説明

オレフィン重合用触媒成分の製造方法、オレフィン重合用触媒及びオレフィンの重合方法

【課題】安価で簡便な方法によるオレフィン重合用触媒の提供。
【解決手段】周期律表第3〜11族の遷移金属化合物、固体酸、及び二種の有機化合物(A)[式R−CO−X又は式R−CO−(X−CO−R](式中、R、R、Rは、水素又は炭素数1〜20の炭化水素基、X、Xは、ヘテロ環式炭化水素基、nは0又は1である。)で表される化合物と化合物(B)[式NH(R3−m(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基であり、mは1〜3の整数である。)で表される化合物]を接触させることによりオレフィン重合用触媒成分を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用触媒成分の製造方法、オレフィン重合用触媒及びオレフィンの重合方法に関するものであり、詳しくは、固体酸と遷移金属化合物によるオレフィン重合用触媒の簡便で安価な製造方法を提供し、また、その製造方法を用いて得られるオレフィン重合用触媒、及びその触媒を用いたオレフィンの重合方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
産業用資材として重要な樹脂材料であり、成形材料として汎用されるポリオレフィンは、主に、遷移金属化合物を使用するチーグラー系触媒及びメタロセン系触媒により製造されている。
これらの触媒はオレフィン重合用の基幹触媒であるので、広汎に研究改良がなされており、メタロセン触媒に用いる遷移金属錯体としては、シクロペンタジエニル基或いはその類縁体を配位子とする周期律表第4族元素の化合物が最も広く知られているが、周期律表第3族元素メタロセン系化合物(特許文献1)によるオレフィン重合も報告されている。
【0003】
チーグラー系触媒及びメタロセン系触媒とは異なる、バナジウム、クロム、マンガンのような、前周期金属を使用したオレフィン重合用触媒も研究されていて、5族元素の遷移金属化合物(特許文献2)、6族元素の遷移金属化合物(特許文献3)、7族元素の遷移金属化合物(特許文献4)によるオレフィン重合も報告されている。
また、中心金属として8族元素である鉄、9族元素であるコバルト、10族元素であるニッケルやパラジウム、11族元素である銅といった後周期遷移金属元素を有するオレフィン重合用触媒成分も開示されている(例えば、非特許文献1、特許文献5、特許文献6、特許文献7)。
【0004】
これらのいわゆる非メタロセン系触媒は、例えば、炭素原子と二重結合した2座の窒素原子を有する配位子にニッケルやパラジウムが配位したブルックハート触媒(先の特許文献5)などとしてよく知られているが、重合活性が十分には高くない。
窒素原子配位子として、2座以上の窒素原子などの配位サイトを有する化合物を用い、有機アルミニウム化合物の一つであるメチルアルミノキサンと組み合わせた触媒系においては、エチレンを高活性で重合するが、メチルアルミノキサンによる重合反応中の連鎖反応が著しく、高分子量の重合体を得ることが難しいという問題があった。また、生成する重合体の粒子性状が悪いという問題も派生している。
【0005】
一方、4族元素メタロセン錯体触媒によりオレフィン重合する場合においても、生成するオレフィン重合体を粒子化された状態で得るための努力がなされており、実用化に至っている。例えば、トリアルキルアルミニウムで処理されたシリカなどの微粒子担体にジルコノセン化合物とメチルアルミノキサンを接触させてエチレン予備重合を行って得られた触媒(非特許文献2)や、粘土鉱物をメタロセンの助触媒兼担体として使用した触媒(特許文献8)が知られている。
【0006】
この粒子化の努力は、上述の非メタロセン錯体触媒系においても検討されており、例えば、周期律表第8族〜第10族元素の多座窒素配位子錯体や、周期律表第3族〜第11族元素のフェノキシイミン配位子錯体をシリカなどの微粒子や特定の樹脂に助触媒と共に担持したり、上述の粘土鉱物と組み合わせて使用する試みがなされている(特許文献9〜14)。
これらの中で、特許文献12〜14では、周期律表第3〜11族の遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンがインターカレートされたイオン交換性層状化合物と特定の第15族又は第16族の元素を有する化合物、特に、2座の窒素及び/又は酸素原子などを有する配位子としての有機化合物を接触して得られる触媒成分の開示がある。ここで開示されている配位子としての有機化合物の多くは、特定の含窒素化合物と特定のカルボニル基を有する化合物による縮合反応により得られる化合物である。また、この縮合反応は、一般的には酸の存在下で反応が促進され、この配位子としての有機化合物を単離するためには目的物の単離及び精製が必要であり、触媒製造を複雑にしている要因の一つとなっている。
【0007】
この粘土鉱物と非メタロセン錯体を組み合わせた触媒系は、活性が高く、粒子性状や得られるポリマーの分子量を改良することができるが、複雑な合成工程と精製分離工程が不可避であり、その結果として高価な非メタロセン錯体を触媒原料として使用するため、触媒価格が高くなるという問題が内包されている。そして、更なる触媒製造工程の簡便化についても課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−95514号公報
【特許文献2】特表2002−503733号公報
【特許文献3】特表2002−541152号公報
【特許文献4】特表2003−527403号公報
【特許文献5】WO96/23010号国際公開
【特許文献6】WO98/27124号国際公報
【特許文献7】特開平11−171915号公報
【特許文献8】特開平5−301917号公報
【特許文献9】特開平9−278821号公報
【特許文献10】特開2000−313712号公報
【特許文献11】特開2000−198812号公報
【特許文献12】特開2007−254704号公報
【特許文献13】特開2008−88409号公報
【特許文献14】特開2008−274142号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society 117巻 6414頁
【非特許文献2】触媒 44巻3号 194頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した背景技術のかかる状況を踏まえて、本発明は、段落0007に前述したところの、活性が高く、粒子性状や得られるポリマーの分子量を改良することができる、粘土鉱物と非メタロセン錯体を組み合わせた触媒系を改良し、複雑な合成工程と精製分離工程が不可避である問題を解消して、安価で簡便な方法でかかるオレフィン重合用触媒を製造し、当重合用触媒を用いて安定かつ経済的なオレフィン重合体の製造方法を実現することを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した本発明の課題を解決することを目指して、上記の触媒系における、成分原料としての、遷移金属化合物や固体酸及び配位子化合物などの組み合わせや作用などを勘案検索して、遷移金属化合物、固体酸、及び特定の二種の有機化合物を接触させることにより、特別な精製や単離を行うことなく、配位子としての有機化合物と金属化合物との処理及びそれに続く、固体酸の存在下における錯化反応を進行させ、本発明が目指すオレフィン重合用触媒成分が製造できることを見い出した。これにより、上述のような課題が解決され、本発明を実現できるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、基本発明(第1の発明)として、周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物、固体酸、及び下記の二種の特定の有機化合物(A)と化合物(B)を接触させることを特徴とするオレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
化合物(A):式A−1又は式A−2で表される化合物
【0013】
【化1】

【化2】

(式中において、R、R、Rは、水素又は炭素数1〜20の炭化水素基、X、Xは、ヘテロ環式炭化水素基、nは、0又は1である。)
化合物(B):NH(R3−m
(式中において、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基であり、この炭化水素基は、更にハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルシリル基を有していてもよい。また、複数あるRは、同一であっても異なっていてもよい。mは1〜3の整数である。)
【0014】
本発明の第2の発明によれば、以下の工程を有する、第1の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
工程1:周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物を固体酸と接触させる工程
工程2:工程1で得られた接触物をスラリー化し、化合物(A)及び化合(B)を独立に添加する工程
【0015】
本発明の第3の発明によれば、固体酸が、酸度関数(H)≦+1.5の酸点を.01
mmol/g固体以上有している、第1及び第2の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
本発明の第4の発明によれば、固体酸が、無機酸化物である、第1〜第3の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
本発明の第5の発明によれば、固体酸が、粘土鉱物である、第1〜第4の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第6の発明によれば、以下の工程を有する第5の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
工程1:周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物を粘土鉱物と接触させ、遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンを粘土鉱物層間にインターカレートさせる工程
工程2:工程1で得られた粘土鉱物をスラリー化し、化合物(A)及び化合物(B)を独立に添加する工程
【0017】
本発明の第7の発明によれば、化合物(A)のX及びXが、ヘテロ環芳香族化合物である第1〜第6の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
本発明の第8の発明によれば、化合物(A)のX及びXが、ヘテロ環芳香族化合物であり、R、R、Rが炭素数1〜10の炭化水素基である第1〜第7の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
本発明の第9の発明によれば、化合物(B)のRの少なくとも1つがフェニル基である第1〜第8の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
本発明の第10の発明によれば、化合物(B)のmが2である第1〜第9の発明における、オレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第11の発明によれば、工程1において、周期律表第5、6、8、9、10族の遷移金属化合物を粘土鉱物と接触させ、遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンを粘土鉱物層間にインターカレートさせる第5〜第10の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
本発明の第12の発明によれば、工程1において、V、Cr、Fe、Co、Ni,Pdから選ばれる遷移金属化合物を粘土鉱物と接触させ、遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンを粘土鉱物層間にインターカレートさせる第5〜第11の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の第13の発明によれば、第1〜第12の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法により得られる、オレフィン重合用触媒成分が提供される。
本発明の第14の発明によれば、第1〜第12の発明における、オレフィン重合用触媒成分の製造方法により得られる、オレフィン重合用触媒成分と任意成分として有機アルミニウム化合物を成分とするオレフィン重合用触媒が提供される。
【0020】
本発明の第15の発明によれば、第14の発明における、オレフィン重合用触媒を用いたオレフィンの重合方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、遷移金属がインターカレートした粘土鉱物に、特定の構造を有する2つの化合物を独立に接触させることにより、特別で煩雑な精製や単離を行うことなく、活性が高く、粒子性状や得られるポリマーの分子量を改良することができる、オレフィン重合用触媒が安価に製造でき、その触媒を用いることにより、安定かつ経済的なオレフィン重合体の製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、遷移金属化合物及び固体酸、特に特定の状態の粘土鉱物と、特定の構造を有する2種類の有機化合物を接触されることによる、オレフィン重合用触媒の製造方法、その工程により得られるオレフィン重合用触媒、及びその触媒を用いるオレフィンの重合方法を要旨とする。以下、本発明を具体的に詳細に説明する。
【0023】
1.触媒成分の要素(原料)について
(1)周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物
本発明で使用される遷移金属化合物は、周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物が用いられるが、よりオレフィン重合用触媒成分を形成し易いという観点から周期律表5、6、8、9、10族の遷移金属化合物が好ましく、更にはV、Cr、Fe、Co、Ni,Pdが好ましく、Fe,Ni,Pdが最も好ましい。
これらは、無機塩として用いてもよいし、有機金属錯体を用いてもよいが、粘土鉱物の層間にインターカレートさせるためには、工程1で用いる溶媒に可溶なものが好ましい。また、イオンになりやすいという観点から、無機塩を用いることが好ましく、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩が更に好ましい。
【0024】
この様なイオン交換を目的とした本発明の遷移金属イオン若しくは当遷移金属錯イオンを含有する、塩類処理で用いられる塩類は、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの、更に好ましくは、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Niの少なくともいずれか1つの、特に好ましくは、Fe、Co、Niの、元素を含むイオンを含有する化合物である。
好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの元素を含む陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸及び有機酸からなる群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物であり、更に好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの元素を含む陽イオンと、Cl、Br、I、F、S、O、PO4 、SO4 、NO、CO、C4 、ClO4 、OOCCH、CHCOCHCOCH、OCl、O(NO、O(ClO4 、O(SO4 )、OH、OCl、OCl、OOCH、OOCCHCH、OOCH(C)C4、C4 4 及びCからなる群から選ばれる少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物である。
【0025】
(2)固体酸
固体酸は、固体でありながらブレステッド酸又はルイス酸の特性を示すものであり、その酸性により触媒作用を呈し、酸性白土やシリカアルミナなどに代表される。
具体的な固体酸としては、ゼオライト、金属酸化物、複数の金属元素を有する金属酸化物、などの無機酸化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩、固体リン酸、陽イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸などが挙げられる。これらは、構成する元素は表面の状態により、酸強度、酸量、酸のタイプが異なる。
【0026】
特に、後述の特定の二種の有機化合物(化合物Aと化合物B)の反応を促進させるという観点から、H≦+1.5の酸点を0.01mmol/g固体以上有していることが好ましい。H≦+1.5の酸点を0.05mmol/g固体以上有していることが更に好ましい。
ここで、Hはいわゆる酸度関数であり、溶液が中性塩基にプロトンを移動させる傾向を顕す。Hは数値が小さいほど、特に負の値が大きいほど中性塩基にプロトンを移行させ易い。
すなわち、酸度関数(H)は、「溶媒に溶かされた溶質にプロトンを与える能力の定量的尺度」であり、酸度関数の値が負に大きくなるほどその溶媒の酸強度は強くなる(日本化学会編「化学便覧 基礎編II」P.323)。また、この酸度関数を、固体表面に適用し、Hで酸点の強さを表す指標にすることが一般的に知られている(三共出版、服部 他 著「新しい触媒化学」、P.175〜176)。Hは特定の指示薬により測定可能であるが、変色した指示薬の量をブチルアミンで滴定することにより、酸量を定量することができる。
酸点は、その物質が酸としての性質を示す構成単位であり、その酸の強さはHにて数値化される。酸点の強さは、酸点を必要とする反応の反応成績(収率や反応速度)に大きく影響する。本発明において、酸度関数(H)はトルエン中で測定した値を用いる。
【0027】
≦+1.5の酸点を示す固体酸としては、Al,Cr, TiO, SiO−TiO,SiO−MgO, SiO−Al, SiO−ZrO, SiO−BeO, SiO−Y, SiO−La, SiO−WO, SiO−V, SiO−Ga, SiO−MoO, Al−ZrO, Al−Bi, Al−MoO, Al−V, Al−WO, Cr−Al, TiO−Al, TiO−SiO, TiO−ZrO, ZnO−Al,H−Y,La−Y,Ca−Y, ヘテロポリ酸, 粘土鉱物、NiSO・HO, Al(SO,・nHO, Fe(SO・nHO, BPO, FePO, TiO−B, TiO −SnO, ZnO−SiO,ZnO−ZrO, WO−TiO ,固形化ホウ酸、固形化硫酸、固形化リン酸などが挙げられる。
これらの中で好ましいのは、粘土鉱物、ゼオライト、SiO−Al, SiOと他の金属を組み合わせた複合酸化物、Al及びAlと他の金属を組み合わせた複合酸化物、ZnOと多の金属を組み合わせた複合酸化物が好ましい。その中でも、粘土鉱物が更に好ましい。
【0028】
(3)粘土鉱物
本発明で用いられる粘土鉱物は、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。
粘土鉱物の具体例としては、アロフェンなどのアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群などが挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトなどが挙げられる。
【0029】
これら具体例のうち好ましくは、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、更に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族が挙げられる。
【0030】
これらの粘土鉱物は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸などによる酸処理及び/又は、LiCl、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、LiSO、MgSO、ZnSO、Ti(SO、Zr(SO、Al(SOなどの塩類処理を行ってもよい。
該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよく、また粉砕や造粒などの形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0031】
酸処理は、粘土鉱物から成分の一部を溶出させる効果がある。また、塩処理はイオン交換させる効果とイオン交換性層状珪酸塩の膨潤性を変化させる効果がある。その結果、酸処理及び塩処理の条件を選択することにより、粘土鉱物の酸性質や、粒子の表面積や細孔容積を制御することができる。
【0032】
(4)化合物(A)のA−1
A−1は、以下の化学式で表される化合物である。
【化3】

(式中において、Rは、水素又は炭素数1〜20の炭化水素を表す。)
【0033】
炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基、3−メチル−ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基、2−アダマンチル基、t−ブチル基、1,1−ジメチル−プロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルシクロヘキシル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−アダマンチル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、3−フェニル−ペンチル基などが挙げられる。これらの中では、炭素数1〜10の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基、ナフチル基であり、更には好ましくは、メチル基、フェニル基である。
【0034】
は、ヘテロ環式炭化水素基である。ヘテロ環式炭化水素基としては、次の基本骨格を有する化合物が例示できる。
(i)ヘテロ原子として酸素を有するヘテロ環式炭化水素基の基本骨格
オキシラン、オキセタン、フラン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソフラン、2H−ピラン、4H−ピラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、1,4−ジオキシン、2,3−ジヒドロ−1,4−ジオキシン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2H−クロメン、4H−クロメン、クロマン、イソクロメン、イソクロマン、ジベンゾフラン、9H−キサンテンが例示される。
【0035】
(ii)ヘテロ原子として窒素を有するヘテロ環式炭化水素基の基本骨格
アジリジン、アセチジン、ピロール、3−ピロリン、ピロリジン、ピラゾール、2−ピラゾリン、ピラゾリジン、イミダゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1H−テトラゾール、ピリジン、ピペリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4,5−テトラジン、ピロリジジン、インドール、インドリン、イソインドール、イソインドリン、インドリジン、インダゾール、2H−インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、4H−キノリジン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、1,8−ナフチリジン、プテリジン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、フェナントリジン、1,10−フェナントロリン、フェナゾンが例示される。
【0036】
(iii)ヘテロ原子として硫黄を有するヘテロ環式炭化水素基の基本骨格
チイラン、チエタン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、チアン、1,4−ジチアン、1,3−ジチアン、チオフテン、チオナフテン、ジベンゾチオフェン、9H−チオキサンテン、チアントレンが例示される。
【0037】
(iv)異なるヘテロ原子を含有するヘテロ環式炭化水素基の基本骨格
イソオキサゾール、オキサゾール、フラザン、イソチアゾール、チアゾール、2−チアゾリン、チアゾリジン、1,4−オキサチアン、1,3−オキサチアン、4H−1,4−オキサジン、モルホリン、2H−1,4−チアジン、4H−1,4−チアジン、1,2−ベンゾイソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアゾリン、フェナキサチイン、フェニキサジン、フェノチアジンが例示される。
【0038】
(v)ヘテロ環式炭化水素基の基本骨格における置換基
なお、基本骨格に、置換基として炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン、アルコキシ基、アルキルシリル基を有していてもよいし、置換基として存在する炭化水素基が環状構造を形成していてもよい。これらの置換基の中で、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。
炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n-ブチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基、3−メチル−ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基、2−アダマンチル基、t−ブチル基、1,1−ジメチル−プロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルシクロヘキシル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−アダマンチル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、3−フェニル−ペンチル基などが挙げられる。
これらの中では、炭素数1〜10の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基、ナフチル基であり、更には好ましくは、メチル基、フェニル基である。
【0039】
アルキルシリル基としては、炭素数1〜18であることが好ましく、例えば、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジ−t−ブチルシリル基、ジシクロヘキシルシリル基、ジフェニルシリル基、エチル−メチルシリル基、t−ブチル−メチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基などが挙げられる。
これらの中では、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、エチル−メチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基が好ましい。
【0040】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシロキシ基などが挙げられる。
これらの中で、メタロセン触媒の活性点を酸素原子で被毒しないという観点から、立体障害が大きい方が好ましく、イソプロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシロキシ基が好ましい。
【0041】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。好ましくは、フッ素原子、塩素原子である。
【0042】
ヘテロ環式炭化水素基の基本骨格の中で、ヘテロ原子として窒素を含む基本骨格を有するものが好ましく、窒素を含むヘテロ芳香族環が更に好ましく、窒素を含むヘテロ芳香族環が6員環を形成していることが最も好ましい。最も好ましいヘテロ環式炭化水素基の基本骨格の具体例として、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0043】
式A−1で示される R−C=O−基は、ヘテロ環式炭化水素基の任意の位置で結合を形成していて良いが、ヘテロ原子に隣接する炭素原子に結合していることが好ましく、更には、ヘテロ原子が窒素であり、その隣接位の炭素原子にR−C=O−基が結合していることが好ましい。
【0044】
(5)化合物(A)のA−2
A−2は、以下の化学式で表される化合物である。
【化4】

(式中において、R、Rは、水素又は炭素数1〜20の炭化水素基、Xは、ヘテロ環式炭化水素基、nは、0又は1である。
すなわち、R、Rは、化合物A−1のRと同様であり、Xは、化合物A−1のXと同様である。
【0045】
式A−2で示されるR−C=O−基は、ヘテロ環式炭化水素基の任意の位置で結合を形成していてよいが、ヘテロ原子に隣接する炭素原子に結合していることが好ましく、更には、ヘテロ原子が窒素であり、その隣接位の炭素原子にR−C=O−基が結合していることが好ましい。
【0046】
(6)化合物B
化合物(B)は以下の式で表される化合物である。
NH(R3−m
(式中において、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基であり、この炭化水素基は、更にハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルシリル基を有していてもよい。また、複数あるRは、同一であっても異なっていてもよい。mは1〜3の整数を示すが、この中でm=2が好ましい。)
【0047】
炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基、3−メチル−ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基、2−アダマンチル基、t−ブチル基、1,1−ジメチル−プロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルシクロヘキシル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−アダマンチル基、フェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、3−フェニル−ペンチル基などが挙げられる。
これらの中では、炭素数1〜10の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、ナフチル基であり、更には好ましくは、フェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基である。
【0048】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。好ましくは、フッ素原子、塩素原子である。
【0049】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシロキシ基などが挙げられる。
これらの中で、メタロセン触媒の活性点を酸素原子で被毒しないという観点から、立体障害が大きい方が好ましく、イソプロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシロキシ基が好ましい。
【0050】
アルキルシリル基としては、炭素数1〜18であることが好ましく、例えば、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジ−t−ブチルシリル基、ジシクロヘキシルシリル基、ジフェニルシリル基、エチル−メチルシリル基、t−ブチル−メチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基などが挙げられる。
これらの中では、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、エチル−メチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基が好ましい。
【0051】
(7)有機アルミニウム化合物
触媒成分として用いる有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム化合物、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの水素含有アルミニウム化合物、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのハロゲン含有アルミニウム化合物、ジブチルアルミニウムエトキシドなどのアルコキシ基含有アルミニウム化合物 メチルアルモキサン、ブチルアルモキサンなど、Al−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物を用いることができる。
これらの中で好ましいのは、アルキルアルミニウム化合物、水素含有アルミニウム化合物、有機アルミニウムオキシ化合物である。
【0052】
有機アルミニウム化合物は処理粘土1gに対し、0.1mmol〜1,000mmol、好ましくは、1mmol〜500mmolの範囲で使用される。
【0053】
有機アルミニウム化合物は、触媒成分の活性化の役割と、溶媒中の不純物により重合活性点が被毒されるのを防止する効果があるため、使用する溶媒の純度によって、使用量を変える必要がある。
【0054】
2.触媒成分の各要素(原料)の接触
(1)基本方法
本発明においては、 周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物、固体酸、化合物(A)及び化合物(B)を接触させることにより、オレフィン重合用触媒成分を製造する。
具体例としては、工程1として、周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物を固体酸と接触させる工程、工程2として工程1で得られた接触物をスラリー化し、化合物(A)及び化合物(B)を独立に添加する工程が例示される。
【0055】
(2)工程1;遷移金属化合物と粘土鉱物の接触
遷移金属化合物と粘土鉱物は任意の順番で接触させることができるが、遷移金属化合物を溶解させることができる溶媒の存在下で接触させることが好ましい。
工程1で用いる溶媒としては、粘土鉱物の層間に遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンをインターカレートさせることができる溶媒であれば、任意のものが用いられるが、粘土鉱物の層間を広げることができる点から、通常、水が用いられる。
接触温度は、溶媒の凝固点以上、沸点以下で選ばれる。接触時間は、通常1分〜200時間、好ましくは5分〜100時間、更に好ましくは5分〜50時間である。
【0056】
粘土鉱物と遷移金属化合物の接触比率は、通常、粘土鉱物1g当たり遷移金属成分として0.1mmol〜20mmolが使用される。好ましくは、0.3mmol〜10mmolである。
粘土鉱物と遷移金属化合物の接触後、洗浄により過剰な遊離成分を除去することが好ましい。
【0057】
遷移金属がインターカレートした粘土鉱物は、室温〜500℃、好ましくは100℃〜300℃で乾燥ガス気流又は減圧で、水分が粘土鉱物重合に対して1wt%以下になるまで乾燥することが好ましい。
【0058】
(2)工程2;粘土鉱物と各化合物との接触
本発明は、配位子と遷移金属化合物を粘土鉱物中で錯化するのではなく、配位子前駆体である化合物(A)と化合物(B)を粘土鉱物と接触させて、配位子の合成と錯化とをin-situで行う(同一系中で同時に行う)ことを主たる特徴にしている。
本発明においては、特定の状態の粘土鉱物と、特定の構造を有する2種類の化合物を接触されることを特徴にしている。粘土鉱物は、通常、負に帯電した層状構造を有しており、シリカ、シリカアルミナ、アルミナなどとは構造的にも化学的にも異なる表面状態を有している。また、粘土鉱物は複合酸化物の一種でもあるため、その表面には固体酸点が存在し、酸点が関与する触媒反応にも利用される。
【0059】
本発明で用いる化合物(A)と化合物(B)を酸の存在下で接触させると脱水縮合反応が進行する。本発明では、オレフィン重合用触媒の活性点に成り得る遷移金属を予め粘土鉱物の層間にインターカレートさせ、その後、粘土鉱物に存在する酸点を利用して、化合物(A)と化合物(B)の反応を進行させることにより、オレフィン重合用触媒の前駆体を粘土層間内で形成させることを特徴とする。この手法では、遷移金属錯体を単離する必要がないため、非常に簡便に触媒を得ることができる。
【0060】
工程1で得られる粘土鉱物(以下、「処理粘土」という)と化合物(A)及び化合物(B)の接触においては、 各成分の接触は、溶媒存在下、任意の順番で接触させることができる。各成分は、予め溶媒でスラリー化もしくは希釈溶液として用いることができるし、化合物をそのまま用いることもできるが、処理粘土は予めスラリー化しておくことが好ましい。
【0061】
溶媒は、使用する成分に対して不活性であれば任意の溶媒を使用することができる。例えば、ヘキサン、トルエン、ナフタレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、塩化メチレン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、ブタノール、水などが挙げられる。
これらの中で、化合物A及び化合物Bの溶解性がよいことと、処理粘土の層間に化合物A及び化合物Bを導入可能な程度の極性を有した方が好ましいという観点から、トルエン、メチルシクロヘキサン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、メタノール、エタノール、ブタノールが好ましく、トルエン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、メタノール、エタノール、ブタノールが更に好ましい。
【0062】
処理粘土、化合物A、化合物Bの接触は、任意の順番で行うことができるが、以下の順番が例示できる。
すなわち、(イ)処理粘土に、化合物Aを添加して化合物Bを添加する方法、(ロ)処理粘土に、化合物Bを添加して化合物Aを添加する方法、(ハ)処理粘土に、化合物Aと化合物Bを同時に添加する方法、(ニ) 処理粘土に、化合物Aと化合物Bの混合物を添加する方法である。これらの接触順の中では、(イ)、(ロ)、(ハ)が好ましい。
【0063】
化合物Aと化合物Bの接触比率は、化合物Aの 1molに対し化合物Bは0.1〜100mol、好ましくは0.5〜10mol、更に好ましくは0.8〜5molである。
処理粘土1gに対する化合物A及び化合物Bの添加量は、0.1μmol〜1.0molである。
処理粘土、化合物A、及び化合物Bの接触は、−78℃〜200℃又は溶媒が還流する温度、好ましくは、0℃〜100℃又は溶媒が還流する温度で行われる。
接触時間は、通常、5分〜200時間、好ましくは5分〜100時間、更に好ましくは5分〜50時間である。
【0064】
3.予備重合
本発明の触媒は、粒子性の改良のために、予めオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付すことが好ましい。
使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレンなどを使用することが可能であり、特にエチレンを使用することが好ましい。
オレフィンの供給方法は、オレフィンを反応槽に定速的に或いは定圧状態になるように維持する供給方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせるなど、任意の方法が可能である。
【0065】
予備重合時間は、特に限定されないが、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が化合物(B)1部に対し、好ましくは0.01〜100、更に好ましくは0.1〜50である。
予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。
予備重合温度は、特に制限は無いが、0℃〜100℃が好ましく、より好ましくは10〜70℃である。
【0066】
予備重合時には有機溶媒などの液体中で実施することもでき、かつこれが好ましい。予備重合時の固体触媒の濃度には特に制限は無いが、好ましくは50g/L以上、より好ましくは60g/L以上、特に好ましくは70g/L以上である。
【0067】
更に、上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0068】
予備重合後に触媒を乾燥してもよい。乾燥方法には特に制限は無いが、減圧乾燥や加熱乾燥、乾燥ガスを流通させることによる乾燥などが例示され、これらの方法を単独で用いてもよいし2つ以上の方法を組み合わせて用いてもよい。乾燥工程において触媒を攪拌、振動、流動させてもよいし静置させてもよい
【0069】
4.重合反応
(1)重合用モノマー
重合体及び共重合体の製造に用いられるオレフィンとしては、以下に説明する炭化水素系オレフィン及び(メタ)アクリル酸オレフィンが挙げられる。
【0070】
炭化水素系オレフィンとしては、炭素数2〜20程度のものが好ましく、具体的にはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、スチレン、ジビニルベンゼン、7−メチル−1,7−オクタジエン、シクロペンテン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。
好ましくは炭素数2〜8のα−オレフィンである。共重合の場合、用いられるコモノマーの種類は、前記オレフィンとして挙げられるものの中から、主成分となるもの以外のオレフィンを選択して用いることができる。
【0071】
(メタ)アクリル酸系オレフィンとしては、アクリル酸、アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルが挙げられるが、アクリル酸エステルが好ましい。
具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸などが挙げられる。
【0072】
(2)重合溶媒及び添加剤
本発明における共重合反応は、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒や液化α−オレフィンなどの炭化水素溶媒が用いられる。
【0073】
本発明における共重合に際して、公知の添加剤の存在下又は非存在下で共重合を行うことができる。
添加剤としては、ラジカル重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。また、添加剤として、無機及び又は有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行ってもよい。
【0074】
(3)重合方法
本発明において、重合方法に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、又は、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。
また、重合形式としては、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。
【0075】
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマー及び媒体との分離には、従来の公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
【0076】
共重合温度、共重合圧力及び共重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。即ち、共重合温度は、通常−20℃から290℃、好ましくは0℃から250℃、共重合圧力は、0.1MPaから100MPa、好ましくは、0.3MPaから90MPa、共重合時間は、0.1分から10時間、好ましくは、0.5分から7時間、更に好ましくは1分から6時間の範囲から選ぶことができる。
【0077】
本発明において、共重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。
共重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。例えばバッチ重合の場合、予め所定量のモノマーを共重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を共重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を共重合反応器に連続的に、又は間歇的に供給し、共重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0078】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマーの反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
【0079】
共重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。即ち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中の配位子構造の制御により分子量を制御するなどが挙げられる。
連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。また、共重合モノマーが一種の連鎖移動剤となる場合には、その濃度や、オレフィンモノマーに対する比率を制御することによっても分子量調節が可能である。遷移金属錯体中の配位子構造を制御して分子量調節を行う場合には、金属Mの周りに嵩高い置換基を配置したり、金属Mにアリール基やヘテロ原子含有置換基などの電子供与性基が相互作用可能となるように配置したりすることにより、一般に分子量が向上する傾向を利用することができる。
【実施例】
【0080】
[実施例1]
遷移金属化合物による粘土鉱物の処理;(使用した成分は表1に記載した。)
粘土鉱物を5gを300ml三角フラスコに分取した。200mlのビーカーに5mmolの遷移金属化合物を100mlのイオン交換水に溶解させ、粘土鉱物に添加た。10分間撹拌し、粘土鉱物を十分分散させた後、30℃の恒温槽で24時間静置し、遷移金属イオンのインターカレーションを行った。
吸引ろ過による固液分離後、固体を500mlビーカーに移し、再度、5mmolの前述の遷移金属化合物を含む水溶液(100ml)を加え分散させた後、300mlの三角フラスコに移し変え、30℃の恒温槽で24時間静置した。吸引ろ過による固液分離後、遷移金属イオンがインターカレートした粘土鉱物を500mlビーカーに移し、100mlのエタノール中に分散させて洗浄し、再度吸引ろ過を行った。エタノールによる洗浄操作を5回繰り返した後、40℃での減圧乾燥を実施し、更に200℃で4時間、減圧乾燥を実施した。
遷移金属化合物で処理された粘土鉱物のトルエンスラリー(1mg/ml)を調製し、ベンゼンアゾジフェニルアミンのトルエン溶液(H≦+1.5の酸点と接触すると紫色を示す指示薬)を添加したところ、粘土表面は紫色を示した。このことは、pKaとして+1.5より強い酸点を有していることを示す。次いで、n−ブチルアミンを用いた滴定によりベンゼンアゾジフェニルアミンの色の変化を生じさせた酸点の量を調べたところ、0.08mmol/gであった。
【0081】
[実施例2]
触媒成分の調製;(使用した成分は表2に記載した。)
処理粘土1.0gに溶媒100mlを添加した後、化合物Aの希釈液(1.0mmol/mL)と化合物Bの希釈液(1.0mmol/mL)を添加し、24時間還流した。化合物A及び化合物Bを希釈する溶媒は、処理粘土をスラリー化するのに用いた溶媒を使用した。反応により発生した水は、随時、除去することにより反応を効率的に進めた。その後、トルエンで洗浄し可溶分を除去し、室温で減圧乾燥を行い、触媒成分を得た。得られた触媒成分を重合に使用するときは、重合溶媒で再希釈し重合を実施した。
表2に記載している触媒1の粉末X線を測定し、粘土鉱物の層間距離を測定したところ、粘土鉱物の層間距離は1.3nmであった。一方、未処理の場合は1.0nmであった。この結果から、触媒1では、粘土鉱物の層間に触媒成分がインターカレートしていることがわかる。
【0082】
[実施例3]
エチレンの重合;(使用した成分、重合条件、及び重合結果は表3に記載した。)
窒素で十分乾燥した1.5Lオートクレーブにヘキサンを500mlと採りトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.1mmol−Al/mL)を添加し、重合温度まで昇温した。その後、触媒成分のヘキサンスラリー(10mg−触媒/mL)を添加し、直ちに所定のエチレン圧をかけ重合を開始した。重合を開始して1時間後、10mLのエタノールを添加し、重合反応を停止した。
【0083】
[参考例](触媒1及び重合例1との比較)
遷移金属化合物による粘土鉱物の処理;実施例1における、処理粘土1と同様に行った。
触媒成分の調製;(2,6−ジアセチルピリジンビス(2,4,6−トリメチルフェニルイミン)の合成)
200mlの丸底フラスコ中に、5.0g(31mmol)の2,6−ジアセチルピリジン及び75mlのメタノールを入れた。次に、8.3g(61mmol)の2,4,6−トリメチルアニリン及び3滴のギ酸を加え、溶液を窒素下、室温で16時間撹拌した。メタノールで洗浄し、5.40gの黄色固体(収率44%)を得た。更に、塩化メチレン/メタノールの混合溶媒により再結晶し、4.0gの目的物を得た。
処理粘土との複合体の調製;
1.0gの処理粘土に、100mlのエタノールを添加した後、1.0mLの2,6−ジアセチルピリジンビス(2,4,6−トリメチルフェニルイミン)/エタノール希釈液(0.1mmol/mL)を添加し、24時間還流した。その後、トルエンで洗浄し可溶分を除去し、室温で減圧乾燥を行い、触媒成分を得た。
エチレンの重合;
重合例1で用いた触媒1の代わりに、参考例で調製した触媒を用いた以外は、同様な条件で重合評価を実施した結果、5.5gのポリエチレンを得た。固体触媒当たりの活性は、550gPE/g触媒であった。
参考例で使用した触媒成分は、実施例で記載している触媒1と実質的に同じである。また、参考例と重合例1の重合活性もほぼ同等の値を示している。
このことから、本発明の手法が、従来技術に比べて非常に簡便な触媒調製方法であるにもかかわらず、従来技術と同等の触媒性能が得られていることがわかる。
【0084】

【0085】

【0086】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、活性が高く、粒子性状や得られるポリマーの分子量を改良することができる、粘土鉱物と非メタロセン錯体を組み合わせた触媒系の製造方法を改良し、複雑な合成工程と精製分離工程が不可避である問題を解消して、安価で簡便な方法でかかるオレフィン重合用触媒を製造し、当重合用触媒を用いて安定かつ経済的なオレフィン重合体の製造方法を実現することができた。
したがって、本発明は、オレフィン及びその共重合体の工業的な製造において、有利に利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物、固体酸、化合物(A)及び化合物(B)を接触させることを特徴とする、オレフィン重合用触媒成分の製造方法。
化合物(A):式A−1又は式A−2で表される化合物
【化1】

【化2】

(式中において、R、R、Rは、水素又は炭素数1〜20の炭化水素基、X、Xは、ヘテロ環式炭化水素基、nは、0又は1である。)
化合物(B):NH(R3−m
(式中において、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基であり、この炭化水素基は、更にハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルシリル基を有していてもよい。また、複数あるRは、同一であっても異なっていてもよい。mは1〜3の整数である。)
【請求項2】
以下の工程を有することを特徴とする、請求項1に記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
工程1:周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物を固体酸と接触させる工程
工程2:工程1で得られた接触物をスラリー化し、化合物(A)及び化合物(B)を独立に添加する工程
【請求項3】
固体酸が、酸度関数(H)≦+1.5の酸点を0.01mmol/g固体以上有していることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項4】
固体酸が、無機酸化物であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載されたオレフィン重合触媒成分の製造方法。
【請求項5】
固体酸が、粘土鉱物であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項6】
以下の工程を有することを特徴とする、請求項5に記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
工程1:周期律表第3族〜第11族の遷移金属化合物を粘土鉱物と接触させ、遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンを粘土鉱物層間にインターカレートさせる工程
工程2:工程1で得られた粘土鉱物をスラリー化し、化合物(A)及び化合物(B)を独立に添加する工程
【請求項7】
化合物(A)のX及びXが、ヘテロ環芳香族化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項8】
化合物(A)のX及びXがヘテロ環芳香族化合物であり、R、R、Rが炭素数1〜10の炭化水素基であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項9】
化合物(B)のRの少なくとも1つがフェニル基であることを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項10】
化合物(B)のmが2であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項11】
工程1において、周期律表第5、6、8、9、10族の遷移金属化合物を粘土鉱物と接触させ、遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンを粘土鉱物層間にインターカレートさせることを特徴とする、請求項5〜請求項10のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項12】
工程1において、V、Cr、Fe、Co、Ni,Pdから選ばれる遷移金属化合物を粘土鉱物と接触させ、遷移金属イオン又は当遷移金属錯イオンを粘土鉱物層間にインターカレートさせることを特徴とする、請求項5〜請求項11のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法により得られる、オレフィン重合用触媒成分。
【請求項14】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載されたオレフィン重合用触媒成分の製造方法により得られる、オレフィン重合用触媒成分と任意成分として有機アルミニウム化合物を成分とするオレフィン重合用触媒。
【請求項15】
請求項14に記載されたオレフィン重合用触媒を用いることを特徴とする、オレフィンの重合方法。

【公開番号】特開2012−207128(P2012−207128A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73731(P2011−73731)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】