説明

カラーフィルター作製用インキ組成物

【課題】凸版反転印刷法によるカラーフィルターを作製する際、凹凸パターン通りに、精度良く、インキ組成物を被印刷基材に転写することができ、かつ、転写時の白抜け防止を可能とするカラーフィルター作製用インキ組成物および該インキを用いたカラーフィルターの製造方法を提供する。
【解決手段】ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版にて画像化し、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法によりカラーフィルターを作製するためのインキ組成物であって、転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率が1MPa以上、正接損失が0.05〜4、かつ、転写時のインキ組成物の複素粘性率が1000以上であるカラーフィルター作製用インキ組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TFT型カラー液晶表示装置のカラーフィルターを凸版反転印刷法により作製する際に好適に使用できるカラーフィルター作製用インキ組成物、および、このインキ組成物を用いたカラーフィルターの製造方法並びにこの製造方法によって得られたカラーフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、TFT型カラー液晶表示装置に用いられるカラーフィルターを製造する方法としては、カラーフィルターの画像として高い平坦性や解像度が得られるフォトレジスト法が主力である。
しかし、このフォトレジスト法では、色毎に塗布、露光、現像などの長工程を経るため、莫大な設備投資を要し、昨今要求される低製造コスト化並びに大面積化には不適であった。
このような欠点を解消する方法として、本出願人は、凸版反転印刷法と称する新しい製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この凸版反転印刷法について説明する。
この凸版反転印刷法では、まず。図1(a)に示すように、まずインキ塗布装置1によりブランケット2の表面に均一な厚みのインキ塗膜3を形成する。
次いで、図1(b)に示すように、表面に均一なインキ塗膜3が形成されたブランケット2の表面を、凸版4に押圧、接触させ、凸版4の凸部の表面に、ブランケット2の表面上のインキ塗膜3の一部を付着、転移させる。これにより、ブランケット2の表面に残ったインキ塗膜3には、印刷パターン(画像)が形成される。
次いで、図1(c)に示すように、この状態のブランケット2をガラス板、プラスチックシートなどからなる被印刷基材5の表面に押圧して、ブランケット2上に残ったインキ塗膜3を転写し、この被印刷基材5上に転写されたインキ塗膜3を乾燥することにより、所定のパターンを形成する。
【0004】
この凸版反転印刷法は、4色同時入色が可能で、色毎の乾燥が不要であるなどの短工程によって製造が行え、低製造コスト化および低設備コスト化を実現できるとともに、その得られる品質もフォトレジスト方法と同などになりつつある。
また、本出願人は、凸版反転印刷法に最低なインキ組成物として、特許文献2において、顔料、樹脂、表面エネルギー調整剤、速乾性有機溶剤、遅乾性有機溶剤を含有するインキ組成物を提案している。
【0005】
ところで、凸版反転印刷法によって、被印刷基材に対してカラーフィルターとなるインキ塗膜を形成するにあたっては、最初に被印刷基材に対して黒色インキ組成物を用いてブラックマトリックス膜を形成し、次いで、赤色、緑色、青色のカラーインキ組成物を用いてRGBのカラー膜を形成する。
【0006】
この時、図2に示すように、カラー膜をなすカラーインキ膜6は、ブラックマトリックス膜をなす黒色インキ膜7の上に形成されるため、カラーインキ膜6が黒色インキ膜7を乗り越え、跨ぐように形成されることになる。なお、符号5は被印刷基材である。
【0007】
ところで、凸版反転印刷法では、インキ組成物中の溶剤が揮発したり、ブランケット内に浸透したりするため、時間の経過とともに、インキ組成物の粘度が上昇することがある。このように、インキ組成物の粘度が上昇すると、インキ組成物が凹凸版パターン通りに、精度良く被印刷基材5に転写されない。さらに、インキ組成物が細線のパターン通りに転写された場合でも、ベタ部分などで部分的に転写が行われず、無着色の白抜け(図2の符号6a)と呼ばれる部分となることがあった。特に、カラーインキ膜6が、その乗り越え部分において大きな落差があることから、その部分でちぎれてしまうことになる。
【特許文献1】特開2001−56405号公報
【特許文献2】特開2005−128346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、本発明の課題は、凸版反転印刷法によるカラーフィルターを作製する際、凹凸パターン通りに、精度良く、インキ組成物を被印刷基材に転写することができ、かつ、転写時の白抜け防止を可能とするカラーフィルター作製用インキ組成物および該インキを用いたカラーフィルターの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、
請求項1の発明は、ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版にて画像化し、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法によりカラーフィルターを作製するためのインキ組成物であって、顔料、樹脂および溶剤を含有し、転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率が1MPa以上、正接損失が0.05〜4、かつ、転写時のインキ組成物の複素粘性率が1000以上であるカラーフィルター作製用インキ組成物である。
【0010】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のカラーフィルター作製用インキ組成物を、ブランケット表面に塗布してインキ塗膜を形成した後、このインキ塗膜の貯蔵弾性率が1MPa以上、正接損失が0.05〜4、かつ、複素粘性率が1000以上となったときに、このインキ塗膜を凸版に接触させて画像化し、さらに被印刷基材に転写するカラーフィルターの製造方法である。
【0011】
請求項3にかかる発明は、請求項2に記載のカラーフィルターの製造方法によって得られたカラーフィルターである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物によれば、転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率を1MPa以上、かつ、正接損失を0.05〜4としたので、凸版反転印刷法により、凹凸パターン通りに、精度良くインキ組成物を被印刷基材に転写することができる。
【0013】
さらに、転写時のインキ組成物の複素粘性率を1000以上とすることにより、ブラックマトリックス上に欠損無く(白抜け現象の発生がなく)、凹凸版パターン通りに、精度良くインキ組成物を被印刷基材に転写することができる。
【0014】
本発明のカラーフィルターの製造方法によれば、本発明のインキ組成物を用いているので、白抜けのないカラーフィルターが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物は、熱硬化性樹脂、顔料、速乾性有機溶剤、遅乾性有機溶剤、表面エネルギー調整剤を必須成分として含み、転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率を1MPa以上、正接損失を0.05〜4、かつ、転写時のインキ組成物の複素粘性率が1000以上としたものである。転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率は、10MPa〜500MPaであることが好ましい。また、転写時のインキ組成物の複素粘性率は1000〜10000であることが好ましい。
【0016】
転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率を1MPa以上、かつ、正接損失を0.05〜4とすることにより、凹凸版パターン通りに、精度良くインキ組成物を被印刷基材に転写することができる。一方、転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率が1MPa未満、あるいは、正接損失が0.05未満または4を超えると、凹凸版パターン通りに、インキ組成物を被印刷基材に転写することが困難になる。転写時のインキ組成物の複素粘性率を1000以上とすることにより、ブラックマトリックス上に欠損無く(白抜け現象の発生がなく)、凹凸版パターン通りに、精度良く転写することができる。
【0017】
顔料としては、カラーフィルター用顔料として用いることができる公知のものが挙げられるが、色純度と色濃度が高く、透明性の高いものが好適に用いられる。これらの顔料としては、例えば、赤、緑、青、墨の各色で使用できる顔料として、以下に示すものが挙げられる。顔料の種類を、カラーインデックス(C.I.)No.で示す。
【0018】
赤色顔料としては、97、122、123、149、168、177、180、192、208、209、215、254などが挙げられる。
緑色顔料としては、7、36、58などが挙げられる。
青色顔料としては、15、15:1、15:3、15:6、22、60、64などが挙げられる。
墨顔料としては、カーボンブラック、チタンブラックなどが挙げられる。
【0019】
また、これら赤色顔料、緑色顔料、青色顔料の色調整およびインキの流動性を改善するために、次に挙げる顔料を必要量添加することができる。
例えば、黄色顔料として、17、83、109、110、128、138、150などが挙げられる。また、紫顔料として、19、23などが挙げられる。白顔料として、18、21、27、28などが挙げられる。橙顔料として、38、43などが挙げられる。
【0020】
ブラックマトリックスを形成するためのカラーフィルター作製用インキ組成物に用いられる顔料としては、チタンブラックが用いられる。
通常、フォトレジスト法では、ブラックマトリックスに必要とされる光遮蔽度(墨の光学濃度で代用:以下、「OD値」と言う。)をより高いレベルで達成しようとすると、露光工程で充分に光が浸透せず、露光不足、現像不良を発生しやすい。ところが、凸版反転印刷法では露光工程などを経ないため、前述のようなフォトレジスト法における問題も発生しない。よって、高いOD値のブラックマトリックスが得られる。
【0021】
また、本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物でも、カラーフィルターに一般的に用いられるカーボンブラックを使用できるが、チタンブラックあるいはチタンブラックとカーボンブラックを併用することが好ましい。このようにすれば、チタンブラックの顔料特性から良好な顔料分散が得られ、かつ低粘度であるため、インキ組成物中の含有量を高くできることから、TFT型液晶表示装置用カラーフィルターに要求されるOD値を薄膜で実現できる。
【0022】
さらに、顔料の分散性が高いほど、顔料の特性が発揮されやすいため、必要に応じて顔料への表面処理や、分散時に顔料分散剤や界面活性剤などの助剤を加えることができる。したがって、これらの顔料は、単体以外に、顔料を予め分散剤、有機溶剤に分散させた顔料分散体であっても良い。
例えば、青色顔料15:6の場合には、顔料分散体としてEXCEDIC BLUE 0565(商品名、大日本インキ化学工業社製)、EXCEDIC RED 0759、EXCEDIC YELLOW 0599、EXCEDIC GREEN 0358、EXCEDIC YELLOW 0648(以上いずれも商品名、大日本インキ化学工業社製)、チタンブラック分散液(三菱マテリアル社製)などを適用することができる。
【0023】
顔料の結着剤として機能する樹脂としては、カラーフィルターに要求される耐熱性、耐熱水性、耐アルカリ性、耐酸性などの物性を満足させるため、熱黄変性の少ない熱硬化性樹脂であって、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂からなる群から選ばれる1つ以上のものが使用される。これらの樹脂の中でも、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂あるいはエポキシ系樹脂のいずれか1つ以上と、メラミン系樹脂あるいはベンゾグアナミン系樹脂のいずれか1つ以上とを組み合わせたものが好ましい。さらに、ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の組み合わせ、およびエポキシ系樹脂、メラミン系樹脂およびベンゾグアナミン樹脂系を組み合わせたものがより好ましい。
【0024】
この樹脂としては、熱硬化システムを利用する場合、カラーフィルターの製造に用いられる一般的な熱硬化性樹脂が使用できるが、他の硬化システムを利用する場合は、それぞれに最適な樹脂を選択できる。例えば、ラジカル型紫外線硬化型樹脂やカチオン型紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂なども使用できる。
【0025】
この樹脂の代表的なものを以下に例示する。
ポリエステル系樹脂としては、「25X1892:大日本インキ化学工業社製」などが挙げられる。アクリル樹脂としては、「アクリディックA−345:大日本インキ化学工業社製」などが挙げられる。エポキシ系樹脂としては、「エピクロンP−415」、「エピクロン830」、「エピクロン840」、「エピクロン860」、「エピクロン1050」、「エピクロン3050」、「エピクロン4050」、「エピクロンHP7200L」、「エピクロンHP7200」、「エピクロンN740」、「エピクロン604」、「エピコート834ニス(固形分:80質量%)」(以上、大日本インキ化学工業社製)、「エピコート828」、「エピコート834」、「エピコート1001」、「エピコート1004」(以上、ジャパンエポキシレジン社製)などが挙げられる。メラミン系樹脂としては、「メランX81:日立化成工業社製」、「サイメル202」、「サイメル254」、「サイメル370」、「サイメル327」、「サイメル325」(以上、三井サイテック社製)、「スーパーベッカミンL−105−60」、「スーパーベッカミンJ−820−60」(以上、大日本インキ化学工業社製)、「ユーバン20SB」、「ユーバン20SE」、「ユーバン21R」、「ユーバン122」、「ユーバン225」(以上、三井化学社製)などが挙げられる。ベンゾグアナミン系樹脂としては、「スーパーベッカミン13−535:大日本インキ化学工業社製」、「マイコート105」、「マイコート106」、「マイコート1128」(以上、三井サイテック社製)などが挙げられる。エポキシメラミン系樹脂としては、「TCM−01メジューム:大日本インキ化学工業社製」などが挙げられる。ポリエステルメラミン系樹脂としては、「99X0207:大日本インキ化学工業社製」などが挙げられる。また、顔料を予め分散剤、有機溶剤などに分散させた顔料分散体に含まれる分散剤も樹脂として機能する場合がある。顔料分散剤としては、「アジスパーPB−711」、「アジスパーPB−821」(以上、味の素ファインテクノ社製)、「BYK−2000」、「BYK−2001」(以上、ビックケミージャパン社製)などが挙げられる。
【0026】
この樹脂のインキ組成物中の含有量は、2〜15質量%、好ましくは3〜10質量%とされる。この樹脂のインキ組成物中の含有量が2質量%未満では、インキ膜が脆くなる。一方、15質量%を超えると、転写画像の鮮鋭度が低下する。
【0027】
さらに、このインキ組成物中の顔料と樹脂との配合質量比は、固形分比率で、顔料:樹脂で1:4〜8:1が好ましい。この配合比率は、ブランケット表面のインキ塗膜に凸版により画像が形成された時点も同じである。
【0028】
配合する樹脂によっても異なるが、顔料に対して必要以上の樹脂が存在すると、その樹脂のタック性やインキ塗膜の粘弾性が大きいことにより、凸版による画像形成時に、画線がビリついたりするなどシャープな画像が得られず好ましくない。一方、顔料に対して樹脂が不足すると、被印刷基材への転写時に、ブランケット表面からインキ塗膜が完全に転写しないなどの不具合が生じて好ましくない。
【0029】
本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物において樹脂を溶解してビヒクルとし、顔料をこれに分散するための有機溶剤として、速乾性有機溶剤と遅乾性有機溶剤とを併用して使用する。
速乾性有機溶剤としては、20℃における蒸気圧が11.3×10Pa(8.0mmHg)以上かつ大気圧下における沸点が115℃未満のエステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤または炭化水素系溶剤のいずれか1つ以上が用いられる。
【0030】
この速乾性有機溶剤の全インキ組成物中の含有量は、凸版反転印刷法の印刷速度や各色の印刷順序によって調整されるが、5〜90質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは20〜40質量%とされる。
速乾性有機溶剤の全インキ組成物中に対する含有量が5質量%未満ではブランケット上でのインキ塗膜の乾燥が不十分で凸版にて画像化されなくなる。一方、含有量が90質量%を超えるとブランケット上でインキ塗膜が乾燥しすぎて凸版に転写しない。
【0031】
この速乾性有機溶剤は、ブランケットにインキ塗膜が形成される時には、インキ組成物が良好な流動性を有するために用いられ、その後、凸版にて画像化されるまでの間に、空中に揮発もしくはブラケットに吸収されることで、インキ粘度が上昇し、画像化に最適な粘度と粘着性と凝集力を有するようにするために配合される。
【0032】
また、この速乾性有機溶剤の蒸気圧が11.3×10Pa(8.0mmHg)未満の場合は、ブランケット上のインキ塗膜が充分に乾燥せず、凸版以外部分にもインキ塗膜が転移し、ブランケット上に良好な画像が形成されないなどの不具合が生じるため好ましくない。これら速乾性有機溶剤は、ビヒクルの溶解性、顔料分散系への親和性を考慮し、それぞれに応じた溶剤が選択されるが、例として次に挙げられるものが用いられる。
【0033】
エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピルなどが挙げられる。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテルなどが挙げられる。
炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
また、これらの速乾性有機溶剤は、それぞれの系内および複数の系の混合物でもよい。これらの速乾性有機溶剤の中でも、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルプロピル、エタノールおよび2−プロパノールが、その蒸発速度や表面張力から見て好ましい。
【0034】
遅乾性有機溶剤としては、25℃における蒸気圧が11.3×10Pa(8.0mmHg)未満かつ大気圧下における沸点が115℃以上のエステル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤または炭化水素系溶剤のいずれか1つ以上が用いられる。
この遅乾性有機溶剤の全インキ組成物中の含有量は、凸版反転印刷法の印刷速度や各色の印刷順序によって調整されるが、全インキ組成物中5〜90質量%、好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%とされる。
遅乾性有機溶剤の全インキ組成物中に対する含有量が5質量%未満ではブランケット上のインキ塗膜が乾燥しすぎて凸版に転写できなくなる。一方、含有量が90質量%を超えるとブランケット上でのインキ塗膜の乾燥が不十分で凸版にて画像化できなくなる。
【0035】
この遅乾性有機溶剤は、凸版によりブランケットに形成され画像化されたインキ塗膜が、被印刷基材上に転写されるまで、ブランケット上に残留することで、インキの粘度が一定以上に上昇することを防ぎ、被印刷基材上に良好な画像を得ることができるようにするために用いられる。
【0036】
また、この遅乾性有機溶剤の蒸気圧が11.3×10Pa以上の場合は、ブランケット上のインキ塗膜が乾燥し過ぎるため、凸版へインキが転移せず、ブランケット上に良好な画像化されたインキ塗膜が形成されないなどの不具合が生じるため好ましくない。これら溶剤は、ビヒクルの溶解性、顔料分散系への親和性を考慮し、それぞれに応じた溶剤が選択されるが、例えば次に挙げられるものが用いられる。
【0037】
エステル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)、3メトキシ−3メチル−ブチルアセテート(「ソルフィットAC」商品名、クラレ社製)、エトキシエチルプロピオネート(EEP)などが挙げられる。
アルコール系溶剤としては、1−ブタノール、ダイヤドール135(商品名、三菱レーヨン社製)、3メトキシ−3メチル−1ブタノール、1−ヘキサノール、1,3ブタンジオール、1−ペンタノール、2−メチル1−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノールなどが挙げられる。
【0038】
エーテル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールノルマルプロピルエーテル、プロピレングリコールノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
炭化水素系溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150(商品名、エクソン化学社製)、その他にもN−メチルピロリドンが挙げられる。
【0040】
また、これらの遅乾性有機溶剤は、それぞれの系内および複数の系の混合物でもよい。これらの遅乾性有機溶剤の中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールノルマルプロピルエーテル、プロピレングリコールノルマルブチルエーテル、3メトキシ−3メチル−ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、およびダイヤドール135が、その蒸発速度や表面張力から見て好ましい。
【0041】
表面エネルギー調整剤は、ブランケット表面にインキ組成物が均一に良好に塗布できるように、インキ組成物の表面エネルギーを、ブランケットの表面における表面エネルギーよりも小さくするために添加されるものである。
この表面エネルギー調整剤としては、フッ素系界面活性剤が好ましい。本発明のインキ組成物にあっては、このフッ素系界面活性剤の1種または2種以上が用いられる。
この表面エネルギー調整剤としては、フッ素系界面活性剤が好ましい。本発明のインキ組成物にあっては、このフッ素系界面活性剤の1種または2種以上が用いられる。この表面エネルギー調整剤の具体的なものとしては、メガファックF−470、メガファックF−472、メガファックF−484、メガファックF−1159、メガファックF−1303(以上、商品名、大日本インキ化学工業社製)などが挙げられる。
【0042】
表面エネルギー調整剤のインキ組成物中の濃度を0.05〜5.0質量%とし、0.1〜1.0質量%とすることが好ましい。これにより、ブランケットへのインキ塗工時に、塗工された塗膜の平滑性が向上し、より均一な塗膜が得られる。
表面エネルギー調整剤のインキ組成物中の濃度が0.05質量%未満では、ブランケット上でのインキはじきが発生したり、インキ塗膜が均一にならずムラが生じたりして好ましくない。一方、表面エネルギー調整剤のインキ組成物中の濃度が5.0質量%を超えると、被印刷基材上へ転写後、インキ塗膜中の表面エネルギー調整剤が被印刷基材とインキ塗膜との密着性を阻害する不具合が生じてこれも好ましくない。
【0043】
本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物では、上述の顔料、樹脂、表面エネルギー調整剤、速乾性有機溶剤、遅乾性有機溶剤以外に、顔料分散剤、消泡剤、被印刷基材への接着付与剤などの各種添加剤を適宜適量配合することができる。
このような組成のインキ組成物の製造は、黒色顔料、樹脂、有機溶剤および顔料分散剤を、ビーズミルなどの一般的な分散機を用いてカラーフィルター作製用インキ組成物に最適な分散状態まで分散し、これにさらに樹脂、有機溶剤および各種添加剤を混合後、粗大粒子を濾過して行われる。
【0044】
本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物にあっては、上述の組成を有するものであるが、その物性も重要な因子である。
この物性としては、まず温度が25℃におけるインキ粘度が、0.5mPa・s〜10.0mPa・sの範囲内にある。これは、ブランケットにインキ組成物を均一に塗布するために、塗布装置からのインキ吐出性を鑑みて決定されたものである。この範囲よりも高い粘度の場合、塗工装置からのインキ吐出が不均一になり、ブランケット上に分断されて塗工される不具合や、塗工されたインキ塗膜が不均一となるため好ましくない。逆に、この範囲より低い粘度では、カラーフィルターに要求される色濃度や塗膜耐性が得られないため好ましくない。中でも、1.0〜5.0mPa・sであることがより好ましい。
インキ組成物の粘度の測定は、市販のコーンプレート型回転粘度計(例えば、東機産業社製、TV−20Lなど)によって行われる。
【0045】
次に、インキ組成物の表面エネルギーも重要な因子である。インキ組成物の表面エネルギーは、15mN/m〜25mN/mであることが好ましいが、概ね22mN/mより低表面エネルギーである程好ましい。この範囲より高い表面エネルギーの場合、ブランケットへのインキレベリング性が悪く、ブランケット上でインキがはじいたりするなど均一なインキ塗膜が得られず好ましくない。また、この範囲よりも低い表面エネルギーのインキ組成物は実質的に製造できない。
表面エネルギーの測定は、市販の自動表面張力計(例えば、協和界面化学社製、CBYP−A3など)を用いて行われる。
【0046】
本発明のカラーフィルターは、上述のインキ組成物を用い、凸版反転印刷法によって、被印刷基材上に、少なくともブラックマトリックス膜およびカラー膜が形成されたものである。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はここで挙げる実施例のみに限定されるものではない。実施例中の部および%は、特に記載しない限り質量基準である。
【0048】
[動的粘弾性の測定]
応力制御型レオメータ(ハーケ社製、RS150)を用い、直径35mmのパラレルプレートを使用して、ギャップ0.5mmおよび測定温度25℃にて測定した。せん断速度5.00(1/s)で1分間初期せん断を与えた後、周波数依存測定を行った。周波数依存測定は、応力を10Paに固定し、周波数を100Hz〜0.16Hzの間で変化させて、貯蔵弾性率(G´)、正接損失(tanδ)、複素粘性率(|η*|)を測定し、46.3Hz、10Hz、1Hzの値を読み取った。
【0049】
[各待機時間におけるインキ中溶剤含有量の推定]
インキテスターにてインキを塗布し、所定待機時間毎にガラス板にインキを転写した。転写したインキの不揮発分により、各待機時間における溶剤含有量を推定した。不揮発分は120℃、30分加熱前後での重量変化により算出した。
【0050】
[測定試料の調製]
各待機時間における推定溶剤含有量をもとに調整した。インキを自動乳鉢で攪拌しながら溶剤を揮発させてベースを作製し、各待機時間の不揮発分に合わせて溶剤で希釈した。不揮発分は120℃、30分加熱前後での重量変化により算出した。
【0051】
[実施例1および比較例1:GREENインキ(1)およびGREENインキ(2)]
実施例1および比較例1によって、GREENインキ1およびGREENインキ2について、貯蔵弾性率(G´)、正接損失(tanδ)、複素粘性率(|η*|)と印刷適性、白抜けの関係を確認した。
【0052】
(実施例1)
EXCEDIC GREEN 0358(顔料分散体)45部、マイコート303(樹脂)20部、エピクロン1050−75X(樹脂)5部、メガファックTF−1159(表面エネルギー調整剤)0.5部、PGMAc(遅乾性溶剤)5部、酢酸イソプロピル(速乾性溶剤)24.5部を分散攪拌機で攪拌し、GREENインキ(1)を得た。GREEN(1)より、それぞれ65部、90部の溶剤を攪拌しながら揮発させ、表1の物性を示すインキの状態であるサンプル(G1−1)、およびサンプル(G1−2)を得た。
【0053】
(比較例1)
EXCEDIC GREEN 0358(顔料分散体)45部、エピクロン830s(樹脂)25部、メガファックTF−1159(表面エネルギー調整剤)0.5部、PGMAc(遅乾性溶剤)5部、酢酸イソプロピル(速乾性溶剤)24.5部を分散攪拌機で攪拌し、GREENインキ(2)を得た。GREEN(2)よりそれぞれ65部、90部の溶剤を攪拌しながら揮発させ、表1の物性を示すインキの状態であるサンプル(G2−1)、およびサンプル(G2−2)を得た。
【0054】
[実施例2および比較例2:REDインキ(1)およびREDインキ(2)]
実施例2および比較例2によって、REDインキについて、貯蔵弾性率(G´)、正接損失(tanδ)、複素粘性率(|η*|)と印刷適性、白抜けの関係を確認した。
【0055】
(実施例2)
EXCEDIC RED 0759(顔料分散体)45部、BYK2000(樹脂)25部、メガファックTF−1159(表面エネルギー調整剤)0.5部、PGMAc(遅乾性溶剤)5部、酢酸イソプロピル(速乾性溶剤)24.5部を分散攪拌機で攪拌し、RED(1)を得た。RED1より、90部の溶剤を攪拌しながら揮発させ、表1の物性を示すインキの状態であるサンプル(R1−2)を得た。
【0056】
(比較例2)
EXCEDIC RED 0759(顔料分散体)45部、マイコート775(樹脂)25部、メガファックTF−1159(表面エネルギー調整剤)0.5部、PGMAc(遅乾性溶剤)5部、酢酸イソプロピル(速乾性溶剤)24.5部を分散攪拌機で攪拌し、RED(2)を得た。RED2より、65部の溶剤を攪拌しながら揮発させ、表1の物性を示すインキの状態であるサンプル(R2−1)を得た。
【0057】
各インキサンプルの動的粘弾性の測定結果を表1に示す。これらの物性を呈する時点で転写工程を実施した。なお、印刷が不可であった比較例については、白抜けを評価していない。表中の、G´は貯蔵弾性率(MPa)を、tanδは正接損失を、η*は、複素粘性率(|η*|)を表している。
【0058】
【表1】

【0059】
貯蔵弾性率(G´)が1MPa以上で、正接損失(tanδ)が0.05〜4の場合、適正溶剤量となり印刷可能である。さらに、このとき、複素粘性率(|η*|)が1000以上になると白抜けは発生しない。
実施例1のGREENインキ(1)は、G1−1の物性を呈する時点では転写が困難で有るが、同じGREENインキ(1)をG1−2の物性の時点で転写することによって適正な印刷物が得られる。
比較例1のGREENインキ(2)は、貯蔵弾性率(G´)が1MPa以上で、正接損失(tanδ)が0.05〜4で、さらに、複素粘性率(|η*|)が1000以上という物性を呈することが出来ず、転写および白抜け防止の両性能を同時に達成することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のカラーフィルター作製用インキ組成物は、凸版反転印刷法により、微細な凹凸パターン通りに、精度良くインキ組成物を被印刷基材に転写することができ、カラーフィルター作製に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明における凸版反転印刷法の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図2】凸版反転印刷法によってブラックマトリックス膜を形成し、次いでカラー膜を形成した状態を模式的に示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 インキ塗布装置
2 ブランケット
3 インキ塗膜
4 凸版
5 被印刷基材
6 カラーインキ膜
6a 無着色白抜け
7 黒色インキ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版にて画像化し、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法によりカラーフィルターを作製するためのインキ組成物であって、
顔料、樹脂および溶剤を含有し、
転写時のインキ組成物の貯蔵弾性率が1MPa以上、正接損失が0.05〜4、かつ、転写時のインキ組成物の複素粘性率が1000以上であることを特徴とするカラーフィルター作製用インキ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のカラーフィルター作製用インキ組成物を、ブランケット表面に塗布してインキ塗膜を形成した後、このインキ塗膜の貯蔵弾性率が1MPa以上、正接損失が0.05〜4、かつ、複素粘性率が1000以上となったときに、このインキ塗膜を凸版に接触させて画像化し、さらに被印刷基材に転写することを特徴とするカラーフィルターの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のカラーフィルターの製造方法によって得られたことを特徴とするカラーフィルター。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−265116(P2009−265116A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110625(P2008−110625)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(591097964)光村印刷株式会社 (14)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】