説明

オートサンプラ

【課題】分離性能に優れた液体クロマトグラフ用オートサンプラを提供する。
【解決手段】インジェクションポート4のニードルシール面42からバルブ1に通じる導孔41に径の異なる段差を設けニードルシール面42直近をニードル5の先端径よりも大きい内径の拡径部43とした。これにより、拡径部43以外の導孔41の内径に対する制約が除かれ、内径を小さくして流路の内容積を減少させることが可能となり、この結果、試料のカラム外拡散が抑えられ、分離性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィにおいて試料を分析装置に導入するオートサンプラに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ用のオートサンプラにおける試料注入方式としては、近年は全量注入方式が多く採用される。この方式は、ニードルで試料容器から試料液体を吸引してニードル後方のサンプルループに貯留した後、そのニードル先端をインジェクションポートのニードルシール面に押し当て、その状態で移動相がサンプルループ、ニードル、インジェクションポートを経てカラムへ流れるようにバルブで流路を切り換えることで試料液体を液体クロマトグラフ流路に導入する方式であって、注入量精度が高く、且つ試料を無駄なく注入できる利点がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記全量注入方式では特にインジェクションポートからバルブに至る流路の内容積を極力小さくすることが要求され、このためインジェクションポートをバルブに直接取り付けるように構成される(例えば、特許文献2参照)。
図3にその構造の一例を断面図で示す。
図3において、バルブ1は、そのボディ17の内側に取り付けられたステータ14とシャフト18に固定されたロータ15とがスプリング16によって互いに押し付けられながら摺動回転する構造である。
【0004】
インジェクションポート4は、バルブ1の上面(シャフト18側からみれば背面)頂部に垂直に設けられ、その周囲にその他のポートが配設され、各ポートからステータ14を貫通して摺動面に通じる流路が穿設されている。
ロータ15の摺動面には、隣り合うポート間を連通するパスが円弧状の3本の溝として刻まれ、これにより上記の各ポートに通じる流路間を連通するので、シャフト18を回すことによって流路の切換が可能となる。
【0005】
PEEK樹脂等の材料で成型されたインジェクションポート4は中心を貫通する導孔41を持つナット状の部材であって、導孔41の上端は雌テーパ状のニードルシール面42の底に開口している。インジェクションポート4に挿入されたニードル5は、その先端のテーパ部がニードルシール面42の雌テーパに嵌合し、液漏れのない接続が可能となる。
【0006】
図4は、図3におけるニードル5とインジェクションポート4の嵌合の状態を拡大して示したものである。なお、同図および以下の説明においては説明の便宜上、寸法値を記載しているが、これらの数値は全て例示である。
同図に示すように、ニードル5を、シールに必要な押圧(例えば、35MPa以上)でニードルシール面42に押し当てると、その先端が導孔41内に少し入り込むので、導孔41の内径はニードル5の先端径よりも大きいことが必要である。一方、ニードル5の先端は機械的強度を確保するために少なくとも先端径0.4mm程度が必要であり、従って、この場合の導孔41の内径は0.5mmとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−148157号公報
【特許文献2】特開2003−215118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、導孔41の内径はニードル5の先端径よりも大きくする必要があるため導孔41の内容積が大きくなり(図4に例示したサイズの場合、内容積は2.6μL)、この結果、試料のカラム外拡散が増大し、例えば粒子径2μm前後の微細充填剤カラムを用いる高速分析において良好な分離を得ることができない。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、インジェクションポート周辺の流路の内容積を減らすことにより、分離性能に優れた液体クロマトグラフ用オートサンプラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、インジェクションポートのニードルシール面からバルブに通じる導孔に径の異なる段差を設けニードルシール面直近を内径がニードルの先端径よりも大きい拡径部とした。これにより、拡径部以外の導孔については内径に対する制約が除かれ、内径を小さくすることも可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のように構成されているので、インジェクションポート周辺の流路の内容積を減少させることが可能となり、試料のカラム外拡散が抑えられ、分離性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の効果を示す分析例である。
【図3】従来の構成を示す図である。
【図4】従来の構成の細部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明が提供するオートサンプラの第1の特徴は、インジェクションポートのニードルシール面からバルブに通じる導孔のニードルシール面直近に拡径部を設けるように構成した点にあり、第2の特徴はその拡径部の内径をニードルの先端径よりも大きくするように構成した点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は、上記2件の特徴的構成を具備するオートサンプラである。
【0013】
図1に本発明の実施例として、オートサンプラにおけるインジェクションポートの断面図を示す。なお、同図はインジェクションポートのみを示すが、これが取り付けられるバルブ1やこれに挿入されるニードル5の構造等は図3または図4に示す従来例と同様であり、また、図1においては図3または図4と同一物には同一符号を付してあるので再度の説明を省く。
【0014】
本実施例では、導孔41のニードルシール面42直近に拡径部43を設け、その内径をニードル5の先端径よりも大きくとる。数値例を挙げると、ニードル5の先端径が0.4mmの場合、同図にも示すように、拡径部43の内径は0.5mm、拡径部43以外の導孔41の内径は0.3mmとする。この場合の導孔41の内容積は拡径部43を含めて1.3μLとなり、図4に示す従来例に比べて半減する。
【0015】
図2は本発明の効果を示す液体クロマトグラフ分析の結果である。同図は、同一試料、同一分析条件で、図1に示す本発明になるインジェクションポート4を用いた場合(A)と、図3および図4に示す従来のインジェクションポート4を用いた場合(B)の分析結果を同じ記録紙上に重ねて示したものである。(A)の方が(B)よりも全般にピークが高く鋭くなっていることがわかる。最初のピークと2番目のピークの間の分離度を計算してみると、(A)では2.524に対し(B)では2.037となり、明らかな改善効果が見られる。
【0016】
なお、上記実施例における数値は例示であって、本発明をこれに限定するものでなく、例えば、導孔の内径を0.3mmよりもさらに小さくすることで、より効果を高める可能性もある。
また、本発明は全量注入方式のオートサンプラに適用して効果的であるが、部分注入方式のオートサンプラで用いても特に不都合はない。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は液体クロマトグラフ用のオートサンプラに利用できる。
【符号の説明】
【0018】
1 バルブ
4 インジェクションポート
5 ニードル
14 ステータ
15 ロータ
16 スプリング
17 ボディ
18 シャフト
41 導孔
42 ニードルシール面
43 拡径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードルにより試料容器から試料液体を吸引した後、該ニードルの先端をインジェクションポートのニードルシール面に押し当て、該ニードルシール面に開口する導孔により連通するバルブを介して移動相流路中に前記試料液体を注入するように構成された液体クロマトグラフ用のオートサンプラにおいて、前記導孔に径の異なる段差を設け前記ニードルシール面直近を内径が前記ニードルの先端径よりも大きい拡径部としたことを特徴とするオートサンプラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−276355(P2009−276355A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192778(P2009−192778)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3129670号
【原出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】