説明

カプサイシンを含むポリシロキサンマトリックスを有する治療パッチ

カプサイシン又はカプサイシン類似物質を含有する局所パッチ、その製造方法及びその使用。本発明は、治療化合物−不透過性の支持層と、カプサイシン又はカプサイシンに類似した治療化合物を含有するポリシロキサン・ベースの自己接着性マトリックスと、使用前に取り外される保護フィルムとを含む局所パッチに関し、ここで、該マトリックスは両親媒性溶剤に基づく液体マイクロリザーバを含有し、該治療化合物は該マイクロリザーバ中に完全な溶解形態で存在し、そして該マイクロリザーバ小滴中の該治療化合物の濃度は飽和濃度より小さい。本発明は更に、その製造方法、及び神経障害性疼痛の治療におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプサイシン、カプサイシン類似物質又はそれらの混合物を投与するために好適な薬剤送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
神経障害性疼痛は、末梢神経系及び中枢神経系における感作反応に起因すると考えられている。このような疼痛は、末梢損傷の結果として、又は全身性疾患、例えばHIV、帯状ヘルペス、梅毒、糖尿病及び自己免疫性疾患の結果として生じ得る。神経障害性疼痛は激しい痛みとなり得、またしばしば身体を衰弱させる。そして、神経障害性疼痛を減少させる有効な方法は苦痛の顕著な改善をもたらしうる。
【0003】
米国特許第6,248,788号(Robbinsら)において、カプサイシン又はカプサイシン類似物質を用いた、神経障害性疼痛を治療するための局所的方法が記載されている。Robbinsらの特許は、高濃度のカプサイシン製剤で患部領域を数時間、1回又は多くとも2回治療することによって、数週間の間、疼痛を取り除くか又は有意に軽減することを開示した。この治療の原理は、痛覚に必要であるか又は痛覚を担う神経線維(C繊維)がカプサイシン(又はカプサイシン類似物質)により感度が減じられ、変性することによると考えられている。しかしながら、この効果は、C繊維中の活性化合物濃度が十分に高い場合にのみ生じる。カプサイシンを含む従来の局所製剤は、皮膚上で非常に少量のカプサイシンしか放出せず、C繊維中の活性化合物濃度は有効濃度より低いままであるため、これらの局所製剤は上述の要件を最適に満たすものではない。
【0004】
米国特許第6,239,180号(Robbins)は、5質量%より多くから10質量%までの濃度でカプサイシン及び/又はカプサイシン類似物質を含む、神経障害性疼痛を治療するための治療パッチの使用を記載している。従って、その目的は、神経障害性疼痛及びその他の状態の局所治療に好適であり、そしてこのために最適化されたパッチを開発することであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カプサイシン、カプサイシン類似物質又はそれらの混合物を投与するために好適な薬剤送達デバイスに関する。便宜のために、本明細書において以下、用語「治療化合物」は時に、投与されるカプサイシン、カプサイシン類似物質又は混合物を意味するものとして使用される。1つの態様において、本発明は、治療化合物−不透過性支持層と、自己接着性マトリックス(通常はポリシロキサンをベースとするマトリックス)(該マトリックスは、両親媒性溶剤中に溶解したカプサイシン又はカプサイシン類似物質を含有する個々の単離された液体マイクロリザーバ小滴(「マイクロリザーバ」)を含む)と、デバイスの使用前に取り外される保護フィルムとを含む薬剤送達デバイスを提供する。本明細書で用いられる用語「マイクロリザーバ系」とは、マトリックス中に微小分散(microdispersed)された多数の前記マイクロリザーバ小滴を含む前記自己接着性マトリックスを指す。マイクロリザーバ小滴中の活性化合物(例えばカプサイシン)は、飽和濃度以下の濃度で溶解している(従って、完全な溶解形態で存在している)。
【0006】
関連した態様において、本発明は、神経障害性疼痛の治療を必要とする対象(例えばヒト、非ヒト、霊長類又は哺乳動物)における、本発明のデバイスの適用による神経障害性疼痛の治療方法を提供する。
【0007】
もう1つの関連した態様において、本発明は、神経障害性疼痛の治療に好適な薬剤送達デバイスの製造方法を提供する。
【0008】
治療パッチの構造の簡単な説明は、本発明の理解の助けになるであろう。種々の形態の局所パッチ及び経皮パッチが、活性化合物(例えば薬剤)を送達するために知られており、最も一般的なものは「マトリックス系」及び「リザーバ系」である。
【0009】
マトリックス系は(最も単純な場合において)、活性化合物(即ち適用対象に送達されるべき化合物)に対して不透過性の支持層、活性化合物含有層及び使用前に取り外される保護層により特徴付けられる。該活性化合物含有層は完全に又は部分的に溶解された形態の活性化合物を含み、理想的には自己接着性である。より複雑な実施態様において、マトリックスは多くの層から成り、制御膜を含み得る。自己接着性マトリックスに好適なベース・ポリマーは、例えばポリアクリレート、ポリシロキサン、ポリウレタン又はポリイソブチレンである。
【0010】
リザーバ系は、不透過性でありそして不活性である支持層と、活性化合物−浸透性膜とから成るポーチの型のものであり、活性化合物は該ポーチ中の液体調製物中に存在する。膜は、マイクロポーラス・フィルム又は非多孔性の隔膜(partition membrane)であってよい。通常、膜は、該系が皮膚に接着するための接着層を備えている。皮膚に面する側はまた、このパッチのデザインにおいて、使用前に取り外さなければならないフィルムにより保護されている。
【0011】
リザーバ系の利点は、溶剤又は溶剤混合物を選択することによって、活性化合物の飽和溶解度を特定の必要性に対して容易に適合させ得ることである。このことは、活性化合物がパッチの活性化合物含有部分中で飽和濃度よりもそれ程低くない濃度で存在しているならば、熱力学的理由のために、皮膚中及び皮膚上の活性化合物の放出に有利である。必要な活性化合物の量に対するパッチの取り込み容量は、活性化合物溶液の量を調節することによって、特定の必要性に適合させるために広い範囲で調節することができる。
【0012】
マトリックス・パッチにおいて、活性化合物は、漏れのない形態で接着性マトリックス中に含まれており、該パッチは普通の鋏を使って適当なサイズに切ることができる。一方、特定の環境下では、活性化合物がマトリックス中に必要量で溶解し、そしてまた保存中に溶解した形態で在り続けるように、活性化合物に対するマトリックスの溶解特性を調整することは困難である。カプサイシン又は類似物質を送達するパッチの場合、治療化合物は溶解されていない形態でマトリックス中に存在するか、又は保存期間中に再結晶化する。神経障害性疼痛を治療するための通常の適用期間は短いため(通常は多くとも数時間である)、前記パッチは、皮膚中への活性化合物の放出に寄与しない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、今回、カプサイシン又はカプサイシン類似物質によって神経障害性疼痛を治療するための高濃度療法用パッチに関して、あまり知られていないパッチ変形である「マイクロリザーバ系」が特に好適であることが分かった。
【0014】
従って、本発明は、治療化合物−不透過性支持層と、ポリシロキサンをベースとする自己接着性マトリックス(これは少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、最も好ましくは少なくとも5質量%のカプサイシン又はカプサイシン類似物質を含む)と、使用前に取り外される保護フィルムとを含む局所パッチに関し、ここで、
a.該マトリックスは治療化合物をその中に溶解した両親媒性溶剤に基づく液体マイクロリザーバを含み、そして、
b.該マイクロリザーバ系中の治療化合物の濃度は、飽和濃度の20〜90%、好ましくは40〜70%である。
【0015】
1つの実施態様において、治療化合物はカプサイシンである。
【0016】
好適な両親媒性溶剤としては、ブタンジオール、例えば1,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリ−及びジエチレングリコールのカルボン酸エステル、6〜18C原子のポリエトキシル化脂肪アルコール又は2,2−ジメチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン(Solketal(R))、又はこれらの溶剤の混合物が挙げられる。ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DGME)又は2,2−ジメチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、又はこれらの溶剤の混合物が特に好適である。
【0017】
マイクロリザーバ系の溶剤又は溶剤混合物は、増粘添加剤を含んでよい。増粘添加剤の例としては、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)及び高分子量ポリアクリル酸、又はその塩及び/又は誘導体、例えばエステルが挙げられる。
【0018】
マトリックス中のマイクロリザーバ小滴の割合は、通常は約40質量%未満、たいていは約35質量%未満、多くの場合は約20〜約30質量%である。
【0019】
アミン耐性ポリシロキサンをマトリックスにおいて使用することができる。好ましくは、中粘着性ポリシロキサンと高粘着性ポリシロキサンとの混合物を使用する。使用するポリシロキサンは、直鎖二官能性及び分枝鎖多官能性オリゴマーから合成される。両タイプのオリゴマーの比率は、接着剤の物理的特性を決定する。多官能性オリゴマーが多いと、凝集力が高く粘着性が低い、より多く架橋された接着剤が得られ、多官能性オリゴマーが少ないと、粘着性が高く、凝集力が低くなる。実施例において使用した高粘着性のものは、ヒトの皮膚上に貼り付けるのに十分に粘着性である。中粘着性のものはほとんど全く粘着しないが、例えばこの場合のマイクロリザーバのカプサイシン及び溶剤のような他成分の軟化作用を補うのに有用である。接着力を高めるために、マトリックスはシリコーン油(例えばジメチコーン)を0.5〜5質量%含むことができる。
【0020】
本発明の局所パッチの好ましい実施態様において、マトリックスは、少なくとも5質量%〜約10質量%のカプサイシン又はカプサイシン類似物質、10〜25質量%のジエチレングリコールモノエチルエーテル、0〜2質量%のエチルセルロース、0〜5質量%のシリコーン油及び58〜85質量%の自己接着性粘着ポリシロキサンを含む。マトリックスのコーティング質量は、通常30〜200g/m2、好ましくは50〜120g/m2である。支持層に好適な材料としては、例えば、ポリエステルフィルム(例えば厚さ10〜20μm)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。
【0021】
本発明のパッチにおいて使用するのに適したカプサイシン類似物質としては、天然及び合成のカプサイシン誘導体及び類似物質(「カプサイシノイド(capsaicinoid)」)、例えば米国特許第5,762,963号(これは参照により本明細書に加入される)に記載されたものが挙げられる。
【0022】
マイクロリザーバ系において、液体の活性化合物調製物は、小滴(「マイクロリザーバ」)の形態で接着性マトリックス中に分散されている。小さなマイクロリザーバは顕微鏡でしか認識できないので、マイクロリザーバ系の外観は古典的マトリックス系に類似しており、マイクロリザーバ系は典型的なマトリックス系からやっとのことで識別することができるだけである。認識するほかない。従って、上記及び下記の項において、パッチの活性化合物含有部分を「マトリックス」とも記載する。得られる小滴のサイズは、撹拌条件及び撹拌中に加えられる剪断力に応じて変化する。このサイズは、同じ混合条件を用いることによって非常に一定であり再現可能である。
【0023】
しかしながら、古典的マトリックス系とは異なり、マイクロリザーバ系においては、活性化合物は主にマイクロリザーバ中に(また少しばかりはポリマー中に)溶解されていることに留意されたい。その意味では、マイクロリザーバ系は、マトリックス・パッチとリザーバ・パッチとの混合型と考えることができ、両パッチ変形の利点を併せ持つ。古典的リザーバ系におけるように、飽和溶解度は、特定の要件に適当なバルブに対する溶剤の選択によって容易に調節することができ、かつまた古典的マトリックス系におけるように、鋏を用いて、漏れを生じることなく、パッチをより小さなパッチに分割することができる。
【0024】
マイクロリザーバ系はまた、活性化合物及び添加剤の放出を制御する制御膜を含むことができる。しかしながら、本発明の特定の適用のために(即ち、適用時間が短く、その中で活性化合物の急速な放出が望まれる適用のために)、制御膜は通常存在しない。
【0025】
マイクロリザーバ系は、米国特許第3,946,106号、第4,053,580号、第4,814,184号及び第5,145,682号に開示されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に加入される。特定のマイクロリザーバ系が国際特許公開WO-A-01/01,967に記載されており、この開示は参照により本明細書に加入される。これらのマイクロリザーバ系は、ベース・ポリマーとしてポリシロキサンを、またマイクロリザーバ小滴のための両親媒性溶剤を含む。今回、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル、1,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール及びSolketalのような両親媒性溶剤におけるカプサイシン及びカプサイシン類似物質の良好な溶解性に基づき、これらの活性化合物を用いた高濃度局所療法のために、上述のマイクロリザーバ系が特に好適であることが分かった。
【0026】
特に好適な溶剤は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DGME、また商標名Transcutol(R)としても知られる)であることが分かった。DGME中のカプサイシンの溶解度は約50質量%であり、カプサイシンに構造的に類似するカプサイシン類似物質の溶解度も同様である。このことは、十分な活性化合物をマトリックス中に取り込むために、治療化合物を飽和限度に近い濃度でDGME中に溶解する必要がないことを意味する。結果として、パッチ自体は、例えば溶剤の一部損失又は低温といった好ましくない条件下においてさえも、治療化合物(例えばカプサイシン)の再結晶化の影響を受けることはない。実際には、DGME中のカプサイシンの約20〜35質量%溶液は、特に好適であることが分かった。DGME中のカプサイシン飽和濃度は50質量%であるため、この溶液は飽和溶解度の40〜70質量%である。これに関して、濃度は以下の式に従って計算される:
治療化合物の質量×100/(治療化合物の質量+溶剤の質量)
【0027】
DGMEを使用することの利点は、この化合物におけるカプサイシンの飽和限度が高いということに加えて、DGMEが透過増強剤として作用することである。従って、パッチを皮膚に適用した後で、DGMEがカプサイシン又は類似物質と共に放出されることは有利である。DGMEの同時放出によって、マイクロリザーバ系中の治療化合物の濃度、及び従って熱力学的活性は、放出にも関わらず高レベルに維持される。表2のヒト表皮に対する透過実験の結果が示すように、このような系からの活性化合物フラックスは、結晶性カプサイシンで過飽和状態のマトリックスからのものよりも約2倍大きい。このことは、マイクロリザーバ系中の活性化合物濃度が増加して飽和溶解度を上回ると、該系は溶解カプサイシンで過飽和になることを示している。しかしながら、適用時間が短いため、治療化合物は再結晶化する機会がなく、結果として、皮膚中への活性化合物フラックス又は皮膚中への活性化合物の分散は非常に効果的である。パッチの適用後のDMGEの急速な放出により活性化合物リザーバ中の活性化合物濃度が急速に増加するが、このことがなぜ活性化合物フラックスが悪影響を受けることなく、活性化合物の初期濃度が良好に飽和濃度以下となり得るかということの最終的な理由である。皮膚からの水分の吸収は、更なる一因となる。水に対するポリシロキサンの吸収力は非常に低いため、水分はマイクロリザーバ中に移動するしかない。水は、カプサイシン及びほとんどのカプサイシン類似物質に対する極めての貧溶剤である。結果として、マイクロリザーバ中の治療化合物の飽和濃度は低下し、従って治療化合物の熱力学的活性は増加する。
【0028】
これらの機構が効果的に作用するためには、ポリマー中の拡散性物質の拡散係数が高いことが重要である。このために、ベース・ポリマーとしてのポリシロキサンは、マイクロリザーバ系のための使用されている他の全てのポリマーよりも好ましい。
【0029】
ポリシロキサンは、溶剤非含有の二成分系から、又は有機溶剤中の溶液から製造できる。パッチ製造のために、溶剤中に溶解した自己接着性ポリシロキサンが好ましい。
【0030】
これらは基本的に異なる2種のポリシロキサンの変異体、即ち式I:
【化1】

に示される遊離シラノール基を有する普通のポリシロキサン、及び遊離シラノール基がトリメチルシリル基により誘導体化されていることを特徴とする「アミン耐性変異体(variant)」として存在するものである。このようなアミン耐性ポリシロキサンはまた、塩基性基を有しない活性化合物及び/又は添加剤は含まない治療化合物含有パッチに好適であることが分かっている。遊離シラノール基が存在しないため、ポリマー中の活性化合物の溶解度は更に減少し、極性の遊離シラノール基との相互作用の可能性がないため、多くの治療化合物についての拡散係数は更に増加する。式Iは、縮重合によりジメチルシロキサンから製造される鎖状ポリシロキサン分子の構造を示す。三次元架橋は、更にメチルシロキサンを使用することによって得ることができる。
【0031】
更なる本発明のポリシロキサンにおいて、メチル基は、他のアルキル基又はフェニル基によって完全に又は部分的に置き換えることができる。
【0032】
治療化合物であるカプサイシンを含む本発明のパッチの1つの実施態様の基本的マトリックス組成は、以下の表1から見ることができるが、本発明はこれに制限されない。
【表1】

【0033】
マトリックスの厚さは、一般的に約30〜約200μm(コーティング質量にして約30〜約200g/m2に相当)であるが、特定の処方の性質に応じてこれとは異なる値もまた使用することができる。実際には、厚さ50〜100μmのマトリックスが特に好適であることが分かった。
【0034】
パッチの支持層は、理想的には、選択された治療化合物及びDGME又は両親媒性溶剤に対して、可能な限り不透過性であるか又は不活性であるべきである。ポリエステルはこの条件を満たすが、他の物質、例えばエチレン−酢酸ビニルコポリマー及びポリアミドも適している。実際には、厚さ約20μmのポリエステルフィルムは非常に好適であることが分かった。支持層に対するマトリックスの接着性を改良するために、マトリックスに対する支持層の接触面をシリコーン化することが有利である。ポリアクリレート・ベースの接着剤は、このようにシリコーン化されたフィルムには接着しないか又は非常に弱くしか接着しないが、ポリシロキサン・ベースの接着剤は化学的類似性によって非常に良好に接着する。
【0035】
使用前に取り外される保護フィルムとしては、特定の表面処理がポリシロキサン・ベースの接着剤をはじくために、ポリエステルフィルムが最も好ましく使用される。多くの製造元から好適なフィルムが供給されており、当業者に十分に知られている。
【0036】
自己接着性ポリシロキサンマトリックスは、皮膚に対するパッチの接着性を最適化するために、異なる接着性を有する接着剤の混合物であることができる。接着性を更に改良するために、適当な粘度又は分子量のシリコーン油を、最大で約5質量%の濃度で更に添加することができる。
【0037】
本発明はまた、本発明の局所パッチの製造方法に関し、当該方法は、治療化合物を両親媒性溶剤中に溶解し、この溶液をポリシロキサン又はマトリックス成分の溶液に添加し、撹拌して分散させ、得られた分散物を取り外し可能な保護層上にコーティングし、高められた温度でポリシロキサンの溶剤を除去し、支持層を乾燥した層上にラミネートすることを含む。
【0038】
治療化合物の溶剤は、接着剤の溶剤と混合してはならないか、又はしたとしてもほんの少量と混合するのみである。接着剤に適当な溶剤は、例えば、石油エーテル又はn−ヘキサン及びn−ヘプタンのようなアルカンである。治療化合物溶液の粘度が適当な薬剤例えばエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースのようなセルロース誘導体の添加によって増加する場合、該治療化合物溶液をより簡単に分散させ得ることが示されている。次に、分散物は、接着剤の溶剤の除去後に所望の厚さを有するマトリックス層が得られるような厚さで、取り外し可能な保護フィルム上にコーティングされる。次に、乾燥した層を支持層でラミネートし、これにより完成したパッチ・ラミネートを得る。
【0039】
次に、所望の形状及びサイズで、パッチをこのラミネートから打ち出し、適当な1次包装のサッシェ中にパックすることができる。非常に好適な1次包装は、米国特許第RE37,934号に記載されたもののような、紙/グルー/アルミ箔/グルー/Barex(R)から成るラミネートであることが分かった。Barex(R)は、ゴムで改質したアクリロニトリルコポリマーをベースとする、熱によって密封可能なポリマーであって、これはパッチの揮発性成分に対して吸収性が低いことを特徴とする。
【0040】
本発明の目的は、ヒトの皮膚中への治療化合物フラックスが最適化されたパッチの開発であった。本発明の意味においてのマイクロリザーバ系は治療化合物の放出を制御する膜を有さず、そしてまたマトリックスそれ自体も、ポリシロキサン中の治療化合物の拡散係数が高くて治療化合物の放出に対する速度制御を行うことができないため、治療化合物の皮膚深層中への放出を制御する唯一の要素は、皮膚又は皮膚の最上層又は皮膚の最上層、即ち角質層である。従って、マトリックス組成物の最適化は常に、ヒトの皮膚を用いるインビトロ浸透研究により、及び実験手段として当業者に既知のFranz拡散細胞により行った。
【0041】
第一の研究において、透過速度に対するDGMEの影響を調べた。結果を表2に示す。
【表2】

【0042】
処方2において、治療化合物であるカプサイシンのほとんど(>95質量%)が小さな結晶の形態で、溶解せずにマトリックス中に分散している。これは、マトリックスが溶解カプサイシンで飽和しており、過飽和していない安定したマトリックスに対して治療化合物の熱力学的活性が最大であることを意味する。処方1は、約2倍高い透過速度を示す。
【0043】
ポリシロキサン自体に溶解している少量のカプサイシンを無視すると、処方1のマイクロリザーバ小滴中のカプサイシン濃度は約28質量%である。これは、飽和溶解度の50質量%をかなり下回り、DGMEの一部損失又は温度低下が生じる場合であっても、マトリックス中で再結晶化する危険はないことを保障する。これは、使用前にパッチが物理的に安定であり、高飽和又は過飽和状態となっており、適用後に初めて透過速度が大きく高まることを意味している。
【0044】
第2の系において、透過速度に対するカプサイシン濃度の影響を調べた。得られた結果を表3に示す。
【表3】

【0045】
透過速度はカプサイシン濃度に対して顕著な相関関係を示す。即ち、パッチの放出速度は、DGME(又はマイクロリザーバに適する溶剤)中の濃度によって、カプサイシン又はカプサイシン類似物質に関して必要な値に、容易に調節することができる。
【0046】
約8質量%(例えば約5質量%〜約10質量%、通常は7質量%〜9質量%)のカプサイシン濃度と約15%〜約25質量%のDGME濃度との組合わせは、特に好適であることが分かった。
【0047】
皮膚への接着性及びその他の物理的特性に関して最適化された治療化合物含有マトリックスは、以下の組成を有する:
【表4】

【0048】
治療化合物であるカプサイシンを含有する、本発明の意味におけるパッチは、適当な臨床研究に非常に有効であることが分かった。患部に1時間処置しただけでも痛覚を有意に減じ、その作用は数週間持続した。この場合、パッチは極めて忍容性であるということになり、極めて良好に患者に許容された。要約すれば、即ち、本発明の意味におけるパッチは、高濃度のカプサイシン又はカプサイシン類似物質を用いる米国特許第6,248,788号に記載される神経障害性疼痛の治療に最適であるということができる。
【0049】
従って、本発明はまた、神経障害性疼痛及びその他の状態を治療するための、本発明の局所パッチの使用に関する。
【0050】
カプサイシン又はカプサイシン類似物質パッチの使用
この項では、本発明の使用について記載する。しかしながら、この項に記載される例は、説明のために提示されるのであって限定のためではないということが理解されるであろう。カプサイシンの適用は多くの治療上の利点を有し、それぞれは、本発明の方法を用いて効果的に処置することができる。カプサイシン又はカプサイシン類似物質による治療が望ましいと考えられる状態としては、神経障害性疼痛(例えば、糖尿病性ニューロパシー、ヘルペス後神経痛、HIV/AIDS、外傷、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、肢端紅痛症及び幻想痛に伴う疼痛)、複合的な侵害性及び/又は神経障害性複合病因(例えば、癌、骨関節炎、線維症及び腰痛)により生じる疼痛、炎症性痛覚過敏、間質性膀胱炎、皮膚炎、掻痒、疥癬、乾癬、疣及び頭痛が挙げられる。一般的に、カプサイシン−又はカプサイシン類似物質−含有パッチは、カプサイシンの局所投与が効果的であるいずれかの状態を治療するために使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明はここに制限されるものではない。
【0052】
実施例1:カプサイシン含有パッチの製造
最初に、DGME250gを、エチルセルロース4.5gを用いて撹拌しながら粘度を高めた。次いで、カプサイシン97gを加え、撹拌して完全に溶解させた。上記治療化合物溶液286gを、固形分70質量%を有するn−ヘプタン中のポリシロキサン又はポリシロキサン混合物の溶液1000gに加え、激しく撹拌しながら接着剤溶液中に分散させた。
次いで、適当なコーティング工程を用いて、n−ヘプタン除去後のコーティング質量が80g/m2となるような厚さで、分散物を、取り外し可能であり且つポリシロキサン接着剤に好適な保護フィルム、例えばScotchpak(R)1022(3M社製)上にコーティングした。次いで、乾燥したフィルムを支持層、例えば厚さ20μmのポリエステルフィルムでラミネートし、完成したパッチを完全なラミネートから打ち出した。打ち出したパッチを次いで適当な1次包装ラミネートのサッシェ中に密封した。
接着剤の溶剤であるn−ヘプタンが除去される温度は、理想的には40℃を超えてはならない。乾燥工程中にDGMEが損失するため、最終組成物中よりも多くのDGMEが最終バルク混合物中に存在する。
【0053】
実施例2:
最初に、DGME 196gを、エチルセルロース4gを用いて撹拌しながら粘度を高めた。次いで、ノニバミド30g(ペラルゴン酸バニリルアミド)を加え、撹拌しながら完全に溶解させた。
次いで、溶液を、固形分70質量%を有するn−ヘプタン中のポリシロキサン又はポリシロキサン混合物の溶液1000gに加え、激しく撹拌して接着剤溶液中に分散させた。
次いで、適当なコーティング工程を用いて、n−ヘプタン除去後のコーティング質量が100g/m2となるような厚さで、分散物を、取り外し可能な保護フィルム、例えばScotchpak(R)1022(3M社製)上にコーティングした。次いで、乾燥したフィルムを支持層、例えば厚さ20μmのポリエステルフィルムでラミネートし、完成したパッチを完全なラミネートから打ち出した。打ち出したパッチを次いで適当な1次包装のサッシェ中に密封した。
【0054】
実施例3:
ジプロピレングリコール200gを、ヒドロキシエチルセルロース2gを用いて撹拌しながら粘度を高めた。次いで、カプサイシン60gを加え、撹拌しながら完全に溶解させた。
次いで、溶液を、固形分70質量%を有するn−ヘプタン中のポリシロキサン又はポリシロキサン混合物の溶液1000gに加え、激しく撹拌して接着剤溶液中に分散させた。
次いで、適当なコーティング工程を用いて、n−ヘプタン除去後のコーティング質量が100g/m2となるような厚さで、分散物を、取り外し可能な保護フィルム、例えばScotchpak(R)1022(3M社製)上にコーティングした。次いで、乾燥したフィルムを支持層、例えば厚さ20μmのポリエステルフィルムでラミネートし、完成したパッチを完全なラミネートから打ち出した。打ち出したパッチを次いで適当な1次包装のサッシェ中に密封した。
【0055】
実施例4:
カプサイシンの代わりにオルバニル(オレイルバニリルアミド)を使用する以外は、実施例1に記載されたものと同様の手順を行った。
【0056】
実施例5:
ノニバミド36gを、Solketal 164g中に撹拌しながら溶解した。次いで、溶液を、固形分70質量%を有するn−ヘプタン中のポリシロキサン又はポリシロキサン混合物の溶液1000gに加え、激しく撹拌して接着剤溶液中に分散させた。
次いで、適当なコーティング工程を用いて、n−ヘプタン除去後のコーティング質量が100g/m2となるような厚さで、分散物を、取り外し可能な保護フィルム、例えばScotchpak(R)1022(3M社製)上にコーティングした。次いで、乾燥したフィルムを支持層、例えば厚さ20μmのポリエステルフィルムでラミネートし、完成したパッチを完全なラミネートから打ち出した。打ち出したパッチを次いで適当な1次包装のサッシェ中に密封した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】マイクロリザーバ系の構成を示す図である。
【図2】マイクロリザーバ系の構成を示す図である。
【図3】マイクロリザーバ系の構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療化合物不透過性の支持層と、ポリシロキサンをベースとする自己接着性マトリックスであって少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、最も好ましくは少なくとも5質量%の治療化合物を含むマトリックスと、使用前に取り外される保護フィルムとを含む局所パッチであって、
a.該マトリックスは治療化合物をその中に溶解した両親媒性溶剤を含む液体マイクロリザーバ小滴を含有し、そして、
b.該マイクロリザーバ小滴中の該治療化合物の濃度は飽和濃度の20〜90質量%であり、
ここで、この治療化合物はカプサイシン若しくはカプサイシン類似質又はそれらの混合物である、
上記の局所パッチ。
【請求項2】
治療化合物がカプサイシンである、請求項1に記載の局所パッチ。
【請求項3】
マイクロリザーバ小滴中の治療化合物の濃度が飽和濃度の40〜70質量%である、請求項1又は2に記載の局所パッチ。
【請求項4】
両親媒性溶剤が、1,3−ブタンジオールのようなブタンジオール、ジプロピレングリコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリ−及びジエチレングリコールのカルボン酸エステル、6〜18C原子のポリエトキシル化脂肪アルコール、若しくは2,2−ジメチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、又はこれらの溶剤の混合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項5】
溶剤がジエチレングリコールモノエチルエーテルである、請求項4記載の局所パッチ。
【請求項6】
マイクロリザーバ小滴が、溶剤中に溶解した増粘添加剤を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項7】
増粘添加剤がセルロース誘導体又は高分子量ポリアクリル酸である請求項6記載の局所パッチ。
【請求項8】
増粘添加剤がエチルセルロース又はヒドロプロピルセルロースである請求項7記載の局所パッチ。
【請求項9】
マトリックス中のマイクロリザーバ小滴の割合が40質量%未満、好ましくは35質量%未満、特に20〜30質量%である請求項1〜8のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項10】
自己接着性マトリックスがアミン耐性ポリシロキサンを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項11】
自己接着性マトリックスが中粘着性ポリシロキサンと高粘着性ポリシロキサンとの混合物を含む、請求項10に記載の局所パッチ。
【請求項12】
マトリックスが約0.5〜約5質量%のシリコーン油を含む、請求項10に記載の局所パッチ。
【請求項13】
マトリックスが
5〜10質量%のカプサイシン又はカプサイシン類似物質、
10〜25質量%のジエチレングリコールモノエチルエーテル、
0〜2質量%のエチルセルロース、
0〜5質量%のシリコーン油、及び
58〜85質量%の自己接着性ポリシロキサン、
を含み、そして該マトリックスのコーティング重量が30〜200g/m2、好ましくは50〜120g/m2である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項14】
マトリックスが、本質的に、
5〜10質量%のカプサイシン又はカプサイシン類似物質、
10〜25質量%のジエチレングリコールモノエチルエーテル、
0〜2質量%のエチルセルロース、
0〜5質量%のシリコーン油、及び
58〜85質量%の自己接着性ポリシロキサン、
から成り、そして該マトリックスのコーティング重量が30〜200g/m2、好ましくは50〜120g/m2である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項15】
支持層が厚さ10〜20μmのポリエステルフィルムから成る、請求項1〜14のいずれか1項に記載のパッチ。
【請求項16】
支持層がエチレン−酢酸ビニルコポリマーから成る、請求項1〜14のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項17】
神経障害性疼痛の治療のための、請求項1〜16のいずれか1項に記載の局所パッチの使用。
【請求項18】
神経障害性疼痛の治療に使用するための、請求項1〜16のいずれか1項に記載の局所パッチ。
【請求項19】
神経障害性疼痛の治療に使用するのに有効な量のカプサイシン又はカプサイシン類似物質を含有する請求項1〜16のいずれか1項に記載の局所パッチを適用する、神経障害性疼痛の治療方法。
【請求項20】
治療化合物を両親媒性溶剤中に溶解し、この溶液をポリシロキサン又はマトリックス成分の溶液に添加し、分散させ、得られた分散物を再び取り外し可能な保護層上にコーティングし、ポリシロキサンの溶剤を除去し、そして支持層を乾燥したマトリックス層上にラミネートすること、を含む、請求項1〜16及び18のいずれか1項に記載の局所パッチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−514977(P2006−514977A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570482(P2004−570482)
【出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012929
【国際公開番号】WO2004/089361
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】