説明

カルバゾール誘導体及びこれを用いた有機発光素子

【課題】極めて高効率で高輝度な光出力を有し、かつ極めて耐久性のある有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極及び陰極からなる少なくとも一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機化合物からなる層とからなる有機発光素子において、該有機化合物からなる層のうち少なくとも一層が下記一般式[I]で示されるカルバゾール誘導体を少なくとも一種含有することを特徴とする、有機発光素子。


(式中、Arは、4環以上の置換又は無置換の縮合環芳香族基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,カルバゾール誘導体及びこれを用いた有機発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極間に蛍光性有機化合物又は燐光性有機化合物を含む薄膜を挟持させたものである。また、有機発光素子は、各電極から電子及びホール(正孔)を注入することにより、蛍光性化合物又は燐光性化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態に戻る際に光を放射する。
【0003】
1987年のコダック社の研究(非特許文献1)では、機能分離型2層構成の素子について報告されている。具体的には、陽極としてITOを、陰極としてマグネシウム銀の合金を、電子輸送材料及び発光材料としてアルミニウムキノリノール錯体を、ホール輸送材料としてトリフェニルアミン誘導体をそれぞれ用いた素子が提案されている。この素子を用いて、10V程度の印加電圧において1000cd/m2程度の発光が報告されている。
【0004】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴として、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることがあげられる。このことから、有機発光素子は広汎な用途への可能性を示唆している。
【0005】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力又は高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等の耐久性の面で未だ多くの問題がある。さらにはフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合の色純度の良い青、緑、赤の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分でない。
【0006】
上記の問題を解決するために、有機発光素子の材料としてカルバゾール誘導体が提案されている。カルバゾール誘導体を使用した有機発光素子として非特許文献2、3が挙げられる。
【0007】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.51,913(1987)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society(2004),126(19),6035−6042
【非特許文献3】Bulletin of the Korean Chemical Society(2004),25(8),1202−1206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新規なカルバゾール誘導体を提供することにある。また本発明の目的は、極めて高効率で高輝度な光出力を有し、かつ極めて耐久性のある有機発光素子を提供することにある。さらに本発明の目的は、製造が容易でかつ比較的安価に作製可能な有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカルバゾール誘導体は、下記一般式[I]で示される化合物である。
【0010】
【化1】

(式中、R1は、水素原子、アルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表わし、R2及びR3は、それぞれアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表わす。xは0〜4の整数を表し、yは0〜3の整数を表す。R2及びR3が複数存在する場合は、同じであっても異なっていてもよい。Arは、4環以上の置換あるいは無置換の縮合環芳香族基を表わす。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のカルバゾール誘導体を用いた有機発光素子は、高効率発光のみならず、従来用いられている化合物よりも長い期間高輝度を保つので、優れた発光素子である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
始めに、本発明のカルバゾール誘導体について説明する。本発明のカルバゾール誘導体は、下記一般式[I]で表される化合物である。
【0014】
【化2】

【0015】
式[I]において、R1は、水素原子、アルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表す。
【0016】
1を表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0017】
1を表すアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0018】
1を表すアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。
【0019】
1を表す複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ターチエニル基等が挙げられる。
【0020】
上記アラルキル基、アリール基及び複素環基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基等のアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0021】
式[I]において、R2及びR3は、それぞれアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表す。
【0022】
2及びR3を表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0023】
2及びR3を表すアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基、ベンゾフルオランテニル基、クリセニル基等が挙げられる。
【0024】
2及びR3を表す複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ターチエニル基、キノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0025】
上記アリール基及び複素環基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基等のアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0026】
式[I]において、xは0乃至4の整数を表す。
【0027】
式[I]において、yは0乃至3の整数を表す。
【0028】
式[I]において、Arは、4環以上、好ましくは、4環以上7環以下の置換又は無置換の縮合環芳香族基である。縮合環芳香族基の具体例としては、ピレニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、ルビセニル基等が挙げられる。
【0029】
上記縮合環芳香族基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基等のアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0030】
式[I]中のArは、青色発光材料、ホスト材料としての使用を考慮すると、好ましくは、ピレニル基、フルオランテニル基である。より好ましくは、下記一般式[II]で示される置換又は無置換のピレニル基である。
【0031】
【化3】

【0032】
式[II]において、R4は、アルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換アミノ基又はハロゲン原子を表す。
【0033】
4を表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0034】
4を表すアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0035】
4を表すアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。
【0036】
4を表す複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ターチエニル基等が挙げられる。
【0037】
4を表す置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等が挙げられる。
【0038】
4を表すハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0039】
上記アラルキル基、アリール基及び複素環基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基等のアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子が挙げられる。
【0040】
尚、R4を示す置換基は、ピレニル基の分子間スタッキング抑制の観点から、好ましくは、ターシャリーブチル基等の嵩高い置換基である。
【0041】
一般式[I]で示されるカルバゾール誘導体は、好ましくは、下記一般式[III]で示される化合物である。
【0042】
【化4】

【0043】
式[III]において、R1,R2,R3,x及びyは式[I]のR1,R2,R3,x及びyと同様であり、R4及びzは式[II]のR4及びzと同様である。
【0044】
以下、本発明のカルバゾール誘導体の具体的な構造式を下記に示す。ただし、これらは代表例を例示しただけで、本発明は、これに限定されるものではない。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる少なくとも一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機化合物からなる層とからなる有機発光素子である。また、本発明の有機発光素子は、この有機化合物からなる層のうち少なくとも一層が本発明のカルバゾール誘導体を少なくとも一種含有する。
【0049】
以下、図を参照しながら、本発明の有機発光素子について具体的に説明する。
【0050】
図1は本発明の有機発光素子における第一の実施形態を示す断面図である。図1の有機発光素子10は、基板1上に陽極2、発光層3及び陰極4が順次設けられている。この有機発光素子10は、発光層3が、ホール輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能を全て有する化合物で構成されている場合や、ホール輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能を有する化合物を混合して構成される場合に有用である。
【0051】
図2は本発明の有機発光素子における第二の実施形態を示す断面図である。図2の有機発光素子20は、基板1上に陽極2、ホール輸送層5、電子輸送層6及び陰極4が順次設けられている。この有機発光素子20は、ホール輸送性及び/又は電子輸送性を備える発光性の化合物と電子輸送性のみ又はホール輸送性のみを備える有機化合物とを組み合わせて用いる場合に有用である。また、有機発光素子20は、ホール輸送層5又は電子輸送層6が発光層を兼ねている。
【0052】
図3は本発明の有機発光素子における第三の実施形態を示す断面図である。図3の有機発光素子30は、図2の有機発光素子において、ホール輸送層5と電子輸送層6との間に発光層3を挿入したものである。この有機発光素子30は、キャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、ホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した有機化合物を適時組み合わせて用いることができる。このため、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の有機化合物が使用できるので、発光色相の多様化が可能になる。さらに、発光層3にキャリアあるいは励起子を有効に閉じこめて有機発光素子30の発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0053】
図4は本発明の有機発光素子における第四の実施形態を示す断面図である。図4の有機発光素子40は、図3の有機発光素子30において陽極2とホール輸送層5との間にホール注入層7を設けたものである。この有機発光素子40は、ホール注入層7を設けたことにより、陽極2とホール輸送層5との間の密着性が改善され、又はホールの注入性が改善されるので低電圧化に効果的である。
【0054】
図5は本発明の有機発光素子における第五の実施形態を示す断面図である。図5の有機発光素子50は、図3の有機発光素子30において、ホール又は励起子(エキシトン)を陰極4側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層8)を発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルの非常に高い有機化合物をホール/エキシトンブロッキング層8として用いることにより、有機発光素子50の発光効率が向上する。
【0055】
図6は本発明の有機発光素子における第六の実施形態を示す断面図である。図6の有機発光素子60は、図4の有機発光素子40において、ホール/エキシトンブロッキング層8を発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルの非常に高い有機化合物をホール/エキシトンブロッキング層8として用いることにより、有機発光素子60の発光効率が向上する。
【0056】
ただし、図1〜図6はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明の有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設けたり、接着層あるいは干渉層を設けてもよい。ホール輸送層5がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されてもよい。
【0057】
図1乃至図6に示されている有機発光素子においては、発光層3、ホール輸送層5、電子輸送層6、ホール輸送層7、ホール/エキシトンブロッキング層8のうち少なくとも1層に本発明のカルバゾール誘導体が少なくとも一種含有されている。
【0058】
本発明のカルバゾール誘導体は、好ましくは、発光層3に含有される。また、本発明の有機発光素子は、好ましくは、発光層3がホストとゲストとから構成される。ここでゲストとは、有機発光素子の発光領域において、正孔と電子の再結合に応答して光を発する化合物のことであり、発光領域を形成する物質(ホスト)に含有させるものである。本発明の有機発光素子において、好ましくは、ホスト又はゲストは本発明のカルバゾール誘導体である。
【0059】
発光層が、キャリア輸送性のホスト材料とゲスト材料からなる場合、発光にいたる主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
1.発光層内での電子・ホールの輸送
2.ホストの励起子生成
3.ホスト分子間の励起エネルギー伝達
4.ホストからゲストへの励起エネルギー移動
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や、発光はさまざまな失活過程と競争でおこる。
【0060】
有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料そのものの発光量子収率を大きくすることは言うまでもない。また、有機発光素子の発光効率を高める上で、ホスト−ホスト間又はホスト−ゲスト間のエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな問題となる。さらに、通電による発光劣化を小さくすることも有機発光素子の発光効率を高める上で問題となる。発光劣化が起こる原因は今のところ明らかではないが、少なくとも発光中心材料そのもの又はその周辺分子による発光材料の環境変化に関連したものと想定される。
【0061】
ここで、本発明のカルバゾール誘導体を、発光層を構成するホスト又はゲストとして用いると、有機発光素子の発光効率が向上し、長い期間高輝度を保ち、通電劣化を小さくすることができる。
【0062】
本発明のカルバゾール誘導体を、ゲストとして用いる場合、その含有量は、発光層3を構成する有機化合物の全重量に対して、好ましくは、50重量%以下である。さらに好ましくは、0.1重量%乃至30重量%であり、特に好ましくは、0.1重量%乃至15重量%である。
【0063】
一方、本発明のカルバゾール誘導体をホスト化合物として用いる場合、ゲストに特に制限は無く、所望する発光色等によって、後述する化合物等を適宜用いることができる。また、必要に応じてゲスト以外に、ホール輸送性化合物、電子輸送性化合物等を一緒にドープして使用することもできる。本発明のカルバゾール誘導体を、ホストとして用いる場合、その含有量は、発光層3を構成する有機化合物の全重量に対して、好ましくは、70重量%乃至99.9重量%である。
【0064】
このように本発明のカルバゾール誘導体を発光層にのみ用いてもよいが、必要に応じて、発光層以外の層、例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、電子障壁層等も用いることができる。
【0065】
また、本発明のカルバゾール誘導体は、従来の化合物に比べ電子輸送性、発光性及び耐久性の優れた化合物であり、図1乃至図6のいずれの形態でも使用することができる。
【0066】
本発明の有機発光素子は、電子輸送層、発光層等の構成成分として、本発明のカルバゾール誘導体を用いるものであるが、これまで知られているホール輸送性化合物、発光性化合物又は電子輸送性化合物等を必要に応じて一緒に使用することもできる。
【0067】
以下にホール輸送性化合物、発光性化合物又は電子輸送性化合物等の例を挙げる。
【0068】
【化8】

【0069】
【化9】

【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
【化12】

【0073】
【化13】

【0074】
本発明の有機発光素子に用いられる陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム等の金属単体又はこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は単独で用いてもよく、複数併用することもできる。
【0075】
一方、本発明の有機発光素子に用いられる陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体又は複数の合金として用いることができる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化の利用も可能である。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成をとることもできる。
【0076】
本発明の有機発光素子に用いられる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0077】
本発明の有機発光素子において、本発明のカルバゾール誘導体を含有する層及び他の有機化合物を含有する層は、一般には真空蒸着法あるいは、適当な溶媒に溶解させて塗布法により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0078】
上記結着樹脂としては広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えばポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は共重合体ポリマーとして1種又は2種以上混合してもよい。
【0079】
尚、作製した有機発光素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッソ樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0080】
本発明の有機発光素子において、本発明のカルバゾール誘導体を含む有機化合物の層の膜厚は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.01μm乃至0.5μmである。
【0081】
本発明の有機発光素子は、好ましくは、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより発光する電界発光素子である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
実施例1
[例示化合物No.A−25の合成]
【0084】
【化14】

【0085】
以下に示す化合物を、それぞれ300mlフラスコに仕込んだ。
化合物1:3.25g(10mmol)
化合物2:7.69g(20mmol)
トルエン:50ml
エタノ−ル:25ml
2M−炭酸ナトリウム水溶液:50ml
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):1g
【0086】
仕込んだ後、窒素気流下、80℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、反応液をトルエンで抽出した後、有機層を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧乾固を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/クロロホルム)で精製後、トルエン/エタノールで再結晶を行い、化合物3を5.3g(収率:78.0%)得た。
【0087】
次に、以下に示す化合物を、それぞれ200mlフラスコに仕込んだ。
化合物3:1.00g(1.47mmol)
ヨードベンゼン:0.36g(1.78mmol)
オルト−キシレン:70ml
トリターシャリーブチルホスフィン:37mg
酢酸パラジウム:7.6mg
ターシャーリーブトキシナトリウム:1.44g
【0088】
仕込んだ後、窒素気流下、150℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、反応液をトルエンで抽出した後、有機層を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧乾固を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/クロロホルム)で精製後、トルエン/エタノールで再結晶を行い、例示化合物No.A−25を1.02g(収率:91.8%)得た。
【0089】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である755.4を確認した。
【0090】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
1H NMR(CDCl3,500MHz) σ(ppm):8.39(d,2H),8.26−8.01(m,8H),8.08(s,4H),8.03(m,4H),7.69(m,4H),7.63(m,2H),7.52(t,2H),7.35(m,1H),1.59(s,18H)
【0091】
なお、実施例1の化合物2の代わりに下記に示す化合物6を用いる以外は、実施例1と同様の方法で例示化合物No.A−26を合成することができる。
【0092】
【化15】

【0093】
実施例1の化合物2の代わりに下記に示す化合物7を用いる以外は、実施例1と同様の方法で例示化合物No.A−29を合成することができる。
【0094】
【化16】

【0095】
実施例2
[例示化合物No.A−35の合成]
【0096】
【化17】

【0097】
化合物3を1.00g(1.47mmol)、水素化ナトリウム36mg、ジメチルホルムアミド50mlを、それぞれ100mlフラスコに仕込み、窒素気流下、1時間攪拌を行った。ヨウ化メチル0.3gを滴下し、さらに室温で5時間攪拌を行った。反応終了後、反応液にメタノールを加えた後減圧乾固を行った。水を加え、トルエンで抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧乾固を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:トルエン)で精製後、トルエン/エタノールで再結晶を行った。得られた結晶を真空乾燥後、昇華精製を行い例示化合物No.A−35を980mg(収率:96.1%)得た。
【0098】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である693.3を確認した。
【0099】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
1H NMR(CDCl3,500MHz) σ(ppm):8.34(d,2H),8.29−8.22(m,8H),8.11(s,6H),8.03(d,2H),7.70(s,2H),7.58(d,2H),3.97(s,3H),1.60(s,18H)
【0100】
実施例3
[有機発光素子の作製]
ガラス基板上に、陽極として酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて膜厚120nmで成膜した。次に、ITOを成膜したガラス基板を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。このように処理を施したガラス基板を透明導電性支持基板として使用した。
【0101】
この透明導電性支持基板上に、下記に示す化合物4のクロロホルム溶液をスピンコート法により20nmの膜厚で成膜し、ホール輸送層を形成した。次に、他の有機層及び電極層を10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着で連続製膜した。具体的には、まず発光層として、例示化合物No.A−25と化合物5をNo.A−25の重量比が全体の10%となるように膜厚20nmの膜厚で成膜した。次に電子輸送層として、下記式に示すBphen(同仁化学研究所製)を膜厚30nmで成膜した。次に、第一の金属電極層としてLiFを、膜厚0.5nmで成膜した。最後に、第二の金属電極層として、Alを膜厚150nmで成膜した。
【0102】
このようにして、有機発光素子を作製した。
【0103】
【化18】

【0104】
作製した有機発光素子についてその特性を調べた。具体的には、素子の電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、素子の発光輝度を、トプコン社製BM7で測定した。本実施例の素子は4.5Vの印加電圧で、発光輝度1720cd/m2の青色の発光が観測された。さらに、この素子に窒素雰囲気下で連続通電を行ったところ、100時間連続して通電しても安定した発光が得られた。
【0105】
実施例4
実施例3において、例示化合物No.A−25の代わりに例示化合物No.A−35を用いる以外は実施例3と同様の方法により有機発光素子を作製した。作製した有機発光素子についてその特性を実施例5と同様に調べた。本実施例の素子は4.5Vの印加電圧で、発光輝度1610cd/m2の青色の発光が観測された。さらに、この素子に窒素雰囲気下で連続通電を行ったところ、100時間連続して通電しても安定した発光が得られた。
【0106】
以上説明のように、本発明のカルバゾール誘導体を発光層の、特に、ホストに用いた本発明の有機発光素子は、発光効率が高く、長い期間高輝度を保つことができるので、優れた素子である。さらに、素子の作製も真空蒸着あるいはキャステイング法等を用いて作製可能であり、比較的安価で大面積の素子を容易に作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明における有機発光素子の第一の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明における有機発光素子の第二の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明における有機発光素子の第三の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明における有機発光素子の第四の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明における有機発光素子の第五の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明における有機発光素子の第六の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 基板
2 陽極
3 発光層
4 陰極
5 ホール輸送層
6 電子輸送層
7 ホール注入層
8 ホール/エキシトンブロッキング層
10,20,30,40,50,60 有機発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で示されることを特徴とする、カルバゾール誘導体。
【化1】

(式中、R1は、水素原子、アルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表わし、R2及びR3は、それぞれアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表わす。xは0乃至4の整数を表し、yは0乃至3の整数を表す。R2及び/又はR3が複数存在する場合は、同じであっても異なっていてもよい。Arは、4環以上の置換又は無置換の縮合環芳香族基を表わす。)
【請求項2】
前記Arが、下記一般式[II]で示される置換又は無置換のピレニル基であることを特徴とする、請求項1に記載のカルバゾール誘導体。
【化2】

(式中、R4は、アルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換アミノ基又はハロゲン原子を表わす。zは0乃至9の整数を表し、R4が複数存在する場合は、同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記一般式[I]で示されるカルバゾール誘導体は、下記一般式[III]で示される化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のカルバゾール誘導体。
【化3】

【請求項4】
陽極及び陰極からなる少なくとも一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機化合物からなる層とからなる有機発光素子において、該有機化合物からなる層のうち少なくとも一層が請求項1乃至3のいずれかに記載のカルバゾール誘導体を少なくとも一種含有することを特徴とする、有機発光素子。
【請求項5】
前記カルバゾール誘導体を少なくとも一種含有する層が発光層であることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記発光層がホストとゲストとからなり、該ホスト又は該ゲストが前記カルバゾール誘導体であることを特徴とする、請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記一対の電極間に電圧を印加することにより発光する電界発光素子であることを特徴とする、請求項4乃至6のいずれかに記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−137978(P2008−137978A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328340(P2006−328340)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】