説明

カートリッジ、印刷装置

【課題】カートリッジの誤装着に対処できる新たな手法を提供する。
【解決手段】インクカートリッジ200は、インク収容部を形成する筐体202の一つの周壁表面にラベル部210を有する。このラベル部210は、異なる性状の複数の層を積層した積層構造とされ、所定の波長の光(第1波長光)を透過させる光学機能層213と、この第1波長光を反射させる光反射層212とを備え、光反射層212を筐体202の表面側とする。この光反射層212は、ラベル部210に向かい合う加熱ユニット100のサーマルヘッド102から熱を受けると、その受熱範囲において、第1波長光の吸収率を不可逆的に高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷に用いる印刷材を収容するカートリッジおよび当該カートリッジを装着可能な印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カートリッジを印刷装置に装着して用いる場合、カートリッジと印刷装置との間で種々の情報交換を行うため、カートリッジに記憶素子を搭載する技術が提案されている(例えば、特許文献1等)。記憶素子には、印刷材の色種別、印刷材残量といったカートリッジが収容する印刷材についての情報が記憶され、これら情報に基づいて、種類の異なる印刷材の供給回避などが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献で提案された技術は、カートリッジに関する何らかの情報を記録させたいという要請に応えたものではあるものの、カートリッジにはEEPROMなどの記憶素子を設ける必要があり、さらにカートリッジの記憶素子と記録装置本体の制御回路部との間で通信可能とするための電気配線も必要となり、カートリッジの構造が複雑になるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、カートリッジに関する情報更新に対処できる新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の適用例として実施することができる。
【0007】
[適用1:カートリッジ]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
カートリッジ表面に、所定の波長の光を透過させる光学機能層と、前記波長の光を反射させる光反射層とを、該光反射層がカートリッジ表面側となるように積層して備え、
前記光反射層は、受熱によって前記波長の光の吸収率が不可逆的に高まる性状を有する
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成を備えるカートリッジは、そのカートリッジ表面に積層して備える光学機能層と光反射層とで、以下に説明するような情報更新が可能である。以下、カートリッジ表面に上記のように積層して備える光学機能層と光反射層とを、説明の便宜上、積層部と称し、上記構成を備えるカートリッジでの情報更新について説明する。
【0009】
積層部が受熱すると、その熱は、積層部に含まれる光反射層に作用する。この光反射層は、その熱を受けた受熱範囲において、光反射層の上記所定の波長の光(以下、「第1波長光」と称する)の吸収率が不可逆的に高くなる。このため、積層部は、受熱の前後において、光反射層での第1波長光に対する吸収率を上記の受熱範囲において異なるものとする。具体的には、積層部にその光学機能層の側から第1波長光を照射した場合、光反射層からの第1波長光の反射の状況は、光反射層での吸収率の相違から、受熱前後で相違することになる。つまり、積層部は、受熱前後で変化し、その変化は、光反射層での吸収率の変化が不可逆的であることから、不可逆的となる。こうした不可逆的な積層部の変化は、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当する。よって、上記構成を備えるカートリッジによれば、カートリッジ表面に有する積層部にて、カートリッジに関する情報更新を図ることができる。この場合、積層部の不可逆的な変化を、例えば、印刷材の使い切られたカートリッジ等において起こせば、これらカートリッジが誤って装着されても、その誤装着がなされた旨をユーザーに認知させることが可能となる。なお、既述した光反射層での吸収率の不可逆的な変化は、その光反射層の前記第1波長光に対する反射率を不可逆的に低下させることに相当する。また、カートリッジ表面の積層部にて情報更新を図るに当たり、記憶素子を用いる必要はないものの、記憶素子を併用することも可能である。
【0010】
この他、上記したカートリッジは、次のような態様とすることができる。例えば、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を有するものとし、この光吸収パターン層を前記光学機能層の表裏のいずれかの面に備えるようにできる。こうすれば、積層部にその光学機能層の側から照射された第1波長光は、光吸収パターン層のパターンでは光が吸収されて光反射層に到達する光量が低下し、パターン以外の部位では光反射層まで到達する。そして、光反射層まで到達した光は、その到達部位において光反射層での吸収率の影響を受けて、反射する。よって、光反射層からの第1波長光の反射により光吸収パターン層のパターン像が映り込むことになるので、受熱前後での積層部の上記した不可逆的な変化は、パターン像の変化として捉えることができる。この結果、上記の態様によれば、積層部の不可逆的な変化を光吸収パターン層のパターン像変化により、より顕著に認識できる。
【0011】
具体的には、受熱後の光反射層では、光吸収パターン層のパターンに対応した第1部分は、当該パターン以外の第2部分と比較して、第1波長光における反射率がより小さくなる。そして、積層部は、受熱前には、第1部分に対応したパターンの第1パターン像を表示し、光反射層の受熱後には、パターン以外の部位については、第1波長光に対しての反射率を小さくする。よって、この積層部は、その全体を加熱した後には、第1波長光を照射した場合に、第1パターン像を加熱前と比較してより低いコントラスト比で表示するか、または、第1パターン像を表示しないことになり、積層部の不可逆的な変化を光吸収パターン層のパターン像の変化により、より顕著に認識できる。また、この積層部の一部領域のみ、例えば予め受熱させることで吸収率を不可逆的に高めておくと、第1波長光の照射を経た場合に当該予めの受熱範囲における吸収率変化の影響が第1パターン像に反映して、第1パターン像とは異なる第2パターン像となる。よって、この場合であっても、積層部の不可逆的な変化を光吸収パターン層のパターン像の変化により、より顕著に認識できる。
【0012】
また、前記波長の光(第1波長光)を照射したときに、前記パターンの少なくとも一部のパターンと、前記光反射層のうち予め前記吸収率が高められた部分のパターンとの組み合わせが予め定めた情報を表示するようにできる。こうすれば、次の利点がある。通常、光反射層のうちで予め第1波長光に対する吸収率が高められた部分は、光吸収パターン層のパターンに相当する部分とは反射スペクトルが異なっている。それ故、それらが第1波長光を照射したときに表示するパターン像は、それらが第1波長とは異なる波長の光を照射したときに表示するパターン像とは異なっている可能性がある。従って、第1波長光を利用することを知らない者に対して、先の情報を読み取ることを困難にすることができる。
【0013】
また、前記波長の光(第1波長光)を照射したときに、前記光吸収パターンの少なくとも一部のパターンと、前記光反射層のうち予め前記吸収率が高められた部分の前記光吸収パターンのパターンとが、異なる情報を表示するようにできる。こうしても、第1波長光を利用することを知らない者に対して、光反射層のうち第1波長光に対する吸収率が高められた部分が表示する情報を読み取ることを困難にすることができる。
【0014】
また、前記波長を赤外領域内のものとし、前記光学機能層を黒色層とするようにできる。この場合、「黒色」とは、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nmないし700nmの範囲内にある全ての光成分について、反射率が10%以下であることを意味している。そして、光反射層に使用する材料の多くは、受熱によって発色または変色するので、光反射層に起きた発色または変色が肉眼による観察によって知覚可能であると、積層部の不可逆的な変化を視認されてしまう。ところが、上記の態様によれば、光反射層の少なくとも一部は黒色層の光学機能層によって隠蔽されているため、この部分を加熱すれば、積層部の不可逆的な変化を視認し難くできる。
【0015】
そして、前記波長を近赤外領域内のものとし、前記光学機能層の前記波長に対する透過率を30%以上とし、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上とすることができる。こうすれば、光学機能層の近赤外領域における透過スペクトルは、第1波長光に対して高い透過率を示すが、前記近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上となる。従って、積層部の不可逆的な変化に第1波長光を利用することを知らない者に対しては、光反射層の受熱前の積層部と受熱後の積層部との不可逆的な変化を判別することを不可能、もしくは困難とできる。このため、この態様によれば、積層部の不可逆的な変化に第1波長光を利用することを知らない者に、積層部の不可逆的な変化を悟られ難くできる。
【0016】
また、前記光学機能層と前記光反射層とについては、これを前記カートリッジ表面に直接形成したり、前記カートリッジ表面に接着することができる。
【0017】
[適用2:カートリッジ]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、受熱によって前記波長の光の吸収率が不可逆的に高まる性状を有して前記波長の光を反射させる光反射層とを、積層して備え、
前記光学機能層は、前記波長の光の入射側に位置する
ことを要旨とする。
【0018】
上記構成を備えるカートリッジによっても、既述した効果を奏することができる。
【0019】
[適用3:カートリッジ用ラベル]
印刷に用いられる印刷材を収容したカートリッジに付されるカートリッジ用ラベルであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、受熱によって前記波長の光の吸収率が不可逆的に高まる性状を有して前記波長の光を反射させる光反射層とを、積層して備える
ことを要旨とする。
【0020】
上記のカートリッジ用ラベルをカートリッジに付することによっても、既述した効果を奏することができる。
【0021】
[適用4:印刷装置]
印刷装置であって、
上記したいずれかのカートリッジが装着可能とされ、
前記光反射層の前記波長における吸収率が高まるように、前記光反射層に熱を加える不可逆処置を実行する不可逆処置部を備える
ことを要旨とする。
【0022】
上記構成を備える印刷装置は、上記したいずれかのカートリッジが装着されると、その装着済みのカートリッジの積層部に対して不可逆処置を実行する。この不可逆処置は、積層部における前記光反射層の前記波長における吸収率が高まるように、前記光反射層に熱を加えるものであることから、上記構成を備える印刷装置によれば、不可逆処置を経て、積層部の上記した不可逆的な変化を起こすようにできる。
【0023】
この他、上記した印刷装置は、次のような態様とすることができる。例えば、前記光学機能層に前記波長の光を照射してその反射の状態を読み取り、前記不可逆処置の前後において前記読取部が読み取った反射の状態を対比する。こうすれば、積層部の上記した不可逆的な変化に対応した処置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】印刷システムPSの概略構成を示す説明図である。
【図2】インクカートリッジ200とラベル部210とを概略的に示す説明図である。
【図3】インクカートリッジ200のラベル部210と加熱ユニット100との関係を示す説明図である。
【図4】ラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と加熱ユニット100の位置関係を示す説明図である。
【図5】加熱ユニット100がラベル部210に対して移動した場合の光反射層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。
【図6】読取ユニット150の機能とラベル部210との関係を示す説明図である。
【図7】ラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と読取ユニット150の位置関係を示す説明図である。
【図8】変形例のラベル部210Aを正面視して示す説明図である。
【図9】図8における9−9線断面図である。
【図10】図6と図7に示すようにして不可逆処置前のラベル部210Aを読取ユニット150にて読み取った読取画像を示す説明図である。
【図11】図5相当図であり加熱ユニット100がラベル部210Aに対して移動した場合の光反射層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。
【図12】不可逆処置後の受光部154による読取結果に基づくパターン像の様子を示す説明図である。
【図13】また別の変形例のラベル部210Bを図9相当に断面視して示す説明図である。
【図14】図10相当に読取ユニット150にてラベル部210Bを読み取った読取画像を示す説明図である。
【図15】また別の変形例のラベル部210Cを正面視して示す説明図である。
【図16】図15における16−16線断面図である。
【図17】ラベル部形成の他の形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を印刷システムに適用した実施例について説明する。図1は印刷システムPSの概略構成を示す説明図である。図示するように、印刷システムPSは、印刷装置としてのプリンター20と、コンピューター90と、を備えている。プリンター20は、コネクター80を介して、コンピューター90と接続されている。
【0026】
プリンター20は、副走査送り機構21と、主走査送り機構27と、印刷ヘッドユニット60と、主制御部40と、を備えている。副走査送り機構21は、紙送りモーター22と紙送りローラー26とを備えており、紙送りローラー26を用いて用紙PAを副走査方向に搬送する。主走査送り機構27は、キャリッジモーター32と、プーリー38と、キャリッジモーター32とプーリー38との間に張設された駆動ベルト36と、紙送りローラー26の軸と並行に設けられた摺動軸34と、を備えている。摺動軸34は、駆動ベルト36に固定されたキャリッジ30を摺動可能に保持している。キャリッジモーター32の回転は、駆動ベルト36を介してキャリッジ30に伝達され、キャリッジ30は、摺動軸34に沿って紙送りローラー26の軸方向と平行な主走査方向に往復動する。
【0027】
印刷ヘッドユニット60は、キャリッジ30にインクカートリッジ200と図示しない印刷ヘッドとを搭載し、キャリッジ30により主走査方向に駆動しながら印刷ヘッドを駆動して、用紙PA上にインクカートリッジ200が収容したインクを吐出させる。主制御部40は、上述した各機構を制御して印刷処理を実現する。主制御部40は、例えば、コンピューター90を介してユーザーの印刷ジョブを受信し、受信した印刷ジョブの内容に基づき、上述した各機構を制御して印刷を実行する。インクカートリッジ200のそれぞれは、キャリッジ30に脱着自在に装着可能とされている。印刷ヘッドは、異なるインクをそれぞれ吐出する複数のノズル列を有する。また、この印刷ヘッドユニット60は、加熱ユニット100と読取ユニット150とを備える。加熱ユニット100は、インクカートリッジ200が有する後述のラベル部210に対して熱放射を行う。読取ユニット150は、ラベル部210への光照射とその反射光の読み取りを行う。ラベル部210に対する加熱や読み取りについては後述する。
【0028】
この他、プリンター20は、ユーザーがプリンター20の各種の設定を行ったり、プリンター20のステータスを確認したりするための操作部70を備えている。操作部70は、ユーザーに各種の通知を行うための表示部72を備えている。
【0029】
図2はインクカートリッジ200とラベル部210とを概略的に示す説明図、図3はインクカートリッジ200のラベル部210と加熱ユニット100との関係を示す説明図である。
【0030】
図示するように、ラベル部210は、インクカートリッジ200におけるインク収容部201を形成する筐体202の一つの周壁表面に形成されている。このラベル部210は、異なる性状の複数の層を積層した積層構造とされ、所定の波長の光(以下、この波長を第1波長と称し、その光を第1波長光と称する)を透過させる光学機能層213と、この第1波長光を反射させる光反射層212とを備え、光反射層212を筐体202の表面側とする。
【0031】
光反射層212は、受熱によって第1波長光の吸収率を不可逆的に高める性状を有し、こうした性状を呈するインクを用いた薄膜層である。そして、この光反射層212は、加熱ユニット100による後述の不可逆処置が実行されるまでの期間に亘って第1波長光を反射させ、不可逆処置の際に加熱される温度(以下、不可逆変化温度)で受熱すると第1波長光に対する吸収率が不可逆的に高まるように構成されている。インクカートリッジ200へのラベル部210の形成後において、第1波長光に対する光反射層212の反射率R1は、例えば、50ないし100%の範囲内にあり、典型的には60ないし80%の範囲内にある。また、不可逆処置の後において、第1波長光に対する光反射層212の反射率R2は、例えば、0ないし30%の範囲内にあり、典型的には5ないし20%の範囲内にある。そして、反射率R2と反射率R1との比は、例えば、0.6以下の範囲内にあり、典型的には0.06ないし0.33の範囲内にある。
【0032】
光反射層212は、不可逆変化温度以上の熱を受けることによって発色する感熱発色剤を含んでいる。感熱発色剤は、例えば、不可逆変化温度以上に加熱されるまでの期間に亘って無色であり、不可逆変化温度以上に加熱することによって発色する。或いは、感熱発色剤は、例えば、不可逆変化温度以上に加熱されるまでの期間に亘って或る色に着色しており、不可逆変化温度以上に加熱することによって変色する。このように光反射層212が感熱発色剤を含んでいる場合、典型的には、光反射層212は、不可逆変化温度以上に加熱することによって発色または変色する。
【0033】
本実施例では、一例として、光反射層212は、発色または変色することによって、近赤外線領域の少なくとも一部の波長域における吸収率が不可逆的に高まる感熱発色剤を含むようにした。ここで、「近赤外線領域」は、700ないし1500nmの波長域を意味することとする。また、第1波長光の波長は、近赤外線領域のうち、発色または変色によって吸収率が不可逆的に高まる波長域内にあることとする。
【0034】
感熱発色剤としては、例えば、ロイコ染料などの染料と顕色剤との組み合わせを使用することができる。或いは、特開昭59−199757号公報に記載のフルオレン化合物および特開昭62−243653号公報に記載のジビニル化合物などの感熱発色性化合物を用いることができる。また、例えば、特開平6−24140号公報、特開平7−172050号公報および特開平10−100544号公報などに記載の感熱発色性組成物を用いてもよい。
【0035】
光反射層212は、他の成分を更に含むことができる。例えば、光反射層212は、感熱発色剤を分散させる分散媒として樹脂を更に含んでいてもよい。この樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。
【0036】
光反射層212は、例えば、印刷法により形成される。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびフレキソ印刷法が挙げられる。光反射層212の厚さは、例えば1ないし20μmの範囲内とし、典型的には3ないし15μmの範囲内とする。この光反射層212を筐体202の表面に形成するには、インクカートリッジ200を上記の印刷手法の印刷機器にセットし、筐体202の表面に、例えばバーコータを用いて、以下に組成を示すインクAを塗布し、その際には、乾燥膜厚が10μmになるようにした。この塗膜を乾燥させることにより、光反射層212を筐体202の表面に印刷形成できる。
【0037】
[インクAの組成]
赤外吸収ロイコ染料(NIR BLACK78:山田化学工業社製) 1質量部;
顕色剤(TG−SH(H):日本化薬社製) 7質量部;
水系樹脂(ハイドランAP−40:DIC社製) 12質量部;
【0038】
光反射層212に重ねて形成された光学機能層213は、第1波長光を透過させる。第1波長光に対する光学機能層213の透過率は、例えば30%以上であり、典型的には30ないし60%の範囲内にある。
【0039】
光学機能層213は、典型的には着色している。光学機能層213が着色している場合、特に光学機能層213が黒色に着色している場合、光反射層212が加熱によって発色または変色していたとしても、ラベル部210を前面側(即ち、光学機能層213の側)から肉眼で観察しただけでは、そのことを知覚することは不可能であるかまたは困難である。つまり、光学機能層213が着色している場合、後述する不可逆処置を行ったことが気付かれ難い。ここでは、一例として、光学機能層213は黒色を呈していることとする。
【0040】
第1波長が近赤外領域内にある場合、光学機能層213として、第1波長における透過率が30%以上であり、光学機能層213は、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上であるものを使用することができる。即ち、光学機能層213は、近赤外領域における透過スペクトルが、第1波長において高い透過率を示し、他の多くの波長で低い透過率を示すものであってもよい。ここでは、一例として、光学機能層213は、このような光学特性を有していることとする。また、ここでは、第1波長と異なる第2波長も近赤外領域内にあり、第2波長における光学機能層213の透過率は、第1波長における光学機能層213の透過率と比較してより低いこと、例えば、第1波長における光学機能層213の透過率の10%以下であることとする。
【0041】
上記の光学特性、即ち、近赤外領域内の光のうち、一部の波長域の光を選択的に透過させ、残りの光を吸収する光学特性を有している光学機能層213は、例えば、所定の近赤外線吸収剤と樹脂とを含んでいる。この近赤外線吸収剤としては、例えば、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、ジイモニウム化合物、およびシアニン化合物からなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。また、樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。
【0042】
光学機能層213にあっても、光反射層212と同様、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびフレキソ印刷法等の印刷手法で形成される。光学機能層213の厚さは、例えば0.5ないし10μmの範囲内とし、典型的には1ないし5μmの範囲内とする。この光学機能層213を形成するには、例えば、オフセット印刷機に光反射層212が形成済みのインクカートリッジ200をセットし、形成済み光反射層212に重なるように、以下の組成のインクBまたはインクCを印刷し、その際には、乾燥膜厚が1μmになるようにした。その後、更に、この塗膜に紫外線を照射することで、光学機能層213を光反射層212に重ねて形成した。このようにして光反射層212に光学機能層213を積層したラベル部210を、筐体202の表面の側から肉眼で観察したところ、全体が黒色に見えた。つまり、本実施例のインクカートリッジ200では、そのラベル部210において、光学機能層213を光の入射側に位置させることになる。
【0043】
[インクBの組成]
有機系青色顔料(御国色素社製) 5質量部;
有機系赤色顔料(御国色素社製) 7質量部;
有機系黄色顔料(御国色素社製) 8質量部;
UV硬化型オフセットインクメジウム(FD カルトンACE メジウム ロ:東洋インキ社製) 80質量部;
【0044】
[インクCの組成]
有機系青色顔料(御国色素社製) 5質量部;
有機系赤色顔料(御国色素社製) 7質量部;
有機系黄色顔料(御国色素社製) 8質量部;
赤外線吸収剤(YKR−3081:山本化成社製) 5質量部;
UV硬化型オフセットインク用メジウム(FD カルトンACE メジウム ロ:東洋インキ社製) 75質量部;
【0045】
図3に示すように、加熱ユニット100は、インクカートリッジ200におけるカートリッジ表面のラベル部210に対向する。この場合、加熱ユニット100をインクカートリッジ200のラベル部210に常時対向するようにできるほか、加熱ユニット100を例えば2次元テーブル或いは3次元テーブルに設置し、ラベル部210に対して進退可能とすることもできる。加熱ユニット100は、ラベル部210に向き合うようサーマルヘッド102を備え、主制御部40(図1)からの制御を受けて、サーマルヘッド102にてラベル部210を光学機能層213の側から加熱する。この加熱は、上記したインク組成(インクA)で形成された光反射層212の第1波長における吸収率が不可逆的に高まった上で発色するようにできる120℃(不可逆変化温度)の熱を光反射層212に加えることができるものである。つまり、加熱ユニット100は、主制御部40からの制御タイミングにて、上記温度で光反射層212に熱を加える不可逆処置を実行する。光反射層212は、この不可逆処置を受けて、詳しくは上記温度の受熱を受けて、その受熱範囲にて、第1波長における吸収率の不可逆的な高まりと発色を起こす。なお、サーマルヘッド102にて上記のように光反射層212に受熱させる際、サーマルヘッド102をラベル部210の表面に接触させるようにすることもできる。
【0046】
図4はラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と加熱ユニット100の位置関係を示す説明図、図5は加熱ユニット100がラベル部210に対して移動した場合の光反射層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。図4に示すように、加熱ユニット100は、その有するサーマルヘッド102をラベル部210の一つの箇所に対向させただけでもよく(図4(A))、既述した2次元或いは3次元のテーブルにより、ラベル部210に対して縦横、或いはその一方の方向に走査するようにすることができる(図4(B))。図4(A)に示す場合には、加熱ユニット100による上記の不可逆処置により、ラベル部210では、詳しくは光反射層212では、加熱ユニット100のサーマルヘッド102と向き合う一箇所の受熱範囲において、吸収率の不可逆的な高まりと発色が起きる。その一方、図4(B)に示す場合は、加熱ユニット100の走査軌跡に倣った軌跡が受熱範囲となるので、光反射層212では、サーマルヘッド102の走査軌跡に倣った連続的な受熱範囲において、吸収率の不可逆的な高まりと発色が起きる。図5では、加熱ユニット100が一方向に移動した場合の光反射層212の変化の様子が示されており、加熱ユニット100の移動範囲では、光反射層212は、受熱を受けていない非受熱部212aから受熱後の受熱部212bとなり、この受熱部212bにおいて、既述したように第1波長における吸収率の不可逆的な高まりと発色を起こす。
【0047】
図6は読取ユニット150の機能とラベル部210との関係を示す説明図である。図示するように、読取ユニット150は、インクカートリッジ200におけるカートリッジ表面のラベル部210に対向する。この場合、読取ユニット150にあっても、加熱ユニット100と同様、ラベル部210に常時対向するようにできるほか、2次元テーブル或いは3次元テーブルに設置し、ラベル部210に対して進退可能とできる。読取ユニット150は、照射部152と受光部154とをラベル部210に向き合うようにして備え、主制御部40(図1)からの制御を受けて、照射部152による光照射と、受光部154による読み取りを行う。照射部152は、赤外線LED(light-emitting diode)を内蔵し、第1波長としての800nmの波長の光(第1波長光)を照射する。受光部154は、CCD(charge-coupled device)カメラとして構成され、照射部152から照射した光が光反射層212で反射した反射光を受光する。この場合、受光部154は、図示しない光学フィルタにて上記の第1波長を含む赤外領域の光を受光するように構成されている。
【0048】
図7はラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と読取ユニット150の位置関係を示す説明図である。図示するように、読取ユニット150は、複数の照射部152からラベル部210の全面に向けて上記波長(第1波長)の光を照射し、ラベル部210の全面からの反射光を受光部154にて受光する。よって、図4で説明したいずれの場合の加熱ユニット100による不可逆処置であっても、読取ユニット150は、この不可逆処置により吸収率の不可逆的な高まりと発色を起こした光反射層212の呈する反射状況を読み取ることができる。
【0049】
プリンター20は、加熱ユニット100による上記したサーマルヘッド102を用いた不可逆処置を、インクカートリッジ200の収容済みインクが使い切られたタイミング(不可逆変化タイミング)で実行する。具体的には、主制御部40は、処理を行った印刷ジョブの累積からインクカートリッジ200のインク残量を求め、その残量が次回の印刷ジョブを賄えないと予想されるインク量となると、加熱ユニット100に制御信号を送る。加熱ユニット100は、この制御信号を受けてサーマルヘッド102を上記した120℃の温度まで昇温させ、その熱をラベル部210の光反射層212に放射する。熱放射の時間は、光反射層212が熱を受けて吸収率の不可逆的な高まりと発色を起こすに足りる時間とされている。なお、図4(B)のように加熱ユニット100を走査する場合には、その走査速度を調整しつつ、熱放射時間が確保される。
【0050】
また、プリンター20は、キャリッジ30にインクカートリッジ200が装着されると、そのタイミング(読取タイミング)で、主制御部40から読取ユニット150に制御信号を送信する。読取ユニット150は、これを受けて、照射部152による光照射と受光部154による反射光読み取りを行い、読み取り結果を主制御部40に送信する。主制御部40は、予め、加熱ユニット100による不可逆処置前の読取状況を記憶しているので、受光部154の読取結果を記憶済み読取状況と比較することで、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が不可逆処置を受けていないものか、当該処置を受けたものかの特定が可能となる。
【0051】
以上説明した本実施例の印刷システムPSによれば次の利点がある。本実施例のインクカートリッジ200は、その筐体202の表面にラベル部210を備え、このラベル部210をカートリッジ表面側から、光反射層212と光学機能層213とを積層した積層部とする。このラベル部210は、インクカートリッジ200が図1に示すようにキャリッジ30に装着された状態で、上記の不可逆変化タイミングにて、プリンター20の印刷ヘッドユニット60に搭載済みの加熱ユニット100を介して不可逆処置を受ける。ラベル部210の光反射層212は、この不可逆処置を受けることで加熱ユニット100のサーマルヘッド102にて加熱され、その受熱範囲(図4参照)において、第1波長(800nm)についての吸収率の不可逆的な高まりと発色を起こす。このため、ラベル部210の光反射層212は、受熱を伴う不可逆処置の前後において、第1波長光(800nmの波長の光)に対する吸収率を上記の受熱範囲において異なるものとする。
【0052】
その一方、プリンター20は、インクカートリッジ200がキャリッジ30に装着されたような上記の読取タイミングで、インクカートリッジ200のラベル部210にその光学機能層213の側から第1波長光(800nmの波長の光)を読取ユニット150の照射部152から照射し、光学機能層213からのこの第1波長光の反射状況を受光部154で読み取る(図6、図7参照)。今、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が、それ以前にキャリッジ30に装着された経歴がなく所定のインクを満量収容したカートリッジであれば、当該カートリッジは、加熱ユニット100による不可逆処置を受けてはいない。よって、この新たに装着されたインクカートリッジ200についての受光部154による読取結果は、第1波長光(800nmの波長の光)に対する不可逆的な吸収率の高まりと発色を起こしていないものとなる。
【0053】
その一方、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が、それ以前に加熱ユニット100による不可逆処置を受けたものであれば、この新たに装着されたインクカートリッジ200についての受光部154による読取結果は、第1波長光(800nmの波長の光)に対する不可逆的な吸収率の高まりと発色が反映したものとなる。つまり、不可逆処置を経たラベル部210の光反射層212の不可逆的な吸収率の変化は、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当する。よって、本実施例のインクカートリッジ200によれば、ラベル部210の不可逆的な変化を、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当するものとできるので、情報更新に当たって記憶素子を必要としない。なお、記憶素子をラベル部210と併用することも可能である。
【0054】
また、本実施例のプリンター20によれば、ラベル部210における光反射層212の不可逆的な吸収率の変化を、インクカートリッジ200のインクが使い切られたタイミングで起こすので、インク使い切りのインクカートリッジ200が誤ってキャリッジ30に装着されても、その誤装着の旨を操作部70の表示部72に表示する等してユーザーに認知でき、こうした認知に際して記憶素子を必要としない。なお、記憶素子をラベル部210と併用することも可能である。
【0055】
また、本実施例のプリンター20では、インクカートリッジ200のインクが使い切られたタイミングで不可逆処置を行って、ラベル部210における光反射層212の吸収率を不可逆的に高め、この光反射層212の吸収率を不可逆処置前の状態に戻せないようにする。よって、真正品であるかが未知のインクカートリッジ200について、ラベル部210に対する上記の不可逆処置の有無を判別することができる。このことは、真正品であるかが未知のインクカートリッジ200の真偽判定が可能であることを意味する。従って、ラベル部210を引き剥がして再利用しようとする行為を牽制できる。
【0056】
次に、変形例について説明する。図8は変形例のラベル部210Aを正面視して示す説明図、図9は図8における9−9線断面図である。
【0057】
図示するように、この変形例のラベル部210Aは、インクカートリッジ200の筐体202の表面に、光反射層212と光学機能層213とを積層した上で、この光学機能層213に光吸収パターン層214を積層して備える。光吸収パターン層214は、図8に示すような一次元コード様のパターンを後述する材料で光学機能層213の上に形成し、光学機能層213を間に挟んで光反射層212と向き合っている。図8および図9に示す例では、光吸収パターン層214のパターンは、一次元コードであるが、二次元コード様のパターン、或いは、文字、記号、模様および図形などの他のパターンとすることもできる。そして、この光吸収パターン層214のパターンを、インクカートリッジ200に固有の情報、例えば、インク色に応じて異なるようにすれば、カートリッジ装着の際のパターンの読取結果からインク色を特定できる。
【0058】
光吸収パターン層214は、既述した第1波長光を吸収する。具体的には、光吸収パターン層214の第1波長における吸収率は、ラベル部210Aの製造直後における光反射層212の第1波長における吸収率および光学機能層213の第1波長における吸収率と比較してより大きい。第1波長光に対する光吸収パターン層214の吸収率は、例えば70%以上であり、典型的には80%以上である。
【0059】
第1波長が近赤外領域内にある場合、光吸収パターン層214は、例えば、近赤外線吸収剤と樹脂とを含有している。この樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。
【0060】
ここで使用する近赤外線吸収剤は、典型的には、光学機能層213において使用する近赤外線吸収剤とは、近赤外線領域の吸収スペクトルが異なっている。例えば、ここで使用する近赤外線吸収剤は、光学機能層213において使用する近赤外線吸収剤と比較して、第1波長光に対する吸収率がより大きい。この近赤外線吸収剤としては、例えば、プロセス墨インクに用いられているカーボンブラックを使用することができる。或いは、この近赤外線吸収剤として、光学機能層213の近赤外線吸収剤として例示した化合物を使用してもよい。
【0061】
光吸収パターン層214は、光学機能層213と同色にするか、または、第1波長光に対して十分な吸収率を示す限り、薄い色にすることが好ましい。こうすると、ラベル部210Aを肉眼で観察した場合に、光吸収パターン層214の存在が分かり難くなる。
【0062】
光吸収パターン層214は、光反射層212に対応した領域のほぼ全体に亘って分布していることが望ましい。こうすると、光学機能層213の分光特性の解析を困難とすることができる。
【0063】
光吸収パターン層214は、例えば、印刷法により形成する。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびフレキソ印刷法が挙げられる。或いは、光吸収パターン層214は、熱転写リボンを用いて形成してもよい。つまり、光反射層212と光学機能層213とを形成済みのインクカートリッジ200を上記の印刷手法に処して、光学機能層213の表面に光吸収パターン層214を形成する。光吸収パターン層214の厚さは、例えば0.5ないし10μmの範囲内とし、典型的には0.5ないし2μmの範囲内とする。
【0064】
上記したラベル部210Aを有するインクカートリッジ200に対する加熱ユニット100による不可逆処置、および読取ユニット150による読取結果について説明する。図10は図6と図7に示すようにして不可逆処置前のラベル部210Aを読取ユニット150にて読み取った読取画像を示す説明図である。
【0065】
インクを規定の満量収容したインクカートリッジ200にラベル部210Aを形成した状態で、このラベル部210Aをその前面から肉眼で観察した場合、例えば、その全体が黒色に見える(図8参照)。これに対し、図6〜図7に示すように読取ユニット150の照射部152にて第1波長光を照射しながら受光部154でその反射光を読み取ると、受光部154の読取結果は、光吸収パターン層214の形成したパターンに対応した領域が黒く、ラベル部210Aの他の部分に対応した領域が白くなったパターン像P1に相当する読取結果となる。この読取結果を受け取る主制御部40は、画像としてパターン像P1を認識する。この場合、照射部152から第1波長光と異なる赤外領域の第2波長の光を照射すれば、受光部154の読取結果は、例えば、全体が黒い画像、または、パターン像P1がより低いコントラスト比で表示される読取結果となる。
【0066】
上記したラベル部210Aを備えたインクカートリッジ200がプリンター20にてそのインクが使い切られ、ラベル部210Aが、既述した加熱ユニット100による不可逆処置を受けると、次のようになる。図11は図5相当図であり加熱ユニット100がラベル部210Aに対して移動した場合の光反射層212の変化の様子を概略的に示す説明図、図12は不可逆処置後の受光部154による読取結果に基づくパターン像の様子を示す説明図である。例えば、図4(A)に示すように、加熱ユニット100をラベル部210Aに対向させた状態で不可逆処置が実行されると、加熱ユニット100が対向する範囲(受熱範囲)において上記した光反射層212の不可逆的な吸収率の高まりと発色により、この受熱範囲に対応する受熱部212bの範囲で新たな黒色のパターン像P2が生じ、これがパターン像P1と重なる(図12(A)参照)。また、図4(B)に示すように、加熱ユニット100をラベル部210Aに対して走査させると、その走査軌跡に倣った受熱範囲に対応する受熱部212bの範囲で新たな黒色のパターン像P2が生じ、これがパターン像P1と重なる(図12(B)参照)。受光部154は、新たな黒色のパターン像P2が重なったパターン像P1に相当する読取結果を主制御部40に送信するので、主制御部40は、新たなパターン像P2が重なったパターン像P1を認識する。こうしたパターン像P1の読取結果は、次の理由により得られる。
【0067】
加熱ユニット100による不可逆処置を受けたラベル部210Aでは、その光学機能層213の側から照射部152により照射された第1波長光は、光吸収パターン層のパターン像P1に対応する箇所では光が吸収されて光反射層212に到達する光量が低下する。パターン像P1以外の部位では光反射層まで到達するものの、上記の受熱範囲では、光反射層212の吸収率が高まっていることから、光反射層212への光の到達が少なくなり、第1波長光の反射率がより小さくなる。このため、反射率が少なくなった受熱範囲に対応する範囲で新たな黒色のパターン像P2が生じてパターン像P1に重なることになる。なお、上記の通り、光反射層212は、加熱によって発色または変色する際に、その色変化が小さい、或いは、光学機能層213の可視光線透過率が小さくなっても、不可逆処置前後での光反射層212の色の相違を、肉眼による観察で判別することは不可能または困難である。
【0068】
上記した変形例のラベル部210Aを有するインクカートリッジ200では、加熱ユニット100による不可逆処置の前では、パターン像P1のみとなるのに対して、当該処置後では、新たな黒色のパターン像P2が重なったパターン像P1となる。この結果、上記した変形例のラベル部210Aを有するインクカートリッジ200によれば、光反射層212の不可逆的な吸収率の高まりと発色の変化をパターン像P1の形状変化により、より顕著に認識できる。
【0069】
上記したラベル部210Aでは、光吸収パターン層214を光学機能層213に重ねて形成したが、光吸収パターン層214を光学機能層213の裏面側、即ち、光反射層212と光吸収パターン層214の間に形成することもできる。この場合には、光吸収パターン層214を被覆するよう、光学機能層213が形成されることになる。
【0070】
図13はまた別の変形例のラベル部210Bを図9相当に断面視して示す説明図、図14は図10相当に読取ユニット150にてラベル部210Bを読み取った読取画像を示す説明図である。
【0071】
図示するように、この変形例のラベル部210Bは、上記したラベル部210Aと同様の層構造を備えるものの、光反射層212を部分的に予め加熱して、光反射層212内に非受熱部212aと受熱部212bとを設けている。インクを規定の満量収容したインクカートリッジ200にラベル部210Bを形成した状態で、このラベル部210Bを図6に示すように読取ユニット150の照射部152にて第1波長光を照射しながら受光部154でその反射光を読み取る。この際の受光部154の読取結果は、光吸収パターン層214の形成したパターン(図10のパターン像P1)に加えて光反射層212の受熱部212bに対応した領域でも黒く、ラベル部210Bの他の部分に対応した領域が白くなったパターン像P3に相当する読取結果となる。この読取結果を受け取る主制御部40は、画像としてパターン像P3を認識する。従って、このラベル部210Bを有するインクカートリッジ200によれば、肉眼で詳細に観察したときにラベル部210Bが表示する画像とは異なるパターン像P3を表示する。それ故、例えば、肉眼で観察したときにラベル部210Bが表示する画像を、ダミー情報として利用することができる。この場合、加熱ユニット100による不可逆処置を実行すれば、非受熱部212aは受熱範囲において不可逆的な吸収率の高まりと発色を起こすので、受光部154の読取結果は、図12に示したようになり、不可逆処置の前後でパターン像P3が変わることになる。
【0072】
なお、図13に示す例では、受熱部212bと光吸収パターン層214とを、筐体202の表面への受熱部212bの正射影と、上記カートリッジ表面への光吸収パターン層214のパターンの正射影とが同一の領域内に位置するように配置している。即ち、図13の例では、光吸収パターン層214のパターンの少なくとも一部と受熱部212bの少なくとも一部との組み合わせが1つの情報を表示する構成を採用している。この場合、図13に示す受熱部212bの範囲については、ラベル部210Bを有するインクカートリッジ200がキャリッジ30に装着される以前、例えば、工場出荷時において予め上記した不可逆変化温度にて受熱させておくことができる。
【0073】
この他、受熱部212bと光吸収パターン層214とを、筐体202の表面への受熱部212bの正射影と、上記カートリッジ表面への光吸収パターン層214の正射影とが、別々の領域内に位置するように配置してもよい。即ち、光吸収パターン層214のパターンの少なくとも一部と、受熱部212bの少なくとも一部とが、互いから独立した情報を表示する構成を採用してもよい。
【0074】
図15はまた別の変形例のラベル部210Cを正面視して示す説明図、図16は図15における16−16線断面図である。
【0075】
図示するように、この変形例のラベル部210Cは、インクカートリッジ200の筐体202の表面に、当該表面側から光反射層212と光学機能層213とを積層した上で、光反射層212の一部部位を受熱部212bとする。この受熱部212bは、例えば、図8にて示したような一次元コード様のパターンや二次元コード様のパターン、或いは、文字、記号、模様および図形などの他のパターンを占めている。そして、この受熱部212bは、ラベル部210Cを有するインクカートリッジ200がキャリッジ30に装着される以前、例えば、工場出荷時において予め形成される。つまり、出荷前において、サーマルヘッド102を上記パターンをなぞるよう駆動しつつ上記した不可逆変化温度にてラベル部210Cを受熱させることで、その受熱範囲での上記した不可逆的な吸収率変化が起きて、上記パターンに倣って受熱部212bが形成される。こうして形成された受熱部212bによるパターンについても、インクカートリッジ200に固有の情報、例えば、インク色に応じて異なるようにすれば、カートリッジ装着の際のパターンの読取結果から、当該カートリッジに収容されたインク色を特定できる。
【0076】
このラベル部210Cは、光学機能層213の側から肉眼で観察した場合には、光学機能層213の上記した性質により、全体が黒色の画像を表示する。そして、キャリッジ30に装着された時点で、図6に示したようにインクカートリッジ200のラベル部210Cを、読取ユニット150の照射部152から第1波長光を照射しながら受光部154で読み取ると、その読取結果の画像は、予めの受熱により不可逆的な吸収率変化を起こしている受熱部212bのパターンに対応した領域が黒く、非受熱部212aに対応した領域が白い画像となる。即ち、このラベル部210Cを有するインクカートリッジ200では、肉眼で観察したときのラベル部210Cが表示する画像とは異なる画像を表示する。
【0077】
このラベル部210Cを上記した不可逆変化タイミングで不可逆処置する際には、非受熱部212aの少なくとも一部をサーマルヘッド102により受熱させて、その範囲を受熱部212bへと変化させる。図6に示したように、この不可逆処置後のラベル部210Cを、読取ユニット150の照射部152から第1波長光を照射しながら受光部154で読み取ると、その読取結果の画像は、不可逆処置により新たに受熱部212bとなった領域が黒く、非受熱部212aのままの領域に対応した領域は白いままとなる。そして、不可逆処置により新たに受熱部212bとなった黒い領域が、予めの受熱により不可逆済みであった受熱部212bのパターンに重なり、受光部154での読取結果に基づく画像は、不可逆処置後において相違することになる。よって、この変形例のラベル部210Cを有するインクカートリッジ200によっても、既述した効果を奏することができる。
【0078】
図17はラベル部形成の他の形態を模式的に示す説明図である。この形態では、図8〜図9に示したラベル部210Aに粘着層230を形成し、この粘着層230にて、ラベル部210Aを筐体202の表面に貼り付けている。粘着層230の形成に当たっては、例えば、紙、プラスチック、木材、ガラスまたは樹脂からなる印刷基材を用意し、その一面に、光反射層212と光学機能層213とをこの順に印刷形成する。そして、この印刷基材の他面に粘着剤を塗布等して粘着層230を形成し、この粘着層230を介してラベル部210Cを筐体202の表面に接着する。このようにしても、既述した効果を奏することができる。この場合、加熱ユニット100による不可逆処置を受けたラベル部210Aをインクカートリッジ200から引き剥がして別のインクカートリッジ200に貼り直したとして、当該別のインクカートリッジ200がキャリッジ30に装着されると、読取ユニット150の上記した読込により、当該別のインクカートリッジ200は、インク使い切りのインクカートリッジが誤って装着されたものである等の旨を操作部70の表示部72に表示できる。
【0079】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、図12で示したラベル部210Bにおいて、光吸収パターン層214を省略することもできる。また、光吸収パターン層214を省力した上で、受熱部212bを例えばパターン像P1となるパターンで予め形成することもできる。
【0080】
また、ラベル部210やラベル部210A等を、ほぼ全域の波長の光を透過させる透光性を有する薄膜状或いは薄葉状の保護層で覆うようにすることもできる。
【0081】
また、上記の実施例では、ラベル部210やラベル部210A等に対して行う不可逆処置に際して、サーマルヘッド102を有する加熱ユニット100を用いたが、メタルヒーターを用いて光反射層212を加熱したり、光反射層212にレーザー光やマイクロ波等を照射して、光反射層212を発熱させ、その熱を受けて、光反射層212の吸収率を不可逆的に高めるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0082】
PS…印刷システム
20…プリンター
21…副走査送り機構
22…紙送りモーター
26…紙送りローラー
27…主走査送り機構
30…キャリッジ
32…キャリッジモーター
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリー
40…主制御部
60…印刷ヘッドユニット
70…操作部
72…表示部
80…コネクター
90…コンピューター
100…加熱ユニット
102…サーマルヘッド
150…読取ユニット
152…照射部
154…受光部
200…インクカートリッジ
201…インク収容部
202…筐体
210、210A〜210C…ラベル部
212…光反射層
212a…非受熱部
212b…受熱部
213…光学機能層
214…光吸収パターン層
230…粘着層
232…印刷基材
P1…パターン像
P2…パターン像
P3…パターン像
PA…用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
カートリッジ表面に、所定の波長の光を透過させる光学機能層と、前記波長の光を反射させる光反射層とを、該光反射層がカートリッジ表面側となるように積層して備え、
前記光反射層は、受熱によって前記波長の光の吸収率が不可逆的に高まる性状を有する
カートリッジ。
【請求項2】
前記光学機能層の表裏のいずれかの面に、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を備える請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記光反射層の一部は、前記光反射層の他の一部と比較して、予め前記吸収率が高められている請求項1または請求項2に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記波長の光を照射したときに、前記パターンの少なくとも一部のパターンと、前記光反射層のうち予め前記吸収率が高められた部分のパターンとの組み合わせが予め定めた情報を表示するように構成された請求項3に記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記波長の光を照射したときに、前記光吸収パターンの少なくとも一部のパターンと、前記光反射層のうち予め前記吸収率が高められた部分の前記光吸収パターンのパターンとが、異なる情報を表示するように構成された請求項3に記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記波長は赤外領域内にあり、前記光学機能層は黒色層である請求項1ないし請求項5いずれかに記載のカートリッジ。
【請求項7】
前記波長は近赤外領域内にあり、前記光学機能層の前記波長における透過率は30%以上であり、前記光学機能層は、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上である請求項6に記載のカートリッジ。
【請求項8】
前記光学機能層と前記光反射層とは、前記カートリッジ表面に直接形成され、または、前記カートリッジ表面に接着されている請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項9】
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、受熱によって前記波長の光の吸収率が不可逆的に高まる性状を有して前記波長の光を反射させる光反射層とを、積層して備え、
前記光学機能層は、前記波長の光の入射側に位置する
カートリッジ。
【請求項10】
印刷装置であって、
請求項1ないし請求項9のいずれかのカートリッジが装着可能とされ、
前記光反射層の前記波長における吸収率が不可逆的に高まるように、前記光反射層に熱を加える不可逆処置を実行する不可逆処置部を備える
印刷装置。
【請求項11】
請求項10に記載の印刷装置であって、
前記光学機能層に前記波長の光を照射し、その反射の状態を読み取る読取部と、
前記不可逆処置の前後において前記読取部が読み取った反射の状態を対比する対比部とを有する印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−71399(P2013−71399A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213878(P2011−213878)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】