説明

カルボン酸化合物の製造方法

【課題】安全に、かつ、金属触媒を使用せずに低コストで不飽和結合を含む化合物を酸化開裂し、効率的にモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることのできる優れたカルボン酸化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】不飽和結合を含む化合物と、重金属元素を含まない酸化剤とを、温度180〜370℃、圧力1〜25MPaの亜臨界水中で反応させることを特徴とするカルボン酸化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸化合物の製造方法に関し、より詳細には、安全に、かつ、金属触媒を使用せずに低コストで不飽和結合を含む化合物を酸化開裂し、効率的にモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることのできる優れたカルボン酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和結合を含む化合物としての不飽和脂肪酸の一種であるオレイン酸の酸化開裂により得られるペラルゴン酸及びアゼライン酸は、それぞれ様々な工業用途に有用であり、例えば、ペラルゴン酸は塗料、潤滑油、農薬、香料、抗菌剤の原料などとして使用され、また、アゼライン酸は可塑剤、潤滑油、ポリマー、にきび治療薬、男性型脱毛症治療薬の原料などとして使用される。
従来から、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の酸化開裂には、オゾンによる酸化開裂が行われている。しかしながら、オゾンはその安全性に問題があり、日本国内では製造されていないのが現状である。
【0003】
これに対し、従来から、過酸化水素と金属触媒を用いた不飽和脂肪酸の酸化開裂反応の研究が行われており、例えば、不飽和脂肪酸を金属触媒の存在下、酸化剤と反応させて中間体を得、更にコバルト触媒の存在下、酸素などとの反応により酸化開裂させるカルボン酸類の製造方法(特許文献1)、不飽和脂肪酸と過酸化水素を金属触媒の存在下、酸化する段、バナジウム触媒存在下、硝酸と反応させる段、モノ、ジカルボン酸を回収する段からなるカルボン酸類の製造方法(特許文献2)、不飽和脂肪酸と過酸化水素の二相系で、金属触媒と、相転移剤として4級アンモニウム塩の存在下、酸化開裂させるカルボン酸類の製造方法(特許文献3)、などが報告されているが、これらの技術において、用いる金属触媒は特殊で高価なものであり、そのため、カルボン酸類の製造は高コストとなることが問題であった。また、用いた金属触媒は、反応後に回収する必要があり、手間がかかることや、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも望ましくないなどの問題があった。
【0004】
したがって、安全に、かつ、金属触媒を使用せずに低コストで不飽和結合を含む化合物を酸化開裂し、効率的にモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることのできる優れたカルボン酸化合物の製造方法は、未だ求められているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特表平8−502960号公報
【特許文献2】特表平8−99927号公報
【特許文献3】特表平7−502035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安全に、かつ、金属触媒を使用せずに低コストで不飽和結合を含む化合物を酸化開裂し、効率的にモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることのできる優れたカルボン酸化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、亜臨界水条件下で、不飽和結合を含む化合物原料と、重金属元素を含まない酸化剤とを反応させることにより、不飽和結合を含む化合物の酸化開裂が起こり、効率的にモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
前記方法は、特殊で高価な金属触媒を使用する必要がなく、そのため、低コストである点で、有利である。また、前記方法は、安全性に問題のあるオゾンを使用する必要がなく、また、反応後の金属触媒の回収等を行う必要もないため、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも、有利な製造方法であるということができる。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 不飽和結合を含む化合物と、重金属元素を含まない酸化剤とを、温度180〜370℃、圧力1〜25MPaの亜臨界水中で反応させることを特徴とするカルボン酸化合物の製造方法である。
<2> 重金属元素を含まない酸化剤が、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、並びに、次亜塩素酸及びその塩類からなる群より選択される少なくとも一種である前記<1>に記載のカルボン酸化合物の製造方法である。
<3> 不飽和結合を含む化合物が不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種であり、前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種の脂肪酸部分の炭素数が、12〜22である前記<1>から<2>のいずれかに記載のカルボン酸化合物の製造方法である。
<4> 重金属元素を含まない酸化剤を、不飽和結合を含む化合物における二重結合の酸化開裂に必要な化学当量に対して、1〜8倍モル使用する前記<1>から<3>のいずれかに記載のカルボン酸化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安全に、かつ、金属触媒を使用せずに低コストで不飽和結合を含む化合物を酸化開裂し、効率的にモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることのできる優れたカルボン酸化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(カルボン酸化合物の製造方法)
本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、不飽和結合を含む化合物と、重金属元素を含まない酸化剤とを、亜臨界水中で反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて適宜その他の工程を含む。
【0011】
<不飽和結合を含む化合物>
前記不飽和結合を含む化合物は、カルボン酸化合物を得るための出発原料として使用される。
前記不飽和結合を含む化合物としては、少なくとも1つ以上の二重結合を有する化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種、シクロヘキセン、シクロペンテン等の環状不飽和炭化水素、スチレン等が好ましい。
【0012】
前記出発原料として、前記不飽和結合を含む化合物は、いずれか一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、前記出発原料としては、前記不飽和結合を含む化合物に加え、更に他の成分(例えば、カルボン酸化合物等)が含まれる原料を使用してもよい。
【0013】
前記不飽和結合を含む化合物の使用量としては、特に制限はなく、例えば、所望の反応物の生成量(モノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の生成量)等に応じて、適宜選択することができる。
【0014】
<<不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種>>
前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種は、飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸を得るための出発原料として使用される。
前記不飽和脂肪酸としては、少なくとも1つ以上の二重結合を有する脂肪酸であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、炭素数12〜22の不飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16〜22の不飽和脂肪酸がより好ましい。前記炭素数12未満の不飽和脂肪酸は、存在割合が少なく、また、前記炭素数22を超える不飽和脂肪酸は、亜臨界水に対する溶解度が低く、反応が進行しないことがある。一方、前記炭素数がより好ましい範囲内の不飽和脂肪酸は、亜臨界水に対する溶解度が高く、より効率的に反応が進行する点で、有利である。また、前記不飽和脂肪酸の二重結合の数は、1つ以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
前記エステル体としては、例えば、前記不飽和脂肪酸と一価又は多価アルコールとのエステル体などが挙げられる。前記不飽和脂肪酸とエステル体を構成する一価又は多価アルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、ショ糖、トレハロース、シクロデキストリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどが挙げられる。中でも、前記不飽和脂肪酸と前記グリセリンとのエステル体として、例えば、菜種油、ヒマワリ油、落花生油、オリーブ油、コーン油、大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、米ぬか油、ゴマ油、ヤシ油、サフラワー油、ツバキ油、カラシ油等の植物系油脂、魚油、牛脂、豚脂、馬脂、羊脂等の動物系油脂などを用いることができる。
【0016】
前記出発原料として、前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体は、いずれか一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、前記出発原料としては、前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種に加え、更に他の成分(例えば、飽和脂肪酸等)が含まれる原料を使用してもよい。
【0017】
前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種の使用量としては、特に制限はなく、例えば、所望の反応物の生成量(飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸の生成量)等に応じて、適宜選択することができる。
【0018】
<重金属元素を含まない酸化剤>
前記酸化剤は、前記不飽和結合を含む化合物における二重結合を酸化開裂させる目的で使用される。
前記酸化剤としては、重金属元素を含まないものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、次亜塩素酸及びその塩類、臭素酸及びその塩類、ヨウ素酸及びその塩類、硝酸及びその塩類などが挙げられる。これらの中でも、価格、安全性などの点で、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、次亜塩素酸及びその塩類が好ましい。なお、前記酸化剤としては、安全性の点で、オゾンは使用しないことが望ましい。
前記塩類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0019】
なお、前記重金属元素とは、比重が4〜5以上の金属元素をいい、一般的には鉄以上の比重を持つ金属の総称である。前記重金属元素としては、例えば、鉄、鉛、金、白金、銀、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマスなどが挙げられる。前記重金属元素を含む酸化剤を用いた場合では、この酸化剤自体が有毒(有害)である、反応後回収の必要がある、亜臨界水条件下では反応が進行しない、などの問題がある。
【0020】
前記酸化剤は、いずれか一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
前記酸化剤の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記不飽和結合を含む化合物における二重結合の酸化開裂に必要な化学当量に対して、1〜8倍モルが好ましく、2〜7倍モルがより好ましい。前記酸化剤の使用量が、前記化学当量に対して、1倍モル未満であると、理論当量に及ばないため、所望の程度の反応物(モノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれか)が得られないことがあり、8倍モルを超えると、反応が進行しすぎてしまい、水と二酸化炭素まで分解してしまうことがある。一方、前記酸化剤の使用量が、より好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0021】
<亜臨界水>
前記不飽和結合を含む化合物と、前記重金属元素を含まない酸化剤との反応は、亜臨界水中で行われる。ここで、前記亜臨界水とは、超臨界水の臨界点(374℃、22.1MPa)よりも低い温度で、飽和水蒸気圧以上の圧力の高温・高圧の水のことをいう。
【0022】
前記亜臨界水の温度としては、180〜370℃であり、中でも、200〜350℃が好ましい。前記温度が、180℃未満であると、反応が進行しないこと等があり、370℃を超えると、水と二酸化炭素まで分解してしまい、目的の反応物(モノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれか)が得られないこと等がある。一方、前記温度が、好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0023】
前記亜臨界水の圧力としては、1〜25MPaであり、中でも、1.5〜20MPaが好ましい。前記圧力が、1MPa未満であると、180℃の飽和蒸気圧に達しないこと等があり、25MPaを超えると、水と二酸化炭素まで分解してしまい、目的の反応物(モノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれか)が得られないこと等がある。一方、前記圧力が、好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0024】
前記亜臨界水として用いる水の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、純水、超純水を用いることが好ましい。
前記純水とは、一般に電気抵抗率が1〜10MΩ・cmの水をいい、前記超純水とは、一般に電気抵抗率が15MΩ・cm以上の水をいう。一般的な水道水に含まれる不純物には、塩類、残留塩素、溶解性でない微粒子、有機物、電解しないガスなどがあり、純水とは、これらのうち、主に塩類や残留塩素が高度に除去された状態の水を指す。純水は、不純物を取り除く方法により、RO水(逆浸透膜を通した水のこと)、イオン交換水(イオン交換樹脂などによりイオンを除去した水のこと)、蒸留水などと呼ばれる。なお、水道水レベルの水を単にフィルターなどでろ過、又は活性炭を通しただけの水は純水とは呼ばれない。また、超純水とは、純水から更に、微粒子、有機物、ガス等が高度に除去された状態の水を指す。これらの純水、超純水は、常法に従い調製することができる。
【0025】
前記水は、いずれか一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
前記水の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記不飽和結合を含む化合物に対して、質量比で、1〜100倍量が好ましく、5〜50倍量がより好ましい。前記水の使用量が、前記不飽和結合を含む化合物に対して、1倍量未満であると、反応が進行しないことがあり、100倍量を超えると、前記不飽和結合を含む化合物の濃度が薄くなるため、生成効率が悪くなることがある。一方、前記水の使用量が、より好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0026】
<反応>
前記不飽和結合を含む化合物と、前記重金属元素を含まない酸化剤とを、前記亜臨界水中で反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、超臨界流体反応装置などを用いて行うことができる。前記反応は高温・高圧条件下で行うことが必要となるため、前記超臨界流体反応装置には、通常、高温高圧に耐え得るハステロイ、インコネル等の耐圧容器が用いられる。一般には、設計圧力30MPa、設計温度400℃程度のシステムが使用され、また、バッチ式と流通式のシステムのいずれをも使用することができる。
【0027】
具体的には、例えば、前記超臨界流体反応装置に、前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種、前記重金属元素を含まない酸化剤、及び、水を仕込み、前記水が亜臨界状態となるような温度・圧力をかけることにより、反応を進行させることができる。
【0028】
前記反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.25〜5時間が好ましく、0.5〜3時間がより好ましい。前記反応時間が、0.25時間未満であると、反応が進行しないことがあり、5時間を超えると、目的とする飽和カルボン酸がさらに反応し、著しく収率が低下することがある。一方、前記反応時間が、より好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0029】
前記反応により、例えば、前記不飽和結合を含む化合物の二重結合が酸化開裂し、カルボン酸化合物(モノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれか)が生成される。反応終了後、得られた反応物中のモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかは、蒸留、再結晶、晶析、各種クロマトグラフィー等を利用し、常法に従い分離、精製することができる。
【0030】
[効果]
本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、特殊で高価な金属触媒を使用する必要がなく、低コストである点で、有利である。また、本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、安全性に問題のあるオゾンを使用する必要がなく、また、反応後の金属触媒の回収等を行う必要もないため、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも、有利な製造方法であるということができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、45質量%過酸化水素水を5.4g(70mmol)、超純水41gを仕込み、温度を200℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、45質量%過酸化水素水を10.8g(140mmol)、超純水36gを仕込み、温度を250℃に昇温し、0.5時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0034】
(実施例3)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、45質量%過酸化水素水を21.5g(283mmol)、超純水36gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0035】
(実施例4)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、45質量%過酸化水素水を32.2g(426mmol)、超純水36gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0036】
(実施例5)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にパステルM181(ライオン株式会社製)を2g(6.7mmol)、45質量%過酸化水素水を8.6g(114mmol)、超純水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0037】
(実施例6)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にパステルM182(ライオン株式会社製)を2g(6.7mmol)、45質量%過酸化水素水を10.7g(142mmol)、超純水36gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0038】
(実施例7)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にエルカ酸(純度99質量%)を2g(5.9mmol)、45質量%過酸化水素水を3.6g(47.2mmol)、超純水42gを仕込み、温度を350℃に昇温し、3時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0039】
(実施例8)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にパルミトレイン酸(純度99質量%)を2g(7.9mmol)、酸素を3.3g(103mmol)、イオン交換水33gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0040】
(実施例9)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、次亜塩素酸ナトリウムを5.2g(70mmol)、イオン交換水41gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0041】
(実施例10)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、亜塩素酸ナトリウムを6.3g(70mmol)、超純水41gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0042】
(実施例11)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、塩素酸ナトリウムを7.5g(70mmol)、超純水41gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0043】
(実施例12)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、過塩素酸ナトリウムを8.6g(70mmol)、超純水41gを仕込み、温度を250℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0044】
(比較例1)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、45質量%過酸化水素水を12.9g(171mmol)、超純水22gを仕込み、温度を420℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表3に示す。得られた反応物中から、有機物はほとんど回収されなかった。
【0045】
(比較例2)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にオレイン酸(純度99質量%)を2g(7.1mmol)、超純水41gを仕込み、温度を200℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表3に示す。得られた反応物は、オレイン酸のみであった。
【0046】
(比較例3)
実施例1で用いた重金属元素を含まない酸化剤(45質量%過酸化水素水)に代えて、金属触媒(12−タングストリン酸、タングステン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、又は、五酸化バナジウム)を用い、実施例1と同様に反応を行った。得られた反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量を下記のように定量した。いずれの金属触媒を用いた場合においても、不飽和脂肪酸原料(オレイン酸)の酸化開裂反応は進行せず、原料が回収されるのみであった(表中には結果示さず)。詳細は不明であるが、高温高圧下において金属触媒が分解し、その機能を失った可能性がある。
【0047】
[反応物中の飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸量の定量方法]
前記実施例及び比較例の各反応終了後、得られた反応物を酢酸エチルに溶解させた後、水層を酸性にし、油水層を分離した。油層の溶媒を除去した後、測定用サンプルを調製し、下記の分析条件でガスクロマトグラフィー(GC)を行った。測定はすべてシリル化して行った。内部標準としてパルミチン酸メチルを用い、生成する飽和モノ及びジカルボン酸標準物質による検量線を作成し、定量を行った。
−分析条件−
カラム :Ultra−2
昇温条件:100℃→(10℃/min.)→300℃
分析時間:20min.
検出器 :FID
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
(実施例13)
容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にシクロヘキセン(純度99質量%)を2g(24.3mmol)、45質量%過酸化水素水を18.4g(243mmol)、超純水28gを仕込み、温度を200℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジカルボン酸化合物量を上記実施例1と同様に定量した。反応条件の詳細及び結果を表4に示す。
【0052】
(実施例14)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にシクロヘキセン(純度99質量%)を2g(24.3mmol)、45質量%過酸化水素水を36.8g(487mmol)、超純水10gを仕込み、温度を250℃に昇温し、0.5時間反応を行った。得られた反応物中のジカルボン酸化合物量を上記実施例1と同様に定量した。反応条件の詳細及び結果を表4に示す。
【0053】
(実施例15)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にスチレン(純度99質量%)を2g(19.2mmol)、45質量%過酸化水素水を14.5g(192mmol)、超純水32gを仕込み、温度を200℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のモノカルボン酸化合物量を上記実施例1と同様に定量した。反応条件の詳細及び結果を表4に示す。
【0054】
(実施例16)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にスチレン(純度99質量%)を2g(19.2mmol)、45質量%過酸化水素水を29.0g(384mmol)、超純水17gを仕込み、温度を250℃に昇温し、0.5時間反応を行った。得られた反応物中のモノカルボン酸化合物量を上記実施例1と同様に定量した。反応条件の詳細及び結果を表4に示す。
【0055】
(実施例17)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にシクロペンテン(純度99質量%)を2g(29.4mmol)、45質量%過酸化水素水を22.2g(294mmol)、超純水24gを仕込み、温度を200℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジカルボン酸化合物量を上記実施例1と同様に定量した。反応条件の詳細及び結果を表4に示す。
【0056】
(実施例18)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置にシクロペンテン(純度99質量%)を2g(29.4mmol)、45質量%過酸化水素水を44.4g(588mmol)、超純水2gを仕込み、温度を250℃に昇温し、0.5時間反応を行った。得られた反応物中のジカルボン酸化合物量を上記実施例1と同様に定量した。反応条件の詳細及び結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
以上、実施例1〜18、及び、比較例1〜3の結果から、不飽和結合を含む化合物原料と、重金属元素を含まない酸化剤とを、亜臨界水条件下で反応させることを特徴とする本発明のカルボン酸化合物の製造方法(実施例1〜18)は、前記各要件の少なくともいずれかを満たさない比較例(比較例1〜3)の製造方法と比較して、目的物のモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを効率的に得ることができることがわかった。
【0059】
なお、前記実施例及び比較例で用いた不飽和結合を含む化合物原料の詳細と、該不飽和結合を含む化合物における二重結合の酸化開裂反応により生成するモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかの対応を下記表5及び6に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、特殊で高価な金属触媒を使用する必要がなく、低コストでモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の少なくともいずれかを得ることができる点で、有利である。また、本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、安全性に問題のあるオゾンを使用する必要がなく、また、反応後の金属触媒の回収等を行う必要もないため、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも、有利な製造方法であるということができる。本発明により得られたモノカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物は、例えば、塗料、可塑剤、潤滑油、ポリマー、農薬、香料、抗菌剤、にきび治療薬、男性型脱毛症治療薬の原料などとして、様々な工業用途に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を含む化合物と、重金属元素を含まない酸化剤とを、温度180〜370℃、圧力1〜25MPaの亜臨界水中で反応させることを特徴とするカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項2】
重金属元素を含まない酸化剤が、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、並びに、次亜塩素酸及びその塩類からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項3】
不飽和結合を含む化合物が不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種であり、前記不飽和脂肪酸及びそのエステル体の少なくとも一種の脂肪酸部分の炭素数が、12〜22である請求項1から2のいずれかに記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項4】
重金属元素を含まない酸化剤を、不飽和結合を含む化合物における二重結合の酸化開裂に必要な化学当量に対して、1〜8倍モル使用する請求項1から3のいずれかに記載のカルボン酸化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−155320(P2009−155320A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292321(P2008−292321)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】