説明

カップ容器並びにそれを用いた滅菌希釈液収納容器及び滅菌液体培地収納容器

【課題】多連式での使用が可能であり、しかも無駄な部分を生じないようにしたカップ容器を提供する。
【解決手段】カップ状をした容器本体の上部に外向きのフランジを有し、そのフランジにおける対向位置に互いに係合が可能な形状をした雄連結部と雌連結部とを備えた構成とする。隣り合わせたカップ容器の雄連結部と雌連結部とを係合することでカップ容器同士をしっかりと連結できることから、多連式での使用が可能であり、しかも任意の数だけ連結できるので、連結個数が一義的に決まっている従来の多連式のカップ容器のように無駄な部分を生じるようなことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を収納するカップ容器の技術分野に属し、特に、食品衛生検査の分野において、滅菌希釈液を収納した容器や滅菌液体培地を収納した容器などに好適に用いられるカップ容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品衛生検査で言う細菌数は、あらゆる食品及びそれらを取り扱う環境材料(容器、まな板など)を検査対象としており、食品の微生物汚染の程度を示す最も有力な指標の一つである。同時に、細菌数によって食品の腐敗や変敗の有無、食中毒発症の危険性などもある程度推定することができる。その検査には、生きた細菌を対象とする生菌数測定及び死滅している細菌数も一緒に測定する総菌数測定があるが、前者がより普遍的であり重要である。
【0003】
通常、生菌数とは、一定条件下で発育する中温性好気性菌数のことで標準平板菌数とも言われる。現在、我が国の食品衛生法に基づく「食品・添加物等の規格基準」及び「乳等省令」に規定されている細菌数(生菌数)はこの菌数を指す。測定された菌数の多少は、食品及びそれらが生産された環境全般の一般的な細菌汚染状況を示す指標になり、食品の安全性、保存性、衛生的取扱いの良否などの細菌学的品質を総合的に評価する際の極めて有力な手段になっている。
【0004】
一般生菌数の検査手順は次のようにして行われる。まず、試料原液を予想菌数に応じて希釈液を用いて10倍段階希釈する。次いで、シャーレを同一希釈について通常2枚ずつ用意して、それぞれに各希釈試料液を1mlずつ分注し、予め高圧滅菌後約50℃に保温しておいた標準寒天培地15〜20mlを無菌的に各シャーレに注ぎ、直ちに試料液と培地がよく混ざり合うように十分に混釈した後、培地が完全に凝固するまで静置する。試料液をシャーレに分注してから培地と混合するまでの操作は20分間以内に終わるようにする。培地が凝固したら、シャーレを倒置してふ卵器中で好気的条件下で通常は35℃で48時間培養する。なお、培養の温度と時間は、法的に規定されている食品ではこれに従う。培養後、原則として一平板に30〜300個の範囲の集落が発生した寒天平板の集落数を計測し、当該試料希釈倍数を乗じて検体1gまた1ml当たりの一般生菌数とする。
【非特許文献1】厚生労働省監修、「食品衛生検査指針 微生物編 2004」、社団法人日本食品衛生協会、2004年6月30日、p.116−121
【0005】
上記した一般生菌数の検査法においては、試料原液を希釈液により10倍段階希釈するに際し、通常はメスピペット、希釈瓶、試験管等の器具を使用する。ところが、このような器具を用いた作業は面倒であることから、この段階希釈を簡単にするために、最近では図1のような滅菌希釈液収納容器が市販されている。
【0006】
この滅菌希釈液収納容器は、図1に示すように、ポリプロピレン等の樹脂成形品からなる多連式カップ部Cとこの多連式カップ部Cを覆って各カップ容器Caのフランジに蓋をするための蓋材Sとから構成されており、各カップ容器Caにそれぞれ滅菌希釈液を入れた状態でカップ部Cに蓋材Sをシールしている。滅菌希釈液としては、1)0.1%ペプトン加生理食塩水、2)リン酸緩衝生理食塩水、3)生理食塩水、4)リン酸緩衝液のうちのいずれかが適宜使用される。
【0007】
図2にこの滅菌希釈液収納容器を用いた段階希釈の手順を示す。まず、検体10gと希釈液90ml(検体が25gの場合、希釈液は225ml)を入れてホモジナイズしたものを、試料原液(10倍希釈)として検査に供する。そして、この試料原液1mlをカップ容器Caに注入して攪拌することにより100倍の希釈液ができる。同様の操作を繰り返すことにより、1000倍、10000倍、100000倍と段階希釈ができる。なお、各カップ容器Caの開栓は、滅菌されたピペットもしくは専用のオープナーにより一つのカップにつき「検体注入口」と「検体吸引口」の2箇所を開栓することで行う。
【0008】
一方、わが国では、食品衛生法に基づいて清涼飲料水、乳・乳製品、食肉および魚肉練り製品、冷凍食品などの成分規格として大腸菌群を検査することを義務付けており、これら食品に定められている製造基準が守られているかどうかを知る指標としている。この法的に定められた検査法は、食品の種類により使用培地などの培養条件が異なり、すべて一定量の試料について定性的に大腸菌群陰性となっている。しかも、いわゆる推定、確定および完全試験というような三つのステップからなる複雑な手順が定められている。
【0009】
この大腸菌群検査における推定試験は、検査対象によってBGLB培地と乳糖ブイヨン培地を用いる2つの方法があり、いずれもダーラム管を入れたブイヨン発酵管により行われている。原則として、BGLB培地は細菌にとって栄養素の豊富な食品全般に適用され、乳糖ブイヨン培地は栄養素の少ない清涼飲料(水)、ミネラルウォーター、氷雪等に適用される。この推定試験では、一般生菌数検査で調製した試料原液またはその10倍段階希釈液を、10ml、1ml、0.1ml・・・と連続する3段階またはそれ以上の段階について、それぞれ3本(または5本)のブイヨン発酵管に接種する。試料を接種したブイヨン発酵管は、35±1.0℃、24±2時間培養し、ガス発生が認められたら推定試験陽性として次の確定試験に進む。ガス発生が認められなかった場合は、さらに48±3時間まで培養を継続して再度判定する。再判定の結果、ガス発生が認められなかった場合は大腸菌群陰性とし、ガス発生が認められた場合は推定試験陽性として次の確定試験を行う。
【0010】
この大腸菌群検査における推定試験の場合は、試料原液10ml、1ml 及びその10倍段階希釈液各1mlずつを予想菌量に応じて連続する3段階またはそれ以上の段階について、それぞれ5本または3本ずつのブイヨン発酵管に接種する。ところが、このような多数のブイヨン発酵管を用いた作業は面倒でかつ旧式な方法であることから、発色及び発光酵素気質培地が開発され、図1に示したのと同様な多連式のカップ容器を用いた滅菌液体培地が市販されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した一般生菌数の検査にて使用される滅菌希釈液収納容器は、片手でカップ部Cを把持し、残りの手でピペットを操作することにより段階希釈を連続して行うことができるので、作業性がよいという利点がある。ところが、複数個(通常は4個)のカップ容器が連続しているため、段階希釈の回数が少ない検査の場合は、未使用のカップ容器が残ることになって、無駄な部分を生じるという問題点がある。また、大腸菌群検査にて使用される滅菌液体培地収納容器についても同様の問題がある。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多連式での使用が可能であり、しかも無駄な部分を生じないようにしたカップ容器を提供し、併せてそれを用いた滅菌希釈液収納容器及び滅菌液体培地収納容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明であるカップ容器は、カップ状をした容器本体の上部に外向きのフランジを有し、そのフランジにおける対向位置に互いに係合が可能な形状をした雄連結部と雌連結部とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明であるカップ容器は、請求項1に記載のカップ容器を使用した滅菌希釈液収納容器であって、容器本体の中に所定量の滅菌希釈液を入れた状態でフランジに蓋材をシールしたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明であるカップ容器は、請求項1に記載のカップ容器を使用した滅菌液体培地収納容器であって、容器本体の中に所定量の滅菌液体培地を入れた状態でフランジに蓋材をシールしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明であるカップ容器は、カップ状をした容器本体の上部に外向きのフランジを有し、そのフランジにおける対向位置に互いに係合が可能な形状をした雄連結部と雌連結部とを備えたことを特徴としているので、隣り合わせたカップ容器の雄連結部と雌連結部とを係合することでカップ容器同士をしっかりと連結できることから、多連式での使用が可能であり、しかも任意の数だけ連結できるので、連結個数が一義的に決まっている従来の多連式のカップ容器のように無駄な部分を生じるようなことがない。
【0017】
請求項2に記載の発明である滅菌希釈液収納容器は、請求項1に記載のカップ容器を使用した滅菌希釈液収納容器であって、容器本体の中に所定量の滅菌希釈液を入れた状態でフランジに蓋材をシールしたことを特徴としているので、段階希釈の回数に応じて必要な個数だけ繋げた状態で使用することができ、連結個数が一義的に決まっている従来の収納容器のように無駄な部分を生じるようなことがない。
【0018】
請求項3に記載の発明である滅菌液体培地収納容器は、請求項1に記載のカップ容器を使用した滅菌液体培地収納容器であって、容器本体の中に所定量の滅菌液体培地を入れた状態でフランジに蓋材をシールしたことを特徴としているので、試料液を接種する数に応じて必要な個数だけ繋げた状態で使用することができ、連結個数が一義的に決まっている従来の収納容器のように無駄な部分を生じるようなことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図3は本発明に係るカップ容器を斜め上方から見た状態で示す斜視図、図4は同じく斜め下方から見た状態で示す斜視図、図5は図3及び図4に示すカップ容器の上面図、図6は同じく底面図、図7は同じく側面図、図8は図3のA−A断面図である。
【0021】
このカップ容器1は、ポリプロピレンの射出成形品からなるもので、図示のように、カップ状をした容器本体2の上部に外向きのフランジ3を有しており、そのフランジ3における対向位置に互いに係合が可能な形状をした雄連結部4と雌連結部5とを備えている。また、容器本体2は、上部に向かって僅かに広がるテーパーが付いた円筒状のもので、円形の底部の裏面側には同心円でリング状をした脚部6を有している。
【0022】
なお、この例では射出成形の樹脂材料としてポリプロピレンが用いられているが、その他にも、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS、など各種の樹脂を用いることができる。
【0023】
カップ容器1のフランジ3は角が丸みを帯びた正方形状をしており、雄連結部4と雌連結部5はそのフランジ3における対向する2辺の下部にそれぞれ設けられている。そして、雄連結部4は、フランジ3の下側に突設した直方体形状の基部4aとその端面中央から外向きに突出する薄板状の凸部4bとからなり、雌連結部5は、フランジ3の下側に突設した直方体形状の基部5aとその端面の上下から外向きに突出する二股部5bとからなる。雄連結部の基部4aと雌連結部5の基部5aは略同じサイズであり、凸部4bは二股部5bの隙間に隙間なく嵌合するサイズになっている。また、凸部4bと二股部5bは差込み操作を考慮して角に面取りが施されている。
【0024】
図9は2個のカップ容器を連結した状態で示す側面図である。この図に示すように、カップ容器1は、隣り合わせたカップ容器1の雄連結部4と雌連結部5とを係合することでカップ容器同士を連結することができる。すなわち、2個のカップ容器1を隣合わせ、一方のカップ容器1における雌連結部5の二股部5bの隙間に他方のカップ容器1における雄連結部4の凸部4bを押し込んで嵌合することにより、2個のカップ容器1がしっかりと繋がった状態にすることができる。同様に、カップ容器1を次々と連結して、3個、4個、5個・・・の多連式カップにすることができる。
【0025】
なお、雄連結部と雌連結部は上記した形状の組み合わせに限定されるものではなく、連結部同士が互いに係合してしっかりと接続できれば、どのような形状であっても構わないものである。
【0026】
上記のカップ容器1は、滅菌希釈液収納容器として用いることができる。すなわち、カップ容器1における容器本体2の中に所定量の滅菌希釈液を入れた状態でフランジ3にフィルム状の蓋材をシールする。そして、一般生菌数の検査で使用するに際しては、段階希釈の回数に応じて必要な個数だけ繋げた状態にすることができる。
【0027】
また、上記のカップ容器1は、滅菌液体培地収納容器として用いることができる。すなわち、カップ容器1における容器本体2の中に所定量の滅菌液体培地を入れた状態でフランジ3にフィルム状の蓋材をシールする。そして、大腸菌群の検査で使用するに際しては、試料液を接種する数に応じて必要な個数だけ繋げた状態にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のカップ容器は、上記したような滅菌希釈液収納容器や滅菌液体培地収納容器として用いる以外にも、例えば食品用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の滅菌希釈液収納容器の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の滅菌希釈液収納容器を用いた段階希釈の手順を示す説明図である。
【図3】本発明に係るカップ容器を斜め上方から見た状態で示す斜視図である。
【図4】本発明に係るカップ容器を斜め下方から見た状態で示す斜視図である。
【図5】図3及び図4に示すカップ容器の上面図である。
【図6】図3及び図4に示すカップ容器の底面図である。
【図7】図1及び図2に示すカップ容器の側面図である。
【図8】図3のA−A断面図である。
【図9】2個のカップ容器を連結した状態で示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 カップ容器
2 容器本体
3 フランジ
4 雄連結部
4a 基部
4b 凸部
5 雌連結部
5a 基部
5b 二股部
6 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状をした容器本体の上部に外向きのフランジを有し、そのフランジにおける対向位置に互いに係合が可能な形状をした雄連結部と雌連結部とを備えたことを特徴とするカップ容器。
【請求項2】
請求項1に記載のカップ容器を使用した滅菌希釈液収納容器であって、容器本体の中に所定量の滅菌希釈液を入れた状態でフランジに蓋材をシールしたことを特徴とする滅菌希釈液収納容器。
【請求項3】
請求項1に記載のカップ容器を使用した滅菌液体培地収納容器であって、容器本体の中に所定量の滅菌液体培地を入れた状態でフランジに蓋材をシールしたことを特徴とする滅菌液体培地収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−335437(P2006−335437A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163376(P2005−163376)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000128418)株式会社エルメックス (6)
【Fターム(参考)】