説明

オレフィンオキシドの製造方法

オレフィン及び酸素を含有する供給物を、銀含有触媒の存在下で反応させることが含まれ、触媒が、老化の進んだ段階に達する前に、反応温度が255℃よりも高く、供給物のオレフィン含有量が、全供給物に対して25モル%よりも高い、オレフィンオキシドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンオキシド、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンエポキシ化に於いて、オレフィンを、通常、担体の上に一緒に析出された1種又は2種以上の更なる元素と共に、銀成分を含有する触媒を使用して、酸素と反応させて、オレフィンエポキシドを生成させる。オレフィンオキシドを、水、アルコール又はアミンと反応させて、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンを生成させることができる。従って、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルおよびアルカノールアミンは、オレフィンエポキシ化及び生成したオレフィンオキシドを水、アルコール又はアミンによって転化させることを含む多工程方法に於いて製造することができる。
【0003】
エポキシ化方法の性能は、選択率、触媒活性及び運転の安定性に基づいて評価することができる。選択率は、所望のオレフィンオキシドを生成する、転化したオレフィンのモル分率である。触媒は、通常の運転の間に老化関連性能低下を受ける。老化は、触媒の活性に於ける低下によって、これ自体明らかになる。通常、触媒の活性に於ける低下が明らかになるとき、活性に於ける低下を補償するために、反応温度を上昇させるけれども、選択率が犠牲になる。新しい触媒の典型的な運転に於いて、この方法は、最高255℃の反応温度で運転される。触媒老化の際に、反応温度は、反応温度が望ましくなく高くなるまで、255℃よりも実質的に高い値にまで、徐々に上昇され、この時点で、触媒はこの寿命の終点であると見なされ、交換することになる。経済的観点から、触媒の性能を改良し、この寿命をできるだけ延長することが非常に望ましいことは言うまでもない。長期間に亘る選択率の維持に於ける全く適度な改良は、オレフィンエポキシ化方法に於ける効率の項目に於いて、応用可能な場合に、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンの製造のための全体方法に於いて、巨大な利益を生み出す。
【0004】
従って、数十年間に亘る多くの研究は、触媒の活性、選択率及び寿命を改良すること並びに触媒性能を完全に利用することができる方法条件を見出すことに向けられてきた。
【0005】
有機ハロゲン化物、例えばクロロ炭化水素を、選択率を上昇させるための反応改質剤として、エポキシ化反応器への供給物に添加することができる。この反応改質剤は、オレフィンオキシドの望ましい生成に比較して、望ましくないオレフィン又はオレフィンオキシドの二酸化炭素及び水への酸化を抑制する。
【0006】
米国特許第A4,766,105号明細書及び米国特許第A4,761,394号明細書には、オレフィンエポキシ化の選択率を上昇させる効果で、銀含有触媒に於ける更なる元素としてレニウムを使用できることが開示されている。
【0007】
米国特許第B6,372,925号明細書及び国際特許出願公開第01/96324号明細書には、改良された選択率を示す触媒、例えば、米国特許第A4,766,105号明細書及び米国特許第A4,761,394号明細書から公知である触媒で運転するとき、触媒が老化の一定段階に達したとき、供給物のエチレン含有量を増加させることが有利であることが教示されている。増加したエチレン含有量は、エチレンオキシドへのエチレンの転化の選択率を実質的に改良する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既に達成された改良にもかかわらず、オレフィンオキシド、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンの製造に於いて、銀含有触媒の性能を更に改良するための要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、オレフィンオキシドの製造方法であって、方法に、オレフィン及び酸素を含有する供給物を、担持された銀含有触媒の存在下で反応させることが含まれ、触媒が、老化の進んだ段階に達する前に、反応温度が255℃よりも高く、供給物のオレフィン含有量が、全供給物に対して25モル%よりも高い方法を提供する。
【0010】
本発明は、また、オレフィンオキシドの製造方法であって、方法に、オレフィン及び酸素を含有する供給物を、255℃よりも高い反応温度及び全供給物に対して25モル%よりも高い供給物のオレフィン含有量で、老化の進んだ段階に達していない銀含有触媒の存在下で反応させることが含まれる方法を提供する。
【0011】
本発明は、また、オレフィンオキシドを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンに転化することからなる、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンを製造するためのオレフィンオキシドの使用方法であって、オレフィンオキシドが本発明に従った方法によって得られたものである方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に従って、新しい触媒を、比較的高い温度、即ち255℃よりも上で使用するとき、特に活性、選択率及び老化関連性能低下が、供給物のオレフィン含有量を増加させるとき改良される。このような改良は、触媒を比較的低い温度で使用するとき、明らかにならなかった。
【0013】
これは、米国特許第B6,372,925号明細書及び国際特許出願公開第01/96324号明細書の教示によって自明ではない。これらの文書には、最高255℃のこれらの典型的な使用温度での新しい触媒の性能及び255℃よりも高いこれらの典型的な使用温度での老化した触媒の性能が示されている。これらの文書には、255℃よりも高い反応温度での新しい触媒の性能については何も記載されていない。
【0014】
本明細書で使用されるとき、触媒の「老化の進んだ段階」は、触媒床1m当たり、少なくとも10,000キロモル、特に少なくとも5000キロモル、更に特に少なくとも2000キロモル、最も特に少なくとも1000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造によって定義される。本明細書で使用されるとき、「新しい触媒」は、この製造若しくは再生直後の触媒又は運転の過程中で未だ老化の進んだ段階に達していない触媒を意味する。
【0015】
本発明のエポキシ化方法は、多くの方式で実施することができるけれども、これを、気相方法、即ち、供給物を、気相中で、典型的に充填床内で、固体物質として存在する触媒と接触させる方法として実施することが好ましい。一般的に、この方法は、連続式方法として実施される。
【0016】
本発明のエポキシ化方法に於いて使用するためのオレフィンは、芳香族オレフィン、例えばスチレン又は共役しているか若しくは共役していないジオレフィン、例えば1,9−デカジエン若しくは1,3−ブタジエンのような、どのようなオレフィンであってもよい。典型的に、このオレフィンは、モノオレフィン、例えば、2−ブテン又はイソブテンである。好ましくは、このオレフィンは、モノ−α−オレフィン、例えば1−ブテン又はプロピレンである。最も好ましいオレフィンはエチレンである。
【0017】
供給物中のオレフィン含有量は、全供給物に対して、25モル%よりも高い、典型的に少なくとも30モル%、更に典型的に少なくとも35モル%である。典型的に、供給物中のオレフィン含有量は、全供給物に対して、最高80モル%、更に典型的に最高70モル%である。好ましい実施態様に於いて、とりわけ、供給物のオレフィン含有量は、触媒が、老化して進んだ段階に達したとき、少なくとも25モル%、典型的に少なくとも30モル%、更に典型的に少なくとも35モル%の値で維持される。また、老化の進んだ段階で、供給物のオレフィン含有量は、全供給物に対して、典型的に最高80モル%、更に典型的に最高70モル%である。典型的に、供給物中のオレフィン含有量は、好ましくは、触媒の寿命の終わり、即ち、触媒が交換及び/又は再生される時まで、少なくとも、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモル、更に典型的に少なくとも5000キロモル、最も典型的に少なくとも10,000キロモルのオレフィンオキシドのオレフィンオキシド製造を実施するために十分である期間、規定されたような値で維持される。本明細書で使用されるとき、供給物は、触媒と接触される組成物であると考えられる。
【0018】
オレフィンの対応するオレフィンオキシドへの直接酸化は、空気系又は酸素系であってよい。「カーク−オスマーの化学技術百科事典(Kirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology)」、第3版、第9巻(1980年版)第445−447頁参照。空気系方法に於いては、空気又は酸素で富化された空気が、システムに直接供給され、一方、酸素系方法に於いては、高純度(95モル%以上)酸素が、酸化剤の源泉として使用される。現在、殆どのエチレンオキシド生産プラントは酸素系であり、これは本発明の好ましい実施態様である。
【0019】
供給物の酸素含有量は、全供給物に対して、3から20モル%、好ましくは5から12モル%の広い範囲内である。
【0020】
反応混合物の燃焼限界の外に留めるために、供給物の酸素含有量は、通常、オレフィン含有量とバランスされる。実際の安全運転範囲は、ガス組成(反応剤及びバランスガス)と共に、温度及び圧力のような個々のプラント条件にも依存する。
【0021】
オレフィン及び酸素に加えて、供給物には、1種又は2種以上の任意の成分、例えば、二酸化炭素、反応改質剤及びバランス不活性ガスが含有されていてよい。
【0022】
二酸化炭素は、オレフィン酸化方法の副生物である。しばしば、未転化のオレフィンは、連続的に再循環され、また15モル%の過剰で多い供給物中の二酸化炭素の含有量は、触媒活性に悪影響を有するので、二酸化炭素の蓄積は、再循環ガスから二酸化炭素を連続的に除去することによって回避されるであろう。これは、生成した二酸化炭素を排気することにより及び生成した二酸化炭素の連続的吸収により行うことができる。現在、1モル%のように低い、例えば、0.5から1モル%の範囲内の二酸化炭素の含有量が実際的であり、将来は、もっと低い含有量に達するであろう。本発明の方法は、反応混合物中の二酸化炭素の存在又は不存在に無関係である。
【0023】
選択率を上昇させ、オレフィン及びオレフィンオキシドの、二酸化炭素及び水への望ましくない酸化を抑制するために、反応改質剤を供給物に添加することができる。多くの有機化合物、特に有機ハロゲン化物、更にアミン、有機金属化合物及び芳香族炭化水素が、これに関して有効であることが公知である。有機ハロゲン化物は好ましい反応改質剤であり、これらは、全供給物に対して、0.1から25ppmv(体積で100万当たりの部)、特に0.3から20ppmvの範囲内の量で使用されるとき、所望の反応を抑制することなく有効である。使用する銀含有触媒に依存して、供給物の反応改質剤含有量は、最高達成可能選択率を維持すべき場合、運転の間に時々最適化することができる。好ましい有機ハロゲン化物は、C−Cのクロロ炭化水素又はブロモ炭化水素である。更に好ましくは、これらは、塩化メチル、塩化エチル、二塩化エチレン、二臭化エチレン、塩化ビニル又はこれらの混合物の群から選択される。最も好ましくは、反応改質剤は、塩化エチル及び二塩化エチレンである。
【0024】
通常供給物中に存在するバランス不活性ガスには、例えば、窒素、アルゴン及び/又は飽和炭化水素、例えばメタン若しくはエタンが含まれる。未転化のオレフィンが連続的に再循環され、酸素が添加されるとき、バランスガスの蓄積は回避される。本発明の方法は、反応混合物中のバランス不活性ガスの量に無関係である。
【0025】
「GHSV」又は時間基準の気体空間速度は、1時間当たり充填された触媒の1単位体積の上を通過する、標準温度及び圧力(0℃、1気圧、即ち101.3kPa)での気体の単位体積である。好ましくは、方法を気相方法として実施する場合、GHSVは、1500から10000の範囲内である。反応器入口圧力は、好ましくは、1000から3500kPaの範囲内である。
【0026】
反応温度は、典型的に少なくとも260℃、更に典型的に少なくとも265℃、最も典型的に少なくとも270℃である。反応温度は、典型的に最高325℃、更に典型的に最高310℃である。好ましい実施態様に於いて、とりわけ、反応温度は、触媒が老化の進んだ段階に達したとき、255℃よりも高い、典型的に少なくとも260℃、更に典型的に少なくとも265℃、最も典型的に少なくとも270℃の値で維持される。また、老化の進んだ段階で、反応温度は、典型的に最高325℃、更に典型的に最高310℃である。典型的に、反応温度は、少なくとも、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモル、更に典型的に少なくとも5000キロモル、最も典型的に少なくとも10,000キロモルのオレフィンオキシドのオレフィンオキシド製造を実施するために十分である期間、好ましくは、触媒の寿命の終わり、即ち、触媒が交換及び/又は再生される時まで、規定されたような値で維持される。
【0027】
本発明の方法は、当該技術分野で、例えば、米国特許第A4,874,879号明細書及び米国特許第5,155,242号明細書(本明細書中に参考として援用されている)から公知である手順を使用することによって始動させることができる。始動期を通過した後及び触媒が老化の進んだ段階に達する前の幾つかの時点で、触媒を、本発明に従って規定されたような反応温度及び供給物のオレフィン含有量の条件に、触媒が老化の進んだ段階に達するまで、付すことができる。これに関連して、触媒の老化の段階は、例えば、存在すれば、始動手順の間のオレフィンオキシド生産を含む、生産されたオレフィンオキシドの全量を基準にして考慮される。
【0028】
担持された銀含有触媒の担体の材料は、オレフィン酸化供給物、生成物の存在及び反応条件下で不活性であると考えられる、広範囲の一般的な材料から選択することができる。このような一般的な材料は、天然物又は人工物であってよく、これらには、酸化アルミニウム、マグネシア、ジルコニア、シリカ、炭化ケイ素、クレー、軽石、ゼオライト及び活性炭が含まれてよい。α−アルミナが、多孔質担体の主成分として使用するための最も好ましい材料である。
【0029】
この担体は、典型的に多孔質であり、好ましくは、B.E.T.法によって測定したとき、20m/g未満、特に0.05から20m/gの表面積を有する。好ましくは、担体のB.E.T.表面積は、0.1から10m/g、更に好ましくは0.1から3.0m/gの範囲内である。表面積のB.E.T.測定法は、Brunauer、Emmet及びTellerにより、J.Am.Chem.Soc.、第60巻(1938年)第309−316頁に詳細に記載されている。
【0030】
この触媒には、触媒的活性金属として銀が含有されている。かなりの程度の触媒活性は、触媒の重量に対して、少なくとも10g/kgの触媒の銀含有量を使用することによって得られる。好ましくは、この触媒には、触媒の重量に対して、50から500g/kg、更に好ましくは100から400g/kgの量で銀が含有されている。
【0031】
この触媒には、好ましくは、銀に加えて、更なる元素又はこの化合物が含有されている。適格な更なる元素は、窒素、硫黄、リン、ホウ素、フッ素、第IA族金属、第IIA族金属、レニウム、モリブデン、タングステン、クロム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、タリウム、トリウム、タンタル、ニオブ、ガリウム及びゲルマニウム並びにこれらの混合物の群から選択できる。好ましくは、第IA族金属は、リチウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選択される。最も好ましくは、第IA族金属は、リチウム、カリウム及び/又はセシウムである。好ましくは、第IIA族金属は、カルシウム及びバリウムから選択される。典型的に、更なる元素は、全触媒上の元素として計算して、0.01から500ミリモル/kg、更に典型的に0.05から100ミリモル/kgの量で触媒中に存在する。可能な場合、更なる元素は、適切には、塩又は酸形中の、オキシアニオン、例えば、過レニウム酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ホウ酸塩又はモリブデン酸塩として提供されてよい。第IA族金属又は第IIA族金属の塩が適している。
【0032】
好ましくは、銀含有触媒は、新しく運転するとき、260℃で、少なくとも6/7又は85.7モル%、更に好ましくは88モル%、最も好ましくは89モル%の、ゼロ酸素転化での理論的選択率、Sを示すものである。与えられた触媒についてのSの値は、260℃で、一定の酸素転化の範囲で、選択率値Sと酸素転化率の相関を求める運転をすることによって見出される。次いで、これらの値Sを、一般的な曲線当てはめアルゴリズムの使用により、ゼロ酸素転化でのSの理論値に外挿される。
【0033】
本発明に於いて使用するための、好ましい担持された高い選択性の銀含有触媒は、レニウム含有触媒である。このような触媒は、米国特許第A4,766,105号明細書及び米国特許第A4,761,394号明細書(これらは本明細書中に参考として援用されている)から公知である。概略で、これらの触媒には、触媒的有効量の銀、促進量のレニウム又はこの化合物、促進量の少なくとも1種の更なる金属又はこの化合物並びに任意に、共促進量の、タングステン、モリブデン、クロム、硫黄、リン、ホウ素及びこれらの化合物から選択されたレニウム共促進剤が含有されている。更に特に、これらのレニウム含有触媒の少なくとも1種の更なる金属は、第IA族金属、第IIA族金属、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、タリウム、トリウム、タンタル、ニオブ、ガリウム及びゲルマニウム並びにこれらの混合物の群から選択される。好ましくは、少なくとも1種の更なる金属は、リチウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムのような第IA族金属並びに/又はカルシウム及びバリウムのような第IIA族金属から選択される。最も好ましくは、これはリチウム、カリウム及び/又はセシウムである。
【0034】
これらのレニウム含有触媒の成分の好ましい量は、全触媒上の元素として計算したとき、
10から500g/kg、更に好ましくは10から400g/kgの銀、
0.01から50ミリモル/kgのレニウム、
10から3000mg/kgの更なる金属又は金属群及び
0.1から10ミリモル/kgの任意のレニウム共促進剤
である。
【0035】
更に好ましくは、これらの触媒のレニウム含有量は、全触媒上の元素として計算したとき、少なくとも0.5ミリモル/kg、特に少なくとも1.0ミリモル/kg、更に特に少なくとも1.5ミリモル/kgである。更に好ましくは、これらの触媒のレニウム含有量は、全触媒上の元素として計算したとき、最高40ミリモル/kgである。代わりに、これらの触媒のレニウム含有量は、担体の表面積に対して表したとき、好ましくは少なくとも0.0005ミリモル/m、特に少なくとも0.001ミリモル/m、更に特に少なくとも0.0015ミリモル/mである。好ましくは、これらの触媒のレニウム含有量は、担体の表面積に対して、最高0.1ミリモル/m、更に好ましくは最高0.05ミリモル/mである。
【0036】
本明細書で使用されるとき、触媒中に存在する第IA族金属の量は、これが、100℃で脱イオン水によって触媒から抽出され得る限りの量であると考えられる。この抽出方法には、10グラムの触媒のサンプルを、これを各20mLの脱イオン水中で100℃で5分間加熱することによって、3回抽出し、一緒にした抽出液中で、公知の方法、例えば原子吸光分析法を使用することによって、関係している金属を測定することが含まれる。
【0037】
本明細書で使用されるとき、触媒中に存在する第IIA族金属の量は、これが、100℃で脱イオン水中の10重量%硝酸によって触媒から抽出され得る限りの量であると考えられる。この抽出方法には、10グラムの触媒のサンプルを、これを100mLの10重量%硝酸と共に30分間(1気圧、即ち101.3kPa)沸騰させることによって抽出し、一緒にした抽出液中で、公知の方法、例えば原子吸光分析法を使用することによって、関係している金属を測定することが含まれる。米国特許第A5,801,259号明細書(本明細書中に参考として援用されている)が参照される。
【0038】
製造されたオレフィンオキシドは、当該技術分野で公知の方法、例えば、オレフィンオキシドを水中に吸収させ、任意に蒸留によって水溶液からオレフィンオキシドを回収することによって、回収することができる。オレフィンオキシドを含有する水溶液の少なくとも一部を、オレフィンオキシドを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンに転化するための次の方法に適用することができる。
【0039】
このエポキシ化方法で製造されたオレフィンオキシドを、1,2−ジオールに、1,2−ジオールエーテルに又はアルカノールアミンに転化させることができる。
【0040】
1,2−ジオール又は1,2−ジオールエーテルへの転化には、例えば、適切には酸性又は塩基性触媒を使用して、オレフィンオキシドを水と反応させることが含まれる。例えば、主として1,2−ジオール及びより少ない1,2−ジオールエーテルを製造するために、オレフィンオキシドを、10倍モル過剰の水と、液相反応中で、酸触媒、例えば全反応混合物基準で0.5から1.0重量%の硫酸の存在下で、50から70℃で1バール(0.1MPa)絶対圧で又は気相反応中で、130から240℃及び20から40バール(2.0〜4.0MPa)絶対圧で、好ましくは触媒の不存在下で反応させることができる。水の比率を低下させると、反応混合物中の1,2−ジオールエーテルの比率が増加する。このようにして製造された1,2−ジオールエーテルは、ジエーテル、トリエーテル、テトラエーテル又はより以上のエーテルであってよい。交互1,2−ジオールエーテルは、オレフィンオキシドを、アルコール、特に第一級アルコール、例えばメタノール又はエタノールと共に、水の少なくとも一部をアルコールによって置き換えることによって転化させることによって製造することができる。
【0041】
アルカノールアミンへの転化には、オレフィンを、アミン、例えばアンモニア、アルキルアミン又はジアルキルアミンと反応させることが含まれてよい。無水アンモニア又はアンモニア水溶液を使用することができる。モノアルカノールアミンの製造を有利にするために、無水アンモニアが典型的に使用される。オレフィンオキシドのアルカノールアミンへの転化に適用可能な方法について、例えば、米国特許第A4,845,296号明細書(本明細書中に参考として援用されている)を参照することができる。
【0042】
1,2−ジオール及び1,2−ジオールエーテルは、多くの種々の工業的応用、例えば、食品、飲料、煙草、化粧品、熱可塑性ポリマー、硬化性樹脂系、洗剤、熱移動系などの分野に於いて使用することができる。アルカノールアミンは、例えば、天然ガスの処理(「スイートニング」)に於いて使用することができる。
【0043】
他の方法で特定しない限り、本明細書に記載した有機化合物、例えば、オレフィン、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、アルカノールアミン及び有機ハロゲン化物は、典型的に、最大40個の炭素原子、更に典型的に最大20個の炭素原子、特に最大10個の炭素原子、更に特に最大6個の炭素原子を有する。本明細書に於いて定義されるとき、炭素原子の数(即ち、炭素数)についての範囲には、範囲の限界について特定された数が含まれる。
【0044】
本発明を一般的に記載して、更なる理解を、例示のみの目的のために示され、他の方法で特定されない限り限定であることを意図しない、下記の実施例を参照することによって得ることができる。
【0045】
(実施例1から5)
(比較のための実施例1,本発明に従った実施例2から5)
銀、レニウム及びレニウム共促進剤を含有し、新しい状態で、93%の260℃での理論的選択率Sを有する、米国特許第A4,766,105号明細書で定義されたような触媒を使用して、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを製造した。これを行うために、粉砕した触媒(0.8から1.4mm)の2.1gのサンプルを、ステンレススチールU字形チューブの中にそれぞれ装入した。このチューブを、溶融金属浴(熱媒体)の中に浸漬し、端部をガス流システムに連結した。供給物の流量は、未粉砕触媒について計算したとき、15,200NL/(L・時)の時間基準の気体空間速度を与えるように調節した。流量は、35.7NL/時であった。入口圧力は、1450kPaであった。
【0046】
「1回通過」運転で触媒床を貫通した供給物は、エチレン、酸素、3モル%の二酸化炭素、2.0から6.0ppmvの塩化エチル及びバランス窒素からなっていた。それぞれの実施例に於いて、オレフィン及び酸素の異なった含有量を選択し、酸素含有量は、可燃性条件を回避可能と考えられる最高であるようにした。
【0047】
最初の反応器温度は225℃であり、これを1時間当たり10℃の速度で245℃まで勾配上昇させ、次いで、出口流中の2モル%の一定のエチレンオキシド含有量を達成するように調節した。エチレン/酸素含有量組合せのそれぞれについて、供給物の塩化エチレン含有量を、最適選択率を与えたレベルを同定するために変化させ、適用した。
【0048】
触媒の最初の性能データ(表I)が、触媒を合計で少なくとも1から2日間運転したあと得られた。出口流中の一定のエチレンオキシド含有量を達成するために必要な、より低い反応温度は、触媒のより高い活性についての指標である。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例6から10)
(比較のため)
未粉砕触媒について計算したとき、時間基準の気体空間速度が4,100NL/(L・時)であり、流速が9.6NL/時とした以外は、実施例1から5に於いて略述したような手順を繰り返した。
【0051】
触媒の最初の性能データ(表II)が、触媒を、合計で少なくとも1から2日間運転したあと得られた。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例2から5(本発明に従った)と比較実施例1との比較によって、方法を高温度、即ち255℃よりも高い温度で運転するとき、触媒の活性は、供給物中のオレフィン含有量が25モル%よりも高い値にまで漸進的に増加するとき、供給物中の他の反応剤である酸素の含有量が減少するにもかかわらず、漸進的により高くなることが示される。更に、選択率に於ける利得が達成される。比較実施例6から10によって、方法を、より低い温度で運転するとき、活性に於ける同様の増加が見られないことが示される。代わりに、活性は、オレフィン含有量の増加と共に低下する傾向にある。
【0054】
(実施例11)
(本発明に従った)
供給物中の酸素含有量が8モル%であり、未粉砕触媒について計算したとき、時間基準の気体空間速度が16,500NL/(L・時)であり、流速が38.6NL/時であり、出口流のエチレンオキシド含有量が1.8モル%とした以外は、実施例1から5に於いて略述したような手順を繰り返した。更に、触媒性能に於ける低下を、1800キロモル/mの累積エチレンオキシド(EO)製造を与える期間に亘って測定した。次いで、酸素含有量を変化させないで、供給物中のエチレン含有量を45モル%にまで増加させ、再び触媒性能に於ける低下を、1800キロモル/mの累積エチレンオキシド製造を与える期間に亘って測定した。
【0055】
この結果を表IIIに示す。
【0056】
実施例11(本発明に従った)は、方法を高温度、即ち、255℃よりも上で運転するとき、供給物中のオレフィン含有量がより高いとき、触媒は、この性能をより良く維持することを示している。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン及び酸素を含有する供給物を、銀含有触媒の存在下で反応させることが含まれ、触媒が、老化の進んだ段階に達する前に、反応温度が255℃よりも高く、供給物のオレフィン含有量が、全供給物に対して25モル%よりも高い、オレフィンオキシドの製造方法。
【請求項2】
オレフィンがエチレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
供給物のオレフィン含有量が、30から80モル%の範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
供給物のオレフィン含有量が、35から70モル%の範囲内である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
供給物中のオレフィン含有量を、少なくとも、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモルのオレフィンオキシドのオレフィンオキシド製造を実施するために十分である期間、規定されたような値で維持する、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応温度が260から325℃の範囲内である、請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応温度が270から310℃の範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応温度を、少なくとも、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモルのオレフィンオキシドのオレフィンオキシド製造を実施するために十分である期間、規定されたような値で維持する、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
触媒の「老化の進んだ段階」が、触媒床1m当たり、少なくとも10,000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造によって定義される、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
触媒の「老化の進んだ段階」が、触媒床1m当たり、少なくとも2000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造によって定義される、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
触媒の「老化の進んだ段階」が、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造によって定義される、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
触媒に、銀に加えて、レニウム又はこの化合物並びにタングステン、モリブデン、クロム、硫黄、リン、ホウ素及びこれらの化合物から選択されたレニウム共促進剤が含有されている、請求項1から11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
オレフィン及び酸素を含有する供給物を、255℃よりも高い反応温度及び全供給物に対して25モル%よりも高い供給物のオレフィン含有量で、老化の進んだ段階に達していない銀含有触媒の存在下で反応させることが含まれる、オレフィンオキシドの製造方法。
【請求項14】
オレフィンオキシドを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンに転化することを含む、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンを製造するためのオレフィンオキシドの使用方法であって、オレフィンオキシドが請求項1から13の何れか1項に記載の方法によって得られた方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン及び酸素を含有する供給物を、銀含有触媒の存在下で反応させることが含まれ、触媒床1m当たり、10,000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造に達する前に、反応温度が255℃よりも高く、供給物のオレフィン含有量が、全供給物に対して25モル%よりも高いから最高80モル%までの範囲内であり、反応温度を、少なくとも、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモルのオレフィンオキシドのオレフィンオキシド製造を実施するために十分である期間、規定されたような値で維持する、オレフィンオキシドの製造方法。
【請求項2】
オレフィンがエチレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
供給物のオレフィン含有量が、30から80モル%の範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
供給物のオレフィン含有量が、35から70モル%の範囲内である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
供給物中のオレフィン含有量を、少なくとも、触媒床1m当たり、少なくとも1000キロモルのオレフィンオキシドのオレフィンオキシド製造を実施するために十分である期間、規定されたような値で維持する、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応温度が260から325℃の範囲内である、請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応温度が270から310℃の範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応温度及びオレフィン含有量が、触媒床1m当たり、2000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造の前に、規定された通りである、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応温度及びオレフィン含有量が、触媒床1m当たり、1000キロモルのオレフィンオキシドの、累積的オレフィンオキシド製造の前に、規定された通りである、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
触媒に、銀に加えて、レニウム又はこの化合物並びにタングステン、モリブデン、クロム、硫黄、リン、ホウ素及びこれらの化合物から選択されたレニウム共促進剤が含有されている、請求項1から9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1項に記載のオレフィンオキシドの製造方法によって、オレフィンオキシドを得る工程及びこのオレフィンオキシドを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンに転化する工程を含む、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル又はアルカノールアミンの製造方法。

【公表番号】特表2006−522155(P2006−522155A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509711(P2006−509711)
【出願日】平成16年4月5日(2004.4.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/010457
【国際公開番号】WO2004/092148
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】