与によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防するための医薬として用いることができる。勿論、本発明によれば、還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン(硫酸)等を製剤上許容される担体等と共に含有する医薬組成物を提供することもできる。
【0126】
本発明の医薬は、CD44分子の関与によって誘発される疾患または症状に広く適用可能であるが、具体的には、例えば慢性関節リュウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、シューグレン症候群、橋本病、アジソン病、又はI型糖尿病等の自己免疫疾患、例えば変形性関節症、乾癬性関節炎、腰痛症、肩関節周囲炎、顎関節症又は腱周囲炎等の関節炎、例えばアレルギー性鼻炎、花粉症、失神、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎又は気管支喘息等アレルギー性疾患、又は癌を改善、治療または予防するため、或いは、免疫調節するため、又は細胞分化若しくは細胞アポトーシスを誘導するために用いることができる。
【0127】
特に、後述する実施例で示すように、N−アシルガラクトサミンの4位及び6位を硫酸化したオリゴコンドロイチン硫酸は、CD44分子に対するシェディング誘導能が大きいため、上記適応症に対する治療効果が大きい。
【0128】
本発明の医薬組成物は、投与形態、剤型について特に制限はなく、経口、径皮、吸収、注射(筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、関節腔内投与、眼内投与及び腹腔内投与)等の投与形態に応じて、製剤化することができる。剤型としては、例えば注射剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、錠剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、吸入散剤、点眼剤、又は眼軟膏剤等がある。成人における1日の投与量は、通常、0.1〜1000mgであるが、患者の体重、症状等によって適宜変更する場合がある。また、本発明の医薬組成物は、賦型剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、又は崩壊剤等の通常用いられる他の成分を含有することができる。また、有効成分として、他の自己免疫疾患治療剤、関節炎治療剤、アレルギー性疾患治療剤、免疫調節剤、細胞分化誘導剤又は細胞アポトーシス誘導剤を含有することもできる。
【0129】
以下、本発明をより詳細に説明するために、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0130】
以下に示す実施例では、各工程に適用した処理または得られた化合物の分析を以下の条件で行なった。
【0131】
(1)旋光度
HORIBA SEPA−200により22±3℃で測定した。
【0132】
(2)H NMR
JEOL ECPにより500MHzで測定した。内部標準にMeSiを用い(重水に対してはt−BuOH=1.23ppm)、化学シフトは、例えば糖残基3のC−1に結合したプロトンを1のごとく表した。
【0133】
(3)シリカゲルクロマトグラフィー
シリカゲルは、和光純薬社製のSilica Gel C−200及びC−300と、関東化学社製のSilica Gel 60N(中性、球状、40−100μm)を使用した。ゲルろ過担体はAmersham Biosciences社製のSephadex LH−20及びLH−60を使用した。
【0134】
(4)モレキュラーシーブス(MS)
モレキュラーシーブスは、GL Science社製のモレキュラーシーブスを使用し、減圧下180℃で乾燥して用いた。
【0135】
(5)薄層クロマトグラフィー
Merk社製のSilicaGelF254を使用し、トルエン/酢酸エチル系溶媒又は酢酸エチル/メタノール系溶媒を用いた。
【0136】
(実施例1)6の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸の合成
β−D−GalNAc−(1→[4]−β−D−GlcA−(1→3)−β−D−GalNAc−(1→)4)−β−D−GlcA−(1→OMP (20)又はβ−D−GalNAc(4,6−di−OSONa)−(1→[4]−β−D−GlcA−(1→3)−β−D−GalNAc(4,6−di−OSONa)−(1→)4)−β−D−GlcA−(1→OMP(21)の製造方法。
【0137】
本実施例の反応工程を、その概略を示す図6−1及び図6−2を参照しながら以下に具体的に説明する。
【0138】
(A)4の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチンの合成
(A−1)糖供与体の調整
【0139】
図6−1中、式(10)で表わされる2個の構成糖からなる化合物は周知であり、[J.Tamura et al.,Carbohydr.Res.,305,43−63(1998)]に記載の方法に従って調製した。簡単に説明すると、単糖の糖供与体と単糖の糖受容体をグルコシル化した後、得られた化合物の保護基をイミデート化することにより得た。
【0140】
式(10)で表される2個の構成糖からなる化合物(172.7mg,0.184mmol)を、アセトニトリル(CHCN,8mL)と水(2mL)の混合液に溶解し、これに、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(CAN,500mg)を加えて、1時間撹拌した。
【0141】
反応終了後、反応液をクロロホルム(CHCl)と飽和食塩水で希釈した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60N、球状、中性,10g,トルエン/酢酸エチル3:2〜1:5または酢酸エチル/メタノール50:1)で精製し、ヘミアセタール化合物(125.7mg)を得た。
【0142】
次いで、得られたヘミアセタール化合物を、ジクロロメタン(CHCl,5mL)で希釈し、トリクロロアセトニトリル(CClCN,0.5mL)を加え、撹拌しながら、0℃で1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(1滴)を加えた。30分後、室温にてCClCN(0.2mL)を添加し、さらに10分間撹拌を続けた。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(C−200,30g,トルエン/酢酸エチル2:1〜1:50)で精製し、式(11)の2糖化合物(131.1mg)を73%の収率で得た(Rf値は、0.58(酢酸エチル/メタノール10:1)であった。)。この化合物はこれ以上精製せず、糖供与体としてグリコシル化反応に使用した。
【0143】
(A−2)糖受容体
図6−1中、式(12)で表される2個の構成糖からなる化合物は周知であり、[J.Tamura et al.,Carbohydr.Res.,305,43−63(1998)]に記載の方法に従って調製した。簡単に説明すると、単糖の糖供与体と単糖の糖受容体をグルコシル化した後、脱保護することにより得た。
【0144】
(A−3)4糖体(式(13)の化合物)の合成
上述した、式(11)で表される糖供与体(1.18g,1.21mmol)と、式(12)で示される糖受容体(858.6mg,1.02mmol)のCHCl(43mL)溶液に、乾燥モレキュラーシーブスAW300(MSAW300(5g))を加え、溶液を室温にて1時間撹拌した。この溶液を−20℃に冷却し、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf,213μL,1.18mmol)を加えた。反応液を徐々に室温にまで上昇させ、1日後、反応液にトリエチルアミンと飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加え、CHClで希釈した。
【0145】
不溶物をろ過し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)とシリカゲルカラムクロマトグラフィー(C−200,30g,トルエン/酢酸エチル2:1〜1:2)で精製し、式(13)の化合物(1.20g,71%)を得た。物性データは、[J.Tamura etal.,Carbohydr.Res.,305,43−63(1998)]で示すデータと一致した。
【0146】
(B)4糖体(式(13)の化合物)のレブリノイル基の除去
上述のようにして得られた式(13)で表される4個の構成糖からなる化合物(71.8mg,43.3μmol)のエタノール/トルエン5:1溶液(5mL)に、ヒドラジン酢酸(40.0mg,434μmol)を加え、溶液を室温にて20分間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)で精製し、以下の物性値を示す式(14)の化合物を収率92%(62.0mg)で得た。
【0147】

【0148】
(C)伸長反応による6糖体(式(9)の化合物)の合成
図6−1中、式(11)で表される化合物(144.3mg,0.148mmol)と式(14)で表される化合物(160.6mg,0.103mmol)のCHCl(7mL)溶液に、MSAW300(700mg)を加え、溶液を室温にて1時間撹拌した。この溶液を−20℃に冷却し、撹拌しつつTMSOTf(19μL,0.11mmol)を加えた。反応液を徐々に室温にまで上昇させ、1日後、反応液にトリエチルアミンと飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加え、溶液をCHClで希釈した。
【0149】
不溶物をろ過し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣をゲルろ過(LH−60,CHCl/メタノール1:1)とシリカゲルカラムクロマトグラフィー(C−300,6g,トルエン/酢酸エチル1:1〜1:5、酢酸エチル/メタノール100:1)で精製し、以下の物性値を有する式(9)の化合物(161.4mg,66%)を得た。
【0150】

【0151】
(D)6糖体(式(9)の化合物)のレブリノイル基の除去
図6−2に示すように、上述のようにして得られた式(9)で表される化合物(30.8mg,13.0μmol)のエタノール/トルエン4:1溶液(2.5mL)に、ヒドラジン酢酸(12.6mg,28.2μmol)を加え、溶液を室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)で精製し、以下の物性値を有する式(15)の化合物(29.9mg)を得た。
【0152】

【0153】
(E)他の保護基(ベンジリデン及びアシル)の除去
上述のようにして得られた式(15)で表される上記化合物(17.8mg,7.82μmol)のCHCl/メタノール1:1溶液(1.6mL)に、カンファースルホン酸(4.2mg)を加え、溶液を室温にて12時間撹拌した。カンファースルホン酸(6.6mg)を追加し、溶液を室温にてさらに24時間撹拌した。反応液に過剰のジイソプロピルエチルアミンを加え、溶媒を減圧留去し、残渣をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)で精製し、式(17)の化合物を収率78%(12.2mg)で得た。
【0154】
H NMRにより式(15)の化合物からベンジリデン基が除去されたことを確認した後、式(17)の化合物(5.4mg)を、テトラヒドロフラン/水15:1溶液(1.6mL)に溶解し、撹拌しながら1.25M水酸化リチウム水溶液(45μL)を0℃で加えた。1時間溶媒を減圧留去し、残渣にメタノール(1.5mL)を加え、この溶液に0.1Mナトリウムメトキシド(0.5mL)を撹拌しながら滴下した。3日後、50%酢酸で反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣をゲルろ過(LH−20,1%酢酸)で精製し、下記式(20)に示す化合物を、収率92%(3.3mg)で得た。
【化16】

【0155】
得られた化合物の物性値を以下に示す。

【0156】
(F)選択的硫酸化(式(21)の化合物の合成)
図6−2に示すように、式(15)で表される化合物(28.7mg,12.6μmol)のピリジン溶液(1.5mL)に、塩化ピバロイル(30μL)と触媒量のN、N−ジメチルアミノピリジンを加え、その溶液を80℃にて3時間撹拌した。塩化ピバロイル(90μL)を追加し、その溶液を80℃でさらに2時間撹拌した。反応液を室温に戻し、過剰のメタノールを加え、反応液をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)で精製して、式(16)の化合物(27.0mg,89%)を得た。
【0157】
次いで、式(16)で表される化合物(8.6mg,3.6μmol)のCHCl/メタノール1:1溶液(1mL)に、カンファースルホン酸(2.9mg)を加え、その溶液を室温にて20時間撹拌した。反応液に過剰のジイソプロピルエチルアミンを加え、溶媒を減圧留去し、残渣をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)で精製して、式(18)の化合物(8.1mg)を得た。
【0158】
次いで、式(18)で表される化合物(8.1mg,3.6μmol)のジメチルホルムアミド溶液(0.5mL)に、三酸化硫黄トリメチルアミン錯体(60mg)を追加し、その溶液を57℃にて22時間撹拌した。三酸化硫黄トリメチルアミン錯体(59mg)を追加し、57℃にてさらに26時間撹拌した。反応液を室温に冷却し、反応液をゲルろ過(LH−20,CHCl/メタノール1:1)とイオン交換樹脂[Dowex 50W(Na)、メタノール/水8:1]で精製し、式(19)の化合物(9.6mg,91%)を得た。
【0159】
最後に、式(19)の化合物(9.6mg)を、テトラヒドロフラン(0.5mL)と水(0.04mL)の混合溶液に溶解し、撹拌しながら1.25M水酸化リチウム水溶液(0.2mL)を0℃で加えた。撹拌を室温で一晩続けた。溶媒を減圧留去し、残渣にメタノール(0.5mL)とCHCl(0.15mL)を加え、この溶液に0.5M水酸化ナトリウム(0.3mL)を撹拌しつつ滴下した。22時間後、50%酢酸で反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣をゲルろ過(LH−20,1%酢酸)で精製し、下記式(21)に示す化合物を収率54%(3.7mg)で得た。
【化17】

【0160】
得られた化合物の物性値を以下に示す。

【0161】
(比較例1)
図7に示すように、上記実施例1のプロモーターに代えてBF・OEtの存在下で、上記実施例1の糖供与体及び糖受容体に代えて図7中式(3)及び(4)で表されるアジド化した糖供与体と糖受容体を用いてグリコシル化反応を行ない、次いで図中の式(6)で表す化合物と糖供与体との伸長反応によって得られた式(8)で表される反応生成物を、酢酸エチル中リンドラー触媒の存在下で水素添加、還元してNアセチル化したこと以外は、上記実施例1と同様にして、6個の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン及びその硫酸化物を製造した。
【0162】
(参考例)
Bio.Med.Chem.Lett.1995;5(13):1351−1354には、上記比較例1の製造方法のLindlar触媒に代え、チオ酢酸を用いた製造方法が提案されている。
【0163】
(結果)
プロモーターとしてトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)を用い、二糖体の段階でアジドの還元を行なった後、各糖鎖ユニットをグリコシド結合させた実施例1の製造方法では、図6−1の式(13)で表される4個の構成糖からなる化合物が71%、式(20)及び(21)で表される6個の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン及び還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸が66%という高い収率で得られた。
【0164】
これに対して、プロモーターとしてBF・OEtを用い、アジドタイプの糖供与体とアジドタイプの糖受容体とをグリコシル化して伸長反応を行ない、4糖体又は6糖体となった段階でアジド基を還元してNアセチル基に変換した比較例1の製造方法では、アジド化した4糖体を還元反応に付した場合の収率が50%であり実施例1より20%以上低かった。また、アジド化した6糖体(6)を還元反応させたところ、Nアセチル基への変換が起こらず目的とする式(9)の化合物は得られなかった。
【0165】
また、参考例の方法では、アジド化した4糖体を還元反応に付したところ、収率は43%であり実施例1の方法に比べ、約30%低かった。
【0166】
(実施例2)5個の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチンの合成
(A)5糖体の調製
【0167】
Methyl(2,3,4−tri−O−acetyl−β−D−glucopyranosyluronate)−(1→3)−(2−acetamido−4,6−O−benzylidene−2−deoxy−β−D−galactopyranosyl)−(1→4)−{methyl 2,3−di−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosyluronate}−(1→3)−(2−acetamido−4,6−O−benzylidene−2−deoxy−β−D−galactopyranosyl)−(1→4)−{4−methoxyphenyl 2,3−di−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosid}uronate(34)の調整
【0168】
(A−1およびA−2)糖供与体および糖受容体
図6−3に示す、糖受容体(31)は、[J.Tamura & M.Tokuyoshi,Biosci.Biotech.Biochem.,68,2436−2443(2004)]に従って調製し、同様に、糖供与体(32)は、[J.−C.Jacquinet,Carbohydr.Res.,199,153−181(1990)]に従って調製した。
【0169】
(A−3)5糖体(式(34)の化合物)の合成
図6−3に示すように、糖受容体(31)(207.4mg,0.133mmol)と、糖供与体(32)(205.6mg,0.430mmol)とのジクロロメタン(8.3mL)溶液に、MSAW300(464mg)を加え、得られた溶液を室温で1時間撹拌した。反応液を−20℃に冷却し、TMSOTf(23μl、0.13mmol、糖供与体(32)に対して0.3当量)をそれに加え、連続的に室温まで温度を上昇させながら1晩撹拌した。反応終了後、セライト濾過を行い、濾液をCHClで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。その後、濾液を濃縮し、ゲル濾過(LH−20,CHCl:MeOH=1:1)にて精製し粗生成物を得た。この生成物をシリカゲルカラム(Hexane:EtOAc=2:1〜1:20〜MeOH:EtOAc=1:80〜1:60)で更に精製し、以下の物性値を有するシロップ状の式(34)の化合物(69.6mg,37.1μmol)を28%の収率で得た。
【0170】

【0171】
TMSOTfを糖供与体(32)に対して0.7当量使用した以外同様に縮合を行った場合には、式(34)の化合物の収率は30%であった。
【0172】
(B)保護基の除去
Methyl(2,3,4−tri−O−acetyl−β−D−glucopyranosyluronate)−(1→3)−(2−acetamido−2−deoxy−β−D−galactopyranosyl)−(1→4)−{methyl 2,3−di−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosyluronate}−(1→3)−(2−acetamido−2−deoxy−β−D−galactopyranosyl)−(1→4)−{4−methoxyphenyl 2,3−di−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosid}uronate(36)の調製
【0173】
化合物(34)(23.9mg,12.7μmol)をジクロロメタン(1.4mL)とメタノール(1.4mL)に溶解し、camphorsulfonic acid(9.8mg)をそれに加え、室温で一晩撹拌した。反応終了後、トリエチルアミンを加えて中和し、トルエンで共沸して溶液を濃縮した。濃縮残渣をゲル濾過(LH−20,CHCl:MeOH=1:1)にて精製し、下記物性値を有する式(36)の化合物(18.2mg,10.7μmol)を84%の収率で得た。H−NMRでベンジリデンが除去されたことを確認し、それ以上精製せず、次の反応に使用した。
【0174】
H−NMR(CDOD,selected)δ7.79−7.65(m,8H,Ph),7.14−7.07(m,8H,Ph),6.76(m,2H,Ph),6.67(m,2H,Ph),3.69,3.66,3.60,3.57(4s,3Hx4,4OMe),2.27,2.26,2.24,2.23(4s,3Hx4,4PhMe),1.92,1.88,1.86,1.85,1.20(5s,3Hx5,3OAc,2NAc).
【0175】
(C)硫酸化
β−D−Glucopyranosyluronic acid−(1→3)−2−acetamido−2−deoxy−4,6−di−O−sulfonate−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranosyluronic acid−(1→3)−2−acetamido−2−deoxy−4,6−di−O−sulfonate−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−4−methoxyphenyl β−D−glucopyranosyluronic acid,tetrasodium salt(38)M=1466.06の調製
【0176】
化合物(36)(18.2mg,10.7μmol)をDMF(1.2mL)に溶解し、SO・MeN(119.2mg)を得られた溶液に加え、溶液を60℃で一晩撹拌した。翌日、60℃に保ったままSO・MeN(119.9mg)を溶液に追加し、さらに溶液を一晩撹拌した。反応終了後、反応液の温度を室温に戻し、溶液をゲル濾過(LH−20,CHCl:MeOH=1:1)にて精製し、Dowex AG50(Na)カラムで硫酸化物(21.2mg,10.1μmol)を94%の収率で溶離した。この硫酸化物をTHF(1.4mL)と水(6drops)に溶解し、氷冷下1.25N LiOH(0.6mL)を溶液に加え、連続的に室温まで温度を上昇させながら一晩撹拌した。反応終了後、溶液を濃縮し、濃縮残渣をメタノール(1.4mL)とジクロロメタン(0.42mL)に溶解し、0.5N NaOH(0.8mL)を加え室温で4時間半撹拌した。反応終了後50% AcOHを加えて溶液を中和し、ゲル濾過(LH−20,1% AcOH)にて精製し、下記物性値を有する式(38)の化合物(9.2mg,6.28μmol)を2工程で59%の収率で得た。
【化18】

【0177】
式(38)の化合物の物性値を以下に示す。

【0178】
(実施例3)5個の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチンの合成(2)
(A)5糖体の調製
Methyl{2,3,4−tri−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosyluronate}−(1→3)−(2−acetamido−4,6−O−benzylidene−2−deoxy−β−D−galactopyranosyl)−(1→4)−{methyl 2,3−di−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosyluronate}−(1→3)−(2−acetamido−4,6−O−benzylidene−2−deoxy−β−D−galactopyranosyl)−(1→4)−{4−methoxyphenyl 2,3−di−O−(4−methylbenzoyl)−β−D−glucopyranosid}uronate(35)の調製
【0179】
(A−1およびA−2)糖供与体および糖受容体
図6−3に示す、糖受容体(31)は、[J.Tamura & M.Tokuyoshi,Biosci.Biotech.Biochem.,68,2436−2443(2004)]に従って調製した。同様に、糖供与体(33)は、[F.Goto & T.Ogawa,Tetrahedron Lett.,33,6841−6844(1992)]に従って調製した。
【0180】
(A−3)5糖体(式(35)の化合物)の合成
図6−3に示すように、糖受容体(31)(110.0mg,70.5μmol)と、糖供与体(33)(101.7mg,144μmol)とのジクロロメタン(4.5mL)溶液にMSAW300(231.6mg)を加え、得られた溶液を室温で1時間撹拌した。
【0181】
反応液を−20℃に冷却後、TMSOTf(23μl、0.13mmol、糖供与体(33)に対して0.7当量)を溶液に加え、溶液を連続的に室温まで温度を上昇させながら1晩撹拌した。反応終了後、セライト濾過を行い、濾液をCHClで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し濾過した。その後、濾液を濃縮し、ゲル濾過(LH−20,CHCl:MeOH=1:1)にて精製し粗精製物を得た。この粗精製物をシリカゲルカラム(Hexane:EtOAc=7:1〜1:5〜MeOH:EtOAc=1:60〜1:20)で更に精製し、シロップ状の下記物性値を有する式(35)の化合物(74.4mg,35.4μmol)を50%の収率で得た。
【0182】

【0183】
TMSOTfを糖供与体(33)に対して0.3当量使用した場合、式(35)の化合物の収率は23%であった。
【0184】
(考察)
(1) 本発明におけるイミデートを用いるグリコシル化反応では、イミドイルオキシ基が脱離して糖供与体の1位にカチオンが生じる。このカチオン中間体と糖受容体のフリーの水酸基が結合、即ちグリコシル化反応を生じる。実施例1のプロセスで高収率となったのは、プロモーターとしたトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)がカチオン中間体とイオンペアを形成して不安定なカチオン中間体を安定化し、その分解を抑制したためと考えられる。従って、前記一般式(1)に包含される化合物であれば、同様の効果を有することが期待できる。
【0185】
また、糖供与体としてアセトアミドタイプの2糖ユニットを用いたことも高収率化に大きく貢献していると考えられる。
【0186】
(2)上記実施例1の(11)+(14)――>(9)の反応において、反応物を薄層クロマトグラフィーで展開したところ、反応開始当初は、主にそれぞれRf=0.07,0.38,0.49,0.62及び0.78のスポットが確認されたが、反応終了時には、これらのスポットがRf=0.41のスポットに収束した。
【0187】
通常、グルコシル化反応は、糖供与体が分解してマルチスポットを呈することはあるが、その場合には、これらのスポットは収束しない。したがって、この結果は、本発明の実施例における反応が、複数の中間生成物を経由して目的の縮合物を生じることを示す。
【0188】
この点、図12に示すように、ルイス酸の存在下でグルコシル化反応を生じさせた場合には、通常、糖供与体のイミドイル基が活性化され、潜在的なカチオンとなった糖供与体の1位の炭素原子を糖受容体が攻撃して、両者が縮合するか(経路A)、糖供与体の2位の水酸基がアシル基で保護されている場合には、活性化された糖供与体の1位の炭素原子をアシル基のカルボニル酸素が攻撃して反応中間体(II)を形成し、この中間体(II)の1位の炭素原子を糖受容体の酸素原子が攻撃して両者が縮合すると考えられる(経路C)。
【0189】
しかし、この両経路では、本発明の実施例における上記マルチスポット現象並びにその後の収束現象及びβ選択性を説明することができず、上記(11)+(14)――>(9)の反応では、上記経路A及びCとは異なる反応経路の存在が示唆された。
【0190】
本発明者は、この現象に関し、本発明の実施例における反応が、図12に示す経路Dを経由すると考えている。すなわち、本発明の方法においては、糖受容体のアセトアミド基の酸素原子が中間体IIのオルトエステル炭素原子を攻撃して、反応中間体IIIを形成し、この反応中間体IIIの1位の炭素原子を、糖受容体の酸素原子が攻撃して、目的とするβ選択的縮合物が合成されていると予想される。
【0191】
この予想される反応機構は、上記マルチスポット現象並びにそのマルチスポットが収束していく現象と合致している。即ち、マルチスポット現象は、糖供与体と糖受容体で3つのアセトアミドが存在し、反応中間体IIIのサブグループが多数存在するためと考えられる。またその後の収束は、反応中間体IIIと糖供与体との縮合によるβ選択的縮合物の生成により説明することができる。
【0192】
また、上記反応経路(D)を経由する場合、糖供与体の1位の炭素原子は立体制御を受け、反応中間体IIは、オルトエステルのない側からしか攻撃を受けない。本発明により得られる最終生成物がこの経路を経由するという事実は、実施例1及び3でβグルコシドのみが得られた結果と整合する。
【0193】
また、実施例2及び3より、糖供与体の2位がベンゾイル系の置換基で保護された場合では、アセチル系の置換基で保護された場合に比べ、収率が著しく改善されることが証明された(式35の化合物は、収率50%であるのに対して、式34の化合物は収率30%である)。この結果は、糖供与体の2位をアセチル基で保護した場合に比べ、ベンゾイル系の置換基で保護した場合の方が中間体IIのオルトエステル型カルボカチオンの共役系が長く、より安定である、という事実と整合する。
【0194】
(実施例4)
合成オリゴ糖によるCD44シェディング誘導
実施例1で得られた式(20)及び(21)の化合物について、癌細胞におけるCD44シェディング誘導能を、図8に示す試験方法に従って評価した。
【0195】
<試験結果>
図9及び10に示すように、硫酸化されていない6個の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型コンドロイチンであっても、CD44のシェディングが誘導された。また、N−アシルガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されている6の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型コンドロイチン硫酸Eによって、還元末端グルクロン酸型コンドロイチンよりも強くCD44のシェディングが誘導された。
【0196】
このことから、還元末端グルクロン酸型コンドロイチン硫酸Eの幹をなす還元末端グルクロン酸型コンドロイチン主鎖自体が、CD44シェディング誘導能に関与していることが実証された。またこのことから、還元末端グルクロン酸型コンドロイチン主鎖上の硫酸基も、CD44シェディングの誘導に関与していることが実証された。
【0197】
なお、CD44分子が、広く様々な疾患に関与することは既に知られている。従って、本発明の6個以上の構成糖からなる還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸が、その高いCD44シェディング誘導能に基づき、CD44分子が関与する疾患及び症状で有効であることは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0198】
以上説明したように、本発明によれば、4個以上、特に5個以上の構成糖からなる意図する鎖長及び構造のオリゴグリコサミノグリカンを、高い立体選択性で高収率、高純度で製造できる簡易な方法を提供することができる。また本発明によれば、5個以上の意図する数の構成糖からなる高純度の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸及びこれを含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】図1は、本発明の製造方法の一実施形態における(A)工程の概略を示す反応式である。
【図2】図2は、本発明の製造方法の一実施形態における(B)工程の概略を示す反応式である。
【図3】図3は、本発明の製造方法の一実施形態における(C)工程の概略を示す反応式である。
【図4】図4は、本発明の製造方法の一実施形態における保護基脱離工程の概略を示す工程図である。
【図5】図5は、本発明の製造方法の一実施形態における選択的硫酸化の工程の概略を示す工程図である。
【図6−1】図6−1は、実施例1の製造方法の概略を示す工程図である。
【図6−2】図6−2は、実施例1の製造方法の概略を示す工程図である。
【図6−3】図6−3は、実施例2及び3の製造方法の概略を示す工程図である。
【図7】図7は、比較例1の製造方法の概略を示す工程図である。
【図8】図8は、実施例2で行なった試験方法の概略を示す工程図である。
【図9】図9は、実施例4で行なった試験の泳動結果を示す泳動写真のコピーである。
【図10】図10は、実施例4で行なった試験におけるCD44シェディング指数を示すグラフである。なお、CD44シェディング指数は、無刺激の状態を1として求めた。
【図11】図11は、本発明の製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図12】図12は、本発明の一実施形態における反応機構の概要を示す反応式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体を還元末端に有する糖供与体(A−1)を、
グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基が保護されているN−アシルガラクトサミン誘導体を非還元末端に有する糖受容体(A−2)と、
プロモーターとして、該糖供与体の脱離基に対する活性化剤であるルイス酸(A−3)の存在下で、グリコシル化反応させる工程を含むことを特徴とする、オリゴグリコサミノグリカンまたはその中間体の製造方法。
【請求項2】
前記中間体が、下記一般式(4’)によって示される化合物である、請求項1の方法:
【化1】


[上記一般式(4’)中、
は、アルキル基、アルケニル基、アラリキル基及びアリール基からなる群より選択され;
は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され;
は、アルキル基、アルケニル基、及びアラルキル基からなる群から選択され;
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され(これらのうち2つの基が架橋して1つになったものも含む);
は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、及び下記一般式(4−1):
【化2】


{上記式(4−1)中、
mは、0〜4の整数であり、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
10は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され(これらのうち2つの基が架橋して1つになったものも含む)、
1’は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、及び下記一般式(4−1’)によって表される化合物からなる群から選択される}
【化3】


(式(4−1’)中、
は、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基及びアリール基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
10は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択される)
によって表される化合物からなる群から選択され;
は、水素原子、アルケニル基、アシル基、アラルキル基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及び下記一般式(4−2)に示される化合物:
【化4】


{式(4−2)中、
λは、0から4の整数であり;
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され;
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され;
は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され;
及びP6’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択され;
2’は、水素原子、アルケニル基、アシル基、アラルキル基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、および下記一般式(4−2’)で表される化合物からなる群から選択される}
【化5】


(式(4−2’)中、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
は、アルケニル基、アシル基、アラルキル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
及びP6’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択される)
からなる群から選択される]。
【請求項3】
前記プロモーターが、下記一般式(1)により示される化合物である、請求項1又は2に記載の方法:
【化6】


[上記一般式(1)中、R、R及びRは、同一又はそれぞれ独立して、置換されていないか少なくとも1つの水素原子が置換されている、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基または芳香族基を表し、Tfは、トリフルオロメタンスルフォニル基を示す]。
【請求項4】
前記糖供与体が、グリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体、或いはグリコシル化に付する還元末端の水酸基に脱離基が付与され、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体であり、
前記糖受容体が、グリコシル化に付する非還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されているグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体、或いはグリコシル化に付する還元末端の水酸基がフリーであり、その他の水酸基及びカルボキシル基が保護されている、N−アシルガラクトサミン誘導体とグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体とからなる基本2糖単位を基本構成単位として有するオリゴ糖誘導体である、請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記(A)の工程の後、更に
(B)前記(A)の工程で得られたオリゴ糖誘導体の非還元末端における1つの保護基を脱離し、
(C)該1つの保護基を脱離したオリゴ糖誘導体を、前記プロモーターの存在下、前記糖受容体と、グリコシル化反応させる工程を、
1から8回の任意の回数繰り返して行なう、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記糖供与体が、下記一般式(2):
【化7】


[上記一般式(2)中、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基及びフタロイル基からなる群より選択され、
Imは、任意にハロゲンで置換されたイミドイル基であり、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
は、アルケニル基、アシル基、アラルキル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
及びP6’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択される]
によって表されるコンドロイチン誘導体であり;
前記糖受容体が、下記一般式(3):
【化8】


[上記一般式(3)中、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
は、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基及びアリール基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基及びアシル基からなる群から選択され、
10は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択される(これらのうち2つの基が架橋して1つになったものを含む)]
によって表される還元末端グルクロン酸型コンドロイチン誘導体である、請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記糖供与体が、下記一般式(2’):
【化9】


[上記一般式(2’)中、
Imは、任意にハロゲンで置換されたイミドイル基であり、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択され、
は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
は、アルケニル基、アシル基、アラルキル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基からなる群から選択される]
によって表されるコンドロイチン誘導体であり;
前記糖受容体が、下記一般式(3):
【化10】


[上記一般式(3)中、
及びRは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群から選択され、
は、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基及びアリール基からなる群から選択され、
及びPは、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基及びアシル基からなる群から選択され、
10は、アルキル基、アルケニル基及びアラルキル基からなる群から選択され、
11及びP11’は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アルキル基若しくはアルコキシ基で任意に置換されたシリル基、及びアルキリデン基からなる群から選択される(これらのうち2つの基が架橋して1つになったものを含む)]
によって表される還元末端グルクロン酸型コンドロイチン誘導体である、請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記糖供与体におけるグルクロン酸又はイズロン酸の誘導体の2位の置換基が、オルトエステルを安定化させるアシル基で保護されている請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
、R及びRが、それぞれ独立して、水素原子であるか、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である、請求項3から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロモーターが、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)である、請求項1から9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(B)及び(C)の工程を1〜5回繰り返す、請求項1から10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
(D−1)更に、前記(A)又は(C)の工程で得られたオリゴ糖誘導体の全保護基を脱離させる工程を含む、請求項1から11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
(D−2)更に、前記(A)又は(C)の工程で得られたオリゴ糖誘導体の全保護基を脱離させ、各N−アシルガラクトサミンを4位及び6位で選択的に硫酸化する工程を含む、請求項1から11の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記糖供与体が、前記一般式(2)又は(2’)によって表される化合物であり、前記糖受容体が、前記一般式(3)によって表される還元末端グルクロン酸型コンドロイチン誘導体であり、
前記(A)又は(C)の工程で得られたオリゴ糖誘導体が、その非還元末端にN−アシルガラクトサミン誘導体を有する場合には、該非還元末端のN−アシルガラクトサミン誘導体の4位及び6位以外の水酸基をピバロイル基で保護し、
各N−アシルガラクトサミン誘導体の4位及び6位を保護する基を脱離し、
該脱保護したオリゴ糖を硫酸化して、各N−アシルガラクトサミンにおける4位及び6位を選択的に硫酸化する、請求項1から11及び13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記保護基が、ベンジリデン、アルコキシベンジリデン又はシクロヘキシリデンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
下記一般式(4’)によって表される、オリゴグリコサミノグリカン中間化合物:
【化11】


[上記一般式(4’)中、R、P、P、P11、P11’、G及びGは、請求項2に定義する通りである]
【請求項17】
下記一般式(4)で表される、還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン若しくは還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、またはそれらの塩若しくは誘導体:
【化12】


[上記一般式(4)中、
nは、2〜10の整数であり;
は、水素原子または保護基を表し;
〜R11は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子又は保護基を表し;
12及びR13は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、及びフタロイル基からなる群より選択され;
14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子、或いは任意にナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、アンモニウム、バリウム及びリチウムからなる群から選択されるいずれか1つで置換されている硫酸基又はリン酸基を表し;
16は、水素原子、又は下記一般式(5)で表されるグルクロン酸誘導体若しくはイズロン酸誘導体を示す]
【化13】


{上記一般式(5)中、
17、R18及びR19は、同一又はそれぞれ独立して、水素原子又は保護基、或いはナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、アンモニウム、バリウム又はリチウムを表し、
20は、水素原子または保護基を示す}。
【請求項18】
前記一般式(4)において、R14及びR15が、任意にナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、アンモニウム、バリウム及びリチウムからなる群から選択される1つで置換されている硫酸基である、請求項17に記載の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、またはその塩若しくは誘導体。
【請求項19】
nが、3〜6である、請求項17又は18に記載の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン若しくは還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、またはそれらの塩若しくは誘導体。
【請求項20】
請求項17から19の何れか1項に記載の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン及び還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、並びにそれらの塩及び誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、製剤上許容される担体とを含有する、医薬組成物。
【請求項21】
CD44分子によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防するための、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
自己免疫疾患、関節炎、アレルギー性疾患又は癌を治療するため、或いは免疫の調節、細胞分化の誘導又は細胞アポトーシスの誘導のために用いられる請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
CD44分子によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防する医薬組成物の製造のための、請求項17から19の何れか1項に記載の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン若しくは還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、またはそれらの塩若しくは誘導体の使用。
【請求項24】
請求項17から19の何れか1項に記載の還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン若しくは還元末端グルクロン酸型オリゴコンドロイチン硫酸、またはそれらの塩若しくは誘導体を投与して、CD44分子によって誘発される疾患または症状を、改善、治療または予防する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−530713(P2007−530713A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533381(P2006−533381)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【国際出願番号】PCT/JP2005/006439
【国際公開番号】WO2005/092931
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】