説明

カラー印刷用平版印刷版の作製方法

【課題】 カラー印刷時、2胴目以降のブランケット上において前胴で印刷されたインキ成分が紙から転写されることに起因するインキの転写不良の発生を抑制し、高品質のカラー画像を形成しうるカラー印刷用平版印刷版の作製方法を提供する。
【解決手段】 カラー印刷用の平版印刷版の作製方法であって、複数の色相を印刷する平版印刷版のうち、印刷機において最終胴用の平版印刷版を除く各平版印刷版をFMスクリーンを用いて画像形成し、印刷機の最終胴用の平版印刷版のみをAMスクリーンを用いて画像形成することを特徴とする。FMスクリーンとしては、ドット径30μm以下のものを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオフセット印刷版として有用なカラー印刷用平版印刷版の作製方法に関するものであり、詳細には、FMスクリーンを用いたカラー印刷の印刷作業性を向上させるためのカラー印刷用平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物をよりきれいに仕上げたいとの要望に対し、印刷用網点の配列から画質の向上をはかるための取り組みは幅広く行われている。従来は、いわゆるAM(Amplitude Modulation)スクリーンと呼ばれる均等な間隔で配列された点の大きさを変えることで濃淡を表示するスクリーンが使用されていたが、AMスクリーンでは、多色印刷を行う際に、複数のスクリーンを重ね合わせた状態では、モアレ、ロゼッタという網点配置の角度因子が影響した画質劣化が生じるという問題があり、各色相毎のスクリーンの角度を調整するなど、その抑制は煩雑であった。このような画質劣化を解決する方法として、網点をランダムに配列することでモアレなどの発生を抑制したFM(Frequency Modulation)スクリーンが提案されている。FMスクリーンは、微小な網点を用いて、ランダムに配置された網点の密度を変化させて濃淡を表示するものであるが、一つ一つの網点(ドット)面積が非常に小さいため、印刷版作製時の網点再現性が不安定で、また印刷時の管理も難しいため、その利点にも拘わらず、一部で利用されるにとどまっているのが現状である。
【0003】
近年におけるレーザ、コンピュータの発展は目覚しく、印刷業界においても、コンピュータ上で編集した印刷原稿をレーザ光で直接、印刷版に描画するCTP(Computer to Plate)という形で、技術革新が進められている。このCTPの普及に伴って、印刷版を製版する際の網点再現の安定性が飛躍的に向上し、従来のリスフィルムにより製版されるPS版では困難であったFMスクリーンを用いた平版印刷版の製版(作製)を比較的簡便に行うことができるようになり、FMスクリーンがより広汎に使用されはじめている。
このような微細な網点の製版は容易になったものの、印刷工程における管理の難しさ、たとえば、以下に述べるインキの転写不良の問題は解消されておらず、改善方法が求められていた。即ち、カラー印刷において多色画を形成する場合には、平版印刷版がセットされた印刷胴を複数用いて順次各色相を印刷してカラー画像を形成するが、2胴目以降のブランケット上に前胴で印刷されたインキ成分が紙から転写される、いわゆる逆トラッピングが発生しやすくなり、2胴目以降においてそのインキ成分に起因して、1胴目で印刷されたインキ画像上に2色目を印刷する時に転写不良を引き起こす問題があり、特にイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4胴を用いるフルカラー印刷の場合、最終胴(4色印刷時には4胴目にあたり、通常は墨インキが使用される)においてインキの転写不良が著しいという問題があった。
これらの問題は、網点が小さいほど、即ち、高精細画像を形成する場合ほど発生しやすく、30μm以下のドットサイズを用いるFMスクリーンでは発生しやすく、特に20μm以下のドットサイズのFMスクリーンでは影響が大きく、高精細画像の形成にあたり、インキの転写不良の解消が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術の問題点を考慮してなされた本発明の目的は、カラー印刷時、2胴目以降、特に最終胴のブランケット上において前胴で印刷されたインキ成分が紙から転写されることに起因するインキの転写不良の発生を抑制し、高品質のカラー画像を多数枚形成しうるカラー印刷用平版印刷版の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、高品位の画像形成に重要なFMスクリーンとAMスクリーンとを印刷の色相に合わせて選択的に用いることで、インキの転写不良を抑制し、高品質の画像を形成しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明のカラー印刷用平版印刷版の作製方法は、複数の色相を印刷する平版印刷版のうち、印刷機の第1胴に用いるブラック用の平版印刷版のみをAMスクリーンを用いて画像形成し、印刷機における該第1胴用の平版印刷版を除く各平版印刷版を、FMスクリーンを用いて画像形成することを特徴とする。
ここで、印刷機の第1胴に用いられる平版印刷版を除く各平版印刷版の製版に用いられるFMスクリーンが30μm以下のドットサイズを有するFMスクリーンであり、且つ、印刷機第1胴に用いるブラック用の平版印刷版の製版に用いられるAMスクリーンが、300線から150線の範囲のAMスクリーンであることが好ましい態様である。
これを、一般のフルカラー印刷を例に挙げて説明すれば、FMスクリーンを用いたカラー印刷用の平版印刷版を作製する際、シアン、マゼンタ、イエロー、および所望により使用されるその他のカラー特色を印刷する平版印刷版をFMスクリーンを用いて作製し、第1胴に用いられる平版印刷版、通常はブラック版、のみをAMスクリーンを用いて作製することで、FMスクリーンの優れた色再現、特徴を劣化させることなく、カラー印刷時におけるインキの転写不良の問題を解消し、安定した印刷を可能としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カラー印刷時、2胴目以降のブランケット上において前胴で印刷されたインキ成分が紙から転写されることに起因するインキの転写不良の発生が抑制された、高品質のカラー画像を多数枚形成しうるカラー印刷用平版印刷版の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明においては、複数の印刷版を用いてカラー印刷を行うに際し、第1胴に用いられる平版印刷版のみをAMスクリーンを用いて画像形成、製版し、第1胴のブラック版に用いられる平版印刷版以外の各平版印刷版についてはFMスクリーンを用いて画像形成、製版することを特徴とする。
【0008】
以下、網点の状態を制御して階調表現を行う、本発明に用いられる各スクリーンの特徴を説明する。
従来用いられている、いわゆるAMスクリーンは、ドット(網点)のサイズを変更して諧調表現を行うものであるが、同じサイズの網点が均一な間隔で配置されているため、多色印刷などで複数の網点画像を重ね合わせると、もとの原稿画像との干渉により、モアレといわれるムラを生じたり、ロゼッタと呼ばれる六角形上の模様を生じたりしてしまう問題があり、このため、カラー印刷を行う際に色ごとに網点の角度を調整する必要があった。しかし、適切に網角度を調整した場合においても、これらを完全には抑制できず、例えば、複数の色相のうち、より目立たないイエロー用の平版印刷版により調整を行うなど、複雑な対応を必要としているのが現状である。
【0009】
網点の重なりによるムラの発生を抑制し、より精細なカラー印刷を得るための他の手段としては、より高線数(より小面積)の網点を用いる方法があるが、出力機(プレートセッター等)の解像度の制約や、小面積網点の耐刷性低下などの問題があるため、必要な小面積網点の使用により、さらなる問題を生じる可能性がある。例えば、2400dpiの出力機の場合、1%刻みの網点再現が得られるのは、理論上240線〔1インチ(25.4mm)幅中に240列の網点が並ぶ状態〕までであり、それ以上の高線数、仮に480線で出力した場合を考えてみると、0%、4%、8%、12%と4%刻みの諧調表現となってしまい、ハイライト部分の再現性が低下し、得られる画像のなめらかさが失われる等の問題が生じてしまう。
【0010】
このために、より精細なカラー印刷を得るために選択されたのが、本発明において用いられる、いわゆるFMスクリーンである。FMスクリーンは、網点サイズを変化させるのではなく、網点の配置間隔を変化させることで諧調表現を行うものであるが、網配置をランダムに行うことで、角度の影響を排除しており、先述のモアレ、ロゼッタなどの問題は理論的に発生しない。
近年では、コンピューターの進歩の結果、従来障害とされていたFMスクリーンにおける網配置パターンの演算も容易に行えるようになったため、網の配列に関しても詳細な計算による最適化がはかられ、使いやすさの向上が達成されている。FMスクリーンは、市販品としても入手容易であり、例えば、富士写真フイルム(株)製「TAFFETA」、クレオ(Creo)(株)製「Staccato」、ハイデルベルグ(株)製「ダイアモンドスクリーン」、同「サテンスクリーン」、大日本スクリーン(株)製「ランドット」、同「ランドットX」(いずれも商品名)等が知られている。
本発明の方法においては、高品質画像の形成性の観点から、用いられるFMスクリーンのドット径は30μm以下のものを用いた場合に本発明の効果が著しく、好ましくは10〜30μm、より好ましくは20〜30μmの範囲である。ドット径が小さすぎる場合には、本発明の効果が十分に発揮されず、さらに、網点再現安定性の低下や印刷時の耐刷性の低下などの問題を生じる懸念がある。
【0011】
これらのFMスクリーンは、主に各々のメーカーのCTPセッターとの組み合わせで導入がすすめられている。CTPの利用によって、印刷版を作成する際の網点再現の安定性が飛躍的に向上したため、FMスクリーンを用いた印刷用原版の作成が比較的簡便に行うことができるようになったものである。このため、本発明においては、各胴に用いられる平版印刷版用の原版として、以下に詳述するCTP対応の記録層を有するものが好適に使用される。
このように、FMスクリーンを用いた精細な網点画像を形成することは容易になったが、印刷時の問題点として、先に述べたように、カラー印刷時における、2胴目以降のブランケット上に前胴で印刷されたインキ成分が紙から転写されるいわゆる逆トラッピングの発生や、それに起因するインキの転写不良などは、網点が小さいほど発生しやすく、特に、400線以上のAMスクリーンや、30μm以下のドットサイズを用いるFMスクリーンの使用時に問題が生じる可能性が高いのが現状である。
特に、2胴目以降の平版印刷版の印刷時におけるインキの転写不良は、FMスクリーンを用いることで、AMスクリーンにおけるよりも著しくなるため、高精細画像の外見に大きな影響を与える最終胴に使用される墨インキの版からブランケットへの転写性を高める方法が求められていた。
【0012】
転写不良の機構については、以下のように考えられる。即ち、FMスクリーンで網点が小さくなった結果、網点などの小面積画像部に付着するインキ膜厚が薄くなってしまい、紙に転写されたインキもその分薄くなっていることが知られているが、このようにインクの付着量が少なくなったことでインキの乾燥が速くなり、ブランケットに再転写した際に、ブランケット上において、所望されない乾燥硬化が進行し、ブランケット上に堆積してしまうものと推測される。本発明者は、第1胴のみをAMスクリーンを用いて画像形成することで、その後の画質に大きな影響を与えるブラック版におけるインキ膜厚を厚くし、ブランケット上での所望されない乾燥固着による堆積を防止し、転写不良を抑制しうることを見出したものである。
【0013】
カラー印刷を行う場合、モアレ、ロゼッタなどの発生は、通常、衣服などの絵柄、グラデーション部などに発生することが多いが、本発明者らの検討によれば、このような明色のグラデーション部分においては墨版の関与は小さいことがわかった。このため、カラー印刷の場合、第1胴に用いられるブラック版(墨版)のみをAMスクリーンによる画像形成を行ったものを用いることで、第2胴以降での逆トラッピングを抑制し、第2胴以降のブランケットへの堆積を防止することを検討した結果、第1胴以外の胴における平版印刷版、具体的には、シアン、マゼンタ、イエローや、所望により4胴以降で使用される特色版を、すべてFMスクリーンを用いて画像形成、製版し、それを印刷すると、モアレやロゼッタの発生が効果的に抑制され、且つ、前記第1胴における墨版印刷のみをAMスクリーンで画像形成することで、墨版からブランケットへの転写性が大きく向上し、画質の向上、即ち、色再現の鮮やかさと高精細画像の再現性の双方を達成することを見出したものである。
【0014】
本発明において各印刷胴にセットして用いられる平版印刷版の原版としては、CTPにより画像形成可能な記録層を有するもの、具体的には、赤外線レーザ露光によりデジタルデータから直接画像形成可能であり、露光部のアルカリ現像液に対する溶解性が向上するサーマルポジ型の記録層を有する平版印刷版原版、或いは、露光部が硬化して画像形成するサーマルネガ型の記録層を有する平版印刷版原版などが好ましく挙げられる。
【0015】
以下、本発明の平版印刷版の作製方法に好適に用いられる平版印刷版原版について簡単に説明する。
〔平版印刷版原版〕
本発明に用いうる平版印刷版原版は、アルミニウム板に代表される親水性支持体上に、赤外線レーザ感光性の記録層を有してなる。
ポジ型の記録層は、水不溶、且つ、アルカリ水溶液に可溶な高分子化合物と、該高分子化合物と相互作用を形成してアルカリ水溶液に対する可溶性を低下させる溶解抑制剤と、さらに所望により赤外線吸収剤を含有し、赤外線レーザ露光のより露光領域の相互作用が解除され、アルカリ現像液に可溶になり、それを現像処理することで平版印刷版を得る。記録層は、溶解抑制能を有するシアニン色素などの赤外線吸収剤とアルカリ可溶性樹脂とを含有する態様が一般的である。
【0016】
ネガ型の記録層は、露光によりラジカルや酸などの開始種を発生しうる重合開始剤或いは酸発生剤と、重合性或いは架橋性の化合物と赤外線吸収剤とを含有し、所望によりアルカリ水溶液に可溶なバインダーを含有し、赤外線レーザ露光のより露光領域において開始種が発生し、露光領域において重合反応が進行するか架橋構造が形成され、その領域のみがアルカリ現像液に不溶となり、現像処理することで未露光部の記録層を除去して平版印刷版を得る。
このような赤外線レーザにより画像形成可能は平版印刷版原版は当該分野では広く知られており、公知の平版印刷版原版はいずれも本発明の方法に好適に使用しうる。なお、高精細画像の形成性の観点からは、ポジ型記録層を有する平版印刷版原版を用いた場合、本発明の効果が著しいといえる。
【0017】
〔平版印刷版の作製〕
支持体上に前記の如きCTP対応の記録層を有する平版印刷版原版を露光、現像することで平版印刷版を作製する。
本発明においては、複数の色相を印刷する平版印刷版のうち、印刷機において第1胴に用いられる平版印刷版を、AMスクリーンを用いて画像形成し、それ以外の各平版印刷版を、FMスクリーンを用いて画像形成する。まず、カラー印刷における第1胴に用いられるブラック版の平版印刷版の作製方法について述べる。
第1胴に用いられる平版印刷版の画像形成に用いるAMスクリーンとしては、300線以下のものが望ましく、さらに150線から240線程度のものが望ましい。
300線を越えるAMスクリーンを用いるとスクリーンを構成する網点の面積が小さくなり、転写性向上効果が低下する傾向にあり、目視で確認できる程度の十分な画質向上性が得難くなる。例えば、最終胴に用いられる平版印刷版の画像形成に450線のAMスクリーンを用いた場合には、スクリーンを構成する網点は、25.4mmの幅に450列の網点が並ぶことになり、個々のドット面積が小さいため、FMスクリーンを用いた場合に比較して転写性の差異が認め難く、諧調表現も不十分となる傾向がある。このため、インキの転写性向上効果を十分に得るためには300線以下のAMスクリーンを用いることが好ましく、150線から240線程度のAMスクリーンを用いれば、諧調表現も十分に得られ、インキ転写性の向上効果も顕著であり、さらには、画質の劣化が目立たず、高品位の画像が得られるため、より好ましい。なお、最終胴の画像形成に用いるAMスクリーンの網点が大きくなりすぎる、即ち、具体的には、150線未満のAMスクリーンを用いた場合には、画質の劣化が起こりやすくなり、本発明の如き高精細画像の形成には適切ではない。
本発明において、AMスクリーンを用いて網点を形成する具体的な工程としては、例えば、前記した市販AMスクリーンを用い、該AMスクリーンのデータ処理に対応しうるCTPセッターを用いて、平版印刷版原版を露光し、その後、アルカリ現像液により現像処理を行って製版する工程が挙げられる。
露光光源は、用いる記録層に応じて選択されるが、像露光に用いられる活性光線の光源としては、近赤外から赤外領域に発光波長を持つ光源が好ましく、固体レーザ、半導体レーザが特に好ましい。
【0018】
現像処理に用いる現像液又は補充液としては、従来公知のアルカリ水溶液を適宜選択して使用できる。アルカリ水溶液に使用しうるアルカリ剤としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、同カリウムなどの無機アルカリ塩やモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンイミン、ピリジンなどの有機アルカリ剤が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
現像液及び補充液を用いて現像処理された製版後の平版印刷版は、水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で後処理され、印刷胴にセットして印刷に用いられる。
【0020】
本発明においては、第1胴に用いられる平版印刷版のみがAMスクリーンを用いて画像形成されることを特徴とする。具体的には、2色印刷の場合には、第1胴にセットされる印刷版がAMスクリーンを用いて画像形成され、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色でフルカラー印刷を行う場合には、ブラックの印刷に用いられる第1胴に使用される平版印刷版のみがAMスクリーンを用いて画像形成され、n色の平版印刷版を用いる場合には、第一番目の胴以外、即ち、第2胴から最終胴にいたるまでに用いられる平版印刷版のみがFMスクリーンを用いて画像形成される。一般には、第1胴は、ブラック(墨)インキを用いた印刷に適用されることが多い。
【0021】
本発明においては、複数の色相を印刷する平版印刷版のうち、印刷機において前記第1胴に用いられる平版印刷版を除く各平版印刷版を、FMスクリーンを用いて画像形成する。これは、具体的には、2色印刷の場合には、第1の胴にセットされるブラック用の印刷版のみがAMスクリーンを用いて画像形成され、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色でフルカラー印刷を行う場合には、イエロー、マゼンタ、シアンの印刷に用いられる第1胴から第3胴までに使用される平版印刷版がFMスクリーンを用いて画像形成され、n色の平版印刷版を用いる場合には、第2番目の胴から第(n)番目の胴に用いられる平版印刷版がFMスクリーンを用いて画像形成される。これらの印刷版はいずれもFMスクリーンを用いて画像形成されるため、互いの色相を重ね合わせてもモアレやロゼッタが発生する懸念はない。
【0022】
ここで用いられるFMスクリーンには、特に制限はなく、網点の配列に規則性がなく、一定のサイズの網点が疑似ランダムに配置され、その密度によって画像の濃淡を表現するものであれば適宜選択して用いることができる。
FMスクリーンを用いた画像形成によれば、モアレやロゼッタ模様が発生しないという利点の他、同じ大きさの微細な網点により画像が形成されるため連続階調に見える、ディテールの再現が良くなる、低記録密度、即ち、画像のドット数が少なく、非画像部に近似するような淡色領域においても再現性が良いため、低解像度出力でも高解像度に匹敵する出力物が得られ、出力速度が速い等の特徴を有する。
【0023】
市販のFMスクリーンでは網点の直径は一般には10〜75μmであり、本発明においては、高精細画像の形成性の観点から、30μm以下のドットサイズを有するものを用いた場合に、本発明の効果が著しいといえる。
本発明において、FMスクリーンを用いて網点を形成する具体的な工程としては、例えば、前記した市販FMスクリーンを用い、該FMスクリーンのデータ処理に対応しうるCTPセッターを用いて、平版印刷版原版を露光する以外は、前記したAMスクリーンを用いた画像形成と同様に行えばよく、露光工程、現像工程、さらには所望により引き続き実施される後処理行程も前記と同様である。
このようにして得られた複数の平版印刷版をカラー印刷機の複数の印刷胴に順次セットし、インキと水性成分を供給して常法により印刷することで、高品質の印刷物を多数枚得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に従って説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
[平版印刷版の作製]
(実施例1)
カラー印刷用平版印刷版の作製は、下記の条件で行った。
平版印刷版原版としては、富士写真フイルム(株)製サーマルポジCTP版 iPresso HP−Sを用いた。
まず、前記した平版印刷版原版を4枚準備し、露光装置として富士写真フイルム(株)製サーマルCTPセッター LuxelT−9800CTPを用いて、その1枚をセットして、ブラック印刷版用の平版印刷版原版を、AMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 FQS175:175線)を用いたデータに基づいて露光し、現像液及び補充液として富士写真フイルム(株)製 現像液 DT−2/ 補充液 DT−2Rを、フィニッシャー液として富士写真フイルム(株)製 FG−1をセットした自動現像機(富士写真フイルム(株)製 LP−1310HII)により現像を行い、第1胴にセットされ、ブラックの印刷に用いられる平版印刷版を得た。
その後、シアン、マゼンタ、イエローの印刷版に用いる平版印刷版原版3枚をそれぞれの画像に応じてFMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 TAFFETA20:ドット径20μm)を用いたデータに基づいて露光し、前記と同様にして現像し、それぞれシアン、マゼンタ、イエローの印刷版に用いる平版印刷版を得た。
【0025】
これら4種の平版印刷版を印刷機(ハイデルベルグ社製 MOV 菊半4色機)の第1胴から最終(第4)胴にブラック、シアン、マゼンタ、イエローの如く順次セットし、インキ( 東洋インキ(株)製 Hy Unity MZ)及び湿し水(富士写真フイルム(株)製 IF102 4%)を供給し、印刷紙(三菱製紙 特菱アート93.5kg)に印刷を行った。オフセットのブランケットとしては、インクテック社製のdayGraphica#3000を用いた。
印刷を継続して行い、イエロー用印刷版のインキ着肉不良が発生し、高品位の画像が得られなくなる枚数を計測した。また、100枚目の印刷物を目視で観察し、モアレ、ロゼッタの発生の有無を確認した。
結果を下記表1に示す。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、ブラックの印刷版作製に用いたAMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 FQS175)に代えて、AMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 CoRe300:300線)を用いた他は実施例1と同様にして4枚の平版印刷版を得て、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0027】
(比較例1)
実施例1において、ブラックの印刷版作製に用いたAMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 FQS175)に代えて、FMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 TAFFETA20)を用いた他は実施例1と同様にして4枚の平版印刷版を得て、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表1に示す。
(比較例2)
実施例1において、シアン、マゼンタ、イエローの印刷版作製に用いたFMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 TAFFETA20)に代えて、AMスクリーン(富士写真フイルム(株)製 FQS175)を用いて画像形成した他は実施例1と同様にして4枚の平版印刷版を得て、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に明らかなように、本発明の平版印刷版の作製方法により得られたカラー印刷用平版印刷版を用いて印刷を行うと、モアレ、ロゼッタの発生が抑制され、インキ着肉性が良好で、高画質の印刷物が多数枚得られることが分かった。一方、第1胴に用いられるブラック用の平版印刷版もFMスクリーンを用いて画像形成した比較例1の印刷版では、早期にイエローの印刷版においてインキの着肉不良が発生し、また、全ての平版印刷版を、AMスクリーンを用いて画像形成した比較例2の印刷版では、画像にモアレ、ロゼッタが発生し、高品質の画像が得られなかった。
【0030】
(実施例3)
下記条件でカラー印刷用の平版印刷版を作製した。
平版印刷版原版としては、富士写真フイルム(株)製サーマルポジCTP版 iPresso HP−Sを用いた。
第1胴に用いられるブラックの印刷版に用いる平版印刷版原版をAMスクリーン(175線)を用いたデータに基づいて露光し、第2から第4の胴にセットしてシアン、マゼンタ、イエローの印刷版に用いる平版印刷版原版3枚をそれぞれの画像に応じてFMスクリーン(Creo製 Staccato20:ドット径20μm)を用いたデータに基づいて露光し、これらを現像して平版印刷版を得た。
用いた露光装置、現像装置は以下の通りである。
露光装置: Creo社製サーマルCTPセッター Trendsetter800Quantum
自動現像機: 富士写真フイルム(株)製 LP−1310HII
現像液/補充液: 富士写真フイルム(株)製現像液 DT−2/ 補充液 DT−2R
フィニッシャー液: 富士写真フイルム(株) FG−1
【0031】
これら4種の平版印刷版を印刷機(三菱製、ニューダイヤ3F−6)の第1胴から最終(第4)胴にブラック、シアン、マゼンタ、イエローの如く順次セットし、インキ(DIC社製 Values−GN)と湿し水(富士写真フイルム(株)製Ecolity−1)とを供給し、印刷紙(雷鳥特アート93.5kg)に印刷を行った。ブランケットとしては、金陽社製 S74004色機用を用いた。
印刷を継続し、実施例1と同様に評価した。結果を下記表2に示す。
【0032】
(比較例3)
実施例3において、ブラック用印刷版作製に用いたAMスクリーン(175線)に代えて、FMスクリーン(Creo製 Staccato20)を用いた他は実施例3と同様にして4枚の平版印刷版を得て、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に明らかなように、本発明の平版印刷版の作製方法により得られたカラー印刷用平版印刷版を用いて印刷を行うと、モアレ、ロゼッタの発生が抑制され、ブラックのインキ着肉性が良好で、高画質の印刷物が多数枚得られることが分かった。一方、第1胴に用いられるブラック用の平版印刷版もFMスクリーンを用いて画像形成した比較例3の印刷版では、早期にイエローの印刷版においてインキの着肉不良が発生し、印刷を継続することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラー印刷用の平版印刷版の作製方法であって、複数の色相を印刷する平版印刷版のうち、印刷機の第1胴に用いるブラック用の平版印刷版のみをAMスクリーンを用いて画像形成し、印刷機における該第1胴用の平版印刷版を除く各平版印刷版を、FMスクリーンを用いて画像形成することを特徴とするカラー印刷用平版印刷版の作製方法。
【請求項2】
印刷機の第1胴に用いるブラック用の平版印刷版の製版に用いられるAMスクリーンが、300線から150線の範囲のAMスクリーンであり、且つ、印刷機における該第1胴用の平版印刷版を除く各平版印刷版の製版に用いられるFMスクリーンが30μm以下のドットサイズを有するFMスクリーンであることを特徴とする請求項1に記載のカラー印刷用平版印刷版の作製方法。