説明

カルシウム吸収促進剤

【課題】カルシウム吸収能を向上させ、高血圧症を予防・改善し得る食品、医薬品等の提供。
【解決手段】セイヨウネズ又はその抽出物を有効成分とするカルシウム吸収促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム吸収能を向上させるカルシウム吸収促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウムは、骨や歯を形成する主要なミネラルであるのみならず、生体においても重要な役割を果たす2価カチオンである。例えば、脳血管障害、心筋梗塞、心不全等の重要な危険因子である高血圧症は、近年、その成因にカルシウムの摂取不足が関与していることが指摘され、カルシウム栄養補助食品等によるカルシウムの摂取が高血圧症の予防・改善に有用であること(非特許文献1、2)が報告され、高血圧症とカルシウムとの関係が注目されている。
従って、カルシウム摂取量を増やすことは,非常に重要な課題となっている。
【0003】
一方、食物から摂取されたカルシウムは、腸管において、腸管上皮細胞を経由するビタミンD依存性の能動輸送と、可溶性のカルシウム濃度に依存した受動輸送の2つの経路により吸収される。従って、血中カルシウム濃度を高めるためには、これらのカルシウム吸収機構を活性化することが重要である。
【0004】
従来、カルシウム吸収促進物質としては、DFAIII(ツイントース)、FOS(フラクトオリゴ糖)、CPP(カゼインホスホペプチド)、クエン酸リンゴ酸カルシウム、ビタミンD等が報告されている(特許文献1〜5)。このうち、ビタミンDは、能動輸送促進作用を有するとされているが、過剰摂取により骨、軟部組織、腎臓に障害を引き起こす可能性があり、長期に渡り摂取し続けることは安全性上問題がある。
【0005】
セイヨウネズは、ヒノキ科(ビャクシン属)の常緑性の低木であり、その果実から抽出されるエッセンシャルオイルには、抗リューマチ、鎮痙、抗毒、催淫、収斂、駆風、瘢痕形成、浄血、利尿、月経促進、神経鎮静、駆虫、発赤、鎮静、健胃、発汗、傷の回復などの作用のほか、抗菌活性があることが知られている(非特許文献3、4)。しかしながら、セイヨウネズが、カルシウム吸収促進作用を有することや高血圧に有効であることは知られていない。
【特許文献1】特開平11−43438号公報
【特許文献2】特開平7−252156号公報
【特許文献3】特開平7−308172号公報
【特許文献4】特開平9−98738号公報
【特許文献5】特開平9−121811号公報
【非特許文献1】Atallah AN, Hofmeyr GJ, Duley L ,Calcium supplementation during pregnancy for preventing hypertensive disorders and related problems (Review),The Cochrane Collaboration. Published by John Wiley & Sons, Ltd(2006)
【非特許文献2】Seminars in Nephrology,. Vol 15,No6,1995;pp550-563
【非特許文献3】ジュリア・ローレス著、武井静代訳 エッセンシャルオイル図鑑,1998;pp157
【非特許文献4】ACTA PHARMACEUTICA, Vol 55,No.4, 2005;pp417-422
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カルシウム吸収能を向上させ、高血圧症を予防・改善し得る食品、医薬品等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カルシウム吸収能を向上し得る植物成分について検討したところ、セイヨウネズ又はその抽出物に、カルシウムの能動輸送を促進する作用があり、高血圧症等の予防又は改善剤として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、セイヨウネズ又はその抽出物を有効成分とするカルシウム吸収促進剤に係るものである。
【0009】
また、本発明は、セイヨウネズ又はその抽出物を含有し、カルシウム吸収促進効果を有することを特徴とし、体内へのカルシウムの吸収を高める旨の表示を付した食品に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカルシウム吸収促進剤は、カルシウムの能動輸送を促進することから、カルシウムの摂取の低下に伴って発症する疾患、例えば高血圧等の予防、改善又は治療効果を発揮する医薬品や食品等として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、セイヨウネズとは、狭義にはヒノキ科(Cupressaceae)、ネズミサシ属(Juniperus)のセイヨウネズ(Juniperus communis)を意味するが、ネズミサシ属に属する類縁植物を用いることができる。セイヨウネズの使用部位は、花、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草を用いることができるが、果皮、果実、種子を用いるのが好ましい。また、これらは、そのまま又は粉砕して用いることができる。
【0012】
セイヨウネズの抽出物としては、上記のセイヨウネズを常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末が挙げられる。
【0013】
本発明の抽出物を得るための抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、このうち、ヘキサン、超臨界二酸化炭素などの低極性溶剤を用いるのが好ましい。
【0014】
抽出条件は、使用する溶剤によっても異なるが、例えばヘキサンにより抽出する場合、セイヨウネズ1重量部に対して1〜50重量部の溶剤を用い、4℃〜沸点、好ましくは室温〜60℃の温度で、1時間〜150日間、より好ましくは1日〜30日間抽出するのが好ましい。
【0015】
上記の抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。
また、液々分配等の技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもでき、本発明においてはこのようなものを用いることが好ましい。これらは、必要により公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。
【0016】
そして、セイヨウネズ又はその抽出物は、後記実施例に示すように、腸管モデル細胞Coco−2を用いた培養系において、カルシウムトランスポータプロテイン(CaT1)のmRNAの発現を促進する作用を有する。すなわち、セイヨウネズ又はその抽出物は、カルシウム能動輸送の促進作用を有すると言え(BMC Physiology,vol1.,2001;article No.11 online published http://www.biomedcentral.com/1472-6793/1/11,American Journal of Physiolgy,vol276,No. 4 Pt 1,1999;G958-964.)、小腸等におけるカルシウムの吸収促進効果、を発揮し得ると考えられる。従って、セイヨウネズ又はその抽出物は、カルシウム吸収促進剤として使用でき、またカルシウム吸収促進剤を製造するために使用することができる。
斯かるカルシウム吸収促進剤は、高血圧症の予防・改善・治療効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品又は食品として使用可能である。
また、当該カルシウム吸収促進剤は、高血圧症の予防・改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品として使用することができる。
【0017】
本発明のカルシウム吸収促進剤を医薬品として用いる場合の投与形態としては、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤が挙げられる。経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のセイヨウネズ又はその抽出物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0018】
本発明のカルシウム吸収促進剤を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、セイヨウネズ又はその抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0019】
また、本発明のカルシウム吸収促進剤には、セイヨウネズ又はその抽出物の他に、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム剤、DFAIII(ツイントース)、FOS(フラクトオリゴ糖)、CPP(カゼインホスホペプチド)、クエン酸リンゴ酸カルシウム、ビタミンD等を必要に応じて適宜配合し、カルシウム摂取の向上を図ることができる。
【0020】
上記各製剤中に配合されるべきセイヨウネズ又はその抽出物の配合量は、通常0.0001〜50重量%、好ましくは0.0005〜20重量%、更に好ましくは0.001〜10重量%とするのが好ましい。
【0021】
本発明のカルシウム吸収促進剤の投与量(有効摂取量)は、一日当り0.01mg/kg体重以上とするのが好ましく、特に0.1mg/kg体重以上、更に0.4mg/kg体重以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0022】
製造例1 セイヨウネズ抽出物の調製
セイヨウネズ(産地不明)の実を10gとり、100mLのヘキサンを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液88mLを得た。エバポレーターにてこの抽出液の溶媒を留去し、エタノール88mLに溶解させた。
【0023】
実施例1 CaT1遺伝子の発現促進作用
ヒト結腸癌由来細胞株Caco-2細胞をI型コラーゲンコート24wellプレート(BD Biosciences Corp.)に、1.0×105 cells/ml/wellで播いた。CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)内でCaco-2培養用培地(10%非働化ウシ胎児血清、100×MEM用非必須アミノ酸および200mMグルタミンをそれぞれ1%含有するMEMアール培地)により15日以上培養した。なお、培地は3日毎に交換した。細胞が小腸上皮様に分化したことを確認した後、製造例1にて調製したセイヨウネズ抽出物を培地1mlあたり1〜10μl添加し、48時間培養した。その後ISOGEN(日本ジーン)を用いて総RNAを抽出し、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(インビロトジェン)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを得た。なお、逆転写反応はアプライドシステムズ(株)のサーマルサイクラー(GeneAmp PCR Systems 9700)用いて行った。合成したcDNAを用いて、蛍光プローブとして、TaqMan probe(アプライドバイオシステム(株))を用いたヒトCaT1の定量的RT-PCRを行い、内部標準としては、ヒト36B4遺伝子を使用した。CaT1遺伝子の発現量は、内部標準遺伝子により標準化した後、コントロールwellの発現量を1としたときの相対値として表した。なお、RT-PCRにはアプライドバイオシステムズ(株)のシークエンスディテクター(ABI Prism 7000)を用いた。プローブ及びプライマー配列を表1に示す。
解析の結果、図1に示すようにセイヨウネズ抽出物には、用量依存的にCaT1遺伝子の発現促進作用が認められた。従って、セイヨウネズ抽出物は、カルシウム能動輸送の促進作用を有すると考えられる(BMC Physiology,vol1.,2001;article No.11 online published http://www.biomedcentral.com/1472-6793/1/11,American Journal of Physiolgy,vol276,No. 4 Pt 1,1999;G958-964.)。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2 製剤例
(1)カルシウム吸収促進飲料
下記組成物を混合し、果汁飲料を製造した。
【0026】
【表2】

【0027】
(2)カルシウム吸収促進食品
下記組成物(1錠=1000mg)を打錠し、チュアブルタイプのタブレット食品を製造した。
【0028】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】セイヨウネズエキスのCaT1発現に及ぼす影響を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウネズ又はその抽出物を有効成分とするカルシウム吸収促進剤。
【請求項2】
セイヨウネズ又はその抽出物を含有し、カルシウム吸収促進効果を有することを特徴とし、体内へのカルシウムの吸収を高める旨の表示を付した食品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−74818(P2008−74818A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259464(P2006−259464)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】