説明

カチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法

【課題】
比較的低温で、しかも短時間で繊維材料の染色を行うことができるカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法を確立することである。
【解決手段】
カチオン性前処理剤として第四級アンモニウム基含有アクリル重合体を含有する染色前処理液を用いて繊維材料を処理し、次に、カチオン性水性顔料分散体及びカチオン性染色助剤として第三級アミノ基含有ウレタン系重合体を含有する染色液を用いて、pH4.5〜7.5、10〜40℃の条件で染色を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法に関し、更に詳細には、比較的低温で、しかも短時間で染色することができるカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性顔料を用いた染色は、従来は着色紙の製造などに於いて行われているが(例えば、特許文献1)、繊維材料の染色に於いては、染料を用いるのが主流であった。しかし近時、顔料の特徴である日光堅牢性、ドライクリーニング性等を生かして、繊維材料を顔料により染色する試みが為されている。特に、カチオン性水性顔料を用いた染色は、アニオン性の顔料を用いた染色に比較して、既縫製、未縫製に関わらず希望する染色濃度で均一に染色材料を染色でき、しかも染色装置を汚染することがなく、かつ染色廃液の着色がないという優れた効果が発揮される点で注目されている(例えば、特許文献2)。
【0003】
しかしながら、カチオン性水性顔料を用いた染色方法は、未だに確立されるには至っておらず、試行錯誤で行われているのが実情である。特に、ボビンに巻き付けた糸を染色するチーズ染色に於いては、未だに染料を用いた染色が主流を占めている。
【0004】
図1(a)及び(b)は、それぞれチーズ染色に使用されるボビン1及びチーズ2を現している。図1(a)に示すように、ボビン1には多数の通液孔3が形成されている。また、ボビン1には、図1(b)に示すように、糸4が円錐台の形状に巻き付けられている。このように、ボビン1に糸4を巻き付けたものをチーズと称している。チーズ染色に於いては、実線の矢印5で示すin→out方向と、破線の矢印6で示すout→in方向とに交互に染色液を通液することにより、ボビン1に巻き付けられた糸4が染色されることとなる。
【0005】
このようなチーズ染色を従来の染料を使用して行う場合、60〜80℃という比較的高い温度に加温することが必要で、しかも70分以上の長時間の染色時間が必要であるという問題があった。
【特許文献1】特許第3227581号明細書
【特許文献2】特開平10−310718号公報(明細書全体)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、比較的低温で、しかも短時間で染色することができるカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の染色方法は、繊維材料をカチオン性水性顔料分散体を用いて染色を行う染色方法であって、前記繊維材料をカチオン性前処理剤を含有する染色前処理液を用いて処理する染色前処理工程と、該カチオン性前処理した繊維材料をカチオン性水性顔料分散体を含有する染色液を用いて染色を行う染色工程とを包含していることを特徴としている。
【0008】
上記染色方法に於いては、更に、前記染色液は、カチオン性染色助剤を更に含有していてもよい。
【0009】
また、本発明の染色方法は、繊維材料をカチオン性水性顔料分散体を用いて染色を行う染色方法であって、前記繊維材料を、カチオン性水性顔料分散体及びカチオン性染色助剤を含有する染色液を用いて染色を行う染色工程を包含していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の染色方法によれば、10〜40℃の低温で染色を行うことができ、しかも30分程度の短時間で染色を完了することができる。また、チーズの内側と外側とにおける着色差がなく、スジ状の染色ムラも生じない。更に、顔料を使用しているので、高い堅牢性及びドライクリーニング性を有する染色物を得ることができ、しかも、既縫製、未縫製にかかわらず染色することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法は、全ての天然繊維及び合成繊維の染色に適用可能であり、例えば綿、ウール、シルク、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリアクリル、レーヨン、ポリノジックレーヨン、テンセル及び種々の繊維が混紡若しくは交織されたものに適用できる。また、本発明の染色方法は、織布、メリヤスまたはニットウェアーの他、種々の繊維材料の染色に適用できる。本発明の染色方法の対象は特に限定されるものではないが、未縫製の糸のみならず、綿及び混紡品のジーンズ、またはカジュアルウェアー用品で、既に縫製された衣類を染色するのにも好適に使用され得る。
【0012】
本発明に於けるカチオン性水性顔料分散体に含有される顔料としては、公知の有機顔料、無機顔料、蛍光増白顔料、蛍光顔料を挙げることができる。例えば、有機顔料としてアゾ系顔料、染付レーキ系顔料、フタロシアニン顔料、縮合多環顔料(アントラキノン系など)、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料およびイソインドリノン顔料などがあげられ、無機顔料としては弁柄、酸化チタン、黄色酸化鉄、カーボンブラック、沈降性バリウムなどが挙げられる。
【0013】
また、蛍光増白顔料としてはジフェニルエチレン誘導体があげられ、蛍光顔料としてはベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂に塩基性染料、油性染料、有機顔料を含有させたものがあげられる。
【0014】
カチオン性水性顔料分散体の調製に使用されるカチオン性付与剤として、分子中に第三級アミノ基若しくは第四級アンモニウム基又は両者を含有している公知の重合体(ポリマー又はプレポリマー)を用いることができ、更に、カチオン化剤として一般に使用されているカチオン性化合物も使用することができる。
【0015】
上記第三級アミノ基含有重合体としては、以下のものが例示できる。即ち、(a)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの重合体、例えば、ジメチル又はジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド,ジメチル又はジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの重合体、(b)ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの重合体、例えば、ジメチルまたはジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート,ジメチルまたはジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどの重合体、(c)アクリルアミド・スチレン共重合体、(d)第三級アミノ基含有ウレタン系重合体等である。
【0016】
上記第四級アンモニウム基含有重合体としては、次のものが例示できる。即ち、(e)(メタ)アクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体、例えば、2−(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリロイロキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体など、(f)(メタ)アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体、例えば、(3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリロイルアミノ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの重合体、(g)2−(メタ)アクリロイロキシアルキルベンジルアンモニウム塩の重合体、例えば、2−(メタ)アクリロイロキシエチルベンジルアンモニウムクロライド,2−(メタ)アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドの重合体,前2者の単量体とアクリルアミド,ジメチルアミノエチルアクリレートなどの共重合体、(h)アクリルアミドプロピルジメチルベンジルクロライドとN,N−ジメチルアクリルアミド及びN−メチル−N−ベンジルアリルアミン塩とN−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノプロピルアクリルアミドとの共重合体など、(i)その他、例えば、ジメチルまたはジエチルジアリルアンモニウムクロライド,β−ビニルオキシエチルトリアルキルアンモニウム塩、ビニルベンジルアンモニウム塩などの重合体等である。
【0017】
更に、上記カチオン性化合物としては、(j)第四級アンモニウム基含有化合物、例えば、ヘキサメチレン−ビス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−ジメチルアンモニウムクロライド)、トリメチレン−ビス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−ジメチルアンモニウムクロライド)、ヘキサメチレン−ビス(2,3−エポキシプロピル−ジメチルアンモニウムクロライド)、トリメチレン−ビス(2,3−エポキシプロピル−ジメチルアンモニウムクロライド)、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−トリメチルアンモニウムクロライド、2,3−エポキシプロピル−トリメチルアンモニウムクロライド等を使用できる。
【0018】
上述のカチオン性付与剤のうち、カチオン性水性顔料分散体の調製により好ましいのは、ポリジアルキルアミノ(メタ)アクリレート,ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド,第三級アミノ基含有ウレタン系重合体である。
【0019】
本発明に於いて使用されるカチオン性水性顔料分散体は、顔料及びカチオン性付与剤を水系で混合した後、公知の顔料分散機、例えば高圧ホモジナイザー、ビーズミル型分散機、アトライター、ボールミル、高速攪拌分散機などにより、分散処理することによって調製される。顔料とカチオン性付与剤の比率は、使用する両者の性質により異なるが、概ね100:5〜100:300が好ましい。
【0020】
カチオン性水性顔料分散体は、これに含まれる顔料が処理対象の繊維材料に対して、0.2〜15%owf(on weight fiber)となるように、染色液に含まれていることが好ましい。顔料が上記範囲より少ないと、染色が不完全となり、また、上記範囲より多いと、染色時に高い温度まで昇温することが必要となるので好ましくない。
【0021】
本発明のカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法では、染色前処理工程に於いて使用されるカチオン性前処理剤として、前述のカチオン性水性顔料分散体の調製に使用されるカチオン性付与剤として例示した、分子中に第三級アミノ基若しくは第四級アンモニウム基又はその両者を含有している公知の重合体を使用することができ、更にカチオン化剤として一般に使用されているカチオン性化合物も使用することができる。これらのカチオン性化合物のうち、(メタ)アクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体、例えば、2−(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、3−(メタ)アクリロイロキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、及び(メタ)アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体、例えば、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、3−(メタ)アクリロイルアミノ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体などが好適に使用される。
【0022】
本発明の染色方法に於いて、染色前処理液を用いた染色前処理工程は、後述する染色液に含まれるカチオン性染色助剤の量や他の条件により、必ずしも必要な工程ではないが、染色前処理工程を行う場合、これに含まれるカチオン性前処理剤が、処理対象の繊維材料に対して2%owf以下となるように含まれていることが好ましい。このカチオン性前処理剤が2%owfより多いと、顔料が安定化するために染色が進行し難くなり、高い温度まで昇温することが必要となるので好ましくない。
【0023】
本発明のカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法において、カチオン性水性顔料分散体に、更にカチオン性染色助剤を添加してもよい。カチオン性染色助剤としては、前述のカチオン性水性顔料分散体の調製に使用されるカチオン性付与剤として例示した、分子中に第三級アミノ基若しくは第四級アンモニウム基又はその両者を含有している公知の重合体を使用することができる。これらのうち、好ましいカチオン性染色助剤は第三級アミノ基含有ウレタン系重合体である。
【0024】
本発明の染色方法の染色工程に於いて、染色液にカチオン性染色助剤を添加する場合、処理対象の繊維材料に対して30%owf以下となるように添加することが好ましい。この添加量が30%owfより多いと、高い温度まで昇温することが必要となるので好ましくない。但し、良好な染色は得られる。
【0025】
本発明のカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法では、まず、染色前処理工程に於いて繊維材料の処理が行われる。なお、上述のようにカチオン性前処理工程は省略することができる。また、チーズ染色の場合には、染色前処理工程に先だって、繊維材料の製造工程で使用されるアルカリを除去するなどのため、酸処理を行うことが好ましい。染色前処理工程では、上述のようにカチオン性前処理剤を含有する染色前処理液を用いて繊維材料の処理が行われる。その際の浴のpHは、4.5〜7.5の範囲であることが好ましく、5.5〜6.0の範囲が更に好ましい。
【0026】
次に、染色工程に於いて繊維材料の染色が行われる。なお、チーズ染色の場合、上記カチオン性前処理工程を省略する場合に於いても、上記酸処理を行うことが好ましい。染色工程では、カチオン性水性顔料分散体及びカチオン性染色助剤を含有する染色液を用いて染色が行なわれる。上述のカチオン性前処理工程を行った場合には、染色前処理液を捨てることなく、これに染色液を加えてもよい。通常、染色温度は10〜40℃の比較的低温で行うのが好ましく、25〜35℃が更に好ましい。また、染色工程に於ける染浴のpHは4.5〜7.5の範囲であることが好ましく、更に5.5〜6.0の範囲であることが好ましい。pHが上記範囲を外れると、均染性が失われる傾向が現れるので好ましくない。
【0027】
チーズ染色に於いては、上記の染色条件に加えて、以下のような条件で染色を行うことが好ましい。即ち、染色液は、20〜70L/minの範囲の流量で通液することが均一な染色を行う上で好ましく、25〜35L/minの範囲が更に好ましい。なお、チーズ糸の重量と染色液の流量とは無関係である。また、図1(b)で説明したように、染色液は、ボビン1からチーズ2外側に向かう実線の矢印5で示すin→out方向と、チーズ2の外側からボビン1に向かう破線の矢印6で示すout→in方向との何れの方向に染色液の通液を行ってもよいが((in→out方向の通液時間):(out→in方向の通液時間)=1:0〜0:1)、(in→out方向の通液時間):(out→in方向の通液時間)=1:2〜1:10の範囲で交互に通液方向を変更することが均一な染色を行う上で好ましい。なお、上述の染色液の流量及び通液時間の比率は、用いる染色機によって変動するが、流量25L/minのときに1:2程度が好ましいことが分かっており、流量70L/minのときに1:10程度が好ましいことが分かっている。つまり、流量に応じて通液方向比を上記の範囲で変更する必要がある。染色工程の終了は、染色液に含まれる顔料が繊維材料に吸着され、染色液がほぼ透明になることにより判断することができる。
【0028】
染色終了後、脱水及び乾燥を行うことにより、染色した繊維製品が得られる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明をチーズ染色に適用した場合の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[1]チーズ染色機
下記の各実施例において、チーズ染色機として、株式会社ベルテクノ社製の小型チーズ染色機を使用した。
【0031】
[2]チーズ糸
まず、チーズ染色用ボビン(図1(a))に既知の巻取り手段により綿糸1Kgをソフトにチーズ形状に巻き上げたもの、又はソフト巻きのチーズ糸(綿糸,ノンシルケット,1Kg;橋本商事製)を染色用チーズとして使用した。
【0032】
[3]チーズ糸の酸処理
上記染色用チーズを、上記染色機を用いて酸処理(染色の前処理)を、以下の要領で行った。まず、2つのチーズをそれぞれスペーサで上下から挟み、チーズ染色機にセットし、浴比1:20となるように水を入れた。80%の酢酸をこの水浴に0.4g/Lとなるように添加し、40℃に昇温して20分間の酸処理を行った。その際、染色機のポンプ流量は27L/min、液の循環方向の時間比は、(in→out:out→in)を1:2とした。
【0033】
酸処理後、チーズ染色機内の酸処理液を排水し、さらに同量の水を入れ、pH5.7となるように80%酢酸およびpH測定計(堀場製作所製pHメータ)を用いて調整した。
【0034】
以上のチーズ糸の酸処理は、特に断らない限り、実施例及び比較例の全てについて行った。
【0035】
以下の各実施例及び比較例に示す手順でチーズ染色を行った。各実施例及び比較例に於ける染色条件を表1に示した。また、各実施例及び比較例で作製した染色チーズの評価結果を表2に示した。
【0036】
(実施例1)
<カチオン性水性顔料分散組成物の調整>
分散剤(CT dispersant BT-05、山陽色素株式会社製)22部、水40部、防腐剤(バイオホープ、ケイアイ化成株式会社製)0.4部、消泡剤(FSアンチーム013A、東レ・ダウコーニング株式会社製)0.2部、及びC. I. Pigment Blue 15 の30部を撹拌機付きの予備分散機で60分間撹拌分散した。得られた予備分散スラリーを1mmのガラスビーズを入れたサンドミルに移し、1000rpmにて60分間分散させ、全量で200部となるように水を添加し、C. I. Pigment 15 のカチオン性水性顔料分散組成物を得た。
【0037】
<染色前処理工程>
(1) 上下からスペーサで挟んだ酸処理したチーズをpH5.5〜6.0の範囲にある水を入れたチーズ染色機にセットした。染色機の稼動条件として、染浴の温度を30℃とし、ポンプ流量を27L/min,循環液の方向比を1:2とした。
【0038】
(2) カチオン性前処理剤として、第四級アンモニウム基含有アクリル重合体(CT F1101、山陽色素株式会社製)を水で50倍に希釈し、十分に撹拌して染色前処理液を得た。この染色前処理液を稼動しているチーズ染色機に徐々に滴下した。染色前処理液の滴下中においても、染浴の温度を30℃に維持した。
【0039】
<染色工程>
(3) 上記で調製したカチオン性水性顔料分散組成物をこれに含まれる顔料が1%owfとなるように、また、カチオン性染色助剤として、第三級アミノ基含有ウレタン系重合体(CT I−222、山陽色素株式会社製)を20%owfとなるように採取し、水と共に混合して50倍に希釈・撹拌し、染色液とした。染色前処理液を完全に滴下してから10分後、この染色液を徐々にチーズ染色機の浴中へ添加した。
【0040】
(4) 染色液添加後、染浴の温度を30℃に維持し、30分後に染液が透明になっていることを確認してチーズ染色機を停止させた。次に、染色液を排水した後、更に水を入れて1分間染色機を稼動させて水洗を行った。洗浄水を排水した後、チーズ糸を染色機から取り出し、洗濯機により1分間脱水を行った。脱水後、エアバス(105℃)にて乾燥を行い、染色したチーズを得た。
【0041】
<染色結果の評価>
得られたチーズ糸は、2箇所を荷造りヒモでボビンを通してから縛り、その間をハサミで切断してその断面を観察することにより、内外着色差及び染色ムラを評価した。内外着色差は、チーズの断面を目視しチーズの内側と外側とで染色濃度の差がないかにより判定した。また、染色ムラはチーズの内部から外部にかけてスジ状のムラなどがないかを目視で判定した。その結果、図2の写真に示すように、内外着色差および染色ムラは殆ど見られず優良であった。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

(実施例2)
実施例1に於いて、カチオン性染色助剤を使用することなく、カチオン性前処理剤である第四級アンモニウム基含有アクリル重合体(CT F1101、山陽色素株式会社製)を1%owfで使用し、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差および染色ムラは優良であった(図3)。
【0044】
(実施例3)
実施例1に於いて、カチオン性前処理剤を使用することなく、カチオン性染色助剤である第三級アミノ基含有ウレタン系重合体(CT I−222、山陽色素株式会社製)を20%owfで使用し、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差および染色ムラは優良であった(図4)。
【0045】
(実施例4)
実施例1に於いて、カチオン性水性顔料分散組成物をこれに含まれる顔料が0.5%owfとなるように使用した点を除き、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差および染色ムラは優良であった(図5)。
【0046】
(実施例5)
実施例1に於いて、カチオン性水性顔料分散組成物をこれに含まれる顔料が3%owfとなるように使用し、更にカチオン性前処理剤を使用することなく、カチオン性染色助剤である第三級アミノ基含有ウレタン系重合体(CT I−222、山陽色素株式会社製)を20%owfで使用し、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差および染色ムラは優良であった(図6)。また、特にカラー濃度が高くなったことにより、内外着色差が更に優良なものとなった。
【0047】
(実施例6)
実施例1に於いて、カチオン性水性顔料分散組成物をこれに含まれる顔料が3%owfとなるように使用し、染色温度を40℃一定とし、カチオン性前処理剤を使用することなく、カチオン性染色助剤である第三級アミノ基含有ウレタン系重合体(CT I−222、山陽色素株式会社製)を20%owfで使用した点を除き、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差および染色ムラは優良であった(図7)。また、特にカラー濃度が高くなったことにより、内外着色差が更に優良なものとなった。さらに、30℃での染色と同等な染色結果が得られたことから、初期温度が30℃を越える場合、この処方で染色することにより内外着色差及び染色ムラが優良な染色が可能となることが分かった。
【0048】
(実施例7)
実施例1に於いて、カチオン性水性顔料分散組成物をこれに含まれる顔料が10%owfとなるように使用し、カチオン性前処理剤を使用することなく、カチオン性染色助剤である第三級アミノ基含有ウレタン系重合体(CT I−222、山陽色素株式会社製)を1%owfで使用し、更に染色温度を30℃20分+40℃20分+50℃10分と段階的に昇温して染色した点を除き、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差および染色ムラは優良であった(図8)。この処方で染色することにより内外着色差及び染色ムラが優良な高濃度染色が可能であることが分かった。
【0049】
(比較例1)
実施例1に於いて、カチオン性前処理剤及びカチオン性染色助剤を使用することなく、他は実施例1と同様にして染色を行った。その結果、内外着色差が悪化し、チーズ内部にスジ状の染色ムラが発生した(図11)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のカチオン性水性顔料分散体を用いた染色方法によれば、比較的低温で、しかも短時間で繊維材料を染色することができるので、繊維染色の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)及び(b)は、それぞれチーズ染色に使用されるボビン1及びチーズ2を表す概略図である。
【図2】実施例1の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図3】実施例2の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図4】実施例3の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図5】実施例4の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図6】実施例5の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図7】実施例6の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図8】実施例7の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【図9】比較例1の染色方法により得られたチーズの断面の写真を表す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ボビン
2 チーズ
3 通液孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料をカチオン性水性顔料分散体を用いて染色を行う染色方法であって、
前記繊維材料をカチオン性前処理剤を含有する染色前処理液を用いて処理する染色前処理工程と、
該カチオン性前処理した繊維材料をカチオン性水性顔料分散体を含有する染色液を用いて染色を行う染色工程と
を包含する染色方法。
【請求項2】
更に、前記染色液は、カチオン性染色助剤を更に含有している請求項1記載の染色方法。
【請求項3】
繊維材料をカチオン性水性顔料分散体を用いて染色を行う染色方法であって、
前記繊維材料を、カチオン性水性顔料分散体及びカチオン性染色助剤を含有する染色液を用いて染色を行う染色工程を包含する染色方法。
【請求項4】
前記染色前処理工程をpH4.5〜7.5で行う請求項1又は2に記載の染色方法。
【請求項5】
前記染色工程をpH4.5〜7.5で行う請求項1乃至4の何れかに記載の染色方法。
【請求項6】
前記染色方法を10〜40℃の範囲で行う請求項1乃至5の何れかに記載の染色方法。
【請求項7】
前記カチオン性水性顔料分散体は、顔料をカチオン性付与剤で予め処理したものである請求項1乃至6の何れかに記載の染色方法。
【請求項8】
前記繊維材料は、通液孔を有するボビンに巻き付けた糸であり、前記通液孔を介して通液することにより、前記染色前処理液及び前記染色液を前記糸と接触させる請求項1乃至7の何れかに記載の染色方法。
【請求項9】
前記糸は、予め酸性処理液を前記通液孔を介して通液することにより、酸処理される請求項8記載の染色方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−16368(P2007−16368A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201896(P2005−201896)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000180058)山陽色素株式会社 (30)
【Fターム(参考)】