説明

カルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進用バッファ組成物及びこれを利用したカルシトリオール又はカルシフェジオール製産方法

本発明はカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進用バッファ組成物及びこれを利用したカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法に関するものであり、より詳細には金属化合物、有機溶剤、シクロデキストリン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、コハク酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム(magnesium chloride)及び水からなるカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物及びこれを利用したカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産方法に関するものである。本発明の生産方法はカルシトリオール又はカルシフェジオール生産収率が高く、微生物培養系でない酵素反応系で生物転換を進行するため、無菌維持が不要である。生物触媒反応終了後、微生物培養法よりも一層綺麗な状態で分離精製を開始するので、分離に要する費用が低廉で品質に優れた長所がある。さらに、本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物はカルシトリオール及びカルシフェジオールの卓越した生産性を提供する効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2008年12月19日に出願された大韓民国特許出願第10-2008-0130707号を優先権として主張し、前記明細書全体は本出願の参考文献である。
本発明はカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進用バッファ組成物及びこれを利用したカルシトリオール又はカルシフェジオール製産方法に関するものであり、より詳細には金属化合物、有機溶剤、シクロデキストリン、トリス(ヒドロキシメチール)アミノメタン、コハク酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム(magnesium chloride)及び水からなるカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物及びこれを利用したカルシトリオール又はカルシフェジオール製産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシトリオールは代表的な老人性疾患である骨多孔症治療に多く使用されており、活性型ビタミンD3であるカルシフェジオールは、骨軟化症等の治療に使用されている。肝臓と腎臓において、ビタミンD3がそれぞれ2回のヒドロキシル化により生産されるカルシトリオールは、生体内物質として経口投与により簡単に投薬が可能であり、生理学的に胃腸器官と腎臓からカルシウムと燐の吸収を促進させ、骨多孔症の治療効果に優れたものとして知られている。
【0003】
カルシトリオールはさらに、佝僂病、骨軟化症、副甲状腺機能低下症、慢性腎不全症、血液透析患者の腎性骨異栄養症、皮膚乾癬症の治療にも使用されており、最近では前立腺癌や血液癌治療効果も多く報告されている。
カルシトリオール又はカルシフェジオールを製造する従来の方法には、有機化学合成法と微生物発酵による製産方法が知られている。有機化学合成法は化学構造上の立体特異性(stereospecificity)と位置特異性(regiospecificity)を考慮し、炭素原1番又は25番位置に選択的にヒドロキシ基を導入しなければならないので、高難易度の技術と高価の反応過程が要求される短所があり、このような短所を改善した微生物発酵による生物転換生産方法が開発された。微生物による生物転換反応は立体特異的(stereospecific)であり位置特異的(regiospecific)であることが既に立証されている。従って、活性型ビタミンD3生産方法を既存の有機合成法から微生物の水酸化機能を利用する生物転換による経済的な方法に代替し得る。
しかしながら、既存の微生物発酵による生物転換方法は下記のような複数の短所が見出された。
【0004】
第1に、微生物培養による製産方法であるので、汚染の可能性があって生産規模が大きくなるほどその可能性は大きくなる。特に、培養期間が長引くほど汚染の露出は甚だしくなり、このような汚染は本培養と同時に投与するビタミンD3の投与後に発生することから、汚染と同時に前駆体の費用が消失するのである。第2に、発酵による生物転換は生産収率の変化幅が大きく現れ得る。これは、微生物特有の培養敏感度によるものであるため、どうにもならない事項でもあり得ることから、これによって培養室内部はある程度一定した条件の恒常性維持が要求される。第3に、これに伴う生産施設の全般的な維持管理費用が増加する。第4に、既に最大値に達した生産性によりこれ以上の向上のない停滞状態であるため、最も高い競争力を保有したとは見做し難い。第5に、不純物に伴う分離精製の難しさにより、分離費用が過多算出されることもあり得る。培養液全体から特定物質のみを分離精製しなければならないので、分離精製規模も大きくなければならず費用も比例して増加するであろう。
従って、このような短所を克服して高純度のカルシトリオール又はカルシフェジオールを高収率で生産できる新たな製産方法の開発が急を要する状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような発酵による製産方法の短所を克服するために、本発明者等は生物転換方法として発酵的方法でない細胞全体での(whole-cell)生物触媒反応方法を研究し、本発明における微生物であるシュードノカルジアアウトトロピカID9302がカルシトリオールとカルシフェジオールを生産する生物触媒機能を有することを確認し、カルシトリオールとカルシフェジオール生産力を並外れて増加させるバッファ組成物を開発して本発明を完成した。
【0006】
従って、本発明の目的はFeCl2、FeCl3、FeSO4、MnCl2、及びZnSO4からなる群より選ばれた一つ以上の金属化合物0.01乃至0.3%(w/v)、エタノール、メタノール、アセトン及びジメチルスルホキシド(Dimethyl Sulfoxide, DMSO)からなる群より選ばれた一つ以上の有機溶媒1乃至10%(w/v)、シクロデキストリン0.1乃至5%(w/v)、トリス(ヒドロキシメチール)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)0.01乃至1%(w/v)、コハク酸ナトリウム(sodium succinate)0.01乃至1%(w/v)、塩化ナトリウム(sodium chloride)0.01乃至1%(w/v)、塩化マグネシウム(magnesium chloride)0.001乃至0.5%(w/v)及び残量の水からなる、カルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的はシュードノカルジアアウトトロピカを培養する段階、前記培養液から菌体を回収する段階、及び前記回収された菌体、ビタミンD3及び前記カルシトリオール又はカルシフェジオールを生産促進用バッファ組成物に混合する段階を含むカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法を提供することである。
【0008】
前記のような目的を達成する為に、本発明はFeCl2、FeCl3、FeSO4、MnCl2、及びZnSO4 からなる群より選ばれた一つ以上の金属化合物0.01乃至0.3%(w/v)、エタノール、メタノール、アセトン及びジメチルスルホキシド(Dimethyl Sulfoxide, DMSO)からなる群より選ばれた一つ以上の有機溶剤1乃至10%(w/v)、シクロデキストリン0.1乃至5%(w/v)、トリス(ヒドロキシメチール)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)0.01乃至1%(w/v)、コハク酸ナトリウム(sodium succinate)0.01乃至1%(w/v)、塩化ナトリウム(sodium chloride)0.01乃至1%(w/v)、塩化マグネシウム(magnesium chloride)0.001乃至0.5%(w/v)及び残量の水からなるカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を提供する。
【0009】
本発明の他の目的を達成する為に、本発明はシュードノカルジアアウトトロピカを培養する段階、前記培養液から菌体を回収する段階、及び前記回収された菌体、ビタミンD3及び前記カルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を混合する段階を含むカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明の内容をより詳細に説明する。
本発明の組成物は金属化合物、有機溶剤、シクロデキストリン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、コハク酸ナトリウム(sodium succinate)、塩化ナトリウム(sodium chloride) 、塩化マグネシウム(magnesium chloride)及び水からなることを特徴とする。
【0011】
本発明の組成物はトリス(ヒドロキシメチール)アミノメタン、コハク酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムを基本構成として、菌体が安定的に生存可能な環境を組成する。本発明の組成物のトリス(ヒドロキシメチール)アミノメタン、コハク酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムは本発明の組成物のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進効能を阻害しない範囲であれば、特に限定はされないものの、好ましくは、トリス(ヒドロキシメチール)アミノメタンは0.01乃至1%(w/v)濃度で、コハク酸ナトリウムは0.01乃至1%(w/v)の濃度で、塩化ナトリウムの濃度で0.01乃至1%(w/v)、塩化マグネシウムは0.001乃至0.5%(w/v)の濃度で添加することができ、最も好ましくは、トリス(ヒドロキシメチール)アミノメタンは0.12乃至0.61%(w/v)濃度で、コハク酸ナトリウムは0.16乃至0.8%(w/v)の濃度で、塩化ナトリウムは0.06乃至0.18%(w/v)の濃度で、塩化マグネシウムは0.006乃至0.05%(w/v)の濃度で添加することができる。
【0012】
本発明のシクロデキストリンは、複数個のグルコース分子がα-1,4で結合された環状の非環元糖で親油性の内部と親水性の外部により、ホスト−ゲスト含有物複合体(host-guest inclusion complex)を形成して基質であるビタミンD3をバッファ内に安定化させた。本発明のシクロデキストリンはα-シクロデキストリン、βーシクロデキストリン、γーシクロデキストリン、又はメチル-β-シクロデキストリンの場合もあって、最も好ましくは、βーシクロデキストリンでもあり得る。本発明のシクロデキストリンの濃度は本発明の組成物のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進効能を阻害しない範囲であれば特に限定はされないものの、好ましくは、0.1乃至5%(w/v)でもあり得て、より好ましくは、0.25乃至1%(w/v)でもあり得る。
【0013】
本発明の有機溶剤は難溶性物質である基質の溶解度を増加させる。本発明の有機溶剤はエタノール、メタノール、アセトン又はジメチルスルホキシド(DMSO)でもあり得て、最も好ましくはメタノールでもあり得る。本発明の有機溶剤の濃度は本発明の組成物のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進効能を阻害しない範囲であれば特に限定はされないものの、好ましくは、1乃至10%(w/v)でもあり得て、より好ましくは、2.5乃至10%(w/v)でもあり得る。
【0014】
本発明の金属化合物は電子伝達を活性化させ、基質をカルシトリオール又はカルシフェジオールに転換する効率を高める。本発明の金属化合物は本発明の組成物のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進効能を阻害せず、金属イオンを発生する化合物であれば特に限定はされないものの、好ましくは、FeCl2、FeCl3、FeSO4、MnCl2、又はZnSO4でもあり得て、最も好ましくは、MnCl2、又はZnSO4でもあり得て、最も好ましくは、MnCl2でもあり得る。本発明の金属化合物の濃度は、本発明の組成物のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進効能を阻害しない範囲であれば特に限定はされないものの、好ましくは、0.01乃至0.3%(w/v)でもあり得て、より好ましくは、0.01乃至0.03%(w/v)でもあり得る。
【0015】
本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産促進用バッファ組成物は、カルシトリオール又はカルシフェジオールの生産を促進する効果が優れている。
【0016】
一方、本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産方法は(a)シュードノカルジアアウトトロピカを培養する段階、(b)前記培養液から菌体を回収する段階、(c)前記回収された菌体、ビタミンD3及び前記カルシトリオール又はカルシフェジオールを生産促進用バッファ組成物を混合する段階を含むことを特徴とする。
【0017】
前記(a)段階ではシュードノカルジアアウトトロピカを培養する。本発明のシュードノカルジアアウトトロピカの培養は通常的に使用される微生物接種及び培養方法を利用できる。接種は培養条件下でシュードノカルジアアウトトロピカが十分に増殖し得るように前培養されたシュードノカルジアアウトトロピカを適当な量で培養培地に添加することにより行われ得る。接種するシュードノカルジアアウトトロピカの量は、前培養されたシュードノカルジアアウトトロピカ培養液を培養培地に1乃至5%(v/v)程度で添加することができる。シュードノカルジアアウトトロピカの培養は当業界に知られた培地と培養条件によってなされる。このような過程は当業者であれば選択される菌株によって容易に調整して使用できる。このような多様な方法は多様な文献(例えば、James et al.,Biochemical Engineering, Prentice-Hall International Editions)に開示されている。細胞の成長方式によって、懸濁培養と付着培養を培養方法により回分式と流加式及び連続培養式の方法に区分される。
【0018】
培養培地には、炭素源、窒素源ビタミン及びミネラルで構成された培地を使用できる。本発明の培養物生産のための培地で前記炭素源として利用可能なものは、グルコース、スクロース、マルトース、プラクトース、ラクトース、キシロース、カラクトース、アラビノース及びこれらの組合わせで構成された群より選ばれた一つ以上であり、より好ましくは、グルコースである。本発明の培養物生産のための培地で前記窒素源として利用可能なものは、酵母抽出物、ソイトン(soytone)、ペプトン、ビーフ抽出物(beef extract)、トリプトン、カシトン及びこれらの組合わせで構成された群より選ばれた一つ以上であり、より好ましくは、酵母抽出物である。
【0019】
前記(a)段階のシュードノカルジアアウトトロピカは同種の微生物はどんなものでも可能であり、その範囲はシュードノカルジアアウトトロピカ種の全ての亜種又は変種を含む。好ましくは、シュードノカルジアアウトトロピカID9302(Pseudonocardia autotrophica ID9302)でもあり得る。
【0020】
本発明における生物触媒であるシュードノカルジアアウトトロピカID9302は韓国生物学研究院生物資源センター(KCTC)に2001.6.7日付で寄託されている(寄託番号:KCTC 1029BP)。
【0021】
前記(b)段階では前記培養液で菌体を回収する。本発明の菌体回収方法は菌体を生きている状態で回収するために、通常的に使用される菌体回収方法であれば制限なく使用できる。好ましくは、遠心分離方法でもあり得る。好ましくは、培養液内の栄養成分を除去するために、回収された菌体をバッファで洗浄することができ、前記洗浄用バッファは好ましくは、本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物でもあり得る。
【0022】
前記(c)段階では前記回収された菌体、ビタミンD3及び本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を混合する。(c)段階では前記回収された菌体が本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物に溶けて基質であるビタミンD3をカルシトリオール又はカルシフェジオールに変化する機能を遂行する。
【0023】
(c)段階の混合は本発明の生産方法により、カルシトリオール又はカルシフェジオールが生産される限り、どのような順序や方法によっても可能であり、例えば、ビタミンD3を公知の溶媒に先に溶解した後、これを前記回収された菌体が溶けている本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物に混合するか、又は本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産を促進する物質をビタミンD3と共に、公知の溶媒に先に溶解した後、これを前記回収された菌体が溶けている本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物に混合し得る。前記公知のビタミンD3の溶解を容易ならしめるものであればどんな溶媒でも可能であり、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、DMSO又はこれらの混合物でもあり得て、前記本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産を促進する物質は例えば、シクロデキストリン、クレモフォール(cremophore)、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ツイン85、ツイン80又はPEG300でもあり得る。
【0024】
さらに、前記ビタミンD3は一度で反応させようとする量を全部投与するか、又は数回に分けて投与するか、若しくは、混合物内のビタミンD3の濃度を一定に維持させながら連続的に投与し得る。混合状態は前記回収された菌体によりビタミンD3が本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオールに変換する効率と菌体の生存率等を考慮して多様に持続させることができ、好ましくは、4日乃至10日でもあり得る。混合状態維持期間中効率的なカルシトリオール又はカルシフェジオール生産、又は菌体の生存維持のために適切なpH、撹拌状態及び通気量を維持することができ、このような過程は当業者であれば容易に調整できる。
【0025】
本発明の一実施例ではシュードノカルジアアウトトロピカHD9302を培養し、遠心分離を通じて菌体のみを回収してGAC(Growth-arrested cells)を製作した。これを利用して多様な種類のバッファ組成からビタミンD3を利用したカルシトリオール又はカルシフェジオールのそれぞれの生産性を測定した。
その結果、25mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、25mMコハク酸ナトリウム、20mM塩化ナトリウム、4mM塩化マグネシウムで構成されたTSSMバッファからカルシトリオール及びカルシフェジオールそれぞれの生産性が、最も優れていることを確認した(実施例1参照)。
【0026】
TSSMバッファを基本バッファ構成にして、カルシトリオール又はカルシフェジオールの生産性を高めるために多様な物質を追加する実験を進行した。
【0027】
本発明の他の実施例ではシクロデキストリンを濃度別に追加して、カルシトリオール及びカルシフェジオールの生産性の変化を測定した。
その結果、シクロデキストリンがカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産収率を増加させることを確認し、特に、βーシクロデキストリンを追加する場合、生産収率が高くなることを確認した(実施例2参照)。
【0028】
本発明の他の実施例では多様な有機溶媒を濃度別に追加してカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産性の変化を測定した。
その結果、有機溶媒の投与によりカルシトリオール及びカルシフェジオール生産収率が増加することを確認し、特に、メタノールを追加する場合、生産収率が高くなることを確認した(実施例3参照)。
さらに、シクロデキストリンと有機溶剤を同時に追加した場合、生産収率がシクロデキストリン又は有機溶剤を単独で投与した場合よりはるかに高くなることを確認した(実施例4参照)。
【0029】
本発明の他の実施例では多様な金属化合物を濃度別に追加してカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産性の変化を測定した。
その結果、CuCl2、CuSO4、CoCl2、CoSO4の場合、濃度に関係なくカルシトリオール及びカルシフェジオールを生産収率が減少するか、又はなされなかったものの、FeCl2、FeCl3、FeSO4、ZnSO4又はMnCl2、を投与する場合、カルシトリオール及びカルシフェジオール生産収率が増加されることを確認した。特に、ZnSO4又はMnCl2を投与する場合、生産収率の増加が並外れていることが確認できた(実施例6参照)。
【0030】
本発明の他の実施例ではpH変化に伴うカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産性の変化を測定した。
その結果、pH変化によりカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産収率が変化し、pH7.0乃至pH7.4において高いカルシトリオール及びカルシフェジオール生産収率が示されたことを確認した(実施例7参照)。
【0031】
本発明の他の一実施例では、前記過程により決定された本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を、有機溶剤と金属化合物を多様に調節して、75L発酵槽でカルシトリオール又はカルシフェジオールを大量生産した。
その結果、本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物は、FeCl2、FeCl3、FeSO4は0.01%濃度でそれぞれ53.12mg/L、60.8mg/L、62.42mg/Lのカルシトリオール生産収率を示し、ZnSO4は0.01%濃度で77.18mg/Lのカルシトリオール生産収率を示した。特に、MnCl2は0.03%濃度で90.12mg/Lのカルシトリオール生産収率及び166.87mg/Lのカルシフェジオール生産収率を示した(実施例8参照)。これにより本発明のFeCl2、FeCl3、FeSO4、ZnSO4又はMnCl2を含む組成物が優れたカルシトリオール又はカルシフェジオール生産率を示すことを確認した。
【0032】
さらに、有機溶剤の種類を異にして大量生産をした結果、エタノールは48.45mg/Lのカルシトリオール生産収率を示し、アセトンとDMSOはそれぞれ74.87mg/L及び70.85mg/Lのカルシトリオール生産収率と156.37mg/L及び141.81mg/Lのカルシフェジオール生産収率を示すことを確認した。特に、メタノールの場合、90.12mg/Lのカルシトリオール生産収率と166.87mg/Lのカルシフェジオール生産収率を示した(実施例9参照)。これにより、本発明のメタノール、エタノール、アセトン及びDMSOを含む組成物は優れたカルシトリオール又はカルシフェジオール生産率を示すことを確認した。
【0033】
本発明の他の実施例では、前記過程により決定された本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を利用して、75L発酵槽で本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法によりカルシトリオール及びカルシフェジオールを生産して、これを分離精製した。
【0034】
本発明の方法によりカルシトリオール及びカルシフェジオールを生産した結果、7日目に最も高い91.23mg/Lのカルシトリオール生産性と168.24mg/Lのカルシフェジオールの生産性を示すことを確認した(実施例10参照)。
さらに、前記反応物を回収して菌体を除去した後、ビタミンD3、カルシフェジオール及びカルシトリオールを分離精製した。
その結果、純度90%以上のカルシフェジオール7.6gと、純度99%のカルシトリオール2.2gを収得した(実施例11参照)。
【0035】
このように本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物又は生産方法は、培養液を除去してバッファ状態でビタミンD3と菌体を反応させるので、培養環境から発生する余他代謝産物の発生が少なく、従って、望むターゲット物質に生物転換される収率が高くなり、不純物の生成が少ないので分離精製の効率性が極めて高くなり、結局原料の品質が高くなり、分離精製の費用は減らす効果がある。さらに、高濃度反応を通じてカルシトリオール総生産量を増大させることができ、カルシトリオール又はカルシフェジオール生産に効果的である。
【発明の効果】
【0036】
従って、本発明はカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物と、前記組成物を利用したカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法を提供する。本発明の生産方法は、カルシトリオール又はカルシフェジオール生産収率が高く、微生物培養系でない酵素反応系で生物転換を進行する。これにより、無菌維持が不要となり、生物触媒反応が終了した後、分離精製についても、微生物培養法より一層綺麗な状態で分離精製を始めるため、分離に必要な費用が低廉で、品質が優れているという長所がある。さらに、本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物はカルシトリオール及びカルシフェジオールの並外れの生産性を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1はコレステロールを用いて有機合成によりカルシトリオールを生産する工程と、生物触媒によりビタミンD3を用いてカルシトリオールを生産する工程を比較する図。
【図2】図2はシクロデキストリンが生物触媒反応に影響を及ぼし、ビタミンD3を生物転換させてカルシフェジオールとカルシトリオールを生産するグラフ(数字d:反応開始後の期間(日))。
【図3】図3は特定有機溶剤が生物触媒反応に影響を及ぼし、ビタミンD3を生物転換させてカルシフェジオールとカルシトリオールを生産するグラフ。
【図4】図4はビタミンD3を生物転換させてカルシフェジオールとカルシトリオールを高生産するために、βーシクロデキストリンと特定有機溶剤の混合条件が生物触媒反応に及ぼす影響を示したグラフ(数字d:反応開始後の期間(日))。
【図5】図5は75L発酵槽で生物触媒反応を通じてビタミンD3から活性型ビタミンD3誘導体が生産されるグラフ(数字d:反応開始後の期間(日))。
【図6】図6は金属化合物が生物触媒反応に影響を及ぼして、ビタミンD3を生物転換させ、カルシフェジオールとカルシトリオールを生産するグラフ(D数字:反応開始後の期間(日))。
【図7】図7は生物触媒反応でpHを一定に維持した場合、カルシフェジオールとカルシトリオールの生産性を示したグラフ(D数字:反応開始後の期間(日))。
【図8】図8は75L発酵槽で金属化合物が生物触媒反応に影響を及ぼして、ビタミンD3を生物転換させ、カルシフェジオールとカルシトリオールを生産するグラフ(D数字:反応開始後の期間(日))。
【図9】図9は75L発酵槽で生物触媒反応を通じて、ビタミンD3から活性型ビタミンD3であるカルシフェジオールとカルシトリオールを生産するグラフ(D数字:反応開始後の期間(日))。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ただし、下記実施例は本発明を例示するのみであり、本発明の内容は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
<実施例1>
カルシトリオール生産の為の生物触媒反応バッファ決定
生物触媒であるGAC(growth-arrested cells)が生物触媒反応により、ビタミンD3にヒドロキシル基を導入する能力を備える為の多様な種類のバッファでカルシトリオールの生産性を確認した。
【0040】
<1−1>シュードノカルジアアウトトロピカID9302のGAC製作
本発明のカルシフェジオールとカルシトリオール生産の為の生物触媒に使用する為に、シュードノカルジアアウトトロピカID9302(Pseudonocardia autophica ID9302, 以下“ID9302”と称す)菌株を適正条件の培地(乾燥イースト0.4%,ブドウ糖1%,澱粉1%、魚粉1%、塩化ナトリウム0.2%,リン酸二水素カリウム0.01%、牛肉エキス0.1%、フッ化ナトリウム0.01%及びカルシウムカーボネート0.2%、pH7.0の滅菌液体培地)で培養し、これを遠心分離して菌体のみを回収した後、以下の実験に使用される生物触媒反応バッファ(表1参照)でそれぞれ洗浄して培養液内の栄養成分を完全に除去して次の段階で進行される生物触媒反応の為のGAC(growth-arrested cells)を製作した(以下“ID9302 GAC”と称す)。
【0041】
<1−2>バッファ組成に伴うID9302 GACのカルシトリオール及びカルシフェジオール生産性測定
本培養液50mlに準備した生物触媒であるGACを50mlの[表1]のような多様なバッファに再度溶解して250ml三角フラスコにいれて、5%ビタミンD3溶液(in ethanol)300μlを同一の三角フラスコにいれて、9日間同一の条件で振とう反応した。7日と9日に培養液3mlを採り、抽出溶媒(methylene chloride/methanol=1/1)6mlを添加して30分間混合し、有機溶媒層を採り、濃縮してHPLCで分析し、生物触媒反応の収率とカルシトリオール及びカルシフェジオールそれぞれの生産性を測定した。
カルシトリオール及びカルシフェジオール純品と一致するUVパターンとRTを表すピークを比較分析して生産性を確認した。HPLC分析条件はカラムはJ’sphere ODS-H80(150x4.6mm I.D.)、移動相はリン酸でpH7.2〜7.3に調整した0.1%トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane, THAM)450mlとアセトニトリル550mlの混合溶媒を使用し、移動速度は1ml/min、検出はphotodide array detectorを使用した。
【0042】
【表1】

【0043】
その結果、表1に示した通り、TSSMバッファを使用した場合、ID9302がビタミンD3にヒドロキシル基を導入する生物触媒能力が最も高いことを確認した。
マレートバッファ(Maleate buffer)もTSSMバッファで示した1.65mg/Lのカルシトリオール生産性には及ばなかったものの、ID9302の生物触媒の為の比較的優れたバッファであることを確認した。
TSSMバッファはpHのbuffering効果が優れたトリズマベース、イオン強度(ionic strength)が優れたNaCl、代謝活動に寄与するコハク酸ナトリウム、p450水酸化酵素(hydroxylase)の補助因子(cofactor)であるマグネシウムイオン等により構成されたバッファであり、それぞれ10〜50mMトリズマベース、10〜50mMコハク酸ナトリウム、10〜30mM塩化ナトリウム、1〜8mM塩化マグネシウムの濃度(pH7.0〜7.4)で特に優れた生産性を発現した。そこで、TSSMバッファをp450水酸化酵素反応系で用いる生物触媒反応のバッファに決定した。
【0044】
<実施例2>
シクロデキストリンが生物触媒反応に及ぼす影響
実施例1で決定された生物触媒反応条件と同等の条件で生物転換試験を行った。50mlTSSMバッファにID9302 GAC生物触媒を入れて、各種シクロデキストリンを0.25% 、0.5%、1%の濃度で投入し、さらに、5%ビタミンD3エタノール溶液 300μl を三角フラスコに入れて振とう反応を9日間進行する生物転換試験を進行した。5日、7日、9日目に反応試料3mlを採り、実施例1−2と同一の方法で抽出し、濃縮及びHPLC分析を実施した。
最終HPLC分析の結果、シクロデキストリンがTSSMバッファの環境を変化させ、生物触媒であるID9302 GACがビタミンD3に、ヒドロキシル基を導入する収率を増加させることを確認した(図2参照)。シクロデキストリンの種類、濃度及び培養時間に伴うカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産性は下記[表2]に要約した。
【0045】
【表2】

【0046】
αーシクロデキストリンをTSSMバッファに投入した場合には、0.25%濃度でカルシトリオール生産収率が対照群(シクロデキストリンを添加しないTSSMバッファでの生産収率[表1]参照)に対して1.83倍増加したことが示された。さらに、カルシトリオールの前躯物質であるカルシフェジオールの場合も、αーシクロデキストリンの濃度増加と共に増加する様相を呈し、1%濃度で1.82倍の生産性を示した。
βーシクロデキストリン(βーCD)をTSSMバッファに投入した場合に0.25%において最も優れた生物転換結果を示し、対照群に対してカルシトリオールの生産収率が3.79倍上昇したことが分った。さらに、カルシフェジオールの生産率もβーシクロデキストリン0.25%濃度で4.37倍増加することを確認した。
γーシクロデキストリン(γ-CD)の場合には、0.25%、0.5%、1%で投与濃度が増加するのと比例してカルシトリオールの生産収率も1.7倍、2.18倍、2.26倍増加し、カルシフェジオールの生産収率も大きく増加することを確認した。
βーシクロデキストリンの誘導体であるメチルーβーシクロデキストリン(M-CD)の場合には、0.25%においてcontrolに対して2.87倍の最も高いカルシトリオール生産収率を示し、以降の濃度で急激なカルシトリオール生産性下落を示し、カルシフェジオールの生産収率は高く維持された。
以上の結果を通じて示された通り、本発明においてシクロデキストリンが投与されない対照群(TSSMバッファ)と比較して、TSSMバッファにシクロデキストリンが適正濃度で投与されたバッファ(以下、“TSSMCバッファ”と称す)の場合に、ビタミンD3の生物転換収率が高くなり、それによりカルシトリオールとカルシフェジオールの生産収率が増加することを確認した。
【0047】
<実施例3>
特定有機溶剤が生物触媒反応に及ぼす影響
実施例1で決定された生物触媒反応条件を基本として、有機溶剤が生物触媒反応に及ぼす影響とカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産効果を確認した。実施例1の生物触媒反応条件に[表3]の有機溶剤4種をそれぞれ最終濃度が2.5%、5%、10%、20%、30%になるように投与して実施例2の振とう反応と同一の条件で実験を進行し、生物触媒反応8日目に反応を終了して実施例1−2と同一の方法でHPLCで定量分析した。
【0048】
【表3】

【0049】
分析結果、エタノールの場合には投与しない対照群に比べて、エタノール投与濃度が高くなると、ターゲット物質であるカルシフェジオールの生物転換が全くなされなくなった。しかしながら、エタノール2.5%、5%でカルシフェジオールの生産収率が対照群に対してそれぞれ6.57倍、5.54倍上昇したことを確認した。
メタノールの場合には、投与濃度20%以上では生物転換活性が全く表れず、2.5%から10%までのメタノールを投与した時、対照群に対して3.52倍までカルシトリオール生産収率が増加することを確認した。カルシフェジオール生産収率の場合にも6倍以上増加したことが示された。
アセトンとジメチルスルホキシド(Dimethyl Sulfoxide, DMSO)の場合には、対照群に対するカルシトリオールは2〜2.5倍、カルシフェジオールは5.5〜6.5倍の生産収率増加現象を示した。
以上の結果の通り、一定濃度有機溶剤を生物触媒反応に投入することにより、難溶性物質であるビタミンD3の溶解度を増加させて、カルシトリオールの生産収率を高めることを確認した(図3参照)。
【0050】
<実施例4>
シクロデキストリンと有機溶剤の混合条件が生物触媒反応に及ぼす影響
実施例2で最も優れた生物転換効果を示した、0.25%βーシクロデキストリンをTSSMバッファに投入させたTSSMCバッファを基本的な生物触媒反応バッファに活用した。実施例3で確認された有機溶剤が生物転換に及ぼす有効な効果を勘案して、有機溶剤を2.5%から10%濃度となるように生物触媒反応バッファに投入してシクロデキストリンと有機溶剤の混合に伴う生物転換収率に及ぼす影響を確認した。GAC製作、振とう反応条件及びHPLC分析は実施例1と同一である。
その結果、βーシクロデキストリンと有機溶剤との混合は生物触媒反応に肯定的な反応を示し、カルシトリオールの生産収率の増加と共に、カルシトリオールの生合成前躯物質であるカルシフェジオールの生産性はメタノールを追加した場合、対照群に対して約4倍である89.14mg/Lまで達するものと確認された(図4参照)。
【0051】
【表4】

【0052】
メタノールの場合に、実施例3と同様にシクロデキストリン混合によるカルシトリオール生産収率が最も高いことが確認された。メタノールの場合に、2.5%濃度でカルシトリオールとカルシフェジオールの生産性が増加し、7.5%濃度では対照群に対して4.76倍のカルシトリオール生産収率増加を示した。アセトンの場合には、10%濃度で約2倍のカルシトリオール生産収率増加を示し、DMSOの場合には5%濃度において対照群に対して2.88倍の高いカルシトリオール生産収率を示した。さらに、エタノールの場合には、実施例3ではカルシトリオールの生産が全くなされなかったが、5%濃度で対照群に対して1.4倍のカルシトリオール生産性増加と3.8倍のカルシフェジオールの生産性増加を示した。
【0053】
以上の結果によれば、シクロデキストリンと有機溶剤の混合は、シクロデキストリンの難溶性ビタミンD3に及ぼす溶解度増加と共に、有機溶剤がバッファ環境の遅溶性質を増加させ、生物触媒反応のシナジー効果が表れたことが分った。シナジー効果はカルシトリオールとカルシフェジオールの生産収率の急激な増加を示し、特にメタノール7.5%の場合には、対照群に対して約4.76倍増加の30.32mg/Lの最も優れたカルシトリオール生産収率を示し、メタノール5%の場合には、対照群に対して約4倍の89.14mg/Lのカルシフェジオール生産増加を示した。

<実施例5>
75L発酵槽での生物触媒反応による活性型ビタミンD3であるカルシフェジオールとカルシトリオールの生産
実施例4までの反応条件を基本に使用して、75L発酵槽で生物触媒を利用してビタミンD3にヒドロキシル基を導入する、カルシフェジオールとカルシトリオール生産試験を実施した。培養条件は実施例1と同一で、スケールだけ中間培養において2L液体培養液(in 2.5L発酵槽)で増加し、本培養は50L液体培地(in 75L 発酵槽)を使用した。HPLC分析は実施例1−2と同一である。
【0054】
5日間の75LID9302の本培養終了後、生物触媒ID9302 GACを調剤した後に、発酵槽である75L発酵槽に7.5%メタノールを最終濃度として含む50L TSSMCバッファを入れ、ID9302 GACを反応バッファに再度溶解させ、5%ビタミン溶液 300mlを調剤して、平衡を維持している生物触媒反応系に投入し、28℃、500rpm,1vvmの条件で10日間ビタミンD3の生物転換を実施した。3日から10日間反応液をHPLCで分析してカルシトリオールとカルシフェジオールの生産性を確認した。
生産性の確認の結果、生物触媒反応3日目からカルシトリオールの前躯物質であるカルシフェジオールが生産され始め、反応4−5日目にカルシフェジオールの急激な増加が表れ、同時にカルシトリオールの生成が本格的に始まった。生物触媒反応7日目にカルシトリオールとカルシフェジオールの生産が急激に増加し始め、生物触媒反応8日目には最も高い38.1mg/Lのカルシトリオール生産性と反応9日目には、109mg/Lのカルシフェジオールの生産性を示した。これは反応3日目と比べた時、カルシトリオールの場合には、38倍の生産性増加率を示し、カルシフェジオールの場合には、15倍の生産性増加率を示した。最大生産時以降、生物触媒反応12日目まで、二つの物質は共に緩慢に減少するパターンを示した(図5参照)。
これにより、ID9302を利用した生物触媒を調剤し、75Lの発酵槽を通じて反応容器でビタミンD3にヒドロキシル基を導入する能力が検証され、同時に優れたカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産能力を提供することが確認できた。
【0055】
<実施例6>
金属物質が生物触媒反応に及ぼす影響
ビタミンD3をカルシフェジオールとカルシトリオールに生物転換する為には、電子伝達が重要である。TSSMCバッファに金属物質を追加すれば、金属物質からでた電子により電子伝達が多くなり、これにより酵素の活性が増加され、生物転換率が増加するものと予想される。
実施例4で決定された生物触媒反応条件を基本として、金属物質が生物触媒反応に及ぼす影響と、カルシフェジオール及びカルシトリオールの生産効果を確認した。
7.5%のメタノールが追加して含有されたTSSMCバッファ生物触媒反応条件に[表5]の金属物質9種を0.01%、0.03%、0.06%になるように投与して、実施例2の振とう反応と同一の条件で実験を進行し、生物触媒反応7日目と9日目に実施例1−2と同一の方法でHPLC定量分析した。
定量分析の結果、CuCl2、CuSO4、CoCl2、CoSO4の場合、濃度に関係なく生物触媒反応がスムーズになされず、その結果、カルシフェジオールとカルシトリオール生産収率の下落を示した。FeCl2とFeCl3においてもカルシフェジオールとカルシトリオールの生産収率の増加はなかった。FeSO4は0.06%において対照群に比べて1.14倍にカルシトリオールが増加した。
MnCl2の場合、0.06%ではカルシフェジオールとカルシトリオールの生産収率が下落し、0.01%ではカルシフェジオールの生産収率が対照群に比べて1.15倍の生産収率の増加を示した。0.03%濃度ではカルシトリオールは1.83倍、カルシフェジオールは1.52倍に生産収率が増加することを確認し、金属物質中最も優れた生産収率の増加を示した。
ZnSO4の場合、0.01%においてカルシトリオールは対照群と似通った生産収率を示したものの、カルシフェジオールは1.34倍の増加を示した。0.06%では対照群に対してカルシトリオールの生産収率が1.3倍増加する効果を示した(図6参照)。
上記の結果を通じて、幾つかの金属物質を生物触媒反応に投入することにより、生物転換効果が増加することを示し、その結果、カルシフェジオールとカルシトリオールの生産収率が増加することを確認した。
【0056】
【表5】

【0057】
<実施例7>
pH調節が生物触媒反応に及ぼす影響
生物触媒反応が進行するほど、反応液のpHが継続的に上昇する。反応液のpHを一定に維持した場合の生物触媒反応に及ぼす影響を確認する為に、5L発酵槽を利用して生物触媒反応を行った。培養条件は実施例1と同一で、中間培養において140ml液体培養液に増加し、本培養は3.5L液体培地を使用した。反応条件は<実施例6>までの条件を基本とした。
5日間のID9302の本培養終了後、生物触媒であるID9302 GACを製造後に、反応槽である5Lの発酵槽に0.03%のMnCl2 が投入されたTSSMバッファ(pH7.2)(以下、TSSMM バッファと称す)3.5Lを入れ、ID9302 GACを反応バッファに再度溶解して28℃、500rpm、0.5vvmで平衡状態を維持した。3.5L反応液の0.02%と0.05%に相当するビタミンD3とβーシクロデキストリンを52.5mlのメタノールに溶解させ、反応開始時点で5日間連続的に投与した。この際、pHを1N NaOHと0.5N HClを利用して6.2、6.6、7.0、7.4、7.8、8.0に維持した。生物触媒6日、8日、10日目の反応液を実施例1−2と同じ方法でHPLC分析し、カルシフェジオールとカルシトリオールの生産性を確認した。
その結果、pH6.2では生物転換が全くなされず、カルシトリオール及びカルシフェジオールが殆ど生産されなかった。さらに、pH6.6でも極めて低いカルシトリオールとカルシフェジオールの生産収率を示した。pH7と7.4では高いカルシトリオールとカルシフェジオール生産収率を示し、pH7.0の場合、対照群に比べて1.15倍と1.16倍のカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産性向上を示し、pH7.4の場合、1.12倍と1.03倍の向上を示した。pH7.8と8.2ではカルシフェジオールとカルシトリオールの生産収率が急激に減少することを確認した(図7及び[表6]参照)。
以上の結果を参照すると、生物触媒反応の際、pHを一定に維持することにより、カルシフェジオールとカルシトリオールの生産収率が増加することがわかる。この際、pHは7.0から7.4の間を維持させることが好ましい。
【0058】
【表6】

【0059】
<実施例8>
75L発酵槽での金属化合物種類によるカルシフェジオールとカルシトリオールの生産性比較
実施例7までの反応条件を基本に使用し、75L発酵槽で生物触媒を利用してビタミンD3にヒドロキシル基を導入するカルシフェジオールとカルシトリオール生産試験を実施した。培養条件は実施例1と同一で、スケールのみ中間培養において2L液体培養液に増加し、本培養は75L発酵槽で50L液体培地を使用して培養した。
5日間のID9302の本培養終了後、生物触媒であるID9302 GACを製造した後、反応槽である75L発酵槽に50LTSSMバッファを入れて表5の金属化合物9種を0.01%、0.03%、0.06%になるように投与した。
GACを反応バッファに再度溶解させ、28℃、500rpm、0.5vvmに平衡状態を維持した。50L反応液の0.02%と0.05%に相当するビタミンD3とβーシクロデキストリンを 750mlのメタノールに溶解させて反応開始時点から5日間連続的に投与した。
この際、pHを1N NaOHと0.5N HClを利用して7.0に維持した。生物触媒により10日間反応させた反応液を実施例1−2と同じ方法でHPLC分析してカルシトリオールとカルシフェジオールの生産性を確認した。
その結果、[表7]に示した通り、CuCl2、CuSO4、CoCl2、CoSO4の場合、濃度に関係なく生物触媒反応がスムーズになされなかったものの、FeCl2、FeCl3、FeSO4は0.01%濃度ではそれぞれ53.12mg/L、60.8mg/L、62.42mg/Lのカルシトリオール生産収率を示し、ZnSO4は0.01%濃度で77.18mg/Lのカルシトリオール生産収率を示した。特に、MnCl2は0.03%濃度で、90.12mg/Lのカルシトリオール生産収率及び166.87mg/Lのカルシフェジオール生産収率を示した(図8参照)。
これにより、本発明のFeCl2とFeCl3、FeSO4、ZnSO4及びMnCl2を含む組成物は優れたカルシトリオール又はカルシフェジオール生産収率を示すことを確認した。
【0060】
【表7】

【0061】
<実施例9>
75L発酵槽で有機溶剤種類に伴うカルシフェジオールとカルシトリオールの生産性比較
実施例7までの反応条件を基本に使用して、75L発酵槽で生物触媒を利用してビタミンD3にヒドロキシル基を導入するカルシフェジオールとカルシトリオール生産試験を実施した。
反応条件は実施例8と同一で、5日間のID9302の本培養終了後、生物触媒であるID9302 GACを製造して、反応槽である75L発酵槽に0.03%のMnCl2を最終濃度として含む、TSSMC バッファ50Lをいれて、エタノール、メタノール、アセトン及びDMSOを実施例4で最も良い生産性を示した濃度でそれぞれ投与した。
GACを反応バッファに再度溶解させ、10%ビタミンD3溶液300mlを調剤して平衡を維持している生物触媒反応系に投入して、28℃、500rpm、0.5vvmの条件で10日間ビタミンD3の生物転換を実施した。
この際、pHを1N NaOHと0.5N HClを利用して7.0に維持した。生物触媒により10日間反応させた反応液を実施例1−2と同じ方法でHPLC分析してカルシトリオールとカルシフェジオールの生産性を確認した。
その結果、[表8]に示した通り、エタノールは48.45mg/Lのカルシトリオール生産収率を示し、アセトンとDMSOはそれぞれ74.87mg/L及び70.85mg/Lのカルシトリオール生産収率と256.37mg/L及び141.81mg/Lのカルシフェジオール生産収率を示すことを確認した。特に、メタノールの場合、90.12mg/Lのカルシトリオール生産収率と166.87mg/Lのカルシフェジオール生産収率を示した。
これにより、本発明のメタノール、エタノール、アセトン及びDMSOを含む組成物は優れたカルシトリオール又はカルシフェジオール生産性を示すことを確認した。
【0062】
【表8】

【0063】
<実施例10>
75L発酵槽での生物触媒反応を通じた活性型ビタミンD3であるカルシフェジオールとカルシトリオールの生産
実施例9までの反応条件を基本に使用し、75L発酵槽で生物触媒を利用してビタミンD3にヒドロキシル基を導入するカルシフェジオールとカルシトリオール生産試験を実施した。反応条件は実施例9と同一である。
5日間のID9302の本培養終了後、生物触媒であるID9302 GACを製造した後に、反応槽である75L発酵槽に50L TSSMMバッファを入れてGACを反応バッファに再度溶解させ、28℃、500rpm、0.5vvmので平衡状態を維持した。50L反応液の0.02%と0.05%に相当するビタミンD3と、βーシクロデキストリンを750mlのメタノールに溶解させて、反応開始時点から5日間連続的に投与した。この際、pHを1N NaOHと0.5N HClを利用して7.0に維持した。生物触媒により1日から10日間反応させた反応液を実施例1−2と同じ方法でHPLC分析してカルシトリオールとカルシフェジオールの生産性を確認した。
生産性の確認の結果、生物触媒反応1日目からカルシトリオールの前躯物質であるカルシフェジオールが生産され始め、反応2−3日目にカルシフェジオールの急激な増加が表れ、同時にカルシトリオールの生産が本格的に開始された。生物触媒反応4日目にカルシトリオールとカルシフェジオールの生産が急激に増加し始め、生物触媒反応7日目に最も高い91.23mg/Lのカルシトリオール生産性と、168.24mg/Lのカルシフェジオールの生産性を示したことを確認した。これは反応1日目と比較した時、カルシトリオールの場合には、90倍の生産性増加率を示し、カルシフェジオールの場合には3倍の生産性増加率を示した。最大生産時以降、生物触媒反応10日目まで二つの物質が、共に緩慢に減少するパターンを示した(図9参照)。
これにより、ID9302を利用した生物触媒を調剤して、75Lの発酵槽を通じた反応容器でもビタミンD3にヒドロキシル基を導入する能力が検証され、同時に優れたカルシトリオール及びカルシフェジオールの生産能力を提供することを確認した。
さらに、本発明に伴う方法以外に生物触媒酵素の力価を阻害しない濃度範囲内で基質の量を増加させ、最終産物であるカルシトリオール又はカルシフェジオールの生産性を増加させる方法も確認できた。
【0064】
<実施例11>
反応液から活性型ビタミンD3の分離
生物触媒反応が終了した反応液50Lに1%の合成吸着剤Sepabeads SP850(Mitsubishi chemical,日本)を添加して400rpmで1時間撹拌して反応液内にあるビタミンD3及び活性型ビタミンD3を吸着させる。多層濾過装置を利用して濾過された細胞とSP850はアセトン25Lに抽出され、40℃以下で減圧濃縮した。
濃縮液を50%メタノール2Lに再度溶解させ、分別漏斗を利用して2Lヘキサンを添加して1次再抽出した。抽出物(上方相、ヘキサン中のカルシフェジオール、ビタミンD3、脂溶性不純物)を収集した。抽出物を40℃以下で減圧濃縮し、シリカゲルカラムで分取した。移動相はヘキサンとエチルアセテート7:3比率の混合物であり、10ml/分の条件で分離した。ビタミンD3とカルシフェジオールの順に分取した。ビタミンD3とカルシフェジオールは純度90%以上であり、それぞれ18gと7.6gを分離し、これはカルシトリオール生産の為の前躯体に再使用が可能であった。
1次再抽出残留物(下方相、50%メタノール中のカルシトリオール、水溶性不純物)を 2Lジクロロメタンで2次再抽出して水溶性不純物を除去したカルシトリオール抽出物(下方相、ジクロロメタン中のカルシトリオール)を収集した。抽出物を40℃以下で減圧濃縮し、C−18 ODS columnを利用してカルシトリオールを分取した。移動相は75%メタノールで、10ml/分の条件で分取した。カルシトリオール分取液は40℃以下で減圧濃縮し、メタノールに溶解させ、YMC J’s sphere ODS columnでカルシトリオールのα型とβ型を分離した。移動相は45%アセトニトリル、230nm、15ml/分の条件で分離して純度99%の白色結晶型のカルシトリオール2.2gを得た。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明した通り、本発明はカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物と、前記組成物を利用したカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法を提供する。本発明の生産方法はカルシトリオール又はカルシフェジオール生産収率が高く、微生物培養系でない、酵素反応系で生物転換を進行する。このため、無菌維持が不要となり、生物触媒反応が終了した後で、微生物培養法よりも一層綺麗な状態で分離精製を始めるので、分離に要する費用が低廉で品質に優れた長所がある。さらに、本発明のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物はカルシトリオール及びカルシフェジオールの卓越した生産性を提供する効果があり、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeCl2とFeCl3、FeSO4、MnCl2及びZnSO4からなる群より選ばれた、一つ以上の金属化合物0.01乃至0.3%(w/v)、エタノール、メタノール、アセトン及びジメチルスルホキシード(Dimethyl Sulfoxide, DMSO)からなる群より選ばれた一つ以上の有機溶剤1乃至10%(w/v)、シクロデキストリン0.1%乃至5%(w/v)、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン(Tris(hydroxylmethyl)aminomethane)0.01乃至1%(w/v)、コハク酸ナトリウム(sodium succinate)0.01%乃至1%(w/v)、塩化ナトリウム(sodium succinate)0.01乃至1%(w/v)、塩化マグネシウム(magnesium chloride)0.001乃至0.5%(w/v)及び残量の水からなるカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物。
【請求項2】
前記金属化合物は0.01乃至0.03%(w/v)、前記有機溶剤は2.5乃至10%(w/v)、前記シクロデキストリンは0.25乃至1%(w/v)、前記トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは0.12乃至0.61%(w/v)、前記コハク酸ナトリウムは0.16乃至0.8%(w/v)、前記塩化ナトリウムは0.06乃至0.18%(w/v)及び前記塩化マグネシウムは、0.006乃至0.05%(w/v)であることを特徴とする第1項記載のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物。
【請求項3】
前記金属化合物はMnCl2であることを特徴とする第1項記載のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤はメタノールであることを特徴とする第1項記載のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物。
【請求項5】
前記シクロデキストリンはβシクロデキストリンであることを特徴とする第1項記載のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物。
【請求項6】
(a)シュードノカルジアアウトトロピカを培養する段階;
(b)前記培養液で菌体を回収する段階;及び
(c)前記回収された菌体、ビタミンD3及び前記第1項乃至第5項の内いずれか一つの項に記載のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産促進用バッファ組成物を混合する段階を含むカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法。
【請求項7】
前記シュードノカルジアアウトトロピカはシュードノカルジアアウトトロピカID9302であることを特徴とする第6項記載のカルシトリオール又はカルシフェジオール生産方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−512648(P2012−512648A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542003(P2011−542003)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007404
【国際公開番号】WO2010/071327
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511149773)イルドン ファーマ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】