説明

カーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法、およびこれより得られるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維

【課題】分散性が高度に優れたカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド組成物(ドープ)の製造方法を提供するとともに、機械的強度に優れたカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】無機塩およびカーボンナノチューブを含有するアミド系溶剤より全芳香族ポリアミド−カーボンナノチューブスラリーを形成させ、該スラリー中の全芳香族ポリアミドを溶解させることで分散性が高度に優れたカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープを調製し、このドープから、カーボンナノチューブの分散性の高い全芳香族ポリアミド繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法、およびこれより得られるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維に関する。さらに詳しくは、カーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド組成物(ドープ)におけるカーボンナノチューブの分散性に優れ、したがって、当該組成物を溶剤に溶解させたポリマードープ中におけるカーボンナノチューブの分散状態に優れることから、カーボンナノチューブの分散性の高いカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維を得ることのできるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸などの芳香族ジカルボン成分と芳香族ジアミン成分とからなる全芳香族ポリアミド繊維は、その高強度、高弾性率などの特性を生かして、産業資材用途や機能性衣料用途として広く利用されている。しかしながら、さらなる強度、弾性率の向上のニーズが存在することから、現在もなお、種々の検討がなされている。
【0003】
ところで、近年、樹脂への機能性を付与する目的で、カーボンナノチューブが脚光を浴びており、各種樹脂とのブレンドが種々検討されている。例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブを含有する熱可塑性樹脂が記載されている。特許文献1によれば、カーボンナノチューブを配合することにより、熱可塑性樹脂に導電性を付与することができる。また、特許文献2から4には、ポリベンザゾール繊維に対して、カーボンナノチューブを複合させ、種々の機能を発現させることが記載されている。さらには、特許文献5から8においては、ポリアミドに対してカーボンナノチューブを含有させたポリアミド組成物あるいはポリアミド繊維が提案されている。
【0004】
ところで、カーボンナノチューブ含有樹脂組成物の機械的強度を向上させるためには、カーボンナノチューブの樹脂中における分散状態が極めて重要である。しかしながら、特許文献1に記載のカーボンナノチューブ含有熱可塑性樹脂組成物は、上記のとおり、カーボンナノチューブ配合による導電性の付与を狙ったものであり、カーボンナノチューブの高度な分散性については求められていない。また、カーボンナノチューブの熱可塑性樹脂中への分散方法も、溶融混練以外は明記されておらず、溶融混練によっては、カーボンナノチューブを凝集させることなく高度に分散させることは非常に困難である。
また、特許文献2から4においても、カーボンナノチューブの分散についての認識はなく、具体的なカーボンナノチューブの分散方法も記載されていない。このため、特許文献2から4に記載された樹脂組成物におけるカーボンナノチューブの分散状態は、機械的強度を向上させるにあたっては不十分であると予想される。
さらに特許文献5から8においては、カーボンナノチューブの分散についての認識はあるものの、その分散状態はいまだ満足できるものではなく、分子レベルでの分散にはいたっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−097375号公報
【特許文献2】特開2003−327722号公報
【特許文献3】特開2003−231810号公報
【特許文献4】特開2003−119622号公報
【特許文献5】特開2003−138040号公報
【特許文献6】特開2004−067952号公報
【特許文献7】特開2004−115979号公報
【特許文献8】特表2005−521779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カーボンナノチューブの分散性が高度に優れたカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド組成物(ドープ)およびその製造方法を提供することにある。また、上記組成物から得られる、カーボンナノチューブの分散性が高く、したがって、機械的強度に優れたカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、全芳香族ポリアミド粒子もしくは全芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において発生する繊維屑を、該ポリアミドに対し30〜150重量%の無機塩および該ポリアミドに対し0.1〜10重量%のカーボンナノチューブを含有するアミド系溶剤と接触させ、該繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合することにより、全芳香族ポリアミド−カーボンナノチューブスラリーを形成させ、次いで、該スラリー中の全芳香族ポリアミドが溶解する温度に加熱することを特徴とするカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法、ならびにこのドープを紡糸して得られるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープ(組成物)は、カーボンナノチューブが高度に分散した全芳香族ポリアミド組成物である。このため、本発明のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープは、カーボンナノチューブの分散性に優れたものとなり、したがって、当該ドープから紡糸して得られるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維は、カーボンナノチューブの分散性が高度に優れたポリアミド繊維となる。このため、本発明のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維は、機械的強度に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明における全芳香族ポリアミドは、溶液中でのジカルボン酸ジクロライドとジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。具体的に本発明において使用されるジアミン成分としては、p-フェニレンジアミン、2-クロルp-フェニレンジアミン、2,5-ジクロルp-フェニレンジアミン、2,6-ジクロルp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンなどを単独あるいは2種以上挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
中でもジアミン成分として、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミンおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを単独あるいは2種以上使用することができる。
【0010】
また、具体的に本発明において使用されるジカルボン酸クロライド成分としては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2-クロルテレフタル酸クロライド、2,5-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、ジカルボン酸クロライド成分として、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。
【0011】
従って、本発明における全芳香族ポリアミドの例としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、およびポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。特に、本発明においては、実質的に、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましく使用される。
【0012】
全芳香族ポリアミドを重合する際の溶剤としては、具体的にN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶剤は、2種以上の混合溶剤として使用することも可能であり、特に制限されることはない。上記溶剤は、脱水されていることが望ましい。特に、上記アミド系溶剤が好ましい。
【0013】
この場合、溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時に一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として、例えば塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0014】
本発明の全芳香族ポリアミドの製造において用いられる全芳香族ポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり安定的に紡糸することが困難となる。
また、全芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミン成分と酸クロライド成分は、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0015】
この全芳香族ポリアミドの末端は封止されることもできる。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0016】
一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
【0017】
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0018】
反応条件は特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば-25℃〜100℃好ましくは-10℃〜80℃である。
【0019】
このようにして得られる全芳香族ポリアミドは、アルコール、水といった非溶剤に投入して沈殿させ、パルプ状にして取り出すことができる。これを再度他の溶剤に溶解して成形に供することもできるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることができる。再度溶解させる際に用いる溶剤としては、全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定はされないが、上記全芳香族ポリアミドの重合に使用される溶剤が好ましい。
なお、全芳香族ポリアミドの固有粘度(98%濃度の硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値)は、通常、2.0〜4.0程度である。
【0020】
本発明で対象となる全芳香族ポリアミド粒子とは、重縮合によって得られる上記パルプ状のものである。そして、この全芳香族ポリアミド粒子を製造する工程で発生する繊維屑とは、芳香族ポリアミド繊維を製造する工程で発生する繊維屑のうち、特に未延伸繊維屑が好適に使用される。未延伸繊維屑とは、熱延伸又は熱処理を行なう工程より前に発生する繊維屑のことでる。
【0021】
一方、本発明で対象とする全芳香族ポリアミド繊維は、公知の製造方法により製糸されたものでよい。例えば、紡糸用の全芳香族ポリアミドドープを半乾半湿式紡糸法により凝固液中に押し出し、凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶剤を十分に除去し、乾燥工程にて水分を乾燥したのち熱処理あるいは熱延伸を行なうことのより製造される。
そして、本発明の方法で原料となる全芳香族ポリアミド繊維屑は、上記の如き全芳香族ポリアミド繊維の製造現場で発生する繊維屑であり、巻き始め、紙管交換時、品種変更時、トラブル発生時に発生するものである。
本発明における全芳香族ポリアミド繊維屑は、該ポリアミド繊維を製造する工程で発生する繊維屑のうち、特に未延伸繊維屑が好適に使用される。未延伸繊維屑とは、熱延伸または熱処理を行なう工程より前に発生する繊維屑のことであり、この繊維屑は後述のスラリーを形成しやすいため有利に使用される。
【0022】
次に、本発明で用いられるカーボンナノチューブは、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層構造、あるいは、これらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造をした炭素系材料である。本発明においては、単層構造のみから構成されたカーボンナノチューブであっても、あるいは、多層構造のみから構成されたカーボンナノチューブであってもよく、また、単層構造と多層構造とが混在していてもかまわない。さらに、カーボンナノチューブの構造を全体的に有している必要はなく、部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料を使用することもできる。
また、本発明におけるカーボンナノチューブには、グラファイトフィブリルナノチューブと称されるナノチューブも含まれる。さらには、C60やC70に代表される、炭素原子が球状またはチューブ状に閉じたネットワーク構造を形成するフラーレンも含まれる。
【0023】
本発明に用いられるカーボンナノチューブの製造方法としては、例えば、炭素電極間にアーク放電を発生させ、放電用電極の陰極表面に成長させる方法、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱・昇華させる方法、遷移金属系触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法などを挙げることができる。製造方法の違いによって得られるカーボンナノチューブのサイズや形態は異なるが、本発明においては、いずれの形態のカーボンナノチューブも使用することができる。また、市販のカーボンナノチューブをそのまま使用することも可能である。
【0024】
本発明では、全芳香族ポリアミド繊維屑を含む混合物を混練・溶解させるにあたり、溶解性を向上させるために、アミド系溶剤中に無機塩を添加することが必要である。かかる無機塩としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸リチウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記無機塩の量は、全芳香族ポリアミド繊維屑に対して、30〜150重量%、好ましくは50〜100重量%範囲である。上記無機塩の量が、30重量%未満の場合には、上記ポリアミド繊維屑のアミド系溶剤に対する溶解性が不十分となるため好ましくない。一方、150重量%を超える場合には、上記無機塩をアミド系溶剤中に完全に溶解することが困難となるため好ましくない。
【0025】
また、本発明の目的とする分散性が高度に優れたカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープを調製するためには、アミド系溶剤中にカーボンナノチューブを添加することが必要である。上記カーボンナノチューブの量は、全芳香族ポリアミド繊維屑に対して、通常、0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の範囲である。上記カーボンナノチューブの量が、10重量%を超える場合には、アミド系溶剤に対する分散性が悪化するため、好ましくない。一方、0.1重量%未満の場合には、繊維強度向上の効果が見られず好ましくない。
【0026】
本発明において、全芳香族ポリアミド繊維屑のアミド系溶剤に対する濃度は、生産性の観点からは大きい方が好ましいが、ドープの粘性の観点から20重量%以下が好ましい。さらに好ましくは、3〜10重量%である。20重量%を超える場合、ドープ粘性が著しく高くなり、取り扱いが困難になるため好ましくない。
【0027】
本発明では、まず全芳香族ポリアミド繊維屑を、上記無機塩およびカーボンナノチューブを含有するアミド系溶剤と接触させて、該繊維屑が溶解しない温度で混合して、スラリーを形成させる。
この際の温度としては、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜40℃である。
【0028】
次いで、上記スラリー中の全芳香族ポリアミド繊維屑が溶解する温度に加熱することにより、カーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープを生成させる。
この場合の系中の温度は、全芳香族ポリアミド繊維屑の溶解性を高める観点からは高い方が良いが、アミド系溶剤の熱劣化・分解を避けるという点で、130℃以下が好ましい。さらに好ましくは、50〜120℃である。
【0029】
なお、本発明において、全芳香族ポリアミド繊維屑とアミド系溶剤を混合し、該混合物をせん断応力下に混練する方法が、特に溶解性が良好であり、工業的に好ましい。
本発明で用いられる混練装置としては、せん断混練りできるものであれば特に制限はなく、一軸押出機、二軸押出機などのスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、ローラー、ニーダーなどを挙げることができる。
ここで、本発明の全芳香族ポリアミド繊維屑は、アミド系溶剤への溶解効果を高める目的であらかじめシュレッダーなどにより微細に粉砕しておくことができ、多くの場合その方が好ましい。
このようにして得られた全芳香族ポリアミドドープは、不溶分の濾別、脱色などの処理を施して精製することができる。
【0030】
本発明のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、本発明のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープを原料として用いるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の紡糸方法を採用することができる。湿式紡糸、乾式紡糸、半乾半湿式紡糸のいずれを採用することも可能であり、この本発明により調製されたドープから紡糸を行う方法が好ましい。
【0031】
本発明において、全芳香族ポリアミド繊維の製造方法としては、全芳香族ポリアミド繊維屑、上記無機塩、カーボンナノチューブ、およびアミド系溶剤を用いて、上記のようにポリマードープを(紡糸用溶液)を調製し、得られたドープをノズルより吐出し、貧溶剤からなる凝固浴中で凝固、脱溶剤し、延伸、熱処理(乾燥)させることにより製造することができる。
【0032】
紡糸用ドープのポリマー濃度、すなわち全芳香族ポリアミドの濃度は、好ましくは0.05〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0033】
また、本発明における紡糸用ドープには、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤、耐候剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、導電性ポリマー、その他の重合体を添加することができる。
【0034】
上記方法によって得られた紡糸用ドープを用いて、湿式法、半乾半湿式法などにより繊維に成形し、脱溶剤槽で溶剤を除去した後、乾燥することで本発明の全芳香族ポリアミド繊維を製造することができる。
【0035】
また、得られた成形体を延伸することにより、ポリマーマトリクスである全芳香族ポリアミドポリマーが高度に配向し、全芳香族ポリアミド繊維の高物性が発現すると考えられる。
【0036】
延伸の方法としては、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸、または乾燥糸状態での加熱延伸などを行うことができる。
【0037】
このように、カーボンナノチューブを含有させた全芳香族ポリアミドドープを凝固液中に展開して繊維状に成形する。続いて、この全芳香族ポリアミドポリマーを加熱条件下で延伸を行う。延伸倍率は、機械的物性から2〜10倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは3〜6倍である。延伸倍率が2倍より低いと高強力繊維としての全芳香族ポリアミド繊維の特徴が無くなる。一方延伸倍率が10倍を超えるときには延伸時の糸切れが頻発し連続的な延伸が不可能である。
【0038】
また、全芳香族ポリアミド繊維の延伸温度は、機械的物性から450〜550℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは500〜530℃である。延伸温度が450℃より低いと延伸時の糸切れが頻発し、連続的な延伸が不可能である。一方、延伸温度が550℃を超えるときには全芳香族ポリアミドポリマーの熱劣化が起こり、高強力繊維としての全芳香族ポリアミド繊維の特徴が無くなる。
【0039】
このようにして得られる全芳香族ポリアミド繊維の具体例としては、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成される全芳香族ポリアミドポリマー、またはこれらの共重合ポリマーからなる繊維であり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維などが例示できる。なかでも、コポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維が高い強度を有すると同時に耐久性に優れているので特に好ましい。
【0040】
全芳香族ポリアミド繊維の強度としては、23cN/dtex以上、さらに好ましくは24cN/dtex以上、引張弾性率が520cN/dtex以上、好ましくは540cN/dtex以上の範囲が適当である。強度が24cN/dtex未満である場合には、長期間の使用に対し強度が十分でないために優れた耐久性を得ることが困難である。また、引張弾性率が520cN/dtex未満でも、長期間の使用に対し優れた耐久性を得ることが困難である。 なお、単繊維繊度および長繊維で用いる場合のヤーンデニールとも特に限定する必要はないが、好適な単繊維繊度は、0.55〜5.5dtex、特に1.1〜3.3dtexであり、ヤーン繊度は110〜5,500dtex、特に330〜3,300dtexの範囲が適当である。全芳香族ポリアミド繊維中に、本発明のようにしてカーボンナノチューブを含有させることにより、延伸倍率や熱処理とあいまって、上記のような繊維の強度、引張弾性率が得られる。
【0041】
かくて、本発明の全芳香族ポリアミド繊維においては、全芳香族ポリアミド100重量部に対し、カーボンナノチューブが0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲で含まれている。カーボンナノチューブの含有量が全芳香族ポリアミド100重量部に対して0.1重量部未満である場合には目標とする強度が得られず、一方10重量部を超える場合には成形性が乏しくなるので好ましくない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は以下の方法で測定した。
【0043】
<固有粘度>
ポリマーを98%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
<強度、伸度、弾性率>
JIS−L−1015に準じ、試料長20mm、初荷重1/20g/dtex、伸張速度20mm/分で測定した。
【0044】
[実施例1〜3]
まず、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の全芳香族ポリアミド、帝人テクノプロダクツ社製、固有粘度=3.4)の濃度6重量%のNMPドープを用い、孔数1,000ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度520℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることによりパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
全芳香族ポリアミド繊維屑としては、上記延伸工程における糸切れによって発生した固有粘度(IV)が3.5の未延伸繊維屑を使用した。このポリアミド繊維屑6重量部に対してNMP/塩化カルシウム/カーボンナノチューブ=89重量部/5重量部/0.06〜0.6重量部の溶液を加え、25℃にて30分間撹拌して、該ポリアミド繊維屑のアミド系溶剤スラリーを得た。このスラリーを浅田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、60℃に加熱、混練した。60分後に内容物の確認を行ったところ、溶解は完了していた。
得られたドープを用い、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度520℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることによりカーボンナノチューブが良好に分散した状態で添加されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。それぞれ得られた延伸糸の物性を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
カーボンナノチューブを添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法で全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた延伸糸の物性を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に対してカーボンナノチューブを分散させた後、全芳香族ポリアミドドープにブレンドすることによって添加した以外は、実施例1と同様の方法でカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維を得た。
カーボンナノチューブのNMPへの分散にあたっては、ビーズミル(浅田鉄工株式会社製、商品名:Nano Grain Mill)を使用し、2重量%のカーボンナノチューブ/NMP分散体を調製した。なお、メディアとしては、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。また、カーボンナノチューブ/NMP分散体の全芳香族ポリアミドドープへのブレンドにあたっては、プラネタリミキサーを使用して実施した。得られた延伸糸の物性を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
カーボンナノチューブを全芳香族ポリアミドドープに添加した以外は、実施例1と同様の方法でカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維を得た。
なお、カーボンナノチューブの全芳香族ポリアミドドープへのブレンドにあたっては、プラネタリミキサーを用いて実施した。得られた延伸糸の物性を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
* :カーボンナノチューブのポリマーに対する重量%
**:分散状態の評価は、次のとおり。
○:繊維の断面観察により、20μm×10μmの視野中に、カーボンナノチューブの凝集物が見当たらない。
△:繊維の断面観察により、20μm×10μmの視野中に、カーボンナノチューブの凝集物が3箇所以下。
×:繊維の断面観察により、20μm×10μmの視野中に、カーボンナノチューブの凝集物が4箇所以上。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維は、優れた強度を有する繊維製品を提供することができ、特に防護衣料用途の素材として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド粒子もしくは全芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において発生する繊維屑を、該ポリアミドに対し30〜150重量%の無機塩および該ポリアミドに対し0.1〜10重量%のカーボンナノチューブを含有するアミド系溶剤と接触させ、該繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合することにより、全芳香族ポリアミド−カーボンナノチューブスラリーを形成させ、次いで、該スラリー中の全芳香族ポリアミドが溶解する温度に加熱することを特徴とするカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項2】
スラリー形成時の混合をせん断応力下にて実施する請求項1記載のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項3】
全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1または2記載のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の方法で調製されたドープを紡糸して得られるカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
引張強度が25cN/dtex以上、かつ、引張弾性率が580cN/dtex以上である請求項4記載のカーボンナノチューブ含有全芳香族ポリアミド繊維。


【公開番号】特開2010−229296(P2010−229296A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78647(P2009−78647)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】