説明

オリゴ糖の製造方法

【課題】安全性の高いオリゴ糖、特に、フルクトースを末端に有するオリゴ糖の製造方法を提供すること。
【解決手段】カエデ科カエデ属樹木の樹液からオリゴ糖を採取する工程を含む、オリゴ糖の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴ糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴ糖は、整腸作用等の様々な生理活性作用を有することから健康食品等に利用されている。オリゴ糖の製造方法としては、酵素を利用してショ糖、乳糖、デンプン等から合成する方法、植物由来の多糖類を酵素分解する方法、酸またはアルカリ条件で糖を異性化する方法、植物に含まれるオリゴ糖を抽出する方法等が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記製造方法のなかで、植物に含まれるオリゴ糖を抽出する方法は、得られるオリゴ糖の安全性が高く、さらには、経済的であるので好ましい。しかしながら、一般に、植物中におけるオリゴ糖の含有量は低く、原料として使用し得る植物種に制限があるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−516527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、安全性の高いオリゴ糖、特に、フルクトースを末端に有するオリゴ糖の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はオリゴ糖の製造方法を提供する。該製造方法は、カエデ科カエデ属樹木の樹液からオリゴ糖を採取する工程を含む。
好ましい実施形態においては、上記カエデ科カエデ属樹木が、サトウカエデ、イタヤカエデ、クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤマモミジ、およびノルウェーカエデからなる群より選択される少なくとも一種である。
好ましい実施形態においては、上記樹液が濃縮樹液である。
好ましい実施形態においては、上記濃縮樹液が、メープルシロップおよび/またはメープルシュガーである。
好ましい実施形態においては、上記採取されるオリゴ糖が、末端にフルクトースを有するオリゴ糖を含む。
好ましい実施形態においては、上記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化後、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
好ましい実施形態においては、上記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化後、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
好ましい実施形態においては、上記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化することなく、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
好ましい実施形態においては、上記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化することなく、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安全性の高いオリゴ糖、特に、フルクトースを末端に有するオリゴ糖の製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実験例1のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【図2】実験例2のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【図3】実験例3のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【図4】実験例4のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【図5】実験例5のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【図6】実験例6のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【図7】実験例7のキャピラリー電気泳動で得られたエレクトロフェログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記のとおり、オリゴ糖の抽出原料として使用し得る植物種は限られていたところ、本発明者らは、カエデ科カエデ属樹木の樹液中にオリゴ糖が含まれていること、特に4以上の単糖単位を有するオリゴ糖が比較的高濃度(例えば、主成分のショ糖100molに対して5.5mol以上)で含まれていることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のオリゴ糖の製造方法は、カエデ科カエデ属樹木の樹液からオリゴ糖を採取する工程を含む。本発明の製造方法によれば、カエデ科カエデ属樹木の樹液からオリゴ糖を採取するので、得られるオリゴ糖は、天然成分由来であり、これまで長く広範囲で食されてきた食品に含まれている成分であることから、極めて安全性が高い。また、本発明の製造方法によれば、高価な酵素を必要としないので、低コストでオリゴ糖を得ることができる。なお、本明細書において、オリゴ糖とは、鎖中に3〜20の単糖単位を有する重合糖を意味する。
【0010】
上記カエデ科カエデ属樹木としては、その樹液がオリゴ糖を含有する限りにおいて、任意の適切な樹木が採用され得る。カエデ科カエデ属樹木としては、サトウカエデ(Acer saccharum)、イタヤカエデ(Acer mono)、クロカエデ(Acer nigrum)、アメリカハナノキ(Acer rubrum)、ギンカエデ(Acer saccharinum)、シロスジカエデ(Acer pensylvanicum)、アメリカヤマモミジ(Acer spicatum)、および、ノルウェーカエデ(Acer platanoides)が好ましく、サトウカエデがさらに好ましい。これらの樹液は、オリゴ糖を高濃度で含有するので、優れた生産効率でオリゴ糖が得られ得るからである。
【0011】
上記樹液は、上記カエデ科カエデ属樹木の幹に穴を開け、溢出する樹液を採取することにより得られる未加工の樹液(以下、「メープルサップ」と称する場合がある)であってもよく、該未加工の樹液を濃縮して得られる濃縮樹液であってもよい。未加工の樹液およびその濃縮樹液は、樹木からの採取時期に応じて、含有成分比、色、香り等が異なるが、いずれの時期に採取したものであっても用いることができる。
【0012】
樹液の濃縮方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、加熱濃縮方法;減圧濃縮、凍結濃縮、膜濃縮等の非加熱濃縮方法;および、それらの組み合わせが挙げられる。加熱濃縮は、濃縮効率に優れる点で好ましい。非加熱濃縮は、オリゴ糖の熱分解のおそれがない点で好ましい。加熱濃縮時の加熱温度は、通常、90〜120℃である。加熱時間は、所望の濃縮倍率等に応じて適切に設定され得る。
【0013】
上記濃縮樹液の固形分濃度は、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは30重量%以上である。濃縮樹液としては、実質的に水分を含まず、固形分濃度がほぼ100重量%である濃縮物を用いてもよい。メープルサップの固形分濃度は通常2〜3重量%であるので、該固形分濃度を有する濃縮樹液を用いることにより、優れた生産効率でオリゴ糖が得られ得る。
【0014】
上記濃縮樹液としては、メープルシロップ、メープルシュガー等が好ましく用いられ得る。これらは、広く市販されており、入手が容易であるとともに、高濃度でオリゴ糖を含有し得る。
【0015】
上記樹液から採取されるオリゴ糖の重合度は、代表的には3〜10、好ましくは4〜8である。
【0016】
1つの実施形態において、上記樹液から採取されるオリゴ糖は、末端にフルクトースを有するオリゴ糖を含む。該末端にフルクトースを有するオリゴ糖は、代表的には非還元糖である。該末端にフルクトースを有するオリゴ糖としては、例えば、ラフィノースが挙げられる。また、該末端にフルクトースを有するオリゴ糖の別の例としては、インベルターゼ消化により末端のフルクトースを脱離させた後、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン(以下、「PMP」と称する場合がある)誘導体化して下記泳動条件(A)のキャピラリー電気泳動に供したときに、PMP誘導体化グルコースに対して、−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(以下、「第1のオリゴ糖」と称する場合がある)が挙げられる。また、該末端にフルクトースを有するオリゴ糖のさらに別の例としては、インベルターゼ消化およびPMP誘導体化して下記泳動条件(A)のキャピラリー電気泳動に供したときに、PMP誘導体化グルコースに対して、−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(以下、「第2のオリゴ糖」と称する場合がある)が挙げられる。
[泳動条件(A)]
キャピラリー : 内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長(試料導入側キャピラリー末端から検出部までの長さ)50cm)
印加電圧 : 15kV
泳動溶液 : 200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 : 25℃
【0017】
上記PMP誘導体化グルコースに対する相対移動度は、下記式(I)に示すとおり、各試料の電気泳動移動度からPMP誘導体化グルコースの電気泳動移動度を減ずることによって求められる。すなわち、上記第1のオリゴ糖の相対移動度は、インベルターゼ消化およびPMP誘導体化した第1のオリゴ糖の電気泳動移動度からPMP誘導体化グルコースの電気泳動移動度を減ずることにより求められる。また、上記第2のオリゴ糖の相対移動度は、インベルターゼ消化およびPMP誘導体化した第2のオリゴ糖の電気泳動移動度からPMP誘導体化グルコースの電気泳動移動度を減ずることにより求められる。ここで、電気泳動移動度は、下記式(II)から求められる。なお、式(II)中、中性物質としては、メシチルオキシド、シンナミルアルコール等の任意の適切な中性物質が用いられ得る。
【0018】
式(I): [相対移動度(μeprel)]=[試料の電気泳動移動度]−[PMP誘導体化Glcの電気泳動移動度]
=L・l(t−1−t−1)V−1−L・l(t−1−tIS−1)V−1
=L・l(tIS−1−t−1)V−1 (単位:cmmin−1kV−1
(L:キャピラリー全長(cm)、l:有効長(cm)、t: 中性物質の移動時間(min)、t:試料の移動時間(min)、tIS: 標準物質(ここでは、PMP誘導体化グルコース)の移動時間(min)、V:印加電圧(kV))
【0019】
式(II): 電気泳動移動度(μep)=L・l(t−1−t−1)V−1 (単位:cmmin−1kV−1
(L:キャピラリー全長(cm)、l:有効長(cm)、t: 中性物質の移動時間(min)、t:試料の移動時間(min)、V:印加電圧(kV))
【0020】
キャピラリー電気泳動においては、電気浸透流速(l/t)の影響によって再現性が低下する場合があるが、相対移動度を求める上記式(I)においては、数式の項から電気浸透流速(l/t)が相殺され、除かれている。そのため、相対移動度は、信頼性が高い値として、エレクトロフェログラム上のピークの同定に有用である。また、式(II)に示すとおり、通常、電気泳動移動度を算出する際には測定試料に中性物質を添加する必要がある。これに対し、相対移動度は、予め比較対象となる成分を含む測定試料を用いることにより、中性物質を別途添加することなく求められ得る。そのため、相対移動度は、中性物質の添加による分離の影響を受けず、通常の電気泳動移動度よりも信頼性が高いと考えられる。特に、本発明においては、インベルターゼ消化およびPMP誘導体化した第1および第2のオリゴ糖と近い移動時間を有し、分離に関する挙動が類似するPMP誘導体化グルコースを標準物質として用いるので、得られる相対移動度の信頼性は十分に高いものである。
【0021】
別の実施形態において、上記樹液から採取されるオリゴ糖は、末端にフルクトースを有さないオリゴ糖を含む。該末端にフルクトースを有さないオリゴ糖は、代表的には還元糖である。該末端にフルクトースを有さない還元性のオリゴ糖としては、例えば、インベルターゼ消化することなくPMP誘導体化して上記泳動条件(A)のキャピラリー電気泳動に供したときに、PMP誘導体化グルコースに対して、−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(以下、「第1’のオリゴ糖」と称する場合がある)が挙げられる。また、該末端にフルクトースを有さない還元性のオリゴ糖の別の例としては、インベルターゼ消化することなくPMP誘導体化して上記泳動条件(A)のキャピラリー電気泳動に供したときに、PMP誘導体化グルコースに対して、−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(以下、「第2’のオリゴ糖」と称する場合がある)が挙げられる。第1’のオリゴ糖および第2’のオリゴ糖はそれぞれ、上記第1のオリゴ糖および第2のオリゴ糖において末端のフルクトースが欠如したオリゴ糖であり得る。なお、それぞれのオリゴ糖の相対移動度の求め方は上述したとおりである。
【0022】
上記樹液からオリゴ糖を採取する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。該採取方法としては、クロマトグラフィー法、限外ろ過法、再結晶法等が挙げられる。例えば、クロマトグラフィー法を用いる場合は、上記樹液をカラムクロマトグラフィーに供し、示差屈折計(RI)等の検出器でオリゴ糖を検出することにより、オリゴ糖を含む画分を分取することができる。これにより、粗精製または精製されたオリゴ糖が採取され得る。必要に応じて、上記樹液に任意の適切な溶媒を加え、所望の濃度に調整してからカラムクロマトグラフィーに供してもよい。溶媒は、代表的には水、緩衝液、親水性有機溶媒、またはこれらの混合物である。カラムクロマトグラフィーとしては、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。また、例えば、再結晶法を用いる場合は、水;メタノール、エタノール、アセトニトリル等の親水性(極性)有機溶媒;クロロホルム、ヘキサン等の非極性溶媒;またはこれらの混合液等から再結晶を行うことにより、粗精製または精製されたオリゴ糖を得ることができる。
【0023】
本発明の別の局面によれば、オリゴ糖が提供される。該オリゴ糖は、上記カエデ科カエデ属樹木の樹液に含まれるオリゴ糖である。該オリゴ糖は、インベルターゼ消化後、PMP誘導体化して上記泳動条件(A)でキャピラリー電気泳動に供したときに、PMP誘導体化グルコースに対して、−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(第1のオリゴ糖)、および、−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(第2のオリゴ糖)を含み得る。また、該オリゴ糖は、インベルターゼ消化することなく、PMP誘導体化して上記泳動条件(A)でキャピラリー電気泳動に供したときに、PMP誘導体化グルコースに対して、−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(第1’のオリゴ糖)、および、−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖(第2’のオリゴ糖)を含み得る。これらのオリゴ糖は、カエデ科カエデ属樹木の樹液に含まれているので、該樹液から任意の適切な方法で採取することにより得られ得る。採取方法としては、上述したとおりである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0025】
[実験例1]
サトウカエデのメープルサップ 83μLを、遠心式減圧装置を用いて常温で蒸発乾固し、得られた常温蒸発乾固物を100mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5) 50μLに溶かした。得られた溶液に200U/ml インベルターゼ水溶液(生化学工業社製、製品名「Inverterse(candida utilis)」) 5μLを加え、37℃で30分インキュベートした後、沸騰水浴中で1分加熱して酵素反応を停止させた。これにより、メープルサップのインベルターゼ消化物を得た。
【0026】
上記メープルサップのインベルターゼ消化物を蒸発乾固した後、0.3M NaOH 50μLを加えて再度溶解した。得られた溶液に、0.5mol/L 1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン(キシダ化学社製)のメタノール溶液を加えて混和し、70℃で30分反応させた。次いで、該反応液を0.3mol/L HClを用いて中和し、中和後の反応液に精製水 100μLを加えた。得られた溶液に対し、200μLのクロロホルムで3回抽出を行うことにより過剰試薬を除去し、遠心式減圧装置で溶媒を完全に蒸発させて固体反応物を得た。該固体反応物を精製水 100μLに溶解し、分析用試料とした。
【0027】
上記分析用試料を以下の条件で、キャピラリー電気泳動に供した。該電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図1に示す。
[分析条件]
装置:キャピラリー電気泳動装置(大塚電子社製、製品名「CAPI−3100」)
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm、ジーエルサイエンス社製、製品名「Fused Silica Capillary Tubing」)
泳動溶液:200mMホウ酸緩衝液(pH10.5)
印加電圧:15kV
検出波長:245nm
試料導入:落差法(2.5cm×30sec)
分析温度:25℃
上記泳動溶液は、四ホウ酸ナトリウム(ナカライテスク社製)を精製水中に溶解し、pHメーターでpHを測定しながら水酸化ナトリウムを加えてpH10.5とした後にメスアップして正確にホウ酸濃度として200mMとすることにより、調製した。使用時は、脱気し、次いで、メンブレンフィルター(0.45μm)でろ過してから使用した。
【0028】
[実験例2]
インベルターゼ消化しないこと以外は実験例1と同様にして、キャピラリー電気泳動を行った。該電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図2に示す。
【0029】
図1に示されるとおり、メープルサップのインベルターゼ消化物のPMP誘導体を電気泳動して得られたエレクトロフェログラムには、オリゴ糖に相当する少なくとも4つのピークが明確に認められた(※1〜※4で示したピーク)。図1中の「※1」で示したピーク面積(ピークレスポンス)は、PMP誘導体化グルコースのピーク面積に対して、約6%であった。また、図2に示されるとおり、メープルサップのインベルターゼ未消化物のPMP誘導体を電気泳動して得られたエレクトロフェログラムには、オリゴ糖に相当する少なくとも4つのピークが明確に認められた(※1〜※4で示したピーク)。図1の※1〜※4で示したピークはそれぞれ、図2の※1〜※4で示したピークと検出時間がほぼ一致するものの、その面積は著しく大きかった。このことから、メープルサップ中には、末端にフルクトースを有する少なくとも4種類のオリゴ糖が比較的高濃度で含まれ、これらのオリゴ糖から末端のフルクトースが欠如したオリゴ糖が少量含まれることが示唆される。
【0030】
図1および2中のピーク「※1」に相当するPMP誘導体化オリゴ糖のPMP誘導体化グルコースに対する相対移動度を求めたところ、これらの相対移動度はともに−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の範囲内であった。また、図1および2中のピーク「※2」に相当するPMP誘導体化オリゴ糖のPMP誘導体化グルコースに対する相対移動度を求めたところ、これらの相対移動度はともに−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の範囲内であった。
【0031】
[実験例3]
メープルサップ 83μLの常温蒸発乾固物の代わりにメープルシロップ 10μLを用いてインベルターゼ消化を行ったこと以外は実験例1と同様にしてキャピラリー電気泳動を行った。電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図3に示す。
【0032】
[実験例4]
メープルサップ 83μLの常温蒸発乾固物の代わりにメープルシロップ 10μLを用いたこと、および、インベルターゼ消化しないこと以外は実験例1と同様にしてキャピラリー電気泳動を行った。電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図4に示す。
【0033】
図3に示されるとおり、メープルシロップのインベルターゼ消化物のPMP誘導体を電気泳動して得られたエレクトロフェログラムには、オリゴ糖に相当する少なくとも3つのピークが明確に認められた(※1〜※3で示したピーク)。図3中の「※1」で示したピーク面積は、PMP誘導体化グルコースのピーク面積に対して、約8%であった。また、図4に示されるとおり、メープルシロップのインベルターゼ未消化物のPMP誘導体を電気泳動して得られたエレクトロフェログラムには、オリゴ糖に相当する少なくとも3つのピークが明確に認められた(※1〜※3で示したピーク)。図3の※1〜※3で示したピークはそれぞれ、図4の※1〜※3で示したピークと検出時間がほぼ一致していた。
【0034】
図3および4中のピーク「※1」に相当するPMP誘導体化オリゴ糖のPMP誘導体化グルコースに対する相対移動度を求めたところ、これらの相対移動度はともに−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の範囲内であった。また、図3および4中のピーク「※2」に相当するPMP誘導体化オリゴ糖のPMP誘導体化グルコースに対する相対移動度を求めたところ、これらの相対移動度はともに−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の範囲内であった。
【0035】
[実験例5]
メープルサップ 83μLの常温蒸発乾固物の代わりにメープルシュガー(メープルファームズジャパン社製、製造番号「201004」) 3.5mgを用いてインベルターゼ消化を行ったこと以外は実験例1と同様にしてキャピラリー電気泳動を行った。電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図5に示す。
【0036】
[実験例6]
メープルサップ 83μLの常温蒸発乾固物の代わりにメープルシュガー(メープルファームズジャパン社製、製造番号「201004」) 3.5mgを用いたこと、および、インベルターゼ消化しないこと以外は実験例1と同様にしてキャピラリー電気泳動を行った。電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図6に示す。
【0037】
図5に示されるとおり、メープルシュガーのインベルターゼ消化物のPMP誘導体を電気泳動して得られたエレクトロフェログラムには、オリゴ糖に相当する少なくとも3つのピークが明確に認められた(※1〜※3で示したピーク)。図5中の「※1」で示したピーク面積は、PMP誘導体化グルコースのピーク面積に対して、約7%であった。また、図6に示されるとおり、メープルシュガーのインベルターゼ未消化物のPMP誘導体を電気泳動して得られたエレクトロフェログラムには、オリゴ糖に相当する少なくとも3つのピークが明確に認められた(※1〜※3で示したピーク)。図5の※1〜※3で示したピークはそれぞれ、図6の※1〜※3で示したピークと検出時間がほぼ一致していた。
【0038】
図5および6中のピーク「※1」に相当するPMP誘導体化オリゴ糖のPMP誘導体化グルコースに対する相対移動度を求めたところ、これらの相対移動度はともに−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の範囲内であった。また、図5および6中のピーク「※2」に相当するPMP誘導体化オリゴ糖のPMP誘導体化グルコースに対する相対移動度を求めたところ、これらの相対移動度はともに−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の範囲内であった。
【0039】
[実験例7]
実験例1と同様にして得たメープルサップの分析試料、イソマルトペンタオース(Glcがα1−6結合した五糖)標品(生化学工業社製)のPMP誘導体、および、マルトースシリーズ(Glcがα1−4結合したオリゴ糖)(マルトヘプタオース(東京化成社製)、マルトテトラオース(シグマ社製)、およびマルトトリオース(和光純薬社製)を含む)標品のPMP誘導体を混合して得た試料を以下の条件でキャピラリー電気泳動に供した。該電気泳動で得られたエレクトロフェログラムを図7に示す。なお、図7中、GlcはPMP誘導体化グルコース、MalはPMP誘導体化マルトトリオース、MalはPMP誘導体化マルトテトラオース、IsomalはPMP誘導体化イソマルトペンタオース、Malは、PMP誘導体化マルトヘプタオースを表す。
[分析条件]
装置:キャピラリー電気泳動装置(大塚電子社製、製品名「CAPI−3100」)
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm、ジーエルサイエンス社製、製品名「Fused Silica Capillary Tubing」)
泳動溶液:50mMホウ酸緩衝液(pH10.5)
印加電圧:20kV
検出波長:245nm
試料導入:落差法(2.5cm×30sec)
分析温度:25℃
【0040】
図7に示されるとおり、イソマルトペンタオースおよびマルトースシリーズ標品のPMP誘導体はすべて重合度が大きい順に検出され、メープルサップインベルターゼ消化物由来のオリゴ糖のピーク(「※」で示す)はイソマルトペンタオース(五糖)のピークとマルトテトラオース(四糖)のピークとの間に検出された。重合度が同じであるマルトースシリーズのオリゴ糖とイソマルトシリーズのオリゴ糖とでは、イソマルトシリーズのオリゴ糖の方が大きい泳動速度を有することを考慮すると、「※」のピークは四糖または五糖のオリゴ糖に相当することが予測される。したがって、インベルターゼ未消化のメープルサップは、末端にフルクトースを有し、五糖または六糖であるオリゴ糖を含むと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法によって得られるオリゴ糖は、安全性が高く、整腸作用、保湿作用等の高い機能性が期待されることから、飲食品、化粧品、飼料等の分野において好適に利用され得る。また、メープルシロップおよびメープルシュガーの風味に寄与することが期待されることから、飲食品の分野において特に好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カエデ科カエデ属樹木の樹液からオリゴ糖を採取する工程を含む、オリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
前記カエデ科カエデ属樹木が、サトウカエデ、イタヤカエデ、クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤマモミジ、およびノルウェーカエデからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹液が濃縮樹液である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記濃縮樹液が、メープルシロップおよび/またはメープルシュガーである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記採取されるオリゴ糖が、末端にフルクトースを有するオリゴ糖を含む、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化後、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
【請求項7】
前記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化後、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
【請求項8】
前記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化することなく、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−3.2〜−2.9cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃
【請求項9】
前記採取されるオリゴ糖が、インベルターゼ消化することなく、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化して下記泳動条件でキャピラリー電気泳動に供したときに、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン誘導体化グルコースに対して−2.5〜−2.1cmmin−1kV−1の相対移動度を有するオリゴ糖を含む、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
[泳動条件]
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62cm、有効長50cm)
印加電圧 :15kV
泳動溶液 :200mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
分析温度 :25℃



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−46618(P2011−46618A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194235(P2009−194235)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(595148981)株式会社メープルファームズジャパン (1)
【Fターム(参考)】