説明

カルボニル化合物の製造方法およびカルボニル化合物の製造に用いる酸化促進剤

【課題】取り扱いが容易な溶媒であっても、カルボニル化合物を高効率で得ることができる、アルコールの酸化によるカルボニル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物またはその塩と、酸化剤との存在下、アルコールを酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で酸化する工程を有することよりなる。(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。またはRとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボニル化合物の製造方法およびカルボニル化合物の製造に用いる酸化促進剤に関する。更に詳しくは、アルコールの酸化によるカルボニル化合物の製造方法と、その製造方法に用いる酸化促進剤に関する。
本願は、2007年8月31日に、日本に出願された特願2007−226843号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド類やケトン類等のカルボニル化合物は、有機合成上極めて重要な物質であり、これらの製造方法として多種多様な反応が古くから開発されている。この内、代表的なものとして、アルコールの酸化による製造方法が挙げられる。アルコールの酸化方法としては、例えば、重金属酸化剤(過マンガン酸カリウム、重クロム酸及びその塩、三酸化クロム等)を用いた方法、DMSO酸化法(Swern酸化等)、あるいは遷移金属触媒を用いた酸化法(TPAP酸化等)が知られている。また、2−ヨード安息香酸から、酸化剤である2KHSO・KHSO・KSO(Oxone(登録商標))によって合成される2−ヨードキシ安息香酸誘導体を用いた酸化法が知られている。例えば、非特許文献1には、反応系内において酸化剤Oxone(登録商標)を用いて2−ヨード安息香酸誘導体から2−ヨードキシ安息香酸誘導体をアルコールに対して1mol%調製し、ニトロメタン溶媒中でアルコールを酸化する方法が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本化学会第87回春季年会口頭発表 講演番号1C8−05*A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、重金属酸化剤の使用は環境配慮の観点から問題があり、遷移金属触媒は高価であることから経済面での問題がある。また、2−ヨードキシ安息香酸誘導体を用いた酸化法においては、アセトニトリルと水、あるいは酢酸エチルと水の混合溶媒中では、副反応が起こり易く、収率が低いことが知られている。加えて、ニトロメタンの使用は工業的使用には課題がある。
本発明は、取り扱いが容易な溶媒であっても、カルボニル化合物を高効率で得ることができる、アルコールの酸化によるカルボニル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明のカルボニル化合物の製造方法は、下記一般式(I)
【化1】

[式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩と、酸化剤との存在下、アルコールを酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で酸化する工程を有することを特徴とする。
【0006】
(2)本発明のカルボニル化合物の製造方法は、下記一般式(I)
【化2】

[式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩と、酸化剤と、アルコールと、酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒とを混合して混合液とし、該混合液を加熱する工程を有することを特徴とする。
【0007】
(3)本発明のカルボニル化合物の製造方法は、脱水剤が存在することを特徴とする(1)又は(2)に記載のカルボニル化合物の製造方法である。
【0008】
(4)本発明の酸化促進剤は、下記一般式(I)
【化3】

[式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩を含有し、酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で、酸化剤と共に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、取り扱いが容易な溶媒であっても、アルコールの酸化による製造方法により、カルボニル化合物を高効率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカルボニル化合物の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態のカルボニル化合物の製造方法は、上記一般式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)という)と、酸化剤との存在下において、アルコールを酸化する工程を有する、カルボニル化合物の製造方法である。
【0011】
<カルボニル化合物>
カルボニル化合物としては、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であれば特に限定されることはない。このようなカルボニル化合物としては、具体的にはケトン基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を有する化合物等を挙げることができる。
【0012】
【化4】

【0013】
また、カルボニル化合物としては、式(III)
【化5】

(ここで、R及びRは独立に水素またはアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールあるいはヘテロアリール基であり、あるいは、置換基を有してもよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールあるいはヘテロアリール基であり、あるいはR及びRは結合している炭素原子と一緒になって、シクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基を形成してもよい)のカルボニル化合物を挙げることができる。
また、カルボニル化合物としては、置換基を有しても良い5〜12員環の環状α,β−エノンを挙げることができる。
例えば、式(V)
【化6】

[ここで、Rはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基であり、あるいは、置換基を有してもよいアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基であり、但し、Rは隣接する三つの炭素と一緒になって、5〜12員環を形成する。]の環状エノン化合物を挙げることができる。
【0014】
<化合物(I)>
化合物(I)は前記一般式(I)で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸およびその誘導体あるいはその塩である。
式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、酸性基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。
化合物(I)におけるアルキル基は特に限定されることなく、酸化の対象となるアルコールや溶媒等を考慮して選択することができる。例えば、炭素数1〜8のもの、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては特に限定されることなく、酸化の対象となるアルコールや溶媒等を考慮して選択することができる。例えば、炭素数1〜8のもの、より具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、n−へキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基等が挙げられる。
前記アルキル基、アルコキシ基が有する置換基は特に限定されないが、例えばハロゲン原子等が挙げられ、その置換数は1〜3である。
とRが隣接する二つの炭素と一緒になって形成する芳香族環については、特に限定されることはなく、例えばベンゼン環等が挙げられる。
ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子を意味する。
酸性基は特に限定されることなく、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0015】
前記R、Rの組み合わせは特に限定されることはなく、任意の組み合わせを選択することができる。中でも、Rが水素原子、Rが炭素数1〜4のアルキル基の組み合わせであるか、RおよびRが共に水素である組み合わせが好ましい。このような条件を満たす化合物(I)として、2−ヨードベンゼンスルホン酸や2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸を挙げることができる。
【0016】
2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその誘導体の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、中でも、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその誘導体の塩は、J.Org.Chem.,(1993),Vol.58(No.25),7310−7312記載の方法に準じて製造することができる。または、2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその誘導体と水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を混合し、適当な精製を加えることで得ることができる。
化合物(I)は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0017】
化合物(I)の使用量は特に限定されないが、酸化の対象となるアルコールに対して0.001mol%以上であると、酸化の速度が速くなり、5mol%以下であると経済的な点、反応後の精製が容易になるという点で好ましい。従って、化合物(I)の使用量はアルコールに対して0.001〜5mol%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜2mol%、更に好ましくは0.05〜1mol%である。
【0018】
<酸化剤>
酸化剤は、化合物(I)のヨード基を5価まで酸化することができる限り特に限定されることはなく、無機酸化剤であっても、有機酸化剤であっても良い。具体的には、無機酸化剤としてペルオキソ一硫酸カリウム等のペルオキソ一硫酸塩や、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na)、ペルオキソ二硫酸カリウム(K)等が挙げられる。また、有機酸化剤としては、過酸化水素、tert−ブチルヒドロペロキシド等のヒドロペロキシド等が挙げられる。この内、使用する酸化剤はペルオキソ一硫酸カリウムが好ましい。また、酸化能力の高さ、副反応の少なさ、取り扱いの容易性の観点から、KHSO・KHSO・KSOの混合無機塩が好ましい。このような酸化剤として、Oxone(登録商標)(2KHSO・KHSO・KSO)が挙げられる。
また、酸化剤は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0019】
酸化剤によっては、1モルの酸化剤でアルコールの水酸基1モルを酸化するものもあれば、1モルの酸化剤でアルコールの水酸基2モルを酸化するものもある。本発明において、1モルの水酸基を酸化することができる酸化剤の量を酸化当量と定義する。そして、酸化剤の使用量は特に限定されないが、酸化の対象となるアルコールの水酸基1モルに対して、1酸化当量以上であると酸化速度が速く、6酸化当量以下であると副反応が少なくて好ましい。従って、酸化剤の使用量はアルコールに対して1〜6酸化当量が好ましく、より好ましくは1.6〜4酸化当量である。
例えば、酸化剤としてOxone(登録商標)(2KHSO・KHSO・KSO Mw 614.7)を用いた場合、Oxone(登録商標)の酸化当量は307.4g/酸化当量である。Oxone(登録商標)の使用量は特に限定されないが、酸化の対象となるアルコールの水酸基1モルに対して、1酸化当量(0.5mol)以上であると酸化速度が速く、6酸化当量(3mol)以下であると副反応が少なくて好ましい。従って、酸化剤の使用量はアルコールに対して1〜6酸化当量(0.5〜3mol)が好ましく、より好ましくは1.6〜4酸化当量(0.8〜2mol)である。
【0020】
<アルコール>
アルコールとしては特に限定されることなく、製造目的とするカルボニル化合物に応じて選択することができる。一価アルコールでも良く、二価、三価または四価以上の多価アルコールでも良い。また、第一級アルコールおよび第二級アルコールのいずれであっても良い。
前記アルコールをR−OHで表した場合、Rの種類および構造は特に限定されることはない。例えば、Rの種類としてはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアラルキル基が挙げられる。
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアラルキル基の炭素数は特に限定はされず、一般的には炭素数1〜20であり、好ましくは1〜10である。また、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアラルキル基は、直鎖状でも分岐状でも環状でも良く、側鎖を有していても良い。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては特に限定されることなく、例えばビニル基、アリル基、1−プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては特に限定されることなく、例えばエチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基等が挙げられる。
アラルキル基は特に限定されることはないが、前記アルキル基のいずれかの場所にアリール基が置換したものである。一般的には炭素数7〜16のアラルキル基が挙げられ、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、フェニルノニル基、フェニルデシル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基、ナフチルブチル基、ナフチルペンチル基、ナフチルヘキシル基、アントリルメチル基、アントリルエチル基等が挙げられる。一方、前記アリール基としては、一般的には炭素数6〜14のものが挙げられ、例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、アントリル基等が挙げられる。
環状の基としては特に限定されることなく、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボニル基、トリシクロデカニル基等が挙げられる。
側鎖としては特に限定されることなく、前期例示のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアラルキル基の他に、置換基を有していてもよい環状アセタール基、シリルオキシ基等が挙げられる。環状アセタール基としては、−O−(CH−O−が例示される。この場合、nは1〜4の整数を示す。環状アセタール基の置換基としては、上記例示のアルキル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいシリルオキシ基としては、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基等が挙げられる。
【0021】
また、アルコールとして、式(II)
【化7】

(ここで、R及びRは独立に水素またはアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールあるいはヘテロアリール基であり、あるいは、置換基を有してもよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールあるいはヘテロアリール基であり、あるいはR及びRは結合している炭素原子と一緒になって、シクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基を形成してもよい)のアルコールを挙げることができる。
【0022】
上記に定義した通りのR及びRがアルキル基である場合には、これらは一般に、1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、1から18個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルキルは、好ましくは1から3個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、1から10個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。更に好ましくは、アルキル基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基を表す。
【0023】
上記に定義した通りのR及びRがアルケニル基である場合には、これらは一般に、2から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から18個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルケニル基は、好ましくは2から3個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から10個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。更に好ましくは、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基を表す。
【0024】
上記に定義した通りのR及びRがアルキニル基である場合には、これらは一般に、2から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から18個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルキニル基としては特に限定されることなく、例えばエチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基等が挙げられる。
【0025】
上記に定義した通りのR及びRがシクロアルキルである場合には、これらは一般に、1から8個までの、同一のあるいは異なる置換基により置換されてもよい、5から18個までの炭素原子を有する環状の炭化水素基を表し、そしてこのシクロアルキル基の1個あるいはそれ以上のCH基は酸素原子により置換することができる。このシクロアルキル基は、好ましくは5から10個までの炭素原子を含有し、更に好ましくはこれらはシクロヘキシルを表し、このシクロアルキル基の一つあるいはそれ以上のCH基は1個あるいはそれ以上の酸素原子により置換することができる。
【0026】
上記に定義した通りのR及びRがシクロアルケニルである場合には、これらは一般に、1から8個までの、同一のあるいは異なる置換基により置換されてもよい、5から18個までの炭素原子を有する環状の炭化水素基を表し、そしてこのシクロアルケニル基の1個あるいはそれ以上のCH基は酸素原子により置換することができる。このシクロアルキル基は、好ましくは5から10個までの炭素原子を含有し、更に好ましくはこれらはシクロヘキケンを表し、このシクロアルケニル基の一つあるいはそれ以上のCH基は1個あるいはそれ以上の酸素原子により置換することができる。
【0027】
上記に定義した通りのR及びRがアリールである場合には、これらは一般に、1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、そして場合によっては縮合した、6から14個までの、好ましくは6から10個までの炭素原子を有する芳香族基を表し、特に1から3個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよいフェニルまたはナフチルを表し、そして好ましくはフェニル、p−メチルフェニル、またはp−メトキシフェニルを表す。
【0028】
上記に定義した通りのR及びRがヘテロアリールである場合には、これらは一般に、4から14個までの、好ましくは5から10個までの、特に5から7個までの炭素原子と、1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、そして場合によっては縮合したN、O及びSからなる群から選ばれる1から3個の、好ましくは1または2個のヘテロ原子を有する芳香族基を表し、そしてヘテロアリールは、最も好ましくはフランまたはチオフェンを表す。
【0029】
及びRは結合している炭素原子と一緒になって環状の基が形成された場合には、環状の基としては、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールあるいはヘテロアリール基などを挙げることができ、特に限定されることなく、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボニル基、トリシクロデカニル基等が挙げられる。
【0030】
上記アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールあるいはヘテロアリール基、あるいは上記環状の基は、各々アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、COOH、COO−アルキル、COO−アリール、CO−アルキル、CO−アリール、O−アルキル、O−アリール、O−CO−アリール、O−CO−アルキル、OCOO−アルキル、NO、NO、NOH、アリール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、NO、Si(アルキル)、CHO、SOH、SO−アルキル、SO−アルキル、SO−アルキル、CF、NHCO−アルキル、CONH、CONH−アルキル、NHCOH、NHCOO−アルキル、CHCHCO−アルキル、CHCHCOH基からなる群から選ばれる1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい。また、ジエチルアセタール、ジメチルアセタールのような鎖状アセタール基、置換基を有していてもよい環状アセタール基、シリルオキシ基等によって置換されてもよい。環状アセタール基としては、−O−(CH−O−が例示される。この場合、nは1〜4の整数を示す。環状アセタール基の置換基としては、上記例示のアルキル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいシリルオキシ基としては、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
式(II)の化合物を個別にあるいは任意の所望の混合物で使用することができる。
本発明のカルボニル化合物の製造方法は、化合物(I)と酸化剤との存在下、式(II)のアルコールを酢酸エステル溶媒、シアノアルカン溶媒およびニトロアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で酸化し、式(III)のカルボニル化合物を製造できる。また、化合物(I)と、酸化剤と、式(II)のアルコールと、酢酸エステル溶媒、シアノアルカン溶媒およびニトロアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒とを混合して混合液とし、該混合液を加熱して式(III)のカルボニル化合物を製造できる。
【0032】
また、アルコールとして、置換基を有しても良い5〜12員環の環状2級アルコールを挙げることができる。
例えば、下記一般式(IV)
【化8】

[ここで、Rはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基であり、あるいは、置換基を有してもよいアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基であり、但し、Rは隣接する三つの炭素と一緒になって、5〜12員環を形成する。]の環状2級アルコールを挙げることができる。
【0033】
上記に定義した通りのRがアルキレン基である場合には、これらは一般に、1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から18個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルキレン基は、好ましくは1から3個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から10個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。更に好ましくは、アルキレン基はエチレン基、n−プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基を表す。
【0034】
上記に定義した通りのRがアルケニレン基である場合には、これらは一般に、1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から18個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルケニレン基は、好ましくは1から3個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から10個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。更に好ましくは、ビニレン基、アリレン基、1−プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基、ノネニレン基を表す。
【0035】
上記に定義した通りのRがアルキニレン基である場合には、これらは一般に、1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から18個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルキニレン基は、好ましくは1から3個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい、2から10個までの炭素原子を有する直鎖あるいは分岐の炭化水素基を表す。アルキニレン基としては特に限定されることなく、例えばエチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、ヘプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基等が挙げられる。
上記アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基は、各々アルキル、アルケニル、アルキニル、CN、COOH、COO−アルキル、COO−アリール、CO−アルキル、CO−アリール、O−アルキル、O−アリール、O−CO−アリール、O−CO−アルキル、OCOO−アルキル、NO、NO、NOH、アリール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、NO、Si(アルキル)、CHO、SOH、SO−アルキル、SO−アルキル、SO−アルキル、CF、NHCO−アルキル、CONH、CONH−アルキル、NHCOH、NHCOO−アルキル、CHCHCO−アルキル、CHCHCOH基からなる群から選ばれる1から8個までの同一の、あるいは異なる置換基により置換されてもよい。また、ジエチルアセタール、ジメチルアセタールのような鎖状アセタール基、置換基を有していてもよい環状アセタール基、シリルオキシ基等によって置換されてもよい。環状アセタール基としては、−O−(CH−O−が例示される。この場合、nは1〜4の整数を示す。環状アセタール基の置換基としては、上記例示のアルキル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいシリルオキシ基としては、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
<溶媒>
溶媒は特に限定されず、例えば酢酸エチル等の酢酸エステル溶媒、アセトニトリル等のシアノアルカン溶媒、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン等の芳香族系溶媒、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、ニトロメタン等のニトロアルカン溶媒等が挙げられる。本発明では、酢酸エステル溶媒、シアノアルカン溶媒を選択する。取り扱いの容易さの観点からは、例えば酢酸エチル、アセトニトリル等を挙げることができる。
溶媒は上記の内の1種のみでも、2種以上を混合して使用しても良い。
【0037】
<脱水剤>
脱水剤は特に限定されることはなく、具体的には、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸カリウム、無水硫酸カルシウム、無水硫酸マグネシウム等が挙げられる。この内、使用する脱水剤は、無水硫酸ナトリウムが好ましい。
また、脱水剤は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
脱水剤の使用量は生成してくる水を除くことができる限り特に限定されないが、酸化の対象となるアルコール1molに対して、脱水剤の使用量1〜10mol当量が好ましく、より好ましくは、2〜5mol当量である。
【0038】
<製造方法>
本発明における製造方法は、化合物(I)と酸化剤との存在下でアルコールを酸化できる工程であれば特に限定されず、既存の方法を用いることができる。例えば、前記溶媒に化合物(I)と酸化剤とアルコールとを混合し、混合液としたものを加熱することにより酸化する(酸化反応工程)方法を用いることができる。その後、冷却した混合液から、化合物(I)および酸化剤由来の化合物、ならびに溶媒を除去(分離工程)することにより、目的のカルボニル化合物を含む物質を得ることができる。
また、アルコールが1級アルコールである場合、生成するカルボニル化合物として、アルデヒド基を有する化合物および/またはカルボキシル基を有する化合物の生成が予期される。この場合、1級アルコールを、カルボキシル基を有する化合物に酸化することができるし、必要であれば上述の脱水剤を用いることによって選択的にアルデヒド基を有する化合物に酸化することもできる。
前記酸化反応工程における加熱条件は特に限定されるものではないが、20℃以上であると反応速度が速く、100℃以下であると製造環境上の面で好ましい。従って、加熱温度は20〜100℃が好ましく、30〜100℃がより好ましく、40〜90℃が更に好ましい。
また、加熱時間は特に限定されるものではないが、30分以上であると反応がより進行し、24時間以下であると反応効率の点で好ましい。従って、加熱時間は30分〜24時間であることが好ましく、30分〜12時間がより好ましい。
前記加熱に用いる装置は、目的の温度で加熱できるものであれば特に限定されるものではなく、既存の装置を使用することができる。
なお、前記酸化剤をすり潰して使用することで、反応時間の短縮を図ることができる。
【0039】
前記分離工程における化合物(I)、酸化物由来の化合物、溶媒の除去手段は特に限定されず、既存の手法を用いることができる。例えば、混合液を冷却した後に混合液中の不溶物を濾過により除去し、得られた濾液から溶媒を蒸発留去し、カルボニル化合物を含む物質を得る方法が挙げられる。
前記濾過に用いる装置は特に限定されることなく、既存の装置を使用することができる。また、溶媒の除去についても特に限定されることなく、既存の装置を使用することができる。
【0040】
本発明の酸化促進剤は、酸化剤の能力を増大させるものであり、少量の酸化剤と併用することで充分な効果を発揮でき、その使用方法等については、上述の本発明の製造方法の説明に記載された条件等に設定することができる。
【0041】
また、一定の反応条件下で、例えば、前記記載の好ましい使用量より多い量の一般式(I)で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその誘導体あるいはその塩と、前記記載の好ましい使用量より多い量の酸化剤との存在下、前記式(IV)の環状2級アルコールから、式(V)の環状エノン化合物を製造することができる。特に、前記式(IV)のRは置換基を有してもよいアルキレン基の場合の環状アルカノールから環状α,β−エノン化合物を製造することができる。
例えば、2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその誘導体あるいはその塩の使用量は、酸化の対象となる式(IV)のアルコールに対して、1mol%以上10mol%以下であることが好ましく、より好ましくは3〜8mol%、更に好ましくは4〜6mol%である。
例えば、酸化剤の使用量は、酸化の対象となる式(IV)のアルコールに対して、2酸化当量以上8酸化当量以下であることが好ましく、より好ましくは3〜7酸化当量、更に好ましくは4〜6酸化当量である。
また、酸化剤はOxone(登録商標)(2KHSO・KHSO・KSO)が好ましい。Oxone(登録商標)を用いた場合、Oxone(登録商標)の使用量は、酸化の対象となる式(IV)のアルコールの水酸基1モルに対して、2〜8酸化当量(1〜4mol)以下であることが好ましく、より好ましくは3〜7酸化当量(1.5〜3.5mol)、更に好ましくは4〜6酸化当量(2〜3mol)である。
例えば、溶媒は、ニトロメタンが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0043】
(製造例1)2−ヨードベンゼンスルホン酸の製造
2−ヨードベンゼンスルホン酸は、J.Org.Chem.,(1977),Vol.42(No.20),3265−3270、およびJ.Org.Chem.,(1993),Vol.58(No.25),7310−7312に記載の方法に準じて製造した。
【0044】
(製造例2)2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸の製造
2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸は、J.Org.Chem.,(1993),Vol.58(No.25),7310−7312に記載の方法に準じて製造した。
【0045】
(製造例3)2−ヨード−5−メチル安息香酸の製造
2−ヨード−5−メチル安息香酸は、Katritzky et al.,Organic Preparations and Procedures Int.1989,21(2),157−162に記載の方法に準じて製造した。
【0046】
(製造例4)2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の製造
2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩は、J.Org.Chem.,(1993),Vol.58(No.25),7310−7312に記載の方法に準じて製造した。
【0047】
(実施例1)
製造例1によって得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸8.5mg(0.03mmol)、Oxone(登録商標)1.48g(2.4mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)を酢酸エチル3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で10時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、濾過により不溶物を除いた。その後、濾液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加え、不溶物を濾過により除いた。得られた濾液を減圧濃縮して5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0048】
(参考例1)
製造例2によって得られた2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸1.8mg(0.006mmol)、すり潰したOxone(登録商標)1.11g(1.8mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)をニトロメタン3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で7時間加熱した。その後の処理は実施例1と同様にして、5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0049】
(参考例2)
製造例1によって得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸1.7mg(0.006mmol)、すり潰したOxone(登録商標)1.11g(1.8mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)をニトロメタン3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で7.5時間加熱した。その後の処理は実施例1と同様にして、5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
製造例2によって得られた2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸8.9mg(0.03mmol)、すり潰したOxone(登録商標)2.04g(3.3mmol)、およびベンジルアルコール324mg(3mmol)をアセトニトリル3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で1時間加熱した。その後の処理は実施例1と同様にして、ベンズアルデヒドを得た。得られたベンズアルデヒドについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
製造例2によって得られた2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸8.9mg(0.03mmol)、すり潰したOxone(登録商標)1.48g(2.4mmol)、および1−フェニルエタノール367mg(3mmol)をアセトニトリル3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で1時間加熱した。その後の処理は実施例1と同様にして、アセトフェノンを得た。得られたアセトフェノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0052】
(参考例3)
製造例2によって得られた2−ヨード−5−メチルベンゼンスルホン酸8.9mg(0.03mmol)、すり潰したOxone(登録商標)2.04g(3.3mmol)をニトロメタン3.75mlに加え、4−フェニルブタノール450mg(3mmol)を2時間かけて滴加し、攪拌しながら70℃で6時間加熱した。その後の処理は実施例1と同様にして、4−フェニルブタン酸を得た。得られた4−フェニルブタン酸について収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0053】
(実施例4)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩9.2mg(0.03mmol)、Oxone(登録商標)1.48g(2.4mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)をアセトニトリル3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で3時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0054】
(参考例4)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.37g(0.6mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および4−フェニルブタノール150mg(1mmol)をニトロメタン5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で2時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、4−フェニルブタナールを得た。得られた4−フェニルブタナールについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率91%)
【0055】
(参考例5)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.37g(0.6mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および(E)−3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエン−1−オール154mg(1mmol)をニトロメタン5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で2時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、(E)−3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエナールを得た。得られた(E)−3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエナールについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率E体:Z体=16:1)
【0056】
(参考例6)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.37g(0.6mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)およびオクタ−7−エン−1−オール156mg(1mmol)をニトロメタン5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で2時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、オクタ−7−エナールを得た。得られたオクタ−7−エナールについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率92%)
【0057】
(参考例7)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.37g(0.6mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および(Z)−オクタデカ−9−エン−1−オール268mg(1mmol)をニトロメタン5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で2時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、(Z)−オレアルデヒドを得た。得られた(Z)−オレアルデヒドについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率90%)
【0058】
(実施例5)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.49g(0.8mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および3,3−ジメチル−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−9−オール200mg(1mmol)を酢酸エチル5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で8時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、3,3−ジメチル−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−9−オンを得た。得られた3,3−ジメチル−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−9−オンについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率91%)
【0059】
(実施例6)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.49g(0.8mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−8−オール158mg(1mmol)を酢酸エチル5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で8時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−8−オンを得た。得られた1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−8−オンについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率86%)
【0060】
(実施例7)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.49g(0.8mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および4−(トリエチルシリルオキシ)シクロヘキサノール230mg(1mmol)を酢酸エチル5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で8時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、4−(トリエチルシリルオキシ)シクロヘキサノンを得た。得られた4−(トリエチルシリルオキシ)シクロヘキサノンについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率74%)
【0061】
(実施例8)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.49g(0.8mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ヘキサン−2−オール232mg(1mmol)を酢酸エチル5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で7時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ヘキサン−2−オンを得た。得られた6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ヘキサン−2−オンについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率90%)
【0062】
(実施例9)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.1mg(0.02mmol)、すり潰したOxone(登録商標)0.49g(0.8mmol)、無水硫酸ナトリウム0.5g(3.5mmol)および3−メチル−5−(プロパ−1−エン−2−イル)シクロヘキサ−2−エノール152mg(1mmol)を酢酸エチル5mlに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で8時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、3−メチル−5−(プロパ−1−エン−2−イル)シクロヘキサ−2−エノンを得た。得られた3−メチル−5−(プロパ−1−エン−2−イル)シクロヘキサ−2−エノンについて収率を測定し、その結果を表2に示す。(収率91%)
【0063】
(比較例1)
製造例3によって得られた2−ヨード−5−メチル安息香酸7.86mg(0.03mmol)、Oxone(登録商標)1.48g(2.4mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)を酢酸エチル3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で12時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、濾過により不溶物を除いた。濾液に水を加え、ジエチルエーテルで抽出を行った。有機相を、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮することで5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
製造例3によって得られた2−ヨード−5−メチル安息香酸1.57mg(0.006mmol)、すり潰したOxone(登録商標)1.11g(1.8mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)をニトロメタン3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で12時間加熱反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、濾過により不溶物を除いた。濾液に水を加え、ジエチルエーテルで抽出を行った。有機相を、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮することで5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
2−ヨード安息香酸(Aldrich社製)1.49mg(0.006mmol)、すり潰したOxone(登録商標)1.11g(1.8mmol)、および5−ノナノール433mg(3mmol)をニトロメタン3.75mlに加え、攪拌しながら70℃で12時間加熱反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、濾過により不溶物を除いた。濾液に水を加え、ジエチルエーテルで抽出を行った。有機相を、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮することで5−ノナノンを得た。得られた5−ノナノンについて収率を測定し、その結果を表1に示す。
【0066】
(収率測定)
生成したカルボニル化合物の収率は、以下の方法により測定した。
生成したカルボニル化合物を計量し、mol数を算出し、下記式により収率を算出した。
収率=(カルボニル化合物mol数)/(アルコールmol数)×100%
なお、mol数算出に使用した、各カルボニル化合物の分子量は次の通りである。
5−ノナノン・・・・・・・142
ベンズアルデヒド・・・・・106
アセトフェノン・・・・・・120
5−フェニルブタン酸・・・164
4−フェニルブタナール・・・・・・・・・・・・・・・・148
(E)−3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエナール・・152
オクタ−7−エナール・・・・・・・・・・・・・・・・・154
(Z)−オレアルデヒド・・・・・・・・・・・・・・・・266
3,3−ジメチル−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−9−オン・・198
1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカン−8−オン・・・・・・・・・・・・・156
4−(トリエチルシリルオキシ)シクロヘキサノン・・・・・・・・・・・・・・228
6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ヘキサン−2−オン・・・・・・230
3−メチル−5−(プロパ−1−エン−2−イル)シクロヘキサ−2−エノン・・150
【0067】
【表1】

【表2】

【0068】
表1と表2の結果から、化合物(I)と、酸化剤Oxone(登録商標)との存在下でアルコールを酸化した実施例1〜9にあっては、カルボニル化合物の収率は高い値であった。
一方、化合物(I)を添加してない比較例1〜3においては、2−ヨード−5−メチル安息香酸存在下で、溶媒をニトロメタンとした比較例2においてのみカルボニル化合物の収率は高かった。しかし、溶媒を酢酸エチルとした比較例1では、2−ヨード−5−メチル安息香酸の添加量を増やしても、収率が著しく低くなっていた。加えて、溶媒をニトロメタンとしても、2−ヨード安息香酸存在下では、低い収率であった。
これに対し、実施例1〜9においては、溶媒がニトロメタン以外であっても、高い収率でカルボニル化合物を得られることがわかった。
加えて、実施例2〜3においては、Oxone(登録商標)をすり潰して使用しており、実施例1に比べて短時間の加熱条件でも、高い収率を示した。
また、1級アルコールが用いられた参考例4〜7においては、脱水剤として無水硫酸ナトリウムを加えることにより、選択的にアルデヒド化合物が得られることがわかった。
(参考例8〜17)
製造例4で得られた2−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、すり潰したOxone(登録商標)、表3に示した10種類のシクロアルカノールをニトロメタンに加え、窒素気流下で攪拌しながら70℃で6〜24時間加熱反応させた。その後の処理は実施例1と同様にして、それぞれのシクロエノンを得た。得られたシクロエノンについて収率を測定し、その結果を表3に示す。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、取り扱いが容易な溶媒であっても、アルコールの酸化による製造方法により、カルボニル化合物を高効率で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

[式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩と、酸化剤との存在下、アルコールを酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で酸化する工程を有することを特徴とする、カルボニル化合物の製造方法。
【請求項2】
下記一般式(I)
【化2】

[式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩と、酸化剤と、アルコールと、酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒とを混合して混合液とし、該混合液を加熱する工程を有することを特徴とする、カルボニル化合物の製造方法。
【請求項3】
脱水剤が存在することを特徴とする請求項1又は2に記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(I)
【化3】

[式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、および置換基を有していても良いアルキル基もしくはアルコキシ基からなる群から選択される基を表す。また、RとRが隣接する二つの炭素と一緒になって芳香族環を形成しても良い。]で表される2−ヨードベンゼンスルホン酸またはその塩を含有し、酢酸エステル溶媒およびシアノアルカン溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒中で、酸化剤と共に用いる酸化促進剤。

【公開番号】特開2010−100635(P2010−100635A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284482(P2009−284482)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【分割の表示】特願2009−510225(P2009−510225)の分割
【原出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本化学会第88春季年会 2008年 講演予稿集II」
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】