説明

カロリー制限模倣物のスクリーニング方法

【課題】カロリー制限模倣物のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、カロリー制限により発現が活性化される遺伝子の上流に見られるコンセンサス配列、プロモーター、レポーター遺伝子を含むレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行い、被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の不在下でのそれと比較し、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質を、カロリー制限模倣物として選択する工程を含むスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロリー制限模倣物をスクリーニングする方法及びその方法の実施に有用なベクター、キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
カロリー制限(calorie restriction:CR)は生活習慣病、癌、アルツハイマー病など、老化に伴う疾患の発症を遅延させ、寿命を延長させる最も確実な介入方法である。
従って、苦痛なくカロリー制限と同様の効果を期待できるカロリー制限模倣物(CR mimetics)を開発することは、病気を未然に防ぎ、進行を抑制する可能性があることから産業的に非常に大きなインパクトを有していると考えられる。しかしながら、これまでカロリー制限模倣物の効率的なスクリーニング方法は確立されていなかった。
カロリー制限による寿命延長効果に寄与する遺伝子に関しては、多くの研究がなされており、いくつかの遺伝子がその本態の候補として挙げられている。それらの多くはGH(growth hormone)系もしくはInsulin系に属するシグナル遺伝子に関連するものである。本発明者も、GH−IGF−I(下垂体成長ホルモン−インスリン様成長因子−I)シグナル伝達系にその本態がある可能性を研究し、GHのアンチセンス遺伝子を導入したトランスジェニックラットを作成した。該トランスジェニックラットでは、確かに寿命延長効果が認められ、カロリー制限による効果の一部がGH−IGF−Iシグナル伝達系によるものであることを証明した。しかしながら、該トランスジェニックラットでは、カロリー制限をした正常マウスほど大きな寿命延長効果は得られず、また該トランスジェニックラットをカロリー制限するとさらに寿命が延長することから、GH−IGF−Iシグナル伝達系の他にもメカニズムがあることが考えられた(非特許文献1)。
これまでのように、カロリー制限による寿命延長効果に寄与する複数の遺伝子のうち1つの遺伝子を用いてその効果を追跡すると、その遺伝子が関わった効果しか得ることができず、その遺伝子に影響するカロリー制限模倣物しかスクリーニングできないため、カロリー制限模倣物のスクリーニング能力は不十分である。
また、PGC−1αが酸化ストレスによる神経変性の防止に重要であることがノックアウトマウスを用いた研究から明らかになっている(非特許文献2)。HNF−4の過剰発現等によって一部カロリー制限と似た遺伝子発現パターンを示すことも報告されている(非特許文献3)。しかしながら、恒常的なPGC−1αとHNF−4の活性化は、糖新生が亢進して血糖値が上昇するなどの糖尿病と似たような表現型を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】FASEB J.2003 Jun;17(9):1108−9.Epub 2003 Apr 8.
【非特許文献2】St−Pierre J et al., Cell. 2006 Oct 20;127(2):397−408.
【非特許文献3】Rodgers JT et al., Nature. 2005 Mar 3;434(7029):113−8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、カロリー制限と同様の効果をもたらし得るカロリー制限模倣物およびその標的分子を同定し、それを用いてカロリー制限模倣物のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、カロリー制限の効果に係る遺伝子に共通する転写活性調節配列に働きかければ、その下流の遺伝子の有する寿命延長効果のほとんどを網羅することができる点に着目して、上記課題を解決するために鋭意検討し、カロリー制限により発現が活性化される遺伝子の上流にはコンセンサス配列があることを見出し、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
(1) レポーターベクターであって、
(A)以下の(a)〜(d)から選択されるいずれか1つのヌクレオチド配列、
(a)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列、
(b)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列において、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入または付加されたヌクレオチド配列、
(c)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列に少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(d)上記(a)〜(c)に記載の配列に相補的なヌクレオチド配列
(B)プロモーター、並びに
(C)レポーター遺伝子
を含み;
該プロモーターが、該レポーター遺伝子の転写を駆動し得るように、該レポーター遺伝子の5’側に連結しており;且つ
(A)のヌクレオチド配列が、該プロモーターによる該レポーター遺伝子の転写を調節し得るように、該プロモーターの5’側に連結している、レポーターベクター。
(2) (A)のヌクレオチド配列が、以下の(a’)〜(d’)から選択されるいずれか1つであり、且つHNF−4αへ結合し得るヌクレオチド配列である、(1)記載のレポーターベクター:
(a’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列、
(b’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入または付加されたヌクレオチド配列、
(c’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列に少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(d’)上記(a’)〜(c’)に記載の配列に相補的なヌクレオチド配列。
(3) (1)記載のレポーターベクターが導入された形質転換体。
(4) (1)記載のレポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物。
(5) 以下の工程を含む、カロリー制限模倣物質のスクリーニング方法:
1)被検物質の存在下で、(1)記載のレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行うこと;
2)被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の不在下でのそれと比較すること;及び
3)比較の結果、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質を、カロリー制限模倣物質の候補として選択すること。
(6) (1)記載のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物を含む、カロリー制限模倣物質をスクリーニングするためのキット。
(7) 以下の工程を含む、寿命を延長する物質のスクリーニング方法:
1)被検物質の存在下で、(1)記載のレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行うこと;
2)被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の不在下でのそれと比較すること;及び
3)比較の結果、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質を、寿命を延長する物質の候補として選択すること。
(8) (1)記載のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物を含む、寿命を延長する物質をスクリーニングするためのキット。
(9) (2)記載のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物、及び
HNF−4α又はHNF−4αを発現し得る発現ベクター
を含む組み合わせ物。
(10) 更に、PGC−1α又はPGC−1αを発現し得る発現ベクターを含む、(9)記載の組み合わせ物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、カロリー制限による寿命延長効果をもたらす複数の遺伝子の転写を活性化させ得るカロリー制限模倣物のスクリーニングが可能である。本発明の方法を用いれば、短期間のうちに、安価で、カロリー制限模倣効果(例えば寿命延長効果)の高い物質を得ることができる。本発明の方法は、インビトロ及びインビボの双方で行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ゲルシフトアッセイによるモチーフ2とHNF−4αとの結合解析結果を示す。レーン1:Flag−HNF−4αタンパク質なし。レーン2:Flag−HNF−4αタンパク質あり。レーン3:Flag−HNF−4αタンパク質あり。抗Flag抗体あり。レーン4:Flag−HNF−4αタンパク質あり。非ビオチン化モチーフ2 DNAあり。
【図2】クロマチン免疫沈降法によるApoC−IIおよびGstm遺伝子の上流へのHNF−4αの結合確認結果を示す。レーン1:100bp DNAマーカー。レーン2:反応系に入れた免疫沈降していないDNA(陽性コントロール)。レーン3:非特異的IgG抗体により免疫沈降したDNA(陰性コントロール)。レーン4:RNAポリメーラー抗体により免疫沈降したDNA(陽性コントロール)。レーン5:HNF−4α抗体により免疫沈降したDNA(結合解析)1。レーン6:HNF−4α抗体により免疫沈降したDNA(結合解析)2。レーン7:反応系に入れた免疫沈降していないDNA(陽性コントロール)。レーン8:非特異的IgG抗体により免疫沈降したDNA(陰性コントロール)。レーン9:RNAポリメーラー抗体により免疫沈降したDNA(陽性コントロール)。レーン10:HNF−4α抗体により免疫沈降したDNA(結合解析)1。レーン11:HNF−4α抗体により免疫沈降したDNA(結合解析)2。レーン12:100bp DNAマーカー。
【図3】293細胞におけるレポーターの活性化におけるHNF−4α、PGC−1αの役割を示す(培養24時間)。
【図4】293細胞におけるレポーターの活性化におけるHNF−4α、PGC−1αの役割を示す(培養48時間)。
【図5】レポーターを恒常的に発現する細胞株に対するインスリン/デキサメタゾン添加の影響を示す。
【図6】マウス生体内への一過性遺伝子導入によるレポーターアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.レポーターベクター
本発明は、レポーターベクターであって、
(A)以下の(a)〜(d)から選択されるいずれか1つのヌクレオチド配列、
(a)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列、
(b)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列において、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加されたヌクレオチド配列、
(c)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列に少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(d)上記(a)〜(c)に記載の配列に相補的なヌクレオチド配列
(B)プロモーター、並びに
(C)レポーター遺伝子
を含み;
該プロモーターが、該レポーター遺伝子の転写を駆動し得るように、該レポーター遺伝子の5’側に連結しており;且つ
(A)のヌクレオチド配列が、該プロモーターによる該レポーター遺伝子の転写を調節し得るように、該プロモーターの5’側に連結している、レポーターベクターを提供するものである。
【0010】
配列番号1〜4で表されるヌクレオチド配列は、以下の通りである。
配列番号1:agcacttgggaggcagaggcagggggag(モチーフ2)
配列番号2:agaccaggctggcct(モチーフ1)
配列番号3:ctgcctctgcctccc(モチーフ3)
配列番号4:agtgagttccaggccagccag(モチーフ4)
【0011】
後述の実施例において示すように、配列番号1〜4で表されるヌクレオチド配列は、長寿命を示すAmes dwarf miceにおいてコントロールマウスよりも発現が亢進している遺伝子であって、且つカロリー制限により発現が更に亢進する遺伝子(43遺伝子)の上流に高頻度に見出されるモチーフである。
【0012】
(b)のヌクレオチド配列は、配列番号1〜4のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列において1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加されたヌクレオチド配列、例えば、(1)配列番号1〜4のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列中の1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のヌクレオチドが欠失したヌクレオチド配列、(2)配列番号1〜4のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列に1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のヌクレオチドが付加されたヌクレオチド配列、(3)配列番号1〜4のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列に1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のヌクレオチドが挿入されたヌクレオチド配列、(4)配列番号1〜4のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列中の1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換されたヌクレオチド配列、または(5)上記(1)〜(4)の変異が組み合わされたヌクレオチド配列(この場合、変異したヌクレオチドの総和が、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)である。
【0013】
上記(c)のヌクレオチド配列は、配列番号1〜4のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するヌクレオチド配列である。
【0014】
ここで「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのヌクレオチド配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全ヌクレオチド残基に対する、同一ヌクレオチド残基の割合(%)を意味する。
【0015】
本明細書におけるヌクレオチド配列の同一性は、EMBL−EBIのインターネットホームページ上で公開された相同性計算アルゴリズムClastalW2(http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.html?)を用い、デフォルトの条件にて計算される。
【0016】
(d)のヌクレオチド配列は、上記(a)〜(c)に記載の配列に相補的な配列である。
ここで「相補的」とは、ヌクレオチド配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上、最も好ましくは100%の相補性を有することをいう。相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(NationalCenter for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。
【0017】
本ベクターにおいて、(A)のヌクレオチド配列は、プロモーターによるレポーター遺伝子の転写を調節し得る。「調節」には、転写の促進及び抑制が含まれる。好ましくは「促進」である。そのような転写の調節は、(A)のヌクレオチド配列に結合し得る転写因子によりもたらされる。該転写因子としては、HNF−4α等を挙げることができる。
【0018】
(A)のヌクレオチド配列は、好ましくは、以下の(a’)〜(d’)から選択されるいずれか1つであり、且つHNF−4αへ結合し得るヌクレオチド配列である:
(a’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列、
(b’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1若しくは複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加されたヌクレオチド配列、
(c’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列に少なくとも70%(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(d’)上記(a’)〜(c’)に記載の配列に相補的なヌクレオチド配列。
【0019】
上記の(a’)〜(d’)のヌクレオチド配列は、HNF−4αへ結合する。「ヌクレオチド配列XのHNF−4αへの結合」とは、ヌクレオチド配列XからなるDNAのHNF−4αへの結合を意味する。このHNF−4αへの結合は、特に哺乳動物細胞の核内の生理的条件における結合を意味する。当該結合は、評価対象のヌクレオチド配列からなるDNAと、単離又は精製されたHNF−4αとを用いたゲルシフトアッセイによって確認することができる。ゲルシフトアッセイは例えばEMSA:electrophoretic mobility shift assay kit(ピアス社)を用いて行うことができる。
【0020】
HNF−4αは、肝臓に多く存在する転写因子として同定された公知の核内受容体である。特定の脂肪酸アシルCoAがHNF−4αを活性化する内因性リガンドであることが知られている。本明細書中、HNF−4αは、特に哺乳動物HNF−4αを意味する。本明細書中、哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることができる。哺乳動物は、好ましくはげっ歯類(例えばマウス)又は霊長類(例えばヒト)である。
【0021】
従って、(A)のヌクレオチド配列として上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列を用いた場合、本発明のレポーターベクターを、HNF−4αを含む哺乳動物細胞へ導入すると、HNF−4αが(A)のヌクレオチド配列へ結合し、レポーター遺伝子の転写が促進される。
【0022】
「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に駆動するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始めるヌクレオチド配列である。本発明のレポーターベクターにおいて用いることのできるプロモーターは、哺乳動物の細胞内において機能可能なプロモーターである。細胞の種類は、特に限定されないが、後述の表1に列挙されたカロリー制限により発現が上昇する遺伝子の少なくとも1つを天然で発現可能な細胞が好ましい。そのような細胞としては、肝細胞、脂肪細胞、腎臓細胞(293細胞等)、線維芽細胞等を挙げることができるが、これらに限定されない。プロモーターの種類は、特に限定されず、使用目的や、導入対象の細胞の種類等に応じて適宜選択することが可能である。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SRαプロモーター、SV40プロモーター、hsp68プロモーター/エンハンサー、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0023】
「レポーター遺伝子」とは、検出が容易なポリペプチド(又はmRNA)をコードする遺伝子をいう。レポーター遺伝子としては、酵素、蛍光タンパク質等を挙げることができるがこれに限定されない。好適なレポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、分泌型ルシフェラーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)遺伝子、ペルオキシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、グリーンフルオレセントプロテイン(GFP)遺伝子などが挙げられる。
【0024】
「レポーターベクター」とは、レポーター遺伝子を発現し得る発現ベクターを意味する。
【0025】
本発明のレポーターベクターにおいては、プロモーターがレポーター遺伝子の転写を駆動し得るように、該レポーター遺伝子の5’側に連結している。プロモーターは、本発明のレポーター遺伝子の転写を駆動し得る限り、ベクター中のいかなる場所に配置されていてもよいが、プロモーターは、通常、レポーター遺伝子の転写開始点から約20〜30bp程度上流(5’側)に位置する。
【0026】
本発明のレポーターベクターにおいては、(A)のヌクレオチド配列が、プロモーターによるレポーター遺伝子の転写を調節し得るように、該プロモーターの5’側に連結している。(A)のヌクレオチド配列は、プロモーターによる該レポーター遺伝子の転写を調節し得る限り、プロモーターと隣接して(即ち、スペーサー領域を介さずに)連結されていてもよく、あるいはスペーサー領域を介して連結されていてもよい。スペーサー領域の長さは、本発明のレポーターベクターが安定に存在し得、且つ、プロモーターによる該レポーター遺伝子の転写を調節し得る限り、特に限定されないが、多くとも10Kbp、例えば5Kbp以下、3Kbp以下、1Kbp以下、500bp以下、200bp以下、100bp以下、50bp以下、25bp以下であることが好ましい。スペーサー領域を構成するヌクレオチド配列は、特に限定されず、任意の配列とすることができる。
【0027】
また、本発明のレポーターベクターにおいて、1本のベクター内に含まれる(A)のヌクレオチド配列のコピー数は特に限定されず、1本のベクター内に(A)のヌクレオチド配列が1コピーのみ含まれていてもよく、あるいは、複数コピー数の(A)のヌクレオチド配列がタンデムに連結された態様で1本のベクター内に含まれていてもよい。複数コピー数の(A)のヌクレオチド配列をタンデムに連結して用いることにより、より強力にレポーター遺伝子の転写が調節(促進又は抑制)される。複数コピー数の(A)のヌクレオチド配列をタンデムに連結して用いる場合において、連結される(A)のヌクレオチド配列のコピー数は、プロモーターによるレポーター遺伝子の転写を調節し得る限り特に限定されないが、例えば2〜50コピー、好ましくは2〜20コピー、より好ましくは2〜10コピー程度である。ポリヌクレオチドの連結操作の容易性などを考慮すると、2〜5コピー程度が好ましい。
【0028】
本発明のレポーターベクターの骨格となるベクターの種類は、特に限定されず、使用目的や、導入対象の細胞の種類等に応じて適宜選択することが可能である。ベクターとしては、プラスミドベクター(大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、ウイルスベクター(レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルス等)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19、pSH15、pAU001)等)、λファージなどのバクテリオファージなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明のレポーターベクターは、さらに、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有することもできる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
【0030】
本発明のレポーターベクターは、下記のカロリー制限模倣物質のスクリーニング方法の実施に有用である。
【0031】
2.形質転換体
本発明は、上記本発明のレポーターベクターが導入された形質転換体を提供するものである。宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、哺乳動物細胞(肝細胞、脂肪細胞、腎臓細胞(293細胞等)、線維芽細胞等)などが用いられる。宿主は好ましくは哺乳動物細胞である。
【0032】
本発明の形質転換体は、上記本発明のレポーターベクターを、自体公知の遺伝子導入法(例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、Gene Gunによる遺伝子導入法等)に従って上記宿主へ導入することにより、製造することができる。本発明の形質転換体は、下記のカロリー制限模倣物質のスクリーニング方法の実施に有用である。
【0033】
本発明の形質転換体に、さらに別の遺伝子を導入してもよい。その遺伝子の種類は、特に限定されないが、例えば、哺乳動物のHNF−4αが好適なものとして挙げられる。上述のように、(A)のヌクレオチド配列として上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列を用いた場合、HNF−4αが本発明のレポーターベクター中の(A)のヌクレオチド配列へ結合し、レポーター遺伝子の転写が促進される。従って、本発明の形質転換体にさらに、HNF−4αを発現し得る発現ベクターを導入することにより、レポーター遺伝子の転写が促進される。また、脂肪酸アシルCoA等のHNF−4αのリガンドの存在下では、HNF−4αが活性化され、レポーター遺伝子の転写がさらに促進されることが期待される。従って、本発明は、(A)のヌクレオチド配列が上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列である本発明のレポーターベクター及び哺乳動物のHNF−4αを発現し得る発現ベクターが導入された形質転換体をも提供するものであり、該形質転換体は、下記のカロリー制限模倣物質のスクリーニング方法におけるポジティブコントロール等として有用である。
【0034】
また、後述の実施例に示すように、(A)のヌクレオチド配列として上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列を用いた場合、転写共役因子であるPGC−1αが、HNF−4αによるレポーター遺伝子の転写の促進をさらに増強する。従って、本発明は、(A)のヌクレオチド配列が上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列である本発明のレポーターベクター、哺乳動物のHNF−4αを発現し得る発現ベクター及び哺乳動物のPGC−1αを発現し得る発現ベクターが導入された形質転換体をも提供するものであり、該形質転換体は、下記のカロリー制限模倣物質のスクリーニング方法における陽性コントロール等として有用である。
【0035】
尚、哺乳動物のHNF−4αを発現し得る発現ベクター及び哺乳動物のPGC−1αを発現し得る発現ベクターは、(A)のヌクレオチド配列が不要であることを除き、本発明のレポーターベクターの構成に準じて、当業者であれば容易に製造することができる。
【0036】
3.トランスジェニック哺乳動物
本発明は、上記した本発明のレポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物を提供するものである。本発明のトランスジェニック哺乳動物を用いることにより、下記のカロリー制限模倣物質のスクリーニング方法をインビボで実施することが可能となる。
【0037】
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、上記した本発明のレポーターベクターを哺乳動物個体内へ導入することにより製造することが可能である。この場合、該レポーターベクターに含まれるプロモーターとしては、本発明のレポーターベクターが導入される哺乳動物個体の細胞内でレポーター遺伝子の転写を駆動可能なプロモーターが選択される。
【0038】
本発明のレポーターベクターを哺乳動物個体へ導入する方法としては、例えば、上記レポーターベクターを哺乳動物個体へ直接注入する方法を用いることが出来る。この場合、対象の非ヒト哺乳動物個体中の目的とする細胞へ確実にレポーターベクターが到達する様に、十分量のレポーターベクターが動物個体内へ注入される。この場合、導入効率などの点からは、レポーターベクターとしてはウイルスベクターを用いることが好ましい。レポーターベクターとしてプラスミドベクターを使用する場合は、適切な遺伝子導入試薬とともに哺乳動物内へ注入することが望ましい。
【0039】
例えば、後述の実施例に記載されるように、本発明のレポーターベクターをハイドロダイナミック法に基づく遺伝子導入試薬とともに、非ヒト哺乳動物の静脈内へ注入することにより、本発明のレポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物を製造することが出来る。
【0040】
しかし、上述の様にレポーターベクターの哺乳動物個体への直接注入によっては、導入されたレポーターベクターが生殖系列に入らずに、子孫へ伝達されない場合が多い。従って、より確実に生殖系列へ本発明のレポーターベクターを導入するために、上記レポーターベクターを非ヒト哺乳動物の受精卵、胚性幹細胞(以下、ES細胞と略す)等へ導入し、これらの細胞を用いて発生させた個体から、本発明のレポーターベクターが生殖系列細胞を含むすべての細胞の染色体上に組み込まれた個体を選択することにより、本発明のレポーターベクターが安定に染色体上に組み込まれた非ヒトトランスジェニック哺乳動物を製造することができる。製造された非ヒトトランスジェニック哺乳動物の生殖系列細胞において導入されたレポーターベクターが存在することは、作出された哺乳動物の子孫がその生殖系列細胞および体細胞の全てに導入された本発明のレポーターベクターを有することを指標として確認することができる。個体の選択は、個体を構成する組織、例えば、血液組織、尾等の一部から調製した染色体DNA上に導入されたレポーターベクターが存在することをDNAレベルで確認することによって行われる。このようにして選択された個体は通常、相同染色体の片方に導入された本発明のレポーターベクターを有するヘテロ接合体なので、ヘテロ接合体の個体同士を交配することにより、子孫の中から導入されたレポーターベクターを相同染色体の両方に持つホモ接合体動物を取得することができる。このホモ接合体の雌雄の動物を交配することにより、すべての子孫が本発明のレポーターベクターを安定に保持するホモ接合体となるので、通常の飼育環境で、本発明の非ヒトトランスジェニック哺乳動物を繁殖継代することができる。
【0041】
例えば、受精卵にマイクロインジェクション法やレトロウイルスを用いた方法等により本発明のレポーターベクターを導入した後、該受精卵を雌非ヒト哺乳動物に人工的に移植および着床させることによって、導入したレポーターベクターを組み込んだ染色体DNAを有する非ヒトトランスジェニック哺乳動物が得られる。
【0042】
また、非ヒト哺乳動物のES細胞に本発明のレポーターベクターを導入後、得られたES細胞を集合キメラ法または注入キメラ法を用いて、非ヒト哺乳動物の受精卵に取り込ませ、得られるキメラ胚を雌非ヒト哺乳動物に人工的に移植および着床させることによって、導入した本発明のレポーターベクターを組み込んだ染色体DNAを有する細胞を部分的に有する非ヒトキメラ哺乳動物が得られる。
【0043】
ES細胞への本発明のレポーターベクターの導入は、該レポーターベクターを公知の遺伝子導入の手法(例えば、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法、ウイルスベクター法等)を用いてES細胞へ導入することにより達成され得る。
【0044】
更に、非ヒトキメラ哺乳動物を正常哺乳動物又は当該キメラ哺乳動物同士と交配し、次世代(F1)個体の中から導入された本発明のレポーターベクターを保有する個体を選択することにより、導入したレポーターベクターを組み込んだ染色体DNAを有する非ヒトトランスジェニック哺乳動物が得られる。本発明のレポーターベクターを保有する哺乳動物(ヒトを除く)の選択は、上述と同様に、個体を構成する組織、例えば、血液組織、尾等の一部から調製した染色体DNA上に導入された本発明のレポーターベクターが存在することをDNAレベルで確認することによって行われる。
【0045】
4.スクリーニング方法
本発明は、以下の工程を含む、カロリー制限模倣物質(又は寿命を延長する物質)のスクリーニング方法を提供するものである:
1)被検物質の存在下で、上記した本発明のレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行うこと;
2)被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の不在下でのそれと比較すること;及び
3)比較の結果、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質を、カロリー制限模倣物質(又は寿命を延長する物質)の候補として選択すること。
【0046】
本明細書において、「カロリー制限模倣物」は、薬剤または化学物質(合成および天然物を含む)として細胞および生体内に投与(経口、静脈注射など)することによって、実際に摂食量を低下させずに、標準または自由摂食させた際と比較して、カロリー換算で70%程度の条件でカロリー制限を行った際に得られる効果を得ることのできる物質をいう。カロリー制限を行った際に得られる効果とは、例えば、寿命延長効果、代謝疾患の改善、神経変性疾患の改善、癌の抑制、皮膚のしわ、たるみの抑制、抜け毛の抑制といった老化の抑制である。
【0047】
本発明のスクリーニング方法に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0048】
1)におけるレポーターアッセイは、インビトロ又はインビボにて行われる。インビトロでのレポーターアッセイは、被検物質の存在下で上述の本発明の形質転換体を培養することにより行われる。被験物質と形質転換体の接触は、被験物質を添加した培地中で形質転換体を培養することにより、形質転換体へ被検物質が接触する。形質転換体の培養は、その宿主細胞の培養で一般的に使用される方法で行うことができる。
【0049】
宿主が哺乳動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜約20%の胎児ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)〔サイエンス(Science),122巻,501 (1952)〕、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396 (1959)〕、RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association),199巻,519 (1967)〕、199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1 (1950)〕などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。雰囲気中のCO濃度は、通常約1〜10%の範囲内であり、好ましくは約5%である。雰囲気中の湿度は、通常約70〜100%の範囲内であり、好ましくは約95〜100%である。培養温度は、通常約30〜40℃の範囲内であり、好ましくは約37℃である。培養期間は、レポーターアッセイを実施するのに十分な長さであれば特に限定されないが、通常約15〜60時間である。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0050】
インビボでのレポーターアッセイは、被検物質を上述の本発明の非ヒトトランスジェニック哺乳動物へ投与することにより行われる。被験物質の投与は、注射により行うことができるが、被験物質を加えた餌や飲水を用いて飼育することにより行ってもよい。投与後、被検物質の効果を確認するため、適切な期間(通常0.5〜3日程度)、投与を受けた非ヒトトランスジェニック哺乳動物が飼育される。
【0051】
適切な期間が経過後、本発明の形質転換体又は非ヒトトランスジェニック哺乳動物におけるレポーター遺伝子の発現レベルが測定される。非ヒトトランスジェニック哺乳動物におけるレポーター遺伝子の発現レベルの測定は、通常、該哺乳動物から分離された組織や細胞を用いて行われる。レポーター遺伝子の発現レベルは、レポーター遺伝子の種類に応じて、適切な手段により測定される。例えば、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質である場合には、その蛍光強度を指標にレポーター遺伝子の発現レベルが測定される。レポーター遺伝子が酵素である場合には、レポーターアッセイに用いた細胞や組織をホモジナイズし、得られたホモジネートに対応する基質を加え、インキュベートし、ホモジネート中の酵素活性を測定することにより、レポーター遺伝子の発現レベルが測定される。各酵素とそれに対応する基質は、当該技術分野において周知である。また、分泌型レポーターを用いることで、血中に分泌されたレポーター遺伝子の酵素活性を測定可能であり、この場合には形質転換体又は非ヒトトランスジェニック哺乳動物が生きたまま、経時的にその活性を測定可能である。
【0052】
その後、被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルが、被検物質の不在下でのそれと比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被検物質の不在化でのレポーター遺伝子の発現レベルは、被検物質の存在下におけるレポーター遺伝子の発現レベルの測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0053】
そして、レポーター遺伝子の発現レベルと、寿命を延長する活性との正の相関付けがされる。即ち、比較の結果得られた、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質(例えば、レポーター遺伝子の発現レベルを約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上上昇させた被検物質)が、カロリー制限模倣物質(又は寿命を延長する物質)の候補として選択される。
【0054】
この後、得られた候補物質が、実際にカロリー制限模倣効果(又は寿命を延長する効果)を有するか、確認試験を行ってもよい。該確認試験は、例えば以下の工程を含む:
1)非ヒト哺乳動物に候補物質を投与し、飼育すること;
2)候補物質の投与を受けた非ヒト哺乳動物の寿命を、候補物質の投与を受けていない非ヒト哺乳動物のそれと比較すること;及び
3)比較の結果、非ヒト哺乳動物の寿命を延長した候補物質を選択すること。
【0055】
本発明のスクリーニング方法で得られる物質は、カロリー制限をした場合に得られる有利な効果(例えば、寿命延長の効果)を、カロリー制限をすることなく奏する可能性があるので、寿命を延長するための、抗老化のための、又は、老化に伴う疾患(例えば、神経変性疾患(例:アルツハイマー病、ダウン症、ポリグルタミン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、小脳変性症等)、摂食障害、生活習慣病(例:高血圧、動脈硬化、虚血性心疾患、脳血管障害等)、癌等)あるいは代謝性疾患(例えば、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、糖尿病合併症(例:糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症)、耐糖能異常、高脂血症)の予防又は治療のための医薬、動物薬、食料、飼料又は化粧料の開発のための候補として有用である。
【0056】
また、本発明は、上記のスクリーニングを行うためのキットを提供するものである。該キットは、本発明のレポーターベクター、形質転換体又は非ヒトトランスジェニック動物を含む。
【0057】
本発明のキットは、さらに、上記スクリーニングを実施するための試薬(例えば、レポーター遺伝子が酵素である場合にそれに対応する基質、培地、陽性コントロール)、プロトコールが記載された指示書等を含むことができる。陽性コントロールとしては、HNF−4α又はHNF−4αを発現し得る発現ベクターを挙げることができる。該陽性コントロールは、さらに、PGC−1α又はPGC−1αを発現し得る発現ベクターを含むことができる。これらの陽性コントロールは、特に、(A)のヌクレオチド配列が上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列である本発明のレポーターベクターをスクリーニングに用いる場合に有利である。HNF−4α及びPGC−1αは、通常哺乳動物由来である。HNF−4α及びPGC−1αは、通常の遺伝子工学技術を用いることにより製造することができる。HNF−4α及びPGC−1αは好ましくは単離又は精製されている。HNF−4αを発現し得る発現ベクター、PGC−1αを発現し得る発現ベクターの定義は、「2.形質転換体」の項に記載した通りである。本発明のキットに含まれる各構成成分は、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)適切な容器内に入れられ、全体が1つ又は複数にパッケージされる。
【0058】
また、本発明は、(A)のヌクレオチド配列が上述の(a’)〜(d’)のいずれかのヌクレオチド配列である本発明のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物と、
HNF−4α又はHNF−4αを発現し得る発現ベクター
とを含む、組み合わせ物を提供するものである。
【0059】
上記組み合わせ物は、さらに、PGC−1α又はPGC−1αを発現し得る発現ベクターを含むことができる。
【0060】
該組み合わせ物に含まれる各構成成分は、各々別個に適切な容器内に入れられ、全体が1つ又は複数にパッケージされる。あるいは、該組み合わせ物は、可能であれば各構成成分が混合された組成物の態様であり得る。
【0061】
本発明の組み合わせ物は、上記本発明のスクリーニングのためのキットとして有用である。
【0062】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0063】
(実施例1)モチーフ配列の単離
長寿命を示すAmes dwarf miceとコントロールマウスとを、自由摂食(ad libitum:AL)、および自由摂食群の70%の食餌量を与えたカロリー制限下で4ヶ月間飼育し屠殺後、肝臓からRNAを抽出した。cDNAを合成後、Affmetrix mouse U74Av2 arrayを用いて遺伝子発現の変化を解析した。その結果Dwarfismにより312の遺伝子発現が変化し、CRにより177の遺伝子発現が変化した。(Tsuchiya et. al., Physiol Genomics. 2004)。その中でdwarf(DF)効果とCR効果が相加的であると思われるものは95遺伝子であった(Tsuchiya et. al., Physiol Genomics. 2004)。さらに、その中からいずれの効果も遺伝子の発現を亢進させる56遺伝子について以下の解析を行った。56遺伝子のうちインターネット上に公開されているEZ retrieve(http://siriusb.umdnj.edu:18080/EZRetrieve/index.jsp)によってデータベース上から転写開始点から上流3000bpを取得できた43遺伝子を抽出した。さらにその43遺伝子の上流の配列を用いて、インターネット上で利用可能なMEME(http://meme.sdsc.edu/meme/)を利用して、高頻度に見られるモチーフ配列を4種類同定した(表1。モチーフ1〜4はそれぞれ、本明細書中の配列番号1〜4に記載の塩基配列と同一)。また、モチーフ2と相同性のある配列を上流にもつ遺伝子群を表2に示した。表中で番号が大きいものほどDF効果、CR効果による遺伝子の発現亢進が高い。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2−1】

【0066】
【表2−2】

【0067】
(実施例2)ゲルシフトアッセイによるモチーフ2とHNF−4αとの結合確認
表1で示した配列のうち、モチーフ2について文献検索を行ったところ、この配列にはHNF−4α(hepatocyte nuclear factor−4α)が結合する可能性を見いだした(例えば、Hirota K et. al., Int J Mol Med. 2005 Mar;15(3):487-90.)。そこで、モチーフ2の末端をビオチン化したDNAプローブを用いて、ゲルシフトアッセイをEMSA:electrophoretic mobility shift assay kit(ピアス社)を用いて行った。この実験ではアッセイ系に添加するタンパク質を、in vitro転写・翻訳反応を行い作成した。In vitro転写・翻訳は、Flag−tagをN末端にもつHNF−4αプラスミドに対して、TNT(登録商標) System(プロメガ社)を用いて行った。
その結果、モチーフ2にはHNF−4αが結合する可能性を見いだした(図1)。矢印がモチーフ2とFlag−HNF−4αとの複合体である(レーン2)。抗Flag抗体添加により結合が阻害されバンドが薄くなり(レーン3)、非ビオチン化DNAとの競合反応によりバンドが消失した(レーン4)。Flag−HNF−4αタンパク質なしではこのバンドは見られなかった(レーン1)。
【0068】
(実施例3)クロマチン免疫沈降法によるApoC−IIおよびGstm遺伝子のプロモーター領域へのHNF−4αの結合解析
ApoC−IIおよびGstm遺伝子について、モチーフ2と相同性のある転写開始点より上流の配列を含む、約400bpを増幅するようにPCRプライマーを設計し、クロマチン免疫沈降法によるHNF−4αとの結合解析を行った。クロマチン免疫沈降はUpstate社のEZ−Chipキットを用いて行った。反応に用いたゲノムDNAはマウス肝細胞由来培養細胞より抽出した。
結果を図2に示す。矢印が増幅された400bpの塩基とHNF−4の結合物である。ApoC−IIおよびGstm遺伝子の上流にはHNF−4αと結合する可能性のある配列があることが示唆された。
実施例1〜3よりモチーフ2へのHNF−4αの結合が強く示唆された。
【0069】
(実施例4)レポーターアッセイ用ベクターの作成と培養細胞での活性化解析
分泌型アルカリフォスファターゼ発現用ベクターである、pSEAP2−Controlベクター(クロンテック社)のNheI/BglII部位にモチーフ2を5個直列に並べて導入した。また遺伝子導入効率を測定するためのコントロール用ベクターとして、分泌型ルシフェラーゼ発現ベクター、pMetLuc−Controlベクター(クロンテック社)を用いた。293細胞(ヒト胎児腎臓由来)にFuGENE(登録商標) HDトランスフェクション試薬(ロシュ アプライド サイエンス社)を用いて、これらのレポーター遺伝子と、HNF−4αおよびその転写のコアクチベーターであるPGC−1αとを組み合わせてトランスフェクションした。24時間および48時間後に培養上清を集め、Ready−To−Glow Dual Secreted Reporter System(クロンテック社)により分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)およびルシフェラーゼの活性を測定した。活性測定には、ルミネッセンスリーダー(アロカ社製:AccuFLEX Lumi400)をもちいて、発光量を15秒間測定した。
その結果、24時間後においてcontrol(タンパク発現ベクター無し)と比較して、HNF−4α発現ベクター(1μg)、HNF−4α発現ベクター(1μg)+PGC−1α発現ベクター(1μg)、HNF−4α発現ベクター(2μg)+PGC−1α発現ベクター(2μg)の順に、レポーターが活性化されることが明らかとなった(図3)。この結果はトランスフェクション後、48時間後でも同様の結果であった(図4)。したがって、モチーフ2は細胞内においてもHNF−4α/PGC−1αが結合し、転写を活性化させる可能性が示唆された。
なお、PGC−1α等のグルコースや脂質代謝関連遺伝子がカロリー制限によりアップレギュレートされること、カロリー制限によってHNF−4αとPGC−1αとが相互作用することが既に報告されている(T. Chiba et al., Molecular and Cellular Endocrinology, Volume 309, Issues 1-2, Pages 17-25)。
【0070】
(実施例5)構成的発現細胞株の樹立とインスリン/デキサメタゾン添加によるレポーター活性化の解析
実施例4のレポーター遺伝子を恒常的に発現する293T細胞株をG418を用いた選択培養法により樹立した。その細胞を用いて、HNF−4α/PGC−1αの活性を制御することが知られている、インスリン/デキサメタゾン添加によるレポーターの活性化を検討した。活性測定は実施例4と同様に行った。
その結果、インスリン/デキサメタゾン添加後、24時間後の培養上清を用いてアッセイを行ったところ、100nM、1000nMのインスリン/デキサメタゾン添加したものでは、このレポーターが活性化されていることが示唆された(図5)。
したがって、医薬品、および食品成分等の候補分子(被験物質)を本実施例において使用したインスリン/デキサメタゾンの代わりに添加することによって、この細胞のレポーターが活性化されれば、モチーフ2を持つ遺伝子の活性化、つまり表2で示した長寿命や代謝疾患の改善と関連すると考えられる、一連の遺伝子群の転写が活性化されると予測される。そのような分子は、寿命を延長させる効果を有しており、抗老化、老化に伴う疾患または代謝疾患の予防または治療剤等の候補分子として有用であることが示唆される。
【0071】
(実施例6)一過性トランスジェニックマウスを用いたCRによるレポーター活性化の解析
実際にマウスの生体内においてもこのレポーターアッセイ系が利用可能かを、約8週間、30%のカロリー制限下で飼育したICRマウス(20週齢)を用いて解析した。マウスの尾静脈よりハイドロダイナミック法に基づく遺伝子導入試薬であるTransIT(登録商標)−EE Hydrodynamic Delivery Solution(Mirus Bio社)を用いてレポーター遺伝子(5μg)を導入し、48時間後に血中に分泌されたSEAPを測定した。活性測定には、ルミネッセンスリーダー(アロカ社製:AccuFLEX Lumi400)をもちいて、発光量を15秒間測定した。
その結果、図6に示すように、自由摂食マウスにおいてはモチーフ2をもつベクターを導入しても、モチーフ2をもたないベクターを導入した場合と同程度のSEAP活性を示した。しかし、カロリー制限マウスにモチーフ2をもつベクターを導入した際には、有意にSEAPの活性が上昇した。このことはマウスの生体内においてもこのアッセイ系が機能し、かつ予測されたようにカロリー制限下においては、レポーター活性が高いことが示唆された。従って、カロリー制限はおそらくHNF−4α/PGC−1αなどの転写因子を活性化させ、モチーフ2と相同性のある遺伝子群の発現を上昇させることが示唆された。
つまり、このことから、一過性および構成的トランスジェニックマウスに、医薬品や機能性食品の候補分子(被験物質)を餌や飲水中に添加して飼育後、血中に分泌されたSEAP活性を定量することにより、生きたまま、その候補分子の抗老化、抗老化疾患作用をスクリーニングすることが可能であると考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レポーターベクターであって、
(A)以下の(a)〜(d)から選択されるいずれか1つのヌクレオチド配列、
(a)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列、
(b)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列において、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入または付加されたヌクレオチド配列、
(c)配列番号1〜4から選択されるいずれか1つで表されるヌクレオチド配列に少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(d)上記(a)〜(c)に記載の配列に相補的なヌクレオチド配列
(B)プロモーター、並びに
(C)レポーター遺伝子
を含み;
該プロモーターが、該レポーター遺伝子の転写を駆動し得るように、該レポーター遺伝子の5’側に連結しており;且つ
(A)のヌクレオチド配列が、該プロモーターによる該レポーター遺伝子の転写を調節し得るように、該プロモーターの5’側に連結している、レポーターベクター。
【請求項2】
(A)のヌクレオチド配列が、以下の(a’)〜(d’)から選択されるいずれか1つであり、且つHNF−4αへ結合し得るヌクレオチド配列である、請求項1記載のレポーターベクター:
(a’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列、
(b’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入または付加されたヌクレオチド配列、
(c’)配列番号1で表されるヌクレオチド配列に少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(d’)上記(a’)〜(c’)に記載の配列に相補的なヌクレオチド配列。
【請求項3】
請求項1記載のレポーターベクターが導入された形質転換体。
【請求項4】
請求項1記載のレポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物。
【請求項5】
以下の工程を含む、カロリー制限模倣物質のスクリーニング方法:
1)被検物質の存在下で、請求項1記載のレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行うこと;
2)被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の不在下でのそれと比較すること;及び
3)比較の結果、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質を、カロリー制限模倣物質の候補として選択すること。
【請求項6】
請求項1記載のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物を含む、カロリー制限模倣物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項7】
以下の工程を含む、寿命を延長する物質のスクリーニング方法:
1)被検物質の存在下で、請求項1記載のレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行うこと;
2)被検物質の存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の不在下でのそれと比較すること;及び
3)比較の結果、レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させた被検物質を、寿命を延長する物質の候補として選択すること。
【請求項8】
請求項1記載のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物を含む、寿命を延長する物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項9】
請求項2記載のレポーターベクター、該レポーターベクターが導入された形質転換体、又は該レポーターベクターが導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物、及び
HNF−4α又はHNF−4αを発現し得る発現ベクター
を含む組み合わせ物。
【請求項10】
更に、PGC−1α又はPGC−1αを発現し得る発現ベクターを含む、請求項9記載の組み合わせ物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−36223(P2011−36223A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189136(P2009−189136)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】