説明

カテーテル

【課題】人体を透視する検出波により三次元的な姿勢を検知することができるカテーテルを提供する。
【解決手段】ルーメン21の外周に補強層50が形成されているカテーテル10であって、人体を透視する検出波の反射率と透過率との少なくとも一方が相違する少なくとも第一のワイヤ51と第二のワイヤ52とが多条に巻回されて補強層50の少なくとも一部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーメンの外周に補強層が形成されているカテーテルに関し、特に、補強層がコイル状に巻回されたワイヤからなるカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ルーメンの外周に補強層が形成されているカテーテルがあり、特に、補強層がコイル状に巻回されたワイヤからなるカテーテルがある。このようなカテーテルは、シースに挿通されたスライド操作線を牽引操作することにより、シースの遠位端部を屈曲させて体腔への進入方向を可変に操作することができる。
【0003】
この種の技術に関し、大径の大径樹脂管の外周に小径の操作線細管を配置し、この操作線細管にスライド操作線をスライド自在に挿通して先端部を大径樹脂管の遠位端部に連結し、操作線細管とともに大径樹脂管をメッシュ状のブレードからなる補強層で包囲したカテーテルが提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方、補強層がコイル状のワイヤからなるカテーテルでは、良好な屈曲性と耐キンク性とが実現される(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−537244号公報
【特許文献2】特開2010−88833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カテーテルの先端部にはX線透過率の低いマーカーが装着されており、カテーテルが血管などの三次元的に複雑な形状の体腔内を進入する場合の先端位置を検出することができる。しかしながら、マーカーの位置を検出するだけでは、体腔に挿入されたカテーテルの三次元的な走向方向を把握することができないため、カテーテルの先端を所望の方向に指向させる操作が困難な場合があった。
【0007】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、X線透視装置などにより三次元的な姿勢を検出することができるカテーテルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカテーテルは、ルーメンの外周に補強層が形成されているカテーテルであって、人体を透視する検出波の反射率と透過率との少なくとも一方が相違する少なくとも第一のワイヤと第二のワイヤとが多条に巻回されて補強層の少なくとも一部が形成されている。
【0009】
従って、本発明のカテーテルでは、検出波に対する反射率または透過率の少なくとも一方が互いに相違する第一のワイヤと第二のワイヤとがカテーテルの軸心方向に沿って多条に巻回されている。このため、検出波の照射によって検出される第一のワイヤまたは第二のワイヤは、他方のワイヤに隔てられて所定のループ間距離をもった螺旋状となる。そして、このループ間距離は、カテーテルの軸心方向と検出波の照射方向とのなす角度が直角である場合にもっとも大きくなり、この角度が小さくなるに従ってループ間距離も小さくなる。よって、このループ間距離をカテーテルの軸心方向に亘って知得することで、カテーテルの三次元的な湾曲形状を把握することができる。
【0010】
また、上述のようなカテーテルにおいて、検出波がX線からなり、第二のワイヤは第一のワイヤよりX線の透過率が低くともよい。
【0011】
上述のようなカテーテルにおいて、検出波がX線からなり、第二のワイヤは第一のワイヤよりX線の反射率が高くともよい。
【0012】
上述のようなカテーテルにおいて、第一のワイヤと第二のワイヤとは同一材料で形成されていて表面処理が相違していてもよい。
【0013】
また、上述のようなカテーテルにおいて、第一のワイヤと第二のワイヤとの少なくとも一方が多条に巻回されていてもよい。
【0014】
また、上述のようなカテーテルにおいて、少なくとも第一のワイヤが多条に巻回されており、多条に巻回されている第一のワイヤにより隔てられた第二のワイヤのループ間距離が巻径より大きくともよい。
【0015】
上述のようなカテーテルにおいて、第二のワイヤの線径が第一のワイヤの線径より大径であってもよい。
【0016】
また、上述のようなカテーテルにおいて、第二のワイヤの線幅が第一のワイヤの線幅より幅広であってもよい。
【0017】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカテーテルでは、多条に巻回されて補強層の少なくとも一部を形成する第一のワイヤと第二のワイヤとで、検出波の反射率と透過率との少なくとも一方が相違するので、人体を透視する検出波によりカテーテルの三次元的な走向方向を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態のカテーテルの先端部分の内部構造を示す模式的な縦断側面図である。
【図2】カテーテルの先端部分の内部構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図3】カテーテルの基端部分の内部構造を示す模式的な縦断側面図である。
【図4】湾曲したカテーテルを示す模式図である。
【図5】図4のカテーテルの各部での第二のワイヤの状態を示す模式図である。
【図6】図5の第二のワイヤのシルエットを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の一形態を図面を参照して以下に説明する。なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0021】
<カテーテルの構成>
以下、本実施形態のカテーテル10の構成を説明する。血管などの体腔に挿入されたカテーテル10の三次元的な形状を検知する方法については後述する。
【0022】
本実施の形態のカテーテル10は、図1ないし図3に示すように、ルーメン21の外周に補強層50が形成されているカテーテル10であって、人体を透視する検出波の反射率と透過率との少なくとも一方が相違する少なくとも第一のワイヤ51と第二のワイヤ52とが多条に巻回されて補強層50の少なくとも一部が形成されている。ここで、第一のワイヤ51と第二のワイヤ52とが多条に巻回されているとは、それぞれ一本または複数本からなる第一のワイヤ51および第二のワイヤ52を一つの単位として、これらのワイヤがループ状に螺旋巻回されていることをいう。言い換えると、本実施の形態のカテーテル10では、それぞれ螺旋状に巻回された第一のワイヤ51と第二のワイヤ52とが、カテーテル10の軸心に沿って交互に配置されている。
【0023】
より具体的には、本実施の形態のカテーテル10では、上述の検出波がX線からなり、第二のワイヤ52は第一のワイヤ51よりX線の透過率が低い。例えば、第一のワイヤ51はSUSからなり、第二のワイヤ52はタングステンからなる。
【0024】
また、第一のワイヤ51と第二のワイヤ52は、それぞれ一本のワイヤから構成されてもよく、または複数本のワイヤから構成されてもよい。より具体的には、本実施形態の第一のワイヤ51は、SUS製の五条のワイヤをカテーテル10の軸心方向(図1の左右方向)に沿って並べて配置したものである。また、本実施形態の第二のワイヤ52は、タングステン製の三条のワイヤをカテーテル10の軸心方向に沿って並べて配置したものである。五条の第一のワイヤ51と三条の第二のワイヤ52とは、各々帯状に巻回されている。図1では、第二のワイヤ52を破線で示し、第一のワイヤ51については断面のみを示している。以下、カテーテル10の軸心方向の長さを軸長という。
【0025】
以下、第二のワイヤ52の巻回ピッチPとは、第二のワイヤ52を構成する一本のワイヤに関する一巻き分の軸長をいう。本実施形態では、当該ワイヤを除く二条の第二のワイヤ52と、五条の第一のワイヤ51の巻回幅が巻回ピッチPに対応する。そして、第二のワイヤ52のループ間距離Pとは、第一のワイヤ51によって隔てられた第二のワイヤ52同士の間隔をいう。言い換えると、ループ間距離Pは、五条の第一のワイヤ51を挟む二本の第二のワイヤ52の断面中心同士の間隔である。本実施形態では、五条の第一のワイヤ51の巻回幅がループ間距離Pに対応する。
【0026】
本実施形態のカテーテル10は、検出波により検出される第二のワイヤ52の巻回ピッチPが、第二のワイヤ52の巻径Dよりも大きいことが好ましい。さらに、検出波により検出される第二のワイヤ52のループ間距離Pが、第二のワイヤ52の巻径Dよりも大きいことが好ましい。ここで、巻径Dは、ルーメン21の周囲に巻回される第二のワイヤ52の巻回径であり、より具体的には、図1のようにカテーテル10の軸心に沿って切った縦断面における、第二のワイヤ52の断面中心同士の距離である。
【0027】
また、本実施の形態のカテーテル10は、ルーメン21が内周面に形成されていて補強層50が外周面に形成されている円筒形の内層20を有しており、図3に示すように、全長の少なくとも一部である基端側で、補強層50の複数種類のワイヤ51,52が内層20の外周面上に緊密に巻回されている。さらに、本実施の形態のカテーテル10は、補強層50が内周面に形成されている円筒形の外層64を有する。
【0028】
また、本実施の形態のカテーテル10では、図1に示すように、全長の少なくとも一部である先端側で、補強層50の複数種類のワイヤ51,52が外層64の内周面上に巻回されている。
【0029】
本実施の形態のカテーテル10では、先端側では、補強層50の複数種類のワイヤ51,52が所定間隔でピッチ巻回されている。そのピッチはワイヤ51の線径の整数倍であり、このような巻回作業は容易である。
【0030】
より具体的には、本発明のカテーテル10では、図1および図2に示すように、大径のルーメン21が形成されている大径樹脂管からなる内層20と、内層20の少なくとも遠位端部で外側に位置する少なくとも一つの小径の操作線細管30(a,b)と、操作線細管30(a,b)にスライド自在に挿通されていて先端部が少なくともカテーテル10の遠位端部に連結されているスライド操作線40(a,b)と、内層20と操作線細管30(a,b)とを一体としてコイル状に巻回されている補強層50と、を有する。
【0031】
なお、本実施の形態のカテーテル10では、フッ素コート層などからなる内層20の外側にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などからなる別体の操作線細管30(a,b)が配置されており、この操作線細管30(a,b)と内層20とに補強層50のワイヤ51,52が巻回されている。
【0032】
この補強層50は、図1に示すように、シース16の遠位端部などでは屈曲を容易とするためにワイヤ51,52が間隔を介して巻回されており、シース16の近位端部などでは剛性を向上させるためにワイヤ51,52が緊密に巻回されている。
【0033】
なお、内層20と外層64との中間に位置する補強層50の間隙は、樹脂からなる補強樹脂層60で密閉されており、これでシース16が形成されている。このシース16は、内視鏡を通じて、または直接に、体腔内に挿通される可撓性の管状体であり、腹腔動脈などの血管、および肝動脈枝や内頚動脈枝などの末梢血管に挿通される。
【0034】
外層64は、カテーテル10の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性の樹脂層からなる。外層64には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。
【0035】
ここで、本実施の形態のシース16の代表的な寸法を例示する。シース16の最外径は直径1mm未満、具体的には700〜900μm程度である。内層20の内径は400〜600μm程度、補強樹脂層60の厚さは100〜150μm程度、ワイヤ51,52の直径は20〜100μmである。また、操作線細管30(a,b)の内径は40〜100μm、スライド操作線40(a,b)の太さは30〜60μmである。
【0036】
補強樹脂層60には熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0037】
補強層50のワイヤ51,52には、例えば、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。なお、補強層50のワイヤ51,52の断面形状は特に限定されず、正円形、楕円形、正方形、長方形、多角形、等でよいが、本実施の形態では一般的な正円形となっている。
【0038】
操作線細管30a、30bは、内層20の外周面に沿って補強層50で保持されている。すなわち、補強樹脂層60および補強層50の内側には、操作線細管30a、30bが長手方向に延在して埋設されており、それぞれにスライド操作線40(a,b)がスライド自在に挿通されている。
【0039】
また、操作線細管30(a,b)はシース16に対して一部または全部が螺旋状に設けられて長手方向成分とともに周回方向成分を含んでもよい。以下、スライド操作線40aを第一のスライド操作線、スライド操作線40bを第二のスライド操作線という場合がある。
【0040】
本実施の形態のカテーテル10においては、スライド操作線40a、40bがそれぞれ挿通された一対の操作線細管30a、30bは、内層20の周囲に対向して配置されている。
【0041】
すなわち、本実施の形態では、カテーテル10の軸心を挟んで操作線細管30aと操作線細管30bとは180度対向して形成されている。そして、操作線細管30aにはスライド操作線40aが挿通され、操作線細管30bにはスライド操作線40bが挿通されている。
【0042】
操作線細管30(a,b)は、内層20を構成する樹脂材料と共に押し出して、内層20の外周面上に一体に形成することができる。操作線細管30(a,b)の材料は、補強樹脂層60の樹脂材料よりも耐熱性に優れ、またスライド操作線40(a,b)との摺動性の観点から、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン(PSF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、などのフッ素系高分子材料を好適に用いることができる。
【0043】
スライド操作線40(a,b)を操作線細管30(a,b)に挿通する方法は、種々をとることができる。予め操作線細管30(a,b)が埋設されたシース16に対して、その一端側からスライド操作線40(a,b)を挿通してもよい。または、予めスライド操作線40(a,b)が挿通された操作線細管30(a,b)を内層20の樹脂材料と共に押し出してシース16を成形してもよい。
【0044】
スライド操作線40(a,b)の具体的な材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。
【0045】
なお、操作線細管30(a,b)が予め埋設されたシース16に対してスライド操作線40(a,b)を挿通する場合など、スライド操作線40(a,b)に耐熱性が求められない場合には、上記各材料に加えて、ポリフッ化ビニリデン、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。
【0046】
図1に示すように、シース16の遠位端部15には、X線等の検出波が不透過な材料からなるリング状のマーカー66が設けられている。具体的には、マーカー66には白金やタングステンなどの金属材料を用いることができる。本実施の形態のマーカー66は、内層20の外側であって外層64の内側に設けられている。
【0047】
スライド操作線40(a,b)の先端部分(遠位端部分)41は、カテーテル10の遠位端部15に固定されている。スライド操作線40(a,b)の先端部分41を遠位端部15に固定する態様は特に限定されない。
【0048】
例えば、スライド操作線40(a,b)の先端部分41をマーカー66に締結してもよく、シース16の遠位端部15に溶着してもよく、または接着剤によりマーカー66またはシース16の遠位端部15に接着固定してもよい。本実施の形態では、スライド操作線40(a,b)の先端部分41は補強樹脂層60の樹脂に埋設されている。
【0049】
シース16の遠位端部15とは、シース16の被験者の身体に挿入される先端側の所定領域をいう。また、シース16の近位端部17とは、操作者に操作される末端側の所定領域をいう。
【0050】
同様に、スライド操作線40(a,b)の先端部分41とは、スライド操作線40(a,b)の先端を含む所定領域をいい、スライド操作線40(a,b)の基端部分とは、スライド操作線40(a,b)の基端を含む所定領域をいう。
【0051】
本実施の形態のカテーテル10は、シース16の近位端の近傍で一対の操作線細管30(a,b)から引き出された一対のスライド操作線40(a,b)を手動操作するスライド操作機構(図示せず)が設けられている。
【0052】
本実施の形態のカテーテル10において、第一のスライド操作線40aまたは第二のスライド操作線40bを牽引した場合には、シース16の遠位端部15に張力が与えられて、当該スライド操作線40(a,b)が挿通されている側に遠位端部15が屈曲する。ここで、シース16が屈曲するとは、シース16の一部または全部が湾曲または折れ曲がることをいう。
【0053】
<カテーテルの三次元形状の検知>
本実施の形態のカテーテル10では、多条に巻回されて補強層50を形成する第一のワイヤ51と第二のワイヤ52とでX線の透過率が相違する。このため、人体を透視するX線によりカテーテル10の三次元的な形状を、第一のワイヤ51または第二のワイヤ52に基づいて検知することができる。
【0054】
図4に示すように、上に凸状に湾曲しているカテーテル10に対してX線を照射する場合を例に説明する。本実施形態のカテーテル10は、X線透過率の低いタングステンからなる第二のワイヤ52が軸心方向(同図の左右方向)に沿って螺旋巻回されている。また、カテーテル10の先端には、やはりX線を透過しないマーカー66が設けられている。したがって、カテーテル10に照射したX線が不透過となる部分を対向側から観察するか、またはX線の反射光を照射側から観察すると、マーカー66および第二のワイヤ52が検出されることとなる。
【0055】
したがって、本実施形態のカテーテル10では、マーカー66の位置のみならず、これに連なる第二のワイヤ52の形状を観察することが可能である。よって、観察方向に対して交叉する方向にカテーテル10が湾曲した場合、その湾曲方向や湾曲形状を検出することが可能である。言い換えると、従来のカテーテルではマーカー66の位置という点の情報しか得られなかったのに対して、本実施形態のカテーテル10では第二のワイヤ52の湾曲形状という線の情報を得ることができる。
【0056】
さらに、本実施形態のカテーテル10では、第一のワイヤ51と第二のワイヤ52とが多条に巻回されていることで、第一のワイヤ51に隔てられた第二のワイヤ52のループ間距離P(図1を参照)が非ゼロとなる。そして、このループ間距離Pをカテーテル10の軸心方向に沿って観察することで、カテーテル10の形状に関してさらに多くの情報を得ることができる。
【0057】
図4は、複数の検出位置(a)から(c)においてX線を検出する状態を示す模式図である。カテーテル10は上向きに湾曲している。ここで、カテーテル10の湾曲方向(図中、上向き)に対してX線の検出方向が一致した場合にも、本実施形態によればカテーテル10の湾曲方向を知得することができる。
【0058】
図5(a)〜(c)は、図4に示した検出位置(a)から(c)における第二のワイヤ52の巻回形状を示す模式図である。そして、図6(a)から(c)は、検出位置(a)から(c)でそれぞれX線を検出して得られるカテーテル10のシルエットを示す模式図である。
【0059】
図6(b)は、カテーテル10の湾曲形状の腹にあたる部分のシルエットである。同図は、第二のワイヤ52の螺旋形状を真横から観察した図であるため、第二のワイヤ52のシルエットはジグザグ形状である。
【0060】
一方、図6(a)は、カテーテル10の湾曲部の遠位側の部分(立ち上がり部分)のシルエットである。同図は、第二のワイヤ52の螺旋形状を斜めに観察した図であるため、第二のワイヤ52のループ53がシルエットとして観察される。また、図6(c)は、カテーテル10の湾曲部の近位側の部分(終端部分)のシルエットである。同図もまた、第二のワイヤ52の螺旋形状を斜めに観察した図であるため、第二のワイヤ52のループ53がシルエットとして観察される。よって、本実施形態によれば、検出位置(a)で立ち上がったカテーテル10の湾曲が、検出位置(b)で湾曲の腹となり、検出位置(c)で湾曲が終端していることが、X線のシルエットを通じて知得される。
【0061】
これにより、図6(a)から(c)のように検出されたシルエット形状から、図5(a)から(c)のような第二のワイヤ52の巻回形状を知ることができる。
【0062】
さらに、他のワイヤのシルエットとの干渉により、かりにループ53が観察できなかった場合でも、第二のワイヤ52のループ間距離Pに着目することで、カテーテル10の湾曲形状を知得することができる。すなわち、図6(b)で観察されるループ間距離Pは、図6(a)や図6(c)で観察されるループ間距離Pよりも大きい。これにより、検出位置(a)や(c)では、カテーテル10の軸心方向が観察方向に対して斜めであり、検出位置(b)では、カテーテル10の軸心方向が観察方向に対して直交していることが把握される。
【0063】
一方、かりに第一のワイヤ51を含まずに第二のワイヤ52のみで補強層50を構成した場合には(図1を参照)、第二のワイヤ52のループ間距離Pが実質的にゼロとなり、ループ53やループ間距離Pを観察することはできない。このため、本実施形態のように、検出波(X線)により検出される第二のワイヤ52のループ間距離Pを非ゼロとし、特にこれを第二のワイヤ52の巻径より大きくすることで、ループ53およびループ間距離Pが良好に検出され、好適である。
【0064】
さらに、本実施の形態のカテーテル10は、ルーメン21が内周面に形成されていて補強層50が外周面に形成されている円筒形の内層20を有し、全長の少なくとも一部である基端側で補強層50の複数種類のワイヤ51,52が内層20の外周面上に緊密に巻回されている。このため、カテーテル10の基端側を強固に補強することができ、人体への挿入を容易とすることができる。
【0065】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。例えば、上記形態では操作線細管30(a,b)が樹脂で形成されていることを例示した。しかし、操作線細管が微細な保持樹脂部材を巻回した細管コイルで形成されていてもよい(図示せず)。
【0066】
また、上記形態では五本のワイヤ51と三本のワイヤ52とが多条巻きされていることを例示した。しかし、このような多条巻きの本数や断面形状は各種に組み合わせることができ、第一のワイヤ51のみ多条に巻回されていてもよい。
【0067】
さらに、上記形態では人体を透視する検出波がX線からなることを例示した。しかし、このような検出波が磁気共鳴からなってもよく、超音波からなってもよい。これらの場合、当然ながらワイヤ51,52は磁気や超音波の反射率や透過率が相違するものからなる。
【0068】
また、上記形態では第一のワイヤ51と第二のワイヤ52との材料が相違することを例示した。しかし、このようなワイヤ51,52が同一材料で形成されていて表面処理が相違することにより、X線の透過率や反射率を相違させることもできる。
【0069】
さらに、上記形態では第一/第二のワイヤ51,52が同径であることを例示した。しかし、第二のワイヤ52の線径が第一のワイヤ51の線径より大径であってもよい。さらに、第一のワイヤ51および第二のワイヤ52がフラットワイヤや角ワイヤであって、かつ第二のワイヤ52の線幅が第一のワイヤ51の線幅より幅広であってもよい(ともに図示せず)。
【0070】
さらに、上記形態では全長の少なくとも一部である基端側で補強層50の複数種類のワイヤ51,52が内層20の外周面上に緊密に巻回されており、全長の少なくとも一部である先端側で補強層50の複数種類のワイヤ51,52が外層64の内周面上にピッチ巻回されていることを例示した。
【0071】
しかし、全長で補強層50の複数種類のワイヤ51,52が内層20の外周面上に緊密に巻回されていてもよく、全長で補強層50の複数種類のワイヤ51,52が外層64の内周面上にピッチ巻回されていてもよい。また、基端側と先端側とでワイヤ51,52の種類が相違してもよい(図示せず)。
【0072】
また、上記形態では操作線細管30(a,b)から前方に突出したスライド操作線40(a,b)が補強樹脂層60の樹脂に埋設されて内層20の遠位端部に連結されていることを例示した。しかし、操作線細管30(a,b)の先端側の少なくとも一部が細管コイル(図示せず)からなってもよい。
【0073】
このような細管コイルは、極細の金属ワイヤまたは樹脂ワイヤを操作線細管30(a,b)の樹脂部分と同径に巻回した構造からなり、例えば、20〜200mmの全長に形成される。このようなカテーテル(図示せず)では、細管コイルの部分ではシース16が容易に屈曲するので、シース16の遠位端部の屈曲性を向上させることができる。
【0074】
また、上述したカテーテル10では、操作線細管30(a,b)の先端部が補強樹脂層60に埋設されている位置の外側にマーカー66が配置されていることを想定した。しかし、このマーカー66の位置より後方で操作線細管30(a,b)の先端部が補強樹脂層60に埋設されていてもよい(図示せず)。
【0075】
さらに、上記形態では内層20の内部が直接に開口していることを例示した。しかし、このような内層20の内周面にフッ素コート(PTFE)などの層膜を15μmなどの層厚で形成してもよい。
【0076】
また、上記形態では一対のスライド操作線40(a,b)を有することで、シース16の遠位端部15を二方向に偏向させられることを例示した。しかし、二対のスライド操作線40(a,b)を、カテーテル10の軸心方向の中心から周面方向に90度ずつ変位した四箇所の位置に一つずつ配置することで、シース16の遠位端部15を上下左右の四方向に偏向させることもできる(図示せず)。
【0077】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 カテーテル
15 遠位端部
16 シース
17 近位端部
20 内層
21 ルーメン
30a 操作線細管
30b 操作線細管
40a スライド操作線
40b スライド操作線
41 先端部分
50 補強層
51 第一のワイヤ
52 第二のワイヤ
53 ループ
60 補強樹脂層
64 外層
66 マーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーメンの外周に補強層が形成されているカテーテルであって、
人体を透視する検出波の反射率と透過率との少なくとも一方が相違する少なくとも第一のワイヤと第二のワイヤとが多条に巻回されて前記補強層の少なくとも一部が形成されているカテーテル。
【請求項2】
前記検出波がX線からなり、
前記第二のワイヤは前記第一のワイヤより前記X線の透過率が低い請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記検出波がX線からなり、
前記第二のワイヤは前記第一のワイヤより前記X線の反射率が高い請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記第一のワイヤと前記第二のワイヤとは同一材料で形成されていて表面処理が相違している請求項2または3に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記第一のワイヤと前記第二のワイヤとの少なくとも一方が多条に巻回されている請求項1ないし4の何れか一項に記載のカテーテル。
【請求項6】
少なくとも前記第一のワイヤが多条に巻回されており、
多条に巻回されている前記第一のワイヤにより隔てられた前記第二のワイヤのループ間距離が巻径より大きい請求項1ないし5の何れか一項に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記第二のワイヤの線径が前記第一のワイヤの線径より大径である請求項1ないし6の何れか一項に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記第二のワイヤの線幅が前記第一のワイヤの線幅より幅広である請求項1ないし6の何れか一項に記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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