説明

カチオン可染性ポリエステル及び高強力カチオン可染性ポリエステル繊維

【課題】本発明の目的は、長時間連続的に紡糸しても、口金への付着物の発生量が非常に少なく、優れた成形性を有するカチオン可染性ポリエステル及び、共重合ポリエステル繊維を提供することにある。
【解決手段】真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10質量ppm以下であり、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート及びテトラメチレンナフタレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の繰り返し単位が全繰返し単位中80モル%以上99.7モル%未満の共重合ポリエステルであって、共重合成分として下記一般式(I)で表される化合物を0.3モル%以上20モル%未満共重合されているカチオン可染性ポリエステル、及びこれを溶融成形して得られる引張強度が3.5cN/dtex以上である高強力カチオン可染性ポリエステル繊維によって達成される。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン可染性ポリエステル及び高強力カチオン可染ポリエステル繊維に関する。さらに詳しくは、真比重5.0以上の金属元素、特にアンチモン、ゲルマニウムの含有量が極めて少なく、色相に優れ、繊維製造時の成形性に優れているという性能を有したカチオン可染性ポリエステル及び高強力カチオン可染性ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。特にポリエチレンテレフタレートはその特性、価格の面から非常に幅広い用途で利用されている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、用途に応じて様々な改質がなされており、様々な成分を共重合させた共重合ポリエステルが広く知られており、特にカチオン可染性を有する成分を共重合せしめたカチオン可染性ポリエステルは衣料用途を中心に広く知られている。
【0004】
このようなカチオン可染性ポリエステルを得るために通常用いられるポリエチレンテレフタレートは、通常例えばテレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されており、この製造工程のいずれかの段階で共重合成分であるカチオン可染性モノマーを添加してカチオン可染性ポリエステルを製造している。しかしながら、一般にカチオン可染性ポリエステルに使用されるカチオン可染性モノマーはイオン成分であることから、ポリエステル重合段階において、イオン結合性分子間力が働き、溶融粘度が上昇してしまう為、高分子量のカチオン可染性ポリエステルを製造することは困難であった。このような問題を改良する為に、イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染モノマーを共重合する技術が開示されている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
これらのポリエステルにおいては、重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度及び得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。この点について従来から検討の結果、ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ色相の良好なポリエステルが得られるなどの理由からアンチモン化合物が最も広く使用されている。
【0006】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用したポリエステルを例えば長時間にわたって連続的に溶融紡糸し繊維化しようとした場合、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生することがある。するとこれが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0007】
またペットボトル用などのポリエステル触媒としては、一般的にゲルマニウム化合物が使用されているが、ゲルマニウムは稀少金属であり、高価な為、得られる製品の価格が高くなってしまうことが問題となっている。
【0008】
該アンチモン化合物やゲルマニウム化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されている。このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような口金異物の堆積に起因する成形性の問題は解決できる。しかし、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。この着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色相(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性がさらに低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0009】
このような問題を解決する為に、チタン化合物と特定のリン化合物とを反応させて得られた生成物を(例えば特許文献2、特許文献3参照。)、またチタン化合物と特定のリン化合物の未反応混合物あるいは反応生成物を(例えば特許文献4参照。)、それぞれポリエステル製造用触媒として使用することが開示されている。また、同手法を用いたカチオン可染性ポリエステルについても開示されている(例えば特許文献5、特許文献6参照。)。確かにこの方法によればポリエステルの溶融熱安定性は向上し、得られるポリマーの色相も大きく改善されるが、これらの方法ではポリエステル製造時の重合反応速度が遅い為、ポリエステルの生産性がやや劣ってしまう問題を有している。
【0010】
ポリエステルの成形安定性を向上させるには、前記のように触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸のカラー(色相)が低下してしまうため、従来は使用に供することができなかった。したがって触媒としてアンチモンを使用せず、かつ色相に優れたポリエステルが求められていた。
【0011】
一方ポリエステルの色相を改善する試みとしては染料を混練したポリエステルが開示されているが(例えば特許文献7〜11参照。)、色相改善のレベルとしてはまだ十分なものではなかった。
【0012】
【特許文献1】特開平1−162822号公報
【特許文献2】国際公開第01/00706号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/008479号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/027166号パンフレット
【特許文献5】特開2003−119273号公報
【特許文献6】特開2003−119620号公報
【特許文献7】特開平3−231918号公報
【特許文献8】特開平11−158257号公報
【特許文献9】特開平11−158361号公報
【特許文献10】特開2004−204136号公報
【特許文献11】特開2004−204137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は色相に優れ、長時間連続的に紡糸しても、口金への付着物の発生量が非常に少なく、優れた成形性を有するカチオン可染性ポリエステルを提供することにある。また別の目的は鮮明な外観を有し、高強力繊維を得ることができるカチオン可染性ポリエステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10質量ppm以下であり、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート及びテトラメチレンナフタレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の繰り返し単位が全繰返し単位中80モル%以上99.7モル%未満の共重合ポリエステルであって、共重合成分として下記一般式(I)で表される化合物を0.3モル%以上10モル%未満共重合されているカチオン可染性ポリエステル、及びこれを溶融成形して得られる引張強度が3.5cN/dtex以上である高強力カチオン可染性ポリエステル繊維であり、これによって上記の課題が解決できる。
【0015】
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩、又は4級アンモニウム塩を表す。]
【発明の効果】
【0016】
本発明によればポリエステルの優れた特性を保持しながら、アンチモンやゲルマニウム触媒を使用しないポリエステルの欠点であった色相の悪化を解消することができる。また、口金への付着物の発生量が非常に少なく、優れた成形性を有するポリエステルを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるカチオン可染性ポリエステルとは、テレフタル酸若しくはナフタレンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール成分を重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート及びテトラメチレンナフタレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の繰り返し単位が全繰返し単位中80モル%以上99.7モル%未満であるポリエステルであり、下記一般式(I)で表される化合物が0.3モル%以上20モル%未満共重合されているポリエステルである。
【0018】
【化2】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩、又は4級アンモニウム塩を表す。]
【0019】
ここで上記一般式(I)で表される化合物としては、5−スルホイソフタル酸あるいはその低級アルキルエステルの4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としてはアルキル基、ベンジル基、フェニル基が置換された4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステルが好ましく例示される。
【0020】
また、本発明のカチオン可染性ポリエステルに共重合されている上記一般式(I)の化合物の共重合量が0.3モル%未満の場合、カチオン染料に対する染色性が不十分となり、また20モル%以上の場合カチオン可染性ポリエステルそのものの耐熱性や溶融紡糸された繊維の強度が低下する為好ましくない。該共重合量は0.5モル%以上10モル%以下が好ましく、0.8モル%以上7モル%以下がより好ましく、1モル%以上5モル%未満の範囲が更に好ましい。
【0021】
また、本発明のカチオン可染性ポリエステルは同時に、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート及びテトラメチレンナフタレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の繰り返し単位が80モル%以上99.7モル%未満である必要がある。前述した繰り返し単位が80モル%未満である場合、本来ポリエステルが有している特徴が失われ、また99.7モル%以上である場合はカチオン染料に対する染色性が不十分となり好ましくない。該繰り返し単位は85モル%以上99.5モル%未満の範囲が好ましく、90モル%以上99モル%未満の範囲が更に好ましい。また上記のポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレートが80モル%以上99.7モル%未満であることが好ましい。
【0022】
本発明における真比重5.0以上の金属元素とは通常ポリエステル中に含有される触媒や金属系の整色剤、艶消剤等に含有されている金属化合物に由来するものである。具体的には、アンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト、セリウム、錫、亜鉛、鉛又はカドミウム等が該当する。これらに対し、チタン、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はカリウム等はここでいう真比重5.0以上の金属には該当しない。
【0023】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10質量ppm以下である必要がある。含有される金属の種類によってその特徴、特性は変わる。例えばアンチモン金属の含有量が10質量ppmより多い場合、溶融紡糸時やフィルムの製膜時に異物となって口金やダイ周辺に付着し、長期間の連続成形性に悪影響を与える。ゲルマニウム金属の場合は、それ自体が高価な為、含有量が多くなると得られるカチオン可染性ポリエステルの価格が上昇してしまい好ましくない。また、鉛、カドミウムなどの金属の場合は金属元素そのものに毒性がある為、カチオン可染性ポリエステル中に多量に含有していることは好ましくない。該真比重5.0以上の金属元素の含有量は0〜7質量ppm以下であることが好ましく、0〜5質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0024】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は0.55以上1.0以下の範囲であることが好ましい。固有粘度が0.55未満の場合、最終的に得られるカチオン可染性ポリエステル繊維の強度が低くなり、また1.0を超える場合、粘度が高すぎて溶融成形が困難となる為好ましくない。カチオン可染性ポリエステルの固有粘度は0.60以上0.90以下であることが更に好ましい。また、該固有粘度を高めるために、固相重合をせしめることが一般に行われているが、固相重合を施すことはカチオン可染性ポリエステルのコストを高めてしまうため、本発明の場合、固相重合しない方が好ましい。
【0025】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つその最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす有機系整色剤を0.1〜10質量ppm含有していることが好ましい。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0026】
ここで可視光吸収スペクトルとは、通常分光光度計によって測定されるスペクトルであるが、本発明のカチオン可染性ポリエステルに含有される有機系整色剤溶液の可視光吸収スペクトルの最大吸収波長が540nm未満の場合は得られるカチオン可染性ポリエステルの赤味が強くなり、また600nmを超える場合は得られるカチオン可染性ポリエステルの青味が強くなる為好ましくない。最大吸収波長の範囲は545〜595nmの範囲が更に好ましい。また本発明のカチオン可染性ポリエステルに含有される有機系整色剤の濃度20mg/Lのクロロホルム溶液について光路長1cmにおいて可視光吸収スペクトルを測定したとき、最大吸収波長での吸光度に対する上記に示す各波長での吸光度の割合が上記数式(1)〜(4)のいずれか一つでも外れる場合、得られるカチオン可染性ポリエステルの着色が大きくなり好ましくない。上記式(1)〜(4)を満たし、さらにそれぞれ下記数式(5)〜(8)のいずれか1つ以上を満たすことがより好ましく、更に下記数式(5)〜(8)すべてを満たしていることがさらに好ましい。
0.00≦A400/Amax≦0.15 (5)
0.30≦A500/Amax≦0.60 (6)
0.60≦A600/Amax≦0.95 (7)
0.00≦A700/Amax≦0.03 (8)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【0027】
更に本発明のカチオン可染性ポリエステルに含有される上述の有機系整色剤の含有量が、0.1質量ppm未満の場合、カチオン可染性ポリエステルの黄色味が強くなる。一方、10質量ppmを超える場合、明度が弱くなり見た目に黒味が強くなる為好ましくない。該有機系整色剤の含有量は0.3質量ppm〜9質量ppmの範囲が更に好ましい。
【0028】
本発明に使用する有機系整色剤は、窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定したときの質量減少開始温度が250℃以上である整色用色素から選ばれることが好ましい。ここで、熱天秤で測定したときの質量減少開始温度とは、JIS K−7120に記載の質量減少開始温度(T)のことであり、有機系整色剤が有している耐熱性の指標となる。該質量減少開始温度が250℃未満である場合、有機系整色剤の耐熱性が不十分であることから最終的に得られるカチオン可染性ポリエステルの着色の原因となり好ましくない。該質量減少開始温度は300℃以上であることが更に好ましい。またカチオン可染性ポリエステルが溶融状態にある温度下で分解しないことが更に好ましい。
【0029】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの色相は特に厳密な制限はないが、本発明に使用されるべき有機系整色剤が添加されていないと、得られるカチオン可染性ポリエステルの色相が黄色味を帯びた色相となり好ましくないことがある。該カチオン可染性ポリエステルの色相は、140℃、2時間熱処理により結晶化を進めた後のL表色系におけるカラーa値が−9〜0、カラーb値が−2〜10の範囲にあることが好ましい。該カラー値は含有される有機系整色剤の量によって変化してくるが、カラーa値が−9より小さい場合、カチオン可染性ポリエステルは緑色味が強くなり、0より大きい場合は赤味が強くなり好ましくない。またカラーb値が−2より小さい場合、カチオン可染性ポリエステルは青味が強くなり、10より大きい場合は黄色味が強くなるため好ましくない。
【0030】
また本発明におけるカチオン可染性ポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。
【0031】
本発明におけるカチオン可染性ポリエステルの製造方法は、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させる、又はテレフタル酸ジメチル(以下DMTと称することがある。)の如きテレフタル酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させ、ジカルボン酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。共重合せしめるカチオン可染性モノマーについては、ジカルボン酸成分の低級アルキルエステルを使用する場合はテレフタル酸の低級アルキルエステルと同時期に添加して、エステル交換反応させる場合に使用可能である。共重合せしめるカチオン可染性モノマーがフリーのジカルボン酸成分の場合は、直接エステル化反応前、反応終了後、エステル交換反応終了後のいずれかの段階で添加することが好ましい。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって目的とするカチオン可染性ポリエステルが製造される。また、一般にカチオン可染性ポリエステルを製造する際は、ポリエステル製造工程において副生してくるジエチレングリコール量を抑制する為に少量のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が添加されるが、本発明の場合は、ポリエステル重合工程での増粘効果を抑制する為に、水酸化テトラアルキルホスホニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルアミン等を使用するカチオン可染性モノマーに対して1〜20モル%程度をカチオン可染性モノマーと同時期に反応系(反応器)内に添加することが好ましい。
【0032】
本発明のカチオン可染性ポリエステルを製造する工程において用いる重縮合触媒は、チタン化合物及び/又はアルミニウム化合物を含むことが好ましい。ここで、チタン化合物としては特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。チタン化合物としてより好ましいのは、下記一般式(II)で表わされるチタン化合物、又は下記一般式(II)で表わされるチタン化合物と下記一般式(III)で表わされる芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物を用いることである。
【0033】
【化3】

[上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ互いに独立に、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、pは1〜4の整数を示し、かつpが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、互いに異なっていてもよい。]
【0034】
【化4】

[上記式中、qは2〜4の整数を表わす。]
【0035】
一方、アルミニウム化合物としても特に限定はないが、触媒活性の点で有機アルミニウム化合物であることが好ましく、中でもアルミニウムアセチルアセトネートなどが安定で取扱いが容易な点において優れているので好ましい。また、これらチタン化合物とアルミニウム化合物は単独で用いても、両者を併用して用いても、又はそれぞれ2種以上を併用しても良いが、チタン化合物を単独で用いるのが特に好ましい。なかでも最も好ましいのが上記一般式(II)で表わされる化合物、又は上記一般式(II)で表わされる化合物と上記一般式(III)で表わされる芳香族多価カルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物を単独で用いることである。
【0036】
一般式(II)で表わされるチタン化合物の中でテトラアルコキサイドチタン及び/又はテトラフェノキサイドチタンとしては、R〜Rが炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン又はテトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。また、かかるチタン化合物と反応させる一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸若しくはピロメリット酸又はこれらの無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の全部又は一部を溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。また必要に応じてチタン化合物滴下後、残りの芳香族多価カルボン酸又はその無水物を加えればよい。
【0037】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは上述した通り、チタン化合物及び/又はアルミニウム化合物を重縮合触媒として用いられていることが好ましいが、更に耐熱性や色相を改善すべく、リン化合物を安定剤として併用することが好ましい。該リン化合物としては特に制限はないが、好ましくはリン酸、亜リン酸、ホスホン酸若しくはホスフィン酸又はこれらのアルキル、アリールエステル、ホスホノアセテート系化合物が特に好ましい。該リン化合物のカチオン可染性ポリエステル中への添加方法は、エステル交換反応又はエステル化反応が実質的に終了した後であればいつでもよいが、通常はエステル化反応、若しくはエステル交換反応が終了した後すぐに添加し、その後重縮合反応せしめることが好ましい。
【0038】
さらに本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法は上述した共重合ポリエステル製造工程の任意の段階で有機系整色剤を添加することによって製造されることが好ましい。なかでも有機系整色剤が共重合ポリエステル製造工程における重縮合反応工程が終了するまでの任意の段階で添加されることが更に好ましい。特にエステル化反応もしくはエステル交換反応が終了した後に有機系整色剤を添加することが最も好ましい。
【0039】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法においては、有機系整色剤として青色系整色用色素と紫色系整色用色素を質量比90:10〜40:60の範囲で併用すること、又は青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を質量比98:2〜80:20の範囲で併用することが好ましい。ここで青色系整色用色素とは、一般に市販されている整色用色素の中で「Blue」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が580〜620nm程度にあるものを示す。同様に紫色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Violet」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が560〜580nm程度にあるものを示す。赤色系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Red」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が480〜520nm程度にあるものである。橙色系系整色用色素とは市販されている整色用色素の中で「Orange」と表記されているものである。
【0040】
これらの整色用色素としては油溶染料が特に好ましく、具体的な例としては、青色系整色用色素には、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 36、C.I.Solvent Blue 45 (Telasol Blue RLS)、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94等が挙げられる。紫色系整色用色素には、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.Solvent Violet 36等が挙げられる。赤色系整色用色素には、C.I.Solvent Red 24、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red 27、C.I.Solvent Red 30、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Red 109、C.I.Solvent Red 111、C.I.Solvent Red 121、C.I.Solvent Red 135、C.I.Solvent Red 168、C.I.Solvent Red 179等が例示される。橙色系整色用色素には、C.I.Solvent Orange 60等が挙げられる。
【0041】
ここで青色系整色用色素と紫色系整色用色素を併用する場合、質量比90:10より青色系整色用色素の質量比が大きい場合は、得られるカチオン可染性ポリエステルのカラーa値が小さくなって緑色を呈し、40:60より青色整色用色素の質量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。同様に青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を併用する場合、質量比98:2より青色系整色用色素の質量比が大きい場合は、得られるカチオン可染性ポリエステルのカラーa値が小さくなって緑色を呈し、80:20より青色整色用色素の質量比が小さい場合は、カラーa値が大きくなって赤色を呈してくる為好ましくない。該整色用色素は、青色系整色用色素と紫色系整色用色素を質量比80:20〜50:50の範囲で併用すること、あるいは青色系整色用色素と赤色系又は橙色系整色用色素を質量比95:5〜90:10の範囲で併用することが更に好ましい。
【0042】
さらに本発明の高強力カチオン可染性ポリエステル繊維を製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の溶融紡糸方法が用いられる。例えば乾燥したカチオン可染性ポリエステルを270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引き取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻き取りを行うこともできる。更に本発明の高強力カチオン可染性ポリエステル繊維はその引張強度が3.5cN/dtex以上であることが好ましい。そのためには上述した方法にて巻き取られた未延伸糸を更に延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。この延伸は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、異形、中実、中空などのいずれも採用することが出来、他のポリエステル成分と組み合わせて芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型などの複合繊維の1成分としても使用することができる。
【実施例】
【0043】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。尚、固有粘度、色相、チタン含有量及び紡糸口金に発生する付着物の層等については、下記記載の方法により測定した。
(ア)固有粘度:
共重合ポリエステルチップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
(イ)ジエチレングリコール含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いて共重合ポリエステルチップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
(ウ)色相(L値、a値、b値):
ポリエステルチップを285℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを140℃、2時間乾燥結晶化処理を行った。その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL及びbを、ミノルタ株式会社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。Lは明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、bはその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
(エ)真比重5.0以上の金属成分定性分析:
ポリエステルチップサンプルを硫酸アンモニウム、硫酸、硝酸、過塩素酸とともに混合して約300℃で9時間湿式分解後、蒸留水で希釈し、理学電機工業株式会社製ICP発光分析装置(JY170 ULTRACE)を用いて定性分析し、真比重5.0以上の金属元素の有無を確認した。1質量ppm以上の存在が確認された金属元素について、その元素含有量を示した。
(オ)チタン、アルミニウム、アンチモン、マンガン、リン、硫黄、カルシウム含有量:
ポリエステルチップ中のアルミニウム元素量、アンチモン元素量、マンガン元素量、リン元素量、硫黄元素量は粒状のポリエステルサンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製 ZSX100e型)を用いて求めた。カチオン可染性ポリエステル中のポリエステルに可溶性のチタン元素量については、カチオン可染性ポリエステル中サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。ここで0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させた。次に傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。これらの操作によりカチオン可染性ポリエステル中に酸化チタンを含有していてもポリエステルに可溶性のチタン元素の定量が可能となる。また、本発明に使用するカチオン可染性モノマーの共重合量は本分析法における硫黄元素量を定量して共重合量を算出した。
【0044】
(カ)紡糸口金に発生する付着物の層(口金異物堆積高さ):
カチオン可染性ポリエステルをチップとなし、これを290℃で溶融し、孔径0.15mmφ、孔数12個の紡糸口金から吐出し、600m/分で2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルの溶融物のフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
(キ)繊維の引張強度・伸度:
JIS L1070記載の方法に準拠して測定を行った。
(ク)有機系整色剤の質量減少開始温度:
理学電機工業株式会社製TAS−200熱天秤を用いてJIS K7120に従い、窒素雰囲気下中昇温速度10℃/分で測定した。
(ケ)カチオン可染性評価
繊維を布帛に形成した試験片を市販のカチオン染料CATHILON BLUE CD−FRLH0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(それぞれ保土谷化学製)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて130℃で1時間、浴比1:50で染色を行い、次式により染着率を求めた。染着率は次式より求めた。
染着率=(OD0−OD1)/OD0
OD0;染色前の染液の576nmの吸光度
OD1;染色後の染液の576nmの吸光度
本発明では、染着率95%以上のものを可染性良好と判断した。
【0045】
[参考例1]チタン触媒Aの合成
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2質量%)にテトラ−n−ブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0046】
[参考例2]有機系整色剤(整色用色素)の可視光吸収スペクトル測定、有機系整色剤調製
表1に示す整色用色素を室温で濃度20mg/Lのクロロホルム溶液とし、光路長1cmの石英セルに充填し、対照セルにはクロロホルムのみを充填して、日立分光光度計U−3010型を用いて、380〜780nmの可視光領域での可視光吸収スペクトルを測定した。整色用色素2種を混合する場合は合計で濃度20mg/Lとなるようにした。最大吸収波長とその波長における吸光度に対する、400、500、600及び700nmの各波長での吸光度の割合を測定した。更に粉末の整色用色素の熱質量減少開始温度を測定した。結果を表1に示す。尚、実施例、比較例でこれら有機系整色剤をポリエステル製造工程で添加する場合は、100℃の温度で、原料として用いるグリコール溶液に対し、濃度0.1質量%となるように溶解又は分散させて調製した。
【0047】
【表1】

【0048】
[実施例1]
・ポリエステルチップの製造
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部の混合物に、参考例1で調製したチタン触媒A 0.016部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込んだ。0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後反応生成物に表1に示す有機系整色剤Aの0.1質量%エチレングリコール溶液0.5部と5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート3.97質量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.036質量部とトリエチルアミン0.001質量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.65、ジエチレングリコール含有量が1.4質量%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表2、3に示す。
・ポリエステル繊維の製造
チップを140℃、5時間乾燥後、紡糸温度285℃、巻き取り速度400m/分で333dtex/36filの原糸を作り、4.0倍に延伸して83.25dtex/36filの延伸糸を得た。結果を表4に示す。
【0049】
[実施例2、比較例1]
実施例1において、有機系整色剤を表2に示す種類、量に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2〜4に示す。
【0050】
[実施例3]
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.063質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、56質量%のリン酸水溶液0.045質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に表2に示す整色剤Aの0.1質量%エチレングリコール溶液0.5質量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.033質量部、5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート3.97質量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.036質量部とトリエチルアミン0.001質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行って、共重合ポリエステルを得た。得られたチップは実施例1と同様にして繊維を製造した。結果を表2〜4に示す。
【0051】
[比較例2]
テレフタル酸ジメチル100質量部と5−スルホナトリウムイソフタル酸ジメチル2.3質量部エチレングリコール70質量部の混合物に、参考例1で調製したチタン触媒A0.016部と酢酸ナトリウム三水和物0.07質量部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込んだ。0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後反応生成物に表1に示す整色剤Aの0.1質量%エチレングリコール溶液0.3部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って実施例1と同じ攪拌電力に到達した時点で反応を終了して、固有粘度0.52、ジエチレングリコール含有量が1.4質量%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表2、3に示す。
【0052】
[比較例3]
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部との混合物に、酢酸マンガン四水和物0.025質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、56質量%のリン酸水溶液0.032質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。次いで、得られた反応生成物を撹拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えた反応容器に移し、三酸化二アンチモン0.045質量部、5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート3.97質量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.036質量部とトリエチルアミン0.001質量部を添加して285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行って、共重合ポリエステルを得た。得られたチップは実施例1と同様にして繊維を製造した。結果を表2〜4に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によればカチオン可染性ポリエステルの優れた特性を保持しながら、SbやGe触媒を使用しないポリエステルの欠点であった色相の悪化を解消することができる。また、口金への付着物の発生量が非常に少なく、優れた成形性を有するカチオン可染性ポリエステルを提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真比重5.0以上の金属元素の含有量が0〜10質量ppm以下であり、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート及びテトラメチレンナフタレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の繰り返し単位が全繰返し単位中80モル%以上99.7モル%未満の共重合ポリエステルであって、共重合成分として下記一般式(I)で表される化合物を0.3モル%以上20モル%未満共重合されているカチオン可染性ポリエステル。
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩、又は4級アンモニウム塩を表す。]
【請求項2】
共重合ポリエステルの固有粘度が0.55以上1.0以下の範囲である請求項1記載のカチオン可染性ポリエステル。
【請求項3】
共重合ポリエステルが有機系整色剤を0.1〜10質量ppm含有し、その有機系整色剤が、濃度20mg/L、光路長1cmでのクロロホルム溶液において測定された380〜780nm領域の可視光吸収スペクトルでの最大吸収波長が540〜600nmの範囲にあり、且つ最大吸収波長での吸光度に対する下記各波長での吸光度の割合が下記式(1)〜(4)のすべてを満たす 請求項1〜2いずれか1項記載のカチオン可染性ポリエステル。
0.00≦A400/Amax≦0.20 (1)
0.10≦A500/Amax≦0.70 (2)
0.55≦A600/Amax≦1.00 (3)
0.00≦A700/Amax≦0.05 (4)
[上記数式中、A400、A500、A600及びA700はそれぞれ波長400nm、500nm、600nm及び700nmでの可視光吸収スペクトルにおける吸光度を、Amaxは最大吸収波長での可視光吸収スペクトルにおける吸光度を表す。]
【請求項4】
有機系整色剤が、窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定したときの質量減少開始温度が250℃以上である整色用色素から選ばれる請求項3記載のカチオン可染性ポリエステル。
【請求項5】
ポリエステルを製造する工程が重縮合触媒を用いる工程であって、その重縮合触媒がチタン化合物及び/又はアルミニウム化合物を含む重縮合触媒である請求項1〜4いずれか1項記載のカチオン可染性ポリエステル。
【請求項6】
チタン化合物が、下記一般式(II)で表わされる化合物、又は下記一般式(II)で表わされる化合物と下記一般式(III)で表わされる芳香族多価カルボン酸若しくは無水物とを反応させた生成物である請求項5記載のカチオン可染性ポリエステル。
【化2】

[上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ互いに独立に、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、pは1〜4の整数を示し、かつpが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、互いに異なっていてもよい。]
【化3】

[上記式中、qは2〜4の整数を表わす。]
【請求項7】
アルミニウム化合物が、有機アルミニウム化合物である請求項5記載のカチオン可染性ポリエステル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のカチオン可染性ポリエステル組成物を溶融紡糸することによって得られる引張強度が3.5cN/dtex以上である高強力カチオン可染ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2006−176628(P2006−176628A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370883(P2004−370883)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】