説明

カルボン酸の製造方法

炭素数n+1のカルボン酸、ハロゲン化水素、低沸成分及び高沸成分などを含むカルボン酸流を、第1の蒸留塔に供給し、この第1の蒸留塔で、前記低沸成分の一部を含む低沸点流分と、前記高沸成分の一部を含む高沸点流分とを分離し、少なくとも前記カルボン酸を含む側流をサイドカットにより留出させて、第2の蒸留塔に供給し、この第2の蒸留塔で、前記低沸成分の一部を含む低沸点流分と、高沸成分の一部を含む高沸点流分とを分離し、前記カルボン酸を含む側流をサイドカットにより回収する、炭素数n+1の精製カルボン酸の製造方法において、前記第1の蒸留塔に前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の第1の成分(A)及び必要により水を供給する。このような方法により、精製カルボン酸中のハロゲン化水素濃度を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留塔内でのハロゲン化水素(ヨウ化水素など)の濃縮を抑制して製品カルボン酸に含まれるハロゲン化水素濃度を低減するのに有用な方法(蒸留方法、カルボン酸(例えば、酢酸)の製造方法など)及びカルボン酸の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸の製造において、水、ヨウ化水素、ヨウ素イオン(以下、ヨウ化水素及び/又はヨウ素イオンを単にヨウ化水素と称する場合がある)、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸などを含む溶液を蒸留精製すると、ヨウ化水素と水との相互作用のため、ヨウ化水素が蒸留塔内に濃縮され、混合物を蒸留してもヨウ化水素を効率よく除去できず、製品酢酸中のヨウ化水素濃度を十分に低減するのが困難である。また、ヨウ化水素濃度が高いと、蒸留塔及び周辺設備の腐蝕が促進される。
【0003】
そこで、蒸留塔内でのヨウ化水素濃度を低減するため、蒸留塔の中間段からメタノールなどの成分を仕込み、ヨウ化水素をヨウ化メチルに変換させることが提案されている。特開平6−40999号公報(特許文献1)には、ロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化物塩、約10重量%までの濃度の水分、少なくとも2重量%の濃度の酢酸メチル、酢酸からなる液体反応組成物を保持するカルボニル化領域に、メタノールと一酸化炭素とを供給し、液体反応組成物をフラッシュ領域に導入し、フラッシュ領域からの液体区分を反応領域に再循環するとともに、単蒸留を使用してフラッシュ領域蒸気区分から酢酸生成物を回収する方法において、フラッシュ領域からの蒸気区分を、蒸留領域中に導入し、蒸留領域の頭部から、軽質末端再循環流を取り出し、蒸留領域から、1500ppm未満の水分濃度及び500ppm未満のプロピオン酸濃度を有する酸生産物流を取り出す工程で構成されている酢酸の製造方法が開示されている。この文献には、酢酸生成物をイオン交換樹脂(アニオン交換樹脂)床に通過させてヨウ化物混入物を除去することも記載されている。なお、特許文献1では、酸生産物流は、蒸留領域の底部か底部の上2段目から抜き取っている。
【0004】
さらに、この文献には、少量のメタノールを蒸留領域(好適には供給点の下方)に導入し、ヨウ化水素をヨウ化メチルに変換し、軽質末端再循環流中に除去することにより、ヨウ化水素成分の増加を防止すること、この方法で供給物中の5000ppmまでのヨウ化水素は処理できること、蒸留領域を十分に高い圧力で運転することにより、蒸留領域中の酢酸メチルの比較的高い濃度のヨウ化水素をヨウ化メチルに変換し、軽質末端再循環流中に除去することが記載されている。
【0005】
しかし、これらの方法でもヨウ化水素を有効に除去できない。また、ヨウ化水素をヨウ化メチルに変換するため、圧力や温度を高めると、ヨウ化水素による腐食を促進させるので好ましくない。なお、水分濃度が1500ppm以下の酢酸を取り出しても、ヨウ化水素と水との親和性(最高共沸物の形成等)のため、酢酸中のヨウ化水素濃度を12ppm以下に低減できない。さらに、ヨウ化水素濃度をさらに低減するためには、アニオン交換樹脂を必要とし、処理コストが大きくなる。また、蒸留領域の底部から酸生産物流を抜き取るため、飛沫同伴のロジウム触媒を効率よく分離及び回収できず、閉塞による運転トラブルが生じたり、製品の品質が低下するとともに、コスト面でも不利であり、工業的に実施するのは困難である。また、上記のような問題を防止するためには、別途、ロジウム触媒を分離又は回収する設備が必要となる。
【0006】
特開昭52−23016号公報(特許文献2)には、水、ヨウ化メチル、及びヨウ化水素を含有する酢酸の流れを第1蒸留帯域の中間点に導入し、この第1蒸留帯域の塔頂からヨウ化メチルの主要割合及び水の一部を除去し、第1蒸留帯域の底からヨウ化水素の主要割合を除去し、前記第1蒸留帯域の中央部から流れを取り出して第2蒸留帯域の上部に導入し、メタノールの流れを第2蒸留帯域の下部に導入し、第2蒸留帯域の塔頂から、酢酸メチルと共に存在する水の残部及びヨウ化メチルを含有する流れを除去し、前記第2蒸留帯域の底又は底に近い部分から、本質的に乾燥し、かつ実質的にヨウ化水素及びヨウ化メチルを含まない酢酸生成物の流れを取り出すことにより、ヨウ素含有成分を除去回収し、酢酸を乾燥させる方法が開示されている。
【0007】
この文献には、第1の蒸留塔からサイドカットされた留分を第2の蒸留塔で蒸留して酢酸を回収する方法において、第2の蒸留塔にメタノールを導入し、化学的にヨウ化水素を除去することにより、第2の蒸留塔のサイドカット留分であってヨウ化水素を含む留分を第1の蒸留塔へ再循環する必要がないことが開示されている。
【0008】
このような方法では、蒸留塔内でのヨウ化水素の濃縮及びサイドカットによる除去を行う必要がないものの、製品酢酸中に含まれるヨウ化水素濃度を十分に低減できない。
【0009】
英国特許第1350726号明細書(特許文献3)には、水及びアルキルハライド及び/又はハロゲン化水素不純物を含むモノカルボン酸の精製プロセスであって、水及びアルキルハライド及び/又はハロゲン化水素不純物を含むモノカルボン酸を、蒸留域の上半分に導入し、水の主要部とアルキルハライドを含むオーバーヘッド留分を除去し、前記蒸留域の中間部であって導入部より下からの流れを取り出して、前記蒸留域に存在するハロゲン化水素の主要部を除去し、前記蒸留域の底部から生成モノカルボン酸流を取り出し、本質的に乾燥し、かつ実質的にアルキルハライド及びハロゲン化水素を含まないモノカルボン酸を得ることが開示されている。この文献には、水濃度が3〜8重量%の範囲のカルボン酸の液体組成物において、蒸留塔の中間部でハロゲン化水素濃度のピークが生じ、蒸留塔の中間部から側流を取り出すと、ハロゲン化水素を殆ど除去できることが記載されている。さらに、メタノールと一酸化炭素との反応により生成した反応生成物をフラッシュ蒸留に供し、このフラッシュ蒸留により分離された留分を、蒸留塔に導入すると、蒸留塔の中間部からの側流にヨウ化水素が濃縮され、除去されることも記載されている。
【0010】
しかし、このような方法では、温度、圧力などの蒸留工程での変動要因により、ハロゲン化水素濃度のピーク位置が変動し、ヨウ化水素が製品酢酸中に混入することがある。さらに、ヨウ化水素と水との親和性のため、酢酸中のヨウ化水素濃度を大きく低減できない。
【0011】
なお、WO02/062740号公報(特許文献4)には、以下の(a)〜(d)の工程を含む酢酸の連続プロセスが開示されている。(a)メタノールと一酸化炭素とを反応させる工程、(b)反応媒体の流れを反応器から抜き取って、この媒体をフラッシュ工程で気化させる工程、(c)フラッシュされた蒸気を2つの蒸留塔を用いて蒸留し、液状酢酸生成物流を形成する工程、(d)(i)液状酢酸生成物流を陰イオン交換樹脂に約100℃以上で接触させ、次いで銀又は水銀交換されたイオン交換基材に接触させるか、又は(ii)酢酸生成物流を銀又は水銀交換されたイオン交換基材に約50℃以上で接触させることにより、液状酢酸生成物流のヨウ化物塩濃度を10ppb未満になるように液状酢酸生成物流のヨウ化物を除去する工程。このように、特許文献4では、酢酸生成物流から陰イオン交換樹脂及び/又はガードベッド(Guard bed)を用いてヨウ化物を除去している。しかし、このような方法では、高沸点成分であるアルデヒド類、カルボン酸類、エステル類などのカルボニル不純物を除去できないため、製品酢酸規格であるカメレオン試験値が悪化し、製品の品質が低い。さらに、金属性不純物、硫酸根などの高沸点成分の除去も困難である。そのため、製品酢酸規格を満足させる酢酸を得るには、付帯設備を設置し酢酸流を処理する必要がある。
【0012】
なお、銀又は水銀交換イオン交換樹脂によるヨウ化物除去は、有機化学では有名なアセトリシス(acetolysis)と呼ばれる一分子求核置換(SN1)反応に基づいている。すなわち、基質のヨウ化物RXが酢酸の溶媒和によりカルボニウムイオンRと陰イオンXとに分解(ヘテロリシス)し、生成したRが速やかに求核試薬である酢酸と反応する。このSN1反応は、脱離基Xの非共有電子対と配位結合しうるAg、Hg、又はCuにより促進される。
【0013】
上記SN1反応では、結合R−Xの解離エネルギーは、RがCH、C、C、C…と炭素数が増加(炭素鎖が増長)するに伴って、小さくなり(例えば、CHI及びCIの解離エネルギーは、それぞれ234kJ/mol及び224kJ/molである)、高級ヨウ化物は、ガードベッドで除去し易くなる。
【0014】
しかし、Rが水素原子である場合には、結合R−Xの解離エネルギーは極めて大きいことが知られている。例えば、ヨウ化水素HIの解離エネルギーは299kJ/molであり、ガードベッドを用いてヨウ化水素を分離除去することは原理的に極めて困難である。そして、得られる酢酸は、製品の品質、設備腐食の観点から工業的及び/又は商業的に満足できるものではない。
【0015】
特公昭57−55695号公報(特許文献5)には、不純物としてヨウ素を含有する酢酸流を第1蒸留塔の両端からの中間部に導入し、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酢酸塩、次亜リン酸などを第1の蒸留塔の両端から中間部に導入し、第1蒸留塔から生成物流オーバーヘッドを取り出し、上記の生成物流を第2の蒸留塔の両端からの中間部に導入し、第2の蒸留塔の下の部分から実質的にヨウ素を含有しない酢酸流を取り出し、かつヨウ素を含有するオーバーヘッド留分を第2の蒸留塔から取り出すことにより、酢酸からヨウ素を除去する方法が開示されている。しかし、ヨウ化水素濃度が非常に高い第1の蒸留塔にアルカリ金属水酸化物などの上記の試薬を導入して、ヨウ化水素を除くには、非常に多くの試薬が必要になるとともに、処理により生成するアルカリ金属ヨウ化物の量も多くなり、分離や廃棄などの点で、環境的にも経済的にも不利である。また、酢酸とアルカリ金属水酸化物との中和反応により生成する酢酸カリウムが製品中に大量に混入し、酢酸の収率が低下する。また、上記の方法では、酢酸を第1の蒸留塔のオーバーヘッドとして取り出している。しかし、オーバーヘッドでは、ヨウ化水素及び水の割合が多く、このような環境では、ヨウ化メチルが加水分解してヨウ化水素が発生し、第2の蒸留塔への供給流にヨウ化水素が混入する。
【特許文献1】特開平6−40999号公報(特許請求の範囲、段落番号[0043])
【特許文献2】特開昭52−23016号公報(特許請求の範囲、第5頁右下欄、第7頁左下欄〜右下欄、及び実施例1)
【特許文献3】英国特許第1350726号明細書(クレーム、第2頁66行〜76行及び実施例1)
【特許文献4】国際公開WO02/062740号公報(クレーム1)
【特許文献5】特公昭57−55695号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、蒸留塔内でのハロゲン化水素の濃縮を抑制して、製品カルボン酸に含まれるハロゲン化水素濃度を低減できるとともに、蒸留塔の腐蝕を軽減できるカルボン酸の製造方法及び製造システムを提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、ハロゲン化水素だけでなく、ハロゲン化炭化水素などのハロゲン化物濃度も低減して、精製されたカルボン酸を製造できる方法及び製造システムを提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、低沸不純物及び高沸不純物を効率よく除去して、純度の高いカルボン酸を製造できる方法及び製造システムを提供することにある。
【0019】
本発明の別の目的は、アルコール又はその誘導体のカルボニル化反応により得られる反応混合物から効率よく精製された目的カルボン酸を製造できる方法及び製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、炭素数n+1のカルボン酸及びハロゲン化水素などの不純物を含むカルボン酸流を第1及び第2の蒸留塔により精製する精製カルボン酸の製造方法において、少なくとも前記第1の蒸留塔に前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の成分(A)(第1の成分)及び/又は水を供給すると、前記ハロゲン化水素を低沸成分に変換して効率よく分離できることを見いだし、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明では、少なくとも炭素数n+1のカルボン酸、ハロゲン化水素、低沸成分及び高沸成分を含むカルボン酸流を、第1の蒸留塔に供給し、この第1の蒸留塔で、前記低沸成分の一部を含む低沸点流分(第1の低沸点流分)と、前記高沸成分の一部を含む高沸点流分(第1の高沸点流分)とを分離し、少なくとも前記炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットにより留出させて、第2の蒸留塔に供給し、この第2の蒸留塔で、前記低沸成分の一部を含む低沸点流分(第2の低沸点流分)と、前記高沸成分の一部を含む高沸点流分(第2の高沸点流分)とを分離し、前記炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第2の側流)をサイドカットにより留出させて回収し、炭素数n+1のカルボン酸(精製されたカルボン酸)を製造する方法において、少なくとも前記第1の蒸留塔に、前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の成分(A)(第1の成分)及び/又は水を供給する。ハロゲン化水素は、水、第1の成分(A)の供給、又は第1の成分(A)と水との供給により、通常、低沸点流分として分離することができる。このような方法により、蒸留塔内のハロゲン化水素を効率よく除去でき、製品カルボン酸に含まれるハロゲン化水素濃度を大きく低減できる。また、蒸留塔内でのハロゲン化水素の濃縮を抑制でき、蒸留塔の腐蝕を軽減することもできる。
【0022】
前記製造方法において、第1の成分(A)を単独で供給する場合、炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットする側流口(第1の側流口)よりも下方から第1の蒸留塔に供給する。また、水、又は第1の成分(A)及び水を、炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットする側流口(第1の側流口)よりも上方から第1の蒸留塔に供給してもよい。第1の蒸留塔において、炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットする側流口(第1の側流口)よりも上方から少なくとも水(例えば、水と、第1の成分(A)と)を供給し、かつ前記側流口(第1の側流口)よりも下方から第1の成分(A)(例えば、前記アルコール)を供給してもよい。このような方法により、第1の蒸留塔からサイドカットされるカルボン酸流へのハロゲン化水素の混入量を有効に低減することができる。
【0023】
第1の成分(A)の供給割合及び水の供給割合のそれぞれは、下記(i)及び(ii)の少なくともいずれかを充足してもよい。このような方法により、サイドカット酢酸流中のハロゲン化水素をより効果的に除去可能である。
【0024】
(i)第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、1〜10,000モルである
(ii)第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれる炭素数n+1のカルボン酸全体に対して、0.02〜50モル%である
前記製造方法において、さらに第2の蒸留塔に、(b-1)炭素数n+1のカルボン酸に対応する炭素数nのアルコール、(b-2)このアルコールと炭素数n+1のカルボン酸とのエステル、(b-3)アルカリ金属水酸化物、(b-4)アルカリ金属酢酸塩及び(b-5)次亜リン酸から選択された少なくとも一種の成分(B)(第2の成分)を供給してもよい。また、第2の成分(B)を、炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第2の側流)をサイドカットする側流口(第2の側流口)より上方及び下方の少なくとも一方から第2の蒸留塔に供給してもよい。第2の成分(B)に関して、成分(b-1)及び(b-2)の供給割合は、総量で、下記(i)及び(ii)の少なくともいずれかを充足してもよく、成分(b-3)の供給割合は、下記(iii)及び(iv)の少なくともいずれかを充足してもよい。
【0025】
(i)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、成分(b-1)及び(b-2)の供給割合が総量で1〜10,000モルである
(ii)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれる炭素数n+1のカルボン酸全体に対して、成分(b-1)及び(b-2)の供給割合が総量で0.02〜50モル%である
(iii)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、成分(b-3)の供給割合が1〜20,000モルである
(iv)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれる炭素数n+1のカルボン酸が、成分(b-3)1モルに対して、30〜300,000モルである
このような方法では、第2の蒸留塔からサイドカットされる酢酸流へのハロゲン化水素の混入量を大きく低減することが可能である。
【0026】
前記製造方法では、金属触媒成分とアルキルハライドとで構成された触媒系、及び液相反応系全体に対して0.1〜10重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧1〜150kPaで、炭素数nのアルコール又はその誘導体と一酸化炭素とを連続的に反応させ、反応混合物を反応系から連続的に抜き出して、触媒分離塔に供給し、前記金属触媒成分を含む高沸点流分(第3の高沸点流分)と、低沸点流分(第3の低沸点流分)とに分離し、この低沸点流分(第3の低沸点流分)をカルボン酸流として前記第1の蒸留塔に供給してもよい。
【0027】
前記第2の蒸留塔で、サイドカットした側流(第2の側流)を、さらにハロゲン化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂に接触させ、精製された炭素数n+1のカルボン酸を製造してもよい。このような方法により、製品カルボン酸中のハロゲン化物(ハロゲン化炭化水素など)も効率よく除去することができる。
【0028】
前記第1及び/又は第2の蒸留塔からの低沸点流分は、反応系に供給してもよい。また、前記蒸留塔からの低沸点流分は、アルキルハライド、炭素数n+1のカルボン酸のアルキルエステル、炭素数n+1のアルデヒド、及び水を含んでいてもよく、前記低沸点流分をさらにアルデヒド分離工程に供し、このアルデヒド分離工程で、前記アルデヒドを含む低沸点流分(第4の低沸点流分)と、前記アルキルハライド、カルボン酸のアルキルエステル、及び水を含む高沸点流分(第4の高沸点流分)とに分離し、この高沸点流分(第4の高沸点流分)を反応系にリサイクルしてもよい。このような方法により、アルデヒドが反応系又は蒸留塔を循環するのを抑制できるとともに、アルキルハライド、カルボン酸アルキルエステル及び水などを反応に再利用でき、コスト的に有利である。また、前記第1の蒸留塔からの低沸点成分(第1の低沸点成分)は、第1の蒸留塔に供給してもよい。このような方法では、アルキルハライドやカルボン酸アルキルエステルなどの水と共沸可能な成分を蒸留塔に添加することにより、酢酸などのカルボン酸と水との分離性を高めることができる。
【0029】
前記製造方法は、周期表第8族金属触媒、アルカリ金属ヨウ化物、及びヨウ化アルキルで構成された触媒系、及び液相反応系全体に対して0.1〜5重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧5〜100kPaで、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応させ、反応混合物を反応系から連続的に抜き出して、触媒分離塔に供給し、前記金属触媒及びアルカリ金属ヨウ化物を含む高沸点流分(第3の高沸点流分)と、酢酸、ヨウ化アルキル、酢酸メチル、水及びプロピオン酸を含む低沸点流分(第3の低沸点流分)とに分離し、この低沸点流分(第3の低沸点流分)をカルボン酸流として第1の蒸留塔に供給し、この第1の蒸留塔で、前記ヨウ化アルキル、前記酢酸メチル及び水の一部を含む低沸点流分(第1の低沸点流分)と、水及びプロピオン酸の一部を含む高沸点流分(第1の高沸点流分)とを分離し、少なくとも前記酢酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットにより留出させて、第2の蒸留塔に供給し、この第2の蒸留塔で、前記ヨウ化アルキル、前記酢酸メチル及び水の一部を含む低沸点流分(第2の低沸点流分)と、水及びプロピオン酸の一部を含む高沸点成分(第2の高沸点流分)とを分離し、前記酢酸(精製された酢酸)を含む側流(第2の側流)をサイドカットにより留出させて回収するカルボン酸の製造方法であってもよく、この製造方法において、少なくとも前記第1の蒸留塔に、メタノール及び酢酸メチルから選択された少なくとも一種の第1の成分(A)及び/又は水を供給してもよい。このような製造方法では、さらに前記第2の蒸留塔に、(b-1)メタノール、(b-2)酢酸メチル、(b-3)水酸化カリウム、(b-4)酢酸カリウム及び(b-5)次亜リン酸から選択された少なくとも一種の成分(B)(第2の成分)を供給してもよい。このような方法により、メタノールのカルボニル化反応により生成する酢酸流であっても、前記蒸留塔により効率よく精製でき、ヨウ化水素の混入量が大幅に低減された精製酢酸を製造することができる。
【0030】
本発明には、少なくとも炭素数n+1のカルボン酸、ハロゲン化水素、低沸成分及び高沸成分を含むカルボン酸流から、前記低沸成分の一部を含む低沸点流分(第1の低沸点流分)と、前記高沸成分の一部を含む高沸点流分(第1の高沸点流分)とを分離し、少なくとも前記炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットにより留出させるための第1の蒸留塔、並びにこの第1の蒸留塔からの前記側流(第1の側流)から、前記低沸成分の一部を含む低沸点流分(第2の低沸点流分)と、前記高沸成分の一部を含む高沸点流分(第2の高沸点流分)とを分離し、炭素数n+1のカルボン酸(精製されたカルボン酸)を含む側流(第2の側流)をサイドカットにより留出させて回収するための第2の蒸留塔を備えたカルボン酸を製造するシステムであって、少なくとも前記第1の蒸留塔に、前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の成分(A)(第1の成分)及び/又は水を供給するカルボン酸の製造システムも含まれる。
【0031】
また、前記製造システムは、金属触媒成分とアルキルハライドとで構成された触媒系、及び液相反応系全体に対して0.1〜10重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧1〜150kPaで、炭素数nのアルコール又はその誘導体と一酸化炭素とを連続的に反応させるための反応系、この反応系から連続的に抜き出した反応混合物から、前記金属触媒成分を含む高沸点流分(第3の高沸点流分)と、カルボン酸流としての低沸点流分(第3の低沸点流分)とに分離するための触媒分離塔、この触媒分離塔からの前記カルボン酸流から、低沸成分の一部を含む低沸点流分(第1の低沸点流分)と、高沸成分の一部を含む高沸点流分(第1の高沸点流分)とを分離し、少なくとも炭素数n+1のカルボン酸を含む側流(第1の側流)をサイドカットにより留出させるための第1の蒸留塔、この第1の蒸留塔からの前記側流(第1の側流)から、低沸成分の一部を含む低沸点流分(第2の低沸点流分)と、高沸成分の一部を含む高沸点流分(第2の高沸点流分)とを分離し、炭素数n+1のカルボン酸(精製されたカルボン酸)を含む側流(第2の側流)をサイドカットにより留出させて回収するための第2の蒸留塔、並びにこの第2の蒸留塔からのカルボン酸(精製カルボン酸)を含む側流(第2の側流)からハロゲン化物を除去し、炭素数n+1のカルボン酸(精製されたカルボン酸)を得るためのハロゲン化物除去塔を含む製造システムであってもよく、この製造システムにおいて、前記ハロゲン化物除去塔は、前記第2の蒸留塔からの側流(第2の側流)との接触によりハロゲン化物を除去するためのハロゲン化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂を内部に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、炭素数n+1のカルボン酸に加えて、ハロゲン化水素などの不純物を含むカルボン酸流を第1及び第2の蒸留塔により精製する精製カルボン酸の製造方法において、少なくとも前記第1の蒸留塔に、(i)水及び/又は、(ii)前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の成分(A)を供給(特に成分(A)単独の場合はカルボン酸をサイドカットする側流口より下方から供給)するので、前記ハロゲン化水素を低沸成分に変換して低沸点流分として効率よく分離でき、製品カルボン酸に含まれるハロゲン化水素濃度を低減できる。また、蒸留塔内でのハロゲン化水素の濃縮も抑制して、蒸留塔の腐蝕を軽減できる。さらに、前記第2の蒸留塔から留出させた精製カルボン酸を含む流分を、さらにハロゲン化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂と接触させることにより、ハロゲン化水素だけでなく、ハロゲン化炭化水素などのハロゲン化物濃度も低減できる。また、本発明では、低沸不純物及び高沸不純物を効率よく除去でき、純度の高いカルボン酸を製造することができる。さらに、アルコール及び/又はその誘導体のカルボニル化反応により得られる反応混合物であっても、効率よく精製された目的カルボン酸を製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【0033】
以下、必要により添付図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。図1は本発明のカルボン酸の製造方法を説明するためのフロー図である。
【0034】
図1の例では、ロジウム触媒及び助触媒(ヨウ化リチウム及びヨウ化メチル)で構成されたカルボニル化触媒系、並びに有限量の水の存在下、メタノールと一酸化炭素との連続的カルボニル化反応により生成した反応混合物から精製された酢酸を製造するプロセスが示されている。
【0035】
前記プロセスは、前記メタノールのカルボニル化反応を行うための反応系(反応器)1と、反応により生成した酢酸を含む反応混合物(反応液)から主にロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分(高沸成分)を含む高沸点流分(又は高沸点流)を分離するための蒸留塔(触媒分離塔)8と、この触媒分離塔8から供給された酢酸流分(又は酢酸流)(低沸点流分(又は低沸点流))から、ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドなどの低沸成分の少なくとも一部を主に除去するための第1の蒸留塔11と、この第1の蒸留塔11からサイドカットにより留出された側流(酢酸流)から、水及びプロピオン酸などの高沸成分(高沸不純物)の少なくとも一部を主に分離するための第2の蒸留塔15と、この第2の蒸留塔15でサイドカットにより留出された酢酸流から、ヨウ化アルキルなどのヨウ化物を除去するためのハロゲン化物除去塔(ヨウ化物除去塔)19と、前記第1の蒸留塔11からの低沸点成分を凝縮して、気体成分を排出するとともに、液体成分を第1の蒸留塔11及び/又は反応器1にリサイクルするためのコンデンサー21とを備えている。
【0036】
より詳細には、反応器1には、液体成分としてのメタノールが、供給ライン4を経て所定速度で連続的に供給されるとともに、気体反応成分としての一酸化炭素が、供給ライン5を経て連続的に供給される。また、前記反応器1には、カルボニル化触媒系(ロジウム触媒などの主たる触媒成分と、ヨウ化リチウム及びヨウ化メチルなどの助触媒とで構成された触媒系)を含む触媒混合物(触媒液)及び水を、供給ライン6を通じて供給してもよい。また、後続の工程(触媒分離塔8、第1及び第2の蒸留塔11,15、コンデンサー21など)からの低沸点流分及び/又は高沸点流分を含む流分又は流(例えば、液状の形態で)を、供給ライン6を通じて反応器1に供給してもよい。そして、反応器1内では、反応成分と金属触媒成分(ロジウム触媒及びヨウ化リチウム)などの高沸成分とを含む液相反応系と、一酸化炭素及び反応により生成した水素、メタン、二酸化炭素、並びに気化した低沸成分(ヨウ化メチル、生成した酢酸、酢酸メチルなど)などで構成された気相系とが平衡状態を形成しており、攪拌機2などによる撹拌下、メタノールのカルボニル化反応が進行する。反応器1内の圧力(反応圧、一酸化炭素分圧、水素分圧など)を一定に保つため、反応器1の塔頂から排出ライン3を通じて、蒸気を抜き出し、排出(図示せず)してもよい。反応器1から抜き出した蒸気は、さらに熱交換器E1により冷却して、液体成分(酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とを生成させ、得られた前記液体成分を、リサイクルライン3aを通じて反応器1にリサイクルしてもよく、前記気体成分(排ガス)を、排出ライン3bを通じて排出してもよい。
【0037】
なお、前記反応器1には、触媒活性を高めるため、必要により水素を供給してもよい。水素は、一酸化炭素とともに前記供給ライン5を経て供給してもよく、別途、別の供給ライン(図示せず)を通じて供給してもよい。また、前記反応系は、発熱を伴う発熱反応系であるため、前記反応器1は、反応温度を制御するための除熱ユニット又は冷却ユニット(ジャケットなど)などを備えていてもよい。
【0038】
反応器1で生成した反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、ヨウ化水素、酢酸よりも沸点の低い低沸成分又は低沸不純物(助触媒としてのヨウ化メチル、酢酸とメタノールとの反応生成物である酢酸メチル、副反応生成物であるアセトアルデヒド、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどの高級ヨウ化物など)、及び酢酸よりも沸点の高い高沸成分又は高沸不純物[金属触媒成分(ロジウム触媒、及び助触媒としてのヨウ化リチウム)、プロピオン酸、水など]などが含まれる。
【0039】
上記反応混合物から主に金属触媒成分などの高沸成分を分離するため、前記反応器1から反応混合物の一部を連続的に抜き取りつつ、供給ライン7を通じて反応混合物を蒸留塔(触媒分離塔)8に導入又は供給する。
【0040】
そして、前記触媒分離塔8では、反応混合物から、高沸点流分(主に、ロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分などを含む)と、低沸点流分(主に、生成物であり反応溶媒としても機能する酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、ヨウ化水素などを含む)とを分離し、前記高沸点流分を塔底から缶出ライン10を通じて缶出するとともに、前記低沸点流分(酢酸流)を触媒分離塔8の塔頂部又は上段部から供給ライン9を通じて留出させ、供給ライン9a及び9bの少なくともいずれか一方を経て第1の蒸留塔11に供給又は導入する。なお、前記高沸点流分には、前記金属触媒成分の他、蒸発せずに残存したヨウ化メチル、酢酸メチル、ヨウ化水素、水及び酢酸なども含まれる。なお、前記触媒分離塔8内の温度及び/又は圧力を、反応器1内の温度及び/又は圧力より低くすることにより、副生成物がさらに生成するのを抑制したり、触媒活性が低下するのを抑制してもよい。
【0041】
なお、ヨウ化メチルの分離効率の点では、供給ライン9aを通じて、酢酸流を第1の蒸留塔11に供給するのが有利である。また、酢酸流中の水濃度が3重量%以上の場合、ヨウ化水素の分離効率の点では、供給ライン9bを通じて酢酸流を第1の蒸留塔11に供給するのが有利である。
【0042】
第1の蒸留塔11では、通常、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)の一部を含む低沸点流分(第1の低沸点流分)を塔頂又は塔の上段部からライン13を通じて分離(又は除去)するとともに、高沸成分(水、プロピオン酸など)を含む高沸点流分(第1の高沸点流分)を、塔底又は塔の下段部から缶出ライン14を通じて分離(又は除去)する。そして、主に酢酸を含む側流(酢酸流)を、第1の蒸留塔11からサイドカットにより、供給ライン12を通じて留出させ、第2の蒸留塔15に供給又は導入している。
【0043】
前記第1の蒸留塔11には、ヨウ化水素が存在する。本発明では、精製酢酸流にヨウ化水素が混入したり、蒸留塔11内でヨウ化水素が濃縮するのを防ぐため、第1の蒸留塔11に(i)水、(ii)メタノール及び/又は酢酸メチル(以下、成分(A)又は第1の成分(A)と称する場合がある)、あるいは(iii)水と成分(A)とを、サイドカットする酢酸流の抜取口(側流口)より上方及び下方の少なくともいずれか一方から供給し、前記ヨウ化水素を低沸点成分(ヨウ化メチルなど)に変換して、蒸留塔11の塔頂又は塔上段部から分離している。第1の成分(A)及び/又は水は、例えば、前記側流口に対して上方及び下方のいずれに位置してもよい供給口S1a、S1b及び/又はS1cなどから供給することができるが、第1の成分(A)を単独で供給する場合には、通常、側流口に対して下方から供給する。
【0044】
第1の蒸留塔11の塔頂又は上段部より留出した低沸点流分は、酢酸なども含んでおり、ライン13を通じて、コンデンサー21に供給される。コンデンサー21において、前記低沸点流分は、凝縮され、主に一酸化炭素、水素などを含む気体成分と、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸、アセトアルデヒドなどを含む液体成分とに分離される。コンデンサー21で分離された前記気体成分は、排出ライン22を通じて排出され、必要により、反応系1に供給ライン5を通じて、又は供給ライン5を通じることなくリサイクルしてもよい(図示せず)。コンデンサー21で分離された前記液体成分は、水性相と油性相とに分離しており、それぞれ排出ライン24及び23を通じて排出される。排出ライン23を通じて排出された油性相は、助触媒としてのヨウ化メチルを多く含んでおり、リサイクルライン25を通じて反応系1にリサイクルしてもよい。排出ライン24を通じて排出された水性相は、酢酸メチル、酢酸、アセトアルデヒドなどを多く含んでおり、リサイクルライン24aを通じて、第1の蒸留塔11にリサイクルしてもよく、また、リサイクルライン24b及び25を通じて反応系にリサイクルしてもよい。油性相や水性相の反応器へのリサイクルは、供給ライン6を経由して行ってもよい(図示せず)。ライン(オーバーヘッド)13、排出ライン23及び24のうち、少なくとも一方からの排出流をさらにアルデヒド分離工程(塔)(図示せず)に供し、アルデヒドを分離、除去してもよい。
【0045】
第1の蒸留塔11の底部から缶出された高沸点流分は、高沸成分とともに、蒸発せずに残存した低沸成分及び酢酸などを含んでおり、反応系1にリサイクルしてもよい。前記高沸点流分は、必要により、後続の工程(第2の蒸留塔、アルデヒド分離塔、コンデンサーなど)からのリサイクルライン(図1の例ではコンデンサー21からの液体成分をリサイクルするためのリサイクルライン25)に合流させて反応系1にリサイクルしてもよい。
【0046】
前記第1の蒸留塔11からサイドカットされ、供給ライン12を通じて第2の蒸留塔15に供給された酢酸流は、第2の蒸留塔15において、酢酸流中に残存する低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドなど)の少なくとも一部と高沸成分(プロピオン酸、水など)の少なくとも一部とをさらに分離し、より純度の高い酢酸流を側流として留出させる。第2の蒸留塔15では、前記低沸成分を含む流分(第2の低沸点流分)を、塔頂又は塔の上段部から排出ライン17を通じて排出するとともに、前記高沸成分を含む流分(第2の高沸点流分)を、塔底又は塔の下段部から缶出ライン18を通じて排出し、酢酸を多く含む側流(酢酸流)をサイドカットし、ライン16を通じて留出させる。塔頂又は塔上段部から排出された低沸点流分は、必要により第2の蒸留塔15及び/又は反応系1にリサイクルしてもよい(図示せず)。また、塔底又は塔下段部から缶出された高沸点流分は、必要により反応系1にリサイクルしてもよい(図示せず)。
【0047】
サイドカットにより留出させる酢酸流中に含まれるヨウ化水素濃度を低減するとともに、蒸留塔15内でヨウ化水素が濃縮するのを防ぐため、第2の蒸留塔15には、通常、メタノール(b-1)、酢酸メチル(b-2)、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物(b-3)、酢酸カリウムなどのアルカリ金属酢酸塩(b-4)、及び次亜リン酸(b-5)から選択された少なくとも一種(以下、成分(B)又は第2の成分(B)と称する場合がある)を、酢酸流をサイドカットする抜取口(側流口)の上方及び下方の少なくともいずれか一方から供給することができる。前記第2の成分(B)は、例えば、前記側流口に対して上方及び下方の少なくともいずれか一方に位置してもよい供給口(例えば、供給口S2a及び/又はS2bなど)から供給できる。前記メタノール及び/又は酢酸メチルを第2の蒸留塔15に供給すると、前記第1の蒸留塔11と同様に、ヨウ化水素との反応により、ヨウ化メチルなどの低沸成分に変換されて、蒸留塔15の塔頂又は塔の上段部から低沸点流分として分離、排出できる。なお、アルカリ金属水酸化物(通常、水溶液)を前記側流口より下方から(例えば、供給口S2b)から供給すると、サイドカットされる酢酸流中のヨウ化水素の混入量を痕跡量にまで低減できる。また、アルカリ金属水酸化物(通常、水溶液)を前記側流口より上方(例えば、供給口S2a)から供給すると、下方から供給する場合と比較して、サイドカット酢酸流へのヨウ化水素の混入量をさらに低減することができる。
【0048】
第2の蒸留塔15からサイドカットした酢酸流は、ライン16を通じて、熱交換器E2に導入されて冷却され、供給ライン16aを通じて、さらに、Agで活性基の少なくとも一部を置換又は交換したイオン交換樹脂を内部に備えたハロゲン化物(ヨウ化物)除去塔19の塔頂又は塔の上段部に供給される。前記ハロゲン化物除去塔19内では、前記酢酸流の降下に伴い、酢酸流を段階的に昇温することにより、前記イオン交換樹脂に通液させて、ヨウ化アルキルなどのヨウ化物を除去し、塔底からライン20を通じて精製された酢酸を留出させている。得られた製品酢酸は、第1の蒸留塔11への第1の成分(A)及び/又は水の供給、さらには第2の蒸留塔15への第2の成分(B)の供給によりヨウ化水素濃度が非常に低い。また、第1及び第2の蒸留塔11,15の二段階で蒸留するため、低沸成分(低沸不純物)及び高沸成分(高沸不純物)の除去率も非常に高く、さらに、ハロゲン化物除去塔19を通過させるため、ヨウ化アルキルなどのハロゲン化物の混入も大きく低減されており、非常に高純度である。また、蒸留塔内で、ヨウ化水素が濃縮するのを有効に防止できるため、蒸留塔の腐食や劣化も防止できる。
【0049】
図2は、本発明のカルボン酸の製造方法の他の例を説明するためのフロー図である。図2の例は、図1の例において、第1の蒸留塔11及び第2の蒸留塔15から留出させた低沸成分を含む低沸点流分をさらにアルデヒド分離塔26に供給して、アルデヒドを含む低沸点流分と高沸点流分とに分離して、高沸点流分を反応系1にリサイクルする例に相当する。より詳細には、図2の例では、第1の蒸留塔11の塔頂又は塔上段部から留出された低沸成分を含む低沸点流分を、ライン(供給ライン)13を通じて、さらにアルデヒド分離塔26に供給するとともに、第2の蒸留塔15から留出させた低沸成分を含む低沸点流分を、ライン17を経て、前記供給ライン13に合流させ、前記アルデヒド分離塔26に供給する。そして、前記アルデヒド分離塔26において、アセトアルデヒド、一酸化炭素、水素などの低沸成分を含む低沸点流分と、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、酢酸などの高沸成分を含む高沸点流分とを分離し、前記低沸点流分を、塔頂又は塔上段部から排出ライン27を通じて排出するとともに、前記高沸点流分を塔底から缶出ライン(リサイクルライン)28を通じて缶出する。塔底から缶出された高沸点流分は、リサイクルライン28を通じて反応系1にリサイクルしてもよい。なお、排出ライン27から排出された低沸点流分は、さらに慣用の方法、例えば、抽出、洗浄などにより処理して、アルデヒドの分離効率を高めてもよい。
【0050】
また、前記高沸点流分は、第1の蒸留塔11及び/又は第2の蒸留塔15に供給し(図示せず)、これらの蒸留塔における酢酸と水との分離性を高めてもよい。さらに、アルデヒド分離塔26からの高沸点流分を、必要により、さらにコンデンサー(図示せず)に導入して凝縮させ、ヨウ化メチルを多く含む油性相と、酢酸メチル、水、酢酸を多く含む水性相とに分離して、図1の例と同様に、前記油性相を反応系1にリサイクルしてもよく、前記水性相を第1の蒸留塔11、第2の蒸留塔15、及び反応系1のいずれにリサイクルしてもよい。なお、第1の蒸留塔11及び/又は第2の蒸留塔15から缶出された高沸点流分は、前記リサイクルライン28を通じて反応系1にリサイクルしてもよく、必要により供給ライン6を経て反応系1にリサイクルしてもよい(図示せず)。
【0051】
このように、図2の例では、反応系や蒸留塔へのリサイクルに先立って、第1及び第2の蒸留塔11,15からの低沸点流分をアルデヒド分離塔に供して、アルデヒドを除去するので、連続プロセスにおいてリサイクルによりアルデヒドが循環するのを防止できる。その結果、アルデヒドの逐次反応生成物であるプロピオン酸、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどの不純物の生成を大幅に低減できる。なお、排出ライン17を通じて排出される第2の蒸留塔からの流分(オーバーヘッド)を、アルデヒド分離塔26へ供給する工程は省略してもよい。
【0052】
本発明の製造方法は、上記メタノールのカルボニル化に限らず、種々のアルコール又はその誘導体のカルボニル化反応に適用できる。
【0053】
(反応工程(カルボニル化反応系))
反応系では、アルコール又はその誘導体(エステル、エーテル、ハロゲン化物などの反応性誘導体)を一酸化炭素でカルボニル化する。カルボニル化反応に用いるアルコールとしては、炭素数nのアルコール、例えば、脂肪族アルコール[メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルカノール(C1−10アルカノールなど)など]、脂環族アルコール[シクロヘキサノール、シクロオクタノールなどのシクロアルカノール(C3−10シクロアルカノールなど)など]、芳香族アルコール[フェノールなどのアリールアルコール(C6−10アリールアルコール(フェノール類など)など);ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどのアラルキルアルコール(C6−10アリール−C1−4アルカノールなど)など]などが例示できる。炭素数nは、1〜14、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜6程度である。前記アルコールのうち、脂肪族アルコールが好ましい。脂肪族アルコールの炭素数nは、例えば、1〜6、好ましくは1〜4、特に1〜3程度である。
【0054】
アルコール誘導体のうち、エステルとしては、生成するカルボン酸と原料アルコールとのエステル、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸エチルなどのC2−6カルボン酸−C1−6アルキルエステルなどが例示できる。エーテル類としては、原料アルコールに対応するエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテルなどのジC1−6アルキルエーテルなどが例示できる。また、ハロゲン化物としては、ヨウ化メチルなどのアルコールに対応するハライド(ヨウ化アルキルなどのアルキルハライドなど)などが使用できる。さらに、必要であれば、アルコールとして多価アルコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのアルキレングリコール又はそれらの誘導体(例えば、エステル、ハロゲン化物、エーテルなど)を用いてもよい。
【0055】
前記アルコール又はその誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0056】
好ましい液相反応系では、液体反応成分として炭素数nのアルコール、好ましくはC1−4アルコール又はその誘導体(例えば、メタノール、酢酸メチル、ヨウ化メチル、ジメチルエーテルなど)を用いて、炭素数n+1のカルボン酸又はその誘導体(カルボン酸無水物など)を得てもよい。特に、カルボニル化触媒系の存在下、メタノール、酢酸メチル、及びジメチルエーテルから選択された少なくとも一種(特に、少なくともメタノール)と一酸化炭素とを液相反応系で反応させ、酢酸又はその誘導体を生成させる反応系などが好ましい。
【0057】
なお、アルコール又はその誘導体は、フレッシュな原料を直接又は間接的に反応系へ供給してもよく、また、蒸留工程から留出するアルコール又はその誘導体を、リサイクルすることにより、反応系に供給してもよい。
【0058】
反応系における触媒系は、カルボニル化触媒と、助触媒又は促進剤とで構成できる。前記カルボニル化触媒としては、通常、高沸点の触媒、例えば、金属触媒が使用される。金属触媒としては、遷移金属触媒、特に、周期表第8族金属を含む金属触媒、例えば、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒などが例示できる。触媒は、金属単体であってもよく、また、金属酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、ハロゲン化物(塩化物、臭化物、ヨウ化物など)、カルボン酸塩(酢酸塩など)、無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩など)、錯体などの形態でも使用できる。このような金属触媒は、一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
好ましい金属触媒は、ロジウム触媒及びイリジウム触媒(特に、ロジウム触媒)である。また、金属触媒は反応液中で可溶な形態で使用するのが好ましい。なお、ロジウムは、通常、反応液中で錯体として存在しているため、ロジウム触媒を用いる場合には、触媒は、反応液中で錯体に変化可能である限り、特に制限されず、種々の形態で使用できる。このようなロジウム触媒としては、特に、ロジウムのハロゲン化物(臭化物、ヨウ化物など)が好ましい。また、触媒は、ハロゲン化物塩(ヨウ化物塩など)及び/又は水を添加することにより反応液中で安定化させることができる。
【0060】
触媒の濃度は、例えば、液相系全体に対して重量基準で10〜5,000ppm、好ましくは100〜4,000ppm、さらに好ましくは300〜3,000ppm、特に500〜2,000ppm程度である。触媒濃度が高すぎると、触媒(ロジウム触媒など)が不溶性の成分(ヨウ化ロジウムなどのロジウムハライドなど)に変化して、沈降し、反応効率及び生産性が低下する虞がある。
【0061】
前記触媒系を構成する助触媒又は促進剤としては、種々のハロゲン化物、例えば、アルカリ金属ハライド(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物;臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどの臭化物など)、ハロゲン化水素(ヨウ化水素、臭化水素など)、アルキルハライド[原料アルコールに対応するアルキルハライド(C1−10アルキルハライド、好ましくはC1−4アルキルハライド)、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピルなどのヨウ化C1−10アルキル(ヨウ化C1−4アルキルなど)、これらのヨウ化アルキルに対応する臭化物(臭化メチル、臭化プロピルなど)や塩化物(塩化メチルなど)など]などが使用できる。なお、アルカリ金属ハライド(特にヨウ化物)は、カルボニル化触媒(例えば、ロジウム触媒など)の安定剤としても機能する。これらの助触媒又は促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。特に、アルカリ金属ハライド(特にアルカリ金属ヨウ化物)とアルキルハライド(特にヨウ化アルキル)及び/又はハロゲン化水素とを組み合わせて用いるのが好ましい。好ましい触媒系としては、金属触媒成分(ロジウム触媒及びアルカリ金属ハライドなど)とアルキルハライドとで構成された触媒系が好ましい。
【0062】
助触媒又は促進剤の含有量は、液相系全体に対して、例えば、0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜25重量%程度であってもよい。より具体的には、前記アルコールのカルボニル化反応によるカルボン酸の製造では、ヨウ化メチルなどのアルキルハライドの含有量は、液相系全体に対して、例えば、1〜25重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%程度であってもよい。なお、アルキルハライドの濃度が高いほど、反応は促進される。アルキルハライドの回収、回収したアルキルハライドを反応器へ循環する工程の設備規模、回収や循環に必要なエネルギー量などを考慮し、経済的に有利な濃度を適宜選択できる。また、ヨウ化リチウムなどのアルカリ金属ハライドの含有量は、液相系全体に対して、例えば、0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜35重量%、さらに好ましくは1〜30重量%程度であってもよい。
【0063】
なお、反応系には、カルボン酸エステル(特に、酢酸メチルなどのカルボン酸とアルコールとのエステル)を液相系全体に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%程度の割合で含有させてもよい。なお、反応液中には原料のアルコールと生成物のカルボン酸との平衡により、通常0.5〜10重量%程度のカルボン酸エステルが存在している。
【0064】
反応系に供給する一酸化炭素は、純粋なガスとして使用してもよく、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素など)で稀釈して使用してもよい。また、後続の工程(蒸留工程(蒸留塔)、コンデンサー、アルデヒド分離塔など)から得られる一酸化炭素を含む排ガス成分を反応系にリサイクルしてもよい。反応系の一酸化炭素分圧は、絶対圧力で、例えば、0.9〜3MPa(例えば、0.9〜2MPa)、好ましくは1〜2.5MPa(例えば、1.15〜2.5MPa)、さらに好ましくは1.15〜2MPa(例えば、1.18〜2MPa)程度であってもよい。なお、一酸化炭素は前記図1及び2の例に限らず、反応器の下部からスパージングにより供給してもよい。
【0065】
前記カルボニル化反応では、一酸化炭素と水との反応によりシフト反応が起こり、水素が発生するが、反応系に水素を供給してもよい。反応系に供給する水素は、原料となる一酸化炭素と共に混合ガスとして反応系に供給することもできる。また、後続の蒸留工程(蒸留塔)で排出された気体成分(水素、一酸化炭素などを含む)を、必要により適宜精製して反応系にリサイクルすることにより、水素を供給してもよい。反応系の水素分圧は、絶対圧力で、例えば、0.5〜200kPa、好ましくは1〜150kPa、さらに好ましくは5〜100kPa(例えば、10〜50kPa)程度であってもよい。
【0066】
なお、反応系の一酸化炭素分圧や水素分圧は、例えば、反応系への一酸化炭素及び水素の供給量又はこれらの成分の反応系へのリサイクル量、反応系への原料基質(メタノールなど)の供給量、反応温度や反応圧力などを適宜調整することにより調整することができる。
【0067】
カルボニル化反応において、反応温度は、例えば、100〜250℃、好ましくは150〜220℃、さらに好ましくは170〜210℃程度であってもよい。また、反応圧力は、ゲージ圧力で、1〜5MPa、好ましくは1.5〜4MPa、さらに好ましくは2〜3.5MPa程度であってもよい。
【0068】
反応は溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。反応溶媒としては、反応性や、分離又は精製効率を低下させない限り特に制限されず、種々の溶媒を使用できるが、通常、生成物であるカルボン酸(酢酸など)を用いる場合が多い。
【0069】
反応系に含まれる水濃度は、特に制限されず、低濃度であってもよい。反応系の水濃度は、反応系の液相全体に対して、例えば、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜7重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%程度である。また、反応速度が低下したり、金属触媒が不安定化するのを防ぐため、必要により、アルカリ金属ハライド(前記例示のアルカリ金属ハライド)、アルカリ金属の第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩など、反応系において、ヨウ化物塩を形成可能な化合物を反応系に添加してもよい。これらの成分のうち、溶解性の点から、アルカリ金属ヨウ化物、特にヨウ化リチウムを用いるのが好ましい。
【0070】
前記カルボニル化反応では、炭素数nのアルコール(メタノールなど)に対応する炭素数n+1のカルボン酸(酢酸など)が生成するとともに、生成したカルボン酸とアルコールとのエステル(酢酸メチルなど)、エステル化反応に伴って水、さらには前記アルコールに対応する炭素数n+1のアルデヒド(アセトアルデヒドなど)及び炭素数n+2のカルボン酸(プロピオン酸など)などが生成する。
【0071】
なお、反応系では、後続の工程(蒸留塔など)からのリサイクル流中のアルデヒドを除去したり、反応条件、例えば、ヨウ化アルキルなどの助触媒の割合及び/又は水素分圧を低減することなどにより、アルデヒドの生成を抑制してもよい。また、水濃度を調整したりすることにより、反応系内での水素の発生を抑制してもよい。
【0072】
反応系における目的カルボン酸の空時収量は、例えば、5〜50mol/Lh、好ましくは8〜40mol/Lh、さらに好ましくは10〜30mol/Lh程度であってもよい。
【0073】
(触媒分離工程)
触媒分離工程(触媒分離塔)では、反応工程から供給された反応混合物から、少なくとも高沸点触媒成分(金属触媒成分、例えば、ロジウム触媒などのカルボニル化触媒及びアルカリ金属ハライド)を含む高沸点流分(又は高沸点流)を液体として分離するとともに、カルボン酸を含む低沸点流分(カルボン酸流)を蒸気として分離する。
【0074】
金属触媒成分の分離は、慣用の分離方法又は分離装置により行うことができるが、通常、蒸留塔(棚段塔、充填塔、フラッシュ蒸留塔など)などを利用して行うことができる。また、蒸留と、工業的に汎用されるミストや固体の捕集方法とを併用して、金属触媒成分を分離してもよい。
【0075】
触媒分離工程では、反応混合物を加熱してもよく、加熱することなく蒸気成分と液体成分とを分離してもよい。例えば、フラッシュ蒸留を利用する場合、断熱フラッシュにおいては、加熱することなく減圧することにより反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離でき、恒温フラッシュでは、反応混合物を加熱し減圧することにより反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離でき、これらのフラッシュ条件を組み合わせて、反応混合物を分離してもよい。これらのフラッシュ蒸留は、例えば、反応混合物を80〜200℃程度の温度で圧力(絶対圧力)50〜1,000kPa(例えば、100〜1,000kPa)、好ましくは100〜500kPa、さらに好ましくは100〜300kPa程度で行うことができる。
【0076】
触媒の分離工程は、単一の工程で構成してもよく、複数の工程を組み合わせて構成してもよい。このようにして分離された高沸点触媒成分(金属触媒成分)は、通常、反応系にリサイクルされる。
【0077】
触媒分離塔で分離された低沸点流分(カルボン酸流)は、生成物であるカルボン酸(酢酸など)の他に、ヨウ化水素、ヨウ化メチルなどの助触媒、原料アルコールと生成物カルボン酸とのエステル(酢酸メチルなど)、水、微量の副生成物(アセトアルデヒドなどのアルデヒドやプロピオン酸などの炭素数n+2のカルボン酸など)を含んでおり、本発明では、前記カルボン酸流を、第1及び第2の蒸留塔で蒸留することにより、精製されたカルボン酸を製造してもよい。
【0078】
(第1の蒸留塔)
第1の蒸留塔では、触媒分離塔から供給されたカルボン酸流(酢酸流など)から、低沸成分(ハロゲン化アルキルなどのハロゲン化炭化水素、カルボン酸(炭素数n+1のカルボン酸など)のアルキルエステル(炭素数nのアルコールとのエステルなど)、炭素数n+1のアルデヒドなど)の少なくとも一部を含む低沸点流分(第1の低沸点流分)と、高沸成分(炭素数n+2以上のカルボン酸、水など)の少なくとも一部を含む高沸点流分(第1の高沸点流分、缶出)とを分離し、少なくとも炭素数n+1のカルボン酸を含む流分(側流)をサイドカットにより留出させている。なお、第1の蒸留塔では、通常、主として、低沸成分及び水を除去している。
【0079】
第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流は、前記のように、反応系からの反応混合物から金属触媒成分を除去して得られるカルボン酸流に限らず、少なくとも炭素数n+1のカルボン酸、ハロゲン化水素、低沸成分、高沸成分などを含むカルボン酸流であればよく、単にこれらの成分の混合物であってもよい。また、前記反応系からの反応混合物をそのまま前記カルボン酸流として第1の蒸留塔に供給し、金属触媒成分を含む高沸点流分を第1の蒸留塔の塔底から缶出してもよい。
【0080】
触媒分離塔からのカルボン酸流を供給する供給口は、特に制限されず、例えば、第1の蒸留塔の上段部、中段部、下段部のいずれであってもよい。また、第1の蒸留塔において目的カルボン酸をサイドカットする側流口に対して、上方及び下方のいずれから供給してもよい。前記側流口より上方からカルボン酸流を供給すると、ハロゲン化アルキルなどの分離効率を高めることができ、前記側流口より下方からカルボン酸流を供給すると(特に、カルボン酸流の水濃度が3重量%以上の場合)、ハロゲン化水素の除去効率を顕著に高めることができる。
【0081】
また、目的カルボン酸をサイドカットする側流口の位置は、第1の蒸留塔の上段部、中段部、及び下段部のいずれであってもよいが、通常、第1の蒸留塔の中段部又は下段部であるのが好ましい。このように、第1の蒸留塔では、目的カルボン酸流を、オーバーヘッドではなく、サイドカットにより抜き出すので、ヨウ化アルキルなどの加水分解により生成するヨウ化水素が目的カルボン酸流に再度混入するのを有効に防止できる。
【0082】
本発明では、少なくとも第1の蒸留塔に、炭素数n+1の目的カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール(メタノールなど)及びこのアルコールと前記目的カルボン酸とのエステル(酢酸メチルなど)から選択された少なくとも一種の第1の成分(A)、及び/又は水を供給する。このような成分を第1の蒸留塔に供給すると、蒸留塔内に存在するハロゲン化水素(ヨウ化水素など)を、炭素数nのアルキルハライドなどの低沸点成分に変換して、塔頂又は塔上段部から効率よく系外に分離することができ、目的カルボン酸にハロゲン化水素が混入したり、蒸留塔内でハロゲン化水素が濃縮して、蒸留塔が腐食するのを有効に防止できる。なお、前記エステル(例えば、酢酸メチルなど)を蒸留塔に供給すると、水と共沸系を構成するため、水と目的カルボン酸との分離性を向上することもできる。
【0083】
前記第1の蒸留塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔、フラッシュ蒸留塔などが使用できる。なお、蒸留塔の材質は特に制限されず、ガラス製、金属製、セラミック製などが使用できるが、通常、金属製の蒸留塔を用いる場合が多い。なお、金属製などの光を遮断する材料で形成された蒸留塔を用いると、遊離ヨウ素などの遊離ハロゲンの発生を防止することもできる。
【0084】
第1の蒸留塔への第1の成分(A)及び/又は水の供給位置は、特に制限されず、蒸留塔の高さ方向におけるいずれの位置であってもよく、通常、目的カルボン酸流をサイドカットする側流口より上方及び下方の少なくともいずれか一方から上記成分を供給する場合が多い。なお、第1の成分(A)を単独で供給する場合(カルボン酸溶液として供給する場合も含む)、側流口の下方から供給する。
【0085】
第1の成分(A)は、各成分(メタノール、酢酸メチルなど)のうち少なくとも一種をそのまま第1の蒸留塔に供給してもよく、生成物であるカルボン酸(酢酸など)と共に、例えば、カルボン酸溶液として供給してもよい。第1の成分(A)と水とを供給する場合、各成分(メタノール、酢酸メチルなど)のうち少なくとも一種と、水とを別途供給してもよく、第1の成分(A)と水との混合物(水溶液)を供給してもよい。水は、第1の蒸留塔にそのまま供給してもよく、生成物であるカルボン酸と共に供給してもよい。水を第1の蒸留塔に供給することにより、蒸留塔内に水の濃度が高い領域が形成され、この高濃度領域でハロゲン化水素が濃縮される。そして、水とともに第1の成分(A)を供給することにより、効率よく、ハロゲン化水素を低沸成分に変換することができる。第1の成分(A)を、前記側流口より下方から供給すると、ハロゲン化水素を効率よく除去することができる。また、前記側流口より上方から、水、又は第1の成分(A)(特にアルコール)と水とを供給したり、前記側流口より上方から少なくとも水(特に、水と前記第1の成分(A)(特に、少なくともアルコール、すなわち、アルコール、又はアルコール及びエステル)と)を供給し、かつ下方より第1の成分(A)(特にアルコール)を供給したりすると、ハロゲン化水素の除去率をさらに高めることができる。このような効果は、特に、前記側流口よりも上方からカルボン酸流(触媒分離塔からのカルボン酸流など)を第1の蒸留塔に供給する場合に顕著である。なお、第1の蒸留塔に水を供給すると、ハロゲン化水素(ヨウ化水素など)の解離又はイオン化が促進されて、第1の成分(A)に対して反応し易くなり、その結果、ハロゲン化水素の除去率が向上する。そのため、第1の蒸留塔には水と第1の成分(A)との双方を添加するのが好ましい。なお、第1の成分(A)及び/又は水を供給する供給口の個数は、特に制限されず、1つの供給口又は複数の供給口から上記成分を供給してもよい。
【0086】
本発明では、第1の蒸留塔に第1の成分(A)及び/又は水を供給するので、第1の蒸留塔からの側流(目的カルボン酸流)中に含まれるハロゲン化水素濃度を大幅に低減できる。目的カルボン酸流中のハロゲン化水素濃度は、第1の蒸留塔に供給するカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素の濃度にもよるが、例えば、25ppm以下(例えば、0〜25ppm程度)、好ましくは20ppm以下(例えば、有限量〜20ppm程度)、さらに好ましくは15ppm以下、特に10ppm以下であってもよい。
【0087】
前記第1の成分(A)(アルコール及びそのエステル)の供給割合及び水の供給割合は、それぞれ、例えば、(i)カルボン酸流(第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流)に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、1〜10,000モル、好ましくは10〜6,000モル(例えば、100〜5,000モル)、さらに好ましくは500〜5,000モル程度であってもよい。また、前記成分(A)及び/又は水の供給割合は、(ii)カルボン酸流(第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流)に含まれる炭素数n+1のカルボン酸全体又は反応系に供給するアルコール全体に対して、0.02〜50モル%、好ましくは0.1〜30モル%(例えば、1〜25モル%)、さらに好ましくは1.5〜20モル%程度であってもよい。前記供給割合は、少なくとも上記(i)及び(ii)の範囲のいずれかを充足すればよく、通常、双方の範囲を充足してもよい。
【0088】
また、第1の蒸留塔には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、酢酸カリウムなどのアルカリ金属酢酸塩、及び次亜リン酸から選択された少なくとも一種の成分を供給し、ハロゲン化水素の分離効率をさらに高めてもよい。これらの成分は、通常、水溶液として供給される場合が多い。これらの成分を水溶液として供給する場合、水の割合は、第1の蒸留塔に供給される水の割合の総量が、上記の供給割合の範囲を超えない範囲で適宜選択できる。なお、水に代えて、酢酸、メタノール及び/又は酢酸メチルを溶媒として用いてもよい。供給量(供給割合)、供給位置などの条件は、後述の第2の蒸留塔における範囲から選択できる。
【0089】
第1の蒸留塔における蒸留温度及び圧力は、目的とするカルボン酸並びに蒸留塔の種類や、低沸成分及び高沸成分のいずれを重点的に除去するかなどの条件に応じて適宜選択できる。例えば、酢酸の精製を棚段塔で行う場合、塔内圧力(通常、塔頂圧力)は、ゲージ圧力で、0.01〜1MPa、好ましくは0.01〜0.7MPa、さらに好ましくは0.05〜0.5MPa程度であってもよい。なお、加圧状態で蒸留すると、蒸留塔への空気の混入を防止でき、遊離ハロゲン(遊離ヨウ素)の生成を防止できる。なお、遊離ヨウ素などの遊離ハロゲンが生成し、目的カルボン酸が濃黄色や褐色に着色する場合がある。そこで、次亜リン酸などを適宜導入して(例えば、プロセスの運転の初期段階で導入して)遊離ハロゲンをハロゲン化水素に変換させてもよい。
【0090】
また、第1の蒸留塔において、塔内温度(通常、塔頂温度)は、塔内圧力を調整することにより調整でき、例えば、20〜180℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは100〜140℃程度であってもよい。
【0091】
また、棚段塔の場合、理論段は、特に制限されず、分離成分の種類に応じて、5〜50段、好ましくは7〜35段、さらに好ましくは8〜30段程度である。また、第1の蒸留塔で、アルデヒドを高度に(又は精度よく)分離するため、理論段を、10〜80段、好ましくは20〜60段、さらに好ましくは25〜50段程度にしてもよい。
【0092】
第1の蒸留塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、例えば、0.5〜3,000、好ましくは0.8〜2,000程度から選択してもよく、理論段数を多くして、還流比を低減してもよい。なお、前記触媒成分の分離工程から前記高沸点触媒成分を除去した低沸点流分を第1の蒸留塔の塔頂から供給することにより還流させなくてもよい。
【0093】
第1の蒸留塔から分離された低沸点流分は、ハロゲン化アルキル、カルボン酸アルキルエステル及び水などを含有するため、反応系及び/又は第1の蒸留塔にリサイクルしてもよい。なお、第1の蒸留塔から留出させた低沸点流分は、前記図1の例のように必ずしもコンデンサーで凝縮させた後、リサイクルする必要はなく、留出させた前記低沸点流分をそのままリサイクルしてもよく、単に冷却することにより、一酸化炭素及び水素などのオフガス成分を除去して、残る液体成分をリサイクルしてもよい。また、低沸点流分中の低沸成分のうち、アルデヒドは、製品カルボン酸の品質を低下させるため、必要により、アルデヒドを除去した後(例えば、低沸不純物を含む前記流分をさらにアルデヒド分離工程(アルデヒド分離塔)に供し、アルデヒドを除去した後)、残りの成分を反応系及び/又は第1の蒸留塔にリサイクルしてもよい。コンデンサーで凝縮させてリサイクルする場合、前記図1の例のように、液体成分は、必ずしも水性相と油性相との二相に分けて、別々にリサイクルする必要はなく、相毎に分けることなく、液体成分を反応系、第1及び/又は第2の蒸留塔にリサイクルしてもよい。また、二相に分液される場合にも、いずれか一方の相だけを反応系及び/又は蒸留塔にリサイクルしてもよい。
【0094】
第1の蒸留塔で分離された高沸点流分(缶出液)は、水、炭素数n+2以上のカルボン酸、飛沫同伴により混入したロジウム触媒、ヨウ化リチウムの他、蒸発せずに残存した目的カルボン酸及び前記低沸不純物などを含んでいるため、必要により、反応系にリサイクルしてもよい。なお、リサイクルに先立って、目的カルボン酸の品質を低下させる炭素数n+2以上のカルボン酸を除去してもよい。また、前記缶出液は、必ずしも、後続の工程からのリサイクル流と合流させる必要はなく、反応系に直接リサイクルしてもよい。前記缶出液は、必要により、反応系への原料や触媒などの供給ラインなどに合流させて反応系にリサイクルしてもよい。
【0095】
なお、第1の蒸留塔には、必要により、ヨウ化アルキル(ヨウ化メチルなど)などの水と共沸可能な成分を添加することにより、酢酸などのカルボン酸と水との分離性を高めてもよい。
【0096】
(第2の蒸留塔)
第2の蒸留塔では、第1の蒸留塔で分離されずに残存したハロゲン化水素、低沸成分及び高沸成分をさらに精度よく除去する。第1の蒸留塔からのカルボン酸流の供給部分は、特に制限されず、例えば、第2の蒸留塔の上段部、中段部及び下段部のいずれであってもよいが、通常、中段部にカルボン酸流を供給するのが好ましい。
【0097】
第2の蒸留塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔、フラッシュ蒸留塔などが使用できる。また、第2の蒸留塔における塔内温度、塔内圧力、理論段数、及び還流比は、目的カルボン酸及び蒸留塔の種類などに応じて選択でき、例えば、上記第1の蒸留塔と同様の範囲から選択できる。なお、第2の蒸留塔においても、次亜リン酸などを適宜導入して(例えば、プロセスの運転の初期段階で導入して)遊離ハロゲンをハロゲン化水素に変換させてもよい。
【0098】
第2の蒸留塔から分離された低沸点流分(第2の低沸点流分)は、アルキルハライド(ヨウ化メチルなど)、カルボン酸エステル(酢酸メチルなど)、水などの有用成分を含有するため、そのまま反応器及び/又は第2の蒸留塔にリサイクルしてもよく、必要により、第1の蒸留塔から留出される低沸点流分と同様に、コンデンサーや熱変換器などにより液体にした後、リサイクルしてもよい。また、上記低沸点流分は、アルデヒドを含むため、必要により、アルデヒド(アセトアルデヒドなど)を、例えば、アルデヒド分離塔などにより除去した後、リサイクルしてもよい。
【0099】
一方、第2の蒸留塔から分離された高沸点流分(第2の高沸点流分)は、炭素数n+2以上のカルボン酸(プロピオン酸など)、アルデヒド、カルボン酸エステル、ヨウ化アルキル、金属塩などを多く含むため、そのまま廃棄してもよい。なお、高沸点流分は、さらに水や目的カルボン酸も含むため、必要により、炭素数n+2以上のカルボン酸等を除去及び/又は回収して、反応系にリサイクルしてもよい。
【0100】
第2の蒸留塔では、精製されたカルボン酸流をサイドカットにより留出させるが、側流口の位置は、通常、蒸留塔の中段部又は下段部であってもよい。なお、高沸点流分を缶出させる缶出口より上方に位置する側流口からカルボン酸流を留出させて、側流と高沸点流分とを効率よく分離してもよい。
【0101】
第2の蒸留塔には、塔内に存在するハロゲン化水素濃度を低減させるため、炭素数n+1の目的カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール(b-1)、このアルコールと炭素数n+1のカルボン酸とのエステル(b-2)、アルカリ金属水酸化物(b-3)、アルカリ金属酢酸塩(b-4)、及び次亜リン酸(b-5)から選択された少なくとも一種の成分(B)(第2の成分)(特に前記アルコール、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酢酸塩、及び次亜リン酸から選択された少なくとも一種)、及び必要により水を供給してもよい。特にアルカリ金属水酸化物を第2の蒸留塔に供給すると、ハロゲン化水素濃度を大幅に低減できる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液として供給する場合が多い。さらにハロゲン化水素濃度を低減するため、アルカリ金属水酸化物を供給すると共に、前記アルコール及び/又はエステルを供給してもよい。前記アルコール及び/又はエステルは、水とともに供給してもよい。また、前記アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属酢酸塩や次亜リン酸も、取り扱い上の簡便性の点で、通常水溶液として供給される。なお、水に代えて、酢酸、メタノール及び/又は酢酸メチルを溶媒として用いてもよい。
【0102】
第2の成分及び必要により水の供給位置は、特に制限されず、蒸留塔の高さ方向におけるいずれの位置であってもよく、通常、目的カルボン酸流をサイドカットする側流口に対して、上方及び下方の少なくともいずれか一方から供給する場合が多い。前記側流口より下方からアルカリ金属水酸化物(水溶液)を供給すると、サイドカットするカルボン酸流へのハロゲン化水素の混入量を痕跡量程度にまで低減できる。前記側流口より上方からアルカリ金属水酸化物(水溶液)を供給すると、サイドカットするカルボン酸流へのハロゲン化水素の混入をさらに低減できる。
【0103】
アルカリ金属水酸化物の供給量は、例えば、(i)カルボン酸流(第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流)に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、1〜20,000モル、好ましくは100〜20,000モル(例えば、200〜15,000モル)、さらに好ましくは300〜10,000モル(例えば、500〜5,000モル)程度であってもよい。また、(ii)アルカリ金属水酸化物1モルに対して、カルボン酸流(第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流)に含まれる炭素数n+1のカルボン酸が30〜300,000モル、好ましくは300〜200,000モル、さらに好ましくは3,000〜100,000モル程度となる割合でアルカリ金属水酸化物を供給してもよい。アルカリ金属水酸化物の供給量は、上記の(i)及び(ii)の範囲のうち、少なくともいずれかを充足してもよいが、通常、双方の範囲を充足する場合が多い。
【0104】
また、前記アルコール(b-1)及びエステル(b-2)の供給割合は、総量で、例えば、(i)カルボン酸流(第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流)に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、1〜10,000モル、好ましくは10〜6,000モル(例えば、100〜5000モル)、さらに好ましくは500〜5,000モル程度であってもよい。また、上記供給割合は、(ii)カルボン酸流(第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流)に含まれる炭素数n+1のカルボン酸全体又は反応系に供給するアルコール全体に対して、0.02〜50モル%、好ましくは0.1〜30モル%(例えば、1〜25モル%)、さらに好ましくは1.5〜20モル%程度であってもよい。前記供給割合は、少なくとも上記(i)及び(ii)の範囲のいずれかを充足すればよく、通常、双方の範囲を充足してもよい。なお、アルコール全体に対する割合は、ほぼ100%カルボン酸に転化するものとして計算する。
【0105】
第2の蒸留塔からの低沸点流分は、そのまま廃棄してもよいが、アルキルハライド(ヨウ化メチルなど)、カルボン酸のアルキルエステル(酢酸メチルなど)、カルボン酸、水、アルデヒドなどを含むため、流分の一部又は全部を、反応系、第1の蒸留塔及び第2の蒸留塔から選択された少なくともいずれか(特に、反応系)にリサイクルしてもよい。また、前記低沸点流分から、アルデヒドを除去して、リサイクルしてもよい。また、前記低沸点流分は、オフガスの吸収液やポンプのメカニカルシール液などとして再利用してもよい。第2の蒸留塔からの高沸点流分(缶出液)は、炭素数n+2以上のカルボン酸、水、目的カルボン酸などを含んでおり、そのまま廃棄してもよいが、反応系にリサイクルしてもよい。また、高沸点流分は、炭素数n+2以上のカルボン酸を除去した後、リサイクルしてもよい。
【0106】
なお、第1及び/又は第2の蒸留塔における前工程からのカルボン酸流の供給位置、第1の蒸留塔における水の濃度とハロゲン化水素濃度とのバランス、第1の蒸留塔へのアルコール及び/又はエステル(並びに水)の供給位置、第1及び第2の蒸留塔におけるアルコール及び/又はエステルの供給割合、第2の蒸留塔におけるアルカリ金属水酸化物の供給割合などを調整することにより、製品中のハロゲン化水素濃度を調整、低減することができる。
【0107】
本発明では、第1の蒸留塔において、既に第1の成分(A)及び/又は水の添加により、カルボン酸流中のヨウ化水素が低減されている。そして、このようなカルボン酸流を第2の蒸留塔に供給するとともに、前記第2の成分(B)及び必要により水を、第2の蒸留塔に供給すると、目的カルボン酸を効率よく除去することができ、第2の成分(B)の添加に伴う副生成物(アルカリ金属ヨウ化物など)の生成及び/又は、第2の成分(B)の製品カルボン酸中への混入を大幅に低減できる。
【0108】
(ハロゲン化物除去工程(塔))
第2の蒸留塔からサイドカットにより回収した精製カルボン酸を含む側流(カルボン酸流)は、さらにハロゲン化物除去工程に供して、ハロゲン化物(アルキルハライド(ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなど)などのハロゲン化炭化水素など)を除去することにより、さらに精製されたカルボン酸を製造することができる。
【0109】
ハロゲン化物除去工程は、必ずしもハロゲン化物除去塔を利用する必要はなく、ハロゲン化物除去能又は吸着能を有する除去体(例えば、ゼオライト、活性炭、イオン交換樹脂など)に前記カルボン酸流を接触させればよい。連続的に得られるカルボン酸流から、効率よくハロゲン化物を除去するには、ハロゲン化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂、特に前記イオン交換樹脂を内部に備えたハロゲン化物除去塔などを利用するのが有利である。
【0110】
前記イオン交換樹脂としては、ハロゲン化物除去能又は吸着能を有する限り、特に制限されないが、通常、少なくとも一部の活性部位(通常、スルホン基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、ホスホン基などの酸性基など)を、金属で置換又は交換したイオン交換樹脂(通常、カチオン交換樹脂)を使用する場合が多い。前記金属としては、例えば、銀Ag、水銀Hg及び銅Cuから選択された少なくとも一種などが使用できる。ベースとなるカチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂及び弱酸性カチオン交換樹脂のいずれであってもよいが、強酸性カチオン交換樹脂、例えば、マクロレティキュラー型イオン交換樹脂などが好ましい。
【0111】
前記イオン交換樹脂において、例えば、活性部位の10〜80モル%、好ましくは25〜75モル%、さらに好ましくは30〜70モル%程度が、前記金属で交換されていてもよい。
【0112】
第2の蒸留塔からのカルボン酸流を、前記イオン交換樹脂に少なくとも接触(好ましくは通液)させることにより、ハロゲン化物を除去できる。前記イオン交換樹脂との接触(又は通液)に伴って、必要に応じて、カルボン酸流を段階的に昇温してもよい。段階的に昇温することにより、イオン交換樹脂の前記金属が流出するのを防止しつつ、ハロゲン化物を効率よく除去できる。アセトリシスの原理から、高級炭化水素類のハロゲン化物(高級ハロゲン化物と称する場合がある。例えば、高級炭化水素類のヨウ化物など)は容易に除去できる。なお、高級ハロゲン化物、例えば、ネオペンチル基などの側鎖を有するハロゲン化物であっても、イオン交換樹脂の細孔径に比べれば小さく、ハロゲン化物の拡散の阻害も小さく、除去効率に影響するほどではない。また、このようなハロゲン化物の解離エネルギーも比較的小さいため、効率よく除去可能である。そのため、例えば、ハロゲン化ヘキシル(ヨウ化ヘキシルなど)を除去可能な温度で、高級ハロゲン化物(ヨウ化物など)もカルボン酸の品質に影響を与えない程度に除去可能である。
【0113】
ハロゲン化物除去塔としては、少なくとも前記金属交換したイオン交換樹脂を内部に充填した充填塔、イオン交換樹脂の床(例えば、粒状の形態の樹脂を有する床)(ガードベッド)などを備えた塔が例示できる。ハロゲン化物除去塔は、前記金属交換イオン交換樹脂に加え、他のイオン交換樹脂(カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、ノニオン交換樹脂など)などを内部に備えていてもよい。金属交換イオン交換樹脂より下流側にカチオン交換樹脂を配設(例えば、充填により配設、樹脂床を配設)すると、金属交換イオン交換樹脂から金属が流出しても、カチオン交換樹脂によりカルボン酸流中から除去することができる。
【0114】
ハロゲン化物除去塔の温度は、例えば、18〜100℃、好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃程度であってもよい。
【0115】
カルボン酸流の通液速度は特に制限されないが、例えば、ガードベッドを利用するハロゲン化物除去塔では、例えば、3〜15床容積/h、好ましくは5〜12床容積/h、さらに好ましくは6〜10床容積/h程度であってもよい。
【0116】
なお、ハロゲン化物除去工程では、前記金属交換イオン交換樹脂とカルボン酸流とを接触できればよく、例えば、金属交換イオン交換樹脂を備えた塔と、他のイオン交換樹脂を備えた塔とで構成してもよい。例えば、アニオン交換樹脂塔と、下流側の金属交換イオン交換樹脂塔とで構成してもよく、金属交換イオン交換樹脂塔と、下流側のカチオン交換樹脂の塔とで構成してもよい。前者の例の詳細は、例えば、国際公開WO02/062740号公報などを参照できる。
【0117】
(アルデヒド分離塔)
反応により生成したアルデヒド(炭素数n+1のアルデヒドなど)を含む流分を、リサイクルにより反応系及び蒸留塔などを循環させると、炭素数n+2以上のカルボン酸、炭素数n+2以上の不飽和アルデヒド、及び炭素数n+1以上のヨウ化アルキルの副生量が増大する。そのため、反応系及び/又は蒸留塔へのリサイクルに先立って、第1の蒸留塔及び/又は第2の蒸留塔から留出される低沸点流分から、炭素数n+1のアルデヒドを分離することにより、炭素数n+2以上のカルボン酸、炭素数n+2以上の不飽和アルデヒド、及び炭素数n+1以上のヨウ化アルキルの生成を抑制することができる。
【0118】
すなわち、アルキルハライド、炭素数n+1のカルボン酸のアルキルエステル、炭素数n+1のアルデヒド、及び水などを含む第1及び/又は第2の蒸留塔からの低沸点流分は、アルデヒド分離塔に供給され、このアルデヒド分離塔において、前記アルデヒドを含む低沸点流分(第4の低沸点流分)と、前記アルキルハライド、カルボン酸のアルキルエステル、及び水などを含む高沸点流分(第4の高沸点流分)とに分離される。アルデヒド分離塔の塔頂又は塔上段部からは、一酸化炭素、水素などのオフガス成分とともに、アルデヒドを分離することができる。アルデヒドの分離に先立って、コンデンサーや冷却器などを利用することによりオフガス成分を予め除去してもよい。第1及び第2の蒸留塔からの低沸点流分は、必ずしも合流させてアルデヒド分離塔に供給する必要はなく、第1及び第2の蒸留塔からのいずれか一方の低沸点流分をアルデヒド分離塔に供給してもよく、双方の蒸留塔から別々の供給ラインを通じてアルデヒド分離塔に供給してもよい。
【0119】
アルデヒド分離塔において、アルデヒドを低沸点流分として除去して得られた高沸点流分は、アルキルハライド、水、カルボン酸エステル、目的カルボン酸などを含んでいるため、反応系にリサイクルできる。
【0120】
アルデヒド分離塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔、フラッシュ蒸留塔などが使用できる。
【0121】
前記アルデヒド分離塔において、温度(塔頂温度)及び圧力(塔頂圧力)は、アルデヒドと他の成分(特にアルキルハライド)との沸点差を利用して、前記第1及び/又は第2の蒸留塔で得られた低沸点流分(第1及び/又は第2の低沸点流分)から、少なくともアルデヒド(アセトアルデヒドなど)を低沸点流分として分離可能であれば特に制限されず、アルデヒド及びアルキルハライド並びに蒸留塔の種類などに応じて選択できる。例えば、酢酸の精製において、アルデヒド分離塔が棚段塔の場合、塔頂圧力は、絶対圧力で、10〜1,000kPa、好ましくは10〜700kPa、さらに好ましくは100〜500kPa程度である。塔頂圧力が低すぎると、アセトアルデヒドの分離効率が低くなり、ガス成分を効率よく凝縮させるためには温度を下げる必要が生じ、コスト的に好ましくない。また、塔頂圧力が大きすぎると、圧力が必要以上に付加されて塔内温度が上昇し、塔内で濃縮されたアセトアルデヒドが高温に晒されることにより、塔内で重合し、高沸点成分に混入する虞がある。
【0122】
また、塔内温度(塔頂温度)は、例えば、10〜80℃、好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃程度であってもよい。
【0123】
アルデヒド分離塔が、棚段塔の場合、理論段は、例えば、5〜80段、好ましくは8〜60段、さらに好ましくは10〜50段程度であってもよい。
【0124】
アルデヒド分離塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、1〜1,000、好ましくは10〜800、さらに好ましくは50〜600(例えば、100〜600)程度から選択できる。
【0125】
なお、反応系での反応条件を適宜調整することにより、アルデヒド及び水素の生成を抑制するとともに、アルデヒド分離塔により蒸留塔からのリサイクル流から、アルデヒドを除去すると、反応系及び/又は蒸留塔内のアルデヒド量を大幅に低減でき、炭素数n+2以上のカルボン酸の副生量を大きく低減できる。そのため、第2の蒸留塔に供給するカルボン酸流の段階であっても、炭素数n+2以上のカルボン酸濃度を、カルボン酸の製品規格内にまで低減することもでき、第2の蒸留塔で炭素数n+2以上のカルボン酸を分離しなくてもよい。
【0126】
また、炭素数n+2以上の不飽和アルデヒドの生成量を低減できるため、オゾン処理等の特別な処理を行うことなく、過マンガン酸カリウム試験値を大幅に改善でき、例えば、規格の120分以上にすることができる。
【0127】
本発明では、少なくとも、前記第1及び第2の蒸留塔を用いることにより、ハロゲン化水素、低沸成分及び/又は高沸成分などの不純物を含むカルボン酸流から、不純物を除去することができ、精製されたカルボン酸を製造できる。好ましい製造方法は、前記反応工程、触媒分離工程、第1の蒸留工程及び第2の蒸留工程を含んでいる。このような方法では、例えば、(a)(i)周期表第8族金属触媒、アルカリ金属ヨウ化物、及びヨウ化アルキルで構成された触媒系、及び(ii)液相反応系全体に対して0.1〜5重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧5〜100kPaで、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応させ、(b)反応混合物を反応系から連続的に抜き出して、(c)触媒分離塔に供給し、(d)前記金属触媒及びアルカリ金属ヨウ化物を含む高沸点流分と、酢酸、ヨウ化アルキル、酢酸メチル、水及びプロピオン酸を含む低沸点流分とを分離し、(e)この低沸点流分をカルボン酸流として第1の蒸留塔に供給し、(f)この第1の蒸留塔で、メタノール及び酢酸メチルから選択された少なくとも一種の成分(A)(第1の成分)及び/又は水を供給しつつ、前記ヨウ化アルキル、前記酢酸メチル及び水の一部を含む低沸点流分と、水及びプロピオン酸の一部を含む高沸点流分とを分離し、(g)少なくとも前記酢酸を含む側流をサイドカットにより留出させて、(h)第2の蒸留塔に供給し、(i)この第2の蒸留塔で、少なくとも前記ヨウ化アルキル、前記酢酸メチル及び水の一部を含む低沸点流分と、少なくとも水及びプロピオン酸の一部を含む高沸点流分とを除去し、(j)精製された前記酢酸を含む側流をサイドカットにより留出させ回収するのが好ましい。なお、前記第1の成分(A)を単独で供給する場合(第1の成分(A)を酢酸溶液として供給する場合も含む)、第1の蒸留塔から酢酸をサイドカットする側流口より下方から第1の蒸留塔に供給する。
【0128】
また、本発明には、前記第1の蒸留塔及び第2の蒸留塔を備えた精製された炭素数n+1のカルボン酸を製造するシステムも含まれる。この製造システムは、例えば、前記反応系、触媒分離塔、第1の蒸留塔及び第2の蒸留塔で構成してもよく、必要によりさらに前記ハロゲン化物除去塔及び/又は前記アルデヒド分離塔などを含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、酢酸などのカルボン酸の工業的な製造方法、特に連続法によるカルボン酸の製造方法において、高度に精製されたカルボン酸を得るのに有用である。
【実施例】
【0130】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0131】
実施例1〜10及び比較例1〜3
(1)反応
容量0.3Lの反応器(0.3L)を用いて、図1に示すフローに従い、連続反応を行い、生成物の生成速度を測定した(実施例1〜4、7、8及び10)。反応条件及び結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
(表中、MAは酢酸メチルを示し、ACは酢酸を示し、ADはアセトアルデヒドを示す。また、STYは空時収量を示す)。
【0134】
(2)第1の蒸留工程
40mmφガラス製オールダーショウ蒸留塔(30段)を用いて、反応器から反応混合物を、蒸留塔の上から7段目にフィードし、メタノール及び/又は酢酸メチル、並びに必要により水を一箇所(供給液I)又は二箇所(供給液I及びII)の供給口から添加して、常圧及び還流比1.1の条件で蒸留を行った。なお、塔頂から抜き取った流分を濃縮し、上層と下層とに分離した。上層及び下層の各々を還流分と排出分とに分け、各層の還流分を、上記還流比となるように還流に供した。なお、還流分と排出分との重量比に関して、両層の間で実質的な差異はなかった。蒸留塔の30段目より下から液相をサイドカットにより抜き取った。なお、実施例5及び6では、反応混合物に代えて、酢酸、ヨウ化水素、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水を含むモデル液を蒸留塔にフィードする以外は、他の実施例と同様に操作を行った。
【0135】
また、比較例1及び2では、40mmφガラス製オールダーショウ蒸留塔(50段)を用いて、モデル液(酢酸、ヨウ化水素、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水を含む)を、蒸留塔の上から7段目にフィードした。比較例1では、メタノール、酢酸メチル及び水のいずれも供給せず、比較例2では、メタノール(供給液I)を一箇所の供給口から添加して、常圧、還流比3.0及び塔底温度120.6℃の条件で蒸留を行った。なお、塔頂から抜き取った流分を濃縮し、上層と下層とに分離した。上層及び下層の各々を還流分と排出分とに分け、各層の還流分を、上記還流比となるように還流に供した。なお、還流分と排出分との重量比に関して、両層の間で実質的な差異はなかった。蒸留塔の50段目より下から液相をサイドカットにより抜き取った。
【0136】
反応混合物又はモデル液中のヨウ化水素濃度、メタノール及び/又は酢酸メチルの供給条件を表2に示し、結果を表3に示す。
【0137】
【表2】

【0138】
(表中、MeOHはメタノールを示し、MAは酢酸メチルを示す)
【0139】
【表3】

【0140】
(表中、MeOH/HIは、蒸留塔に供給したメタノールと、フィードした反応混合物又はモデル液中のヨウ化水素との割合(モル比)を示し、MeOH比率は、反応器に供給した原料メタノールの供給量に対する蒸留塔に供給したメタノール量の比率(モル%)を示す。)
なお、実施例では、常圧で蒸留させたため、塔内温度が比較的低い、すなわち、メタノール処理の反応温度が低い。なお、上記の実施例を、加圧蒸留する工業的な条件で行うと、蒸留塔内の温度は、通常、20〜30℃程度上昇するため、反応速度は4〜8倍程度増加すると考えられる。そのため、サイドカット液中のヨウ化水素濃度は、0.2〜2ppm程度まで低減できると考えられる。
【0141】
表2及び3から明らかなように、少なくとも酢酸のサイドカット口より下方からメタノールを導入することにより、サイドカット液中のヨウ化物濃度が大きく低下した。
【0142】
(3)第2の蒸留工程
第2の蒸留塔として40mmφガラス製オールダーショウ蒸留塔(60段)を用いて、第1の蒸留塔からのサイドカット液を、第2の蒸留塔の上から27段目にフィードし、水酸化カリウム(KOH)水溶液を一箇所(供給液I)又は二箇所(供給液I及びII)の供給口から第2の蒸留塔に供給しつつ、常圧及び還流比30の条件で蒸留を行った(実施例10)。第2の蒸留塔の57段目から気相をサイドカットにより抜き取った。なお、前記第1の蒸留塔からのサイドカット液として、実施例3のサイドカット液を一旦タンクにプールしたものを用いた。
【0143】
また、実施例9及び比較例3では、第1の蒸留塔からのサイドカット液に代えて、酢酸、水及びヨウ化水素を含むモデル液(組成:酢酸99.8重量%、水0.2重量%、ヨウ化水素(ヨウ素イオンとして)1.4ppm)を第2の蒸留塔にフィードする以外は、実施例10と同様に操作を行った。
【0144】
第2の蒸留塔に供給したフィード液中のヨウ化水素濃度、水酸化カリウム水溶液の供給条件を表4に、結果を表5に示す。
【0145】
【表4】

【0146】
【表5】

【0147】
(表中、KOH/HIは、フィード液中のヨウ化水素量に対する水酸化カリウムの供給量の割合(モル比)を示す)
なお、上記実施例では、常圧で蒸留させたため、塔内温度が比較的低い、すなわち、水酸化カリウム処理の反応温度が低い。なお、上記の実施例を、加圧蒸留する工業的な条件で行うと、蒸留塔内の温度は、通常、20〜30℃程度上昇するため、反応速度は4〜8倍程度増加すると考えられる。そのため、サイドカット液中のヨウ化水素濃度は、3ppb程度以下まで低減できると考えられる。
【0148】
(4)ヨウ化物除去工程
上記蒸留工程(3)で得られたサイドカット液(実施例10)を、さらにAg交換したイオン交換樹脂カラムに、45℃、8bed volume/H(床容積/h)の条件で通液することにより、ヨウ化アルキル不純物を除去した。得られた酢酸をECD−GCで分析したところ、ヨウ化アルキル濃度は、検出限界(0.3ppb)以下であった。
【0149】
最終的に得られた酢酸は、ヨウ化水素及びヨウ化アルキル濃度とも非常に低く、製品として満足できる結果であった。
【0150】
また、ヨウ化アルキル除去後の酢酸中、プロピオン酸濃度93ppm、クロトンアルデヒド濃度0.2ppm以下、過マンガン酸カリウム試験は190分であり、製品として満足できる結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は本発明のカルボン酸の製造方法の一例を説明するためのフロー図である。
【図2】図2は本発明のカルボン酸の製造方法の他の例を説明するためのフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素数n+1のカルボン酸、ハロゲン化水素、低沸成分及び高沸成分を含むカルボン酸流を、第1の蒸留塔に供給し、この第1の蒸留塔で、前記低沸成分の一部を含む第1の低沸点流分と、前記高沸成分の一部を含む第1の高沸点流分とを分離し、少なくとも前記炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットにより留出させて、第2の蒸留塔に供給し、この第2の蒸留塔で、前記低沸成分の一部を含む第2の低沸点流分と、前記高沸成分の一部を含む第2の高沸点流分とを分離し、前記炭素数n+1のカルボン酸を含む第2の側流をサイドカットにより留出させて回収し、炭素数n+1のカルボン酸を製造する方法であって、
(i)前記第1の蒸留塔に、水、又は前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の第1の成分(A)と水とを供給するか、又は(ii)前記第1の成分(A)を、炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットする第1の側流口よりも下方から前記第1の蒸留塔に供給するカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化水素を低沸成分に変換して分離する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水、又は第1の成分(A)及び水を、炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットする第1の側流口よりも上方から第1の蒸留塔に供給する請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
第1の蒸留塔において、炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットする第1の側流口よりも上方から少なくとも水を供給し、かつ前記第1の側流口よりも下方から第1の成分(A)を供給する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
第1の成分(A)の供給割合及び水の供給割合が、それぞれ下記(i)及び(ii)の少なくともいずれかを充足する請求項1記載の製造方法。
(i)第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、1〜10,000モルである
(ii)第1の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれる炭素数n+1のカルボン酸全体に対して、0.02〜50モル%である
【請求項6】
さらに第2の蒸留塔に、(b-1)炭素数n+1のカルボン酸に対応する炭素数nのアルコール、(b-2)このアルコールと炭素数n+1のカルボン酸とのエステル、(b-3)アルカリ金属水酸化物、(b-4)アルカリ金属酢酸塩及び(b-5)次亜リン酸から選択された少なくとも一種の第2の成分(B)を供給する請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
第2の成分(B)を、炭素数n+1のカルボン酸を含む第2の側流をサイドカットする第2の側流口より上方及び下方の少なくとも一方から第2の蒸留塔に供給する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
成分(b-1)及び(b-2)の供給割合が、総量で、下記(i)及び(ii)の少なくともいずれかを充足する請求項6記載の製造方法。
(i)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、成分(b-1)及び(b-2)の供給割合が総量で1〜10,000モルである
(ii)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれる炭素数n+1のカルボン酸全体に対して、成分(b-1)及び(b-2)の供給割合が総量で0.02〜50モル%である
【請求項9】
成分(b-3)の供給割合が、下記(iii)及び(iv)の少なくともいずれかを充足する請求項6記載の製造方法。
(iii)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれるハロゲン化水素1モルに対して、成分(b-3)の供給割合が1〜20,000モルである
(iv)第2の蒸留塔に供給されるカルボン酸流に含まれる炭素数n+1のカルボン酸が、成分(b-3)1モルに対して、30〜300,000モルである
【請求項10】
金属触媒成分とアルキルハライドとで構成された触媒系、及び液相反応系全体に対して0.1〜10重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧1〜150kPaで、炭素数nのアルコール又はその誘導体と一酸化炭素とを連続的に反応させ、反応混合物を反応系から連続的に抜き出して、触媒分離塔に供給し、前記金属触媒成分を含む第3の高沸点流分と、第3の低沸点流分とに分離し、この第3の低沸点流分をカルボン酸流として第1の蒸留塔に供給する請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
第2の蒸留塔でサイドカットした第2の側流を、さらにハロゲン化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂に接触させ、精製された炭素数n+1のカルボン酸を製造する請求項1記載の製造方法。
【請求項12】
第1の蒸留塔及び第2の蒸留塔の少なくともいずれか一方から留出した低沸点流分がアルキルハライド、炭素数n+1のカルボン酸のアルキルエステル、炭素数n+1のアルデヒド、及び水を含んでおり、前記低沸点流分をさらにアルデヒド分離工程に供し、このアルデヒド分離工程で、前記アルデヒドを含む第4の低沸点流分と、前記アルキルハライド、カルボン酸のアルキルエステル、及び水を含む第4の高沸点流分とに分離し、この第4の高沸点流分を反応系にリサイクルする請求項10記載の製造方法。
【請求項13】
周期表第8族金属触媒、アルカリ金属ヨウ化物、及びヨウ化アルキルで構成された触媒系、及び液相反応系全体に対して0.1〜5重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧5〜100kPaで、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応させ、反応混合物を反応系から連続的に抜き出して、触媒分離塔に供給し、前記金属触媒及びアルカリ金属ヨウ化物を含む第3の高沸点流分と、酢酸、ヨウ化アルキル、酢酸メチル、水及びプロピオン酸を含む第3の低沸点流分とに分離し、この第3の低沸点流分をカルボン酸流として第1の蒸留塔に供給し、この第1の蒸留塔で、少なくとも前記ヨウ化アルキル、前記酢酸メチル及び水の一部を含む第1の低沸点流分と、少なくとも水及びプロピオン酸の一部を含む第1の高沸点流分とを分離し、少なくとも前記酢酸を含む第1の側流をサイドカットにより留出させて、第2の蒸留塔に供給し、この第2の蒸留塔で、前記ヨウ化アルキル、前記酢酸メチル及び水の一部を含む第2の低沸点流分と、水及びプロピオン酸の一部を含む第2の高沸点流分とを分離し、前記酢酸を含む第2の側流をサイドカットにより留出させて回収する請求項1記載のカルボン酸の製造方法であって、(i)前記第1の蒸留塔に、水、又はメタノール及び酢酸メチルから選択された少なくとも一種の第1の成分(A)と水とを供給するか、又は(ii)前記第1の成分(A)を、酢酸を含む第1の側流をサイドカットする第1の側流口よりも下方から前記第1の蒸留塔に供給するカルボン酸の製造方法。
【請求項14】
さらに第2の蒸留塔に、(b-1)メタノール、(b-2)酢酸メチル、(b-3)水酸化カリウム、(b-4)酢酸カリウム及び(b-5)次亜リン酸から選択された少なくとも一種の第2の成分(B)を供給する請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
少なくとも炭素数n+1のカルボン酸、ハロゲン化水素、低沸成分及び高沸成分を含むカルボン酸流から、前記低沸成分の一部を含む第1の低沸点流分と、前記高沸成分の一部を含む第1の高沸点流分とを分離し、少なくとも前記炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットにより留出させるための第1の蒸留塔、並びにこの第1の蒸留塔からの前記第1の側流から、前記低沸成分の一部を含む第2の低沸点流分と、前記高沸成分の一部を含む高沸点流分(第2の高沸点流分)とを分離し、炭素数n+1のカルボン酸を含む第2の側流をサイドカットにより留出させて回収するための第2の蒸留塔を備えた炭素数n+1のカルボン酸を製造するシステムであって、(i)前記第1の蒸留塔に、水、又は前記カルボン酸に対応する炭素数nのアルコール及びこのアルコールと前記カルボン酸とのエステルから選択された少なくとも一種の第1の成分(A)と水とが供給されるか、又は(ii)前記第1の成分(A)が炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットする第1の側流口よりも下方から供給されるカルボン酸の製造システム。
【請求項16】
金属触媒成分とアルキルハライドとで構成された触媒系、及び液相反応系全体に対して0.1〜10重量%の水の存在下、反応系の気相における水素分圧1〜150kPaで、炭素数n又はその誘導体と一酸化炭素とを連続的に反応させるための反応系、この反応系から連続的に抜き出した反応混合物から、前記金属触媒成分を含む第3の高沸点流分と、カルボン酸流としての第3の低沸点流分とに分離するための触媒分離塔、この触媒分離塔からの前記カルボン酸流から、低沸成分の一部を含む第1の低沸点流分と、高沸成分の一部を含む第1の高沸点流分とを分離し、少なくとも炭素数n+1のカルボン酸を含む第1の側流をサイドカットにより留出させるための第1の蒸留塔、この第1の蒸留塔からの前記第1の側流から、低沸成分の一部を含む第2の低沸点流分と、高沸成分の一部を含む第2の高沸点流分とを分離し、炭素数n+1のカルボン酸を含む第2の側流をサイドカットにより留出させて回収するための第2の蒸留塔、並びにこの第2の蒸留塔からのカルボン酸を含む第2の側流からハロゲン化物を除去し、炭素数n+1のカルボン酸を得るためのハロゲン化物除去塔を含む製造システムであって、前記ハロゲン化物除去塔が、前記第2の蒸留塔からの第2の側流との接触によりハロゲン化物を除去するためのハロゲン化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂を内部に備えている請求項15記載の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−501129(P2009−501129A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555814(P2007−555814)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314124
【国際公開番号】WO2007/007891
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】