カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体
【課題】溶液中に効率よく分散されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体、及び、該カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の医学、薬学分野における応用方法を提供する。
【解決手段】特定の配列を有するペプチドとカーボンナノチューブとの複合体であって、公知のペプチドであるLys-Pheの繰り返しペプチドに比べて、カーボンナノチューブを溶液中に効率よく分散させることができる。さらに、該複合体は、細胞への遺伝子導入剤、薬剤用徐放剤、及び光線温熱療法によるがん治療に用いられ得る光増感剤として利用できる。
【解決手段】特定の配列を有するペプチドとカーボンナノチューブとの複合体であって、公知のペプチドであるLys-Pheの繰り返しペプチドに比べて、カーボンナノチューブを溶液中に効率よく分散させることができる。さらに、該複合体は、細胞への遺伝子導入剤、薬剤用徐放剤、及び光線温熱療法によるがん治療に用いられ得る光増感剤として利用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中又は生体内におけるカーボンナノチューブの広範な応用を可能にする、新規なカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT) はその発見以来、物理、化学、エレクトロニクス分野における研究が先行し、これらの分野と比べると生化学、医学、薬学分野における研究は遅れていた。これは、CNTが極めて疎水性な表面構造を持つために、生化学分野では必須である水溶液中への分散が非常に困難であることと、CNTの化学的な安定性のために穏和な条件下での化学修飾による機能化が難しいことに起因している。しかしながら、生化学、医学、薬学分野におけるCNTに対する関心は非常に高く、CNTの電気化学的特性を活かしたバイオセンサーやバイオ電池の電極としての利用の他に、薬物輸送のためのキャリアーとしての利用法の開発が試みられている。
【0003】
これらの研究開発が進む中で、数多くのCNT分散法やCNTの機能化法が開発されてきた。しかしながら、そのいずれも特定の目的に特化した手法として開発されており、汎用性が高い技術とは言い難い。このため、せっかく応用に向けた情報が得られてもこれを体系化することが難しく、技術開発の効率が極めて悪いという問題点があった。そこで、様々な目的に利用可能な共通のプラットフォームとなり得るCNTが求められていた。
【0004】
これまでに報告されているCNTの水溶液中への分散法としては、化学修飾による親水性官能基の導入(非特許文献1)や界面活性剤を用いた方法が挙げられる。しかし、化学修飾による親水性官能基の導入によっても、CNTを完全に水溶液中に分散させるのは非常に困難であり、しかもCNTへの化学修飾はその表面構造を破壊することによってのみ可能となるため、過度の修飾はCNTの物理的または光学的特性を損なうことにつながる。一方、界面活性剤を用いた方法としては、sodium dodecyl sulfate (非特許文献2)や、sodium dodecylbenzene sulfate (非特許文献3)、Triton X-100 (非特許文献4)などを分散剤として用いる方法が報告されているが、界面活性剤を用いた場合、CNTは界面活性剤のミセル内に取り込まれてしまうために化学修飾などの機能化が困難となる。しかも、分散の安定化のために溶液中に界面活性剤を含むことが不可欠となるため、特に医学、薬学分野における応用においては問題が多い。
【0005】
これらの欠点を克服する方法としては、両親媒性ポリマーなどの高分子を利用した複合体の形成が考えられる。ポリマーはCNTと多点で相互作用が可能であるため、CNTとより強固な複合体を形成することが期待でき、水溶液中に過剰な分散剤を存在させる必要がない。このようなポリマー性分散剤としては、poly(ethylene oxide)-block-poly(propylene oxide) (非特許文献5)やpolystyrene-block-poly(acryc acid) (非特許文献6)、polystyrene-block-poly(ethylene oxide)(非特許文献7)、poly(methyl methacrylate)-block-poly(ethylene oxide) (非特許文献7)などが報告されている。CNTの生体応用を目的とした研究では、より生体との親和性の高い生体高分子を分散剤として用いたCNTの分散法も検討されており、これまでに糖鎖や核酸、タンパク質を物理的に吸着させることによってCNTを可溶化する手法が報告されている。これらの分散剤は比較的CNTに対する吸着力が強く、溶液中に過剰な分散剤の存在を必要としない点で界面活性剤の問題点を克服していると言える。しかしながら、これらの多くは分散剤自体の機能をCNTに付与できることを報告しているが、他の機能を追加的に付与するには至っておらず、目的とする機能化に応じて分散剤を変える必要があるために汎用性に欠ける。
【0006】
さらにドラッグデリバリーをターゲットとした研究では、CNTの分散剤としてPEG化リン脂質を用いた報告もなされている。これは脂質のアルキル鎖が疎水性相互作用によってCNTに吸着し、PEGの親水性によって水溶液中への分散を可能とするものである。この分散剤は、PEGの先端を化学修飾することによって任意の機能を追加的に賦与できることが報告されており、現時点では最も実用性の高い分散剤と考えられる。しかし、上記の分散剤を用いて調製した水分散性CNTは、材料として見たときには大きな問題点を抱えている。すなわち、これらの分散剤はいずれも疎水性相互作用あるいはπ−π相互作用のみによってCNTに吸着しているためその吸着を制御することが困難で、分散剤がCNT表面に無秩序に吸着した表面構造の不均一な複合体となってしまう。
【0007】
上記課題の解決を試みるものとして、近年、CNTの分散剤としてペプチドを用いたものが報告されている。例えば、CNTの分散剤として、Lys-Pheの繰り返しペプチドが挙げられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007‐153716号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Liu, et al., Science, 280, 1253-1256, 1998
【非特許文献2】M. J. O'Connell, et al., Science, 297, 593-596, 2002
【非特許文献3】M. F. Islam, et al., Nano Lett., 3, 269-273
【非特許文献4】V. C. Moor, et al., Nano Lett. 3, 1379-1382
【非特許文献5】R. Shvartzman-Cohen, et al., Langmuir, 20, 6085-6088, 2004
【非特許文献6】I. M. Cotiuga, et al., Macromol. Rapid Commun., 27, 1073-1078, 2006
【非特許文献7】Y. Kang, et al., J. Am. Chem. Soc., 125, 5650-5651, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、溶液中に効率よく分散されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を提供することを目的とする。さらに、本発明は該カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の医学、薬学分野における応用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、公知のペプチドであるLys-Pheの繰り返しペプチドは、カーボンナノチューブを溶液中に分散させる効率が不十分であることを見出した。そして、さらに鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、一般式(1)で表されることを特徴とするペプチドは、公知のペプチドであるLys-Pheの繰り返しペプチドに比べて、カーボンナノチューブを溶液中に効率よく分散させることができることを見出した。さらに、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されることを特徴とするペプチドとの複合体は、細胞への遺伝子導入剤、薬剤用徐放剤、及び光線温熱療法によるがん治療に用いられ得る光増感剤として利用できることをも見出した。本発明は、このような知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0013】
項1. カーボンナノチューブ及び一般式(1)で表されるペプチドを含有する、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
X‐(A‐B‐C‐D)n‐Y (1)
[式中、Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し、Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示し、Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し(AとCは同一又は異なっていてもよい)、Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数であり、左側がアミノ末端を示し、右側がカルボキシル末端を示す]。
【0014】
項2. 前記Dが一般式(5)で表される、請求項1に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0015】
【化1】
【0016】
[式中、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を示し(mが2又は3の時は同一又は異なっていてもよい)、mは1〜3の整数である]。
【0017】
項3. 前記R4が水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、mが1である、請求項2に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【0018】
項4. 前記Bが一般式(3)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0019】
【化2】
【0020】
[式中、R2はアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基を示す]。
【0021】
項5. 前記R2がフェニル基を有する疎水性置換基である、請求項4に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【0022】
項6. 前記Aが一般式(2)で表される、請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0023】
【化3】
【0024】
[式中、R1はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0025】
項7. 前記Cが一般式(4)で表される、請求項1〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0026】
【化4】
【0027】
[式中、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0028】
項8. 請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法であって、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することを特徴とする製造方法。
【0029】
項9. 請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、細胞への遺伝子導入試薬。
【0030】
項10.請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からなる、薬剤用徐放剤。
【0031】
項11.請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、光増感剤。
【0032】
項12.一般式(1a)で表されることを特徴とする、ペプチド;
【0033】
【化5】
【0034】
[式中、R1は同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R2aはフェニル基を有する疎水性置換基を示し、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R4aは水素又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数である]。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、溶液中に効率よく分散されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を提供することができる。さらに、該カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の医学、薬学分野における応用方法を提供することができる。
【0036】
また、本発明によれば、径の異なる様々なCNTとペプチドとの複合体を提供することができるため、医学、薬学分野において広くCNTを利用することを可能にする。
【0037】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、ペプチドが単層でカーボンナノチューブに結合している構造であると考えられるため、ペプチドを機能的に修飾することにより、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に種々の機能を付与することが容易である。従って、本発明によれば、医学、薬学分野における特定の分野における利用に限られず、該分野において広くCNTを利用することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】配列番号1で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図2】配列番号2で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図3】配列番号3で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図4】配列番号4で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図5】製造例1〜3に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトルを示す。
【図6】製造例1〜3に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の発光スペクトルを示す。
【図7】製造例1及び2に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の原子間力顕微鏡の観察像を示す。
【図8】カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の分子モデルを示す。
【図9】製造例4aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の電子顕微鏡の観察像を示す。
【図10】製造例1a及び2aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の安定性に対するpHの効果を示す。
【図11】製造例2aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の安定性に対する凍結乾燥による影響を示す。
【図12】凍結乾燥処理後の製造例2aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトル、及び発光スペクトルを示す。
【図13】蛍光修飾した製造例3に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトル、及び発光スペクトルを示す。
【図14】製造例1aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体と、プラスミドDNAとの三者複合体形成を示す。
【図15】カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体と、プラスミドDNAとの三者複合体の細胞内への取り込みを示す。
【図16】細胞内に取り込まれたプラスミドDNAにコードされたGFPタンパク質の発現を示す。
【図17】MMCを連結した製造例2に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトルを示す。
【図18】MMCを連結した製造例2に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からのMMC放出のタイムコースを示す。
【図19】NIRレーザー照射に伴うCNT‐ペプチド複合体溶液の温度上昇を示す。
【図20】CNT‐ペプチド複合体を導入した細胞に対するNIRレーザー照射が引き起こす細胞死を示す。
【図21】CNT‐ペプチド複合体とNIRレーザーによる光線温熱療法が首位用の増殖に与える影響を示す。
【図22】各ペプチドを用いて調製したCNT分散液の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、カーボンナノチューブの表面にペプチドが結合した複合体である。
【0040】
1−1.カーボンナノチューブ
本発明で用いられるカーボンナノチューブは特に制限されるものではなく、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで使用することができる。好ましくは、単層ウォール・カーボンナノチューブが用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0041】
単層カーボンナノチューブの直径としては、特に限定されるものではないが、0.4〜10nmが好ましく、0.7〜5nmがより好ましく、0.7〜2nmがさらに好ましい。
【0042】
単層カーボンナノチューブの長さとしては、特に限定されるものではないが、0.05〜500μmのものが好ましく、0.07〜50μmがより好ましく、0.08〜5μmがさらに好ましい。
【0043】
多層カーボンナノチューブの直径としては、特に限定されるものではないが、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましく、1〜40nmがさらに好ましい。
【0044】
多層カーボンナノチューブの長さとしては、特に限定されるものではないが、0.05〜500μmのものが好ましく、0.07〜50μmがより好ましく、0.08〜5μmがさらに好ましい。
【0045】
また、カーボンナノチューブの型は、特に限定されるものではなく、アームチェアー型、ジグザグ型、カイラル型等のカーボンナノチューブを使用することができる。
【0046】
1−2.ペプチド
本発明のペプチドは、一般式(1)で表される。
X‐(A‐B‐C‐D)n‐Y (1)
[式中、Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し、Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示し、Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し(AとCは同一又は異なっていてもよい)、Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性官能基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数であり、左側がアミノ末端を示し、右側がカルボキシル末端を示す]。
【0047】
アミノ酸としては、ペプチド結合を形成し鎖状に連結することができる限り、生体のタンパク質を構成するα‐アミノ酸に限定されず、β‐アミノ酸、γ‐アミノ酸なども使用することができるが、好ましくはα‐アミノ酸である。
【0048】
D‐型、L‐型が存在するアミノ酸については、どちらの型のアミノ酸も使用することができ、また、D‐型とL‐型の混合物、例えばラセミ体であってもよいが、好ましくはL‐アミノ酸である。
【0049】
アミノ酸残基は、アミノ酸中の、ペプチド結合を形成するカルボキシル基から水酸基を除き、ペプチド結合を形成するアミノ基から一つの水素を除いた基を意味する。
【0050】
nは3〜100の整数であれば特に限定されるものではないが、好ましくは3〜50の整数、より好ましくは3〜20の整数、さらに好ましくは4〜12の整数、特に好ましくは5〜10の整数である。
【0051】
Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示す。
【0052】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Aが一般式(2)で表される。
【0053】
【化6】
【0054】
[式中、R1はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0055】
チオール基で置換されたアルキル基としては、一般式(6)で表される置換基が挙げられ;
‐CkH2k‐SH (6)
[式中、kは1〜20の整数である]、
一般式(6a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)k‐SH (6a)
[式中、kは1〜20の整数である]。
【0056】
一般式(6)及び(6a)中、kは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
【0057】
R1が、チオール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、システイン残基、ペニシラミン残基等が挙げられる。
【0058】
カルボキシル基で置換されたアルキル基としては、一般式(7)で表される置換基が挙げられ;
‐ClH2l‐COOH (7)
[式中、lは1〜20の整数である]、
一般式(7a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)l‐COOH (7a)
[式中、lは1〜20の整数である]。
【0059】
一般式(7)及び(7a)中、lは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0060】
R1が、カルボキシル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基等が挙げられる。
【0061】
アミノ基で置換されたアルキル基としては、一般式(8)で表される置換基が挙げられ;
‐CpH2p‐NH3 (8)
[式中、pは1〜20の整数である]、
一般式(8a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)p‐NH3 (8a)
[式中、pは1〜20の整数である]。
【0062】
一般式(8)及び(8a)中、pは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは2〜6の整数であり、特に好ましくは2〜4の整数である。
【0063】
R1が、アミノ基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、リジン残基等が挙げられる。
【0064】
水酸基で置換されたアルキル基としては、一般式(9)で表される置換基が挙げられ;‐CqH2q‐OH (9)
[式中、qは1〜20の整数である]、
一般式(9a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)q‐OH (9a)
[式中、qは1〜20の整数である]。
【0065】
一般式(9)及び(9a)中、qは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1〜3の整数である。
【0066】
R1が、水酸基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、セリン残基、スレオニン残基等が挙げられる。
【0067】
グアニジル基で置換されたアルキル基としては、一般式(10)で表される置換基が挙げられ;
【0068】
【化7】
【0069】
[式中、rは1〜20の整数である]、
一般式(10a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0070】
【化8】
【0071】
[式中、rは1〜20の整数である]。
【0072】
一般式(10)及び(10a)中、rは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0073】
R1が、グアニジル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、アルギニン残基等が挙げられる。
【0074】
カルバモイル基で置換されたアルキル基としては、一般式(11)で表される置換基が挙げられ;
【0075】
【化9】
【0076】
[式中、sは1〜20の整数である]、
一般式(11a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0077】
【化10】
【0078】
[式中、sは1〜20の整数である]。
【0079】
一般式(11)及び(11a)中、sは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0080】
R1が、カルバモイル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン残基、アスパラギン残基等が挙げられる。
【0081】
イミダゾール基で置換されたアルキル基としては、一般式(12)で表される置換基が挙げられ;
【0082】
【化11】
【0083】
[式中、tは1〜20の整数である]、
一般式(12a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0084】
【化12】
【0085】
[式中、tは1〜20の整数である]。
【0086】
一般式(12)及び(12a)中、tは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0087】
R1が、イミダゾール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、ヒスチジン残基等が挙げられる。
【0088】
保護基としては、R1が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、フェニル基、ジメトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、α−フェニルエチル基、ベンジル基、ニトロベンジル基、トリチル基、トルイル基、アセチル基、メトキシアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、ピバロイル基、ホルミル基、ベンゾイル基、p−メトキシベンジル基、p−ニトロベンゾイル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アシル基、シリル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル、ジフェニルメチル基、ベンジルオキシメチル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0089】
修飾基としては、R1が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではなく、蛍光修飾基、薬剤等広く用いることができるが、例えば、蛍光修飾基としては、N-(9-acridinyl)maleimide、fluorescein isothiocyanate、tetramethylrhodamine isothiocyanate等が挙げられ、薬剤としては、マイトマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、クロラムフェニコール、カプトプリル等が挙げられる。また、適当なクロスリンカーを介することにより、さらに広範な薬剤、生理活性分子、タンパク質、抗体、糖鎖などによる修飾が可能である。
【0090】
R1は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であれば特に限定されるものではないが、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基、及びそれが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が特に好ましい。また、別の態様としては、R1は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がより好ましく、チオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基で置換されたアルキル基が特に好ましい。
【0091】
Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示す。
【0092】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Bが一般式(3)で表される。
【0093】
【化13】
【0094】
[式中、R2はアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基を示す]。
【0095】
アリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基としては、アリール基又はヘテロアリール基を有し、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはアリール基又はヘテロアリール基で置換されたアルキル基が挙げられ、より好ましくはアリール基で置換されたアルキル基が挙げられる。
【0096】
アリール基は、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、炭素数6〜12のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6〜8のアリール基がより好ましく挙げられる。具体的にはフェニル、ヒドロキシフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル、ビフェニリル等が挙げられ、フェニル、ヒドロキシフェニル、ナフチル、又はフェナントリルが好ましく挙げられ、フェニル、又はヒドロキシフェニルがより好ましく挙げられ、フェニルが特に好ましく挙げられる。
【0097】
ヘテロアリール基は、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得るものであれば特に限定されるものではな、例えば炭素数2〜14のヘテロアリール基が挙げられ、炭素数3〜12のヘテロアリール基が好ましく挙げられ、炭素数4〜10のヘテロアリール基が好ましく挙げられる。具体的には、インドール、テトラヒドロフラン、ピリジン、プリン、ピリミジン、エチレンイミン、エチレンオキシド、エチレンスルフィド、アセチレンオキシド、アセチレンスルフィド、アザシクロブタン、1,3-プロピレンオキシド、トリメチレンスルフィド、ピロリジン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、アザトロピリデン、オキシシクロヘプタトリエン、チオトロピリデン、ピラゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、イミダゾリン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン、オキサゾール、チアゾール、又はチアジン等が挙げられ、インドール、テトラヒドロフラン、ピリジン、プリン、又はピリミジンがより好ましく挙げられ、インドール、テトラヒドロフラン、又はピリジンがさらにさらに好ましく挙げられ、インドールが特に好ましく挙げられる。
【0098】
アリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基の炭素数は、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得る限り特に限定されるものではないが、例えば5〜30の炭素数が挙げられ、6〜20の炭素数が好ましく挙げられ、6〜15の炭素数がより好ましく挙げられ、6〜10の炭素数が特に好ましく挙げられる。
【0099】
Bの具体例としては、フェニルアラニン残基、フェニルグリシン残基、チロシン残基、トリプトファン残基等が挙げられ、これらの中でもフェニルアラニン残基又はフェニルグリシン残基、チロシン残基が好ましく挙げられ、フェニルアラニン残基が特に好ましく挙げられる。
【0100】
Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示す。
【0101】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Cが一般式(4)で表される。
【0102】
【化14】
【0103】
[式中、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0104】
チオール基で置換されたアルキル基としては、一般式(6)で表される置換基が挙げられ;
‐CkH2k‐SH (6)
[式中、kは1〜20の整数である]、
一般式(6a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)k‐SH (6a)
[式中、kは1〜20の整数である]。
【0105】
一般式(6)及び(6a)中、kは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
【0106】
R3が、チオール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、システイン残基、ペニシラミン残基等が挙げられる。
【0107】
カルボキシル基で置換されたアルキル基としては、一般式(7)で表される置換基が挙げられ;
‐ClH2l‐COOH (7)
[式中、lは1〜20の整数である]、
一般式(7a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)l‐COOH (7a)
[式中、lは1〜20の整数である]。
【0108】
一般式(7)及び(7a)中、lは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0109】
R3が、カルボキシル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基等が挙げられる。
【0110】
アミノ基で置換されたアルキル基としては、一般式(8)で表される置換基が挙げられ;
‐CpH2p‐NH3 (8)
[式中、pは1〜20の整数である]、
一般式(8a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)p‐NH3 (8a)
[式中、pは1〜20の整数である]。
【0111】
一般式(8)及び(8a)中、pは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは2〜6の整数であり、特に好ましくは2〜4の整数である。
【0112】
R3が、アミノ基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、リジン残基等が挙げられる。
【0113】
水酸基で置換されたアルキル基としては、一般式(9)で表される置換基が挙げられ;‐CqH2q‐OH (9)
[式中、qは1〜20の整数である]、
一般式(9a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)q‐OH (9a)
[式中、qは1〜20の整数である]。
【0114】
一般式(9)及び(9a)中、qは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1〜3の整数である。
【0115】
R3が、水酸基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、セリン残基、スレオニン残基等が挙げられる。
【0116】
グアニジル基で置換されたアルキル基としては、一般式(10)で表される置換基が挙げられ;
【0117】
【化15】
【0118】
[式中、rは1〜20の整数である]、
一般式(10a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0119】
【化16】
【0120】
[式中、rは1〜20の整数である]。
【0121】
一般式(10)及び(10a)中、rは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0122】
R3が、グアニジル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、アルギニン残基等が挙げられる。
【0123】
カルバモイル基で置換されたアルキル基としては、一般式(11)で表される置換基が挙げられ;
【0124】
【化17】
【0125】
[式中、sは1〜20の整数である]、
一般式(11a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0126】
【化18】
【0127】
[式中、sは1〜20の整数である]。
【0128】
一般式(11)及び(11a)中、sは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0129】
R3が、カルバモイル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン残基、アスパラギン残基等が挙げられる。
【0130】
イミダゾール基で置換されたアルキル基としては、一般式(12)で表される置換基が挙げられ;
【0131】
【化19】
【0132】
[式中、tは1〜20の整数である]、
一般式(12a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0133】
【化20】
【0134】
[式中、tは1〜20の整数である]。
【0135】
一般式(12)及び(12a)中、tは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0136】
R3が、イミダゾール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、ヒスチジン残基等が挙げられる。
【0137】
保護基としては、R3が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、フェニル基、ジメトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、α−フェニルエチル基、ベンジル基、ニトロベンジル基、トリチル基、トルイル基、アセチル基、メトキシアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、ピバロイル基、ホルミル基、ベンゾイル基、p−メトキシベンジル基、p−ニトロベンゾイル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アシル基、シリル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル、ジフェニルメチル基、ベンジルオキシメチル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0138】
修飾基としては、R1が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではなく、蛍光修飾基、薬剤等広く用いることができるが、例えば、蛍光修飾基としては、N-(9-acridinyl)maleimide、fluorescein isothiocyanate、tetramethylrhodamine isothiocyanate等が挙げられ、薬剤としては、マイトマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、クロラムフェニコール、カプトプリル等が挙げられる。また、適当なクロスリンカーを介することにより、さらに広範な薬剤、生理活性分子、タンパク質、抗体、糖鎖などによる修飾が可能である。
【0139】
R3は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であれば特に限定されるものではないが、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基、及びそれが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が特に好ましい。また、別の態様としては、R3は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がより好ましく、チオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基で置換されたアルキル基が特に好ましい。
【0140】
Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示す。
【0141】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Dが一般式(5)で表される。
【0142】
【化21】
【0143】
[式中、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を示し(mが2又は3の時は同一又は異なっていてもよい)、mは1〜3の整数である]。
【0144】
R4は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素又は炭素数1又は2のアルキル基がより好ましく、水素又は炭素数1のアルキル基が特に好ましい。
【0145】
R4の具体例としては、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s‐ブチル基、t‐ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t‐ペンチル基等が挙げられ、これらの中でも水素、メチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基が好ましく挙げられ、水素、メチル基、又はエチル基がより好ましく挙げられ、水素又はメチル基が特に好ましく挙げられる。
【0146】
mは、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0147】
Dの具体例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられ、グリシン、アラニン、又はバリンが好ましく挙げられ、グリシン又はアラニンが特に好ましく挙げられる。
【0148】
Xは、水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示す。
【0149】
アミノ基の保護基としては、公知の保護基を適宜選択することができ、例えば、アシル基、アルキル基、アラルキル基、シリル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、C1−6アルキル−カルボニル基(例えば、アセチル基)、C6−8アリール−カルボニル基、C7−11アラルキル−カルボニル基(例えば、フェニルアセチル基)等が挙げられる。
【0150】
親水性基としては、特に限定されるものではなく、公知の親水性基を適宜選択することができ、例えば、PEG鎖からなるリンカーや、親水性アミノ酸を繰り返したペプチドリンカー等が挙げられる。
【0151】
D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐のアミノ末端は、上記の水素、アミノ基の保護基、又は親水性基で置換されていてもよい。
【0152】
Xは、好ましくは水素、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐であり、より好ましくは水素、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐であり、さらに好ましくは水素である。
【0153】
Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示す。
【0154】
カルボキシル基の保護基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0155】
親水性基は、上記Xについての記載と同様である。
【0156】
‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cのカルボキシル末端は、上記の水酸基、カルボキシル基の保護基、又は親水性基で置換されていてもよい。
【0157】
Yは、好ましくは、水酸基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cであり、より好ましくは水酸基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cであり、さらに好ましくは水酸基である。
【0158】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、ペプチドが一般式(1a)で表される。
【0159】
【化22】
【0160】
[式中、R1は同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R2aはフェニル基を有する疎水性置換基を示し、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R4aは水素又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数である]。
【0161】
本発明のペプチドのより好ましい態様としては、一般式1a中、R1が同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜10のアルキル基であり、R2aがフェニル基で置換された炭素数6〜15のアルキル基であり、R3がチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜10のアルキル基であり、R4aが水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、Xが水素、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐であり、Yが水酸基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cであり、nが3〜20の整数であるペプチドである。
【0162】
本発明のペプチドのさらに好ましい態様としては、一般式1a中、R1が同一または異なってチオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、R2aがフェニル基で置換された炭素数6〜10のアルキル基であり、R3がチオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、R4aが水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、Xが水素であり、Yが水酸基であり、nが4〜12の整数であるペプチドである。
【0163】
本発明のペプチドの特に好ましい態様としては、配列番号1〜4で示される配列を有するペプチドが挙げられる。
【0164】
本発明のペプチドは、公知の方法によって製造することができ、例えば固相合成法によって製造することができる。
【0165】
2.カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法は、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することを特徴とする。
【0166】
カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することにより、カーボンナノチューブの表面にペプチドが結合し、両者が結合した複合体を形成させることができる。
【0167】
混合形態は特に限定されるものではなく、溶媒中で行ってもよい。溶媒は特に限定されるものではなく、水、重水、アルコール、有機溶媒等を広く使用することができ、塩類等の溶質を添加したものもしようすることができるが、後述の遠心分離によるシングルバンドルのカーボンナノチューブの精製が容易であるという観点から、好ましくはシングルバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも高い密度を有し、かつマルチバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも低い密度を有する溶媒が挙げられる。
【0168】
ここで、シングルバンドルのカーボンナノチューブとは、カーボンナノチューブの表面が、他のカーボンナノチューブの表面と物理吸着していない、一本の分離されたカーボンナノチューブである。マルチバンドルのカーボンナノチューブとは、カーボンナノチューブの表面が、他のカーボンナノチューブの表面と物理吸着して形成される、複数のカーボンナノチューブの凝集体である。
【0169】
シングルバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも高い密度を有し、かつマルチバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも低い密度を有する溶媒は、使用するカーボンナノチューブの密度により適宜選択されるものであるが、一つの例として、シングルバンドルのカーボンナノチューブの密度が1g/mlである場合は、重水(密度1.1g/ml)を使用することができる。この例において、密度が1.1g/mlに調製されていれば他の溶媒を用いてもよい。
【0170】
カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドの混合割合は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブの質量(g)とペプチドの質量(g)の比(カーボンナノチューブの質量(g):ペプチドの質量(g))が、好ましくは1:4〜100、より好ましくは1:6〜30、さらに好ましくは1:8〜15である。
【0171】
混合方法は、特に限定されるものではなく、公知の混合方法、例えば撹拌等が挙げられる。
【0172】
混合する際の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0〜80℃、より好ましくは10〜60℃、さらに好ましくは15〜40℃である。
【0173】
混合時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは5分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。
【0174】
また、カーボンナノチューブとペプチドの混合の際、又は混合後に、溶媒中で超音波処理を行うことが好ましい。
【0175】
超音波処理することによって、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を効率よく溶媒中に分散させることができる。
【0176】
超音波処理の方法は、特に限定されず、公知の方法、公知の超音波処理装置を用いて行うことができる。
【0177】
超音波処理の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは処理液の温度を0〜25℃、より好ましくは0〜15℃、さらに好ましくは0〜8℃の範囲である。
【0178】
超音波処理の時間は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の溶媒中の分散効率の観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。また、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の過剰な断片化を避けるという観点からは、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0179】
さらに、超音波処理の後に遠心分離してもよい。溶媒としてシングルバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも高い密度を有し、かつマルチバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも低い密度を有する溶媒を用いると、この遠心分離により、マルチバンドルのカーボンナノチューブを沈殿させ、上清に存在するシングルバンドルのカーボンナノチューブのみを回収することができるため好ましい。
【0180】
遠心分離の回転数は、シングルバンドルのカーボンナノチューブを精製することができる限り特に限定されるものではないが、例えば10,000〜200,000 rpm、好ましくは20,000〜100,000 rpm、より好ましくは30,000〜50,000 rpmである。
【0181】
遠心分離の時間は、シングルバンドルのカーボンナノチューブを精製することができる限り特に限定されず、遠心分離の回転数に従って適宜選択されるものであるが、例えば1〜5時間、好ましくは1.5〜4時間、より好ましくは2〜3時間である。
【0182】
またさらに、遠心分離後に、カーボンナノチューブに結合していないペプチドを透析処理により除去してもよい。
【0183】
透析膜は、カーボンナノチューブに結合していないペプチドを除去することができる限り特に限定されるものでなく、使用しているペプチドの分子量に従って適宜選択される。
【0184】
透析液は、特に限定されるものではなく、透析処理対象の溶液に従って適宜選択される。
【0185】
透析時間は、特に限定されるものではないが、例えば4〜24時間、好ましくは5〜16時間、より好ましくは6〜10時間である。
【0186】
製造されたカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、架橋処理、カーボンナノチューブに結合したペプチド同士を架橋してもよい。ペプチド同士の架橋により、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の安定性がさらに向上する。
【0187】
架橋剤は、ペプチド同士を架橋することができる限り特に限定されず、ペプチド中に存在する官能基の種類、及び架橋を形成させる官能基の種類に従って、公知の架橋剤の中から適宜選択することができる。具体的には、カルボジイミド、イソシアネート、ジアゾ化合物、ベンゾキノン、アルデヒド、過ヨウ素酸、マレイミド化合物、ピリジルジスルフィド化合物などが挙げられる。好ましい試薬としては、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソチオシアネート、N,N’−ポリメチレンビスヨードアセトアミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、エチレングリコールビススクシニミジルスクシネート、ビスジアゾベンジジン、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、スクシンイミジル3−(2− ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N−スクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1− カルボキシレート(SMCC)、N−スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、N−スクシンイミジル (4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート、N−スクシンイミジル 4−(1−マレイミドフェニル)ブチレート、N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)コハク酸イミド(EMCS)、イミノチオラン、S−アセチルメルカプトコハク酸無水物、メチル−3−(4’−ジチオピリジル)プロピオンイミデート、メチル−4−メルカプトブチリルイミデート、メチル−3−メルカプトプロピオンイミデート、N−スクシンイミジル−S−アセチルメルカプトアセテートが挙げられる。例えば、ペプチド中に存在するチオール基を架橋する場合は、自然酸化処理又は適当な酸化剤で処理することによりチオール基間でジスルフィド結合を形成させることで、ペプチド同士を架橋することができる。
【0188】
3.カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の特徴及び用途
3−1.特徴
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、ペプチドがカーボンナノチューブの外側の表面に結合して、カーボンナノチューブの外側の表面を覆っているという構造を有している。さらに、カーボンナノチューブの外側の表面を覆う形態は、ペプチドが複数層に重なって覆っているものではなく、ペプチドが重なり合うことなく、単層として覆っているという形態を採る。
【0189】
そして、本発明によれば、様々な径のカーボンナノチューブ、及びペプチドを用いることにより、種々の大きさを持つカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を作成することが可能である。
【0190】
また、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、安定に複合体を形成し、水溶液中に効率よく分散することができる。該分散状態は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体同士が重なっている状態ではなく、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体それぞれが孤立分散している状態である。
【0191】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、周囲にフリーのペプチドなどの他の成分が存在しない状態でも効率よく分散することができる。すなわち、周囲に存在する他の成分に依らずに、どのような環境でも分散することができる。そして、この分散状態は、分散溶液を凍結融解した後でも保つことができ、非常に安定なものである。また、ペプチドを構成するアミノ酸残基(特に一般式(1)で表されるペプチド中、A及び/又はC)を変えること、又は様々なもので修飾することにより、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に種々の機能を付加することも可能である。
【0192】
このような機能化の一つの例として、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、ペプチドの構成及び水溶液のpHにより、水溶液中の存在状態(凝集状態又は分散状態)を可逆的に制御することが可能である。例えば、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、A及び/又はCが塩基性アミノ酸であるペプチドを用いた、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、中性又は酸性pH域においては分散状態で存在するが、塩基性pH域においては不溶化して凝集状態で存在する。そして、この凝集状態又は分散状態は、pHを変えることにより、可逆的に容易に制御することができる。
【0193】
またさらに、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、カーボンナノチューブの特性を維持している。具体的には、カーボンナノチューブの吸収スペクトル、発光スペクトル、近赤外光に対する発熱効果などである。
【0194】
3−2.用途
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、上記のような特徴を有しているため、非常に広い分野において応用又は利用することが可能である。例えば、医学、薬学分野では、機能性分子をカーボンナノチューブ−ペプチド複合体表面に導入することにより、細胞への遺伝子導入剤や薬剤除放剤、光線温熱療法における光増感剤としての利用が可能であり、さらに複数の機能性分子を導入することにより多機能な薬剤キャリアの開発に利用できる。生化学分野ではバイオセンサーへの応用やマイクロリアクターとしての利用が期待される。また、カーボンナノチューブの応用研究が盛んに行われているエレクトロニクス分野においても、その取扱い性が著しく向上していることに加え、簡便にその物理化学的特性が制御できるため、加工の工程を従来とは全く異なるものに変えることができる技術として、その応用が期待される。
【0195】
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、細胞への遺伝子導入剤、薬剤用徐放剤、光増感剤として有用である。
【0196】
3−2−1.細胞への遺伝子導入剤
本発明の細胞への遺伝子導入剤は、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする。
【0197】
ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及び/又はR3がアミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であるペプチドを用いた場合、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、核酸を結合し、細胞内へ核酸を導入させることができる。
【0198】
細胞への遺伝子導入剤に含有されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、上記構成を満たす限り特に限定されるものではないが、好ましくは、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及び/又はR3がアミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であるペプチドを用いているカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体であり、より好ましくは、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及びR3がアミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であるペプチドを用いているカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体であり、さらに好ましくは、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及びR3がアミノ基で置換されたアルキル基であるペプチドを用いているカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体である。
【0199】
細胞への遺伝子導入剤には、必要に応じて他の成分(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)を含有させてもよい。これら成分は公知のものが使用できる。
【0200】
細胞への遺伝子導入剤の使用は、核酸と、細胞への遺伝子導入剤とを混合した後、該混合物を細胞に接触させることにより行われる。
【0201】
核酸は、特に限定されず、DNA、RNA等を用いることができる。
【0202】
細胞は、特に限定されるものではなく、原核生物細胞、及び真核生物細胞を使用することができるが、好ましくは真核生物細胞である。
【0203】
混合は、核酸と、細胞への遺伝子導入剤が均一に分散される限り特に限定されるものではなく、例えば核酸溶液と、細胞への遺伝子導入剤を同一容器に入れ、撹拌することにより行われる。混合後、一定時間静置してもよい。静置時間は特に限定されるものではないが、好ましくは1〜60分、より好ましくは5〜40分、さらに好ましくは10〜20分である。
【0204】
核酸と、細胞への遺伝子導入剤の混合割合は、特に限定されるものではないが、細胞への遺伝子導入剤のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体における、アミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基の数を、核酸中のリン酸基の数で除した値が、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2以上となるような混合割合である。
【0205】
核酸と、細胞への遺伝子導入剤の混合物を、細胞に接触させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば細胞を含有する培養液中に、該混合物を添加し、一定時間静置することにより行われる。静置時間は特に限定されるものではないが、例えば10分〜3時間、好ましくは20分〜2時間、より好ましくは30分〜1時間である。
【0206】
3−2−2.薬剤用徐放剤
本発明の薬剤用徐放剤は、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からなる。
【0207】
本発明において薬剤用徐放剤とは、薬剤用の生理活性物質を結合させることができる、薬剤用の担体を示す。生理活性物質は徐放剤に結合しているため、生体内ですぐに放出されない。このようにして、徐放剤は、生理活性物質の生体内への放出を遅らせることによりその効果を発揮する。
【0208】
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、一般式(1)で表されるペプチドにおけるA及び/又はCのアミノ酸残基の側鎖に存在する官能基を介して、生理活性物質を結合させることが可能であるため、薬剤用の担体として使用することができる。
【0209】
生理活性物質を結合させることができる官能基としては、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、カルバモイル基、グアニジル基、及びイミダゾール基が挙げられ、これらの中でもチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、又はカルバモイル基が好ましく挙げられ、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、又は水酸基がより好ましく挙げられ、チオール基、カルボキシル基、又はアミノ基がさらに好ましく挙げられる。
【0210】
カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に薬剤用の生理活性物質を結合させる方法は、一般式(1)におけるA及び/又はCのアミノ酸残基の側鎖に存在する官能基の種類、及び生理活性物質の種類によって、公知の方法から適宜選択することができる。例えば、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体のペプチド中の側鎖にカルボキシル基が存在する場合は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体とマイトマイシンをカルボジイミドの存在下で反応させることにより、カルボキシル基とマイトマイシン中のアジリジニル基を共有結合させ、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体とマイトマイシンを結合させることができる。
【0211】
3−2−3.光増感剤
本発明の光増感剤は、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする。
【0212】
カーボンナノチューブは近赤外線を吸収し、効率よく発熱することが知られている。この性質を利用して、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、光増感剤として使用することができる。
【0213】
光増感剤には、必要に応じて他の成分(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)を含有させてもよい。これら成分は公知のものが使用できる。
【0214】
本発明の光増感剤は、例えば、がん治療、特に光線温熱療法によるがん治療に用いることができる。
【0215】
治療対処の生物は、特に限定されず、霊長類、げっ歯類などの哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等が挙げられる。
【0216】
治療対象のがんは特に限定されず、胃がん、肝がん、結腸・直腸がん、乳がん、膵臓がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、乳がん、胆道がん、胆管がん、前立腺がん等が挙げられる。
【0217】
本発明の光増感剤を用いたがん治療は、光増感剤をがん組織内に導入した後、近赤外線を照射することにより、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を発熱させ、その熱によりがん組織を構成するがん細胞の増殖を抑制若しくは停止することにより行われる。
【0218】
がん組織内に導入する光増感剤の量は、特に限定されるものではなく、がん組織の大きさに従って、適宜選択される。例えば、がん組織の体積100mm3あたり、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の量、0.01〜100μg、好ましくは0.05〜50μg、より好ましくは0.08〜15μgとなるように光増感剤を導入すればよい。
【0219】
がん組織内への光増感剤の導入方法は、特に限定されるものではないが、例えば注射によりがん組織へ直接投与する方法が挙げられる。
【0220】
近赤外線の波長は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を発熱させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば650〜1200nmの範囲の波長が挙げられ、水による吸収が低く、生体を透過しやすいという観点から、好ましくは650〜900nm又は1000〜1100nmの範囲の波長が挙げられ、さらにCNTの吸収効率の観点から、700〜850nmの範囲の波長がより好ましく挙げられる。
【0221】
近赤外線の照射時間は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を発熱させ、その熱によりがん組織を構成するがん細胞の増殖を抑制若しくは停止することができる限り特に限定されるものではないが、例えば10〜120秒、好ましくは30〜90秒、より好ましくは45〜75秒である。照射は、インターバル(時間は限定されないが、例えば10〜60秒)を空け、複数回繰り返して行ってもよい。
【0222】
近赤外線の照射は、時間を空けて複数回繰り返すのが好ましい。例えば光増感剤投与後、24、48、及び78時間後に行うことが挙げられる。
【実施例】
【0223】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0224】
[実施例1]カーボンナノチューブ(以下、CNTと示す)‐ペプチド複合体の調製
下記材料及び方法により、CNT‐ペプチド複合体を調製した。
【0225】
(1)材料
ペプチドとして、配列番号1で示される配列からなるペプチド(以下、(KFKA)7と示す)、配列番号2で示される配列からなるペプチド(以下、(EFEA)7と示す)、配列番号3で示される配列からなるペプチド(以下、(KFKA)6KFCAと示す)、及び配列番号4で示される配列からなるペプチド(以下、(KFCA)7と示す)の計4種のペプチドを使用した材料として使用したペプチドを下記表1に示す。
【0226】
これらのペプチドは、インビトロジェンライフテクノロジーズ社のカスタム合成サービス(http://www.invitrogen.jp/services/peptide.shtml)またはピーエイチジャパン社のペプチド合成サービス(http://phjapan.jp)を利用して合成・購入した。ペプチド合成はFmoc固相合成法により行われている。
【0227】
配列番号1で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図1に示す。配列番号2で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図2に示す。配列番号3で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図3に示す。配列番号4で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図4に示す。
【0228】
CNTとしては、Unidym社より購入したHiPco(R) Single-Wall Carbon Nanotubesを使用した。このCNTの直径は、〜0.8 - 1.2 nmであり、グレードはSuper purifiedである。このCNTはHigh Pressure Carbon monooxide法(HiPCo法)によって合成されており、CNT研究では一般的に広く用いられている。
【0229】
(2)方法
ペプチド10 mgとCNT 1 mgを試験管に量り取り、重水(和光純薬社製)13 mlを加えた後、チップ型超音波破砕機(トミー精工社製UD-201)を用いて1時間の超音波処理を行った。超音波処理は溶液の温度上昇を避けるため、氷水中で冷却しながら行った。この超音波処理液を、超遠心機himac CP65βおよびスイングローターP40ST(いずれも日立工機社製)を用いて40,000 rpmで2時間30分遠心分離した後、上清を、CNT‐ペプチド複合体を含む溶液として回収した。調製した4種のCNT‐ペプチド複合体溶液を下記表1に示す。
【0230】
【表1】
【0231】
[実施例2]CNT‐ペプチド複合体の分散性、及びペプチドの結合状態の解析
調製されたCNT‐ペプチド複合体の分散性を、吸収スペクトル測定、発光スペクトル測定、及び原子間力顕微鏡(AFM)による観察で解析した。また、調製されたCNT‐ペプチド複合体の結合状態、すなわち、ペプチドが単層でCNT上に結合しているのか、複数層に重なってCNT上に結合しているのかを、原子間力顕微鏡(AFM)による観察、及び透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で解析した。
【0232】
(1)吸収スペクトル測定
CNTは、CNT間で凝集していない状態(孤立分散状態)では、吸収スペクトルの各ピークがシャープな形状をとり、逆にCNT間で凝集している状態(凝集状態)では吸収スペクトルの各ピークがブロードになることが知られている。
【0233】
このことを利用して、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)の分散状態を、吸収スペクトルを測定することによって解析した。吸収スペクトルの測定はパーキンエルマー社のLamda 900 UV/Vis/NIR Spectrometerを用いて行った。各サンプルに重水を加えて4〜6倍希釈した後に、光路長1cmの石英セルを用いて2000nm−300nmの吸光度を測定した。
【0234】
結果を図5に示す。図5には、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)の吸収スペクトルにおける各ピークはシャープな形状を採っていることが示されている。
【0235】
この結果より、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)は、孤立分散状態を採っていることが示唆された。
【0236】
(2)発光スペクトル測定
CNTは、孤立分散状態では、特定波長の励起光に対して蛍光を発することが知られており、逆に凝集状態では、蛍光を発しないことが知られている。
【0237】
このことを利用して、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)の分散状態を、蛍光スペクトルを測定することによって解析した。蛍光スペクトルの測定は島津製作所のNIR−PLシステムを用いて行った。励起波長は400nm−1000nm、発光波長850nm−1600nmの範囲で蛍光を測定した。
【0238】
結果を図6に示す。図6には、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)は、いずれも特定波長の励起光に対して、特に強く蛍光を発していることが示されている。これらの蛍光は、励起波長と発光波長の値によってそれぞれ異なるカイラル指数のCNTに帰属されることが知られており、本発明のペプチドを用いて調製されたCNT分散液で特に強い発光の観察された励起波長730nm、発光波長1130nmの蛍光はカイラル指数(9,4)のCNTに、励起波長720nm、発光波長1200nmの蛍光はカイラル指数(8,6)のCNTにそれぞれ帰属される。また、その他のカイラル指数を有するCNTに帰属される波長でも蛍光が観察されている。
【0239】
この結果より、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)は、孤立分散状態を採っていることが示唆された。
【0240】
(3)原子間力顕微鏡(AFM)による観察
原子間力顕微鏡は、試料表面をなぞる、または試料表面と一定の間隔を保ってトレースし、その時のカンチレバーの上下方向への変位を計測することで試料表面形状の評価を行うことができる。
【0241】
このことを利用して、ペプチドとして(KFKA)7、又は(EFEA)7を用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜2)の分散状態、及びCNT‐ペプチド複合体の直径を、CNT/ペプチド複合体が付着した面の表面形状を評価することにより解析した。
【0242】
結果を図7に示す。CNT‐(KFKA)7複合体、CNT‐(EFEA)7複合体それぞれについての左側の観察像より、凝集部分が見られないことから、CNT/ペプチド複合体はよく分散されていることが分かった。
【0243】
また、CNT‐(KFKA)7複合体、CNT‐(EFEA)7複合体それぞれについての右側の図は、CNT‐ペプチド複合体の直径を示すものである。この結果より、CNT/ペプチド複合体の直径は2nm前後であることが分かった。この直径は、コンピューター計算により構築された分子モデル(図8)における、ペプチド主鎖によって形成される層までの太さによく一致する。
【0244】
この結果から、ペプチドはCNT表面に疎水性側鎖を向け、単層で規則正しい配向性で吸着していると考えられた。
【0245】
(4)透過型電子顕微鏡(TEM)による観察
ペプチドとして(KFCA)7を用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体の直径を、透過型電子顕微鏡によって観察することにより測定した。
【0246】
具体的には、ペプチドとして(KFCA)7を用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例4)から、CNTに吸着していないペプチドを除去し、CNT‐ペプチド複合体のみを得るために、製造例4に係るCNT‐ペプチド複合体溶液を透析膜Spectra/Por CE(分子量100,000カットオフ, Spectrum Laboratories社製) に入れ、5 Lの蒸留水に対して8時間透析した。この透析操作を3回繰り返し、CNTに吸着していないペプチドを含まないCNT/ペプチド複合体の分散液(製造例4a)を得た。CNT‐ペプチド複合体分散液(製造例4a)をマイクログリッドに添加し、乾燥処理を行った後に透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。
【0247】
結果を図9に示す。 (A)および(B)は、単層CNTに均一な厚さでペプチドが吸着している様子が示されている。(C)は、ペプチドで巻かれた単層CNTの一部がむき出しになっている様子である。CNTの太さは0.8 nm程度であり、単層CNTの太さとして妥当な値である。ペプチド層を含めた太さは2.2 nm程度であり、これはコンピューター計算により構築された分子モデルにおいてペプチド主鎖によって形成される層までの太さによく一致する。この結果から、ペプチドはCNT表面に疎水性側鎖を向け、規則正しい配向性で吸着していることが示唆された。
【0248】
[試験例1]CNT‐ペプチド複合体の安定性の評価
(1)CNT‐ペプチド複合体の安定性に対するpHの効果
製造例1及び2に係るCNT‐ペプチド複合体溶液を、分画分子量100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE、Spectrum Laboratories社製)に入れ、5 Lの蒸留水に対して透析を行った。6時間の透析の後、透析外液を交換し、さらに6時間透析を行って、CNTに吸着していないペプチドを除去した(製造例1a、製造例2a)。
【0249】
カチオン性のペプチド(KFKA)7との複合体(製造例1a)は酸性および中性pH域において水溶液中に分散するが、塩基性pH域では沈殿を生じた(図10)。この沈殿は、pHを中性または酸性にすることによって、再び分散させることができた。この際、超音波処理のような分散処理を一切必要とせず、攪拌のみで再分散させることが可能であった。
【0250】
一方アニオン性のペプチドである(EFEA)7との複合体(製造例2a)は、中性および塩基性pH域では水溶液中に分散し、酸性pH域において沈殿を生じた(図10)。この沈殿も、pHを中性または塩基性にすることによって再び水溶液中に再分散させることが可能であった。これらの結果は、ペプチドのアミノ酸組成を制御することにより、CNT‐ペプチド複合体の物性を制御することが可能であることを実証した一例である。
【0251】
(2)CNT‐ペプチド複合体の安定性に対する凍結乾燥による影響の評価
CNT‐ペプチド複合体の凍結乾燥について検討を行った。CNT‐(EFEA)7複合体(製造例2a)を凍結乾燥した後に、再び重水を加えて乾燥物を溶解させ、吸収スペクトルおよび発光スペクトルの解析によって分散性の変化について検討した。
【0252】
凍結乾燥させたCNT‐(EFEA)7複合体は、蒸留水の添加のみによって容易に再分散が可能であり(図11)、超音波処理などの追加の処理を一切必要としなかった。吸収スペクトルおよび発光スペクトル解析の結果(図12)、CNT‐(EFEA)7複合体の分散性は凍結乾燥前後で変化しておらず、溶解後のCNT‐(EFEA)7複合体分散液は孤立分散状態を維持していることが確認された。
【0253】
凍結乾燥が可能であるという特徴は、長期間の保存を可能とするだけではなく、サンプルの濃縮や溶媒の置換が自由に行えることを意味しており、物質の取り扱いを考える上で非常に重要である。また、これまでに報告されている分散剤を用いたCNT分散液では実現が困難であったことを踏まえると、本発明の極めて優れている点であると言える。
【0254】
[試験例2]ペプチドの化学修飾を利用したCNT‐ペプチド複合体の機能化
化学修飾を利用した機能化の例として、N-(9-acridinyl)maleimide(NAM)を用いたCNT‐ペプチド複合体の蛍光修飾を行った。CNT‐ペプチド複合体としては製造例3に係るCNT‐ペプチド複合体を使用した。
【0255】
製造例3に係る分散液に15 mM NAMの1,4-dioxan溶液を添加することにより、システイン残基のチオール基を蛍光修飾した。これを分画分子量100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE、Spectrum Laboratories社製)に入れ、5 Lの蒸留水に対して透析を行った。6時間の透析の後、透析外液を交換し、さらに6時間透析を行って、CNTに吸着していないペプチドおよび未反応のNAMを取り除いた。透析後、蛍光修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した(図13)。
【0256】
NAM修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体の吸収スペクトルは、NAM修飾していないCNT‐(KFKA)6KFCA複合体と比べて360 nm付近に吸収の増加が見られた。この二つのスペクトルの差スペクトルとNAM修飾した(KFKA)6KFCAペプチドのスペクトルを比較したところ、よく一致した。このことは、CNT‐(KFKA)6KFCA複合体にNAMが結合していることを示唆している。蛍光スペクトル測定では、励起スペクトルおよび発光スペクトルは、NAM修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体ではともに蛍光が観察されたのに対して、NAM修飾されていないCNT‐(KFKA)6KFCA複合体では観察されなかった。NAM修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体の蛍光スペクトルの形はNAM修飾した(KFKA)6KFCAペプチドのスペクトルとよく一致していた。このことは、修飾されたNAMが蛍光プローブとして機能していることを示している。
【0257】
今回用いたNAM以外にも、多くのメーカーからイメージング用の多種多様な蛍光ラベル試薬が市販されており、これらを利用した蛍光修飾が可能である。また、蛍光ラベル試薬の他にも、タンパク質やペプチドの修飾をターゲットとした様々なラベル試薬やクロスリンカー試薬などが市販されており、これらのすべてを利用することが可能である。
【0258】
[試験例3]遺伝子キャリアーとしての利用
CNT‐ペプチド複合体が遺伝子キャリアーとして利用できるかどうかを検討した。CNT/ペプチド複合体として、カチオン性のCNT‐(KFKA)7複合体(製造例1a)を用いた。
まずはじめに、CNT‐(KFKA)7とプラスミドDNA(pDNA)が静電的相互作用によって複合体を形成することを確認した。CNT‐(KFKA)7とpDNAをN/P比((KFKA)7の側鎖アミノ基とpDNAのリン酸基の比)が0.5〜5となるように、20 μgのpDNAにCNT/(KFKA)7を添加し、5分間インキュベートした後にポアサイズ0.22 μmの遠心フィルターデバイスを用いてCNT‐(KFKA)7複合体を除去し、ろ液をアガロース電気泳動で分析することにより吸着しなかったpDNA量を評価した(図14)。
【0259】
この結果、CNT‐(KFKA)7に吸着しなかったpDNAはN/P比が2以上の場合に検出されず、N/P比2以上の割合でpDNAとCNT‐(KFKA)7を混合することによりCNT‐(KFKA)7‐pDNA三元複合体を形成することが示唆された。
【0260】
次に、CNT/(KFKA)7(製造例1a)とtetramethylrhodamine(TMR)で蛍光標識したpDNAの三者複合体を形成させ、これを細胞の培地に添加することにより細胞内に取り込まれるかどうかを確認した。細胞としてヒト肝癌由来HepG2株を用いた。培養した細胞にCNT‐(KFKA)7‐pDNA三者複合体を添加し、30分間または1時間インキュベートした後に、蛍光顕微鏡で観察することによりpDNAの取り込みを評価した。また、コントロールとして負電荷を持つCNT‐(EFEA)7とpDNAを同じCNT:pDNA比で混合した物についても検討を行った。結果を図15に示す。
【0261】
この結果、CNT‐(KFKA)7‐ pDNA三者複合体を添加した場合にのみTMR修飾されたpDNAの取り込みが観察された。CNTは、細胞に取り込まれやすいという報告があり、TMR修飾pDNAはCNT‐(KFKA)7と複合体を形成することにより細胞内に取り込まれやすくなったと考えられる。
【0262】
次に、取り込まれたpDNAの遺伝子発現を確認した。レポーター遺伝子として緑蛍光タンパク質(GFP)をコードするpDNAを用い、ヒト肺癌A459細胞にCNT‐(KFKA)7‐pDNAを添加してインキュベートした後に蛍光顕微鏡で観察することによりGFPの発現を評価した。コントロールとして、CNT‐(EFEA)7とpDNAの複合体を用いて同様の実験を行った。結果は図16に示した。CNT‐(EFEA)7‐pDNAを細胞に添加した場合にはGFPの蛍光は観察されなかったのに対して、CNT‐(KFKA)7‐pDNAを添加した場合にはGFPの蛍光が観察された。
【0263】
このことは、CNT‐(KFKA)7と複合体形成することによって細胞内に取り込まれたpDNAが発現していることを示しており、CNT‐(KFKA)7が遺伝子キャリアーとして利用可能であることを示している。
【0264】
[試験例4]抗癌剤マイトマイシンCとのコンジュゲートによる徐放化
マイトマイシンC(MMC)は臨床で用いられている抗癌剤である。MMCはその構造中にアジリジニル基を有しており、カルボジイミド存在下で容易にカルボキシル基と共有結合を形成する。この反応は可逆的であり、水溶液中で自発的に加水分解されるためにMMCの除放化に利用されている(C. F. Roos et al. (1984) Int. J. Pharm. 22,75)。
【0265】
カルボキシル基を有するペプチド(EFEA)7を用いてCNT分散液を調製し(製造例2)、これを200,000 × gで150分間遠心した後に分子量カットオフが100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE)を用いて蒸留水に対して透析し、CNT/(EFEA)7複合体分散液を得た。94 μgのCNTを含むCNT/(EFEA)7分散液に対し、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(EDC)を115 μg、MMCを65 μg添加し、pH 6.0のMES緩衝液中にて反応を行った。2時間室温で反応させた後、分子量カットオフが100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE)を用いて蒸留水に対して透析し、未反応のEDCおよびMMCを除去した。透析後に内液を回収し、これをMMC-conjugated CNT‐(EFEA)7とした。MMC-conjugated CNT‐(EFEA)7の吸収スペクトルを測定したところ(図17(A))、未反応のCNT‐(EFEA)7分散液と比較して360nm付近に吸収の増加が観察された。差スペクトルを計算したところ(図17(B))、そのスペクトルの形はMMCの吸収スペクトルとよく一致し、その吸光度からCNT‐(EFEA)7複合体に導入されたMMCの量は、CNT 1 mgあたり116 mgと見積もられた。
【0266】
次にMMC-conjugated CNT‐(EFEA)7からのMMCの放出速度の検討を行った。PBSでMMC-conjugated CNT‐(EFEA)7をインキューベートし(37℃)、一定時間ごとに30 μlのサンプルを採取した。CNTを除去するためにポアサイズ0.22 μmの遠心フィルターデバイスを用いてこれをフィルターろ過した後に、ろ液を逆相HPLCにて分析した。用いたカラムはCosmosil C18-MSII(ナカライテスク社製、4.6 mm I.D. × 250 mm)、移動相はアセトニトリル:10 mM リン酸緩衝液(pH2.5)= 3:7を用い、364 nmの吸光度をモニターした。インキュベート時間に対してCNTに保持されたMMC量をプロットしたのが図18である。MMCはインキュベート時間の経過に伴って徐々に放出され、その半減期は14.5時間と見積もられた。この値は、ポリ-L-グルタミン酸とMMCのコンジュゲートの半減期(12.7時間)とよく一致しており、十分な徐放化能を有していると考えられる。
【0267】
[試験例5]癌の光線温熱療法への利用
CNTは生体透過性に優れた近赤外線(Near Infrared、NIR)を吸収し効率よく発熱することから、近赤外線を利用した光線温熱療法の光増感剤として注目されている(N. W., Kam et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 11600)。そこで、本CNT‐ペプチド複合体が光線温熱療法において光増感剤として利用できるかどうかを評価した。
【0268】
まず最初にNIRレーザー照射によるCNT‐ペプチド複合体の発熱効果の確認を行った。CNT‐(KFKA)7分散液を調製し(製造例1)、これに808 nmのパルスレーザー(6 W/cm2)を照射し、経時的に溶液の温度を測定した(図19)。この結果、CNT分散液の温度はレーザー照射によって上昇が始まり、その上昇速度はCNT濃度が大きくなるにつれて上昇する傾向があった。この結果は、CNTがNIRレーザーを吸収し、熱を放出していることを示唆しており、CNT‐(KFKA)7が複合体を形成してもCNTの特徴を維持していることが示された。癌細胞に障害を与えるためには43℃程度まで加熱する必要があるが、37℃から5℃程度の加温で良いので本発明のCNT‐(KFKA)7ペプチドでも十分に可能であると考えられた。
【0269】
次に光線温熱効果によって細胞死が誘導出来ることを確認した。マウス大腸癌由来細胞株(colon26)およびヒト肝癌由来細胞株(HepG2)を用いて、NIR照射に伴う発熱効果で癌細胞を殺すことが出来るかどうかを検討した。それぞれの培養細胞にCNTを添加し、2時間インキュベートした後にNIR照射を行った。NIRの照射は、808 nmのパルスレーザーを出力6 W/cm2で3分間照射することにより行った。NIRレーザー照射後、Live-Dead Cell Staining Kit を用いて細胞を染色し、蛍光顕微鏡にて観察した(図20)。本キットにより生存している細胞は緑色に、死んだ細胞は赤色に染色される。観察の結果、CNTを添加し、近赤外線を照射した場合に多くの細胞が死ぬことが分かった。CNTのみ、または近赤外線照射のみではほとんど細胞は死なないため、CNTにNIRを照射することにより発生する熱によって細胞が死んでいると考えられる。
【0270】
さらに担癌モデルマウスを用いてin vivoで治療効果の検討を行った。雌性BALB/cマウス(五週齢)に対し、一匹当たり5 × 105 個のcolon26細胞を側腹部に皮下移植し、担癌モデルマウスを作成した。腫瘍の体積が約100 mm3になった時点でマウスを8群に分け、各群に0-10 μg のCNTを含むCNT/(KFKA)7分散液50 μlを腫瘍内投与した。CNT/(KFKA)7分散液投与後、24時間、48時間、72時間に腫瘍にNIR照射を行った。NIR照射は808 nmのパルスレーザー(6 W/cm2)を用いて行い、60 秒間照射し30 秒間インターバルを空ける操作を3回繰り返し行った。照射後2 ~ 5日毎に腫瘍径を測定し、腫瘍細胞の増殖を評価した。腫瘍の体積(V)は、測定した腫瘍の長径(x)、短径(y)、高さ(z)と、円周率πを用いて、次の計算式により算出した。
V = (4/3)・π・(x / 2)・(y / 2)・(z / 2)
NIRレーザー照射後、腫瘍のサイズを経時的に測定した結果を図21に示す。CNT‐(KFKA)7を投与しNIRレーザー照射を行った群の腫瘍細胞の増殖は、非処置群と比べて有意に抑制されており、これは温熱効果によって一部の腫瘍細胞を殺すことに成功したためだと考えられる。一方で、CNT‐ (KFKA)7の投与のみ、またはNIRレーザー照射のみを行った群は、非処置群と比べて有意な差は見られず、これらの操作は腫瘍細胞の増殖に何ら影響を及ぼさないことが確認された。CNTの投与量については1〜10 μgまで検討したが、特に有意な差は見られなかった。
【0271】
[試験例6]CNTの分散効率
公知のリジンとフェニルアラニンを繰り返したペプチドの一例として28アミノ酸残基からなる(N末端)-KFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKF-(C末端)ペプチド(以下(KF)14ペプチドと略記)をインビトロジェンライフテクノロジーズ社のカスタム合成サービスを利用して合成・購入し、本発明のペプチド(KFKA)7ペプチドとのCNT分散効率の比較を行った。
【0272】
各ペプチド10 mgとCNT(HiPco(R) Single-Wall Carbon Nanotubes、Unidym社より購入) 1 mgを試験管に量り取り、重水(和光純薬社製)13 mlを加えた後、チップ型超音波破砕機(トミー精工社製UD-201)を用いて1時間の超音波処理を行った。超音波処理は溶液の温度上昇を避けるため、氷水中で冷却しながら行った。この操作により、CNTはそれぞれ重水中に分散された。この分散液を、超遠心機himac CP65βおよびスイングローターP40ST(いずれも日立工機社製)を用いて40,000 rpmで2時間30分遠心分離することによりバンドル化したCNTを除去してシングルバンドルになっているCNTのみを精製した。このCNT分散液からCNTに吸着していないペプチドを除去し、CNT/ペプチド複合体のみを得るために、分散液を透析膜Spectra/Por CE(分子量100,000カットオフ, Spectrum Laboratories社製) に入れ、5 Lの蒸留水に対して8時間透析した。この透析操作を3回繰り返し、CNTに吸着していないペプチドを含まないCNT/ペプチド複合体の分散液を得た。この分散液の吸収スペクトルを測定し、808 nmの吸光度からKamらによって報告されている方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 11600-11605 (2005))を用いてCNT濃度を算出した。具体的には、下記式によってCNT濃度を算出した。
【0273】
(式)CNT濃度 = (808 nmの吸光度) / モル吸光係数ε × CNTの平均分子量(170 kDa)。
【0274】
結果は図22に示したとおりである。(KF)14で分散させたCNTの濃度は19.3 μg/mlと見積もられ、(KFKA)7で分散させたCNTの44.4 μg/mlと比べて半分以下であることが分かった。本検討においてペプチドはCNTの量に対して十分量添加されているため、この結果は各ペプチドがCNTを分散させる効率を示していると言える。本発明のペプチドは分子内のひずみを解消するためにCNTとの相互作用が弱いアミノ酸を導入しており、この構造が径の異なる様々CNTに対して柔軟に吸着することを可能とするためにCNTの分散効率が向上しているものと考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中又は生体内におけるカーボンナノチューブの広範な応用を可能にする、新規なカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT) はその発見以来、物理、化学、エレクトロニクス分野における研究が先行し、これらの分野と比べると生化学、医学、薬学分野における研究は遅れていた。これは、CNTが極めて疎水性な表面構造を持つために、生化学分野では必須である水溶液中への分散が非常に困難であることと、CNTの化学的な安定性のために穏和な条件下での化学修飾による機能化が難しいことに起因している。しかしながら、生化学、医学、薬学分野におけるCNTに対する関心は非常に高く、CNTの電気化学的特性を活かしたバイオセンサーやバイオ電池の電極としての利用の他に、薬物輸送のためのキャリアーとしての利用法の開発が試みられている。
【0003】
これらの研究開発が進む中で、数多くのCNT分散法やCNTの機能化法が開発されてきた。しかしながら、そのいずれも特定の目的に特化した手法として開発されており、汎用性が高い技術とは言い難い。このため、せっかく応用に向けた情報が得られてもこれを体系化することが難しく、技術開発の効率が極めて悪いという問題点があった。そこで、様々な目的に利用可能な共通のプラットフォームとなり得るCNTが求められていた。
【0004】
これまでに報告されているCNTの水溶液中への分散法としては、化学修飾による親水性官能基の導入(非特許文献1)や界面活性剤を用いた方法が挙げられる。しかし、化学修飾による親水性官能基の導入によっても、CNTを完全に水溶液中に分散させるのは非常に困難であり、しかもCNTへの化学修飾はその表面構造を破壊することによってのみ可能となるため、過度の修飾はCNTの物理的または光学的特性を損なうことにつながる。一方、界面活性剤を用いた方法としては、sodium dodecyl sulfate (非特許文献2)や、sodium dodecylbenzene sulfate (非特許文献3)、Triton X-100 (非特許文献4)などを分散剤として用いる方法が報告されているが、界面活性剤を用いた場合、CNTは界面活性剤のミセル内に取り込まれてしまうために化学修飾などの機能化が困難となる。しかも、分散の安定化のために溶液中に界面活性剤を含むことが不可欠となるため、特に医学、薬学分野における応用においては問題が多い。
【0005】
これらの欠点を克服する方法としては、両親媒性ポリマーなどの高分子を利用した複合体の形成が考えられる。ポリマーはCNTと多点で相互作用が可能であるため、CNTとより強固な複合体を形成することが期待でき、水溶液中に過剰な分散剤を存在させる必要がない。このようなポリマー性分散剤としては、poly(ethylene oxide)-block-poly(propylene oxide) (非特許文献5)やpolystyrene-block-poly(acryc acid) (非特許文献6)、polystyrene-block-poly(ethylene oxide)(非特許文献7)、poly(methyl methacrylate)-block-poly(ethylene oxide) (非特許文献7)などが報告されている。CNTの生体応用を目的とした研究では、より生体との親和性の高い生体高分子を分散剤として用いたCNTの分散法も検討されており、これまでに糖鎖や核酸、タンパク質を物理的に吸着させることによってCNTを可溶化する手法が報告されている。これらの分散剤は比較的CNTに対する吸着力が強く、溶液中に過剰な分散剤の存在を必要としない点で界面活性剤の問題点を克服していると言える。しかしながら、これらの多くは分散剤自体の機能をCNTに付与できることを報告しているが、他の機能を追加的に付与するには至っておらず、目的とする機能化に応じて分散剤を変える必要があるために汎用性に欠ける。
【0006】
さらにドラッグデリバリーをターゲットとした研究では、CNTの分散剤としてPEG化リン脂質を用いた報告もなされている。これは脂質のアルキル鎖が疎水性相互作用によってCNTに吸着し、PEGの親水性によって水溶液中への分散を可能とするものである。この分散剤は、PEGの先端を化学修飾することによって任意の機能を追加的に賦与できることが報告されており、現時点では最も実用性の高い分散剤と考えられる。しかし、上記の分散剤を用いて調製した水分散性CNTは、材料として見たときには大きな問題点を抱えている。すなわち、これらの分散剤はいずれも疎水性相互作用あるいはπ−π相互作用のみによってCNTに吸着しているためその吸着を制御することが困難で、分散剤がCNT表面に無秩序に吸着した表面構造の不均一な複合体となってしまう。
【0007】
上記課題の解決を試みるものとして、近年、CNTの分散剤としてペプチドを用いたものが報告されている。例えば、CNTの分散剤として、Lys-Pheの繰り返しペプチドが挙げられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007‐153716号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Liu, et al., Science, 280, 1253-1256, 1998
【非特許文献2】M. J. O'Connell, et al., Science, 297, 593-596, 2002
【非特許文献3】M. F. Islam, et al., Nano Lett., 3, 269-273
【非特許文献4】V. C. Moor, et al., Nano Lett. 3, 1379-1382
【非特許文献5】R. Shvartzman-Cohen, et al., Langmuir, 20, 6085-6088, 2004
【非特許文献6】I. M. Cotiuga, et al., Macromol. Rapid Commun., 27, 1073-1078, 2006
【非特許文献7】Y. Kang, et al., J. Am. Chem. Soc., 125, 5650-5651, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、溶液中に効率よく分散されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を提供することを目的とする。さらに、本発明は該カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の医学、薬学分野における応用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、公知のペプチドであるLys-Pheの繰り返しペプチドは、カーボンナノチューブを溶液中に分散させる効率が不十分であることを見出した。そして、さらに鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、一般式(1)で表されることを特徴とするペプチドは、公知のペプチドであるLys-Pheの繰り返しペプチドに比べて、カーボンナノチューブを溶液中に効率よく分散させることができることを見出した。さらに、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されることを特徴とするペプチドとの複合体は、細胞への遺伝子導入剤、薬剤用徐放剤、及び光線温熱療法によるがん治療に用いられ得る光増感剤として利用できることをも見出した。本発明は、このような知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0013】
項1. カーボンナノチューブ及び一般式(1)で表されるペプチドを含有する、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
X‐(A‐B‐C‐D)n‐Y (1)
[式中、Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し、Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示し、Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し(AとCは同一又は異なっていてもよい)、Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数であり、左側がアミノ末端を示し、右側がカルボキシル末端を示す]。
【0014】
項2. 前記Dが一般式(5)で表される、請求項1に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0015】
【化1】
【0016】
[式中、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を示し(mが2又は3の時は同一又は異なっていてもよい)、mは1〜3の整数である]。
【0017】
項3. 前記R4が水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、mが1である、請求項2に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【0018】
項4. 前記Bが一般式(3)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0019】
【化2】
【0020】
[式中、R2はアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基を示す]。
【0021】
項5. 前記R2がフェニル基を有する疎水性置換基である、請求項4に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【0022】
項6. 前記Aが一般式(2)で表される、請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0023】
【化3】
【0024】
[式中、R1はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0025】
項7. 前記Cが一般式(4)で表される、請求項1〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【0026】
【化4】
【0027】
[式中、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0028】
項8. 請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法であって、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することを特徴とする製造方法。
【0029】
項9. 請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、細胞への遺伝子導入試薬。
【0030】
項10.請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からなる、薬剤用徐放剤。
【0031】
項11.請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、光増感剤。
【0032】
項12.一般式(1a)で表されることを特徴とする、ペプチド;
【0033】
【化5】
【0034】
[式中、R1は同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R2aはフェニル基を有する疎水性置換基を示し、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R4aは水素又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数である]。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、溶液中に効率よく分散されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を提供することができる。さらに、該カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の医学、薬学分野における応用方法を提供することができる。
【0036】
また、本発明によれば、径の異なる様々なCNTとペプチドとの複合体を提供することができるため、医学、薬学分野において広くCNTを利用することを可能にする。
【0037】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、ペプチドが単層でカーボンナノチューブに結合している構造であると考えられるため、ペプチドを機能的に修飾することにより、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に種々の機能を付与することが容易である。従って、本発明によれば、医学、薬学分野における特定の分野における利用に限られず、該分野において広くCNTを利用することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】配列番号1で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図2】配列番号2で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図3】配列番号3で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図4】配列番号4で示される配列からなるペプチドのMSのデータを示す。
【図5】製造例1〜3に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトルを示す。
【図6】製造例1〜3に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の発光スペクトルを示す。
【図7】製造例1及び2に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の原子間力顕微鏡の観察像を示す。
【図8】カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の分子モデルを示す。
【図9】製造例4aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の電子顕微鏡の観察像を示す。
【図10】製造例1a及び2aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の安定性に対するpHの効果を示す。
【図11】製造例2aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の安定性に対する凍結乾燥による影響を示す。
【図12】凍結乾燥処理後の製造例2aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトル、及び発光スペクトルを示す。
【図13】蛍光修飾した製造例3に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトル、及び発光スペクトルを示す。
【図14】製造例1aに係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体と、プラスミドDNAとの三者複合体形成を示す。
【図15】カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体と、プラスミドDNAとの三者複合体の細胞内への取り込みを示す。
【図16】細胞内に取り込まれたプラスミドDNAにコードされたGFPタンパク質の発現を示す。
【図17】MMCを連結した製造例2に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の吸収スペクトルを示す。
【図18】MMCを連結した製造例2に係るカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からのMMC放出のタイムコースを示す。
【図19】NIRレーザー照射に伴うCNT‐ペプチド複合体溶液の温度上昇を示す。
【図20】CNT‐ペプチド複合体を導入した細胞に対するNIRレーザー照射が引き起こす細胞死を示す。
【図21】CNT‐ペプチド複合体とNIRレーザーによる光線温熱療法が首位用の増殖に与える影響を示す。
【図22】各ペプチドを用いて調製したCNT分散液の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、カーボンナノチューブの表面にペプチドが結合した複合体である。
【0040】
1−1.カーボンナノチューブ
本発明で用いられるカーボンナノチューブは特に制限されるものではなく、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで使用することができる。好ましくは、単層ウォール・カーボンナノチューブが用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0041】
単層カーボンナノチューブの直径としては、特に限定されるものではないが、0.4〜10nmが好ましく、0.7〜5nmがより好ましく、0.7〜2nmがさらに好ましい。
【0042】
単層カーボンナノチューブの長さとしては、特に限定されるものではないが、0.05〜500μmのものが好ましく、0.07〜50μmがより好ましく、0.08〜5μmがさらに好ましい。
【0043】
多層カーボンナノチューブの直径としては、特に限定されるものではないが、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましく、1〜40nmがさらに好ましい。
【0044】
多層カーボンナノチューブの長さとしては、特に限定されるものではないが、0.05〜500μmのものが好ましく、0.07〜50μmがより好ましく、0.08〜5μmがさらに好ましい。
【0045】
また、カーボンナノチューブの型は、特に限定されるものではなく、アームチェアー型、ジグザグ型、カイラル型等のカーボンナノチューブを使用することができる。
【0046】
1−2.ペプチド
本発明のペプチドは、一般式(1)で表される。
X‐(A‐B‐C‐D)n‐Y (1)
[式中、Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し、Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示し、Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し(AとCは同一又は異なっていてもよい)、Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性官能基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数であり、左側がアミノ末端を示し、右側がカルボキシル末端を示す]。
【0047】
アミノ酸としては、ペプチド結合を形成し鎖状に連結することができる限り、生体のタンパク質を構成するα‐アミノ酸に限定されず、β‐アミノ酸、γ‐アミノ酸なども使用することができるが、好ましくはα‐アミノ酸である。
【0048】
D‐型、L‐型が存在するアミノ酸については、どちらの型のアミノ酸も使用することができ、また、D‐型とL‐型の混合物、例えばラセミ体であってもよいが、好ましくはL‐アミノ酸である。
【0049】
アミノ酸残基は、アミノ酸中の、ペプチド結合を形成するカルボキシル基から水酸基を除き、ペプチド結合を形成するアミノ基から一つの水素を除いた基を意味する。
【0050】
nは3〜100の整数であれば特に限定されるものではないが、好ましくは3〜50の整数、より好ましくは3〜20の整数、さらに好ましくは4〜12の整数、特に好ましくは5〜10の整数である。
【0051】
Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示す。
【0052】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Aが一般式(2)で表される。
【0053】
【化6】
【0054】
[式中、R1はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0055】
チオール基で置換されたアルキル基としては、一般式(6)で表される置換基が挙げられ;
‐CkH2k‐SH (6)
[式中、kは1〜20の整数である]、
一般式(6a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)k‐SH (6a)
[式中、kは1〜20の整数である]。
【0056】
一般式(6)及び(6a)中、kは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
【0057】
R1が、チオール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、システイン残基、ペニシラミン残基等が挙げられる。
【0058】
カルボキシル基で置換されたアルキル基としては、一般式(7)で表される置換基が挙げられ;
‐ClH2l‐COOH (7)
[式中、lは1〜20の整数である]、
一般式(7a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)l‐COOH (7a)
[式中、lは1〜20の整数である]。
【0059】
一般式(7)及び(7a)中、lは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0060】
R1が、カルボキシル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基等が挙げられる。
【0061】
アミノ基で置換されたアルキル基としては、一般式(8)で表される置換基が挙げられ;
‐CpH2p‐NH3 (8)
[式中、pは1〜20の整数である]、
一般式(8a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)p‐NH3 (8a)
[式中、pは1〜20の整数である]。
【0062】
一般式(8)及び(8a)中、pは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは2〜6の整数であり、特に好ましくは2〜4の整数である。
【0063】
R1が、アミノ基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、リジン残基等が挙げられる。
【0064】
水酸基で置換されたアルキル基としては、一般式(9)で表される置換基が挙げられ;‐CqH2q‐OH (9)
[式中、qは1〜20の整数である]、
一般式(9a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)q‐OH (9a)
[式中、qは1〜20の整数である]。
【0065】
一般式(9)及び(9a)中、qは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1〜3の整数である。
【0066】
R1が、水酸基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、セリン残基、スレオニン残基等が挙げられる。
【0067】
グアニジル基で置換されたアルキル基としては、一般式(10)で表される置換基が挙げられ;
【0068】
【化7】
【0069】
[式中、rは1〜20の整数である]、
一般式(10a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0070】
【化8】
【0071】
[式中、rは1〜20の整数である]。
【0072】
一般式(10)及び(10a)中、rは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0073】
R1が、グアニジル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、アルギニン残基等が挙げられる。
【0074】
カルバモイル基で置換されたアルキル基としては、一般式(11)で表される置換基が挙げられ;
【0075】
【化9】
【0076】
[式中、sは1〜20の整数である]、
一般式(11a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0077】
【化10】
【0078】
[式中、sは1〜20の整数である]。
【0079】
一般式(11)及び(11a)中、sは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0080】
R1が、カルバモイル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン残基、アスパラギン残基等が挙げられる。
【0081】
イミダゾール基で置換されたアルキル基としては、一般式(12)で表される置換基が挙げられ;
【0082】
【化11】
【0083】
[式中、tは1〜20の整数である]、
一般式(12a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0084】
【化12】
【0085】
[式中、tは1〜20の整数である]。
【0086】
一般式(12)及び(12a)中、tは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0087】
R1が、イミダゾール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(2)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、ヒスチジン残基等が挙げられる。
【0088】
保護基としては、R1が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、フェニル基、ジメトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、α−フェニルエチル基、ベンジル基、ニトロベンジル基、トリチル基、トルイル基、アセチル基、メトキシアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、ピバロイル基、ホルミル基、ベンゾイル基、p−メトキシベンジル基、p−ニトロベンゾイル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アシル基、シリル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル、ジフェニルメチル基、ベンジルオキシメチル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0089】
修飾基としては、R1が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではなく、蛍光修飾基、薬剤等広く用いることができるが、例えば、蛍光修飾基としては、N-(9-acridinyl)maleimide、fluorescein isothiocyanate、tetramethylrhodamine isothiocyanate等が挙げられ、薬剤としては、マイトマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、クロラムフェニコール、カプトプリル等が挙げられる。また、適当なクロスリンカーを介することにより、さらに広範な薬剤、生理活性分子、タンパク質、抗体、糖鎖などによる修飾が可能である。
【0090】
R1は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であれば特に限定されるものではないが、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基、及びそれが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が特に好ましい。また、別の態様としては、R1は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がより好ましく、チオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基で置換されたアルキル基が特に好ましい。
【0091】
Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示す。
【0092】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Bが一般式(3)で表される。
【0093】
【化13】
【0094】
[式中、R2はアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基を示す]。
【0095】
アリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基としては、アリール基又はヘテロアリール基を有し、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはアリール基又はヘテロアリール基で置換されたアルキル基が挙げられ、より好ましくはアリール基で置換されたアルキル基が挙げられる。
【0096】
アリール基は、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、炭素数6〜12のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6〜8のアリール基がより好ましく挙げられる。具体的にはフェニル、ヒドロキシフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル、ビフェニリル等が挙げられ、フェニル、ヒドロキシフェニル、ナフチル、又はフェナントリルが好ましく挙げられ、フェニル、又はヒドロキシフェニルがより好ましく挙げられ、フェニルが特に好ましく挙げられる。
【0097】
ヘテロアリール基は、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得るものであれば特に限定されるものではな、例えば炭素数2〜14のヘテロアリール基が挙げられ、炭素数3〜12のヘテロアリール基が好ましく挙げられ、炭素数4〜10のヘテロアリール基が好ましく挙げられる。具体的には、インドール、テトラヒドロフラン、ピリジン、プリン、ピリミジン、エチレンイミン、エチレンオキシド、エチレンスルフィド、アセチレンオキシド、アセチレンスルフィド、アザシクロブタン、1,3-プロピレンオキシド、トリメチレンスルフィド、ピロリジン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、アザトロピリデン、オキシシクロヘプタトリエン、チオトロピリデン、ピラゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、イミダゾリン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン、オキサゾール、チアゾール、又はチアジン等が挙げられ、インドール、テトラヒドロフラン、ピリジン、プリン、又はピリミジンがより好ましく挙げられ、インドール、テトラヒドロフラン、又はピリジンがさらにさらに好ましく挙げられ、インドールが特に好ましく挙げられる。
【0098】
アリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基の炭素数は、カーボンナノチューブとπ‐π結合を形成し得る限り特に限定されるものではないが、例えば5〜30の炭素数が挙げられ、6〜20の炭素数が好ましく挙げられ、6〜15の炭素数がより好ましく挙げられ、6〜10の炭素数が特に好ましく挙げられる。
【0099】
Bの具体例としては、フェニルアラニン残基、フェニルグリシン残基、チロシン残基、トリプトファン残基等が挙げられ、これらの中でもフェニルアラニン残基又はフェニルグリシン残基、チロシン残基が好ましく挙げられ、フェニルアラニン残基が特に好ましく挙げられる。
【0100】
Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示す。
【0101】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Cが一般式(4)で表される。
【0102】
【化14】
【0103】
[式中、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【0104】
チオール基で置換されたアルキル基としては、一般式(6)で表される置換基が挙げられ;
‐CkH2k‐SH (6)
[式中、kは1〜20の整数である]、
一般式(6a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)k‐SH (6a)
[式中、kは1〜20の整数である]。
【0105】
一般式(6)及び(6a)中、kは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
【0106】
R3が、チオール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、システイン残基、ペニシラミン残基等が挙げられる。
【0107】
カルボキシル基で置換されたアルキル基としては、一般式(7)で表される置換基が挙げられ;
‐ClH2l‐COOH (7)
[式中、lは1〜20の整数である]、
一般式(7a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)l‐COOH (7a)
[式中、lは1〜20の整数である]。
【0108】
一般式(7)及び(7a)中、lは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数であり、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0109】
R3が、カルボキシル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基等が挙げられる。
【0110】
アミノ基で置換されたアルキル基としては、一般式(8)で表される置換基が挙げられ;
‐CpH2p‐NH3 (8)
[式中、pは1〜20の整数である]、
一般式(8a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)p‐NH3 (8a)
[式中、pは1〜20の整数である]。
【0111】
一般式(8)及び(8a)中、pは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは2〜6の整数であり、特に好ましくは2〜4の整数である。
【0112】
R3が、アミノ基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、リジン残基等が挙げられる。
【0113】
水酸基で置換されたアルキル基としては、一般式(9)で表される置換基が挙げられ;‐CqH2q‐OH (9)
[式中、qは1〜20の整数である]、
一般式(9a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
‐(CH2)q‐OH (9a)
[式中、qは1〜20の整数である]。
【0114】
一般式(9)及び(9a)中、qは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1〜3の整数である。
【0115】
R3が、水酸基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、セリン残基、スレオニン残基等が挙げられる。
【0116】
グアニジル基で置換されたアルキル基としては、一般式(10)で表される置換基が挙げられ;
【0117】
【化15】
【0118】
[式中、rは1〜20の整数である]、
一般式(10a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0119】
【化16】
【0120】
[式中、rは1〜20の整数である]。
【0121】
一般式(10)及び(10a)中、rは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0122】
R3が、グアニジル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、アルギニン残基等が挙げられる。
【0123】
カルバモイル基で置換されたアルキル基としては、一般式(11)で表される置換基が挙げられ;
【0124】
【化17】
【0125】
[式中、sは1〜20の整数である]、
一般式(11a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0126】
【化18】
【0127】
[式中、sは1〜20の整数である]。
【0128】
一般式(11)及び(11a)中、sは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜8の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜4の整数である。
【0129】
R3が、カルバモイル基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、グルタミン残基、アスパラギン残基等が挙げられる。
【0130】
イミダゾール基で置換されたアルキル基としては、一般式(12)で表される置換基が挙げられ;
【0131】
【化19】
【0132】
[式中、tは1〜20の整数である]、
一般式(12a)で表される置換基が好ましく挙げられる;
【0133】
【化20】
【0134】
[式中、tは1〜20の整数である]。
【0135】
一般式(12)及び(12a)中、tは好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1又は2である。
【0136】
R3が、イミダゾール基で置換されたアルキル基である場合の、一般式(4)で表されるアミノ酸残基の具体例としては、ヒスチジン残基等が挙げられる。
【0137】
保護基としては、R3が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、フェニル基、ジメトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、α−フェニルエチル基、ベンジル基、ニトロベンジル基、トリチル基、トルイル基、アセチル基、メトキシアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、ピバロイル基、ホルミル基、ベンゾイル基、p−メトキシベンジル基、p−ニトロベンゾイル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アシル基、シリル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル、ジフェニルメチル基、ベンジルオキシメチル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0138】
修飾基としては、R1が有する官能基に従って適宜選択されるものであり、特に限定されるものではなく、蛍光修飾基、薬剤等広く用いることができるが、例えば、蛍光修飾基としては、N-(9-acridinyl)maleimide、fluorescein isothiocyanate、tetramethylrhodamine isothiocyanate等が挙げられ、薬剤としては、マイトマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、クロラムフェニコール、カプトプリル等が挙げられる。また、適当なクロスリンカーを介することにより、さらに広範な薬剤、生理活性分子、タンパク質、抗体、糖鎖などによる修飾が可能である。
【0139】
R3は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であれば特に限定されるものではないが、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基、及びそれが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が特に好ましい。また、別の態様としては、R3は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がより好ましく、チオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基がさらに好ましく、チオール基で置換されたアルキル基が特に好ましい。
【0140】
Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示す。
【0141】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、Dが一般式(5)で表される。
【0142】
【化21】
【0143】
[式中、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を示し(mが2又は3の時は同一又は異なっていてもよい)、mは1〜3の整数である]。
【0144】
R4は、水素又は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素又は炭素数1又は2のアルキル基がより好ましく、水素又は炭素数1のアルキル基が特に好ましい。
【0145】
R4の具体例としては、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s‐ブチル基、t‐ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t‐ペンチル基等が挙げられ、これらの中でも水素、メチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基が好ましく挙げられ、水素、メチル基、又はエチル基がより好ましく挙げられ、水素又はメチル基が特に好ましく挙げられる。
【0146】
mは、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0147】
Dの具体例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられ、グリシン、アラニン、又はバリンが好ましく挙げられ、グリシン又はアラニンが特に好ましく挙げられる。
【0148】
Xは、水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示す。
【0149】
アミノ基の保護基としては、公知の保護基を適宜選択することができ、例えば、アシル基、アルキル基、アラルキル基、シリル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基(Moc基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、C1−6アルキル−カルボニル基(例えば、アセチル基)、C6−8アリール−カルボニル基、C7−11アラルキル−カルボニル基(例えば、フェニルアセチル基)等が挙げられる。
【0150】
親水性基としては、特に限定されるものではなく、公知の親水性基を適宜選択することができ、例えば、PEG鎖からなるリンカーや、親水性アミノ酸を繰り返したペプチドリンカー等が挙げられる。
【0151】
D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐のアミノ末端は、上記の水素、アミノ基の保護基、又は親水性基で置換されていてもよい。
【0152】
Xは、好ましくは水素、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐であり、より好ましくは水素、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐であり、さらに好ましくは水素である。
【0153】
Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示す。
【0154】
カルボキシル基の保護基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0155】
親水性基は、上記Xについての記載と同様である。
【0156】
‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cのカルボキシル末端は、上記の水酸基、カルボキシル基の保護基、又は親水性基で置換されていてもよい。
【0157】
Yは、好ましくは、水酸基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cであり、より好ましくは水酸基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cであり、さらに好ましくは水酸基である。
【0158】
本発明のペプチドの一つの好ましい態様としては、ペプチドが一般式(1a)で表される。
【0159】
【化22】
【0160】
[式中、R1は同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R2aはフェニル基を有する疎水性置換基を示し、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R4aは水素又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数である]。
【0161】
本発明のペプチドのより好ましい態様としては、一般式1a中、R1が同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜10のアルキル基であり、R2aがフェニル基で置換された炭素数6〜15のアルキル基であり、R3がチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜10のアルキル基であり、R4aが水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、Xが水素、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐であり、Yが水酸基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cであり、nが3〜20の整数であるペプチドである。
【0162】
本発明のペプチドのさらに好ましい態様としては、一般式1a中、R1が同一または異なってチオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、R2aがフェニル基で置換された炭素数6〜10のアルキル基であり、R3がチオール基、カルボキシル基、及びアミノ基からなる群から選択される1種で置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、R4aが水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、Xが水素であり、Yが水酸基であり、nが4〜12の整数であるペプチドである。
【0163】
本発明のペプチドの特に好ましい態様としては、配列番号1〜4で示される配列を有するペプチドが挙げられる。
【0164】
本発明のペプチドは、公知の方法によって製造することができ、例えば固相合成法によって製造することができる。
【0165】
2.カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法は、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することを特徴とする。
【0166】
カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することにより、カーボンナノチューブの表面にペプチドが結合し、両者が結合した複合体を形成させることができる。
【0167】
混合形態は特に限定されるものではなく、溶媒中で行ってもよい。溶媒は特に限定されるものではなく、水、重水、アルコール、有機溶媒等を広く使用することができ、塩類等の溶質を添加したものもしようすることができるが、後述の遠心分離によるシングルバンドルのカーボンナノチューブの精製が容易であるという観点から、好ましくはシングルバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも高い密度を有し、かつマルチバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも低い密度を有する溶媒が挙げられる。
【0168】
ここで、シングルバンドルのカーボンナノチューブとは、カーボンナノチューブの表面が、他のカーボンナノチューブの表面と物理吸着していない、一本の分離されたカーボンナノチューブである。マルチバンドルのカーボンナノチューブとは、カーボンナノチューブの表面が、他のカーボンナノチューブの表面と物理吸着して形成される、複数のカーボンナノチューブの凝集体である。
【0169】
シングルバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも高い密度を有し、かつマルチバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも低い密度を有する溶媒は、使用するカーボンナノチューブの密度により適宜選択されるものであるが、一つの例として、シングルバンドルのカーボンナノチューブの密度が1g/mlである場合は、重水(密度1.1g/ml)を使用することができる。この例において、密度が1.1g/mlに調製されていれば他の溶媒を用いてもよい。
【0170】
カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドの混合割合は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブの質量(g)とペプチドの質量(g)の比(カーボンナノチューブの質量(g):ペプチドの質量(g))が、好ましくは1:4〜100、より好ましくは1:6〜30、さらに好ましくは1:8〜15である。
【0171】
混合方法は、特に限定されるものではなく、公知の混合方法、例えば撹拌等が挙げられる。
【0172】
混合する際の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0〜80℃、より好ましくは10〜60℃、さらに好ましくは15〜40℃である。
【0173】
混合時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは5分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。
【0174】
また、カーボンナノチューブとペプチドの混合の際、又は混合後に、溶媒中で超音波処理を行うことが好ましい。
【0175】
超音波処理することによって、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を効率よく溶媒中に分散させることができる。
【0176】
超音波処理の方法は、特に限定されず、公知の方法、公知の超音波処理装置を用いて行うことができる。
【0177】
超音波処理の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは処理液の温度を0〜25℃、より好ましくは0〜15℃、さらに好ましくは0〜8℃の範囲である。
【0178】
超音波処理の時間は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の溶媒中の分散効率の観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。また、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の過剰な断片化を避けるという観点からは、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0179】
さらに、超音波処理の後に遠心分離してもよい。溶媒としてシングルバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも高い密度を有し、かつマルチバンドルのカーボンナノチューブの密度よりも低い密度を有する溶媒を用いると、この遠心分離により、マルチバンドルのカーボンナノチューブを沈殿させ、上清に存在するシングルバンドルのカーボンナノチューブのみを回収することができるため好ましい。
【0180】
遠心分離の回転数は、シングルバンドルのカーボンナノチューブを精製することができる限り特に限定されるものではないが、例えば10,000〜200,000 rpm、好ましくは20,000〜100,000 rpm、より好ましくは30,000〜50,000 rpmである。
【0181】
遠心分離の時間は、シングルバンドルのカーボンナノチューブを精製することができる限り特に限定されず、遠心分離の回転数に従って適宜選択されるものであるが、例えば1〜5時間、好ましくは1.5〜4時間、より好ましくは2〜3時間である。
【0182】
またさらに、遠心分離後に、カーボンナノチューブに結合していないペプチドを透析処理により除去してもよい。
【0183】
透析膜は、カーボンナノチューブに結合していないペプチドを除去することができる限り特に限定されるものでなく、使用しているペプチドの分子量に従って適宜選択される。
【0184】
透析液は、特に限定されるものではなく、透析処理対象の溶液に従って適宜選択される。
【0185】
透析時間は、特に限定されるものではないが、例えば4〜24時間、好ましくは5〜16時間、より好ましくは6〜10時間である。
【0186】
製造されたカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、架橋処理、カーボンナノチューブに結合したペプチド同士を架橋してもよい。ペプチド同士の架橋により、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の安定性がさらに向上する。
【0187】
架橋剤は、ペプチド同士を架橋することができる限り特に限定されず、ペプチド中に存在する官能基の種類、及び架橋を形成させる官能基の種類に従って、公知の架橋剤の中から適宜選択することができる。具体的には、カルボジイミド、イソシアネート、ジアゾ化合物、ベンゾキノン、アルデヒド、過ヨウ素酸、マレイミド化合物、ピリジルジスルフィド化合物などが挙げられる。好ましい試薬としては、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソチオシアネート、N,N’−ポリメチレンビスヨードアセトアミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、エチレングリコールビススクシニミジルスクシネート、ビスジアゾベンジジン、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、スクシンイミジル3−(2− ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N−スクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1− カルボキシレート(SMCC)、N−スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、N−スクシンイミジル (4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート、N−スクシンイミジル 4−(1−マレイミドフェニル)ブチレート、N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)コハク酸イミド(EMCS)、イミノチオラン、S−アセチルメルカプトコハク酸無水物、メチル−3−(4’−ジチオピリジル)プロピオンイミデート、メチル−4−メルカプトブチリルイミデート、メチル−3−メルカプトプロピオンイミデート、N−スクシンイミジル−S−アセチルメルカプトアセテートが挙げられる。例えば、ペプチド中に存在するチオール基を架橋する場合は、自然酸化処理又は適当な酸化剤で処理することによりチオール基間でジスルフィド結合を形成させることで、ペプチド同士を架橋することができる。
【0188】
3.カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の特徴及び用途
3−1.特徴
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、ペプチドがカーボンナノチューブの外側の表面に結合して、カーボンナノチューブの外側の表面を覆っているという構造を有している。さらに、カーボンナノチューブの外側の表面を覆う形態は、ペプチドが複数層に重なって覆っているものではなく、ペプチドが重なり合うことなく、単層として覆っているという形態を採る。
【0189】
そして、本発明によれば、様々な径のカーボンナノチューブ、及びペプチドを用いることにより、種々の大きさを持つカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を作成することが可能である。
【0190】
また、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、安定に複合体を形成し、水溶液中に効率よく分散することができる。該分散状態は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体同士が重なっている状態ではなく、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体それぞれが孤立分散している状態である。
【0191】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、周囲にフリーのペプチドなどの他の成分が存在しない状態でも効率よく分散することができる。すなわち、周囲に存在する他の成分に依らずに、どのような環境でも分散することができる。そして、この分散状態は、分散溶液を凍結融解した後でも保つことができ、非常に安定なものである。また、ペプチドを構成するアミノ酸残基(特に一般式(1)で表されるペプチド中、A及び/又はC)を変えること、又は様々なもので修飾することにより、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に種々の機能を付加することも可能である。
【0192】
このような機能化の一つの例として、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、ペプチドの構成及び水溶液のpHにより、水溶液中の存在状態(凝集状態又は分散状態)を可逆的に制御することが可能である。例えば、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、A及び/又はCが塩基性アミノ酸であるペプチドを用いた、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、中性又は酸性pH域においては分散状態で存在するが、塩基性pH域においては不溶化して凝集状態で存在する。そして、この凝集状態又は分散状態は、pHを変えることにより、可逆的に容易に制御することができる。
【0193】
またさらに、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、カーボンナノチューブの特性を維持している。具体的には、カーボンナノチューブの吸収スペクトル、発光スペクトル、近赤外光に対する発熱効果などである。
【0194】
3−2.用途
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、上記のような特徴を有しているため、非常に広い分野において応用又は利用することが可能である。例えば、医学、薬学分野では、機能性分子をカーボンナノチューブ−ペプチド複合体表面に導入することにより、細胞への遺伝子導入剤や薬剤除放剤、光線温熱療法における光増感剤としての利用が可能であり、さらに複数の機能性分子を導入することにより多機能な薬剤キャリアの開発に利用できる。生化学分野ではバイオセンサーへの応用やマイクロリアクターとしての利用が期待される。また、カーボンナノチューブの応用研究が盛んに行われているエレクトロニクス分野においても、その取扱い性が著しく向上していることに加え、簡便にその物理化学的特性が制御できるため、加工の工程を従来とは全く異なるものに変えることができる技術として、その応用が期待される。
【0195】
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、細胞への遺伝子導入剤、薬剤用徐放剤、光増感剤として有用である。
【0196】
3−2−1.細胞への遺伝子導入剤
本発明の細胞への遺伝子導入剤は、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする。
【0197】
ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及び/又はR3がアミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であるペプチドを用いた場合、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、核酸を結合し、細胞内へ核酸を導入させることができる。
【0198】
細胞への遺伝子導入剤に含有されるカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、上記構成を満たす限り特に限定されるものではないが、好ましくは、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及び/又はR3がアミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であるペプチドを用いているカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体であり、より好ましくは、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及びR3がアミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基であるペプチドを用いているカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体であり、さらに好ましくは、ペプチドとして、一般式(1)で表されるペプチド中、Aが一般式(2)で表され、Cが一般式(4)で表され、且つR1及びR3がアミノ基で置換されたアルキル基であるペプチドを用いているカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体である。
【0199】
細胞への遺伝子導入剤には、必要に応じて他の成分(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)を含有させてもよい。これら成分は公知のものが使用できる。
【0200】
細胞への遺伝子導入剤の使用は、核酸と、細胞への遺伝子導入剤とを混合した後、該混合物を細胞に接触させることにより行われる。
【0201】
核酸は、特に限定されず、DNA、RNA等を用いることができる。
【0202】
細胞は、特に限定されるものではなく、原核生物細胞、及び真核生物細胞を使用することができるが、好ましくは真核生物細胞である。
【0203】
混合は、核酸と、細胞への遺伝子導入剤が均一に分散される限り特に限定されるものではなく、例えば核酸溶液と、細胞への遺伝子導入剤を同一容器に入れ、撹拌することにより行われる。混合後、一定時間静置してもよい。静置時間は特に限定されるものではないが、好ましくは1〜60分、より好ましくは5〜40分、さらに好ましくは10〜20分である。
【0204】
核酸と、細胞への遺伝子導入剤の混合割合は、特に限定されるものではないが、細胞への遺伝子導入剤のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体における、アミノ基、グアニジル基、及びイミダゾール基の数を、核酸中のリン酸基の数で除した値が、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2以上となるような混合割合である。
【0205】
核酸と、細胞への遺伝子導入剤の混合物を、細胞に接触させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば細胞を含有する培養液中に、該混合物を添加し、一定時間静置することにより行われる。静置時間は特に限定されるものではないが、例えば10分〜3時間、好ましくは20分〜2時間、より好ましくは30分〜1時間である。
【0206】
3−2−2.薬剤用徐放剤
本発明の薬剤用徐放剤は、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からなる。
【0207】
本発明において薬剤用徐放剤とは、薬剤用の生理活性物質を結合させることができる、薬剤用の担体を示す。生理活性物質は徐放剤に結合しているため、生体内ですぐに放出されない。このようにして、徐放剤は、生理活性物質の生体内への放出を遅らせることによりその効果を発揮する。
【0208】
本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、一般式(1)で表されるペプチドにおけるA及び/又はCのアミノ酸残基の側鎖に存在する官能基を介して、生理活性物質を結合させることが可能であるため、薬剤用の担体として使用することができる。
【0209】
生理活性物質を結合させることができる官能基としては、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、カルバモイル基、グアニジル基、及びイミダゾール基が挙げられ、これらの中でもチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、又はカルバモイル基が好ましく挙げられ、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、又は水酸基がより好ましく挙げられ、チオール基、カルボキシル基、又はアミノ基がさらに好ましく挙げられる。
【0210】
カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体に薬剤用の生理活性物質を結合させる方法は、一般式(1)におけるA及び/又はCのアミノ酸残基の側鎖に存在する官能基の種類、及び生理活性物質の種類によって、公知の方法から適宜選択することができる。例えば、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体のペプチド中の側鎖にカルボキシル基が存在する場合は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体とマイトマイシンをカルボジイミドの存在下で反応させることにより、カルボキシル基とマイトマイシン中のアジリジニル基を共有結合させ、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体とマイトマイシンを結合させることができる。
【0211】
3−2−3.光増感剤
本発明の光増感剤は、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする。
【0212】
カーボンナノチューブは近赤外線を吸収し、効率よく発熱することが知られている。この性質を利用して、本発明のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体は、光増感剤として使用することができる。
【0213】
光増感剤には、必要に応じて他の成分(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)を含有させてもよい。これら成分は公知のものが使用できる。
【0214】
本発明の光増感剤は、例えば、がん治療、特に光線温熱療法によるがん治療に用いることができる。
【0215】
治療対処の生物は、特に限定されず、霊長類、げっ歯類などの哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等が挙げられる。
【0216】
治療対象のがんは特に限定されず、胃がん、肝がん、結腸・直腸がん、乳がん、膵臓がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、乳がん、胆道がん、胆管がん、前立腺がん等が挙げられる。
【0217】
本発明の光増感剤を用いたがん治療は、光増感剤をがん組織内に導入した後、近赤外線を照射することにより、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を発熱させ、その熱によりがん組織を構成するがん細胞の増殖を抑制若しくは停止することにより行われる。
【0218】
がん組織内に導入する光増感剤の量は、特に限定されるものではなく、がん組織の大きさに従って、適宜選択される。例えば、がん組織の体積100mm3あたり、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の量、0.01〜100μg、好ましくは0.05〜50μg、より好ましくは0.08〜15μgとなるように光増感剤を導入すればよい。
【0219】
がん組織内への光増感剤の導入方法は、特に限定されるものではないが、例えば注射によりがん組織へ直接投与する方法が挙げられる。
【0220】
近赤外線の波長は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を発熱させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば650〜1200nmの範囲の波長が挙げられ、水による吸収が低く、生体を透過しやすいという観点から、好ましくは650〜900nm又は1000〜1100nmの範囲の波長が挙げられ、さらにCNTの吸収効率の観点から、700〜850nmの範囲の波長がより好ましく挙げられる。
【0221】
近赤外線の照射時間は、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を発熱させ、その熱によりがん組織を構成するがん細胞の増殖を抑制若しくは停止することができる限り特に限定されるものではないが、例えば10〜120秒、好ましくは30〜90秒、より好ましくは45〜75秒である。照射は、インターバル(時間は限定されないが、例えば10〜60秒)を空け、複数回繰り返して行ってもよい。
【0222】
近赤外線の照射は、時間を空けて複数回繰り返すのが好ましい。例えば光増感剤投与後、24、48、及び78時間後に行うことが挙げられる。
【実施例】
【0223】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0224】
[実施例1]カーボンナノチューブ(以下、CNTと示す)‐ペプチド複合体の調製
下記材料及び方法により、CNT‐ペプチド複合体を調製した。
【0225】
(1)材料
ペプチドとして、配列番号1で示される配列からなるペプチド(以下、(KFKA)7と示す)、配列番号2で示される配列からなるペプチド(以下、(EFEA)7と示す)、配列番号3で示される配列からなるペプチド(以下、(KFKA)6KFCAと示す)、及び配列番号4で示される配列からなるペプチド(以下、(KFCA)7と示す)の計4種のペプチドを使用した材料として使用したペプチドを下記表1に示す。
【0226】
これらのペプチドは、インビトロジェンライフテクノロジーズ社のカスタム合成サービス(http://www.invitrogen.jp/services/peptide.shtml)またはピーエイチジャパン社のペプチド合成サービス(http://phjapan.jp)を利用して合成・購入した。ペプチド合成はFmoc固相合成法により行われている。
【0227】
配列番号1で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図1に示す。配列番号2で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図2に示す。配列番号3で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図3に示す。配列番号4で示される配列からなるペプチドのMSのデータを図4に示す。
【0228】
CNTとしては、Unidym社より購入したHiPco(R) Single-Wall Carbon Nanotubesを使用した。このCNTの直径は、〜0.8 - 1.2 nmであり、グレードはSuper purifiedである。このCNTはHigh Pressure Carbon monooxide法(HiPCo法)によって合成されており、CNT研究では一般的に広く用いられている。
【0229】
(2)方法
ペプチド10 mgとCNT 1 mgを試験管に量り取り、重水(和光純薬社製)13 mlを加えた後、チップ型超音波破砕機(トミー精工社製UD-201)を用いて1時間の超音波処理を行った。超音波処理は溶液の温度上昇を避けるため、氷水中で冷却しながら行った。この超音波処理液を、超遠心機himac CP65βおよびスイングローターP40ST(いずれも日立工機社製)を用いて40,000 rpmで2時間30分遠心分離した後、上清を、CNT‐ペプチド複合体を含む溶液として回収した。調製した4種のCNT‐ペプチド複合体溶液を下記表1に示す。
【0230】
【表1】
【0231】
[実施例2]CNT‐ペプチド複合体の分散性、及びペプチドの結合状態の解析
調製されたCNT‐ペプチド複合体の分散性を、吸収スペクトル測定、発光スペクトル測定、及び原子間力顕微鏡(AFM)による観察で解析した。また、調製されたCNT‐ペプチド複合体の結合状態、すなわち、ペプチドが単層でCNT上に結合しているのか、複数層に重なってCNT上に結合しているのかを、原子間力顕微鏡(AFM)による観察、及び透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で解析した。
【0232】
(1)吸収スペクトル測定
CNTは、CNT間で凝集していない状態(孤立分散状態)では、吸収スペクトルの各ピークがシャープな形状をとり、逆にCNT間で凝集している状態(凝集状態)では吸収スペクトルの各ピークがブロードになることが知られている。
【0233】
このことを利用して、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)の分散状態を、吸収スペクトルを測定することによって解析した。吸収スペクトルの測定はパーキンエルマー社のLamda 900 UV/Vis/NIR Spectrometerを用いて行った。各サンプルに重水を加えて4〜6倍希釈した後に、光路長1cmの石英セルを用いて2000nm−300nmの吸光度を測定した。
【0234】
結果を図5に示す。図5には、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)の吸収スペクトルにおける各ピークはシャープな形状を採っていることが示されている。
【0235】
この結果より、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)は、孤立分散状態を採っていることが示唆された。
【0236】
(2)発光スペクトル測定
CNTは、孤立分散状態では、特定波長の励起光に対して蛍光を発することが知られており、逆に凝集状態では、蛍光を発しないことが知られている。
【0237】
このことを利用して、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)の分散状態を、蛍光スペクトルを測定することによって解析した。蛍光スペクトルの測定は島津製作所のNIR−PLシステムを用いて行った。励起波長は400nm−1000nm、発光波長850nm−1600nmの範囲で蛍光を測定した。
【0238】
結果を図6に示す。図6には、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)は、いずれも特定波長の励起光に対して、特に強く蛍光を発していることが示されている。これらの蛍光は、励起波長と発光波長の値によってそれぞれ異なるカイラル指数のCNTに帰属されることが知られており、本発明のペプチドを用いて調製されたCNT分散液で特に強い発光の観察された励起波長730nm、発光波長1130nmの蛍光はカイラル指数(9,4)のCNTに、励起波長720nm、発光波長1200nmの蛍光はカイラル指数(8,6)のCNTにそれぞれ帰属される。また、その他のカイラル指数を有するCNTに帰属される波長でも蛍光が観察されている。
【0239】
この結果より、ペプチドとして(KFKA)7、(EFEA)7、又は(KFKA)6KFCAを用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜3)は、孤立分散状態を採っていることが示唆された。
【0240】
(3)原子間力顕微鏡(AFM)による観察
原子間力顕微鏡は、試料表面をなぞる、または試料表面と一定の間隔を保ってトレースし、その時のカンチレバーの上下方向への変位を計測することで試料表面形状の評価を行うことができる。
【0241】
このことを利用して、ペプチドとして(KFKA)7、又は(EFEA)7を用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例1〜2)の分散状態、及びCNT‐ペプチド複合体の直径を、CNT/ペプチド複合体が付着した面の表面形状を評価することにより解析した。
【0242】
結果を図7に示す。CNT‐(KFKA)7複合体、CNT‐(EFEA)7複合体それぞれについての左側の観察像より、凝集部分が見られないことから、CNT/ペプチド複合体はよく分散されていることが分かった。
【0243】
また、CNT‐(KFKA)7複合体、CNT‐(EFEA)7複合体それぞれについての右側の図は、CNT‐ペプチド複合体の直径を示すものである。この結果より、CNT/ペプチド複合体の直径は2nm前後であることが分かった。この直径は、コンピューター計算により構築された分子モデル(図8)における、ペプチド主鎖によって形成される層までの太さによく一致する。
【0244】
この結果から、ペプチドはCNT表面に疎水性側鎖を向け、単層で規則正しい配向性で吸着していると考えられた。
【0245】
(4)透過型電子顕微鏡(TEM)による観察
ペプチドとして(KFCA)7を用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体の直径を、透過型電子顕微鏡によって観察することにより測定した。
【0246】
具体的には、ペプチドとして(KFCA)7を用いて調製されたCNT‐ペプチド複合体(製造例4)から、CNTに吸着していないペプチドを除去し、CNT‐ペプチド複合体のみを得るために、製造例4に係るCNT‐ペプチド複合体溶液を透析膜Spectra/Por CE(分子量100,000カットオフ, Spectrum Laboratories社製) に入れ、5 Lの蒸留水に対して8時間透析した。この透析操作を3回繰り返し、CNTに吸着していないペプチドを含まないCNT/ペプチド複合体の分散液(製造例4a)を得た。CNT‐ペプチド複合体分散液(製造例4a)をマイクログリッドに添加し、乾燥処理を行った後に透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。
【0247】
結果を図9に示す。 (A)および(B)は、単層CNTに均一な厚さでペプチドが吸着している様子が示されている。(C)は、ペプチドで巻かれた単層CNTの一部がむき出しになっている様子である。CNTの太さは0.8 nm程度であり、単層CNTの太さとして妥当な値である。ペプチド層を含めた太さは2.2 nm程度であり、これはコンピューター計算により構築された分子モデルにおいてペプチド主鎖によって形成される層までの太さによく一致する。この結果から、ペプチドはCNT表面に疎水性側鎖を向け、規則正しい配向性で吸着していることが示唆された。
【0248】
[試験例1]CNT‐ペプチド複合体の安定性の評価
(1)CNT‐ペプチド複合体の安定性に対するpHの効果
製造例1及び2に係るCNT‐ペプチド複合体溶液を、分画分子量100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE、Spectrum Laboratories社製)に入れ、5 Lの蒸留水に対して透析を行った。6時間の透析の後、透析外液を交換し、さらに6時間透析を行って、CNTに吸着していないペプチドを除去した(製造例1a、製造例2a)。
【0249】
カチオン性のペプチド(KFKA)7との複合体(製造例1a)は酸性および中性pH域において水溶液中に分散するが、塩基性pH域では沈殿を生じた(図10)。この沈殿は、pHを中性または酸性にすることによって、再び分散させることができた。この際、超音波処理のような分散処理を一切必要とせず、攪拌のみで再分散させることが可能であった。
【0250】
一方アニオン性のペプチドである(EFEA)7との複合体(製造例2a)は、中性および塩基性pH域では水溶液中に分散し、酸性pH域において沈殿を生じた(図10)。この沈殿も、pHを中性または塩基性にすることによって再び水溶液中に再分散させることが可能であった。これらの結果は、ペプチドのアミノ酸組成を制御することにより、CNT‐ペプチド複合体の物性を制御することが可能であることを実証した一例である。
【0251】
(2)CNT‐ペプチド複合体の安定性に対する凍結乾燥による影響の評価
CNT‐ペプチド複合体の凍結乾燥について検討を行った。CNT‐(EFEA)7複合体(製造例2a)を凍結乾燥した後に、再び重水を加えて乾燥物を溶解させ、吸収スペクトルおよび発光スペクトルの解析によって分散性の変化について検討した。
【0252】
凍結乾燥させたCNT‐(EFEA)7複合体は、蒸留水の添加のみによって容易に再分散が可能であり(図11)、超音波処理などの追加の処理を一切必要としなかった。吸収スペクトルおよび発光スペクトル解析の結果(図12)、CNT‐(EFEA)7複合体の分散性は凍結乾燥前後で変化しておらず、溶解後のCNT‐(EFEA)7複合体分散液は孤立分散状態を維持していることが確認された。
【0253】
凍結乾燥が可能であるという特徴は、長期間の保存を可能とするだけではなく、サンプルの濃縮や溶媒の置換が自由に行えることを意味しており、物質の取り扱いを考える上で非常に重要である。また、これまでに報告されている分散剤を用いたCNT分散液では実現が困難であったことを踏まえると、本発明の極めて優れている点であると言える。
【0254】
[試験例2]ペプチドの化学修飾を利用したCNT‐ペプチド複合体の機能化
化学修飾を利用した機能化の例として、N-(9-acridinyl)maleimide(NAM)を用いたCNT‐ペプチド複合体の蛍光修飾を行った。CNT‐ペプチド複合体としては製造例3に係るCNT‐ペプチド複合体を使用した。
【0255】
製造例3に係る分散液に15 mM NAMの1,4-dioxan溶液を添加することにより、システイン残基のチオール基を蛍光修飾した。これを分画分子量100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE、Spectrum Laboratories社製)に入れ、5 Lの蒸留水に対して透析を行った。6時間の透析の後、透析外液を交換し、さらに6時間透析を行って、CNTに吸着していないペプチドおよび未反応のNAMを取り除いた。透析後、蛍光修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した(図13)。
【0256】
NAM修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体の吸収スペクトルは、NAM修飾していないCNT‐(KFKA)6KFCA複合体と比べて360 nm付近に吸収の増加が見られた。この二つのスペクトルの差スペクトルとNAM修飾した(KFKA)6KFCAペプチドのスペクトルを比較したところ、よく一致した。このことは、CNT‐(KFKA)6KFCA複合体にNAMが結合していることを示唆している。蛍光スペクトル測定では、励起スペクトルおよび発光スペクトルは、NAM修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体ではともに蛍光が観察されたのに対して、NAM修飾されていないCNT‐(KFKA)6KFCA複合体では観察されなかった。NAM修飾したCNT‐(KFKA)6KFCA複合体の蛍光スペクトルの形はNAM修飾した(KFKA)6KFCAペプチドのスペクトルとよく一致していた。このことは、修飾されたNAMが蛍光プローブとして機能していることを示している。
【0257】
今回用いたNAM以外にも、多くのメーカーからイメージング用の多種多様な蛍光ラベル試薬が市販されており、これらを利用した蛍光修飾が可能である。また、蛍光ラベル試薬の他にも、タンパク質やペプチドの修飾をターゲットとした様々なラベル試薬やクロスリンカー試薬などが市販されており、これらのすべてを利用することが可能である。
【0258】
[試験例3]遺伝子キャリアーとしての利用
CNT‐ペプチド複合体が遺伝子キャリアーとして利用できるかどうかを検討した。CNT/ペプチド複合体として、カチオン性のCNT‐(KFKA)7複合体(製造例1a)を用いた。
まずはじめに、CNT‐(KFKA)7とプラスミドDNA(pDNA)が静電的相互作用によって複合体を形成することを確認した。CNT‐(KFKA)7とpDNAをN/P比((KFKA)7の側鎖アミノ基とpDNAのリン酸基の比)が0.5〜5となるように、20 μgのpDNAにCNT/(KFKA)7を添加し、5分間インキュベートした後にポアサイズ0.22 μmの遠心フィルターデバイスを用いてCNT‐(KFKA)7複合体を除去し、ろ液をアガロース電気泳動で分析することにより吸着しなかったpDNA量を評価した(図14)。
【0259】
この結果、CNT‐(KFKA)7に吸着しなかったpDNAはN/P比が2以上の場合に検出されず、N/P比2以上の割合でpDNAとCNT‐(KFKA)7を混合することによりCNT‐(KFKA)7‐pDNA三元複合体を形成することが示唆された。
【0260】
次に、CNT/(KFKA)7(製造例1a)とtetramethylrhodamine(TMR)で蛍光標識したpDNAの三者複合体を形成させ、これを細胞の培地に添加することにより細胞内に取り込まれるかどうかを確認した。細胞としてヒト肝癌由来HepG2株を用いた。培養した細胞にCNT‐(KFKA)7‐pDNA三者複合体を添加し、30分間または1時間インキュベートした後に、蛍光顕微鏡で観察することによりpDNAの取り込みを評価した。また、コントロールとして負電荷を持つCNT‐(EFEA)7とpDNAを同じCNT:pDNA比で混合した物についても検討を行った。結果を図15に示す。
【0261】
この結果、CNT‐(KFKA)7‐ pDNA三者複合体を添加した場合にのみTMR修飾されたpDNAの取り込みが観察された。CNTは、細胞に取り込まれやすいという報告があり、TMR修飾pDNAはCNT‐(KFKA)7と複合体を形成することにより細胞内に取り込まれやすくなったと考えられる。
【0262】
次に、取り込まれたpDNAの遺伝子発現を確認した。レポーター遺伝子として緑蛍光タンパク質(GFP)をコードするpDNAを用い、ヒト肺癌A459細胞にCNT‐(KFKA)7‐pDNAを添加してインキュベートした後に蛍光顕微鏡で観察することによりGFPの発現を評価した。コントロールとして、CNT‐(EFEA)7とpDNAの複合体を用いて同様の実験を行った。結果は図16に示した。CNT‐(EFEA)7‐pDNAを細胞に添加した場合にはGFPの蛍光は観察されなかったのに対して、CNT‐(KFKA)7‐pDNAを添加した場合にはGFPの蛍光が観察された。
【0263】
このことは、CNT‐(KFKA)7と複合体形成することによって細胞内に取り込まれたpDNAが発現していることを示しており、CNT‐(KFKA)7が遺伝子キャリアーとして利用可能であることを示している。
【0264】
[試験例4]抗癌剤マイトマイシンCとのコンジュゲートによる徐放化
マイトマイシンC(MMC)は臨床で用いられている抗癌剤である。MMCはその構造中にアジリジニル基を有しており、カルボジイミド存在下で容易にカルボキシル基と共有結合を形成する。この反応は可逆的であり、水溶液中で自発的に加水分解されるためにMMCの除放化に利用されている(C. F. Roos et al. (1984) Int. J. Pharm. 22,75)。
【0265】
カルボキシル基を有するペプチド(EFEA)7を用いてCNT分散液を調製し(製造例2)、これを200,000 × gで150分間遠心した後に分子量カットオフが100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE)を用いて蒸留水に対して透析し、CNT/(EFEA)7複合体分散液を得た。94 μgのCNTを含むCNT/(EFEA)7分散液に対し、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(EDC)を115 μg、MMCを65 μg添加し、pH 6.0のMES緩衝液中にて反応を行った。2時間室温で反応させた後、分子量カットオフが100,000の透析チューブ(Spectra/Por CE)を用いて蒸留水に対して透析し、未反応のEDCおよびMMCを除去した。透析後に内液を回収し、これをMMC-conjugated CNT‐(EFEA)7とした。MMC-conjugated CNT‐(EFEA)7の吸収スペクトルを測定したところ(図17(A))、未反応のCNT‐(EFEA)7分散液と比較して360nm付近に吸収の増加が観察された。差スペクトルを計算したところ(図17(B))、そのスペクトルの形はMMCの吸収スペクトルとよく一致し、その吸光度からCNT‐(EFEA)7複合体に導入されたMMCの量は、CNT 1 mgあたり116 mgと見積もられた。
【0266】
次にMMC-conjugated CNT‐(EFEA)7からのMMCの放出速度の検討を行った。PBSでMMC-conjugated CNT‐(EFEA)7をインキューベートし(37℃)、一定時間ごとに30 μlのサンプルを採取した。CNTを除去するためにポアサイズ0.22 μmの遠心フィルターデバイスを用いてこれをフィルターろ過した後に、ろ液を逆相HPLCにて分析した。用いたカラムはCosmosil C18-MSII(ナカライテスク社製、4.6 mm I.D. × 250 mm)、移動相はアセトニトリル:10 mM リン酸緩衝液(pH2.5)= 3:7を用い、364 nmの吸光度をモニターした。インキュベート時間に対してCNTに保持されたMMC量をプロットしたのが図18である。MMCはインキュベート時間の経過に伴って徐々に放出され、その半減期は14.5時間と見積もられた。この値は、ポリ-L-グルタミン酸とMMCのコンジュゲートの半減期(12.7時間)とよく一致しており、十分な徐放化能を有していると考えられる。
【0267】
[試験例5]癌の光線温熱療法への利用
CNTは生体透過性に優れた近赤外線(Near Infrared、NIR)を吸収し効率よく発熱することから、近赤外線を利用した光線温熱療法の光増感剤として注目されている(N. W., Kam et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 11600)。そこで、本CNT‐ペプチド複合体が光線温熱療法において光増感剤として利用できるかどうかを評価した。
【0268】
まず最初にNIRレーザー照射によるCNT‐ペプチド複合体の発熱効果の確認を行った。CNT‐(KFKA)7分散液を調製し(製造例1)、これに808 nmのパルスレーザー(6 W/cm2)を照射し、経時的に溶液の温度を測定した(図19)。この結果、CNT分散液の温度はレーザー照射によって上昇が始まり、その上昇速度はCNT濃度が大きくなるにつれて上昇する傾向があった。この結果は、CNTがNIRレーザーを吸収し、熱を放出していることを示唆しており、CNT‐(KFKA)7が複合体を形成してもCNTの特徴を維持していることが示された。癌細胞に障害を与えるためには43℃程度まで加熱する必要があるが、37℃から5℃程度の加温で良いので本発明のCNT‐(KFKA)7ペプチドでも十分に可能であると考えられた。
【0269】
次に光線温熱効果によって細胞死が誘導出来ることを確認した。マウス大腸癌由来細胞株(colon26)およびヒト肝癌由来細胞株(HepG2)を用いて、NIR照射に伴う発熱効果で癌細胞を殺すことが出来るかどうかを検討した。それぞれの培養細胞にCNTを添加し、2時間インキュベートした後にNIR照射を行った。NIRの照射は、808 nmのパルスレーザーを出力6 W/cm2で3分間照射することにより行った。NIRレーザー照射後、Live-Dead Cell Staining Kit を用いて細胞を染色し、蛍光顕微鏡にて観察した(図20)。本キットにより生存している細胞は緑色に、死んだ細胞は赤色に染色される。観察の結果、CNTを添加し、近赤外線を照射した場合に多くの細胞が死ぬことが分かった。CNTのみ、または近赤外線照射のみではほとんど細胞は死なないため、CNTにNIRを照射することにより発生する熱によって細胞が死んでいると考えられる。
【0270】
さらに担癌モデルマウスを用いてin vivoで治療効果の検討を行った。雌性BALB/cマウス(五週齢)に対し、一匹当たり5 × 105 個のcolon26細胞を側腹部に皮下移植し、担癌モデルマウスを作成した。腫瘍の体積が約100 mm3になった時点でマウスを8群に分け、各群に0-10 μg のCNTを含むCNT/(KFKA)7分散液50 μlを腫瘍内投与した。CNT/(KFKA)7分散液投与後、24時間、48時間、72時間に腫瘍にNIR照射を行った。NIR照射は808 nmのパルスレーザー(6 W/cm2)を用いて行い、60 秒間照射し30 秒間インターバルを空ける操作を3回繰り返し行った。照射後2 ~ 5日毎に腫瘍径を測定し、腫瘍細胞の増殖を評価した。腫瘍の体積(V)は、測定した腫瘍の長径(x)、短径(y)、高さ(z)と、円周率πを用いて、次の計算式により算出した。
V = (4/3)・π・(x / 2)・(y / 2)・(z / 2)
NIRレーザー照射後、腫瘍のサイズを経時的に測定した結果を図21に示す。CNT‐(KFKA)7を投与しNIRレーザー照射を行った群の腫瘍細胞の増殖は、非処置群と比べて有意に抑制されており、これは温熱効果によって一部の腫瘍細胞を殺すことに成功したためだと考えられる。一方で、CNT‐ (KFKA)7の投与のみ、またはNIRレーザー照射のみを行った群は、非処置群と比べて有意な差は見られず、これらの操作は腫瘍細胞の増殖に何ら影響を及ぼさないことが確認された。CNTの投与量については1〜10 μgまで検討したが、特に有意な差は見られなかった。
【0271】
[試験例6]CNTの分散効率
公知のリジンとフェニルアラニンを繰り返したペプチドの一例として28アミノ酸残基からなる(N末端)-KFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKFKF-(C末端)ペプチド(以下(KF)14ペプチドと略記)をインビトロジェンライフテクノロジーズ社のカスタム合成サービスを利用して合成・購入し、本発明のペプチド(KFKA)7ペプチドとのCNT分散効率の比較を行った。
【0272】
各ペプチド10 mgとCNT(HiPco(R) Single-Wall Carbon Nanotubes、Unidym社より購入) 1 mgを試験管に量り取り、重水(和光純薬社製)13 mlを加えた後、チップ型超音波破砕機(トミー精工社製UD-201)を用いて1時間の超音波処理を行った。超音波処理は溶液の温度上昇を避けるため、氷水中で冷却しながら行った。この操作により、CNTはそれぞれ重水中に分散された。この分散液を、超遠心機himac CP65βおよびスイングローターP40ST(いずれも日立工機社製)を用いて40,000 rpmで2時間30分遠心分離することによりバンドル化したCNTを除去してシングルバンドルになっているCNTのみを精製した。このCNT分散液からCNTに吸着していないペプチドを除去し、CNT/ペプチド複合体のみを得るために、分散液を透析膜Spectra/Por CE(分子量100,000カットオフ, Spectrum Laboratories社製) に入れ、5 Lの蒸留水に対して8時間透析した。この透析操作を3回繰り返し、CNTに吸着していないペプチドを含まないCNT/ペプチド複合体の分散液を得た。この分散液の吸収スペクトルを測定し、808 nmの吸光度からKamらによって報告されている方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 11600-11605 (2005))を用いてCNT濃度を算出した。具体的には、下記式によってCNT濃度を算出した。
【0273】
(式)CNT濃度 = (808 nmの吸光度) / モル吸光係数ε × CNTの平均分子量(170 kDa)。
【0274】
結果は図22に示したとおりである。(KF)14で分散させたCNTの濃度は19.3 μg/mlと見積もられ、(KFKA)7で分散させたCNTの44.4 μg/mlと比べて半分以下であることが分かった。本検討においてペプチドはCNTの量に対して十分量添加されているため、この結果は各ペプチドがCNTを分散させる効率を示していると言える。本発明のペプチドは分子内のひずみを解消するためにCNTとの相互作用が弱いアミノ酸を導入しており、この構造が径の異なる様々CNTに対して柔軟に吸着することを可能とするためにCNTの分散効率が向上しているものと考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ及び一般式(1)で表されるペプチドを含有する、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
X‐(A‐B‐C‐D)n‐Y (1)
[式中、Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し、Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示し、Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し(AとCは同一又は異なっていてもよい)、Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数であり、左側がアミノ末端を示し、右側がカルボキシル末端を示す]。
【請求項2】
前記Dが一般式(5)で表される、請求項1に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化1】
[式中、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を示し(mが2又は3の時は同一又は異なっていてもよい)、mは1〜3の整数である]。
【請求項3】
前記R4が水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、mが1である、請求項2に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【請求項4】
前記Bが一般式(3)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化2】
[式中、R2はアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基を示す]。
【請求項5】
前記R2がフェニル基を有する疎水性置換基である、請求項4に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【請求項6】
前記Aが一般式(2)で表される、請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化3】
[式中、R1はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【請求項7】
前記Cが一般式(4)で表される、請求項1〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化4】
[式中、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法であって、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、細胞への遺伝子導入試薬。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からなる、薬剤用徐放剤。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、光増感剤。
【請求項12】
一般式(1a)で表されることを特徴とする、ペプチド;
【化5】
[式中、R1は同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R2aはフェニル基を有する疎水性置換基を示し、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R4aは水素又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数である]。
【請求項1】
カーボンナノチューブ及び一般式(1)で表されるペプチドを含有する、カーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
X‐(A‐B‐C‐D)n‐Y (1)
[式中、Aは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し、Bは同一又は異なって側鎖にアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性アミノ酸残基を示し、Cは同一又は異なって親水性アミノ酸残基を示し(AとCは同一又は異なっていてもよい)、Dは同一又は異なって側鎖が水素又は炭素数1〜5のアルキル基である1〜3個のアミノ酸残基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数であり、左側がアミノ末端を示し、右側がカルボキシル末端を示す]。
【請求項2】
前記Dが一般式(5)で表される、請求項1に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化1】
[式中、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を示し(mが2又は3の時は同一又は異なっていてもよい)、mは1〜3の整数である]。
【請求項3】
前記R4が水素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、mが1である、請求項2に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【請求項4】
前記Bが一般式(3)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化2】
[式中、R2はアリール基又はヘテロアリール基を有する疎水性置換基を示す]。
【請求項5】
前記R2がフェニル基を有する疎水性置換基である、請求項4に記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体。
【請求項6】
前記Aが一般式(2)で表される、請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化3】
[式中、R1はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【請求項7】
前記Cが一般式(4)で表される、請求項1〜6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体;
【化4】
[式中、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示す]。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体の製造方法であって、カーボンナノチューブと一般式(1)で表されるペプチドとを混合することを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、細胞への遺伝子導入試薬。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体からなる、薬剤用徐放剤。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ‐ペプチド複合体を含有することを特徴とする、光増感剤。
【請求項12】
一般式(1a)で表されることを特徴とする、ペプチド;
【化5】
[式中、R1は同一または異なってチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R2aはフェニル基を有する疎水性置換基を示し、R3はチオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、グアニジル基、カルバモイル基、イミダゾール基、及びそれらのいずれかが保護又は修飾された基からなる群から選択される1種で置換されたアルキル基を示し、R4aは水素又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素、アミノ基の保護基、親水性基、D‐、C‐D‐、又はB‐C‐D‐を示し、Yは、水酸基、カルボキシル基の保護基、親水性基、‐A、‐A‐B、又は‐A‐B‐Cを示し、nは3〜100の整数である]。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−201648(P2012−201648A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68972(P2011−68972)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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