説明

カーボンナノチューブの製造方法

【課題】本発明は、カーボンナノチューブ以外の炭素材及び/又はカーボンナノチューブの結晶欠陥部分の除去、あるいは炭化水素混合物を均質・低分子化してカーボンナノチューブ成長を安定化させることを課題とする。
【解決手段】触媒成長法を用いたカーボンナノチューブの製造方法において、カーボンナノチューブ18の成長時に、反応管12内において放電を行うことにより反応活性種を生成させ、生成した反応活性種によってカーボンナノチューブ18以外の炭素材及び/又はカーボンナノチューブ18の結晶欠陥部分の除去を行うことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼鉄の数十倍の強さを持ち、しかも折れ曲がりに強く、耐薬品性、耐熱性、導電性に優れた素材としてカーボンナノチューブ(以下、CNTと呼ぶ)が注目されている。このCNTは、カーボン(炭素)からなり、直径がナノメートル単位のチューブ状の物質である。
【0003】
従来、CNTは、例えば図7に示すように製造されている。
図中の1は、炉2内に配置されて加熱される反応管を示す。この反応管1の内部には触媒3が配置されている。こうした反応管1を用いてCNTを製造するときは、反応管1を加熱しながら原料ガス4を反応管内に流通させ、反応管内の触媒3上でCNT5を成長させる。反応後のガスは、排ガス6として反応管1から排出される。
【0004】
また、従来、CNTを製造する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2が知られている。
特許文献1には、化学蒸着法(CVD法)を用いて、電気炉によって加熱されたチャンバ内にCuからなる基材上にNiを被着した基板を配置し、Cを供給するとともにフィラメントによって加熱することにより、線径が1nm〜2μmで少なくとも一部が螺旋状の炭素物質を製造する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、金属触媒を用いて製造されたCNT粗生成物を粉砕、溶液中に攪拌し、遠心分離や浮選により非晶質炭素、グラファイトを除去し、更に酢で溶かす(或いは磁場中を通過させる)ことにより金属触媒やその金属の炭化物等の金属不純物を除去し、CNTの純度を向上させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−240403号公報
【特許文献2】特開平8−198611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CVD法にプラズマや触媒を組み合せたCNTの製造では、CNT製造時にアモルファス等の他の炭素材が副生成し、この炭素材はCNTと同素体の為、炭素材を分離することが困難である。また、CNT中に結晶欠陥があると、これもCNTの収率低下の要因や特性低下の原因となる。
【0007】
本発明は、こうした事情を考慮してなされたもので、触媒成長法を用いたカーボンナノチューブの製造方法において、生成した反応活性種によってCNT以外の炭素材及び/又はCNTの結晶欠陥部分の除去をなしえるカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、組成変動のある炭化水素混合物を原料の少なくとも一部としたカーボンナノチューブの製造方法において、CNTを成長させる触媒の上流側、又は触媒内において放電を行うことにより、炭化水素混合物を均質・低分子化してCNT成長を安定化させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、触媒成長法を用いたカーボンナノチューブの製造方法において、カーボンナノチューブの成長時に、反応管内において放電を行うことにより反応活性種を生成させ、生成した反応活性種によってカーボンナノチューブ以外の炭素材及び/又はカーボンナノチューブの結晶欠陥部分の除去を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、組成変動のある炭化水素混合物を原料の少なくとも一部としたカーボンナノチューブの製造方法において、カーボンナノチューブを成長させる触媒の上流側、又は触媒内において放電を行うことにより、炭化水素混合物を均質・低分子化してカーボンナノチューブ成長を安定化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生成した反応活性種によってCNT以外の炭素材の除去、あるいはCNTの結晶欠陥部分の除去、の少なくともいずれか一方を行うことができる。また、本発明によれば、炭化水素混合物を均質・低分子化してカーボンナノチューブ成長を安定化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るCNTの製造方法について更に詳しく説明する。
(1) 本願第1の発明は、請求項1に記載のように、触媒成長法を用いたカーボンナノチューブの製造方法において、カーボンナノチューブの成長時に、反応管内において放電を行うことにより反応活性種を生成させ、生成した反応活性種によってカーボンナノチューブ以外の炭素材及び/又はカーボンナノチューブの結晶欠陥部分の除去を行うことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法である。ここで、「カーボンナノチューブ以外の炭素材及び/又はカーボンナノチューブの結晶欠陥部分の除去」としては、CNT以外の炭素材の除去、あるいはCNTの結晶欠陥部分の除去、或いは両者の除去のいずれかが挙げられる。
【0013】
(2) 本願第2の発明は、請求項2に記載のように、組成変動のある炭化水素混合物を原料の少なくとも一部としたカーボンナノチューブの製造方法において、カーボンナノチューブを成長させる触媒の上流側、又は触媒内において放電を行うことにより、炭化水素混合物を均質・低分子化してカーボンナノチューブ成長を安定化させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法である。ここで、「触媒の上流側」とは、例えば後述する図2に示すように電極が炉の外に配置された状態で放電を行う場合を示す。また、「触媒内」とは、例えば後述する図3に示すように電極間に配置された触媒上で放電を行う場合を示す。
【0014】
(3) 上記(1)又は(2)において、前記反応管内に酸素、水或いは水蒸気の少なくともいずれか1つを添加し、酸素分子及び/又は水分子に由来する反応活性種を利用することが挙げられる。ここで、「酸素、水或いは水蒸気の少なくともいずれか1つ」とは、酸素、水、水蒸気を単独に添加する場合、あるいは酸素及び水、あるいは酸素及び水蒸気、あるいは酸素と水と水蒸気を添加する場合が挙げられる。
【0015】
(4) 上記(1)〜(3)において、前記反応管が放電電極を備え、この放電電極内に誘電体を配置することにより放電を安定化させることが挙げられる。ここで、放電電極は原料ガスの供給を妨げないように例えばラダー型の形状をしている。前記誘電体の形状としては、例えばハニカム状あるいはスポンジが挙げられる。
【0016】
(5) 上記(1)〜(4)において、炭化水素混合物を触媒内に導入する前に吸着剤に吸着させ、該吸着剤内で放電することにより、吸着能の高い炭化水素又は濃度の低い炭化水素の少なくともいずれか一方の炭化水素を低分子化して、炭化水素混合物を均質・低分子化することが好ましい。こうした構成にすることにより、吸着能の高い炭化水素又は濃度の低い炭化水素の放電場内での滞在時間が増大し、効率よく低分子化を行うことができる。
【0017】
次に、本発明に係るCNTの製造方法の具体的な実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態):請求項1に対応
図1は、本発明の第1の実施形態におけるカーボンナノチューブの製造方法の概略的な説明図を示す。
図中の符番11は、炉12内に配置されて加熱される反応管を示す。この反応管11の内部には触媒13が配置されている。また、反応管11内には、触媒13の上流側及び下流側に位置するように一対のラダー型の放電電極14a,14bが配置されている。これらの放電電極14a,14bは、電線15を介して電源16に接続されている。電源16から供給された電力により、放電電極14a,14b間に放電場17が形成される。
【0018】
こうした反応管11を用いてCNT18を製造するときは、反応管11を加熱するとともに、放電電極14a,14b間に放電場17を形成しながら、原料ガス19を反応管内に流通させ、反応管内の触媒13上でCNT18を成長させる。反応後のガスは、排ガス20として反応管11から排出される。
【0019】
第1の実施形態によれば、放電電極14a,14b間に放電場17を形成しながら、原料ガス19を反応管内に流通させることにより、放電場17によって精製された反応活性種がCNT以外の炭素材又はCNT18の結晶欠陥部分を除去することになり、高品質のCNT18を精製できる。
【0020】
なお、図1では、一対の放電電極は触媒を挟む形で反応管内に配置されているが、触媒上に放電場を形成できれば、図1のような配置構成に限定されない。また、放電の方式としては、例えば沿面放電、パルス放電、バリア放電が挙げられる。
【0021】
(第2の実施形態):請求項2に対応
図2は、本発明の第2の実施形態におけるCNTの製造方法の概略的な説明図を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
図2は、一対の放電電極14a,14bを炉11の外で且つ反応管11内の上流側に配置したことを特徴とする。電源16から供給された電力により、放電電極14a,14b間に放電場17が形成されることは、図1の場合と同様である。
【0022】
第2の実施形態によれば、放電場17の形成により、放電場17によって精製された反応活性種が原料ガス中に含まれる炭化水素混合物を低分子化して均質化する。その結果、CNT合成雰囲気を安定化させ、CNT18の成長を安定させることができる。
なお、図2では、一対の放電電極は炉の外部に配置されている場合について述べたが、炉内に配置してもよい。
【0023】
(第3の実施形態):請求項3に対応
図3は、本発明の第3の実施形態におけるCNTの製造方法の概略的な説明図を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
図3は、原料ガス19に添加剤(酸素)20を添加したことを特徴とする。
第3の実施形態によれば、原料ガスに添加剤20を添加することにより、酸素分子に由来する反応活性種を生成させ、高品質なCNT18を生成することができる。
【0024】
なお、図3では、添加剤として酸素を用いた場合について述べたが、これに限らず、水、又は水蒸気、又は酸素と水、又は酸素と水蒸気、又は水と酸素と水蒸気のいずれかを用いてもよい。また、添加剤は炉の外部で添加した場合について述べたが、これに限らず、炉内で添加剤を添加してもよい。
【0025】
(第4の実施形態):請求項4に対応
図4は、本発明の第4の実施形態におけるCNTの製造方法の概略的な説明図を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
図4は、第1の実施形態の放電電極14a,14b間にポーラス状の誘電体22を配置し、該誘電体22に触媒18を担持させたことを特徴とする。なお、図4では、便宜上、触媒18が誘電体22の一部の表面に担持されているように描かれているが、本来は誘電体22の全ての表面及びその表面近くの内部に担持されている。
第4の実施形態によれば、放電電極14a,14ba間に誘電体22を配置してCNT18を製造することにより、放電を安定化させることができる。また、誘電体22に触媒18を担持させることにより、誘電体22に触媒としての機能を持たせることができる。
【0026】
(第5の実施形態):請求項4に対応
図5は、本発明の第5の実施形態におけるCNTの製造方法の概略的な説明図を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
図5は、第2の実施形態において、放電電極14a,14b間にポーラス状の誘電体22を配置し、該誘電体22の表面及びその近くの内部に触媒18を担持させたことを特徴とする。
第5の実施形態によれば、第4の実施形態と同様な効果が得られる。
【0027】
(第6の実施形態):請求項5に対応
図6は、本発明の第6の実施形態におけるCNTの製造方法の概略的な説明図を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
【0028】
図6は、第5の実施形態において、誘電体の代わりに吸着剤23を放電電極14a,14b間に配置し、反応ガス中の吸着能の高い炭化水素又は濃度の低い炭化水素を吸着剤23に吸着させることを特徴とする。
【0029】
第6の実施形態によれば、放電電極14a,14b間の吸着剤23に放電場17を形成することにより、吸着能の高い炭化水素又は濃度の低い炭化水素の放電場17内での滞在時間が増大し、効率よく低分子化が可能となる。
【0030】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係るCNTの製造方法を示す説明図である。
【図2】図2は本発明の第2の実施形態に係るCNTの製造方法を示す説明図である。
【図3】図3は本発明の第3の実施形態に係るCNTの製造方法を示す説明図である。
【図4】図4は本発明の第4の実施形態に係るCNTの製造方法を示す説明図である。
【図5】図5は本発明の第5の実施形態に係るCNTの製造方法を示す説明図である。
【図6】図6は本発明の第6の実施形態に係るCNTの製造方法を示す説明図である。
【図7】図7は従来のCNTの製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
11…炉、12…反応管、13…カーボンナノチューブ(CNT)、14a,14b…放電電極、16…電源、17…放電場、18…触媒、21…添加剤、22…誘電体、23…吸着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒成長法を用いたカーボンナノチューブの製造方法において、
カーボンナノチューブの成長時に、反応管内において放電を行うことにより反応活性種を生成させ、生成した反応活性種によってカーボンナノチューブ以外の炭素材及び/又はカーボンナノチューブの結晶欠陥部分の除去を行うことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
組成変動のある炭化水素混合物を原料の少なくとも一部としたカーボンナノチューブの製造方法において、
カーボンナノチューブを成長させる触媒の上流側、又は触媒内において放電を行うことにより、炭化水素混合物を均質・低分子化してカーボンナノチューブ成長を安定化させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記反応管内に酸素、水或いは水蒸気の少なくともいずれか1つを添加し、酸素分子及び/又は水分子に由来する反応活性種を利用することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記反応管は放電電極を備え、この放電電極内に誘電体を配置することにより放電を安定化させることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
炭化水素混合物を触媒内に導入する前に吸着剤に吸着させ、該吸着剤内で放電することにより、吸着能の高い炭化水素又は濃度の低い炭化水素の少なくともいずれか一方の炭化水素を低分子化して、炭化水素混合物を均質・低分子化することを特徴とする請求項2乃至4いずれか記載のカーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−100869(P2008−100869A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284233(P2006−284233)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】