説明

カロリー制限を評価する方法およびカロリー制限模倣剤を同定する方法

本発明は、カロリー制限のバイオマーカーを同定する方法およびカロリー制限の動態を試験する方法を提供する。さらに、本発明はカロリー制限の模倣剤を選択する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年3月12日に提出した米国特許出願第10/387,743号;2003年3月12日に提出した米国特許出願第10/387786号;および2003年7月16日に提出した米国特許出願第10/622,160号の一部継続出願であり、これらの出願はそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の背景
医薬品研究の主要な目的は、罹患率を減少させ死亡を遅延させる方法を見出すことにある。数十年前、カロリー制限と称されるカロリー摂取の減少により、動物において健康的な生活が有意にかつ持続的に延長され得ることが見出された;例えば、Weindruch, et al., The Retardation of Aging and Disease by Dietary Restriction、(Charles C. Thomas、イリノイ州、スプリングフィールド)1988を参照されたい。CRは、堅実に寿命を延ばし、癌、糖尿病、および循環器疾患を含む多くの加齢性疾患の発症率および重症度を軽減し得る唯一確実な介入である。さらに、CRに供した齧歯類(例えば、マウス、トガリネズミ、およびリス)、他の哺乳動物(例えばウサギ)、およびサルにおいて長寿化と関連づけられた生理的バイオマーカーは、ヒトの長寿化とも関連することが示された;例えば、Weyer, et al., Energy Metabolism after Two Years of Energy Restriction: the Biosphere Two Experiment, Am. J. Clin. Nutr. 72,946-953, 2000、およびRoth, et al., Biomarkers of Caloric Restrietion may Predict Longevity in Humans, Science 297,811, 2002を参照されたい。Weyer, et al.による研究によって、CR食餌プログラムを行った健常な非肥満性のヒトが、そのようなCR食餌療法を行った齧歯類およびサルと類似した生理学的、血液学的、ホルモン、および生化学的変化を示すことが示された。Walford, et al., Calorie Restriction in Biosphere Two: Automations in Physiologic, Hematologic, Hormonal and Biochemical Parameters in Humans Restricted for a Two-Year Period, J. Gerontol.: Biol. Sci. 57A, 211-224, 2002を参照されたい。これらの予備的知見から、CRの抗加齢効果がすべての種の間で普遍的であることが示唆される。動物において長寿化をもたらす分子および遺伝子過程は、ヒトにおいても寿命を延ばす可能性がある。
【0003】
CRが遺伝子発現に影響を及ぼすことは周知である。CRがどのような種類の遺伝子またはどのような群の遺伝子に影響を及ぼすのかを理解することは、ゲノム医療の分野において有利であると考えられる。CRに応答した遺伝子発現変化の動態を理解することは困難な課題である。現時点では、遺伝子の関連性、およびいかにして特定の遺伝子が同様のCR処置によって影響されるのかを理解し得る方法は存在しない。CRに応答した遺伝子発現変化の動態を理解することは重要であり、これにより遺伝子の挙動、構造、および機能がさらに理解され得ることになる。遺伝子の挙動、構造、および機能を理解することによって、同様に挙動する遺伝子を分類すること、および遺伝子を群として制御する方法を見出すことも可能になる。モチーフの発見は、同時制御される遺伝子を取得する段階、およびCRによって影響されるシグナル伝達系を推定する段階を含み、これらの系は介入(例えば薬物療法)の標的となり得る。
【0004】
ほとんどのCR研究により、CRが付加的に作用して、生体高分子および遺伝子発現における有害な(deleterious or harmful)変化の加齢に関連した蓄積を阻止するという広範な考えがもたらされた。この考えから、多くの研究者は、加齢に伴って発現が変化しない遺伝子に及ぼすCRの影響を過小評価することになった。さらに、CR表現型の移行の詳細な動態または動力学は、これらの研究において不明なままである。CRの動態を理解することによって、例えば最長寿命を延ばすまたは加齢性疾患の発症を遅延させるなどの種々の処置を行うためにCRを効率よく使用することが可能になる。また、CRの動態を理解することにより、動物およびヒトの疾患を治療するために効率的に用いられ得るCR模倣剤の発見も可能になる。
【0005】
さらに、歴史的に、加齢および加齢性疾患の発症に及ぼす効果に関して化合物を評価する唯一許容されているアッセイ法は、寿命の研究である。しかし、この方法には明確な限界がある。マウスのような「短寿命の」哺乳動物でさえ40ヶ月生存する。より短寿命の減弱させた齧歯類株を用いれば研究が混乱する。最長寿命の10%変化を確実に検出するための統計的検出力を得るためには、少なくとも60匹の同齢集団の齧歯類が必要である。したがって、この基準を用いて大規模なCR模倣剤スクリーニングを行うことは不可能である。25年以上もの間、科学者たちは加齢性疾患の発症および短期間での基礎的加齢速度を検出し得るバイオマーカーを探索してきた。したがって、CRを模倣する介入を同定する新たな方法の必要性が存在する。本発明はこの必要性に取り組むものである。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
特定の態様において、本発明はカロリー制限の動態を評価する方法およびカロリー制限のバイオマーカーを同定する方法を提供する。さらに、たとえCRが動物およびヒトに多くの利益をもたらすとしても、その多くはCRの生活様式を利用しないと考えられる。したがって、CR模倣化合物または薬剤の同定および開発は価値がある。よって、本発明はまた、CRの模倣剤を同定する方法およびそのような模倣剤を投与することによって寿命を延ばす方法を提供する。
【0007】
本発明の特定の例示的な態様により、哺乳動物、例えばマウスにおいてCRによって誘導される効果または効果のいくつかを模倣するまたは再現する少なくとも1つの化合物をスクリーニングするおよび/または評価することが可能になる。1つの態様において、いくつかの化合物(例えば、メトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボン、ならびにこれらの組み合わせ)の有効性が同定され、これらはCRによって誘導される効果の少なくともいくつかを再現することからCR模倣剤として評価される。マウスの器官(例えば、肝臓、心臓、および脳)において、CRおよび化合物のそれぞれ単独でまたは組み合わせによって誘導される効果を評価する。1つの態様においては、CRに供したマウスおよび化合物の投与に供したマウスの遺伝子発現プロファイルを評価し比較する。他の態様においては、1つまたは複数の化合物を、哺乳動物において加齢過程を抑制するまたは遅延させる能力に関してスクリーニングする。
【0008】
1つの態様において、本発明は、第1試料に第1形式のCR食餌プログラムを第1期間施す段階;第1期間後に第1試料に第2の食餌プログラムを施す段階;および第2試料に対照食餌を施す段階を含む、遺伝子解析法を提供する。第1試料と第2試料の遺伝子発現効果または他の効果を解析する。
【0009】
別の態様において、介入の標的を同定する方法は、第1形式のCRに曝露した試料と第2形式のCRに曝露した試料の遺伝子発現レベルまたはタンパク質活性レベルを比較する段階を含む。第1形式および第2形式のCRの応答において類似性を有すると思われる遺伝子を同定する。
【0010】
別の局面において、本発明はカロリー制限を模倣する介入を同定する方法を提供する。したがって、別の態様において、本発明は、1つの群へのCR食餌プログラムの施行および別の群への化合物のある投与量の投与から対照データを取得する段階を含む、心筋においてコラーゲン蓄積を潜在的に減少させる化合物を同定する方法を提供する。CR食餌プログラムによる少なくとも1つのコラーゲン測定値を、化合物のある投与量の投与による少なくとも1つのコラーゲン測定値と比較する。少なくとも部分的にCR食餌プログラムによるコラーゲン測定値と化合物投与によるコラーゲン測定値との比較に基づいて、化合物がコラーゲン蓄積の減少に潜在的に有効であると同定される。
【0011】
別の態様において、心筋および血管においてコラーゲン蓄積を潜在的に減少させる化合物を同定する方法は、第1哺乳動物群へのCR食餌プログラムの施行から対照データを取得する段階を含む。CR食餌プログラムは、長期CR(LT-CR)食餌プログラムおよび短期CR(ST-CR)食餌プログラムの少なくとも1つを含む。本方法はまた、第2哺乳動物群に有効量の化合物を投与する段階を含む。第1哺乳動物群と第2哺乳動物群とのコラーゲン遺伝子発現またはコラーゲン蓄積の少なくとも1つを比較する。少なくとも部分的に第1哺乳動物群と第2哺乳動物群とのコラーゲン遺伝子発現またはコラーゲン蓄積の比較に基づいて、化合物がコラーゲン蓄積の減少に潜在的に有効であると選択される。
【0012】
遺伝子情報を群に分類する方法についても開示する。長期対照(LT-CON)食餌プログラムの施行による対照データを取得する。第1試料群にLT-CON食餌プログラムを第1所定期間供し、その後第1試料群をLT-CON食餌プログラムからST-CR食餌プログラムに第2所定期間切り替える。第2試料群にLT-CR食餌プログラムを第1所定期間供し、その後第2試料群を、短期対照(ST-CON)食餌プログラムに切り替える第3試料群と同じLT-CR食餌プログラムで第2所定期間維持する第4試料群に分割する。第1試料群、第3試料群、および第4試料群の効果を対照データとおよび相互に比較する。
【0013】
上記のように、本発明は、CRプログラムによって誘導される効果の少なくともいくつかを模倣する化合物を同定する方法を提供する。1つの態様において、本方法は、第1群の哺乳動物にCR食餌プログラムを所定の期間施す段階、および第2群の哺乳動物に少なくとも1つの化合物のある投与量を所定の期間以下の期間、投与する段階を含む。本方法はさらに、遺伝子発現レベル、核酸、タンパク質のレベル、またはタンパク質活性レベルの変化を評価する段階、および薬剤がCR食餌プログラムによって誘導される効果を模倣するかどうかを決定する段階を含む。
【0014】
別の態様は、長期カロリー制限(LT-CR)に供した哺乳動物における少なくとも1つの効果を再現する方法について記載する。本方法は、第1群の哺乳動物にLT-CR食餌プログラムを第1期間施す段階、および第2群の哺乳動物に少なくとも1つの化合物を第2期間投与する段階を含む。第2期間は第1期間よりも実質的に短い。第1群の哺乳動物と第2群の哺乳動物は同様のものであり、例えばどちらもマウスの群である。対照食餌プログラムの施行による対照データを取得する。第1群の哺乳動物および第2群の哺乳動物から得られたデータを対照データと比較することにより、LT-CR食餌プログラムおよび化合物の効果を決定する。LT-CR食餌プログラムと化合物の効果を比較して、その化合物がLT-CRによって生じる少なくとも1つの効果を再現するかどうかを決定する。
【0015】
別の態様は、CRの効果を再現する化合物を同定する方法について記載する。本方法は、第1群の哺乳動物に有効量の化合物をある期間投与する段階;第2群の哺乳動物にCR食餌プログラムを施す段階;および対照食餌プログラムの施行から対照データを取得する段階を含む。第1群の哺乳動物および第2群の哺乳動物は同様のものであり、例えばどちらもマウスの群である。本方法はさらに、第1群の哺乳動物および第2群の哺乳動物のそれぞれにおける、遺伝子発現レベル、核酸、タンパク質のレベル、またはタンパク質活性レベルの変化を解析する段階を含む。化合物が第1群の哺乳動物において解析された変化を生じ、解析された変化の少なくとも約1%または1つもしくは複数の変化がCRによって誘導される変化のサブセットである場合、その化合物はCRによって誘導される変化を再現する化合物として同定される。1つの態様において、第1群の哺乳動物および第2群の哺乳動物における遺伝子発現レベル、核酸、タンパク質のレベル、またはタンパク質活性レベルの変化を対照データと比較して、変化を同定し比較する。
【0016】
別の態様では、化合物を探索する方法について記載する。本方法は、第1群の哺乳動物にST-CR食餌プログラムを所定の期間施す段階、および第2群の哺乳動物に少なくとも1つの化合物のある投与量を所定の期間以下の期間、投与する段階を含む。本方法はさらに、遺伝子発現レベル、核酸、タンパク質のレベル、またはタンパク質活性レベルの変化を評価する段階、および化合物のST-CR模倣効果を決定する段階を含む。
【0017】
別の態様では、本来健康な哺乳動物の最長寿命を延ばす(または最大寿命を増す)方法について記載する。本方法は、メトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボン(またはこれらの組み合わせ)の少なくとも1つの有効量を哺乳動物に有効な期間投与する段階を含む。
【0018】
別の態様では、メトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボンの少なくとも1つの有効量を哺乳動物に有効な期間投与する段階を含む、CRの効果を再現する方法を開示する。
【0019】
他の態様においては、表5〜9、表2、または表14〜16に収載する遺伝子の1つまたは複数の遺伝子発現レベルを決定することによって、生物(例えば哺乳動物)の生物学的年齢または代謝状態を評価し得る。
【0020】
いくつかの態様において、最長寿命および遺伝子発現に及ぼすCRの初期効果を評価する方法を開示する。これらの態様から得られた結果により、寿命に及ぼすCRの効果が、標準的な食餌から制限した食餌(例えばCR食餌プログラム)への移行後に速やかに誘導されることが示される。これらの結果から、遺伝子発現効果が段階的な様式で速やかに誘導されることもまた示される。さらに、CRの遺伝子発現効果は速やかに回復し得る。これらの態様による結果は、CRおよびCR動態の完全な理解に重大な意味をもつ。
【0021】
別の局面において、本発明は、CRの動態を評価する方法を提供する。1つの例示的な態様において、本方法は、長期対照食餌プログラムの施行から対照データを得る段階を含む。次いで、いくつかの哺乳動物試料群のそれぞれを、他の試料群に対して様々な期間、CR食餌プログラムに供する。いくつかの哺乳動物試料群のそれぞれのCRの効果と対照データを相互に比較する。さらに、様々な期間のCRの効果を解析する。
【0022】
別の例示的な態様において、本方法は、哺乳動物試料群を第1試料群と第2試料群に分割する段階を含む。第1試料群を、長期対照食餌プログラム(例えば、標準的な非CR食餌)に第1所定期間供する。第2試料群を、長期カロリー制限食餌プログラムに第2所定期間供する。第1所定期間の後、第1試料群の一部をカロリー制限食餌プログラムに様々な期間切り替える。第2所定期間の後、第2試料群の少なくとも一部を対照食餌プログラムに第3所定期間切り替え、第2試料群の残りの部分を長期カロリー制限食餌プログラムで維持する。第1試料群および第2試料群のメンバーのCRの効果を相互に比較する。
【0023】
別の例示的な態様においては、CRのいくつかの効果を回復させる方法を開示する。本方法は、長期カロリー制限食餌プログラムに供した哺乳動物試料群に対照食餌プログラムを施す段階を含み、対照食餌プログラムは哺乳動物試料群に対して長期カロリー制限食餌プログラムのカロリー摂取よりも高いカロリー摂取を含む。
【0024】
別の例示的な態様においては、老齢哺乳動物において最長寿命を延ばす方法を開示する。本方法は、老齢哺乳動物にカロリー制限食餌プログラムを施す段階を含む。1つの場合、老齢哺乳動物は老齢マウスである。老齢マウスは18月齢を超えるマウスであってよい。別の場合には、老齢哺乳動物は50歳を超える程度のヒトである。さらに、CR食餌プログラムの施行は、老齢哺乳動物をCR食餌プログラムに段階的に移行させることを含み、少なくとも1つの段階は食餌プログラムのカロリー数の漸進的な低減を含む。
【0025】
別の例示的な態様では、老齢対象において使用するための介入を同定する方法を開示する。本方法は、第1試料群内の個体に対照食餌プログラム(例えば、標準的なカロリー量を有する食餌)を施す段階を含む。老齢期が開始した後、少なくとも1つの候補介入を第1試料群内の個体に施す。候補介入の効果を、第2群に施したCR食餌プログラムまたは対照食餌プログラムまたは別の食餌プログラムと比較する。通常は、介入間の相互作用を回避するために、単一の候補介入を第1試料群内の個体に施し得る。しかし、2つまたはそれ以上の候補介入の群を別の第1試料群内の個体に同時に施して、介入群による効果を観察するという別法を行うこともまた望ましい。
【0026】
別の例示的な態様において、介入を同定し、生物試料をその介入に曝露した後に少なくとも1つの生化学的測定を行う方法を開示する。生化学的測定は、介入がCRの効果を実質的にまたはその少なくともいくつかを模倣するかどうかを示すように設計する。次いで、介入を生物試料から取り除く。介入を中止した後に、少なくとも1つのさらなる生化学的測定を行う。少なくとも1つのさらなる生化学的測定を行い、介入の中止がCRを中止した効果を実質的にまたはその少なくともいくつかを模倣するかどうかを決定する。通常は、介入間の相互作用を回避するために、単一の候補介入を生物試料に施し得る。しかし、2つまたはそれ以上の候補介入の群を別の生物試料群に同時に施して、介入群による効果を観察するという別法を行うこともまた望ましい。
【0027】
本発明の態様のこれらおよび他の特徴および利点は、添付の図と共に以下に示す態様の詳細な記載から、より容易に明らかになるであろう。
【0028】
表の説明
(表1)本発明のいくつかの態様に使用し得るリアルタイムRT-PCRの例示的なプライマー配列を示す。
(表2)LT-CR、ST-CR、およびST-CON食餌療法のいくつかの効果を示す。
(表3)マウス等の被験群に施し得る(例示的な投与量の化合物を用いた)8種の様々な処置を示す。
(表4)化合物特異的または薬剤特異的効果およびCRの効果と使用した処置のそれぞれの効果との重複の割合を示す。
(表5)肝臓の遺伝子発現に及ぼすメトホルミンおよびCRの効果を示す。
(表6)肝臓の遺伝子発現に及ぼすグリピジドおよびCRの効果を示す。
(表7)肝臓の遺伝子発現に及ぼすグリピジドおよびメトホルミンならびにCRの効果を示す。
(表8)肝臓の遺伝子発現に及ぼすロシグリタゾンおよびCRの効果を示す。
(表9)肝臓の遺伝子発現に及ぼす大豆イソフラボンおよびCRの効果を示す。
(表10)LT-CRおよび使用する化合物/薬剤により遺伝子発現が逆方向に変化する遺伝子を示す。
(表11)種々の化合物によって再現されるCR効果の割合を示す。
(表12)対照食餌プログラムおよびCR食餌プログラムの食餌組成を示す。値は、g成分/これらの処方の食餌100gである。対照食餌を施すマウスには、1週間当たり93 kcalの対照食餌(AIN-93M)を与える。CR食餌を施すマウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌または1週間当たり52 kcalのCR食餌(40%カロリー制限したAIN-93M)を与える。
(表13)本発明のいくつかの態様に使用し得るリアルタイムRT-PCRの例示的なプライマリ配列を示す。
(表14)長期CRによって発現に影響を受ける遺伝子を示す。
(表15)様々な期間施したCR(例えば2週間CR、4週間CR、8週間CR、および長期CR)に応答して一貫した発現変化を示し、そのような発現レベルの変化がCRのすべての時点において対照群よりも一貫して高いかまたは低い遺伝子を示す。
(表16)短期CRおよび長期CRによって発現が異なる方向に影響を受ける遺伝子を示す。
【0029】
発明の詳細な説明
説明を目的とした以下の記載においては、本発明の例示的な態様の完全な理解を提供するために多くの具体的な詳細を示す。しかし、これらの態様はこれらの具体的な詳細なしでも行い得ることは当業者には明白であると考えられる。他の例においては、本発明が不明瞭にならないように特定の構造および方法を記載していない。以下の説明および図は本発明の例証であって、本発明を制限するものと解釈されるべきではない。
【0030】
考察全体を通して、以下の専門用語を用いる。対照(CON)食餌プログラムまたは療法とは、標準的なカロリー数(例えば、被験マウスに対して1週間当たり93 kcal)を有する標準的な摂食プログラムを指す。CR食餌プログラムとは、カロリー量を低減した(例えば、被験マウスに対して1週間当たり77 kcalまたは1週間当たり52 kcal)食餌療法を指す。特定の被験対象にとって標準的であるとみなされるカロリー数に調整するために、1週間当たりのカロリー数を変更し得ることは理解されるべきである。長期カロリー制限(LT-CR)食餌プログラムとは、長期間、例えばマウスの場合には8週間を超える期間、または約数ヶ月間〜約36ヶ月間もしくは場合によっては寿命のほぼ末期までの期間の低減食餌療法を指す。短期カロリー制限(ST-CR)食餌プログラムとは、短期間、例えばマウスの場合には約8週間または8週間未満、例えば6週間、4週間、2週間、2日間、または1日間の低減食餌療法を指す。特定の状況において、対照食餌プログラム後にST-CR食餌プログラムを開始する場合、食餌プログラムは寿命のほぼ末期まで行うST-CR食餌プログラムであってよい(例えば、被験群内の1匹または複数匹の動物に対照食餌プログラムを長期間施し、その動物の寿命の残りの期間は、これらの動物の食餌プログラムをST-CR食餌プログラムに切り換えた)。食餌プログラムまたは療法の短期間または長期間を構成する週数または月数は、実験計画、被験群、哺乳動物種等に応じて変動し得ることは理解されるべきである。
【0031】
ST-CR群とは、ST-CR食餌プログラムに供する被験群または試料群を指す。ST-CR群は、いくつかの下位のST-CR群、例えばCR2群、CR4群、およびCR8群にさらに分割され得る。CR2群とは、2週間のST-CR食餌プログラムに供するST-CR群を指す。C4群とは、4週間のST-CR食餌プログラムに供するST-CR群を指す。CR8群とは、8週間のST-CR食餌プログラムに供するST-CR群を指す。
【0032】
短期対照(ST-CON)群とは、長期間の別の食餌プログラムに対して短期間の対照食餌プログラムに供する被験群または試料群を指す。CON8群とは、8週間の対照食餌プログラムに供する被験群または試料群を指す。同様に、CON4、CON6等とは動物を対照食餌に供する期間(週)を指す。
【0033】
LT-CR群とは、LT-CR食餌プログラムに供する被験群または試料群を指す。長期対照(LT-CON)群とは、長期間の対照食餌プログラムに供する被験群または試料群を指す。
【0034】
CR模倣化合物または薬剤とは、食餌カロリー摂取を実質的に減少させることも対象の体重を標準体重よりも減少させることもなく、抗加齢効果、抗疾患効果、およびCRの他の有益な効果の少なくともいくつかを模倣し得る化合物である。
【0035】
薬剤群とは、ある期間(例えば所定の期間)療法に供する被験群または試料群を指す。療法には、少なくとも1つの介入または候補介入の施行が含まれる。介入は、潜在的CR模倣剤であり得る化合物または薬学的物質(例えば薬剤)であってよい。候補介入は、潜在的CR模倣剤であり得る化合物または薬学的物質(例えば薬剤)であってよく、または化合物または薬学的物質の群であってよい。薬剤群もまた、いくつかの下位の薬剤群、例えば2Wk-薬剤群、4Wk-薬剤群、および8Wk-薬剤群に分割され得り、これらは介入に曝露される異なる期間を表す(この例では、それぞれ、2週間、4週間、および8週間)。薬剤休薬群とは、上記の群の1つに施した介入の中止に供する被験群または試料群を指す。介入の中止は所定の期間であってよい。
【0036】
さらに、長期薬剤群とは、少なくとも1つの化合物、被験化合物、または薬学的物質の長期間の投与を含む食餌療法に供する被験群または試料群を指し、化合物はCR模倣剤候補または潜在的CR模倣剤候補であってよい。短期薬剤群とは、少なくとも1つの化合物、被験化合物、または薬学的物質の短期間の投与を含む食餌療法に供する被験群または試料群を指し、化合物はCR模倣剤候補または潜在的CR模倣剤候補であってよい。短期薬剤休薬群とは、長期薬剤群または短期薬剤群に記載されるような群に投与された化合物の短期間の休薬に供する被験群または試料群を指す。
【0037】
具体的な形態および技法に関して、例示的な態様を記載する。本発明のいくつかの局面において、例示的な態様は、CRまたはCR模倣剤によって、およびいくつかの態様においてはCR処置またはCR模倣剤処置の種々の段階において誘導される効果を解析する方法に関連する。他の態様は、CR模倣剤をスクリーニングする方法およびCRによって誘導される効果を再現する方法に関する。
【0038】
CRおよびCR模倣剤の効果は、種々のアッセイ法によって評価し得る。そのようなアッセイ法には、遺伝子発現レベル(例えばmRNAレベル)の変化、タンパク質質レベルの変化、タンパク質活性レベルの変化、炭水化物または脂質レベルの変化、核酸レベルの変化、タンパク質または核酸合成速度の変化、タンパク質または核酸安定性の変化、タンパク質または核酸蓄積レベルの変化、タンパク質または核酸分解速度の変化、およびタンパク質または核酸の構造または機能の変化の少なくとも1つが含まれる。効果には、哺乳動物の最長寿命または寿命の延長(例えばマウスの最長寿命の延長)も含まれる。以下の考察は、CRまたはCR模倣剤により誘導されて発現される、発現されない、またはさもなければ変化する(例えば負にまたは正に制御される)遺伝子を同定するおよび分類するいくつかの例示的な方法に焦点をおく。以下の考察はまた、老齢哺乳動物を少なくとも一段階のCR食餌プログラムに供することによる、老齢哺乳動物、例えば老齢マウスの最長寿命の延長にも焦点をおく。
【0039】
CR模倣剤とは、CRによって誘導される少なくともいくつかの効果を再現する化合物、被験化合物、物質、薬学的物質等を指す。例示的な方法はCRまたはCR模倣剤によって影響を受ける遺伝子発現を解析することに限定されず、これにはタンパク質レベル、タンパク質活性、核酸レベル、炭水化物レベル、脂質レベル、タンパク質または核酸合成速度、タンパク質または核酸安定性、タンパク質または核酸蓄積レベル、タンパク質または核酸分解速度、タンパク質または核酸の構造または機能等の生理学的バイオマーカーが含まれ得ることは当業者には理解されるべきである。
【0040】
現在のところ、若年期または中年期という早い時期でのCRの開始が、哺乳動物の加齢を遅延させる最も確立されたパラダイムである。例えば、Weindruch, et al., The Retardation of Aging and Disease by Dietary Restriction、(C.C. Thomas、イリノイ州、スプリングフィールド、1988)を参照されたい。加齢関連パラメータに及ぼすCRの効果は広範である。CRにより最大寿命が増し、加齢性疾患の発症が減少および遅延し、自発的および誘導性発癌が減少および遅延し、加齢に伴う自己免疫が抑制され、いくつかの加齢性疾患の発症率が減少する(Weindruch、前記 1988)。
【0041】
たとえCRが動物およびヒトに多くの利益をもたらすとしても、その多くはCR生活様式を利用しないと考えられる。周知の通り、動物またはヒトが食餌プログラムを維持することは困難である。さらに、多くの人は、CRは付加的または徐々に作用して哺乳動物に長寿化ならびに加齢性疾患の減少および遅延等の利益をもたらすと信じている。そのような考えから、老齢哺乳動物の処置にCRを用いることは促進されない。よって、CRの動態を同定して、CRが迅速に作用し得りCRが若いまたは中年期の哺乳動物ばかりでなく老齢哺乳動物にも有益となり得るのかどうかを決定する必要性が存在する。CR食餌プログラムに必要とされるような食餌カロリー摂食の減少なしに、CRの効果、特に有益な効果のいくつかを模倣し得る介入を同定、評価、および/または開発する必要性も存在する。哺乳動物に施し得り、CRの有益な効果を迅速に再現し得る介入を同定する必要性もまた存在する。そのような介入を同定することにより、生涯のほとんどすべての段階において哺乳動物を処置することが可能になると考えられる。
【0042】
CRまたはCR模倣剤は同様の方法でいくつかの遺伝子に影響し得る。CRまたはCR模倣剤に応答した遺伝子発現の変化の動態を理解することは、これによって特定の群の遺伝子の挙動、構造、および機能がより理解できるようになることから重要である。さらに、遺伝子の挙動、構造、および機能、これらの遺伝子が群内でいかにして相互作用するのか、ならびにこれらの遺伝子がいかにしてCRおよびCR模倣剤に応答するのかを理解することにより、遺伝子を群として制御する方法を見出すことが可能になると考えられる。したがって、遺伝子群において遺伝子発現の変化の動態を同定する必要性、および単一のCRまたはCR模倣剤処置に基づいて遺伝子の相互の関連性を同定する必要性が存在する。遺伝子群に関する遺伝子発現の変化の動態がより理解されるならば、より少ない化合物および機構により、遺伝子を1つまたは複数の群として制御することがより簡便かつより効率的になる。
【0043】
1つの態様では哺乳動物試料群を選択する。試料群は任意の哺乳動物であってよい。実験マウス等の齧歯類を使用する場合が多い。マウスを群に分割するが、群はそれぞれ異なる処置に供することになる。例えば、マウスの1つまたは複数の群をCR食餌プログラム(食餌におけるカロリー数の低減)に供して、1つまたは複数のCR群を形成する。マウスの別の群は対照群であってよく、これは対照(標準的なカロリー数)食餌プログラムに供されて対照群を形成する。
【0044】
例えば、CR群を次いで亜群、例えば2つの亜群に分割することができ、一方は対照食餌プログラムに切り替え、もう一方は同じCR食餌プログラムで維持する。対照群もまた亜群、例えば2つの亜群に分割し、一方はCR食餌プログラムに切り替え、もう一方は同じ対照食餌プログラムで維持する。これらの食餌療法の切り替えにおいて、特定のCR療法によって個々におよび群として同様に影響を受ける遺伝子を決定することができる。以下で明らかになるように、食餌療法を切り替えることによって、特定の遺伝子または遺伝子群が同じように影響を受ける。これにより、遺伝子発現を調節する制御因子およびシグナル伝達経路の発見が可能になる。別の態様においては、例えば対照食餌群を被験化合物群に切り替えて、マウスの群に化合物(またはCR模倣剤)を同様に投与することができる。結果から、化合物がCRによって生じる少なくともいくつかの効果を再現または模倣し得るかどうかが決定され得る。
【0045】
他の試料群、例えばマウスを用いて薬学的化合物または物質等の介入について試験し、そのような介入がCRの効果(または効果の少なくともいくつか)を再現するかどうかを決定することができる。異なる介入によって生じる効果を対照群および/または相互に比較する。マウスに及ぼすCRおよび種々の化合物の効果を比較することにより、CR模倣化合物の決定または同定が可能になると考えられる。
【0046】
本明細書に記載した種々の態様を昆虫、線虫、酵母、細菌、および他の生物等の非哺乳動物生物と共に用い得ることは理解されると考えられる。場合によっては、これらの非哺乳動物生物において技法を行い得り、次いでそれらの生物において見出された候補薬剤を哺乳動物(例えばヒト)で試験することができる。
【0047】
対照データは、被験群と同時に処置する対照ではなく、結果が記録されている以前の研究から取得できることにも留意されたい。例えば、対照食餌プログラムに供したマウスの対照群からデータを取得してそのデータを記録することができ、または被験動物を処置に供する場合、対照食餌で処置した対照動物からそのデータを取得することができる。したがって、対照データは以前に行われた対照食餌プログラムの施行から取得してよい。
【0048】
この対照データは一度取得して保存し、後のスクリーニング研究において後のスクリーニング研究での結果に対して比較するために呼び戻すことができる。同様に、LT-CRまたはST-CRによる遺伝子発現レベル(またはタンパク質レベルの変化、タンパク質活性レベルの変化、炭水化物もしくは脂質レベルの変化、核酸レベルの変化、タンパク質もしくは核酸合成速度の変化、タンパク質もしくは核酸安定性の変化、タンパク質もしくは核酸蓄積レベルの変化、タンパク質もしくは核酸分解速度の変化、およびタンパク質もしくは核酸の構造もしくは機能の変化等の他の種類の測定値)を評価して一度保存し、後のスクリーニング研究において後のスクリーニング研究での結果に対して比較するために呼び戻すことができる。当然のことながら、同様の遺伝子または他のパラメータセットに対して比較を行うために、以前に保存された研究が、後のスクリーニング研究における遺伝子(またはタンパク質等の他のパラメータ)に対して(同一でないとしても)同様の遺伝子(または他のパラメータ)セットを有することが典型的に望ましい。
【0049】
本明細書で用いる「発現パターン」とはバイオマーカーの変化を指す。「発現パターン」は、mRNAのレベル、タンパク質のレベル、タンパク質活性レベルの変化、タンパク質活性の変化、例えばリン酸化といったタンパク質修飾の変化、炭水化物または脂質レベルの変化、タンパク質または核酸合成速度の変化、タンパク質または核酸安定性の変化、タンパク質または核酸蓄積レベルの変化、タンパク質または核酸分解速度の変化、およびタンパク質または核酸の構造または機能の変化等を測定することによって決定し得る。そのような変化は、当技術分野において周知の方法を用いて測定することができる。典型的に、測定するパラメータは、被験試料および対照試料から得られる細胞、典型的には組織または器官を用いて測定する。
【0050】
例えば、単離した器官または組織を用いて多くの異なる種類の解析を行い得り、それにより異なる処置のそれぞれの効果を決定することが可能になる。いくつかの態様では、遺伝子発現レベルの変化の決定に焦点をおく。考察する例示的な方法はCRまたはCR模倣剤によって影響を受ける遺伝子発現の解析のみに限定されず、これには上記の生理学的バイオマーカー発現パターンの変化も含まれることに留意されたい。
【0051】
実施例
以下の実施例は説明のためのみに提供するものであって、限定のために提供するものではない。当業者は、本質的に同様の結果を得るために重要ではない種々のパラメータを変更または修正し得ることを容易に理解すると考えられる。
【0052】
図1は、哺乳動物試料の種々の食餌療法の例示的な図式100を説明するものである。1つの態様において、哺乳動物試料はマウスである。本明細書により参照として組み入れられるDhahbi, et al., Caloric intake alters the efficiency of catalase mRNA translation in the liver of old female mice, J.Gerontol.A Biol.Sci.Med.Sci.; 53: B180-B185, 198に記載されている通りに、長寿命F1雑種株B6C3F1の雄マウスに餌を与えて飼育した。簡潔に説明すると、Jackson Laboratories(メイン州、バー・ハーバー 04609)からマウスを購入した。最初の7ヶ月間は、マウスに齧歯類食餌No. 5001(TMI Nutritional International LLC、ミズーリ州、ブレントウッド 63044)を与えた。7ヶ月の時点で、すべてのマウスを個別に収容した。7月齢のマウスを図1に示すマウス群102として示す。群102のマウスを、LT-CON群104およびLT-CR群106という2群のうちの1つに無作為に割り当てた。LT-CON群104の各マウスを、1 gm固形飼料の半精製対照食餌(AIN-93M、食餌No. F05312、BIO-SERV、ニュージャージー州、フレンチタウン 08825)を1週間当たり93 kcal与えるLT-CON食餌プログラムに供した。食餌成分の完全なリストは、Harland Tekladウェブサイトhttp://www.teklad.com/custom/index.htmにおいて見出すことができる。LT-CR群106の各マウスは、半精製CR食餌(40%制限AIN-93M、食餌No. F05314、BIO-SERV)を1週間当たり52.2 kcal与えるLT-CR食餌プログラムに供した。
【0053】
1つの態様においては、29月齢(116週)後、LT-CON群104およびLT-CR群106のマウスを、LT-CRマウスおよびLT-CONマウスを逆の食餌療法に2ヶ月(8週)間切り替える交差(または切り替え)実験に供した。1つの態様では、LT-CON群104のマウスの半数をST-CR食餌プログラムに8週間切り替えてST-CR群108を形成する。LT-CON群104の残りの半数のマウスはLT-CON食餌プログラムを8週間継続して、LT-CON継続群110を形成する。ST-CR食餌プログラムに切り替えないマウスの食餌療法には変更がないことに留意されたい。今後は考察を明確にするため、LT-CON食餌プログラムで維持するマウスの群をLT-CON継続群と称する。したがって、LT-CON継続群とは、単にLT-CON食餌プログラムに供するマウスの群を指し得る。さらに、LT-CR群106のマウスの半数を短期ST-CON食餌プログラムに8週間切り替えてST-CON群112を形成する。LT-CR群106の残りの半数のマウスはLT-CR食餌プログラムを8週間継続して、LT-CR継続群114を形成する。ST-CON食餌プログラムに切り替えないマウスの食餌療法には変更はない。したがって、LT-CR食餌プログラムを継続するマウスの群をLT-CR継続群と称し、これはLT-CR継食餌プログラムに供するマウスの群を単に指す。
【0054】
1つの態様において、ST-CR群108のマウスは、LT-CON群104のマウスを1週間当たり93 kcalの食餌から1週間当たり77 kcalの食餌に2週間、その後1週間当たり52.2 kcalの食餌に6週間切り替えたマウスであった。ST-CON群112のマウスは、LT-CR群106のマウスを対照食餌プログラムに8週間切り替えたマウスであり、1週間当たり52.2 kcalの食餌から1週間当たり93 kcalの食餌に切り替えられた。したがって1つの態様においては、マウスの群を異なる食餌プログラムに切り替えることより、4つの試料群、LT-CON継続群110、LT-CR継続群114、SST-CON群112、およびST-CR群108が形成される。1つの態様において、各群はマウス4匹を含む。
【0055】
マウスはすべて124週齡(31ヶ月)で屠殺した。いずれの群のマウスも屠殺前の48時間は絶食させた。マウスは頚椎脱臼により屠殺し、即座に心臓を摘出し、PBSでリンスして血液を除去し、液体窒素で瞬時凍結した。用いたマウスのいずれにも病態の徴候は検出されなかった。動物使用手順はすべて、施設内動物使用委員会による承認を受けた。
【0056】
対照データは、図1に図示するようにマウスの被験群と同時に対照食餌プログラムに供するマウスの対照群ではなく、結果が記録されている以前の研究から取得できることにも留意されたい。したがって、対照データは以前に行われた対照食餌プログラムの施行から取得してよい。この対照データは一度取得して保存し、後のスクリーニング研究において後のスクリーニング研究での結果に対して比較するために呼び戻すことができる。同様に、LT-CRまたはST-CRによる遺伝子発現レベル(またはタンパク質レベル、核酸レベル、炭水化物レベル、脂質レベル等の他の種類の測定値)を評価して一度保存し、後のスクリーニング研究において後のスクリーニング研究での結果に対して比較するために呼び戻すことができる。当然のことながら、同様の遺伝子または他のパラメータセットに対して比較を行うために、以前に保存された研究が、後のスクリーニング研究における遺伝子(またはタンパク質等の他のパラメータ)に対して(同一でないとしても)同様の遺伝子(または他のパラメータ)セットを有することが典型的に望ましい。
【0057】
4つのマウス群(LT-CON継続群110、LT-CR継続群114、ST-CON群112、およびST-CR群108)のそれぞれにもたらされた効果を相互に比較した。1つの態様においては、その効果を用いて、異なる食餌プログラムのそれぞれによって生じた遺伝子発現に及ぼすCRの効果を決定した。1つの態様において、遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果はLT-CON継続群110とLT-CR継続群114の結果を比較することにより決定した。ST-CRの効果は、LT-CON継続群110とST-CR群108の結果を比較することにより決定した。ST-CONの効果は、LT-CON継続群110とST-CON群112の効果を比較することにより決定した。
【0058】
他の態様においては、CR模倣剤候補または潜在的CR模倣剤である1つの被験化合物(または複数の被験化合物)をマウスの群に投与し得る。例えば、LT-CON群104の何匹かを(例えば、ST-CR群108を形成するために)ST-CR食餌プログラムに切り替えるのに加えて、またはそれに代えて、LT-CON群103のマウスの何匹かを被験化合物を含む食餌プログラムに切り替えることができる。次いで、ST-CR群108とLT-CON継続群110の結果を比較することによりST-CRの結果を得るのと同様の方法で、LT-CON群と被験化合物群の結果を比較することによりこの被験化合物の効果を決定することができる。同様に、被験化合物を含む食餌プログラムに、LT-CR食餌プログラムと同じ期間マウスを供して、例えば長期薬剤群を形成し得る。この期間の後、この群のマウスの何匹かを被験化合物を含まない対照食餌療法に供して、短期薬剤休薬群を形成する。長期薬剤群と短期薬剤休薬群とを比較することにより決定され得る1つの効果には、被験化合物の効果が対照食餌療法によりまたは被験化合物の休薬により可逆的であるかどうかの決定が含まれ得る。
【0059】
1つの態様において、種々の被験群すべてによるマウスの心臓の特定mRNAレベルを測定した。特定mRNAレベルの測定は、種々の食餌療法または被験化合物による効果を同定する1つの例示的な方法にすぎないことは理解されるべきである。特定タンパク質の活性レベル、特定タンパク質のレベル変化、特定炭水化物のレベル変化、特定脂質のレベル変化、および特定核酸のレベルを測定するために従来用いられている方法等の他の方法も用いることができる。他の心臓RNAは、供給業者によって記載される通りに、Tekmar Tissuemizer(Tekmar Co.、オハイオ州、シンシナティ)を用いてTRI試薬(Molecular Research Center Inc.、オハイオ州、シンシナティ)中でホモジナイズすることにより凍結組織断片から単離した。mRNAレベルは、標準的なAffymetrix手順(Affymetrix、カリフォルニア州、サンタクララ)に従って、Affymetrix U74v2A高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いて測定した。簡潔に説明すると、オリゴ(dT)およびT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列を含むプライマーを用いて、スーパースクリプト選択システム(Superscript Choice System)により各マウスの全RNAからcDNAを調製した。Enzoバイオアレイ高収率RNA転写産物標識キット(Enzo BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit)(Enzo Biochem)を用いて、精製cDNAからビオチン化cRNAを合成した。RNeasyミニカラム(Qiagen、カリフォルニア州、チャッツワース)を用いてcRNAを精製した。各マウスによる等量のcRNAをU74v2A高密度オリゴヌクレオチドアレイに個別にハイブリダイズさせた。アレイは45℃で16時間ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを洗浄し、ストレプトアビジン-フィコエリトリンで染色し、Hewlett-Packard遺伝子アレイスキャナーでスキャンした。1つの態様において、画像解析およびデータの定量化は、Affymetrix GeneChip(商標)解析スイートv5.0を用いて行った。
【0060】
Affymetrix GeneChip(商標)解析スイートを用いて行う場合の態様において、U74vAアレイは12,422個を超えるマウスの遺伝子および発現遺伝子配列断片(EST)を含む。各遺伝子またはESTは、20個の完全一致(PM)オリゴヌクレオチドおよび中央の塩基に単一ミスマッチを含む20個のミスマッチ(MM)対照プローブによりアレイ上に表される。すべてのアレイを標的強度2500に調整した。PMおよびMMのシグナル強度を用いて、(PM - MM)/(PM + MM)に等しい識別スコア、Rを算出した。検出アルゴリズムはRを利用して検出p値を生成し、ウィルコクソンの符号付き順位検定を用いて存在(Present)、限界(Marginal)、または非存在(Absent)判定に割り当てる。この方法の詳細は、Wilcoxon F. Individual Comparisons by Ranking Methods, Biometrics 1, 80-83, 1945、およびAffymetrix, I. New Statistical Algorithms for Monitoring Gene Expression on GeneChip Probe Arrays, Technical Notes 1, Part No. 701097 Rev. 1, 2001に見出すことができる。実験群当たり4枚のアレイのうち少なくとも2枚において「存在」であった遺伝子のみ、さらなる解析を検討した。さらに、16枚のアレイのいずれにおいてもシグナル強度が平均アレイシグナル強度より低い遺伝子は解析から除外した。これらの選択基準により、12,422個の遺伝子による生データがさらなる解析を検討するたった3456個の遺伝子に縮小された。
【0061】
1つの態様においては、任意の2群間で差次的に発現される遺伝子を同定するため、1つの群内の4つの試料のそれぞれを他の群の4つの試料のそれぞれと比較して、16対の比較を得た。ウィルコクソンの符号付き順位検定に基づく方法により、これらのデータを統計的に解析した。アレイの任意の2群間の差分値(PM-MM)を用いて、各プローブセットに関する片側p値を生成した。有意なp値と有意でないp値との規定閾値が用いられた。(詳細については、上記のAffymetrix, I. New Statistical Algorithms for Monitoring Gene Expression on GeneChip Probe Arraysを参照のこと)。1つの態様においては、上昇判定または減少判定の数が16対の比較のうち8以上であり、可能な16対の比較による平均変化倍率が1.5倍以上であった場合に、遺伝子の発現が変化したとみなす。実験的に、遺伝子の発現変化を同定するこれらの基準は、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、プライマー伸長法、活性アッセイ法、リアルタイムPCR、およびリアルタイムRT-PCR(逆転写PCR)等の方法によって確実に検証することができる。遺伝子名は、2002年8月1日現在のJackson Laboratoryマウスゲノムインフォマティクスデータベースから取得した。
【0062】
1つの態様において、LT-CR、ST-CR、およびST-CON食餌療法による効果を表2に収載する。これらの効果は変化倍率という基準で示す。LT-CRの列の数字は、LT-CR群およびLT-CON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。ST-CRの列の数字は、ST-CR群およびLT-CON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。ST-CONの列の数字は、ST-CON群およびLT-CON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。遺伝子発現に変化がない場合には「NC」と表示する。1つの態様においては、変化倍率比を決定して遺伝子発現に及ぼす効果を示す。各比に関して、分子はLT-CR群、ST-CR群、またはST-CON群における各遺伝子の発現レベルであり、分母はLT-CON群におけるその遺伝子の発現レベルである。例えば、LT-CRによる遺伝子発現の変化倍率は、LT-CR群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。ST-CRによる遺伝子発現の変化倍率は、ST-CR群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。ST-CONによる遺伝子発現の変化倍率は、ST-CON群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。
【0063】
上記のように、リアルタイムRT-PCRにより遺伝子発現を検証することができる。1つの態様において、発現が変化した遺伝子の中から無作為に選択した全部で9個の遺伝子の発現を、マイクロアレイ研究において使用したマウスから精製した全心臓RNAを用いてリアルタイムRT-PCRにより試験した。全RNAをDNase I(Ambion Inc.、テキサス州、オースティン)で処理し、これを用いて全量20μlの反応液中でcDNAを合成した。簡潔に説明すると、全RNA 2μgをランダムプライマー(Promega、ウィスコンシン州、マディソン)250 ngと共に75℃で5分間、その後氷上で5分間インキュベートした。0.1 M DTT 2μl、5 X緩衝液4μl、2.5 mM dNTP 4μl、100 U(単位)逆転写酵素(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)、および16.5 U RNase阻害剤(Promega)を添加し、37℃で2時間インキュベートした。反応は100℃で2分間煮沸することにより停止した。逆転写酵素を添加しない同一反応も行い、ゲノムDNAが存在しないことを確認した。試料はすべて同時に逆転写し、得られたcDNAを水で1:4に希釈して-80℃で保存した。
【0064】
製造業者の取扱説明書に従いQuantitect SYBRグリーンPCRキット(Quantitect SYBR Green PCR kit)(Qiagen、ドイツ、ヒルデン)およびABI PRISM 7700配列検出システム(ABI PRISM 7700 Sequence Detection System)(Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスターシティー)を用いて、リアルタイム、2段階リアルタイムRT-PCRによる相対定量を行った。プライマーはNetaffx解析センターで設計し、公的データベースに対して検証してユニークな増幅産物が得られることを確認した(http://www.affymetrix.com/analysis/index.affxおよびhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov)、(表1)。関心対象の遺伝子と平行して、転写因子S-IIのプライマーでも増幅を行った。転写因子S-IIは、そのmRNAレベルがCR食餌によって影響を受けないことから参照として用いた。各遺伝子について、例えばLT-CON継続群110(n = 4)、LT-CR継続群114(n = 4)、ST-CON継続群112(n = 4)、およびST-CR継続群108(n = 4)といった試料群それぞれのマウスから得られたそれぞれ個々のmRNA試料を用いて1段階リアルタイムRT-PCRを行った。簡潔に説明すると、希釈したcDNA 2μl、1X SYBRグリーンPCRマスターミックス(SYBR Green Master Mix)、フォワードおよびリバースプライマーそれぞれ0.5 mM、ならびに0.5単位ウラシルN-グリコシラーゼを含む25μl量でリアルタイムRT-PCRを行った。反応物を50℃で2分間インキュベートしてウラシルN-グリコシラーゼにより混入するcDNAを分解させ、95℃で15分間インキュベートしてHotStarTaq DNAポリメラーゼを活性化した。標的増幅反応を、94℃で15秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長の40サイクル行った。増幅特異性を確認するため、各プライマー対によるPCR産物を融解曲線解析に供し、次いでアガロース電気泳動に供した。
【0065】
LT-CON継続群110、LT-CR継続群114、ST-CON群112、およびST-CR群108を含む被験群それぞれの各マウスの心臓組織を単離し、異なる処理のそれぞれの効果を決定した。種々の群のマウスから単離した心臓に関して、例えば2、3例を挙げると遺伝子発現レベル、核酸レベル、タンパク質レベル、タンパク質活性レベル、炭水化物レベル、脂質レベル等のプロファイルを解析した。そのような解析の方法は当技術分野において周知である。本発明のいくつかの態様は、遺伝子発現レベルの変化の決定に焦点をおく。そのような決定が、CR、LT-CR、ST-CR、CR食餌プログラムの切り替え、および模倣化合物の効果を解析するために用い得る唯一の方法ではないことに留意されたい。
【0066】
1つの態様において、12,422個の遺伝子およびESTのmRNAの相対レベルのマイクロアレイ評価から、図2Aに示すように心臓における47個の遺伝子がLT-CR食餌プログラムにより発現が変化したことが示される。これらの差次的に発現された遺伝子を表2に示す推定上の機能によるカテゴリーにさらに分類した。LT-CRおよびST-CRは、その産物が細胞外基質および細胞骨格、中間代謝、免疫およびストレス応答、ならびにシグナル伝達の成分である遺伝子の発現に影響を及ぼした。
【0067】
表2に示す遺伝子サブセットの発現はまた、リアルタイムRT-PCRにより測定した。図3、9において、(AB005450、Z68618、Y08027,X58251、X52046、X04653、U47737、D16497、およびX00496という遺伝子名の)無作為に選択した9個の遺伝子を定量的PCRによりモニターした。図3に示すように、PCRにより、選択した9個の遺伝子それぞれに関してマイクロアレイによって検出された変化が確認された。この図からわかるように、変化倍率は同じ方向であり、変化倍率の量も実質的に同程度である。図3の結果から、本明細書において用いた解析法により、発現の変化する遺伝子が確実に同定されたことが示される。
【0068】
別の局面において、本発明は、CRにおける遺伝子発現変化の動態を評価する方法を提供する。1つの態様において、カロリー摂取に応答した遺伝子発現の変化の動態を明らかにするため、LT-CRおよびLT-CONマウスを逆の食餌に8週間切り替えた。例えば、上記のように、LT-CR群の何匹かのマウスをLT-CR食餌プログラムからST-CON食餌プログラムに切り替えた(図1)。さらに、LT-CON群の何匹かのマウスを、LT-CON食餌プログラムからST-CR食餌プログラムに切り替えた(図1)。この切り替えまたは交差摂食により、LT-CRによって発現が変化した47個の遺伝子をさらに識別した。1つの態様においては、切り替え摂食により、図2Aに示すようにカロリー摂取の変化に応答して47個の遺伝子が4つの亜群(以下に考察する)に分類または分別された。mRNAレベルの変化の動態の相違から、CRが遺伝子発現に及ぼす効果において複数の複雑な分子機構を含むことが示唆される。さらに、これらの47個の遺伝子を制御様式(正または負)に従って分類すると、4つの亜群は図2Bに示すように7つの遺伝子クラスターにさらに分別された。遺伝子は、おそらくその制御の分子機構が類似しているためにクラスターを形成する。例えば、いくつかの遺伝子は共通の制御因子(例えばエンハンサー配列)または共通のシグナル伝達経路を有する可能性があり、これらの共通の特性は、食餌プログラムを切り替えた結果同定される遺伝子クラスターを介して明らかになる。したがって、この切り替えによりモチーフの発見が可能になる。
【0069】
図2A〜2Bは、1つの例示的な態様における、RNAの供給源である心臓組織の遺伝子発現に及ぼす切り替えまたは交差摂取の効果を示す。LT-CRにより、47個の遺伝子の発現が変化した。LT-CRおよびLT-CONマウスを逆の食餌に8週間切り替えるゲノム効果により、これら47個の遺伝子は4つの亜群にさらに識別された(図2A)。LT-CRにより発現が変化するが、いずれの食餌療法を逆の食餌、ST-CONまたはST-CR食餌療法に切り替えるにことによっても変化が見られなくなる遺伝子35個の亜群。LT-CRによって誘導される遺伝子発現変化がST-CRにより再現された遺伝子8個の亜群。LT-CRによって誘導された遺伝子発現変化がST-CONにより覆されなかった遺伝子1個の亜群。最後に、LT-CRによって誘導される遺伝子発現変化がST-CRにより再現され、ST-CONによって覆されなかった遺伝子3個の亜群。
【0070】
47個の遺伝子を、種々の実験条件にわたる遺伝子発現変化の方向に従ってさらに分別した。この分別により、4つの遺伝子亜群が同様の発現パターンを有する7つの遺伝子クラスターにさらに分離された(図2B)。クラスター1(2遺伝子)は、LT-CRによるmRNAレベルの増加がST-CRによって再現され、ST-CON処理によって覆されなかったことを示す。クラスター2(1遺伝子)は、LT-CRによるmRNAレベルの増加がST-CRによって再現されず、ST-CON処理によって覆されなかったことを示す。クラスター3(1遺伝子は)、LT-CRによるmRNAレベルの増加がST-CRによって再現され、ST-CON処理によって覆されたことを示す。クラスター4(21遺伝子)は、LT-CRによるmRNAレベルの増加がST-CRによって再現されず、ST-CON処理によって覆されたことを示す。クラスター5(14遺伝子)は、LT-CRによるmRNAの減少がST-CRによって再現されず、ST-CON処理によって覆されたことを示す。クラスター6(7遺伝子)は、LT-CRによるmRNAの減少がST-CRによって再現され、ST-CON処理によって覆されたことを示す。クラスター7(1遺伝子)は、LT-CRによるmRNAレベルの減少がST-CRによって再現され、ST-CON処理によって覆されなかったことを示す。
【0071】
これらの遺伝子は発現プロファイルが類似しているためにクラスターに集合すると考えられる。同じクラスター内の遺伝子は同様の機構によって制御を受けると考えられ、したがって遺伝子の5'上流領域等の制御配列を解析して共通のシス制御エレメントを同定することができる。発現クラスターに特異的なDNA配列モチーフによって、クラスター内の遺伝子の同時制御を達成するシス制御エレメントに関する主要な仮説が構成される。AlignAce等のアルゴリズムを用いて、マイクロアレイ実験による遺伝子発現データに基づき既知および新規モチーフが同定されている。したがって、クラスター内の遺伝子と別のクラスターの遺伝子のプロモーターを比較することにより、CR過程において遺伝子発現を調節し得る既知または新規因子の潜在的結合部位が同定され得る。
【0072】
考察した例示的な方法により遺伝子を分類する方法が可能になる。図2A〜2Bから明らかなように、特定のCR食餌療法によって特定の遺伝子が同様に影響を受けるために遺伝子がクラスター(または群)に分別される。同じクラスター内の遺伝子は同時に転写制御を受ける可能性が高く、共通の配列モチーフの存在についてそれらのプロモーター領域を解析することができる。CRによる種々の条件下で同時に制御される遺伝子を同定することにより、モチーフの発見が着手される。所与の生理学的条件に対して同じように応答する遺伝子は共に分類される。例えば、図2Bに示すように、ST-CRおよびLT-CRに応答する遺伝子は2つのクラスター(3、8)を形成し;LT-CRにのみ応答する遺伝子は2つのクラスター(22、14)を形成し;ST-CONにより遺伝子は7つのクラスター(2、1、1、21、14、7、1)にさらに分割される。種々の遺伝子の発現が、同じ制御因子およびシグナル伝達系によって促進または抑制され得る。
【0073】
これらの遺伝子クラスターのそれぞれが同時に挙動することの最も倹約的な説明は、これらが同じシグナル伝達経路によって同時制御されるというものである。真核生物における遺伝子制御には、遺伝子のコード領域の上流に位置する短いDNA配列モチーフへの転写因子の結合が主に関与している。したがって、同時制御される遺伝子セットの上流配列を共通のシス制御モチーフ(短いDNA配列)に関して解析することができる。遺伝子クラスターに共通のこれらの既知または未知DNA配列モチーフ(制御モチーフ)は、転写因子の推定上の結合部位である。AlignAce等のアルゴリズムを用いて、マイクロアレイ実験による遺伝子発現データに基づき既知および新規配列モチーフが同定されている。したがって、クラスターおよび遺伝子内でプロモーターを比較することにより、CR過程において遺伝子発現を調節し得る既知または新規因子の潜在的結合部位が同定され得る。推定上の制御モチーフが結合する転写因子の同一性の知見により、どのシグナル伝達系がCRによる遺伝子の制御に関与し得るかが示唆されることになる。多くの転写因子による遺伝子制御に関与するシグナル伝達系が周知である。同定される可能性のある新規転写因子を含む他の転写因子の活性の制御に関与するシグナル伝達系は、実験的に決定することができる。同定されている既知シグナル伝達系の活性を変更する薬剤は、候補CR模倣剤である可能性がある。別の場合では、同定されているシグナル伝達系の活性を変更する潜在的CR模倣剤は、シグナル伝達系の活性のいくつかの特徴をモニターすることにより実験的に同定することができる。この特徴は、例えば、タンパク質の構造のリン酸化もしくは他の修飾または活性、あるいは特定遺伝子の活性の変化であってよい。このように、モチーフの発見は、CRの長寿化および健康寿命の延長効果を模倣し得る医薬品の発見または開発に役立ち得る。
【0074】
表2は、LT-CRが細胞外基質(ECM)および細胞骨格の遺伝子に影響を及ぼすことを示す。LT-CRにより、いくつかのコラーゲンコード遺伝子(例えば、プロコラーゲン遺伝子U03419、X58251、およびX52046)の発現が減少した。心筋では、コラーゲン基質が心臓の構造、心室および血管の弾性、ならびに筋細胞毛細血管の関係を維持している。ヒトおよびラットにおける以前の研究により、加齢に伴う心筋コラーゲンの増加が示されている。例えば、Gazoti et al., Age related changes of the collagen network of the human heart, Mech.Ageing Dev., 122: 1049-58, 2001、およびEghbali et. al., Collagen accumulation in heart ventricles as a function of growth and aging, Cardiovasc.Res., 23:723-9, 1989を参照されたい。心筋コラーゲンのこの増加は、心室および心血管の弾性の加齢に伴う減少の一因となる可能性がある。コラーゲン蓄積の考えられる機構には、老化した心臓および収縮期血圧の加齢に伴う増加に特有である筋細胞の喪失が含まれる。心筋症のマイクロアレイ研究を通して、コラーゲンおよびいくつかの他の細胞外基質タンパク質の発現増加により線維症および収縮機能障害が起こることが示された。細胞外基質、細胞骨格、およびそれらの修飾は心血管機能において重要な役割を果たす。
【0075】
表2に示すように、LT-CRに供したマウスはコラーゲン遺伝子(例えば、U03419、X58251、およびX52046)の発現の減少を示した。さらに、ST-CRに供したマウスもまたコラーゲン遺伝子(例えば、U03419、X58251、X52046、およびM15832)の発現の減少を示した。対照的に、対照摂取プログラム下のマウスは、CR食餌療法におけるマウスに対してコラーゲン遺伝子(例えば、U03419、X58251、およびX52046)の発現の増加を示した。CR(LT-CRまたはST-CR)マウスにおける細胞外基質遺伝子の発現減少により、対照マウスとは対照的にCRマウスの心筋において線維形成が低く弾性が高いことが示唆される。これらの効果は、CRが心血管血行動態の加齢に伴う衰えを遅延させる抗加齢戦略の一部である可能性がある。この結果から、CRに供したマウスは、CRの結果としてコラーゲン遺伝子の発現が減少するために、最長寿命が延びまたは加齢性心室疾患の発症が遅延した可能性があることが示される。
【0076】
表2により、CRが他の細胞外基質遺伝子の発現を変更することも示される。例えば、CRにより、基質分解エンドペプチダーゼの生理的阻害因子であるメタロプロテイナーゼ3組織阻害因子遺伝子の発現が増加した。基質の再構築は、メタロプロテイナーゼとその阻害因子の均衡の変化によって起こる。この均衡の崩壊は、メタロプロテイナーゼ組織阻害因子活性が減少した循環器疾患を含む病理学的状態と関連づけられている。したがってこの結果から、CRはメタロプロテイナーゼ組織阻害因子活性の減少を介した循環器疾患の発症を遅延し得ることが示される。さらに、CRにより、システインリッチタンパク質b1遺伝子の発現が減少した。この遺伝子の産物は細胞外基質と関係し、インテグリンに直接結合して細胞接着を支持し細胞遊走を誘導する。システインリッチタンパク質b1の発現は胚発生過程の心血管系に関与している。高齢期のその発現は血管新生および腫瘍増殖と結びつけられている。
【0077】
さらに、CRにより、微小管重合を促進し細胞骨格-膜相互作用を制御する微小管関連タンパク質tauの発現が減少した。tauはアルツハイマー病と関連があり、ニューロン特異的タンパク質であると考えられた。tauはまた心臓および他の組織においても発現する。心臓微小管重合におけるtauの役割が未だ示されていないにもかかわらず、微小管密度の増加は心肥大における収縮不全と結びつけられている。さらに、CRにより、細胞骨格の組織化において役割を果たし平滑筋細胞の形態を制御するトランスジェリン(transgelin)の発現が増加した。その発現は、トランスジェリンが筋線維芽細胞から平滑筋細胞への変換を媒介すると考えられている内皮損傷モデルにおいて上昇する。さらに、トランスジェリンはヒトの動脈硬化性プラークに存在する。EMC、細胞骨格、シグナル伝達物質、および代謝遺伝子の発現に及ぼすこれらのCRのプラス効果は、アテローム発生および高血圧症等の循環器疾患の遅延に関与し得る。
【0078】
表2はさらに、CRにより、不飽和脂肪酸の合成の律速酵素であるステアロイル-CoAデサチュラーゼ遺伝子の発現が増加したことを示す。飽和脂肪酸と一不飽和脂肪酸の均衡は膜流動性およびその物理的特性に直接影響を及ぼし、これらの脂肪酸の比の変化は血管疾患および心疾患を含む多くの病態に関係づけられている。脂質組成の変化および膜流動性の減少は、いくつかの組織において加齢に伴って起こる。このように、CRはデサチュラーゼ遺伝子発現を増加させることによって膜流動性を増強する。
【0079】
表2はまた、CRにより、アシル-CoAの加水分解によってサイトゾル中のアシル-CoA/遊離脂肪酸のレベルを調節するサイトゾルアシル-CoAチオエステラーゼ1の発現が増加することを示す。肝臓および腎臓等の組織ではチオエステラーゼは核内受容体を介して遺伝子転写を制御するが、心臓チオエステラーゼは細胞リン脂質からのアラキドン酸(AA)の放出に関与するようである。AAは、プロスタノイド、ロイコトリエン、およびエポキシエイコサトリエン酸を含む種々の心作用性化合物へと代謝され得る。これらの代謝産物およびAA自体は、イオンチャネル、ギャップ結合、およびプロテインキナーゼC活性を含む心筋細胞における種々の系を調節する。さらに興味深いことには、心収縮性に及ぼすAAの効果は、低濃度のAAでのプラス効果と高濃度のAAでのマイナス効果を兼ね備える。プラスおよびマイナス経路の相対活性によって、最終的な反応の性質が決まる。サイトゾルアシル-CoAチオエステラーゼ遺伝子発現に及ぼすCRの効果はこれらの対抗する経路の微調整であり、その結果心機能が改善される可能性がある。
【0080】
表2はまた、CRによって他の代謝遺伝子の発現が変化することを示す。新生タンパク質の翻訳後プロセシングに関与するADP-リボシルトランスフェラーゼ3遺伝子の発現がCRによって増加した。ADP-リボシルトランスフェラーゼ3の機能効果は組織によって異なる。骨格筋では、ADP-リボシルトランスフェラーゼ3遺伝子はインテグリンをリボシル化し、細胞-細胞および細胞-基質相互作用に影響を及ぼす。心筋におけるADP-リボシルトランスフェラーゼ3の役割は判明していない。CRにより、腎臓および心臓において最も豊富である炭酸脱水酵素14遺伝子の発現も増加した。炭酸脱水酵素は、酸塩基平衡およびイオン輸送を含む種々の生理的過程に関与する。心臓では、新筋収縮能がpH感受性であることから、酸塩基恒常性は重要である。さらに、衰えつつある心筋は炭酸脱水酵素活性の減少を特徴とする。この結果から、CRにより循環器疾患への進行が遅延することが示される。
【0081】
表2はさらに、CRによりいくつかの増殖因子遺伝子の発現が変化することを示す。CRにより、腫瘍形成と関連づけられている上皮膜タンパク質1遺伝子の発現が減少した。CRにより、細胞増殖の制御因子であり腫瘍抑制において役割を果たすp53調節性PA26核タンパク質遺伝子の発現が増加した。CRにより、インターフェロン誘導性膜貫通タンパク質3様遺伝子の発現が減少した。インターフェロン誘導性膜貫通タンパク質はインターフェロンの抗増殖活性を伝達することが示唆されている。心臓における増殖に及ぼすCRのこれらの対抗する効果の意味は不明である。さらに、出生後の心臓の発達は過形成よりもむしろ肥大によって起こり、心臓の原発腫瘍は稀である。
【0082】
表2はさらに、CRによって循環器疾患に関連するいくつかのシグナル伝達物質の発現が減少することを示す。CRにより、心臓で発現する2つの主要なGタンパク質共役受容体キナーゼの1つであるGタンパク質共役受容体キナーゼ5の発現が減少する。これらのキナーゼの発現および活性の上昇は、心肥大およびうっ血性心不全の発症において重要な役割を果たすことが示されている。Gタンパク質共役受容体キナーゼ5のmRNAおよびタンパク質含有量の心筋レベルは、実験的うっ血性心不全において増加する。さらに、マウスにおいてGタンパク質共役受容体キナーゼ5を遺伝子組換えによって過剰発現させることにより、心筋の性能が顕著に減少する。これらの結果から、CRに伴うこの遺伝子の発現減少は健康な心筋機能を改善および維持し得ることが示唆される。CRにより、循環器疾患に関与する3つの他の遺伝子、リボソームタンパク質S6キナーゼ、90 kDa、ポリペプチドおよび間質細胞由来因子1およびナトリウム利尿ペプチド前駆体B型の発現も減少した。リボソームタンパク質S6キナーゼは、衰えつつある心筋において活性化されることが見出されている。間質細胞由来因子1の発現は、ラットの心筋梗塞の永続的冠状動脈閉塞モデルにおいて誘導される。ナトリウム利尿ペプチドB型の心室発現は、うっ血性心不全の動物モデルにおいて増加する。この心臓ホルモンの生成の増加は左心室機能障害のマーカーであり、うっ血性心不全を患う患者において予後的意義を有する。ナトリウム利尿ペプチドB型の発現レベルが高いことは心筋障害に対する防御反応であると考えられるため、CR動物においてその発現レベルが低いことは、心筋が健康であること、ひいては心機能が効率的であることを反映し得る。
【0083】
表2はさらに、CRによって免疫応答および炎症に関連する遺伝子が影響を受けることを示す。CRマウスでは、補体成分1、q小成分、cポリペプチドおよび組織適合性2、k領域2座位等の炎症に関連する遺伝子の発現が減少した。心筋細胞および内皮細胞は、心臓の炎症領域内およびその周辺においてMHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスIおよびII抗原を発現する。MHCクラスII遺伝子および古典的な補体系の初期遺伝子はどちらも、静止マクロファージにおいて低レベルで発現し、マクロファージの活性化により上方制御される。そのような遺伝子の発現が減少することから、CRはCRマウスにおいて炎症を改善し得ることが示唆される。
【0084】
表2はさらに、CRによってストレス応答および異物代謝に関連する遺伝子が影響を受けることを示す。CRにより、シトクロムP450酵素2e1の発現が増加した。この酵素は、それが広範囲の薬剤および内因性物質を代謝する肝臓において最も多く発現される。しかし、この酵素は心臓においても発現される。シトクロムP450酵素が心臓において薬剤および生体異物の代謝に有意に寄与するかどうかは不明である。CRにより、内因性および外因性の硫黄およびセレン含有化合物の解毒および可溶化において役割を果たすチオエーテルS-メチルトランスフェラーゼの発現も増加した。シトクロムP450酵素およびチオエーテルS-メチルトランスフェラーゼの心臓での生理的役割は不明であるものの、CRによってこれらの発現が増加することから、これらが生体異物に対する心臓の保護において役割を果たし得ることが示唆される。しかし、シトクロムP450系は、細胞培養においてアラキドン酸の代謝を介して心筋細胞の収縮を調節することが示された。これにより、心臓におけるシトクロムP450酵素は細胞内シグナル伝達に関与し得ることが示唆される。
【0085】
図4は、哺乳動物試料の種々の食餌療法またはプログラムおよび化合物投与プログラムの例示的な図式100のさらなる説明を提供する。1つの態様において、哺乳動物試料はマウスである。長寿命系統C57Bl6 x C3H F1の1月齢雄マウスをHarlan(インディアナ州、インディアナポリス)から購入した。マウスはケージ当たり4匹の群として収容し、非精製食餌、PMI Nutrition International製品# 5001(Purina Mills、インディアナ州、リッチモンド)を与えた。1つの態様では、5月齢の時点でマウスを個別に収容した。1つの態様においては、5ヶ月の時点でマウスを種々の食餌または処置プログラムに供する。図4に示すように、ボックス102に示す5月齢マウスを、対照(CON)群104および長期CR(LT-CR)群106という2群のうちの1つに無作為に割り当てた。1つの態様では、CON群104の各マウスに、精製対照食餌(AIN-93M、食餌No. F05312、BIO-SERV)を1週間当たり93 kcal与えた。1つの態様では、LT-CR群106の各マウスに、精製CR食餌(40%制限AIN-93M、食餌No. F05314、BIO-SERV)を1週間当たり52.2 kcal与えた。1つの態様において、LT-CRマウス106の各マウスはCON群104の各マウスよりも約40%少ないカロリーを消費した。CR食餌はタンパク質、ビタミン、およびミネラルが濃縮されており、そのためCRマウスはグラム体重当たり対照マウスとほぼ同じ量のこれらの栄養分を消費した。マウスは自由に酸性水道水を飲むことができた。用いたマウスのいずれにも病態の徴候は検出されなかった。動物使用手順はすべて、施設内動物使用委員会による承認を受けた。
【0086】
1つの態様においては、20月齢の時点で、LT-CR群106のマウスにCR食餌をさらに2ヶ月(8週)間与え続けた。CON群104のマウスは種々の被験化合物に供する種々の群に分割し、1つの態様において被験化合物はグルコース制御化合物である。1つの態様において、CON群104のマウスを、CON群108、短期CR(ST-CR)群110、メトホルミン群112、グリピジド群114、ロシグリタゾン群116、メトホルミン-グリピジド併用群118、および大豆イソフラボン群120という7つの実験群に無作為に割り当てた。メトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボンは使用し得る被験化合物のいくつかである。メトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾンは、グルコース制御化合物の例である。CON群108の各マウスには、1週間当たり93 kcalの対照食餌のみを8週間与え続けた。ST-CR群110の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を2週間、その後1週間当たり52.2 kcalのCR食餌を6週間与えた。他の5群のマウスには、1つの薬剤または2つの薬剤の組み合わせを含む対照食餌を全部で8週間与えた。薬剤または化合物の投与は8週間よりも短くてよく、例えば約1日〜約8週間であってよい。1つの態様では、メトホルミン群112の各マウスに、1週間当たり93 kcalの対照食餌および対照食餌1 kgにつきメトホルミン2100 mgを与え;グリピジド群114の各マウスに、1週間当たり93 kcalの対照食餌および対照食餌1 kgにつきグリピジド1050 mgを与え;ロシグリタゾン群116の各マウスに、1週間当たり93 kcalの対照食餌および対照食餌1 kgにつきロシグリタゾン80 mgを与え;メトホルミン-グリピジド併用群118の各マウスに、1週間当たり93 kcalの対照食餌ならびに対照食餌1 kgにつきメトホルミン1050 mgおよびグリピジド525 mgを与え;大豆イソフラボン群120の各マウスに、対照食餌中に0.25%(重量による)の大豆イソフラボンを含む対照食餌を1週間当たり93 kcal与えた。
【0087】
マウスに投与するメトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボン等の薬剤または化合物の量は、化合物の種類および/またはそれらの濃度に応じて変動し得る。1つの態様において、メトホルミンの投与量は約0.2 mg〜2.0 gmメトホルミン/kg体重/日であってよい。グリピジドの投与量は約1.05 x 10-3 mg〜105 mgグリピジド/kg体重/日であってよい。ロシグリタゾンの投与量は約8.0 x 10-4 mg〜8.0 mgロシグリタゾン/kg体重/日であってよい。メトホルミンとグリピジドの組み合わせの投与量は、約0.1 mg〜1.0 gmメトホルミン/kg体重/日および約0 mg〜約52.5 mgグリピジド/kg体重/日であってよい。大豆イソフラボンの投与量は、対照食餌中、1日の食餌の約0.025%〜2.5%(重量による)の大豆イソフラボンであってよい。
【0088】
メトホルミンはSigma、ミズーリ州、セントルイスから入手した;グリピジドもSigmaから入手した;ロシグリタゾン(アバンディアとして知られる)はSmtihKline Beechamから入手した;大豆イソフラボン抽出物は、Life Extension Foundationから入手したNOVASOY 400であった。これらの化合物は、食餌供給業者(BIO-SERV)が粉末対照食餌と混合し、常温圧縮して1グラムの固形飼料にした。
【0089】
マウスは22月齢で屠殺した。マウスは48時間絶食させ、頚椎脱臼により屠殺した。即座に臓器を摘出し、プラスチックスクリューキャップチューブに入れ、液体窒素で瞬時凍結した。組織は液体窒素中で保存した。
【0090】
1つの態様において、LT-CR群106のマウスをST-CR群110のマウスよりも長いまたは実質的に長い期間、例えば5週〜40ヶ月長い期間CR食餌に供する。同様に、LT-CR群106のマウスを、メトホルミン群112、グリピジド群114、ロシグリタゾン群116、メトホルミン-グリピジド併用群118、および大豆イソフラボン群120等の薬剤群のマウスよりも長いまたは実質的に長い(例えば5週〜40ヶ月長い)期間CR食餌に供する。いくつかの態様においては、LT-CR群106のマウスを寿命のほぼ末期までCR食餌に供する。
【0091】
上記の化合物(例えば、メトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾン)に加えてまたはその代わりに他の化合物も選択し得ることに留意されたい。いくつかの態様においては、メトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾン等のグルコース制御化合物を単独でまたは組み合わせて試験した。CRにより血液インスリンレベルが顕著に低下し(〜50%)、血液グルコースレベルが低下し(〜15%)、さらに組織におけるインスリン感受性が増すことから、グルコース制御物質を選択する。これらの同様の効果はグルコース制御医薬品によって生じる場合が多い。循環するグルコースおよびインスリンレベルを下げることが知られている化合物は有望な候補CR模倣剤である。したがって、本開示の範囲から逸脱することなく、グルコース制御物質である他の被験化合物を本発明の態様において用いることが可能である。さらに、図1に挙げる被験化合物に加えて小分子癌化学予防薬(例えば大豆イソフラボン)も使用し、CR模倣化合物をスクリーニングすることができる。
【0092】
上記したように、対照データは、図4に図示するようにマウスの被験群と同時に対照食餌プログラムに供するマウスの対照群ではなく、結果が記録されている以前の研究から取得することもできる。したがって、対照データは以前に行われた対照食餌プログラムの施行から取得してよい。この対照データは一度取得して保存し、後のスクリーニング研究において後のスクリーニング研究での結果に対して比較するために呼び戻すことができる。同様に、LT-CRまたはST-CRによる遺伝子発現レベル(またはタンパク質レベルの変化、タンパク質活性レベルの変化、炭水化物もしくは脂質レベルの変化、核酸レベルの変化、タンパク質もしくは核酸合成速度の変化、タンパク質もしくは核酸安定性の変化、タンパク質もしくは核酸蓄積レベルの変化、タンパク質もしくは核酸分解速度の変化、およびタンパク質もしくは核酸の構造もしくは機能の変化等の他の種類の測定値)を評価して一度保存し、後のスクリーニング研究において後のスクリーニング研究での結果に対して比較するために呼び戻すことができる。当然のことながら、同様の遺伝子または他のパラメータセットに対して比較を行うために、以前に保存された研究が、後のスクリーニング研究における遺伝子(またはタンパク質等の他のパラメータ)に対して(同一でないとしても)同様の遺伝子(または他のパラメータ)セットを有することが典型的に望ましい。
【0093】
さらに、図4に図示した図式と同様の図式において化合物をマウスに与えることにより、その化合物がCRの効果を再現するかどうかまたはCRを模倣するかどうかを評価または決定することができる。
【0094】
1つの態様において、種々のマウス群における特定の遺伝子または核酸配列のmRNAレベルをマウスの様々な器官で測定した。1つの態様では、供給業者によって記載される通りに、TRI試薬(Molecular Research Center Inc.、オハイオ州、シンシナティ)中でTekmar Tissuemizer(Tekmar Co.、オハイオ州、シンシナティ)によってホモジナイズすることにより、凍結組織断片から全肝臓RNAを単離した。mRNAレベルは、標準的なAffymetrix手順(Affymetrix、カリフォルニア州、サンタクララ)に従って、Affymetrix U74v2A高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いて測定した。簡潔に説明すると、オリゴ(dT)およびT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列を含むプライマーを用いて、スーパースクリプト選択システムにより各マウスの器官に由来する全RNAからcDNAを調製した。Enzoバイオアレイ高収率RNA転写産物標識キット(Enzo Biochem)を用いて、精製cDNAからビオチン化cRNAを合成した。RNeasyミニカラム(Qiagen、カリフォルニア州、チャッツワース)を用いてcRNAを精製した。各マウスによる等量のcRNAをU74v2A高密度オリゴヌクレオチドアレイに個別にハイブリダイズさせた。アレイは45℃で16時間ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを洗浄し、ストレプトアビジン-フィコエリトリンで染色し、Hewlett-Packard遺伝子アレイスキャナーでスキャンした。画像解析およびデータの定量化は、Affymetrix GeneChip(商標)解析スイートv5.0を用いて行った。
【0095】
1つの態様において、画像解析およびデータの定量化は、Affymetrixマイクロアレイスイート5.0(Affymetrix Microarray Suite 5.0)を用いて行った。U74vAアレイは、12,422個を超えるマウスの遺伝子および発現遺伝子配列断片(EST)を含む。各遺伝子またはESTは、20個の完全一致(PM)オリゴヌクレオチドおよび中央の塩基に単一ミスマッチを含む20個のミスマッチ(MM)対照プローブによりアレイ上に表される。すべてのアレイを標的強度2500に調整した。PMおよびMMのシグナル強度を用いて、(PM - MM)/(PM + MM)に等しい識別スコア、Rを算出した。検出アルゴリズムはRを利用して検出p値を生成し、ウィルコクソンの符号付き順位検定を用いて存在、限界、または非存在判定に割り当てる。この方法の詳細は、Wilcoxon F. Individual Comparisons by Ranking Methods, Biometrics 1, 80-83, 1945、およびAffymetrix, I. New Statistical Algorithms for Monitoring Gene Expression on GeneChip Probe Arrays, Technical Notes 1, Part No. 701097 Rev. 1, 2001に見出すことができる。実験群の全アレイの少なくとも75%において「存在」であった遺伝子のみ、さらなる解析を検討した。さらに、全アレイのいずれにおいてもシグナル強度が平均アレイシグナル強度より低い遺伝子を解析から除外した。これらの選択基準により、12,422個の遺伝子による生データがさらなる解析を検討する3505個の遺伝子に縮小された。これらのマイクロアレイを使用することにより、被験対象群間の遺伝子発現プロファイルが速やかに得られ、CRのいくつかの効果を再現し得り、さらに最大寿命を延ばし得る可能性のある化合物の迅速なスクリーニングが可能になる。
【0096】
1つの態様では、研究は表3に示すように8つの実験群を含んだ。1つの態様において、対照群を7つの処置群のそれぞれと比較して、それぞれの処置が遺伝子発現に及ぼす特異的な効果を決定した。同様に対照群を7つの処置群のそれぞれと比較して、それぞれの処置が核酸レベル、タンパク質活性レベル、およびタンパク質レベルに及ぼす特異的な効果を決定し得ることは理解されるべきである。LT-CR群およびST-CR群による結果を、5つの被験化合物の処置のそれぞれによる結果と比較した。1つの態様においては、これらの比較を用いて薬剤処置およびCRに共通の遺伝子発現プロファイルを特徴づけた。
【0097】
任意の処置群と対照群との間で差次的に発現される遺伝子を同定するため、対照群内の4つの試料のそれぞれを処置群内の4つの試料のそれぞれと比較して、16対の比較を得た。ウィルコクソンの符号付き順位検定に基づく方法により、これらのデータを統計的に解析した。アレイの任意の2群間の差分値(PM-MM)を用いて、各プローブセットに関する片側p値を生成した。有意なp値と有意でないp値との規定閾値が用いられた。(詳細については、上記のAffymetrix, I. New Statistical Algorithms for Monitoring Gene Expression on GeneChip Probe Arraysを参照のこと)。上昇判定または減少判定の数が対比較において50%以上であり、可能な対比較による平均変化倍率が1.5倍以上であった場合に、遺伝子の発現が変化したとみなす。本発明者らは、これらの基準によって、ノーザンブロットにより確実に検証される遺伝子発現変化が同定されることを実験的に見出し、その詳細は、Cao, et al., Genomic profiling of short- and long-term caloric restriction in the liver of aging mice, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98, 10630-10653 (2001)においてさらに見出すことができる。遺伝子の発現変化はまた、ウェスタンブロット、ドットブロット、プライマー伸長法、活性アッセイ法、リアルタイムPCR、およびリアルタイムRT-PCR(逆転写PCR)等の方法によって検証することもできる。
【0098】
遺伝子名は、2002年12月1日現在のJackson Laboratoryマウスゲノムインフォマティクスデータベースから取得した。
【0099】
1つの態様において、LT-CRおよびST-CR食餌療法、ならびにメトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボン、およびそれらの組み合わせによって生じる効果を表5〜10に収載する。これらの効果は、種々の遺伝子について遺伝子変化倍率という基準で示す。表5において、メトホルミンの列の数字は、メトホルミン群および対照(CON)群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。LT-CRの列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。ST-CRの列の数字は、ST-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。遺伝子発現に変化がない場合には「NC」と表示する。表6は、グリピジドに適用する以外は表5と同様である。したがって、グリピジドの列の数字は、グリピジド群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。表7は、グリピジドおよびメトホルミン(GM)の組み合わせに適用する以外は表5と同様である。したがって、GMの列の数字は、GM併用群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。表8は、ロシグリタゾンに適用する以外は表5と同様である。したがって、ロシグリタゾンの列の数字は、ロシグリタゾン群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。表9は、大豆イソフラボンに適用する以外は表5と同様である。したがって、大豆イソフラボンの列の数字は、大豆イソフラボン群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
【0100】
1つの態様においては、変化倍率を決定して遺伝子発現に及ぼす効果を示す。処置群における遺伝子の発現レベルがCON群における発現レベル以上である場合、発現の変化倍率は、分子がLT-CR、ST-CR、メトホルミン、グリピジド、メトホルミンとグリピジドの組み合わせ、ロシグリタゾン、または大豆イソフラボン処置のいずれか1つの後の遺伝子の発現レベルであり、分母がCON群におけるその遺伝子の発現レベルである比として算出する。例えば、LT-CR群における遺伝子の発現の変化倍率は、LT-CRマウスにおけるその遺伝子の発現レベルとCON群におけるその遺伝子の発現レベルとの比であり;ST-CRによって生じる遺伝子の発現の変化倍率は、ST-CR群における遺伝子の発現とCON群におけるその遺伝子の発現レベルとの比であり;メトホルミン群、グリピジド群、グリピジド・メトホルミン併用群、ロシグリタゾン群、または大豆イソフラボン群における遺伝子の発現の変化倍率は、メトホルミン群、グリピジド群、グリピジド・メトホルミン併用群、ロシグリタゾン群、または大豆イソフラボン群のいずれか1つにおける遺伝子の発現とCON群におけるその遺伝子の発現レベルとの比である。処置群における遺伝子の発現レベルがCON群における発現レベルよりも低い場合、発現の変化倍率はその比の負の逆数として算出する。したがって、CON群における遺伝子の発現レベルが分子であり、処置群におけるその遺伝子の発現レベルが分母であり、マイナス符号を用いて変化倍率の減少を示す。
【0101】
1つの態様では、Affymetrixマイクロアレイを用いて、マウスの肝臓においていくつかのグルコース制御医薬品(例えば、メトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾン)および大豆イソフラボン等の他の化合物がCRに特異的な遺伝子発現プロファイルを生じる能力を評価した。図4に示す図式を用いて、化合物をマウスに与えた。
【0102】
図5は、1つの態様において、マウスへの8週間の薬剤投与により、メトホルミンについては63個の遺伝子、グリピジドについては46個の遺伝子、メトホルミンとグリピジドの組み合わせいついては46個の遺伝子、ロシグリタゾンについては44個の遺伝子、さらに大豆イソフラボンについては3個の遺伝子の発現が有意に変化したことを示す。メトホルミンによって発現が変化した63個の遺伝子のうち:発現が変化した4個の遺伝子は、ST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した17個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した15個の遺伝子は、LT-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した3個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化に対して逆方向の変化を有し;発現が変化した24個の遺伝子は、メトホルミンの投与のみに起因する。
【0103】
さらに図5により、グリピジドによって発現が変化した46個の遺伝子のうち:発現が変化した0個の遺伝子は、ST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した7個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した7個の遺伝子は、LT-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した6個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化に対して逆方向の変化を有し;発現が変化した26個の遺伝子は、グリピジドの投与のみに起因する。
【0104】
さらに図5により、ロシグリタゾンによって発現が変化した44個の遺伝子のうち:発現が変化した5個の遺伝子は、ST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した12個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した4個の遺伝子は、LT-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した5個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化に対して逆方向の変化を有し;発現が変化した18個の遺伝子は、ロシグリタゾンの投与のみに起因する。
【0105】
さらに図5により、メトホルミンとグリピジドの組み合わせによって発現が変化した46個の遺伝子のうち:発現が変化した2個の遺伝子は、ST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した6個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した8個の遺伝子は、LT-CRによって生じる変化と同一の変化を有し;発現が変化した5個の遺伝子は、LT-CRおよびST-CRによって生じる変化に対して逆方向の変化を有し;発現が変化した25個の遺伝子は、メトホルミンとグリピジドの組み合わせの投与のみに起因する。
【0106】
図5はさらに、大豆イソフラボンの投与によって発現が変化した3個の遺伝子のうち:1つはLT-CRと同一であり、1つはLT-CRおよびST-CRと同一であり、1つは大豆イソフラボンの投与のみに起因することを示す。
【0107】
表4は、図5に示した結果において1つの化合物または化合物の組み合わせがCRに特異的な遺伝子発現プロファイルを再現する程度を割合で要約したものである。メトホルミンに関しては、発現変化が誘導されたうち57%(36遺伝子)がLT-CRまたはST-CRのいずれかによって誘導される変化のサブセットであった。他の値は、ロシグリタゾンに関する48%(21遺伝子)、メトホルミンとグリピジドの組み合わせに関する35%(16遺伝子)、グリピジドに関する30%(14遺伝子)、および大豆イソフラボンに関する67%(2遺伝子)であった。これらの割合から、グルコース制御医薬品がCRに特異的な遺伝子発現プロファイルを実質的に再現することが明らかに示される。
【0108】
さらに、メトホルミンによって変化した63個の遺伝子のうち、51%(32遺伝子)はLT-CRによって、33%(21遺伝子)はST-CRによって同様に変化した(図5;表4)。メトホルミンによって誘導される遺伝子発現変化のうち全部で57%(36遺伝子)は、LT-CRまたはST-CRのいずれかによって再現された。メトホルミンによって発現が影響を受けた遺伝子の27%は、LT-CRとST-CRの両方によって変化した(17遺伝子)。メトホルミンは、LT-CRまたはST-CRによって影響されない遺伝子の24の発現変化を生じた(変化の38%)。本明細書では、CRと共通の効果と区別するために、これらの効果を薬剤特異的変化と称する。最後に、メトホルミンにより、LT-CRによって生じる発現変化と逆方向の発現変化が誘導された遺伝子が3個存在した(図5)。
【0109】
さらに、ロシグリタゾンによって変化した44個の遺伝子のうち、36%(16遺伝子)はLT-CRによって、39%(17遺伝子)はST-CRによって同様に変化した(図5;表4)。ロシグリタゾンによって誘導される遺伝子発現変化のうち全部で48%(21遺伝子)は、LT-CRまたはST-CRのいずれかによって再現された。ロシグリタゾンによって発現が影響を受けた遺伝子の27%は、LT-CRとST-CRの両方によって変化した(12遺伝子)。ロシグリタゾンは、LT-CRまたはST-CRによって影響されない遺伝子の18の発現変化を生じた(変化の41%)。最後に、ロシグリタゾンにより、LT-CRによって生じる発現変化と逆方向の発現変化が誘導された遺伝子が5個存在した(図5)。
【0110】
さらに、グリピジドによって変化した46個の遺伝子のうち、30%(14遺伝子)はLT-CRによって、15%(7遺伝子)はST-CRによって同様に変化した(図5;表4)。グリピジドによって発現が影響を受けた遺伝子の15%は、LT-CRとST-CRの両方によって変化した(7遺伝子)。グリピジドは、LT-CRまたはST-CRによって影響されない遺伝子の26の発現変化を生じた(変化の56%)。最後に、グリピジドにより、LT-CRによって生じる発現変化と逆方向の発現変化が誘導された遺伝子が6個存在した(図5)。
【0111】
さらに、グリピジド-メトホルミン併用によって変化した46個の遺伝子のうち、30%(14遺伝子)はLT-CRによって、17%(8遺伝子)はST-CRによって同様に変化した(図5;表4)。グリピジド-メトホルミンによって誘導される遺伝子発現変化のうち全部で35%(16遺伝子)は、LT-CRまたはST-CRのいずれかによって再現された。グリピジド-メトホルミンによって発現が影響を受けた遺伝子の13%は、LT-CRとST-CRの両方によって変化した(6遺伝子)。グリピジド-メトホルミンは、LT-CRまたはST-CRによって影響されない遺伝子の25の発現変化を生じた(変化の54%)。最後に、グリピジド-メトホルミンにより、LT-CRによって生じる発現変化と逆方向の発現変化が誘導された遺伝子が5個存在した(図5)。
【0112】
さらに、大豆イソフラボンによって変化した3個の遺伝子のうち、67%(1遺伝子)はLT-CRによって同様に変化し、大豆イソフラボンにより発現変化が誘導された1個の遺伝子は、LT-CRにおいてもST-CRにおいても認められなかった(図5)。
【0113】
表5にさらに示されるように、メトホルミンおよびCRにより発現が変化した遺伝子は、ストレスおよびシャペロンタンパク質、代謝、シグナル伝達、ならびに細胞骨格と関連がある。表5により、メトホルミンならびにLT-CRおよびST-CRによって起こる種々の遺伝子発現の変化が示される。これらの結果から、加齢の遅延および加齢性疾患の発症の遅延を含むCRの効果(または効果の少なくともいくつか)を再現する化合物としてメトホルミンを用い得ることが示される。例えば、グルコース6-ホスファターゼの発現がメトホルミンおよびLT-CRによって誘導された。これは糖新生における重要な酵素である。これらの結果は、CRにより、糖新生するため、およびエネルギー生成に関する肝臓外タンパク質異化作用の副産物を除去するための肝臓の酵素生産能が増加することを示す他のマイクロアレイおよび従来の研究と一致する。例えば、Dhahbi, et al., Caloric restriction alters the feeding response of key metabolic enzyme genes, Mech. Ageing Dev. 122, 35-50, 2001、およびDhahbi, et al., Calories and aging alter gene expression for gluconeogenic, glycolytic, and nitrogen-metabolizing enzymes, Am. J. Physiol. 277, E352-E360, 1999を参照されたい。メトホルミンによって再現されるこのCR効果は、損傷を受けたタンパク質の蓄積が加齢速度の一因となると仮定する酸化的ストレス理論等の加齢の理論と一致する。CRにより、本来健康な齧歯類および様々な他の種において、加齢性疾患の発症が妨げられまたは遅延し、平均および最大寿命が延びる。メトホルミンは表5に示すように上記の遺伝子発現に対する重要な効果を再現し得り、CRのように、本来健康な齧歯類ならびに魚類、イヌ、サル、およびヒトを含む他の哺乳動物等の様々な他の種において、加齢性疾患の発症を妨げるかまたは遅延させ得ること、さらに平均および最大寿命を延ばし得ることが期待される。
【0114】
さらに、対照食餌群(例えばCON群108)とCR食餌群(例えば、ST-CR群110およびLT-CR群122)との間で発現が異なる遺伝子を解析することにより、CR、LT-CR、またはST-CR過程において優先的に発現する特定遺伝子を示すことができる。被験化合物によって起こる遺伝子発現についても同様の解析を行うことができる。メトホルミン等の被験化合物による処置過程において発現が変化する遺伝子が、CR過程において発現が変化する遺伝子と同じ遺伝子であることを示す結果から、そのような化合物が、本来健康な齧歯類および様々な他の種(例えばヒト)において加齢性疾患の発症を妨げるかまたは遅延させる、および平均および最大寿命を延ばす等のCR効果の少なくともいくつかを再現するCR模倣化合物である可能性があることが示される。
【0115】
メトホルミンならびにLT-CRおよびST-CRにより、分子シャペロン、グルコース調節タンパク質58 kDaの発現が減少した。マイクロアレイ解析による研究から、CRはほぼすべての小胞体シャペロンの発現を負に制御することが示されている。シャペロン発現の減少はアポトーシス促進性であり抗腫瘍性である;シャペロンレベルの増加は、アポトーシスから細胞生存へと局面を変える。したがって、シャペロンタンパク質の発現と前癌細胞の生存との間には逆相関が存在する。シャペロンタンパク質を減少させることは、癌の発症率の減少につながると考えられる。シャペロンタンパク質の発現を減少させるメトホルミン等の化合物は、癌の発症率を低減する傾向があると考えられる。
【0116】
さらに、シャペロンの誘導は、いくつかの細胞および組織における新たな抗アポトーシス機構として浮上した。腫瘍形成過程でシャペロンレベルが上昇することにより、細胞が発癌および腫瘍形成を生き延びることが可能になる。GRP78、GRP94、およびGRP170の誘導は、形質転換細胞の生存、増殖、および免疫抵抗性に必須である。腫瘍形成に関連したシャペロンの誘導は、腫瘍に薬剤耐性を付与する。シャペロンの誘導によって、前癌細胞が、形質転換、増殖、および発癌の発症をもたらすDNA損傷および変異を生き延びることができるようになる。メトホルミンは肝臓においてシャペロンレベルを減少させ、このことは癌の発症率の減少につながると考えられる。
【0117】
表6〜9は、グリピジド、メトホルミンとグリピジドの組み合わせ、ロシグリタゾン、および大豆イソフラボン、さらにLT-CRおよびST-CRによる遺伝子発現の変化を示す。これらの表は、薬剤およびCRによって発現が変化した遺伝子ならびに薬剤のみで発現が変化した遺伝子を含む。
【0118】
表10は、LT-CRとマウスに投与した化合物とで発現が逆方向に変化する遺伝子を含む。
【0119】
結果からわかるよううに、ロシグリタゾン(表8)およびグリピジド(表6)もまた、CR、LT-CR、および/またはST-CRの効果(または効果の少なくともいくつか)を再現するCR模倣剤である可能性がある。一方、大豆イソフラボンはたった3つの遺伝子発現変化しか生じない。1つの変化はLT-CRおよびST-CRと同一であり、1つの変化はLT-CRと同一であった(表9)。大豆イソフラボンは推定上の化学予防薬である。したがって、大豆イソフラボンは、このアッセイにおいて、グリピジド、メトホルミン、メトホルミンとグリピジドの組み合わせ、およびロシグリタゾンが生じるような強力な好結果を生じなかった。
【0120】
CRの効果がすべて望ましいとは限らないことが理解されるべきである。例えば、CRは免疫を抑制し、性欲を減退させ、受胎能を減少させ、さらに副腎および性腺ステロイドの生成を抑制する。したがって、被験化合物がCRの有益な効果を再現する薬剤として認識されるためには、CRによって誘導される効果のすべて、実際には多くがメトホルミン等の被験化合物によって再現される必要はない。
【0121】
本発明の種々の態様を用いて、いくつかの被験化合物、例えばメトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾン等のグルコース制御医薬品、ならびに大豆イソフラボン抽出物を、遺伝子発現に及ぼすST-CRおよび/またはLT-CRの効果を模倣するまたは再現する能力についてスクリーニングした。グルコース制御医薬品およびこれらの医薬品の2つの組み合わせにより、LT-CRおよび/またはST-CRによって生じるのと同じ肝臓の遺伝子発現の変化がかなりの数生じた。これらの知見から、これらの化合物が有望な候補CR模倣剤であることが示唆される。大豆イソフラボンは強力な肯定的遺伝子発現徴候を生じなかった。これらの結果から、マイクロアレイプロファイリングは、抗加齢および抗疾患特性に関して薬剤をスクリーニングする迅速な方法であることが示される。ヒトを含む哺乳動物にメトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾン(および類似化合物)の有効量を投与し、CRの効果の少なくともいくつかを再現し得ることが期待される。さらに、ヒトおよびマウスを含む哺乳動物にメトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾン(および類似化合物)を投与し、本来健康な哺乳動物の最大寿命を延ばし得ることが期待される。類似化合物には、誘導体(例えば塩誘導体)および他の科学的に類似した構造が含まれる。メトホルミンの有効量は約0.2 mg〜2.0 gmメトホルミン/kg体重/日であってよい。グリピジドの有効量は約1.05 x 10-3 mg〜105 mgグリピジド/kg体重/日であってよい。ロシグリタゾンの有効量は約8.0 x 10-4 mg〜8 mgロシグリタゾン/kg体重/日であってよい。メトホルミンとグリピジドの組み合わせの有効量は、約0.1 mg〜1.0 gmメトホルミン/kg体重/日および約0 mg〜約52.5 mgグリピジド/kg体重/日であってよい。
【0122】
1つの態様では、種々の化合物または薬剤によって誘導される遺伝子発現プロファイルをLT-CRおよびST-CRによって誘導される遺伝子発現プロファイルと比較し、遺伝子発現の共通の変化を同定し、薬剤がCRに特異的な効果を再現する程度を決定する。試験した化合物(例えば、メトホルミン、グリピジド、ロシグリタゾンおよび大豆イソフラボン)のそれぞれが遺伝子発現に及ぼすCRの効果を再現する程度を決定した。図6は、LT-CR、ST-CR、および図4に示す被験群に投与した化合物または薬剤のそれぞれの効果の重複のベン図を示す。括弧内の数字は、所与の薬剤がLT-CRによって生じる発現変化と逆方向の発現変化を誘導した遺伝子を示す。遺伝子の数は表5〜10による。表11および図6に示すように、メトホルミンは遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果の11.3%(283遺伝子のうち32遺伝子)を再現した。メトホルミンは遺伝子発現に及ぼすST-CRの効果の39.6%(53遺伝子のうち21遺伝子)を再現した。グリピジドは遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果の5.0%(279遺伝子のうち14遺伝子)を再現した。グリピジドは遺伝子発現に及ぼすST-CRの効果の13.5%(52遺伝子のうち7遺伝子)を再現した。メトホルミンとグリピジドの組み合わせは、遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果の5.0%(280遺伝子のうち14遺伝子)を再現した。メトホルミンとグリピジドの組み合わせは、遺伝子発現に及ぼすST-CRの効果の15.1%(15遺伝子のうち8遺伝子)を再現した。ロシグリタゾンは遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果の5.7%(280遺伝子のうち16遺伝子)を再現した。ロシグリタゾンは遺伝子発現に及ぼすST-CRの効果の32.1%(48遺伝子のうち17遺伝子)を再現した。大豆イソフラボンは遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果の0.7%(285遺伝子のうち2遺伝子)を再現した。大豆イソフラボンは遺伝子発現に及ぼすST-CRの効果の0%(53遺伝子のうち1遺伝子)を再現した。これらの割合から、メトホルミン、グリピジド、およびロシグリタゾンが、肝臓遺伝子発現に対するCRと共通のいくつかの効果を共有することが明らかに示される。図に示すように、メトホルミンは、グリピジド、ロシグリタゾン、およびグリピジド-メトホルミン併用よりもCRの効果のいくつかの再現において効率的である。大豆イソフラボンは、CRの効果の再現において試験した他の化合物ほど有効ではない。
【0123】
本明細書に記載する種々の方法を用いて、ヒトを含む哺乳動物においてCR(例えばST-CRまたはLT-CR)の効果の少なくともいくつかを再現し得る薬剤候補(例えば介入)を探索する(例えばスクリーニングする)ことができる。さらに、これらの方法を用いて、ヒトを含む生物の最大寿命を延ばし得る薬剤候補(例えば介入)を探索する(例えばスクリーニングする)ことができる。
【0124】
上記の態様において同定された物質が寿命を延ばし、加齢性疾患を遅延させ、加齢性疾患の発症年齢を上げその発症率を減少させることが期待され得る。マイクロアレイアッセイまたは他のアッセイにおいてLT-CRまたはST-CRの徴候(例えば遺伝子発現変化の同様のパターン)を再現する物質は、確実なCR模倣剤として作用し、一般に加齢性疾患の発症を遅延させその発症率を減少させることにより最大寿命を延ばし健康を改善する可能性が高い。
【0125】
本発明の1つの態様において、老齢哺乳動物をCR食餌プログラムで処置することにより老齢哺乳動物の最大寿命を延ばすことができる。老齢哺乳動物は、例えば少なくとも一段階といった段階的なCR食餌プログラムに徐々に供することができる。少なくとも一段階のCR食餌プログラムによる老齢哺乳動物の処置は、急に(突然に)ではなく徐々に行うべきである。したがって、哺乳動物の食餌中のカロリー数は急に減らさない。図7に、マウス等の老齢哺乳動物101をCR食餌プログラムで処置する例示的な態様を示す。以下から明らかになるように、老齢哺乳動物のCRによる段階的な処置により、老齢哺乳動物の最大寿命が延び、老齢哺乳動物にCRの他の利点がもたらされ得る。1つの態様において、老齢哺乳動物101をいくつかの群に分割し、それぞれをCR食餌プログラムに様々な期間供した。1つの態様では、老齢哺乳動物101をCR2群103、CR4群105、CR8群107、およびCON群109に分割した。
【0126】
1つの態様において、老齢哺乳動物101は、長寿命F1雑種系統B6C3F1の雄マウスである。老齢哺乳動物101は、このマウスの場合、約18月齢であってよい。マウスはHarland(インディアナ州、インディアナポリス)から購入した。CR2群103の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を1週間、その後1週間当たり52 kcalのCR食餌をさらに1週間与えた。CR4群105の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を2週間、その後1週間当たり52 kcalのCR食餌をさらに2週間与えた。CR8群107の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を2週間、その後1週間当たり52 kcalのCR食餌を6週間与えた。CON群109の各マウスには、1週間当たり93 kcalの対照食餌を8週間与えた。
【0127】
1つの態様において、それぞれのマウスに与えた食餌には、BIO-SERV、ニュージャージー州、フレンチタウン 08825の対照食餌AIN-93M、食餌No. 505312による1 gm固形飼料の半精製対照食餌が含まれる。図7に示すように、CR2群103、CR4群105、およびCR8群107等の特定の群について、これらの群の各マウスを、最終的に1週間当たり52 kcalのCR食餌からなるCR食餌プログラムをもたらす、低減した食餌プログラムに供した。図7から、低減が段階的に行われたことがわかる;例えばCR2群103では、まず1週間当たり77 kcalのCR食餌を1週間与え、最後に1週間当たり52 kcalのCR食餌をさらに1週間与えることにより、各マウスを低減した食餌に供した。食餌中のカロリーを段階的に徐々に低減することにより、各群のマウスが、死を招き得るカロリー摂取の急激な減少を起こさないようにした。
【0128】
さらに、表12にCR食餌プログラムと対照食餌プログラムの食餌組成の相違を示す。対照食餌プログラムは、約14 gm/100 gm食餌カゼイン、約0.2 gm/100 gm食餌L-システイン、約46.6 gm/100 gm食餌コーンスターチ、約15.5 gm/100 gm食餌デキストリン化(dextrinized)コーンスターチ、約10.0 gm/100 gm食餌ショ糖、約4.0 gm/100 gm食餌コーン油(Mazola)、約5 gm/100 gm食餌セルロース、約3.5 gm/100 gm食餌ミネラル混合物(AIN-76)、約0.3 gm/100 gm食餌酒石酸水素コリン、および約1 gm/100 gm食餌ビタミン混合物からなる。CR食餌プログラムは、約23.3 gm/100 gm食餌カゼイン、約0.3 gm/100 gm食餌L-システイン、約29.5 gm/100 gm食餌コーンスターチ、約15.5 gm/100 gm食餌デキストリン化コーンスターチ、約10.0 gm/100 gm食餌ショ糖、約6.7 gm/100 gm食餌コーン油、約6.8 gm/100 gm食餌セルロース、約5.8 gm/100 gm食餌ミネラル混合物、約0.4 gm/100 gm食餌酒石酸水素コリン、および約1.7 gm/100 gmビタミン混合物からなる。表12に示す40%CR食餌組成は、1週間当たり52 kcalのCR食餌および1週間当たり77 kcalのCR食餌の両方についてであることに留意されたい。低減段階における食餌の食餌組成は、その食餌療法が1週間当たり77 kcalの食餌プログラムを含む場合、1週間あたり77 kcalの食餌が得られるようにCR食餌に従って調整することができる。1週間当たり52 kcalおよび77 kcalのどちらのCR食餌療法にも、CR食餌を用いた。
【0129】
1つの態様では、CR2群103、CR4群105、およびCR8群107のCR食餌プログラムから得られる結果をCON群109による結果と比較することにより、老齢哺乳動物101に及ぼすCR食餌プログラムの効果を決定する。1つの態様において、結果には、CON群109のマウスの最長寿命と比較したCR2群103、CR4群105、およびCR8群107のそれぞれにおけるマウスの最長寿命の解析が含まれる。
【0130】
いくつかの態様では、マウスの生存データに対してパラメータ生存率解析を行った。本発明者らはデータがワイブル分布に従うと仮定し、観察されたデータを用いて生存関数を推定した。生存データに対して変化点回帰分析も行い、死亡率データにおける限界点を見出した。
【0131】
CRが徐々にまたは付加的に作用するという従来の考えとは異なり、本発明のいくつかの態様は、生涯の後期であっても、CRに供した哺乳動物はCRによって速やかに影響を受けることを示す。例えば、図7に示すように、老齢哺乳動物101(例えばマウス)にCR食餌プログラムを様々な期間施した。1つの態様において、老齢マウスにおけるCRの迅速な効果およびそのLT-CRの効果との類似性から、高齢期に開始した場合であってもCRは寿命に強い影響をもたらし得ることが示される。1つの態様において、死亡率の加速が始まる直前に、図7に示す方法を用いてCR食餌プログラム(長期CR食餌プログラム等)を老齢マウスに(例えば19月齢マウス)において開始した。
【0132】
図8は、1つの態様において、CR食餌プログラムに供した老齢マウスの最長寿命を対照食餌プログラムに供したマウスの最長寿命と比較したことを示す。図8は、19月齢においてCR食餌プログラムを開始した後、死亡までの平均時間が、対照マウスでの11.8±0.7 (SE)ヶ月からCRマウスでの16.8±1.2ヶ月(SE)に延び(P = 0.004)、これは42%の増加であることを示す。これらの結果から、高齢期に開始したCRが残存寿命の延長において若年期に開始したCRと同程度に効率的であることが示される。高齢期CRにより平均および最大寿命が約5か月延長された。図8において、白丸はCR群(例えばLT CR群)から得られた結果を表し、黒丸はCON群109から得られた結果を表す。これらの群は、老齢哺乳動物にCR食餌を施した結果として要約し得る。
【0133】
当技術分野における従来法により、高齢マウスをCR食餌プログラムに切り替えることにより死亡率が減少するのではなくむしろ増加するという結論が導かれた。例えば、Foster, et al., Genotype and age influence the effect of caloric intake on mortality in mice, FASEB J., (2003)を参照されたい。従来法では、時間をかけて(段階的に)カロリー摂取を徐々に減少させていくことなく、対照食餌プログラムを行っている老齢マウスをCR食餌に急に切り替えた。老齢齧歯類では、CR食餌プログラムを短時間で導入することにより死亡率が上昇するという結果が生じる。さらに、これらの研究におけるCRマウス、特にCRの効果を全く示さなかったDBA/2マウスの平均体重は非常に軽く、用いたCR食餌プログラムがこれらのマウスに明白な飢餓状態を課したことが示唆される。
【0134】
1つの態様では、回帰分析により、CR食餌プログラムに供したマウスの死亡率の減少はCR食餌プログラムの開始から2〜3ヶ月以内に始まることが明らかになった。CRおよび対照マウスの生存曲線の限界点は、図8に示すように約21.5月齢の時点で起こった。よってCRにより、21.5〜31月齢で死亡率が3.1倍減少した(p<0.001)。その後、CRマウスの死亡率は対照マウスの死亡率に接近したが、寿命は約5ヶ月延長された(p<0.001)。これらの結果から。CRは高齢期に開始したとしても根本的な加齢速度を非常に迅速に減速させることが示される。さらに、CRおよび対照マウスは、主として大きな腫瘍、主に肝臓および肺の腺腫および癌腫で死亡した(データは示さず)。したがって、高齢期CRは腫瘍の発症および進行を非常に迅速に遅延させるおよび/または減少させると考えられた。
【0135】
再度図7を参照して、1つの態様において、CR2群103、CR4群105、およびCR8群107による結果をLT-CR群および対照群(例えばLT-CON)と比較して、CRの利点を得るために老齢哺乳動物101をCR食餌プログラムに供する必要がある最短期間を決定することができる。場合によっては、老齢哺乳動物の遺伝子発現プロファイルにプラス効果をもたらすには、CR2群103におけるような2週間といった短い期間で十分である。他の場合には、例えば4週間(CR4群105)または8週間(CR8群107)といったより長い期間が必要である。
【0136】
上記の他の態様および以下に考察する他の態様におけるように、対照データは、図7に図示するようにマウスの被験群と同時にマウスの対照群を対照食餌プログラムに供するのではなく、結果が記録されている以前の研究から取得することができる。
【0137】
図9は、哺乳動物群を種々の食餌療法に供する例示的な方法100を示す。1つの態様において、哺乳動物試料はマウスである。長寿命F1雑種系統B6C3F1の雄マウスをHarland Labotaroties、インディアナポリスから購入した。最初の6ヶ月間は、マウスに齧歯類食餌No. 5001(TMI Nutritional International LLC、ミズーリ州、ブレントウッド 63044)を与えた。6ヶ月の時点で、すべてのマウスを個別に収容した。6月齢のマウスを図9に示すマウス群102として示す。群102のマウスを、LT-CON群104およびLT-CR群106という2群のうちの1つに無作為に割り当てた。LT-CON群104の各マウスを、長期間にわたり(例えばマウスの1つの群において20ヶ月)1 gm固形飼料の半精製対照食餌を1週間当たり93 kcal与えるLT-CON食餌プログラムに供した。食餌成分または組成の完全なリストは表12に見出すことができる。LT-CR群106の各マウスは、長期間にわたり(例えばマウスの一例では14ヶ月)半精製食餌を1週間当たり52 kcal与えるCR食餌プログラムに供した。食餌成分または組成の完全なリストは表12に見出すことができる。
【0138】
1つの態様においては、20月齢後、LT-CON群104およびLT-CR群106のマウスを、LT-CR群およびLT-CON群のマウスを逆の食餌療法に切り替える交差(または切り替え)実験に供した。LT-CON群104のマウスを4つの群、CR2群108、CR4群110、CR8群112、およびLT-CON継続群114にさらに分割した。CR2群108の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を1週間、その後1週間当たり52 kcalのCR食餌をさらに1週間与えた。CR4群110の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を2週間、その後1週間当たり52 kcalのCR食餌をさらに2週間与えた。CR8群112の各マウスには、1週間当たり77 kcalのCR食餌を2週間、その後1週間当たり52 kcalのCR食餌を6週間与えた。LT-CON継続群114の各マウスは、1週間当たり93 kcalの対照食餌で8週間維持した。LT-CON継続群114は、例えば8週間といったさらなる期間、対照食餌に供するマウス群を単に指すことに留意されたい。1つの態様では、LT-CR群106のマウスを2つの群、CON8群116およびLT-CR継続群118にさらに分割した。CON8群116の各マウスは、1週間当たり93 kcalの対照食餌に8週間供したLT-CRマウスであった。LT-CR継続群118の各マウスは、1週間当たり52 kcalのCR食餌で8週間維持した。LT-CR継続群118とは、例えば8週間といったさらなる期間、CR食餌プログラムに供するマウス群を単に指す。
【0139】
1つの態様においては、全被験群から得られた結果を相互に(または以前に記録された対照データと)比較して、種々のCR食餌プログラムおよび様々な期間の効果を決定することができる。被験群は、遺伝子発現レベル等の生化学的測定により評価し得る。
【0140】
1つの態様では、Ultra-Turrax(IKA Works, Inc.、ノースカロライナ州、ウィルミントン)を用いてTRI試薬(Molecular Research Center Inc.、オハイオ州、シンシナティ、供給業者によって記載される通りに)中でホモジナイズすることにより、凍結組織断片から全肝臓RNAを単離した。mRNAレベルは、標準的なAffymetrix手順(Affymetrix、カリフォルニア州、サンタクララ)に従って、Affymetrix M11KセットAおよびB高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いて測定した。簡潔に説明すると、オリゴ(dT)およびT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列を含むプライマーを用いて、スーパースクリプト選択システムにより各マウスの全RNAからcDNAを調製した。Enzoバイオアレイ高収率RNA転写産物標識キット(Enzo Biochem)を用いて、精製cDNAからビオチン化cRNAを合成した。RNeasyミニカラム(Qiagen、カリフォルニア州、チャッツワース)を用いてcRNAを精製した。各マウスによる等量のcRNAをMU11セットAおよびB高密度オリゴヌクレオチドアレイに個別にハイブリダイズさせた。アレイは45℃で16時間ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを上記の通りに処理した。
【0141】
Affymetrix GeneChip(商標)解析スイートを用いて行う場合の態様において、MU11KセットAおよびBは12,000個を超えるマウスAffymetirixユニーク識別子を含む。各Affymetirixユニーク識別子は、20個の完全一致(PM)オリゴヌクレオチドおよび中央の塩基に単一ミスマッチを含む20個のミスマッチ(MM)対照プローブによりアレイ上に表される。すべてのアレイを標的強度2500に調整した。PMおよびMMのシグナル強度を用いて、(PM - MM)/(PM + MM)に等しい識別スコア、Rを算出した。検出アルゴリズムはRを利用して検出p値を生成し、ウィルコクソンの符号付き順位検定を用いて存在、限界、または非存在判定に割り当てる。この方法の詳細は、Affymetrix, I. New Statistical Algorithms for Monitoring Gene Expression on GeneChip Probe Arrays. Technical Notes 1, Part No. 701097 Rev.1 (2001)、およびWilcoxon F., Individual Comparisons by Ranking Methods, Biometrics, 1:80-83 (1945)に見出すことができる。実験群当たり少なくとも75%のアレイにおいて「存在」であったAffymetirixユニーク識別子のみ、さらなる解析を検討した。さらに、実験群当たり75%に満たないアレイにおいてシグナル強度が平均アレイシグナル強度より低いAffymetirixユニーク識別子を解析から除外した。これらの選択基準により、12,422個のAffymetirixユニーク識別子による生データがさらなる解析を検討するたった2194個のAffymetirixユニーク識別子に縮小された。
【0142】
1つの態様においては、任意の2群間で差次的に発現されるAffymetirixユニーク識別子を同定するため、1つの群内の試料(n)のそれぞれを他の群内の試料(p)のそれぞれと比較して、nxpの比較を得た。1つの態様において、nは3または4に等しくpも3または4に等しい。1つの態様において、LT-CON継続群とLT-CR継続群の結果を比較することにより、遺伝子発現に及ぼすLT-CRの効果を決定した。別の態様において、LT-CON継続群114とCR2群108、CR4群110、およびCR8群112の結果を比較することにより、遺伝子発現に及ぼす2週間、4週間、および8週間のCRの効果を決定した。LT-CON群114とCON8群116の結果を比較することにより、8週間の対照摂取によって生じる遺伝子発現への効果を決定した。別の態様において、LT-CON継続群506とCR2群508、CR4群510、およびCR8群512の結果を比較することにより、遺伝子発現に及ぼす2週間、4週間、および8週間のCRの効果を決定した。2週間、4週間、および8週間のCRの効果を決定した。LT-CON継続群506と2Wk-薬剤群514、4Wk-薬剤群516、および8Wk-薬剤群518の結果を比較することにより、候補介入による2週間、4週間、および8週間の処置の遺伝子発現に及ぼす効果が決まることになる。さらに別の態様において、CON群109とCR2群103、CR4群105、およびCR群107の結果を比較することにより、老齢哺乳動物における遺伝子発現に及ぼす2週間、4週間、および8週間のCRの効果を決定した。
【0143】
ウィルコクソンの符号付き順位検定に基づく方法により、データを統計的に解析した。アレイの任意の2群間の差分値(PM-MM)を用いて、各プローブセットに関する片側p値を生成した。有意なp値と有意でないp値との規定閾値が用いられた。詳細については、上記のAffymetrix, I. New Statistical Algorithms for Monitoring Gene Expression on GeneChip Probe Arraysを参照のこと。上昇判定または減少判定の数が対比較の少なくとも75%であった場合に、Affymetrixユニーク識別子(既知遺伝子またはEST)の発現が変化したとみなす。可能なすべての対比較による1.5倍以上の平均変化倍率を有意とみなした。実験的に、遺伝子の発現変化を同定するこれらの基準は、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、プライマー伸長法、活性アッセイ法、リアルタイムPCR、およびリアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)等の方法によって確実に検証することができる。
【0144】
データの結果を表14〜16および図10A〜10Bに示す。遺伝子名は、2002年8月1日現在のJackson Laboratoryマウスゲノムインフォマティクスデータベースから取得した。遺伝子名は、2003年1月23日現在のLocusLinkデータベースおよびAffymetrixデータベースから取得した。
【0145】
表14〜16は、LT-CR食餌プログラム、2週間のCR食餌プログラム、4週間のCR食餌プログラム、8週間のCR食餌プログラム、およびいくつかの態様に従ってLT-CR食餌プログラムに供し対照食餌プログラムに切り替えたマウスに施した対照食餌プログラム(例えばCON8群116)によって生じる遺伝子発現効果のいくつかを収載する。これらの遺伝子発現効果は変化倍率という基準で示す。これらの表のそれぞれにおいて、カテゴリー/遺伝子の列は遺伝子のカテゴリーおよび遺伝子名を表し、Genebankの列は対応する遺伝子のGenebank識別番号を表す。1つの態様において、LT-CRの列の数字は、LT-CR継続群およびLT-CON継続群114(例えば、これらの2つの群のそれぞれのマウス数は4匹である)の個々のマウス間の可能なすべての対の比較(例えば、可能な16対の比較)による特定mRNAの平均変化倍率を表す。CR2の列の数字は、CR2群108およびLT-CON継続群114(例えばn = 4)の個々のマウス間の可能なすべての対の比較(例えば、可能な16対の比較)による特定mRNAの平均変化倍率を表す。CR4の列の数字は、CR4群110およびLT-CON継続群114(例えばn = 4)の個々のマウス間の可能なすべての対の比較(例えば、可能な16対の比較)による特定mRNAの平均変化倍率を表す。CR8の列の数字は、CR8群112およびLT-CON継続群114(例えばn = 4)の個々のマウス間の可能なすべての対の比較(例えば、可能な16対の比較)による特定mRNAの平均変化倍率を表す。CON8の列の数字は、CON8群116およびLT-CON継続群114(例えばn = 4)の個々のマウス間の可能なすべての対の比較(例えば、可能な16対の比較)による特定mRNAの平均変化倍率を表す。遺伝子発現に変化がない場合には「NC」と表示する。
【0146】
1つの態様においては、表14〜16に記載する遺伝子のそれぞれの変化倍率を比で表す。各比に関して、分子は特定のLT-CR群、CR2群、CR4群、CR8群、またはCON8群による各遺伝子の発現レベルであり、分母はLT-CON継続群におけるその遺伝子の発現レベルである。例えば、LT-CR食餌プログラムによって生じる遺伝子発現の変化倍率は、LT-CR継続群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON継続群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。2週間のCR食餌プログラムによって生じる遺伝子発現の変化倍率は、CR2群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON継続群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。4週間のCR食餌プログラムによって生じる遺伝子発現の変化倍率は、CR4群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON継続群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。8週間のCR食餌プログラムによって生じる遺伝子発現の変化倍率は、CR8群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON継続群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。LT-CR食餌プログラム後に対照食餌プログラムに8週間切り替えたことによって生じる遺伝子発現の変化倍率は、CON8群における各遺伝子の発現レベルをLT-CON継続群におけるその遺伝子の発現レベルで割った比である。
【0147】
表14は、発現を変化させるために8週間を超えるCR食餌プログラムが必要である遺伝子を収載する。表15は、CR食餌プログラムに早く反応し、その後のすべての時点において、例えばCR食餌プログラムの2週間、4週間、8週間、および8週間よりも長い期間にわたって最初にCRによって誘導された発現レベルが維持された遺伝子を収載する;表15の遺伝子は「安定なもの」としてみなし得る。表16は、CR食餌プログラムに早く反応し、その後LT-CR発現レベルが想定される以前に短時間で対照レベルに回復した遺伝子を収載する;表16の遺伝子は「変動するもの」としてみなし得る。
【0148】
相対的な遺伝子発現レベルの確認をリアルタイムRT-PCRにより行った。1つの態様において、発現が変化した遺伝子の中から無作為に選択した全部で9個の遺伝子の発現を、マイクロアレイ研究において使用したマウスから精製した全肝臓RNAを用いてリアルタイムRT-PCRにより試験した。全RNAをDNase I(Ambion Inc.、テキサス州、オースティン)で処理し、これを用いて全量20μlの反応液中でcDNAを合成した。簡潔に説明すると、全RNA 2μgをランダムプライマー(Promega、ウィスコンシン州、マディソン)250 ngと共に75℃で5分間、その後氷上で5分間インキュベートした。0.1 M DTT 2μl、5 X緩衝液4μl、2.5 mM dNTP 4μl、100 U(単位)逆転写酵素(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)、および16.5 U RNase阻害剤(Promega)を添加し、37℃で2時間インキュベートした。反応は100℃で2分間煮沸することにより停止した。逆転写酵素を添加しない同一反応も行い、ゲノムDNAが存在しないことを確認した。試料はすべて同時に逆転写し、得られたcDNAを水で1:4に希釈して-80℃で保存した。
【0149】
製造業者の取扱説明書に従いQuantitect SYBRグリーンPCRキット(Qiagen、ドイツ、ヒルデン)およびABI PRISM 7700配列検出システム(Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスターシティー)を用いて、リアルタイム、2段階リアルタイムRT-PCRによる相対定量を行った。プライマーはNetaffx解析センターで設計し、公的データベースに対して検証してユニークな増幅産物が得られることを確認した(http://www.affymetrix.com/analysis/index.affxおよびhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov)、(表13を参照のこと)。転写伸長因子A(S-II)1に関してプライマーを選択し、関心対象の遺伝子と平行してS-IIを増幅した。S-II mRNAレベルはCR食餌プログラムによって影響を受けない。表13の9個の遺伝子のそれぞれについて、例えばLT-CON継続群114(n = 4)、LT-CR継続群118(n = 4)、CON8群116(n=4)、CR2群108(n=4)、CR4群110(n=4)、およびCR8群112(n=4)といった試料群それぞれの各マウスから得られたそれぞれ個々のmRNA試料を用いてリアルタイムRT-PCRを行った。簡潔に説明すると、希釈したcDNA 2μl、1X SYBRグリーンPCRマスターミックス、フォワードおよびリバースプライマーそれぞれ0.5 mM、ならびに0.5単位ウラシルN-グリコシラーゼを含む25μl量でリアルタイムRT-PCRを行った。反応物を50℃で2分間インキュベートしてウラシルN-グリコシラーゼにより混入するcDNAを分解させ、95℃で15分間インキュベートしてHotStarTaq DNAポリメラーゼを活性化した。標的増幅反応を、94℃で15秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長の40サイクル行った。増幅特異性を確認するため、各プライマー対によるPCR産物を融解曲線解析に供し、次いでアガロース電気泳動に供した。
【0150】
本発明の1つの態様において、CRによる遺伝子発現に及ぼす初期効果の動態を決定し、加齢の急速な減速および加齢性病態の発症の減少および標準的な食餌プログラムからCR食餌プログラムへの移行によって起こる疾患の機構への洞察力を得る。この態様において、約12,000個のAffymetrixユニーク識別子のプローブを含むAffymetrixマイクロアレイを用いて、長期対照摂取(例えば、LO-CON群104)から2、4、および8週間のCR食餌プログラム(例えば、それぞれCR2群108、CR4群110、およびCR8群112)に移行させた老齢マウスから精製したRNA試料を調べた。1つの態様において、これらのCR群のマウスの遺伝子発現プロファイルをLT-CON群のマウスの発現プロファイルと比較した。さらにまた、これらのCR群のマウスの遺伝子発現プロファイルを、LT-CR食餌プログラム(例えば、LT-CR継続群118)に供したマウスの遺伝子発現プロファイルと比較した。加えて、LT-CR食餌プログラムから短期間(例えば8週間)の対照食餌プログラムに移行させたマウスの遺伝子発現プロファイルを、やはりCON8群116のマウスの発現プロファイルをLT-CON継続群114のマウスの発現プロファイルと比較することにより決定する。
【0151】
1つの態様では、調べた12,000個のAffymetrixユニーク識別子のうち、データ整理後に2194個の識別子の確実なシグナルが得られた。図10A〜10Bおよび表14〜16から、LT-CR食餌プログラムによって123個のAffymetrixユニーク識別子(調べたAffymetrixユニーク識別子の1%、シグナルを伝えるAffymetrixユニーク識別子の6%)の発現が変化したことが示される。図10A〜10Bおよび表14〜16から、これらのAffymetrixユニーク識別子によって発現レベルをモニターする遺伝子に及ぼす2〜8週間のCR食餌プログラムの効果がさらに示される。
【0152】
図10A〜10Bでは、CR2、CR4、CR8、LT-CR、およびCON8の表示により、様々な長さのCR食餌および対照食餌をx軸に示す。CR2、CR4、およびCR8は、CR食餌プログラムにそれぞれ2週間、4週間、および8週間供したマウス(例えば、それぞれ図9のCR2群108、CR4群110、およびCR8群112)の遺伝子発現結果を示す。LT-CRは、CR食餌プログラムに長期間、例えば22ヶ月間供したマウス(例えば、LT-CR継続群118、図9)の遺伝子発現結果を示す。CON8は、CRに所定の期間(例えば20ヶ月間)供した後に対照食餌プログラム(例えば8週間)への移行に供したマウス(例えば、CON8群116、図9)の遺伝子発現結果を示す。図10A〜10Bの結果から、CR食餌プログラムを開始した後、LT-CR食餌プログラムと関連した遺伝子発現プロファイルに向かう短時間のおよび漸進的な移行が存在することが実証される。
【0153】
1つの態様において、応答する遺伝子は、初期応答者、中期応答者、および後期応答者と称する3つの時間的なクラスに分類される。初期応答者とは、2〜4週間のCR食餌プログラムで発現が変化した遺伝子である。中期応答者とは、4〜8週間のCR食餌プログラムで発現が変化した遺伝子である。後期応答者とは、応答するのに8週間を超えるCR食餌プログラムを必要とする遺伝子である(例えば、LT-CR食餌プログラムでは発現が変化したが、CR2、CR4、およびCR8群では発現が変化しなかった遺伝子)。初期および中期応答者のうちいくつかの遺伝子は、CRによって誘導された発現レベルをその後のすべての時点において維持した。例えば図10Aに示すように、遺伝子のクラスターは、CR2からCR4へ、CR8へ、およびLT-CRへレベルが増加または減少したままであった。これらの遺伝子は「安定なもの」としてみなし得る。初期応答者のうちいくつかの遺伝子は、LT-CRの発現レベルが推定される以前に短時間で対照レベルに回復した(図10B)。これらの遺伝子は「変動するもの」としてみなし得る。
【0154】
図10A〜10Bに示すように、123個のAffymetrixユニーク識別子のうち71個(58%)が初期応答者であり、これらは安定なものと変動するものにほぼ均等に分割された(安定なもの37個および変動するもの34個)。Affymetrixユニーク識別子のうち77個(14%)は中期応答者(すべて安定なもの)であり、35個のAffymetrixユニーク識別子(28%)は後期応答者であった。これらの結果から、遺伝子の大部分はCRの効果に早く応答し、安定なものは変動するものの数をいくらか上回ることが示される。
【0155】
特定遺伝子の活性の定量的変化により、加齢および/または加齢性疾患が調節され得る。例えば、特定遺伝子の活性の定量的変化により、加齢および/または加齢性疾患の速度が減速され得る。CR食餌プログラムは、加齢または加齢性疾患の速度に影響を及ぼすまたは速度を減速する遺伝子の発現を変化させ得る。遺伝子変化の機構または動態を洞察することにより、CR食餌プログラムまたはCR模倣剤と観察される加齢の減速ならびに加齢性病態および疾患の発症の減少との関連性、およびCR食餌プログラムまたはCR模倣剤の効果がより完全に理解できるようになる。本発明の少なくともいくつかの態様から、CR食餌プログラムまたはCR模倣剤によって起こる加齢の減速および/または加齢性疾患に及ぼす有利な効果が迅速であることが示される。
【0156】
初期、中期、および後期CR応答遺伝子は異なるシグナル伝達経路によって制御される可能性が高い。経路の成分の間での組み合わせ相互作用によって、各時点で遺伝子が誘導または抑制される可能性がある。1つの態様において、モチーフを見出すことにより関与する経路をさらに解析する。
【0157】
上記(例えば図9)の態様のいくつかに従って試料群を種々の食餌プログラムに切り替えることにより、モチーフの発見が可能になる。例えば、切り替えまたは交差摂取により、LT-CRでは発現が変化したがCR2、CR4、またはCR8では発現が変化しないいくつかの遺伝子が識別された。このように、食餌プログラムの切り替えによりモチーフの発見が可能になり、遺伝子の分類が可能になる。
【0158】
図10A〜10Bから明らかなように、特定のCR食餌療法によって特定の遺伝子が同様に影響を受けるために遺伝子がクラスターに分別される。同じクラスター内の遺伝子は同時に転写制御を受ける可能性が高く、共通の配列モチーフの存在についてそれらのプロモーター領域を解析することができる。CRによる種々の条件下で同時に制御される遺伝子を同定することにより、モチーフの発見が着手される。所与の生理学的条件に対して同じように応答する遺伝子は共に分類される。例えば図10Aに示すように、CR2およびLT-CRに応答する遺伝子は2つのクラスター(14、17)を形成し;CR4およびLT-CRに応答する遺伝子は2つのクラスター(1、5)を形成し;CR8およびLT-CRに応答する遺伝子は2つのクラスター(7、10)を形成する。同様に図10Aに示されるように、LT-CRにのみ応答する遺伝子は2つのクラスター(14、21)を形成する。マウスをLT-CR食餌プログラムから8週間の対照食餌プログラムに切り替えることにより、遺伝子は12クラスター(3、2、11、1、5、14、21、10、4、15、1、2)にさらに分割される。図10A〜10Bの結果から、種々の遺伝子の発現が、同じ制御因子およびシグナル伝達系によって促進または抑制され得ることが示される。
【0159】
1つの態様において、CR食餌プログラムから対照食餌プログラムへの移行の効果が決定される。上記の態様(例えば、図9を参照して考察した態様)のいくつかにより、CR食餌プログラムに供した期間の後に対照食餌プログラムに切り替えたマウスの遺伝子発現レベルのほとんどではないが多くは、対照発現レベルに回復したことが判明した(図10A〜10B)。対照発現レベルとは、対照食餌プログラムのみに供するマウスによる遺伝子の遺伝子発現レベルである。したがってこれらの態様から、CR食餌プログラムから対照食餌プログラムへの移行を直接研究する方法が提供される。マウスをCR食餌プログラム(例えばLT-CR群106)から対照食餌プログラムに切り替えることにより(例えばCON8群116)、CRによって影響を受けた多くの遺伝子が切り替え後に対照発現レベルに回復したことが明らかになった。1つの態様において、LT-CR食餌プログラムによって影響を受けた123個のAffymetrixユニーク識別子のうち110個(90%)は、対照発現レベルに回復した。図10A〜10Bから、後期応答遺伝子のすべてがLT-CR発現レベルから対照発現レベルに移行したことが示される(例えば、図10Aにおいて、LT-CRマークにおける14遺伝子のクラスターおよび21遺伝子のクラスターが、CON8マークにおける対照発現レベルに移行したことを参照されたい)。図10A〜10Bの結果から、CRの効果の多くが可逆的であることが示される。これらの結果により、後期応答遺伝子は発現が変化するために8週間を超えるCR食餌プログラムを必要とするにもかかわらず、カロリー摂取の変化に迅速に応答したことが示唆される。これらの結果により、ほとんどの遺伝子がカロリー摂取の変化に応答することもまた示される。これらの結果から、図15Aに示すようなおよび本明細書においてさらに考察するような方法を用いて、候補CR模倣剤(例えば候補介入)を試験して候補CR模倣剤の効果が可逆的であるかどうかを決定し得ることもまた示される。
【0160】
1つの態様において、CR食餌プログラムの後に対照食餌プログラムに8週間切り替えることにより、CRに反応性である遺伝子をさらなる研究を施すことのできる明確なクラスターに分別する方法が提供される。
【0161】
1つの態様において、様々なCR食餌プログラムに起因して様々な時点で発現が変化した遺伝子を、以下を含む機能的クラスにクラスタ化した:(1) 炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝;(2) 増殖因子およびシグナル伝達;(3) 細胞保護的なストレス応答、酸化的および還元的異物代謝、ならびにシャペロン、および(4) 免疫応答および炎症。表14〜16には、これらのクラスに属する遺伝子の遺伝子発現結果、およびいかにしてこれらの遺伝子の遺伝子発現が2、4、および8週間のCR食餌プログラムにより、LT-CR食餌プログラムにより、およびCR食餌プログラム後の対照食餌プログラムへの切り替えにより影響を受けるかが含まれる。
【0162】
1つの態様において、CR食餌プログラムによって変化する炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝クラスの遺伝子を表14〜16に収載する。以下で考察する26個の代謝遺伝子のうち、23個は初期または中期応答者であった。したがって、対照食餌からCR状態への代謝の移行の第一段階は、CR食餌プログラムの最初の8週間の間に本質的に完全に起こる。いくつかの変動するものはLT-CR発現レベルに到達する前に対照発現レベルに回復する。CR食餌プログラムに応答した迅速な移行と一致して、26個の遺伝子のうち23個は8週間のみの対照食餌プログラム後に対照発現レベルに戻った。
【0163】
表15に示すように、CRにより3つの尿素回路酵素、アルギナーゼ1、アルギニノコハク酸リアーゼ、およびアルギニノコハク酸合成酵素1の発現が誘導された。末梢におけるアミノ酸異化反応に由来する窒素は、尿素回路を介して肝臓から除去される。したがって、CRによって肝臓における窒素の除去が増強される。CRによって、カテプシンL(表14)、フェニルアラニン水酸化酵素(表16)、ホモゲンチシン酸1,2-ジオキシゲナーゼ(表14)、オルニチンアミノトランスフェラーゼ(表16)、およびヒスチジンアンモニアリアーゼ(表14)の発現もまた増加した。これらの遺伝子は、糖新生の基質を提供するためのアミノ酸分解に関与する。これらの効果と一致して、CRによりホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ1(表16)および糖新生の重要な関門酵素であるグルコース-6-ホスファターゼ(表16)の発現が誘導された。これらの結果から、CRによってエネルギー生成のためのアミノ酸分解の酵素生産能が増強されることが示される。動物の体重はほぼ定常状態であるため、CRは明らかに全身のタンパク質の代謝回転および再合成を増強する。そのような効果は、空腹時のみならず摂食してから数時間以内においても認められることに留意されたい。
【0164】
代謝クラスに関して続けると、CRによって脂質代謝の機能がプラスの影響を受けた。CRにより、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ1(表15)、脂肪酸補酵素Aリガーゼ、長鎖2(表15)、2,4-ジエノイル-CoAレダクターゼ、ミトコンドリア(表15)、肝臓脂肪酸結合タンパク質1(表15)、および肝性リパーゼ(表16)の発現が減少した。これらの遺伝子の発現が減少することによって、脂質の生合成および代謝に関する酵素生産能が低下するはずである。これらの遺伝子の発現減少は、CR食餌プログラムに供した齧歯類において認められる血清トリグリセリドの減少を説明し得る。
【0165】
炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝クラスに関してさらに続けると、CRはまた、低密度リポタンパク質および超低密度リポタンパク質の主な成分であるアポリポタンパク質B-100(表15)の発現を増加させた。この遺伝子の発現増加により、肝臓脂質の燃料として使用するための他の組織への分配におけるその遺伝子の役割もまた増強される。さらに、CRはまた、テストステロンの生物学的不活化に関与する水酸化ステロイド17-β脱水素酵素5(表16)および水酸化ステロイド17-β脱水素酵素2(表14)の発現を減少させた。これらの遺伝子の発現減少は、老化した哺乳動物におけるテストステロンのレベルの維持または調節に役立ち得る。例えば、これらの遺伝子の発現減少は、CR食餌プログラムに供していない老齢齧歯類と比較してCR食餌プログラムに供した老齢齧歯類において見られるより高いテストステロンレベルを説明し得る。
【0166】
炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝クラスに関してさらに続けると、CRはまた、ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ15(表16)のmRNAの発現を減少させた。この遺伝子は、プロスタグランジンE(2)を含む循環するプロスタグランジンの不活化における最初の段階を触媒する。循環するプロスタグランジンの不活化は、CR食餌プログラムに供した動物における減少したおよび/または加齢に伴う全身性炎症に対する代償反応である可能性がある。
【0167】
炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝クラスに関して続けると、CRはメチル化活性に有利に影響する。CRにより、S-アデノシルメチオニンから硫黄、セレン、またはテルル化合物へのメチル基の転移を触媒するチオエステルS-メチルトランスフェラーゼ(表16)の発現が減少した。CRにより、S-アデノシルメチオニン(SAM)のメチル基がメチル受容体に供与された後に形成されるS-アデノシルホモシステイン(SAH)を加水分解するS-アデノシルホモシステイン加水分解酵素(表16)の発現が増加した。CRはまた、S-アデノシルメチオニンによるグリシンのメチル化を触媒してN-メチルグリシン(ザルコシン)およびSAHを形成するグリシンN-メチルトランスフェラーゼ(表16)の発現を増加させた。グリシンN-メチルトランスフェラーゼおよびS-アデノシルホモシステイン加水分解酵素は共にSAMとSAHの比を調節し得る。SAHの増加により、リン脂質、タンパク質、小分子、DNA、およびRNAのメチル基転移が減少する。メチル化の減少は一般に、転写活性および分化の増強と関係がある。
【0168】
1つの態様において、CR食餌プログラムによって影響を受けたシグナル伝達物質および増殖因子のクラスの遺伝子を表14〜16に収載する。示されるように、CRは細胞増殖(growth)および増殖(proliferation)に関連する遺伝子の発現を変化させた。1つの態様において、CRにより、リンパ球抗原6複合体、E座位(表14)、Ras相同体遺伝子ファミリー、メンバーU(表16)、およびDNA結合阻害因子2遺伝子(表14)が減少した。
【0169】
CRはまた、血管新生に関連する2つの遺伝子、Eph受容体B4(表15)およびエクトヌクレオチド(ectonucleotide)ピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ2(表14)の発現を減少させた。さらに、CRにより腫瘍抑制活性を有するホスファターゼおよびテンシン相同体遺伝子(表15)の発現が誘導された。したがって、CRは抗増殖性(proliferative)の増殖(growth)調節を増強すると考えられる。
【0170】
CRはまた、齧歯類における主要な甲状腺ホルモン担体タンパク質であるトランスサイレチン(表15)および甲状腺ホルモン受容体α(表15)の発現を減少させた。これらの遺伝子の発現減少により、CR食餌プログラムに供した動物およびヒトにおいて甲状腺ホルモンシグナルが減少する。甲状腺ホルモンシグナルの減少は、次いで脂質、炭水化物、およびタンパク質の代謝ならびに酸素消費を含むエネルギー利用に関連した過程の多様なセットを減少させる。
【0171】
上記の結果から、CRは哺乳動物において最長寿命を延ばし加齢性疾患の発症を遅延させることが示される。さらに、これらの結果から、CRは(若年哺乳動物に加えて)老齢哺乳動物の処置においても有用であり、CRは迅速に作用してCRの利点を哺乳動物にもたらすことが示される。
【0172】
1つの態様において、表14〜16の結果から、CRによりシャペロンタンパク質の発現が変化したこともまた示される。ほとんどのタンパク質は、その生合成、成熟、プロセシング、輸送、分泌、および分解のために分子シャペロンとの相互作用を必要とする。ほとんどの小胞体シャペロンのmRNAおよびタンパク質レベルは加齢に伴って増加することが見出されている。CRは肝臓および他の組織におけるカロリー摂取を減少させ、それによりほとんどの小胞体シャペロンのmRNAおよびタンパク質レベルが減少する。カロリー摂取とシャペロン発現との関連性により、タンパク質の折りたたみ、会合、およびプロセシングの能力がインスリンによって促進されるタンパク質生合成活性のレベルに適合化され得る。シャペロン発現の上昇はまた、遺伝毒性ストレスに対するアポトーシス反応性を低下させる。シャペロンは、小胞体ストレスおよびミトコンドリアのアポトーシスシグナル経路の両方を介してアポトーシスを抑制する。CRの抗癌性利点は、CRによって小胞体シャペロンレベルが減少し、肝臓および他の細胞種におけるアポトーシスが増強されるという事実に起因する可能性がある。対照的に、ニューロン等の非分裂細胞では、CRはシャペロンの発現を誘導し、それによって細胞の生存を増強すると考えられる。
【0173】
1つの態様において、表14〜16の結果から、CRにより異物代謝クラスの遺伝子の発現が変化したこともまた示される。CRは多くの第I相および第II相酵素遺伝子の発現を差次的に制御した。例えば、CRにより、N-スルホトランスフェラーゼ(表15)、フラビン含有モノオキシゲナーゼ5(表16)、いくつかのシトクロムP450アイソザイム、およびグルタチオンS-トランスフェラーゼmu2(表15)の発現が増強された。CRによって増強されるシトクロムP450アイソザイムのうちのいくつかの例には、シトクロムP450、3a16(表16)、シトクロムP450、ステロイド誘導性3a11(表16)、シトクロムP450、ステロイド誘導性3a13(表16)、シトクロムP450、2b13、フェノバルビトール誘導性、c型(表15)、シトクロムP450、2b13、フェノバルビトール誘導性、a型(表15)、およびシトクロムP450オキシドレダクターゼ(表15)が含まれる。これらの遺伝子の発現増加により、肝臓の薬剤代謝および解毒機能が増強され得る。これらの酵素の多くはまた、いくつかの基質の毒性および発癌性を増強し得ることに留意されたい。したがって、CRが異物代謝にもたらす効果は生体異物の環境に依存する。シトクロムp450、1a2(表14)、シトクロムp450、2f2(表14)、シトクロムp450、2j5(表16)、およびシトクロムp450、7b1(表16)、ならびにグルタチオンS-トランスフェラーゼ、pi2(表14)の発現減少に及ぼすCRの生理的影響は予測が困難である。例えば、CRはCyp2e1を誘導することが報告されており、Cyp2e1は強力な肝臓毒かつ発現物質であるチオアセトアミドの2.5倍高い生物活性化をもたらす。しかし、CRはまた、おそらく肝臓のアポトーシスおよび再生の速度を高めることによってチオアセトアミド肝毒性に対する抵抗性を増加させた。したがって、CRは種々の遺伝子制御を介して、毒素および発癌物質の活性化と非活性化、ならびに細胞増殖とアポトーシスとの間の均衡をとっている可能性がある。
【0174】
1つの態様において、遺伝子が図10A〜10Bに示すように応答したことを検証または確認するため、無作為に選択した9個の遺伝子の発現を図11A〜11Eに示すように定量的PCR(例えばリアルタイムRT-PCR)によってモニターした。いずれの場合にも、定量的PCRにより、CRの各時点においてマイクロアレイ遺伝子発現プロファイリングによって認められた変化が確認された。
【0175】
図11A〜11Eは、リアスタイムRT-PCRを用いて、(V00835、U51805、AF026073、M27796、M16358、U00445、X51942、U70139、およびU44389という遺伝子名の)無作為に選択した9個の遺伝子を確認した結果を示す。リアルタイムRT-PCRにより、選択した9個の遺伝子それぞれに関してマイクロアレイ遺伝子発現プロファイリングによって認められた変化が確認された。この図からわかるように、変化倍率は同じ方向であり、変化倍率の量も実質的に同程度である。
【0176】
図11Aは、LT-CRにより変化する遺伝子のいくつか(遺伝子V00835、U51805、AF026073、M27796、およびM16358を参照のこと)の確認を示す。白いバーはマイクロアレイデータを表し、黒いバーはリアルタイムRT-PCRデータを表す。リアルタイムRT-PCRデータは、リアルタイムRT-PCRにより測定したLT-CR継続群のマウスとLT-CON継続群のマウスの結果を比較することによって算出された特定mRNAの変化倍率を表す。マイクロアレイデータは、LT-CR継続群とLT-CON継続群の個々のマウス間の可能なすべての対比較から算出された特定mRNAの平均変化倍率を表す。
【0177】
図11B〜11Eは、様々な時点で発現変化が変動する遺伝子のいくつかを示す。三角はマイクロアレイデータを表し、四角はリアルタイムRT-PCRデータを表す。図11Bは、遺伝子U00445のマイクロアレイデータとリアルタイムRT-PCRデータを比較する。図11Cは、遺伝子X51942のマイクロアレイデータとリアルタイムRT-PCRデータを比較する。図11Dは、遺伝子U70139のマイクロアレイデータとリアルタイムRT-PCRデータを比較する。図11Eは、遺伝子U44389のマイクロアレイデータとリアルタイムRT-PCRデータを比較する。
【0178】
図11A〜11Eの結果から、本発明の態様のいくつかに使用したマイクロアレイ解析法により、発現が変化する遺伝子が確実に同定されたことが示される。マイクロアレイ解析法の確認により、遺伝子の応答の複雑性が選択基準のストリンジェンシーに単に起因するものではなかったことも保証される。これらの図からわかるように、いずれの場合にも、遺伝子発現レベルの変化倍率の増加または減少割り当てはその選択基準においてかろうじて生じたものではなかった。
【0179】
図11A〜11Bに示されるように、無作為に選択した9個の遺伝子の変化倍率によって、マイクロアレイ法を用いて得られたデータが確認された。したがって、図10A〜10Bに示す発現パターンは老齢マウスにおけるCRに対する応答の実際の動態を表している。
【0180】
以前に記載された技法のいくつかを用いて、候補介入を発見および解析することができる。図12は、1つの態様において、CR模倣剤候補または潜在的CR模倣剤である候補介入を哺乳動物群に様々な期間投与することができることを示す。この図は、1つの態様において、哺乳動物試料502(例えばマウス)をLT-CON食餌プログラムに供してLT-CON群504を形成することを示す。哺乳動物試料502の各メンバーに、1週間当たり93 kcalの対照食餌を所定の期間、例えば20ヶ月間与えてLT-CON群504を形成する。1つの態様において、1週間当たり93 kcalの対照食餌は、哺乳動物がマウスである場合の態様における標準的な食餌プログラムである。標準的なカロリー数は哺乳動物試料の種類に応じて変動し得る。
【0181】
所定の期間の後、LT-CON群504のメンバーを、LT-CON継続群504、CR2群508、CR4群510、CR8群512、2Wk薬剤群514、4Wk薬剤群516、および8Wk薬剤群518を含むいくつかの群に分割する。CR2群508の各メンバーは、1週間当たり93 kcalから1週間当たり77 kcalに1週間、その後1週間当たり52 kcalにさらに1週間、カロリー数を低減するCR食餌プログラムに供する。CR4群510の各メンバーは、1週間当たり93 kcalから1週間当たり77 kcalに2週間、その後1週間当たり52 kcalにさらに2週間、カロリー数を低減するCR食餌プログラムに供する。CR8群508の各メンバーは、1週間当たり93 kcalから1週間当たり77 kcalに2週間、その後1週間当たり52 kcalに6週間、カロリー数を低減するCR食餌プログラムに供する。
【0182】
2Wk薬剤群514の各メンバーを、規定の期間の候補介入の施行に供する。2Wk-薬剤群514の各メンバーは、2週間の候補介入の施行に供する。4Wk-薬剤群516の各メンバーは、4週間の候補介入の施行に供する。8Wk-薬剤群518の各メンバーは、8週間の候補介入の施行に供する。これらの群に与える対照食餌のカロリー数は標準的なレベルであり、例えばこの場合に用いる哺乳動物種に対しては1週間当たり93 kcakである。介入の用量は有効量であっても試験用量であってもよい。例えば、候補介入はメトホルミンであってよく、約0.2 mg〜2.0 gmメトホルミン/kg体重/日の用量で薬剤群のメンバーの食餌中に投与することができる。1つの態様では、メトホルミン2100 mgを対照食餌1 kgに添加する。メトホルミンが唯一の候補介入ではないことは理解されるべきである。他の可能な候補介入の例には、グリピジドおよびロシグリタゾン等のグルコース制御物質、ならびにCRの利点の少なくともいくつかを再現もしくは模倣し得る可能性のあるCR模倣剤または他の種類の候補介入としてスクリーニングされ得る無数の他のものが含まれる。
【0183】
LT-CON継続群506、CR2群508、CR4群510、CR8群512、2Wk-薬剤群514、4Wk-薬剤群516、および8Wk-薬剤群518の生化学的測定(例えば、遺伝子発現レベル)の結果を相互に比較する。1つの態様において、結果には試験した群のそれぞれについての遺伝子発現プロファイルおよび/または延命の変化が含まれる。上記の方法を用いて、これらの被験群のマウスの遺伝子発現プロファイルを決定し得る。1つの態様では、CR2群508、CR4群510、およびCR8群512のそれぞれの結果をLT-CON群504の結果と比較することにより、CR2群508、CR4群510の効果を取得する。2Wk-薬剤群514、4Wk-薬剤群516、および8Wk-薬剤群518のそれぞれの結果をLT-CON群504の結果と比較することにより、2Wk-薬剤群514、4W-薬剤群516、および8Wk-薬剤群518の効果を取得する。2Wk-薬剤群514、4Wk-薬剤群516、および8Wk-薬剤群518のそれぞれの結果はまた、CR2群508、CR4群510、CR8群512の結果と比較することもできる。
【0184】
哺乳動物試料に候補介入を様々な期間施すことにより、CRの効果または効果のいくつかの再現における候補介入の動態を決定することが可能になる。さらに、このアプローチを用いて、候補介入が迅速に作用してCRの有利な効果のいくつかを哺乳動物試料にもたらし得る(ひいては、CRの効果の少なくともいくつかを模倣し得る)かどうかを決定することができる。例えば、特定の薬剤群(例えば、2Wk-薬剤群、4Wk-薬剤群、または8Wk-薬剤群)のマウスの遺伝子発現プロファイルが特定のCR群(CR2群、CR4群、CR8群、またはLT-CR群)のマウスの遺伝子発現プロファイルと実質的に相関する場合、その候補はCRの効果の少なくともいくつかまたは特定の期間施したCRの効果の少なくともいくつかを模倣するCR模倣剤として同定される。
【0185】
図13は、別の態様において、哺乳動物群内の個体に候補介入を施すことを示す。この態様は、候補介入を用いてCRの有利な効果を老齢哺乳動物にもたらし得るかどうかを決定するのに特に役立つ。哺乳動物群はヒト群、齧歯類群、または任意の他の動物群であってよい。候補介入は、先に記載した方法を用いて同定される介入であってよい。図13において、対照食餌プログラムを哺乳動物群(ボックス402)内の個体に施す。哺乳動物群の老年期が開始した(例えば、哺乳動物群がマウス群である場合には20ヶ月)後に、哺乳動物群内の何人かまたは何匹かの個体に候補介入を施す(ボックス404)。哺乳動物群の残りの個体は、対照食餌プログラムで維持する(ボックス406)。候補介入に供した個体と対照食餌プログラムで維持した個体の結果(例えば、遺伝子発現プロファイルまたは最長寿命)を相互に比較して、候補介入が試験した哺乳動物に利点をもたらすかどうかを決定することができる。さらに、候補介入の結果を事前に記録されたCR試験のデータと比較して、候補介入がCRの効果の少なくともいくつかを再現し得るかどうかおよび老年期の哺乳動物の処置において有効であるかどうかを決定することができる。
【0186】
1つの態様において、候補介入は対照食餌プログラムと同時に添加する。したがって、候補介入は対照食餌と混合するかもしくは対照食餌に添加することができ、または対照食餌に加えて投与することができる。対照食餌は特定の哺乳動物に関して標準的なカロリー数を含み、例えば哺乳動物がマウスである場合には、各マウスに与える対照食餌のカロリー数は約93 kcal/週であってよい。
【0187】
1つの態様において、候補介入の効果を決定するため、候補介入に供した哺乳動物から得られた遺伝子発現プロファイルを、候補介入なしで対照食餌プログラムに供した哺乳動物およびCR食餌プログラムに供した哺乳動物から得られた遺伝子発現プロファイルと比較する。1つの態様において、候補介入に供した哺乳動物の複数の遺伝子発現レベルを、対照食餌プログラムに供した哺乳動物およびCR食餌プログラムに供した哺乳動物の同じ種類の複数の遺伝子発現レベルと比較する。候補介入の効果(例えば、遺伝子発現レベル)がCRの効果と一致するまたは相関する程度により、候補介入がCR模倣剤である可能性が決まることになる。効果の一致または相関が高ければ高いほど、その候補介入がCR模倣剤であり、CRの利点の少なくともいくつかを再現し得る可能性が高くなる。候補介入の効果の動態(例えば、初期応答者 対 後期応答者等)がCRの効果の動態と一致する程度によっても、候補介入がCR模倣剤であり、CRの利点のいくつかを生じ得る可能性が決まることになる。
【0188】
別の態様において、哺乳動物(同じ種類の哺乳動物)の別の群をCR食餌プログラム(例えば、ST-CR、またはLT-CR食餌プログラム)に供する(図13には示していない)。哺乳動物のこの群は、老齢哺乳動物、若年哺乳動物、または中年哺乳動物からなってよい。候補介入に供した哺乳動物群の結果を、CR食餌プログラムに供した哺乳動物群の結果と比較することができる。候補介入に供した哺乳動物群の遺伝子発現レベルがCR食餌プログラムに供した哺乳動物群の対応する遺伝子発現レベルと一致するかまたは実質的に相関する場合、その候補介入はさらにスクリーニングする価値があるCR模倣剤または介入として同定され得る。1つの態様において、遺伝子発現レベルは、遺伝子発現レベルが同じ方向の発現または変化およびほぼ同じ大きさの発現または変化を有する場合に実質的に相関する。
【0189】
以下の態様は、上記のいくつかの態様で考察したような、CRは速やかに回復し得るという事実を利用する。図14は、1つの態様において、LT-CR食餌プログラムを哺乳動物群(ボックス302)内の個体に施すことを示す。哺乳動物群はヒト群、齧歯類群、または任意の他の動物被験群であってよい。所定の期間の後、例えばマウスの場合には20ヶ月後、哺乳動物群の何人または何匹かの個体を、ST-CON食餌プログラムに短期間、例えばマウスの場合には2ヶ月間切り替える。同様に、この所定の期間の後、哺乳動物群の残りの個体をLT-CRで同じ短期間、例えばマウスの場合には2ヶ月間維持する。
【0190】
この態様の結果から、CRが可逆的であることが示される。この態様を用いて、候補介入がCRのように可逆的であるかどうかを解析することもできる。候補介入の可逆性を試験するこの方法の例を図15に示す。例えば、(ボックス302におけるように)候補介入を哺乳動物(同じ種類の哺乳動物)の別の群に長期(または短期)間施すことができる。したがって、ボックス302に示すようにLT-CRに供する代わりに、哺乳動物のこの他の群を介入の施行に供する。その施行後に、介入を中止し、介入を中止した効果をCRを中止した効果と比較する。例えば、個体を対照食餌に切り替える場合、CRによって生じる可逆的効果が逆戻りするはずである。
【0191】
1つの態様においては、薬剤群を候補介入に曝露した後、少なくとも1つの生化学的測定(例えば、遺伝子発現レベル測定)を行う。生化学的測定は、候補介入がCRの効果の少なくともいくつかを実質的に模倣するかどうかまたは模倣するかどうかが示されるように設計する(例えば、候補介入の後に、CRによって変化することが知られている遺伝子の遺伝子発現レベルを測定する)。1つの態様において、特定の薬剤群(例えば、2Wk-薬剤群、4Wk-薬剤群、および8Wk-薬剤群)の哺乳動物の遺伝子発現レベルを特定のCR群(CR2群、CR4群、またはCR8群)の哺乳動物の対応する遺伝子発現レベルと比較する。別の態様において、特定の薬剤群の哺乳動物の遺伝子発現レベルをLT-CR群(例えば、図9のLT-CR継続群118)の哺乳動物の対応する遺伝子発現レベルと比較する。
【0192】
図15について続けると、1つの態様において、候補介入を被験群から取り除く。この態様において、(例えば、8Wk-薬剤群518におけるような)哺乳動物群への候補介入の施行をこの群から取り除く。1つの態様においては、8Wk-薬剤群518を薬剤休薬群に変換し、例えば1〜2週間といった期間、対照食餌のみに供する。同様に、CR群もまたCR食餌プログラムから退かせることができる。1つの態様において、CR8群512を同じ期間(例えば1〜2週間)CR食餌プログラムから退かせる。候補介入の中止の効果をCR食餌プログラムの中止の効果と比較して、その介入がCR食餌プログラムの中止の効果の少なくともいくつかを実質的に模倣するかどうかまたは模倣するかどうかを決定することができる。この態様により、候補介入によって生じる効果がCR食餌プログラムによって生じる効果と実質的に同一であるのかどうかを決定することが可能になる。
【0193】
別の態様において、CR食餌プログラムを8週間を超える期間、群に施行してもよい。したがって、CR8群512について、CR食餌プログラムに8週間供する代わりに、哺乳動物試料群をLT-CR食餌プログラム、8週間よりも長い期間の、例えばマウスの場合には20週間のCR食餌プログラムに供することができる。同様に、候補介入を8週間を超える期間、薬剤群に施行してもよい。したがって、8Wk-薬剤群について、8週間のみの候補介入の施行に供する代わりに、哺乳動物試料群を、8週間よりも長い、例えばマウスの場合には20週間の候補介入の施行に供する。長期間の後に、これらの群を対照食餌プログラムに切り替え得る。切り替えの結果を決定して、候補介入への曝露およびその中止の結果がCR食餌プログラムへの曝露およびその中止の効果と類似しているかどうかを判別することができる。通常は、1つの例示的な態様において、(CRに曝露し、その後CRから退かせた)CR群のメンバーのCRの導入および/または中止によって変化することが知られている遺伝子の遺伝子発現レベルを、(候補介入に曝露し、その後候補介入から退かせた)薬剤群メンバーの(同じ遺伝子に関する)遺伝子発現レベルと比較することにより、これらの効果を測定する。
【0194】
本明細書において引用した出版物、特許出願、およびアクセッション番号はすべて、個々の出版物、特許出願、またはアクセッション番号が詳細にかつ個別に参照として組み入れられることが示されるがごとく、参照として本明細書に組み入れられる。
【0195】
明確に理解できるように説明および実施例により本発明をある程度詳細に記述したが、添付の特許請求の精神または範囲から逸脱することなくいくらかの変更および修正を行い得ることは、本発明の教示に照らして当業者には容易に明白であろう。
【0196】
(表1)リアルタイムRT-PCR用のプライマー配列

【0197】
(表2)心臓の遺伝子発現に及ぼすLT-CRおよび逆の食餌療法への切り替えの効果


1この列の数字は、LT-CR群およびLT-CON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
2この列の数字は、ST-CR群およびLT-CON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較よる特定mRNAの平均変化倍率を表す。
3この列の数字は、ST-CON群およびLT-CON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
4「NC」は遺伝子発現に変化がないことを示す。
【0198】
(表3)実験群

注:特記しない限り、括弧内の数字は各化合物の量(mg/対照食餌キログラム)を示す
【0199】
(表4)薬剤特異的効果およびCRの効果と用いた薬剤のそれぞれの効果との重複の割合

【0200】
(表5)肝臓の遺伝子発現に及ぼすメトホルミンおよびCRの効果


1この列の数字は、メトホルミン群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
2この列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
3この列の数字は、ST-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
4「NC」は遺伝子発現に変化がないことを示す。
【0201】
(表6)肝臓の遺伝子発現に及ぼすグリピジドおよびCRの効果


1この列の数字は、グリピジド群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
2この列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
3この列の数字は、ST-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
4「NC」は遺伝子発現に変化がないことを示す。
【0202】
(表7)肝臓の遺伝子発現に及ぼすグリピジドおよびメトホルミン(GM)ならびにCRの効果


1この列の数字は、GM群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
2この列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
3この列の数字は、ST-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
4「NC」は遺伝子発現に変化がないことを示す。
【0203】
(表8)肝臓の遺伝子発現に及ぼすロシグリタゾンおよびCRの効果


1この列の数字は、ロシグリタゾン群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
2この列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
3この列の数字は、ST-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
4「NC」は遺伝子発現に変化がないことを示す。
【0204】
(表9)肝臓の遺伝子発現に及ぼす大豆イソフラボンおよびCRの効果

1この列の数字は、ダイズ群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
2この列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
3この列の数字は、ST-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
4「NC」は遺伝子発現に変化がないことを示す。
【0205】
(表10)LT-CRおよび使用する薬剤により発現が逆方向に変化する遺伝子

1この列の数字は、LT-CR群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
この列の数字は、薬剤群およびCON群(n = 4)の個々のマウス間の可能な全16対の比較による特定mRNAの平均変化倍率を表す。
【0206】
(表11)種々の薬剤処置によって再現されるCR効果の割合

【0207】
(表12)対照食餌およびCR食餌組成

【0208】
(表13)qPCR用のプライマー配列

【0209】
(表14)長期CRによって変化する遺伝子


【0210】
(表15)発現の変化がすべての時点において同方向に維持される遺伝子


【0211】
(表16)ST-CRおよびLT-CRによって変化する遺伝子(同方向ではない)


【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】種々の試料群を供する例示的な食餌療法図式を示す。
【図2】図2A〜図2Bは、種々のカロリー制限食餌療法に基づいて遺伝子がどのようにクラスターに分類されるかを示す。
【図3】遺伝子変化を確認するための、マイクロアレイデータを立証するリアルタイムRT-PCR(逆転写PCR)データの例示的な結果を示す;(PCRはポリメラーゼ連鎖反応法である)。
【図4】種々の被験群を供する例示的な食餌療法図式を示す。。
【図5】いくつかの態様に従って種々の化合物で処置してから8週間後のマウス肝臓における遺伝子発現変化の解析を示す。表示したグルコース制御化合物で8週間処理した後のマウス肝臓における遺伝子発現変化の解析。所与の薬剤がCR特異的遺伝子発現プロファイルを再現する程度を、チャートの表示した面積の大きさにより表す。各群内の遺伝子数をチャートの色付けした「スライス」によって示す。各カテゴリー内の遺伝子数を各スライス内に示す。各薬剤または薬剤の組み合わせによって変化した全遺伝子数を括弧内に示す。遺伝子数は表5〜10による。各群における全遺伝子に占める割合を表4に示す。
【図6】ベン図解析を示す。この解析は、LT-CR、ST-CR、および用いた薬剤のそれぞれの効果の重複を示す。括弧内の数字は、所与の薬剤がLT-CRによって生じる発現変化と逆方向の発現変化を誘導した遺伝子を示す。遺伝子数は表5〜10による。
【図7】(様々な期間の)種々の食餌プログラムを老齢マウス等の老齢哺乳動物に施す例示的な態様を示す。
【図8】老齢期にCRに供したマウスの最長寿命に及ぼすCRの効果を示す。
【図9】本発明のいくつかの態様に従ってマウスに施す食餌プログラムを示す。
【図10】図10A〜10Bは、CRによって発現に影響を受ける遺伝子の発現変化の動態を示す。10A) 54個のAffymetrixユニーク識別子では、2、4、または8週間後に始まった発現の初期変化がその後の時点を通して維持される。35個のAffymetrixユニーク識別子に関しては、発現変化に8週間を超えるCR処置(LT-CR)を必要とする。10B) 残りの34個のAffymetrixユニーク識別子に関しては、遺伝子発現の変化が2、4、または8週間後に始まった後、一貫したパターンが存在しない。LT-CRを対照食餌に8週間切り替えることにより、123個のAffymetrixユニーク識別子がさらなるクラスターに分類される(CON8)。
【図11】図11A〜11Eは、CRによって影響を受けた遺伝子の遺伝子発現の変化を確認するための、リアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT-PCR)を用いた結果を示す;PCRはポリメラーゼ連鎖反応法である。
【図12】本発明のいくつかの態様に従って介入を同定する方法を示す。
【図13】老年期の哺乳動物対象において使用するための介入を同定する方法を示す。
【図14】CR効果が可逆的であるかどうかを決定する例示的な方法を示す。
【図15】CR模倣剤の効果が可逆的であるかどうかを決定する例示的な方法を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、カロリー制限のマーカーを同定する方法:
カロリー制限食餌プログラムに第1期間供した第1哺乳動物から得られた生物試料において、1つまたは複数のバイオマーカーの発現パターンを決定する段階;
カロリー制限食餌プログラムに第1期間とは異なる第2期間供した第2哺乳動物から得られた生物試料において、1つまたは複数のバイオマーカーの発現パターンを決定する段階;
第1哺乳動物に由来する生物試料における1つまたは複数のバイオマーカーの発現パターンを第2哺乳動物に由来する生物試料における発現パターンと比較する段階;
第1哺乳動物および第2哺乳動物に由来する生物試料における1つまたは複数のバイオマーカーの発現パターンを対照食餌プログラムを施した対照哺乳動物に由来する生物試料における発現パターンと比較し、それによりカロリー制限のマーカーを同定する段階。
【請求項2】
第1哺乳動物を長期カロリー制限に供する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1哺乳動物を短期カロリー制限に供する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第2動物を長期カロリー制限に一定期間供する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
第2動物を長期カロリー制限に供した期間の後、その動物を対照食餌に切り替える、請求項4記載の方法。
【請求項6】
生物試料における発現パターンがmRNAレベルの変化を検出することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
mRNAレベルの変化がマイクロアレイを用いて決定される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
生物試料における発現パターンが遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルまたは活性の変化を検出することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
発現パターンが心臓組織において決定される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
カロリー制限食餌プログラムに第1および第2期間とは異なる第3期間供した第3哺乳動物から得られた生物試料において、1つまたは複数のバイオマーカーの発現パターンを決定する段階;およびその発現パターンを第1哺乳動物、第2哺乳動物、および対照哺乳動物における発現パターンと比較する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
カロリー制限に供した第1または第2哺乳動物を、カロリー制限期間の後に対照食餌に切り替える、請求項1記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物が齧歯類、サル、およびヒトからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物が齧歯類である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
齧歯類がマウスである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
以下の段階を含む、心臓または血管の少なくとも1つにおいてコラーゲン蓄積を減少させる介入を同定する方法:
哺乳動物試料を候補介入で処置する段階;
哺乳動物試料においてコラーゲン遺伝子発現またはコラーゲン蓄積を測定する段階;および
コラーゲン遺伝子発現またはコラーゲン蓄積の変化をカロリー制限食餌を施した哺乳動物試料の変化と比較する段階;およびカロリー制限食餌を施した哺乳動物試料において生じる減少を模倣するコラーゲン遺伝子発現またはコラーゲン蓄積の減少を同定し、それにより心臓または血管の少なくとも1つにおいてコラーゲン蓄積を減少させる介入を同定する段階。
【請求項16】
哺乳動物試料がマウスである、請求項17記載の方法。
【請求項17】
以下の段階を含む、カロリー制限を模倣する介入を同定する方法:
試料を候補介入で処置する段階;
および請求項1に従って同定されたバイオマーカーの、カロリー制限において認められる変化と相関する発現パターンの変化を同定し、それによりカロリー制限を模倣する介入を同定する段階。
【請求項18】
試料が哺乳動物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物がマウスである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
試料が哺乳動物細胞試料である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
バイオマーカーが表2、5、6、7、8、9、10、14、15、または16に示す遺伝子によってコードされるタンパク質である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
バイオマーカーをコードするmRNAのレベルを測定することによって発現パターンが決定される、請求項17記載の方法。
【請求項23】
以下の段階を含む、カロリー制限を模倣する介入を同定する方法:
試料を候補介入で処置する段階;
表2、5、6、7、8、9、10、14、15、または16に示す遺伝子によってコードされるタンパク質の発現パターンを比較する段階;および発現パターンの変化をカロリー制限で処置した動物において認められる変化と比較し、それによりカロリー制限を模倣する介入を同定する段階。
【請求項24】
カロリー制限が短期カロリー制限である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
以下の段階を含む、遺伝子を解析する方法:
LT-CON群に長期対照(LT-CON)食餌プログラムを、LT-CR群に長期カロリー制限(LT-CR)食餌プログラムを第1所定期間施す段階であって、該LT-CON群と該LT-CR群が同様の哺乳動物試料からなる段階;
該第1所定期間の後、該LT-CON群をST-CR群とLT-CON継続群に分割し、該ST-CR群を短期カロリー制限(ST-CR)食餌プログラムに第2所定期間切り替え、該LT-CON継続群を該LT-CON食餌プログラムで第2所定期間維持する段階;
該第1所定期間の後、該LT-CR群をST-CON群とLT-CR継続群に分割し、該ST-CON群を短期対照(ST-CON)食餌プログラムに第2所定期間切り替え、該LT-CR継続群を該LT-CR食餌プログラムで第2所定期間維持する段階;および
該ST-CR群、該LT-CON継続群、該ST-CON群、および該LT-CR継続群の遺伝子発現効果を比較する段階。
【請求項26】
以下の段階を含む、遺伝子群に関して少なくとも1つの制御核酸配列モチーフを同定する方法:
LT-CON群にLT-CON食餌プログラムを、LT-CR群にLT-CR食餌プログラムを第1所定期間施す段階であって、該LT-CON群と該LT-CR群が同様の哺乳動物試料からなる段階;
該第1所定期間の後、該LT-CON群をST-CR群とLT-CON継続群に分割し、該ST-CR群をST-CR食餌プログラムに第2所定期間切り替え、該LT-CON継続群を該LT-CON食餌プログラムで第2所定期間維持する段階;
該第1所定期間の後、該LT-CR群をST-CON群とLT-CR継続群に分割し、該ST-CON群をST-CON食餌プログラムに第2所定期間切り替え、該LT-CR継続群を該LT-CR食餌プログラムで第2所定期間維持する段階;
該ST-CR群、該LT-CON継続群、該ST-CON群、および該LT-CR継続群の遺伝子発現効果を比較する段階;および
該ST-CR群、該LT-CON継続群、該ST-CON群、および該LT-CR継続群のそれぞれに関して類似の挙動を示す遺伝子を同定して、該切り替えによって影響を受ける遺伝子を同定する段階。
【請求項27】
以下の段階を含む、心臓および血管の少なくとも1つにおいてコラーゲン蓄積を潜在的に減少させる化合物を同定する方法:
1つの試料群へのCR食餌プログラムの施行から対照データを取得する段階;
別の試料群に化合物のある投与量を投与する段階;
該CR食餌プログラムによるコラーゲン測定値の少なくとも1つを、化合物のある投与量の該投与による少なくとも1つのコラーゲン測定値と比較する段階;および
少なくとも部分的に該比較に基づいて、該化合物をコラーゲン蓄積の減少に潜在的に有効であると同定する段階。
【請求項28】
以下の段階を含む、長期カロリー制限(LT-CR)に供した哺乳動物における少なくとも1つの効果を再現する方法:
第1群の哺乳動物にLT-CR食餌プログラムを第1期間施す段階;
第2群の哺乳動物に少なくとも1つの化合物を第2期間投与する段階であって、該第2期間は該第1期間よりも実質的に短く、該第1群の哺乳動物と該第2群の哺乳動物が同様のものである段階;
対照食餌プログラムの施行から対照データを取得する段階;
第1群の哺乳動物および第2群の哺乳動物から得られたデータを該対照データと比較することにより、該LT-CR食餌プログラムおよび該少なくとも1つの化合物の効果を決定する段階;および
該LT-CR食餌プログラムと該少なくとも1つの化合物の効果を比較して、該少なくとも1つの化合物が該LT-CRによって生じる少なくとも1つの効果を再現するかどうかを決定する段階。
【請求項29】
以下の段階を含む、CRの効果を再現する化合物を同定する方法:
第1哺乳動物に有効量の被験化合物をある期間投与する段階;
第2哺乳動物にCR食餌プログラムを施す段階であって、該第1哺乳動物と該第2哺乳動物が同様のものである段階;
該第1哺乳動物および該第2哺乳動物のそれぞれにおける遺伝子発現レベル、核酸、タンパク質のレベル、またはタンパク質活性レベルの変化を解析する段階;および
該被験化合物が該第1哺乳動物において解析された変化を生じ、該解析された変化の少なくとも約1%または1つもしくは複数の遺伝子変化が該CRによって誘導される該変化のサブセットである場合に、該被験化合物を該CRによって誘導される変化を再現する化合物として同定する段階。
【請求項30】
以下の段階を含む、化合物を探索する方法:
第1群の哺乳動物にST-CR食餌プログラムを所定の期間施す段階;
第2群の哺乳動物に少なくとも1つの化合物のある投与量を該所定の期間以下の期間、投与する段階;
遺伝子発現レベル、核酸、タンパク質のレベル、またはタンパク質活性レベルの変化を評価する段階;および
該少なくとも1つの化合物が該ST-CR食餌プログラムによって誘導される少なくともいくつかの効果を模倣するかどうかを決定する段階。
【請求項31】
以下の段階を含む、カロリー制限(CR)の動態を評価する方法:
長期対照(LT-CON)食餌プログラムの施行から対照データを取得する段階;
いくつかの哺乳動物試料群のそれぞれをCR食餌プログラムに供する段階であって、該いくつかの哺乳動物試料群のそれぞれを該CR食餌プログラムに様々な期間供する段階;ならびに
該いくつかの哺乳動物試料群のそれぞれの該CR食餌プログラムの効果と該対照データを比較する段階、および該いくつかの哺乳動物試料群のメンバーの効果を比較する段階。
【請求項32】
以下の段階を含む、CRの動態を評価する方法
哺乳動物試料群を第1試料群と第2試料群に分割する段階;
該第1試料群をLT-CON食餌プログラムに第1所定期間、該第2試料群を長期カロリー制限(LT-CR)食餌プログラムに第2所定期間供する段階;
該第1所定期間の後、該第1試料群の一部をCR食餌プログラムに第3所定期間切り替える段階;
該第2所定期間の後、該第2試料群の少なくとも一部を対照食餌プログラムに該第3所定期間切り替え、該第2試料群の残りの部分を該LT-CR食餌プログラムで維持する段階;および
該第1試料群および該第2試料群のメンバーのCRの効果を比較する段階。
【請求項33】
以下の段階を含む、CRの効果を回復させる方法:
LT-CR制限食餌プログラムに供した哺乳動物試料群に対照食餌プログラムを施す段階であって、該対照食餌プログラムが該哺乳動物試料群に対して該LT-CR制限食餌プログラムのカロリーよりも高いカロリー許容を含む段階。
【請求項34】
以下の段階を含む、老齢対象において使用するための介入を同定する方法:
第1試料群内の個体に対照食餌プログラムを施す段階;
老齢期が開始した後、少なくとも1つの候補介入を該第1試料群内の該個体に施す段階;および
該候補介入の効果を、第2試料群に対するカロリー制限食餌の効果と比較する段階。
【請求項35】
以下の段階を含む、介入を同定する方法:
生物試料を少なくとも1つの介入に曝露する段階;
該生物試料を該介入に曝露した後、少なくとも1つの生化学的測定を行う段階であって、該生化学的測定が、該介入がCR(カロリー制限)の効果の少なくともいくつかを模倣するかどうかを示すように設計される段階;
該介入を該生物試料から取り除く段階;および
該介入を中止した後に、少なくとも1つのさらなる生化学的測定を行う段階であって、該少なくとも1つのさらなる生化学的測定が、該中止がCRを中止した効果の少なくともいくつかを模倣するかどうかを示すように設計される段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2006−521809(P2006−521809A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507152(P2006−507152)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/007737
【国際公開番号】WO2004/081537
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】