説明

カーボンナノチューブ連続繊維の製造方法およびその製造装置

【課題】簡便な方法でカーボンナノチューブ連続繊維を得る。
【解決手段】加熱手段を有し、炭素源、触媒、およびキャリアガスからカーボンナノチューブを生成せしめることができる縦型反応管と、
該縦型反応管の上部に、または該縦型反応管より上部に炭素源の供給路、触媒の供給路、およびキャリアガスの供給路と、
該縦型反応管の下部に、または該縦型反応管より下部に、連続繊維化ガスの供給路、および該供給路が接続され、該連続繊維化ガスを旋回流にすることにより上記カーボンナノチューブを連続繊維化することができる、内部が逆円錐台状の旋回ノズルと、
を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ連続繊維の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ連続繊維の簡便な製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記することがある)は1991年に発見されて以来、その優れた機械的特性(高引張強度、高弾性強度)、高い熱伝導率、および優れた電気伝導性から、その合成法とともに応用開発に関する研究が多く行われてきている。
カーボンナノチューブは単層のものと、二つ以上の円筒が重なった多層のものとがある。単層のものの直径は細いもので0.7ナノメートル、太いもので3ナノメートル以上である。多層ナノチューブは2層から数十層までのものが知られている。
【0003】
カーボンナノチューブの合成には、主にアーク放電法、レーザー・アブレーション法、およびCVD法(化学気相成長法。化学気相蒸着法、または化学蒸着法とも言う。)の3つの手法が用いられている。さらにCVD法には厚さ数マイクロメートル−数ナノメートルの金属層を蒸着させた基板にカーボンナノチューブを合成する方法、ゼオライトやセラミックなどの担体に遷移金属微粒子を担持させてカーボンナノチューブを合成する方法、触媒微粒子を形成する前駆体化合物を直接反応管に噴霧させ反応管入口で触媒前駆体の熱分解により形成された触媒微粒子が原料ガスとキャリアガスとともに反応管内へ送り込まれ反応管内の高温区域でカーボンナノチューブを合成する気相流動法などが挙げられる。
なかでも、気相流動法は、スケールアップが容易であることからカーボンナノチューブを工業的に大量に生産するのに、最も適していると一般的に考えられる。
【0004】
気相流動法におけるカーボンナノチューブの生成メカニズムは、以下のように考えられている。すなわち、ガス状の遷移金属化合物が熱分解することにより、粒径が極めて小さい遷移金属微粒子が気相中に生成する。この気相中に発生して浮遊する金属微粒子上においてカーボンナノチューブを形成するために供給される炭素源(炭化水素などの有機化合物)が分解することにより炭素が析出する。金属粒子上に析出した炭素が一方向に成長する。この結果として、気相成長カーボンナノチューブが生成する。
【0005】
気相成長カーボンナノチューブの生成には反応条件(例えば、金属微粒子の直径、キャリアガスの種類と流速、炭素源の種類と供給速度、反応温度、など)は大変重要である。特に金属微粒子の直径は一定の大きさ以下でないとカーボンナノチューブを形成することはできず、代わりに気相成長炭素繊維が生成される。さらに反応条件の調整により、単層カーボンナノチューブも多層カーボンナノチューブも生成することができる。
【0006】
前記の気相流動法で得られる生成物としてのカーボンナノチューブには、通常触媒微粒子が含まれており、また多くの場合副生成物としてのタールが付着するので、1000℃以下の加熱によるタール除去工程、2000〜2500℃に加熱による金属微粒子の除去工程を経てから使用される。ただし、単層カーボンナノチューブはその耐熱性から2000℃以上の高温処理によって構造が壊れる恐れがあるため、通常は別の方法(低温酸化と酸洗浄の組み合わせ)で金属微粒子を除去する。
【0007】
しかし、上記のような従来の気相成長法で製造されたカーボンナノチューブは、アスペクト比が100以上、通常500以上と極めて大きく、カーボンナノチューブ同士が絡み合った繊維塊として得られる。そのカーボンナノチューブ塊(塊状カーボンナノチューブ)は嵩密度が極めて低い。
【0008】
そのような塊状カーボンナノチューブは、その応用や用途が限定されてしまうので、塊であるカーボンナノチューブを粉砕処理などの手段を講じて切断し、これを樹脂と混合する方法も検討された。しかし、このような方法では繊維がランダム配向になり、特定方向に繊維を配向させてなる繊維強化樹脂を得ることが困難になるという問題がある。
【0009】
ところで、近年、電子線放出部材の一部品として一方向に配向したカーボンナノチューブが要望されている。また、カーボンナノチューブの一方向配列物、例えばカーボンナノチューブファイバーがあれば、これを樹脂に複合することにより、より一層強度の高い繊維強化複合樹脂が得られるものと期待される。
【0010】
上述のように、気相流動法により合成されたカーボンナノチューブは嵩密度の低い繊維塊の形でキャリアガスとともに反応管から出る。カーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブの場合はファンデルワルス力によりチューブ同士だけでなく、他の表面にも強く付着する傾向がある。高い収率でカーボンナノチューブを合成する場合、カーボンナノチューブ繊維塊は反応管出口部分の壁に付着し、反応管の閉塞を引き起こす問題がある。
【0011】
上記のような反応管の閉塞を防ぎ、カーボンナノチューブを上手く連続的に回収するように、これまで様々な方法が検討されてきた。
例えば、特許文献1では、CVD法により製造された微細炭素繊維を、反応炉の回収部またはその近傍に巻き取り部材を回転させることによってロール上に巻き取る方法が開示されている。
【0012】
特許文献2では、カーボンナノチューブ製造時の閉塞防止方法として、カーボンナノチューブ合成時に高温域(700℃〜1400℃)で生成したカーボンナノチューブが反応管低温域(700℃〜100℃)の反応管壁面に摩擦部材を連続的または間欠的に接触させることにより、該反応管内壁へのカーボンナノチューブの堆積を防止しながらカーボンナノチューブを製造する方法が開示されている。
特許文献3では、微細炭素繊維の回収方法としてカーボンナノチューブを合成しながら、反応管出口でカーボンナノチューブを巻き取り回収する方法が開示されている。
【0013】
一方、特許文献4〜7では、気相成長炭素繊維合成装置の下部から炭素繊維の回収用キャリアガスを、炉芯管と排出管との隙間に流入させ反応ガス(及び炭素繊維)を包み込むよう、かつ渦を巻くようにして排出管へ流れ、生成したカーボンナノファイバーは渦を巻くガス流の回転力を受け、撚りがかかった糸の製造法が記されている。しかしこの方法では反応管の閉塞問題を解決できるとしても、回収用キャリアガスが炉芯管と排出管との隙間を流れる際、また排出管に流れ込む際にキャリアガスは整流されるため、渦を巻くガス流は実際に発生できず、渦を巻くガス流の回転力を受け、撚りがかかった糸は製造できない。そもそも、これら特許文献4〜7の発明はカーボンナノチューブの連続繊維についてものではない。
【0014】
特許文献8には、壁面にノズルが管中心に偏向して設置された排出管を用い、ノズルから気体を噴出すことで管の内側面に沿って流れる旋回流を発生させ、この旋回流によるカーボンナノチューブの排出管壁面への付着を防止することが可能なカーボンナノチューブ製造装置についての発明が記載されている。しかし、当該発明には、カーボンナノチューブを連続繊維にするとの技術思想は示されておらず、また、この方法ではカーボンナノチューブを集束させ、連続的な繊維とするための旋回流の流速を与えることは難しく、結果的に連続紡糸する事は難しい。
【0015】
特許文献9では、流動気相成長法でカーボンナノチューブを合成しながら、反応管内部にOリング状の金具を入れてカーボンナノチューブを引きつけながら糸状に形成させることにより、反応管出口でカーボンナノチューブを連続的に紡糸する方法が開示されている。しかし、一部のカーボンナノチューブはこの金具に付着し、その量は時間とともに多くなり長時間になると最終的に閉塞してしまう危険があり、カーボンナノチューブ連続繊維の簡便な製造方法とは言い難い。
【0016】
さらに特許文献10では、気相流動法によって連続的にカーボンナノチューブを生成してカーボンナノチューブ連続繊維を得るにあたり、ガスおよび粉塵を分離して大気雰囲気中へ排出するとともに、糸掛具により生成されたカーボンナノチューブを大気雰囲気中へと引き出し、かつ撚りをかけカーボンナノチューブ連続繊維の製造法が記載されている。しかし、カーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブは凝集しやすい性質を有するため、反応管出口から出たカーボンナノチューブ凝集体は下部の受け皿の壁に付着し、連続的に排出することは困難であろうと予想されるので、結果的に連続紡糸する事は難しいであろう。
【0017】
以上のようにカーボンナノチューブ合成時にカーボンナノチューブの閉塞をなくし連続的に回収すること、カーボンナノチューブを生成しながら糸状に加工することについて様々な方法が提案されているものの、いまだに様々な問題が存在し、簡便に長時間、連続的にカーボンナノチューブ連続繊維を合成する装置および方法を確立することはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−190166号公報
【特許文献2】特開2003−146633号公報
【特許文献3】特開2004−190166号公報
【特許文献4】特開2001−115342号公報
【特許文献5】特許第4132480号公報(特開2001−115348号公報)
【特許文献6】特開2002−194624号公報
【特許文献7】特開2003−201630号公報
【特許文献8】国際公開第2009/093370号パンフレット
【特許文献9】国際公開第05/007926号パンフレット
【特許文献10】特開2010−65339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、簡便、長時間、かつ連続で安定的にカーボンナノチューブ連続繊維を製造する装置、および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、縦型反応管を用いた気相流動法により生成したカーボンナノチューブに対して、特定の形状を有する旋回ノズルにて、特定の条件下、旋回流を作用させることにより連続繊維が得られることを見出して、本発明を完成させた。本発明の要旨を以下に示す。
【0021】
1. 加熱手段を有し、炭素源、触媒、およびキャリアガスからカーボンナノチューブを生成せしめることができる縦型反応管と、
該縦型反応管の上部に、または該縦型反応管より上部に炭素源の供給路、触媒の供給路、およびキャリアガスの供給路と、
該縦型反応管の下部に、または該縦型反応管より下部に、連続繊維化ガスの供給路、および該供給路が接続され、該連続繊維化ガスを旋回流にすることにより上記カーボンナノチューブを連続繊維化することができる、内部が逆円錐台状の旋回ノズルと、
を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ連続繊維の製造装置。
2. 該旋回ノズルより下部に、カーボンナノチューブ連続繊維の捕集装置を有する上記1項記載の製造装置。
3. 該連続繊維化ガスの供給路の中心線と、該旋回ノズルの鉛直方向の中心線のなす連続繊維化ガス導入角が、90〜175°の範囲にある上記1項または2項に記載の製造装置。
4. 該旋回ノズルを2個以上重ねて有する上記1項〜3項のいずれかに記載の製造装置。
5. 2個以上重ねた該旋回ノズルが、上段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路と、下段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路とが、互い違いに位置するよう配置されている、上記4項に記載の製造装置。
6. 上記1項〜5項のいずれかに記載の製造装置を用いて、該縦型反応管に、炭素源、触媒、およびキャリアガスを連続的に供給し、気相流動法により連続的に生成させたカーボンナノチューブに対して、連続繊維化ガスを線速度25〜250m/秒にて供給して生じさせた旋回流を作用させることにより連続繊維化することを特徴とする、カーボンナノチューブ連続繊維の製造方法。
7. 繊維化ガスが不活性ガスである上記6項に記載の製造方法。
8. 上記6項または7項記載の製造方法により製造されるカーボンナノチューブ連続繊維。
9. 撚り糸であることを特徴とする上記8項記載のカーボンナノチューブ連続繊維。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭素源、触媒、およびキャリアガスとともに投入し、気相流動法によって連続的にカーボンナノチューブを生成せしめた後、繊維化ガスを旋回流として作用させることにより、閉塞の発生、および大気への可燃性ガスや粉塵の拡散を抑制しつつ簡便、効率的にカーボンナノチューブ連続繊維を得ることができる。 更に繊維化ガスとして不活性ガスを用いることにより、火災や爆発が発生する危険を抑制できる。また、本発明の製造装置を用いたカーボンナノチューブ連続繊維の製造方法は、縦型反応管内で生成したカーボンナノチューブの90パーセント以上を連続繊維にできる上に、残りの粒子状カーボンナノチューブをさらに金網などで捕集して回収・利用することでき、極めて生産効率が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置の一例の概略図である。
【図2】ガス導入路4個を有する旋回ノズルの概略図である。
【図3】上段の旋回ノズルと、下段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路が互いに並行するように2個の旋回ノズルを配置した例の模式図である。
【図4】上段の旋回ノズルと、下段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路が互いに90°ずれるように2個の旋回ノズルを配置した例の模式図である。
【図5】実施例1において得られたカーボンナノチューブ連続繊維の写真である。
【図6】実施例2において得られたカーボンナノチューブ連続繊維の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面も参照のうえ説明する。
1)カーボンナノチューブ連続繊維の製造装置
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置は、加熱手段を有し、炭素源と触媒およびキャリアガスからカーボンナノチューブを生成せしめることができる縦型反応管と、
該縦型反応管の上部に、または該縦型反応管より上部に炭素源の供給路、触媒の供給路、およびキャリアガスの供給路と、
該縦型反応管の下部に、または該縦型反応管より下部に、連続繊維化ガスの供給路、および該供給路が接続され、該連続繊維化ガスを旋回流にすることにより上記カーボンナノチューブを連続繊維化することができる、内部が逆円錐台状の旋回ノズルと、
を有することを特徴とするものであり、更に、該旋回ノズルより下部に、生成されたカーボンナノチューブ連続繊維を捕集する捕集ボックスを有するものであると好ましい。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置の一例を図1に示す。
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置が有する、加熱手段を有し、炭素源と触媒からカーボンナノチューブを生成せしめることができる縦型反応管とは、縦方向に立設されたところの、例えば円筒形、楕円筒形、または四角筒形などに形成された管であり、セラミック等の耐熱性の素材で形成されたものが好ましい。該縦型反応管の寸法はカーボンナノチューブ(連続繊維)の製造量に応じて適宜調整して設計される。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置は、前記縦型反応管の上部、または該縦型反応管より上部に炭素源の供給路、触媒の供給路、キャリアガスの供給路を有するものである。これら各原料の供給路は供給元のタンクなどから配管が接続されたものであり、適宜、定量ポンプ等の定量供給器、流量制御装置、流量計などが設置され、スプレーノズルなどを経て前記縦型反応管内に炭素源などの原料が噴霧される構造が好ましい。なお、炭素源の供給路、触媒の供給路、キャリアガスの供給路は別々に前記縦型反応管の上部に接続されてもよいが、前記縦型反応管に入る前、つまり該縦型反応管より上部にて結合して1つの供給路となり該縦型反応管に接続され、炭素源等を混合物として前記縦型反応管に供給してもよい。前記縦型反応管の上部から供給された炭素源等の混合物(以下、原料混合物、更にこれがガス化したものを原料混合ガスと称することがある)は、該縦型反応管内部を鉛直方向に流れていきながら加熱されることにより、カーボンナノチューブが生成する。この生成したカーボンナノチューブは未反応の原料とともに該縦型反応管内部を鉛直方向に流れていき、後述する旋回ノズルにて連続繊維となる。
【0027】
該縦型反応管が有する加熱手段としては、カーボンナノチューブの生成に必要な加熱をすることができる限り、その構成について特に制限はないが、一般的には電気ヒーターが好ましい。
【0028】
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置は、前記縦型反応管の下部に、または該縦型反応管より下部に、連続繊維化ガスの供給路(連続繊維化ガス供給路と略することがある)と、該供給路が接続され、該連続繊維化ガスを旋回流にすることにより上記カーボンナノチューブを連続繊維化することができる、内部が逆円錐台状の旋回ノズルを有することが肝要である。
【0029】
図2に一例を示すとおり、本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置における旋回ノズルとは、原料混合物やカーボンナノチューブが流れていく方向、つまり鉛直方向に小さくなるようにテーパーがかかっているノズルである。
【0030】
該旋回ノズルの寸法は、前記縦型反応管の寸法と同様に、生産規模に応じたものにされるが、該縦型反応管出口に接続される方の旋回ノズル内径は該縦型反応管出口の内径と同じかそれより大きくなるのが望ましい。テーパーの角度(図2におけるβ)としては5°〜60°の範囲にあることが望ましく、10°〜30°の範囲にあるとより望ましい。
【0031】
該旋回ノズルとして、図2では、外観は円柱状で内部が逆円錐台状の空間になっているものを前記縦型反応管より下部(該反応管の下流)に設置したものを例示しているが、薄肉で外観も逆円錐台状の旋回ノズルも同様に使用することができ、例えば、前記縦型反応管自体の下部を逆円錐台状にして、連続繊維化ガス供給路を設け旋回ノズルとすることも可能である。
【0032】
該旋回ノズルには少なくとも1つの、連続繊維化ガス供給路が接続されており、複数接続されているとより好ましい。 該旋回ノズルに、連続繊維化ガス供給路を偶数個接続する場合は、各供給路が対角になるよう接続することが好ましい。また、上記の連続繊維化ガス供給路は、該供給路の中心線と、該旋回ノズルの鉛直方向の中心線のなす連続繊維化ガス導入角度(図2におけるα)が、90°〜175°の範囲になるように該旋回ノズルに接続されていることが好ましく、100°〜150°の範囲になるように接続されているとより好ましい。上記旋回ノズル内における該供給路末端、つまり供給口の形状としては加工のしやすさから円形が望ましいが、スリット状でも可能である。
【0033】
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置は、旋回ノズルを2個以上重ねて有するものであっても良い。そのように旋回ノズルを2個以上重ねて有する場合、上段の旋回ノズルの下部の径と、下段の旋回ノズルの上部の径は、同じ大きさであり、かつ隙間や凸凹のないような、滑らかな境目を有するものであることが好ましい。
【0034】
また、本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置が旋回ノズルを2個以上重ねて有する場合、各旋回ノズルのテーパーの角度を全て同じにする必要はないが、下段の旋回ノズルのテーパー角度は上段のものと同じかそれ以下であることが好ましい。
【0035】
上記のように、カーボンナノチューブ連続繊維製造装置が旋回ノズルを2個以上重ねて有する場合、上段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路と、下段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路とが、互い違いに位置するよう配置されていることが好ましい。この場合の互い違いに位置するとは、図3および図4に例示されているように、上部から旋回ノズル部分をみた場合、上段と下段の旋回ノズルの位置が重ならないことを言う。
【0036】
本発明のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置は、前記の旋回ノズルより下部に、該旋回ノズルにて得られたカーボンナノチューブ連続繊維を捕集する装置を有するものであると好ましい。当該捕集装置としては、得られたカーボンナノチューブ連続繊維をボビンなどに巻き取るような一般的な長繊維の生産方法における繊維の巻き取り装置・方法を用いることができ、更には図1に示すように金網35でカーボンナノチューブ連続繊維を捕集する捕集ボックス37のような簡便なものでも良い。
【0037】
2)カーボンナノチューブ連続繊維の製造方法
本発明においては、前記の製造装置を用いてカーボンナノチューブ連続繊維を製造することができる。
本発明の製造方法においては、まず、前記の縦型反応管に、炭素源、触媒、およびキャリアガスを連続的に供給し、気相流動法により連続的に生成させたカーボンナノチューブを生成させる。
【0038】
本発明の製造方法において用いられる炭素源としては、液状またはガス状のものを用いることができる。液状の炭素源としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素、さらにメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類など、室温で液状の有機化合物の群より選ばれる1種類以上が好ましい。ガス状の炭素源としては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレンなどの炭化水素や、一酸化炭素からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。また、1種類以上の液状の炭素源と、1種類以上のガス状の炭素源とを同時に炭素源として用いることも可能である。
【0039】
本発明の製造方法において用いられる触媒としては、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、チタンなどの遷移金属元素の微粒子、及びこれら遷移金属元素を含む有機金属化合物(フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、鉄カルボニル、アセチルアセトネート鉄、アセチルアセトネートコバルト、アセチルアセトネートニッケル、アセチルアセトネートマンガン、アセチルアセトネートチタン、オレイン酸鉄など、以下、有機金属化合物触媒と称することがある)よりなる群から選ばれる1種類以上が好ましく、有機金属化合物触媒よりなる群から選ばれる1種類以上が前記縦型反応管に供給し易い為より好ましい。該有機金属化合物触媒は、前記縦型反応機内に供給され熱分解することによって金属微粒子となり触媒活性を発揮するものであり、厳密にいうと触媒前駆体である。
【0040】
なお、前記の触媒を、前記縦型反応管に供給する際、該触媒によるCNT生成反応を促進する硫黄化合物を助触媒として共に供給することが好ましい。助触媒である該硫黄化合物としては、例えばチオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ナフトチオフェン、チアナフテン、硫化水素等からなる群より選ばれる1種類以上のものが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法において、前記の触媒の使用量としては、前記の炭素源、触媒、および助触媒の合計量に対して、0.5〜20.0質量%であると好ましく、0.5〜8.0質量%であることがより望ましく、1.0〜4.0質量%であると最も好ましい。
【0042】
本発明の製造方法において、前記の助触媒の使用量としては、前記の炭素源、触媒、および助触媒の合計量に対して、0.2〜5.0質量%であると好ましく、0.2〜3.0質量%であるとより好ましく、0.25〜1.0質量%であるともっと好ましい。
【0043】
前記触媒および助触媒を前記縦型反応管に供給する方法としては、炭素源として前記の液状の炭素源に、前記の触媒、更に必要な場合は助触媒を添加した原料混合物の液を、定量ポンプなどの定量供給装置(図1の15)で、流量制御装置(図1の13)にて流量を制御しつつ、キャリアガス(図1の11)とともにスプレー(図1の23)を通して縦型反応管内に供給する方法が好ましいものとして例示できる。
【0044】
本発明の製造方法において用いられるキャリアガスとしては、純水素ガスが特に好ましいが、若干の不活性ガスを含むものであってもよい。
本発明の製造方法において、気相流動法によりカーボンナノチューブを生成させる条件としては公知の条件を採用できるが、気相流動法による反応温度として、600〜1500℃好ましくは、800〜1300℃であるとより好ましい。
該縦型反応管にて、生成したカーボンナノチューブはキャリアガス、未反応の原料混合物ガスとともに該縦型反応機の下方に流れていき、旋回ノズル(図1の38)に到達する。
【0045】
該旋回ノズルには、連続繊維化ガスが、線速度25〜250m/秒にて供給されることにより旋回流が生じ、これが前記カーボンナノチューブに作用することにより、カーボンナノチューブを集束させて連続繊維化する。なお、この連続繊維化ガスの線速度とは、下記式にて定義されるものである。
線速度(m/秒)=連続繊維化ガス流量(m/秒)/{連続繊維化ガス供給路断面積(m)×連続繊維化ガス供給路数)}
【0046】
連続繊維化ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノンなどからなる群より選ばれる1種類以上の不活性ガスが好ましいが、密度が高く旋回力が大きい旋回流を生じさせることができることから、窒素、アルゴン、クリプトン、キセノンからなる群より選ばれる1種類以上の不活性ガスがより好ましい。なお、これら不活性ガスに、エタノールやアセトンなどの有機溶媒、または水の気液混合物、或いはそれらの蒸気を混入することも好ましい。
【0047】
図1に例示した製造装置を用いた場合、上記のように生成したカーボンナノチューブ連続繊維は連続繊維にならなかった粉状カーボンナノチューブと共に、捕集ボックス37に設置されている金網35に捕集される。また、金網35のメッシュを荒くすることで繊維状カーボンナノチューブのみを捕集し、分離した粉状カーボンナノチューブはその後、極めて細かい金網を用いたり、液体に排ガスをバブリングさせたりすることにより、捕集が可能である。
【0048】
なお、上記のように得られたカーボンナノチューブ連続繊維について、更に、洗浄、油剤付与、延伸といった加工を行うことができる。また、本願の製造方法では、撚り糸のカーボンナノチューブ連続繊維を得ることができるが、更に加撚加工を行ってもよい。
【0049】
3)カーボンナノチューブ連続繊維
上記の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ連続繊維は、カーボンナノチューブが束になりながら集まり撚り糸になったものであり、優れた電気・熱伝導性、及び機械的性質を備えており、各種用途に好適である。
【実施例】
【0050】
以下、具体的な例を持って本発明の効果を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1、2および比較例1において、図1に示される構成からなり、以下の仕様からなるカーボンナノチューブ連続繊維製造装置を使用した。
・ 縦型反応管: 内径φ52mm、外径φ60mm、長さ1200mm、内有効加熱長さ600mm。
・ 旋回ノズル: 長さ55mm、入口径φ55mm、テーパー角度(β)27°、旋回ガス導入口径φ2mm、連続繊維化ガス導入路 2個、連続繊維化ガス導入角度(α)90°。
【0051】
[実施例1]
ガス状炭素源は用いず、液状炭素源としてトルエン、触媒としてフェロセン、助触媒としてチオフェンを用い、これらを混合した原料混合物の液(原料混合液中、フェロセンが2質量%、助触媒であるチオフェンが0.5質量%、残りがトルエンである)を定量ポンプにて0.2mL/分の流量で、キャリアガスとして水素(流量 12mL/分)と共に、中間部分400mmの平均温度が1200℃になるよう加熱された縦型反応管に供給した。旋回ノズルには繊維化ガスとして線速度26.5m/秒の窒素を供給し旋回流を発生させ、捕集ボックスにてカーボンナノチューブ連続繊維を捕集した。閉塞などのトラブルは起きず、長時間安定にカーボンナノチューブ連続繊維を生産することができた。得られたカーボンナノチューブ連続繊維の繊維径は約0.5mmφであった。また、図5に示した写真から分かるように、該カーボンナノチューブ連続繊維は撚りがかかった糸であった)。
【0052】
[実施例2]
原料混合物の流量(供給速度)を0.1mL/分に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い、繊維径約0.3mmφの撚りがかかったカーボンナノチューブ連続繊維を得た。写真を図6に示す。
【0053】
[比較例1]
連続繊維化ガスの流量(供給速度)を線速度13.3m/秒とした以外は実施例1と同様に操作を行ったが、カーボンナノチューブは連続繊維化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造装置を用いた製造方法にて得られるカーボンナノチューブ連続繊維は、従来の炭素繊維よりも高強度、高熱伝導性、高電気伝導性を有しており、ワイヤハーネス、配電用ケーブルなどの用途に好適である。
【符号の説明】
【0055】
11 キャリアガス(水素)
12 ガス炭素源
13 ガス流量制御装置
14 液状炭素源
15 液状原料定量ポンプ
21 上部フランジ
22 下部フランジ
23 液状原料スプレー
24 縦型反応管
25 加熱手段(外熱式電気ヒーター)
31 液体タンク
32 ヒーター
33 連続繊維化ガス
34 連続繊維化ガス供給路
35 金網
36 排ガス出口
37 捕集ボックス
38 旋回ノズル
39 カーボンナノチューブ連続繊維ガイド管
連続繊維化ガス供給路の中心線
旋回ノズルの鉛直方向の中心線
α 連続繊維化ガス供給路の中心線(L)と、旋回ノズルの鉛直方向の中心線(L)のなす連続繊維化ガス導入角度
β 旋回ノズルのテーパー角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段を有し、炭素源、触媒、およびキャリアガスからカーボンナノチューブを生成せしめることができる縦型反応管と、
該縦型反応管の上部に、または該縦型反応管より上部に炭素源の供給路、触媒の供給路、およびキャリアガスの供給路と、
該縦型反応管の下部に、または該縦型反応管より下部に、連続繊維化ガスの供給路、および該供給路が接続され、該連続繊維化ガスを旋回流にすることにより上記カーボンナノチューブを連続繊維化することができる、内部が逆円錐台状の旋回ノズルと、
を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ連続繊維の製造装置。
【請求項2】
該旋回ノズルより下部に、カーボンナノチューブ連続繊維の捕集装置を有する請求項1記載の製造装置。
【請求項3】
該連続繊維化ガスの供給路の中心線と、該旋回ノズルの鉛直方向の中心線のなす連続繊維化ガス導入角が、90〜175°の範囲にある請求項1または2に記載の製造装置。
【請求項4】
該旋回ノズルを2個以上重ねて有する請求項1〜3のいずれかに記載の製造装置。
【請求項5】
2個以上重ねた該旋回ノズルが、上段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路と、下段の旋回ノズルの連続繊維化ガス供給路とが、互い違いに位置するよう配置されている、請求項4に記載の製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造装置を用いて、該縦型反応管に、炭素源、触媒、およびキャリアガスを連続的に供給し、気相流動法により連続的に生成させたカーボンナノチューブに対して、連続繊維化ガスを線速度25〜250m/秒にて供給して生じさせた旋回流を作用させることにより連続繊維化することを特徴とする、カーボンナノチューブ連続繊維の製造方法。
【請求項7】
連続繊維化ガスが不活性ガスである請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の製造方法により製造されるカーボンナノチューブ連続繊維。
【請求項9】
撚り糸であることを特徴とする請求項8記載のカーボンナノチューブ連続繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−46841(P2012−46841A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189487(P2010−189487)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】