説明

カチオン化シリカ分散体の製造方法およびそれを用いた記録体

【課題】高光沢、高濃度のインクジェット記録体の材料として利用できる気相法シリカの分散体に関し、シリカの分散工程において発泡や凝集を防いで安定したカチオン化シリカ分散体の生産を可能とする方法、およびそれを用いた記録体を提供する。
【解決手段】気相法シリカを分散媒に減圧下で導入し、分散するにあたり、予定投入量の半分未満のシリカを投入した一次分散体を作成し、次いでこの一次分散体中にカチオン樹脂とシリカの残量を順次投入することを特徴とするカチオン性シリカ分散体の製造方法。好ましくは、カチオン性樹脂を添加する前に投入全量の10%以上40%以下の気相法シリカを投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は写真画像の出力に適した高光沢、高印字濃度のインクジェット記録体の材料に関し、カチオン化シリカ分散体の製造方法、および該方法によって得られた記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを微細なノズルから噴出して画像を形成させるインクジェット記録方式は、フルカラー化が容易であること、高速記録が可能であること、少量部数の印刷で他の印刷装置より安価であること等の理由により、家庭用プリンタ、各種端末用プリンタ、プロッタ、あるいは帳票印刷などで広く利用されている。さらに、近年のプリンタの高画質化やデジタルカメラの急速な普及により、写真画像の出力に多く用いられるようになった。そのため記録体側にも高度な特性が要望されるようになり、銀塩方式の写真に匹敵する画質と保存性を兼ね備えたインクジェット記録体が求められている。
【0003】
インクジェット記録方式において使用される記録体として、各種支持体の上にシリカ等の微細顔料とポリビニルアルコール等の水溶性バインダーからなる受容層を設けて成る記録体が多く報告されている。また、インクジェット記録方式のインクがアニオン性であるため、その定着性、耐水性を得るために記録層にカチオン性物質を含有させることが一般的に行なわれている。
【0004】
微細顔料としては高光沢、高濃度、優れた吸収性を得やすい気相法シリカに関する技術が提案されている。また、記録層にカチオン性化合物を含有させる手段として、カチオン性化合物と微細顔料を混合することによりカチオン化した顔料を得る方法が提案されている。例えば、特許文献1では数平均分子量が10万以下の水溶性カチオン性ポリマーを含有する水溶液に、表面がアニオン性である無機微粒子を含有する分散液を添加して得られるカチオン性複合微粒子分散体が、特許文献2では無機微粒子および水系媒体を分散機に連続的に供給しながら分散処理する方法が、特許文献3ではカチオン性樹脂水溶液に40℃以下の乾式シリカ分散液を添加しながら、かつ20℃〜45℃の温度範囲で分散せしめた後、高圧ホモジナイザーによる分散処理を行なうことを特徴としたカチオン性樹脂変性シリカ分散液の製造方法が、特許文献4では分散助剤と水系分散媒の混合物に気相法シリカを連続的に供給および分散するフロー式吸引分散撹拌機と、回転翼式攪拌機を備えたバッチ式分散タンクを併用し、かつ減圧にて分散する気相法シリカ分散液の製造方法が提案されている。とりわけ、顔料が気相法シリカの場合、吸引分散機を用いることは、微粒子の飛散の抑制、分散性の上で好ましいが、カチオン性物質の添加のタイミングによっては分散体が著しく発泡したり、凝集したりしてしまう問題があった。泡の残留による塗工欠陥を回避するための脱泡作業は煩雑で生産性を低下させ、また、分散体の凝集状態が著しい場合、再分散作業は非常に困難であった。
【特許文献1】特開平11−321079号公報
【特許文献2】特開2002−47454号公報
【特許文献3】特開2002−302552号公報
【特許文献4】特開2004−267991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高光沢、高濃度のインクジェット記録体の材料として利用できる気相法シリカの分散体に関し、上記の問題を解決し、シリカの分散工程において発泡や凝集を防いで、安定してカチオン化シリカ分散体の生産を可能とする方法、およびそれを用いた記録体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]気相法シリカを分散媒に減圧下で導入し、分散するにあたり、予定投入量の半分未満のシリカを投入した一次分散体中に、カチオン樹脂とシリカ残量を順次投入することを特徴とするカチオン性シリカ分散体の製造方法。
[2] 予定投入量のうち10%以上40%以下の気相法シリカを投入し、一次分散体を作成後、カチオン性樹脂を添加することを特徴とする[1]記載のカチオン性シリカ分散体の製造方法。
[3]カチオン性樹脂が5員環アミジン構造、またはアリルアミンの塩構造を含むカチオン性樹脂である[1]、または[2]記載のカチオン性シリカ分散体の製造方法。
[4]メトキシカルボニル変性したアリルアミン塩酸塩である[3]記載のシリカ分散体の製造方法。
[5]得られたカチオン化分散体を高圧粉砕機で再分散することを特徴とする[1]〜[4]記載のカチオン性シリカ分散体の製造方法。
[6]得られるシリカの分散液濃度が5%以上25%以下の[1]〜[5]記載のカチオン性シリカ分散体の製造方法。
[7]少なくとも[1]〜[6]記載の製造方法によって得られたカチオン性シリカ分散体を含む塗液を支持体に塗布してなるインクジェット記録体。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、高光沢、高濃度のインクジェット記録体の材料として用いられるシリカ分散体に関し、発泡かつ凝集を防いで、安定したカチオン性シリカ分散体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明はカチオン性シリカ分散体の製造方法であるが、一般的に合成シリカは原料に金属イオンなどの不純物が存在し、また製造工程においても不純物が混入される。不純物を多く含有する合成シリカは、屈折率が大きくなり透明性に劣る。気相法シリカは、原料となる四塩化珪素の純度を蒸留により比較的高くすることができ、さらにクローズドシステムにより四塩化珪素を気相中で燃焼加水分解して製造可能なため、製造工程においても不純物の混入を防ぐことが可能である。このような純度の高い気相法シリカを含有すると、高印字濃度、高光沢を得ることが可能である。
【0009】
本発明において用いられる気相法シリカは、高い印字濃度、高い光沢を得るために平均2次粒子径は1μm以下であり、800nm以下が好ましく、より好ましくは500nm以下である。なお、平均1次粒子径としては3〜50nm程度である。なお、ここでいう平均2次粒子径は、顔料濃度が3質量%の水分散液200gを調製し、これをホモミキサーに供して1000rpm、30分間の攪拌分散処理を施した後、直ちにこの分散液を電子顕微鏡(SEMとTEM)観察に供して1万〜40万倍の電子顕微鏡写真を撮り、写真中の5cm×5cm四方の面積中に存在する粒子のマーチン径を測定し平均したものである。(「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52、1991年参照)。
【0010】
一般的に気相法シリカはアニオン性であるが、前述のとおり、インクジェット記録方式のインクがアニオン性のため、画像の発色性、定着性、保存性を得るために記録層にカチオン性化合物を含有させることが一般的に行なわれており、その手段の一つとして顔料のカチオン化が挙げられる。
【0011】
本発明で得られる分散体は、シリカの分散工程でカチオン性化合物を添加することによって、アニオン性の気相法シリカをカチオン性化合物で処理したカチオン性化合物−シリカの複合粒子の分散体である。
【0012】
カチオン性化合物は、特に限定されず、公知のカチオン性化合物を使用することができるが、画像の発色性と保存性のバランスから特に5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂、またはアリルアミン塩酸塩が好ましい。アリルアミン塩酸塩を用いる場合、一部ウレタン変性したメトキシカルボニル変性アリルアミン塩酸塩が好ましい。特開2005−280341号公報に開示されているカチオンポリマーは塗料の安定性と画像の保存性のバランスが良好であり、本発明に好ましく用いることができる。
【0013】
カチオン性化合物の分子量は1,000〜50万であることが好ましく、より好ましくは1万〜20万である。この範囲内であると、塗料安定性、塗膜の成膜性、画質、画像の保存性に優れる。
【0014】
カチオン性化合物の含有量は記録層中に0.01〜10g/mとなるよう調製するのが好ましく、より好ましくは0.05〜5g/mである。この範囲で用いると、画質および画像の保存性、インク吸収性に優れる。また、本発明のカチオン性シリカを使用する以外に記録層塗料へ添加する方法、記録層へ水溶液として塗布する方法等を併用することもできる。
【0015】
分散機は作業性と分散性の点で、密閉減圧下でシリカを吸引できる分散機を用いる。公知の分散機が使用することができ、例えばConti-TDS(Ystral社製)、Mastermix(Netzsch社製)などを挙げることが出来る。
【0016】
本発明は、分散機への気相法シリカの投入において、予定投入量の一部を投入し、一次分散体を作成し、カチオン性化合物を添加し、その後、残りのシリカを投入する製造方法である。この手順によって、分散体の発泡、かつ凝集を抑え、効率的に所望のカチオン性シリカ分散体を得ることが出来ることを見出した。先にシリカを添加しない場合、例えば、あらかじめカチオン性化合物を添加した分散媒にシリカを投入した場合、分散濃度、カチオン性化合物の種類や量によっては、分散体が著しく発泡し、操業性に問題があった。また、予定投入量の全量のシリカを添加したあとにカチオン性化合物を添加した場合は分散体の増粘が著しく、やはり操業上問題があった。
一部のシリカを先に投入して発泡が抑えられる理由は明らかではないが、先に少量のシリカを投入することによって、カチオン性化合物の過剰な活性を抑えられることによると考えられる。
【0017】
一次分散体として先に投入するシリカは、予定投入量の10%以上40%以下が好ましい。先に添加するシリカが10%未満の場合、カチオン性シリカ分散体が発泡する虞があり、40%より多い場合は凝集する虞がある。また、凝集が進んだカチオン性シリカ分散体を用いた記録体は、塗膜が曇りやすくなり、印字濃度が低下する傾向がある。
【0018】
カチオン性シリカ分散体の濃度は調製後の濃度として5%以上25%以下が好ましく、より好ましくは10%以上20%以下である。5%未満では、それを用いた塗料の濃度が薄くなってしまうことから、必然的に塗工量が多くなり、乾燥負荷が大きくなってしまう。一方、25%より高い濃度では分散体、およびそれを用いた塗料が増粘するなど、塗料が不安定になる虞がある。
【0019】
シリカの添加においては、5kg/分以下の速度で添加するのが好ましい。より好ましくは3kg/分以下である。5kg/分より早く添加すると、分散不良による凝集が起こりやすくなる。
【0020】
得られた分散体は再度公知の機械的手段により粉砕分散して使用することができる。粉砕による再分散処理を行うことで、粗大粒子が減少し、インクジェット記録層の材料として用いた場合、粗大粒子による塗膜のヒビワレがなく、得られた塗膜の光沢性および透明性に優れたものとなる。
【0021】
微細分散の手段としては、超音波ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、液流衝突式ホモジナイザー、高速回転ミル、ローラミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌ミル、ジェットミル、乳鉢、擂解機(鉢状容器中の被粉砕物を、杵状攪拌棒で磨砕混練する装置)、サンドグラインダー等の機械的手法を用いることができる。例えば特にホモゲナイザ(三和機械社製)、マイクロフルイダイザ(Microfluidics社製)、ナノマイザ(吉田機械興業社製)、アルティマイザ(スギノマシン社製)などが挙げられる。このようにして処理されたカチオン性シリカ分散体は、一般に固形分濃度が5〜20質量%程度の水分散体(スラリーあるいはコロイド粒子)として得られる。
【0022】
記録層は少なくとも本発明の方法で得られたカチオン性シリカ分散体の他に水溶性バインダーを含む。更に、保存性改良剤、消泡剤、着色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤等の各種助剤が適宜添加される。必要に応じて更に別途、無機顔料、カチオン性化合物を添加することもできる。また水溶性バインダーに対し架橋性を有する化合物を適宜含有することができる。
【0023】
水溶性バインダーは、塗膜強度が得られやすいことから、ポリビニルアルコール(以下PVA)が好ましく使用される。さらに成膜性とインク吸収性のバランスから重合度2000以上、鹸化度95%以上が好ましく、さらに好ましくは重合度4000以上、鹸化度98%以上である。また、必要に応じて他のバインダーを併用することもできる。例えば、カチオン変性PVA、シリル変性PVA等の変性PVAなどのPVA類、カゼイン、大豆タンパク、合成タンパク質類、デンプン、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースなどのセルロース誘導体、或は水分散性樹脂、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、スチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス等などのような、一般に塗工紙分野で公知公用の各種接着剤が挙げられる。また、感温点以下の温度領域では親水性を示し、感温点より高い温度領域では疎水性を示す感温性高分子化合物等を使用することもできる。感温性高分子化合物を用いた場合、感温点以上の温度で塗工を行うことが一般的である。感温点は5〜35℃の範囲が好ましく、15〜30℃の範囲が更に好ましい。
【0024】
水溶性バインダーは、気相法シリカ100質量部に対して5質量部以上〜30質量部以下が好ましく、より好ましくは5〜20質量部である。バインダー量が過多であると、シリカ間に形成される細孔が小さくなり、高いインク吸収速度が得られにくくなる虞があり、また少なすぎると、塗工層にひび割れが生ずる虞がある。
【0025】
架橋剤としては、ホウ素化合物、エポキシ化合物、グリシジル化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、クロム化合物等などが例示できる。中でも、ホウ素化合物は、PVAと組み合わせた場合、増粘またはゲル化が早く生じるので特に好ましい。ホウ素化合物としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。このなかで、オルトホウ酸と四ホウ酸二ナトリウムが塗料を適度に増粘させる効果があるために好ましく用いられる。
【0026】
記録層の塗工量は、特に限定するものではないが、好ましくは2〜50g/m、さらに好ましくは10〜40g/mに調整される。2g/m未満では均一な塗膜が得られにくく、50g/mを超えると塗膜にひび割れが生じやすくなる。
【0027】
記録層は1層であっても、多層であってもよい。また、両面塗工であってもかまわない。多層構成の場合は、本発明で作製したカチオン性シリカ分散体を含むインク定着層の下層として溶媒吸収層、白地調整層、基材との密着性などを目的とした下塗り層などを、また上層としてカチオン性化合物、保存性改良剤、架橋剤、各種助剤などを配合したオーバーコート層を設けることができる。また光沢性を向上させることを主目的として、コロイド状粒子や樹脂による光沢発現層を設けることも可能である。光沢発現層は塗液が湿潤状態にある間に、加熱された鏡面ドラムに圧着、乾燥して得る方法、所謂キャスト法により形成することで、より光沢性に優れたインクジェット記録体となる。
【0028】
支持体は吸収性支持体、非吸収性支持体のいずれでもよい。吸収性支持体としては、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗工紙、クラフト紙、含浸紙などが例示できる。高平滑性、銀塩写真ライクな風合い(特に白色度、手触り)では、印画紙用原紙が選択できる。非吸収性支持体としては、各種プラスチックフィルム類、印画紙原紙にポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂被覆紙が特に好ましく選択できる。
【0029】
支持体、特にプラスチックフィルム類、樹脂被覆体(被覆される基材あるいは被覆樹脂)に、白色度や風合いなどの調整を目的として白色顔料、例えば、酸化チタン顔料、炭酸カルシウム、合成シリカ、酸化亜鉛、タルク、カオリンなどの公知公用の顔料、あるいはこれらを併用したものを含有させることも可能である。
【0030】
記録層の塗工コーターとしては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スライドビードコーターなど、公知の各種塗工装置が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、例中の部及び%は特に断らない限り、水を除いた固形分であり、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0032】
[シリカゾルA]
イオン交換水25kgを投入した密閉減圧式分散機マスターミックス(アシザワ社製、PMD−VC)に、気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:A300、BET法による比表面積300m/g)を0.3kg/minの速度で吸引投入し、一次分散体とした。1.0kg(予定投入量の20%)投入したところで、いったん回転を止めてハッチを開け、カチオン性化合物として50モル%メトキシカルボニル変性ポリアリルアミン塩酸塩(分子量約1.5万)2.5kg投入した。ハッチを閉め、5分間攪拌した後、残りのシリカ4.5kgを0.3kg/minの速度で吸引投入した。得られた分散体の濃度は約17%だった。
【0033】
[シリカゾルB]
シリカゾルAをナノマイザー(吉田機械工業社製)で粉砕分散を繰り返し、最終的に平均2次粒子径(凝集粒子径)が250nmからなる10%のシリカ分散液を調製した。
【0034】
[シリカゾルC]
気相法シリカを比表面積200m/gの気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:A200、BET法による比表面積200m/g)とした以外はシリカゾルBと同様にして分散液を調製した。
【0035】
[シリカゾルD]
カチオン性化合物として、5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(ハイモ社製,商品名:SC−700M)を添加した以外は、シリカゾルBと同様にして分散液を調製した。
【0036】
[シリカゾルE]
先添シリカ量を0.25kg(予定投入量の5%)とした以外は、シリカゾルBと同様にして分散液を調製した。
【0037】
[シリカゾルF]
先添シリカ量を0.5kg(予定投入量の10%)とした以外は、シリカゾルBと同様にして分散液を調製した。
【0038】
[シリカゾルG]
先添シリカ量を1.5kg(予定投入量の30%)とし、カチオン性化合物として5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(ハイモ社製,商品名:SC−700M)を添加した以外は、シリカゾルBと同様にして分散液を調製した。
【0039】
[シリカゾルH]
先添シリカ量を2.5kg(予定投入量の45%)とした以外はシリカゾルGと同様にして分散液を調製した。
【0040】
[シリカゾルI]
先添シリカ量を3.5kg(予定投入量の70%)とした以外は、シリカゾルGと同様にして分散液を調製した。
【0041】
[シリカゾルJ]
シリカを全て投入してからカチオン性化合物を添加した以外は、シリカゾルG同様にして分散液を調製した。
【0042】
[シリカゾルK]
イオン交換水と同時にカチオン性化合物として、50モル%メトキシカルボニル変性ポリアリルアミン塩酸塩(分子量約1.5万)を投入してから、シリカを投入した以外は(全量を後から添加)とした以外はシリカゾルBと同様にして分散液を調製した。
【0043】
[シリカゾルL]
ゲル法シリカ(グレースデビソン社製、商品名:サイロジェット703A、平均1次粒子径:12nm、平均2次粒子径:300nm)20%水分散液。
【0044】
[支持体]
カナダ標準ろ水度(JIS P8121)が250mlまで叩解した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、カナダ標準ろ水度が280mlまで叩解した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)とを、質量比2:8の割合で混合し、濃度0.5%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾質量に対しカチオン化澱粉2.0%,アルキルケテンダイマー0.4%,アニオン化ポリアクリルアミド樹脂0.1%,ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.7%を添加し、十分に攪拌して分散させた。
上記組成のパルプスラリーを長網マシンで抄紙し、ドライヤー、サイズプレス、マシンカレンダーを通し、坪量180g/m、緊度1.0g/cmの原紙を製造した。上記サイズプレス工程に用いたサイズプレス液は、カルボキシル変性PVAと塩化ナトリウムとを2:1の質量比で混合し、これを水に加えて加熱溶解し、濃度5%に調製した。サイズプレス液を紙の両面の合計で25ml塗布して基紙を得た。
【0045】
基紙の両面にコロナ放電処理を施した後、バンバリーミキサーで混合分散した下記のポリオレフィン樹脂組成物1を基紙のフェルト面側に塗工量が27g/mとなるようにして、またポリオレフィン樹脂組成物2(裏面用樹脂組成物)を基紙のワイヤー面側に塗工量が30g/mとなるようにして、T型ダイを有する溶融押し出し機(溶融温度320℃)で塗布し、基紙のフェルト側を鏡面のクーリングロール、ワイヤー側を粗面のクーリングロールで冷却固化して、平滑度(王研式、J.TAPPI No.5)が6000秒、不透明度(JIS P8138)が93%の樹脂被覆した支持体を製造した。
【0046】
(ポリオレフィン樹脂組成物1)
長鎖型低密度ポリエチレン樹脂(密度0.926g/cm、メルトインデックス20g/10分)35質量部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.919g/cm、メルトインデックス2g/10分)50質量部、アナターゼ型二酸化チタン(石原産業社製、商品名:A−220)15質量部、ステアリン酸亜鉛0.1質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製、商品名:Irganox1010)0.03質量部、群青(第一化成社製、商品名:青口群青No.2000)0.09質量部、蛍光増白剤(チバガイギー社製、商品名:UVITEX OB)0.3質量部。
【0047】
(ポリオレフィン樹脂組成物2)
高密度ポリエチレン樹脂(密度0.954g/cm、メルトインデックス20g/10分)65質量部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.924g/cm、メルトインデックス4g/10分)35質量部。
【0048】
実施例1
上記支持体に、下記塗工液Aをダイコーターで塗工量が10g/mとなるように塗工、乾燥して、溶媒吸収層を得た。次いで溶媒吸収層の上に、0.5%硼砂水溶液を塗工量が0.1g/mとなるように、更に塗工液Bを塗工量が15g/mとなるようにWet on Wetの条件で記録層を塗工し、乾燥した。次に記録層の上に塗工液Cを塗工量1g/mとなるように塗工し、湿潤状態にあるうちに表面温度が95℃の鏡面ドラムに圧着、剥離し、その後 乾燥工程を経て記録体を得た。
(塗工液A)
シリカゾルL100部にPVA(クラレ社製、商品名:PVA140)20部、蛍光増白剤(住友化学社製、Whitex BPS)1部を混合し、濃度15%液に調整した。
(塗工液B)
シリカゾルA100部にPVA(クラレ社製、商品名:PVA135)18部を混合し、濃度8%液に調整した。
(塗工液C)
アニオン性コロイダルシリカゾル100部、離型剤としてオレイン酸アンモニウム2部を混合し、7%分散液に調整した。
【0049】
実施例2
塗工液BのシリカゾルAをシリカゾルBに変更した以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0050】
実施例3
塗工液BのシリカゾルAをシリカゾルCに変更した以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0051】
実施例4
塗工液BのシリカゾルAをシリカゾルDに変更した以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0052】
実施例5
塗工液BのシリカゾルAをシリカゾルEに変更した以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0053】
実施例6
塗工液AのシリカゾルAをシリカゾルFとした以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0054】
実施例7
塗工液AのシリカゾルAをシリカゾルGとした以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0055】
実施例8
塗工液AのシリカゾルAをシリカゾルHとした以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0056】
比較例1
塗工液AのシリカゾルAをシリカゾルIとした以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0057】
比較例2
塗工液AのシリカゾルAをシリカゾルJとした以外は、実施例1と同様にして記録体を得ようとしたが、分散体が完全にゲル化したため、製造を中止した。
【0058】
比較例3
比較例1でゲル化した塗料を8%まで希釈し、ナノマイザー処理を行なった。得られた分散体を使用して、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0059】
比較例4
塗工液AのシリカゾルAをシリカゾルKとした以外は、実施例1と同様にして記録体を得た。
【0060】
[評価方法]
実施例、比較例で得られたインクジェット記録体の印字部の光沢感、発色性、インク吸収性(ムラがなく均一であるかどうか)を以下に示す方法で評価した。なお、印刷にはキヤノン社製プリンタ(商品名:PIXUSiP4300,スーパーフォトペーパーモード)を用いた。
【0061】
[記録面の面質]
得られた記録層の面質を目視評価した。泡由来と思われるクレーター状のヘコミや、凝集物によるブツなどの塗工欠陥の程度、頻度により判定した。
5:塗工欠陥はほとんどなし
4:頻度が低く、かつほとんど目立たない。
3:頻度、大きさともに、実用上許容レベル
2:頻度、大きさともかろうじて許容レベル
1:頻度、大きさともに、きわめて目立つ
【0062】
[インク吸収性(ベタ均一性)]
グリーンベタを印字し、均一性を目視評価した。先に打ち込まれたインクが、完全に記録体に吸収されないうちに次のインクが打ち込まれた場合に生じる現象であり、インク吸収速度が遅くなると、顕著に表れる。
5:ムラはまったくみられない
4:ごくわずかにムラはあるが、ほとんど目立たない
3:ムラはみられるが、実用上は問題ない
2:ムラがあり、実用上かろうじて許容レベル
1:ムラが多く、実用不可能
【0063】
[印字光沢性]
記録面に対して20度の横角度から目視評価した。評価用画像として「高繊細カラーディジタル標準画像データ(ISO/JIS−SCID)、日本規格協会(財団法人)発行」の画像名称「果物かご」を使用した。
5:光沢感に非常に優れる
4:光沢感に優れる
3:やや鈍い光沢感だが、実用上問題ないレベル
2:鈍い光沢感だが、実用上かろうじて許容レベル
1:光沢感に劣り、実用上問題がある
【0064】
[画像の発色性]
前述の「果物かご」画像を下記の基準で目視評価した。
5:非常に発色性に優れ、鮮やか
4:発色性に優れ、鮮やか
3 :実用上問題のない発色性
2:色調がやや沈み、実用上かろうじて許容レベルの発色性
1:沈んだ色調で実用上問題がある
【0065】
[塗料の発泡性]
塗料の発泡性を下記の基準で評価した。
5:ほとんど発泡はみられない。
4:発泡の程度は低く、ほとんど脱泡が必要ないレベル
3:脱泡処理をすれば、使用可能なレベル
2:脱泡処理をすれば、かろうじて使用可能なレベル
1:発泡の状態が著しく、脱泡作業が煩雑となり、使用困難なレベル
【0066】
[塗料の増粘状態]
塗料の増粘状態を下記の基準で評価した。
5:塗工上まったく問題のないレベル
4:増粘の程度は低く、塗工上ほとんど問題ないレベル
3:使用前に軽く再分散すれば、使用可能なレベル
2:使用前に再分散すれば、かろうじて使用可能なレベル
1:ほとんど固化した状態で塗工できるレベルでない
【0067】
【表1】

【0068】
[評価]
表1の結果から明らかなように、気相法シリカの予定投入量の半分未満を投入した一次分散体にカチオン性樹脂と残余のシリカを投入して調製したカチオン性シリカ分散体を使用した実施例1〜9のインクジェット記録体は、記録層の面質、記録適性ともに良好だった。特にカチオン性樹脂を添加する前に投入全量の10%以上40%以下の気相法シリカを投入したものは、いずれの項目にも優れていた。
一方、気相法シリカを全量投入した後にカチオン性樹脂を添加した比較例2は分散体がゲル化してしまい、塗料を作製できなかった。ゲル化した分散体を希釈し、粉砕処理を行なった比較例3は実施例1と比較して、塗膜の曇りにより、面質、発色性ともに劣り、所望の記録体は得られなかった。また、先添なしでカチオン樹脂をあらかじめ添加した分散媒に気相法シリカを投入した比較例4は発泡が著しく、塗工したものの泡由来による欠陥が多く、実用のレベルではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
高光沢、高濃度のインクジェット記録体の材料として使用できる気相法シリカの分散体であって、シリカの分散工程において発泡や凝集を防いで安定したカチオン化シリカ分散体の生産を可能とする方法、およびそれを用いた記録体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相法シリカを分散媒に減圧下で導入し、予定投入量の半分未満のシリカを投入した一次分散体を作成し、次いでこの一次分散体中に、カチオン樹脂とシリカ残量を順次投入することを特徴とするカチオン性シリカ分散体の製造方法。
【請求項2】
予定投入量のうち10%以上40%以下の気相法シリカを投入し、一次分散体を作成後、カチオン性樹脂を添加することを特徴とする請求項1記載のカチオン性シリカ分散体の製造方法。
【請求項3】
カチオン性樹脂が、5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂、またはアリルアミンの塩構造有するカチオン性樹脂である請求項1または2記載のカチオン性シリカ分散体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも請求項1〜3項記載の製造方法によって得られたカチオン性シリカ分散体を含む塗工液を支持体に塗布してなるインクジェット記録体。

【公開番号】特開2008−303103(P2008−303103A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151174(P2007−151174)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】