説明

カロテノイド色素の製造方法

【課題】安価及び容易に入手可能な原料を用いて、簡単でありながら効率よく且つ低コストで、高品質の植物性カロテノイド色素並びに高純度且つ高濃度のβ-クリプトキサンチ
ンの安全性の高い製造技術を提供する。
【解決手段】植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せし
めて、カロテノイド色素を抽出するステップを含有している方法であって、該超臨界または亜臨界状態のCO2系内の有機溶媒の濃度を制御及び/又は抽出処理時間を制御して、特定のカロテノイド色素を選択的に濃縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物組織よりカロテノイド類(carotenoids)あるいはカロテノイド色素(carotenoid pigments)を抽出製造する方法に関する。また、本発明は、高品質β-クリプトキ
サンチン(beta-cryptoxanthine)を含めた、水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を
含む)の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性カロテノイド類(植物性カロテノイド色素)は、一般的に、類似の性質及び化学構造を有する物質の混合物として得られており、その利用の上からは個々の成分に分離精製することが求められているが、それは容易ではない。これは、超臨界流体を使用した手法を使用したとしても、解決されているとは言いがたい。
β-クリプトキサンチンは橙色の色素で、温州みかんなどの柑橘類、赤ピーマン、パパ
イヤ、柿、ビワなどなどに多く含まれるカロテノイドの一種であり、α-カロテン、β-カロテン、リコペン、ゼアキサンチン、ルテインとともにヒト血液中に存在し重要な役割を果たしているといわれている。最近の精力的な研究の結果、プロビタミンAの特性を備え
ているだけでなく、β-クリプトキサンチンの新しい様々な機能性が明らかとなってきて
おり、例えば、活性酸素消去作用、発ガン抑制作用、糖尿病予防効果、耐糖能異常の改善効果、リウマチ予防効果、骨粗鬆症予防作用、神経細胞活性化作用、非常に強いメラニン産生抑制作用などの生理活性作用が報告されてきている。かくして、美白効果、発がん抑制に関与する遺伝子に作用することから、特に大腸がん、皮膚がんなどの予防に効果が期待され、さらには、活性酸素の除去に優れた効果があることから、生活習慣病の予防・改善にも効果が期待されている。したがって、非常に安全性の高い食品素材として高品質(例えば、高純度且つ高濃度)のβ-クリプトキサンチンを低コストで提供することが求め
られている。
柑橘類には、α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、リコピンなどが豊富に含まれ
ており、少量しか含まれていないβ-クリプトキサンチンを高純度に含む製品を工業的な
規模で安価且つ簡単な操作で製造するのは容易ではない。
柿皮からβ-クリプトキサンチンをエタノール抽出により得る方法(特許文献1及び2
特開2004−329058、特開2004−331528))があるが、これらの方法では柿皮中の他のカロテノイド(β-カロテン; beta-carotene、リコペン; lycopene)も同時に抽出してしまい、β-クリプトキサンチンを高純度で抽出分離することはできない。
【0003】
物質は、一般に固体、液体、気体のいずれかの状態にあるが、温度と圧力を上げていき、ある時点(臨界点)を越えると、液体のように物質を容易に溶解し、気体のように大きな拡散速度を示すといった、液体と気体の両方の性質をもつ状態になる。そしてその状態にある物質を超臨界流体と呼び、その状態(圧力、温度が臨界点を越えた状態)を超臨界といっている。つまり、超臨界流体とは、臨界温度(Tc)および臨界圧力(Pc)を超えた非凝縮性高密度流体である。二酸化炭素(CO2)やアルコール、水などを超臨界流体にすること
で、それぞれの特性を活かし、食品・エネルギー・環境・医療など幅広い分野でそれを活用することが試みられている。CO2の臨界温度は31℃と低く(CO2の臨界点: Tc=約31.0℃(
約304.12度K)、Pc=約7.374MPa)、低温のまま、非常に高い分子活性を持ち、植物などの細胞壁をやぶり、細胞内の有効成分のみを取り出すことを可能にする一方で、CO2は通常で
は不活性な物質なため、成分抽出後は、完全に分離し、再利用でき、熱水のように熱に弱い有効成分にダメージを与えることもなく、エタノールなどの溶媒のように溶媒が抽出物に混入してしまうということも避けることができる。超臨界状態の流体を用いる抽出方法は、有機溶媒を用いる従来の抽出法に比べ、低温で行えるとか、抽出流体の温度又は圧力をわずかに変えることによって抽出成分分離を達成できるとかといった多くの利点を有し
ているため、熱に対して不安定な天然物の抽出、濃縮、精製、脱臭などに広く利用されている。
超臨界CO2法でカロテノイド色素から夾雑物を除去することは知られている(特許文献
3)が、カロテノイド色素は、超臨界CO2流体に対する溶解度が低いため、その抽出効率
を高める工夫が必要であったり、多量の超臨界CO2流体が必要で製造設備に費用がかかる
ことになったり、抽出操作に長時間を要することとなり、効率が悪い。したがって、カロテノイドの抽出率は依然として低いものであり、カロテノイドの高選択的な抽出は達成できていない。また、特定のカロテノイド色素を他のカロテノイド色素より選択的に分離取得する技術も知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−329058
【特許文献2】特開2004−331528
【特許文献3】特許第3,469,696号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物から一般的に混合物として得られている植物性カロテノイド色素をその個々の成分ごとに、高品質(高純度且つ高濃度)なものとしてそれぞれ分離精製することは、それぞれが有している特異的な且つ特徴的な機能を利用するためにも必要不可欠である。また、安価に且つ簡単な手法でそれを達成することも強く求められている。特に、近年、様々な生理活性作用が報告されているβ-クリプトキサンチンについては、非常に安全性の高い
食品素材としてその利用を図る観点から、高純度且つ高濃度のものを低コストで提供することが求められている。
そして、超臨界CO2法で植物原料あるいは植物性抽出物から高い抽出率で、特定の植物
性カロテノイド色素、例えば、β-クリプトキサンチンを取得する技術の開発も希求され
ている。
本発明は、安価及び容易に入手可能な原料を用いて、簡単でありながら効率よく且つ低コストで、高品質の植物性カロテノイド色素を製造する技術を開発すること並びに高純度且つ高濃度のβ-クリプトキサンチン、さらには水酸基を有するカロテノイド色素(誘導
体を含む)の安全性の高い製造技術を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、柿、特には干し柿などの製造工程で大量に廃棄物として生ずる柿の皮などに大量の有用カロテノイド(carotenoids)が含有されていることから、この有効利用を
図るべく鋭意研究を進めた結果、特に有用性の高いβ-クリプトキサンチンやその他の水
酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を超臨界CO2抽出法で、エタノールなどの有機溶媒の共存量を制御したり、抽出時間をコントロールすることで、特定のカロテノイド色素成分、すなわち水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を特異的に優れ
た選択率で抽出できることを見出し、これを利用すれば選択的に高純度のカロテノイド色素を得ることができることを見出すことに成功した。かくして本発明は植物よりのカロテノイド類あるいはカロテノイド色素の効率的且つ選択的な製造方法で、特には有用性の高い高品質β-クリプトキサンチンなどの水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)の工業的な製造技術である。
【0007】
本発明は、以下の態様を提供している。
〔1〕植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめて、
水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を選択的に濃縮することを特徴とする
カロテノイド色素の製造方法。
〔2〕前記超臨界または亜臨界状態のCO2系内の有機溶媒の濃度を制御(有機溶媒非存在
下を包含する)及び/又は抽出処理時間を制御して、水酸基を有するカロテノイド色素(
誘導体を含む)を選択的に濃縮することを特徴とする上記〔1〕に記載のカロテノイド色
素の製造方法。
〔3〕前記植物性カロテノイド色素含有物を加水分解した後、前記超臨界または亜臨界状態のCO2に接触せしめることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のカロテノイド色
素の製造方法。
〔4〕前記水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を、β-カロテン及びリコペンに対して濃縮することを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔5〕前記水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)が、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、アスタキサンチン及びそれらの誘導体からなる群から選択されたすくなくとも一つであることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔6〕前記超臨界または亜臨界状態のCO2は、前記有機溶媒を5〜15mol%の濃度で含有することを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔7〕前記植物性カロテノイド色素含有物が、乾燥させた植物組織を有機溶媒により抽出処理して得られたもの、あるいは乾燥させた植物組織を有機溶媒により抽出後該抽出物を加水分解処理して得られたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔8〕前記植物組織が柿皮であることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔9〕植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめてカ
ロテノイド色素を抽出するステップを、(A)(1)有機溶媒の非存在下、(2)15mol%以下の濃
度の有機溶媒の存在下、及び、(3)15mol%を超える濃度の有機溶媒の存在下からなる群か
ら選択された条件下に行って得られた抽出物を取得した後、(B)前記(A)ステップとは異なる条件で、且つ、(1)有機溶媒の非存在下、(2)15mol%以下の濃度の有機溶媒の存在下、及び、(3)15mol%を超える濃度の有機溶媒の存在下からなる群から選択された条件下に行っ
て抽出物を取得することを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔10〕植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめてカ
ロテノイド色素を抽出するステップを、(A)0〜120分間行って得られた抽出物を取得した後、(B)120分間を越える時間行って抽出物を取得することを特徴とする上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔11〕植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめてカ
ロテノイド色素を抽出するステップを経て取得された抽出物を、再度、超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめてカロテノイド色素を抽出するステップに付して、特定のカロ
テノイド色素を濃縮することを特徴とする上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔12〕超臨界CO2抽出法を行った後、エタノール抽出法を行うことを特徴とする上記〔1
〕〜〔11〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔13〕超臨界CO2抽出法でβ-カロテン及びリコペンを除去した後、エタノール等の有機溶媒で抽出することにより、高純度のβ-クリプトキサンチンを得ることを特徴とする上記
〔1〕〜〔12〕のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
〔14〕植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめてβ-クリプトキサンチンを濃縮することを特徴とするβ-クリプトキサンチンの製造方法。
〔15〕植物組織よりβ-クリプトキサンチンを製造する方法であって、超臨界または亜臨
界状態のCO2を接触せしめる処理及び有機溶媒抽出処理を含む処理を加えて、β-クリプトキサンチンを濃縮することを特徴とするβ-クリプトキサンチンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、超臨界CO2法により、エタノールなどの有機溶媒を使用しない場合を含め
て、超臨界CO2系内に共存する有機溶媒の濃度を選択したり、抽出処理時間を選択するこ
とにより、β-クリプトキサンチン、βカロテン及びリコペンのそれぞれの抽出選択率を
制御できるので、これを利用して高純度のβ-クリプトキサンチンなどを含めた、水酸基
を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を効率的な手法で且つ低コストで簡単な操作
で得ることができる。本発明技術で高品質のβ-クリプトキサンチンなどのカロテノイド
類の製品を大量に製造できる。特には、高純度のβ-クリプトキサンチンやその他の水酸
基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を高濃度に含有する食品素材の製造技術を
与える。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の技術に従い処理することができるカロテノイド類を含有する植物組織あるいは植物性カロテノイド色素には特に制限はないが、本発明は、殊に、β-クリプトキサンチ
ンを豊富に含有している植物性カロテノイド色素画分(植物由来抽出物)に対し有利に適用することができる。具体的には、例えば、柿皮などの色素類に対して特に効果的に適用することができる。
一般に柑橘類の果皮、果肉には、約30種類以上のカロチノイドが含まれている(日食工誌、18, 468, 1971)。植物性カロテノイド色素源としては、このような柑橘類のなかでも温州ミカンを好適に使用することができる。温州ミカンは、その果皮、果肉、更に全果(果皮+果肉)も使用することができるが、好適には、果汁ジュース製造工程で大量に得られる搾汁残渣は廃棄物であるので、それを有効利用する上で好適な原料となる。該原料は、好適には、粉砕処理、脱水または乾燥した粉末(凍結乾燥処理を含む)としてそれを用いることもできる。温州ミカン果汁ジュース搾汁残渣からは、それを有機溶媒で抽出することにより、β-クリプトキサンチンに富んだカロテノイド含有抽出物を得ることができ
る。該抽出工程においては、適宜、必要に応じて、食品加工用酵素で処理した後に抽出処理してもよい。該有機溶媒抽出は、それ自体既知の抽出方法に従って実施することができる。例えば、特開昭62-190090号公報、特開平10-123046号公報、特開2000-136181などを
参照することができる。
【0010】
さらに、好適な植物性カロテノイド色素源としては、柿の果実、好ましくは果皮が挙げられ、それからはβ-クリプトキサンチン含有抽出物を好適に製造できる。柿は国内で豊
富に生産され、干し柿生産時に廃棄物として大量に生ずる柿の果皮にβ-クリプトキサン
チンが多量に含まれることから原料として有用である。柿にはβ-クリプトキサンチンと
同様、水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)も含まれている。本発明で、カ
ロテノイド含有抽出物を製造する原料として使用する柿の種類には特に制限は無く、甘柿、渋柿のいずれをも使用することができる。原料として使用する甘柿品種としては、例えば、富有、次郎、甘百日、御所、花御所、晩御所、天神御所、藤原御所、徳田御所、三ヶ谷御所、禅寺丸、藤八、水島、正月等が挙げられる。また、渋柿品種としては、例えば、横野、平核無、富士、西条、堂上蜂屋、会津身不知、衣紋、祇園坊、四ツ溝、大四ツ溝、愛宕、葉隠、川端、田倉、作州身不知等が挙げられる。柿の果実中には、例えば富有では、果皮に約8.36mg/100gのβ-クリプトキサンチンが含有され、果肉には約0.97mg/100gが
含有される。したがって、本発明によりβ-クリプトキサンチン含有抽出物を製造する原
料としては、柿の果皮を使用することが好ましいが、果肉を原料とすることもできる。柿の果皮からは、それを有機溶媒で抽出することにより、β-クリプトキサンチンに富んだ
カロテノイド含有抽出物、さらには水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む) 含有抽出物を得ることができる。該有機溶媒抽出は、それ自体既知の抽出方法に従って実施することができる。例えば、特開2004-331528 (P2004-331528A)、特開2004-329058 (P2004-329058A)などを参照することができる。抽出有機溶媒としては、炭素数3以下のアルコ
ール、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等あるいはそれらの混合物を好適に使用することができる。特には、エタノールを好適に使用して、抽出物を得ることができる。系内には水が存在していてよい。水酸基を有するカロテノイド色素としては、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチンを挙げることができる。これらの水酸基を有するカロテノイド色素は、植物組織に含まれる場合には、水酸基が高級脂肪酸等によりエステル化された誘導体として存在している。
【0011】
超臨界状態にあるCO2(以下、超臨界CO2と略称する)又はその近傍の状態にあるCO2
よる抽出は、超臨界CO2を用いるそれ自体既知の抽出方法に従って実施することができる
。「超臨界CO2」とは、CO2の臨界点、すなわち臨界温度Tc=約31.0℃(約304.12度K)、臨界圧力Pc=約7.374MPa以上の領域を意味しており、該臨界点付近は亜臨界領域(又は亜臨界
状態)である。超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめて抽出処理する場合の条件と
しては、一般には、100℃以下の温度及び100MPaの気圧以下、好ましくは30〜80℃の範囲
内、特に50〜80℃の範囲内の温度、例えば、55〜70℃の範囲及び7〜50MPaの範囲内の圧力の条件下、好ましくは20〜40MPaの範囲内の圧力、特に25〜35MPaの範囲内の圧力の条件下のCO2を用いて抽出操作を行うのが好適である。本発明に従う超臨界CO2による抽出は、エントレーナーとして、水、炭素数3以下のアルコール、例えば、エタノール、メタノール
、プロパノール、イソプロパノール等あるいはそれらの混合物を併用することができる。特には、エタノールを使用し、その濃度を選択することも好ましい。本発明の超臨界CO2
抽出処理は、繰り返し行うことができるし、一旦、下記するような抽出槽から取得した処理済みの生成物やトラップ抽出物を、再度、抽出槽に仕込んで本発明の超臨界CO2抽出処
理を施して、特定のカロテノイド成分の濃度や純度をより一層高めることができる。特には、β-クリプトキサンチンや、その他の水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含
む)の純度や濃度を高めることができる。
【0012】
本発明者等は、植物性カロテノイド色素の超臨界CO2抽出を解析した結果、エタノール
などの有機溶媒を使用しない場合を含めて、超臨界CO2系内に共存せしめる有機溶媒の濃
度を適宜選択することにより、特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチ
ンなどの水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)や、β-カロテン及びリコペンの抽出選択率を制御できること、並びに、抽出処理時間を適宜選択することにより、特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチンなどの水酸基を有するカロテノイ
ド色素(誘導体を含む)や、βカロテン及びリコペンのそれぞれの抽出選択率を制御でき
ることを見出しているので、超臨界CO2系内に共存せしめる有機溶媒の濃度を、例えば、0〜約50.0mol%の範囲で、適宜、濃度選択することにより、各成分の抽出選択率を制御できる。
具体的な態様では、エタノールなどの有機溶媒を使用しないで超臨界CO2抽出を行って
、一旦、トラップ抽出物を採取した後、超臨界CO2系内共存有機溶媒濃度を約5.0〜約15.0mol%の範囲で、適宜、上昇せしめて抽出処理を行い、必要に応じて、トラップ抽出物を採取した後、超臨界CO2系内共存有機溶媒濃度をさらに約15.0 mol%を超えるところまで高めてから、超臨界CO2抽出処理を行うことができる。
別の態様では、エタノールなどの有機溶媒0mol%の濃度下で植物性カロテノイド色素抽
出物に超臨界CO2抽出処理を加え、次に、一旦、トラップ抽出物を取り出した後、超臨界CO2系内共存有機溶媒(例えば、エタノールなど)濃度を約10.0mol%に上昇せしめた後、続
けて超臨界CO2抽出処理を加え、必要に応じて、トラップ抽出物を取り出した後、超臨界CO2系内共存有機溶媒(例えば、エタノールなど)濃度を約20.0mol%に上昇せしめた後に、続けて超臨界CO2抽出処理を加えるなどが挙げられる。あるいは、植物性カロテノイド色
素抽出物を約10.0mol%の濃度の有機溶媒(例えば、エタノールなど)の共存下超臨界CO2
抽出処理を加え、次に、一旦、トラップ抽出物を取り出した後、超臨界CO2系内共存有機
溶媒(例えば、エタノールなど)濃度を約20.0mol%に上昇せしめた後に、続けて超臨界CO2抽出処理を加えるなどしてもよい。
また、抽出処理時間を短時間で済ませたり、長時間行うことで、特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチンなどの水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を
含む)や、β-カロテン及びリコペンの抽出選択率を制御できる。具体的な態様では、超臨界CO2系内共存有機溶媒(例えば、エタノールなど)濃度を約10.0mol%とし、植物性カロ
テノイド色素抽出物に超臨界CO2抽出処理を120分間以下の時間、例えば、60分間行った後、一旦、トラップ抽出物を採取し、さらに抽出処理(超臨界CO2系内共存有機溶媒(例え
ば、エタノールなど)濃度約10.0mol%)を最初の抽出開始からみて120分間を越える時間
、例えば、最初の抽出開始からみて270分までの期間抽出処理を行うなどが挙げられる。
有機溶媒の濃度を変えること及び抽出時間を変えることは、組み合わせておこなうこともできる。
【0013】
本発明では、植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せ
しめて、カロテノイド色素を抽出するステップ及び該超臨界または亜臨界状態のCO2抽出
処理で得られた生成物を有機溶媒による抽出処理に付すステップを含有している、特定のカロテノイド色素を選択的に濃縮することを特徴とするカロテノイド色素の製造方法も提供する。該有機溶媒抽出は、それ自体既知の抽出方法に従って実施することができる。特には、特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチンなどの水酸基を有する
カロテノイド色素(誘導体を含む)や、β-カロテン及びリコペンを特異的に濃縮できるように選択することが好ましい。有機溶媒としては、炭素数3以下のアルコール、例えば、
エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等あるいはそれらの混合物を好適に使用することができる。系内には水が存在していてよい。
本発明の分離精製技術は、超臨界CO2抽出法とエタノール抽出法を組み合わせたもので
あってよく、具体的には次の2段階分離法も包含される。
(1)超臨界CO2で、β-クリプトキサンチンなどの水酸基を有するカロテノイド色素(誘導
体を含む)より、β-カロテン及びリコペンを優先的に抽出せしめるもの。さらに、エントレーナーとしてエタノールを添加して、β-カロテン及びリコペンの除去率を向上せしめ
たもの。
(2)超臨界CO2でβ-カロテン及びリコペンを除去した後、エタノール等の有機溶媒で抽出
することにより、高純度のβ-クリプトキサンチンやその他の水酸基を有するカロテノイ
ド色素(誘導体を含む)を得るもの。
本発明は、カロテノイド色素含有物を、加水分解処理を行った後に、超臨界CO2に接触
させることができる。加水分解処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムによるけん化処理、リパーゼによる酵素分解処理が挙げられる。加水分解処理により、エステルが水酸基となるため、水酸基含有カロテノイド色素とβカロテン、リコペン等との分離が向上するためである。また、β−クリプトキサンチン(水酸基1つ)、ゼアキサンチン(水酸基2つ)のように、水酸基の数の異なるものを相互に分離することが可能になる。
上記分離精製を施して得られたものは、高度に精製されているので(特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチンなどの水酸基を有するカロテノイド色素(誘導
体を含む)や、β-カロテン及びリコペンに関して、高純度且つ高濃度化されているので)、それをアパタイト、シリカゲル、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、疎水親和性樹脂などを使用したクロマトグラフィーなどによる分離精製処理に付して、高純度且つ高濃度のものを容易に得ることができる。
超臨界CO2流体を使用したカロテノイド色素の分離抽出法(特に好適には超臨界CO2流体
を使用したβ-クリプトキサンチンの分離抽出法、さらには水酸基を有するカロテノイド
色素(誘導体を含む)の分離抽出法)は、無酸素、遮光状態で実施できることからカロテ
ノイドに対する悪影響、例えば、酸素による酸化、光による異性化などの抑制が期待でき、且つ、その方法は脱溶媒が容易であることから環境調和型の技術であり、顕著に有用である。
【0014】
超臨界CO2(または亜臨界CO2)を用いた超臨界(または亜臨界)抽出のプロセスは、基本的には、原料を抽出槽へ仕込み、CO2を送り込み、温度、圧力を調整し、超臨界状態と
して、抽出原料と超臨界CO2流体とを接触せしめて、所望の物質を当該流体中に溶解(又
は分散)せしめ、次に、超臨界状態のCO2に溶解した抽出物を、分離槽へ移動させ、そこ
で圧力を低下させることにより、CO2は気体となって当該抽出物より抜けて、その結果抽
出物がCO2から分離する。そして、CO2は再利用される。分離槽からは、抽出目的物を取り出す。
CO2は、低温で超臨界状態となるため、低温での抽出が可能となる。つまり、熱に弱い
成分を抽出できる。CO2は通常では不活性であり、かつ低沸点のため、溶媒が抽出物に残
留するということがないし、酸化による劣化や成分の変性が起こりにくい。抽出槽と分離槽に分かれるため、ケースによっては不要な成分を分離槽に移し、抽出槽に残った抽出残物を目的とすることもできる。効果的な抽出には、温度・圧力等の条件の設定が重要である。超臨界CO2は、液体なみの高密度、気体なみの高拡散性・低粘性、さらにゼロ表面張
力や溶媒能を兼ね備えた、特異な流体で、安定、安価、無害、低コストであり、リサイクル性もある
【0015】
次に、超臨界二酸化炭素流体抽出工程について、図1を参照しながらそれを説明する。本超臨界CO2抽出・精製装置は、抽出槽(extraction vessel)、分離槽(トラップ; trap)、冷却機(chiller)、液化CO2ポンプ(pump)、リボンヒーター(line heater)、弁および液
化CO2貯蔵槽(CO2)、有機溶媒貯蔵槽(エタノール貯蔵槽)、有機溶媒供給ポンプ(solvent
pump)などで構成されている。植物組織から有機溶媒で抽出処理されて得られたカロテノイドを含有する抽出物(例えば、エタノール溶液)は抽出槽に入れられ、装置を密閉にしたのち所定の温度に加温される。次に液化CO2は液化CO2貯蔵槽から冷却機(chiller)を通
って液化CO2ポンプにより抽出槽に送られる。途中で液化CO2は所定の温度に加温されており、同様に抽出槽も所定の温度に保たれている。超臨界CO2流体は抽出槽に吹込まれ、所
定のカロテノイド成分を超臨界CO2流体に溶解・抽出せしめる。抽出された成分を含んで
いる超臨界CO2流体は、減圧弁を通して臨界圧以下まで減圧せしめられることにより、分
離槽で超臨界CO2流体に溶解していた抽出物と炭酸ガスに分けられ、炭酸ガスは回収され
、次に、図示されていないが冷却液化された後、液化CO2貯蔵槽に戻され、再循環使用さ
れる。所定の濃度となるように超臨界CO2系内に有機溶媒が導入されており、また、所定
の時間超臨界CO2流体系による抽出操作を行うことにより、特定のカロテノイド色素成分
を選択的に濃縮できる。本処理は、繰り返し行うことができ、一旦、特定の成分に付き濃縮されたものを、再度、本超臨界CO2抽出・精製にかけ、所定のカロテノイド色素成分を
選択的に濃縮して、高品質なカロテノイド色素が簡単な操作により効率良くかつ好収率に得ることが出来る。
本発明の超臨界CO2抽出・精製技術によれば、構造の類似したカロテノイド色素を相互
に分離でき、例えば、β-クリプトキサンチンを他のカロテノイド、例えば、β-カロテン、リコペンから選択的に分離抽出できる。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明のより具体的な実施の態様の一例を、次に示す。
凍結乾燥した柿皮を微粉末化したもの、又は凍結乾燥した柿皮よりエタノールを使用して抽出処理して得られたβ-クリプトキサンチン含有の植物性色素のエタノール抽出物(
エタノール溶液;洗浄時の抽出物を合わせてもよい)を抽出槽に入れ、次いで該抽出槽に超臨界CO2を供給して抽出処理を行う。その際の抽出条件は、前述したとおり、適宜、最
適な条件を選択することができるが、一般には、温度約58〜約62℃及び圧力約28〜約32MPaの気圧の範囲内、好ましくは温度約60℃及び圧力約30MPaの気圧で、使用するCO2の所望
の状態に応じた温度及び圧力を採用することができる。そして供給する超臨界CO2中にエ
タノールを0〜約50.0mol%の濃度、あるいは0〜約30.0mol%の濃度、好ましくは約5.0〜約15.0mol%の濃度の範囲、例えば、約10.0mol%の濃度となるように加える。このように、エ
タノールを全く添加しないで行うこともできる。抽出は、例えば、撹拌下にCO2(あるい
はエタノール含有CO2)を連続的に吹込むことによって行うことができる。抽出時間も、
適宜、選択することができるが、通常、約1分間〜約10時間、好ましくは約5分間〜約5時間の範囲内とすることができる。抽出終了後、エキス分を含有するCO2流体を分離槽(
トラップ; trap)に導き、超臨界抽出で常用されている方法、例えば、圧力を下げる方法(等温法)、温度を変化させる方法(等圧法)、分離槽中に抽出された溶質を吸着するような吸着剤を充填しておく吸着法など、抽出条件に応じた適宜の分離手段を採用することにより、エキス分を回収することができる。分離されたCO2は液化槽に輸送して再利用す
ることができる。高純度で且つ高濃度で所要のβ-クリプトキサンチンを含有するエキス
分をトラップ抽出物として得ることができる。あるいは、高品質のβ-クリプトキサンチ
ン含有物を、抽出槽残物として得ることもできる。抽出時間は、抽出初期(0〜120min)と
抽出後期(120〜300min)というように分けて、処理された生成物を取り出すことにより、
特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチンや、β-カロテン及びリコペンに関して、高純度且つ高濃度化するように選択することができる。抽出初期は、30〜100minとし、抽出後期は、150〜300minとか200〜300minにすることでもよい。超臨界CO2抽出
して得られた特定のカロテノイド成分、例えば、β-クリプトキサンチンや、β-カロテン及びリコペンに関して、高純度且つ高濃度化された生成物は、さらにエタノールによる抽出処理されてよい。かくして、高純度且つ高濃度のβ-クリプトキサンチン濃縮物が得ら
れる。
【0018】
得られるβ-クリプトキサンチン濃縮物は、それ自体既知の方法により、油状、乳化状
、粉末状など使用目的にあった任意の形状に加工することができる。例えば、該色素を精油、食用油脂、SAIB(シュークロース・ジアセテート・ヘキサイソブチレート)等の油性材料と混合し、例えば、アラビアガム、澱粉誘導体、その他の多糖類又は界面活性剤を用いて調製した乳化色素、あるいはそれを噴霧乾燥して得られる粉末色素の形状にして、化粧品類、飲食品類などの着色剤として利用することができる。本発明の技術によって得られる色素を用いて着色しうる化粧品類としては、例えば、石鹸、洗剤、シャンプー、口紅、マニキュア、クリームなどを挙げることができ、また、飲食品類としては、例えば、清涼飲料水、薬用ドリンク類、冷菓類、調味料類、総菜類、水畜産練製品などを挙げることができる。本発明抽出精製技術で得られたカロテノイド色素産物は、上記β-クリプトキ
サンチン濃縮物と同様に、上記したように扱ったり、各種の用途に適用できる。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0019】
干し柿製造時に廃棄物として生ずる柿の皮(宮城県白石市ころ柿出荷協同組合より入手)を出発原料として使用した。柿の皮を凍結乾燥して微粉末としたもの(10g)に、エタノ
ール20mlを加え、更に破砕再処理並びに懸濁処理した。そのろ液および粉砕物をエタノールで共に洗って得た液65mlをナスフラスコに入れ、エバポレーターに取り付けた。30mmHgの減圧下で、ナスフラスコを40℃に加温しながら濃縮した。減圧濃縮により一度揮発したエタノールは、冷却され別の容器に回収され、濃縮物にエタノールは殆ど残っていない。さらに、濃縮物をエタノール85mlで洗浄するように集めて、別のナスフラスコに移し、再び、洗浄液を30mmHgの減圧下で濃縮した。この時も、減圧濃縮により一度揮発したエタノールは冷却され別の容器に回収されるので、濃縮物にエタノールは殆ど残っていない。ナスフラスコの底に付着した濃縮物をエタノールで洗うようにしながら、定容フラスコに移し、エタノールを添加して85mlに定容したものを、柿の果皮からのβ-クリプトキサンチ
含有のカロテノイド色素抽出物とした。
【0020】
上記のようにして得たカロテノイド色素抽出物を使用して超臨界二酸化炭素流体による抽出処理を検討したところ、60℃、30MPa程度の高温高圧の条件でカロテノイドの抽出率
が高いとの結果が得られたので、より選択的で高い抽出率を得る条件を更に検討した。すなわち、超臨界CO2抽出における「抽出時間」と「エントレーナー」の影響について検討
を行い、柿皮中のカロテノイドのさらなる高選択的抽出を試みた。
上記のようにして得られた抽出物(エタノール溶液で、洗浄時抽出物も含む)を、図1に示されたような超臨界CO2抽出工程に付した。抽出物(エタノール溶液)は、脱揮され
てトラップ抽出物を得て、それはカロテノイド定量に付された。カロテノイド定量は、下
記数1に示すように、けん化後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけ、可視吸収に
より可視化した。超臨界CO2抽出の条件は、温度60℃、圧力30MPaとし、柿皮10gを出発試
料とし、エタノール濃度0, 10及び20mol%とし、エタノール混合CO2流量0.084mol/min、そして0mol%出口CO2流量2リットル/minで所要時間抽出処理した。
得られた結果を、図3に示す。上記抽出処理で、抽出時間を増加させたり、エタノール濃度を増加させているが、まず、エタノール濃度を増加させると抽出量の増加が認められている。エタノールの効果としては、無極性のCO2雰囲気下に極性が加わることが挙げら
れる。抽出時間についてみると、0〜120分までの抽出初期では徐々に増加で、溶解度支配が認められ、120分以降300分までの抽出後期では一定値に漸近し、物質移動支配が認められるというように、抽出初期と抽出後期とでは異なる抽出挙動が存在することが認められる。
【0021】
抽出率及び抽出選択性を評価するために、有機溶媒抽出を施した抽出試料を得て、それをけん化して試験溶液として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。有機溶媒(エタノール使用)抽出処理で得られた抽出物に関して抽出結果を表1に示し、そのHPLCの結果を図2に示す。図2より、カロテノイドとして、β-クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、リコペン、β-カロテンが混在していることがわかる。表1より
、カロテノイドは、抽出物中に0.15%含まれている。
【0022】
【数1】

【0023】
【化2】

【0024】
【表1】

【0025】
超臨界CO2抽出処理で得られた、仕込み量に対するβ-カロテン抽出量、リコペン抽出量、そしてβ-クリプトキサンチン抽出量についての結果を、図4及び5に示す。
図4より、β-カロテン、リコペン共に、同様の挙動を示していることが認められ、有
機溶媒抽出(有機溶剤抽出)で得られた量を100%とすると、10mol%(エタノール濃度)では約50%、そして20mol%(エタノール濃度)では約75%が抽出されるという結果となっている。図5より、β-クリプトキサンチンでも、β-カロテン、リコペンと同様の挙動であるとの結果が得られたが、有機溶媒抽出(有機溶剤抽出)で得られた量を100%とすると、10mol%(エタノール濃度)では約25%、そして20mol%(エタノール濃度)では約40%が抽出されるという違いが認められる。本差異を利用して、選択的濃縮が可能であることは明らかであるし、本超臨界CO2抽出処理工程を繰り返すことで、特定のカロテノイド成分を特異
的に濃縮可能であることも明らかとなった。こうした違いが生ずるのは、β-クリプトキ
サンチンが、高級脂肪酸や極性基を持つものとエステル化し、大きな分子となり、CO2
の溶解度が低下するためと考えられる。超臨界CO2抽出における各カロテノイドの選択率
をそれぞれ求めた。
【0026】
【数2】

【0027】
抽出初期及び抽出後期にわけて、超臨界CO2抽出における各カロテノイドの選択率を求
めた結果を、図6に示す。抽出初期は、抽出開始から60分経過した時点での値であり、抽出後期は、抽出開始から270分経過した時点での値である。エタノール濃度0mol%及び10mol%と20mol%とでは、異なる選択性の挙動であることが認められ、至適エタノール濃度以上では極性効果が超臨界CO2の持つ選択性を阻害していることが観察される。
抽出初期のエタノール濃度10mol%では、6倍以上至適濃度という選択率の結果が得られ
た。かくして、エタノールを低濃度で用いることにより、β-クリプトキサンチンを高い
選択率で得られることがわかる。10mol%程度の低エタノール濃度を使用することで高選択的にβ-クリプトキサンチンを超臨界CO2抽出することができる。
【実施例2】
【0028】
実施例1と同様の超臨界二酸化炭素流体抽出処理装置を使用して抽出処理を行った。抽出処理の詳細並びに結果を表2〜4に示す。抽出処理にかけた植物性カロテノイド色素含有物は、表の「条件:前処理」の欄に示された手法で調製された。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
上記表中、「試料名」の欄には、超臨界二酸化炭素流体抽出で得られる抽出物側と抽出残留物側とに分けて分析したことを示してある。分析は、実施例1と同様に行った。「後処理」の欄は、超臨界二酸化炭素流体抽出処理後の処理を示す。試料名の(1)〜(14)の
試料は、10gの柿皮由来凍結乾燥物から得られたもので、それから超臨界二酸化炭素流体
抽出処理で抽出物側と抽出残留物側とが得られる。試料名の(15)〜(19)の試料は、380gの柿皮凍結乾燥物から得られたものをそれぞれに分割(3分割)して使用している。
上記表のとおり、超臨界抽出物より超臨界抽残物のβ−クリプトキサンチン選択率、又はゼアキサンチン選択率が高くなり、水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)
を選択的に抽出分離できることがわかる。特に、β-クリプトキサンチンを効率的に且つ
選択的に抽出分離できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、高純度且つ高濃度のカロテノイド色素濃縮物を得ることができ、各種の用途に利用できて優れている。特に、本発明によれば、高純度且つ高濃度のβ-クリプ
トキサンチン含有物及び/又は水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を容易に抽出分離して得ることができ、β-カロテン及びリコペン含量比を低減せしめた製品とす
ることができるので、β-クリプトキサンチンあるいはその他の水酸基を有するカロテノ
イド色素(誘導体を含む)の有する機能を利用することを主眼に置いた製品に利用するの
に有利になる。得られる高β-クリプトキサンチン含有植物性カロテノイド色素及び/又は
水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む) 含有植物性カロテノイド色素は、美容食品素材、健康補助食品素材として有望で、飲食品、医薬品、化粧品などの医薬部外品など広い分野で利用することができる。特に、健康食品、食品添加物、機能性食品、特定保健用食品、医薬品原料などとして有用である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係わる超臨界二酸化炭素流体抽出工程のフローチャートである。
【図2】柿皮より有機溶媒(エタノール)で抽出されて得られたカロテノイド色素抽出物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した結果を示す。
【図3】柿皮由来カロテノイド色素エタノール抽出物を超臨界CO2抽出処理して得られたトラップ抽出物の量(トラップ抽出量/仕込量(カロテノイド色素エタノール抽出物の量))を抽出時間に対してプロットしたものである。
【図4】柿皮由来カロテノイド色素エタノール抽出物を超臨界CO2抽出処理して得られたトラップ抽出物の量(β-カロテンの抽出量(a)及びリコペンの抽出量(b))を抽出時間に対してプロットしたものである。
【図5】柿皮由来カロテノイド色素エタノール抽出物を超臨界CO2抽出処理して得られたトラップ抽出物の量(β-クリプトキサンチンの抽出量)を抽出時間に対してプロットしたものである。
【図6】柿皮由来カロテノイド色素エタノール抽出物を超臨界CO2抽出処理した場合のβ-クリプトキサンチン、β-カロテン及びリコペンの抽出選択率を抽出初期と抽出後期について求めたグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性カロテノイド色素含有物に超臨界または亜臨界状態のCO2を接触せしめて、水酸基
を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を選択的に濃縮することを特徴とするカロテ
ノイド色素の製造方法。
【請求項2】
前記超臨界または亜臨界状態のCO2系内の有機溶媒の濃度を制御(有機溶媒非存在下を包
含する)及び/又は抽出処理時間を制御して、水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体
を含む)を選択的に濃縮することを特徴とする請求項1に記載のカロテノイド色素の製造
方法。
【請求項3】
前記植物性カロテノイド色素含有物を加水分解した後、前記超臨界または亜臨界状態のCO2に接触せしめることを特徴とする請求項1又は2に記載のカロテノイド色素の製造方法

【請求項4】
前記水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)を、β-カロテン及びリコペンに対して濃縮することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
【請求項5】
前記水酸基を有するカロテノイド色素(誘導体を含む)が、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、アスタキサンチン及びそれらの誘導体からなる群から選択されたすくなくとも一つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。
【請求項6】
前記超臨界または亜臨界状態のCO2は、前記有機溶媒を5〜15mol%の濃度で含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のカロテノイド色素の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−46015(P2007−46015A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234535(P2005−234535)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】