説明

オレフィンメタセシス反応を行うための方法及び開環メタセシス重合反応を行うための方法

【課題】高い反応性と高い生成物収率を提供可能なオレフィンメタセシス反応及び開環メタセシス重合反応を提供すること。
【解決手段】同方法は、オレフィンモノマーを、式:ARu=CHR’(式中、x=0,1又は2、y=0,1又は2、z=1又は2、R’は水素、アルキル、置換アルキル、アリール及び置換アリールから成る群より選択される、Lは中性電子供与体、Xはアニオン性配位子、かつAは中性電子供与体とアニオン性配位子とを結合する共有結合構造を有する配位子)のルテニウムカルベン錯体と、無機又は有機の酸の存在下にて接触させる工程を含み、酸は、HI、HCl、HBr、HSO、H、HNO、HPO及びトシル酸から成る群より選択され、かつ反応において基質又は溶媒として存在していないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に反応性が高くかつ安定なルテニウム金属カルベン錯体化合物、および該化合物のオレフィンメタセシス反応のための触媒としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
この出願は1997年10月30日に出願された米国特許仮出願第60/064,405号から出願日遡及の特典を享受するものであり、ここにこれを援用するものである。
米国政府は国立科学基金により与えられるグラント第CH9509745号、ならびに国立衛生研究所により与えられるグラント第GM31332号に基づく本発明に対して所定の権利を保有するものである。
【0003】
オレフィンメタセシスを介しての炭素−炭素間結合の形成に対する関心ならびに産業上の利用性は非常に高く、オレフィンメタセシスの触媒および系を開発するための研究が盛んに行われている。VIII族の遷移金属触媒は、オレフィンメタセシス反応、たとえば、開環メタセシス重合(ROMP)、閉環メタセシス重合(RCM)、非環状ジエンメタセシス(ADMET)および交差メタセシス反応などを触媒するのに特に有用であることが証明されてきた。古典的な、明確に定義されたルテニウムに基づくオレフィンメタセシス触媒のいずれも、ここで引用によって含める、例えば非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5および非特許文献6に報告されているように、様々な官能基に対して良好な耐性を示すことが示されてきた。特に、その両方を引用によって含める非特許文献7および非特許文献8に報告されているように、これらの錯体におけるルテニウム−炭素結合の活発な性質は、オレフィンメタセシス反応をプロトン性溶媒中で行うことを可能にしてきた。しかしながら、反応速度が遅く、収率も低いために、これらの触媒の様々なオレフィンモノマーおよび反応条件に対する適用には限界があった。
【0004】
一例としては、水中において活発であるとともに水溶性モノマーを重合させる、均質重合系が必要とされている。活発な重合系においては、重合は連鎖移動または連鎖停止が生じることなく起こり、得られるポリマーの多分散性を非常によく制御することができる。そのような重合系は、水溶性ポリマーの制御合成を可能にするとともに、たとえば生物医学的用途において使用されるブロック共重合体の組成の高精度制御を可能にすると考えられるため、非常に望ましいものである。しかしながら、そのような重合系を得ることは至難の業である。たとえば、従来の活発なアニオン性またはカチオン性の系に水を加えると、即座に停止が起こってしまう。近年の多数の極性およびプロトン性の官能性に耐性の遷移金属触媒の出現により、最近になって、水性環境中での活発な開環メタセシス重合(ROMP)、フリーラジカル重合、およびイソシアニド重合が可能になってきた。このことは、そのそれぞれをここで引用によって含める非特許文献7、非特許文献9、非特許文献10;非特許文献11、非特許文献12、および非特許文献13によって報告されている。これらの例は全く水性の系に対する顕しい進歩をもたらしたが、触媒そのものが水に不溶であり、重合反応は基本的に「湿性」有機相において起こる。
【0005】
VIII族の塩と配位錯体とによって開始される、ひずみを有する環状オレフィンの水性開環メタセシス重合については、多くの引証がある。これらの錯体は水中で活発な重合触媒として機能するものの、重合は活発には起こらず、開始段階が不十分(典型的には金属中心の1%未満しか触媒活性種に転化されない)であるために不規則な結果が得られ、ポリマーの分子量の制御がうまくいかない。
【0006】
我々は最近、水、メタノール、および水性乳剤中におけるオレフィンメタセシス反応のための良好な開始剤として作用する、明確に定義された水溶性のルテニウムアルキリデンの合成について報告した。ここで引用によって含める非特許文献8を参照のこと。しかしながら、これらの錯体のさらなる研究からは、停止反応が比較的速く起こるために可能な用途が制限されてしまうことが判明した。同様のルテニウムアルキリデン錯体が、特許文献1および特許文献2、ならびに1996年7月31日出願の米国特許出願第08/693,789号および1996年8月30日出願の同第08/708,057号に開示されており、これらの文献のそれぞれはここで引用によって含める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5312940号明細書
【特許文献2】米国特許第5342909号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Grubbs,R.H.J.M.S.−Pure Appl. Chem.1994,A31(11),1829―1833
【非特許文献2】Aqueous Organometallic Chemistry and Catalysis.Horvath,I.T.,Joo,F.Eds;Kluwer Academic Publishers:Boston,1995
【非特許文献3】Novak,B.M.;Grubbs,R.H.、J.Am.Chem.Soc.1988,110,7542―7543
【非特許文献4】Novak,B.M.;Grubbs,R.H.、J.Am.Chem.Soc.1988,110,960―96
【非特許文献5】Nguyen,S.T.;Johnson,L.K.;Grubbs,R.H.、J.Am.Chem.Soc.1992,114,3974−3975
【非特許文献6】Schwab,P.;Grubbs,R.H.;Ziller,J.W.、J.Am.Chem.Soc.1996,118,100
【非特許文献7】Lynn,D.M.;Kanaoka,S.;Grubbs,R.H.、J.Am.Chem.Soc.1996,118,784
【非特許文献8】Mohr,B.;Lynn,D.M.;Grubbs,R.H.、Organometallics 1996,15,4317−4325
【非特許文献9】Manning,D.D.;Strong,L.E.;Hu,X.;Beck,P.;Kiessling,L.L.、Tetrahedron,1997,53,11937−11952
【非特許文献10】Manning,D.D.;Hu,X.;Beck,P.;Kiessling,L.L.、J.Am.Chem.Soc.1997,119,3161−3162
【非特許文献11】Nishikawa,T;Ando,T;Kamigaito,M;Sawamoto,M.、Macromolecules1997,30,2244−2248
【非特許文献12】Deming,T.J.;Novak,B.M.、Polym.Prepr.(Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.)1991,32,455−456
【非特許文献13】Deming,T.J.;Novak,B.M.、Macromolecules,1991,24,326−328
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような理由から、高い反応速度と、高い生成物収率を提供するとともに、従来可能であったものよりも広範囲の溶媒中でより広範のオレフィンのメタセシスを可能にするような、高い効率を有する明確に定義されたオレフィンメタセシスの触媒および系が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を解決するために、請求項1に記載の発明は、オレフィンメタセシス反応を行うための方法であって、オレフィンモノマーを、式:ARu=CHR’、にて表されるルテニウムカルベン錯体と無機または有機の酸の存在下において接触させることを含み(式中、x=0,1または2であり、y=0,1または2であり、z=1または2であり、R’は、水素、アルキル、置換アルキル、アリールおよび置換アリールから成る群より選択され、Lは、中性電子供与体であり、Xは、アニオン性配位子であり、Aは、中性電子供与体とアニオン性配位子とを結合する共有結合構造を有する配位子である)、無機または有機の酸はHI、HCl、HBr、HSO、H、HNO、HPO、およびトシル酸から成る群より選択され、かつ、無機または有機の酸は反応において基質または溶媒として存在していないものである、方法、を提供する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、酸は、HClである、ことをその要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、酸は、オレフィンモノマーとルテニウムカルベン錯体とを含む溶液に添加される、ことをその要旨とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、酸は、光酸発生剤に照射を行うことによって生成する、ことをその要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、オレフィンメタセシス反応は、溶媒を用いずに行われる、ことをその要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、オレフィンメタセシス反応は、プロトン性溶媒、水性溶媒、有機溶媒およびそれらの混合物から成る群より選択される溶媒中で行われる、ことをその要旨とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の方法において、芳香族溶媒、ハロゲン化溶媒、脂肪族有機溶媒、ハロゲン化脂肪族有機溶媒、アルコール溶媒、水およびそれらの混合物から成る群より選択される溶媒中で行われる、ことをその要旨とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の方法において、溶媒は、ベンゼン、ジクロロメタンおよびメタノールから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRは、それぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の方法において、Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、Xは、水素、ハロゲン、および置換または非置換C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリールオキシド、C−C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C−C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C−C20アルキルスルホネート、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニル、およびC−C20アルキルスルフィニルから成る群より選択され、式中、置換基は、C−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニルおよびC−Cアルコキシ置換フェニルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0018】
請求項12に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:ALRu=CHR’、にて表される、ことをその要旨とする。
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の方法において、Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRはそれぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキル、およびシクロアルキルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0019】
請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の方法において、Lは、P(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0020】
請求項15に記載の発明は、請求項12に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:
【0021】
【化1】

にて表され、式中、各Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
請求項16に記載の発明は、請求項15に記載の方法において、各Rは独立して、(a)C−C20アルキル、(b)アリール、(c)アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、およびC−C20アルコキシカルボニルから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたC−C20アルキル、および、(d)C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドおよびメトキシから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたアリール、から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0022】
請求項17に記載の発明は、請求項15に記載の方法において、Rはメチルまたはt−ブチルであり、PRはP(シクロヘキシル)であり、R’はフェニルである、ことをその要旨とする。
【0023】
請求項18に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:ALXRu=CHR’、にて表される、ことをその要旨とする。
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載の方法において、Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRは、それぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0024】
請求項20に記載の発明は、請求項18に記載の方法において、Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0025】
請求項21に記載の発明は、請求項18に記載の方法において、Xは、水素、ハロゲン、および置換または非置換C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリールオキシド、C−C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C−C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C−C20アルキルスルホネート、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニルおよびC−C20アルキルスルフィニルから成る群より選択され、式中、各置換基は、C−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニルおよびC−Cアルコキシ置換フェニルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0026】
請求項22に記載の発明は、請求項18に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:
【0027】
【化2】

にて表され、式中、Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリールおよび置換アリールから成る群より選択され、R’’は、水素、ハロ、ニトロおよびアルコキシから成る群より選択され、Xは、Cl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0028】
請求項23に記載の発明は、請求項22に記載の方法において、Rは、(a)C−C20アルキル、(b)アリール、(c)アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、およびC−C20アルコキシカルボニルから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたC−C20アルキル、および、(d)C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドおよびメトキシから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたアリール、から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0029】
請求項24に記載の発明は、請求項22に記載の方法において、R’はフェニルであり、R’’はニトロであり、PRはP(シクロヘキシル)であり、XはClであり、Rは非置換アリールまたは2,6−ジイソプロピル基によって置換されたアリールである、ことをその要旨とする。
【0030】
請求項25に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:LRu=CHR’、にて表される、ことをその要旨とする。
請求項26に記載の発明は、請求項25に記載の方法において、Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRは、それぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0031】
請求項27に記載の発明は、請求項25に記載の方法において、Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0032】
請求項28に記載の発明は、請求項25に記載の方法において、Xは、水素、ハロゲン、および置換または非置換C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリールオキシド、C−C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C−C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C−C20アルキルスルホネート、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニルおよびC−C20アルキルスルフィニルから成る群より選択され、式中、各置換基は、C−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、非修飾フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニルおよびC−Cアルコキシ置換フェニルから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0033】
請求項29に記載の発明は、請求項25に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:
【0034】
【化3】

にて表され、式中、PRは、P(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択され、XはCl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0035】
請求項30に記載の発明は、請求項25に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:
【0036】
【化4】

にて表され、ただしCyはシクロヘキシルであり、Rは独立して
【0037】
【化5】

から成る群より選択され、Xは、Cl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択され、オレフィンメタセシス反応は水性またはアルコール溶媒、あるいはその混合物中で行われる、ことをその要旨とする。
【0038】
請求項31に記載の発明は、請求項30に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は
【0039】
【化6】

であり、オレフィンメタセシス反応は水性またはアルコール溶媒、あるいはその混合物中で行われる、ことをその要旨とする。
請求項32に記載の発明は、請求項30に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は
【0040】
【化7】

であり、オレフィンメタセシス反応は水性またはアルコール溶媒、あるいはその混合物中で行われる、ことをその要旨とする。
請求項33に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、オレフィンメタセシス反応は、開環メタセシス重合、閉環メタセシス、非環状ジエンメタセシス、および交差メタセシスから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0041】
請求項34に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、オレフィンモノマーは、ひずみを有する環状オレフィン、ひずみを有しない環状オレフィン、非環状オレフィン、ジエン、および不飽和ポリマーから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0042】
請求項35に記載の発明は、請求項34に記載の方法において、オレフィンモノマーは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0043】
請求項36に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、反応は開環メタセシス重合であり、オレフィンモノマーは環状オレフィンである、ことをその要旨とする。
請求項37に記載の発明は、請求項36に記載の方法において、環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0044】
請求項38に記載の発明は、請求項37に記載の方法において、第1の環状オレフィンを連続的に添加した後、第2の環状オレフィンを添加することによって、ブロック共重合体が合成される、ことをその要旨とする。
【0045】
請求項39に記載の発明は、請求項36に記載の方法において、(1)酸は、環状オレフィンモノマーを含む第1の溶液に溶解され、(2)ルテニウムカルベン錯体は、環状オレフィンモノマーを含む第2の溶液に溶解され、(3)第1の溶液が第2の溶液に添加される、ことをその要旨とする。
【0046】
請求項40に記載の発明は、請求項39に記載の方法において、第1および第2の溶液は、純粋なオレフィンモノマーを含む、ことをその要旨とする。
請求項41に記載の発明は、請求項39に記載の方法において、第1および第2の溶液は、水を含む、ことをその要旨とする。
【0047】
請求項42に記載の発明は、請求項36に記載の方法において、環状オレフィンは、シクロブテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、シクロオクタジエン、シクロノナジエン、シクロペンタジエン、およびジシクロペンタジエン、ならびにそれらの誘導体から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0048】
請求項43に記載の発明は、請求項42に記載の方法において、環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0049】
請求項44に記載の発明は、請求項36に記載の方法において、環状オレフィンは、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0050】
請求項45に記載の発明は、請求項36に記載の方法において、環状オレフィンは、エンド−ジシクロペンタジエンおよびエキソ−ジシクロペンタジエンから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0051】
請求項46に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、オレフィンメタセシス反応は閉環メタセシスであり、オレフィンモノマーが非環状ジエンである、ことをその要旨とする。
【0052】
請求項47に記載の発明は、請求項46に記載の方法において、非環状ジエンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0053】
請求項48に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、オレフィンメタセシス反応は、非環状ジエンメタセシスまたは交差メタセシスである、ことをその要旨とする。
請求項49に記載の発明は、請求項48に記載の方法において、オレフィンモノマーは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0054】
請求項50に記載の発明は、請求項48に記載の方法において、オレフィンモノマーは、1−ヘキサンである、ことをその要旨とする。
請求項51に記載の発明は、開環メタセシス重合反応を行うための方法であって、環状オレフィンモノマーを、式:
【0055】
【化8】

にて表されるルテニウムカルベン錯体と無機または有機の酸の存在下で接触させることを含み、式中、R’はアルキル、置換アルキル、アリール、および置換アリールから成る群より選択され、PRは式PRのホスフィンであり、ただし、Rは第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRはそれぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキル、およびシクロアルキルから成る群より選択され、残りの各Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリール、および置換アリールから成る群より選択される方法、を提供する。
【0056】
請求項52に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、PRは、P(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択され、残りの各Rは独立して、(a)C−C20アルキル、(b)アリール、(c)アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、およびC−C20アルコキシカルボニルから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたC−C20アルキル、および、(d)C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドおよびメトキシから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたアリール、から成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0057】
請求項53に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、R’はフェニルであり、PRはP(シクロヘキシル)であり、Rはメチルまたはt−ブチルである、ことをその要旨とする。
【0058】
請求項54に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、酸は、HClである、ことをその要旨とする。
請求項55に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、酸は、環状オレフィンモノマーとルテニウムカルベン錯体とを含む溶液に添加される、ことをその要旨とする。
【0059】
請求項56に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、酸は、光酸発生剤に照射を行うことにより生成する、ことをその要旨とする。
請求項57に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、開環メタセシス重合反応は、溶媒を用いずに行われる、ことをその要旨とする。
【0060】
請求項58に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、開環メタセシス重合反応は、プロトン性溶媒、水性溶媒、有機溶媒およびそれらの混合物から成る群より選択される溶媒中で行われる、ことをその要旨とする。
【0061】
請求項59に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0062】
請求項60に記載の発明は、請求項59に記載の方法において、第1の環状オレフィンを連続的に添加した後、第2の環状オレフィンを添加することによって、ブロック共重合体が合成される、ことをその要旨とする。
【0063】
請求項61に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、(1)酸は、環状オレフィンモノマーを含む第1の溶液に溶解され、(2)ルテニウムカルベン錯体は、環状オレフィンモノマーを含む第2の溶液に溶解され、(3)第1の溶液が第2の溶液に添加される、ことをその要旨とする。
【0064】
請求項62に記載の発明は、請求項61に記載の方法において、第1および第2の溶液は、純粋なオレフィンモノマーを含む、ことをその要旨とする。
請求項63に記載の発明は、請求項61に記載の方法において、第1および第2の溶液は、水を含む、ことをその要旨とする。
【0065】
請求項64に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、環状オレフィンは、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0066】
請求項65に記載の発明は、請求項51に記載の方法において、環状オレフィンは、エンド−ジシクロペンタジエンおよびエキソ−ジシクロペンタジエンから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0067】
請求項66に記載の発明は、開環メタセシス重合反応を行うための方法であって、環状オレフィンモノマーを式:
【0068】
【化9】

にて表されるルテニウムカルベン錯体と接触させることを含み(式中、Cyはシクロヘキシルであり、Rは独立して
【0069】
【化10】

から成る群より選択され、XはCl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択される)、開環重合反応は、無機または有機の酸の存在下において、水性またはアルコール溶媒あるいはその混合物中で行われることを特徴とする方法、を提供する。
【0070】
請求項67に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:
【0071】
【化11】

にて表される、ことをその要旨とする。
請求項68に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、ルテニウムカルベン錯体は、式:
【0072】
【化12】

にて表される、ことをその要旨とする。
請求項69に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、溶媒は水性であり、環状オレフィンは水溶性である、ことをその要旨とする。
【0073】
請求項70に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、酸は、HClである、ことをその要旨とする。
請求項71に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、酸は、環状オレフィンモノマーとルテニウムカルベン錯体とを含む溶液に添加される、ことをその要旨とする。
【0074】
請求項72に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含む、ことをその要旨とする。
【0075】
請求項73に記載の発明は、請求項72に記載の方法において、第1の環状オレフィンを連続的に添加した後、第2の環状オレフィンを添加することによって、ブロック共重合体が合成される、ことをその要旨とする。
【0076】
請求項74に記載の発明は、請求項66に記載の方法において、環状オレフィンは、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンから成る群より選択される、ことをその要旨とする。
【0077】
本発明は、上記および他の要求を満たすものであり、ひずみを有するまたは有しない環状オレフィンの開環メタセシス重合(ROMP)および閉環メタセシス(RCM)を含むオレフィンメタセシス、非環状ジエンメタセシス(ADMET)、ならびに非環状オレフィンの交差メタセシス反応のための、ルテニウムをベースとするメタセシス触媒を活性化し増強するために、酸を使用することに向けられている。
【0078】
本発明の1つの実施形態において、ルテニウム触媒化合物は、一般式ARu=CHR’(式中、x=0,1または2,y=0,1または2,z=1または2であり、R’は水素、あるいは置換または非置換のアルキルまたはアリールであり、Lは任意の中性の電子供与体であり、Xは任意のアニオン性配位子であり、Aは中性の電子供与体とアニオン性配位子とを連結する共有結合構造を有する配位子である)で表されるルテニウムカルベン錯体である。本発明の他の実施形態において、ルテニウム触媒化合物は、次の一般式を有する。ALRu=CHR’,ALXRu=CHR’およびLRu=CHR’。
【0079】
これらのルテニウム触媒は、酸置換活性(acid−labile)配位子を含んでおり、これらの触媒を用いたオレフィンメタセシス反応に無機または有機の酸を加えることにより、酸が存在しない系の場合と比較して実質的に反応性が向上する。酸存在下における実質的な速度の上昇については、本発明に従う方法において、水性、プロトン性および有機溶媒中でのオレフィンメタセシス反応に対して観察された。
【0080】
本発明の他の態様において、本来はオレフィンに対して不活性なルテニウムアルキリデン錯体を活性化するために、酸が使用される。本発明のこの態様によれば、触媒とモノマーとを溶液または純粋なモノマー中で一緒に貯蔵しておくことができ、これに酸を加えて重合を開始させるので、反応射出成形(RIM)プロセスにおいてより良好な制御が可能になる。同様のプロセスは、光開始ROMP系、ならびに光酸発生剤(光酸発生剤とは、それ自体は酸ではないが、光エネルギーに曝されることによって酸と他の生成物とに分解するような化合物のことをいう)を用いるフォトマスクキング用途に応用することができる。
【0081】
本発明はさらに、界面活性剤や有機共溶媒が一切存在しない水性溶液中で起こる活発な重合反応に向けられている。本発明の他の実施形態において、水溶性ルテニウムアルキリデン錯体は、酸の存在下で水溶性モノマーの活発なROMPを開始させる。
【発明の効果】
【0082】
本発明の方法によれば、本発明のルテニウムをベースとする触媒化合物を酸で活性化することにより、ひずみを有するまたは有しない環状オレフィンの開環メタセシス重合、多重不飽和基質の閉環メタセシス重合、非環状ジエンメタセシス、並びに非環状交差メタセシス反応において、高い反応速度と高い生成物収率が提供された。しかも、従来可能であったものよりも広範囲の溶媒中にてより広範のオレフィンのメタセシス反応が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0083】
一般に、遷移金属アルキリデンは、極性、プロトン性の種の中で不活性化または分解される。本発明のルテニウムアルキリデンは、極性またはプロトン性の官能基または溶媒の存在下において安定であるばかりでなく、これらのアルキリデンの触媒活性は、基質または溶媒として存在しない特定量の酸を計画的に添加することにより増強される。本発明の多数のルテニウムアルキリデンは、反応混合物に酸を加えない限り不活性である。そのような酸性条件は、以前の遷移金属に基づいたアルキリデンを分解すると考えられる。
【0084】
本発明のルテニウムアルキリデンは、一般式ARu=CHR’(式中、x=0,1または2,y=0,1または2,z=1または2であり、R’は水素、あるいは置換または非置換のアルキルまたはアリールであり、Lは任意の中性の電子供与体であり、Xは任意のアニオン性配位子であり、Aは中性の電子供与体とアニオン性配位子とを連結する共有結合構造を有する配位子である)で表されるアルキリデンを含む。これらのアルキリデンは、酸の存在下において、ROMP,RCM,ADMETおよび交差メタセシスを含むが、これらに限定されることはない様々なオレフィンメタセシス反応、ならびに二量化反応をに対して、高い触媒活性を有する。好ましいルテニウムアルキリデンは、一般式ALRu=CHR’、ALXRu=CHR’およびLRu=CHR’で表されるものである。
【0085】
本発明の方法に従って反応させることのできるオレフィンモノマーには、非環状オレフィン、環状オレフィン、ひずみを有する/有しない、ジエン、および不飽和ポリマーが含まれる。これらのオレフィンは官能化することもできるし、官能基をオレフィンの置換基として、あるいはオレフィンの炭素鎖に組み込まれた形で含むこともできる。これらの官能基としては、たとえば、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、またはスルホン酸塩の各基が可能である。
【0086】
我々の触媒の触媒活性を高めるためには有機酸および無機酸のいずれも有用であり、好ましい酸は、HI,HCl,HBr,HSO,H,HNO,HPO,CHCOHおよびトシル酸であり、最も好ましいのはHClである。酸はオレフィンとの反応の前または最中のいずれに触媒に添加されてもよいが、一般にはオレフィンモノマーの酸性溶液に触媒を導入した場合に、より長い触媒寿命が観察される。上記酸または触媒は、プロトン性、水性または有機性の溶媒、あるいはそれらの混合物を含む、様々な適切な溶媒中に溶解することができる。好ましい溶媒には、芳香族またはハロゲン化芳香族溶媒、脂肪族またはハロゲン化有機溶媒、アルコール性溶媒、水、あるいはそれらの混合物が含まれる。芳香族溶媒の中で最も好ましいのはベンゼンである。ハロゲン化脂肪族溶媒の中ではジクロロメタン、アルコール性溶媒の中ではメタノールがそれぞれ最も好ましい。あるいは、上記酸または触媒、あるいはその両方は、純粋なオレフィンモノマー中に溶解することもできる。
【0087】
上記の酸に加えて、本発明の代替実施形態においては、反応を活性化または増強するために、光エネルギーに曝されることにより酸に転化される光酸発生剤を使用することもできる。たとえば、照射によってメタセシスを開始させるまでの間、光酸発生剤はモノマーおよび触媒とともに貯蔵しておくことができるので、光開始ROMP(PROMP)によって、ポリ(DCPD)を得るためジシクロペンタジエン(DCPD)の紫外線硬化を容易に行うことができる。
【0088】
本発明の触媒の好ましい置換基は、以下の通りである。中性電子供与体Lは、好ましくは一般式PR(式中、Rは第二アルキルまたはシクロアルキルであってもよく、RおよびRはアリール、C−C10第1アルキル、第2アルキルまたはシクロアルキルであって、互いに異なっていてもよい)で表されるホスフィンである。より好ましくは、LはP(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)、またはP(フェニル)のいずれかである。アニオン性配位子Xは、好ましくは水素またはハロゲン、あるいは、非置換または置換部分であって、該部分は、C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリロキシド、C−C20アルキルジケトン酸塩、アリールジケトン酸塩、C−C20カルボン酸塩、アリールスルホン酸塩、C−C20アルキルスルホン酸塩、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニル、またはC−C20アルキルスルフィニルである。上記部分が置換されている場合には、置換基はC−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、非修飾フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニル、またはC−Cアルコキシ置換フェニルである。
【0089】
触媒の第1の好ましい実施形態は、下記の式を有する。
【0090】
【化13】

式中、各Rは、置換または非置換のアリールまたはアルキルであって、好ましくはC−C20アルキル、アリール、置換C−C20アルキル(アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、またはC−C20アルコキシカルボニルによって置換)、または置換アリール(C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドまたはメトキシによって置換)のいずれかである。最も好ましい形態において、Rはメチルまたはt−ブチルであり、PRはP(シクロヘキシル)であり、R’はフェニルである。
【0091】
触媒の第2の好ましい実施形態は、下記の式を有する。
【0092】
【化14】

式中、R’’は水素、アルキル、ハロ、ニトロ、またはアルコキシであり、XはCl,Br,I,CHCOまたはCFCOであり、各Rは置換または非置換のアルキルまたはアリールであり、好ましくはC−C20アルキル、アリール、置換C−C20アルキル(アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、またはC−C20アルコキシカルボニルで置換)、または置換アリール(C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライド、またはメトキシで置換)のいずれかである。最も好ましい形態において、R’はフェニルであり、R’’はニトロであり、PRはP(シクロヘキシル)であり、XはClであり、Rはアリールまたは2,6−ジイソプロピル基によって置換されたアリールである。
【0093】
触媒の第3の好ましい実施形態は、下記の式を有する。
【0094】
【化15】

式中、PRはP(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)、またはP(フェニル)のいずれかであり、XはCl、Br、I、CHCOまたはCFCOである。
【0095】
触媒の第4の好ましい実施形態は、下記の式を有する。
【0096】
【化16】

式中、Cyはシクロヘキシルであり、XはCl、Br、I、CHCOまたはCFCOであり、Rは下記の式いずれかである。
【0097】
【化17】

上記第4の実施形態の好ましい形態は、下記の式を有する。
【0098】
【化18】

および
【0099】
【化19】

この第4の実施形態の触媒は、水性またはアルコール溶媒のいずれかにおいて用いられた場合に非常に効果的である。
本発明のルテニウムアルキリデン化合物は、ジアゾ化合物を用いて、中性電子供与体配位子の交換によって合成するか、アセチレンを用い、集積オレフィンを用いて交差メタセシスによって合成するか、米国特許第5,312,940号および同第5,342,909号、1996年7月31日出願の米国特許出願第08/708,057号および1996年8月30日出願の同第08/708,057号、Chang,S.,Jones,L.,II,Wang,C.,Henling,L.M., and Grubbs,R.H.,Organometallics,1998,17,3460−3465,非特許文献6および非特許文献8に記載されている方法、ならびに本明細書中に記載する方法に従って、ジアゾ化合物と中性電子供与体を用いたワンポット法において合成することができる。上記それぞれの文献は、その全体をここで引用によって含める。
【0100】
以下の非限定的実施例によって、本発明をさらに説明していく。
【実施例1】
【0101】
ルテニウムアルキリデンの合成
一般的考察:ルテニウムアルキリデンが関与する全ての操作および反応は、窒素充填したドライボックス中またはアルゴン雰囲気下で標準的なシュレンク技術を用いて行った。
【0102】
RuCl(=CH−CH=CPh)(PPhの合成
ドライボックス内において、シュレンクフラスコに入れたRuCl(PPh(6.0g,4.91ミリモル)溶液を、CHCl/Cの1:1混合液に溶解した3,3−ジフェニルシクロプロパン(954mg,1.0当量)と反応させた。フラスコにストッパーで蓋をし、ドライボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下の還流冷却器に取付け、53℃で11時間加熱した。溶液を室温まで放冷した後、全ての溶媒を真空除去し、暗黄茶色の固体を得た。この固体にベンゼン(10mL)を加え、次に混合物を渦回転させることにより、この固体を細かい粉末に破砕した。次にペンタン(80mL)を、激しく撹拌しながら、カニューレを用いてゆっくりと混合物に加えた。混合物を室温で1時間撹拌し、放置した後、カニューレろ過によって上清を除去した。この洗浄手順をさらに2回繰り返し、すべてのホスフィン副産物を完全に除去した。その後、結果として得られた固体を一晩乾燥させ、4.28g(98%)のRuCl(=CH−CH=CPh)(PPhを僅かに緑色がかった黄色の粉末として得た。
【0103】
RuCl(=CHPh)(PR錯体の合成
RuCl(=CHPh)(PPh CHCl(20mL)に溶解した
RuCl(PPh(2.37g,2.47ミリモル)の溶液を、CHClまたはペンタン(3mL)に溶解したフェニルジアゾメタン(584mg,4.94ミリモル,2.0当量)の−78℃〜−50℃の溶液で処理した。橙茶色から茶緑色への自発的な色の変化と激しい泡立ちが観察された。冷却浴を取り除いた後、溶液を5分間撹拌し、溶液を3mL以下の体積まで濃縮した。ペンタン(20mL)を加えると緑色固体が沈殿した。この沈殿をカニューレろ過により茶色の母液から分離し、CHCl(3mL)に溶解し、ペンタンで再沈殿させた。この手順を母液が略透明になるまで繰り返した。残った灰緑色の微結晶固体は真空下で数時間乾燥させた。収量=1.67g(89%)。
【0104】
RuCl(=CHPh)(PCyのワンポット合成
CHCl(40mL)中に溶解したRuCl(PPh(4.0g,4.17ミリモル)の溶液を−78℃において、ペンタン(10mL)に溶解したフェニルジアゾメタン(986mg,8.35ミリモル,2.0当量)の−50℃溶液と反応させた。ジアゾ化合物を加えると、橙茶色から緑茶色への瞬間的な色の変化と激しい泡立ちが観察された。反応混合物を−70℃〜−60℃で5〜10分間撹拌した後、CHClに溶解したトリシクロヘキシルホスフィン(2.57g,9.19ミリモル,2.2当量)の氷冷溶液をシリンジを用いて加えた。茶緑色から赤色への色の変化に伴って、溶液を室温まで温め、30分間撹拌した。溶液をろ過し、半分の体積まで濃縮し、ろ過した。メタノール(100mL)を加えて紫色の微結晶固体を沈殿させた。この沈殿をろ取し、アセトンおよびメタノール(10mL部)で数回洗浄し、真空下で数時間乾燥させた。収量=3.40g(99%)。
【0105】
RuCl(=CHPh)(PCpのワンポット合成
RuCl(=CHPh)(PCpは、RuCl(PPh(4.00g,4.17ミリモル)、フェニルジアゾメタン(986mg,8.35ミリモル,2.0当量)、およびトリシクロペンチル−ホスフィン(2.19g,9.18ミリモル,2.2当量)を用いて、RuCl(=CHPh)(PCyのワンポット合成の場合と同じ方法により、紫色の微結晶固体として得られた。化合物の溶解性が良好であったため、洗浄にはメタノールを使用した。収量2.83g(92%)。H NMR(CDCl):δ20.20(s,Ru=CH),31P NMR(CDCl):δ29.96(s,PCp).Anal.Calcd.for C3760ClRu:C,60.15;H,8.19.Found:C,60.39;H,8.21。
【0106】
(PCy)(R−acac)(CHPh)の合成
【0107】
【化20】

ドライボックス内において、上述のようにして調製した200mg(0.243ミリモル)のRuC1(=CHR)(PCyをシュレンクフラスコに量りとり、約120mLのCと150mgのTl(アセチルアセトネート)(0.494ミリモル,2.03当量)を加えた。フラスコにラバーセプタムで蓋をし、ドライボックスから取り出し、アルゴンを充填したシュレンクライン上で1〜2時間撹拌した。この時間の間に溶液は緑色に変化した。溶媒を真空除去し、固体をヘキサン(3×5mL)で洗浄して、生成物およびPCyを抽出した。ろ液をカニューレを用いて別のシュレンクフラスコに回収し、溶媒を真空除去した。
【0108】
ドライボックス内において、生成混合物をベンゼンに溶解し、100mgのCuCl(1.01ミリモル,4当量)を加えた。懸濁液をシュレンクラインに戻し、2時間撹拌し、溶媒を真空除去した。生成物を冷ヘキサン(3×5mL)でCuCl・PCyポリマーから抽出した。ろ液をカニューレろ過により回収し、溶媒を真空除去したところ、緑色の粉末が残った。H NMR(C):δ19.35(d,1H,Ru=CH,HP=12Hz),8.59(d,2H,HorthoHH=8.0Hz),7.47(t,1H,HparaHH=7.3Hz),7.37(app t,2H,HmetaHH=8.0,7.3Hz),5.58(s,1H),4.76(s,1H),2.18(s,3H),2.12(s,3H),1.80(s,3H),1.67(s,3H),1.20−2.00(m,33H),31P(H)NMR:δ38.86(s)。
【0109】
(PCy)(t−Buacac)(CHPh)の合成
【0110】
【化21】

ドライボックス内において、上述のようにして調製した100mg(0.12ミリモル)のRuC1(=CHPh)(PCyをシュレンクフラスコに量りとり、約10mLのCと94mgのTl(t−Bu−アセチルアセトネート)(0.24ミリモル,2当量)を加えた。フラスコにラバーセプタムで蓋をし、ドライボックスから取り出し、アルゴンを充填したシュレンクライン上で2時間撹拌した。この時間の間に、溶液は緑色に変化した。溶媒を真空除去し、固体をヘキサン(3×5mL)で洗浄し、生成物およびPCyを抽出した。ろ液をカニューレろ過により別のシュレンクフラスコに回収し、溶媒を真空除去した。
【0111】
ドライボックス内において、生成混合物をベンゼンに溶解し、100mgのCuCl(1.01ミリモル,8当量)を加えた。懸濁液をシュレンクラインに戻し、2時間撹拌し、溶媒を真空除去した。生成物を冷ヘキサン(3×5mL)でCuCl・PCyポリマーから抽出した。ろ液をカニューレろ過により回収し、溶媒を真空除去したところ、緑色の粉末が残った。H NMR:δ19.04(d,1H,Ru=CH,HP=12Hz),8.28(d,2H,HorthoHH=8.0Hz),7.56(T,1H,HparaHH=8.0Hz),7.31(t,2H,HmetaHH=8.0Hz),5.75(s,1H),5.11(s,1H),1.15(app s,18H),1.10(s,9H),0.82(s,9h),1.10−2.10(m,33H),31P{1H}NMR:δ37.90(s)。
【0112】
シッフ塩基置換Ru錯体の合成
シッフ塩基置換Ru錯体は、まず最初にサリチルアルデヒドを脂肪族または芳香族アミン誘導体と縮合させることにより調製した。得られた配位子をタリウム塩に転換した後、RuCl(=CHPh)(Cyとの置換反応を行った。以下で説明する手順に従って、下記のサリチルアルデヒドとアミン誘導体との対を用いて、シッフ塩基配位子の調製に成功した。サリチルアルデヒドとアミン誘導体との対は以下の通りである。サリチルアルデヒド2,6−ジイソプロピルアニリン、5−ニトロサリチルアルデヒドと2,6−ジイソプロピルアニリン、5−ニトロサリチルアルデヒドと2,6−ジメチル−4−メトキシアニリン、5−ニトロサリチルアルデヒドと4−ブロモ−2,6−ジメチルアニリン、5−ニトロサリチルアルデヒドと4−アミノ−3,5−ジクロロベンゾトリフルオリド、3−メチル−5−ニトロサリチルアルデヒドと2,6−ジイソプロピルアニリン、および、5−ニトロサリチルアルデヒドと2,6−ジイソプロピル−4−ニトロアニリン。
【0113】
シッフ塩基配位子を調製するための一般的手順
サリチルアルデヒドと脂肪族または芳香族アミン誘導体との縮合は、80℃のエチルアルコール中で、2時間撹拌することにより実施した。0℃に冷却すると、反応混合液から黄色固体が沈殿した。固体をろ過し、冷エチルアルコールで洗浄し、真空中で乾燥させたところ、所望のサリチルアルジミン配位子が高収率で得られた。
【0114】
タリウム塩を調製するための一般的手順
ベンゼンまたはTHF(10mL)に溶解したシッフ塩基溶液に、ベンゼンまたはTHF(5mL)に溶解したタリウムエトキシドの溶液を室温にて滴下添加する。添加後すぐに、淡黄色の固体が形成され、反応混合液を室温で2時間撹拌した。窒素またはアルゴン雰囲気下において固体をろ過したところ、タリウム塩が定量的収率で得られた。この塩はこれ以上精製せずに、すぐに次の工程において使用した。
【0115】
シッフ塩基置換Ru錯体を調製するための一般的手順
上記のようにして調製したRuCl(=CHPh)(CyをTHF(5mL)に溶解した溶液に、上記のように調製したタリウム塩をTHF(5mL)に溶解した溶液を加えた。反応混合液を室温で3時間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、残渣を微少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却した。塩化タリウム(反応副産物)は、ろ過によって除去した。次に所望の錯体を冷ベンゼン(10mL×3)で洗浄し、ろ液を蒸発させた。固体残渣をペンタン(−70℃)から再結晶させることにより、シッフ塩基置換Ru錯体を茶色固体として中〜高収率で得た。
【0116】
RuCl(=CHPh)[CyPCHCHN(CHCl]の合成
RuCl(=CHPh)[CyPCHCHN(CHCl]は、THF(100mL)に溶解したジシクロヘキシルホスフィン(19.7g,0.99モル)を、撹拌子を備えたシュレンクフラスコに入れ、ラバーセプタムで蓋をし、アルゴンでパージすることによって調製した。溶液を0℃まで冷却し、BHXTHF(THFに溶解した1.0M溶液100mL,0.1モル,1.01当量)をカニューレを用いてゆっくりと加えた。無色の溶液を0℃で2時間撹拌し、室温まで温めた。溶媒を蒸発させると、結晶状の白色固体CyPH(BH)が得られ、これをペンタンから再結晶させた(収量:18.9g(90%)、白色針状)。
【0117】
CyPH(BH)(4g,18.90ミリモル)をTHF(100mL)に溶解し、シュレンクフラスコに入れ、アルゴンでパージした。溶液を−78℃まで冷却し、n−ブチルリチウム(ヘキサンに溶解した1.6M溶液12.4mL,19.80ミリモル,1.05当量)をシリンジを用いて10分間かけて滴下添加した。無色の反応混合液を、室温までゆっくりと加温しながら2時間撹拌した。溶液を−78℃まで冷却してから、THF(50mL)に溶解した2−クロロ−N,N−ジメチルアミノエタン(2.44g,22.70ミリモル,1.20当量)をシリンジを用いてゆっくりと加えた。反応混合液を−78℃に2時間維持し、室温で一晩撹拌した。溶媒を蒸発させたところ、白色固体が得られた。この白色固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/メタノール,R=0.25)に供し、3.48g(65%)のCyP(BH)CHCHN(CHを白色固体として得た。
【0118】
1.50g(5.30ミリモル)のCyP(BH)CHCHN(CHをエーテル(60mL)に溶解し、ヨウ化メチル(1.88g,13.24ミリモル,2.5当量)を加えた。反応混合液を室温で4時間撹拌したところ、この時間の間に白色固体が沈殿した。沈殿をろ過により回収し、エーテルで洗浄し、真空中で乾燥させたところ、2.17g(97%)のCyP(BH)CHCHN(CHが白色固体として得られた。
【0119】
次にこのCyP(BH)CHCHN(CH(1.50g,3.53ミリモル)をモルホリン(30mL)に溶解し、シュレンクフラスコに入れて、アルゴンでパージした。反応混合液を110℃で2時間撹拌後、室温まで冷却した。溶媒を蒸発させるとゴム状白色残渣が得られた。この残渣を少量のメタノール(3mL)に溶解し、冷THF(25mL)を加えることにより再沈殿させた。上清をカニューレろ過によって除去し、沈殿を少量のTHF(5mL)で洗浄し、真空中で乾燥させたところ、1.05g(72%)のCyPCHCHN(CHが白色結晶固体として得られた。
【0120】
上記のようにして調製したRuCl(=CHPh)(PPh(1.20
g,1.53ミリモル)を、撹拌子を備えたシュレンクフラスコに入れ、ラバーセプタムで蓋をし、アルゴンでパージした。CHCl(15.0mL)を加え、暗緑色の溶液を−78℃まで冷却した。CyPCHCHN(CH(1.0g,3.13ミリモル,2.05当量)をアルゴン雰囲気下でメタノール(10mL)に溶解し、−78℃まで冷却し、シリンジを用いてゆっくりとシュレンクフラスコに添加した。反応混合液を−78℃で30分間撹拌したところ、その間に、暗赤色への色の変化が観察された。反応物が室温に温まるまで30分間撹拌を続けた。溶媒を真空除去すると、暗紫色の固体が得られた。固体物質をCHCl(10mL)に溶解し、撹拌し、ペンタン(100mL)を加えたところ、紫色固体が沈殿した。茶色がかった赤色の上清を除去し、カニューレろ過により除去し、この手順を上清が透明になるまで繰り返した。この段階により、固体生成物はCHClに不溶になり、さらに熱CHClによって洗浄液が透明になるまで処理した。生成物をメタノール(15mL)に溶解し、不溶性の暗紫色物質からカニューレろ過し、溶媒を真空除去したところ、所望の生成物RuCl(=CHPh)[CyPCHCHN(CHCl]が紫色固体(0.680g,67.4%)として得られた。FAB質量分析において[M]ピークは観測されなかったものの、対応する[M+H−Cl]ピークに対して観測された同位体存在度は、RuCl(=CHPh)[CyPCHCHN(CHCl]の[M+H−Cl]フラグメントに対して予測された同位体パターンと一致していた。
【0121】
RuCl(=CHPh)[CyP(N,N−ジメチルピペリジニウムクロライド)]の合成
RuCl(=CHPh)[CyP(N,N−ジメチルピペリジニウムクロライド)]は、以下のようにして調製した。n−ブチリチウム(ヘキサンに溶解した1.6M溶液10.0mL,16.0ミリモル,1.06当量)によるCyPH(BH)のリチウム化は、以下のようにして実施した。溶液を−78℃まで冷却し、THF(50mL)に溶解した化合物6(2.0g,7.42ミリモル,0.5当量)をシリンジを用いてゆっくりと加えた。反応混合液を−78℃に2時間維持した後、60℃で6時間撹拌した。溶媒を蒸発させてから、エーテル(50mL)および飽和重炭酸ナトリウム水溶液(50mL)を加えた。有機相を分離し、水相をエーテル(2×100mL)で抽出した。結合有機相を蒸発させると、白色固体が得られた。この白色固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/メタノール,R=0.22)に供し、1.25g(54%)の白色固体を得た。次にこの固体を、CyPCHCHN(CHのメチル化に関して説明したのと同じ方法により、ヨウ化メチルでメチル化し、CyP(BH)(N,N−ヨウ化ジメチルピペリジニウム)を白色固体として得た(98%)。次にこの白色固体を、CyPCHCHN(CHからCyPCHCHN(CHI−への転化に関連して説明したのと同様の方法により、モルホリンによって転化し、CyP(N,N−ヨウ化ジメチルピペリジニウム)を白色固体として得た(73%)。
【0122】
上述のようにして調製したRuCl(PPh(1.38g,1.44ミ
リモル)をシュレンクフラスコに入れ、アルゴンでパージした。CHCl(15.0mL)を加え、暗赤色の溶液を−78℃まで冷却した。フェニルジアゾメタン(0.340g,2.88ミリモル,2.0当量)を空気中で迅速に秤量し、ペンタン(1.0mL)に溶解し、−78℃まで冷却し、アルゴンパージ下、ピペットを用いてシュレンクフラスコに添加した。ジアゾ化合物を添加すると、暗赤色から暗緑色への瞬間的な変色が観察された。反応物を5分間撹拌し、CyP(N,N−ヨウ化ジメチルピペリジニウム)(1.10g,3.18ミリモル,2.2当量)をメタノール(10mL)に溶解した溶液をシリンジを用いて加えた。溶液は暗赤色になり、反応物が室温に温まるまで30分間撹拌を続けた。溶媒を真空除去し、一晩乾燥させたところ、暗紅色の固体が得られた。この固体物質をCHCl(15mL)に溶解、撹拌し、ペンタン(100mL)を加えて暗紅色の固体を沈殿させた。化合物19はCHCl中でゆっくりと分解するため、ペンタンは迅速に添加しなければならない。暗赤色の上清を取り除き、カニューレろ過により除去し、上清が透明になるまで生成物を再沈殿させた。固体をCHCl(10mL)に溶解し、THF(150mL)を加えて再沈殿させ、カニューレろ過した。この手順を上清が透明になるまで繰り返した。生成物をメタノール(10mL)に溶解し、不溶性物質からカニューレろ過し、溶媒を真空除去したところ、所望のRuCl(=CHPh)[CyP(N,N−ジメチルピペリジニウムクロライド)]生成物が、暗紅色の固体として得られた。
【実施例2】
【0123】
オレフィンモノマーの合成
エキソ−N−(N’,N’,N’−トリメチルアンモニオ)エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキサミドクロライドの合成
【0124】
エキソ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(2.03g,12.37ミリモル)およびN,N−ジメチルエチレンジアミン(1.09g,12.37ミリモル)をCHC1(3mL)に溶解し、肉厚の封止試験管(heavy−walled sealed tube)中、90℃で8時間加熱した。室温まで冷却してから、この溶液をブライン(3回)で洗浄し、有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を真空除去した。この白色結晶固体をTHF(20mL)に溶解し、次に室温にて5当量のヨウ化メチルで処理した。得られた白色沈殿をろ取し、THFで十分に洗浄し、真空中で乾燥させたところ、標題の化合物がヨウ化物塩として得られた。以前に記載されているように、ヨウ化物/塩化物イオン交換を行ったところ、化合物3が白色薄片固体(無水物出発物質に基づいた収率:34%)として得られた。H NMR δ(CDOD):6.38(s,2H),4.0(t,J=7.05Hz,2H),3.54(t,J=7.2Hz,2H),3.25(s,2H),3.22(s,9H),2.90(s,2H),1.37(dd,J=9.9Hz,J=9.9Hz,2H).13C NMR δ(CD0D):177.53,137.26,61.86,52.29,47.54,44.73,42.07,31.60。
【0125】
エキソ−N−(N’,N’,N’−トリメチルアンモニオ)エチル−ビシクロ−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドクロライドの合成
【0126】
窒素雰囲気下におかれた三つ口丸底フラスコ内において、エキソ−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(4.0g,24.07ミリモル)およびN,N−ジメチルエチレンジアミン(3.17g,35.98ミリモル)をトルエン(40mL)に溶解した。この溶液に硫酸マグネシウム(8.0g)を加え、反応物を60℃で23時間加熱した。室温まで冷却してから、反応混合液をろ過し、水で4回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を真空除去した。この白色結晶生成物をTHF(15mL)に溶解し、続いて室温にて2.1当量のヨウ化メチルで処理した。得られた白色沈殿をろ取し、THFで十分に洗浄し、真空中で乾燥させたところ、標題の化合物がヨウ化物塩として得られた。以前に記載されているように、ヨウ化物/塩化物イオン交換を行ったところ、化合物4が白色薄片固体(無水物出発物質に基づいた収率:14%)として得られた。H NMR δ(CDOD):6.56(s,2H),5.19(s,2H),3.94(t,J=6.0Hz,2H),3.58(t,J=6.44Hz,2H),3.18(s,9H),3.00(s,2H).13C NMR δ(CD0D):176.58,136.34,81.03,62.28,52.59,52.50,32.49。
【実施例3】
【0127】
DCPDのROMPの酸活性化
実施例1のようにして調製したルテニウム触媒1〜5は、酸存在下における、ひずみの少ない環状オレフィンのROMP、多重不飽和基質の閉環メタセシス重合(RCM)および非環状ジエンメタセシス(ADMET)、ならびに線状オレフィンの非環状交差メタセシスに対し、高められた活性を示した。
【0128】
【化22】

典型的な重合反応は、以下のようにして行った。窒素充填したドライボックス内において、テフロン(登録商標)コートした撹拌子を備えるNMRチューブまたはバイアルにモノマーを加え、ラバーセプタムで蓋をした。ルテニウムアルキリデン触媒を第2のバイアルに加え、このバイアルにラバーセプタムで蓋をした。ドライボックス外において、各バイアルにシリンジを用いて水またはメタノールを加え、触媒溶液をモノマーを入れたバイアルに移すことにより、重合を開始させた。
【0129】
ルテニウム触媒1〜5に酸を加えると、触媒の代謝回転速度が増し、酸を加えない場合には遅いか、不十分であるか、あるいは反応を起こさなかったオレフィンとの反応に対する収率が向上した。この活性の向上は、定比当量または非定比当量の、強いまたは弱い有機および無機酸のいずれかを用いた、水またはメタノールなどのプロトン性溶媒(錯体3〜5)および有機溶媒(錯体1〜4)のいずれにおいても観察された。酸は、オレフィンとの反応の前または最中のいずれに触媒に添加してもよいが、触媒をオレフィンモノマーの酸性溶液に導入した場合に最も長い触媒寿命が観察された。これにより、従来可能であったものよりより広範囲の溶媒中において、より広範囲のオレフィンのメタセシスが可能になる。
【0130】
純粋なモノマーまたはメタノール中、およびHClの存在下および非存在下における、錯体3および4を用いた種々のモノマーとのROMP反応の比較結果を下記の表1に示す。
【0131】
【表1】

【化23】

表1に見られるように、錯体3は酸の非存在下においてどのオレフィンとも反応せず、錯体4は酸の非存在下では非常に遅い速度でしか反応しない。酸を加えると、反応は数分以内に100%の収率で起こる。したがって、錯体3および4は、オレフィンの存在する溶液中に反応を起こさずに保存することができ、ジシクロペンタジエン(DCPD)などのひずみを有する環状オレフィンとのRIM型プロセスにおける触媒作用の開始が望まれるときに酸を加えるようにすることができる。さらに、光開始ROMP(PROMP)によりDCPDを紫外線硬化させてポリ(DCPD)を得ることも、光酸発生剤を照射によってメタセシスを開始するまでの間、モノマーおよび触媒とともに保存しておくことができることから、容易に実現できる。
【実施例4】
【0132】
RIMプロセスにおける酸活性化
実施例3の触媒1および2は、硬質の高度に架橋された材料を得るための、エンド−およびエキソ−ジシクロペンタジエン(DCPD)の大量重合に対する効果的な触媒である。
【0133】
【化24】

これらの触媒は十分な活性を有し、モノマーと触媒の混合後、短時間で重合が起こってしまう。このことは工業的規模で見ると、反応混合物を金型に注入する前に重合が完了してしまうとう結果につながる。しかしながら、実施例3の触媒3および4は、酸の非存在下ではDCPDに対して不活性であり、触媒の分解やモノマーの重合がほとんど起こることなくDCPDモノマー中の溶液として無期限に保存することができる。
【0134】
【化25】

強い無機酸または有機酸(特にHCl)を、気体、固体、あるいは水または有機溶媒の溶液として加えると、これらの触媒が活性化され、即座に重合が起こる。
【0135】
【化26】

したがって、触媒3および4はモノマーと一緒に保存しておき、下記のように酸を含んだ別のモノマー流と混合することにより、反応射出成形(RIM)プロセスにおいて使用することができる。
【0136】
【化27】

さらに、3または4の溶液、モノマー、および光酸発生剤を一緒に保存しておき、紫外線硬化技術によるフォトマスキング用途に使用することもできる。
【実施例5】
【0137】
ノルボルネンのROMPの酸活性化
酸は、溶液中のこれらの触媒を用いた他のモノマーのROMPを開始させるためにも効果的に用いられることができる。たとえば、官能化されたノルボルネンと7−オキサノルボルネンの溶液は、実施例3の触媒3の存在下で重合しないが、0.3当量以上の酸を加えることにより迅速に重合が起こる。このようなモノマーは、たとえ温度を上げても開始しにくいが(<5%)、実施例3の触媒4を用いると重合する。しかしながら、酸の存在下において、これらの触媒は完全に反応を開始させ、反応は完結まで進行する。
【0138】
【化28】

HClの存在または非存在下で、メタノールを溶媒として用い、触媒3または4を用いてモノマー10を重合させた、上記反応の結果を下記の表2に示す。
【0139】
【表2】

この場合もまた、錯体3は酸の非存在下においてはオレフィンと全く反応しないが、錯体4は酸の非存在下で非常に遅い速度で反応する。酸を加えると、反応は数分以内に100%の収率で起こる。
【0140】
さらに、実施例3の水溶性触媒5は、水およびメタノール中において水溶性ノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンモノマーを重合させるが、この触媒は典型的には低転換率に終わる。当量までのHOまたはDOをこれらの反応系に加えることにより、モノマーが完全に転換し、重合速度が倍加する。
【実施例6】
【0141】
水中における活発なROMPのための酸活性化
本実施例においては、アルキリデン錯体RuCl(=CHPh)[CyP(N,N−ジメチルピペリジニウムクロライド)](下記の錯体6)およびRuCl(=CHPh)[CyPCHCHN(CHCl](下記の錯体7)(実施例1のようにして調製したもの)を水中で強いブレンステッドの酸によって活性化したところ、官能化されたモノマーの定量的転換が起こった。ブレンステッド酸の存在下において、錯体6および7は、界面活性剤または有機溶媒の非存在下における水溶性モノマーの活性な重合を、迅速かつ定量的に開始させた。
【0142】
【化29】

このことは、「古典的な」水性ROMP触媒を用いる水性ROMP系に重大な改良をもたらすものである。これらの反応における成長種は安定であり、水溶性ブロック共重合体の合成は連続的なモノマー添加によって達成される。注目すべきは、酸の非存在下では重合が活発に起こらないことである。これらの系において酸は、触媒を分解する原因となる水酸化物イオンを排除することに加えて、ホスフィン配位子のプロトン化によって触媒活性を高めるという2つの効果を有するようである。特質すべきは、酸はルテニウムアルキリデン結合とは反応しないことである。
【0143】
アルキリデン6および7は、水性溶液中において、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンのROMPを(酸非存在下において)迅速かつ完全に開始させるが、この反応における成長種はしばしば重合が完結する前に分解してしまう。たとえば、アルキリデン6によって起爆された、水溶性モノマー、エキソ−N−(N’,N’,N’−トリメチルアンモニオ)エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシミドクロライド(モノマー13)およびエキソ−N−(N’,N’,N’−トリメチルアンモニオ)エチル−ビシクロ−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキサミドクロライド(モノマー14)(上記実施例2において調製したもの)のROMPにおいては、通常約45〜80%の範囲の転換が観察される(式1)。これらの水溶性錯体は、有機溶媒中において極性およびプロトン性官能基に対して非常に安定なルテニウムアルキリデンに類似しているものの、これらの錯体は水またはメタノールに溶解された場合に停止反応をもたらす可能性があると考えられる。
【0144】
【化30】

HClの存在および非存在下における、触媒6および7を用いた上記反応の結果を下記の表3に示す。
【0145】
【表3】

これらの結果は、反応系に酸を加えることによって反応時間および収率が劇的に向上したことを示している。
【実施例7】
【0146】
活発なROMP系における新しいモノホスフィンアルキリデンの酸発生
以前の「古典的」水性ROMP系に対して得られたデータとも一致して、我々は実施例8の触媒6および7の水溶液中に水酸化物イオンが存在すると、触媒が迅速に分解されることを確認した。水の自己プロトリシスまたは使用されるホスフィンの塩基性によって生じる水酸化物イオンを排除するために、モノマー13および14と、触媒6および7と、水との水性重合混合物に、ブレンステッド酸を添加した。反応は、DCl/DOの中程度の酸性溶液中で行った反応においては何ら劇的な改善は見られなかったが、(アルキリデンに対して)0.3〜1.0当量のDClを添加した場合にはモノマーを完全に重合させることができた。また酸の存在は反応速度に対しても重大な効果をもたらし、酸を加えなかった場合に比べて重合速度が2倍になった。さらに興味深いことに、成長中のアルキリデン種は、HNMRによって明確に観察され、モノマーが完全に消費されて、モノマーを反応混合物に追加するとさらなる定量的な重合が起こることが判った。
【0147】
この効果をさらに調べるために、オレフィンの非存在下におけるDClと6との反応を調べた。6のDO溶液に0.3当量のDClを加えると、明らかにこの酸は、ルテニウム−炭素間二重結合をプロトン化する代わりに、0.3当量のホスフィンをプロトン化して、ホスホニウム塩と0.3当量のアルキリデン種を発生させた(式2)。この非常に強い酸の存在下におけるアルキリデン結合の著しい安定性は、本発明のルテニウムをベースとするメタセシス触媒の、プロトン性官能性に対する耐性を強調するものである。
【0148】
【化31】

酸を添加することによって発生する新しいアルキリデンは、Hおよび31P NMRスペクトル分析により、式2に示されるような6のモノホスフィン誘導体であると同定された。当量までの酸を用いた水性反応において、モノホスフィン種は非常に安定で、おそらくは水の配位によって安定化されていると考えられる。酸を加えてから1.5時間以内に過剰のホスフィンを反応混合物を加えると、平衡が逆転し5%未満の検出可能な分解率で6が再形成された。このような方法でのホスフィンのプロトン化は、化学量論的には起こらない。たとえば、1.0当量のDOを加えると、モノホスフィンおよびビスホスフィンアルキリデン種が1:2の比で含まれる平衡混合物が得られた。アルキリデンは、モノマー比存在下のこれらの条件において、より迅速に分解した。
【0149】
予想された通り、我々は1.0当量までのDOを反応混合物に添加した場合に、モノマー13および14が完全に重合できることを見いだした。さらに、酸の存在は反応速度に対しても重大な効果をもたらし、全く酸を加え無かった場合と比べて重合速度は10倍まで増大した。さらに重大なことに、2つの成長中のアルキリデン種について、H NMRによって、モノマーが完全に消費され、モノマーを反応混合物に追加すると、さらなる定量的な重合が起こることが明確に観察された。成長中の種を直接的に観察することは、活発な系を定義する際の鍵となる連鎖停止の程度を、反応過程全体を通して容易にかつ直接的に扱うことを可能にするので、重要である。
【0150】
ビスホスフィンおよびモノホスフィン成長種の両方に対応する上記反応において観察されたアルキリデンは、上で概説したそれぞれの開始種よりも著しく安定である。実際に、周囲温度において、これらの反応における成長種は1ヶ月に亘って良好に観察することができた。
【0151】
式2中の平衡によって記述されるようにモノホスフィン種が比較的低濃度であることに加えて、二分子分解に対する安定性は、おそらくは、成長中のアルキリデンが立体的に相当に嵩高であることによると考えられる。2つの成長中のアルキリデンに対するH NMR共鳴が高温で合体することから、ホスフィンスクランブリングを介する迅速平衡が存在することがわかる。
【0152】
酸の存在下で行われる水性重合の活発な特性を証明するために、モノマー13のNMRスケールでの重合をDCl(アルキリデンに対して1.0当量)を用いて行い、成長種の相対量を、ポリマー末端基の芳香族プロトンに対するアルキリデンプロトンの集積によって定量した。45℃で15分後、反応は95%以上完結しており、(19.2ppmにおける幅広の一重線として合体した)2つの成長種のアルキリデンプロトンの相対集積度は、反応の最中あるいはモノマーが消費された後のいずれにおいても減少しなかった。実際に、成長は、モノマー非存在下においてさらに15分間の間、完全なまま維持され、その後ゆっくりと分解した。
【0153】
モノマー13および14のブロック共重合は、連続的にモノマーを添加することにより行われ、これらの反応における成長種の活発な性質が実証された。モノマー13が完全に重合した後、反応系を5分間放置し、20当量のモノマー14を注入した。モノマー14は、迅速かつ完全に消費され、成長種の濃度は第2ブロックの重合の最中および後のいずれにおいても一定のままであった。
【0154】
NMR感度の制限内において、上記実験における成長アルキリデンの直接的観察および定量により、これらの反応において連鎖停止が起こっていないことが実証される。アルキリデンの共鳴が、反応の時間スケールの2倍もの期間消失しないことは、これらの系が確かに活発であることを示している。これらのポリマーをゲル透過クロマトグラフィー(GPC)分析したところ、多分散性指数(PDI)が1.2〜1.5の対称単一モードピークが得られた。
【0155】
式2に示される平衡は、速度向上、したがって上述の重合の活発な性質に対する直接的説明を与える。本発明の(PRC1Ru=CHR型のアルキリデン錯体に対しては、ホスフィンが金属中心から解離する機構を介してオレフィンメタセシスが進行することが示された。有機系におけるオレフィンメタセシスの速度は、ホスフィン捕捉剤を添加して、オレフィン配位とホスフィン解離に対する平衡を好適化することにより、増大されているが、これらの条件下においては触媒は迅速に分解する。錯体6および7を用いる水性系においては、プロトンがホスフィン捕捉剤として作用して、触媒分解の加速を伴うことなくオレフィンメタセシスの速度を増大させる。酸性条件下における成長と停止の速度の差は、活発な様式でのモノマーの迅速かつ定量的転換可能にする。
【実施例8】
【0156】
ひずみを有しない環状オレフィンのROMPおよび非環状オレフィンのメタセシス
高度にひずんだオレフィンとしか反応しない、上述の「古典的」ルテニウムメタセシス触媒とは対照的に、実施例6のアルキリデン6および7は、1,5−シクロオクタジエンなどのひずみの少ないモノマーのROMPも促進し、また、プロトン性溶媒中での非環状オレフィンのメタセシスにおいても活性を有する。たとえば、6は、メタノール中で1−ヘキサンを二量体化し、5−デセンを20%の収率で与える(式3)。これらの系においては、反応混合物に水を添加することにより触媒を容易に生成物から分離することができる。得られた二相系から回収されたオレフィンは、非常に低レベルの検出可能ルテニウムしか含んでいなかった。
【0157】
【化32】

本発明はいくつかの点について上記実施形態を参照して説明してきたが、多くの変形および改変が当業者によって明らかであろう。したがって、以下の一覧は限定的解釈を与えるためのものではなく、開示された発明の主題から常套的に引き出されるような変形および改変を包含するものと見なされるべきである。Grubbs,R.H.J.M.S.−Pure Appl.Chem.1994,A31(11),1829―1833(非特許文献1);Aqueous Organometallic Chemistry and Catalysis. Horvath,I.T.,Joo,F.Eds;Kluwer Academic Publishers:Boston,1995(非特許文献2);Novak,B.M.;Grubbs,R.H.J.Am.Chem.Soc.1988,110,7542―7543(非特許文献3);Novak,B.M.;Grubbs,R.H.J.Am.Chem.Soc.1988,110,960―96(非特許文献4);Nguyen,S.T.;Johnson,L.K.;Grubbs,R.H.、J.Am.Chem.Soc.1992,114,3974−3975(非特許文献5)およびSchwab,P.;Grubbs,R.H.;Ziller,J.W.J.Am.Chem.Soc.1996,118,100(非特許文献6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンメタセシス反応を行うための方法であって、
オレフィンモノマーを、式:
Ru=CHR’
にて表されるルテニウムカルベン錯体と無機または有機の酸の存在下において接触させることを含み、
式中、x=0,1または2であり、
y=0,1または2であり、
z=1または2であり、
R’は、水素、アルキル、置換アルキル、アリールおよび置換アリールから成る群より選択され、
Lは、中性電子供与体であり、
Xは、アニオン性配位子であり、
Aは、中性電子供与体とアニオン性配位子とを結合する共有結合構造を有する配位子であり、
前記無機または有機の酸はHI、HCl、HBr、HSO、H、HNO、HPO、およびトシル酸から成る群より選択され、かつ、前記無機または有機の酸は前記反応において基質または溶媒として存在していないものである、方法。
【請求項2】
前記酸は、HClであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸は、前記オレフィンモノマーと前記ルテニウムカルベン錯体とを含む溶液に添加されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸は、光酸発生剤に照射を行うことによって生成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
オレフィンメタセシス反応は、溶媒を用いずに行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
オレフィンメタセシス反応は、プロトン性溶媒、水性溶媒、有機溶媒およびそれらの混合物から成る群より選択される溶媒中で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
芳香族溶媒、ハロゲン化溶媒、脂肪族有機溶媒、ハロゲン化脂肪族有機溶媒、アルコール溶媒、水およびそれらの混合物から成る群より選択される溶媒中で行われることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒は、ベンゼン、ジクロロメタンおよびメタノールから成る群より選択されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRは、それぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Xは、水素、ハロゲン、および置換または非置換C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリールオキシド、C−C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C−C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C−C20アルキルスルホネート、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニル、およびC−C20アルキルスルフィニルから成る群より選択され、式中、置換基は、C−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニルおよびC−Cアルコキシ置換フェニルから成る群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
LRu=CHR’
にて表されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRはそれぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキル、およびシクロアルキルから成る群より選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
【化1】

にて表され、式中、各Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールから成る群より選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
各Rは独立して、
(a)C−C20アルキル、
(b)アリール、
(c)アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、およびC−C20アルコキシカルボニルから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたC−C20アルキル、および、
(d)C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドおよびメトキシから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたアリール、から成る群より選択されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
Rはメチルまたはt−ブチルであり、
PRはP(シクロヘキシル)であり、
R’はフェニルであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
ALXRu=CHR’
にて表されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRは、それぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
Xは、水素、ハロゲン、および置換または非置換C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリールオキシド、C−C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C−C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C−C20アルキルスルホネート、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニルおよびC−C20アルキルスルフィニルから成る群より選択され、式中、各置換基は、C−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニルおよびC−Cアルコキシ置換フェニルから成る群より選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
【化2】

にて表され、式中、Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリールおよび置換アリールから成る群より選択され、
R’’は、水素、ハロ、ニトロおよびアルコキシから成る群より選択され、
Xは、Cl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項23】
Rは、
(a)C−C20アルキル、
(b)アリール、
(c)アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、およびC−C20アルコキシカルボニルから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたC−C20アルキル、および、
(d)C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドおよびメトキシから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたアリール、から成る群より選択されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
R’はフェニルであり、
R’’はニトロであり、
PRはP(シクロヘキシル)であり、
XはClであり、
Rは非置換アリールまたは2,6−ジイソプロピル基によって置換されたアリールであることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
Ru=CHR’
にて表されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項26】
Lは式PRのホスフィンであり、式中、Rは、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRは、それぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
Lは、−P(シクロヘキシル)、−P(シクロペンチル)、−P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
Xは、水素、ハロゲン、および置換または非置換C−C20アルキル、アリール、C−C20アルコキシド、アリールオキシド、C−C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C−C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C−C20アルキルスルホネート、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニルおよびC−C20アルキルスルフィニルから成る群より選択され、式中、各置換基は、C−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシ、非修飾フェニル、ハロゲン置換フェニル、C−Cアルキル置換フェニルおよびC−Cアルコキシ置換フェニルから成る群より選択されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
【化3】

にて表され、式中、PRは、P(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択され、
XはCl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記ルテニウムカルベン錯体は、式:
【化4】

にて表され、ただしCyはシクロヘキシルであり、Rは独立して、
【化5】

から成る群より選択され、
Xは、Cl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択され、
オレフィンメタセシス反応は水性またはアルコール溶媒、あるいはその混合物中で行われることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項31】
ルテニウムカルベン錯体は、
【化6】

であり、
オレフィンメタセシス反応は水性またはアルコール溶媒、あるいはその混合物中で行われることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ルテニウムカルベン錯体は、
【化7】

であり、
オレフィンメタセシス反応は水性またはアルコール溶媒、あるいはその混合物中で行われることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記オレフィンメタセシス反応は、開環メタセシス重合、閉環メタセシス、非環状ジエンメタセシス、および交差メタセシスから成る群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記オレフィンモノマーは、ひずみを有する環状オレフィン、ひずみを有しない環状オレフィン、非環状オレフィン、ジエン、および不飽和ポリマーから成る群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記オレフィンモノマーは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記反応は開環メタセシス重合であり、前記オレフィンモノマーは環状オレフィンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
第1の環状オレフィンを連続的に添加した後、第2の環状オレフィンを添加することによって、ブロック共重合体が合成されることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
(1)前記酸は、前記環状オレフィンモノマーを含む第1の溶液に溶解され、
(2)ルテニウムカルベン錯体は、前記環状オレフィンモノマーを含む第2の溶液に溶解され、
(3)前記第1の溶液が前記第2の溶液に添加されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記第1および第2の溶液は、純粋なオレフィンモノマーを含むことを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記第1および第2の溶液は、水を含むことを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記環状オレフィンは、シクロブテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、シクロオクタジエン、シクロノナジエン、シクロペンタジエン、およびジシクロペンタジエン、ならびにそれらの誘導体から成る群より選択されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カルボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記環状オレフィンは、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンから成る群より選択されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項45】
前記環状オレフィンは、エンド−ジシクロペンタジエンおよびエキソ−ジシクロペンタジエンから成る群より選択されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項46】
前記オレフィンメタセシス反応は閉環メタセシスであり、前記オレフィンモノマーが非環状ジエンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項47】
前記非環状ジエンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記オレフィンメタセシス反応は、非環状ジエンメタセシスまたは交差メタセシスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項49】
前記オレフィンモノマーは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記オレフィンモノマーは、1−ヘキサンであることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項51】
開環メタセシス重合反応を行うための方法であって、
環状オレフィンモノマーを、式:
【化8】

にて表されるルテニウムカルベン錯体と無機または有機の酸の存在下で接触させることを含み、
式中、R’はアルキル、置換アルキル、アリール、および置換アリールから成る群より選択され、
PRは式PRのホスフィンであり、ただし、Rは第2級アルキルおよびシクロアルキルから成る群より選択され、RおよびRはそれぞれ独立してアリール、C−C10第1級アルキル、第2級アルキル、およびシクロアルキルから成る群より選択され、
残りの各Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリール、および置換アリールから成る群より選択される方法。
【請求項52】
PRは、P(シクロヘキシル)、P(シクロペンチル)、P(イソプロピル)およびP(フェニル)から成る群より選択され、
残りの各Rは独立して、
(a)C−C20アルキル、
(b)アリール、
(c)アリール、ハライド、ヒドロキシ、C−C20アルコキシ、およびC−C20アルコキシカルボニルから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたC−C20アルキル、および、
(d)C−C20アルキル、アリール、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、ハライドおよびメトキシから成る群より選択される1つまたはそれ以上の基によって置換されたアリール、から成る群より選択されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項53】
R’はフェニルであり、
PRはP(シクロヘキシル)であり、
Rはメチルまたはt−ブチルであることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記酸は、HClであることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記酸は、前記環状オレフィンモノマーと前記ルテニウムカルベン錯体とを含む溶液に添加されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記酸は、光酸発生剤に照射を行うことにより生成することを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項57】
前記開環メタセシス重合反応は、溶媒を用いずに行われることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項58】
開環メタセシス重合反応は、プロトン性溶媒、水性溶媒、有機溶媒およびそれらの混合物から成る群より選択される溶媒中で行われることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項59】
前記環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項60】
第1の環状オレフィンを連続的に添加した後、第2の環状オレフィンを添加することによって、ブロック共重合体が合成されることを特徴とする請求項59に記載の方法。
【請求項61】
(1)前記酸は、前記環状オレフィンモノマーを含む第1の溶液に溶解され、
(2)ルテニウムカルベン錯体は、前記環状オレフィンモノマーを含む第2の溶液に溶解され、
(3)前記第1の溶液が前記第2の溶液に添加されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項62】
前記第1および第2の溶液は、純粋なオレフィンモノマーを含むことを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記第1および第2の溶液は、水を含むことを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記環状オレフィンは、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンから成る群より選択されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項65】
前記環状オレフィンは、エンド−ジシクロペンタジエンおよびエキソ−ジシクロペンタジエンから成る群より選択されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項66】
開環メタセシス重合反応を行うための方法であって、
環状オレフィンモノマーを式:
【化9】

にて表されるルテニウムカルベン錯体と接触させることを含み、
式中、Cyはシクロヘキシルであり、
Rは独立して、
【化10】

から成る群より選択され、
XはCl、Br、I、CHCOおよびCFCOから成る群より選択され、
開環重合反応は、無機または有機の酸の存在下において、水性またはアルコール溶媒あるいはその混合物中で行われることを特徴とする方法。
【請求項67】
ルテニウムカルベン錯体は、式:
【化11】

にて表されることを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項68】
ルテニウムカルベン錯体は、式:
【化12】

にて表されることを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記溶媒は水性であり、前記環状オレフィンは水溶性であることを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項70】
前記酸は、HClであることを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項71】
前記酸は、前記環状オレフィンモノマーと前記ルテニウムカルベン錯体とを含む溶液に添加されることを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項72】
前記環状オレフィンは、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、ニトロ酸、カルボン酸、イソシアネート、カルボジイミド、エーテル、ハロゲン、第四級アミン、炭水化物、リン酸塩、硫酸塩、およびスルホン酸塩から成る群より選択される官能基を含むことを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項73】
第1の環状オレフィンを連続的に添加した後、第2の環状オレフィンを添加することによって、ブロック共重合体が合成されることを特徴とする請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記環状オレフィンは、官能化されたノルボルネンおよび7−オキサノルボルネンから成る群より選択されることを特徴とする請求項66に記載の方法。

【公開番号】特開2010−138413(P2010−138413A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61372(P2010−61372)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2000−518785(P2000−518785)の分割
【原出願日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【出願人】(598128421)カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー (26)
【Fターム(参考)】