説明

オンチップ可変インダクタ

【課題】ウェハレベルパッケージにおける再配線層を利用してインダクタを構成することで、Q値を向上させつつ相互インダクタンスを変化させるオンチップ可変インダクタを提供する。
【解決手段】半導体基板1と、半導体基板1上の集積回路層2と、集積回路層2上の絶縁層3と、絶縁層3上の再配線層4とからなるウェハレベルパッケージに提供されるオンチップ可変インダクタである。第1インダクタ10は、集積回路層2に形成される。第2インダクタ20は、再配線層4に形成される。電流制御回路40は、第1インダクタ10に接続され、第1インダクタ10に入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで、第2インダクタ20を貫通する磁束を変化させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオンチップ可変インダクタに関し、特に、ウェハレベルパッケージに提供されるオンチップ可変インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路の高性能化や高集積化、低価格化に伴い、チップサイズ・ICパッケージサイズの縮小化が進んでいる。ICパッケージは、従来のQFPからBGA、CSPと縮小化が進み、WLP(Wafer Level Packaging)へと発展してきている。WLPは、シリコン基板上に集積回路を形成した後、ウェハ状態のまま銅等からなる再配線層を形成し、電極端子を形成後に樹脂封止を行いパッケージとして切り離すものである。
【0003】
一方、電子回路の特性を可変可能とするために、インダクタンスを可変可能な可変インダクタを集積回路に実装することも研究されている。例えば特許文献1に開示の可変インダクタは、複数の薄膜コイルと、これを物理的に動かすアクチュエータとからなるものである。これは、1つの薄膜コイルをアクチュエータで物理的に動かすことで薄膜コイル間の相互インダクタンスを変化させ、複数の薄膜コイル全体のインダクタンスを変化させることにより可変インダクタを実現したものである。
【0004】
また、特許文献2には、複数のコイルを設けて、分配器によってそれぞれのコイルに流れる電流の分配比を変更可能とすることで、複数のコイルによる相互インダクタンスを可変可能とした可変インダクタが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−303120号公報
【特許文献2】特開2004−165612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の可変インダクタは、アクチュエータが必要なため、薄膜コイルを作成したりアクチュエータを作成したりする必要があり、製造プロセスが多岐にわたるものであった。さらに、アクチュエータを作成するにはMEMS技術(Micro Electro Mechanical Systems)等を用いる必要があり、これらのことから製造コストが高くなるという問題があった。また、コイルをアクチュエータにより物理的に可動させる必要があるため、樹脂封止によるパッケージングが困難であるという問題もあった。さらに、可動部があるため実装や信頼性の確保にも問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示の可変インダクタは、集積回路に実装することを意図したものであるが、これは複数のインダクタを集積回路層に設けるものであった。即ち、半導体基板上の集積回路層に、スパイラル状に形成された導線によりコイルを複数作成し、これらの複数のコイル導体間に絶縁層を介して構成されるものであった。ここで、集積回路層の絶縁層は、その膜厚には限界があり、数μm以下といった薄膜でしか形成できないものであった。このため、コイル導体間が非常に近接してしまうため、コイル間の容量結合が起こり得る。特にコイル間で磁束方向が異なる構成の場合にはこの問題は顕著である。また、容量の増加を考えると集積回路層においては配線を数十μm以上の太さにできないため、配線抵抗を低くするのにも限界があった。したがって、従来技術では、コイル間に容量結合が生じたり配線抵抗が高いため、インダクタの性能指数であるQ値が低下してしまうという問題がある。したがって、高いQ値の可変インダクタを実現することは困難であった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ウェハレベルパッケージにおける再配線層を利用してインダクタを構成することで、Q値を向上させつつ相互インダクタンスを変化させるオンチップ可変インダクタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明によるオンチップ可変インダクタは、半導体基板と、半導体基板上の集積回路層と、集積回路層上の絶縁層と、絶縁層上の再配線層とからなるウェハレベルパッケージに提供されるオンチップ可変インダクタである。そして、集積回路層に形成される第1インダクタと、再配線層に形成される第2インダクタと、第1インダクタ又は第2インダクタの一方に接続される電流制御回路であって、第1インダクタ又は第2インダクタの一方に入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで、第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させる電流制御回路と、を具備するものである。
【0010】
ここで、絶縁層は、第1インダクタと第2インダクタとの容量結合の影響が無視でき、且つ、第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束に影響を及ぼす程度の膜厚を有するものであれば良い。
【0011】
また、第1インダクタと第2インダクタは、同軸に形成されれば良い。
【0012】
また、第1インダクタ又は第2インダクタの一方と電流制御回路は、閉回路を構成するものであれば良い。
【0013】
また、第1インダクタ又は第2インダクタの他方の入力信号を電流制御回路の入力に分岐するものであっても良い。
【0014】
ここで、電流制御回路は、入力インピーダンスが高いものであれば良い。
【0015】
また、電流制御回路は、その電流振幅及び/又は位相制御特性に周波数依存性を有し、第1インダクタ又は第2インダクタの一方に入力する信号の周波数を制御することで第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させるものであっても良い。
【0016】
さらに、集積回路層に形成される第3インダクタと、第3インダクタに接続される第2電流制御回路であって、第3インダクタに入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させる第2電流制御回路と、を具備するものであっても良い。
【0017】
ここで、第1インダクタと第3インダクタは、それぞれ巻線方向又は電流位相が同方向であれば良い。
【0018】
また、第1インダクタと第3インダクタは、それぞれ巻線方向又は電流位相が逆方向であり、さらに、第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させるために、電流制御回路と第2電流制御回路の何れかを選択するスイッチ手段を有するものであれば良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明のオンチップ可変インダクタには、ウェハレベルパッケージに良好に適用でき、信頼性も高くQ値も向上させた高性能な可変インダクタを提供可能であるという利点がある。また、本発明のオンチップ可変インダクタには、MEMS等の高価な製造プロセスも不要であるため、製造コストも安価であるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明のオンチップ可変インダクタの構成を説明するための一部透過断面斜視図である。本発明のオンチップ可変インダクタは、ウェハレベルパッケージの集積回路に提供される。図示の通り、ウェハレベルパッケージは、半導体基板1と、半導体基板上の集積回路層2と、集積回路層2上の絶縁層3と、絶縁層3上の再配線層4とからなるものである。集積回路層2は、MOS−FET等を用いた集積回路が形成される層であり、一般的な半導体集積回路プロセスにより形成されるものである。なお、集積回路層2上に形成可能な配線膜厚は約1μm程度が限界であるといわれている。また、絶縁層3は厚膜樹脂により形成されるものであり、例えば再配線の絶縁膜としては感光性樹脂等が利用される。絶縁層3は、約5μm〜約40μm程度の膜厚で形成可能である。また、再配線層4は、集積回路製造後のパッケージングプロセスにおいて、太くて低抵抗な配線を形成するための層である。再配線層4における配線としては、例えば低抵抗の銅配線が用いられ、またその膜厚は約5μm〜約20μm程度の厚膜とすることが可能である。なお、ウェハレベルパッケージでは、最終的には樹脂封止により再配線層4も絶縁層で覆われ、再配線層4に設けられるバンプ等(図示せず)を介して外部に接続されることになる。
【0021】
このような構成のウェハレベルパッケージにおいて、本発明のオンチップ可変インダクタは以下の構成を有するものである。まず第1インダクタ10が集積回路層2に形成される。第1インダクタ10は、集積回路層2の多層配線の何れかの配線によりコイル形状で提供される。コイル形状としては、インダクタンスが得られる形状であれば良く、例えばスパイラル形状やメアンダ形状、さらには差動インダクタ形状等が適用可能である。第1インダクタ10は、後述の第2インダクタ20と相互作用を及ぼし、相互インダクタンスを制御するために用いられる。
【0022】
そして、第2インダクタ20が再配線層4に形成される。第2インダクタ20は、再配線層4の再配線によりコイル形状で提供される。コイル形状としては、第1インダクタ10と同様に、インダクタンスが得られる形状であれば良く、例えばスパイラル形状やメアンダ形状、さらには差動インダクタ形状等が適用可能である。また、第2インダクタ20は、図示例では第1インダクタ10と同軸となるように位置決めされて形成されている。第2インダクタ20は、電子回路30の特性調整を行うために用いられるインダクタであり、電子回路30の所定の箇所に接続される。なお、電子回路30は、例えば集積回路層2に設けられる回路等を示している。また、再配線層4では、太くて低抵抗な配線により第2インダクタ20を形成可能であるため、Q値の高い高性能なインダクタとすることが可能である。
【0023】
ここで、第1インダクタ10と第2インダクタ20との間に設けられる絶縁層3は、第1インダクタ10と第2インダクタ20との間で容量結合の影響が無視でき、且つ、第1インダクタ10による磁束が第2インダクタ20を貫通する磁束に影響を及ぼす程度の膜厚を有するものである。これは、インダクタの大きさにもよるものであるため、一律に決定されるべきものではないが、例えば約5μm〜約40μm程度、より好ましくは約20〜40μm程度の厚みの絶縁層3が設けられる。インダクタの寸法が絶縁層の膜厚と比べて大きい場合には、インダクタ間の容量結合の影響を減らすことを考慮すると、可能な限り厚い絶縁層を設けた方が高い性能が得られ、この場合でも十分に磁束に影響を与えることが可能である。
【0024】
なお、図示例では第1インダクタ10と第2インダクタ20が同軸に形成されているが、本発明はこれに限定されず、第1インダクタ10による磁束が第2インダクタ20を貫通する磁束に影響を及ぼすような配置であれば同軸である必要は必ずしもなく、第1インダクタ10と第2インダクタ20が重ならないように配置されて形成されても良い。
【0025】
また、第1インダクタ10には、電流制御回路40が接続される。電流制御回路40は、第1インダクタ10に入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで、第2インダクタ20を貫通する磁束を変化させるものである。より具体的には、電流制御回路40は、増幅器、具体的には電流の振幅を制御するための利得可変回路や電流の位相を制御するための位相可変回路により構成されれば良い。電流制御回路40において、電流振幅を無段階に可変可能であれば、これに基づき制御されるインダクタンスも無段階に可変可能となる。なお、電流制御回路40は、例えば集積回路層2に設けられれば良い。
【0026】
図1に示されるように、第1インダクタ10及び第2インダクタ20が同方向に巻かれたコイルであって、それぞれに同相の電流が入力された場合、図示の通り、第1インダクタ10から発生する磁束11と第2インダクタ20から発生する磁束21が相互作用し、このような相互インダクタンスにより、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束50は増加することになる。
【0027】
また、図2に、第1インダクタ10に入力する電流を逆相にした場合のインダクタンスを説明するための一部透過断面斜視図を示す。図2は、図1に示される本発明のオンチップ可変インダクタと同様の構成であり、第1インダクタ10に入力する電流を逆相にした場合の状態を示している。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、重複説明は省略する。図2に示されるように、第1インダクタ10に入力する電流を逆相にした場合、第1インダクタ10から発生する磁束11と第2インダクタ20から発生する磁束21が相互作用し、このような相互インダクタンスにより、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束50は減少することになる。
【0028】
図3を用いて、本発明のオンチップ可変インダクタにおいて、電流制御回路40により相互インダクタンスを変化させてインダクタンスを可変する方法について説明する。図3は、本発明のオンチップ可変インダクタの等価回路を示す図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、重複説明は省略する。図示例では、第1インダクタ10と第2インダクタ20が同方向に巻かれたコイルを示した。また、第1インダクタ10と第2インダクタ20とが、相互インダクタMを生じるように配置されている。そして、電子回路30からの第2インダクタ20への入力信号が電流制御回路40の入力に分岐されており、電流制御回路40の出力が第1インダクタ10への入力信号とされている。なお、電流制御回路40への分岐による第2インダクタ20への信号振幅の低下を抑えるために、電流制御回路40は入力インピーダンスが高いことが好ましい。
【0029】
図示例の場合、電流制御回路40により、第1インダクタ10へ入力する電流の振幅を第2インダクタ20への電流と同相で増幅させると、相互インダクタンスが増加し、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束が増加するため、ab間のインダクタンスが増加する。
【0030】
また、電流制御回路40により、第1インダクタ10へ入力する電流の振幅を第2インダクタ20への電流と逆相で増幅させると、逆に相互インダクタンスが減少し、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束が減少するため、ab間のインダクタンスが減少する。
【0031】
このように、電流制御回路40は、第1インダクタ10に入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで、第2インダクタ20を貫通する磁束を変化させることが可能となる。
【0032】
なお、第1インダクタ10と第2インダクタ20が逆方向に巻かれたコイルであった場合には、上記の説明と逆の現象となる。即ち、第1インダクタ10へ入力する電流の振幅を第2インダクタ20への電流と同相で増加させると、相互インダクタンスが減少し、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束が減少するため、ab間のインダクタンスが減少する。また、第1インダクタ10へ入力する電流の振幅を第2インダクタ20への電流と逆相で増加させると、相互インダクタンスが増加し、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束が増加するため、ab間のインダクタンスが増加する。
【0033】
このように、本発明のオンチップ可変インダクタによれば、相互インダクタンスを用いてインダクタンスを可変とすることが可能となる。また、再配線層を用いることで第1インダクタと第2インダクタとの間の距離を離して形成することが可能であるため、インダクタ間での容量結合を抑えることが可能となる。したがって、大幅にQ値が向上した高性能なオンチップ可変インダクタが実現可能となる。
【0034】
次に、図4を用いて、本発明のオンチップ可変インダクタにおいて、電流制御回路の他の接続例について説明する。図4は、本発明のオンチップ可変インダクタの他の例の等価回路を示す図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、重複説明は省略する。図示例では、第1インダクタ10と第2インダクタ20が同方向に巻かれたコイルを示した。また、第1インダクタ10と第2インダクタ20とが、相互インダクタMを生じるように配置されている。そして、第1インダクタ10と電流制御回路40とは閉回路を構成している。第2インダクタ20や電子回路30へ電流制御回路40が接続されていないため、信号分岐による損失はない。
【0035】
図示例の場合も、図3に示されるオンチップ可変インダクタの場合と同様に、電流制御回路40により、第1インダクタ10へ入力する電流の振幅を第2インダクタ20への電流と逆相で増幅させると、相互インダクタンスが減少し、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束が減少するため、ab間のインダクタンスが減少する。また、これとは逆に、電流制御回路40により、第1インダクタ10へ入力する電流の振幅を第2インダクタ20への電流と同相で増幅させると、逆に相互インダクタンスが増加し、第2インダクタ20を貫通する正味の磁束が増加するため、ab間のインダクタンスが増加する。なお、第1インダクタ10と第2インダクタ20が逆方向に巻かれたコイルであった場合には、逆の現象となるのも上述の説明と同様である。
【0036】
このような構成の本発明のオンチップ可変インダクタにおいては、相互インダクタンスを用いてインダクタンスを可変とすることが可能となる。また、再配線層を用いることで第1インダクタと第2インダクタとの間の距離を離して形成することが可能であるため、インダクタ間での容量結合を抑えることが可能となる。したがって、大幅にQ値が向上した高性能なオンチップ可変インダクタが実現可能となる。
【0037】
図5に、オンチップ可変インダクタの動作を確認したシミュレーション結果を示す。図5は、図3に示される回路構成のオンチップ可変インダクタにおけるインダクタンスの周波数特性を示すグラフある。シミュレーション条件としては、第1インダクタ10のインダクタンスを3nH、第2インダクタ20のインダクタンスを3nHとし、電流制御回路40において、増幅器の利得を6dB,12dB、18dB、位相を同相、逆相と変化させた。図示の通り、同相の電流を大きくすることにより、可変インダクタのインダクタンスが増加する方向へ変化していることが分かる。また、逆相の電流を大きくすることにより、可変インダクタのインダクタンスが減少する方向へ変化していることが分かる。例えば入力される信号が10MHzの場合、逆相で利得18dBのときの約2nHから、同相で利得18dBのときの約3.8nHまで可変が可能となる。
【0038】
なお、図5に示したシミュレーション結果では、約10MHz〜約30MHz付近では略フラットな周波数特性が得られているが、それ以上の周波数になると、周波数が高くなるにつれてインダクタンスが減少していることがわかる。これは電流制御回路40の周波数特性の影響が表れているためである。このことから、電流制御回路40において、その電流振幅及び/又は位相制御特性に周波数依存性を持たせることで、周波数制御による可変インダクタも実現可能である。即ち、第1インダクタ10に入力する信号の周波数を制御することで、第2インダクタ20を貫通する磁束を変化させる。これにより、例えば図4に示される回路構成のオンチップ可変インダクタの場合等に、閉回路内の信号の周波数を増加させればインダクタンスが減少し、周波数を減少させればインダクタンスが増加するような可変インダクタを実現できる。
【0039】
上述の図示例では、第1インダクタと第2インダクタは同じ大きさで同じ巻数のものを示したが、本発明はこれに限定されず、それぞれの大きさや巻数を変えてインダクタンスを異なるものとすることも可能である。第1インダクタにより第2インダクタを可変させているため、例えば第1インダクタから発生する磁束が大きければ、その分インダクタンスの可変幅も大きくすることが可能となる。
【0040】
次に、インダクタをさらに増やした場合の例について、図6を用いて説明する。図6は、インダクタを3つ用いた場合の本発明のオンチップ可変インダクタの等価回路を示す図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、重複説明は省略する。図示例のオンチップ可変インダクタは、上述の第1インダクタ10及び第2インダクタ20の他に、さらに第3インダクタ15を設けたものである。第3インダクタ15は、集積回路層2に形成されるものであり、第1インダクタ10及び第2インダクタ20と同軸に形成されている。即ち、集積回路層2内には、第1インダクタ10と第3インダクタ15が形成されることになる。また、第1インダクタ10と第2インダクタ20とが相互インダクタMを生じるように配置され、さらに、第1インダクタ10と第3インダクタ15も相互インダクタンスMを生じるように配置されている。そして、第3インダクタ15には、第2電流制御回路41が接続されている。第2電流制御回路41は、第1インダクタ10に接続される電流制御回路40と同等の構成である。なお、図示例の構成の場合、電子回路30からの第2インダクタ20への入力信号が電流制御回路40の入力だけでなく第2電流制御回路41にも分岐されている。したがって、第2電流制御回路41への分岐による第2インダクタ20への信号振幅の低下を抑えるために、第2電流制御回路41も電流制御回路40と同様、入力インピーダンスが高いことが好ましい。
【0041】
なお、第3インダクタ15についても、第1インダクタ10及び第2インダクタ20と同軸である必要は必ずしもなく、第3インダクタ15による磁束が第1インダクタ10や第2インダクタ20を貫通する磁束に影響を及ぼすように配置されれば良い。
【0042】
また、スイッチを設けて第1インダクタ10及び第3インダクタ15の何れか一方又は双方を選択可能に構成しても良い。即ち、図示のように、例えば電流制御回路40を電子回路30側に選択的に接続するためのスイッチ42や第2電流制御回路41を電子回路30側に選択的に接続するためのスイッチ43を設けても良い。スイッチ42やスイッチ43のオン・オフ動作により、第2インダクタ20を貫通する磁束をよりきめ細かく制御可能となる。
【0043】
したがって、このように構成されたオンチップ可変インダクタの場合には、第1インダクタ10及び第3インダクタ15の2つのインダクタを用いて第2インダクタ20を貫通する磁束を変化させることが可能となるため、インダクタのよりきめ細かい可変が可能となる。
【0044】
なお、図示例では電子回路30から電流制御回路側へ分岐する例を示したが、本発明はこれに限定されず、図4に示される例と同様に、第1インダクタ10と電流制御回路40、及び第3インダクタ15と第2電流制御回路41とを、それぞれ閉回路により構成しても良い。こうすることで、第2インダクタ20や電子回路30に対して信号分岐による損失を防ぐことが可能となる。
【0045】
さらに、図7に、インダクタを3つ用いた場合の他の例の本発明のオンチップ可変インダクタの等価回路を示す。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、重複説明は省略する。図示例では、第3インダクタ15の電流位相を、第1インダクタ10の電流位相と逆方向に構成している。図示例の構成では、第1インダクタ10と第3インダクタ15の双方を選択した場合に、第1インダクタ10と第3インダクタ15の間で磁束を打ち消しあうことになるため、インダクタンスを可変するという意味では双方を選択できなくても良い。さらに、第1インダクタ10と第3インダクタ15は、共に集積回路層2に形成されるため、その間の距離は狭く、電流が逆相の場合には容量結合による性能劣化の問題が起こり得る。したがって、図示例の場合には、スイッチ42及びスイッチ43を排他的にオン・オフ可能に構成して、第1インダクタ10及び第3インダクタ15の何れか一方を選択的に第2インダクタ20側に接続できるように構成することが好ましい。
【0046】
なお、図示例では電子回路30から電流制御回路側へ分岐する例を示したが、本発明はこれに限定されず、図4に示される例と同様に、第1インダクタ10と電流制御回路40、及び第3インダクタ15と第2電流制御回路41とを、それぞれ閉回路により構成しても良い。こうすることで、第2インダクタ20や電子回路30に対して信号分岐による損失を防ぐことが可能となる。
【0047】
また、上述の図示例では電流位相を逆方向にした構成を示したが、本発明はこれに限定されず、磁束方向が逆になっていれば良いため、第1インダクタと第3インダクタの巻線方向を逆にしたものであっても良い。
【0048】
さらに、上述の図示例ではインダクタを3つ用いた場合を説明したが、より多くのインダクタを形成してよりきめ細かいインダクタンスの可変を可能とするように構成しても良い。なお、追加されるインダクタは、再配線層に設けられても良い。
【0049】
本発明のオンチップ可変インダクタによれば、大幅にQ値を向上させた高性能なインダクタを可変インダクタとして用いることが可能となるため、発信器等の電子回路の特性をより向上させることが可能となる。
【0050】
また、本発明のオンチップ可変インダクタは、通常の集積回路の製造プロセスで製造可能であり、MEMS等の高価な製造プロセスは不要であるため、製造コストも安価である。また、本発明のオンチップ可変インダクタは、信号による制御のみでインダクタンスの可変が可能なため、可動部分はなく信頼性も高い。
【0051】
なお、本発明のオンチップ可変インダクタは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0052】
例えば、上述の図示例では、集積回路層に形成される第1インダクタを電流制御回路に接続し、再配線層に形成され電子回路に接続される第2インダクタの磁束を変化させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、集積回路層に形成される第1インダクタに電子回路を接続し、再配線層に形成される第2インダクタに電流制御回路を接続して構成し、第2インダクタを、第1インダクタの制御用に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明のオンチップ可変インダクタの構成を説明するための一部透過断面斜視図である。
【図2】図2は、図1に示される本発明のオンチップ可変インダクタにおいて第1インダクタに入力する電流を逆相にした場合について説明するための一部透過断面斜視図である。
【図3】図3は、本発明のオンチップ可変インダクタの等価回路を示す図である。
【図4】図4は、本発明のオンチップ可変インダクタの他の例の等価回路を示す図である。
【図5】図5は、図3に示される本発明のオンチップ可変インダクタにおけるインダクタンスの周波数特性を示すグラフである。
【図6】図6は、インダクタを3つ用いた場合の本発明のオンチップ可変インダクタの等価回路を示す図である。
【図7】図7は、インダクタを3つ用いた場合の本発明のオンチップ可変インダクタの他の例の等価回路を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 半導体基板
2 集積回路層
3 絶縁層
4 再配線層
10 第1インダクタ
11 第1インダクタから発生する磁束
15 第3インダクタ
20 第2インダクタ
21 第2インダクタから発生する磁束磁束
30 電子回路
40 電流制御回路
41 第2電流制御回路
42,43 スイッチ
50 第2インダクタを貫通する正味の磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、半導体基板上の集積回路層と、集積回路層上の絶縁層と、絶縁層上の再配線層とからなるウェハレベルパッケージに提供されるオンチップ可変インダクタであって、該オンチップ可変インダクタは、
集積回路層に形成される第1インダクタと、
再配線層に形成される第2インダクタと、
前記第1インダクタ又は第2インダクタの一方に接続される電流制御回路であって、前記第1インダクタ又は第2インダクタの一方に入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで、前記第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させる電流制御回路と、
を具備することを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記絶縁層は、前記第1インダクタと第2インダクタとの容量結合の影響が無視でき、且つ、前記第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束に影響を及ぼす程度の膜厚を有することを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記第1インダクタと第2インダクタは、同軸に形成されることを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記第1インダクタ又は第2インダクタの一方と前記電流制御回路は、閉回路を構成することを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記第1インダクタ又は第2インダクタの他方の入力信号を前記電流制御回路の入力に分岐することを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項6】
請求項5に記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記電流制御回路は、入力インピーダンスが高いことを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記電流制御回路は、その電流振幅及び/又は位相制御特性に周波数依存性を有し、前記第1インダクタ又は第2インダクタの一方に入力する信号の周波数を制御することで前記第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させることを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載のオンチップ可変インダクタであって、さらに、
集積回路層に形成される第3インダクタと、
前記第3インダクタに接続される第2電流制御回路であって、前記第3インダクタに入力する電流振幅及び/又は位相を制御することで前記第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させる第2電流制御回路と、
を具備することを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項9】
請求項8に記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記第1インダクタと第3インダクタは、それぞれ巻線方向又は電流位相が同方向であることを特徴とするオンチップ可変インダクタ。
【請求項10】
請求項8に記載のオンチップ可変インダクタにおいて、前記第1インダクタと第3インダクタは、それぞれ巻線方向又は電流位相が逆方向であり、
さらに、前記第1インダクタ又は第2インダクタの他方を貫通する磁束を変化させるために、前記電流制御回路と第2電流制御回路の何れかを選択するスイッチ手段を有することを特徴とするオンチップ可変インダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−152254(P2009−152254A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326624(P2007−326624)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】