説明

カーボンナノチューブ筋及びその製造方法

【課題】本発明は、カーボンナノチューブ筋の製造方法に関する。
【解決手段】本発明に係るカーボンナノチューブ筋の製造方法は、カーボンナノチューブのマトリックスを準備する段階と、前記カーボンナノチューブのマトリックスからカーボンナノチューブ膜を引き抜く段階と、前記カーボンナノチューブ膜を有機溶剤に浸入して縮ませて、カーボンナノチューブ筋を形成する段階と、を含む。カーボンナノチューブ膜は複数のカーボンナノチューブ糸からなるものである。前記カーボンナノチューブ糸は、複数の長さが同じのカーボンナノチューブ束が連続的に連接して形成される。前記カーボンナノチューブ束は複数の平行なカーボンナノチューブからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ筋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、新型のカーボン材料であり、日本の研究員飯島によって1991年に発見された。カーボンナノチューブは良好な光学性能、電気性能、機械性能を有するので、フィールドエミッタや電子顕微鏡の電子銃などに広く利用されている。しかし、現在カーボンナノチューブはナノレベルに形成され、微視的に応用されるため、取り扱いが困難であるので、肉眼的に応用するための開発が進んでいる。
【0003】
非特許文献1に、連続的なカーボンナノチューブ糸の製造方法が記載されている。整列したカーボンナノチューブのマトリックスからカーボンナノチューブの束を引き出すと、複数の長さが同じカーボンナノチューブがファンデルワールス力で連接され、連続的なカーボンナノチューブ糸が形成される。例えば、図1に示すように、整列したカーボンナノチューブのマトリックス10からカーボンナノチューブの束12を引き出し、連続的なカーボンナノチューブ糸14を形成する。前記連続的なカーボンナノチューブ糸14は複数のカーボンナノチューブ束12がファンデルワールス力で連接して構成される。しかし、該カーボンナノチューブ糸14は、機械強度及び強靭性が小さいという欠点がある。
【0004】
前記課題を解決するために、複数のカーボンナノチューブ糸を共に配列して、幅が数センチメートル、厚さが数マイクロメートル程度のカーボンナノチューブ膜を形成する提案がある。しかし、このカーボンナノチューブ膜は表面積が大きく、粘着性が非常に強くなるので、実用には制限が課される。
【非特許文献1】範守善(Kaili Jiang)他、「Spinning Continuous Carbon Nanotube Yarns」、Nature、2002年、第419巻、第801頁
【特許文献1】中国特許第02134760.3号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は肉眼的に応用できるカーボンナノチューブ筋及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るカーボンナノチューブ筋の製造方法は、カーボンナノチューブのマトリックスを準備する段階と、前記カーボンナノチューブのマトリックスからカーボンナノチューブ膜を引き抜く段階と、前記カーボンナノチューブ膜を有機溶剤に浸入して縮ませて、カーボンナノチューブ筋を形成する段階と、を含む。
【0007】
本発明に係るカーボンナノチューブ筋は複数のカーボンナノチューブ糸からなるものである。前記カーボンナノチューブ糸は、複数の長さが同じのカーボンナノチューブ束が連続的に連接して形成される。前記カーボンナノチューブ束は複数の平行なカーボンナノチューブからなる。
【発明の効果】
【0008】
従来技術と比べて、本発明に係るカーボンナノチューブ筋は表面積が小さく、粘着性が小さく、機械強度及び強靭性が強いので、多領域に実用することができる。また、本発明に係るカーボンナノチューブ筋の製造方法は工程が簡単で、コストが低く、大量生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例について詳しく説明する。
【0010】
図2乃至図5に示すように、本実施例に係るカーボンナノチューブ筋の製造方法は、次の段階を含む。
【0011】
第一段階で、化学気相堆積法(CVD)で、整列したカーボンナノチューブのマトリックスを成長させる。特許文献1を参照して、本実施例に係る化学気相堆積法で前記カーボンナノチューブのマトリックスを成長させる工程は次の段階を含む。(a)基板を提供する。該基板は、例えば、p型又はn型のシリコン基板である。(b)前記基板に触媒を堆積して触媒層を形成する。前記触媒層は、例えば、Fe、Co、Ni又はその合金からなる。(c)前記触媒層が形成された基板を、例えば保護ガスの雰囲気で300℃〜400℃程度で10時間加工して焼鈍する。(d)前記(c)段階で形成された基板を500℃〜700℃程度まで加熱して、炭素ガス及び保護ガスを導入して、5〜30分間に反応させ、カーボンナノチューブのマトリックスを前記基板に成長させる。ここで、前記炭素ガスの導入速度を制御することにより、前記触媒層の温度と環境温度との差を50℃以上に保持する。前記炭素ガスと前記保護ガスとの導入速度の比率を制御して、前記炭素ガスの分圧は20%以下になるようにする。前記炭素ガスは、例えば、エチン、エタンなどの炭化水素であり、エチンであることが好ましい。前記保護ガスは、不活性ガス又は窒素である。前記製造方法によって得られたカーボンナノチューブのマトリックスは密に形成され、各カーボンナノチューブの間により大きいファンデルワールス力を有し、各カーボンナノチューブの直径がほぼ同様である。
【0012】
第二段階で、前記カーボンナノチューブのマトリックス20からカーボンナノチューブ膜24を引き抜く。即ち、ピンセットなどの工具を利用して前記カーボンナノチューブのマトリックス20の一部を取って直線方向に沿って引き出す。各々のカーボンナノチューブがファンデルワールス力で相互に連接されて連続的なカーボンナノチューブ糸22が形成される。この工程を繰返して複数のカーボンナノチューブ糸22を形成する。前記複数のカーボンナノチューブ糸22を配列して、前記カーボンナノチューブ膜24を形成する。該カーボンナノチューブ膜24は、幅が数センチメートル、厚さが数ミクロン程度に形成される。図3は本実施例に係るカーボンナノチューブ膜24のSEM写真である。
【0013】
第三段階で、前記カーボンナノチューブ膜24を揮発性有機溶剤に浸して縮ませて、カーボンナノチューブ筋30を形成する。詳しくは、有機溶剤50を注入した第一容器40を準備する。前記有機溶剤50はエタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの揮発性有機溶剤である。本実施例にはエタノールが利用される。
【0014】
また、図2及び図4を参照して、前記有機溶剤50を前記カーボンナノチューブ膜24に供給するために、前記容器40にパイプ42を取り付けて、前記パイプ42に孔44を設ける。図4は前記パイプ42の前記孔44が設置された位置での断面図である。前記パイプ42の直下方向に余剰の溶剤を入れるための第二容器60を設置する。前記カーボンナノチューブ膜24が前記孔44を通るようにし、同時に、前記有機溶剤50を前記パイプ42から流し、前記カーボンナノチューブ膜24の前記孔44に接触する部分を前記有機溶剤50に浸す。これにより、前記有機溶剤50の表面張力によって、前記カーボンナノチューブ膜24は直径が20μm〜30μmのカーボンナノチューブ筋30へと形成される。図5は前記カーボンナノチューブ筋30のSEM写真である。ここで、前記カーボンナノチューブ筋30は複数のカーボンナノチューブ糸からなるものである。前記カーボンナノチューブ糸は、複数の長さが同じのカーボンナノチューブ束が連続的に連接して形成される。前記カーボンナノチューブ束は複数の平行なカーボンナノチューブからなる。従って、前記カーボンナノチューブ筋は表面積が小さく、粘着性が小さく、機械強度及び強靭性が強いので、多領域に実用することができる。
【0015】
第四段階で、前記カーボンナノチューブ筋30を整理する。本実施例において、モーター70を利用して、前記カーボンナノチューブ筋30をスプール80に巻くように整理する。
【0016】
なお、前記カーボンナノチューブ膜24を完全に引き出して、前記有機溶剤50に浸してもよいことは無論である。同様に、前記カーボンナノチューブ膜24は前記有機溶剤50の表面張力でカーボンナノチューブ筋30へと形成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術である整列したカーボンナノチューブのマトリックスから連続的なカーボンナノチューブ糸を引き出す工程を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例に係るカーボンナノチューブ糸の製造工程を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図4】本発明の実施例に係る第一容器に取り付けられたパイプの孔が設置された位置での断面図である。
【図5】本発明の実施例に係るカーボンナノチューブ筋のSEM写真である。
【符号の説明】
【0018】
10 カーボンナノチューブのマトリックス
12 カーボンナノチューブ束
14 カーボンナノチューブ糸
20 カーボンナノチューブのマトリックス
22 カーボンナノチューブ糸
24 カーボンナノチューブ膜
30 カーボンナノチューブ筋
40 第一容器
42 パイプ
44 孔
50 有機溶剤
60 第二容器
70 モーター
80 スプール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブのマトリックスを準備する段階と、
前記カーボンナノチューブのマトリックスからカーボンナノチューブ膜を引き出す段階と、
前記カーボンナノチューブ膜を有機溶剤に浸入して縮ませて、カーボンナノチューブ筋を形成する段階と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ筋の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ筋は複数のカーボンナノチューブ糸からなるものであることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ筋の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤は揮発性有機溶剤であることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ筋の製造方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブ筋は複数のカーボンナノチューブ糸からなり、
前記カーボンナノチューブ糸は複数の長さが同一のカーボンナノチューブ束を連続的に連接して形成され、
前記カーボンナノチューブ束は複数の平行なカーボンナノチューブからなることを特徴とするカーボンナノチューブ筋。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ筋の直径は20μm〜30μmであることを特徴とする、請求項4に記載のカーボンナノチューブ筋。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−161563(P2007−161563A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152054(P2006−152054)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(503023069)鴻富錦精密工業(深▲セン▼)有限公司 (399)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【Fターム(参考)】