説明

オリゴヌクレオチド誘導体及びオリゴヌクレオチド誘導体を用いたオリゴヌクレオチド構築物

【課題】細胞への毒性等の生体に対する負担が小さく、細胞膜への透過性も良好で、優れたヌクレアーゼ耐性を有するオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド誘導体を用いたオリゴヌクレオチド構築物を提供する。
【解決手段】オリゴヌクレオチドの3´末端の水酸基が以下の式(1)で示される置換基(ただしRは直鎖又は分枝を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Rは水素又はアミノ基がアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基を示す)で修飾されていることを特徴とするオリゴヌクレオチド誘導体。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチド誘導体及びオリゴヌクレオチド誘導体を用いたオリゴヌクレオチド構築物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAやRNAなど各種のオリゴヌクレオチドが治療、診断等の用途に用いられるようになってきている。例えば、診断用途においては、DNAチップやDNAマイクロアレイが挙げられ、治療用途では、治療関連遺伝子の導入ほか、疾患関連遺伝子のノックダウンによる発現抑制等が挙げられる。また、特定の分子と特異的に結合する核酸分子やペプチドであるアプタマーを治療薬として用いる試みもなされている。
【0003】
特に注目される核酸技術としては、RNA干渉(RNAi)を利用した、特定遺伝子のノックダウン法が挙げられる。RNAiとは、二本鎖RNA(dsRNA)の働きによって、それと配列の相同な遺伝子の働きが抑制される現象をいう。RNAiによる遺伝子発現の抑制は、dsRNAがRNaseIIIファミリーの一種であるDicerによって認識され、切断されて21〜23量体のsiRNAs(short interfering RNAs)となり、このsiRNAがRISC(RNA−induced silencing complex)に取り込まれ、続いて取り込まれたsiRNAに相同的なmRNAが中央部で切断され、分解されることによる。
【0004】
しかしながら、生体内において外来性のDNAやRNAは、各種のヌクレアーゼに曝されており、特にRNAはヌクレアーゼにより分解されやすいため、意図したノックダウン効果が充分得られなかったり、ノックダウン効果を安定的に維持させるのが困難であったりするという問題があった。
【0005】
こうした問題を解決するため、RNAを化学修飾してヌクレアーゼ耐性を向上させることが検討されている(非特許文献1〜3)
【0006】
例えば、siRNAについても、図5に示すように、様々な化学修飾が試みられている(非特許文献4)。また、本発明者は、siRNAの3´末端ダングリングエンドのリン酸ジエステル結合部分をカルバメート結合やウレア結合に変換し、これによって結合部分の負電荷を中和し、細胞核の膜への透過性を良好にすることにより、siRNAのヌクレアーゼ耐性とサイレンシング活性とを高めることに成功している(非特許文献5)。また、本発明者は、ヌクレオシドに替えてベンゼン骨格を有するユニットをRNA等の核酸オリゴマーに導入することによって、ヌクレアーゼ耐性を高めることにも成功し、さらには、ベンゼン骨格を導入するためのアミダイト試薬をCPG樹脂に修飾し、これを用いたヌクレオチドの修飾にも成功している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007/094135
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L.Beigelman.,J.A McSwiggen.,K.G.Draper et al.,J Biolchem 270,25702−25708(1995)27
【非特許文献2】S.P.Zinnen K.Domenico., M. Wilson et al., RNA 8,214-228(2002)
【非特許文献3】S.Agrawaland E.R.KandimaIla.,Curr.CanGer Drug Targets.,1,197-209(2001)
【非特許文献4】H.Hoshi, FEBS Letters 521,197-199(2002)
【非特許文献5】Y.Ueno,T.Naito,K.Kawada,A.Shibata,Hye-Sook Kim Y.Wataya,Y.Kidade,Biochem Biophys Res Commun330,1168-1175(2005)
【非特許文献6】Z.Paroo, D.R.Corey, Trends Biotechnol., 8, 390-394 (2004)
【非特許文献7】H. de Martimprey, C. Vauthier, C. Malvy, P. Couvreur, Eur. J. Pharm. Biopharm., 71, 490-504 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載されている、ベンゼン骨格を有するユニットをRNA等の核酸オリゴマーに導入する技術は、siRNAについて3´末端ダングリングエンドを化学修飾することにより、ヌクレアーゼ耐性やサイレンシング活性が高められることが確認されている。しかしながら、化学修飾されたsiRNAは、化学修飾されていないsiRNAと比べて細胞膜通過性が劣るため、化学修飾されたsiRNAを細胞内へ供給することが困難となると考えられる。また、オリゴヌクレオチドへの化学修飾基は人工的なものであり、細胞への毒性等の生体適合性については特に配慮されていなかった。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、細胞への毒性等の生体に対する負担が小さく、細胞膜への透過性が良好で、優れたヌクレアーゼ耐性を有するオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド誘導体を用いたオリゴヌクレオチド構築物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、化学修飾されたオリゴヌクレオチドの細胞膜通過性を優れたものとするため、カチオン性を有する官能基をオリゴヌクレオチドに修飾することを考えた。これは、次の理由による。すなわち、siRNAを静脈から生体に投与すると、細網内皮系による取り込みや腎臓からの排出、血中のヌクレアーゼなどによる分解によって、短時間で血中から消失してしまう。この原因は、siRNAが分子量15,000程度と比較的小さく、マイナス荷電を帯びた水溶性化合物であるため、血中に投与後、速やかに腎糸球体より濾過されるからであると考えられる。事実、I123で放射標識したsiRNAをマウス体内に投与し、調べた結果、siRNAの血中濃度は、投与後5分程度を境に減少し、それに対応して腎臓や膀胱への分布が増加するということが報告されている(非特許文献6)。また、siRNAとカチオン性物質や中性物質との複合体を形成させることにより、血中や細胞内に存在するアニオン性物質との静電的な反発が緩和され、ヌクレアーゼ耐性、血中滞留性、細胞内導入率が大幅に向上することが報告されている(非特許文献7)。
【0012】
本発明者は、こうした理由から、カチオン性を有する官能基をオリゴヌクレオチドに修飾することを考えた。そして、さらには細胞への毒性等の生体適合性をも考慮し、天然アミノ糖の一種であるグルコサミンをオリゴヌクレオチドに化学修飾することとした。グルコサミンとは、グルコースの2位の水酸基がアミノ基に置換されたアミノ糖の一つであり、アミノ基のイオン化によりカチオン性を示す(下記化学構造式参照)。
【0013】
【化1】

【0014】
また、グルコサミンは、カニやエビの殻に多量に含まれるキチンを構成するアミノ糖であり、キチンは生分解能を有しており、その分解過程で生産されるN-アセチルグルコサミンは、人体の重要な構成成分である糖タンパクに多く存在する。このため、グルコサミンは他のカチオン性物質と比べて毒性が低く、生体適合性が高いと考えられる。
【0015】
そして、さらにこのグルコサミンをオリゴヌクレオチドに化学修飾させることについて鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、オリゴヌクレオチドの3´末端の水酸基が以下の式(1)で示される置換基(ただしRは直鎖又は分枝を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Rは水素又はアミノ基がアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基を示す)で修飾されていることを特徴とする。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、オリゴヌクレオチドの3´末端の水酸基に式(1)で示されるグルコサミン誘導体置換基が結合していることにより、NHに基づくカチオン性を有し、細胞膜の透過性が良好となる。また、グルコサミン誘導体置換基は他のカチオン性物質と比べて毒性が低く、生体適合性が高いことから、細胞への毒性等の生体に対する負担が小さくなる。さらには、本発明者の試験結果によれば、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、良好なヌクレアーゼ耐性を有し、細胞内に本発明のオリゴヌクレオチド誘導体を入れた場合においても、その効果をより長い時間持続させることができる。このため、例えば、上記式(1)の置換基をsiRNAの3´ダングリングエンドに結合させることにより、RNAiによる遺伝子発現抑制作用を奏するとともに、その作用をより長時間継続させることができる。
【0018】
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、グルコサミン(あるいはグルコサミンのアミノ基にアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基が結合した誘導体)が置換基Rを介してオリゴヌクレオチドの3´末端の水酸基に結合している。このため、グルコサミン(あるいはグルコサミンのアミノ基にアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基が結合した誘導体)がオリゴヌクレオチドの3´末端の水酸基に直接結合している場合に比べ、置換基Rがグルコサミン(あるいはグルコサミンのアミノ基にアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基が結合した誘導体)のヘキソース環部とアミダイト試薬との立体障害を少なくするため合成が容易となる。
【0019】
また、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体におけるRは以下の式(2)で示される官能基とすることができる。
【0020】
【化3】

【0021】
本発明者の試験結果によれば、Rが上記の構造を有する置換基の場合には、Rが水素である場合よりも、より高い遺伝子発現抑制作用を奏する。
【0022】
また、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、オリゴヌクレオチド部分が所定の遺伝子mRNAの部分配列又はその相補配列を有するものであってもよい。また、オリゴヌクレオチドの鎖長は、10以上35以下であってもよい。さらに、オリゴヌクレオチドはオリゴリボヌクレオチドであってもよい。
【0023】
本発明のオリゴヌクレオチド構築物は、遺伝子発現調節用オリゴヌクレオチド構築物であって、上記いずれかのオリゴヌクレオチド誘導体を有することを特徴とする。このオリゴヌクレオチド構築物は、1本鎖及び2本鎖DNA、1本鎖及び2本鎖RNA、DNA/RNAキメラ並びにDNA/RNAハイブリッドから選択されるオリゴヌクレオチド構築物とすることができ、また、その機能面からは、アンチジーン、アンチセンス、アプタマー、siRNA、miRNA、shRNA及びリポザイムから選択することができる。さらには、ダングリングエンド部分に以下の式(1)で表される置換基(ただしRは直鎖又は分枝を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Rは水素又はアミノ基がアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基を示す)を有することができる。
【化4】

【0024】
また、siRNAであって、前記オリゴヌクレオチド誘導体において、3´末端ダングリングエンド部分に上記式(1)で表される置換基を含むことができる。
【0025】
また、本発明によれば、上記いずれかのオリゴヌクレオチド誘導体を有する遺伝子診断用オリゴヌクレオチド構築物とすることができる。さらに、本構築物はプローブ又はプライマーとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(オリゴヌクレオチド誘導体)
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、上記式(1)で示されるユニットを、オリゴヌクレオチド誘導体の3´末端に有するものである。このユニットの存在により、優れたヌクレアーゼ耐性を得ることができる。このようなユニットは、配列既知又は配列未知のオリゴヌクレオチドに対して、付加によって導入することができ、こうして本発明のオリゴヌクレオチド誘導体とすることができる。なお、ここでいうオリゴヌクレオチドとは、改変されてもよいオリゴヌクレオチドである。
【0027】
また、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体を利用してアンチジーン、アンチセンス、アプタマー、miRNA及びリボザイムを構築するときには式(1)で表されるユニットあるいはユニットを備えるようにすればよい。また、プローブが固相担体に固定化されている場合には、自由端側となる側に式(1)で表されるユニットを備えるようにすることができる。さらに、プライマーにおいては必要に応じて適宜式(1)で表されるユニットを備えていてもよい。
【0028】
本明細書においてオリゴヌクレオチドとは、一般にオリゴヌクレオチドやポリヌクレオチドを構成するモノマーであるヌクレオチドをモノマー単位として該モノマー単位を複数有するポリマーを意味するものとする。また、オリゴヌクレオチドとは、モノマー単位として、デオキシリボヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチドを意味するものである。一般に、ヌクレオチドとしてデオキシリボヌクレオチドをモノマー単位とするポリマーをDNAと称し、リボヌクレオチドをモノマー単位とするポリマーをRNAと称するが、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、−般に挿されるDNA及びRNAのほか、これらのモノマー単位のオリゴマーを含むものとする。また、オリゴヌクレオチドは、RNA/DNAキメラも包含している。また、改変されていてもよいオリゴヌクレオチドとは、プリン及びピリミジンであるグアニン、シトシン、チミン、アデニン、ウラシルまたはメチルシトシンなどの天然塩基を含むヌクレオチドのみからなるオリゴヌクレオチドのほか、オリゴヌクレオチドの各種部分、すなわち、塩基、糖部分及びリン酸エステル部分において何らかの化学修飾が施された1又は2以上のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチドを包含している。
【0029】
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、所定の遺伝子のDNAのセンス鎖、そのアンチセンス鎖又はmRNAの部分配列若しくはその相補配列を有することができる。こうした相補性を有することにより各種の標的核酸にハイブリダイズさせ、それによりオリゴヌクレオチド誘導体に意図した機能を発現させることができる。本発明のオリゴヌクレオチド誘導体において、オリゴヌクレオチドの長さは特に限定しないで、用途に応じた長さとすることができるが、オリゴヌクレオチドの合成の容易性及び期待する効果の発揮を考慮すると、10以上35以下とすることが好ましい。また、アンチセンスの場合には、10以上30以下程度にすることができ、siRNAの場合には、A及びBの合計の鎖長は、好ましくは15以上35以下、より好ましくは30以下である。また、プライマーの場合には、10以上30以下であり、プローブの場合には10以上30以下であることが好ましい。
【0030】
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体を、例えば、siRNA、shRNA、アンチセンス、リボザイム及びアプタマーに用いる場合には、モノマー単位は改変されていてもよいオリゴリボヌクレオチドとすることができる。
【0031】
(オリゴヌクレオチド構築物)
本発明のオリゴヌクレオチド構築物は、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体を有している。本オリゴヌクレオチド構築物における本オリゴヌクレオチド誘導体の種類により、本構築物は、1本鎖DNA、2本鎖DNA、1本鎖RNA、2本鎖RNA、DNA/RNAキメラ及びDNA/RNAハイブリッド等の形態をそれぞれあるいは組み合わせた形態とすることができる。なお、既に説明したように、本オリゴヌクレオチド誘導体を構成するオリゴヌクレオチド部分は、改変されたオリゴヌクレオチドを含んでいるため、本オリゴヌクレオチド構築物においても改変形態のオリゴヌクレオチドが含まれることがある。
【0032】
本発明のオリゴヌクレオチド構築物は、ヌクレアーゼ耐性が向上されているため、遺伝子発現調節用、又は研究用、診断用の各種用途に用いることができる。遺伝子発現調節用途としては、アンチジーン、アンチセンス、アプタマー、siRNA、miRNA、shRNA及びリボザイム等が挙げられる。特に、siRNA及びshRNAにおいて3´末端オーバーハング部位のdTに対し式(1)で表されるユニットを導入することでヌクレアーゼ耐性とサイレンシング活性の双方を向上させることができる。
【0033】
診断用途又は研究用途としては、プローブ及びプライマーが挙げられる。プローブは、設計または選択により、ターゲット核酸に特異的に規定された配列を有しており、所定のストリンジェンシーの下で、それらがハイブリダイズするようにするに取得されたオリゴヌクレオチドである。プローブに本オリゴヌクレオチド誘導体を用いることでヌクレアーゼ耐性が向上されるため、ターゲット核酸を含有するサンプル中に混在するヌクレアーゼの影響を抑制又は回避して、ヌクレアーゼの除去程度が低くてもあるいはヌクレアーゼ除去処理を省略したサンプル調製が可能になる。これにより簡易に遺伝子診断や検査をすることができるようになる。なお、こうしたプローブとターゲットとのハイブリタイゼーションは、プローブを適当なガラス基板や、プラスチック製基板や、ビーズ等の固相担体に固定化して行なうことができる。本発明には、本オリゴヌクレオチド誘導体を含むプローブを固定化した固相担体も含まれる。
【0034】
(オリゴヌクレオチド誘導体の製造方法)
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体を得るには、グルコサミンの水酸基及びアミノ基を保護基で保護しつつ、連結基を介して固相担体に固定化した固定化グルコサミン誘導体を用い、アミダイト法をはじめとする各種核酸合成法によりオリゴヌクレオチド誘導体とする方法を用いることができる。グルコサミンの水酸基の保護基としては、特に限定しないで従来公知の各種のヒドロキシル保護基を用いることができる。このような保護基としては、具体的にはベンジル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられ、特に好ましい保護基はベンジル基である。また、アミノ基の保護基として、具体的にはフタル酸基、ベンゾイル基等が挙げられ、特に好ましいのはフタル酸基である。
【0035】
(オリゴヌクレオチド誘導体の利用)
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、siRNAやアンチセンス等として機能するように構築することで、遺伝子発現抑制剤として利用できる。また、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、ヒト及び非ヒト動物における疾患の予防・治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。例えば、遺伝子発現に伴う疾患に対して、遺伝子発現抑制剤として構築した本発明のオリゴヌクレオチド誘導体はこうした疾患の予防や治療に有効である。
【0036】
さらに、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、そのハイブリダイゼーション機能を発揮させるように構築することで、プローブ、プライマー等の検査試薬や診断試薬として用いることができる。さらに、これらオリゴヌクレオチド構築物をチップやビ−ズ等の固体担体等に保持したものは、検査装置や診断装置又はこれらの一部として利用することができる。さらには、こうした検査試薬や診断薬は、他の試薬や診断薬あるいは装置等と組み合わせた検査用又は診断用キットとしても用いることができる。
【0037】
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、本発明のオリゴヌクレオチド誘導体を含むオリゴヌクレオチド構築物の遺伝子発現抑制作用を利用した、遺伝子発現抑制方法にも利用できる。さらには、本発明のオリゴヌクレオチド構築物のハイブリダイゼーション機能を利用した遺伝子検出方法にも利用できる。
【実施例】
【0038】
本実施例においては、表1に示す測定機器、クロマトグラフィー担体及び試薬を使用した。
【表1】

【0039】
また、本明細書では、本実施例において用いた試薬について、以下の略号を用いることがある。
AcOEt: 酢酸エチル
Ac2O: 無水酢酸
APS: ペルオキソ二硫酸アンモニウム
BF3・Et2O: 三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体
BF3・Me2O: 三フッ化ホウ素・ジメチルエチルエーテル錯体
BnOEtOH: 2−ベンジロキシエタノール
BzCl: ベンジルクロライド
CPG: Controlled−pore glass
DMAP: N,N-ジメチル-4-アミノピリジン
DMF: N,N-ジメチルホルムアミド
DMTrCl :4,4´-ジメトキシトリチルクロライド, 95%
EDTA: エチレンジアミン四酢酸
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
MALDI-TOF: matrix assisted laser desorption ionization-time of flight
MeONa: ナトリウムメトキシド
mRNA: メッセンジャーRNA
MS: マススペクトロメトリー
NIS: N-Iodosuccimide
NPhth: フタルイミド基
PAGE: ポリアクリルアミドゲル電気泳動
Pd(OH)2/C: 水酸化パラジウム / 炭素 (Pd20%) (約50%水湿潤品).
TBAF: テトラブチルアンモニウムフルオライド1.0M THF溶液
TBE: トリスホウ酸EDTA
TBDMSCl: tert-ブチルジメチルクロロシラン
TEA: トリメチルアミン
TEAA: 酢酸トリエチルアンモニウム
TEMED: N,N,N´,N´-テトラメチル-エチレンジアミン
TfOH: トリフルオロメタンスルホン酸
Tris: トリス(ヒドロキシメチル) アミノメタン
WSC: 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド塩酸塩
【0040】
実施例ではsiRNAの3´末端にグルコサミンを導入したオリゴヌクレオチド誘導体を、CPG樹脂を用いた固相合成法によって調製した。以下にその詳細を示す。
【0041】
<グルコサミンの1位の水酸基へのリンカーの導入>
まず、下記化5に示す合成ルートに従い、グルコサミンの1位の水酸基へリンカーを導入した。ここで、2位アミノ基はフタロイル基によって保護し、3,4位はベンゾイル基によって保護した。
【0042】
【化5】

【0043】
以下に合成法の詳細を示す。
3,4,6-Tri-O-acetyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranosyl acetate(4)の合成
D-Glucosamine hydrochloride(3)10g(46.4mmol)にメタノール(200ml)を加え、さらにナトリウムメトキシド(10.7g,55.7mmol)を加え、常温で2時間撹拌した。その後、さらに無水フタル酸(13.8g,92.8mmol)を加え、常温で4時間撹拌した。そして溶媒を減圧下で留去した後、無水酢酸(100ml,1.06mol)とピリジン(150ml)とを加え、48時間撹拌した。反応液をメタノール(200ml)で薄め、減圧下で溶媒を留去後、2N塩酸及びクロロホルムで分液し、水層にピリジンを移した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加え脱水した。これを水流ポンプを用いて減圧しながら溶媒を留去させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:へキサン=1:1)で精製した。そして減圧下で溶媒を留去させた後、酢酸エチルとへキサンの混合溶媒で再結晶化し、白色粉末の化合物(4)(14.2g,64%)を得た。
【0044】
2-Benzyloxyethyl 3,4,6-tri-O-acetyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (5)の合成
上述のようにして得られた化合物(4)2g(4.19mmol)をアセトニトリル20mlに溶解させ、BnOEtOH(5.95ml,41.9mmol)及びBF3・Me2O(1.17ml,12.6mmol)を加え、撹拌しながら5時間加熱還流した。この反応液をトリエチルアミンで中和し、減圧下で溶媒を留去後して化合物(5)を得た。
【0045】
2-Benzyloxyethyl 2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (6)の合成
こうして得られた化合物(5)をメタノール30mlに溶解させ、ナトリウムメトキシド溶液をpH12になるまで加えた後、0 ℃で3時間撹拌した。この反応混合物を酢酸で中和し、減圧下で溶媒を留去した。こうして得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3 →CHCl3:MeOH =15:1 →8:1) で精製し、化合物(6)1.03g,収率55%)が白色の結晶で得られた。このもののH NMRスペクトルを以下に示す。
H NMR (DMSO-d6) : (400 MHz)
δ 7.88-6.93 (m, 9H, Ph, Phth), 5.38 (d, 1H, J3,OH-3 =4.9Hz, OH-3), 5.17 (d, 1H, J4,OH-4 =5.6Hz, OH-4), 5.07 (d, 1H, J1,2 =8.8Hz, H-1)
【0046】
<保護基導入グルコサミン誘導体の合成>
下記化6に示す合成ルートに従い、上記のようにして得られた化合物(6)から出発して、1,3,4位の水酸基及び2位のアミノ基に保護基を導入したグルコサミン誘導体(11)を合成した。
【0047】
【化6】

【0048】
以下に合成法の詳細を示す。
2-Benzyloxyethyl6-O-tert-butyldimethylsilyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-lucopyranoside (7)の合成
化合物(6)400mg(0.902mmol)を無水ピリジン9ml、TBDMSCl246mg,(1.63mmol,1.8当量.)を加え、室温で5時間攪拌した。そしてメタノールを適量加えてクエンチした後、トルエンを加えての減圧蒸留を2回行い、ピリジンを除去した。こうして得られた油層をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH=18:1→15:1)で精製することにより、化合物(7)492mg(収率97%)が、粘性のある透明な油状物として得られた。
【0049】
2-Benzyloxyethyl 3,4-di-O-benzoyl-6-O-tert-butyldimethylsilyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (8)の合成
化合物 (7)380mg(0.681mmol)に無水ジクロロメタンを加え、さらに氷冷却下、無水ピリジン0.5ml(6.18mmol)及びベンジルクロライド0.4 ml(3.44mmol)を加えた後、室温とし、6時間撹拌した。そして、メタノールを適量加えてクエンチした後、減圧下で溶媒を留去した。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:Hexane =1:10 →1:3 →1:1) で精製したところ、化合物 (8)495mg(収率95%) が、粘性のある透明な油状物として得られた。化合物(8)のH NMRのデータを以下に示す
H NMR (DMSO-d6) : (400 MHz)
δ 7.88-6.97 (m, 19H, Ph, Phth, PhCO), 6.06 (t, 1H, J3,4 =9.516, H-3), 5.57 (d, 1H, J1,2 =8.54, H-1), 5.52 (t, 1H, H-4), 4.30 (t, 1H, H-2), 4.12-4.09 (m, 1H, H-5)
【0050】
2-Hydroxyethyl 3,4-di-O-benzoyl-6-O-tert-butyldimethylsilyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-
β-D-glucopyranoside (9)の合成
フラスコに化合物(8)506mg(0.661mmol)を量り取り、系内をアルゴン雰囲気とした後、Pd(OH)2/C 120 mgを加え、続いてEtOH/THF = 3:1の混合溶媒20 mlを加えて撹拌した。この溶液を、吸引器を用いてアルゴンを抜きつつ、フラスコ内に水素ガスを充填させ、室温で20分間攪拌した。続いて、セライト濾過によりPd(OH)2/Cを取り除いた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH =30:1 →25:1) で精製したところ、化合物 (9) 425 mg (収率95 %) が粘性のある透明な油状物として得られた。
【0051】
2-(4,4´-Dimethoxytrityl)oxyethyl 3,4-di-O-benzoyl-6-O-tert-butyldimethylsilyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (10)の合成
フラスコに、化合物 (9) 251 mg(0.371 mmol) を量り取り、無水ピリジン7mlを加え、さらにDMTrCl161ml(0.475mmol)を加えて、室温にて6時間攪拌した。反応溶液をToluene共沸(2回)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (AcOEt:Hexane =1:10 →1:3 →1:1) で精製したところ、化合物 (10)318mg(収率88%)が、粘性のある黄色油状物として得られた。このもののH NMRのデータを以下に示す
H NMR (DMSO-d6) : (400 MHz)
δ 8.01-7.07 (m, 27H), 6.11 (t, 1H, J3,4 =9.6, H-3), 5.66 (d, 1H, J1,2 =8.8, H-1), 5.61 (t, 1H, J4,5 =10, H-4), 4.44 (t, 1H, H-2), 4.15 (m, 1H, H-5), 4.08 (m, 1H, H-6)
【0052】
2-(4,4´-Dimethoxytrityl)oxyethyl-3,4-di-O-benzoyl-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (11)の合成
フラスコに化合物(10)476mg(0.487mmol) を量り取り、無水THF25mlに溶解させ、TBAF 0.625 ml (0.625 mmol)を加えて、0 ℃にて3時間撹拌した。そして、メタノールでクエンチした後、減圧下で溶媒を留去させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (AcOEt:Hexane =1:10 →1:3 →1:1) で精製したところ、化合物 (11) 145mgが、粘性のある透明な黄色油状物として得られた。
【0053】
<CPG担体への修飾>
上記のようにして得られた化合物 (11)に対し、コハク酸をリンカーとしてCPG担体に修飾させた(下記化7の合成ルート参照)。以下に詳細を示す。
【0054】
【化7】

【0055】
2-(4,4´-Dimethoxytrityl)oxyethyl-3,4-di-O-benzoyl-6-(succinyl-hydroxymethyl)-2-deoxy-
2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (12)の合成
フラスコに、真空下で十分に乾燥させた化合物(11)213mg(0.247mmol)を量り取り、無水ピリジン4mlに溶解した後、DMAP0.8mg(6.55×10-3mmol)と無水コハク酸90mg(0.899mmol)とを加え、室温にて72時間撹拌した。こうして得られた反応液を水、NaHCO3水溶液、NaCl水溶液の順で分液処理し、有機層をジエチルエーテルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥した。そして、減圧下において溶媒を留去し、さらに残留物をToluene共沸し化合物(12)を得た。
【0056】
2-(4,4´-Dimethoxytrityl)oxyethyl-3,4-di-O-benzoyl-6-(CPG-longchain-alkylamino-succinyl-hydroxymethyl)-2-deoxy-2-N-phthalimido-β-D-glucopyranoside (13) の合成
フラスコに、真空下で十分に乾燥させた化合物 (12)(0.247mmol,CPG:4e.q.)を量り取り、無水DMF6.2ml(CPGに対して0.01M)に溶解した。CPG522mg(1e.q.)を加え、軽く振とうさせて溶液と馴染ませた後、WSC48mg(0.247mmol,4e.q.)をすばやく加え、室温にて72時間振とうした。こうして処理したCPGをガラスフィルターに移し、ピリジンで3回洗浄した後、十分に乾燥させたてから0.1MDMAP溶液(pyridine:Ac2O=9:1)を15mL加え、Ar雰囲気下、室温でさらに一晩振とうした。そしてCPGをガラスフィルターに移し、ピリジン、エタノール及びアセトニトリルの順で十分に洗浄した後、一晩真空乾燥させ、修飾CPG (13)を得た。このものの修飾基の担持量を以下の方法で測定した。すなわち、乾燥した修飾CPG (13)6mgをガラスフィルターに移し、HClO4:EtOH=3:2の溶液で洗浄し、その洗浄液をUV 498 nm (DMTr基の吸収波長) にて吸光度を測定し、以下の式に代入することにより算出した。その結果、28.4mmol/gであった。
【0057】
【数1】

【0058】
<グルコサミン結合型オリゴヌクレオチドの合成>
上述のようにして修飾されたCPG (13)を用いて3´末端にグルコサミン誘導体が導入されたオリゴヌクレオチドを合成した。合成したオリゴヌクレオチドの塩基配列は、5´-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGtt)-3´及びその相補的配列を有する3´-r(ttGAAGAAGCAGCUCUGGUAC)-5´の2種類である。また、比較のため同様の塩基配列を有する2種類のオリゴヌクレオチドも合成した。以下にその詳細を示す。
【0059】
ホスホアミダイト法に従い、1μmolスケールでオリゴヌクレオチドの合成を行った。
すなわち、DNA自動合成機 (Applied Biosystem Model 3400) を用い、normalホスホアミダイト0.1M in MeCNを調製し、RNAプロトコルに従って合成した。オリゴヌクレオチドの5´末端は DMTr 基を除去した状態で合成を終了し、アルゴンガスを通じてCPG樹脂を乾燥させた。
【0060】
その後、オリゴヌクレオチドが結合したCPGをエッペンドルフチューブに移し、NH4OH:EtOH =3:1(v/v)水溶液1.2mlを加えて、室温で12時間振とうし、CPGからの切り出し及び脱保護を行った。そして上清液をエッペンドルフチューブに移した後、さらにH2O:EtOH =3:1(v/v)水溶液1.2mlでCPGを洗浄し、洗浄液をエッペンドルフチューブに移し、減圧下にて一晩乾固させた。そして残渣にTBAF(1M in THF) 1mlを加え、室温で15時間振とうさせ、ベンゾイル基及びフタロイル基の脱保護を行なった。その後、反応溶液にTEAA buffer(0.1M)30mlを加えて希釈し、C-18逆相カラムクロマトグラフィー(Sep-Pak)に通し、カラムに吸着させた。なお、0.1 N TEAA bufferは、酢酸114.38 mlにトリエチルアミン277.6 mlを加えたものをH2Oで1 Lにし、酢酸でpH 7.0にすることにより調製し、これを20倍に希釈することにより調製した。
【0061】
そして、カラムを滅菌水で洗浄して塩を取り除き、50 % MeCN in H2O 3 ml で溶出し、減圧下乾固した。残渣にloading solution (90 % formamide in 1×TBE) 200 μlを加え20%PAGE により目的のオリゴヌクレオチドを単離した。なお、20%PAGEは、40 %アクリルアミド(19:1)溶液 45 ml、尿素37.8 g、10× TBE buffer 9 mlを加えて溶かし、H2Oを加え、90 mlとした。最後にAPS 62 mgを加えて溶かした後、TEMED 45 μlを加えて振り混ぜて調製した。また、電気泳動ゲルの調製は1.5 mmスペーサーを挟んで固定した2枚のガラス板の間に20%PAGE流し込み、固化するまで静置することによって調製した。また1×TBE bufferを泳動用緩衝液として用いた。電気泳動終了後、目的のオリゴヌクレオチドのバンドを切り出し、0.1 M TEAA buffer、0.1 M EDTA 水溶液(15 ml) を加え、一晩振とうさせた。この濾液をC-18逆相カラムクロマトグラフィー(Sep-Pak)により精製し、減圧下で蒸発乾固した。こうして得られたオリゴヌクレオチドをH2O(1ml)に溶かし、その希釈液の260nmにおける吸光度を測定し、その収量を求めた。計算の方法は以下の通りである。
【0062】
すなわち、波長260nmでの吸光度(Abs260)が,吸光度計の有効範囲になるように希釈し、光路長(l) 1 cmの吸光度測定用石英セルを用い、室温にてAbs260を測定した。OD260値の計算には以下の式を用いた。ここでVは溶液の全量を示す。
OD260 (Mε-1・mL-1・cm-1)=Abs260 (Mε-1) ・ V-1 (mL) ・ l-1 (cm)
また、N1pN2pN3p・・・Nn-1pNn で表される一本鎖オリゴヌクレオチドのモル吸光係数 ε260 の算出には、次式を用いた。
ε = 2 {ε (N1pN2) +ε (N2pN3) + ・・・ +ε (Nn-1pNn) } - {ε (N2) +ε (N3) + ・・・ +ε (Nn-1)}
ここで、ε (Nn) はある核酸Nnのε260を示し、ε (Nn-1pNn) はある核酸二量体 Nn-1pNn のε260を示す。
グルコサミン結合型オリゴヌクレオチドのε値については、天然型オリゴヌクレオチドと同じと仮定した。
また、濃度C (mol/l) の算出には、次式を用いた。
C = Abs260 ・ ε260-1 ・ l-1
【0063】
精製したオリゴヌクレオチド30 pmolを蒸発乾固させ、3 μlの滅菌水に溶解させ、3 μlのマトリックス溶液とよく混和させた後、プレートにサンプルをアプライした。なお、マトリックス溶液は、3-hydroxypicolinic acid (3-HPA) 4.85 mg とdi-Ammonium hydrogen citrate 0.8 mg を50 % MeCN in Milli Q 50 μl に溶解させた。サンプルが乾固した後、MALDI-TOF/MSで構造の確認を行った。その結果、下記表2に示す4種類(SSG、SSGN、ASSG及びASSGN)のオリゴヌクレオチド誘導体が同定された。なお、グルコサミン誘導体置換基であるYは、フタルイミド保護基が脱離されずに残ったものである。
【0064】
【表2】

【0065】
<RNAiの検証>
上記のようにして得られたグルコサミン誘導体結合オリゴヌクレオチド及び未修飾オリゴヌクレオチドについてsiRNAを調製し、そのRNAi発現の検証を行った。
siRNAの調製及びTmの測定
上記のようにして調製した4種類のオリゴヌクレオチドと未修飾のオリゴヌクレオチドを用いて、表3に示す組み合わせでアニーリングを行い、siRNAを調製した。
【0066】
【表3】

【0067】
そして、50%解離温度Tm値を測定し、二本鎖RNAの形成の有無を確かめた。すなわち、オリゴヌクレオチドの50 %融解温度(Tm) 測定におけるそれぞれの鎖の濃度は3 μMになるように調整し、測定用緩衝液(10 mM NaH2PO4- Na2HPO4, 100 mM NaCl (pH7.0)) 400 μlに溶解し、95 ℃で5分間過熱し、アニーリングを行なった後、常温になるまで静置した。そのサンプルのうち180 μlを専用セルに入れ、20 ℃から95 ℃へと加熱して吸光度の変化を測定することで50 %融解温度(Tm) を求めた。このとき、中線法を用いてTm値を計測した。
【0068】
その結果、図1に示すようにTm値が描くその曲線は全てシグモイド曲線となり、また、Tm値は未修飾の天然型siRNAとほとんど同じ値となった。このことから、合成したsiRNAは、熱的安定性を保持しているとともに、天然型と同様に安定な二重鎖を形成していることが示唆された。
【0069】
RNAi活性評価
RNAiの活性評価は、ヒト乳がん細胞であるHeLa細胞を用いて、Dual-luciferase reporter assayにより測定した。この方法は発光タンパクであるFirefly luciferase、及びRenilla luciferaseを発現するベクターを用いて、siRNAによるRenilla luciferaseのタンパク発現抑制を、それぞれの発光の割合から算出して評価する方法である(図2参照)。
【0070】
試料は前述のアニーリングさせた7種類のsiRNAを用いて行った。以下に手順の詳細を示す。
HeLa細胞を4000 cell/mlになるように調整し、96 well plateの各wellに100 μlずつ入れ、24時間培養した。合成したsiRNAのそれぞれの鎖をTE buffer (100 mM NaCl) に溶解し、アニーリングを行なった。このsiRNA各量、培地(OPTI-MEM) 各量、0.1 μg/μL psi-CHECK (Firefly, Renilla各々のsequenceを持つベクター) 1 μl、transfast (transfection試薬) 1.5 μlを総量175 μlになるように混合し、培地を吸い出した96 well plateの各wellに 35 μlずつ入れ、1時間後培地を100 μl加えて24時間培養した。24時間後、培地を吸い出し、冷凍保存した。測定時には、解凍後、Dual glo substrate (Fireflyの基質) 24 μlを加え10分放置後、サンプル23 μlを発光測定用の96 well plateに移し、Firefly luciferaseを測定した。その後、Stop and glo substrate 23 μlを加え10分放置後、Renilla luciferaseを測定した。Renilla luciferaseの値をFirefly luciferaseの値で割り、% of controlを用いて比較した。なお、luciferase測定には、Luminescenser JNRを使用した。
【0071】
その結果図3に示すように、若干の減少は見られたものの、全てのsiRNAでタンパク抑制効果を失っていないことがわかった。また、3´末端にグルコサミンを導入したものよりも、2位がフタロイル基で保護されたフタルイミド型グルコサミンを導入したsiRNAの方が、その抑制効果が高いことが分かった。これは、RISC中のPAZドメインに存在する、3´末端を認識するといわれている疎水性ポケットが影響していると考えられる。また、センス鎖、アンチセンス鎖どちらか一方をグルコサミンで修飾した場合、siRNA活性は若干減少したにも関わらず、両3´末端を修飾した場合には、その活性は増加していた。さらに、フタルイミド型グルコサミンを両3´末端に導入したsiRNAは、未修飾の天然型siRNAよりもタンパク抑制効果が高い結果となった。
【0072】
<グルコサミン結合型オリゴヌクレオチドの3´エキソヌクレアーゼ耐性>
前述のようにして合成した天然型オリゴヌクレオチド5´-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGtt)-3´及びグルコサミン結合型オリゴヌクレオチドである5´-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGttX)-3´の5´末端に蛍光性置換基を修飾し、その3´エキソヌクレアーゼ耐性を調べた。蛍光性置換基はフルオレセインであり、フルオロセインのホスホロアミダイト体を、DNA/RNA自動合成機によりホスホロアミダイト法により5´末端に導入した。
【0073】
こうして合成した5´flu-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGtt)-3´及び5´-flu-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGttX)-3´のヌクレアーゼ耐性を調べた。
すなわち、SVPD (ヘビ毒ホスホジエステラーゼ) (100 μmol / mL)を25 μl、緩衝液 (250 mM Tris-HCl, 50mM MgCl2 (pH 8.0)) を475 μL加え、全量で500 μLとなるように調製した。合成したオリゴヌクレオチド 300 pmol 分をエッペンドルフチューブに乾固させておき、調製したSVPD (5.0 × 10-3 unit /mL) を100 μL加え37 ℃でインキュベートし、1 min、5 min、10 min、30 min、1 h、3 h、おきにあらかじめ別のエッペンドルフチューブに分注しておいたloading solution (9M urea XC BPB) 15 μL中に、反応液を5 μL加え、各時間の反応溶液とした。なお、0分のサンプルは酵素を加えていないものとした。
これらを20% PAGEにて分離した後、蛍光スキャナにてフルオロセインの蛍光強度を分析することことでヌクレアーゼ耐性を試験した。
【0074】
その結果、図4に示すように、天然型の5´-flu-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGtt)-3´では、約5分後には元のバンドがほぼ消失したのに対し、5´-flu-r(CUUCUUCGUCGAGACCAUGttX)-3´では、約一時間後も元のバンドが残っており、優れた3´エキソヌクレアーゼ耐性を有していることが示された。
また、前述したように、グルコサミン結合型オリゴヌクレオチドから合成したsiRNAは天然型オリゴヌクレオチドから合成したsiRNAと同程度あるいはそれ以上のタンパク抑制効果を示している(図3)。これらの結果から、グルコサミン結合型オリゴヌクレオチドから合成したsiRNAは、天然型オリゴヌクレオチドから合成したsiRNAよりも、長時間にわたってタンパク質抑制効果奏することができることが明らかとなった。
【0075】
また、以上の結果から、グルコサミン結合型オリゴヌクレオチドを1本鎖及び2本鎖DNA、1本鎖及び2本鎖RNA、DNA/RNAキメラ並びにDNA/RNAハイブリッド等に利用した場合にも、同様のヌクレアーゼ耐性を有することが明白となった。
【0076】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】グルコサミン誘導体結合オリゴヌクレオチド及び未修飾オリゴヌクレオチドから合成したsiRNAの温度と吸光度との関係を示すグラフである。
【図2】RNAi活性の評価方法を表した概念図である。
【図3】グルコサミン誘導体結合オリゴヌクレオチド及び未修飾オリゴヌクレオチドから合成したsiRNAのRNAi活性のグラフである。
【図4】ヌクレアーゼ耐性試験における所定時間ごとの電気泳動の結果を示す図面代用写真である。
【図5】siRNAの化学修飾の例を示す図である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、個別化医療への展開が期待されているRNA創薬等、核酸オリゴマーを用いた医療分野において有用な手段を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴヌクレオチドの3´末端の水酸基が以下の式(1)で示される置換基(ただしRは直鎖又は分枝を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Rは水素又はアミノ基がアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基を示す)で修飾されていることを特徴とするオリゴヌクレオチド誘導体。
【化1】

【請求項2】
前記Rは以下の式(2)で示される官能基であることを特徴とする請求項1記載のオリゴヌクレオチド誘導体。
【化2】

【請求項3】
前記Rはエチレン基であることを特徴とする請求項1又は2記載のオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドは所定の遺伝子mRNAの部分配列又はその相補配列を有する請求項1乃至3のいずれか1項記載のオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドの鎖長は10以上35以下である請求項1乃至4のいずれか1項記載のオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項6】
前記オリゴヌクレオチドはオリゴリボヌクレオチドであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のオリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項7】
遺伝子発現調節用オリゴヌクレオチド構築物であって、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド誘導体を有する構築物。
【請求項8】
1本鎖及び2本鎖DNA、1本鎖及び2本鎖RNA、DNA/RNAキメラ並びにDNA/RNAハイブリッドから選択される遺伝子発現調節用オリゴヌクレオチド構築物であって請求項7に記載の構築物。
【請求項9】
アンチジーン、アンチセンス、アプタマー、siRNA、miRNA、shRNA及びリポザイムから選択される請求項7又は8に記載の構築物。
【請求項10】
ダングリングエンド部分に以下の式(1)で表される置換基(ただしRは直鎖又は分枝を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Rは水素又はアミノ基がアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基を示す)を有する請求項7乃至9のいずれか1項記載の構築物。
【化3】

【請求項11】
siRNAであって3´末端ダングリングエンド部分に以下の式(1)で表される置換基(ただしRは直鎖又は分枝を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Rは水素又はアミノ基がアミダイト試薬と反応することを防ぐための保護基を示す)を含む請求項10記載の構築物。
【化4】

【請求項12】
遺伝子診断用オリゴヌクレオチド構築物であって、請求項1乃至7のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド誘導体を有する構築物。
【請求項13】
プローブ又はプライマーであることを特徴とする請求項12に記載の構築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−4682(P2011−4682A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152674(P2009−152674)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】