説明

オレフィンブロック共重合体、及びその製造方法

【課題】種々の有用な物性を示す、異なるセグメントが結合したブロック共重合体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】(i)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる重合体ブロックと、(ii)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる前記重合体ブロック(i)とは異なる重合体ブロック、とを含み、且任意の隣接重合体ブロックが相互に異なるオレフィンブロック共重合体であって、Mn(数平均分子量)が500以上であり、Mw/Mn(分子量分布)が1.5以下であることを特徴とするオレフィンブロック共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンブロック共重合体およびその重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なるセグメントが結合したブロック重合体は、種々の有用な物性を示すことから、学術的見地のみならず、工業的見地からも非常に重要である。
【0003】
そしてこのような特定の構造を有する重合体の製造方法として重合中に停止反応および連鎖移動反応が実質的に起きないリビング重合が有効な方法であることは一般に良く知られている。
【0004】
しかし上記のような特定の構造を有する重合体を製造する際に、オレフィン重合触媒として一般的なZieglar触媒やメタロセン触媒を用いて通常の条件で重合を行うと、成長するポリマー鎖の連鎖移動反応が頻発するため、リビング重合でオレフィン重合体を製造することは非常に困難であった。例えば既知の触媒系を用いてブロック共重合体などを合成しようとすると、ホモおよびランダムコポリマーの混合物が生成することが、分子量分布、組成分布などの解析により明らかにされている(Boor,「Zieglar−Natta Catalyst and Polymerization」、Academic Press社、1979年)。
【0005】
このような状況のもと、オレフィン類のブロック共重合を検討した例がいくつか報告されている。
【0006】
例えば特定のメタロセン触媒を用いる方法が提案されている(国際公開WO91/12285号公報、WO94/21700号公報など参照)。これらの方法でもやはり低活性で低温重合(−10℃〜0℃)が必須であり、重合温度を10℃に上げるだけで、ブロック化効率は10%未満まで低下することが記載されている。そのため工業的に通常用いられる重合温度(50℃〜75℃)でのブロック共重合体の製造は不可能である。さらに低温重合の場合でも、リビング重合性の指標である、ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.35以上と狭いといえず、十分に制御されたリビング重合とはなっていない。そのため生成物はほとんどの場合、多量のブロック化されていないポリマーが副生し、後処理工程で不要ポリマーを取り除く分別が必須となるなど工業的には多くの制約がある。
【0007】
このためもし工業的に製造可能な高い温度で、しかも高い重合活性でオレフィン類をリビング重合することのできる方法が出現すればその工業的価値は極めて大きい。
【0008】
このような状況のもと本出願人は、新しいオレフィン重合用触媒として、サリチルアルジミン配位子を有する遷移金属化合物を見出した。このサリチルアルジミン配位子を有する遷移金属化合物のうち、特定の構造を有するものを用いると、工業的に製造可能な高い温度で、従来知られているリビング重合と比較して非常に高い活性でリビング重合が進行し、ブロック共重合体の製造が可能であることを見出して本発明を完成するに至った。また、そのようなブロック共重合体の製造を効率よく行う方法を発明して、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】国際公開特許第91/12285号公報
【特許文献2】国際公開特許第94/21700号公報
【非特許文献1】Boor, “Ziegler-Natta Catalyst and Polymerization”, Academic Press社、1979年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち本発明は、種々の有用な物性を示す、異なるセグメントが結合したブロック共重合体を提供することを目的としている。また、本発明はこれらのオレフィン重合体の製造方法を提供することを目的としている。また、そのようなポリマーの製造を効率よく行う方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、(i)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる重合体ブロックと、(ii)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる前記重合体ブロック(i)とは異なる重合体ブロック、とを含み、且任意の隣接重合体ブロックが相互に異なるオレフィンブロック共重合体であって、Mn(数平均分子量)が500以上であり、Mw/Mn(分子量分布)が1.5以下であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のオレフィンブロック共重合体は、重合体ブロックが、(a)エチレンから得られる重合体ブロック、および(b)エチレンと、炭素原子数13〜50のα−オレフィンから得られるランダム共重合体ブロックであることを特徴としている。
【0012】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物と、
(B)(B−1) 有機金属化合物、
(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物、および
(B−3) 遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、とからなることを特徴とするオレフィン重合用触媒により重合されることを特徴としている。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Mはチタン原子を示し、mは、1〜2の整数を示し、Rは、炭素数1〜30のフッ素含有炭化水素基を示し、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、水素原子または炭化水素置換シリル基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、Rは、水素、脂肪族炭化水素基、単環性の脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基の4種の基から選ばれる基を示し、また、mが2の場合にはR〜Rで示される基のうち2個の基が連結されていてもよく、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体の製造方法では、α−オレフィンを多く含有するセグメントを有する分子量分布の狭いオレフィンブロック共重合体を効率よく得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明におけるオレフィン重合用触媒およびこの触媒を用いたオレフィンの重合方法について具体的に説明する。
【0017】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、(i)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる重合体ブロックと、(ii)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる前記重合体ブロック(i)とは異なる重合体ブロック、とを含み、且任意の隣接重合体ブロックが相互に異なるオレフィンブロック共重合体である。
【0018】
また、本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、Mn(数平均分子量)が500以上、であり、Mw/Mn(分子量分布)が1.5以下、好ましくは1.3以下である。
【0019】
また、本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、重合体ブロックが、(a)エチレンから得られる重合体ブロック、および(b)エチレンと、炭素原子数13〜50のα−オレフィンから得られるランダム共重合体ブロックである。
【0020】
また、本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、ジブロック共重合体であることが好ましい。
【0021】
また、前記重合体ブロック(b)としては、エチレンと、炭素原子数13〜20のα−オレフィンから選ばれる1種のα−オレフィンから得られることが好ましい。
【0022】
このようなオレフィンブロック共重合体は、成型性、引っ張り強度、耐ブロッキング性、弾力性、剛性、造膜性に優れているため、フィルム、シート、ブロー成型品などの各種成型材、相溶化剤や改質剤などの各種添加剤、塗料や接着剤などの用途に好適に用いられる。
【0023】
また、本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物と、
(B)(B−1) 有機金属化合物、
(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物、および
(B−3) 遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、とからなることを特徴とするオレフィン重合用触媒により重合されることを特徴としている。
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、Mはチタン原子を示し、mは、1〜2の整数を示し、Rは、炭素数1〜30のフッ素含有炭化水素基を示し、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、水素原子または炭化水素置換シリル基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、Rは、水素、脂肪族炭化水素基、単環性の脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基の4種の基から選ばれる基を示し、また、mが2の場合にはR〜Rで示される基のうち2個の基が連結されていてもよく、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)
[(A) 遷移金属化合物 ]
本発明で用いられる(A)遷移金属化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0026】
【化3】

【0027】
(なお、N……Mは、一般的には配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。)
一般式(I)中、Mはチタン原子である。
【0028】
mは、1〜2の整数を示し、好ましくは2である。Rは、炭素数1〜30のフッ素含有炭化水素基を示し、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、水素原子または炭化水素置換シリル基を示し、Rは、水素、脂肪族炭化水素基、単環性の脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基の4種の基から選ばれる基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。
【0029】
の炭素数1〜30のフッ素含有炭化水素基として、具体的にはトリフルオロメチル、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロペンチル、パーフルオロヘキシル、モノフルオロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロフェニル、テトラフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、(トリフルオロメチル)フェニル、トリフルオロメチルフェニル、ビス(トリフルオロメチル)フェニル、トリス(トリフルオロメチル)フェニル、テトラキス(トリフルオロメチル)フェニル、ペンタキス(トリフルオロメチル)フェニル、(トリフルオロメチル)テトラフルオロフェニル、パーフルオロエチルフェニル、ビス(パーフルオロエチル)フェニル、パーフルオロプロピルフェニル、パーフルオロブチルフェニル、パーフルオロペンチルフェニル、パーフルオロヘキシルフェニル、ビス(パーフルオロヘキシル)フェニル、パーフルオロナフチル、パーフルオロフェナントレニル、パーフルオロアントラセニル、などが挙げられる。
【0030】
好ましくは、Rはフッ素置換基またはフッ素含有炭化水素置換基を有する炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、具体的にはモノフルオロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロフェニル、テトラフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、(トリフルオロメチル)フェニル、トリフルオロメチルフェニル、ビス(トリフルオロメチル)フェニル、トリス(トリフルオロメチル)フェニル、テトラキス(トリフルオロメチル)フェニル、ペンタキス(トリフルオロメチル)フェニル、(トリフルオロメチル)テトラフルオロフェニル、パーフルオロエチルフェニル、ビス(パーフルオロエチル)フェニル、パーフルオロプロピルフェニル、パーフルオロブチルフェニル、パーフルオロペンチルフェニル、パーフルオロヘキシルフェニル、ビス(パーフルオロヘキシル)フェニル、パーフルオロナフチル、パーフルオロフェナントレニル、パーフルオロアントラセニル、などが挙げられる。
【0031】
より好ましくは、Rはフッ素置換基またはフッ素含有炭化水素置換基からなる群より選ばれる置換基を2つ以上有する炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、具体的にはジフルオロフェニル、トリフルオロフェニル、テトラフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、(トリフルオロメチル)フェニル、ビス(トリフルオロメチル)フェニル、トリス(トリフルオロメチル)フェニル、テトラキス(トリフルオロメチル)フェニル、ペンタキス(トリフルオロメチル)フェニル、(トリフルオロメチル)テトラフルオロフェニル、ビス(パーフルオロエチル)フェニル、ビス(パーフルオロヘキシル)フェニル、などが挙げられる。
【0032】
特に好ましくは、Rは、ジフルオロフェニル基またはトリフルオロフェニル基またはテトラフルオロフェニル基またはペンタフルオロフェニル基または(トリフルオロメチル)テトラフルオロフェニル、である。この場合、2,6−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4−(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−テトラフルオロフェニルなどを具体的に例示できる。
【0033】
〜Rの炭化水素基としては、例えば炭素数1〜30のものが挙げられる。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ネオペンチル、n−ヘキシルなどの炭素原子数が1〜30、好ましくは1〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基;ビニル、アリル、i−プロペニルなどの炭素原子数が2〜30、好ましくは2〜50の直鎖状または分岐状のアルケニル基;エチニル、プロパルギルなど炭素原子数が2〜30、好ましくは2〜50の直鎖状または分岐状のアルキニル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの炭素原子数が3〜30、好ましくは3〜20の環状飽和炭化水素基;シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニルなどの炭素数5〜30の環状不飽和炭化水素基;フェニル、ベンジル、ナフチル、ビフェニル、ターフェニル、フェナントリル、アントラセニルなどの炭素原子数が6〜30、好ましくは6〜20のアリール基;トリル、i−プロピルフェニル、t−ブチルフェニル、ジメチルフェニル、ジ−t−ブチルフェニルなどのアルキル置換アリール基などが挙げられる。
【0034】
また、上記炭化水素基は、他の炭化水素基で置換されていてもよく、例えば、ベンジル、クミルなどのアリール基置換アルキル基などが挙げられる。
【0035】
〜Rの炭化水素置換シリル基としては、例えば炭素数の合計が1〜30の基を挙げられる。具体的には、メチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、エチルシリル、ジエチルシリル、トリエチルシリル、ジフェニルメチルシリル、トリフェニルシリル、ジメチルフェニルシリル、ジメチル−t−ブチルシリル、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリルなどが挙げられる。これらの中では、メチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、エチルシリル、ジエチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、トリフェニルシリルなどが好ましい。特にトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリフェニルシリル、ジメチルフェニルシリルが好ましい。
【0036】
の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素数1〜4のものが挙げられる。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルなどの炭素原子数が1〜4、好ましくは1〜3の直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0037】
の単環性の脂環族炭化水素基としては、例えば炭素数3〜30のものが挙げられる。具体的には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチルなどの炭素原子数が3〜30、好ましくは3〜8の単環性の炭化水素基などが挙げられる。
【0038】
の芳香族炭化水素基としては、例えば炭素数6〜30のものが挙げられる。具体的には、フェニル、ナフチル、ビフェニリル、トリフェニリル、フルオレニル、アントラニル、フェナントリルなどの炭素原子数が6〜30の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0039】
nは、Mの価数を満たす数であり、具体的には2〜4の整数であり、好ましくは2である。
【0040】
Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示す。なお、nが2以上の場合には、Xで示される複数の基は互いに同一であっても、異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0041】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0042】
炭化水素基としては、前記R〜Rで例示したものと同様のものが挙げられる。具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、アイコシルなどのアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの炭素原子数が3〜30のシクロアルキル基;ビニル、プロペニル、シクロヘキセニルなどのアルケニル基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピルなどのアリールアルキル基;フェニル、トリル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ビフェニル、ナフチル、メチルナフチル、アントリル、フェナントリルなどのアリール基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの炭化水素基には、ハロゲン化炭化水素、具体的には炭素原子数1〜20の炭化水素基の少なくとも一つの水素がハロゲンに置換した基も含まれる。
【0043】
酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、ヘテロ環式化合物残基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基として具体的には、特開2004−002640号公報記載の化合物が挙げられる。
【0044】
本発明で用いられる遷移金属化合物(A)の好ましい構造としては、前記一般式(I)Mがチタン原子であり、mが2であり、Rが少なくとも2つ以上のフッ素置換基を有する炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であることが好ましい。また、Rがジフルオロフェニル基またはトリフルオロフェニル基またはテトラフルオロフェニル基またはペンタフルオロフェニル基であり、Rが1〜3の直鎖状または分岐状のアルキル基または3〜8の単環性の炭化水素基または炭素原子数が6〜30の芳香族炭化水素基であることが特に好ましい。
【0045】
以下に、上記一般式(I)で表される遷移金属化合物の具体的な例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0046】
【化4】

【0047】
なお、上記例示中、Meはメチル基を、Etはエチル基を、Prはプロピル基を、Buはブチル基を、Phはフェニル基を示す。
【0048】
このような遷移金属化合物(A)の製造方法は、特に限定されることなく、例えば以下のようにして製造することができる。
【0049】
まず、遷移金属化合物(A)を構成する配位子は、サリチルアルデヒド類化合物を、式R−NHの第1級アミン類化合物(Rは前記と同義である。)、例えば、アニリン類化合物またはアルキルアミン類化合物と反応させることにより得られる。具体的には、両方の出発化合物を溶媒に溶解する。溶媒としては、このような反応に一般的なものを使用できるが、なかでもメタノール、エタノール等のアルコール溶媒、またはトルエン等の炭化水素溶媒が好ましい。次いで、得られた溶液を室温から還流条件で、約1〜48時間撹拌すると、対応する配位子が良好な収率で得られる。配位子化合物を合成する際、触媒として、蟻酸、酢酸、トルエンスルホン酸等の酸触媒を用いてもよい。また、脱水剤として、モレキュラシーブス、硫酸マグネシウムまたは硫酸ナトリウムを用いたり、ディーンシュタークトラップにより脱水を行うと、反応進行に効果的である。
【0050】
次に、こうして得られた配位子を遷移金属M含有化合物と反応させることで、対応する遷移金属化合物を合成することができる。具体的には、合成した配位子を溶媒に溶解し、必要に応じて塩基と接触させてフェノキサイド塩を調製した後、金属ハロゲン化物、金属アルキル化物等の金属化合物と低温下で混合し、−78℃から室温、もしくは還流条件下で、約1〜48時間撹拌する。溶媒としては、このような反応に普通のものを使用できるが、なかでもエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等の極性溶媒、トルエン等の炭化水素溶媒などが好ましく使用される。また、フェノキサイド塩を調製する際に使用する塩基としては、n−ブチルリチウム等のリチウム塩、水素化ナトリウム等のナトリウム塩等の金属塩や、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基が好ましいが、この限りではない。
【0051】
また、化合物の性質によっては、フェノキサイド塩調製を経由せず、配位子と金属化合物とを直接反応させることで、対応する遷移金属化合物を合成することもできる。
【0052】
さらに、合成した遷移金属化合物中の金属Mを、常法により別の遷移金属と交換することも可能である。また、例えばR〜Rの何れかがHである場合には、合成の任意の段階において、H以外の置換基を導入することができる。
【0053】
また、遷移金属化合物を単離せず、配位子と金属化合物との反応溶液をそのまま重合に用いることもできる。
【0054】
以上のような遷移金属化合物(A)は、1種単独または2種以上組み合わせて用いられる。
【0055】
[(B−1) 有機金属化合物 ]
本発明で用いられる(B−1)有機金属化合物として、具体的には特開2004−002640号公報記載の周期表第1、2族および第12、13族の有機金属化合物が用いられる。
【0056】
[(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物 ]
本発明で用いられる(B−2)有機アルミニウムオキシ化合物として、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2−78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。
【0057】
[(B−3) 遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物]
本発明で用いられる遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B−3)(以下、「イオン化イオン性化合物」という。)としては、特開平1−501950号公報、特開平1−502036号公報、特開平3−179005号公報、特開平3−179006号公報、特開平3−207703号公報、特開平3−207704号公報、USP−5321106号公報などに記載されたルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物およびカルボラン化合物などを挙げることができる。さらに、ヘテロポリ化合物およびイソポリ化合物も挙げることができる。
【0058】
具体的には、特開2004−002640号公報記載のイオン化イオン性化合物が挙げられる。
【0059】
本発明に係る遷移金属化合物を触媒とする場合、助触媒成分としてのメチルアルミノキサンなどの有機アルミニウムオキシ化合物(B−2)とを併用すると、オレフィン化合物に対して非常に高い重合活性を示す。また助触媒成分としてトリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどのイオン化イオン性化合物(B−3)を用いると良好な活性で非常に分子量の高いオレフィン重合体が得られる。
【0060】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体の重合に用いるオレフィン重合触媒は(A)前記(I)で表される遷移金属化合物を単独で用いても良いし、
(A)前記(I)で表される遷移金属化合物と、
(B)(B−1) 有機金属化合物、
(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物、及び
(B−3) 遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物
から選ばれる少なくとも一種の化合物とから形成されてもよく、この場合、これらの化合物は重合系内において
【0061】
【化5】

【0062】
のような化合物が形成される。
(式中のR〜R、M、m、n、Xは(I)と同じであり、Yはいわゆる弱配位性のアニオンを示す。)
この式で金属MとYの結合は共有結合していても良いし、イオン結合していても良い。式中のR〜R、M、m、n、Xの具体例は(I)と同じであり、Yの例としては、Chemical Review誌88巻1405ページ(1988年)、Chemical Review誌93巻927ページ(1993年)、WO98/30612号公報 6ページに記載の弱配位性アニオンが挙げられる。
【0063】
また、本発明に係るオレフィン重合用触媒は、上記遷移金属化合物(A)と、(B−1)有機金属化合物、(B−2)有機アルミニウムオキシ化合物、および(B−3)イオン化イオン性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とともに、必要に応じて後述するような担体(C)を用いることもできる。
【0064】
[(C) 担体 ]
本発明で用いられる(C)担体は、無機または有機の化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体である。
【0065】
具体的には、特開2004−002640号公報記載の無機または有機の化合物が挙げられる。
【0066】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体の重合に用いるオレフィン重合用触媒は、上記遷移金属化合物(A)と、(B−1)有機金属化合物、(B−2)有機アルミニウムオキシ化合物、および(B−3)イオン化イオン性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、必要に応じて担体(C)と共に、必要に応じて後述するような特定の有機化合物成分(D)を含むこともできる。
【0067】
[(D) 有機化合物成分 ]
本発明において、(D)有機化合物成分は、必要に応じて、重合性能および生成ポリマーの物性を向上させる目的で使用される。このような有機化合物としては、アルコール類、フェノール性化合物、カルボン酸、リン化合物およびスルホン酸塩等が挙げられるが、この限りではない。
【0068】
具体的には、特開2004−002640号公報記載の有機化合物が挙げられる。
【0069】
重合の際には、各成分の使用法、添加順序は任意に選ばれるが、以下のような方法が例示される。
(1) 成分(A)および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(2) 成分(A)を担体(C)に担持した触媒成分、成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(3) 成分(B)を担体(C)に担持した触媒成分、成分(A)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(4) 成分(A)と成分(B)とを担体(C)に担持した触媒成分を重合器に添加する方法。
【0070】
上記の各方法においては、各触媒成分の少なくとも2つ以上は予め接触されていてもよい。
【0071】
成分(B)が担持されている上記(3)、(4)の各方法においては、必要に応じて担持されていない成分(B)を、任意の順序で添加してもよい。この場合成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。
【0072】
また、上記の成分(C)に成分(A)が担持された固体触媒成分、成分(C)に成分(A)および成分(B)が担持された固体触媒成分は、オレフィンが予備重合されていてもよく、予備重合された固体触媒成分上に、さらに、触媒成分が担持されていてもよい。
【0073】
本発明に係るオレフィンブロック共重合体は、上記のようなオレフィン重合用触媒の存在下に、(a)エチレンから得られる重合体ブロックの重合、次いで、(b)エチレンと、炭素原子数13〜50のα−オレフィンから得られるランダム共重合体ブロックの共重合をすることにより得られる。
【0074】
また、本発明に係るオレフィンブロック共重合体の重合は、(b)エチレンと、炭素原子数13〜50のα−オレフィンから得られるランダム共重合体ブロック、次いで、(a)エチレンから得られる重合体ブロックの重合、次いで、(b)エチレンと、炭素原子数13〜50のα−オレフィンから得られるランダム共重合体ブロックの共重合の順番で実施してもよい。
【0075】
本発明では、重合は溶解重合、懸濁重合などの液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施できる。
【0076】
液相重合法において用いられる不活性炭化水素媒体として具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物などを挙げることができ、オレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0077】
上記のようなオレフィン重合用触媒を用いて、オレフィンの重合を行うに際して、成分(A)は、反応容積1リットル当り、通常10−12〜10−2モル、好ましくは10−10〜10−3モルになるような量で用いられる。
【0078】
成分(B−1)は、成分(B−1)と、成分(A)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(B−1)/M〕が、通常0.01〜100000、好ましくは0.05〜50000となるような量で用いられる。成分(B−2)は、成分(B−2)中のアルミニウム原子と、成分(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比〔(B−2)/M〕が、通常10〜500000、好ましくは20〜100000となるような量で用いられる。成分(B−3)は、成分(B−3)と、成分(A中の遷移金属原子(M)とのモル比〔(B−3)/M〕が、通常1〜10、好ましくは1〜5となるような量で用いられる。
【0079】
成分(D)は、成分(B)が成分(B−1)の場合には、モル比〔(D)/(B−1)〕が通常0.01〜10、好ましくは0.1〜5となるような量で、成分(B)が成分(B−2)の場合には、モル比〔(D)/(B−2)〕が通常0.001〜2、好ましくは0.005〜1となるような量で、成分(B)が成分(B−3)の場合には、モル比〔(D)/(B−3)〕が通常0.01〜10、好ましくは0.1〜5となるような量で用いられる。
【0080】
また、このようなオレフィン重合用触媒を用いたオレフィンの重合温度は、通常−50〜+200℃、好ましくは0〜170℃の範囲である。重合圧力は、通常常圧〜100kg/cm、好ましくは常圧〜50kg/cmの条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。
【0081】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
なお、本実施例において、得られた共重合体のMn(数平均分子量)およびMw/Mn(分子量分布)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、オルトジクロロベンゼン溶媒で、140℃で測定した。得られた共重合体の分子量は、ポリスチレン換算の分子量をユニバーサル法によりポリエチレン換算値に変換した。また、得られたポリマーの融点は示差熱分析装置(DSC)を用いて窒素気流下、10℃/minの昇温条件で測定した。
【実施例1】
【0083】
充分に窒素置換した内容積500mlのガラス製オートクレーブにトルエン250mlを入れ、一旦液相および気相をエチレンで飽和し、次いで気相のみを窒素置換した。メチルアルミノキサンをアルミニウム原子換算で2.5mmol、引き続き、チタン化合物(1;合成例は特開2004−002640号公報に記載)を0.02mmolを加え重合を開始した。25℃で10分間反応させ完全に消費した後に、1−オクタデセン60mlを加え、エチレンガス(50リットル/h)を吹き込みながら5分間反応させた。少量のメタノールを加えて反応を停止し、少量の塩酸を含むメタノール1リットルに反応物を加えて共重合体を析出させた。共重合体を濾過しメタノールで洗浄後、130℃にて10時間減圧乾燥して共重合体2.799gを得た。得られた共重合体のMn(数平均分子量)は102,000であり、Mw/Mn(分子量分布)は1.25であり、1H−NMRで測定した1−オクタデセン含量は4.0モル%であった。分子量および全共重合体中の1−オクタデセン含量から計算した第二ブロック成分(エチレン・1−オクタデセン共重合体部分)の1−オクタデセン含量は6.4モル%であった。
【0084】
【化6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる重合体ブロックと、(ii)炭素原子数2〜50のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンから得られる前記重合体ブロック(i)とは異なる重合体ブロック、とを含み、且任意の隣接重合体ブロックが相互に異なるオレフィンブロック共重合体であって、Mn(数平均分子量)が500以上であり、Mw/Mn(分子量分布)が1.5以下であることを特徴とするオレフィンブロック共重合体。
【請求項2】
重合体ブロックが、(a)エチレンから得られる重合体ブロック、および(b)エチレンと、炭素原子数13〜50のα−オレフィンから得られるランダム共重合体ブロックであることを特徴とする請求項1に記載のオレフィンブロック共重合体。
【請求項3】
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物と、
(B)(B−1) 有機金属化合物、
(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物、および
(B−3) 遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、とからなることを特徴とするオレフィン重合用触媒により重合されることを特徴とする請求項1〜2に記載のオレフィンブロック共重合体。
【化1】


(式中、Mはチタン原子を示し、mは、1〜2の整数を示し、Rは、炭素数1〜30のフッ素含有炭化水素基を示し、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、水素原子または炭化水素置換シリル基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、Rは、水素、脂肪族炭化水素基、単環性の脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基の4種の基から選ばれる基を示し、また、mが2の場合にはR〜Rで示される基のうち2個の基が連結されていてもよく、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)

【公開番号】特開2006−257291(P2006−257291A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77485(P2005−77485)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】