説明

カロテノイドの分離法

【課題】カロテノイド産生細菌の培養物からカロテノイドを高収率で回収する方法を提供する。
【解決手段】カロテノイドを生産する細菌の培養物から、酸性条件下でカロテノイドを含有する濃縮物を沈殿させる工程を含む、カロテノイドの分離方法、並びにカロテノイドを生産する細菌の培養物から、酸性条件下でカロテノイドを含有する濃縮物を沈殿させ、得られる沈殿物からカロテノイドを回収する工程を含む、カロテノイドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイドの微生物学的製造方法に関する。詳細には、本発明は、飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品原料等として有用なアスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノンおよび3−ヒドロキシエキネノンなどのカロテノイドを、カロテノイド生産細菌の培養物から分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品等として有用な天然色素である。カロテノイドには、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノンおよび3−ヒドロキシエキネノンなどが含まれる。中でも、アスタキサンチンは養殖魚であるサケ、マス、マダイ等の体色改善剤や、家禽類の卵黄色改善剤のような飼料添加物として有用である。また、アスタキサンチンは安全な天然の食品添加物や健康食品素材、化粧品素材として産業上の価値が高い。アドニキサンチンおよびフェニコキサンチンは、工業的製造法が確立されることにより、アスタキサンチンと同様に飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品等としての用途が期待されている。さらに、β−カロテンは飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品等として使用され、カンタキサンチンは飼料添加物、食品添加物、化粧品等として使用され、ゼアキサンチンは食品添加物、飼料添加物、化粧品素材等として使用されている。さらにリコペン、エキネノン、β−クリプトキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン等も飼料添加物、食品素材、化粧品素材等としての使用が期待される。これらカロテノイドの製造方法としては、化学合成法、天然物からの抽出法、微生物による産生方法などが知られている。
【0003】
アスタキサンチンの化学合成法としてはβ−カロテンの変換による方法(非特許文献1:Pure Appl. Chem., 57, 741, 1985)およびC15ホスホニウム塩から合成する方法(非特許文献2:Helv. Chim. Acta, 64, 2436, 1981)が知られている。また、アスタキサンチンはマダイ、サケ等の魚類およびエビ、カニ、オキアミ等の甲殻類に存在するため、これらより抽出することも可能である。化学合成法で製造されたアスタキサンチンは飼料添加物として販売されている。
【0004】
微生物によるアスタキサンチンの生産方法としては、緑藻類Haematococcus pluvialisによる培養法(特許文献1:特開2007-97584)、赤色酵母Phaffia rhodozymaによる発酵法(特許文献2:特開平11-69969)、Sphingomonas属に属する細菌による発酵法(特許文献3:特開2006-191919)、Brevundimonas属に属する細菌による発酵法(特許文献4:特開2006-340676)、Erythrobacter属に属する細菌による発酵法(特許文献5:特開2008-259452)、Paracoccus属に属する細菌(以下、「Paracoccus属細菌」ともいう)による発酵法が報告されている。アスタキサンチンを生産するParacoccus属に属する細菌の例としては、E−396株およびA−581−1株が挙げられる(特許文献6:特開平7-79796および非特許文献3:International Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49, 277-282)。他のアスタキサンチン生産性のParacoccus属に属する細菌としては、Paracoccus marcusii MH1株(特許文献7:特表2001-512030)、Paracoccus haeundaensis BC74171株(非特許文献4:International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004), 54, 1699-1702)、Paracoccus属細菌N-81106株(特許文献8:特開2007-244205)、Paracoccus zeaxanthinifaciens(非特許文献5:International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2003), 53, 231-238)およびParacoccus sp. PC-1株(特許文献9:WO 2005/118812)などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、前述のカロテノイドの製造方法はいくつかの課題があった。例えば、化学合成法は安全性の観点から消費者に好ましくない印象を与えるものである。また、天然物からの抽出は製造コストが高い。さらに、緑藻類や酵母による産生では生産性が低いうえに強固な細胞壁を持つためにカロテノイドの抽出が困難である。
【0006】
一方、Paracoccus属に属する細菌は、増殖速度が速く、生産性が高い、抽出が容易であるなどの利点を有する。しかるに、Paracoccus属細菌はカロテノイドを一部細胞外に小胞として分泌し、多くのカロテノイドが極小微粒子として液中に分散しているので、培養物から上清を除去し、カロテノイドを高収率で回収するのが困難であった。Paracoccus属細菌以外のカロテノイド生産微生物として従来からよく知られる緑藻類Haematococcus pluvialisや赤色酵母Phaffia rhodozymaにおいては、カロテノイドがすべて細胞内に蓄積されるので、このような問題は起こらなかった。カロテノイド産生Paracoccus属細菌による培養では、細胞外のカロテノイドは多いときには細胞内を含めたカロテノイド全体の80%にも達する。Paracoccus属細菌の培養物からカロテノイドを分離する方法として、細胞をペレット化するのに足りる第一の速度で培養物を遠心分離し、カロテノイドを含む上清を回収し、そのカロテノイド小胞をペレット化するのに足りる第二の速度で該上清を遠心分離する方法が提案されている(特許文献4:特表2001-512030)。しかしながら、カロテノイドは培養上清中で極めて微小な粒子として存在するので、ペレット化するためには100,000×gレベルの超高速遠心分離を行う必要があり、設備費および動力費を考えると実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-97584号公報
【特許文献2】特開平11-69969号公報
【特許文献3】特開2006-191919号公報
【特許文献4】特開2006-340676号公報
【特許文献5】特開2008-259452号公報
【特許文献6】特開平7-79796号公報
【特許文献7】特表2001-512030号公報
【特許文献8】特開2007-244205号公報
【特許文献9】国際公開第2005/118812号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pure Appl. Chem., 57, 741, 1985
【非特許文献2】Helv. Chim. Acta, 64, 2436, 1981
【非特許文献3】International Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49, 277-282
【非特許文献4】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004), 54, 1699-1702
【非特許文献5】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2003), 53, 231-238
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みなされたものであり、その目的はカロテノイド産生細菌の培養物から上清を除去し、カロテノイドを高収率で回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、培養物のpHを酸性側に調整したのちに、遠心分離、ろ過分離またはデカンテーションを行うことにより高収率でカロテノイドを分離できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する:
(1) カロテノイドを生産する細菌の培養物から、酸性条件下でカロテノイドおよび菌体を含有する濃縮物を沈殿させる工程を含む、カロテノイドの分離方法。
(2) カロテノイドを生産する細菌の培養物から、酸性条件下でカロテノイドおよび菌体を含有する濃縮物を沈殿させ、得られる沈殿物からカロテノイドを回収する工程を含む、カロテノイドの製造方法。
(3) 酸性条件がpH5.5以下の条件であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 酸性条件は、培養物に酸を加えて行われるものである、(1)又は(2)に記載の方法。
(5) 酸が、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、リン酸、リンゴ酸、酪酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、酒石酸、フタル酸、炭酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である(4)に記載の方法。
(6) カロテノイドが、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)に記載の方法。
(7) 細菌がParacoccus属に属する細菌である(1)又は(2)に記載の方法。
(8) 細菌の16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列と95%以上相同である(1)又は(2)に記載の方法。
(9) 細菌が、E−396株(FERM BP−4283)もしくはA−581−1株(FERM BP−4671)またはそれらの変異株である(1)又は(2)に記載の方法。
(10) 分離方法が、遠心分離、ろ過分離及びデカンテーションからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の方法。
(11) (1)〜(10)のいずれか1項に記載の方法で得られる、カロテノイド含有組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、培養物から上清を除去し、カロテノイドを高収率で回収することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】遠心分離によって分離された各pHにおけるカロテノイドの回収率を示す図である。
【図2】遠心分離によって分離され、その後加熱処理に供された各pHにおけるカロテノイドの回収率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に限定されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
【0015】
本発明は、カロテノイド産生細菌を培養し、その培養物からカロテノイドを製造する方法に関するものであり、本方法は、培養物から遠心分離、ろ過分離またはデカンテーションによりカロテノイドを含む濃縮物を沈殿させる工程を酸性条件下で行う工程を含む。本発明の方法により、カロテノイドを低コストで製造することが可能になる。
【0016】
本発明に用いる細菌としては、カロテノイドを産生する細菌であれば何ら限定されないが、好ましくはParacoccus属、Sphingomonas属、Brevundimonas属またはErythrobacter属に属する細菌が用いられ、中でもParacoccus属に属する細菌が好ましい。Paracoccus属に属する細菌の中では、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus marcusii、Paracoccus haeundaensisおよびParacoccus zeaxanthinifaciensが好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。Paracoccus属に属する細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E−396株(FERM BP−4283)およびParacoccus属細菌A−581−1株(FERM BP−4671)が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ましく用いられる。
【0017】
また、カロテノイド産生細菌として、好ましくは16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載されるE−396株の塩基配列と高い相同性を有する細菌が用いられる。ここで言う「高い相同性を有する」とは、配列番号1に記載される塩基配列と目的の細菌の対応する塩基配列とが、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上相同であること意味する。
【0018】
16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列とは、16SリボソームRNAの塩基配列中のU(ウラシル)をT(チミン)に置き換えた塩基配列を意味する。
この16SリボソームRNAの塩基配列の相同性に基づいた微生物の分類法は、近年主流になっている。従来の微生物の分類法は、従来の運動性、栄養要求性、糖の資化性など菌学的性質に基づいているため、自然突然変異による形質の変化等が生じた場合に、微生物を誤って分類する場合があった。これに対し、16SリボソームRNAの塩基配列は極めて遺伝的に安定であるので、その相同性に基づく分類法は従来の分類法に比べて分類の信頼度が格段に向上する。
【0019】
Paracoccus carotinifaciens E−396株の16SリボソームRNAの塩基配列と、他のカロテノイド産生細菌Paracoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Paracoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌 A-581-1株、Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株、およびParacoccus sp. PC-1株の16SリボソームRNAの塩基配列との相同性は、それぞれ99.7%、99.7%、99.6%、99.4%、95.7%、および95.4%であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる。よって、これらの菌株はカロテノイドを産生する細菌として一つのグループを形成しているといえる。このため、これらの菌株は本発明に好ましく用いられ、カロテノイドを効率的に産生することができる。
【0020】
本発明において、カロテノイドの生産性が改良された変異株も用いることができる。改良された変異株の例としては、アスタキサンチン生産能の高い菌株(特開2001-95500)、カンタキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2003-304875)、ゼアキサンチンとβ−クリプトキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2005-87097)、リコペンを選択的に産生する菌株(特開2005-87100)、沈降性が向上した菌株などを挙げることができる。
【0021】
カロテノイドの生産性が改良された変異株は、変異処理とスクリーニングにより取得することができる。変異処理する方法は変異を誘発するものであれば特に限定されない。例えば、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)およびエチルメタンスルホネート(EMS)などの変異剤による化学的方法、紫外線照射およびX線照射などの物理的方法、遺伝子組換えおよびトランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。変異処理される微生物は特に限定されないが、カロテノイド産生細菌であることが好ましい。また、変異株は、自然に起こる突然変異により生じたものでもよい。
【0022】
変異株のスクリーニング方法は特に限定されないが、例えば、寒天培地上のコロニーの色調で目的の変異株を選択する方法の他、試験管、フラスコ、発酵槽などで変異株を培養し、吸光度、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどを利用したカロテノイド色素分析により目的の変異株を選択する方法などが例示される。
変異およびスクリーニングの工程は1回でもよいし、また、例えば突然変異処理とスクリーニングにより変異株を得て、これをさらに変異処理とスクリーニングにより生産性の改良された変異株を取得するというように、変異およびスクリーニング工程を2回以上繰り返してもよい。
【0023】
本発明で生産されるカロテノイドは特に限定されないが、例えば、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノンまたは3−ヒドロキシエキネノンであり、好ましくは、キサントフィル(すなわち含酸素カロテノイド)であるアスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノンまたは3−ヒドロキシエキネノンである。より好ましくは、アスタキサンチン、カンタキサンチン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、ゼアキサンチンまたはβ−クリプトキサンチンであり、さらに好ましくは、アスタキサンチンである。本発明により製造されるカロテノイドは一種でもよいし、複数種が組み合わされていてもよい。また、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、フェニコキサンチン、アドニキサンチンなど、水酸基を有するカロテノイドにおいては、脂肪酸とのエステル体、または糖と結合したグルコシド体、化合物と結合していないフリー体などの存在形態がありうる。本発明の方法によって得られるカロテノイドは、いずれの存在形態でも良いがフリー体であることが特に好ましい。
【0024】
本発明において上記細菌を培養する方法を以下に説明する。
本発明の培養に用いるカロテノイド生産用培地は、カロテノイド産生細菌が生育し、カロテノイドを生産するものであるならば何れでもよいが、炭素源、窒素源、無機塩類および必要に応じてビタミン類などを含有する培地が好ましく用いられる。
【0025】
炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトールおよびマルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸およびピルビン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノールおよびグリセノール等のアルコール類、大豆油、ヌカ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ゴマ油およびアマニ油等の油脂類などが挙げられ、中でも好ましくはグルコースまたはシュークロースが用いられる。これらの炭素源の中、1種または2種以上を用いることができる。培養前の培地(始発培地)に添加する量は炭素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。また、炭素源は始発培地に添加するだけでなく、培養途中に逐次的または連続的に追加供給することも好ましく行われる。
【0026】
無機窒素源としては、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類、硝酸カリウムなどの硝酸塩類、アンモニアおよび尿素等の中、1種または2種以上が用いられる。添加量は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1g〜20g、好ましくは0.2〜10gである。
【0027】
有機窒素源としては、例えば、コーンスティープリカー(ろ過処理物を含む)、ファーマメディア、大豆粕、大豆粉、ピーナッツミール、ディスティラーズソルブル、乾燥酵母、グルタミン酸ソーダなどの中、1種または2種以上が用いられる。添加濃度は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、0〜80g/L、好ましくは0〜30g/Lである。
無機窒素源および有機窒素源は、通常始発培地に添加するが、逐次的または連続的に追加供給することも好ましく行われる。
【0028】
無機塩類としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのリン酸塩類、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩類、硫酸鉄、塩化鉄などの鉄塩類、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩類、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩類、硫酸マンガンなどのマンガン塩類、塩化コバルトなどのコバルト塩類、硫酸銅などの銅塩類、硫酸亜鉛などの亜鉛塩類、モリブデン酸ナトリウムなどのモリブデン塩類、硫酸ニッケルなどのニッケル塩類、セレン酸ナトリウムなどのセレン塩類、ホウ酸およびヨウ化カリウム等の中、1種または2種以上が用いられる。添加量は無機塩の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.0001〜15gである。無機塩類は通常始発培地に添加するが、逐次的または連続的に追加供給してもよい。
【0029】
ビタミン類としては、例えば、シアノコバラミン、リボフラビン、パントテン酸、ピリドキシン、チアミン、アスコルビン酸、葉酸、ナイアシン、p−アミノ安息香酸、ビオチン、イノシトール、コリンなどを用いることができる。添加割合はビタミン類の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.001〜1000mgであり、好ましくは0.01〜100mgである。ビタミン類は通常始発培地に添加するが、逐次的または連続的に追加供給してもよい。
【0030】
本発明において、培養物の発泡を抑えるために消泡剤が好ましく用いられる。消泡剤の種類は泡の発生を抑制しまたは発生した泡を消す作用があり、かつ生産菌に対する阻害作用の少ないものであれば何れでもよい。たとえば、アルコール系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、エステル系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコン系消泡剤、スルフォン酸系消泡剤などを例示することができる。添加量は消泡剤の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.01g〜10gである。
消泡剤は通常殺菌前の始発培地に添加する。さらに、培養途中に連続的または間欠的に追加添加してもよい。
【0031】
本発明において用いるカロテノイド生産用培地は殺菌処理した後、細菌の培養に用いられる。殺菌処理は、当業者であれば、適宜行うことができる。例えば、適切な容器中の培地をオートクレーブで加熱滅菌すればよい。あるいは、滅菌フィルターによりろ過滅菌すればよい。
【0032】
本発明において用いるカロテノイド生産用培地の初期pHは2〜12、好ましくは6〜9、より好ましくは6.5〜8.0に調整する。培養中も上記範囲のpHを維持することが好ましい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アンモニアガス、硫酸水溶液またはこれらの混合物が例示される。
【0033】
本発明において、カロテノイド生産細菌は、上記のように調製されたカロテノイド生産用培地に植菌され、所定の条件で培養される。植菌は、試験管、フラスコあるいは発酵槽などを用いたシード培養により菌株を適宜増やし、得られた培養物をカロテノイド生産用培地に加えることで行う。シード培養に用いる培地は、カロテノイド生産菌が良好に増殖する培地であれば特に限定されない。
【0034】
培養は、適切な培養容器において行われる。培養容器は培養容量により適宜選択することができ、例えば、試験管、フラスコ、発酵槽などをあげることができる。
培養温度は15〜80℃、好ましくは20〜35℃、より好ましくは25℃〜32℃であり、通常1日〜20日間、好ましくは2〜12日間、より好ましくは3〜9日間、好気条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振とう培養または通気撹拌培養等が挙げられ、溶存酸素濃度を一定の範囲に制御するのが好ましい。溶存酸素濃度の制御は、例えば、攪拌回転数、通気量、内圧などを変化させることにより行うことができる。溶存酸素濃度は好ましくは0.3〜10ppm、より好ましくは0.5〜7ppm、さらに好ましくは1〜5ppmに制御する。
【0035】
本発明では、上記のようにカロテノイド産生細菌を培養して得られる培養物から遠心分離、ろ過分離またはデカンテーションによりカロテノイドおよび菌体を含む濃縮物を分離する工程を酸性条件下で行うことを特徴とする。酸性条件にすることにより培養上清中に分散しているカロテノイドが凝集し、カロテノイドの粒子径が大きくなるとともに沈降性が向上するので、分離工程において培養物を上清とカロテノイドを含む菌体とに分離することが非常に容易になる。ここで、本明細書において、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
【0036】
培養物を酸性条件にする方法は、通常、培養物に酸を加えることにより行う。また、別の方法としては、本発明の培養においては炭素源を消費しながらpHは低下していくので、培養後期にアルカリによるpH制御を停止し、分離に適する酸性pHに達したところで培養を終了する方法もある。
【0037】
培養物を酸性条件にする場合に用いる酸は、酸であれば何でもよいが、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、リン酸、リンゴ酸、酪酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、酒石酸、フタル酸、炭酸、アスコルビン酸などを例示できる。これらの酸は最大濃厚液でもよいが、水などで希釈された酸を用いてもよい。
酸性条件は酸性域であればいずれのpHでもよいが、上限は、好ましくはpH5.5以下、より好ましくはpH5.2以下、さらに好ましくはpH4.9以下である。下限に制限はないが、好ましくはpH0.5以上、より好ましくはpH1.5以上である。pH調整は、通常、pH電極で培養物のpHをモニターしながら酸を加えることにより行う。
【0038】
培養物は、酸性域にpH調整したのちそのまま分離操作を施すこともできるが、不要な成分の除去効果を高めるために水で培養物を希釈してから分離することも好ましく行われる。その際の培養物のpH調整は水を加える前でもよいし、水を加えた後でもよい。また、遠心分離、ろ過分離、デカンテーションなどの操作の最中に水を加えることも可能である。希釈のために加える水の量に制限はないが、好ましくは培養物容積の0〜10倍、より好ましくは0.5〜3.0倍である。また、培養終了後、分離するまでの間に培養微生物を死滅させるために加熱殺菌を行うことも可能である。この場合のpH調整は、加熱殺菌の前でも後でもよい。
【0039】
本発明におけるカロテノイドの分離の方法は、沈降性に基づいて分離する方法あるいは粒子の大きさに基づいて分離する方法ならば何でもよいが、好ましくは遠心分離、ろ過分離またはデカンテーションが用いられる。これらは単独でもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。また、1回遠心分離を行い、上澄み液に残ったカロテノイドをさらに回収するためにもう一度上澄み液だけを遠心分離に供するというように同種の分離を2回以上繰り返してもよい。
【0040】
遠心分離に用いる遠心分離機は連続式でもバッチ式でもよいが、好ましくは連続式が用いられる。タイプは何でもよいが、たとえば、かご型、多室型、デカンター型、ディスク型(ノズル型、ディスラッジ型)、チューブラー型、ローター型の遠心分離機が挙げられる。遠心加速度は一般的な細菌の菌体分離に用いられるレベルならばいずれでもよいが、好ましくは500〜100,000×g、より好ましくは1,000〜50,000×gである。
【0041】
ろ過分離に用いる膜ろ過装置は、スタティック型でも、クロスフロー型でも良いが、目詰まりを防止しやすいクロスフロー型が好ましい。使用される膜の材質は、たとえば、ろ紙、ろ布、化学繊維、セラミックなどを例示することができる。また、珪藻土などをろ過助剤として用いてもよい。ろ過を促進する力の方式としては加圧型、減圧型、遠心ろ過型、フィルタープレス型など、膜の形状としては、平膜、中空糸膜、筒型膜などが例示される。膜の孔径は、通常細菌を分離するのに適するものならばいずれでも良いが、好ましくは、0.001μm〜100μm、より好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.1〜1μmである。精密ろ過膜、限外ろ過膜が好ましく、精密ろ過膜が特に好ましく用いられる。
【0042】
デカンテーションに用いる容器は何でもよいが、たとえば、通常の円筒形タンクが用いられる。デカンテーションで培養物を静置する時間に、特に制限はないが、好ましくは、0.5h〜48h、より好ましくは1h〜24hである。
【0043】
分離に供する培養物の温度は、通常行われる温度であれば特に制限はないが、好ましくは0℃〜90℃、より好ましくは2℃〜75℃、さらに好ましくは4℃〜60℃である。
【0044】
上記分離工程、すなわち遠心分離、ろ過分離またはデカンテーション、またはこれらの組み合わせによって培養物から得られた沈殿濃縮物には、カロテノイドと菌体が濃縮される。沈殿濃縮物が次の工程に適した粘度、水分含量になるように、分離速度、分離強度などを適宜調整することも好ましく行うことができる。分離工程におけるカロテノイドの濃縮物中への回収率は、カロテノイドの分解・劣化、装置内面などへの付着、上澄み液への漏洩などの影響により変化しうるが、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、さらに好ましくは90〜100%である。
【0045】
得られた沈殿濃縮物を乾燥することにより、カロテノイドを含む乾燥菌体を得ることができる。このようにして得られた乾燥菌体はそのまま飼料添加物として用いることができる。また、乾燥菌体からカロテノイドを抽出して、必要に応じて精製し、食品用、化粧品用、飼料用として使用することが可能である。沈殿濃縮物を乾燥せずにカロテノイドを抽出回収することにより、カロテノイドを製造することができる。乾燥の方法は特に限定されないが、たとえば、噴霧乾燥、流動乾燥、噴霧造粒乾燥、噴霧造粒流動乾燥、回転式ドラム乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。また、培養物、沈殿濃縮物、もしくは乾燥菌体の段階において、アルカリ試薬や界面活性剤などを用いた化学的処理、溶菌酵素や脂質分解酵素、タンパク質分解酵素などを用いた生化学的処理、もしくは超音波、粉砕、加熱などの物理的処理のうち一つもしくは二つ以上の処理を行ってもよい。
【0046】
カロテノイドを培養物から抽出する場合、抽出および洗浄に用いる溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロフォルム、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサンなどが挙げられる。
【0047】
このように得られた抽出物をカロテノイドとしてそのまま用いることが可能であり、さらに精製して使用することもできる。抽出操作後の抽出物から菌体等を分離する方法は特に限定されないが、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどが用いられる。抽出液からカロテノイド沈殿物を得る方法としては、たとえば、冷却、加熱、減圧濃縮、貧溶媒添加、酸・アルカリ薬剤など各種塩類の添加およびこれらの組み合わせにより沈殿させる方法が挙げられる。得られたカロテノイド沈殿物は、洗浄のため必要に応じて少量の低級アルコール類などの溶媒を用いて懸濁攪拌させてもよい。洗浄の手法は特に限定されないが、例えば、懸濁攪拌後に濾取する方法または沈殿物の上から通液する方法等が実用的に好ましい方法として挙げられる。
【0048】
培養物、沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出液、精製物および各工程操作におけるカロテノイドの酸化分解を極力防止したい場合には、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で行うことができる。また、医薬品や食品で用いられている酸化防止剤を選択して加えてもよい。あるいは、これらの処理を組み合わせてもよい。また、光によるカロテノイドの分解を極力防止するために、光を当てない条件下で行ってもよい。
【0049】
上記のように得られる沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出物または精製物は、カロテノイドとしてそれぞれ単独で用いることもできるし、これらを任意の割合で混合して用いることもできる。
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるカロテノイド類の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下のように行った。
カラムはWakosil−II 5 SIL−100(φ4.6×250mm)(和光純
薬製)を2本連結して使用した。溶出は、移動相であるn−ヘキサン−テトラヒドロフラン−メタノール混合液(40:20:1)を室温付近一定の温度にて毎分1.0mL流すことで行った。測定においては、サンプルをテトラヒドロフランで溶解したものを移動相にて100倍希釈した液20μLを注入量とし、カラム溶離液の検出は波長470nmで行った。また、定量のための標準品としては、シグマ社製アスタキサンチン(Cat.No.A9335)を用いた。標準液のアスタキサンチン濃度の設定は、標準液の477nmの吸光度(A)及び上記条件でHPLC分析を行ったときのアスタキサンチンピークの面積百分率%(B)を測定した後に、以下の式を用いて行った。
アスタキサンチンの濃度(mg/L)=A÷2150×B×100
【実施例1】
【0051】
以下の組成の培地(シュークロース30g/L,コーンスティープリカー30g/L、リン酸二水素カリウム0.54g/L,リン酸水素二カリウム2.78g/L,塩化カルシウム2水和物0.1g/L、硫酸マグネシウム7水和物12g/L、硫酸鉄7水和物0.3g/L、pH7.2)100mlを500ml容量の三角フラスコに入れ121℃で15分間オートクレーブ殺菌し、シード用フラスコ培地を調製した。
【0052】
次に以下の組成の培地(シュークロース20g/L,コーンスティープリカー30g/L,リン酸二水素カリウム1.5g/L,リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L,塩化カルシウム2水和物0.2g/L,硫酸マグネシウム7水和物3.0g/L,硫酸鉄7水和物1.0g/L、アルコール系消泡剤0.5g/L)2.0Lを5L容量の発酵槽に入れ、121℃で30分間オートクレーブ殺菌した。
【0053】
Paracoccus carotinifaciens E−396株(FERM BP−4283)をシード用フラスコ培地に一白金耳植菌し、28℃で2日間、150rpmで回転振とう培養を行った。次に、その培養物80mLを発酵槽に植菌し、28℃、通気量1vvmの好気培養を100時間行った。培養中のpHが7.2を維持するように20%NaOHで連続的に制御した。炭素源が枯渇しないように培養1日目および2日目にそれぞれ30gずつグルコースを添加した。また、最低攪拌回転数を200rpmとして培養物中の溶存酸素濃度が2〜4ppmを維持するように攪拌回転数を変化させた。気泡センサーで発泡を感知することによりアルコール系消泡剤を自動添加して発泡を抑えた。培養終了時の培養物中のカロテノイド濃度を測定したところ、結果は表1に示すとおりであった。また培養物のpHを測定したところpH6.7であった。
【0054】
【表1】

【0055】
得られた培養物を混合しながら30mlずつ8個のビーカーに採取し、一つはpH6.7のままとし、残りの7本は、25%硫酸水溶液でそれぞれpH5.5,pH5.2,pH4.9,pH4.1,pH3.0,pH1.5およびpH0.5に調整した。これを50ml容量の遠沈管に移し、遠心加速度3,000×g、50℃、10分間のアングルローターによる遠心分離を行った。遠心分離後、速やかに遠沈管を別な容器の上で傾け逆さにすることにより上澄み液を移し、遠沈管の底にペレットとして付着した沈殿濃縮物と分離した。沈殿濃縮物中のカロテノイドを分析し、分離回収率を算出した。培養物各pHにおけるカロテノイドの分離回収率を表2および図1に示した。アスタキサンチンおよび総カロテノイドの回収率はpH6.7では50%以下であったが、pH5.5以下では90%以上を示した。
【0056】
【表2】

【0057】
次に、分離工程後の加熱殺菌工程、乾燥工程あるいは保存工程などにおける沈殿濃縮物中のカロテノイドの安定性を検討するために、得られた沈殿濃縮物について121℃、1時間のオートクレーブ加熱処理を行った。加熱処理後の沈殿濃縮物のカロテノイド濃度を分析し、遠心分離前の培養物からの回収率を求め、表3および図2に示した。分離・加熱における総カロテノイドの回収率はpH0.5〜5.5において80%以上を示した。
【0058】
【表3】

【実施例2】
【0059】
Paracoccus carotinifaciens E−396株をN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンで変異処理し、赤色の色調が濃いコロニーを選択した。選択された株の培養物中のカロテノイドを分析し、アスタキサンチン生産性の向上した変異株Y−1071株を選択した。
【0060】
以下の組成の培地(シュークロース30g/L,コーンスティープリカー30g/L、リン酸二水素カリウム0.54g/L,リン酸水素二カリウム2.78g/L,塩化カルシウム2水和物0.1g/L、硫酸マグネシウム7水和物12g/L、硫酸鉄7水和物0.3g/L、pH7.2)6mlを直径18mmの試験管に入れ121℃で15分間オートクレーブ殺菌し、シード用試験管培地を調製した。
【0061】
次に以下の組成の培地(グルコース40g/L,コーンスティープリカー30g/L,リン酸二水素カリウム1.5g/L,リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L,塩化カルシウム2水和物0.2g/L,硫酸マグネシウム7水和物3.0g/L,硫酸鉄7水和物1.0g/L,pH7.2)100mLを500mL容量の坂口フラスコに入れ、121℃で15分間オートクレーブ殺菌した。
【0062】
Paracoccus属細菌Y−1071株をシード用試験管培地に一白金耳植菌し、28℃で2日間、300spmで往復振とう培養を行った。次に、その培養物2mLをフラスコ培地に植菌し、28℃、3日間、120spmの往復振とう培養を行った。培養終了後の培養物中のカロテノイド濃度を測定したところ、結果は表4に示すとおりであった。また培養物のpHを測定したところpH6.7であった。
【0063】
【表4】

【0064】
得られた培養物を混合しながら30mlずつ2個のビーカーに採取し、一つはpH6.7のままとし、残りの1本は、25%硫酸水溶液でpH5.2に調整した。これを50ml容量の遠沈管に移し、遠心加速度3,000×g、50℃、10分間のアングルローターによる遠心分離を行った。遠心分離後、速やかに遠沈管を別な容器の上で傾け逆さにすることにより上澄み液を移し、遠沈管の底にペレットとして付着した沈殿濃縮物と分離した。沈殿濃縮物中のカロテノイドを分析し、分離回収率を算出した。培養物各pHにおけるカロテノイドの分離回収率を表5に示した。pH5.2におけるアスタキサンチンおよび総カロテノイドの回収率は100%を示し、変異株Y−1071においてもpHを低くすることにより分離性が顕著に向上することが分かった。
【0065】
【表5】

【0066】
得られた培養物30mlを20%酢酸水溶液でpH4.8に合わせた。直径60mmのNo.5Cろ紙を用いて桐山ロートで10分間吸引ろ過し、沈殿濃縮物とろ液とに分離した。得られた濃縮沈殿物についてカロテノイドを測定し、ろ過回収率を求めた。pH6.7の培養物30mlについても同様にろ過分離を行い、両結果を表6に示した。ろ過分離においてもpHを低くすることにより収率が向上することが分かった。
【0067】
【表6】

【実施例3】
【0068】
以下の組成の培地(シュークロース30g/L,コーンスティープリカー30g/L、リン酸二水素カリウム0.54g/L,リン酸水素二カリウム2.78g/L,塩化カルシウム2水和物0.1g/L、硫酸マグネシウム7水和物12g/L、硫酸鉄7水和物0.3g/L、pH7.2)6mlを直径18mmの試験管に入れ121℃で15分間オートクレーブ殺菌し、シード用試験管培地を調製した。
【0069】
次に以下の組成の培地(グルコース40g/L,コーンスティープリカー30g/L,リン酸二水素カリウム1.5g/L,リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L,塩化カルシウム2水和物0.2g/L,硫酸マグネシウム7水和物3.0g/L,硫酸鉄7水和物1.0g/L,pH7.2)100mLを500mL容量の坂口フラスコに入れ、121℃で15分間オートクレーブ殺菌した。
【0070】
Paracoccus属細菌A−581−1株(FERM BP−4671)をシード用試験管培地に一白金耳植菌し、28℃で2日間、300spmで往復振とう培養を行った。次に、その培養物2mLをフラスコ培地に植菌し、28℃、3日間、120spmの往復振とう培養を行った。培養終了後の培養物中のカロテノイド濃度を測定したところ表7に示すとおりであった。また培養物のpHは6.6であった。
【0071】
【表7】

【0072】
得られた培養物30mlを20%塩酸水溶液でpH4.9に調整した。これと元のpH6.6の培養物30mlをそれぞれ50ml容量の遠沈管に移し、遠心加速度2,000×g、10分間のスイングローターによる遠心分離を行った。遠心分離後、速やかに遠沈管を別な容器の上に傾け逆さにすることにより上澄み液を移し、遠沈管の底にペレットとして付着した沈殿濃縮物と分離した。沈殿濃縮物中のカロテノイドを分析し、分離回収率を算出した。カロテノイドの分離回収率を表8に示した。pH4.9では回収率100%であった。
【0073】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0074】
以上述べたように、本発明により、カロテノイドの微生物学的な製造方法において、カロテノイドを高収率で回収することが可能になった。
【受託番号】
【0075】
本発明に使用するカロテノイド産生細菌の例として挙げられるE−396株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに以下のとおり国際寄託されている。
国際寄託当局:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
〒305-8566
茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6
識別のための表示:E−396
受託番号:FERM BP−4283
原寄託日:平成5年(1993年)4月27日
【0076】
また、本発明に使用するカロテノイド産生細菌の他の例として挙げられるA−581−1株は、上記機関に以下のとおり国際寄託されている。
識別のための表示:A−581−1
受託番号:FERM BP−4671
原寄託日:平成6年(1994年)5月20日

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カロテノイドを生産する細菌の培養物から、酸性条件下でカロテノイドおよび菌体を含有する濃縮物を沈殿させる工程を含む、カロテノイドの分離方法。
【請求項2】
カロテノイドを生産する細菌の培養物から、酸性条件下でカロテノイドおよび菌体を含有する濃縮物を沈殿させ、得られる沈殿物からカロテノイドを回収する工程を含む、カロテノイドの製造方法。
【請求項3】
酸性条件がpH5.5以下の条件であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸性条件は、培養物に酸を加えて行われるものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
酸が、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、リン酸、リンゴ酸、酪酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、酒石酸、フタル酸、炭酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
カロテノイドが、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
細菌がParacoccus属に属する細菌である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
細菌の16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列と95%以上相同である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
細菌が、E−396株(FERM BP−4283)もしくはA−581−1株(FERM BP−4671)またはそれらの変異株である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
分離方法が、遠心分離、ろ過分離及びデカンテーションからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法で得られる、カロテノイド含有組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−172293(P2010−172293A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19935(P2009−19935)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】