説明

カンチレバー

【課題】微細な対象物を観察する走査型プローブ顕微鏡に用いることができ、かつ、耐久性の高いカンチレバーを提供することを課題とする。
【解決手段】走査型プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーであって、板状の梁部(13)と、梁部(13)の一方の端部を支持する支持部(12)と、梁部(13)の支持部(12)に支持されている側とは反対側の端部に配置された探針(18)とを有し、探針(18)は、多結晶体であることで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーに関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope、SPM)では、測定対象の物性、形状等を測定、観察するために、先端に探針(プローブ)が形成されたカンチレバーを用いる。このカンチレバーとしては、例えば、特許文献1に集束イオンビーム装置の真空チャンバー内でイオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって堅固な円柱状のチップを形成させた探針が先端に形成されたカンチレバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−240700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope、SPM)では、測定対象物を観察するために、カンチレバーの探針の先端を測定対象物に接触させる。また、より微小な観察を行うためには、カンチレバーの探針をより細くする必要がある。しかしながら、特許文献1に記載のカンチレバーでは、探針の径が小さいものでも数10nm程度であり、空間分解能が低く、観察できる対象に限界がある。また、より小さい対象物を観察するために、特許文献1に記載のカンチレバーを同様の構成でより微小に作製しても、使用に耐えるカンチレバーとすることは困難である。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い空間分解能を持ち、微細な対象物を観察する走査型プローブ顕微鏡に用いることができ、かつ、耐久性の高いカンチレバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、走査型プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーであって、板状の梁部と、前記梁部の一方の端部を支持する支持部と、前記梁部の前記支持部に支持されている側とは反対側の端部に配置された探針とを有し、前記探針は、多結晶体であることを特徴とする。
【0007】
これにより、より耐久性が高く、高い空間分解能を有し、微細な対象物を観察する走査型プローブ顕微鏡に用いることができる。
【0008】
また、前記探針は、前記梁部と連結する基部と、前記基部から前記基部の高さ方向に伸びた針部とを有することが好ましい。
【0009】
これにより、探針と梁部とを強固に固定することができ、耐久性をさらに高くすることができる。
【0010】
また、前記探針は、導電性材料であることが好ましい。これにより、より多くの測定に用いることができる。
【0011】
また、前記基部の表面の少なくとも一部と、前記梁部の表面とに形成され、前記針部と導通した導電層を有することが好ましい。これにより、針部を細く維持しつつ、探針をより簡単に導通させることができる。
【0012】
また、前記基部は、前記針部の外周に溝部を有することが好ましい。これにより、針部の耐久性をより高くすることができる。
【0013】
また、前記梁部は、前記探針との連結部分に配置された土台部と、前記土台部を支持し、前記支持部に支持される板部とを有し、前記土台部は、前記探針との連結している面が前記板部の前記土台部を支持している面に対して所定角度傾斜していることが好ましい。これにより、針部を板部に対して突出させることができ、計測時に針部と測定対象との関係を把握しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるカンチレバーは、高い空間分解能を有し、微細な対象物を観察する走査型プローブ顕微鏡に用いることができ、かつ、耐久性を高くできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明のカンチレバーの一実施形態の概略構成を示す正面図である。
【図2−1】図2−1は、図1に示すカンチレバーの探針の形状を模式的に示す斜視図である。
【図2−2】図2−2は、図2−1に示す探針の断面図である。
【図2−3】図2−3は、図2−1に示す探針の一部を拡大した拡大側面図である。
【図3】図3は、カンチレバーを用いた測定の一例を説明するための説明図である。
【図4】図4は、カンチレバーを用いた測定の一例を説明するための説明図である。
【図5】図5は、カンチレバーの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図6−1】図6−1は、カンチレバーの製造方法を説明するための斜視図である。
【図6−2】図6−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための斜視図である。
【図6−3】図6−3は、カンチレバーの製造方法を説明するための側面図である。
【図6−4】図6−4は、カンチレバーの製造方法を説明するための斜視図である。
【図7−1】図7−1は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図7−2】図7−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図7−3】図7−3は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図7−4】図7−4は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図8−1】図8−1は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図8−2】図8−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図8−3】図8−3は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図9−1】図9−1は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図9−2】図9−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図10−1】図10−1は、カンチレバーの製造方法を説明するための斜視図である。
【図10−2】図10−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
(実施形態)
図1は、本発明のカンチレバーの一実施形態の概略構成を示す正面図である。図1に示すカンチレバー10は、支持部12と、梁部13と、探針18とを有する。カンチレバー10は、支持部12により梁部13の一方の端部が支持され、さらに、梁部13の支持部12に支持されている端部とは反対側の端部に測定対象と接触(または対面)する探針18が設けられた構成である。カンチレバー10は、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope、SPM)のカンチレバーとして用いられる。
【0018】
支持部12は、梁部13を支持しており、一定以上の剛性を有する部材で形成されている。支持部12は、梁部13に外力が加わっても実質的に変形せず、かつ、実質的に変位しない。
【0019】
梁部13は、板部14と、土台16とで構成された、いわゆる片持ち梁である。板部14は、最も面積が大きい面(厚さ方向に垂直な面)の長手方向の一方の端部が支持部12に支持されており、他方の端部に外力が加わると厚さ方向に撓む向きで配置されている。また、板部14は、カンチレバーとしての使用時に、最も面積が大きい面が測定対象と向かい合うように配置される。
【0020】
土台16は、板部14の表面において、面積が最も大きい面であり、かつ、測定領域と対向する側の面の、板部14の支持部12に支持された端部とは反対側の端部に配置された部材である。また、土台16は、板部14と一体で形成されている。土台16は、3つの矩形面と2つの直角三角形とで構成された多面体であり、1つの矩形面(第1面)が板部14と接しており、第1面とは異なる矩形面(第2面)が探針18と接している。また、土台16は、第1面と第2面とがなす角90度以下で接しており、その接触している辺に垂直な断面の形状が三角形となる形状である。土台16は、第1面と第2面との接線が、支持体12から最も遠い位置となる向きで、板部14に固定されている。
【0021】
なお、板部14と土台16とは、例えばSiなどの同じ材料で作製されている。また、板部14と、土台16とは本実施形態のように一体で作製しても別々の部材を接合することで作製してもよい。また、本実施形態では、後述する観察しやすくできるという効果を得ることができるため、土台16を設けたが、土台16は必ずしも設けなくてもよい。
【0022】
次に、図1、図2−1から図2−3を用いて探針18について説明する。ここで、図2−1は、図1に示すカンチレバーの探針の形状を模式的に示す斜視図であり、図2−2は、図2−1に示す探針の断面図であり、図2−3は、図2−1に示す探針の一部を拡大した側面図である。探針18は、図1、図2−1から図2−3に示すように、基部19と、針部20と、を有する。また、探針18は、多結晶体で作製されている。つまり、基部19と針部20とは、1つの多結晶体で一体成形されている。また、探針18が結晶体で作製されるため、針部20は、図2−3に示すように、複数の結晶粒21で構成されている。また、針部20の先端の結晶粒21は、最先端の径dよりも粒径が大きい。
【0023】
基部19は、土台16と連結され、土台16と連結されている面とは反対側の面に針部20が配置されている。また、基部19は、針部20と連結している部分の周囲には、針部20を囲うように溝部22が形成されている。つまり、基部19は、土台16と連結されている面とは反対側の面に凹部が形成され、その略中央に針部20が配置されている。
【0024】
針部20は、基部19の土台16と連結されている面とは反対側の面に配置され、第2面に垂直な方向に伸びた細長い部材である。また、針部20は、板部14の面積が最も広い面の長手方向において、先端(基部19に保持されている端部とは反対側の端部)が、板部14よりも支持部12から離れる側に突出している。
【0025】
次に、カンチレバー10を用いた測定方法の一例について説明する。ここで、図3及び図4は、それぞれカンチレバーを用いた測定の一例を説明するための説明図である。まず、測定準備として、図3に示すように、梁部13の板部を、観察方向に対して直交する向きに配置する。その後、観察視野内で、針部20の位置を確認しつつ、針部20と測定領域との関係を観察し、測定対象の測定位置まで、針部20または測定対象を移動させる。
【0026】
測定位置が特定されたら、針部20が測定対象の面30に垂直となるように、梁部13を傾斜させ、さらに、測定対象の面30に針部20の先端を接触させて、測定を開始する。また、測定では、測定対象とカンチレバー10とを相対的に移動させることで測定対象の表面形状を測定する。また、測定では、探針18の針部20と面30との接触位置により、変化するカンチレバー10の板部14の変位(撓み)を変位センサで検出し、測定対象の面30を観察する。ここで、測定の際に、針部20を面30に対して垂直にすることで、図4に示すように、測定対象の面30に凹部30aがある場合でも、凹部30aの両方の端と針部20とを接触させることができる。なお、カンチレバーを用いる測定は、これには限定されず、測定対象のパラメータに応じて、種々の方法で測定を行うことができる。例えば、上記測定方法では、測定対象と探針とを接触させるコンタクトモードでの計測としたが、ノンコンタクトモードでの測定にも用いることができる。
【0027】
ここで、カンチレバー10は、探針18を多結晶体(特に本実施形態のように1つの太結晶体)で形成することで、探針18を細くすることができ、かつ、耐久性も高くすることができる。このように、探針18の針部20の先端を細くできることで、より微細な凹凸や、小さい溝にも針部20を進入させることができる。これにより、より高精度な測定を行うことができる。また、耐久性を高くできることで、交換等の手間を少なくすることができ、作業効率を高くすることができる。具体的には、アモルファスのような非晶質の形状では、耐久性が低くなり、単結晶の形状では、欠陥で針が折れる可能性がある。これに対して、多結晶体で形成することで、耐久性が高くすることができ、欠陥が生じても、結晶間で欠陥をとめることができ、折れにくくすることができる。
【0028】
また、探針18の針部20の外周に溝部22が形成された構造、つまり、針部20の基部19側が基部19に囲まれた形状とすることで、針部20の耐久性をより高くすることができる。具体的には、針部20を支持する部分を基部19で囲うことができ、つまり、平坦な面に針部20を設けた場合よりも、針部20と基部19との連結部をより強固にすることができる。また、針部20がしなった場合に、しなった針部20と基部19の溝部22の上部とが接触することになる。これにより、基部19で針部20を支持することができる。これにより針部20を折れにくくすることができる。
【0029】
ここで、探針18の針部20は、径と長さ方向のアスペクト比を1≦(長さ)/(径)≦5とすることが好ましい。これにより、より凹凸形状の大きい測定対象でも高い精度で計測することができる。また、探針18の針部20は、先端の径を10nm以下とすることが好ましく、5nm以下とすることがより好ましい。これにより、より高精度な計測が可能となる。さらに、探針18の基部19は、溝の深さ(基部19の表面から溝部22の一番深い部分までの長さ)を、0.5μm以上とすることが好ましく、3μm以上とすることがより好ましい。また、溝の深さと、針の長さとの関係を、2≦(針の長さ)/(溝の深さ)≦9とすることが好ましい。これにより、カンチレバーの耐久性をより高くすることができる。また、針部の先端における多結晶体の結晶粒の粒径は、本実施形態の用に、最先端の径d(図2−3参照)より大きいことが望ましい。粒径を先端の径dより大きくすることで、結晶粒が針部から脱落することを抑制することができる。また、針部の先端は、単一の結晶粒からなること、つまり、先端部は、単一の結晶粒で構成することがより好ましい。このように、先端を単一の結晶粒で構成させることで、結晶粒の脱落をさらに抑制することができる。なお、最先端の径dは、例えば、針部を側面から撮影したTEM写真を用い、先端部を近似した円の直径から算出することができる。
【0030】
なお、本実施形態のように探針を多結晶体で作製することで、上記範囲の形状で作製することができ、また、上記形状としても耐久性を維持することができる。
【0031】
また、針部20を土台16の第2面(梁部13の支持面)に対して垂直な方向に伸びる形状とすることで、耐久性をより高くすることができる。また、探針18に基部19を設け、基部19の第1面が土台16(梁部13)と接している(接合している)ことで、探針18と梁部13とをより強く接合させることができる。これにより、探針18が梁部13から外れること可能性をより少なくすることができる。
【0032】
また、本実施形態のように、梁部13に土台16を設け、板部14に対して斜め方向(板部14の厚さ方向に対して所定角度傾斜した方向)に探針18を配置させることで、測定をよりやりやすくすることができる。具体的には、針部20の一部を板部14から突出させることができ、針部20の位置を確認しやすくすることができる。また、装置構成上、梁部13の板部14を測定対象の面に対して傾斜させる必要がある場合でも、針部20を測定対象の面に対して直交させることができる。これにより、より高い精度で計測することができる。なお、上記効果を得ることができるため、梁部13には、土台16を設けることが好ましいが、本発明はこれに限定されず、土台16を設けない構成としてもよい。また、板部14の端部を傾斜面として、その傾斜面に探針18を設けるようにしてもよい。
【0033】
ここで、梁部13と探針18とは、同一の切断機構を用い、一方の部材の切り取られる部分の配置位置に他方の部材を配置して切断を行い、接触面を形成し、その接触面同士を接続させることが好ましい。このように、同一の切断機構で切断することで、梁部13と探針18とをより好適に接合させることができる。また、同一の切断機構で切断することで、切断面の形状を揃えることができ、ずれを抑制することができる。
【0034】
ここで、探針18は、多結晶体であればよく、種々の材料を用いることができる。具体的には、使用する用途に応じて、導電性材料、磁性体材料、絶縁材料等で作製すればよい。
【0035】
例えば、探針18を導電性材料で作製する場合は、タングステン、白金、金、白金イリジウム、銀等で作製することが好ましい。また、探針18を磁性体材料で作製する場合は、FePt、フェライト、パーマロイ等で作製することが好ましい。探針18を絶縁材料で作製する場合は、ダイヤモンド等で作製することが好ましい。
【0036】
なお、探針18を導電性材料で形成する場合、カンチレバー10は、針部20以外の領域に導電膜を形成することが好ましい。これにより、針部20と支持部12とを導通させることができる。また、探針18の針部20には、膜を形成しないため、針部20の先端径を小さくすることができる。また、探針18の基部19と針部20とを一体に形成することで、基部19と他の部分を導電膜で導通させれば、針部20と他の部分とを導通させることができる。
【0037】
また、上記実施形態では、土台の板部と接する第1面と探針と接する第2面とを直接接触する形状としたが、他の面を介して隣接する形状としてもよい。つまり、第1面と第2面との間に第3面がある形状としてもよい。
【0038】
次に、カンチレバーの製造方法について説明する。ここで、図5は、カンチレバーの製造方法の一例を示すフロー図である。なお、カンチレバーは、集束イオンビーム(FIB、Focused Ion Beam)により材料を加工する加工装置を用いて製造する。まず、準備として、梁部13を作製するための材料と、探針18を作製するための材料を装置に入れる。その後、加工装置を加工可能な状態とし、加工を開始する。なお、以下の工程では、基本的に加工装置により加工が行われる。まず、ステップS12として、試料からバルク(小片、試験片)を切り出す。つまり、多結晶体の塊(試料)から探針18の元になる大きさのバルクを切り出す。その後、ステップS12でバルクを切り出したら、ステップS14として、梁部を作製する。次に、ステップS16として、ステップS12で作製したバルクと、ステップS14で作製した梁とを接着させる。ステップS16でバルクと梁を接着させたら、ステップS18として、バルクを加工して突起を形成する。さらに、ステップS18で突起を形成したら、ステップS20として、導電膜を形成する。次に、ステップS20で導電膜を形成したら、ステップS22として、突起に先鋭化処理を行う。以上の工程でカンチレバーを製造する。
【0039】
以下、各工程について詳細に説明する。まず、図6−1から図6−4を用いてステップS12について、説明する。図6−1から図6−4は、カンチレバーの製造方法を説明するための図であり、図6−1、図6−2、図6−4は、斜視図であり、図6−3は、側面図である。
【0040】
まず、加工装置内には、図6−1に示すように試料50が配置されている。この試料50からFIBマイクロサンプリング法を用いて、必要な大きさのバルクを切り出す。具体的には、試料50のうち、切り出す部分の外周をイオンビームで削り、図6−2に示すように、外周が溝となった柱部材52を作製する。
【0041】
その後、図6−3に示すように、柱部材52の端面をマニピュレータ55により保持した後、柱部材52と、試料(その他の部分)54とが繋がっている部分をイオンビームにより、切り取る。なお、柱部材52を切り取る際には、試料54を所定角度傾けることで、柱部材52と、試料54とが繋がっている部分をイオンビーム照射位置に配置する。
【0042】
柱部材52を試料54から切り取りバルク56を作製したら、図6−4に示すように、切り取ったバルク56をマニピュレータ55により、移動させる。なお、このバルク56は、切り取り時にイオンビームの照射方向に対して、切断面が傾斜している(0度より大きく90度未満)となっているため、バルク56の切断面は、対向する面に対して傾斜している。
【0043】
次に、図7−1から図7−4を用いてステップS14について、説明する。図7−1から図7−4は、それぞれカンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。まず、本実施形態では、梁部13を作製するための材料として、図7−1に示すように、板部60と土台62とが接合された部材を準備する。この準備した、板部60と土台62を図7−2に示すように、所定角度傾斜させた状態で、土台62の先端部に対してイオンビームを照射する。なお、この時の傾き角度は、上述したバルク56の切り出し時の試料54の傾き角と同じ角度とする。
【0044】
このように、土台62に対して、イオンビームを照射し、土台62の一部を削ることで、図7−3に示すように、一部が削られた土台62aを形成する。なお、図7−3に示す例では、土台62aの断面が四角形となる形状としたが、削る量を調整することで上述した実施形態と同様に断面を三角形とすることができる。その後、図7−4に示すように、板部60の表面(面積が最も大きい面)がイオンビームの照射方向に直交する向きに板部60を回転させる。なお、ステップS12の工程とステップS14の工程を逆にしてもよい。
【0045】
次に、図8−1から図8−3を用いて、ステップS16を説明する。図8−1から図8−3は、それぞれカンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。まず、図8−1に示すように、マニピュレータ55によりバルク56を土台62aと接触する位置まで移動させる。なお、バルク56と、土台62aとは、イオンビームにより削れられた面同士が接触する。また、バルク56と、土台62aとは、イオンビームが入射した端部同士(つまり加工時にイオンビームの出射部に近かった端部)が接し、イオンビームが出射した端部同士が接するように接触される。なお、本実施形態では、イオンビームが出射した端部同士が接するようにしたが、取り付ける向きは、逆でもよい。つまり、イオンビームが入射した端部と、イオンビームが出射した端部とを接するように接触させてもよい。
【0046】
次に、バルク56、板部60、土台62aを一体で回転(移動)させて、バルク56と土台62aとの接触部のうち、板部60の土台62aがない端部側の面をイオンビームの照射部に対面させる。つまり、バルク56、板部60、土台62aを該当する面にイオンビームが照射される向きとする。その後、タングステンガスを用いたFIB−CVD(Focused Ion-Beam Assisted Chemical Vapor Deposition)法により、図8−2に示すように、バルク56と土台62aとの接触部に接着部70を形成する。なお、接着部70は、タングステンの蒸着膜である。
【0047】
その後、バルク56、板部60、土台62aを一体で回転(移動)させて、バルク56と土台62aとの接触部のうち、板部60の土台62aがある端部側の面、つまり、図8−2で接着部70を形成した面と反対側の面をイオンビームの照射部に対面させる。その後、同様に、タングステンガスを用いたFIB−CVD(Focused Ion-Beam Assisted Chemical Vapor Deposition)法により、図8−3に示すように、バルク56と土台62aとの接触部に接着部72を形成する。このように、接着部70、72を用いて、土台62aとバルク56とを接着する。
【0048】
次に、図9−1及び図9−2を用いてステップS18、ステップS20について、説明する。ここで、図9−1及び、図9−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための説明図である。なお、図9−1は、ステップS18の処理を示し、図9−2は、ステップS20の処理を示す。まず、加工装置は、バルク56をFIBにより削り、図9−1に示すように細長い突起76を有する形状のバルク56aとする。なお、突起76は、バルク56の土台62aに保持されている面とは反対側の面からイオンビームを照射し、中心を残して、周りを削ることで、作製することができる。また、バルク56aは、土台62a側の一部はそのまま残り、基部となる。
【0049】
次に、図9−1で突起76を形成した後、加工対象の部材(梁部と探針になる部材)を、FIB加工を行う加工装置から取り出し、膜を形成する装置(蒸着装置や、塗布装置)に移動させる。その後、膜を形成する装置により、図9−2に示すように、バルク56a、土台62a、板部60に導電性材料の膜(つまり、導電膜74)を形成する。なお、導電性膜として、プラチナ(Pt)、タングステン(W)等、種々の導電性の材料を用いることができる。また、導電膜74の形成方法は特に限定されないが、例えばCVD等で形成することができる。
【0050】
次に、図10−1及び図10−2を用いて、ステップS22について説明する。ここで、図10−1は、カンチレバーの製造方法を説明するための斜視図であり、図10−2は、カンチレバーの製造方法を説明するための断面図である。まず、導電膜を形成したら、再び、FIB加工を行う加工装置に加工対象を移動させる。その後、図10−1に示すように、突起76を有するバルク56aに対して、突起76の外周を囲うように、イオンビームをドーナッツ状(つまりリング状)に走査させる。これにより、細長い突起76の外周を削り、さらに細長い形状とし、図10−2に示すように、針部80を形成する。また、イオンビームをドーナッツ状に走査させることで、バルク56aの基部82の一部も削り、溝部84を形成する。これにより、先鋭な針部80と、針部80の外周に溝部84が形成され、かつ針部80を支持する基部82で構成される探針を製造する。以上のようにして、カンチレバーを製造することができる。
【0051】
以上のように、多結晶体の試料から切り出したバルクをFIBにより加工することで、より細い針部を有する探針を作製することができる。これにより、より高精度の計測に用いることができるカンチレバーを作製することができる。より具体的には、CVD等を用いて、蒸着、結晶成長により針部を形成した場合よりも、径が小さく、アスペクト比が高く(細長く)、強度が高い針部を作製することができる。
【0052】
また、一旦突起を形成した後、ドーナッツ状にさらにFIB加工を行うことで、針部を先鋭化することでき、かつ溝部を形成することができる。なお、上記効果を得ることができるため、溝部を形成することが好ましいが、必要に応じて、基部の溝以外の部分を削り、溝部が無い形状としても良い。
【0053】
さらに、バルクとして導電性材料を用いた場合は、突起を形成した後、導電膜を形成することで、針部と基部と導電膜とを導通させることができる。また、導電膜を形成した後、ドーナッツ状にFIB加工を行うことで、針部の導電膜を除去することができ、針部をより先鋭化することができる。また、針部と基部、基部と導電膜とが導通しているため、導通を維持することができる。なお、バルク、試料としては、多結晶体であればよく、その材料は特に限定されない。
【0054】
なお、上記実施形態では切断面の角度の関係で、針部の突出量が図1よりも小さくなったが、土台の切断面の角度と、バルクの切断面の角度とを調整することで、板部に対するバルクの傾斜角を調整することができる。これにより、板部の長手方向において、板部に対して針部が突出した形状とすることができる。
【0055】
なお、上記実施形態では、バルクを直方体の柱形状としたが、本発明はこれに限定されず、種々の形状とすることができる。例えばL字形状としてもよい。バルクの切り出し形状を変更することで、針部の元となる突起部を、より効率よく、かつ、長い形状で作製することができる。
【0056】
また、土台とバルクとをより好適に接続させることができるため、上記実施形態のように切断面を考慮して土台とバルクと接触させることが好ましいが、本発明はこれに限定されない。例えば、切断していない土台にバルクを接続してもよい。また、土台は必ずしも設けなくてもよい。例えば板状部材の一部を切断して、その切断面とバルクとを接続させるようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、接着部によりバルクと土台とを接合させたが、接合方法は特に限定されない。例えば、接触面を溶解させて両者を接合してもよい。また、圧着により接合させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかるカンチレバーは、走査型プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーとして有用である。
【符号の説明】
【0059】
10 カンチレバー
12 支持部
13 梁部(レバー)
14 板部
16 土台
18 探針
19、82 基部
20、80 針部
22、84 溝部
30 面
30a 凹部
50、54 試料
52 柱部材
55 マニピュレータ
56、56a バルク
60 板部
62、62a 土台
70、72 接着部
74 導電膜
76 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーであって、
板状の梁部と、
前記梁部の一方の端部を支持する支持部と、
前記梁部の前記支持部に支持されている側とは反対側の端部に配置された探針とを有し、
前記探針は、多結晶体であることを特徴とするカンチレバー。
【請求項2】
前記探針は、前記梁部と連結する基部と、前記基部から前記基部の高さ方向に伸びた針部とを有することを特徴とする請求項1に記載のカンチレバー。
【請求項3】
前記探針は、導電性材料であることを特徴とする請求項1または2に記載のカンチレバー。
【請求項4】
前記基部の表面の少なくとも一部と、前記梁部の表面とに形成され、前記針部と導通した導電層を有することを特徴とする請求項3に記載のカンチレバー。
【請求項5】
前記基部は、前記針部の外周に溝部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカンチレバー。
【請求項6】
前記梁部は、前記探針との連結部分に配置された土台部と、前記土台部を支持し、前記支持部に支持される板部とを有し、前記土台部は、前記探針との連結している面が前記板部の前記土台部を支持している面に対して所定角度傾斜していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のカンチレバー。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【公開番号】特開2011−158282(P2011−158282A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18430(P2010−18430)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)