説明

カーボンナノチューブ凝集体を得る方法

【課題】種々のカーボンナノチューブ(CNT)の合成方法に関わらず、そのCNTの分散液から簡単な処理により効率良くCNTを凝集させ、CNT凝集体を得る方法を提供する。
【解決手段】CNT分散液に、CNT凝集剤として酸を添加して水素イオン濃度を増大させることにより、不純物の濃度を高めることなくCNT凝集体を得る方法を提供する。また、かかるCNT凝集体を得る方法を利用して得られるCNT凝集体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液からカーボンナノチューブを凝集させる方法に関するものであり、さらに詳しくは官能基を有するカーボンナノチューブが分散したカーボンナノチューブ分散液からカーボンナノチューブを凝集させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略す)が最初に広く報告されたのは1991年である。CNTは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層CNT、多層に巻いたものを多層CNTという。多層CNTの中でも特に2層に巻いたものを2層CNTという。CNTは、自体が優れた真性の導電性を有し、導電性材料として使用されることが期待されている。
【0003】
CNTの製造方法として、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法などが知られ、なかでも、グラファイト層に欠陥の少ない高品質なCNTを安価に製造する方法として触媒化学気相成長法が知られている。触媒化学気相成長法では触媒を担体に担持して行う方法が知られている。
【0004】
これらの方法で製造された CNTには、アモルファスカーボン、触媒などの不純物が含まれている。不純物を含む粗 CNTから不純物を除き高純度のCNTを得るために、例えば、特許文献1では高温で酸素を接触させた後、酸性水溶液を接触する操作が行われ、精製CNTが得られることが開示されている。このうち酸性水溶液を接触する操作の過程で固液分離の操作を必要とするが、例えば濾過により固液分離操作を行った後、酸性水溶液を除去するために水で洗浄する際に、一部CNTは濾過膜を通過し、ろ液側に移る。ろ液側に存在する分散したCNTを回収することは、CNTが一般的に高価であるため経済的にも重要である。また、CNTが分散したろ液をそのまま廃棄することは、廃棄コストが多分に必要となり、環境への負荷も懸念されるため好ましくない。
【0005】
これまでCNTの分散方法に関しては、酸性溶液中での超音波処理によるもの(例えば、非特許文献1)や、高速振動粉砕法によるもの(例えば、特許文献2)など、いくつかの方法が開示されている。しかし、CNT分散液からCNTを回収する方法については、特許文献3において、アーク放電法により合成したCNTについて報告されているのみである。この方法は、様々なCNTの合成方法のうちアーク放電法により合成したCNTを対象としたものであり、次に示す2種の凝集剤が開示されている。一つは、水溶性有機溶剤を凝集剤とし、CNT分散液に対して添加する凝集剤が50〜200容量%が好ましいとされており、大量の水溶性有機溶剤が必要となるため経済面や処理量を考慮すると好ましいものではない。もう一つは多価陽イオンを含む塩を凝集剤とし、CNTに導入したカルボキシル基と多価陽イオンの錯体形成を利用したものであって、CNT分散液からCNTを凝集体として分離回収した際には必然的に CNT凝集体中に多価陽イオンが含まれた状態での回収となる。 CNTは前述のように導電材料としての使用が期待されているため、このように得られた多価陽イオンを含むCNT凝集体では、多価陽イオンが不純物となりCNTの電気的性質等に影響するため利用範囲は限定される。このように、特定の合成方法において合成したCNTの分散液からでしか、CNTを回収する方法が知られておらず、加えて回収にかかるコストや回収後の用途に大きな制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-352605号公報
【特許文献2】特開2005-213108号公報
【特許文献3】特開2008-133178号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジェイ・リューら サイエンス 280巻 1253〜1256ページ(1998年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、CNTの合成方法に関わらず、そのCNTの分散液から、簡単な処理により効率良くCNTを凝集させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、CNT分散液に酸を添加することで凝集体が得られることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、
(1)カーボンナノチューブを分散した分散液に酸を加え、該分散液のpHを4.0以下とすることにより、カーボンナノチューブを凝集させることを特徴とするカーボンナノチューブ凝集体を得る方法、
(2)分散液のpHを3.0以下とする(1)に記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法、
(3)分散液のpHを2.0以下とする(1)に記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法、
(4)酸が、硝酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸、りん酸から選ばれる少なくとも1種を含む(1)から(3)のいずれかに記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法、
(5)カーボンナノチューブが、官能基を有する(1)から(4)のいずれかに記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法、
(6)官能基がC−O結合、またはC=O結合を含む(5)に記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法、である。
【0010】
また、本発明はかかるCNT凝集体を得る方法を利用して得られるCNT凝集体を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液中に分散したCNTを、酸を添加するという容易な方法で回収できる。そのため、分離にかかる複雑な装置を必要とせず、装置にかかるコストを省くことができる。また、特殊な凝集剤などを必要とすることなく、酸を添加してpHを低下させることで CNTを凝集させることができ、汎用の分離操作との組み合わせで容易にCNTを回収できる。また、本発明において開示されるCNT凝集剤は酸であるため、多価陽イオンを凝集剤とする系とは異なり、CNT凝集体からの凝集剤の除去が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。本発明に用いるCNT分散液に含まれるCNTは、溶媒に分散する限りその形状については特に制限しないが、特に単層から5層の比較的直径が小さく、長さが200nm以下の比較的短いCNTに対して特に有効である。また、CNTの製造方法については制限はなく、化学気相成長法、レーザー蒸発法、アーク放電法、若しくはその他の製造方法により製造したCNTに適用できる。
【0013】
何れの製造方法により製造したCNTにおいてもCNT分散液とするには、溶媒への親和性を高めるために製造工程中、特に精製工程中、若しくは官能基化工程においてカルボキシル基などのC−O結合、またはC=O結合を含む官能基を導入することが好ましい。官能基の有無についてはX線光電子分光法(XPS)によって確認することができる。例えば、励起X線:Monochromatic Al K1、2線、X線径:1000μm、光電子脱出角度:90°(試料表面に対する検出器の傾き)の条件でO1sのピークが532〜533(eV)付近にC−O基とC=O基のピークが検出されることによって確認することができる。官能基を導入する方法には制限は無く、例えば気相酸化処理、液相酸化処理、若しくはそれらの組み合わせから選択できる。気相酸化処理については例えば200〜800℃の温度条件下において、酸素と接触させて行う。液相酸化処理には例えばフッ化水素酸や硝酸などの酸化性物質を含む液中での加熱還流によって行う。還流時間によって溶媒への分散性や分散後の凝集性に違いが現れるが、加熱還流にかかる時間は5時間から30時間とすることが好ましく、10時間から15時間とすることがより好ましい。気相酸化処理と液相酸化処理を組み合わせる場合は気相酸化処理の後に液相酸化処理を行うことが好ましい。特に均一に酸化処理を施し、溶媒への分散性を高めるという観点から、液相酸化処理を含むことが好ましく、その液相酸化処理が最後に行われることがより好ましい。
【0014】
これらの操作により得られたCNTを含む液から固液分離により固体成分を回収する。固液分離の方法としては、固体部分としてカーボンナノチューブを高純度に含有する組成物が得られる方法であれば特に限定されるものではなく、フィルトレーションや遠心分離などの公知の方法を用いることができる。さらに得られた固体部分について水を添加後、同様の固液分離操作を行い、残存の酸化性物質を洗浄除去する。洗浄を繰り返すことで精製CNTを得る。洗浄の回数については制限は無く、一回の洗浄操作毎に得られるろ液のpHが一定になればよい。この過程において、一部のCNTが液中に分散し、濾過膜を通過してろ液側に移る。なお、pHの測定は、pH4、およびpH7において標準液による校正を行ったpHメータを用いて室温(20℃)下で行い、有効数字2桁で判断する。
【0015】
CNT分散液の、CNTの濃度は0.01質量%以上であれば酸添加により凝集を十分に観察できる。なお、この発明のCNTの凝集体とは、メンブレンフィルター(1.0 μm、 Millipore社製)により濾別できる黒色固体のことをいう。
【0016】
上述のCNTが分散したろ液について、酸を添加し静置することでCNT凝集体を得る事ができる。酸の種類については制限は無いが、強酸であることが好ましく、例えば硝酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸、りん酸などが挙げられ、これら何れかの酸、またはその組み合わせによる混酸であってもよい。これらの酸の添加により、CNTが分散したろ液のpHを4以下にすることが好ましく、pHを3以下とすることがより好ましく、pHを2以下とすることが最も好ましい。また、酸添加後は静置することが好ましく、その静置時間は、6時間以上とすることがより好ましく、24時間以上とすることが最も好ましい。
【0017】
このCNT凝集体を得る方法は、上述の過程において得られた濾過膜を通過してろ液側に移ったCNTを含む分散液に限定されるものではなく、分散媒中にCNTを分散させて調製したCNT分散液についても適用できる。通例、この分散液を、フィルムやガラス基板などに接触させることで CNTを付着させて利用されるが、そのようにして利用された後のCNT分散液は CNT含有量が減少し、そのままでは再利用することが困難である。しかし本発明を適用することで、かかる CNT分散液から CNTを回収することが可能となる。なお、ここで言う分散液は分散媒、場合によってはCNTの分散性を高めるために分散剤を含んでいる。分散液の分散媒は限定しないが、水、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、炭化水素、芳香族化合物、非プロトン性極性溶媒から選択できる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコール、ベンジルアルコール等が適しており、特にメタノール、エタノール、n−プロパノールが好適である。エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、モノブチリン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等が適しており、特に酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルが好適である。ケトンとしては、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、シクロヘキサンノン、2−メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、2−メチルアセトフェノン等が適しており、特にアセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノンが好適である。エーテルとしては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、1、4−ジオキサン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等が適しており、特にジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランが好適である。炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、イソプレン等が適しており、特にヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサンが好適である。芳香族化合物としてはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、o−エチルトルエン、m−エチルトルエン、p−エチルトルエン等が適しており、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼンが好適である。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N、N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。特に、安全性、衛生面、価格面などから、水、エタノール、プロパノール、2-ブタノン、N−メチルピロリドン、N、N−ジメチルホルムアミドが好ましく、水が最も好ましい。これらは1種類のみを用いても良いし2種類以上を混合しても良い。
【0018】
分散剤についても特に制限は無く、例えば溶媒を水とした場合、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(NaDDBS)、ドデシルスルホン酸ナトリウム、Triton X−100(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)、ポリビニルピロリドンなどが好適であり、これらは1種類のみを用いても良いし2種類以上を混合しても良い。このCNT分散液について、既出の方法によりCNT凝集体を得ることができる。回収方法については特に限定されるものではなく、フィルトレーションや遠心分離などの公知の方法を用いることができる。
【0019】
以下、本発明を実施例をもって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
[参考例1]
(TS−1型ゼオライト粉末への金属塩の担持)
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.01gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク社製)0.21gとをエタノール(ナカライテスク社製)40mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に、TS−1ゼオライト(エヌイーケムキャット製、ケイ素/チタン比50)を2.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でエタノールを除去して、TS−1型ゼオライト粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0021】
(CNTを含有する組成物の合成)
内径32mmの石英管の中央部の石英ウール上に、上記TS−1型ゼオライト粉末への金属塩の担持で調製した固体触媒1.0gをとり、アルゴンガスを600cc/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を800℃に加熱した(昇温時間30分)。800℃に到達した後、超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を5cc/分で30分供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却し、CNTを含有する組成物を取り出した。
【0022】
(CNTを含有する組成物の精製)
上述のCNTを含有する組成物の合成で得たCNTを含有する組成物0.4gを、大気雰囲気で400℃(昇温時間40分)に加熱した。400℃で60分保持した後、室温まで冷却した(降温時間60分)。さらに、このCNTを含有する組成物0.4gを、濃度5.0mol/リットルのフッ化水素酸200ml中に投入後、室温に保持しながら5時間撹拌した。その後、ろ紙(東洋濾紙株式会社、Filter Paper 2号 125mm)を用いて濾過し固液分離した。ろ紙上の固形物を、精製水500mlを用いて洗浄後、さらに、この固形物を濃度3.0mol/リットルの塩酸200ml中に投入後、室温に保持しながら1時間撹拌した。その後、ろ紙(東洋濾紙株式会社、Filter Paper 2号 125mm)を用いて濾過し固液分離してCNTケークを得た。このCNTケークについて精製水500mlを用いて洗浄を数回行うことにより一部のCNTが分散したろ液を得た。このCNTが分散したろ液についてpH メータ(20℃、 HM-30G、 東亜電波工業株式会社製)によりpHを測定したところ、pHは5.0であった。また、このCNT分散液を濃縮乾固した黒色固体についてX線光電子分光法(XPS)により分析すると532〜533(eV)付近にC−O基とC=O基のピークが検出された。
【0023】
[参考例2]
(軽質マグネシアへの金属塩の担持)
クエン酸アンモニウム鉄(和光純薬工業社製)5gをメタノール(関東化学社製)250mLに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(和光純薬工業社製、かさ密度は0.16g/mLであった。)を50g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、40℃から60℃で攪拌しながら乾燥してメタノールを除去し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0024】
(CNTの合成)
反応器は内径32mm、長さは120mmの円筒形石英管でCNTを合成した。中央部に石英焼結板を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガスの供給ライン、上部には排ガスラインおよび、触媒投入ラインを具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器を具備する。加熱器には装置内の流動状態が確認できるよう点検口が設けられている。触媒12gを密閉型触媒供給機から触媒投入ラインを通して、石英焼結板上に触媒をセットした。次いで、ガス供給ラインからアルゴンガスを1000mL/分で供給開始した。反応器内をアルゴンガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した(昇温時間30分)。850℃に到達した後、温度を保持し、ガス供給ラインのアルゴン流量を2000mL/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口から流動化を確認した後、さらにメタンを95mL/分(メタン濃度4.5vol%で反応器に供給開始した。該混合ガスを30分供給した後、アルゴンガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
【0025】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とCNTを含有する組成物を取り出した。
【0026】
(CNT含有組成物の焼成、精製処理)
CNT組成物を400℃で1時間空気下焼成をした後、6Nの塩酸に添加し、80℃のウォーターバス内で2時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸に添加し、80℃のウォーターバス内で1時間攪拌した。これを濾過し、精製水で数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび金属を除去し、CNTを精製した。この CNTについてX線光電子分光法(XPS)により分析すると532〜533(eV)付近にC−O基とC=O基のピークが検出された。
【0027】
(CNT分散液調製)
50mLの容器に上記CNT10mg、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)(スタルク社製)30mgを量りとり、蒸留水10mLを加えて、超音波ホモジナイザー出力25W、20分間で氷冷下分散処理しCNT組成物液を調製した。調製した液には凝集体は目視では確認できず、CNTはよく分散していた。得た液を高速遠心機を使用し20000G、15分遠心し、上清を50mlのサンプル管に入れ保管した。沈降したCNTを乾燥後、400℃で1時間焼成し重さを測定した結果、沈降したCNT量は液全体に含有されるCNTの12質量%であった。上述の分散液にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U36)を含浸し、CNTを担持させた。残りのCNT分散液のCNT含量を上述と同様の操作により算出すると0.1質量%となり、希薄な濃度の分散液となった。
【0028】
<実施例1>
参考例1に示したCNTが分散したろ液25 mLに硝酸(和光純薬社製)を加えた。このCNTが分散したろ液についてpH メータ(20℃、 HM-30G、 東亜電波工業株式会社製)によりpHを測定したところ、1.6となった。これを室温、暗所で一日静置したところ、CNT凝集体による黒色物質の沈殿が観察された。上述の要領で得られた黒色物質をメンブレンフィルター(1.0μm、 Millipore社製)でろ別し、通風式乾燥機中で120℃、2時間乾燥して黒色粉体を得た。この黒色粉体について、走査型電子顕微鏡(加速電圧5.0kV、 15000倍、 JSM-6700F、 日本電子株式会社製)により観察したところ、CNTが観察された。
【0029】
<比較例1>
参考例1に示したCNTが分散したろ液25 mLに硝酸(和光純薬社製)を加えてpH 4.2とした。これを室温、暗所で一日静置しても、CNT凝集体は観察されなかった。
【0030】
<実施例2〜6>
実施例1と同様にして、硝酸の代わりに硫酸、塩酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、りん酸についても実施した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
<実施例3>
参考例2に示したCNT分散液25 mLに硝酸(和光純薬社製)を適量加えてpH 1.6とした。これを室温、暗所で一日静置したところ、CNT凝集体による黒色物質の沈殿が観察された。この黒色物質をメンブレンフィルター(1.0μm、 Millipore社製)でろ別し、通風式乾燥機中で120℃、2時間乾燥して黒色粉体を得た。この黒色粉体について、走査型電子顕微鏡(加速電圧5.0kV、 15000倍、 JSM-6700F、 日本電子株式会社製)により観察したところ、CNTが観察された。
<比較例2>
CNT分散液25 mLに硝酸を適量加えてpH 4.2とした。これを室温、暗所で一日静置しても、CNT凝集体は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、CNT製造工程における濾過洗浄過程で得られるろ液側に分散した CNT、或いは希薄化された CNT分散液から、高価な CNTを回収して再び利用することができる。また、CNTを含有する溶液からCNTを回収することは産業廃棄物の削減という観点からも好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを分散した分散液に酸を加え、該分散液のpHを4.0以下とすることにより、カーボンナノチューブを凝集させることを特徴とするカーボンナノチューブ凝集体を得る方法。
【請求項2】
分散液のpHを3.0以下とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法。
【請求項3】
分散液のpHを2.0以下とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法。
【請求項4】
酸が、硝酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸、りん酸から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1から3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブが、官能基を有する請求項1から4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法。
【請求項6】
官能基がC−O結合、またはC=O結合を含む請求項5に記載のカーボンナノチューブ凝集体を得る方法。

【公開番号】特開2010−173874(P2010−173874A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16315(P2009−16315)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】