説明

カブトムシ幼虫の成長を促進する方法及び資材

【課題】製造が簡単であり、カブトムシの幼虫に特に適した成長促進用資材を提供すること、及びこの資材を用いてカブトムシ幼虫の成長を促進し大型成虫を得る方法を提供すること。
【解決手段】広葉樹の細片を主成分とし、シイタケ、ヒラタケ、オオヒラタケ、カワラタケ及びマンネンタケからなる群から選択される茸菌の菌糸によってブロック状に結合されていることを特徴とする、カブトムシ幼虫の成長促進資材、及び前記資材を、飼育マットの中に埋没させて使用することを特徴とする、カブトムシ幼虫の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カブトムシ幼虫の成長を促進し、大型の成虫を得るための資材及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カブトムシの幼虫を飼育する際には、市販されている飼育マット(クヌギ、コナラなどのオガ粉を腐熟させたもの)を餌として用いる方法が、一般家庭で主に適用されている。
しかし、飼育マットだけでは、カブトムシの幼虫が十分に成長するために必要な栄養分が供給されず、特に小さな容器で数多くの幼虫を飼育した場合は、小さなカブトムシばかりが量産される。
【0003】
クワガタムシについては、栄養剤を含む培地でヒラタケなどの菌を培養することによって作成した菌糸ビンの中で幼虫を飼育する方法が開発され、オオクワガタ、ヒラタクワガタなどの幼虫が飼育されている。しかし、クワガタムシの幼虫に最適な生育環境とカブトムシの幼虫に最適な生育環境とは異なり、クワガタムシ飼育用の菌糸ビンは、カブトムシ幼虫の飼育には不向きである。
【0004】
野外では、カブトムシの幼虫が、シイタケの廃菌床捨て場やシイタケの発生を終えた原木が積み置きされ、腐熟している箇所に見られることが知られている。そのため、カブトムシの幼虫は、シイタケ菌によって腐朽された木材あるいはシイタケの菌糸を好んで食すると考えられるが、シイタケの菌糸ビンを作成し、この中にカブトムシの幼虫を入れてみたところ、もぐり込んだ幼虫は直ちに死んでしまった。
【0005】
特許文献1において、クヌギ、ブナ等の原木や藁に椎茸、カワラ茸等の茸菌を接種してその菌糸を発達させてセルロース成分を分解し、醗酵処理を施して得られたことを特徴とする昆虫飼育材が、あるいは、原木等の破砕片に、まず醗酵処理を施し、殺菌し、茸菌を接種してその菌糸を発達させてセルロース成分を分解したことを特徴とする昆虫飼育材が開示されている。
【0006】
特許文献1の昆虫飼育材によれば、茸菌の菌糸を発達させることにより原木中の難分解性のセルロース成分を分解し、細菌(バクテリア)により単糖類、二糖類、その他の多糖類等の易分解性の基質を醗酵処理しているので、カブトムシやクワガタ等の昆虫が好む飼育環境を与えることができる。
【特許文献1】特開2003−219760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の昆虫飼育材を製造するには、20〜90日間(好ましくは40日以上)の発酵工程が必要である。そのため、製造に長期間要するとともに、再現性が失われ、品質管理が難しいという問題がある。また、特許文献1のうち、原木などの粉砕片の発酵処理→殺菌→茸菌の培養によって得られる昆虫飼育資材については、これを単独で飼育材として使用すると、上記の菌糸ビンと同様の飼育環境となり、カブトムシの幼虫の飼育には不向きの環境となると考えられる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解消し、製造が簡単であり、且つカブトムシの幼虫に特に適した成長促進用資材を提供すること、及びこの資材を用いてカブトムシ幼虫の成長を促進し大型成虫を得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題は、広葉樹の細片を主成分とし、茸菌の菌糸の伸長によって結合された菌床ブロックを、飼育マットの中に埋没させてなる飼育環境で、カブトムシ幼虫を飼育する本発明の方法によって解決された。
【0010】
茸菌の菌床の中に直接カブトムシの幼虫をもぐり込ませるのではなく、広葉樹の細片を主成分とし、茸菌の菌糸の伸長によって結合された菌床ブロックを、飼育マット(オガ粉を腐熟させたものなど)の中に埋没させて用いることにより、カブトムシ幼虫は死亡することなく、順調に成長する。また、前記菌床ブロックを食べることによって、より大きく成長するため、大型成虫カブトムシを得ることができる。さらに、菌床ブロックから適度な水分が飼育マットに供給されるため、水分補給の管理がより簡単になる。
【0011】
前記茸菌としては、シイタケ、ヒラタケ、オオヒラタケ、カワラタケ及びマンネンタケ菌が好ましく、特にシイタケ菌が好ましい。
【0012】
前記菌床ブロックを、各辺の長さ3〜10cmの四角柱状のブロックとし、該ブロック複数個を、0.5〜3cmの間隔を空けて飼育マットの中に埋没して使用することにより、カブトムシ幼虫が色々な箇所から菌床ブロックを食べることができるため、飼育効率が高くなる。
【0013】
前記ブロックを、前記飼育マットの上面から2cm以上、下に埋没して使用することによって、より確実にブロックの水分蒸発を防いで、ブロックから飼育マットへの水分補給を担保することができる。
【0014】
また、本発明は、広葉樹の細片を主成分とし、シイタケ、ヒラタケ、オオヒラタケ、カワラタケ及びマンネンタケからなる群から選択される茸菌の菌糸によってブロック状に結合されていることを特徴とする、資材である。この資材を用いてカブトムシ幼虫を飼育することにより、幼虫の成長を促進して大型成虫を得ることができる。
【0015】
前記資材は、各辺の長さが3〜25cmの四角柱形状であり、資材を包む袋に切断線が引かれ、複数の小ブロックに分離できるようになっているものが便利で好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の飼育方法及び成長促進資材を用いれば、一般に市販されている、栄養分の少ない昆虫飼育マットを用いても、大型カブトムシを作出することができる。また、小さな容器にたくさんの幼虫を飼育しても大きなカブトムシの成虫を得ることが可能である。さらに、カブトムシの幼虫を飼育する際は、常にマットの水分量に気を配る必要があるが、本発明では、菌床ブロックから適度な水分が飼育マットに供給されるため、水分補給の管理が簡単になる。また、本発明の成長促進資材は、発酵処理等の特別な手間をかけずに製造できるため、再現性が高く、製造が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の成長促進資材(菌床ブロック)は、ヒラタケなどの茸の栽培用の菌糸ビン、あるいはクワガタムシ幼虫を飼育する菌糸ビンの作成と類似の方法で製造することができる。例えば、広葉樹オガ粉に栄養剤(小麦ふすまなど)を加え、滅菌した後、茸菌を接種し、25℃付近で1ヶ月半〜2ヶ月程度培養して菌糸を蔓延させることによって製造することができる。雑菌による汚染を防ぐため、一端菌糸ビンなどの狭口の容器で培養し、その後、菌糸の蔓延したオガ粉を掻き出し、細かく破砕した後、取り出しが容易な広口容器に充填し直し、再度、25℃付近で約3日間培養し、菌床ブロックを製造することが好ましい。
【0018】
本発明において飼育マットとは、カブトムシの飼育に用いることができるものであって、粉状や粒状のものを意味する。クヌギ、コナラなどの広葉樹のオガ粉を腐熟させたものなど、一般に昆虫飼育用マットとして市販されているものを用いることができる。
【0019】
本発明の方法にかかる飼育環境は、例えば、本発明の菌床ブロックを、飼育ケースの底に設置し、その後、菌床ブロックが完全に埋まるまで、市販の昆虫飼育マットを充填することによって準備できる。カブトムシの幼虫は、土中で成長するため、菌床ブロックのみでカブトムシ幼虫を飼育すれば、幼虫は菌床ブロック内にもぐり込む。ところが、この場合、幼虫が死亡することが確認された。
しかし、本発明の方法では、幼虫が飼育マット内に潜り込み、菌床ブロックを外から食べることができるため、幼虫は死亡せず、菌床ブロックを食べて大きく成長することができる。本発明は、国産カブトムシだけでなく、多くの外国産カブトムシの飼育にも適用可能である。
【0020】
菌床ブロックは、大きなブロックを一つ使用するより、複数の小ブロックを、幼虫が潜り込めるような間隔を空けて飼育マット内に設置することが好ましい。幼虫が菌床ブロックを様々な箇所から食べることができ、飼育効率が向上するからである。特に複数の幼虫を一つの飼育ケース内で飼育する場合、このようにすることが好ましい。
【0021】
具体的に説明すると、例えば、各辺が4〜7cmの直方体あるいは立方体状の菌床ブロック複数個を、約2cmの間隔を空けて飼育ケースの底に設置し、市販されている昆虫飼育マット(クヌギ、コナラなどのオガ粉を腐熟させたもの)を菌床ブロックが完全に埋まるまで充填し、この飼育ケースでカブトムシの幼虫を飼育することができる。カブトムシの幼虫は、飼育マットの中にもぐり込み、菌床ブロックを上から、あるいは菌床ブロックのすき間にもぐり込んで側面から食べることにより、格段に成長する。菌床ブロックは飼育容器の下部から確認できるため、食べ尽くされた際には、新しい菌床ブロックを埋め込み、更なる成長促進をはかることができる。また、菌床ブロックから適度な水分が飼育マットに供給されるため、水分補給をしなくても、飼育環境を良好に保つことができる。菌床ブロックからの水分蒸発を防ぐため、菌床ブロックの上面には、飼育マットを2cm以上、より好ましくは4〜6cm程度被せることが好ましい。
【0022】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
成長促進資材(菌床ブロック)の製造
実施例2及び3で使用する菌床ブロックは、以下の方法で製造した。
クヌギ、コナラ、ブナなどの広葉樹オガ粉に栄養剤として小麦ふすまを加え、121℃で1時間オートクレーブ滅菌した後、シイタケ菌を接種し、25℃で約50日間培養し、菌糸ビンを作成した。
この菌糸ビンの中から、菌糸の蔓延したオガ粉を掻き出し、1 cmメッシュのふるいを通して細かく砕いた後、プラスチック製の深型バットに充填し、上から圧力をかけて上部が平たくなるように整形し、25℃で約3日間培養することによって、菌床ブロックを製造した。
【実施例2】
【0024】
成長促進効果の検討
9月上旬に試験を開始した。内寸185×130×60(mm)のプラスチックケースに、培養した菌糸ビン(1000 ml)2本分の菌床を充填し、25℃で3日間培養して菌床ブロックを作成した。これを約45×65×60(mm)の大きさで6個のブロックに切り分け、飼育ケース(W300×D195×H205(mm))の底に、それぞれの間隔が約2 cmになるように設置し、水分を約50%含ませた昆虫飼育マット10 Lを充填した。ここに約10 gに成長したカブトムシの3齢幼虫を5匹入れ、常温で飼育した。尚、対照として、菌床ブロックを設置しない試験区を設け、同様に約10 gに成長したカブトムシの幼虫5匹を昆虫飼育マット10Lの中で飼育した。
【0025】
翌年5月、すべての幼虫の重さを測定し、平均値を求めたところ、対照区14.8 g、菌床ブロック施与区20.1 gとなり、菌床ブロックの施用が著しい成長促進をもたらすことが明らかとなった。5月下旬に蛹化、6月中旬に羽化がみられた。成虫の体長および生体重を測定したところ、平均体長は対照区39.6 mm、菌床ブロック施与区46.6 mm、平均生体重は対照区4.98 g、菌床ブロック施与区8.07 gであり、菌床ブロックの施用が大型成虫の作出に著しい効果をおよぼすことが示された。
【実施例3】
【0026】
成長促進資材(菌床ブロック)の施与開始時期および施与回数の検討
8月上旬に試験を開始した。菌床ブロックの作成と飼育法は実施例2に準じて実施した。約3 gに成長したカブトムシの2齢幼虫を対照区、菌床ブロック施与区それぞれに5匹ずつ入れ、常温で飼育した。菌床ブロックが食べ尽くされる度に新しい菌床ブロックを与え、その都度、幼虫の重さを測定したところ、1ヶ月後の9月上旬に、対照区10.2 g、菌床ブロック施与区21.3 gとなり、飼育後1ヶ月にして、3齢幼虫から飼育を開始した実施例2の幼虫の9ヶ月後の平均体重(20.1g)を上回る結果となった。以後、10月上旬に対照区13.7 g、菌床ブロック施与区25.3 g、2月上旬に対照区13.7 g、菌床ブロック施与区30.0 g、5月上旬に対照区14.1 g、菌床ブロック施与区32.1 gとなり、菌床ブロック施与区では最大のものが36.0 gに達する成長がみられた。
以上の結果から、菌床ブロックの施用が成長初期に著しい成長促進をもたらし、繰り返し施与することが成長促進に効果的であることが明らかとなった。
【0027】
実施例の結果から、菌床ブロックを成長初期から与えること、適宜新しい菌床ブロックを与えることによって、より大型のカブトムシを作出できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の方法にかかる飼育環境の一実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1.菌床ブロック
2.飼育マット
3.飼育ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹の細片を主成分とし、茸菌の菌糸の伸長によって結合された菌床ブロックを、飼育マットの中に埋没させて使用することを特徴とする、カブトムシ幼虫の飼育方法。
【請求項2】
前記茸菌が、シイタケ、ヒラタケ、オオヒラタケ、カワラタケ及びマンネンタケからなる群から選択される、請求項1に記載の飼育方法。
【請求項3】
前記茸菌がシイタケ菌である、請求項2に記載の飼育方法。
【請求項4】
前記菌床ブロックが、各辺の長さ3〜10cmの四角柱状のブロックであり、該ブロック複数個を、0.5〜3cmの間隔を空けて飼育マットの中に埋没して使用する、請求項1〜3いずれか1項に記載の飼育方法。
【請求項5】
前記ブロックを、前記飼育マットの上面から2cm以上
下に埋没して使用する、請求項1〜4いずれか1項に記載の飼育方法。
【請求項6】
カブトムシ幼虫の成長を促進するための資材であって、前記資材は、広葉樹の細片を主成分とし、シイタケ、ヒラタケ、オオヒラタケ、カワラタケ及びマンネンタケからなる群から選択される茸菌の菌糸によってブロック状に結合されていることを特徴とする、カブトムシ幼虫の成長促進資材。
【請求項7】
前記茸菌がシイタケ菌である、請求項6に記載の成長促進資材。
【請求項8】
前記資材が、各辺の長さ3〜25cmの四角柱形状であり、資材を包む袋に切断線が引かれ、複数の小ブロックに分離できるようになっている、請求項6または7に記載の成長促進資材。

【図1】
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