説明

カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す改変型発光蛋白質及びその使用

本発明はカルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す改変型発光蛋白質(例えば改変型クリチン)と、レポーター遺伝子システム及び細胞アッセイにおけるカルシウム指示薬としてのその使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す改変型発光蛋白質(例えば改変型クリチン)と、レポーター遺伝子システム及び細胞アッセイにおけるカルシウム指示薬としてのその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
Ca2+と反応すると発光すると報告されている発光蛋白質として、イクオリン、ハリスタウリン、オベリン、ムネミオプシン、クリチン及びベロビンを含む数種が今日までに生物から単離されている。一般に、上記発光蛋白質はいずれも寸法が比較的小さく、複合体として結合した共通の有機基質(セレンテラジン)と分子状酸素を含むと考えられている。
【0003】
イクオリンは最も広く研究されているCa2+活性化発光蛋白質であり、ヒドロ虫類のオワンクラゲ(Aequorea victoria)から単離された。イクオリンの場合、Ca2+と結合すると蛋白質の立体構造変化を生じ、蛋白質は発光(即ちλmax=470nM)しながら酸素によるセレンテラジンの酸化を触媒する酵素に転化する。イクオリンは例えばStables et al.(Anal.Biochem.,252:115−126(1997))に記載されているように、細胞内で特にG蛋白質共役型受容体(GPCR)に介在されるようなカルシウム流動を検出するために使用されている。更に、例えばUngrin et al.(Anal.Biochem.,272:34−42(1999))に記載されているように、GPCRの高スループットスクリーニングでイクオリン介在性発光カルシウムアッセイが使用されている。更に、例えば米国特許第6,872,538号に記載されているように、薬剤スクリーニングアッセイでイクオリンを発現する細胞も使用されている。
【0004】
例えばイクオリン等のカルシウム活性化発光蛋白質は例えばGPCRにより刺激されるカルシウム流動の検出用や薬剤スクリーニングで使用されているが、イクオリンのカルシウム親和性は受容体により誘導されるサイトゾルカルシウム濃度(例えば0.1μM〜0.2μMの範囲)に比較してかなり低い(即ち約7μM程度)。更に、ミトコンドリアを標的としたイクオリンはGPCR刺激後により良好なシグナルを生じるようであるが、ミトコンドリアにおけるカルシウム蓄積は不均一であり、一般にミトコンドリアにおけるイクオリン発現量はサイトゾルに比較して低いため、カルシウム親和性は低い。
【0005】
同様に、例えばオベリンやクリチン等の他のカルシウム活性化発光蛋白質もカルシウム親和性が低い、及び/又は発光レベルが低いと報告されている。例えばInouye and Sahara,Protein Express.Purif.,53:384−389(2007);Bovolenta et al.,J.Biomol.Screen,12:694−704(2007)参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,872,538号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stables et al.(Anal.Biochem.,252:115−126(1997))
【非特許文献2】Ungrin et al.(Anal.Biochem.,272:34−42(1999))
【非特許文献3】Inouye and Sahara,Protein Express.Purif.,53:384−389(2007)
【非特許文献4】Bovolenta et al.,J.Biomol.Screen,12:694−704(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は少なくとも一面において、当分野で公知の野生型(wt)発光蛋白質(例えばwtイクオリン及び/又はwtクリチン及び/又はwtオベリン)に比較して細胞内カルシウム親和性の増加及び/又は生物発光の増強を示す改変型発光蛋白質(例えば改変型クリチン)を提供する。本発明は更に、例えばGPCRにより刺激されるようなカルシウム流動の検出用細胞アッセイにおける前記発光蛋白質の使用と、薬剤発見におけるその使用も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の所定態様では、アミノ酸配列を配列番号1に記載するwtクリチンのEFハンドIIIドメインに少なくとも1カ所のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を含む改変型発光蛋白質を提供し、前記改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す。
【0010】
所定態様において、本発明の改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列の少なくとも168位のリジンがヒスチジン、アルギニン及びリジン以外のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列を含み、前記改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す。
【0011】
特定態様では、配列番号1に記載のアミノ酸配列の少なくとも168位のリジンがアスパラギン酸で置換されたアミノ酸配列を含む改変型発光蛋白質を提供し、前記改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質と配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質の両方に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を含む。
【0012】
各種態様において、本発明の改変型発光蛋白質はwtクリチン及び/又はwtイクオリンに比較して細胞内カルシウム親和性の増加を示す。所定態様において、改変型発光蛋白質は細胞内カルシウムに対して500nM以下のEC50値を含み、前記改変型発光蛋白質は配列番号2に記載のアミノ酸配列又はその変異体を含まない。
【0013】
本発明に含まれる改変型発光蛋白質としては、配列番号9(K168D)、配列番号11(K168E),配列番号15(K168G)、配列番号17(K168N)、配列番号19(K168Q)、配列番号21(K168S)、配列番号23(K168T)、配列番号25(K168V)及び配列番号27(K168Y)から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む発光蛋白質が挙げられる。
【0014】
各種態様において、本発明に含まれる改変型発光蛋白質はアミノ酸配列を配列番号1に記載するwtクリチンに比較して細胞内カルシウム親和性の増加を示す。所定態様において、本発明の改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して1.5%、又は2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は20%、又は25%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は90%を上回る細胞内カルシウム親和性の増加を示す。
【0015】
更に、各種態様において、本発明に含まれる改変型発光蛋白質はwtクリチンに比較して生物発光の増強を示す。所定態様において、本発明の改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して1.5%、又は2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は20%、又は25%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は90%を上回る生物発光の増加を示す。
【0016】
本発明に含まれる各種発光蛋白質はwtクリチンとwtイクオリンの一方又は両方に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を同時に示す。
【0017】
所定態様において、本発明の1種以上の発光蛋白質により示される細胞内カルシウム親和性と生物発光は改変型発光蛋白質をコードする核酸分子をトランスフェクトした細胞内で測定される。典型的な細胞としては、限定されないが、CHO細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞及びU−2OS細胞が挙げられる。
【0018】
本発明の発光蛋白質をコードする核酸分子と、このような核酸分子を含むベクターも本発明に含まれる。他の態様では、本発明の改変型発光蛋白質をコードする核酸をトランスフェクトした哺乳動物細胞を提供する。
【0019】
他の態様では、本発明に含まれる改変型発光蛋白質の使用方法を提供する。
【0020】
所定態様では、細胞内のカルシウム流動のインビトロ検出方法を提供する。このような方法は、a)本願に記載するような改変型発光蛋白質を発現する細胞を準備する段階と、b)カルシウム流動を誘導する物質と前記細胞を接触させる段階と、c)発光蛋白質の生物発光を検出する段階を含み、生物発光をカルシウム流動の指標とする。
【0021】
他の態様では、GPCR活性又はイオンチャネルを調節する化合物のスクリーニング方法を提供し、このような方法は、a)本願に記載するような改変型発光蛋白質を発現する細胞を準備する段階と、b)前記細胞を候補化合物と接触させる段階と、c)発光蛋白質の生物発光を検出する段階を含み、候補化合物の存在下で発光蛋白質の生物発光が変化する場合に、前記化合物はGPCR活性又はイオンチャネル活性を調節すると判断する。
【0022】
各種態様において、カルシウム流動はGPCR活性又はイオンチャネルの活性の調節により誘導される。典型的なGPCRとしては、限定されないが、H1ヒスタミン受容体、胃抑制ポリペプチド(GIP)受容体、GLP−1受容体、グルカゴン受容体、S1Pスフィンゴシン1−リン酸受容体、EPプロスタグランジン受容体又はEPプロスタグランジン受容体が挙げられる。典型的なイオンチャネルとしては一過性受容体電位型チャネルA1(TRPA1)が挙げられる。
【0023】
所定態様において、改変型発光蛋白質はミトコンドリアシグナル配列を含む。典型的なミトコンドリアシグナル配列は例えば配列番号8に記載のCOX8ミトコンドリア配列である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】発光蛋白質であるクリチン(配列番号1)、イクオリン(配列番号2)、ミトロコミン(配列番号3)及びオベリン(配列番号4)のアミノ酸配列アラインメントを示す。カルシウム結合性ヘリックスターンヘリックス(HTH)/EFハンドモチーフを四角で囲む。配列一致箇所をアステリスク(*)で示し、配列類似箇所をコロン(:)で示す。
【図2】HEK293T細胞で一過的コトランスフェクションアッセイを使用し、野生型ミトコンドリアイクオリン(アミノ酸配列を配列番号6に記載するmtイクオリン)、野生型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号5に記載するmtクリチン)、野生型ミトコンドリアオベリン(アミノ酸配列を配列番号7に記載するmtオベリン)、改変型ミトコンドリアクリチン(K168D)(アミノ酸配列を配列番号10に記載するmtクリチンK168D)及び改変型ミトコンドリアクリチン(K168E)(アミノ酸配列を配列番号12に記載するmtクリチンK168E)のカルシウム親和性を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。X軸はカルシウム濃度を示し、Y軸は指定濃度のカルシウムの存在下で放出された生物発光と1.5mM CaClの存在下で放出された生物発光の比の正規化対数(log(L/Lmax))を示す。
【図3】H1ヒスタミン受容体と、野生型ミトコンドリアイクオリン(アミノ酸配列を配列番号6に記載するmtイクオリン)、野生型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号5に記載するmtクリチン)、野生型サイトゾルイクオリン(アミノ酸配列を配列番号2に記載するwtイクオリン)、野生型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号1に記載するwtクリチン)、改変型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号10に記載するmtクリチンK168D)又は改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたU−2OS細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。X軸は細胞に添加したヒスタミンの濃度を示し、Y軸は相対発光強度(RLU)で測定した生物発光を示す。
【図4】H1ヒスタミン受容体と、野生型ミトコンドリアイクオリン(アミノ酸配列を配列番号6に記載するmtイクオリン)、野生型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号5に記載するmtクリチン)、野生型サイトゾルイクオリン(アミノ酸配列を配列番号2に記載するwtイクオリン)、野生型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号1に記載するwtクリチン)、改変型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号10に記載するmtクリチンK168D)又は改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたU−2OS細胞において1mM CaClの存在下でTriton X−100を使用して細胞膜の透過により誘導される生物発光の変化と受容体により介在される生物発光の変化を比較するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。Y軸は相対発光強度(RLU)で測定した生物発光を示す。細胞にトランスフェクトした個々の発光蛋白質をX軸に示す。
【図5】GIP(胃抑制ポリペプチド)受容体と、キメラプロミスキャスG蛋白質と、野生型ミトコンドリアイクオリン(アミノ酸配列を配列番号6に記載するmtイクオリン)、野生型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号5に記載するmtクリチン)、野生型ミトコンドリアオベリン(アミノ酸配列を配列番号7に記載するmtオベリン)、野生型サイトゾルイクオリン(アミノ酸配列を配列番号2に記載するwtイクオリン)、野生型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号1に記載するwtクリチン)、野生型サイトゾルオベリン(アミノ酸配列を配列番号4に記載するwtオベリン)、改変型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号10に記載するmtクリチンK168D)又は改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたHEK293T細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。X軸は細胞に添加したGIPの濃度を示し、Y軸は相対発光強度(RLU)で測定した生物発光を示す。
【図6】図6A〜6EはGLP−1(グルカゴン様ペプチド1)受容体、グルカゴン受容体、S1P2(スフィンゴシン1−リン酸受容体2)受容体、EP1受容体及びEP3受容体(後者2種はプロスタグランジンEの受容体)と、キメラプロミスキャスG蛋白質(GLP−1受容体、グルカゴン受容体及びS1P2受容体の場合)と、改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたHEK293T細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。X軸は細胞に添加した各受容体の対応するリガンドの濃度を示し、Y軸は相対発光強度(RLU)で測定した生物発光を示す。
【図7−1】図7A〜7FはGIP受容体(胃腸ペプチド受容体)、CXCR1受容体、CXCR4受容体、グルカゴン受容体、GLP−1受容体又はEP1受容体と、キメラプロミスキャスG蛋白質と、改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたHEK293T細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。図7GはD2受容体と、プロミスキャスG蛋白質と、改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号11に記載するクリチンK168E)を安定的に発現するCHO−K1細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。グラフに示す生物発光データはFLIPRTetra Plus高スループット発光プレートリーダー(Molecular Devices)で取得した。
【図7−2】図7A〜7FはGIP受容体(胃腸ペプチド受容体)、CXCR1受容体、CXCR4受容体、グルカゴン受容体、GLP−1受容体又はEP1受容体と、キメラプロミスキャスG蛋白質と、改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたHEK293T細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。図7GはD2受容体と、プロミスキャスG蛋白質と、改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号11に記載するクリチンK168E)を安定的に発現するCHO−K1細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。グラフに示す生物発光データはFLIPRTetra Plus高スループット発光プレートリーダー(Molecular Devices)で取得した。
【図8】TRPA1カチオンチャネルをコードするcDNAを安定的に発現し、野生型ミトコンドリアイクオリン(アミノ酸配列を配列番号6に記載するmtイクオリン)、野生型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号5に記載するmtクリチン)、野生型サイトゾルイクオリン(アミノ酸配列を配列番号2に記載するwtイクオリン)、野生型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号1に記載するwtクリチン)、改変型ミトコンドリアクリチン(アミノ酸配列を配列番号10に記載するmtクリチンK168D)又は改変型サイトゾルクリチン(アミノ酸配列を配列番号9に記載するK168D)をコードするcDNAを一過的にコトランスフェクトしたHEK293細胞における生物発光の受容体介在性変化を測定するための典型的実験の結果をまとめたグラフを示す。X軸は細胞に添加したイソチオシアン酸アリル(AITC)の濃度を示し、Y軸は相対発光強度(RLU)で測定した生物発光を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明はwtクリチン及び/又はwtイクオリン及び/又はwtオベリンに比較してカルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す改変型発光蛋白質(例えば改変型クリチン)と、レポーター遺伝子システム及び細胞アッセイにおけるカルシウム指示薬としてのその使用を提供する。
【0026】
I.定義
本発明を理解し易くするために、先ず所定の用語について定義する。その他の定義については詳細な説明の随所に記載する。
【0027】
「発光蛋白質」又は「Ca2+活性化発光蛋白質」なる用語は本願では同義に使用し、カルシウムと結合すると発光する蛋白質を意味する。発光蛋白質は一般に海洋腔腸動物から単離され、カルシウムの存在下で細胞内反応により可視光を放出する。公知発光蛋白質のカルシウム結合部位は他のCa2+結合性蛋白質(例えばカルモジュリン)に存在する部位と同様であるが、システイン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン及びチロシン残基の含有量が比較的高いという点で他のCa2+蛋白質と相違する。
【0028】
典型的な発光蛋白質としては、限定されないが、オベリン、クリチン、イクオリン、ハリスタウリン、ムネミオプシン及びベロビンが挙げられ、一般にルシフェラーゼを除外する。これらの全発光蛋白質はアポ蛋白質と、イミダゾピラジン発色団(セレンテラジン)と、酸素の複合体である。
【0029】
所定態様において、本発明は改変型発光蛋白質を提供する。特定態様において、本発明は改変型クリチンに関する。発光蛋白質であるクリチン(配列番号1)、イクオリン(配列番号2)、ミトロコミン(配列番号3)及びオベリン(配列番号4)のアミノ酸配列アラインメントを図1に示す。
【0030】
「改変型発光蛋白質」又は「Ca2+活性化改変型発光蛋白質」なる用語は本願では同義に使用し、野生型発光蛋白質のアミノ酸配列変異体(例えばwtクリチンの変異体;wtクリチンのアミノ酸配列は配列番号1に記載する)であって、wtクリチンが示す細胞内カルシウム親和性及び生物発光に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す変異体を意味する。所定態様において、本発明の改変型発光蛋白質はwtクリチンのヘリックスターンヘリックス(HTH)ドメイン(例えばEFハンドIIIドメイン)に少なくとも1カ所のアミノ酸変異を含み、前記改変型発光蛋白質はwtクリチンが示す細胞内カルシウム親和性及び生物発光に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す。所定態様において、改変型発光蛋白質は配列番号1の少なくとも168位のリジン残基がヒスチジン、アルギニン及びリジン以外のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列を含み、前記改変型発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す。所定態様において、改変型発光蛋白質は配列番号1の少なくとも168位のリジン残基がアスパラギン酸で置換されたアミノ酸配列を含み、前記発光蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質と配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質の両方に比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す。
【0031】
典型的態様において、本発明の改変型発光蛋白質は配列番号9(K168D)、配列番号11(K168E)、配列番号15(K168G)、配列番号17(K168N)、配列番号19(K168Q)、配列番号21(K168S)、配列番号23(K168T)、配列番号25(K168V)及び配列番号27(K168Y)から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む。所定態様において、本発明の改変型発光蛋白質は更に、ミトコンドリアを標的としたシグナル配列、例えばアミノ酸配列を配列番号8に記載するCOX8ミトコンドリアタグを含む。
【0032】
EFハンドドメインは本発明に含まれる発光蛋白質を含むカルシウム結合性蛋白質の広範なファミリーに存在するヘリックスターンヘリックス(HTH)構造ドメインである。このドメインは相互にほぼ垂直に配置され、通常ではカルシウムイオンと結合する短いループ領域(通常では約12アミノ酸)により結合された2個のαヘリックスから構成される。EFハンドドメインの名称は、このようなモチーフ3個を含み、そのカルシウム結合活性により筋肉弛緩に関与すると考えられている蛋白質であるパルブアルブミンの説明に使用されている伝統的な命名法に由来する。EFハンドドメインはシグナル伝達蛋白質であるカルモジュリンの各構造ドメインと、筋蛋白質であるトロポニンCにも認められる。
【0033】
「HTH IVドメイン」又は「EFハンドIIIドメイン」なる用語はクリチンに存在する4個のヘリックスターンヘリックスドメイン(そのうちの3個はEFハンドドメインである)の4番目と、3個のEFハンドドメインの3番目を意味し、アミノ酸残基162〜173を含み、アミノ酸配列DLDNSGKLDVDE(配列番号31)を含む。クリチンのHTH IVドメイン(又はEFハンドIIIドメイン)は生理的濃度に対応する濃度でカルシウムと結合すると報告されている。
【0034】
理論にとらわれるものではないが、当然のことながら、本発明に含まれるアミノ酸配列変異体は親アミノ酸配列内の任意位置に1個以上のアミノ酸が置換、欠失及び/又は挿入され、少なくとも1個のHTHドメイン(例えばEFハンドIIIドメインに存在するクリチンの168位)に少なくとも1カ所のアミノ酸残基置換を含むという点で元の親アミノ酸配列と相違していてもよく、前記変異体はカルシウム親和性の増加(例えばHEK293T細胞において細胞内カルシウムに対して500nM以下のEC50値)と生物発光の増強を示す。所定態様において、アミノ酸配列変異体は親配列(即ち配列番号1に記載のwtクリチン)に対して少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約96%、又は少なくとも約97%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の一致度をもち、このような変異体は細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示し、このような変異体は配列番号2に記載のアミノ酸配列又はその変異体を含まない。
【0035】
「配列一致度」なる用語はデフォルトギャップ重みを使用してプログラムGAP又はBESTFIT等により2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列を最適に整列させたときに、少なくとも70%の配列一致度、又は少なくとも80%の配列一致度、又は少なくとも85%の配列一致度、又は少なくとも90%の配列一致度、又は95%以上の配列一致度(例えば99%以上の配列一致度)をもつことを意味する。配列比較のためには、一般にある配列(例えば親配列)を参照配列とし、試験配列をこれに比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定したプログラムパラメータに基づき、参照配列に対する試験配列の配列一致度百分率を計算する。
【0036】
比較のための配列の最適アラインメントは例えばSmith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視検査(一般にAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology参照)により実施することができる。配列一致度及び配列類似度百分率の決定に適したアルゴリズムの1例はAltschul et al.,J.Mol.Biol.215:403(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST解析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Informationから公共入手可能(National Institutes of Health NCBIインターネットサーバーを通して公共アクセス可能)である。一般に、配列比較を実施するにはデフォルトプログラムパラメータを使用することができるが、カスタマイズパラメータも使用できる。アミノ酸配列では、BLASTPプログラムは語調(W)3、期待値(E)10及びBLOSUM62スコアリングマトリックスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915(1989)参照)。MUSCLE(Multiple Sequence Comparison by Log Expectation)アルゴリズム(Edgar,Nucl.Acids Res.32:1792(2004))により多重配列アラインメントを実施するためのソフトウェアはEuropean Bioinformatics Instituteインターネットサーバーを通してEuropean Molecular Biology Laboratoriesから公共入手可能である。
【0037】
1態様において、本発明の改変型発光蛋白質はwtクリチンの(即ち配列番号1に記載の)アミノ酸配列に基づき、前記改変型発光蛋白質は少なくとも168位のリジンアミノ酸残基がヒスチジン、アルギニン及びリジン以外のアミノ酸残基で置換されている。所定態様において、配列番号1の168位のリジンはスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン、セリン、スレオニン、バリン、チロシン及びグルタミンから選択されるアミノ酸で置換され、改変型発光蛋白質は野生型発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン及び/又はオベリン)に比較してカルシウム親和性の増加(例えばHEK293T細胞において500nM以下のEC50値)と生物発光の増強を示す。特定態様において、本発明の改変型発光蛋白質は少なくとも168位のリジンがアスパラギン酸で置換されたアミノ酸配列を含み、前記改変型発光蛋白質はwtクリチン及びwtイクオリンに比較して細胞内カルシウム親和性の増加と生物発光の増強を示す。
【0038】
所定態様において、本発明の改変型発光蛋白質はミトコンドリアを標的とした配列(例えば配列番号8に記載の配列)を含む。所定態様において、ミトコンドリアを標的とした配列を含むクリチンの変異体は配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26及び配列番号28に記載のものである。
【0039】
配列番号1の168位のリジンに置換するのに適したアミノ酸としては、ヒスチジン、アルギニン及びリジン以外の任意天然アミノ酸が挙げられる。所定態様において、168位のリジンに置換するのに適したアミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、チロシン及びグルタミンから選択される天然アミノ酸の1種が挙げられる。当分野で周知の非天然アミノ酸及びアミノ酸誘導体も168位のリジンに置換するために使用することができる。
【0040】
本願で使用する「生物発光」、「発光」、「生物発光性」又は「発光性」なる用語は本発明の改変型発光蛋白質が2価カチオン(例えばCa2+)と結合して可視光を放出する能力を意味する。生物発光反応には一般にルシフェリン、ルシフェラーゼ及び分子状酸素の主要3成分が必要である。また、カチオン(例えばCa2+及びMg2+)や補因子(例えばATP、NAD(P)H)を含む他の成分も必要な場合もある。ルシフェラーゼは基質であるルシフェラーゼの酸化を触媒し、不安定な中間体を生成する酵素である。不安定な中間体がその基底状態まで減衰し、オキシルシフェリンを生成すると、発光する。生物発光は当分野で公知の1種以上の技術及び本願に記載する技術を使用して測定することができ、限定されないが、例えばVictor2及びLumilux(PERKINELMER)、FLIPR及びFlexStation(MOLECULAR DEVICES/MDS ANALYTICAL)、Mithras(BERTHOLD TECHNOLOGIES)、FDSS(HAMAMATSU PHOTONICS)並びにPHERAstar(BMG LABTECH)等のルミノメーターの使用が挙げられる。
【0041】
本願で使用する「生物発光の増強」なる用語は改変型発光蛋白質の生物発光がCa2+の存在下でwt発光蛋白質に比較して何らかの増加を示すことを意味する。例えば、典型的態様において、本願に記載する改変型クリチン(例えば168位にアミノ酸変異をもつクリチン)等の改変型発光蛋白質の生物発光は細胞内Ca2+を増加させる物質で刺激した生細胞中又は種々の濃度のCa2+を含有する溶液に暴露した浸透化細胞中で測定した場合に、wtクリチン及び/又はwtイクオリンの生物発光に比較して増強している。カルシウムの存在下の改変型発光蛋白質の生物発光はwt発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン及び/又はオベリン)の生物発光に比較して約1.5%、又は約2%、又は約3%、又は約4%、又は約5%、又は約10%、又は約20%、又は約30%、又は約40%、又は約50%、又は約60%、又は約70%、又は約80%、又は約90%、又は90%を上回るまで増加させることができる。所定態様において、カルシウムの存在下の改変型発光蛋白質の生物発光はwt発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン)に比較して約1.5倍、又は2倍、又は5倍、又は10倍、又は15倍、又は20倍、又は25倍、又は30倍、又は35倍、又は40倍、又は45倍、又は50倍、又は55倍、又は60倍、又は65倍、又は70倍、又は75倍、又は80倍、又は85倍、又は90倍、又は90倍を上回るまで増加する。
【0042】
細胞内カルシウムが多くの重要な生理的応答及び病態生理的状態のモジュレーターとして機能することはよく知られている。これらの場合の大半では、細胞外シグナルが受容体(例えばGPCR及びイオンチャネル)を介して受容され、細胞内Ca2+濃度の変化に変換され、その結果、限定されないが、Ca2+感受性キナーゼ、プロテアーゼ及び転写因子の調節等のCa2+感受性変化が細胞の内側に生じる。従って、細胞内プロセスの把握と細胞蛋白質の調節には細胞内Ca2+濃度の測定が不可欠である。更に、Ca2+は細胞内シグナル伝達において中心的な役割を果たすため、薬剤発見における非常に魅力的なレポーターとなる。限定されないが、G蛋白質共役型受容体(GPCR)、イオンチャネル及びトランスポーターを含む医薬産業に重要な多くの薬剤標的分類は活性化されると、Ca2+動員を誘発し、これを「カルシウム流動」と言う。
【0043】
細胞内Ca2+濃度又はカルシウム流動の変化は蛍光色素(例えばfura−2及びindo−1)(例えばR.Y.Tsien,Nature 290,527(1981);R.Y.Tsien,T.Pozzan,T.J.Rink,J.Cell.Biol.94,325(1982)参照)、Ca2+感受性生物発光クラゲ蛋白質であるイクオリン(例えばE.B.Ridgway and C.C.Ashley,Biochem.Biophys.Res.Commun.29,229(1967))又はCa2+感受性微小電極(例えばC.C.Ashley and A.K.Campbell,Eds.,Detection and Measurement of Free Ca2+ in cells(Elsevier,North−Holland,Amsterdam,1979))を使用して検出することができる。典型的な実験では、発光蛋白質を発現する哺乳動物細胞にセレンテラジン補因子を添加し、細胞内カルシウム濃度の指標であるフォトン放出を検出することにより細胞内カルシウム濃度を測定することができる。
【0044】
本発明は公知発光蛋白質に比較して細胞内Ca2+親和性の増加を示す改変型発光蛋白質を提供する。従って、本発明の改変型発光蛋白質は細胞内Ca2+濃度の変化に対する感受性が高いため、カルシウム流動の検出用の公知蛋白質及び試薬よりも優れている。改変型発光蛋白質は野生型発光蛋白質よりも細胞内カルシウム濃度変化に対する感受性が高いため、改変型発光蛋白質はGPCR又はイオンチャネル活性のモジュレーターのスクリーニング、特に細胞内カルシウム濃度が少ししか変化しないようなモジュレーターのスクリーニング用アッセイで使用するのに極めて有用である。
【0045】
本願で使用する「細胞内カルシウム親和性の増加」なる用語は本発明の改変型発光蛋白質(例えば168位にアミノ酸置換をもつ配列番号1に記載のクリチン)の細胞内カルシウム親和性が野生型発光蛋白質(例えばwtイクオリン及び/又はwtクリチン及び/又はwtオベリン)に比較して何らかの増加を示すことを意味する。例えば、細胞内カルシウム親和性を野生型発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン及びwtオベリン)に比較して約1.5%、又は約2%、又は約3%、又は約3.5%、又は約4%、又は約5%、又は約10%、又は約20%、又は約30%、又は約40%、又は約50%、又は約60%、又は約70%、又は約80%、又は約90%、又は約95%、又は約96%、又は約97%、又は約98%、又は約99%以上増加させることができる。所定態様において、細胞内カルシウム親和性の増加とは、細胞内カルシウムに対する改変型発光蛋白質のEC50値が野生型発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン及び/又はwtオベリン)に比較して低下することを意味する。発光蛋白質のカルシウム親和性は当分野で周知の技術及びアッセイを使用して測定することができ、限定されないが、本願に記載するものが挙げられる。下記実施例に記載する典型的なアッセイでは、発光蛋白質を発現する細胞にセレンテラジンを添加した後、濃度を変えてカルシウムを細胞に添加後に細胞により放出される生物発光を測定することによりカルシウム親和性を測定する。
【0046】
本願で使用する「細胞内カルシウムに対するEC50値」なる用語は飽和量のカルシウム(即ちカルシウム濃度をそれ以上増加しても発光シグナルのそれ以上の増加を生じないような濃度のカルシウム)の存在下で発光シグナルに認められるシグナルの50%のレベルまで発光シグナル(即ち生物発光)を誘発する遊離カルシウム濃度を意味する。本願で使用する細胞内カルシウムに対するEC50値は改変型発光蛋白質の細胞内カルシウム親和性の尺度である。EC50値は当分野で公知の1種以上のアッセイ及び本願、例えば下記実施例のセクションに記載するアッセイにより測定することができる。典型的態様において、本発明の改変型発光蛋白質はHEK293T細胞中で細胞内カルシウムに対するEC50値が500nM以下であり、前記改変型発光蛋白質はwtイクオリン又はその変異体以外のものである(例えば配列番号2に記載のアミノ酸配列又はその変異体を含まない)。
【0047】
所定態様では、細胞内カルシウムに対する改変型発光蛋白質のEC50値を野生型発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン及び/又はwtオベリン)のEC50値に比較して約1.5%、又は2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は15%、又は20%、又は25%、又は30%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は95%、又は95%を上回るまで低下させる。所定態様では、本発明の改変型発光蛋白質のEC50値を野生型発光蛋白質(例えばwtクリチン及び/又はwtイクオリン及び/又はwtオベリン)のEC50値に比較して約10nM、又は20nM、又は30nM、又は40nM、又は50nM、又は60nM、又は70nM、又は80nM、又は90nM、又は100nM、又は110nM、又は120nM、又は130nM、又は140nM、又は150nM、又は160nM、又は170nM、又は180nM、又は190nM、又は200nM、又は210nM、又は220nM、又は230nM、又は240nM、又は250nM、又は260nM、又は270nM、又は280nM、又は290nM、又は300nM、又は310nM、又は320nM、又は330nM、又は340nM、又は350nM、又は360nM、又は370nM、又は380nM、又は390nM、又は400nM、又は410nM、又は420nM、又は430nM、又は440nM、又は450nM、又は450nMを上回るまで低下させる。
【0048】
「GPCR」なる用語は各種細胞シグナル伝達経路に関与するG蛋白質共役型受容体を意味する。自然界における最大で最も多様な蛋白質ファミリーの1種として、G蛋白質共役型受容体(GPCR)スーパーファミリーは発生及び増殖、神経調節、血管新生、代謝障害、炎症、並びにウイルス感染等の各種生物及び病理プロセスにおいて重要な役割を果たす。このファミリーは今日の医薬研究で最も標的とされている蛋白質ファミリーの1種である。GPCRスーパーファミリーの全メンバーは同様の7回膜貫通ドメインをもつが、共通配列モチーフに基づいて分類することができる。例えば、クラスAはロドプシン様GPCRを含み、クラスBはセクレチン様GPCRを含み、クラスCは代謝型グルタミン酸/フェロモンGPCRを含み、クラスDは真菌フェロモンGPCRを含み、クラスEはcAMP GPCRを含む。その他のGPCRはフリズルド/スムーズンド(Frizzled/Smoothened)GPCR、鋤鼻器GPCR及び一部の未分類に分類することができる。
【0049】
下表Iは本願に記載する核酸配列及びアミノ酸配列の一覧を対応する配列識別子(配列番号)と共に示す。
【0050】
【表1】


【0051】
II.典型的な発光蛋白質
本発明は改変型Ca2+結合性発光蛋白質に関する。Ca2+結合性発光蛋白質は原生動物門、刺胞動物門及び有櫛動物門の発光生物により使用され、光を生成する蛋白質−基質−酸素複合体である。文献に記載されている典型的なCa2+結合性発光蛋白質としては、タラシコリン、イクオリン、ミトロコミン、クリチン(別称フィアリジン)、オベリン、ムネミオプシン及びベロビンが挙げられる。これらの発光蛋白質のうち、イクオリン、ミトロコミン、クリチン及びオベリンの4種は刺胞動物門ヒドロ虫網に由来し、比較的寸法が小さい(21.4〜27.5kDa)。
【0052】
セレンテラジンはこれらの発光蛋白質イクオリン、ミトロコミン、クリチン及びオベリンに含まれる共通の発光発色団であるため、これらの4種の発光蛋白質において発光反応は同一であると考えられる(Tsuji et al.,Photochem.Photobiol.,62:657−661(1995))。従来の命名法ではこれらの発光蛋白質の名称を発色団と複合体化したポリペプチドと定義しており、発色団を含まない発光蛋白質をアポ蛋白質(例えばアポイクオリン、アポクリチン、アポオベリン及びアポミトロコミン)と呼んでいる。更に、Ca2+結合性発光蛋白質は強く結合したO分子を保持すると思われる。カルシウムイオンが発光蛋白質と結合すると、これらの蛋白質はセレンテラジンとOの酸化を触媒し、セレンテラミド、CO及び最大発光波長470nmのフォトンを生じる。
【0053】
イクオリンは毒性が低いため、1960年代初頭以来、細胞内カルシウム指示薬として使用されている。イクオリンの当初の用法では生化学的に精製した酵素を利用し、標的細胞に微量注入していた(Blinks et al.Pharmacol Rev.,28:1−93(1976))。
【0054】
分子クローニングの結果、アポイクオリンは1本のポリペプチド鎖で189アミノ酸残基から構成され、4個のHTHドメインを含み、そのうちの3個はEFハンドCa2+結合部位の特徴を表すアミノ酸配列をもつことが判明した(Inouye et al.,Proc.Natl.Acad Sci USA,82:3154−3158(1985))。イクオリンの遺伝子クローニングは細胞内又は個体内における組換え発現への道を開いた。組換えイクオリンcDNAに細胞内標的シグナル配列のタグを付けて発現させ、イクオリンを特定の細胞内区画に輸送することにより、これらの区画内で特異的にカルシウム濃度を測定することが可能になる(Rizzuto et al.,Methods Cell Biol.40:339−358(1994))。ミトコンドリアを選択的に標的としたイクオリンによるこのような研究の結果、Ca2+が小胞体(ER)ストアから放出されると、ミトコンドリアはサイトゾル内の濃度を上回る濃度までカルシウムを蓄積することが判明した。
【0055】
多くのGPCRはイノシトール三リン酸を介してERストアからのカルシウム放出を刺激することによりシグナル伝達する。従って、イクオリンはGPCR介在性カルシウム流動を測定するために利用されている。ミトコンドリアを標的としたイクオリンを使用して細胞内カルシウム流動を容易に測定できるため、多様なGPCRのモジュレーターの高スループットアッセイの開発が可能になった(Stables et al.,Anal.Biochem.,252:115−126(1997);Ungrin et al.,Anal.Biochem.,272:34−42(1999))。更に、イクオリンはカルシウムイオンチャネル機能の高スループット解析にも利用されている(Walstab et al.,Anal.Biochem.,368:185−192(2007))。
【0056】
III.クリチンの構造
別の発光蛋白質であるクリチン(別称フィアリジン)はヒドロ虫Clytia gregarium(旧称Phialidium gregarium)からクローニングされた。
【0057】
Ca2+活性化クリチン(別称クリチンI)のcDNAのクローニングと配列分析はInouyeらにより最初に記載された(FEBS,315,343−346(1993))。クリチンは189アミノ酸残基から構成され、イクオリンと約64%のアミノ酸配列一致度であり、4個のHTHドメインを含み、そのうちの3個がCa2+と結合するEFハンドドメインである。野生型クリチンのアミノ酸配列を配列番号1に記載する。アポイクオリンからイクオリンへの再生の場合と全く同様に、精製アポクリチンをセレンテラジン、O、2−メルカプトエタノール及びEDTAで再生すると、クリチンが得られる。再構成されたクリチンにカルシウムを添加すると、470nmの最大波長で発光することが報告されているので、クリチンの生物発光反応はイクオリンと同様であると考えられる(Inouye and Sahara,Protein Expr.Purif.,53:384−389(2007))。他方、クリチンはイクオリンよりもカルシウム親和性が低い。クリチンIIと呼ばれるクリチンの第2のアイソタイプがClytia gregariumから最近クローニングされた(Inouye,J.Biochem.,143:711−717(2008))。クリチンIとクリチンIIはアミノ酸一致度が88.4%であり、カルシウム親和性が同等であり、発光に関する総量子収率も同等であるが、反応速度が相違し、クリチンIIはクリチンIとイクオリンの両者よりも4.5倍高いピーク発光を示す。
【0058】
IV.改変型発光蛋白質の作製
本発明の改変型発光蛋白質は当分野で公知の任意の適切な方法を使用して作製することができる。例えば、核酸の部位特異的突然変異誘発の標準技術を使用することができ、例えば、実験マニュアルであるSambrook,Fritsch and Maniatis著Molecular Cloningに記載されている技術が挙げられる。更に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)突然変異誘発を利用する標準分子生物学技術を使用してもよい。
【0059】
所定態様では、標準遺伝子工学技術を使用して改変型発光蛋白質を作製する。例えば、wt発光蛋白質をコードする核酸分子又はその一部を適切な宿主細胞における発現に適したベクターにクローニングすることができる。適切な発現ベクターは当分野で周知であり、一般に改変型発光蛋白質をコードする配列の転写と翻訳に必要な要素を含む。
【0060】
本願に記載する改変型発光蛋白質は固相ペプチド合成法を含む当分野で周知の方法を使用してアミノ酸前駆体から化学的に合成してもよい。
【0061】
改変型発光蛋白質の発現は、酵母、昆虫もしくは哺乳動物等の真核宿主に由来する細胞中、又は原核宿主細胞(例えば大腸菌等の細菌)中で実施することができる。
【0062】
所定態様において、改変型発光蛋白質は例えば、特定の細胞内区画内のカルシウム流動を検出するために、このような発光蛋白質を細胞内の特定区画に標的輸送するためのシグナル配列を含む。特定態様では、例えば改変型蛋白質のアミノ末端にミトコンドリアシグナル配列(例えば本願に記載するようなCOX8シグナル配列)を付加することにより、改変型発光蛋白質をミトコンドリアに特異的に標的輸送する。
【0063】
所定態様において、改変型発光蛋白質は改変型発光蛋白質の検出及び/又は精製のために、N末端、C末端又は内部領域にタグないし融合体を含む。このような配列タグとしては、限定されないが、ヘマグルチニン(HA)タグ、FLAGタグ、mycタグ、ヘキサヒスチジンタグ及びグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)融合体が挙げられる。
【0064】
所定態様では、各ファージがファージ表面に提示される個々の改変型発光蛋白質をコードするDNA配列を含むように、バクテリオファージの表面に改変型発光蛋白質を発現させてもよい。このアプローチでは、選択された位置に各種アミノ酸を生成するように選択された発光蛋白質配列のこれらの位置にランダム又は半ランダムオリゴヌクレオチドを合成することにより、改変型発光蛋白質のライブラリーを作製する。コードするDNAを適切なファージベクターに挿入し、ファージ粒子にパッケージングし、適切な細菌宿主に感染させるために使用する。こうして配列の各々を1個のファージベクターにクローニングし、(例えばクリチンの場合には168位に突然変異をもち、Ca2+親和性の増加を示す)目的の改変型発光蛋白質を単離し、選択された改変型発光蛋白質をコードするヌクレオチド配列をヌクレオチドシーケンシングにより決定することができる。
【0065】
V.改変型発光蛋白質をコードする核酸分子の適切な細胞への導入
核酸分子を適切な細胞に導入するには、当業者に公知の各種方法が利用可能である。例えば、リン酸カルシウム、カチオン性脂質及びカチオン性ポリマー(例えばポリエチレンイミン)を核酸分子と複合体化して細胞に添加すると、細胞は複合体を細胞内に取込み、核酸分子を転写及び/又は翻訳する。あるいは、エレクトロポレーション、パーティクルガン遺伝子導入法及びマイクロインジェクション等の電子物理的方法を使用し、細胞膜内に一過的に開口を形成し、細胞膜を通して核酸分子を拡散させてもよい。組換え遺伝子を挿入するようにレンチウイルス、バキュロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターを遺伝子操作し、受容細胞に組換えウイルスを感染させ、コードされる組換え蛋白質を発現させてもよい。理論的には、本発明に含まれる改変型発光蛋白質をコードする核酸分子を任意哺乳動物細胞株にトランスフェクトすることができる。典型的な細胞株としては、限定されないが、CHO、COS、HEK293、U−2OS、HeLa及びNIH3T3が挙げられる。
【0066】
このようなトランスフェクトした細胞株を、例えばトランスフェクションから24〜72時間後にアッセイで使用することができる。あるいは、選択マーカーの遺伝子も含むプラスミドに目的の核酸分子を挿入した場合には、トランスフェクトしていない細胞に対して毒性であるが、共発現させた選択マーカーにより不活性化される化合物で細胞を選択してもよい。典型的な選択剤としては、ゲネチシン、ハイグロマイシン、ゼオシン及びピューロマイシンが挙げられる。
【0067】
VI.改変型発光蛋白質の細胞内カルシウム親和性の測定
カルシウム活性化発光蛋白質の細胞内カルシウム親和性は本願に記載する方法を含む当業者に公知の数種の方法により測定することができる。一般に、各方法は既知カルシウム親和性をもつEGTAやEDTA等のカルシウム結合性緩衝液の存在下で所定濃度のカルシウムを含有する溶液を使用する。従って、このような緩衝溶液中の遊離カルシウムの有効濃度を容易に計算することができる。
【0068】
大腸菌等の細菌中で発光蛋白質を発現させ、精製後、基質セレンテラジンと複合体化してもよい。哺乳動物細胞中で発光蛋白質を発現させ、細胞から細胞溶解液を調製後、セレンテラジンの存在下でインキュベートしてもよい。あるいは、発光蛋白質を発現する細胞にセレンテラジンを添加後、Triton X−100やジギトニン等の界面活性剤で浸透化させてもよい。いずれの場合も、セレンテラジンの酸化により生じたフォトンの放出を定量するように設計されたルミノメーターで発光蛋白質調製物を緩衝カルシウム溶液に暴露する。
【0069】
VII.改変型発光蛋白質を使用したGPCR介在性又はイオンチャネル介在性生物発光の測定
改変型発光蛋白質は生物発光アッセイで無傷の生細胞中のGPCR活性又はイオンチャネル活性を測定するために使用することができる。典型的実験では、GPCR又はイオンチャネルをコードする核酸分子と、アポ発光蛋白質をコードする別の核酸分子を細胞にトランスフェクトする。あるいは、内在性GPCR又は内在性イオンチャネルを発現する細胞を使用し、アポ発光蛋白質をコードする核酸分子をトランスフェクトしてもよい。コードされる組換え蛋白質の発現を可能にする時間(一般に24〜72時間)にわたり、トランスフェクトした細胞を培地に維持する。あるいは、トランスフェクトした細胞を1種以上の選択剤で一般に1〜3週間処理し、安定的に組込まれた1個以上の遺伝子を含む細胞を集積する。
【0070】
トランスフェクトした生細胞を天然型でも化学修飾型でもよい発色団セレンテラジンの存在下でインキュベートする。セレンテラジンは細胞膜を容易に通過して細胞に進入し、アポ発光蛋白質と複合体を形成する。GPCRの場合には、その後、再構成された発光蛋白質を含む細胞をGPCRのリガンドに暴露し、発光をルミノメーターで定量する。
【0071】
VIII.GPCR活性のモジュレーターを同定するためのスクリーニング方法
本発明はGPCR活性のモジュレーター、例えばアクチベーター、阻害剤、刺激剤、エンハンサー、アゴニスト及びアンタゴニストのスクリーニング方法も提供する。例えば、モジュレーターの存在下でカルシウム流動を検出することによりGPCR活性のモジュレーターを同定するために改変型発光蛋白質を使用することができる。
【0072】
サイトゾル遊離カルシウム濃度の刺激は多くのGPCRの一次シグナル伝達経路である。一般に、アゴニストが所定のGPCRと結合すると、立体構造変化が起こり、Gq/11クラスのヘテロ三量体G蛋白質が活性化する。活性化したGTP結合型のGqのαサブユニットは酵素ホスホリパーゼcを活性化させ、ひいては膜結合脂質ホスファチジルイノシトールの開裂を触媒する。この開裂反応の結果、ジアシルグリセロールとイノシトール三リン酸が生じ、前者は脂質二重層と結合し続け、後者はサイトゾルに放出される。イノシトール三リン酸は小胞体(ER)上のカルシウムチャネルと結合してこれを活性化させ、カルシウムをER内のストアからサイトゾルへと動員する。サイトゾル遊離カルシウム濃度のこのようなGPCR介在性変化(即ちカルシウム流動)は細胞内リン酸化及び転写の変化を含む多数の生物学的に重要な下流応答を引き起こす。その後、サイトゾルからのカルシウムはミトコンドリアに蓄積する。更に、ERからミトコンドリアへのカルシウムの直接移動が生じる場合もあると報告されている。
【0073】
サイトゾル及びミトコンドリア遊離カルシウムの変化を検出及び定量するための数種の方法が開発されている。例えば、カルシウムと結合すると、蛍光強度又は最大発光もしくは励起波長を変化させる蛍光色素が開発されている。このような色素を細胞に添加し、サイトゾルに蓄積することができる。サイトゾルカルシウム濃度が変化すると、蛍光強度又は波長最大値が変化し、蛍光検出器を使用することにより定量することができる。更に、細胞内カルシウムの変化をモニターするためにイクオリン、クリチン及びオベリン等のカルシウム活性化発光蛋白質を使用してもよい。このような発光蛋白質はこれらの蛋白質を各種オルガネラに誘導する配列と融合できるため、各種細胞区画内のカルシウム濃度を測定できるという利点がある。
【0074】
このような方法は細胞区画内のカルシウム濃度の変化をモニターするために利用可能な簡単で高感度の方法であるため、GPCR活性のモジュレーターのスクリーニングで利用されることが多い。一般に、96又は384ウェルプレートで内在性又は組換えGPCRを発現する細胞株にFluo−4等のカルシウム感受性色素を添加する。液体操作機能を備える蛍光プレートリーダーは被験化合物をプレートに添加すると同時に蛍光を定量する。初回に添加した化合物がアンタゴニストであり、既知アゴニストの活性を阻害するか否かを調べるために2回目の添加で既知アゴニストを添加してもよい。このようなスクリーンはデバイス当たり1日当たりほぼ100枚のプレート、又は40,000種までの化合物を分析することが可能である。このような高スループットスクリーンはヒスタミン受容体(H〜H)、5−HT受容体(5−HT1A、5−HT1B、5−HT1D、5−HT2A、5−HT2B、5−HT2C、5−HT、5−HT及び5−HT)、ドーパミン受容体(D〜D)、アドレナリン受容体(α1A、α1B、α1D、α2A、α2B、α2C、β1、β2、β3)、グルカゴン様ペプチド受容体(GLP−1受容体)、オピオイド受容体(δ、κ、μ)等の典型的なGPCRと相互作用する新規化合物を発見するために従来から現在に至るまで広く使用されている。
【0075】
しかし、蛍光カルシウムアッセイで実施されているスクリーニング作業にはいくつかの欠点がある。例えば、本来蛍光性の化合物はアッセイを妨害する可能性があることや、1536ウェルフォーマットを小型化するにはシグナル対バックグラウンド比は不十分であるため、比較的高い比率で疑陽性が認められる。目的のGPCRを発現する細胞でイクオリンを使用して発光カルシウムアッセイを実施した処、これらの欠点の一部が解消され、感度強化とスループット向上が得られることが実証された(Gilchrist et al.,J.Biomol.Screen.,13:486−493(2008))。
【0076】
以下、実施例により本発明を更に例証するが、以下の実施例は限定的であると解釈すべきではない。本願と図面の随所に言及する全文献、特許及び公開特許出願の内容を本願に援用する。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
クリチン変異体の作製
サイトゾル発現用の未改変型と、ミトコンドリアを標的とした配列を挿入した型の各種クリチンを作製した。典型的実験では、未改変型野生型クリチン(cytoクリチンwtと言う)とCOX8ミトコンドリアリーダー配列を付加したクリチン(mtクリチンwtと言う)をコードするcDNAをGenScriptにより化学的に合成した。次にCMVプロモーター(INVITROGEN)の制御下にcDNAを哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1にサブクローニングした。QuikChangeキット(STRATAGENE)を使用して部位特異的突然変異誘発により168位にリジン→アスパラギン酸突然変異(K168D)を含む突然変異をクリチンcDNAに導入した。
【0078】
クリチンの168位のリジンをコードするコドンAAAをアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グリシン、グルタミン、バリン、セリン、スレオニン、チロシン、アルギニン及びヒスチジンの1種に置換した。これらの改変を行うために使用したプライマーは上記表Iにまとめた。
【0079】
[実施例2]
野生型クリチン、改変型クリチンK168D及び野生型イクオリンのカルシウム親和性の測定
改変型クリチンの作製後、H1ヒスタミン受容体(ヒト脳cDNAライブラリーに由来するH1特異的プライマーであるフォワードプライマー5’−GCCGCCACCATGAGCCTCCCCA ATTCCTC−3’(配列番号60)とリバースプライマー5’−TCATCAGGAGCGAATATGCAG AATTCTC−3’(配列番号61)を使用してPCRにより得られたGenbank Accession No.NM_000861)のコトランスフェクションを使用する一過的トランスフェクションアッセイで各種変異体をその細胞内カルシウム親和性についてwtイクオリンと比較した。
【0080】
典型的実験では、Targefect−293試薬(TARGETING SYSTEMS)を使用して(H1ヒスタミン受容体をコードするcDNAを含む)pcDNA3.1−H1と、野生型ミトコンドリアクリチン(mtクリチンと言う)、168位にリジン→アスパラギン酸突然変異をもつ改変型ミトコンドリアクリチン(mtクリチンK168Dと言う)、168位にリジン→グルタミン酸突然変異をもつ改変型ミトコンドリアクリチン(mtクリチンK168Eと言う)、野生型ミトコンドリアオベリン(mtオベリンと言う)又は野生型ミトコンドリアイクオリン(mtイクオリンと言う)をコードするcDNAを含むpcDNA3.1各2μgをHEK293T細胞(ATCC−CRL−11268)に一過的にコトランスフェクトした。48時間後に、Accutase(MILLIPORE)を使用して細胞を解離させ、遠心し、FreeStyle293培地(INVITROGEN)中、5μMセレンテラジンに再懸濁し、暗所で室温にて3〜4時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を遠心し、Ca2+不含HBSS/HEPES緩衝液に1×10個/mlの密度で再懸濁した。次に、Victor2ルミノメータープレートリーダー(WALLAC,PERKINELMER)を使用することにより、10mM EGTAと遊離カルシウム濃度が17nM〜39.6μMとなるような濃度系列のCa2+を含有するMOPS/KCl緩衝液中、50μL/ウェル Triton X−100を加えた96ウェルプレートに各トランスフェクションの細胞懸濁液100μl/ウェルを添加後、20秒後に総生物発光量を測定した。
【0081】
このような実験の結果を図2に示す。図2に示すように、K168D突然変異をもつ改変型ミトコンドリアクリチン(mtクリチンK168D)はCa2+親和性が非常に高く、即ちEC50値が129nMであった。他方、mtクリチンとmtイクオリンの親和性は従来報告されている範囲内であることが確認され、即ちmtイクオリンは269nMのEC50値を示し、mtクリチンは1348nMのEC50値を示した。K168E突然変異をもつ改変型ミトコンドリアクリチンも比較的高いカルシウム親和性、即ち173nMのEC50値を示した。
【0082】
[実施例3]
各種発光蛋白質変異体により示されるGPCR介在性発光の比較
別の実験で、H1ヒスタミン受容体を活性化させるために種々の濃度のヒスタミンを細胞に添加した後に各種発光蛋白質の生物発光を測定することにより、各種発光蛋白質が生細胞中のカルシウム流動を検出する能力を評価した。Lipofectamine2000(INVITROGEN)をトランスフェクション試薬として使用した以外は上記実施例2に記載したように、野生型発光蛋白質又は本発明の改変型発光蛋白質をコードするcDNAと共にH1ヒスタミン受容体をコードするcDNAをU−2OS細胞にトランスフェクトした。2日目に細胞をトリプシン処理し、計数し、組織培養用の表面処理済み白色96ウェルプレート(COSTAR)で10%胎仔ウシ血清、非必須アミノ酸、HEPES及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEMから構成される増殖培地に細胞約50,000個/ウェルの密度で播種した。3日目に培地を捨て、細胞をHBSS/HEPES(Ca2+含有)200μl/ウェルで1回洗浄した。次に200μl/ウェルの容量のHBSS/HEPES(Ca2+含有)中、5μMセレンテラジンの存在下で細胞を暗所で室温にて3〜4時間インキュベートした。インキュベーション後、セレンテラジン溶液を捨て、細胞を洗浄し、Ca2+とMg2+を同時に含有するHBSS/HEPES緩衝液に交換した。Ca2+とMg2+を同時に含有するHBSS/HEPESに種々の濃度で溶解したヒスタミン50μl/ウェルを細胞に加え、20秒後にVictor2ルミノメーターを使用して総生物発光量を測定した。
【0083】
このような典型的実験の1例の結果を図3のグラフに示す。グラフに示すように、サイトゾルクリチンK169Dは実験で試験した他の型のクリチン及びイクオリンよりも著しく強い発光を示した。
【0084】
[実施例4]
各種発光蛋白質変異体に介在される総発光量とGPCR介在性発光量の比較
次の実験では、カルシウム活性化発光蛋白質の有効性の別の指標として、各種発光蛋白質により示される総生物発光量とGPCR介在性生物発光量を比較した。典型的実験では、実施例3に記載したようにU−2OS細胞にトランスフェクトし、播種し、セレンテラジンを添加した。同様に実施例3に記載したように緩衝液単独又は10μMヒスタミンにより誘導される発光を測定した。更に、細胞中で飽和カルシウム濃度を使用して検出可能な活性発光蛋白質の総量を調べるために、1mMカルシウムの存在下でTriton X−100の添加により誘導される発光も測定した。
【0085】
このような実験の1例の結果を図4の棒グラフにまとめる。図4から明らかなように、ミトコンドリア型とサイトゾル型のどちらの改変型クリチンK168Dも総シグナルの100%に近いGPCR介在性シグナルを示した。他方、ミトコンドリア型とサイトゾル型のイクオリンはそれぞれ総シグナルの約70%及び30%しか生じず、ミトコンドリア型とサイトゾル型の野生型クリチンはそれぞれ総シグナルの約30%及び3%しか生じなかった。
【0086】
[実施例5]
外来キメラG蛋白質と共役したGPCRにより誘導される発光として各種発光蛋白質変異体により示される発光の比較
別の実験で、GIP受容体(Genbank Accession No.NM_000164;OPEN BIOSYSTEMSから入手)と、プロミスキャスG蛋白質αサブユニットと、ミトコンドリアを標的とした野生型クリチン(wtクリチン)、ミトコンドリアを標的とし、配列番号1の168位にアミノ酸置換をもつ11種の改変型クリチン(配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26、28及び30)、サイトゾル野生型クリチン(配列番号1)、配列番号1の168位にアミノ酸置換をもつ2種の改変型サイトゾルクリチン(配列番号9及び11)、ミトコンドリアを標的とした野生型イクオリン及びサイトゾル野生型イクオリン(それぞれ配列番号6及び2)、並びにミトコンドリアを標的とした野生型オベリン及びサイトゾル野生型オベリン(それぞれ配列番号7及び4)を含む一連の発光蛋白質をコードするcDNAを含むプラスミドをHEK293T細胞に一過的にコトランスフェクトした。GIP受容体は通常ではG蛋白質のGsクラスと結合してcAMP経路を刺激するが、Gqと結合してカルシウム流動を活性化させることはない。しかし、GαsとGαqに由来する配列を含むキメラG蛋白質とGIP受容体を共発現させると、GIP受容体はカルシウム流動を刺激できるようになる。
【0087】
細胞100,000個/ウェルを96ウェルプレートに分注後、GIPリガンド(10−11〜10−6M)により誘導されるGPCR介在性生物発光と、1mM Ca2+の存在下で1% Triton X−100の添加により誘導される総シグナルについてアッセイした。一部の発光蛋白質の種々の濃度のGIPに対する用量応答曲線の結果を図5にまとめる。サイトゾル型とミトコンドリア型のクリチンK168Dはどの野生型発光蛋白質よりも有意に強いシグナル強度を示す。これらのデータによると、クリチンK168Dはカルシウム経路と非天然共役させることによりGPCRの分析感度を増強できることが明らかである。
【0088】
全種の発光蛋白質で得られた結果を下表IIにまとめる。%GPCR/総シグナルは1mM Ca2+の存在下でTriton X−100により誘導されるシグナルの百分率として最大GIP(1μM)により誘導されるシグナルを表す。シグナル対バックグラウンド比は最大GIP(1μM)により誘導されるシグナルを緩衝液単独により誘導されるシグナルで割った数値として計算した。カルシウムのEC50値はGPCR又はG蛋白質をコトランスフェクトせずにミトコンドリアを標的とした発光蛋白質をHEK293T細胞にトランスフェクトした場合について図2の説明で上述したように求めた。カルシウム親和性はクリチンの残基168のアミノ酸側鎖の性質と相関した。
【0089】
残基を酸性側鎖及び水酸化側鎖で置換した場合(例えばクリチンK168D、K168T及びK168E)には一般に野生型クリチン、イクオリン及びオベリン(それぞれ545nM、235nM及び345nM)よりも高いカルシウム親和性(それぞれ160nM、174nM及び176nM)を示した。側鎖を水酸化したものと側鎖をもたないものとの他の2種のクリチン突然変異体K168S及びK168Gは野生型イクオリンと同等でwtクリチンよりも良好なカルシウム親和性を示した。wtクリチンの168位のリジンを疎水性アミノ酸残基(例えばバリン及びチロシン)又はカルボキサミド側鎖(例えばアスパラギン及びグルタミン)で置換すると、wtイクオリンよりも低く且つ野生型クリチンよりも高いカルシウム親和性を示した。クリチンの168位を塩基性残基(例えばヒスチジン及びアルギニン)で置換すると、カルシウム親和性は野生型クリチンと同等であった。
【0090】
細胞に添加したリガンド濃度(X軸)に対して発光(Y軸)をプロットし、S字状用量応答曲線フィッティングアルゴリズム(GraphPad Prism)を適用することにより、リガンドにより誘導される受容体介在性カルシウム流動のEC50値を求めた。168位にアミノ酸置換をもつ各種改変型クリチンのGPCR介在性シグナルも側鎖の性質と相関した。更に、発光蛋白質の細胞内位置(サイトゾルとミトコンドリア)はGPCR介在性シグナルに影響を与えるようであった。ミトコンドリアを標的とした全種の被験発光蛋白質において、mtクリチンK168Dは最低のEC50と最高の%GPCR/総シグナル、最高のシグナル対バックグラウンド比、及びGIPリガンドを使用する最大シグナルを生じた。クリチンK168Rと野生型クリチン以外のミトコンドリアを標的とした他の全突然変異体はwtイクオリンで認められる範囲内の結果を生じた。同様に、サイトゾル型の被験発光蛋白質のうちで、クリチンK168Dは最低のEC50と最高の%GPCR/総シグナル、最高のシグナル対バックグラウンド比、及びGIPリガンドを使用する最大シグナルを示した。特に、サイトゾルクリチンK168Dはサイトゾル型又はミトコンドリア型の他の全種の発光蛋白質のうちで最低のEC50とGIPリガンドに対する最高の最大シグナルを示した。
【0091】
【表2】

【0092】
[実施例6]
グルカゴン受容体、GLP−1受容体、S1P2受容体、EP1受容体又はEP3受容体から選択されるGPCRにより誘導される発光としてクリチンK168Dにより示される発光の比較
別の実験で、グルカゴン受容体(Genbank Accession No.NM_000160;ヒト肝RNAからRT−PCRにより単離)、GLP−1受容体(Genbank Accession No.NM_002062;CYTOMYXから入手)、S受容体(GenBank Accession No.NM_004230.3;OPEN BIOSYSTEMSから入手)、EP受容体(GenBank Accession No.NM_000995;OPEN BIOSYSTEMSから入手)又はEP受容体(GenBank Accession No.NM_198716;OPEN BIOSYSTEMSから入手)から選択される典型的GPCRと、プロミスキャスG蛋白質(グルカゴン受容体、GLP−1受容体及びS1P受容体の場合)と、配列番号1の168位にアミノ酸置換をもつ改変型サイトゾルクリチン(配列番号9)をコードするcDNAを含むプラスミドをHEK293T細胞に一過的にコトランスフェクトした。
【0093】
トランスフェクションから48時間後に、細胞をCryoMed速度制御式フリーザー(THERMO SCIENTIFIC)で凍結処理し、液体窒素に保存した。その後、細胞を解凍し、5μMセレンテラジンを加えたFreeStyle培地(INVITROGEN)に直接導入する(解凍/アッセイ)か、又はフラスコで10%胎仔ウシ血清、非必須アミノ酸、及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM/F12から構成される増殖培地に播種し、一晩培養後にセレンテラジンを添加した(解凍/回復後)。セレンテラジンを3〜4時間添加後、細胞を遠心し、カルシウムとマグネシウムを含有するHBSSに再懸濁した。
【0094】
細胞100,000個/ウェルを96ウェルプレートに分注後、グルカゴン受容体(10−8〜10−12.5Mグルカゴン)、S受容体(10−6〜10−11.5Mスフィンゴシン1−リン酸)、EP受容体(10−6〜10−11MプロスタグランジンE)又はEP受容体(10−6〜10−11MプロスタグランジンE)のリガンドにより誘導されるGPCR介在性生物発光と、1mM Ca2+の存在下で1% Triton X−100の添加により誘導される総シグナルについてアッセイした。
【0095】
結果を図6A〜6Eと下表IIIにまとめる。解凍/アッセイは解凍直後にセレンテラジンを添加した後にアッセイを行った細胞の用量応答を示し、解凍/回復後は増殖培地で一晩回復させた後に添加とアッセイを行った細胞の用量応答を示す。GLP−1受容体以外の各受容体では、添加とアッセイ前に一晩回復させた細胞は解凍直後に添加及びアッセイした細胞よりも強いシグナルを生じた。サイトゾルクリチンK168D発光蛋白質をHEK293T細胞にトランスフェクトすると共にGIP受容体とG蛋白質をコトランスフェクトした場合について図5の説明で上述したように、各細胞処理方法についてそのリガンドによる各受容体の活性化に対するEC50値を求めた。こうして計算したEC50値を表IIIに示し、指定受容体を安定的に発現する細胞株(MILLIPORE)を使用して蛍光カルシウムアッセイで求めたEC50値と比較する。発光アッセイで得られた数値は蛍光アッセイで得られた数値の4倍以下であった。グルカゴン受容体とS1Pの場合には、EC50値は蛍光アッセイよりも発光アッセイのほうが6〜100倍低く、発光アッセイは場合によってはカルシウム流動の検出感度が従来の蛍光法よりも高いことが分かった。
【0096】
【表3】

【0097】
[実施例7]
以下のGPCR:CXCR1受容体、CXCR4受容体、GIP受容体、GLP−1受容体、グルカゴン受容体又はEP1受容体により誘導される発光としてクリチンK168Dにより示される発光の比較
別の実験で、GIP受容体(Genbank Accession No.NM000164;OPEN BIOSYSTEMSから入手)、CXCR1受容体(Genbank Accession No.M68932;OPEN BIOSYSTEMSから入手)、CXCR4受容体(GenBank Accession No.M99293;OPEN BIOSYSTEMSから入手)、グルカゴン受容体(実施例6参照)、GLP−1受容体(実施例6参照)及びEP1受容体(実施例6参照)から選択される典型的GPCRと、プロミスキャスG蛋白質(例えばGIP受容体、CXCR1受容体及びCXCR4受容体の場合)と、配列番号1の168位にアミノ酸置換をもつ改変型サイトゾルクリチン(配列番号9)をコードするcDNAを含むプラスミドをHEK293T細胞に一過的にコトランスフェクトした。トランスフェクションから約48時間後に、細胞をCryoMed速度制御式フリーザー(THERMO SCIENTIFIC)で凍結処理し、液体窒素に保存した。
【0098】
別の実験で、D2受容体とプロミスキャスG蛋白質を発現するCHO−K1細胞(MILLIPORE,カタログ番号HTS039C)に、配列番号1の168位にアミノ酸置換をもつ改変型サイトゾルクリチン(配列番号11)を一過的にトランスフェクトした。クリチンプラスミドが安定的に組込まれた細胞をピューロマイシン耐性により選択し、限界希釈法によりクローニングし、クローン細胞株を得、ドーパミンに誘導される発光が最高のクローンを選択した。細胞をCryoMed速度制御式フリーザー(THERMO SCIENTIFIC)で凍結処理し、液体窒素に保存した。
【0099】
トランスフェクトし、凍結した細胞を解凍し、ポリ−D−リジンをコートした96ウェルプレートで15%胎仔ウシ血清、非必須アミノ酸、及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM/F12から構成される増殖培地に100,000個/ウェルの密度で播種し、一晩培養した。次に細胞にセレンテラジンを4時間添加し、グルカゴン受容体(10−8〜10−12.5Mグルカゴン)、GIP受容体(10−6〜10−12 GIP)、GLP−1受容体(10−6〜10−12 GLP−1)、CXCR1受容体(10−7〜10−13Mインターロイキン8)、EP受容体(10−6〜10−11MプロスタグランジンE)、CXCR4受容体(10−6〜10−11M SDF−1α)又はD2受容体(10−4〜10−10.5Mドーパミン)のリガンドにより誘導されるGPCR介在性生物発光についてアッセイした。グラフに示す生物発光はFLIPRTetra Plus高スループット発光プレートリーダー(MOLECULAR DEVICES)で取得した。
【0100】
結果を図7A〜7Gに示す。FLIPRTetra Plusプレートリーダーを使用してグルカゴン受容体、GLP−1受容体及びEPプロスタノイド受容体で得られた数値はVictor2プレートリーダー(WALLAC,PERKINELMER)を使用して図6で得られた数値と同等である。
【0101】
[実施例8]
イオンチャネルにより誘導される発光として各種発光蛋白質変異体により示される発光の比較
別の実験で、ミトコンドリアを標的とした野生型クリチン(mtクリチン)、ミトコンドリアを標的とし、配列番号1の168位にリジン→アスパラギン酸突然変異をもつ改変型クリチン(配列番号10)、サイトゾル野生型クリチン(配列番号1)、168位にリジン→アスパラギン酸突然変異をもつ改変型サイトゾルクリチン(配列番号9)、並びにミトコンドリアを標的とした野生型イクオリン及びサイトゾル野生型イクオリン(それぞれ配列番号6及び2)を含む一連の発光蛋白質をコードするcDNAを含むプラスミドを準備し、TRPA1カチオンチャネルを安定的に発現するHEK293細胞(Accession No.NM_007332;MILLIPOREから入手)にこれらのプラスミドを一過的にコトランスフェクトした。
【0102】
細胞50,000個/ウェルを96ウェルプレートに分注後、AITCリガンド(10−6〜10−3.5M)により誘導されるイオンチャネル介在性生物発光についてアッセイした。種々の濃度のAITCに対する用量応答曲線の結果を図7にまとめる。サイトゾルクリチンK168Dはサイトゾル野生型クリチンよりも低いEC50を示す。更に、サイトゾルクリチンK168Dはサイトゾル型とミトコンドリア型のイクオリンよりも強いシグナルを示す。これらのデータによると、クリチンK168Dは典型的なカルシウム伝導イオンチャネルの分析感度を増強できることが明らかである。
【0103】
本明細書は明細書内に言及する文献の教示を参照すると、最良に理解され、これらの文献を本願に援用する。明細書内の態様は本発明の態様の例証であり、発明の範囲を制限するものと解釈すべきではない。当業者に容易に理解される通り、他の多数の態様も本発明に含まれる。全刊行物及び発明は全体を本願に援用する。援用する資料が本明細書と相反するか又は矛盾する程度まで、本明細書はこのような全資料に代わるものとなろう。本願で文献に言及する場合には、このような文献が本発明の従来技術であると認めるものではない。
【0104】
特に指定しない限り、明細書と特許請求の範囲で使用する成分の量、細胞培養、処理条件等を表わす全数値はいずれの場合も「約」なる用語で修飾されると理解すべきである。従って、特に否定しない限り、数値パラメータは概数であり、本発明により獲得しようとうする所望特性に応じて変動し得る。特に指定しない限り、要素の系列の前に付ける「少なくとも」なる用語は系列内の全要素に適用されると理解すべきである。当業者は日常的範囲内の実験を使用して本願に記載する発明の特定態様の多数の等価物に想到するであろうし、あるいはこのような等価物を突き止めることができよう。このような等価物も以下の特許請求の範囲に含むものとする。
【0105】
当業者に自明の通り、発明の趣旨と範囲内で本発明の多数の変更及び変形が可能である。本願に記載する特定態様は例示に過ぎず、如何なる点でも限定的ではない。明細書及び実施例は単なる例示とみなすべきであり、本発明の真の範囲と趣旨は以下の特許請求の範囲に記載する通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の少なくとも168位のリジンがヒスチジン、アルギニン及びリジン以外のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列を含む改変型発光蛋白質であって、前記改変型発光蛋白質が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して細胞内カルシウム親和性の増加および生物発光の増強を示す前記改変型発光蛋白質。
【請求項2】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の少なくとも168位のリジンがアスパラギン酸で置換されたアミノ酸配列を含む改変型発光蛋白質であって、前記改変型発光蛋白質が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質と配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質の両方に比較して細胞内カルシウム親和性の増加および生物発光の増強を示す前記改変型発光蛋白質。
【請求項3】
改変型発光蛋白質が細胞内カルシウムに対して500nM以下のEC50値を含み、改変型発光蛋白質が配列番号2に記載のアミノ酸配列又はその変異体もしくは誘導体を含まない請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項4】
配列番号9(K168D)、配列番号11(K168E)、配列番号15(K168G)、配列番号17(K168N)、配列番号19(K168Q)、配列番号21(K168S)、配列番号23(K168T)、配列番号25(K168V)及び配列番号27(K168Y)から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項5】
アミノ酸変異が発光蛋白質のEFハンドIIIドメインに存在する請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項6】
アミノ酸変異が発光蛋白質のEFハンドIIIドメインに存在する請求項2に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項7】
改変型発光蛋白質が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は20%、又は25%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は90%を上回る細胞内カルシウム親和性の増加を示す請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項8】
改変型発光蛋白質が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は20%、又は25%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は90%を上回る細胞内カルシウム親和性の増加を示す請求項2に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項9】
改変型発光蛋白質が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は20%、又は25%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は90%を上回る生物発光の増加を示す請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項10】
改変型発光蛋白質が配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む発光蛋白質に比較して2%、又は3%、又は4%、又は5%、又は10%、又は20%、又は25%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は90%を上回る生物発光の増加を示す請求項2に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項11】
細胞内カルシウム親和性および生物発光が請求項1に記載の改変型発光蛋白質をコードする核酸分子をトランスフェクトした細胞内で測定される請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項12】
細胞内カルシウム親和性および生物発光が請求項1に記載の改変型発光蛋白質をコードする核酸分子をトランスフェクトした細胞内で測定される請求項2に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項13】
細胞内カルシウム親和性および生物発光が請求項2に記載の改変型発光蛋白質をコードする核酸分子をトランスフェクトした細胞内で測定される請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項14】
細胞内カルシウム親和性および生物発光が請求項2に記載の改変型発光蛋白質をコードする核酸分子をトランスフェクトした細胞内で測定される請求項2に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項15】
細胞がCHO細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞及びU−2OS細胞から選択される請求項11に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項16】
細胞がCHO細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞及びU−2OS細胞から選択される請求項12に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項17】
細胞がCHO細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞及びU−2OS細胞から選択される請求項13に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項18】
細胞がCHO細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞及びU−2OS細胞から選択される請求項14に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項19】
請求項1に記載の改変型発光蛋白質をコードする核酸分子。
【請求項20】
請求項2に記載の改変型発光蛋白質をコードする核酸分子。
【請求項21】
請求項19に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項22】
請求項20に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項23】
請求項21に記載のベクターをトランスフェクトした哺乳動物細胞。
【請求項24】
請求項22に記載のベクターをトランスフェクトした哺乳動物細胞。
【請求項25】
細胞内のカルシウム流動のインビトロ検出方法であって、a)請求項1に記載の改変型発光蛋白質を発現する細胞を準備する段階と、b)カルシウム流動を誘導する物質と前記細胞を接触させる段階と、c)発光蛋白質の生物発光を検出する段階を含み、生物発光をカルシウム流動の指標とする前記方法。
【請求項26】
細胞内のカルシウム流動のインビトロ検出方法であって、a)請求項2に記載の改変型発光蛋白質を発現する細胞を準備する段階と、b)カルシウム流動を誘導する物質と前記細胞を接触させる段階と、c)発光蛋白質の生物発光を検出する段階を含み、生物発光をカルシウム流動の指標とする前記方法。
【請求項27】
GPCR又はイオンチャネル活性を調節する化合物のスクリーニング方法であって、a)請求項1に記載の改変型発光蛋白質を発現する細胞を準備する段階と、b)前記細胞を候補化合物と接触させる段階と、c)発光蛋白質の生物発光を検出する段階を含み、候補化合物の存在下で発光蛋白質の生物発光が変化する場合に、前記化合物はGPCR又はイオンチャネル活性を調節すると判断する前記方法。
【請求項28】
GPCR又はイオンチャネル活性を調節する化合物のスクリーニング方法であって、a)請求項2に記載の改変型発光蛋白質を発現する細胞を準備する段階と、b)前記細胞を候補化合物と接触させる段階と、c)発光蛋白質の生物発光を検出する段階を含み、候補化合物の存在下で発光蛋白質の生物発光が変化する場合に、前記化合物はGPCR又はイオンチャネル活性を調節すると判断する前記方法。
【請求項29】
カルシウム流動がGPCR又はイオンチャネルの活性の調節により誘導される請求項25に記載の方法。
【請求項30】
カルシウム流動がGPCR又はイオンチャネルの活性の調節により誘導される請求項26に記載の方法。
【請求項31】
GPCRがHヒスタミン受容体、GIP受容体、GLP−1受容体、グルカゴン受容体、S1Pスフィンゴシン1−リン酸受容体、CXCR1ケモカイン受容体、CXCR4ケモカイン受容体、D2ドーパミン受容体、EP受容体、EPプロスタグランジン受容体及びTRPA1カチオンチャネルから構成される群から選択される請求項27に記載の方法。
【請求項32】
ミトコンドリアを標的とした配列を発光蛋白質のN末端に含む請求項1に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項33】
ミトコンドリアを標的とした配列を発光蛋白質のN末端に含む請求項2に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項34】
ミトコンドリアを標的とした配列が配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む請求項32に記載の改変型発光蛋白質。
【請求項35】
ミトコンドリアを標的とした配列が配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む請求項33に記載の改変型発光蛋白質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−533298(P2012−533298A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520586(P2012−520586)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/001902
【国際公開番号】WO2011/008250
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】