説明

カテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法

【課題】カテーテルの挿入性を向上させることにより、操作性が向上するカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法を提供すること。
【解決手段】カテーテル10とスタイレット20とからなるカテーテルセットAにおけるスタイレット20を、スタイレット本体と、スタイレット本体の先端側部分に連結された紐状部材22とで構成した。そして、スタイレット本体の先端部をカテーテル10の先端から突出させた状態でスタイレット本体をカテーテル10の内腔に挿入し、カテーテル10の先端部とスタイレット本体とに紐状部材22を巻き付けて先細り部22aを形成した。また、紐状部材22に血液に接触することにより溶解する固定剤を含浸させて先細り部22aを形成し、先細り部22aを血液に接触させることにより固定剤を溶解して解くことができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルの挿入性を向上させることができるとともにカテーテルの先端部を保護できるカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血液透析を行う場合には、脱血用内腔と送血用内腔とを備えた透析用のカテーテルの先端部を患者の血管に留置して、血管を流れる血液を脱血用内腔から抜き取り、浄化したのちの血液を送血用内腔から血管内に戻すことが行われている(例えば、特許文献1参照)。このカテーテル(トリプルルーメンカテーテル)は、隔壁を隔てて形成された第1のルーメンと第2のルーメンとを備えており、第2のルーメンの先端開口は、第1のルーメンの先端開口よりも基部側に1〜11cm隔てて設けられている。また、第1のルーメンの先端側部分の側部には、側孔が形成されており、隔壁の内部には先端が側孔に向かって延びる第3のルーメンが設けられている。
【0003】
第1のルーメンは返血(送血)ルーメンとして用いられ、第2ルーメンは脱血ルーメンとして用いられる。そして、カテーテルの先端部を患者の血管に留置する際には、まず、ガイドワイヤの先端部を血管内に挿入するとともに、第1のルーメンにスタイレットを挿入する。ついで、スタイレットの内部にガイドワイヤを後部側から挿入しながらカテーテルとスタイレットを体内に挿し込んでいくことにより、カテーテルの先端部を血管内に挿入して留置する。つぎに、スタイレットをカテーテルから抜去し、さらにガイドワイヤをカテーテルから抜去する。これによって、カテーテルを留置するための操作が終了し、続いて血液透析が開始される。また、スタイレットは、カテーテルの腰(強度)を強くして挿入をし易くするためのもので、前述した従来のカテーテルは、スタイレットを用いずに血管に留置される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−346183号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述したカテーテルを患者の体に挿し込む際には、第2のルーメンの先端開口は開口したままで、第1のルーメンの内部にはスタイレットが挿入されるがその先端部にはカテーテルの軸方向に直交する面が形成される。このため、第1のルーメンと第2のルーメンとの先端開口がそれぞれ抵抗となってカテーテルの挿入抵抗が大きくなり操作性がよくないという問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的は、カテーテルの挿入性を向上させることにより、操作性が向上するカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法を提供することにある。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係るカテーテルセットの構成上の特徴は、カテーテルと、スタイレットとからなるカテーテルセットであって、スタイレットが、先端部をカテーテルの先端から突出させた状態でカテーテルの内腔に挿入される可撓性線材と、可撓性線材の先端側部分に連結され、カテーテルの先端部と可撓性線材との間に巻き付けられてカテーテルの先端に先細り部を形成する紐状部材とを備えていることにある。
【0008】
本発明に係るカテーテルセットは、カテーテルの内腔に挿入される可撓性線材と、可撓性線材の先端側部分に連結された紐状部材とからなっている。このため、可撓性線材をカテーテルの内腔に挿入してその先端部をカテーテルの先端部から突出させ、突出した可撓性線材の先端部分に紐状部材を巻き付けることによりカテーテルの先端に先細り部を形成することができ、この先細り部を形成することによってカテーテルの挿入性を向上させることができる。この場合、紐状部材としては、先細り部を形成し易い所定の幅をもった平面状の紐等で構成することが好ましく、このように構成された紐状部材を、少なくともカテーテルの先端と可撓性線材との間に生じる段差の部分に巻き付けることにより先細り部を形成する。
【0009】
これによって、カテーテルの先端に滑らかな外周面を備えた先細り部を形成することができる。また、紐状部材で形成される先細り部は、カテーテルから可撓性線材を引き抜くときに、可撓性線材に引っ張られて順次解けるようにしておく。これによって、カテーテルを患者の体内に留置したのちに、カテーテルからスタイレットを抜き取る際には、可撓性線材を引っ張ることにより、可撓性線材とともに紐状部材を順次先細り部から解きながら抜き取っていくことができる。すなわち、紐状部材はカテーテルを留置したのちに可撓性線材とともにカテーテルから取り外されるものであるため、先細り部の形状は、カテーテルを患者の体内の所定部分に留置するまで維持できればよく、カテーテルを留置したのちには、その形状が崩れても支障は生じない。
【0010】
また、本発明に係るカテーテルセットの他の構成上の特徴は、紐状部材に体液に接触することにより溶解する固定剤を含浸させて、紐状部材をカテーテルの先端部と可撓性線材との間に巻き付けて固化することにより先細り部を形成し、先細り部を体液に接触させることにより固定剤を溶解して解くことができるようにしたことにある。これによると、紐状部材を可撓性線材に巻き付けて先細り部を形成するための操作が容易になるとともに、紐状部材を可撓性線材とともにカテーテルから取り除く操作も容易になる。この固定剤としては、人体に害のないものを用いる。例えば、多糖類に代表される生体適合性高分子物質を用いることが好ましい。また、この場合の体液とは血液等体に含まれる液体をいう。
【0011】
また、本発明に係るカテーテルセットのさらに他の構成上の特徴は、ガイドワイヤを通すための挿通孔を、可撓性線材またはカテーテルの長手方向に沿って可撓性線材またはカテーテルに設けるとともに、先細り部に挿通孔に連通する補助挿通孔を形成したことにある。これによると、ガイドワイヤを用いてカテーテルを患者の体内に挿入する際に、先細り部が操作の邪魔になることがなくなる。
【0012】
また、本発明に係るカテーテルセットのさらに他の構成上の特徴は、カテーテルが、脱血用内腔と送血用内腔とを備えた血液透析用のカテーテルであることにある。これによると、カテーテルを患者の血管に留置するための操作が容易になる血液透析用のカテーテルセットを得ることができる。また、本発明においては、カテーテルの脱血用内腔と送血用内腔との一方だけに可撓性線材を挿入し、カテーテルの先端部と可撓性線材の先端部との間に紐状部材を巻き付けるようにしてもよいし、カテーテルの脱血用内腔と送血用内腔との双方に、可撓性線材と紐状部材を備えていないスタイレットとを挿入し、そのスタイレットの先端部と可撓性線材の先端部とを合せてその外周に紐状部材を巻き付けるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明に係るカテーテルセットのさらに他の構成上の特徴は、カテーテルの脱血用内腔と送血用内腔との一方にスタイレットを挿入して、他方に補助スタイレットを挿入し、ガイドワイヤを通すための挿通孔を、スタイレットの可撓性線材と補助スタイレットとの少なくとも一方の長手方向に沿ってスタイレットの可撓性線材と補助スタイレットとの少なくとも一方に設けるとともに、先細り部に挿通孔に連通する補助挿通孔を形成したことにある。これによると、2本のスタイレットを用いるため、カテーテルの強度が大きくなり挿入操作がし易くなるとともに、ガイドワイヤを用いてカテーテルを患者の体内に挿入する際に、先細り部が操作の邪魔になることがなくなる。
【0014】
本発明に係るカテーテルセットの製造方法の構成上の特徴は、カテーテルと、スタイレットとからなるカテーテルセットの製造方法であって、カテーテルの内腔に挿入される可撓性線材と、可撓性線材の先端側部分に連結された紐状部材とからなるスタイレットを、紐状部材および可撓性線材の先端部をカテーテルの先端から突出させた状態で可撓性線材をカテーテルの内腔に挿入するスタイレット挿入工程と、カテーテルの先端部と可撓性線材との間に紐状部材を巻き付けてカテーテルの先端に先細り部を形成する先細り部形成工程とを備えたことにある。本発明によると、挿入性に優れたカテーテルセットを得ることができる。
【0015】
本発明に係るカテーテルセットの製造方法の他の構成上の特徴は、紐状部材に体液に接触することにより溶解する固定剤を含浸させて、紐状部材をカテーテルの先端部と可撓性線材との間に巻き付けて固化することにより先細り部を形成し、先細り部を体液に接触させることにより固定剤を溶解して解くことができるようにしたことにある。本発明によると、紐状部材を可撓性線材に巻き付けて先細り部を形成するための操作が容易になるとともに、紐状部材を可撓性線材とともにカテーテルから取り除く操作も容易になる。
【0016】
また、本発明は、可撓性線材と、前記可撓性線材の先端側部分に連結された紐状部材とを備えたスタイレットにおける前記可撓性線材の先端部を前記カテーテルの先端から突出させた状態で、前記可撓性線材を前記カテーテルの内腔に挿入し、前記カテーテルの先端部と前記可撓性線材との間に前記紐状部材を巻き付けて血液に接触することにより溶解する固化剤で固化することにより前記カテーテルの先端に先細り部を形成して構成されるカテーテルセットの使用方法であって、前記カテーテルセットを前記先細り部側から人体の血管に挿入する挿入工程と、前記先細り部を血液に接触させて前記固化剤を溶解することにより前記先細り部を解く固化解除工程と、前記スタイレットを前記カテーテルから抜き取るスタイレット抜取工程とを備えたカテーテルセットの使用方法とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るカテーテルセットを示した斜視図である。
【図2】図1に示したカテーテルセットが備えるカテーテルを示しており、(a)は平面図、(b)は(a)に示したカテーテルの先端を示した正面図、(c)は側面図である。
【図3】図1に示したカテーテルセットが備えるスタイレットを示しており、(a)は側面図、(b)は正面である。
【図4】図1に示したカテーテルセットが備える他方のスタイレットを示しており、(a)は側面図、(b)は正面である。
【図5】一対のスタイレットが挿入されたカテーテルの先端部を示した側面図である。
【図6】カテーテルの先端に形成された先細り部を示した側面図である。
【図7】変形例に係るカテーテルを示しており、(a)は平面図、(b)は(a)に示したカテーテルの先端を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るカテーテルセットの一実施形態を図面を用いて詳しく説明する。図1は、同実施形態に係るカテーテルセットAを示している。このカテーテルセットAは、血液透析に使用されるもので、患者の血管に留置されるカテーテル10と、カテーテル10の内部に挿入される一対のスタイレット20(図3参照),25(図4参照)と、ガイドワイヤ28とで構成されている。カテーテル10は、図2に示したように、細長いカテーテル本体11と、カテーテル本体11の基端部(図2(a)、(c)の左端部)に連結された接続部12から分岐した2本の分岐管13,14とで構成されている。
【0019】
カテーテル本体11は細長い可撓性の円筒体で構成されており、その内部には、脱血用内腔11aと送血用内腔11bとがカテーテル本体11内を二分する隔壁11cを挟んで形成されている。また、カテーテル本体11の先端部には、脱血用内腔11a側に位置する切り欠き15aと、送血用内腔11b側に位置する切り欠き15bとがカテーテル本体11の軸線回りに180度の間隔を保って形成されている。切り欠き15aは、隔壁11cの幅方向の一方の端部先端(図2(b)の左端部)から隔壁11cの長手方向に沿って基端部側に真っ直ぐ延びたのちに、隔壁11cの幅方向の他方の端部先端側(図2(b)の右端部側)に向かって斜めに延びる略V形の縁部を備えた凹部で構成されている。
【0020】
そして、切り欠き15aの斜めに延びた縁部は隔壁11cの他方の端部先端の手前でカテーテル本体11の軸線に直交するように切り欠かれて隔壁11cの他方の端部に連なっている。また、切り欠き15bは、隔壁11cの幅方向の他方の端部先端から隔壁11cの長手方向に沿って基端部側に真っ直ぐ延びたのちに、隔壁11cの幅方向の一方の端部先端側に斜めに延びる略V形の縁部を備えた凹部で構成されている。そして、切り欠き15bの斜めに延びた縁部は隔壁11cの一方の端部先端の手前でカテーテル本体11の軸線に直交するように切り欠かれて隔壁11cの一方の端部に連なっている。
【0021】
すなわち、切り欠き15bは、カテーテル本体11の軸線回りに180度回転すると切り欠き15aに重なるように形成されている。そして、カテーテル本体11における切り欠き15a,15bよりもやや基端側に菱形の側孔16(一方しか図示していない)がカテーテル本体11の軸線回りに180度の間隔を保って形成されている。また、接続部12の内部には、脱血用内腔11aに連通する内腔と、送血用内腔11bに連通する内腔とが形成されている。
【0022】
分岐管13は、接続部12の一方の内腔を介して脱血用内腔11aに連通する内腔を備えた円筒体で構成されており、その基端部には、ルアーアダプター13aが連結されている。また、分岐管14は、接続部12の他方の内腔を介して送血用内腔11bに連通する内腔を備えた円筒体で構成されており、その基端部には、ルアーアダプター14aが連結されている。ルアーアダプター13aの開口側端部の外周にはねじ13bが形成され、ルアーアダプター14aの開口側端部の外周にはねじ14bが形成されている。なお、カテーテル本体11および分岐管13,14は、シリコーンやポリウレタン等の軟質合成樹脂材料からなっており、接続部12およびルアーアダプター13a,14aは、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリカーボネート等の合成樹脂材料からなっている。
【0023】
また、分岐管13,14には、それぞれ分岐管13,14の内腔を閉塞するクランプ17が取り付けられている。このクランプ17は、細長い板状体を屈曲して弾性を備えた略三角形の枠状に形成して、一方の端部側部分の内面に段部からなる係合凹部(図示せず)を形成するとともに、他方の端部にその係合凹部に係合できる係合突部17aを形成して構成されている。また、クランプ17の前後にはそれぞれ分岐管13,14を挿通させるための穴部17b,17cが形成されており、穴部17b,17cに分岐管13,14を挿通させてクランプ17は分岐管13,14にそれぞれ取り付けられている。
【0024】
さらに、クランプ17の内周面における対向する部分には、係合突部17aを係合凹部に係合させたときに、分岐管13,14を両側から押圧してその内腔を閉塞する押圧部17d,17eが形成されている。したがって、係合突部17aを係合凹部に係合させることにより分岐管13,14を閉塞し、係合突部17aと係合凹部との係合を解除することにより分岐管13,14の両端間をそれぞれ連通させることができる。クランプ17は、ポリプロピレン、ABS等の合成樹脂材料からなっている。
【0025】
スタイレット20は、図3に示したように、本発明に係る可撓性線材を構成するスタイレット本体21と、紐状部材22と、把持部23とで構成されている。スタイレット本体21は、カテーテル10の脱血用内腔11aおよび送血用内腔11bに挿通可能な断面形状が半円状に形成された合成樹脂材料からなる細長い線材で構成されている。また、紐状部材22は、ナイロンまたはシルクからなる所定の幅(1mm程度)を備えた平面状の紐で構成されており、スタイレット本体21の先端側部分における外周面の円弧状部分に連結されている。把持部23は、スタイレット本体21の基端部に連結された把持部本体23aと、把持部本体23aにおけるスタイレット本体21との連結部の外周側で軸回り方向に回転自在な状態で把持部本体23aに取り付けられた円筒ねじ部23bとで構成されている。
【0026】
この円筒ねじ部23bの内周面には、ルアーアダプター13aのねじ13bおよびルアーアダプター14aのねじ14bに螺合可能なねじ(図示せず)が形成されている。このため、スタイレット20は、紐状部材22を脱血用内腔11aまたは送血用内腔11bの外周側から外部に出した状態で、スタイレット本体21をカテーテル10の脱血用内腔11aまたは送血用内腔11bに挿入することができる。また、円筒ねじ部23bのねじをねじ13bまたはねじ14bに螺合させることにより、スタイレット20をカテーテル10に固定できる。
【0027】
スタイレット25は、本発明に係る補助スタイレットを構成するもので、図4に示したように、スタイレット本体26と、把持部27とで構成されている。スタイレット本体26は、カテーテル10の脱血用内腔11aおよび送血用内腔11bに挿通可能な合成樹脂材料からなる細長い線材で構成されており、断面形状の縁部が半円状に形成され内部にスタイレット本体26を長手方向に貫通するガイドワイヤ挿通孔26aが形成されている。また、把持部27は、スタイレット本体26に連結された把持部本体27aと、把持部本体27aにおけるスタイレット本体26との連結部の外周側で軸回り方向に回転自在な状態で把持部本体27aに取り付けられた円筒ねじ部27bとで構成されている。
【0028】
把持部本体27aは、スタイレット本体26のガイドワイヤ挿通孔26aに連通する挿通孔(図示せず)を備えた円筒状に形成されており、この挿通孔からガイドワイヤ挿通孔26aにかけてガイドワイヤ28を通すことができる。また、円筒ねじ部27bの内周面には、ルアーアダプター13aのねじ13bおよびルアーアダプター14aのねじ14bに螺合可能なねじ(図示せず)が形成されている。このため、スタイレット本体26をカテーテル10の脱血用内腔11aまたは送血用内腔11bに挿入して、円筒ねじ部27bのねじをねじ13bまたはねじ14bに螺合させることにより、スタイレット25をカテーテル10に固定できる。また、スタイレット本体21およびスタイレット本体26の先端部は、それぞれ脱血用内腔11aと送血用内腔11bとの先端部から突出したときに、双方で先細り部を形成するように先細り状になっている。
【0029】
ガイドワイヤ28は、予め患者の血管内における所定部分に挿し込まれてカテーテル10を導くために使用されるもので、外径が0.5〜1.0mmのステンレススチールで構成されている。なお、ガイドワイヤ28を血管に挿し込む際には、まず、円筒状の穿刺針からなるカニューレ(図示せず)を患者の体に穿刺してその先端を血管に到達させる。ついで、カニューレにガイドワイヤ28を通し、ガイドワイヤ28の先端部を血管内に挿入する。そして、患者の体にガイドワイヤ28を残したまま、カニューレを患者の体から引き抜いて、そのガイドワイヤ28を利用して、後述する操作によって、カテーテル10の留置が行われる。
【0030】
この構成において、カテーテルセットAを用いて血液透析を行う場合には、まず、製造工程において、カテーテル10にスタイレット20,25を取り付ける作業が行われる。この場合、図2(a)に示したように、分岐管13,14にそれぞれ緩めた状態のクランプ17が取り付けられたカテーテル10における、例えば、分岐管13のルアーアダプター13aの開口からスタイレット20を、紐状部材22側から挿入する。この場合、例えば、紐状部材22の先端部にワイヤ等の挿通部材を接続し、この挿通部材をルアーアダプター13aの内腔と脱血用内腔11aとを貫通させてカテーテル本体11の先端から外部に引き抜いたのちに、挿通部材に続いて紐状部材22もカテーテル本体11の先端から外部に引き出す。
【0031】
ついで、スタイレット本体21を脱血用内腔11a内に位置させて、その先端部をカテーテル本体11の先端から突出させる。このとき、スタイレット本体21の外周面における曲面側が脱血用内腔11aの内周面における曲面側に対向し、スタイレット本体21の外周面における平面側が脱血用内腔11aの内周面における平面側に対向する。そして、円筒ねじ部23bをルアーアダプター13aのねじ13bに螺合させる。これによって、スタイレット20は、カテーテル10に固定される。
【0032】
つぎに、分岐管14のルアーアダプター14aの開口からスタイレット25を、先端側から挿入して、スタイレット本体26を送血用内腔11b内に位置させて、その先端部をカテーテル本体11の先端から突出させる。このとき、スタイレット本体26の外周面における曲面側が送血用内腔11bの内周面における曲面側に対向し、スタイレット本体26の外周面における平面側が送血用内腔11bの内周面における平面側に対向する。ついで、円筒ねじ部27bをルアーアダプター14aのねじ14bに螺合させる。これによって、スタイレット25は、カテーテル10に固定される。図5は、スタイレット20,25が取り付けられたカテーテル本体11の先端部を示している。
【0033】
つぎに、紐状部材22をカテーテル本体11の先端部と、その先端部から突出するスタイレット本体21,26に巻き付けて、図6に示した先細り部22aを形成する。この場合、紐状部材22に固定剤を含浸させて紐状部材22で先細り部22aを形成したのちに、固定剤を固化させてその形状を維持する。また、先細り部22aは、紐状部材22でスタイレット本体26のガイドワイヤ挿通孔26aの開口を塞がないようにして形成する。この場合、ガイドワイヤ挿通孔26aに棒状のマンドレルを挿入してその先端部をスタイレット本体26の先端から突出させ、スタイレット本体21,26の先端部とともにマンドレルの外周部にも紐状部材22を巻き付けることにより、先細り部22aの内部に補助挿通孔22bを形成することができる。
【0034】
なお、固定剤としては、先細り部22aに血液が浸み込んだときに溶解して固化が解除されるものを用いる。例えば、ポリエチレングリコール、ヘパリンナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、キチン・キトサン類、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ペクチン、ポリビニルアルコール、デンプン、グリコーゲン、セルロース類などを用いることができる。また、別の方法として、スタイレット20を脱血用内腔11aに挿入する際に、スタイレット本体21と、紐状部材22とを別体にしておき、スタイレット本体21を、脱血用内腔11aに挿入したのちに、カテーテル本体11の先端から突出するスタイレット本体21の先端部に紐状部材22を固定するようにしてもよい。要は、結果として、カテーテル本体11の先端に先細り部22aが形成されていればよい。
【0035】
このようにして、スタイレット20,25が取り付けられ先端に先細り部22aが形成されたカテーテル10は、前述したようにして、先端部が血管内に挿入されたガイドワイヤ28を利用して、血管に留置される。この場合、患者の体内から延びるガイドワイヤ28の端部を、先細り部22aの先端部から補助挿通孔22bを介してガイドワイヤ挿通孔26a内に挿し込んでその端部を把持部27の開口から外部に突出させる。そして、ガイドワイヤ28に沿わせてカテーテル10を、スタイレット20,25とともに患者の体内に挿し込んでいく。そして、先細り部22aが血管内に入って、先細り部22aに血液が浸み込んでいくと、固定剤が溶解して紐状部材22が解けていく。
【0036】
このため、円筒ねじ部23bとルアーアダプター13aのねじ13bとの螺合を解除するとともに、円筒ねじ部27bとルアーアダプター14aのねじ14bとの螺合を解除させて、ガイドワイヤ28、スタイレット25およびスタイレット20を順次カテーテル10から引き抜いていくことにより、カテーテル10だけを患者の体に残すことができる。そして、分岐管13のルアーアダプター13aに血液を吸い出すための透析回路の脱血側を接続し、分岐管14のルアーアダプター14aに浄化された血液を体内の血管に戻すための透析回路の送血側を接続する。
【0037】
そして、透析回路に接続された透析装置を作動させて血液透析を行う。この場合、血管内の血液は、脱血用内腔11aから抜かれて透析装置で浄化されたのちに、送血用内腔11bから血管内に戻される。この際、脱血される血液の一部は、カテーテル本体11の脱血用内腔11a側に設けられた側孔16を通過し、送血される血液の一部は、カテーテル本体11の送血用内腔11b側に設けられた側孔16を通過する。
【0038】
このように、本実施形態に係るカテーテルセットAは、カテーテル10の脱血用内腔11aと送血用内腔11bとにそれぞれ挿入されるスタイレット20,25とを備えている。そして、スタイレット20のスタイレット本体21の先端には紐状部材22が連結され、スタイレット25のスタイレット本体26にはガイドワイヤ挿通孔26aが形成されている。このため、スタイレット20,25のスタイレット本体21,26をそれぞれカテーテル10の脱血用内腔11aと送血用内腔11bとに挿入してそれらの先端部をカテーテル10の先端部から突出させ、スタイレット本体21,26の突出した先端部分に紐状部材22を巻き付けることにより先細り部22aを形成することができる。
【0039】
この先細り部22aを形成することによってカテーテル10の挿入性を向上させることができる。また、先細り部22aには、スタイレット本体26のガイドワイヤ挿通孔26aに連通する補助挿通孔22bが形成されているため、ガイドワイヤ28を用いてカテーテル10を患者の体内に挿入する際に、先細り部22aが操作の邪魔になることがなくなる。さらに、先細り部22aは、血液に浸漬されることによって固定剤が溶解されて解けるように構成されている。したがって、カテーテル10を患者の体の血管に留置したのちに、カテーテル10からスタイレット20を抜き取る際には、スタイレット本体21を引っ張ることにより、スタイレット本体21とともに紐状部材22を順次先細り部22aから解きながらスムーズに抜き取っていくことができる。
【0040】
(変形例)
図7は、前述した実施形態の変形例に係るカテーテルセットが備えるカテーテル30を示している。このカテーテル30は、図7(a)に示したように、細長いカテーテル本体31と、カテーテル本体31の基端部に連結された接続部32から分岐した2本の分岐管33,34とで構成されている。そして、図7(b)に示したように、カテーテル本体31の内部には、送血用内腔31aと脱血用内腔31bとが隔壁31cを挟んで形成されている。隔壁31cは、送血用内腔31aと脱血用内腔31bとを二分するようにして形成されている。
【0041】
また、カテーテル本体31の先端側部分における送血用内腔31aが形成された部分は、先端側に行くほど徐々に細くなっており、脱血用内腔31bの先端開口は、送血用内腔31aの先端開口よりも基端側に位置している。脱血用内腔31bの先端開口は、外周側よりも送血用内腔31a側の方が前方に延びる傾斜面で構成されている。このため、カテーテル本体31の先端側部分は、送血用内腔31aが形成された部分が真っ直ぐに延びながら徐々に細くなり、脱血用内腔31bが形成された部分が傾斜して徐々に細くなっている。また、接続部32の内部には、送血用内腔31aに連通する内腔と、脱血用内腔31bに連通する内腔とが形成され、分岐管33は分岐管13と同じ構成で、分岐管34は分岐管14と同じ構成になっている。
【0042】
また、図示は省略するが、本変形例に係るカテーテルセットにも一対のスタイレットが備わっている。一方のスタイレットは、前述したスタイレット20と同様、スタイレット本体と、紐状部材と、把持部とで構成されている。一方のスタイレットのスタイレット本体は、脱血用内腔31bの断面に対応する断面形状をしており、脱血用内腔31b内に挿入可能になっている。また、他方のスタイレットは、前述したスタイレット25と同様、スタイレット本体と、把持部とで構成されている。この他方のスタイレットのスタイレット本体は、送血用内腔31aの断面に対応する断面形状をしており、送血用内腔31a内に挿入可能になっている。なお、この他方のスタイレットには、ガイドワイヤ挿通孔が設けられている。
【0043】
このように構成された一対のスタイレットは、それぞれ、送血用内腔31aと脱血用内腔31bとに挿入され、その先端部に、前述した先細り部22aと同様の先細り部を形成して使用される。この先細り部22aを形成する場合には、紐状部材を、脱血用内腔31bの開口部から一方のスタイレットの先端外周に巻き付け、さらにカテーテル本体31の先端側部分の送血用内腔31aの開口部から他方のスタイレットの先端外周にかけて巻き付ける。この場合、一対のスタイレットの先端部は略同じ位置まで突出するようにしておく。これによって、先細り部22aの形状を歪みのないものにすることができる。
【0044】
この変形例に係るカテーテルセットのそれ以外の部分の構成については、前述した実施形態のカテーテルセットAと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このカテーテルセットを用いて血液透析を行う場合には、前述した実施形態と同様の操作を行う。この場合、血管内の血液は、カテーテル本体31の先端よりもやや基端側に位置する脱血用内腔31bの開口から抜かれて透析装置で浄化されたのちに、カテーテル本体31の先端に位置する送血用内腔31aの開口から血管内に戻される。このカテーテルセットのそれ以外の作用効果は、前述したカテーテルセットAと同様である。
【0045】
(他の変形例)
前述した実施形態の他の変形例として、カテーテル本体の内部に、小径のガイドワイヤ挿通孔を形成したトリプルルーメンカテーテル(図示せず)を用いることができる。この場合、カテーテル本体の内部に、隔壁を挟んで脱血用内腔と送血用内腔とを形成し、さらに、脱血用内腔の内周面における隔壁に対向する部分にガイドワイヤ挿通孔を形成する。そして、カテーテル本体の先端には、ガイドワイヤ挿通孔の開口を位置させ、カテーテル本体におけるガイドワイヤ挿通孔の開口よりもやや基端側に送血用内腔の開口を位置させる。また、脱血用内腔の先端は閉塞し、カテーテル本体における送血用内腔の開口よりもやや基端側に側孔を設けこの側孔を脱血用内腔の開口とする。
【0046】
また、接続部の内部には、脱血用内腔に連通する内腔と、送血用内腔に連通する内腔と、ガイドワイヤ挿通孔に連通する内腔とを形成する。そして、接続部には、脱血用内腔に連通する分岐管と、送血用内腔に連通する分岐管の他、ガイドワイヤ挿通孔に連通する分岐管も連結する。これらの分岐管の基端部には、円筒状のルアーアダプターが連結され、ルアーアダプターの開口側端部の外周には、それぞれねじが形成されている。また、紐状部材を備えたスタイレットは送血用内腔に挿入され、紐状部材を備えてないスタイレットは脱血用内腔に挿入される。したがって、紐状部材を備えてないスタイレットの先端部は先鋭でなく、滑らかな球面状等に形成される。このトリプルルーメンカテーテルを備えたカテーテルセットのそれ以外の部分の構成は、前述した変形例と同一である。
【0047】
このカテーテル本体の先端に先細り部を形成する場合には、紐状部材を、送血用内腔の開口部および送血用内腔の開口部から突出するスタイレットの先端外周に巻き付け、さらにカテーテル本体の先端側部分の先端外周にかけて巻き付ける。また、このカテーテルセットを使用する場合には、ガイドワイヤ28は、カテーテル本体に形成されたガイドワイヤ挿通孔内に通す。このカテーテルセットのそれ以外の作用効果は、前述した変形例に係るカテーテルセットと同様である。
【0048】
本発明に係るカテーテルセットは、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、脱血用内腔11aにスタイレット20のスタイレット本体21を挿入し、送血用内腔11bにスタイレット25のスタイレット本体26を挿入しているが、スタイレット25は省略してもよい。この場合、ガイドワイヤ挿通孔は、スタイレット本体21に設けてもよいし、カテーテル本体11に設けてもよい。同様に、前述した変形例では、脱血用内腔31aに他方のスタイレットのスタイレット本体を挿入し、送血用内腔31bに一方のスタイレットのスタイレット本体を挿入しているが、脱血用内腔31aに挿入される他方のスタイレット(紐状部材のないスタイレット)は省略してもよい。
【0049】
また、前述した他の変形例においても、紐状部材のないスタイレットは省略してもよい。このようにスタイレットを1本だけ用いる場合には、マンドレルを送血用内腔11bや脱血用内腔31a(他の変形例の場合には、カテーテル本体に形成したガイドワイヤ挿通孔)に直接入れて、補助挿通孔22bを備えた先細り部22aを形成することもできる。また、本発明に係るカテーテルセットは、ガイドワイヤを用いずに使用することもできる。さらに、カテーテルとしては、前述したカテーテル10,30に限らず、種々の形状をしたものを用いることができる。また、紐状部材の構成等についても前述した実施形態に限定されるものでなく、種々のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
10,30…カテーテル、11a,31a…脱血用内腔、11b,31b…送血用内腔、20,25…スタイレット、21,26…スタイレット本体、22…紐状部材、22a…先細り部、22b…補助挿通孔、26a…ガイドワイヤ挿通孔、28…ガイドワイヤ、A…カテーテルセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルと、スタイレットとからなるカテーテルセットであって、
前記スタイレットが、
先端部を前記カテーテルの先端から突出させた状態で前記カテーテルの内腔に挿入される可撓性線材と、
前記可撓性線材の先端側部分に連結され、前記カテーテルの先端部と前記可撓性線材との間に巻き付けられて前記カテーテルの先端に先細り部を形成する紐状部材と
を備えていることを特徴とするカテーテルセット。
【請求項2】
前記紐状部材に体液に接触することにより溶解する固定剤を含浸させて、前記紐状部材を前記カテーテルの先端部と前記可撓性線材との間に巻き付けて固化することにより前記先細り部を形成し、前記先細り部を体液に接触させることにより前記固定剤を溶解して解くことができるようにした請求項1に記載のカテーテルセット。
【請求項3】
ガイドワイヤを通すための挿通孔を、前記可撓性線材または前記カテーテルの長手方向に沿って前記可撓性線材または前記カテーテルに設けるとともに、前記先細り部に前記挿通孔に連通する補助挿通孔を形成した請求項1または2に記載のカテーテルセット。
【請求項4】
前記カテーテルが、脱血用内腔と送血用内腔とを備えた血液透析用のカテーテルである請求項1または2に記載のカテーテルセット。
【請求項5】
前記カテーテルの脱血用内腔と送血用内腔との一方に前記スタイレットを挿入して、他方に補助スタイレットを挿入し、ガイドワイヤを通すための挿通孔を、前記スタイレットの可撓性線材と前記補助スタイレットとの少なくとも一方の長手方向に沿って前記スタイレットの可撓性線材と前記補助スタイレットとの少なくとも一方に設けるとともに、前記先細り部に前記挿通孔に連通する補助挿通孔を形成した請求項4に記載のカテーテルセット。
【請求項6】
カテーテルと、スタイレットとからなるカテーテルセットの製造方法であって、
前記カテーテルの内腔に挿入される可撓性線材と、前記可撓性線材の先端側部分に連結された紐状部材とからなるスタイレットを、前記紐状部材および前記可撓性線材の先端部を前記カテーテルの先端から突出させた状態で前記可撓性線材を前記カテーテルの内腔に挿入するスタイレット挿入工程と、
前記カテーテルの先端部と前記可撓性線材との間に前記紐状部材を巻き付けて前記カテーテルの先端に先細り部を形成する先細り部形成工程と
を備えたことを特徴とするカテーテルセットの製造方法。
【請求項7】
前記紐状部材に体液に接触することにより溶解する固定剤を含浸させて、前記紐状部材を前記カテーテルの先端部と前記可撓性線材との間に巻き付けて固化することにより前記先細り部を形成し、前記先細り部を体液に接触させることにより前記固定剤を溶解して解くことができるようにした請求項6に記載のカテーテルセットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−259480(P2010−259480A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110505(P2009−110505)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】