説明

カーボンナノチューブ合成のための近接触媒方法及びシステム

カーボンナノチューブ合成方法は、触媒を有する第1プレートの表面と近接した基質を成長チャンバー内へ導入することを含むことができる。前記方法はまた、第1プレートから基質への触媒粒子の移動が生じるのに十分な温度まで成長チャンバーを加熱することを含むことができる。前記方法はまた、供給ガスを基質へ誘導することにより、基質上にカーボンナノチューブを成長させることを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦支援研究又は開発に関する記載)
適用無し。
【0002】
(関連出願の記載)
本出願は、2009年4月30日に出願された米国仮出願第61/174335号に対する優先権を主張し、その全内容は参照により本出願に組み込まれる。
【0003】
本発明は、概して、カーボンナノチューブ合成のためのシステム、方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0004】
一般に、カーボンナノチューブ(CNT)合成には、昇温、触媒及び炭素源(例えば、供給ガス)が必要となる。通常、成長チャンバー(growth chamber)内において、基質上でのCNT成長を開始させるために、基質(例えば、繊維)の表面に触媒が塗布される。基質の表面に触媒を塗布するために、一般に、基質は触媒化合物を含んだコロイド溶液又は溶液中に浸漬(dip又はsoak)される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コロイド粒子溶液の場合、浸漬処理は、むらのある又は不十分な全体被覆を生じさせるおそれがある。多くの溶液に関して、触媒化合物を基質の表面に効果的に塗布するためには、長い浸漬時間(dip and soaking time)が必要である。その上、触媒化合物を、使用に適した触媒粒子に変換するための追加のステップが必要になることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、カーボンナノチューブ合成のための方法及びシステムに関する。カーボンナノチューブ合成のための方法は、触媒を含んで構成される第1プレートの表面と近接した基質を成長チャンバー内に導入すること、第1プレートから基質への触媒粒子の移動が生じるのに十分な温度まで成長チャンバーを加熱すること、供給ガスを基質へ誘導することにより基質上にカーボンナノチューブを成長させることを含んで構成することができる。カーボンナノチューブ合成のためのシステムは、成長チャンバーと、成長チャンバーを加熱するように構成された加熱器と、成長チャンバー内に適合するよう構成され、その表面が基質と向かい合った、触媒を含んで構成される第1プレートと、第1プレートの表面と近接して適合するように構成された基質と、を含んで構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態による、基質上でのCNT成長を促進するための成長集合(growth assembly)の概略図を示す。
【図2】本発明の他の実施形態による、基質上でのCNT成長を促進するための成長集合の概略図を示す。
【図3】本発明の実施形態による、図1の成長集合を使用したCNT成長システムの概略図を示す。
【図4】本発明の他の実施形態による、図2の成長集合を使用したCNT成長システムの概略図を示す。
【図5】本発明の実施形態による、CNT成長の処理工程を示す。
【図6】銅プレートベース近接触媒処理を使用した、Eガラス織物基質上でのCNT成長を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、概して、カーボンナノチューブ合成のためのシステム、方法及び装置に関する。ある実施形態によれば、CNT合成のため、成長チャンバーに基質を導入する前に予めこれとは別に触媒コーティングを塗布するという従来の処理とは異なり、事前に基質へ触媒コーティングを塗布せず、基質上にCNTを成長させる成長処理を施している間に、触媒が基質表面に塗布される。これらの実施形態において、前記処理は、触媒遷移金属からなる2枚の粗面化された金属プレートの間に挟まれた基質を含む成長サンプル集合(growth sample assembly)の構造が含まれる。前記基質は、基質への触媒粒子の移動を促進するために、プレートと近接した(例えば、密接に接触又は表面結合した)状態に保たれる。成長サンプル集合は、不活性環境に導入され、熱を加えられ、プレートから基質への触媒粒子の移動が生じるのに十分なレベルまで昇温される。この温度レベルは、約500から約1000℃までとすることできる。炭素源(例えば、供給ガス)は、前記不活性環境(例えば、総ガス流量の約0から約25%までの蒸着率)に導入され、基質上でのCNT合成に十分な目標とされた温度で基質に塗布される。この状況は、成長したCNTの目標とされる長さに応じて、滞留時間(例えば、約30秒から数分間)の間で制御することができる。触媒作用及びCNT合成処理が完了すると、成長サンプル集合は、不活性環境から取り出される前に、不活性雰囲気中で第2温度(例えば、約400℃未満)に冷却される。前記冷却処理の助けにより、付着した炭素材料が確実に燃焼(すなわち、外部環境における望ましくない酸化)しないようにできる。その結果生じる生成物は、表面にナノチューブが成長した基質である。このようにして、触媒塗布ステップ及びCNT成長ステップは、単一の処理ステップに組み合わせることができる。
【0009】
本明細書において、「カーボンナノチューブ(CNT)」という用語は、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、二層カーボンナノチューブ(DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTは、フラーレン様構造(fullerene-like structure)により閉塞されるか、又は開口端を有していてもよい。CNTには、他の物質を封入するものが含まれる。カーボンナノチューブは、優れた物理的特性示す。最も丈夫なCNTは、高炭素鋼のおよそ80倍の強度、6倍の剛性(すなわち、ヤング係数)及び6分の1の密度を有する。
【0010】
本明細書において、「遷移金属」という用語は、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物等)も含まれる。
【0011】
図1を参照すると、本発明の実施形態によれば、成長集合100は、第1プレート110と、第2プレート120と、CNTが合成される基質130と、を含むことができる。ある実施形態において、成長集合100は、単一のプレートだけを用いて構成することができる。そのような実施形態のいくつかにおいて、基質130は、CNT成長が片面で行われる略2次元表面であってもよい。第1プレート110の表面115又は第2プレート120の表面125は、処理されなくてもよいが、材料移動を促進するために予め定められたレベルに粗面化されるのが好ましい。表面115,125を粗面化するために、酸化アルミニウム研磨ホイール等の研磨(sanding)又は研削(grinding)ホイールを使用することができる。例示的な実施形態において、表面115,125は、約2から1000マイクロインチまでの表面粗さ等級(roughness height rating)を有するように、粗面化することができる。当該及び他の粗面化処理及び装置は、当該技術分野では周知であり、したがって、簡潔に期するために、さらなる詳細については記載しない。
【0012】
基質130は、第1及び第2プレート110,120の間に、部分的に又は完全に適合するように形成することができる。基質130は、基質130の表面が、粗面化された表面115,125と密接に接触又は表面係合するように、粗面化された表面115,125の間に設置又は配置する(例えば、「挟み込む」)ことができる。本実施形態及び残りの実施形態は、いずれの種類の基質に対しても使用することができる。「基質」という用語は、CNTを合成することができる全ての素材を含むことを意図し、これに限定されないが、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース系繊維、ガラス繊維、金属繊維(metal fiber)(例えば、鉄やアルミニウム等)、金属性繊維(metallic fiber)、セラミック繊維、金属性セラミック繊維、アラミド繊維又はこれらの混合物を含んで構成される全ての基質を含むことができる。基質は、例えば、(一般に、約1000から12000本の繊維を有する)繊維トウ(fiber tow)を形成する繊維又はフィラメントと、織物(fabric)、平紐(tape)又は他の幅広な繊維製品等の平面的な基質と、CNTを合成することができる材料と、を含むことができる。好ましい一実施形態において、基質130はガラス繊維である。
【0013】
図1に示すように、基質130の表面は、概して平面的であり、粗面化された表面115,125と密接に接触するように構成することができる。しかしながら、他の実施形態において、起伏のある外形を有する基質130を含むことができる。この場合、粗面化された表面115,125もまた、基質130と表面係合するように、相補的な起伏を有することができる。
【0014】
例示的な実施形態において、第1及び第2プレート110,120の長さは約7インチ、幅は約5インチである。他の実施形態において、第1及び第2プレート110,120の長さは約36インチ、幅は約36インチである。プレート110,120の寸法は、用途に応じて、基質130の寸法に一致するよう適応させることができる。したがって、2つのプレートの寸法に制限はなく、プレートの寸法は基質の寸法に左右される。他の実施形態において、プレートの寸法は、基質の寸法とは無関係に定めることができ、連続インライン処理において、基質をプレート上で動的に移動させることができる。ある実施形態において、このようなシステムの長さは、前記処理を通じた望ましい基質の速度に応じて調整できるが、このシステムの広さは、幅を60インチより広く、長さを240インチより長くすることができる。
【0015】
第1又は第2プレート110,120は、触媒を含む。例示的な実施形態において、第1又は第2プレート110,120は、銅プレートとすることができる(すなわち、触媒は銅である)。他の実施形態において、第1又は第2プレート110,120は、遷移金属(例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン又はこれらの合金)等の他の触媒から形成することができる。第1又は第2プレート110,120は、これに制限されないが、全てのdブロック遷移金属、それらの塩及びそれらの混合物を含む、カーボンナノチューブの生成に使用することができる全ての金属から形成することができる。ある実施形態において、第1又は第2プレート110,120は、異なる組成物を有する。例えば、ある実施形態において、第1プレート110は銅から形成することができ、第2プレート120はコバルトから形成することができる。
【0016】
図2を参照すると、本発明の他の実施形態によれば、成長集合200は、成長集合100とほとんど同様である。第1プレート210及び第2プレート220のいずれか一方又は両方は、1つ以上の開口部235(例えば、貫通孔又はガスポート)を有することができる。供給ガスは、開口部235を通って又はガスマニホールドもしくは1つ以上のガスノズルもしくはインジェクターを有するディフューザーを介して基質130上に誘導することができる。そうでなければ、第1及び第2プレート210,220は、図1の第1及び第2プレート110,120と同様の組成物及び構造を有することができる。
【0017】
図3を参照すると、本発明の実施形態によれば、CNT成長システム300は、成長チャンバー310を含むことができる。成長チャンバー310は、通常第1及び第2プレート110,120が内部に適合するように構成された筐体とすることができる。CNT成長システム300は、1つ以上の加熱器330と、制御装置350と、を含むことができる。例示的な実施形態において、CNT成長システム300は、第1及び第2プレート110及び120を粗面化する研削又は研磨ホイール(図示省略)をさらに含むことができる。例示的な実施形態において、成長チャンバー310は、閉鎖されたバッチ運転(batch-operation)反応器であるが、一方他の実施形態において、成長チャンバーは、連続処理(continuous processing)が可能なように開放されている。
【0018】
加熱器330は、第1及び第2プレート110,120と熱的に結合することができる。加熱器330は、抵抗加熱器、誘導加熱器又は成長チャンバー310を加熱するために構成された他の全ての装置とすることができる。
【0019】
制御装置350は、供給ガス率、不活性ガス率、成長チャンバー310内の温度及び加熱器330を含む1つ以上のシステムパラメータを、独立して感知、監視及び制御するように適合することができる。通常の当業者であれば当然理解することだが、制御装置350は、パラメータ情報を受信し、制御パラメータの様々な自動化された適合を行う、統合されコンピュータにより自動化されたシステム制御装置又は手動制御装置とすることができる。
【0020】
様々な実施形態において、CNT成長システム300は、大気圧又は大気圧未満の気圧で運転される。ある実施形態において、第1及び第2プレート110,120は、基質130が間に配置される前に粗面化することができる。所定の位置にある基質130で、CNT成長システム300を外部環境に対して密閉(seal)することができる。
【0021】
成長チャンバー310は、内部に不活性環境を含むように適合することができる。例示的な実施形態において、不活性ガス320は吸気口340を介して成長チャンバー310に導入されて、不活性環境を作り出すことができる。不活性ガス320は、これに限定されないが、アルゴン、ヘリウム及び窒素を含むことができる。制御装置350は、不活性ガス320の成長チャンバー310に対する流入及び流出を制御することができる。不活性ガス源(図示省略)は、吸気口340を介して成長チャンバー310と流体連通することができる。
【0022】
供給ガスは、制御装置350に制御されるとおりに、吸気口340を介して成長チャンバー310に供給される。吸気口340は、第1及び第2プレート110,120の一方又は両方に取り付けることができ、基質130に、より均一に分散させるために、供給ガスは、第1又は第2プレート110,120を通って供給することができる。他の実施形態において、成長チャンバー310は、不活性ガス及び供給ガス用の別々の吸気口(図示省略)を有することができる。本明細書に置いて、「供給ガス」という用語は、揮発し、噴霧し、霧化し又は流体化することができ、高温(例えば、約350℃から約900℃)で少なくともある程度の遊離炭素ラジカルに解離(dissociation)又は破壊(cracking)することができ、触媒存在下において基質上にCNTを形成することができる炭素化合物のガス、固体又は液体の全てをいう。ある実施形態において、供給ガスは、アセチレン、エタン、エチレン、メタノール、メタン、プロパン、ベンゼン、天然ガス、他の炭化水素ガス又はこれらの混合物を含んで構成することができる。
【0023】
ここで図4を参照すると、他の実施形態によれば、CNT成長システム400は、成長チャンバー310及び成長集合200(図2参照)を含むことができ、第1又は第2プレート210,220内の開口部235を介して供給ガスを基質130へ供給することができる。ダクト410は、吸気口340から第1及び第2プレート210,220へ供給ガスを誘導することができる。開口部235は、基質130へ供給ガスを略均一に分散するための大きさ及び形状にすることができる。基質130上に合成されたCNTの分布は、第1及び第2プレート210,220内の開口部235の適切な分布により調整することができる。ある実施形態において、開口部235は、直径を1/16インチから1/4インチの大きさとし、穴径の20倍に相当する間隔で均等に配置することができる。他の実施形態において、開口部235は、第1及び第2プレート210,220の全長に亘って広がる溝(slot)から構成することができる。この場合、前記溝は、幅を1/16インチから1/4インチとし、溝の幅の20倍に相当する間隔で、直線上に離すことができる。
【0024】
酸素はCNT成長を阻害するおそれがあるので、不活性ガス320により、成長チャンバー310から酸素を追い出すことができる。成長チャンバー310内に酸素が存在する場合、供給ガスから形成された遊離炭素ラジカルは、基質130にCNTを形成するかわりに、酸素と反応して二酸化炭素及び一酸化炭素を形成する傾向がある。また、酸素は、形成されたCNTと好ましくなく反応し、その構造を分解することができる。成長チャンバー310内の酸素はまた、高温で基質130並びに第1及び第2プレート110,120を望ましくなく酸化することもある。例示的な実施形態において、供給ガスは、アセチレンであり、不活性ガスは窒素である。他の実施形態において、供給ガスは、メタン又はエチレンとすることができる。一実施形態において、供給ガスは、成長チャンバー310に供給されたガスの全体積流量の約25%とすることができる。他の実施形態において、供給ガスは、成長チャンバー310に供給されたガスの全体積流量のわずか0.5%とすることができる。
【0025】
アセチレン等の炭素原料を使用することで、酸素を含む触媒を還元するために使用することができる水素を成長チャンバー310へ導入するという別の処理の必要性を低下させることができる。炭素原料の解離により、触媒粒子を純粋粒子(pure particle)又は少なくとも許容できる酸化レベルに還元することができる水素が供給されてもよい。理論に制限されないが、触媒として使用される酸化物の安定性は、触媒粒子の反応性に影響を与えると考えられる。酸化物の安定性が向上するにつれて、一般に、触媒粒子の反応性は低下する。より不安定な酸化物又は純金属への(例えば、水素との接触による)還元は、触媒の反応性を向上させることができる。例えば、触媒が酸化鉄を含んで構成されている場合、酸化鉄の安定性により、酸化鉄粒子はCNTの合成を誘導しない。安定性の低い酸化状態又は純鉄への還元は、触媒粒子の反応性を向上させることができる。アセチレンから生じた水素は、触媒粒子から酸化物を除去するか、又は酸化物をより安定性の低い酸化物形態に還元することができる。
【0026】
ここで図5を参照すると、本発明の実施形態によれば、近接触媒処理を使用する基質130上におけるCNT成長方法の処理工程が示されている。ブロック510において、成長チャンバー310内の第1及び第2プレート(例えば、110,120)の少なくとも2つの対向する表面(例えば、115,125)は、粗面化される。ブロック520において、基質130は、第1及び第2プレート(例えば、110,120)の粗面化された表面(例えば、115,125)の間に配置される。基質130は、第1及び第2プレートの粗面化された表面と密接に接触または表面係合することができる。ブロック530において、不活性ガスを導入することにより、成長チャンバー310内に不活性環境を形成することができる。ブロック540において、成長チャンバー310内の不活性環境は、第1及び第2プレート(例えば、110,120)から基質130へ触媒粒子が移動するのに十分な温度レベルまで加熱される。前記温度レベルは、約500℃から約900℃までとすることができる。一実施形態において、成長チャンバー310内で所望の温度レベルが達成されると、第1及び第2プレート(例えば、110,120)から基質130までの触媒粒子の移動を促進するために、数秒から約数分の「滞留期間」の間、前記温度が維持される。滞留期間の終わりに、ブロック550によって、成長チャンバー310内に供給ガスを導入し、基質130上に誘導することができる。このようにして、この実施形態において、触媒粒子が基質130に塗布され、その後CNTが合成される。
【0027】
他の実施形態において、成長チャンバー310内で所望の温度レベルが達成されるとすぐに、供給ガスを成長チャンバー310内に導入し、基質130に誘導することができる。この実施形態において、触媒粒子を基質130に塗布し、同時にCNTを合成することができる。ブロック560において、成長チャンバー310の温度及び内部の供給ガスの割合等の運転状態は、所定の期間維持することができる。前記時間は約30秒から約数分間までとすることができ、これによって基質130上のCNT成長の長さを制御することができる。基質130が成長チャンバーの環境にさらされる時間を延ばすことにより、CNTの長さを伸張してもよい。ブロック570において、基質130と並んだ第1及び第2プレート(例えば、110,120)は、不活性環境で低い温度(例えば、約400℃より低い温度)まで冷却することができる。前記冷却は、例えば、第1プレート(例えば、110)、第2プレート(例えば、120)又は基質130に熱的に結合された、水冷又は液体冷却システム(図示省略)を使用して行うことができる。冷却することによって、基質130上に合成されたCNT、基質130並びに第1及び第2プレート110,120が、外部環境に存在する酸素により絶対に好ましくなく酸化されることのないようにしてもよい結果として得られる生成物は、表面にCNTが成長した基質130である。CNT合成を促進するために、CNTは基質130上で、粗面化された表面115,125の先端が基質130と接触するか、あるいは近接する位置に合成されると考えられている。したがって、基質130と接触した粗面化された表面115,125の先端が増加するほど、基質130上に合成されるCNTは増加すると考えられる。
【0028】
本発明のシステム及び方法の潜在的な利点は、周知のCNT合成システム及び方法とは異なり、基質に独立した触媒塗布ステップを行う必要がないことである。基質の表面への触媒塗布は、CNT合成処理と一体化され、成長チャンバー内で行われる。フェロセンベース処理には独立した触媒塗布ステップが必要ないものもあるが、このような処理には、浮遊するCNTがともなうリスクと安全性に対する懸念が存在する。このようなリスク及び懸念は、本明細書に記載される処理を使用することにより軽減することができる。
【0029】
ある実施形態において、本発明の装置により、カーボンナノチューブ浸出基質が生成される。本明細書において、「浸出される(infused)」という用語は、化学的又は物理的に結合されることを意味し、「浸出(infusion)」という用語は、結合処理を意味する。このような結合は、直接共有結合、イオン結合、π‐π相互作用又はファンデルワールス力媒介物理吸着(van der Waals force-mediated physisorption)を含むことができる。例えば、ある実施形態において、CNTは基質に直接的に結合することができる。さらに、ある程度の機械的な結合も生じると考えられる。結合は、バリア・コーティング(barrier coating)又はCNTと基質との間に配置された介在する遷移金属ナノ粒子を介した、基質へのCNT浸出等のように間接的であってもよい。本明細書に開示されるCNT浸出基質において、上記のように、カーボンナノチューブを基質に直接的又は間接的に「浸出する」ことができる。基質にCNTを「浸出する」特定の方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。
【0030】
基質への浸出に有用なCNTは、単層(single-walled)CNT、二層(double-walled)CNT、多層(multi-walled)CNT及びこれらの混合物を含む。使用される適切なCNTは、CNT浸出基質の用途に応じて決まる。CNTは、熱又は電気伝導性用途に又は絶縁体として使用することができる。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、単層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、単層及び多層ナノチューブの混合物である。単層及び多層ナノチューブの特性には、繊維の最終用途に応じてナノチューブのどちらか一方の種類の合成を決定するいくつかの相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体又は金属性で有り得るが、多層ナノチューブは金属性である。この先見的な例は、その場でのCNT成長のために近接触媒方法を使用して、どのようにEガラス織物材料にCNTを「浸出する」ことができるかを示す。
【0031】
図3は、本発明の例示された実施形態における、近接触媒を使用してCNT浸出織物を生成するためのシステム300を示す。CNT成長システム300は、閉鎖成長チャンバー310と、不活性ガスを収容した空洞320と、粗面化された第1及び第2銅プレート110,120と、図示されるように構成された2つの加熱器330と、ガス吸気口340と、研削又は研磨ホイール及びトラバース要素(traversing element)(図示省略)と、Eガラス織物基質130と、制御装置350と、を含むことができる。
【0032】
60×60のEガラス織物基質130は、単織物に織り込まれた10000フィラメントのEガラストウから構成することができる。Eガラス織物基質130は、閉鎖成長チャンバー310に配置することができる。閉鎖成長チャンバー310内において、Eガラス織物基質130は、図3に示すように、粗面化された第1及び第2銅プレート110,120との間に配置することができる。
【0033】
粗面化された第1及び第2銅プレート110,120は、厚さが1/4インチであり、配置されたEガラス織物基質130に接触した表面が、研削ホイール及びトラバース要素(図示省略)を介して表面粗さ等級が125になるように粗面化された2つの銅プレートから構成することができる。所定の位置のEガラス織物基質130によって、粗面化された第1及び第2銅プレート110,120それぞれを、Eガラス織物基質130と密接に接触させることができる。
【0034】
ガス吸気口340は、不活性ガスを収容した空洞320を不活性雰囲気で満たすために、60リットル/分の不活性窒素ガス(純度99.999%)を供給する。
【0035】
図示するように構成された加熱器330は、成長チャンバー310を、制御装置350を介した制御のとおり、近接触媒及びCNT成長に必要な温度である685℃まで加熱する。
【0036】
成長温度が達成されると、ガス吸気口340は、60リットル/分の窒素ガス流と4%のアセチレンガスとの混合物を供給することができる。この流動状態は、成長温度685℃を維持しながら、10分間適用することができる。
【0037】
成長が完了した後、ガス吸気口340は、窒素ガス流を維持したままアセチレンの導入を停止させることができる。加熱器330は止めることができ、温度は400℃以下に冷却することができる。温度が400℃になると、粗面化された第1及び第2銅プレート110,120は、Eガラス織物基質130から取り去ることができる。CNT成長チャンバー310は開放することができ、Eガラス織物基質130を取り出すことができる。
【0038】
結果として得られたCNT浸出Eガラス織物基質は、長さを10〜50ミクロン、直径を15〜50nmとすることができるCNTを含む。結果として得られるCNT成長は図6に示す。このようなCNT浸出Eガラス織物材料は、高い電気及び熱伝導性を必要とする用途に有用であろう。
【0039】
当然のことながら、上記実施形態は、単に本発明を例示するものに過ぎず、当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、上記実施形態の多くのバリエーションを考案することができる。例えば、本明細書において、詳細な説明及び本発明の例示された実施形態の理解を可能とするために、多くの具体的な詳細が提供された。しかしながら、当業者は、これらの詳細の1つ以上を除いて、又は他の処理、材料及び構成要素等とともに、本発明を実施することができることを理解するだろう。
【0040】
さらに、場合によっては、例示された実施形態の態様がわかり難くなることを避けるために、周知の構造、材料又は工程は図示されず、又は詳細に記載されていない。当然のことながら、図示された多くの実施形態は例示であり、かならずしもこの範囲に引きずられる必要はない。本明細書における「一実施形態」、「実施形態」又は「ある実施形態」の参照とは、実施形態と関連して記載された特定の機能、構造、材料又は特性は、本発明の少なくとも一実施形態に含まれるが、全ての実施形態に含まれる必要はないということを意味する。それ故、本明細書の様々な場所で使用された「一実施形態において」、「実施形態において」又は「ある実施形態において」という表現は、必ずしも全てが、同一の実施形態を参照しているわけではない。さらに、特定の機能、構造、材料又は特性は、あらゆる適切な方法により、1つ以上の実施形態に組み合わせることができる。したがって、そのようなバリエーションは、特許請求の範囲及びその均等の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を含んで構成された第1プレートの表面に近接した基質を成長チャンバーに導入することと、
前記第1プレートから前記基質への触媒粒子の移動が生じるのに十分な温度まで前記成長チャンバーを加熱することと、
供給ガスを前記基質に誘導することにより前記基質上にカーボンナノチューブを成長させることと、
を含んで構成されるカーボンナノチューブ合成方法。
【請求項2】
第2プレートを含んで構成され、前記基質は前記第1プレートと前記第2プレートとの間に配置された請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2プレートは、触媒を含んで構成される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
加熱する前に、前記プレートは、粗面化される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
加熱する前に、前記プレートを粗面化することを含んで構成される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
加熱する前に確実に前記成長チャンバーが不活性環境を含むようにすることを含んで構成される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒は、遷移金属を含んで構成される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属は、銅を含んで構成される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
成長チャンバーと、
前記成長チャンバーを加熱するように構成された加熱器と、
前記成長チャンバー内に適合するように構成され、その表面が基質と向かい合った、触媒を含んで構成された第1プレートと、
前記第1プレートの前記表面と近接して適合するように構成された基質と、
を含んで構成されるカーボンナノチューブ合成システム。
【請求項10】
第2プレートを含んで構成され、
前記第2プレートは、前記成長チャンバー内に適合するように構成され、
前記第1プレートの前記表面は、前記第2プレートの表面に向かい合い、
前記基質は、前記第1及び第2プレートの間に適合するように構成され、前記第2プレートの表面に近接した請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記第2プレートは、触媒を含んで構成される請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記成長チャンバーは、不活性ガスを受け入れるように構成される請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記成長チャンバーと連通した不活性ガス源を含んで構成される請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記成長チャンバーは、供給ガスを受け入れるように構成される請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
前記供給ガスは、アセチレンを含んで構成される請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記触媒は、遷移金属を含んで構成される請求項9に記載のシステム。
【請求項17】
前記プレートの前記表面は、粗面化される請求項9に記載のシステム。
【請求項18】
前記近接は、表面係合を含んで構成される請求項9に記載のシステム。
【請求項19】
前記触媒は、銅を含んで構成される請求項9に記載のシステム。
【請求項20】
前記触媒は、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン及びこれらの合金からなるグループから選択される請求項9に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−525318(P2012−525318A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508571(P2012−508571)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/032444
【国際公開番号】WO2010/126840
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】